説明

プリント配線板用銅箔及びその製造方法

【課題】防錆処理層として従来の6価クロメート処理に代わり、無公害、無害型の皮膜を形成したプリント配線板用銅箔及びその製造方法を提供する。
【解決手段】銅箔1に、粗化処理層2、ニッケル(ニッケル合金)めっき皮膜3、亜鉛(亜鉛合金)めっき皮膜4を施し、セリウム塩と過酸化水素とを含む混合浴で浸漬処理することにより防錆処理層としてのセリウム化合物皮膜5を形成し、さらにシランカップリング処理層6を施すことによりプリント配線板用銅箔を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用銅箔及びその製造方法に関し、特に、防錆処理層として無公害型の皮膜を形成したプリント配線板用銅箔及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板用銅箔は、一般に、樹脂基材とアンカー効果による強固な接着強度が得られるように粗化処理されており(例えば、特許文献1参照)、更にプリント配線板用としての所要の特性を満足させるために表面処理皮膜が施されている。表面処理皮膜としては、例えば、粗化処理された銅箔表面上に、銅の拡散防止を主目的としたニッケル(またはニッケル合金)めっき皮膜や耐熱性向上のための亜鉛(または亜鉛合金)めっき皮膜が施され、次いで耐薬品性と防錆のための防錆処理層としてクロメート皮膜が施され、更にはシランカップリング処理層が施される(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
ここで防錆処理層として施されるクロメート皮膜は、一般に電解クロメートにより形成されるが、処理液としてクロム酸、重クロム酸塩を含んだ処理液等で電解されるため、処理液中には6価のクロムが含有される。また、形成されるクロメート皮膜の化学構造は詳細には解明されてはいないが、3価クロムと6価クロムの複合化合物であり、3価クロム化合物の緻密性と6価クロム化合物の自己修復作用により耐食性が向上するものと考えられている。
【特許文献1】特開平11−256389号公報
【特許文献2】特開2003−201585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、周知の通り、6価クロムの毒性は極めて強く、環境や人体への悪影響を完全に払拭することはできない。また、近年では、製造工程および製品において6価クロムの使用の制限が設けられてきており、これに代わる代替処理法が求められている。
【0005】
従って、本発明の目的は、防錆処理層として従来の6価クロメート処理に代わり、無公害、無害型の皮膜を形成したプリント配線板用銅箔及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、粗化処理面を有するプリント配線板用銅箔において、前記粗化処理面にはセリウム化合物皮膜からなる防錆処理層が形成されていることを特徴とするプリント配線板用銅箔を提供する。
【0007】
また、本発明は、上記目的を達成するため、粗化処理を施した銅箔に、セリウム塩と過酸化水素とを含む混合浴で浸漬処理することにより防錆処理層としてのセリウム化合物皮膜を形成することを特徴とするプリント配線板用銅箔の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、防錆処理層としてセリウム化合物皮膜を形成しているため、無公害、無害型でかつ高性能なプリント回路基板用銅箔が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のプリント配線板用銅箔及びその製造方法の一実施形態について説明する。
【0010】
〔プリント配線板用銅箔の構造〕
図1は、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の構造を示す断面模式図である。銅箔1は、プリント配線板用基材と接着を行おうとする面に対し粗化処理層2を形成し、さらに、ニッケル(ニッケル合金)めっき皮膜3、亜鉛(亜鉛合金)めっき皮膜4、セリウム化合物皮膜5、シランカップリング処理層6の積層構造となっている。銅箔1には、純銅のほか銅合金を材料とした銅箔も含まれる。
【0011】
〔プリント配線板用銅箔の製造方法〕
図2は、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の製造方法を示すフローチャートである。図2におけるプリント配線板用銅箔の製造方法は、工程a〜工程gを含んで構成されている。
【0012】
(銅箔の用意)
銅箔材として電解銅箔または圧延銅箔を用意する。これらの銅箔の厚さ、表面の粗さや形態については特に限定されず、必要に応じて所望のものを用いることができる。
【0013】
(前処理a)
用意した銅箔の表面を清浄化するために、あらかじめ電解脱脂、酸洗処理を施す(工程a)。この清浄化処理(前処理)は、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液により陰極電解脱脂した後、硫酸等により酸洗処理を施すことで行なわれる。
【0014】
(粗化処理b〜c)
次に、表面粗化処理として、硫酸銅や硫酸を主成分とした酸性銅めっき浴で、銅箔を陰極として浴の限界電流密度を超える電流値で電解処理して樹枝状銅電着層を形成する(工程b)。
【0015】
次に、同じく表面粗化処理として、浴の限界電流密度未満の電流により前記樹枝状銅電着層に平滑な銅電着層(被せめっき)を形成して前記樹枝状銅をいわゆるコブ状銅に変化させる(工程c)。
【0016】
工程bの樹枝状銅電着層、工程cのコブ状銅を設けるための硫酸銅、硫酸浴の液組成、液温、電解条件は広い範囲で選択可能であり、特に限定されるものではないが、下記の範囲から選択されることが好ましい。また、樹枝状銅電着層を形成する際には、例えば、特許文献1に記載されているような銅以外の金属元素(モリブデン、鉄、コバルトなど)を添加することが好ましい。
硫酸銅5水和物:20〜300g/L
硫酸:10〜200g/L
液温:室温〜50℃
樹枝状銅電着層形成の電流密度:限界電流密度以上、30〜100A/dm
樹枝状銅電着層形成の処理時間:1〜10秒
コブ状銅形成の電流密度:限界電流密度未満、1〜20A/dm
コブ状銅形成の処理時間:10〜60秒
【0017】
(表面処理d〜g)
本実施形態に係るプリント配線板用銅箔の製造方法においては、コブ状銅電着層を設けた後に、更に所要の特性を得るために後処理めっき膜が施される。まず、コブ状銅の拡散防止のためにニッケルめっき皮膜またはニッケル合金めっき皮膜を形成し(工程d)、次いで、耐熱性向上のために亜鉛めっき皮膜または亜鉛合金めっき皮膜を形成する(工程e)。更に、防錆処理層としてセリウム化合物皮膜を形成し(工程f)、次いで化成処理皮膜としてシランカップリング処理層を形成する(工程g)。
【0018】
工程fのセリウム化合物の皮膜形成は、例えば、セリウム塩である塩化セリウム10〜50g/L又は硝酸セリウム1〜10g/Lの水溶液に過酸化水素を1〜20mL/L添加した処理液を用いて、pH1.5〜4.0に調整し、温度は30〜50℃として浸漬により処理することにより行う。この皮膜は、処理時間を変えることによって所望の厚さに調整することができる。
【0019】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
厚さ18μmの圧延銅箔を用い、この圧延銅箔表面を清浄化するために水酸化ナトリウム40g/L、炭酸ナトリウム20g/L、温度40℃のアルカリ溶液で電流密度5A/dm、処理時間60秒にて陰極電解脱脂した後、硫酸10%、室温の溶液で30秒酸処理による前処理を施した。
【0021】
この銅箔を水洗し、硫酸銅5水和物90g/L、硫酸130g/L、硫酸鉄七水和物20g/L、モリブデン酸ナトリウム1g/L、温度30℃に調整しためっき浴(A)を用いて、電流密度40A/dm(限界電流密度以上)で5秒間電解処理し、樹枝状銅電着層を施した。
【0022】
次いで、この銅箔を水洗し、硫酸銅5水和物150g/L、硫酸100g/L、温度40℃に調整しためっき浴を用いて、電流密度10A/dm(限界電流密度以下)で30秒間電解処理し、コブ状銅電着層を施した。
【0023】
次いで、この銅箔に硫酸ニッケル6水和物300g/L、塩化ニッケル45g/L、硼酸50g/L、温度50℃に調整しためっき浴を用いて、電流密度2A/dmで5秒間電解処理し、ニッケルめっき層をl0μg/cm施した。
【0024】
次いで、この銅箔を水洗し、硫酸亜鉛90g/L、硫酸ナトリウム70g/L、温度30℃に調整しためっき浴を用いて、電流密度1.5A/dmで4秒間電解処理し、亜鉛めっき層をl.0μg/cm施した。
【0025】
次いで、この銅箔を水洗し、塩化セリウム25g/L、過酸化水素5mL/L、温度30℃、pH2.0に調整した液を用いて、60秒浸潰し、セリウム化合物皮膜を形成した。セリウム化合物皮膜は、セリウム原子換算で2.2μg/cmであった。
【0026】
次いで、この銅箔を水洗し、3−アミノプロピルトリメトキシシラン10%のシランカップリング液に室温で10秒間浸漬して直ちにl00℃の温度で乾燥し、シランカップリング処理層を形成した。
【0027】
(実施例2)
実施例1におけるセリウム化合物皮膜を形成する処理液組成として、硝酸セリウム5g/L、過酸化水素5mL/L、温度30℃、pH2.0に調整した液を用いて、60秒浸漬してセリウム化合物皮膜(セリウム原子換算で2.0μg/cm)を形成したことを除き、実施例1と同様にして表面粗化処理銅箔を作製した。
【0028】
(参考例1)
実施例1における防錆処理層として施されたセリウム化合物皮膜に代えて、電解クロメート皮膜を施したことを除き、実施例1と同様にして表面粗化処理銅箔を作製した。電解クロメート条件としては、無水クロム酸10g/L、pH12に調整した溶液を用いて、0.2A/dmの電流密度で30秒間陰極電解し成膜した。形成されたクロメート皮膜は、クロム原子換算で2.0μg/cmであった。
【0029】
実施例1,2および参考例1で得られた表面粗化処理銅箔の特性を下記の項目(1)〜(3)についてそれぞれ評価した。評価結果を表1に示す。
【0030】
(1)常態ピール強度
FR−4グレードのガラスエポキシ樹脂含浸基材に積層し、40kgf/cmの圧力、170℃、60分間の条件でプレスし成型した試料を用いて、JIS C 6481「プリント配線板用銅貼積層板試験方法」の5.7に従って、常態ピール強度を測定した。測定した銅箔幅は1mmとした。
【0031】
(2)耐塩酸劣化率
FR−4グレードのガラスエポキシ樹脂含浸基材に積層し、40kgf/cmの圧力、170℃、60分間の条件でプレスし成型した試料を用いて、JIS C 6481「プリント配線板用銅貼積層板試験方法」の5.7に従って、常態ピール強度と、35%塩酸:水を1:1に調整した塩酸溶液中に25℃で1時間浸漬による劣化処理後のピール強度とを測定し、下記の式に従って計算で求めた。測定した銅箔幅は1mmとした。
耐塩酸劣化率(%)=(1−(劣化後ピール強度/常態ピール強度))×100
【0032】
(3)大気加熱試験
作製した表面粗化処理銅箔について、大気中で250℃、5分間加熱し、変色試験を行った。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、防錆処理層としてセリウム化合物皮膜が施された銅箔(実施例1,2)は、クロメート皮膜が施された銅箔(参考例1)と比較して、常態のピール強度において同等の値を示し、耐薬品性試験としての耐塩酸劣化率において劣化が認められず、また、大気加熱試験においても変色の発生は無く、クロメート皮膜と同等の特性を有し、代替処理としての有効性が確認された。従って、実施例の銅箔によれば、無公害、無害でしかも耐食性にも優れた高性能なプリント回路基板用銅箔が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の構造を示す断面模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の製造方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 銅箔
2 粗化処理層
3 ニッケル(ニッケル合金)めっき皮膜
4 亜鉛(亜鉛合金)めっき皮膜
5 セリウム化合物皮膜
6 シランカップリング処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗化処理面を有するプリント配線板用銅箔において、前記粗化処理面にはセリウム化合物皮膜からなる防錆処理層が形成されていることを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項2】
前記粗化処理面には、粗化処理層、ニッケル又はニッケル合金めっき皮膜、亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜、前記セリウム化合物皮膜、シランカップリング処理層が順に形成されていることを特徴とする請求項1記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項3】
粗化処理を施した銅箔に、セリウム塩と過酸化水素とを含む混合浴で浸漬処理することにより防錆処理層としてのセリウム化合物皮膜を形成することを特徴とするプリント配線板用銅箔の製造方法。
【請求項4】
前記セリウム塩は、塩化セリウム又は硝酸セリウムであることを特徴とする請求項3記載のプリント配線板用銅箔の製造方法。
【請求項5】
前記浸漬処理は、pH1.5〜4.0、温度30〜50℃の処理条件にて行われることを特徴とする請求項3又は請求項4記載のプリント配線板用銅箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−9261(P2007−9261A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190278(P2005−190278)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】