説明

プリン系物質生産菌及びプリン系物質の製造法

【課題】プリンヌクレオシド及び/又はプリンヌクレオチドなどのプリン系物質の発酵生産の効率を向上させる。
【解決手段】プリン系物質生産能を有し、酸化的ペントース−リン酸経路の酵素活性を増強したバチルス属細菌培地中で培養し、該培地中または菌体内にプリン系物質を生成蓄積させ、同培地中又は菌体内からプリン系物質を回収することにより、プリン系物質を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は5’−イノシン酸および5’−グアニル酸を代表とするプリンヌクレオチド、並びにこれらの合成原料として重要な物質であるイノシンおよびグアノシン等のプリンヌクレオシド、などのプリン系物質の製造法に用いられるバチルス属細菌に関する。プリン系物質は、調味料、医薬並びにそれらの原料等として有用である。
【背景技術】
【0002】
発酵法によるイノシンおよびグアノシンの生産に関しては、アデニン要求株、またはそれにプリンアナログをはじめとする各種の薬剤に対する耐性を付与したバチルス属の微生物(特許文献1〜8参照)、およびブレビバクテリウム属の微生物(特許文献9,10又は非特許文献1参照)等を用いる方法が知られている。
このような変異株を取得するには、従来、紫外線照射やニトロソグアニジン(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)処理などの変異誘起処理を行い、適当な選択培地を用いて、目的とする変異株を取得するという方法が行われてきた。
【0003】
一方で、遺伝子工学技術を用いたプリン系物質生産株の育種もバチルス属の微生物(特許文献11〜20参照)、ブレビバクテリウム属の微生物(特許文献21参照)、およびエシェリヒア属の微生物(特許文献22参照)で行われている。具体的には、例えば、プリンオペロンのリプレッサータンパク質遺伝子(purR)が破壊されたバチルス属細菌を用いて、ヒポキサンチン、ウラシル、グアニン及びアデニン等の核酸系物質を効率よく製造する方法(特許文献23参照)が開示されている。
バチルス・ズブチリスでは、前記リプレッサータンパク質は、プリンオペロンの遺伝子群の他に、AMP生合成に関与するpurA遺伝子(非特許文献2参照)、ホルミルテトラヒドロ葉酸生合成に関与するglyA遺伝子(非特許文献3参照)およびヒポキサンチン/グアニンのトランスポーターをコードするpbuG遺伝子(非特許文献4参照)などの発現を調節することが知られている。
【0004】
さらに、purR遺伝子破壊に加えて、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)を破壊してアデニン要求性を付与すること、およびプリンヌクレオシドホスホリラーゼ遺伝子(deoD)を破壊して、イノシンのヒポキサンチンへの分解を抑制することによって、イノシンを効率的に製造する方法が開示されている(特許文献8参照)。
【0005】
酸化的ペントースリン酸経路は、グルコースがグルコースキナーゼによりリン酸化されてグルコース−6−リン酸が生合成され、該グルコース−6−リン酸が酸化的にリボース−5−リン酸へ転換される経路である。この経路とプリン系物質の生合成経路との関係はあまり知られておらず、微生物の酸化的ペントースリン酸経路を改変してプリン系物質生産菌を育種するという試みはなされていなかった。

【特許文献1】特公昭38−23099号公報
【特許文献2】特公昭54−17033号公報
【特許文献3】特公昭55−2956号公報
【特許文献4】特公昭55−45199号公報
【特許文献5】特公昭57−14160号公報
【特許文献6】特公昭57−41915号公報
【特許文献7】特開昭59−42895号公報
【特許文献8】特開2004−242610号公報
【特許文献9】特公昭51−5075号公報
【特許文献10】特公昭58−17592号公報
【特許文献11】特開昭58−158197号公報
【特許文献12】特開昭58−175493号公報
【特許文献13】特開昭59−28470号公報
【特許文献14】特開昭60−156388号公報
【特許文献15】特開平1−27477号公報
【特許文献16】特開平1−174385号公報
【特許文献17】特開平3−58787号公報
【特許文献18】特開平3−164185号公報
【特許文献19】特開平5−84067号公報
【特許文献20】特開平5−192164号公報
【特許文献21】特開昭63−248394号公報
【特許文献22】国際公開第99/03988号パンフレット
【特許文献23】米国特許第6,284,495号
【非特許文献1】Agric.Biol.Chem., 1978, 42, 399-405
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1995, 92, 7455-7459
【非特許文献3】J. Bacteriol., 2001, 183, 6175-6183
【非特許文献4】J. Bacteriol., 2003, 185, 5200-5209,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発酵法によってプリンヌクレオシド及び/又はプリンヌクレオチドなどのプリン系物質を製造するために好適なバチルス属細菌を創製すること、及び同細菌を用いたプリン系物質の製造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、バチルス属細菌において、酸化的ペントース−リン酸経路の酵素活性、特にグルコース−6−リン酸−脱水素酵素、又はリボース−5−リン酸イソメラーゼの活性を増強することによって、プリンヌクレオシドやプリンヌクレオチドの生産能が向上することを見出した。さらに、ホスホリボシルピロリン酸(PRPP)シンセターゼ、あるいはプリンヌクレオチド生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現が上昇するように改変すること、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ活性が低減するように改変することによって、さらにバチルス属細菌のプリン系物質生産能を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)プリン系物質生産能を有し、酸化的ペントースリン酸経路の酵素の活性が上昇するように改変されたことを特徴とするバチルス属細菌。
(2)前記プリン系物質がイノシン、キサントシン、グアノシン、アデノシンからなる群より選択されるプリンヌクレオシドである(1)のバチルス属細菌。
(3)前記プリン系物質がイノシン酸、キサンチル酸、グアニル酸、アデニル酸からなる群より選択されるプリンヌクレオチドである(1)のバチルス属細菌。
(4) 前記酸化的ペントースリン酸経路の酵素が、グルコース−6−リン酸−脱水素酵素、又はリボース5−リン酸イソメラーゼである(1)〜(3)のいずれかのバチルス属細菌。
(5)前記酵素をコードする遺伝子のコピー数を高めること、又は該遺伝子の発現調節配列を改変することにより酸化的ペントースリン酸経路の酵素活性が増強した(1)〜(4)のいずれかのバチルス属細菌。
(6)前記酵素がグルコース−6−リン酸−脱水素酵素であり、該グルコース−6−リン酸−脱水素酵素をコードする遺伝子が下記(A)又は(B)に示すタンパク質をコードする遺伝子である(5)のバチルス属細菌。
(A)配列番号48に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号48に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、グルコース−6−リン酸−脱水素酵素活性を有するタンパク質。
(7)前記酵素がリボース5−リン酸イソメラーゼであり、該リボース5−リン酸イソメラーゼをコードする遺伝子が下記(E)又は(F)に示すタンパク質をコードする遺伝子である(5)のバチルス属細菌
(E)配列番号50に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(F)配列番号50に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、リボース5−リン酸イソメラーゼ活性を有するタンパク質。
(8)前記数個が1〜20個である、(6)と(7)のいずれかのバチルス属細菌。
(9)前記酵素がグルコース−6−リン酸−脱水素酵素であり、該グルコース−6−リン酸−脱水素酵素をコードする遺伝子が下記(a)又は(b)に示すDNAである(5)のバチルス属細菌。
(a)配列番号47に記載の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号47に記載の塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつ、グルコース−6−リン酸−脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(10)前記酵素がリボース5−リン酸イソメラーゼであり、該リボース5−リン酸イソメラーゼをコードする遺伝子が下記(e)又は(f)に示すDNAである(5)のバチルス属細菌。
(e)配列番号49に記載の塩基配列を含むDNA。
(f)配列番号49に記載の塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつ、リボース5−リン酸イソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(11)さらにホスホリボシルピロリン酸シンセターゼ活性が上昇するように改変されたことを特徴とする(1)〜(10)のいずれかのバチルス属細菌。
(12)さらに、プリンオペロンの発現量が上昇するように改変されたことを特徴とする(1)〜(11)のいずれかのバチルス属細菌。
(13)プリンオペロンのリプレッサーをコードする遺伝子であるpurR遺伝子が破壊されたこと、あるいは、プリンオペロンのアテニュエーター領域の一部が除去されたことによりプリンオペロンの発現量が上昇したことを特徴とする(12)のバチルス属細菌。(14)さらに、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ活性が低下するように改変されたことを特徴とする(1)〜(13)のいずれかのバチルス属細菌
(15)(1)〜(14)のいずれかのバチルス属細菌を培地に培養して、プリン系物質を蓄積せしめ、プリン系物質を回収することを特徴とするプリン系物質の製造法。
(16)プリン系物質がプリンヌクレオシドまたはプリンヌクレオチドである、(15)の製造法。
(17)上記プリン系物質がイノシン、キサントシン、グアノシン、アデノシンからなる群より選択されるプリンヌクレオシドである(16)の製造法。
(18)上記プリン系物質がイノシン酸、キサンチル酸、グアニル酸、アデニル酸からなる群より選択されるプリンヌクレオチドである(16)の製造法。
(19)(17)の方法によりプリンヌクレオシドを製造し、該プリンヌクレオシドに、ポリ燐酸、フェニル燐酸、カルバミル燐酸からなる群より選択された燐酸供与体と、ヌクレオシド−5’−燐酸エステルを生成する能力を有する微生物または酸性フォスファターゼを作用させて、プリンヌクレオチドを生成せしめ、該プリンヌクレオチドを採取するこ
とを特徴とするプリンヌクレオチドの製造法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のバチルス属細菌を用いることによりプリンヌクレオシドやプリンヌクレオチドなどのプリン系物質を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<1>本発明のバチルス属細菌
(I)プリン系物質生産能の付与
本発明のバチルス属細菌は、プリン系物質生産能を有し、酸化的ペントース−リン酸経路の酵素の活性が増強するように改変されたバチルス属細菌である。
【0011】
「プリン系物質」としてはプリン骨格を含む物質をいうが、プリンヌクレオシド、プリンヌクレオチドなどが挙げられる。ここでプリンヌクレオシドとは、イノシン、キサントシン、グアノシン、アデノシンなどを意味し、プリンヌクレオチドとは、プリンヌクレオシドの5’−燐酸エステル、例えばイノシン酸(イノシン−5’−リン酸 以下「IMP」ともいう)、キサンチル酸(キサントシン−5’−リン酸 以下「XMP」ともいう)、グアニル酸(グアノシン−5’−モノリン酸、以下「GMP」ともいう)、アデニル酸(アデノシン−5’−モノリン酸以下「AMP」ともいう)などを意味する。
「プリン系物質生産能」とは、本発明のバチルス属細菌を培地中で培養したときに、プリン系物質を細胞又はまたは培地から回収できる程度に細胞内または培地中に分泌、生成、蓄積できる能力をいう。なお、本発明のバチルス属細菌は、上記プリン系物質のうちの2種類以上の生産能を有するものであってもよい。
【0012】
プリン系物質生産能を有するバチルス属細菌としては、本来的にプリン系物質生産能を有するものであってもよいが、以下に示すようなバチルス属細菌を、変異法や組換えDNA法を利用して、プリン系物質生産能を有するように改変することによって得られるものでもよい。また、後述するようにして酸化的ペントースリン酸合成経路の酵素活性が上昇するように改変することによってプリン系物質生産能が付与されたバチルス属細菌であってもよい。
【0013】
本発明のバチルス属細菌を得るために用いられるバチルス属細菌としては、バチルス・ズブチリス、バチルス・アミロリケファシエンス、バチルス・プミルス等が挙げられる。
バチルス・ズブチリスとしては、バチルス・ズブチリス168 Marburg(ATCC6051)、バチルス・ズブチリスPY79(Plasmid, 1984, 12, 1-9)等が、バチルス・アミロリケファシエンスとしては、バチルス・アミロリケファシエンスT(ATCC23842)、及びバチルス・アミロリケファシエンスN(ATCC23845)等が挙げられる。
【0014】
イノシン生産能を有するバチルス属細菌は、上記のようなバチルス属細菌に、例えば、アデニン要求性、又はさらにプリンアナログ等の薬剤に対する耐性を付与することにより、取得することが出来る。(特公昭38−23099、特公昭54−17033、特公昭55−45199、特公昭57−14160、特公昭57−41915、特公昭59−42895、US2004-0166575A参照)。栄養要求性及び薬剤耐性を持つバチルス属細菌は、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)、もしくはEMS(エタンメタンスルフォネート)等の通常の変異処理に用いられている変異剤による処理によって取得することが出来る。
【0015】
バチルス属に属するイノシン生産株の具体例として、バチルス・ズブチリスKMBS1
6株を使用することができる。同菌株は、プリンオペロンリプレッサーをコードするpurR遺伝子の欠損(purR::spc)、スクシニル−AMPシンターゼをコードするpurA遺伝子の欠損(purA::erm)、およびプリンヌクレオシドホスホリラーゼをコードするdeoD遺伝子の欠損(deoD::kan)が導入された、既知のバチルス・ズブチリスtrpC2株(168 Marburg)の誘導体である。(特開2004−242610)また、バチルス・ズブチリス菌株AJ3772(FERM P−2555)(特開昭62−014794)等を使用することもできる。また、バチルス・ズブチリスの6−エトキシプリン耐性株(US2004-0166575A)やIMP脱水素酵素(IMPデヒドロゲナーゼ)(EP273660)を弱化した菌株も使用することが出来る。
【0016】
グアノシン生産能を有するバチルス属細菌としては、IMPデヒドロゲナーゼの活性が上昇したバチルス属細菌(特開平3−58787)、プリンアナログ耐性又はデコイニン耐性遺伝子が組み込まれているベクターをアデニン要求性変異株に導入したバチルス属細菌(特公平4−28357)等が挙げられる。
【0017】
またプリンヌクレオチドを生産するバチルス属細菌としては、以下のものが挙げられる。
イノシン酸生産菌としては、バチルス・ズブチリスのフォスファターゼ活性が弱化したイノシン生産株が報告されている(Uchida, K. et al., Agr. Biol. Chem., 1961, 25, 804-805、Fujimoto, M. Uchida, K., Agr. Biol. Chem., 1965, 29, 249-259)。グアニル酸生産菌としては、アデニン要求性を有しさらにデコイニンまたはメチオニンスルフォキシドに耐性を有し、かつ5’−グアニル酸(グアノシン−5’−モノリン酸、以下「GMP」ともいう)生産能を有するバチルス属の変異株が挙げられる。(特公昭56−12438号公報)
【0018】
また、プリン系物質生産能を有するバチルス属細菌を育種する方法として、以下の方法が挙げられる。プリンヌクレオシド及びプリンヌクレオチドに共通のプリン生合成に関与する酵素、すなわちプリン生合成酵素の細胞内での活性を上昇させる方法が挙げられる。該酵素の細胞内での活性は、バチルス属細菌の非改変株、例えば野生型のバチルス属細菌よりも上昇させることが好ましい。「活性が上昇する」とは、例えば、細胞当たりの酵素分子の数が増加した場合や、酵素分子当たりの比活性が上昇した場合などが該当する。例えば、前記酵素の遺伝子の発現量を上昇させることにより活性を上昇させることができる。
【0019】
前記プリン生合成に関与する酵素としては、たとえばホスホリボシル酸ピロリン酸(PRPP)アミドトランスフェラーゼ、PRPPシンセターゼなどが挙げられる
【0020】
ペントース−リン酸系に取り込まれたグルコースなどの糖源が代謝により生成したカタボライトの一部は、リブロース−5−リン酸を経由して、リボース−5−リン酸となる。生合成されたリボース−5−リン酸より、プリンヌクレオシド、ヒスチジン、およびトリプトファン生合成の不可欠な前駆物質であるPRPPが生成される。具体的には、リボース−5−リン酸は、ホスホリボシルピロリン酸シンセターゼ(PRPP synthetase [EC:2.7.6.1])によりPRPPに転換される。したがって、PRPPシンセターゼの活性が上昇するように改変することにより、バチルス属細菌にプリン系物質生産能を付与することができ、ペントース−リン酸系生合成系酵素の強化と組み合わせるとより効果的である。
【0021】
「ホスホリボシルピロリン酸シンセターゼの活性が増強される」とは、ホスホリボシルピロリン酸シンセターゼの活性が野生株又は親株等の非改変株に対して増加していることをいう。ホスホリボシルピロリン酸シンセターゼの活性は例えば、Switzer等の方法(Methods Enzymol., 1978, 51, 3-11)、Roth等の方法(Methods Enzymol., 1978, 51, 12-17)により、測定することができる。ホスホリボシルピロリン酸シンセターゼ
の活性が増強されたバチルス属細菌は、例えば、特開2004−242610号公報に記載の方法と同様にして、プラスミドを用いる方法や染色体上に組込む方法などにより、ホスホリボシルピロリン酸シンセターゼをコードする遺伝子をバチルス属細菌で高発現させることにより作製することができる。本発明に利用出来るホスホリボシルピロリン酸シンセターゼをコードする遺伝子は、配列番号57に記載のバチルス属細菌由来のprs遺伝子 (Genbank Accession No. X16518)が挙げられるが、他の細菌由来の遺伝子、動植物由来の遺伝子でもバチルス属でホスホリボシルピロリン酸シンセターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であれば、何れも用いることが出来る。
【0022】
一方、プリンヌクレオシド、ヒスチジン、およびトリプトファン生合成に不可欠な前駆物質であるPRPPが生成されると、その一部は、プリン生合成に関与する酵素群によりプリンヌクレオシド、プリンヌクレオチドへと変換される。そのような酵素群をコードする遺伝子としては、バチルス・ズブチリスのpurEKB−purC(orf)QLF−purMNH(J)−purDオペロンの遺伝子(Ebbole DJ and Zalkin H, J. Biol. Chem., 1987, 262, 17, 8274-87)(現在では、purEKBCSQLFMNHDとも呼ばれる:Bacillus subtilis and Its Closest Relatives, Editor in Chief: A.L. Sonenshein, ASM Press,
Washington D.C., 2002)、およびエシェリヒア・コリのpurレギュロンの遺伝子(Escherichia and Salmonella, Second Edition, Editor in Chief: F.C. Neidhardt, ASM Press, Washington D.C., 1996)が例示される。
したがって、これらの遺伝子の発現を増強することにより、プリン系物質生産能を付与することもできる。なお、本発明に用いることが出来るプリンオペロン遺伝子はこれらのものには限定されず、他の微生物や動植物由来の遺伝子も利用することも出来る。
【0023】
プリンオペロンの発現量を増大させる方法としては、後述の酸化的ペントースリン酸経路の酵素活性を増大させると同様に、プラスミドを用いる方法や染色体上に組込む方法などにより、プリンオペロン遺伝子をバチルス属細菌で高発現させる方法が挙げられる。
【0024】
プリンオペロンの発現量を増大させる第2の方法として、プリンオペロン固有のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することや、固有のプロモーターの−35、−10領域をコンセンサス配列に置換することが挙げられる。
例えば、バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)では、プリンオペロンの−35配列はコンセンサス配列(TTGACA)であるが、−10配列はTAAGATであり、コンセンサス配列TATAATとは異なっている(Ebbole, D. J. and H. Zalikn, J. Biol. Chem., 1987, 262, 8274−8287)。したがって、−10配列(TAAGAT)をコンセンサス配列TATAAT、あるいはコンセンサス配列と近似する配列TATGAT、TAAAATとなるように改変することで、プリンオペロンの転写活性を上昇させることができる。なお、プロモーター配列の置換は、下記の遺伝子置換と同様の方法で行うことが出来る。
【0025】
プリンオペロンの発現量を増大させる第3の方法として、プリンオペロンのリプレッサーの発現量を低下させる方法も挙げられる。(US6,284,495号)
【0026】
プリンリプレッサーの発現量を低下させるためには、例えば、バチルス属細菌を紫外線照射またはNTGもしくはEMS等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理し、プリンリプレッサーの発現量が低下した変異株を選択する方法を採用することができる。
また、プリンリプレッサーの発現量が低下したバチルス属細菌は、変異処理の他に、例えば、遺伝子組換え法を用いた相同組換え法(Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory press (1972); Matsuyama, S. and Mizushima, S., J. Bacteriol., 1985, 162, 1196-1202)により、染色体上のプリンリプレッサーをコードする遺
伝子(purR;GenBank Accession NC_000964 配列番号51)を、正常に機能しない遺伝子(以下、「破壊型遺伝子」ということがある)で置換することによって得ることができる。
破壊型遺伝子で、宿主染色体上の正常遺伝子を置換するには、例えば以下のようにすればよい。なお、以下の例では、purR遺伝子を例として説明するが、他の遺伝子、例えば後述のpurA又はdeoD遺伝子についても、同様にして遺伝子破壊を行うことができる。
【0027】
相同組換えは、染色体上の配列と相同性を有する配列を持ち、バチルス属細菌内で複製できないプラスミド等が菌体内に導入されると、ある頻度で相同性を有する配列の箇所で組換えを起こし、導入されたプラスミド全体が染色体上に組み込まれる。この後さらに染色体上の相同性を有する配列の箇所で組換えを起こすと、再びプラスミドが染色体上から抜け落ちるが、この時組換えを起こす位置により破壊された遺伝子の方が染色体上に固定され、元の正常な遺伝子がプラスミドと一緒に染色体上から抜け落ちることもある。このような菌株を選択することにより、染色体上の正常なpurR遺伝子が破壊型purR遺伝子に置換された菌株を取得することができる。
【0028】
このような相同組換えによる遺伝子破壊技術は既に確立しており、直鎖DNAを用いる方法、温度感受性プラスミドを用いる方法等が利用できる。また、薬剤耐性等のマーカー遺伝子が内部に挿入されたpurR遺伝子を含み、かつ、目的とする微生物細胞内で複製できないプラスミドを用いることによっても、purR遺伝子の破壊を行うことができる。すなわち、前記プラスミドで形質転換され、薬剤耐性を獲得した形質転換体は、染色体DNA中にマーカー遺伝子が組み込まれている。このマーカー遺伝子は、その両端のpurR遺伝子配列と染色体上のpurR遺伝子との相同組換えによって組み込まれる可能性が高いため、効率よく遺伝子破壊株を選択することができる。
【0029】
遺伝子破壊に用いる破壊型purR遺伝子は、具体的には、制限酵素消化及び再結合によりpurR遺伝子の一定領域を欠失させたり、purR遺伝子へ他のDNA断片(マーカー遺伝子等)を挿入したり、部位特異的変異法(Kramer, W. and Fritz, H. J., Methods Enzymol., 1987, 154, 350-367)またはリコンビナントPCR法(PCR Technology, Stockton Press (1989))や次亜硫酸ナトリウム、ヒドロキシルアミン等の化学薬剤による処理(Shortle, D. and Nathans, D., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1978, 75, 2170-2174)によって、purR遺伝子のコーディング領域またはプロモーター領域等の塩基配列の中に1つまたは複数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を起こさせたりして、コードされるリプレッサーの活性が低下又は消失したか、又はpurR遺伝子の転写が低下または消失したものを選択することにより、取得することができる。これらの態様の中では、制限酵素消化及び再結合によりpurR遺伝子の一定領域を欠失させる方法、又はpurR遺伝子へ他のDNA断片を挿入する方法が、確実性及び安定性の点から好ましい。
【0030】
なお、purR遺伝子は、プリンオペロンを持つ微生物の染色体DNAから、公知のpurR遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとするPCR法によって取得することができる。また、プリンオペロンを持つ微生物の染色体DNAライブラリーから、公知のpurR遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプローブとするハイブリダイゼーション法によって、purR遺伝子を取得することができる。バチルス・ズブチリス168 Marburg株では、purR遺伝子の塩基配列が報告されている(GenBank accession No.D26185(コード領域は塩基番号118041〜118898)、NC_000964(コード領域は塩基番号54439〜55296))。purR遺伝子の塩基配列及び同遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を、配列表の配列番号51及び52に示す(特開2004−242610号参照)。
purR遺伝子を得るためのPCRに用いるプライマーとしては、purR遺伝子の一部を増幅することができるものであればよく、具体的には配列番号59(GAAGTTGATGATCAAAA)及び配列番号60(ACATATTGTTGACGATAAT)に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチドなどが挙げられる。
【0031】
破壊型遺伝子の作製に用いるpurR遺伝子は、必ずしも全長を含む必要はなく、遺伝子破壊を起こすのに必要な長さを有していればよい。また、各遺伝子の取得に用いる微生物は、同遺伝子が、遺伝子破壊株の創製に用いるバチルス属細菌のpurR遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していれば特に制限されない。しかし、通常は、目的とするバチルス属細菌と同じ細菌に由来する遺伝子を用いることが好ましい。
バチルス属細菌のpurR遺伝子と相同組換えを起こし得るDNAは、配列番号52に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列をコードするDNAであってもよい。前記「数個」は、例えば1〜50個、好ましくは、1〜30個、より好ましくは1〜10個である。
【0032】
前記バチルス属細菌のpurR遺伝子と相同組換えを起こし得るDNAとしては具体的には、配列番号51に示す塩基配列の相補配列を有するDNAと、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。より具体的には、配列番号51に示す塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが挙げられる。ストリンジェントな条件としては、60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度で洗浄が行われる条件が挙げられる。
【0033】
前記マーカー遺伝子としては、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)由来のスペクチノマイシン耐性遺伝子は、バチルス ジェネチック ストック センター(BGSC)より市販されているエシェリヒア・コリ ECE101株から、プラスミドpDG1726を調製し、該プラスミドからカセットとして取り出すことにより、取得することができる。また、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)のエリスロマイシン耐性遺伝子は、バチルス ジェネチック ストック センター(BGSC)より市販されているエシェリヒア・コリECE91株から、プラスミドpDG646を調製し、該プラスミドからカセットとして取り出すことにより、取得することができる。さらに、カナマイシン耐性遺伝子は、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)由来カナマイシン耐性遺伝子は、バチルス ジェネチック ストック センター(BGSC)より市販されているエシェリヒア・コリ ECE94株から、プラスミドpDG783を調製し、該プラスミドからカセットとして取り出すことにより、取得することができる。
【0034】
マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を用いる場合は、該遺伝子をプラスミド中のpurR遺伝子の適当な部位に挿入し、得られるプラスミドで微生物を形質転換し、薬剤耐性となった形質転換体を選択すれば、purR遺伝子破壊株が得られる。染色体上のpurR遺伝子が破壊されたことは、サザンブロッティングやPCR法により、染色体上のpurR遺伝子又はマーカー遺伝子を解析することによって、確認することができる。前記スペクチノマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子又はカナマイシン耐性遺伝子が染色体DNAに組み込まれたことの確認は、これらの遺伝子を増幅することができるプライマーを用いたPCRにより、行うことができる。
【0035】
また、プリンオペロンの発現はプロモーター下流に位置するterminator−antiterminator配列(以下、アテニュエーター配列と称する)に制御されていることが知られている(Ebbole, D. J. and Zalkin, H., J. Biol. Chem., 1987, 262,
8274−8287、Ebbole, D. J. and Zalkin, H., J. Biol. Chem., 1988, 263, 10894−10902、Ebbole, D. J. and Zalkin, H., J. Bacteriol., 1989, 171, 2136−2141)(図1参照)。したがって、アテニュエーター配列を欠損させることで、プリンオペロンの発現量を上昇させることができる。アテニュエーター配列の欠損はpurR破壊と同様の方法で行うことが出来る。
【0036】
なお、プリンオペロン転写をさらに増大させるためには、上記方法を組み合わせてもよく、例えば、purR遺伝子を破壊し、さらに、アテニュエーター配列を欠損させたプリンオペロンをプラスミドで増幅するか、あるいは、このようなプリンオペロンを染色体上で多コピー化させてもよい。
【0037】
また、プリン生合成に関与する酵素の活性増強は、プリン生合成に関与する酵素の調節を解除すること、例えば、前記酵素のフィードバック阻害を解除する方法によっても行うことができる(WO99/03988)。
【0038】
さらに、プリン系物質の細胞内へ取り込みを弱化することによっても、プリン系物質生産能を強化することができる。例えば、プリンヌクレオシドの細胞内へ取り込みは、プリンヌクレオシドの細胞内への取り込みに関与する反応を遮断することによって弱化することができる。上記プリンヌクレオシドの細胞内への取り込みに関与する反応は、たとえばヌクレオシドパーミアーゼに触媒される反応である。
【0039】
さらに、プリン系物質生産能を増強させるためにプリン系物質を分解する酵素の活性を低下させてもよい。このような酵素として、例えば、プリンヌクレオシドホスホリラーゼが挙げられる。
PRPPから、プリン生合成に関与する酵素群により生合成されたプリンヌクレオチドは、脱リン酸化されて、プリンヌクレオシドをつくる。プリンヌクレオシドを効率的に蓄積せしめるためには、プリンヌクレオシドを更に分解してヒポキサンチン等とするプリンヌクレオシドホスホリラーゼの活性を低下させることが好ましい。すなわち、イノシンをはじめとするプリンヌクレオシドを基質とするプリンヌクレオシドホスホリラーゼを弱化、あるいは欠損させるように改変することが望ましい。
具体的には、バチルス属細菌でプリンヌクレオシドホスホリラーゼをコードするdeoD遺伝子とpupG遺伝子を破壊することによって達成することができる。本発明のバチルス属細菌は、上記のようなdeoD遺伝子とpupG遺伝子を単独、または同時に破壊するように改変されたものであってもよい。deoD遺伝子、pupG遺伝子は、例えばバチルス属由来の遺伝子(deoD;Genbank Accession No. NC_000964(配列番号55),pupG;Genbank Accession No. NC_000964(配列番号53))が利用でき、上記purR遺伝子破壊と同様の方法で遺伝子破壊株を取得出来る。
さらに、プリン系物質生産能を増強させるために、イノシンモノリン酸(IMP)脱水素酵素の活性を低下させてもよい。IMP脱水素酵素をコードする遺伝子としては、guaB遺伝子が挙げられる。guaB遺伝子としては、例えば、GenBank Accession No.NC_000964(15913..17376)で登録されている塩基配列を有するものが挙げられる(配列番号61)。
【0040】
また、プリン系物質生産能を増強させる方法として、プリン系物質を排出する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を増幅することが考えられる。このような遺伝子が増幅された細菌としては、例えば、rhtA遺伝子を増幅したバチルス属細菌が挙げられる。(特開2003−219876)
また、本発明に用いる微生物は、さらにヌクレオシダーゼやヌクレオチダーゼをコードする遺伝子を欠損させれば、各々に対応するヌクレオシド又はヌクレオチドを蓄積させることができ、又イノシンの要求性を付与すれば、これらの生合成系経路上の前駆体及びそ
の関連物質を蓄積させることができる。
【0041】
(II)酸化的ペントースリン酸経路の酵素活性を上昇させるための改変
本発明のバチルス属細菌は、上述のようなプリン系物質生産能を有する菌株を酸化的ペントースリン酸経路の酵素活性を上昇するように改変することによって取得することが出来る。ただし、改変の順は問わず、酸化的ペントースリン酸経路の酵素活性を上昇するように改変したのちにプリンヌクレオチド生産能を付与してもよい。
【0042】
ここで「酸化的ペントースリン酸経路」とは、細胞内にとりこまれたグルコースが、グルコースキナーゼによりリン酸化され、グルコース−6−リン酸が生合成され、グルコース−6−リン酸は、酸化的にリボース−5−リン酸へ転換される経路を意味する。酸化的ペントースリン酸経路の酵素とは具体的には、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC:1.1.1.49)、6−リン酸−グルコン酸脱水素酵素(EC:1.1.1.44)、または、リボース−5−リン酸イソメラーゼ(EC:5.3.1.6)などの酵素を意味し、本発明のバチルス属細菌は、これらの酵素のうちグルコース−6−リン酸−脱水素酵素とリボース−5−リン酸イソメラーゼのいずれかの活性が上昇するように改変されたものであってもよい。
【0043】
酸化的ペントースーリン酸経路の酵素活性は、野生株又は非改変株の活性よりも上昇していることが好ましい。酵素活性の上昇は、以下のような方法で測定出来る。例えば、グルコース−6−リン酸−脱水素酵素の酵素活性は実施例6の(1)に記載したようなNADPHの生成を測定する方法で、または、リボース−5−リン酸イソメラーゼの酵素活性は実施例6の(2)に記載したようなリブロース− 5−リン酸の生成を測定する方法で測定出来る。
【0044】
酸化的ペントースリン酸経路の酵素活性が上昇するように改変するには、例えば、酸化的ペントースリン酸経路の酵素をコードする遺伝子を増幅させればよい。用いることのできる遺伝子は酸化的ペントースリン酸経路の酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である限り特に限定されないが、例えばバチルス属由来の遺伝子が挙げられる。
バチルス・ズブチリスのグルコース−6−リン酸脱水素酵素(グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ)は配列番号48に示す489個のアミノ酸から構成されるものが挙げられ、該タンパク質をコードする遺伝子、好ましくは配列番号47(zwf遺伝子;Genbank
Accession No. NC_000964)の塩基配列を有する遺伝子を改変に用いることができる。なお、zwf遺伝子は、バチルス・ズブチリス染色体上の212度に存在する。
【0045】
また、リボース−5−リン酸イソメラーゼとしては、配列番号50に示す149個のアミノ酸から構成されるタンパク質が挙げられ、該タンパク質をコードする遺伝子、好ましくは配列番号49の塩基配列を有する遺伝子(ywlF遺伝子;Genbank Accession No. NC_000964)を改変に用いることができる。なお、ywlF遺伝子は、バチルス・ズブチリス染色体上324度に、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードするglyA遺伝子に近接して存在する。なお、リボース−5−リン酸イソメラーゼはリボース−5−リン酸エピメラーゼと呼ばれているものも含む。
【0046】
また、バチルス属以外の細菌、例えば他の微生物又は動植物由来の酸化的ペントースリン酸経路の酵素をコードする遺伝子も使用することもできる。微生物または動植物由来の酸化的ペントースリン酸経路の酵素をコードする遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子、またはそれらの塩基配列とのホモロジー等に基いて酸化的ペントースリン酸経路の酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を微生物、動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列にしたがって合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法によりそのプロモーターおよびORF部分を含む領域
を増幅することによって、取得することができる。配列情報はGenbank等のデータベースを利用出来る。
【0047】
バチルス属細菌において、これらの目的とする酵素の細胞内の活性を上昇させるには、同酵素をコードする遺伝子の発現を増強することによって達成される。同遺伝子の発現量の増強は、同遺伝子のコピー数を高めることによって達成される。例えば、前記酵素をコードする遺伝子断片を、バチルス属細菌で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組換えDNAを作製し、これをバチルス属細菌宿主に導入して形質転換すればよい。
導入する遺伝子は、バチルス属細菌由来の遺伝子、およびバチルス属細菌で機能する限り、エシェリヒア属細菌等の他の生物由来の遺伝子のいずれも使用することができる。
目的とする遺伝子は、例えば、バチルス属細菌の染色体DNAを鋳型とするPCR法(PCR:polymerase chain reaction; White,T.J. et al., Trends Genet., 1989, 5, 185-189参照)によって、取得することができる。染色体DNAは、DNA供与体である細菌から、例えば、斎藤、三浦の方法(H. Saito and K.Miura, Biochem.B iophys. Acta, 1963, 72, 619-629、生物工学実験書、日本生物工学会編、97〜98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。PCR用プライマーは、バチルス属細菌の公知の遺伝子配列に基づいて、又は他の細菌等で配列が公知の遺伝子間で保存されている領域の情報に基づいて、調製することができる。
バチルス属細菌に目的遺伝子を導入するための自律複製可能なベクターとしては、例えば、pUB110、pC194、pE194等が挙げられる。また、染色体DNAに目的遺伝子を組み込むためのベクターとしては、pHSG398(宝酒造(株))、pBluescript SK−(Stratagene)等のE.coli用ベクター等が挙げられる。
目的遺伝子とバチルス属細菌で機能するマーカーを搭載したベクターを連結して組換えDNAを調製するには、目的遺伝子の末端に合うような制限酵素でベクターを切断する。連結はT4DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて行うのが普通である。
【0048】
前記バチルス属で機能するマーカー遺伝子として、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)由来のスペクチノマイシン耐性遺伝子は、バチルス ジェネチック ストック センター(BGSC)より市販されているエシェリヒア・コリ ECE101株から、プラスミドpDG1726を調製し、該プラスミドからカセットとして取り出すことにより、取得することができる。また、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)のエリスロマイシン耐性遺伝子は、バチルス ジェネチック ストック センター(BGSC)より市販されているエシェリヒア・コリECE91株から、プラスミドpDG646を調製し、該プラスミドからカセットとして取り出すことにより、取得することができる。さらに、カナマイシン耐性遺伝子は、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)由来カナマイシン耐性遺伝子は、バチルス ジェネチック
ストック センター(BGSC)より市販されているエシェリヒア・コリ ECE94株から、プラスミドpDG783を調製し、該プラスミドからカセットとして取り出すことにより、取得することができる。
【0049】
上記のように調製した組換えDNAをバチルス属細菌に導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Dubnau, D., and Davidoff-Abelson, R., J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)、又は、宿主細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Cohen, S.N., Molec. Gen. Genet., 1979, 168, 111-115)が挙げられる。
【0050】
目的遺伝子のコピー数を高めることは、同遺伝子をバチルス属細菌の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。バチルス属細菌の染色体DNA上に目的遺伝子を多コピーで導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行う。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、トランスポゾン、繰返し配列、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピート等が利用できる。
【0051】
目的酵素の活性の増強は、上記の遺伝子増幅による以外に、染色体DNA上またはプラスミド上の目的遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することによっても達成される。プロモーターの強度は、RNA合成開始の頻度により定義される。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1995, 1, 105-128)等に記載されている。また、国際公開W000/18935に開示されているように、目的遺伝子のプロモーター領域に数塩基の塩基置換を導入し、より強力なものに改変することも可能である。さらに、リボソーム結合部位(RBS)と開始コドンとの間のスペーサ、特に開始コドンのすぐ上流の配列における数個のヌクレオチドの置換がmRNAの翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られている。これら発現調節配列の改変は、目的遺伝子のコピー数を高めることと組み合わせてもよい。
例えば、バチルスで機能するプロモーターとしては、vegプロモーター、spacプロモーター、xylプロモーター等が挙げられる。
【0052】
なお、本発明の微生物において活性を上昇させる酸化的ペントースリン酸経路の酵素は、それぞれの酵素活性が損なわれない限り、配列番号48または50の配列において1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含む酵素タンパクであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には1から30個、好ましくは、1から20個、より好ましくは1から10個である。
【0053】
上記の酸化的ペントースリン酸経路の酵素タンパクの変異は、酵素活性が維持されるような保存的変異である。置換は、アミノ酸配列中の少なくとも1残基が除去され、そこに他の残基が挿入される変化である。酵素タンパクの元々のアミノ酸を置換し、かつ、保存的置換とみなされるアミノ酸としては、alaからser又はthrへの置換、argからgln、his又はlysへの置換、asnからglu、gln、lys、his又はaspへの置換、aspからasn、glu又はglnへの置換、cysからser又はalaへの置換、glnからasn、glu、lys、his、asp又はargへの置換、gluからgly、asn、gln、lys又はaspへの置換、glyからproへの置換、hisからasn、lys、gln、arg又はtyrへの置換、ileからleu、met、val又はpheへの置換、leuからile、met、val又はpheへの置換、lysからasn、glu、gln、his又はargへの置換、metからile、leu、val又はpheへの置換、pheからtrp、tyr、met、ile又はleuへの置換、serからthr又はalaへの置換、thrからser又はalaへの置換、trpからphe又はtyrへの置換、tyrからhis、phe又はtrpへの置換、及び、valからmet、ile又はleuへの置換が挙げられる。
【0054】
上記のような酸化的ペントースリン酸経路の酵素タンパクと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むように、これら酵素をコードするの塩基配列を改変することによって得られる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としては、変異処理前のDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及び変異処理前のDNAを保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
【0055】
上記のような変異を有するDNAを、適当な細胞で発現させ、発現産物の活性を調べることにより、酸化的ペントースリン酸経路の酵素と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。また、変異を有する酸化的ペントースリン酸経路の酵素をコードするDNAまたはこれを保持する細胞から、例えば配列表の配列番号47、または49に記載の塩基配列の相補配列又はその一部を有するプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、酸化的ペントースリン酸経路の酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAが得られる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0056】
プローブとして、配列番号47、49の塩基配列の相補配列の一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、配列番号47、49の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、配列番号47、49の塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。
【0057】
酸化的ペントースリン酸経路の酵素と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAとして具体的には、配列番号48、50に示すアミノ酸配列と、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有し、かつ酸化的ペントースリン酸経路の酵素産物活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0058】
<2>プリン系物質の製造法
本発明のバチルス属細菌はプリン系物質を効率よく生産する。したがって、本発明のバチルス属細菌を好適な培地で培養することによって、培地中にプリンヌクレオシド及びプリンヌクレオチドなどのプリン系物質を生成蓄積せしめることができる。
本発明に用いる培地としては、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の栄養培地を用いて常法により行うことができる。合成培地または天然培地のいずれも使用可能である。培地に使用される炭素源および窒素源は培養する菌株の利用可能なものならばよい。
炭素源としてはグルコース、フラクトース、シュークロース、マルトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、トレハロース、リボース、でんぷん加水分解物、糖蜜等の糖類、グリセロールやマンニトールなどのアルコール類が使用され、その他、グルコン酸、酢酸、クエン酸、マレイン酸、フマール酸、コハク酸等の有機酸等も単独あるいは他の炭素源と併用して用いられる。
窒素源としてはアンモニア、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩または大豆加水分解物などの有機窒素等が使用される。
有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、さらにこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆蛋白分解物等が使用され、生育にアミノ酸やヌクレオシド等を要求する栄養要求性変異株を使用する場合には要求される栄養素を補添する事が必要である。
無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等が使用される。
【0059】
培養条件は、用いるバチルス属細菌の種類によるが、例えばバチルス・ズブチリスでは、発酵温度20〜50℃、pHを4〜9に制御しつつ通気培養を行う。培養中にpHが低下する場合にはアンモニアガス等のアルカリで中和する。かくして40時間〜3日間程度培養することにより、培養液中にプリンヌクレオシドが蓄積される。
培養終了後、培養液中に蓄積されたイノシンなどのプリン系物質を採取する方法としては公知の方法に従って行えばよい。例えば、沈殿法、またはイオン交換クロマトグラフィー等によって単離することができる。
【0060】
さらに、本発明の方法により製造されたイノシンあるいはグアノシンに、プリンヌクレオシドホスホリラーゼおよびホスホリボシルトランスフェラーゼを作用させることにより、5'−イノシン酸あるいは5'−グアニル酸が得られる。
【0061】
また、本発明の微生物を用いて生産されたプリンヌクレオシドに、ポリ燐酸、フェニル燐酸、カルバミル燐酸からなる群より選択された燐酸供与体と、ヌクレオシド−5’−燐酸エステルを生成する能力を有する微生物や、酸性フォスファターゼを作用させることによって、プリンヌクレオチド(ヌクレオシド−5’−燐酸エステル)を生産することも可能である。ヌクレオシド−5’−燐酸エステルを生成する能力を有する微生物は、プリンヌクレオシドをプリンヌクレオチドに変換する能力を有するものであれば特に制限されないが、例えば、国際公開パンフレットWO9637603号に記載されたような微生物が挙げられる。 また、特開平07−231793に開示されているようなEscherichia blattae JCM 1650、Serratia ficaria ATCC 33105、Klebsiella planticola IFO 14939 (ATCC
33531)、Klebsiella pneumoniae IFO 3318 (ATCC 8724)、Klebsiella terrigena IFO 14941 (ATCC 33257)、Morganella morganii IFO 3168、Enterobacter aerogenes IFO 12010、Enterobacter aerogenes IFO 13534 (ATCC 13048)、Chromobacterium fluviatile IAM 13652、Chromobacterium violaceum IFO 12614、Cedecea lapagei JCM 1684、Cedecea davisiae JCM 1685、Cedecea neteri JCM 5909などを用いることもできる。
酸性フォスファターゼ(EC 3.1.3.2)としては、例えば、特開2002−000289、 US6,010,851, US6,015,697, WO01/18184に開示されているようなものを用いることができ、より好ましくはヌクレオシドに対する親和性が上昇した酸性フォスファターゼ(特開平10−201481参照)やヌクレオチダーゼ活性が低下した変異型酸性フォスファターゼ(WO9637603参照)、燐酸エステル加水分解活性が低下した変異型酸性フォスファターゼ(US6,010,851)などを用いることができる。
【0062】
[実施例]
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0063】
<プリンヌクレオシドホスホリラーゼ欠損株の構築と培養評価>
(1)プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(pupG)欠損株の構築
バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、プリンオペロンリプレッサー遺伝子(purR)、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ遺伝子(deoD)を欠損した組換え体KMBS16(特開2004−242610号)に、pupG遺伝子欠損を導入した菌株の作製を、以下のようにして行った。
【0064】
(i)pupGの5'側領域のクローニング
遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964)の情報に基づき、以下の塩
基配列を有するそれぞれ20 mer、29 merのPCR用プライマーを作製した。
ATTGCACGGCCGTTCGTCGG(配列番号1)
cgcagatctCCGGATTTTCGATTTCGTCC(小文字の塩基はBglIIサイトを含むタグを示す、配列番号2)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、pupG遺伝子翻訳開始コドン上流の約610 bpとその下流約120 bpを含む増幅断片を得た。
PCR増幅断片は、フェノール−クロロホルム抽出、エタノール沈殿により精製し、Perfectly Blunt Cloning Kit(NOVAGEN)を用いて、付属のpT7Blueプラスミドにクローニングした。本プラスミドのマルチクローニングサイトの両端は、EcoRIとHindIIIであり、pupG遺伝子上流域がEcoRI側にあるプラスミドpKM48を得た。
【0065】
(ii)pupGの3'側領域のクローニング
遺伝子データバンク(GenBank Accession NC_000964)の情報に基づき、以下の塩基配列を有する、それぞれ20 mer、29 merのPCR用プライマーを作製した。
CAAAGATCTGTCCAGCCTGG(配列番号3)
cgcctgcagTGCCTTTATCTAAAGCTTCC(小文字の塩基はPstIサイトを含むタグを示す、配列番号4)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、pupG遺伝子翻訳終止コドン上流の約340 bpとその下流約400 bpを含む増幅断片を得た。
pupGの5'側領域のクローニングの場合と同様にして、pT7Blueプラスミドにクローニングし、pupG遺伝子下流域がEcoRI側にあるプラスミドpKM49を得た。
【0066】
(iii)DpupG断片のクローニング
pKM49をSpeIで処理後、Klenow fragmentにより平滑化し、さらにPstIで処理して、約740 bpのDNA断片を切り出した。この断片をpKM48をBglIIで処理、Klenow fragmentにより平滑化した後、PstIで処理したプラスミド断片とT4 DNAリガーゼを用いて連結させ、pKM75を得た。このプラスミドは、pupG構造遺伝子内で約360 bpが欠損したpupG欠損DNAを含む約1470 bpのインサートを保持する。
【0067】
(iv)pupG破壊用プラスミドの構築
pKM75をSacIとPstIで処理してインサートを切り出し、この断片を、同酵素で処理した染色体組換え用ベクターpJPM1(Mueller et. al., J. Bacteriol., 1992, 174, 4361-4373)とT4 DNAリガーゼを用いて連結させ、pKM76を得た。
得られたプラスミドpKM76を用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製したKMBS16株のコンピテントセルを形質転換し、2.5 μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した(1回組換え株)。
得られた1回組換え株をクロラムフェニコール含有LB培地10 mlに植菌し、37℃で継第培養を数日間実施し、LB寒天培地上でクロラムフェニコール感受性となったコロニーをスクリーニングした。得られたクロラムフェニコール感受性コロニーから染色体DNAを調製し、配列番号5と6のプライマーを用いて上記と同様にしてPCRを行い、染色体上のpupG遺伝子が、内部が欠損したpupG遺伝子(DpupG)と2回組換えにより置換した菌株(purR::spc purA::erm deoD::kan DpupG)を同定した。このようにして得られた2回組換え株の内の一株を、KMBS93と名づけた。
GGTCTGAGCTTTGCGAACC(配列番号5)
CGCCTGCAGTGCCTTTATCTAAAGCTTCC(配列番号6)
【0068】
(2)バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、プリンオペロンリプレッサー遺伝子(purR)、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)を欠損した組換え体KMBS13(特開2004−242610号公報)に、pupG遺伝子欠損を導入した菌株の作製を、以下のようにして行った。
pKM76を用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製したKMBS13株のコンピテントセルを形質転換し、2.5 μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した(1回組換え株)。
得られた1回組換え株をクロラムフェニコール含有LB培地10 mlに植菌し、37℃で継第培養を数日間実施し、LB寒天培地上でクロラムフェニコール感受性となったコロニーをスクリーニングした。得られたクロラムフェニコール感受性コロニーから染色体DNAを調製し、配列番号5と6のプライマーを用いて上記と同様にしてPCRを行い、染色体上のpupG遺伝子が、内部が欠損したpupG遺伝子(DpupG)と2回組換えにより置換した菌株(purR::spc purA::erm DpupG)を同定した。このようにして得られた2回組換え株の内の一株を、KMBS113と名づけた。
【0069】
(3)pupG遺伝子欠損株のプリンヌクレオシド生産
pupG遺伝子欠損株(KMBS93株とKMBS113)およびコントロール株であるKMBS16を、PS培地プレート(Soluble starch 30 g/L、Yeast extract 5 g/L、Polypeptone 5 g/L、Agar 20 g/L、KOHでpH 7.0に調整)上にまんべんなく塗布し、34℃で一晩培養した。1/8プレート分の菌体を、500 ml容の坂口フラスコ中の発酵培地20 mlに接種し、その後、炭酸カルシウムを50 g/Lとなるように加えて、34℃で振とう培養した。培養開始後100時間目にサンプリングし、培養液中に含まれるイノシンおよびヒポキサンチン量を公知の方法で測定した。コントロール株であるKMBS16株では、培養液中に多量のヒポキサンチンが検出されたが、pupG遺伝子欠損株であるKMBS93株とKMBS113のヒポキサンチン蓄積は、非常に低い量であり、HPLCのピークとして明確に検出できなかった(表1)。また、KMBS93株とKMBS113のイノシンの蓄積は、コントロール株であるKMBS16株のそれよりも高かった。
【0070】
[発酵培地組成]
グルコース 80 g/L
KH2PO4 1 g/L
NH4Cl 32 g/L
豆濃(T-N)* 1.35 g/L
DL-メチオニン 0.3 g/L
L-トリプトファン 0.02 g/L
アデニン 0.1 g/L
MgSO4 0.4 g/L
FeSO4 0.01 g/L
MnSO4 0.01 g/L
GD113 0.01 ml/L
(KOHでpH 7.0に調整)
炭酸カルシウム 50 g/L
*:蛋白加水分解物
【0071】
【表1】

【実施例2】
【0072】
(1)変異型guaB遺伝子の導入
上述のバチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、プリンオペロンリプレッサー遺伝子(purR)、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ遺伝子(pupG)を欠損した組換え体KMBS1113に、IMP脱水素酵素遺伝子guaBにおけるguaB(A1)変異を導入した菌株の作製を、以下のようにして行った。なお、guaB(A1)変異とは、配列番号62の226位のアラニンがバリンに置換されたリーキー変異(IMPデヒドロゲナーゼ活性を低下させる変異)である。
(i)B. subtilis 168 Marburg由来株のguaB遺伝子中央にカナマイシン耐性遺伝子が挿入された菌株の作製
guaB遺伝子上流域の増幅では、遺伝子データバンク(GenBank Accession NC_000964およびV01547)の情報に基づき、以下の塩基配列を有するそれぞれ34 mer、50 merのPCR用プライマーを作製した。
cgcggatccGGCTTAACGTTCGACGATGTGCTGC(小文字の塩基はBamHIサイトを含むタグ−配列番号7)
gctttgcccattctatagatatattGAGTCATTGTATCGCCAGTTACACC(小文字の塩基はpDG783(BGSC)上にクローニングされているカナマイシン耐性遺伝子(kan)のプロモーター上流域の配列、配列番号8)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、guaB遺伝子5'側領域の増幅断片(約710 bp)を得た。
guaB遺伝子3'側領域の増幅では、遺伝子データバンク(GenBank Accession NC_000964およびV01547)の情報に基づき、以下の塩基配列を有するそれぞれ50 mer、34 merのPCR用プライマーを作製した。
cctagatttagatgtctaaaaagctGTGATTGTTATCGATACAGCTCACG(配列番号9;小文字の塩基はpDG783(BGSC)上にクローニングされているカナマイシン耐性遺伝子(kan)の構造遺伝子下流域の配列)
cgcgaattcGTAATCTGTACGTCATGCGGATGGC(小文字の塩基はEcoRIサイトを含むタグ、配列番号10)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、guaB遺伝子3'側領域の増幅断片(約730 bp)を得た。
kan遺伝子の3'側領域のPCR法による増幅では、遺伝子データバンク(GenBank Accession No.V01277および NC_000964)の情報に基づき、以下の塩基配列を有するそれぞれ50 merのPCR用プライマーを作製した。
ggtgtaactggcgatacaatgactcAATATATCTATAGAATGGGCAAAGC(小文字の塩基はguaB上流域の配列で配列番号8の3'末端領域と相補するようにデザインされている、配列番号11)
cgtgagctgtatcgataacaatcacAGCTTTTTAGACATCTAAATCTAGG(小文字の塩基はguaB下流域の配列で配列番号9の3'末端領域と相補するようにデザインされている、配列番号12)
カナマイシン耐性遺伝子(kan)が搭載されているプラスミド、例えばpDG783など、の
プラスミドDNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃,
1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、kan遺伝子を含む約1150 bpの増幅断片を得た。
kan遺伝子を挿入したguaB領域のリコンビナントPCR法による増幅では、上記のようにして増幅した3種のDNA断片をMicroSpin Column S-400(Amersham Pharmacia Biotech)で精製後、適量を混合したものをテンプレートとし、配列番号7および10を用いて、PCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、kan遺伝子を挿入したguaB領域の増幅断片を得た。
取得したkan遺伝子を挿入したguaB領域(guaB::kan)のDNA断片をアガロースゲル電気泳動後、目的とする断片をゲルより抽出した。このようにして精製したDNA断片を用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製したB. subtilis標準株のコンピテントセルを形質転換し、2.5 μg/mlのカナマイシンと20 μg/mlのグアニンを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。これらのコロニーから染色体DNAを調製し、、配列番号7および10を用いたPCR法により、染色体上のguaB領域が、内部がカナマイシン耐性遺伝子で置換されたguaB領域(guaB::kan)と2回組換えにより置換した菌株を同定した。このようにして得られた組換え株はグアニン要求株となっており、これらの内の一株をKMBS193と名づけた。
【0073】
(ii)B. subtilis 168 Marburg由来株のguaB変異(A1)が挿入された菌株の作製
guaB遺伝子5'側領域の増幅では、遺伝子データバンク(GenBank Accession NC_000964)の情報に基づき、以下の塩基配列を有するそれぞれ25 mer、46 merのPCR用プライマーを作製した。
CATAAAATGTACGCATAGGCCATTC(配列番号13)
TTGTATCGCCAGTTACACCAACTaCCGCGCCAACGATCAGGCGGCC(小文字の塩基は変異点を示している、配列番号14)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、guaB遺伝子5'末端領域および上流域の増幅断片(約1210 bp)を得た。
次にguaB遺伝子3'側領域を増幅した。遺伝子データバンク(GenBank Accession NC_000964)の情報に基づき、以下の塩基配列を有するそれぞれ46 mer、26 merのPCR用プライマーを作製した。
GGCCGCCTGATCGTTGGCGCGGtAGTTGGTGTAACTGGCGATACAA(小文字の塩基は変異点を示している、配列番号14プライマーと相補する、配列番号15)
CCTTGATCAATTGCTTCCAATAACAG(配列番号16)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、guaB遺伝子3'末端領域および下流域の増幅断片(約1220 bp)を得た。
guaB変異(A1)を導入したguaB領域のリコンビナントPCR法による増幅では、上記のようにして増幅した2種のDNA断片を、アガロース電気泳動後、目的とするDNA断片を精製した。両DNA断片の適量を混合したものをテンプレートとし、配列番号13および16を用いて、PCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、guaB変異(A1)が導入されたguaB領域の増幅断片を得た。
取得したguaB変異(A1)が導入されたguaB領域(guaB(A1))のDNA断片をアガロースゲル電気泳動後、目的とする断片をゲルより抽出した。このようにして精製したDNA断片を用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製したKMBS193のコンピテントセルを形質転換し、最小培地寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。これらのコロニーから染色体DNAを調製し、、配列番号13および
16を用いたPCR法により、染色体上のguaB::kan領域が、guaB(A1)変異を含むguaB領域と2回組換えにより置換した菌株を同定した。このようにして得られた組換え株はグアニン非要求株となっており、これらの内の一株をYMBS9と名づけた。
【0074】
(iii)イノシン生産菌KMBS113にguaB変異(A1)が導入された菌株の作製
KMBS193(guaB::kan)の染色体DNAを調製し、これを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、KMBS113株のコンピテントセルを形質転換し、2.5 μg/mlのカナマイシンと20 μg/mlのグアニンを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。このような菌株はグアニン要求となっており、これらの内の一株をYMBS6(purR::spc purA::erm DpupG guaB::kan trpC2)と名づけた。
次に、YMBS9(guaB(A1))の染色体DNAを調製し、これを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、YMBS6株のコンピテントセルを形質転換し、20 μg/mlのアデニンを含む最小培地寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。このような菌株はグアニンリーキー要求となっており、これらの内の一株をYMBS2(purR::spc purA::erm guaB(A1) DpupG trpC2)と名づけた。
【0075】
(2)guaB変異を導入したイノシン生産菌株のプリン系核酸生産
guaB変異(A1)導入したイノシン生産菌株(YMBS2株)およびコントロール株であるKMBS113を、PS培地プレート(Soluble starch 30 g/L、Yeast extract 5 g/L、Polypeptone 5 g/L、Agar 20 g/L、KOHでpH 7.0に調整)上にまんべんなく塗布し、34℃で一晩培養した。1/8プレート分の菌体を、500 ml容の坂口フラスコ中の発酵培地20 mlに接種し、その後、炭酸カルシウムを50 g/Lとなるように加えて、34℃で振とう培養した。培養開始後96時間目にサンプリングし、培養液中に含まれるイノシンおよびヒポキサンチン量を公知の方法で測定した。
[発酵培地組成]
グルコース 60 g/L
KH2PO4 1 g/L
NH4Cl 32 g/L
豆濃(T-N)* 1.35 g/L
DL-メチオニン 0.3 g/L
L-トリプトファン 0.02 g/L
アデニン 0.1 g/L
MgSO4 0.4 g/L
FeSO4 0.01 g/L
MnSO4 0.01 g/L
GD113 0.01 ml/L
(KOHでpH 7.0に調整)
炭酸カルシウム 50 g/L
*:蛋白加水分解物
【0076】
【表2】

【実施例3】
【0077】
<プリンオペロン増幅株の作製>
(1)<Ppur破壊株の作製>
バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、プリンオペロンプロモーター(Ppur)を破壊した菌株の作製を、以下のようにして行った。
【0078】
(i)Ppur上流域のPCR法による増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession NC_000964およびV01277)の情報に基づき、以下の塩基配列を有するそれぞれ34 mer、50 merのPCR用プライマーを作製した。
cgcggatccTTATTTAGCGGCCGGCATCAGTACG(配列番号17;小文字の塩基はBamHIサイトを含むタグ)
cgtttgttgaactaatgggtgctttATGGATAATGTCAACGATATTATCG(配列番号18;小文字の塩基はpC194上にクローニングされているクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)のプロモーター上流域の配列)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、Ppur-35配列と上流の約730 bpを含む増幅断片を得た。
【0079】
(ii)Ppur下流域のPCR法による増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession NC_000964およびV01277)の情報に基づき、以下の塩基配列を有するそれぞれ50 mer、34 merのPCR用プライマーを作製した。
acagctccagatccatatccttcttCCTCATATAATCTTGGGAATATGGC(配列番号19;小文字の塩基はpC194上にクローニングされているクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)の構造遺伝子下流域の配列)
cgcggatccTCTCTCATCCAGCTTACGGGCAAGG(配列番号20;小文字の塩基はBamHIサイトを含むタグ)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、purE遺伝子翻訳開始コドン上流の約230 bpとその下流約440 bpを含む増幅断片を得た。
【0080】
(iii)cat遺伝子のPCR法による増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession No.V01277および NC_000964)の情報に基づき、以下の塩基配列を有するそれぞれ50 merのPCR用プライマーを作製した。
cgataatatcgttgacattatccatAAAGCACCCATTAGTTCAACAAACG(配列番号21;小文字の塩基はPpur上流域の配列で配列番号18の3'末端領域と相補するようにデザインされている)
gccatattcccaagattatatgaggAAGAAGGATATGGATCTGGAGCTGT(配列番号22;小文字の塩基はpurE遺伝子翻訳開始コドン上流域の配列で配列番号19の3'末端領域と相補するようにデザインされている)
クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)が搭載されているプラスミド、例えばpC194など、のプラスミドDNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分;
72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、cat遺伝子を含む約980 bpの増幅断片を得た。
【0081】
(iv)cat遺伝子を挿入したPpur領域のリコンビナントPCR法による増幅
(i)から(iii)で増幅したDNA断片をMicroSpin Column S-400(Amersham Pharmacia Biotech)で精製後、適量を混合したものをテンプレートとし、配列番号17および20を用いて、PCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、cat遺伝子を挿入したPpur領域の増幅断片を得た。
【0082】
(v)Ppurを破壊した菌株の作製
(iv)で取得したcat遺伝子を挿入したPpur領域(Ppur::cat)のDNA断片をアガロースゲル電気泳動後、目的とする断片をゲルより抽出した。このようにして精製したDNA断片を用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製したB. subtilis標準株のコンピテントセルを形質転換し、2.5 μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。これらのコロニーから染色体DNAを調製し、(iv)に示したPCR法により、染色体上のPpur領域が、内部がクロラムフェニコール耐性遺伝子で置換されたPpur領域(Ppur::cat)と2回組換えにより置換した菌株を同定した。このようにして得られた組換え株はアデニン要求株となっており、これらの内の一株をKMBS198と名づけた。
【0083】
(2)<プリンオペロンプロモーター変異株の作製>
バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、Ppurの-10配列をコンセンサス配列TATAAT(Ppur1)、あるいはTATGAT(Ppur3)、TAAAAT(Ppur5)となるように改変した菌株の作製を、以下のようにして行った。
【0084】
(i)-10配列改変を含むPpur上流域のPCR法による増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964)の情報に基づき、以下の塩基配列を有する配列番号42に示した25 merのPCR用プライマー、3種の改変型Ppur配列を含む、38 merの改変用プライマーを作製した。
AATAGATATAAAGAGGTGAGTCTGC(配列番号42)
<Ppur1改変用>
TTTTGATTTCATGTTTattataACAACGGACATGGATA(配列番号23;小文字の塩基はPpur1配列を示す)
<Ppur3改変用>
TTTTGATTTCATGTTTatcataACAACGGACATGGATA(配列番号24;小文字の塩基はPpur3配列を示す)
<Ppur5改変用>
TTTTGATTTCATGTTTattttaACAACGGACATGGATA(配列番号25;小文字の塩基はPpur5配列を示す)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、Ppurとその上流配列(約1060 bp)を含む増幅断片を得た。
【0085】
(ii)-10配列改変を含むPpur下流域のPCR法による増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964)の情報に基づき、以下の塩基配列を有する配列番号26に示した25 merのPCR用プライマー、3種の改変型Ppur配列を含む、38 merの改変用プライマーを作製した。
GGGTAATAAGCAGCAGCTCACTTCC(配列番号26)
<Ppur1改変用>
TATCCATGTCCGTTGTtataatAAACATGAAATCAAAA(配列番号27;小文字の塩基はPpur1配列を示しており、配列番号23で示したプライマーと相補する)
<Ppur3改変用>
TATCCATGTCCGTTGTtatgatAAACATGAAATCAAAA(配列番号28;小文字の塩基はPpur3配列を示しており、配列番号24で示したプライマーと相補する)
<Ppur5改変用>
TATCCATGTCCGTTGTtaaaatAAACATGAAATCAAAA(配列番号29;小文字の塩基はPpur5配列を示しており、配列番号25で示したプライマーと相補する)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パー
キンエルマー社製))を行い、Ppur −10配列とその下流配列(約1070 bp)を含む増幅断片を得た。
【0086】
(iii)-10配列改変を含むPpur領域のPCR法による増幅
(i)および(ii)で増幅したDNA断片をMicroSpin Column S-400(Amersham Pharmacia Biotech)で精製後、適量を混合したものをテンプレートとし、配列番号42および26を用いて、PCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、-10配列がPpur1、Ppur3、あるいはPpur5と改変されたPpur領域の増幅断片を得た。
【0087】
(iv)-10配列がPpur1、Ppur3、あるいはPpur5と改変された菌株の作製
(iii)で取得した-10配列改変を含むPpur領域(Ppur1、Ppur3、あるいはPpur5)のDNA断片をアガロースゲル電気泳動後、目的とする断片をゲルより抽出した。このようにして精製したDNA断片を用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製したKMBS198株のコンピテントセルを形質転換し、最小培地寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。これらのコロニーから染色体DNAを調製し、(iii)に示したPCR法により、染色体上のPpur::cat領域が、Ppur1、Ppur3、あるいはPpur5と2回組換えにより置換した菌株を同定した。このようにして得られた組換え株はアデニン非要求株となっており、これらの内の一株をそれぞれKMBS210、KMBS211、KMBS222と名づけた。
【0088】
(3)プリンオペロンのアテニュエーター配列欠損株の作製
バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、Ppur下流に位置するアテニュエーター配列を欠損した菌株の作製を、以下のようにして行った。図1に欠損した配列を示した。
【0089】
(i)部分欠損したアテニュエーター配列とその上流域のPCR法による増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964)の情報に基づき、配列番号17に示したPCR用プライマーと、以下の塩基配列を有する配列番号30に示した52 merのプライマーを作製した。
GCTTTTGTTTTCAGAAAATAAAAAATAcgATATATCCATGTCAGTTTTATCG(配列番号30;小文字の塩基はアテニュエーター配列の部分配列(75 bp)欠損により新しくつくられたジャンクション)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 53℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、部分欠損したアテニュエーター配列とその上流配列(約840 bp)を含む増幅断片を得た。
【0090】
(ii)部分欠損したアテニュエーター配列とその下流域のPCR法による増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964)の情報に基づき、配列番号26に示したPCR用プライマーと、以下の塩基配列を有する配列番号31に示した52 merのプライマーを作製した。
CGATAAAACTGACATGGATATATcgTATTTTTTATTTTCTGAAAACAAAAGC(配列番号31;小文字の塩基はアテニュエーター配列の部分配列(75 bp)の欠損により新しくつくられたジャンクションで、このプライマーは配列番号30に示したプライマーと相補する)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 53℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、部分欠損したアテニュエーター配列とその下流配列(約850 bp)を含む増幅断片を得た。
【0091】
(iii)アテニュエーター配列部分欠損を含むPpur領域のPCR法による増幅
(i)および(ii)で増幅したDNA断片をMicroSpin Column S-400(Amersham Pharmacia Biotech)で精製後、適量を混合したものをテンプレートとし、配列番号17および26を用いて、PCR(94℃, 30秒; 53℃, 1分; 72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、アテニュエーター配列部分欠損を含むPpur領域の増幅断片を得た。
【0092】
(iv)アテニュエーター配列が部分欠損した菌株の作製
(iii)で取得したアテニュエーター配列部分欠損を含むPpur領域(Ppur−Datt)のDNA断片をアガロースゲル電気泳動後、目的とする断片をゲルより抽出した。このようにして精製したDNA断片を用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製したKMBS198株のコンピテントセルを形質転換し、最小培地寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。これらのコロニーから染色体DNAを調製し、(iii)に示したPCR法により、染色体上のPpur::cat領域が、Ppur−Dattと2回組換えにより置換した菌株を同定した。このようにして得られた組換え株はアデニン非要求株となっており、これらの内の一株をKMBS252と名づけた。
【0093】
(4)バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、Ppurの-10配列がコンセンサス配列TATAAT(Ppur1)となるように改変され、かつアテニュエーター配列を部分欠損した菌株の作製を、以下のようにして行った。
【0094】
(i)-10配列改変(Ppur1)を含むPpur上流域のPCR法による増幅
(3)で作製したアテニュエーター配列を部分欠損した菌株、例えばKMBS252の染色体DNAを鋳型とし、遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964)の情報に基づき作製した、配列番号42および配列番号23に示したプライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、Ppur1を含むPpur上流域の増幅断片(約1060 bp)を得た。
【0095】
(ii)Ppur1および部分欠損したアテニュエーター領域とその下流域のPCR法による増幅(3)で作製したアテニュエーター配列を部分欠損した菌株、例えばKMBS252の染色体DNAを鋳型とし、遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964)の情報に基づき作製した、配列番号26および配列番号27に示したプライマーを用いてPCR(94℃, 30秒;
55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、Ppur1および部分欠損したアテニュエーター配列とその下流域の増幅断片(約990 bp)を得た。
【0096】
(iii)Ppur1およびアテニュエーター配列の部分欠損を含むPpur領域のPCR法による増幅
(i)および(ii)で増幅したDNA断片をMicroSpin Column S-400(Amersham Pharmacia Biotech)で精製後、適量を混合したものをテンプレートとし、配列番号42および26を用いて、PCR(94℃, 30秒; 55℃, 2分; 72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、Ppur1およびアテニュエーター配列の部分欠損を含むPpur領域の増幅断片を得た。
【0097】
(iv)-10配列がPpur1となるように改変され、かつアテニュエーター配列を部分欠損した菌株の作製
(iii)で取得したPpur1およびアテニュエーター配列の部分欠損を含むPpur領域(Ppur1−Datt)のDNA断片をアガロースゲル電気泳動後、目的とする断片をゲルより抽出した。このようにして精製したDNA断片を用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製したKMBS198株のコンピテントセルを形質転換し、
最小培地寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。これらのコロニーから染色体DNAを調製し、(iii)に示したPCR法により、染色体上のPpur::cat領域が、Ppur1−Dattと2回組換えにより置換した菌株を同定した。このようにして得られた組換え株はアデニン非要求株となっており、これらの内の一株をKMBS261と名づけた。
【0098】
(5)プリンオペロン転写活性測定用プラスミドの構築
遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964)の情報に基づき、以下の塩基配列を有するそれぞれ29 merのPCR用プライマーを作製した。
cgcaagcttTATTTTCTGAAAACAAAAGC(配列番号32;小文字の塩基はHindIIIサイトを含むタグ)
cgcggatccTTTCTCTTCTCTCATCCAGC(配列番号33;小文字の塩基はBamHIサイトを含むタグ)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、purE構造遺伝子の一部(445 bp)、およびその上流のSD配列を含む領域(40 bp)を増幅断片を得た。
PCR増幅断片は、MinElute PCR Purification Kit(QIAGEN)によりクリーンアップし、HindIIIとBamHIで制限処理した。精製したDNA断片を、同酵素で処理したpMutin4(Vagner, V., et. al., Microbiology, 1998, 144, 3097−3104)のlacZの上流に、T4 DNAリガーゼを用いて連結させ、pKM191を得た。このpKM191 はpurE構造遺伝子の一部(445 bp)とそのSD配列を含む上流域(40 bp) を含む。
【0099】
(6)プリンオペロン転写活性測定用菌株の作製
プリンオペロン転写活性測定用菌株の構築を以下のようにして行った。
(i)Ppur破壊を導入した菌株の作製
KMBS198(Ppur::cat)の染色体DNAを調製し、これを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、purR欠損(purR::spc)をもつKMBS4株(特開2004−242610)を形質転換し、2.5 μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。このようにして得られた組換え株はpurR欠損、かつアデニン要求株となっており、これらの内の一株をKMBS278と名づけた。
【0100】
(ii)purR欠損および改変型Ppur領域を有する菌株の作製
KMBS210、KMBS211、KMBS222、KMBS252、KMBS261株の染色体DNAを調製し、これを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、KMBS278株のコンピテントセルを形質転換し、最小培地寒天プレート上で生育し、かつLB寒天プレート上でスペクチノマイシン耐性であるコロニーを取得した。これらのコロニーから染色体DNAを調製し、(1)(iv)に示したPCR法により、染色体上のPpur::catが、改変型Ppur領域と2回組換えにより置換した菌株を同定した。これらの内の一株をそれぞれKMBS283、KMBS284、KMBS285、KMBS286、KMBS287と名づけた。
【0101】
(iii)pKM191を導入した菌株の作製
プリンオペロン転写活性測定用プラスミドpKM191を用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、B. subtilis 168 Marburg株、KMBS4、KMBS283、KMBS284、KMBS285、KMBS286、KMBS287のコンピテントセルを形質転換し、2.5 μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。このようにして得られたコロニーは、pKM191のlacZ遺伝子を含むpurE遺伝子が野生型purE遺伝子と置換した1回組換え株であり、PpurによってlacZが発現され、80 μg/mlのX-Galを含むLB寒天プレート上でブルーコロニーとなる。これらの内の一株をそれぞれKMBS292、KMBS295、KMBS296、KMBS297、KMBS298、KMBS299、KMBS300と名づけた。
【0102】
(7)プリンオペロン転写活性測定
(6)(iii)で作製した菌株を用いて、lacZによるPpur転写活性測定を実施した。すなわち、コントロール株は、168 Marburg株のバックグランドをもつKMBS292、あるいはプリンオペロンリプレッサーPurR遺伝子欠損のバックグランドをもつKMBS295である。他の株はpurR欠損のバックグランドで、-10配列を改変した菌株(KMBS296、KMBS297、KMBS298)、アテニュエーター配列が部分欠損した菌株(KMBS299)、-10配列のコンセンサス配列化(Ppur1)とアテニュエーター配列の部分欠損が同時に導入された菌株(KMBS300)である。
これらの6株をグアニン(20 mg/L)を含むLB培地(20 ml)中、37℃で対数増殖後期(OD600=1.1-1.4)まで培養し、適量の培養液をサンプリングし、b-galacosidase活性測定を実施した。b-galacotosidase活性測定は、Fouet 等(Fouet, A. and Sonenshein, A. L. J. Bacteriol., 1990, 172, 835−844)の方法にしたがった。結果を図2に示した。168M株と比較し、DpurR株では活性が約4.5倍に増加した。さらに、-10配列をPpur1となるように改変することで、約3倍に増加した。また、アテニュエーター配列の部分欠損により、活性は約15倍となり、双方の変異を有する株では、26.5倍まで活性が増加した。
【実施例4】
【0103】
<改変型Ppur領域導入株の構築と評価>
(1)バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、プリンオペロンリプレッサー遺伝子(purR)、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ遺伝子(pupG)を欠損し、IMP脱水素酵素遺伝子(guaB)にグアニンリーキー要求変異guaB(A1)を導入した組換え体YMBS2を用いて、プリンオペロンプロモーターを改変かつアテニュエーター配列を部分欠損した菌株の作製を、以下のようにして行った。
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを調製し、これを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、KMBS113株(purR::spc purA::erm DpupG trpC2)のコンピテントセルを形質転換し、最小培地寒天プレート上で生育し(すなわちアデニン非要求)、かつLB寒天プレート上でスペクチノマイシン耐性であるコロニーを取得した。これらのコロニーから染色体DNAを調製し、実施例1(1)(iv)に示したPCR法により、DpupGである菌株を同定した。これらの内の一株をKMBS180(purR::spc DpupG trpC2)と名づけた。
次に、KMBS198株の染色体DNAを調製し、これを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、KMBS180株のコンピテントセルを形質転換し、2.5 μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。これらのコロニーから染色体DNAを調製し、実施例3(1)(iv)に示したPCR法により、染色体上のPpur領域が、Ppur::catと2回組換えにより置換した菌株を同定した。このような菌株はアデニン要求となっており、これらの内の一株をKMBS216(Ppur::cat purR::spc DpupG trpC2)と名づけた。
次に、KMBS252(Ppur-Datt)の染色体DNAを調製し、これを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、KMBS216株のコンピテントセルを形質転換し、最小培地寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。これらのコロニーから染色体DNAを調製し、実施例3(1)(iv)に示したPCR法により、染色体上のPpur::catが、Ppur-Datt領域と2回組換えにより置換した菌株を同定した。このような菌株はアデニン非要求となっており、これらの内の一株をKMBS264(Ppur-Datt purR::spc DpupG trpC2)と名づけた。Ppur1-Dattが導入された菌株KMBS261についても、同様な手順に従って取得した。
次に、KMBS9(purA::erm trpC2; 特開2004−242610号)の染色体DNAを調製し、これを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-2
21)により調製した、KMBS264株あるいはKMBS261株のコンピテントセルを形質転換し、0.5 μg/mlのエリスロマイシンを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。このような菌株はアデニン非要求となっており、これらの内の一株をKMBS265(Ppur-Datt purR::spc purA::erm DpupG trpC2)とKMBS267(Ppur1-Datt purR::spc purA::erm DpupG trpC2)と名づけた。
次に、KMBS193(guaB::kan)の染色体DNAを調製し、これを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、KMBS265株あるいはKMBS267株のコンピテントセルを形質転換し、2.5 μg/mlのカナマイシンと20 μg/mlのグアニンを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。このような菌株はグアニン要求となっており、これらの内の一株をKMBS270(Ppur-Datt purR::spc purA::erm guaB::kan DpupG trpC2)とKMBS271(Ppur1-Datt purR::spc purA::erm guaB::kan DpupG trpC2)と名づけた。
最後に、YMBS2 (guaB(A1))の染色体DNAを調製し、これを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、KMBS270株あるいはKMBS271株のコンピテントセルを形質転換し、20 μg/mlのアデニンを含む最小培地寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。このような菌株はグアニンリーキー要求となっており、これらの内の一株をKMBS279(Ppur-Datt purR::spc purA::erm guaB(A1) DpupG trpC2)とKMBS280(Ppur1-Datt purR::spc purA::erm guaB(A1) DpupG trpC2)と名づけた。
【0104】
(2)改変型Ppur領域を有する菌株のプリンヌクレオシド生産の確認
改変型Ppur領域を有する菌株(KMBS279株とKMBS280)およびコントロール株であるYMBS2を、PS培地プレート(Soluble starch 30 g/L、Yeast extract 5 g/L、Polypeptone 5 g/L、Agar 20 g/L、KOHでpH 7.0に調整)上にまんべんなく塗布し、34℃で一晩培養した。1/8プレート分の菌体を、500 ml容の坂口フラスコ中の発酵培地20 mlに接種し、その後、炭酸カルシウムを50 g/Lとなるように加えて、34℃で振とう培養した。培養開始後96時間目にサンプリングし、培養液中に含まれるイノシンおよびヒポキサンチン量を公知の方法で測定した。
[発酵培地組成]
グルコース 60 g/L
KH2PO4 1 g/L
NH4Cl 32 g/L
豆濃(T-N)* 1.35 g/L
DL-メチオニン 0.3 g/L
L-トリプトファン 0.02 g/L
アデニン 0.1 g/L
グアニン 0.05 g/L
MgSO4 0.4 g/L
FeSO4 0.01 g/L
MnSO4 0.01 g/L
GD113 0.01 ml/L
(KOHでpH 7.0に調整)
炭酸カルシウム 50 g/L
*:蛋白加水分解物
【0105】
【表3】

【実施例5】
【0106】
<PRPP synthetase 活性増強株の作製>
(1)バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、プリンオペロンリプレッサー遺伝子(purR)、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ遺伝子(pupG)を欠損し、かつIMP脱水素酵素遺伝子(guaB)にguaB変異(A1)が導入され、かつプリンオペロンプロモーター領域を改変した組換え体KMBS280を用いて、PRPP synthetase遺伝子(prs)のSD配列を改変した菌株の作製を、以下のようにして行った。
【0107】
(i)SD配列改変を含むSD配列上流域のPCR法による増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964)の情報に基づき、以下の塩基配列を有する配列番号34に示した34 merのPCR用プライマー、3種の改変型Ppur配列を含む、46 merの改変用プライマーを作製した。
【化1】

B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1.5分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、prs開始コドン上流配列(約1040 bp)と下流配列(10 bp)を含む増幅断片を得た。
【0108】
(ii)SD配列改変を含むSD配列下流域のPCR法による増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964)の情報に基づき、以下の塩基配列を有する配列番号38に示した34 merのPCR用プライマー、3種の改変型SD配列を含む、46 merの改変用プライマーを作製した。
【化2】

B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1.5分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、prs開始コドン上流配列(36 bp)と下流配列(約960 bp)を含む増幅断片を得た。
【0109】
(iii)改変型SD配列を含む領域のPCR法による増幅
(i)および(ii)で増幅したDNA断片をMicroSpin Column S-400(Amersham Pharmacia Biotech)で精製後、適量を混合したものをテンプレートとし、配列番号34および38を用いて、PCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 2.5分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、SD配列が改変SD配列1、2、あるいは3(SD1, SD2, SD3)と改変されたDNAの増幅断片を得た。
【0110】
(iv)改変型SD配列を含む領域のクローニング
改変型SD配列(SD1、SD2、SD3)を含む領域のDNA断片をクリーンアップし、BamHIで処理したDNA断片を、同酵素で処理し、Calf intestinal phosphataseにより脱リン酸化した染色体組換え用ベクターpJPM1(Mueller et. al., J. Bacteriol., 1992, 174, 4361-4373)とT4 DNAリガーゼを用いて連結させ、pKM196(SD1)、pKM197(SD2)、pKM198(SD3)を得た。
【0111】
(v)改変型SD配列を導入したイノシン生産菌株の作製
得られたプラスミドpKM196(SD1)、pKM197(SD2)、あるいはpKM198(SD3)を用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製したKMBS280株のコンピテントセルを形質転換し、2.5 μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した(1回組換え株)。
得られた1回組換え株をLB培地10 mlに植菌し、37℃で継第培養を数日間実施し、LB寒天培地上でクロラムフェニコール感受性となったコロニーをスクリーニングした。得られたクロラムフェニコール感受性コロニーから染色体DNAを調製し、配列番号34と38のプライマーを用いて上記と同様にしてPCRを行い、DNAシークエンスを解析することで、染色体上のprs遺伝子のSD配列が、改変型SD配列と2回組換えにより置換した菌株を同定した。このようにして得られた2回組換え株の内の一株を、KMBS310(SD1)、KMBS318(SD2)、KMBS322(SD3)と名づけた。
【0112】
(2)改変型SD配列を導入したイノシン生産菌株のプリンヌクレオシド生産
改変型SD配列SD1、SD2あるいはSD3を導入したイノシン生産菌株(KMBS310株、KMBS318株とKMBS322株)およびコントロール株であるKMBS280を、PS培地プレート(Soluble starch 30 g/L、Yeast extract 5 g/L、Polypeptone 5 g/L、Agar 20 g/L、KOHでpH 7.0に調
整)上にまんべんなく塗布し、34℃で一晩培養した。1/8プレート分の菌体を、500 ml容の坂口フラスコ中の発酵培地20 mlに接種し、その後、炭酸カルシウムを50 g/Lとなるように加えて、34℃で振とう培養した。培養開始後120時間目にサンプリングし、培養液中に含まれるイノシンおよびヒポキサンチン量を公知の方法で測定した。
[発酵培地組成]
グルコース 60 g/L
KH2PO4 1 g/L
NH4Cl 32 g/L
豆濃(T-N)* 1.35 g/L
DL-メチオニン 0.3 g/L
L-トリプトファン 0.02 g/L
アデニン 0.1 g/L
グアノシン 0.075 g/L
MgSO4 0.4 g/L
FeSO4 0.01 g/L
MnSO4 0.01 g/L
GD113 0.01 ml/L
(KOHでpH 7.0に調整)
炭酸カルシウム 50 g/L
*:蛋白加水分解物
【0113】
【表4】

【実施例6】
【0114】
酸化的ペントース−リン酸経路の酵素活性を上昇させた菌株の構築
(1)グルコース−6−リン酸−デヒドロゲナーゼ活性増幅株の構築
バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、プリンオペロンリプレッサー遺伝子(purR)、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ遺伝子(pupGとdeoD)を欠損し、かつIMP脱水素酵素遺伝子(guaB)にguaB変異(A1)が導入され、かつプリンオペロンプロモーター領域およびPRPP synthetase遺伝子(prs)のSD配列を改変した組換え体を用いて、酸化的ペントース−リン酸経路のグルコース−6−リン酸−デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子zwfを搭載したプラスミドを導入した菌株の作製を、以下のようにして行った。
【0115】
(i)zwf構造遺伝子およびその上流域のPCRによる増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964 CAB14317. glucose-6-phospha...[gi:2634820])の情報に基づき、以下の塩基配列を有する、それぞれ29 merのPCR用
プライマーを作製した。
cgcggatccGCCTCTGAAAAGAACAATCC(配列番号43;小文字の塩基はBamHIサイトを含むタグ)
cgcggatccAAGCTCTTAAGCTTTGGGGG(配列番号44;小文字の塩基はBamHIサイトを含むタグ)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 2分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、zwf構造遺伝子およびその上流域(約160 bp)を含む増幅断片を得た。
【0116】
(ii)zwf構造遺伝子およびその上流域のクローニング
zwf構造遺伝子およびその上流域のDNA断片をクリーンアップし、BamHIで処理したDNA断片を、同酵素で処理し、Calf intestinal phosphataseにより脱リン酸化したE. coli−BacillusのシャトルベクターpHY300PLK(ヤクルト社製)とT4 DNAリガーゼを用いて連結させ、zwf遺伝子増幅用プラスミドを取得した。
【0117】
(iii)zwf遺伝子増幅用プラスミドを導入したイノシン生産菌株の作製
得られたプラスミド、あるいはコントロールのpHY300PLKベクターを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、KMBS321株のコンピテントセルを形質転換し、12.5 μg/mlのテトラサイクリンを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。zwfを搭載したプラスミドが導入された株の内の1つをTABS125、pHY300PLKが導入された株のうち1つをTABS100と名づけた。
なお、KMBS321株は以下のようにして作製された株である。
KMBS16(purR::spc purA::erm deoD::kan;US2004-0166575A)より、FouetとSonensheinの方法(J. Bacteriol., 1990, 172, 835-844)により調製したゲノムDNAを用いて、B. subtilis 168 Marburg株のコンピテントセルを形質転換し、5μg/mlのカナマイシンを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。このようにして得られたいくつかのコロニーの中でスペクチノマイシン耐性又はエリスロマイシン耐性となっていないコロニーを選択し、それらの内の一株を、KMBS5(deoD::kan)と名づけた。
KMBS5(deoD::kan)より、FouetとSonensheinの方法(J. Bacteriol., 1990, 172, 835-844)により調製したゲノムDNAを用いて、上記KMBS310株のコンピテントセルを形質転換し、5μg/mlのカナマイシンと20μg/mlのグアニンを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。このようにして得られたいくつかのコロニーを選択し、野生型deoD遺伝子がdeoD::kanで置換されており、かつKMBS310由来のすべての変異が野生型配列と置換されていないことが確認できた形質転換体の内の一株を、KMBS321と名づけた。

グルコース−6−リン酸−デヒドロゲナーゼが上昇したことの確認は、以下のような方法で行った。
【0118】
glucose-6-phosphate 1-dehydrogenase (zwf遺伝子産物)活性測定法
反応溶液
50 mM Tris-HCl (pH7.6)
10 mM MgSO4・7H2O
0.3 mM NADP
4 mM Glucose 6-phosphate
酵素溶液

上記の反応溶液(1 ml)を調製し、37℃で反応を開始した。生成するNADPHの濃度変化を340 nmの吸収を測定した。
【0119】
(iv)zwfを搭載したプラスミドを導入したイノシン生産菌株のプリン系核酸生産
TABS100またはTABS125を、12.5 μg/mlのテトラサイクリンを含むPS培地プレート(Soluble starch 30 g/L、Yeast extract 5 g/L、Polypeptone 5 g/L、Agar 20 g/L、KOHでpH
7.0に調整)上にまんべんなく塗布し、34℃で一晩培養した。1/8プレート分の菌体を、500 ml容の坂口フラスコ中の発酵培地20 mlに接種し、その後、炭酸カルシウムを50 g/Lとなるように加えて、34℃で振とう培養する。培養開始後120時間目にサンプリングし、培養液中に含まれるイノシンおよびヒポキサンチン量を公知の方法で測定した(表5)。このような方法でプリンヌクレオシド生産能の向上した菌株を取得することが出来た。
[発酵培地組成例]
グルコース 60 g/L
KH2PO4 1 g/L
NH4Cl 32 g/L
豆濃(T-N)* 1.35 g/L
Yeast Extract 1 g/L
DL-メチオニン 0.3 g/L
L-トリプトファン 0.02 g/L
アデニン 0.1 g/L
グアノシン 0.075 g/L
MgSO4 0.4 g/L
FeSO4 0.01 g/L
MnSO4 0.01 g/L
GD113 0.01 ml/L
(KOHでpH 7.0に調整)
炭酸カルシウム 50 g/L
*:蛋白加水分解物
【0120】
【表5】

【0121】
(2)リボース−5−リン酸イソメラーゼ活性増強株の構築
バチルス・ズブチリス(B. subtilis 168 Marburg株; ATCC6051)由来で、プリンオペロンリプレッサー遺伝子(purR)、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ遺伝子(pupGとdeoD)を欠損し、かつIMP脱水素酵素遺伝子(guaB)にguaB変異(A1)が導入され、かつプリンオペロンプロモーター領域およびPRPP synthetase遺伝子(prs)のSD配列を改変した組換え体を用いて、酸化的ペントース−リン酸経路遺伝子ywlFを搭載したプラスミドを導入した菌株の作製を、以下のようにして行った。
【0122】
(i)ywlF構造遺伝子およびその上流域のPCRによる増幅
遺伝子データバンク(GenBank Accession No. NC_000964 CAB15709. [gi:2636217])の情報に基づき、以下の塩基配列を有する、それぞれ34 merのPCR用プライマーを作製した。
cgcgaattcGTAGATAAGTTGTCAGAAAATCTGC(配列番号45;小文字の塩基はEcoRIサイトを含むタグ)
cgcgaattcTGTTTCAACTCATTCATTAAACAGC(配列番号46;小文字の塩基はEcoRIサイトを含むタグ)
B. subtilis 168 Marburg株の染色体DNAを鋳型とし、上記プライマーを用いてPCR(94℃, 30秒; 55℃, 1分; 72℃, 1分; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model 9600(パーキンエルマー社製))を行い、ywlF構造遺伝子およびその上流域(約160 bp)を含む増幅断片を得た。
【0123】
(ii)ywlF構造遺伝子およびその上流域のクローニング
ywlF構造遺伝子およびその上流域のDNA断片をクリーンアップし、EcoRIで処理したDNA断片を、同酵素で処理し、Calf intestinal phosphataseにより脱リン酸化したE. coli−BacillusのシャトルベクターpHY300PLK(ヤクルト社製)とT4 DNAリガーゼを用いて連結させ、ywlF遺伝子増幅用プラスミドを取得した。
【0124】
(iii)ywlF遺伝子増幅用プラスミドを導入したイノシン生産菌株の作製
得られたプラスミド、あるいはコントロールのpHY300PLKベクターを用いて、DubnauとDavidoff-Abelsonの方法(J. Mol. Biol., 1971, 56, 209-221)により調製した、上記KMBS321株のコンピテントセルを形質転換し、12.5 μg/mlのテトラサイクリンを含むLB寒天プレート上で生育するコロニーを取得した。ywlFを搭載したプラスミドが導入された株の内の1つをTABS102と名づけた。
リボース−5−リン酸イソメラーゼ活性が上昇したことの確認は、以下のような方法で行った。
【0125】
Ribose 5-phosphate isomerase (ywlF遺伝子産物)活性測定法
反応溶液
50 mM HEPES (pH7.5)
0.1 M NaCl
10 mM Ribose 5-phosphate
酵素溶液

上記の反応溶液(1 ml)を調製し、37℃で反応を開始した。生成するRibulose 5-phosphate の濃度変化を290 nmの吸収を測定した。
【0126】
(iv)ywlFを搭載したプラスミドを導入したイノシン生産菌株のプリン系核酸生産
TABS100またはTABS102を、12.5 μg/mlのテトラサイクリンを含むPS培地プレート(Soluble starch 30 g/L、Yeast extract 5 g/L、Polypeptone 5 g/L、Agar 20 g/L、KOHでpH
7.0に調整)上にまんべんなく塗布し、34℃で一晩培養した。1/8プレート分の菌体を、500 ml容の坂口フラスコ中の発酵培地20 mlに接種し、その後、炭酸カルシウムを50 g/Lとなるように加えて、34℃で振とう培養した。培養開始後120時間目にサンプリングし、培養液中に含まれるイノシンおよびヒポキサンチン量を公知の方法で測定した(表6)。リボース−5−リン酸イソメラーゼ活性増強株は、非改変株と比べ、イノシン生産能が向上した。
[発酵培地組成例]
グルコース 60 g/L
KH2PO4 1 g/L
NH4Cl 32 g/L
豆濃(T-N)* 1.35 g/L
Yeast Extract 1 g/L
DL-メチオニン 0.3 g/L
L-トリプトファン 0.02 g/L
アデニン 0.1 g/L
グアノシン 0.075 g/L
MgSO4 0.4 g/L
FeSO4 0.01 g/L
MnSO4 0.01 g/L
GD113 0.01 ml/L
(KOHでpH 7.0に調整)
炭酸カルシウム 50 g/L
*:蛋白加水分解物
【0127】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明のバチルス属細菌を用いることにより、プリンヌクレオシド及び/又はプリンヌクレオチドの生産効率を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】プリンオペロンの上流領域の構造を示す図。ボックスで囲んだ配列はプリンオペロンプロモーター、上実線で示した配列はantiterminator dyad(アンチターミネーター対)、下破線で示した配列はterminator dyad(ターミネーター対)である。欠損させた配列(75 bp)を大文字で示している。
【図2】各改変型プリンオペロンプロモーターの転写活性を示す図。WT は KMBS296株の活性を示し, ΔRpurRはKMBS295株の活性を示し, ΔR+Ppur1 はKMBS296株の活性を示し, ΔR+Ppur3 はKMBS297株の活性を示し, ΔR+Ppur5 は KMBS298株の活性を示し, ΔR+Ppur-ΔattはKMBS299株の活性を示し,ΔR+Ppur1-Δatt はKMBS300株の活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリン系物質生産能を有し、酸化的ペントースリン酸経路の酵素の活性が上昇するように改変されたことを特徴とするバチルス属細菌。
【請求項2】
前記プリン系物質がイノシン、キサントシン、グアノシン、アデノシンからなる群より選択されるプリンヌクレオシドである請求項1に記載のバチルス属細菌。
【請求項3】
前記プリン系物質がイノシン酸、キサンチル酸、グアニル酸、アデニル酸からなる群より選択されるプリンヌクレオチドである請求項1に記載のバチルス属細菌。
【請求項4】
前記酸化的ペントースリン酸経路の酵素が、グルコース−6−リン酸−脱水素酵素、又はリボース5−リン酸イソメラーゼである請求項1〜3のいずれか一項に記載のバチルス属細菌。
【請求項5】
前記酵素をコードする遺伝子のコピー数を高めること、又は該遺伝子の発現調節配列を改変することにより酸化的ペントースリン酸経路の酵素活性が増強した請求項1〜4のいずれか一項に記載のバチルス属細菌。
【請求項6】
前記酵素がグルコース−6−リン酸−脱水素酵素であり、該グルコース−6−リン酸−脱水素酵素をコードする遺伝子が下記(A)又は(B)に示すタンパク質をコードする遺伝子である請求項5に記載のバチルス属細菌。
(A)配列番号48に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号48に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、グルコース−6−リン酸−脱水素酵素活性を有するタンパク質。
【請求項7】
前記酵素がリボース5−リン酸イソメラーゼであり、該リボース5−リン酸イソメラーゼをコードする遺伝子が下記(E)又は(F)に示すタンパク質をコードする遺伝子である請求項5に記載のバチルス属細菌
(E)配列番号50に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質
(F)配列番号50に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、リボース5−リン酸イソメラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項8】
前記数個が1〜20個である、請求項6または7に記載のバチルス属細菌。
【請求項9】
前記酵素がグルコース−6−リン酸−脱水素酵素であり、該グルコース−6−リン酸−脱水素酵素をコードする遺伝子が下記(a)又は(b)に示すDNAである請求項5に記載のバチルス属細菌。
(a)配列番号47に記載の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号47に記載の塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつ、グルコース−6−リン酸−脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項10】
前記酵素がリボース5−リン酸イソメラーゼであり、該リボース5−リン酸イソメラーゼをコードする遺伝子が下記(e)又は(f)に示すDNAである請求項5に記載のバチルス属細菌。
(e)配列番号49に記載の塩基配列を含むDNA。
(f)配列番号49に記載の塩基配列の相補配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつ、リボース5−リン酸イソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項11】
さらにホスホリボシルピロリン酸シンセターゼ活性が上昇するように改変されたことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のバチルス属細菌。
【請求項12】
さらに、プリンオペロンの発現量が上昇するように改変されたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のバチルス属細菌。
【請求項13】
プリンオペロンのリプレッサーをコードする遺伝子であるpurR遺伝子が破壊されたこと、あるいは、プリンオペロンのアテニュエーター領域の一部が除去されたことによりプリンオペロンの発現量が上昇したことを特徴とする請求項12に記載のバチルス属細菌。
【請求項14】
さらに、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ活性が低下するように改変されたことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載のバチルス属細菌
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載のバチルス属細菌を培地に培養して、プリン系物質を蓄積せしめ、プリン系物質を回収することを特徴とするプリン系物質の製造法。
【請求項16】
プリン系物質がプリンヌクレオシド又はプリンヌクレオチドである、請求項15に記載の製造法。
【請求項17】
上記プリン系物質がイノシン、キサントシン、グアノシン、アデノシンからなる群より選択されるプリンヌクレオシドである請求項16に記載の製造法。
【請求項18】
上記プリン系物質がイノシン酸、キサンチル酸、グアニル酸、アデニル酸からなる群より選択されるプリンヌクレオチドである請求項16に記載の製造法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法によりプリンヌクレオシドを製造し、該プリンヌクレオシドに、ポリ燐酸、フェニル燐酸、カルバミル燐酸からなる群より選択された燐酸供与体と、ヌクレオシド−5’−燐酸エステルを生成する能力を有する微生物または酸性フォスファターゼを作用させて、プリンヌクレオチドを生成せしめ、該プリンヌクレオチドを採取することを特徴とするプリンヌクレオチドの製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−117078(P2007−117078A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65847(P2006−65847)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】