説明

プルラン誘導体とその用途

【課題】 優れた乳化作用及び保護コロイド能を発揮し、乳化用剤又はコロイド安定化剤として食品、化粧品、医薬品又は工業製品の材料として有用な新規プルラン誘導体とその用途を提供することを課題とする。
【解決方法】 分子内にカチオン性基とアニオン性基のそれぞれを有し、且つ、それぞれの基が水系溶媒中でカチオン及びアニオンに荷電することを特徴とするプルラン誘導体、並びに当該プルラン誘導体の乳化用剤又はコロイド安定化剤としての用途を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プルラン誘導体、詳細には、分子内にカチオン性基及びアニオン性基をそれぞれ有し、且つ、それぞれの基が水系溶媒中でカチオン及びアニオンに荷電することを特徴とするプルラン誘導体とその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プルランは、一般式2で示されるように、グルコースの3量体であるマルトトリオースがα−1,6結合で連なった構造を有する水溶性多糖であり、黒色酵母の一種、オーレオバシディウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)によってスクロースや澱粉加水分解物などから生成される細胞外多糖である。プルランは、その理化学的特性から、食品の増粘剤、結着剤、組織改良剤、水溶性フィルム原料などとして利用されており、また、近年、狂牛病や口締疫などの懸念から使用が敬遠されるゼラチンの代替品としても注目されている。
【0003】
一般式2:
【化2】

(式中、nは整数を表す。)
【0004】
一方、プルランを化学的に修飾することにより改質したプルラン誘導体を利用しようとする試みも種々為されており、特許文献1乃至6などには、ジアルデヒドプルラン、アミノアルキル化プルラン、カルボキシル化プルラン、耐水性プルラン、架橋プルラン、プルランの硫酸エステル誘導体などが開示されている。しかしながら、食品、化粧品、医薬品又は工業製品用途において、優れた乳化用剤又はコロイド安定化剤として利用できるプルラン誘導体はこれまでなかった。
【0005】
【特許文献1】特開昭51−90379号公報
【特許文献2】特開昭53−58589号公報
【特許文献3】特開昭51−149388号公報
【特許文献4】特開昭51−150590号公報
【特許文献5】特開昭51−149883号公報
【特許文献6】特開昭51−52484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた乳化作用及び保護コロイド能を発揮し、乳化用剤又はコロイド安定化剤として食品、化粧品、医薬品又は工業製品の材料として有用な新規プルラン誘導体とその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者等は、新規プルラン誘導体の確立を目指して鋭意検討したところ、分子内にカチオン性基とアニオン性基のそれぞれを有し、且つ、それぞれの基が水系溶媒中でカチオン及びアニオンに荷電することを特徴とするプルラン誘導体が、乳化用剤又はコロイド安定化剤として食品、化粧品、医薬品又は工業製品用途に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、分子内にカチオン性基とアニオン性基のそれぞれを有し、且つ、それぞれの基が水系溶媒中でカチオン及びアニオンに荷電することを特徴とするプルラン誘導体、並びに当該プルラン誘導体の乳化用剤又はコロイド安定化剤としての用途を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、本来、電荷を有さない水溶性高分子であるプルランに、溶媒中でカチオンとして機能する置換基(カチオン性基)とアニオンとして機能する置換基(アニオン性基)の双方が導入されたプルラン誘導体を提供することが可能となり、また、当該プルラン誘導体が有する保護コロイド能により、均一な乳剤を調製し利用することが可能となった。また、本発明のプルラン誘導体は、基材に塗布して塗膜を形成させることも可能であり、プルランの工業的用途を格段に広げることができる。本発明のプルラン誘導体は乳化用剤又はコロイド安定化剤として、とりわけ、pHによっては凝集沈殿する特性を有することから、写真感光乳剤におけるゼラチン代替品として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、可食性の水溶性多糖であるプルランを原料として、化学反応により合成される、水系溶媒中でカチオンとして機能する置換基とアニオンとして機能する置換基の双方を有する(以下、本明細書では単に「両電荷性」と略称する)プルラン誘導体に関するものである。
【0011】
本発明の両電荷性プルラン誘導体の原料として用いられるプルランの重量平均分子量は、通常、5,000ダルトン以上、好ましくは、10,000乃至1,000,000ダルトン、より好ましくは50,000乃至500,000ダルトンの範囲から選ばれる。原料であるプルランとしては、通常、入手し易さ及び品質の点で有利であることから、市販のプルランが有利に用いられ、例えば、株式会社林原商事販売のプルラン(商品名『プルランPI−20』、数平均分子量 約200,000ダルトン)が好適に使用できる。また、用途にもよるけれども、特公平2−48561号公報に開示された方法により調製された、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が1.5以下の試薬級プルラン(商品名『P−400』など、重量平均分子量 380,000ダルトン(Mw/Mn 1.12)、昭和電工株式会社販売)を原料とすることもできる。また、本発明の両電荷性プルラン誘導体の原料として、予め化学合成された、カチオン性基を有するプルラン誘導体を用いることも有利に実施できる。
【0012】
本発明の両電荷性プルラン誘導体におけるカチオン性基としては、水系溶媒中でカチオンとして機能する限り、特に限定されず、第4級アンモニウム基であっても、第4級化可能なアミノ基であってもよい。とりわけ、一般式1で表される基が好ましく用いられる。
【0013】
一般式1:
【化3】

(式中、Rはアルキレン基を表し、そのアルキレン基は置換基を有していてもよい。R及びRはそれぞれ水素原子か、あるいは、互いに同じか異なる炭化水素基であって、その炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
【0014】
一般式1における、アルキレン基又は炭素水素基の炭素数としては、通常、1乃至10、好ましくは、1乃至5の範囲が好適である。具体的なカチオン性基として、ジメチルアミノエチル基、ジエチルアミノエチル基、ジメチルアミノイソプロピル基、ジフェニルアミノエチル基などを挙げることができる。
【0015】
本発明の両電荷性プルラン誘導体におけるアニオン性基としては、水系溶媒中でアニオンとして機能する限り特に限定されないものの、カルボキシル基を有する置換基が好ましく用いられる。とりわけ、しゅう酸エステル、マロン酸エステル、コハク酸エステル、グルタル酸エステル、アジピン酸エステル、ピメリン酸エステル、スベリン酸エステル、アゼライン酸エステル、セバシン酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、フタル酸エステル、オクテニルコハク酸エステルなど、ジカルボン酸の片エステル基が好ましく用いられる。
【0016】
本発明でいう両電荷性プルラン誘導体におけるカチオン性基の置換度とは、プルランを構成するグルコース1残基当たりにおける置換されたカチオン性基の数を意味し、置換度は公知のコロイド滴定法により測定することができる。本発明の両電荷性プルラン誘導体におけるカチオン性基の置換度は、通常、0.01乃至1、好ましくは0.05乃至0.8、さらに好ましくは0.1乃至0.6の範囲となるように調整するのが好適である。置換度が0.01未満になると溶媒中におけるカチオン性基としての効果が得られず、置換度が1を超えると置換度の高い誘導体を得るための過度の反応が必要となり、反応効率も低化する。
【0017】
本発明でいう両電荷性プルラン誘導体におけるアニオン性基の置換度とは、プルランを構成するグルコース1残基当たりにおける置換されたアニオン性基の数を意味し、置換度はカチオン性基の場合と同様に、公知のコロイド滴定法により測定することができる。本発明の両電荷性プルラン誘導体におけるアニオン性基の置換度は、通常、0.01乃至1、好ましくは0.05乃至0.8、さらに好ましくは0.1乃至0.6の範囲となるように調整するのが好適である。置換度が0.01未満になると溶媒中におけるアニオン性基としての効果が得られず、置換度が1を超えると上記カチオン性基の場合と同様に、置換度の高い誘導体を得るための過度の反応が必要となり、反応効率も低化する。
【0018】
本発明の両電荷性プルラン誘導体におけるカチオン性基とアニオン性基の置換度の比率は、カチオン性基及びアニオン性基の置換度がそれぞれ0.01乃至1である範囲内において、1:10乃至10:1の範囲が好ましい。当該比率がこの範囲を超えてカチオン性基又はアニオン性基のいずれか一方に偏ると、本発明の両電荷性プルラン誘導体の、水系溶媒中で両電荷性を示すという特徴が発揮され難くなる。
【0019】
本発明の両電荷性プルラン誘導体は、有機化学反応により製造することができる。カチオン性基としてアミノアルキル基を導入するには、一般式3で示されるハロゲン化アミノアルキル若しくは一般式4で示されるエポキシアミノアルキルを強アルカリ存下でプルランと反応させればよい。
【0020】
一般式3:
【化4】

(式中、Xはハロゲン原子であり、Rはアルキレン基を表し、そのアルキレン基は置換基を有していてもよい。R及びRはそれぞれ水素原子か、あるいは、互いに同じか異なる炭化水素基であって、その炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
【0021】
一般式4:
【化5】

(式中、R及びRは水素原子か、あるいは、互いに同じか異なる炭化水素基であって、その炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
【0022】
アニオン性基としてカルボキシル基を有する置換基を導入する方法として、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、過マンガン酸カリなどの公知の酸化剤を用いてプルランを酸化し、グルコース残基の6位をカルボキシル基に変換する方法もあるものの、本発明の両電荷性プルラン誘導体の合成においては、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、無水マレイン酸などの無水ジカルボン酸を反応させ、ジカルボン酸の片エステル基を導入する方法が好ましく用いられる。
【0023】
本発明の両電荷性プルラン誘導体の製造方法につき、一例として、カチオン性基としてジエチルアミノエチル(DEAE)基を、また、アニオン性基としてコハク酸エステル基を有するプルラン誘導体の製造方法を模式的に示すならば、図1のごとくである。まず、プルランをアルカリ条件下で、ジエチルアミノエチルクロライド又はその塩と反応させ、カチオン性基としてDEAE基が導入されたDEAE化プルラン誘導体を合成する。次いで、得られたDEAE化プルラン誘導体と無水コハク酸を4−ジメチルアミノピリジン(4−DMAP)存在下、ジメチルスルホキシド(DMSO)中で反応させればよい。この方法により、アニオン性基としてコハク酸エステル基がさらに導入された、ジエチルアミノエチル化プルランコハク酸エステル誘導体、すなわち両電荷性プルラン誘導体を得ることができる。
【0024】
かくして得られる本発明の両電荷性プルラン誘導体は、水溶性に優れ、増粘、保水、懸濁、分散などプルランが有する機能に加えて、保護コロイド能を有することから、乳化用剤又はコロイド安定化剤として、食品、化粧品、医薬品又は工業製品分野で有用である。
【0025】
本発明の両電荷性プルラン誘導体は、置換基の種類にもよるが、一般の飲食物など、例えば、マヨネーズ、ドレッシング、ソース、ケチャップ、カレールウ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、アイスクリーム、シャーベット、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、ジャム、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料、治療食、ドリンク剤、ペプチド食品、冷凍食品などに配合可能な乳化用剤として有利に利用できる。
【0026】
本発明の両電荷性プルラン誘導体は、生理学的に許容される媒体、例えば、水、又は水とエタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノールなどのC〜Cアルコール、;グリセロールなどのポリオール;ブチレングリコール、イソプロピレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール、及びポリオールエーテル類などとともに、さらには、アニオン性、カチオン性、両性、双極イオン性又は非イオン性の固定又は非固定ポリマー、界面活性剤、光沢剤、乳白剤、有機溶媒、香料、増粘剤、ゲル化剤、鉱物・植物・動物由来又は合成した油、脂肪酸エステル、染料、揮発性又は非揮発性シリコン類、無機又は有機粒子、顔料、賦形剤、防腐剤、pH安定剤などから選ばれる1種又は2種以上の添加剤とともに化粧品組成物の形態で用いることができる。このような化粧品組成物としては、化粧クリーム、クレンジングクリーム、シャンプー、リンス、ヘアーコンディショナー、ローション、ムース、スタイリング用ラッカー、ゲル、スプレーなどが挙げられる。
【0027】
本発明の両電荷性プルラン誘導体は、生理学的に許容可能な、例えば、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、希釈剤、乳化剤、懸濁剤、賦形剤、増量剤、緩衝剤などとともに、一般的な医薬品に配合することができ、経口的又は非経口的に投与される医薬品の形態でも用いることができる。
【0028】
本発明の両電荷性プルラン誘導体は、例えば、塗料、建材、染色、紙加工やセラミック分野における増粘剤、保水剤、接着剤、コンクリート分散剤、捺染用糊剤、紙力増強剤、コロイド安定化剤、バインダー、保冷剤など工業用組成物として用いることもできる。とりわけ、本発明の両電荷性プルラン誘導体は、実施例6において後述するように、写真感光乳剤におけるゼラチンの代替品として利用することができる。
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例のみによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
<両電荷性プルラン誘導体>
カチオン性基としてジエチルアミノエチル基を、また、アニオン性基としてコハク酸基を有する両電荷性プルラン誘導体を調製した。
【0031】
<実施例1−1:ジエチルアミノエチル(DEAE)化プルラン誘導体の合成>
市販のプルラン(商品名『プルランPI−20』、(株)林原商事販売)97.2グラムを、予め調製した2.4M水酸化ナトリウム水溶液730mlに溶解した。次いで、103.2グラムのジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩を240mlの脱イオン水に溶解し、これを上記プルラン溶液に対し、攪拌しながら40℃で30分間かけて滴下した。滴下後、混合液をさらに40℃で3.5時間保持し、約25℃まで冷却した。得られた反応液を酢酸にてpH7.0に中和した後、64Lのイソプロピルアルコール(IPA)に滴下して白色沈殿を生成させた。得られた白色沈殿を濾別し、脱イオン水に溶解して約900mlとし、再度、64LのIPAに滴下して白色沈殿を生成させることにより精製した。得られた白色沈殿を濾別し、IPAで洗浄した後、58℃で一晩、減圧乾燥した。得られた乾燥品をブレンダーで粉砕し、白色のDEAE化プルラン誘導体粉末を157グラム得た。
【0032】
<実施例1−2:DEAE化プルラン誘導体の脱塩及び精製>
実施例1−1で得られたDEAE化プルラン誘導体粉末45グラムを濃度6質量%になるよう脱イオン水に溶解し、24倍量の脱イオン水に対して一晩透析して脱塩した。透析液を550グラムに濃縮し、同様に脱塩処理をさらに2回繰り返した。得られた透析液を濃度約20質量%まで濃縮し、精製DEAE化プルラン誘導体水溶液とした。
【0033】
<実施例1−3:両電荷性プルラン誘導体の合成>
実施例1−1で得たDEAE化プルラン誘導体粉末60グラムをDMSO1,500mlに溶解した。次いで、14.4グラムの4−ジメチルアミノピリジン(4−DMAP)を150mlのDMSOに溶解し、これを前記ジエチルアミノエチル化プルラン誘導体溶液に加えた。得られた混合溶液を攪拌しながら56〜61℃に保持しつつ、別途、無水コハク酸28.4グラムを186mlのDMSOに溶解した液を30分間かけて滴下した。滴下後、さらに60℃で3.5時間保持し、約35〜40℃まで冷却した。得られた反応液を64LのIPAに滴下して白色沈殿を生成させた。得られた白色沈殿を濾別し、約1,100mlの脱イオン水に溶解し、再度、64LのIPAに滴下して白色沈殿を生成させることにより精製した。得られた白色沈殿を濾別し、IPAとアセトンで洗浄した後、58℃で一晩、減圧乾燥して白色のDEAE化プルランコハク酸エステル誘導体粉末を68.5グラム得た。
【0034】
<実施例1−4:両電荷性プルラン誘導体の脱塩及び精製>
実施例1−3で得たDEAE化プルランコハク酸エステル誘導体粉末を濃度5質量%になるよう溶解した水溶液420グラムを43倍量の脱イオン水に対して一晩透析して脱塩した。透析液を処理前と同量までに濃縮し、再度、同様の透析処理を行った。得られた透析液を約250グラムまで濃縮し、17LのIPAに滴下して白色沈殿を生成させた。得られた白色沈殿を濾別し、IPAで洗浄した後、58℃で一晩、減圧乾燥し、白色の精製両電荷性プルラン誘導体粉末12.6グラムを得た。
【0035】
<実施例1−5:両電荷性プルランにおける置換基の確認及び置換度の測定>
実施例1−4で得たDEAE化プルランコハク酸エステル誘導体において、カチオン性基及びアニオン性基の双方が導入されていることを、核磁気共鳴装置(「JNM−AL300型」、日本電子株式会社製)を用いたプロトン核磁気共鳴(H−NMR)分析により、化学シフト1乃至1.2ppm(DO、TMS)付近のDEAE基由来のメチル基のプロトンピーク及び化学シフト2.7ppm付近のコハク酸基由来のメチレン基のプロトンピークにより確認した。さらに、フーリエ変換赤外分光光度計(「FTIR−8300型」、島津製作所製)を用いたフーリエ変換赤外吸収スペクトル(FT−IR)分析により、1570cm−1付近にカルボキシル基の吸収ピークを、1730cm−1付近にエステルの吸収ピークを確認した。
【0036】
カチオン性基及びアニオン性基の置換度を、公知のコロイド滴定法により測定したところ、それぞれプルランのグルコース1残基当たり、0.16及び0.38であった。また、得られた両電荷性プルラン誘導体の10質量%濃度の水溶液の40℃における粘度を、EMD型粘度計を用いて測定したところ、56mPa・sであり、同濃度のプルラン水溶液よりも若干低い粘度であった。
【0037】
得られたDEAE化プルランコハク酸エステル誘導体は、乳化用剤又はコロイド安定化剤として食品、化粧品、医薬品又は工業製品用途に使用することができる。
【実施例2】
【0038】
<両電荷性プルラン誘導体>
実施例1−1の方法で得たDEAE化プルラン誘導体粉末5.0グラムをメタノール(MeOH)30mlに溶解し、これに4−DMAP1.89グラムをMeOH5mlに溶解した溶液を混合した後、無水マレイン酸1.52グラムをMeOH5mlに溶解した溶液を滴下した。滴下した後、60℃で3.5時間反応させ、室温まで冷却し、次いで、変性エタノール(EtOH)1Lに滴下して白色沈殿を生成させた。得られた白色沈殿を濾別し、変性EtOHで洗浄した後、58℃で一晩、減圧乾燥した。この操作により、DEAE化プルランマレイン酸エステル誘導体粉末4.4グラムを得た。
【0039】
同誘導体は、H−NMR分析において、化学シフト1乃至1.2ppm付近にDEAE基由来のメチル基のプロトンピークを、化学シフト6乃至7ppm付近にマレイン酸由来アルケンのプロトンピークを示した。また、FT−IR分析において、1570cm−1付近にカルボキシル基の吸収ピークを、1730cm−1付近にエステルの吸収ピークを示した。本両荷電性プルラン誘導体におけるカチオン性基及びアニオン性基の置換度はそれぞれ0.22及び0.25であった。
【0040】
得られたDEAE化プルランマレイン酸エステル誘導体は、乳化用剤又はコロイド安定化剤として食品、化粧品、医薬品又は工業製品用途に使用することができる。
【実施例3】
【0041】
<両電荷性プルラン誘導体>
実施例1で用いたプルランPI−20に換えてMw/Mnが1.12のプルラン(商品名『P−400』、昭和電工株式会社販売)を用い、ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩の代わりにジメチルアミノイソプロピルクロライド塩酸塩を、無水コハク酸の代わりに無水フタル酸を用いて、反応スケールを1/10とした以外は実施例1と同様に反応、精製し、ジメチルアミノイソプロピル化プルランフタル酸エステル誘導体粉末7.1グラムを得た。本両荷電性プルラン誘導体におけるカチオン性基及びアニオン性基の置換度はそれぞれ0.20及び0.18であった。
【0042】
得られたジメチルアミノイソプロピル化プルランフタル酸エステル誘導体は、乳化用剤又はコロイド安定化剤として食品、化粧品、医薬品又は工業製品用途に使用することができる。
【実施例4】
【0043】
<化粧用クリーム>
実施例3の方法で得た両荷電性プルラン誘導体粉末15質量部、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2質量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5質量部、α−グルコシルルチン1質量部、流動パラフィン1質量部、トリオクタン酸グリセリン10質量部、アスコルビン酸2−グルコシド5質量部を常法に従って加熱溶解し、これにL−乳酸2質量部、1,3−ブチレングリコール5質量部、防腐剤およびイオン交換水60質量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に、香料および着色料を適量加えて撹拌混合し、クリームを調製した。本クリームは、両電荷性プルラン誘導体とα−グルコシルルチンを含み、滑らかで、成分の安定性が高く、高品質の日焼け止め、色白クリームなどとして利用できる。
【実施例5】
【0044】
<シャンプー>
実施例2の方法で得た両電荷性プルラン誘導体粉末20質量部、エチルアルコール15質量部、グリセリン2質量部、イオン交換水85質量部、香料0.3質量部、ポリオキシエチレン・ソルビタン・モノラウレート1.5質量部、防腐剤、酸化防止剤および着色料を適量含むシャンプーを調製した。本品は、両電荷性プルラン誘導体が持つ乳化作用が発現し、品質の優れたシャンプーである。
【実施例6】
【0045】
<写真感光乳剤>
実施例1−4の方法で得た両電荷性プルラン誘導体の保護コロイド能を、常法の金数測定法、すなわち、コロイド状の約0.05グラム/L濃度の赤色金ゾル液10mlに試料液1mlを混合し、次いで10質量%の食塩水1mlを添加、混合した場合に、赤色金ゾルが破壊されて青色に変色させる試料液中の最低溶質量を測定する方法により評価したところ、金数は0.02であった。この値は、対照として用いたゼラチンの金数0.02と同等であった。この結果は、本発明の両電荷性プルラン誘導体が、ゼラチンと同等の保護コロイド能を有していることを物語っている。
【0046】
実施例1−4の方法で得た精製両電荷性プルラン誘導体粉末を用い、一般的なコントロールダブルジェット方式で臭化銀感光乳剤を調製した。すなわち、暗室にて、両電荷性プルラン誘導体0.128グラムを含む濃度0.0315mol/Lの臭化カリウム水溶液260mlに、濃度0.235mol/L硝酸銀水溶液19mlと、濃度0.235mol/Lの臭化カリウム水溶液190mlを30℃にて1分間で同時に添加、混合した。この間の臭素イオン濃度(pBr)は1.5に保持した。次いで、10質量%の両電荷性プルラン誘導体水溶液56mlを混合し、70℃で15分間熟成して種乳剤とした。温度を60℃に保ちつつ、得られた乳剤200グラムに濃度3mol/Lの硝酸銀水溶液60mlと濃度3mol/Lの臭化カリウム水溶液60mlを、pBrを2.0に保持しながら1時間かけて同時に添加、混合した。この乳剤のpHを酢酸にて約4.0に調整した後、乳剤に対して20%量の濃度5質量%の界面活性剤(商品名「デモールN」、花王株式会社製)水溶液を加えて凝集沈殿物を形成させ、上澄み液を廃棄し、凝集沈殿物を上澄み液と同量の脱イオン水で洗浄する操作を2回繰り返して脱塩した後、同量の脱イオン水を加え、さらに濃度10質量%の炭酸カリウム水溶液を添加し、pHを6.0に調整するとともに凝集沈殿物を溶解させて写真感光乳剤とした。本感光乳剤の調製を通じて臭化銀結晶粒子の凝集は認められず、分散した状態を安定に保っていた。なお、両電荷性プルラン誘導体に替えて、ゼラチンを用いて上記と同様に調製した感光乳剤を対照品とした。両感光乳剤中に分散している臭化銀結晶粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)にて比較した結果を図2に示す(図2中、符号Aが対照のゼラチン含有感光乳剤を、符号Bがジエチルアミノエチル化プルランコハク酸エステル誘導体含有感光乳剤をそれぞれ示す)。両電荷性プルラン誘導体を用いて調製した感光乳剤中の臭化銀結晶粒子は大きさ、形状ともにゼラチン含有感光乳剤におけるそれと同等であった。
【0047】
RCペーパーを台紙とし、上記で調製した両電荷性プルラン誘導体を含む感光乳剤を約70グラム/mになるよう塗布し、さらに実施例1−2で得た精製DEAE化プルラン誘導体の15質量%水溶液を上塗りし、常温で通風乾燥して皮膜を形成させた。次いで、これを2%カリ明礬水溶液に30秒浸漬し、常温で通風乾燥することにより皮膜を硬化させ印画紙を調製した。
【0048】
上記で調製した印画紙を、連続ウェッジを通して3.54ルクスで15秒間露光させた後、常法で現像処理を行った。得られた試験印画紙の反射濃度を測定し、露光量に対する反射濃度を求めて作成した特性曲線を図3に示す(図3における符号○)。また、対照のゼラチン含有感光乳剤を用いて作成した印画紙を用いて同様に評価した結果も併せて図3に示す(図3における符号●)。図3の結果からも明らかなように、両電荷性プルラン誘導体を用いて調製した感光乳剤は、従来のゼラチンを用いて調製した感光乳剤と遜色のないものであり、銀塩写真用感光乳剤として使用できることが判明した。
【実施例7】
【0049】
<固形状接着剤>
ジメチルスルホキシド30質量部、水25質量部、エルシナン5質量部、実施例2の方法で製造した両電荷性プルラン誘導体粉末5質量部、および、ジベンジリデンキシリット2質量部の混合物を、温度90℃にて1時間撹拌し、溶解せしめた後、これを直径14mm、高さ50mmの円筒状の繰り上げ、繰り下げ可能な機構を備えた口紅式容器に注入して室温で放冷し、固形状接着剤を製造した。本接着剤をクラフト紙に塗り付けたところ、薄く均一に塗布することができ、初期接着力も充分であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
叙上のとおり、本発明の両電荷性プルラン誘導体は、可食性の水溶性多糖であるプルランが主たる原料であるので、安全性が高く、増粘、保水、懸濁、分散などプルランが有する機能に加えて、保護コロイド能を有することから、乳化用剤又はコロイド安定化剤として、食品、化粧品、医薬品、工業製品など広範囲の分野において有利に利用できる。さらに、これを用いて製造した写真感光乳剤は、ゼラチンを用いた従来の感光乳剤と比べて遜色のない特性を有することから、本発明の両電荷性プルラン誘導体は、写真感光乳剤におけるゼラチンの代替品として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】カチオン性基としてジエチルアミノエチル基を、アニオン性基としてコハク酸エステル基を有する両電荷性プルラン誘導体の製造工程を模式的に示した図である。
【図2】本発明の両電荷性プルラン誘導体であるジエチルアミノエチル化プルランコハク酸エステル誘導体又はゼラチンを使用した感光乳剤における臭化銀粒子の走査電子顕微鏡(SEM)写真(倍率:20,000倍)を比較した図である。
【図3】本発明のジエチルアミノエチル化プルランコハク酸エステル誘導体又はゼラチンを使用した感光乳剤を用いて調製した試験印画紙の、露光量と反射濃度の関係を表すグラフ(特性曲線)である。
【符号の説明】
【0052】
図1において、nは整数を意味し、
A:プルラン
B:ジエチルアミノエチル化プルラン誘導体
C:ジエチルアミノエチル化プルランコハク酸エステル誘導体
図2において、
A:ゼラチン含有感光乳剤(対照)
B:ジエチルアミノエチル化プルランコハク酸エステル誘導体含有感光乳剤
図3において、
●:ゼラチン含有感光乳剤(対照)
○:ジエチルアミノエチル化プルランコハク酸エステル誘導体含有感光乳剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にカチオン性基及びアニオン性基をそれぞれ有し、且つ、それぞれの基が水系溶媒中でカチオン及びアニオンに荷電することを特徴とするプルラン誘導体。
【請求項2】
カチオン性基が一般式1で表される請求項1記載のプルラン誘導体。
一般式1:
【化1】

(式中、Rはアルキレン基を表し、そのアルキレン基は置換基を有していてもよい。R及びRはそれぞれ水素原子か、あるいは、互いに同じか異なる炭化水素基であって、その炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
【請求項3】
アニオン性基がカルボキシル基を有する置換基である請求項1又は2記載のプルラン誘導体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のプルラン誘導体を含んでなる乳化用剤。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のプルラン誘導体を含んでなる写真感光乳剤。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−321003(P2007−321003A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150365(P2006−150365)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】