説明

プロトン伝導性高分子膜およびその製造方法およびそれを用いた燃料電池

【課題】 加工性に優れ、高温無加湿条件においても優れたプロトン伝導性と耐久性とを示す新規なプロトン伝導性高分子膜およびその製造方法、さらにこれを用いた燃料電池を提供する。
【解決手段】 スルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜にビニルホスホン酸を含有させてなるプロトン伝導性高分子膜に関する。該ポリベンズイミダゾール系化合物は下記構造式(1)、


(式中、nは1から4の整数、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニット、R2は2価の芳香族結合ユニット、Zはスルホン酸基および/またはホスホン酸基を表す)で示されるスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有構成要素を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性基を有するポリベンズイミダゾール系化合物と酸性化合物を構成成分とし、高温無加湿条件で使用できる高分子電解質膜として有用な組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、新しいエネルギー源として固体高分子型燃料電池膜が注目されており、燃料電池中でカチオン交換膜として用いられる高分子膜の開発が進められている。該高分子膜は、良好なプロトン導電率を示すとともに化学的、熱的、電気化学的および力学的に十分安定なものでなくてはならない。そのため、長寿命で使用できる高分子膜としては、主に米デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」を代表例とするパーフルオロカーボンスルホン酸膜が使用されてきた。しかしながら、パーフルオロカーボンスルホン酸膜を使用する場合、100℃を越える条件で燃料電池を運転しようとすると、高分子膜の含水率が急激に落ちるほか、膜の軟化も顕著となり、燃料電池として十分な性能を発揮することはできないという問題がある。
【0003】
100℃以上の高温領域で燃料電池を運転するためには、基本的に耐熱性の高いポリマーによる燃料電池膜が必要となる。このことから、芳香族環含有ポリマーにスルホン酸基を導入した高分子電解質膜が種々検討されている。特に、高耐熱、高耐久性のポリマーとして知られるポリベンズイミダゾール等の芳香族ポリアゾール系のポリマーに酸性基を導入して上記目的に利用することが考えられ、スルホン酸基やホスホン酸基を含有するポリベンズイミダゾール系ポリマーによる高分子電解質膜の報告がみられる(たとえば特許文献1)。これらのポリマーにおいては、80℃付近でのプロトン伝導性はさほど大きくないが、高温での伝導性発現が期待される。しかし、酸性基としてスルホン酸基を導入した構造のポリマーは有機溶媒への溶解性がよいので加工性に優れるものの、プロトン伝導性があまり高くならない傾向がある。一方、酸性基としてホスホン酸基を導入した構造のポリマーは、酸性基量を増やした場合にプロトン伝導性が高くなる傾向があるが、それでも実用的に十分なプロトン伝導性を示すものとは言えない。また、これらのポリマーがプロトン伝導性を示すには加湿条件とする必要があるので、100℃以上の温度で加湿することなく使用することは不可能と言える。
【0004】
ポリマー中にスルホン酸基やホスホン酸基等の酸性基を導入するだけでは100℃以上の高温領域かつ無加湿の条件では実用的なプロトン伝導性を示すことができないことから、ポリベンズイミダゾールにリン酸を含浸させ、イオン伝導機能をリン酸により引き出した高温用の燃料電池用電解質膜が報告されている(たとえば特許文献2)。しかし、ポリベンズイミダゾール自体にはイオン伝導特性がないので、十分なプロトン伝導性を得るためには、ポリベンズイミダゾールにリン酸を多量に含浸させる必要がある。また、低分子化合物であるリン酸はポリベンズイミダゾールから徐々に流出し、イオン伝導性が時間とともに低下していくという問題がある。さらに、リン酸含浸量が多くなると膜膨潤が大きくなるため、燃料電池を組み立てる際の障害になるという問題も生じる。これに対し、上述したようなポリベンズイミダゾールにスルホン酸基を導入したポリマーは、分子内に酸性基を有しているため、少ないリン酸含浸量でもプロトン伝導性が発現すると期待できることから、無機酸、有機酸を含有させたスルホン酸基含有ポリベンズイミダゾール高分子電解質膜が報告されている(たとえば特許文献3)。しかしながら、これらにおいても燃料電池として実用的に必要な性能を満足しているとは言えないのが現状である。
【特許文献1】国際公開第WO02/38650号パンフレット
【特許文献2】特表平11−503262号公報
【特許文献3】特開2003−327826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の課題を解決し、高温無加湿条件においても運転可能であり、優れたプロトン伝導性を示すだけでなく、燃料電池を組み立てる際の加工性に優れるとともに、耐久性においても十分な実用特性を示す新規なプロトン伝導性高分子膜およびその製造方法、さらにこれを用いた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜にビニルホスホン酸を含有させてなるプロトン伝導性高分子膜に関する。
【0007】
本発明におけるポリベンズイミダゾール系化合物は、下記の構造式(1)、
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、nは1から4の整数、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニット、R2は2価の芳香族結合ユニット、Zはスルホン酸基および/またはホスホン酸基を表す)
で示されるスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有構成要素を含むことが好ましい。
【0010】
さらに、本発明におけるポリベンズイミダゾール系化合物は、下記の構造式(2)、
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Xは、直接結合,−O−,−SO2−,−S−,−CO−,−C(CH32−,−C(CF32−,−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上の結合様式を表し、Arは芳香族ユニットから選ばれる1種以上の結合様式、Phは芳香族結合ユニット、Yはスルホン酸基、ホスホン酸基から選ばれる1種以上の官能基であり、すべてが酸の形態であっても一部またはすべてが誘導体の形態であっても良く、nは1から4までの整数を表すものとする)
で示されるスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有構成要素を含むことが好ましい。
【0013】
本発明においては、ポリベンズイミダゾール系化合物に対してビニルホスホン酸が10質量%〜1000質量%の範囲内で含有されることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、上記のプロトン伝導性高分子膜の製造方法であって、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜を、ビニルホスホン酸またはビニルホスホン酸を含む溶液に浸漬する工程を含むプロトン伝導性高分子膜の製造方法に関する。
【0015】
本発明はさらに、前述のプロトン伝導性高分子膜を固体高分子電解質として用いた燃料電池に関する。すなわち、酸素極と、燃料極と、固体高分子電解質膜と、酸化剤配流板と、燃料配流板とからなる単位セルを有し、該固体高分子電解質膜は、該酸素極および該燃料極に挟持され、該酸化剤配流板は、酸素極側に設けられて酸化剤流路を形成し、該燃料配流板は、燃料極側に設けられて燃料流路を形成し、かつ、該固体高分子電解質膜が前述のプロトン伝導性高分子膜である燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、酸性基としてスルホン酸基および/またはホスホン酸を有するポリベンズイミダゾール系化合物にビニルホスホン酸を含有させることにより、優れたプロトン伝導性を示すだけでなく、燃料電池を組み立てる際の加工性に優れるとともに、耐久性においても十分な実用特性を示す。これにより、特に高温無加湿条件で運転する燃料電池に対して好適に適用される高分子電解質膜となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のプロトン伝導性高分子膜においては、酸性基としてスルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜にビニルホスホン酸を含有させる。本発明において、スルホン酸基とは、特に記載がない限り、遊離のスルホン酸として存在する基およびスルホン酸塩として存在する基のいずれも含むものとし、ホスホン酸基とは、特に記載がない限り、遊離のホスホン酸として存在する基およびホスホン酸塩として存在する基のいずれも含むものとする。また、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物とは、高分子鎖を形成する構成単位の中にベンズイミダゾール環を含んでいる高分子化合物を意味する。
【0018】
通常ポリベンズイミダゾールは、芳香族テトラミンまたはその誘導体とジカルボン酸またはその誘導体を組み合わせた2種のモノマー間の重合反応により合成される。また、同一分子内に2個のアミノ基またはその誘導体と1個のカルボキシル基を持つ化合物の自己縮合により合成することができる。さらに、これらを混合した系においても合成することができる。本発明におけるスルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物は、特に構造が規定されることはないが、これらの重合反応においてジカルボン酸モノマー中にスルホン酸基またはその誘導体および/またはホスホン酸基またはその誘導体を含むジカルボン酸を使用することで合成することが好ましい。スルホン酸基やホスホン酸基は、イミダゾール環上窒素原子に結合した側鎖を介して導入することも可能であるが、これらの形で導入したポリマーは一般的に耐溶剤性が低下する傾向にあるためである。また、ポリベンズイミダゾールポリマー中のベンズイミダゾール環上にスルホン化反応等により、スルホン酸基を導入することもできるが、この場合は、ポリマーの耐熱性が低下しやすい傾向となる。本発明において使用される、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を含有するポリベンズイミダゾール系化合物は、具体的には、下記構造式(1)、
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、nは1から4の整数、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニット、R2は2価の芳香族結合ユニット、Zはスルホン酸基および/またはホスホン酸基を表す)
で示される構成成分を含んでいることが好ましい。nが0であるユニットにおいてはプロトン伝導性が低くなる傾向があり、nが5以上であるユニットにおいてはポリマーの耐水性が低下する傾向があるからである。ただし、上記構造式(1)のユニットを含む構造であれば、部分的にnが0や5以上のユニットが共存していても問題はない。また、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニットを表し、R1は芳香環の単環であっても複数の芳香環の結合体あるいは縮合環であっても良く、安定な置換基を有していても良い。R1の芳香族ユニットによりポリベンズイミダゾール系化合物に酸性分子が共存しても化学的に高い安定性を保つという特性が付与される。R1は単独の構造であってもよいが、複数の構造を含んでいるものでも良い。R2は、芳香環の単環であっても複数の芳香環の結合体あるいは縮合環であっても良く、スルホン酸基やホスホン酸基以外の安定な置換基を有していても良い。スルホン酸基および/またはホスホン酸基がR2を介して芳香族テトラミン部位と結合することにより、ポリベンズイミダゾール系化合物に良好なイオン伝導性が付与され、また溶媒に対する良好な溶解性も付与される。Zはスルホン酸基および/またはホスホン酸基を表わすが、それらの一部が塩構造となっていても良い。具体的な塩構造としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他、各種金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等をあげることができるが、これらに限定されることはない。
【0021】
本発明におけるスルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物は、下記構造式(2)、
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、Xは、直接結合,−O−,−SO2−,−S−,−CO−,−C(CH32−,−C(CF32−,−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上の結合様式を表し、Arは芳香族ユニットから選ばれる1種以上の結合様式、Phは芳香族結合ユニット、Yはスルホン酸基、ホスホン酸基から選ばれる1種以上の官能基であり、すべてが酸の形態であっても一部またはすべてが誘導体の形態であっても良く、nは1から4までの整数を表すものとする)
で示される構成成分を含んでいることがさらに好ましい。
【0024】
上記の誘導体としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他、各種金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等の塩構造をあげることができるが、これらに限定されることはない。式中のnが0であるユニットにおいてはプロトン伝導性を示す能力が低下する傾向があり、nが5以上であるユニットにおいてはポリマーの耐水性が低下する傾向がある。ただし、上記構造式(2)のユニットを含む構造であれば、部分的にnが0や5以上のユニットが共存していても問題はない。
【0025】
上記の構造式(1)および上記の構造式(2)で示す構造を含む本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を合成する経路は特には限定されないが、通常は化合物中のイミダゾール環を形成し得る芳香族テトラミン類およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物と、芳香族ジカルボン酸およびその誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物との反応により合成することができる。その際、使用するジカルボン酸の中にスルホン酸基やホスホン酸基、またはそれらの誘導体を含有するジカルボン酸を使用することで、得られるポリベンズイミダゾール系化合物中にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入することができる。スルホン酸基やホスホン酸基を含むジカルボン酸はそれぞれ一種以上組み合わせて使用することが出来る。当然、スルホン酸基やホスホン酸基またはそれらの誘導体を含まないジカルボン酸も同時に使用して合成することもできる。
【0026】
ここで、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の構成要素であるベンズイミダゾール系結合ユニットにおいて、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するベンズイミダゾール系結合ユニットや、スルホン酸基もホスホン酸基も有さないベンズイミダゾール系結合ユニットや、その他の結合ユニットは、ランダム重合および/または交互的重合により結合していることが好ましい。また、これらの重合形式は一種に限られず、二種以上の重合形式が同一の化合物中で並存していてもよい。
【0027】
上記の構造式(1)、構造式(2)で示される構成成分を含むスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有ポリベンズイミダゾール系化合物を与える芳香族テトラミンの具体例としては、特に限定されるものではないが、たとえば、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、3,3’−ジアミノベンジジン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルチオエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’−テトラアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、1,2−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン等およびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、構造式(2)で表される結合ユニットを形成することができる、3,3’−ジアミノベンジジン,3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルチオエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、1,2−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼンおよびこれらの誘導体が特に好ましい。
【0028】
これらの芳香族テトラミン類の誘導体の具体例としては、塩酸、硫酸、リン酸等の酸との塩等を挙げることができる。また、これらの化合物は単独で使用してもよいが、同時に複数使用することもできる。さらに、これらの化合物は、必要に応じて塩化すず(II)や亜リン酸化合物等の公知の酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0029】
上述の構造式(1)または(2)の構造を与えるスルホン酸基含有ジカルボン酸は、芳香族系ジカルボン酸中に1個から4個のスルホン酸基を含有するものを選択することができるが、具体例としては、たとえば、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジカルボキシ−1,4−ベンゼンジスルホン酸、4,6−ジカルボキシ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、2,2’−ジスルホ−4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ジスルホ−4,4’−ビフェニルジカルボン酸、等のスルホン酸基含有ジカルボン酸およびこれらの誘導体を挙げることができる。誘導体としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等をあげることができる。スルホン酸基含有ジカルボン酸の構造は特にこれらに限定されることはない。芳香族ジカルボン酸骨格中に5個以上のスルホン酸基を有する場合、ポリマーの耐水性が低下し易い傾向がある。
【0030】
スルホン酸基を含有するジカルボン酸の純度は特に制限されるものではないが、98質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。スルホン酸基を含有するジカルボン酸を原料として重合されたポリベンズイミダゾールは、スルホン酸基を含有しないジカルボン酸を用いた場合に比べて、重合度が低くなる傾向が見られる。このため、スルホン酸基を含有するジカルボン酸としてできるだけ純度が高いものを用いることにより、得られるポリマーの重合度が低くなることを防止することが好ましい。
【0031】
上記の構造式(1)または(2)で示されるホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を合成する際に用いるホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸およびその誘導体としては、特に限定されるものではなく、芳香族ジカルボン酸骨格中に1個から4個のホスホン酸基を有する化合物を好適に使用することができる。具体例としては、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ビスホスホノテレフタル酸、4,6−ビスホスホノイソフタル酸等のホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸およびこれらの誘導体を挙げることができる。芳香族ジカルボン酸骨格中に5個以上のホスホン酸基を有する場合、ポリマーの耐水性が低下し易い傾向がある。
【0032】
ここで、これらのホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸のホスホン酸誘導体としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等をあげることができる。また、これらの化合物は単独で使用してもよいが、同時に複数使用することもできる。さらに、これらの化合物は、必要に応じて塩化すず(II)や亜リン酸化合物等の公知の酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0033】
ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の構造はこれらに限定されることはないが、高分子鎖中のホスホン酸基の割合を効率良く増やすことができる点で、ここに示したようなフェニルホスホン酸基型のホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0034】
本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の合成に用いる、ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の純度は特に限定されるものではないが、97質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましい。ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸を原料として重合されたポリベンズイミダゾール系化合物は、スルホン酸基およびホスホン酸基を有さない芳香族ジカルボン酸を原料として用いた場合に比べて、重合度が低くなる傾向があるため、スルホン酸基を含有するジカルボン酸としてできるだけ純度が高いものを用いることにより、得られるポリマーの重合度が低くなることを防止することが好ましい。芳香族ジカルボン酸の純度が97質量%未満の場合、得られるポリベンズイミダゾール系化合物の重合度が低下して固体高分子電解質の材料として適さないものとなる傾向がある。
【0035】
上記のホスホン酸基とスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸を混合して使用することができるが、スルホン酸基およびホスホン酸基を含有しない芳香族ジカルボン酸とともに共重合反応することにより、本発明の酸性基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を合成してもよい。この際使用できるスルホン酸基およびホスホン酸基を有さない芳香族ジカルボン酸としては、特に限定されるものではないが、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ターフェニルジカルボン酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等のポリエステル原料として報告されている一般的な芳香族ジカルボン酸を使用することができる。
【0036】
また、これらの化合物は単独で使用してもよいが、同時に複数使用することもできる。さらに、これらの化合物は、必要に応じて塩化すず(II)や亜リン酸化合物等の公知の酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0037】
本発明で使用されるポリベンズイミダゾール系化合物の合成において、ホスホン酸基やスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸とともにスルホン酸基およびホスホン酸基を有さない芳香族ジカルボン酸を使用する場合、全芳香族ジカルボン酸中におけるホスホン酸基および/またはスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の含有率を20モル%以上となるように配合することが好ましい。この場合、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物がスルホン酸基および/またはホスホン酸基を有することによるプロトン伝導性の向上効果を顕著に得ることができる。また、さらに顕著なプロトン伝導性の向上効果を引き出すためには、全芳香族ジカルボン酸中におけるホスホン酸基および/またはスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の含有率を50モル%以上となるように配合することがさらに好ましい。ホスホン酸基および/またはスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の含有率が20モル%未満の場合には、ポリベンズイミダゾール系化合物の導電率が低く、固体高分子電解質の材料として適さないものになり易い傾向がある。
【0038】
上述の芳香族テトラミン類およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物と、芳香族ジカルボン酸およびその誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを用いて、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を合成する方法は、特に限定されるものではないが、たとえば、J.F.Wolfe,Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,2nd Ed.,Vol.11,P.601(1988)に記載されるようなポリリン酸を溶媒とする脱水、環化重合により合成することができる。また、ポリリン酸のかわりにメタンスルホン酸/五酸化リン混合溶媒系を用いた同様の機構による重合を適用することもできる。なお、熱安定性の高いポリベンズイミダゾール系化合物を合成するには、一般によく使用されるポリリン酸を用いた重合が好ましい。
【0039】
さらに、本発明で使用されるポリベンズイミダゾール系化合物を得るには、たとえば、適当な有機溶媒中や混合原料モノマー融体の形での反応でポリアミド構造等を有する前駆体ポリマーを合成しておき、その後の適当な熱処理等による環化反応で目的のポリベンズイミダゾール構造に変換する方法等も使用することができる。
【0040】
また、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を合成する際の反応時間は、個々の原料モノマーの組み合わせにより最適な反応時間があるので一概には規定できないが、従来報告されているような長時間をかけた反応では、スルホン酸基やホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸等の原料モノマーを含む系では、得られたポリベンズイミダゾール系化合物の熱安定性が低下してしまう場合もあり、この場合には反応時間を本発明の効果の得られる範囲で短くすることが好ましい。このように反応時間を短くすることにより、スルホン酸基およびホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物も熱安定性の高い状態で得ることができる。
【0041】
本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を合成する際の反応温度は、個々の原料モノマーの組み合わせにより最適な反応温度があるので一概には規定できないが、従来報告されているような高温による反応では、スルホン酸基やホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸等の原料モノマーを含む系では、得られたポリベンズイミダゾール系化合物へのスルホン酸基やホスホン酸基の導入量の制御が不能となる場合もあり、この場合には反応温度を本発明の効果の得られる範囲で低くすることが好ましい。このように反応温度を低くすることにより、酸性基の量が多いポリベンズイミダゾール系化合物へのスルホン酸基やホスホン酸基の導入量の制御を可能とすることができる。
【0042】
また、合成されたポリベンズイミダゾール系化合物において繰り返し単位を構成することになる原料モノマーが複数の種類からなる場合には、該繰返し単位同士はランダム重合および/または交互的重合により結合していることが好ましい。この場合、高分子電解質膜の材料として安定した電気特性および耐久性を示す。ここで、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物をランダム重合および/または交互的重合の重合形式により合成する方法としては、すべてのモノマー原料を重合初期から当量性を合わせた配合割合で仕込んでおく方法等が好ましく採用され得る。
【0043】
なお、ポリベンズイミダゾール系化合物をランダム重合や交互的重合ではなくブロック重合により合成することもできるが、その際には、当量性をずらした配合割合のモノマー原料の仕込み条件で第一成分のオリゴマーを合成し、さらにモノマー原料を追加して第二成分も含めて当量性が合う形に配合割合を調整した上で重合を行なうことが好ましい。
【0044】
本発明のスルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、2,000以上であることが好ましく、4,000以上であればより好ましい。また、この数平均分子量は1,000,000以下であることが好ましく、300,000以下であればより好ましい。数平均分子量が2,000未満の場合には、粘度の低下によりポリベンズイミダゾール系化合物から良好な耐久性等を備えた成形物が得られ難い傾向がある。また、この分子量が1,000,000を超えると粘度の上昇によりポリベンズイミダゾール系化合物を成形することが困難になる傾向がある。また、本発明のスルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物の数平均分子量は、実質的にはメタンスルホン酸中で測定した場合の対数粘度で評価することができる。そして、この対数粘度は0.3以上であることが好ましく、特に0.50以上であればより好ましい。また、この対数粘度は8以下であることが好ましく、特に7以下であればより好ましい。この対数粘度が0.3未満の場合には、粘度の低下によりポリベンズイミダゾール系化合物から良好な耐久性等を備えた成形物が得られ難い傾向がある。また、この対数粘度が8を超えると粘度の上昇によりポリベンズイミダゾール系化合物を成形することが困難になる傾向がある。
【0045】
本発明のスルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物は、樹脂組成物中の主成分として配合されていることも好ましい。樹脂組成物として本発明のポリベンズイミダゾール系化合物とともに使用できるポリマーとしては、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12等のポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類等のアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール等の芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられ、特に制限はない。本発明におけるポリベンズイミダゾール系化合物をこれら樹脂組成物として使用する場合には、該ポリベンズイミダゾール系化合物が、樹脂組成物全体の50質量%以上100質量%未満を占めることが好ましい。より好ましくは70質量%以上100質量%未満である。本発明のスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有ポリベンズイミダゾール系化合物の含有量が樹脂組成物全体の50質量%未満の場合には、この樹脂組成物を含む高分子膜中の酸性基濃度が低くなり、イオン性基によるプロトン伝導性の向上効果が低下する傾向があり、また、スルホン酸基および/またはホスホン酸基含有ユニットが非連続相となることによっても伝導するイオンの移動度の点で不利になる傾向がある。なお、本発明のスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有ポリベンズイミダゾール系化合物またはこれを含む樹脂組成物は、必要に応じて、たとえば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、等の各種添加剤を含んでいても良い。
【0046】
本発明のスルホン酸基および/またはホスホン酸基を含有するポリベンズイミダゾール系化合物またはこれを含む樹脂組成物は、重合溶液、単離したポリマー、および再溶解させたポリマー溶液等から押し出し、圧延、キャスト等任意の方法で膜形状に成形することができる。本発明のポリベンズイミダゾール系化合物またはこれを含む樹脂組成物を含有する高分子膜を成形する好ましい方法としては、溶液からのキャストが挙げられる。ポリベンズイミダゾール系化合物またはこれを含む樹脂組成物を溶解するための溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミド等の非プロトン極性溶媒や、ポリリン酸、メタンスルホン酸、硫酸、トリフルオロ酢酸等の強酸から適切なものを選ぶことができるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒のうち、特に有機溶媒系は好ましく用いられる。さらに、本発明のポリベンズイミダゾールが良好に溶解するN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として選定することが好ましい。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。また、ポリベンズイミダゾールまたはこれを含む樹脂組成物の溶解性を向上させる手段として、臭化リチウム、塩化リチウム、塩化アルミニウム等のルイス酸を有機溶媒に添加したものを溶媒としてもよい。溶液中のポリマー濃度は0.1〜50質量%の範囲であることが好ましい。ポリマー濃度が0.1質量%未満である場合には成形性が悪化し易い傾向があり、50質量%を超える場合には加工性が悪化し易い傾向がある。
【0047】
ポリマー溶液を基板にキャストし、溶媒を除去する際には、溶媒を乾燥除去することが膜の均一性という点で好ましい。また、ポリマーや溶媒の分解や変質をさけるため、減圧下でできるだけ低い温度で乾燥することも好ましい。キャストする基板には、ガラス板、テフロン(登録商標)板、金属板、ポリマーシート等を用いることができる。溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、30〜1500μmであることが好ましい。30μm未満とすると膜としての形態を保ち難くなる傾向があり、1500μmを超えると不均一な膜ができ易くなる傾向がある。溶液の厚みはより好ましくは100〜1000μmである。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。たとえば、アプリケーター、ドクターブレード等を用いて一定の厚みを確保することや、ガラスシャーレ等を用いてキャスト面積を一定にして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜とすることができる。たとえば、加熱して溶媒を留去する場合には、最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水等の非溶媒に浸漬して溶媒を除去する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておく等してポリマーの凝固速度を調整することができる。本発明の膜は目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、イオン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には200μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。また、膜の強度や加工性の面から、膜厚は5μm以上であることが好ましい。
【0048】
ポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜には、ビニルホスホン酸が含浸され、本発明のプロトン伝導性高分子膜が得られる。一般に、ポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜と、該高分子膜に含浸させる酸化合物との組合せによって、含浸によるプロトン伝導性の発現挙動や、酸化合物の含浸可能量、含浸による高分子膜の膨潤変形、得られるプロトン伝導性高分子膜の耐久性等が種々異なる。本発明においては、ポリベンズイミダゾール系化合物とビニルホスホン酸とを組み合わせることにより、十分な量のビニルホスホン酸を含浸させても高分子膜の変形が小さく、優れたプロトン伝導性を示すとともに耐久性においても長時間の使用に耐え得るという特性を有するプロトン伝導性高分子膜が得られる。ビニルホスホン酸の含浸量としては、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物に対してビニルホスホン酸が10質量%〜1000質量%の範囲内で含有されていることが好ましく、50質量%〜800質量%の範囲内であればさらに好ましい。ビニルホスホン酸含浸量が、10質量%より少ない場合には、高温無加湿下でのプロトン伝導性が低くなり易い傾向がある。一方、ビニルホスホン酸含浸量が1000質量%よりも多くなると、高分子電解質膜からビニルホスホン酸が染み出す等の問題が生じ易い傾向がある。
【0049】
本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜にビニルホスホン酸を含浸させる方法としては、該高分子膜を、ビニルホスホン酸そのものまたはビニルホスホン酸を含む溶液に浸漬する方法等が好ましく挙げられる。浸漬時の温度条件、浸漬時間を変えることにより、ビニルホスホン酸含浸量をコントロールすることができる。ビニルホスホン酸含浸量は、浸漬温度、浸漬時間の組合せで決定されるが、浸漬させる温度としてはたとえば20℃から150℃の範囲とすることが好ましい。また、浸漬時間はたとえば10分から20時間の範囲内であることが好ましい。含浸させるビニルホスホン酸の純度は50質量%以上であることが好ましく、ビニルホスホン酸を製造する際に副生されるリン酸やエチルホスホン酸等の不純物が含まれていても用いることが出来る。また、ビニルホスホン酸の粘度を調節するために、ビニルホスホン酸の純度が50質量%を下回らない範囲でビニルホスホン酸と相溶である溶媒との溶液を用いることが出来る。また、含浸させるビニルホスホン酸とともに、他の無機および/または有機の酸性化合物を同時に含浸させることもできる。ここで使用できる無機酸としては、リン酸、ポリリン酸、硫酸、硝酸、フッ酸、塩酸、臭化水素酸およびそれらの誘導体が挙げられる。また、有機酸としては、有機スルホン酸、有機ホスホン酸が使用される。有機スルホン酸の具体的な例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクチルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、セチルスルホン酸、スルホコハク酸、スルホグルタル酸、スルホアジピン酸、スルホピメリン酸、スルホスベリン酸、スルホアゼライン酸、スルホセバシン酸を始めとするアルキルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロピルスルホン酸、等のパーフルオロアルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、1,3−ベンゼンジスルホン酸、トルエンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、2−メチル−5−イソプロピルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、トリクロロベンゼンスルホン酸、ニトロトルエンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、等の芳香族スルホン酸、およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されることなく各種構造の有機スルホン酸を使用することが出来る。有機ホスホン酸の具体的な例としては、フェニルホスホン酸、1,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸等の芳香族系ホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸等の脂肪族系ホスホン酸、およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されることなく各種構造の有機ホスホン酸を使用することが出来る。ビニルホスホン酸と他の無機および/または有機の酸性化合物を同時に含浸させる場合は、含浸させる酸性化合物の内50モル%以上がビニルホスホン酸であることが好ましい。
【0050】
また、上述した本発明のイオン伝導性高分子膜を電極に設置することによって、本発明のイオン伝導性高分子膜と電極との膜電極接合体を得ることができる。この膜電極接合体の作製方法としては、従来から公知の方法が好ましく採用でき、たとえば、電極表面に接着剤を塗布し、プロトン伝導性高分子膜と電極とを接着する方法、またはプロトン伝導性高分子膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。そして、酸素極と、燃料極と、該酸素極および燃料極に挟持された、本発明のプロトン伝導性高分子膜からなる固体高分子電解質膜と、を備え、酸化剤流路を形成した酸化剤配流板を酸素極側に設け、燃料流路を形成した燃料配流板を燃料極側に設けたものを単位セルとすることにより、特に100℃以上の高温で運転できるとともに加湿条件を必要としない、本発明の燃料電池を得ることができる。
【0051】
[実施例]
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、実施例および比較例における性能評価は次の方法で行なった。
【0052】
<対数粘度>
ポリベンズイミダゾール系化合物は、ポリマー粉末を0.5g/dlの濃度でメタンスルホン酸に溶解し、30℃の恒温槽中でオストワルド粘度計を用いて溶液粘度測定を行ない、対数粘度[ln(ta/tb)]/c(但し、taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度(g/dl))として評価した。
【0053】
<イオン伝導度>
調製されたプロトン伝導性高分子膜を白金電極(直径13mm)に挟み、ソーラートロン(Solartron)社製電気化学測定システム12608Wを用いて複素インピーダンス測定を行ない、得られた抵抗値からイオン伝導度(単位:S/cm)の温度依存性を求めた。
【0054】
<発電特性>
調製されたプロトン伝導性高分子膜を、市販の燃料電池用電極(Electrochem社製)で挟持して膜電極接合体とし、150℃、無加湿の条件下、水素/空気で、初期の開回路電圧および500時間後の開回路電圧と、電流密度0.3A/cm2における発電時の初期の電池電圧および500時間後の電池電圧とを測定した。また、これらの値から、初期の電圧を100%とした時の500時間後の低下率(%)を算出した。
【0055】
(実施例1)
3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン6.000g(2.1557×10-2mole)、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム(純度99質量%)5.7812g(2.1557×10-2mole)、ポリリン酸(五酸化リン含量75質量%)52.8g、五酸化リン43.3gを重合容器に量り取った。窒素を流し、オイルバス上ゆっくり撹拌しながら100℃まで昇温した。100℃で1時間保持した後、150℃に昇温して1時間、200℃に昇温して6時間重合した。重合終了後放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いてpH試験紙で中性を示すまで水洗を繰り返した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、2.18を示した。
【0056】
得られたポリマー1gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)10gにオイルバス上で溶解し、ホットプレート上のガラス板にキャストし、フィルム状になるまでNMPを留去した後、水中に一晩以上浸漬した。得られたフィルムは、希硫酸(濃硫酸6ml、水300ml)中に1日以上浸漬した後、純水でさらに数回浸漬洗浄することで酸成分を除去し、22μmの厚みの高分子膜1を得た。
【0057】
この高分子膜1をビニルホスホン酸(純度85質量%、東京化成株式会社)に120℃で3時間浸漬して、ビニルホスホン酸を添加したプロトン伝導性高分子膜を得た。この時のビニルホスホン酸含有量は、質量変化から計算して、高分子膜1に対して約240質量%であった。
【0058】
得られたプロトン伝導性高分子膜を用い、前述の方法によりイオン伝導度の温度依存性および発電特性を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例2)
3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン1.830g(6.575×10-3mole)、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸(純度98質量%)1.084g(4.405×10-3mole)、テレフタル酸0.360g(2.170mole)、ポリリン酸(五酸化リン含量75質量%)24.98g、五酸化リン20.02gを重合容器に量り取った。窒素を流し、オイルバス上ゆっくり撹拌しながら100℃まで昇温した。100℃で1時間保持した後、150℃に昇温して1時間、さらに200℃に昇温して5時間重合した。重合終了後放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いてpH試験紙が中性を示すまで水洗を繰り返した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.79を示した。
【0060】
得られたポリマー1gをNMP10gにオイルバス上で溶解し、ホットプレート上のガラス板にキャストし、フィルム状になるまでNMPを留去した後、水中に一晩以上浸漬した。得られたフィルムは、希硫酸(濃硫酸6ml、水300ml)中に1日以上浸漬した後、純水でさらに数回浸漬洗浄することで酸成分を除去し、22μmの厚みの高分子膜2を得た。
【0061】
この高分子膜2に実施例1と同様な方法によりビニルホスホン酸を添加し、プロトン伝導性高分子膜を得た。この時のビニルホスホン酸含有量は、質量変化から計算して、高分子膜2に対して約250質量%であった。このプロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様な方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行なった。結果を表1に記す。
【0062】
(実施例3)
3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン1.830g(6.575×10-3mole)、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム(純度99質量%)0.529g(1.973×10-3mole)、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸(純度98質量%)1.133g(4.602×10-3mole)、ポリリン酸(五酸化リン含量75質量%)24.98g、五酸化リン20.02gを重合容器に量り取った。窒素を流し、オイルバス上ゆっくり撹拌しながら100℃まで昇温した。100℃で1時間保持した後、150℃に昇温して1時間、さらに200℃に昇温して5時間重合した。重合終了後放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いてpH試験紙が中性を示すまで水洗を繰り返した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.21を示した。
【0063】
得られたポリマー1gをNMP10gにオイルバス上で溶解し、ホットプレート上のガラス板にキャストし、フィルム状になるまでNMPを留去した後、水中に一晩以上浸漬した。得られたフィルムは、希硫酸(濃硫酸6ml、水300ml)中に1日以上浸漬した後、純水でさらに数回浸漬洗浄することで酸成分を除去し、21μmの厚みの高分子膜3を得た。
【0064】
この高分子膜3に実施例1と同様な方法によりビニルホスホン酸を添加し、プロトン伝導性高分子膜を得た。この時のビニルホスホン酸含有量は、質量変化から計算して、高分子膜3に対して約210質量%であった。
【0065】
このプロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様な方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行なった。結果を表1に記す。
【0066】
(実施例4)
実施例1で得た高分子膜1をビニルホスホン酸(純度85質量%、東京化成株式会社)に70℃で12時間浸漬してビニルホスホン酸を添加したプロトン伝導性高分子膜を得た。この時のビニルホスホン酸含有量は、質量変化から計算して、高分子膜1に対して約180質量%であった。
【0067】
このプロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様な方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行なった。結果を表1に記す。
【0068】
(実施例5)
実施例1で得た高分子膜1をビニルホスホン酸(純度85質量%、東京化成株式会社)に90℃で7時間浸漬してビニルホスホン酸を添加したプロトン伝導性高分子膜を得た。この時のビニルホスホン酸含有量は重量変化から計算して、高分子膜1に対して約310質量%であった。
【0069】
このプロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様な方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行なった。結果を表1に記す。
【0070】
(比較例1)
米国特許第3313783号公報、米国特許第3509108号公報、米国特許第3555389号公報等に記載されている製造方法を参考として、ポリ−2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾールを得た。このポリマー1gをジメチルアセトアミド(DMAc)10gにオイルバス上で溶解し、ホットプレート上のガラス板にキャストし、フィルム状になるまでDMAcを留去した。さらに120℃で12時間真空乾燥しDMAcを完全に留去した20μmの厚みの高分子膜4を得た。
【0071】
この高分子膜4を、オルトリン酸(純度85質量%、東京化成株式会社)に室温にて3時間浸漬して、オルトリン酸を添加したプロトン伝導性高分子膜を得た。この時のオルトリン酸含有量は、質量変化から計算して、高分子膜4に対して約350質量%であった。
【0072】
得られたプロトン伝導性高分子膜について、実施例1と同様な方法によりイオン伝導度の温度依存性および燃料電池発電特性を測定した。結果を表2に示す。
【0073】
(比較例2)
比較例1で得た高分子膜4に、実施例1と同様な方法によりビニルホスホン酸を添加しプロトン伝導性高分子膜を得た。この時のビニルホスホン酸含有量は、質量変化から計算して、高分子膜4に対して約390質量%であった。
【0074】
このプロトン伝導性高分子膜を用いて、実施例1と同様な方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行なった。結果を表2に記す。
【0075】
(比較例3)
実施例1で得た高分子膜1を、室温にてオルトリン酸(純度85質量%、東京化成株式会社)に浸漬してオルトリン酸を添加することを試みたところ、高分子膜1は溶解してしまい以後の試験を行なうことが出来なかった。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1および表2に示した結果より、初期状態では、実施例1〜5および比較例1および2との間で、開回路電圧、電流密度0.3A/cm2の電圧のいずれについても大きな差は見られないものの、実施例1〜5においては比較例1および2と同等かそれ以上の値を示している。500時間経過後では、実施例1〜5の開回路電圧および電流密度0.3A/cm2の電圧は、比較例1および2と比べて高い値を示している。また、実施例1〜5の開回路電圧および電流密度0.3A/cm2の電圧の低下率はいずれも1%より小さいのに対し、比較例1および2においてはこれらの低下率が著しく高い値を示している。このことから、比較例1および2のプロトン伝導性高分子膜と比べて実施例1〜5のプロトン伝導性高分子膜においては劣化が抑制できていることが分かる。
【0079】
図1は、実施例1および比較例1における、イオン伝導度の温度依存性を示す図である。図1に示されるように、実施例1のプロトン伝導性高分子膜は、比較例1のプロトン伝導性高分子膜に比較して酸の含浸量が少ないにも関わらずイオン伝導性が同等であり、本発明のプロトン伝導性高分子膜が良好なイオン伝導性を有することが分かる。
【0080】
図2は、実施例1および比較例1における、測定初期の電流密度と電池電圧との関係を示す図である。図2に示されるように、実施例1のプロトン伝導性高分子膜は、比較例1のプロトン伝導性高分子膜に比較して酸の含浸量が少ないにも関わらず発電特性が若干向上しており、本発明のプロトン伝導性高分子膜が良好な燃料電池特性を有することが分かる。
【0081】
図3は、実施例1および比較例1における、開回路電圧および電流密度0.3A/cm2での電池電圧と、燃料電池の運転時間との関係を示す図である。図3に示されるように、比較例1については、運転時間が長時間になるにつれて、開回路電圧および電流密度0.3A/cm2の電圧のいずれも低下していくことがわかる。一方、実施例1についてはこれらの電圧の低下がほとんど見られず、本発明の燃料電池が良好な耐久性を有することが分かる。
【0082】
以上のように、本発明に係るプロトン伝導性高分子膜は電気特性および耐久性に優れていることが分かる。
【0083】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係るプロトン伝導性高分子膜により、高温無加湿条件で運転可能なプロトン伝導性膜であって、優れたプロトン伝導性を示すだけでなく、燃料電池を組み立てる際の加工性に優れるとともに、燃料電池としての耐久性においても十分な実用特性を示す新規な高分子電解質膜が提供される。上記の特性を生かし、本発明のプロトン伝導性高分子膜は、各種電池電解質、センサー、コンデンサー、電解膜等、幅広い用途で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例1および比較例1における、イオン伝導度の温度依存性を示す図である。
【図2】実施例1および比較例1における、測定初期の電流密度と電池電圧との関係を示す図である。
【図3】実施例1および比較例1における、開回路電圧および電流密度0.3A/cm2での電池電圧と、燃料電池の運転時間との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜にビニルホスホン酸を含有させてなるプロトン伝導性高分子膜。
【請求項2】
前記ポリベンズイミダゾール系化合物が、下記の構造式(1)、
【化1】

(式中、nは1から4の整数、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニット、R2は2価の芳香族結合ユニット、Zはスルホン酸基および/またはホスホン酸基を表す)
で示されるスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有構成要素を含む、請求項1に記載のプロトン伝導性高分子膜。
【請求項3】
前記ポリベンズイミダゾール系化合物が、下記の構造式(2)、
【化2】

(式中、Xは、直接結合,−O−,−SO2−,−S−,−CO−,−C(CH32−,−C(CF32−,−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上の結合様式を表し、Arは芳香族ユニットから選ばれる1種以上の結合様式、Phは芳香族結合ユニット、Yはスルホン酸基、ホスホン酸基から選ばれる1種以上の官能基であり、すべてが酸の形態であっても一部またはすべてが誘導体の形態であっても良く、nは1から4までの整数を表すものとする)
で示されるスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有構成要素を含む、請求項1に記載のプロトン伝導性高分子膜。
【請求項4】
前記ポリベンズイミダゾール系化合物に対してビニルホスホン酸が10質量%〜1000質量%の範囲内で含有されている請求項1〜3のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子膜の製造方法であって、前記高分子膜をビニルホスホン酸またはビニルホスホン酸を含む溶液に浸漬する工程を含む、プロトン伝導性高分子膜の製造方法。
【請求項6】
酸素極と、燃料極と、固体高分子電解質膜と、酸化剤配流板と、燃料配流板とからなる単位セルを有し、
前記固体高分子電解質膜は、前記酸素極および前記燃料極に挟持され、
前記酸化剤配流板は、酸素極側に設けられて酸化剤流路を形成し、
前記燃料配流板は、燃料極側に設けられて燃料流路を形成し、かつ、
前記固体高分子電解質膜が請求項1〜4のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子膜である、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−339065(P2006−339065A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163982(P2005−163982)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】