説明

プロリルエンドペクチダーゼ阻害剤

【課題】 プロリルエンドペプチダーゼに対して優れた阻害活性を有し、かつ生体に対する安全性が向上した、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤を提供すること。
【解決手段】 生体内でのプロリルエンドペプチダーゼ活性を阻害し得る、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤が開示されている。本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ、サガラメ、ツルアラメ、クロメ、カジメ、ワカメ、アオワカメ、ヒロメ、アイヌワカメ、およびチガイソ;褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ、ヒジキ、およびアカモク;褐藻類まがまつも目もずく科のモズクおよびオキナワモズク;および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻由来の抽出物を有効成分として含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤に関し、より詳細には、生体に対する安全性が向上したプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プロリルエンドペプチダーゼ(EC 3.4.21.26)はペプチド鎖中のプロリン残基におけるカルボキシル基側のペプチド結合を特異的に認識し、切断するペプチダーゼである。プロリルエンドペプチダーゼは、記憶の固定場所とされている脳の海馬部分にて高い酵素活性にて存在し、かつ動物臓器に広く分布することが知られている。また、同様の酵素は、Flavobacterium属に属する細菌からも発見されている。
【0003】
プロリルエンドペプチダーゼは、神経伝達物質であると言われるサブスタンスPおよびニューロテンシン、記憶に関係していると考えられているTHR(甲状腺刺激ホルモン)、ならびにステップスルー型受動的回避学習法で記憶保持活性を有すると言われる脳内バソプレシンに作用し、これらを不活性化させることが知られている。バソプレシンは腎臓で水分再吸収に働くペプチドホルモンであるが、脳内においては学習および記憶の過程にも関与しており、このホルモンが分解され、不活性化されると記憶保持に障害が現れると言われている。また、痴呆患者のバソプレシン量は、正常人のものよりも少ないことが知られている。近年、このようなプロリルエンドペプチダーゼの活性を阻害することにより、痴呆症を予防または治療するための研究が行われている。
【0004】
従来では、Z−Gly−Pro−CHCl、Z−Pro−prolinal、Z−Val−prolinal、Boc−Pro−prolinalなどの合成されたプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤が抗健忘作用を示すことが動物試験によって確認されている。また、通常の有機化学的な合成手法を利用してアミノ酸を段階的に導入する方法、天然タンパク質の酵素加水分解方法、加水分解酵素の逆反応を利用したペプチド合成法、遺伝子工学的方法等によって、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤が製造され得ることも開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤に製造おいて、このような合成方法等を用いることは高度かつ複雑な技術または技能を要することが多く、必ずしも当該阻害剤の汎用性をさらに向上させ得るものということはできない。これに対し、近年では、食品または食品成分由来のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤が開示されている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0006】
このような従来の食品または食品成分由来のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、汎用性を高めることができ、かつ生体に対する安全性をも向上させることができる。しかし、これらのプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、その阻害活性が未だ充分な状態にまで達しているとは言えず、かつ他の食品または食品成分由来のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤の開発が期待されている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−331072号公報
【特許文献2】特開平10−77300号公報
【特許文献3】特開2002−80497号公報
【特許文献4】特開2000−325042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、プロリルエンドペプチダーゼに対して優れた阻害活性を有し、かつ生体に対する安全性が向上した、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ((Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻由来の抽出物を有効成分として含有する、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤である。
【0010】
1つの実施形態では、上記抽出物は、溶媒として水を用いた上記海藻由来の粗抽出物を含有する50(v/v)%以上のC1〜C3アルコール液の上清から得られた抽出物である。
【0011】
さらなる実施形態では、上記抽出物は、上記上清の濃縮物を、40(v/v)%から90(v/v)%のC1〜C3アルコール水溶液を用いるカラムクロマトグラフィーにかけることにより得られた画分由来の抽出物である。
【0012】
さらなる実施形態では、上記カラムクロマトグラフィーに用いる吸着剤はスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤である。
【0013】
本発明はまた、海藻由来の抽出物を有効成分として含有するプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤であって、該抽出物が該抽出物に含まれる固形分の重量を基準としてフロロタンニンを15重量%以上の割合で含有する、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤である。
【0014】
本発明はまた、フロロタンニンを有効成分として含有する、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤である。
【0015】
1つの実施形態では、上記フロロタンニンは海藻由来である。
【0016】
本発明はまた、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤の製造方法であって、褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ((Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻を、60℃から100℃の水中で抽出して粗抽出物を得る工程;
該粗抽出物に、C1〜C3アルコールまたはC1〜C3アルコール水溶液と合わせて、50(v/v)%以上の該アルコールを含有するアルコール液を得る工程;ならびに
該アルコール液の上清を分取する工程;
を包含する、方法である。
【0017】
1つの実施形態では、さらに、上記上清を濃縮して、該上清の濃縮物を得る工程;および該上清の濃縮物を、40(v/v)%から90(v/v)%のC1〜C3アルコール水溶液を用いるカラムに通す工程;を包含する。
【0018】
さらなる実施形態では、上記カラムはスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤を含有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プロリルエンドペプチダーゼ活性をより効果的に阻害し得るとともに、生体に対する安全性をも向上させることができる。このため、本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は日常的な使用がより可能となり、食品分野、医薬分野などの分野において汎用性を高めることができる。本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤はまた、アルツハイマー症のような神経細胞疾患性痴呆症、非神経細胞疾患性痴呆症などの脳機能障害に対する予防または治療の目的に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず、本発明の第一のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤について説明する。
【0021】
本発明の第一のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、海藻由来の抽出物を有効成分として含有する。
【0022】
本発明に用いられる海藻の例としては、褐藻類のこんぶ目こんぶ科、褐藻類こんぶ目ちがいそ科、褐藻類ひばまた目ほんだわら科、褐藻類ながまつも目もずく科、または紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻が挙げられる。
【0023】
上記海藻に包含される、具体的な例としては、褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ(Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);ならびに紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;が挙げられる。本発明に用いられる海藻としては、特に、海藻自体の生産量が比較的多く入手が容易であり、かつ後述するプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有する抽出物の画分がより得られ易いという理由から、アラメ、クロメ、ワカメ、ヒジキが好ましい。
【0024】
本明細書において、海藻とは、これらの海藻の全草自体、あるいは根、茎、および葉を包含する少なくとも一つの部位を包含していう。本発明に用いられる海藻の形態は、未加工のもの、断片、細片または粉末を包含する。さらに、本発明に用いられる海藻は、乾燥物または生の状態のもののいずれをも包含する。
【0025】
また、本発明において、抽出物とは、上記のような海藻を、水、極性または非極性の溶媒、あるいはこれらの混合物を抽出溶媒として用い適切な条件で抽出された抽出物を意味する。抽出物の形態は特に限定されず、抽出液、あるいは当該抽出液を当業者が通常用いる手段により濃縮または乾燥して得られる粉末またはペースト状物も含まれる。
【0026】
本発明に用いられる海藻由来の抽出物は、例えば、溶媒として水(好ましくは、熱水)を用い、上述したような種類の海藻由来の粗抽出物を含有するC1〜C3アルコール液の上清から得られたものである。より具体的には、後述するような操作を通じて、上記海藻から粗抽出物を得、次いで、これに、メタノール、エタノールまたはプロパノール、あるいはそれらの組合わせのような、1個〜3個の炭素原子数を有するアルコールまたは当該アルコール水溶液と合わせた、50%(v/v)%以上、より好ましくは60(v/v)%以上98(v/v)%以下のC1〜C3アルコール液から、上清を分取して得ることができる。本発明において、上記上清を得るために調製されるC1〜C3アルコール液の濃度は、このような範囲において、当業者は任意に濃度を設定することができる。すなわち、使用する海藻の種類、使用部位、産地、採取時期、採取後の保存状態等によって、本発明において重要なプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有する成分含量が変動することがある。また、後述する一連の抽出操作においても、得られる成分含量に誤差が生じることもある。よって、当業者は、このような条件に応じて、上記上清を得るために調製されるC1〜C3アルコール液の濃度をこのような範囲内で任意に設定することができる。このC1〜C3アルコール液を調製するために使用されるアルコールはエタノールであることが好ましい。
【0027】
本発明の第一のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤において、上記上清は、当該上清に含まれる固形分の重量を基準として、フロロタンニンを好ましくは15重量%以上、より好ましくは18重量%〜100重量%、さらにより好ましくは30重量%〜99重量%、さらにより好ましくは60重量%〜99重量%、さらにより好ましくは70重量%〜99重量%の割合で含有する。ここで、本明細書中に用いられる用語「上清に含まれる固形分の重量」とは、上記上清を構成する液体成分を取除く(例えば、蒸発させる)ことにより、固体成分として残存し得る物質の重量を指して言う。当該上清がこのような範囲内におけるフロロタンニン含量を満足することにより、プロリルエンドペプチダーゼに対する阻害剤としての作用が著しく向上する。なお、本明細書中に用いられる用語「フロロタンニン」とは、一般に海藻タンニンとも呼ばれるポリフェノールの一種であり、フロログルシノールを基本骨格単位とする、フロロタンニン類全体を包含する化合物を指して言う。本発明に用いられ得るフロロタンニンは、1種の当該フロロタンニン類または複数の当該フロロタンニン類でなる混合物のいずれをも包含する。
【0028】
次に、本発明の第二のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤について説明する。
【0029】
本発明の第二のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、海藻由来の抽出物を有効成分として含有し、該抽出物が該抽出物に含まれる固形分の重量を基準としてフロロタンニンを15重量%以上、好ましくは18重量%〜100重量%、より好ましくは30重量%〜99重量%、さらにより好ましくは60重量%〜99重量%、さらにより好ましくは70重量%〜99重量%の割合で含有する。ここで、本明細書中に用いられる用語「抽出物に含まれる固形分の重量」とは、上記抽出物を構成する液体成分を取除く(例えば、蒸発させる)ことにより、固体成分として残存し得る物質の重量を指して言う。
【0030】
本発明の第二のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、海藻中に含まれるフロロタンニンが上記範囲で含有されている。よって、この含有量の範囲を満足する限りにおいて、使用され得る海藻の種類は特に限定されない。本発明の第二のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤に含まれる抽出物として使用可能な海藻の例としては、褐藻類または紅藻類に属する海藻が挙げられる。また、これら褐藻類または紅藻類のより具体的な例としては、褐藻類のこんぶ目こんぶ科、褐藻類こんぶ目ちがいそ科、褐藻類ひばまた目ほんだわら科、褐藻類ながまつも目もずく科、または紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻が挙げられるが、これらもまた特に限定されない。
【0031】
本発明の第二のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤に用いられ得る海藻のさらに具体的な例としては、上記本発明の第一のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤に用いられる海藻と同様のものが包含される。
【0032】
本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤において、当該阻害剤に用いられる海藻由来の抽出物は、例えば、以下のようにして製造される。
【0033】
まず、上記海藻を水(好ましくは、熱水)中に所定時間浸漬することにより、粗抽出物が製造される。
【0034】
この浸漬における当該海藻と水との量比は特に限定されないが、例えば、海藻100g(乾燥重量)に対して、好ましくは1リットル〜10リットル、より好ましくは2リットル〜5リットルの水が使用される。
【0035】
なお、この操作において熱水が使用される場合、当該熱水の温度(抽出温度)は、好ましくは60℃〜100℃、より好ましくは80℃〜100℃、さらにより好ましくは90℃〜100℃である。なお、上記海藻を浸漬している間は、本発明に用いられる有効成分がより抽出し易くする目的で、熱水の温度を低下させることのないよう、当業者に公知の手段を用いて加熱することにより温度を維持することが好ましい。
【0036】
水中に浸漬する時間(抽出時間)は、使用する抽出温度によって変化するため、必ずしも限定されないが、例えば、溶媒として熱水を用い、その温度をほぼ100℃に維持する場合、好ましくは1分〜120分、より好ましくは10分〜60分である。抽出時間をこのような範囲内で行うことにより、本発明に用いられる有効成分がより効率良く抽出され得るとともに、不要物の過度の抽出を防止することができる。
【0037】
上記浸漬の後、例えば、室温まで放冷され、濾過または遠心分離により海藻が取り除かされる。こうして粗抽出物を得ることができる。なお、得られた粗抽出物は、その後、予め不純物を除去する目的で、ヘキサン、クロロホルムなどの有機溶媒と合わせ、有機層が取り除かれた水層由来のものであってもよい。さらに、得られた粗抽出物は、後述の工程に対し、そのまま用いられてもよく、あるいは必要に応じ、当業者に公知の手段を用いて水分を蒸発させた乾固物またはペースト状物の形態で用いられてもよい。
【0038】
次いで、当該粗抽出物にC1〜C3アルコールまたはC1〜C3アルコール水溶液が合わされ、好ましくは50(v/v)%以上、より好ましくは60(v/v)%〜98(v/v)%の当該アルコール濃度を有するC1〜C3アルコール液が調製される。なお、調製されるC1〜C3アルコール液の濃度は、このような範囲において、当業者によって任意に設定され得る。
【0039】
より具体的には、当該粗抽出物を、1個〜3個の炭素原子を有するアルコールまたは所定濃度に調製された1個〜3個の炭素数を有するアルコール水溶液(含水アルコール)と合わすことにより、上記のようなアルコール濃度を有するC1〜C3アルコール液が調製される。このような操作において使用可能な1個〜3個の炭素原子を有するアルコールの例としては、メタノール、エタノールおよびプロパノール、ならびにそれらの組合わせが挙げられる。生体に対する安全性をさらに向上させることを考慮すれば、エタノールを用いることが好ましい。このようなアルコールまたは含水アルコールの使用量は、合わせる粗抽出物の量によって変化するため特に限定されない。
【0040】
その後、このC1〜C3アルコール液の上清が分取される。
【0041】
上記アルコール濃度に設定されたアルコール液を調製することにより、当該アルコール液に不溶な物質が沈殿する場合がある。上清の分取は主にこの沈殿物を除去する目的で行われ、上清は当業者に周知の方法(例えば、濾過または遠心分離)によって取り出すことができる。
【0042】
このようにして本発明に用いられる海藻由来の抽出物を製造することができる。なお、得られた海藻由来の抽出物は、本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を高める目的で精製が行われてもよい。この精製は、例えば、上記で得られた上清を、当業者に周知の手段を用いて濃縮した後、好ましくは40(v/v)%〜90(v/v)%、より好ましくは50(v/v)%〜80(v/v)%のC1〜C3アルコール(好ましくはエタノール)水溶液を用いるカラムに通すことによって行われる。このカラムクロマトグラフィーに有用な吸着剤は、好ましくは芳香族系吸着剤であり、より具体的な例としては、スチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤が挙げられる。スチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤は、例えば、ダイヤイオンHP20という商品名で三菱化学(株)より市販されている。なお、本発明においては、β−グルクロニダーゼ阻害活性をさらに高める目的で、上記C1〜C3アルコール水溶液を用いる精製を行う前に、上記カラムに対し、水(例えば、蒸留水)を用いて予備的な精製を行うことが好ましい。さらに、この水を用いる予備的な精製は複数回に分けて行うことが好ましい。
【0043】
上記クロマトグラフィーを行うことにより、さらにプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性が高められた画分を抽出することができる。得られた画分は、本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤としてそのまま使用することができる。
【0044】
本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、経口による投与または摂取を目的としたもの、あるいは静脈注射または経皮吸収のような非経口による投与を目的としたもののいずれの目的にも使用することができる。
【0045】
本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤はまた、有効成分である上記海藻由来の抽出物以外に、目的に応じて他の成分を含有していてもよい。本発明に含有され得る他の成分の例としては、水;アルコール;食肉加工品;米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、スイートポテト、大豆、コンブ、ワカメ、テングサなどの一般食品材料およびそれらの粉末;デンプン、水飴、乳糖、グルコース、果糖、スクロース、マンニトールなどの糖類;香辛料、甘味料、食用油、ビタミン類などの一般的な食品添加物;界面活性剤;賦形剤;着色料;保存料;コーティング助剤;ラクトース;デキストリン;コーンスターチ;ソルビトール;結晶性セルロース;ポリビニルピロリドン;油分;保湿剤;増粘剤;防腐剤;香料;ならびにこれらの組合わせが挙げられる。本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤はさらに、必要に応じて他の薬剤(例えば、漢方薬を包含する)を含有していてもよい。このような他の成分および/または他の薬剤の含有量は、特に限定されず、当業者によって適切な量が選択され得る。
【0046】
さらに、本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、必ずしもインビボまたはインビトロのいずれに限定されることなく、プロリルエンドペプチダーゼ活性の阻害を必要とする任意の用途において広範に利用され得る。すなわち、本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、特に限定されないが、例えば、健康食品などの食品組成物に添加される添加物の一種として使用されてもよく、家畜または養殖魚などの生産分野に利用される飼料組成物として、そのままあるいは他の飼料用材料と組合わせて使用されてもよく、あるいは医薬品、医薬部外品などの医薬組成物として、そのままあるいは他の医薬組成物と組合わせて使用されてもよい。
【0047】
本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤が食品組成物として使用される場合、その形態には固定食品に限定されず、飲料(例えば、液体飲料)のようなものを包含される。より具体的な例としては液状、ペースト状、固形状等の形態でなる、茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、乳飲料、菓子類、シロップ類、果実加工品、野菜加工品、漬物類、畜肉製品、魚肉製品、珍味類、缶・ビン詰類、即席飲食物、内服液、肝油ドロップ、口中清涼剤、ゼリーなどが挙げられるが特にこれらに限定されない。本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤を含有するこのような食品組成物は、当業者に公知の手法を用いて製造され得る。
【0048】
本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤が医薬組成物として使用される場合、その投与剤形は特に限定されず、日本薬局方に記載の方法にしたがって適切な剤形に加工される。投与剤形のより具体的な例としては、経口投与を目的とする医薬組成物の場合、カプセル剤、錠剤、粉剤、顆粒剤、細粒剤、徐放剤などの剤形が挙げられ、そして非経口投与を目的とする医薬組成物の場合、注射剤、輸液剤などの剤形が挙げられる。用量は、対象となる者の体重等の条件によって容易に変動し得るため、当業者によって適宜選択され得る。
【0049】
本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、その使用形態に応じて当該分野で通常用いる方法によって製造され、その形態に応じた方法で適宜に適量摂取または適用することができる。
【0050】
プロリルエンドペプチダーゼ(EC 3.4.21.26)はプロリンに特異性を有し、そのカルボキシル基側でペプチドを切断するセリンプロテアーゼである。上記のように、生体内のバソプレシン量は当該プロリルエンドペプチダーゼの分解によって低減し、痴呆症の発症または進行に関与することが知られている。本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、このようなプロリルエンドペプチダーゼ自体が有する活性を阻害することにより、例えば、バソプレシンの分解を防止することができる。このことにより、本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、痴呆症の予防または治療用途のために利用することができる。
【0051】
さらに、プロリルエンドペプチダーゼは、例えば、リューマチ性変形関節炎(Biochem.Biophys.Res.Commun.,2001年,第2巻,第283号,pp.334−339)および遅延型アレルギー性炎症病巣(Biochem.Biophys.Res.Commun.,2004年,第1巻,第316号,pp.78−84)に罹患した人の細胞中で上昇することが報告されている。また、腸内細菌などの人の粘膜上に生息する微生物は、プロリルエンドペプチダーゼを多量に産生し、人粘膜抗体IgAを分解し、その免疫能力を無効にしていることが報告されている(J.Biol.Chem.,2002年,第14巻,第277号,pp.11987−11994)。本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、プロリルエンドペプチダーゼ活性を阻害することにより、このような疾患の予防または治療、当該微生物の増殖抑制、または当該微生物のプロリルエンドペプチダーゼ活性の抑制に利用することもできる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は制限されるものではない。
【0053】
<実施例1:アラメを用いた海藻熱水抽出物および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物の製造>
凍結乾燥した10gのアラメをミキサーにかけ、乾燥粉末を調製した。この乾燥粉末4gに80mlの蒸留水を添加し、100℃にて10分間加熱して抽出を行った。次いで、抽出残渣を濾過にて取除いて得た、熱水抽出画分20mlを凍結乾燥して海藻熱水抽出物(A1)を得た。他方、20mlの上記熱水抽出画分を別に取り、これに同量のエタノールを添加し、生じた沈殿を濾過により取除くことにより、50%エタノール可溶化画分を得た。得られた50%エタノール可溶化画分を減圧下にて濃縮し、残渣を20mlの蒸留水に溶解した後、凍結乾燥して海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B1)を得た。
【0054】
<実施例2:ワカメメカブを用いた海藻熱水抽出物および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物の製造>
凍結乾燥したアラメの代わりに、凍結乾燥した10gのワカメメカブを用いたこと以外は実施例1と同様にして熱水抽出画分を得、かつ当該熱水抽出画分から実施例1とそれぞれ同様にして、海藻熱水抽出物(A2)および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B2)を得た。
【0055】
<実施例3:ヒジキを用いた海藻熱水抽出物および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物の製造>
凍結乾燥したアラメの代わりに、凍結乾燥した10gのヒジキを用いたこと以外は実施例1と同様にして熱水抽出画分を得、かつ当該熱水抽出画分から実施例1とそれぞれ同様にして、海藻熱水抽出物(A3)および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B3)を得た。
【0056】
<実施例4:アカモクを用いた海藻熱水抽出物および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物の製造>
凍結乾燥したアラメの代わりに、凍結乾燥した10gのアカモクを用いたこと以外は実施例1と同様にして熱水抽出画分を得、かつ当該熱水抽出画分から実施例1とそれぞれ同様にして、海藻熱水抽出物(A4)および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B4)を得た。
【0057】
<実施例5:オキナワモズクを用いた海藻熱水抽出物および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物の製造>
凍結乾燥したアラメの代わりに、凍結乾燥した10gのオキナワモズクを用いたこと以外は実施例1と同様にして熱水抽出画分を得、かつ当該熱水抽出画分から実施例1とそれぞれ同様にして、海藻熱水抽出物(A5)および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B5)を得た。
【0058】
<実施例6:ホンダワラを用いた海藻熱水抽出物および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物の製造>
凍結乾燥したアラメの代わりに、凍結乾燥した10gのホンダワラを用いたこと以外は実施例1と同様にして熱水抽出画分を得、かつ当該熱水抽出画分から実施例1とそれぞれ同様にして、海藻熱水抽出物(A6)および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B6)を得た。
【0059】
<実施例7:スギノリを用いた海藻熱水抽出物および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物の製造>
凍結乾燥したアラメの代わりに、凍結乾燥した10gのスギノリを用いたこと以外は実施例1と同様にして熱水抽出画分を得、かつ当該熱水抽出画分から実施例1とそれぞれ同様にして、海藻熱水抽出物(A7)および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B7)を得た。
【0060】
<実施例8:プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性の測定1>
Z−Gly−Pro−pNA(BACHEM社製)を40%のジオキサン/0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、2mMのZ−Gly−Pro−pNA溶液を調製した。他方、プロリルエンドペプチダーゼ(フラボバクテリウム由来/生化学工業(株)製)を、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、0.25ユニット/mlのプロリルエンドペプチダーゼ溶液を調製した。さらに、実施例1〜7で得られた海藻熱水抽出物(A1)〜(A7)および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B1)〜(B7)を10mgづつ量りとり、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解して、10mg/mlのサンプル溶液をそれぞれ調製した。得られたサンプル溶液について、海藻熱水抽出物(A1)〜(A7)および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B1)〜(B7)の最終濃度が800μg/mlとなるように、それぞれ必要に応じて適量の0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈し、評価サンプル溶液とした。
【0061】
0.45mlの0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)、0.05mlの評価サンプル溶液(ただし、コントロールの場合は0.05mLの0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)を代用した)、および0.5mlのZ−Gly−Pro−pNA溶液(2mM)を試験管に入れ、37℃で予め加温した。これに、0.25mlの0.25ユニット/mlプロリルエンドペプチダーゼ溶液(ただし、ブランクの場合は0.25mlの0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)を代用した)を添加した反応液をそれぞれ調製し、37℃にて20分間かけて酵素反応を行った。その後、0.5mlの1N塩酸で反応を停止し、各反応液における波長405nmの吸光度を分光光度計にて測定した。コントロールの吸光度Ac、反応停止後の評価サンプル溶液の吸光度Asとして、ならびに対応するそれぞれのブランクの吸光度をAcbおよびAsbとして、下記式にてプロリルエンドペプチダーゼ阻害率(%)を算出した:
【0062】
【数1】

【0063】
実施例1〜7で得られた海藻熱水抽出物(A1)〜(A7)および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B1)〜(B7)に対する上記プロリルエンドペプチダーゼ阻害率(%)を表1および表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1および表2に示されるように、 実施例1〜7で得られた海藻熱水抽出物(A1)〜(A7)および海藻熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B1)〜(B7)はいずれも、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤としての優れたプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有していることがわかる。
【0067】
<実施例9:アラメ画分の製造>
凍結乾燥した100gのアラメをミキサーにかけ、乾燥粉末を調製した。これに、2Lの蒸留水を添加し、100℃にて10分間加熱して抽出を行い、抽出残渣を濾過にて取除いて、熱水粗抽出物(700ml)を得、これにエタノールを添加して90(v/v)%のエタノール液に調製した。
【0068】
その後、得られたエタノール液を濾過して上清のみを取出した。次いで、この上清を減圧濃縮して、350mlのエタノール可溶画分を得た。このエタノール可溶画分を350mlのクロロホルムと合わせ分液抽出して得られた水層のうち、50mlをスチレン−ジビニルベンゼン吸着剤(三菱化学(株)製ダイヤイオンHP20)を含有するカラム(φ3.8cm×30cm)に充填し、溶出液として、(F1)蒸留水(500ml)、(F2)蒸留水(500mL)、(F3)30(v/v)%エタノール水溶液(500ml)、(F4)60(v/v)%エタノール水溶液(500ml)、および(F5)100(v/v)%エタノール(500ml)を用いて順次溶出し、粗画分(F1)、(F2)、(F3)、(F4)および(F5)をそれぞれ500ml分割収集した。次いで、粗画分(F1)、(F2)、(F3)、(F4)および(F5)の溶媒をそれぞれ減圧下にて留去した後、再度40mlの蒸留水に溶解または再懸濁して凍結乾燥し、アラメ画分(F1)、(F2)、(F3)、(F4)および(F5)をそれぞれ得た。
【0069】
<実施例10:プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性の測定2>
Z−Gly−Pro−pNA(BACHEM社製)を40%のジオキサン/0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、2mMのZ−Gly−Pro−pNA溶液を調製した。他方、プロリルエンドペプチダーゼ(フラボバクテリウム由来/生化学工業(株)製)を、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、0.25ユニット/mlのプロリルエンドペプチダーゼ溶液を調製した。さらに、実施例9で得られたアラメ画分(F1)、(F2)、(F3)、(F4)および(F5)を10mgづつ量りとり、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解して、10mg/mlのサンプル溶液をそれぞれ調製した。得られたサンプル溶液について、アラメ画分(F1)、(F2)、(F3)、(F4)および(F5)の最終濃度が1μg/mlとなるように、それぞれ必要に応じて適量の0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈し、評価サンプル溶液とした。
【0070】
得られた各評価サンプル溶液について、実施例8と同様にして当該評価サンプル溶液の阻害率(%)を算出した。得られた阻害率の結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示されるように、実施例9で得られたアラメ画分(F1)、(F2)、(F3)、(F4)および(F5)はいずれも、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤として使用可能なプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有していることがわかる。特に、エタノールまたはその水溶液で溶出して得たアラメ画分(F3)、(F4)および(F5)は優れたプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有し、特に60(v/v)%付近のエタノール水溶液においてその阻害率(%)が著しく向上することがわかる。
【0073】
さらに、上記アラメ画分(F4)を用いて調製した評価サンプル液を、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて、1/2段階希釈を行って複数のサンプル液を調製し、これら複数のサンプル液のそれぞれについて、上記と同様にして阻害率(%)を算出した。その後、プロリルエンドペプチダーゼの50%阻害率を達成する濃度(IC50)を求めた。得られたIC50値は、280ng/mlであった。
【0074】
<実施例11:フロロタンニンの定量>
実施例9で得られたアラメ画分(F4)100mgを正確に量りとり、当該画分の総フロロタンニン量を、フロログルシノールを標準物質として用いるFolin−Denis法(日本食品科学工学会誌,2002年,第49巻,pp.507−511)により測定した。得られたそれぞれの総フロロタンニン量は、89.4%であった。このことから、実施例10において最もプロリルエンドペプチダーゼ阻害率が高い値を示した当該アラメ画分(F4)には、高濃度のフロロタンニンが含有されていることが見出された。
【0075】
<実施例12:アラメ抽出物の7日間反復投与による抗健忘作用>
アラメ抽出物の7日間反復投与による抗健忘作用を確認するために、実施例1で得られた海藻(アラメ)熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(B1)を使用した。
【0076】
抗健忘作用の測定を、1試行ステップ−スルー(step−through)受動的回避実験法にしたがって、以下のように実施した。
【0077】
5週齢のマウスを検討開始日の体重を指標にして、層別無作為化法にて各群の平均体重が等しくなるよう10匹を1群として、G1群およびG2群の合計2群に群分けした。群分け後、G1群のマウス(コントロール)には、被験物質として1%カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液を体重10gあたり0.3mlの割合にて、1日あたり1回経口投与し、これを7日間継続した。他方、G2群のマウスには、被験物質として実施例1で得られた海藻(アラメ)熱水抽出50%エタノール可溶抽出物(本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤)を10mg/mlの割合で含有する1%CMC水溶液を体重10gあたり0.3mlの割合にて、1日あたり1回経口投与し、これを7日間継続した。
【0078】
その後、0.05mg/mlのスコポラミン(SCOP)水溶液を、体重10gあたり0.1mlの割合で、G1群およびG2群の各マウスに対し、被験物質の最終投与の60分後にそれぞれ腹腔内投与した。
【0079】
SCOPを投与して30分間が経過した後、G1群およびG2群の各マウスについて、まず、照度480ルクスの蛍光灯照明下にて、以下の獲得試行を行った:すなわち、暗室側の床グリッドにショックジェネレータスクランブラー(NS−SG01、(株)ニューロサイエンス製)を用いて1mAのスクランブル電撃を与え続けた状態にある、マウス用明暗分別測定装置((株)ニューロサイエンス製)の明室側に、当該マウスを1匹ずつ収容した。収容後から各マウスが暗室に入るまでの時間(潜時)を、デジタルストップウォッチ(SO51、セイコー(株)製)で測定した(なお、この獲得試行における潜時の測定は最大300秒までとし、暗室の移動がそれ以上の時間となったものについては測定を行わなかった)。G1群のマウスおよびG2群のマウスについて、当該獲得試行において得られた潜時の平均値を比較したところ、両者に優位な差は見出されなかった。本能的に暗室に移動したマウスは、いずれも暗室の床グリッドに与えられたスクランブル電撃に応答し、明室に再び移動したことを確認した。
【0080】
次いで、上記獲得試行を行ったG1群およびG2群の各マウスについて、照度480ルクスの蛍光灯照明下にて、以下の保持試行を行った:すなわち、上記獲得試行を行ったマウスを、当該獲得試行から24時間経過後、上記マウス用明暗分別測定装置の明室側に1匹ずつ収容し、収容後から当該マウスが暗室に入るまでの時間(潜時:秒)を上記と同様にして測定した(なお、この保持試行における潜時の測定は最大300秒までとし、暗室の移動がそれ以上の時間となったものについては測定を行わなかった)。G1群のマウスおよびG2群のマウスについて、当該保持試行において得られた潜時の平均値を算出した。得られた結果を図1に示す。
【0081】
図1に示されるように、コントロールであるG1群のマウスと比較して、実施例1で得られた海藻(アラメ)熱水抽出50%エタノール可溶抽出物を投与したG2群のマウスは、保持試行における潜時が著しく上昇していたことがわかる。このことから、本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、生体内における抗健忘作用に有効であることがわかる。
【0082】
<実施例13:食品組成物の調製>
上記実施例9で得られたアラメ画分(F4)を用いて、以下の組成を有する食品組成物を調製した。
【0083】
成分 重量(g)
アラメ画分(F4) 0.6
大豆サポニン 2.0
黒酢エキス 2.0
リンゴファイバー 2.0
レシチン 1.0
フラクトオリゴ糖 2.0
果糖 1.0
粉末酢 0.1
シクロデキストリン 1.0
蜂蜜 1.0
骨粉 1.0
デキストリン 4.9。
【0084】
各成分を流動造粒機中で混合した後、水を噴霧して造粒を行い、入風温度80℃で乾燥して、顆粒状食品を得た。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤は、食品として用いられ得る海藻の抽出物を有効成分として使用するため、安全性が高く、日常的な使用が可能であり、食品、医薬品などに利用され得る。本発明のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤はまた、プロリルエンドペプチダーゼ活性を阻害することにより、生体内のバソプレシンの分解を防止することができ、その結果、アルツハイマー型痴呆のような健忘症に対する予防または治療の目的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】実施例12の1試行ステップ−スルー受動的回避実験法で得られた、G1群のマウス(コントロール)とG2群のマウス(海藻(アラメ)熱水抽出50%エタノール可溶抽出物を投与)との保持試行における潜時の平均値を示す、グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ((Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻由来の抽出物を有効成分として含有する、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記抽出物が、溶媒として水を用いた前記海藻由来の粗抽出物を含有する50(v/v)%以上のC1〜C3アルコール液の上清から得られた抽出物である、請求項1に記載のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤。
【請求項3】
前記抽出物が、前記上清の濃縮物を、40(v/v)%から90(v/v)%のC1〜C3アルコール水溶液を用いるカラムクロマトグラフィーにかけることにより得られた画分由来の抽出物である、請求項2に記載のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤。
【請求項4】
前記カラムクロマトグラフィーに用いる吸着剤がスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤である、請求項3に記載のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤。
【請求項5】
海藻由来の抽出物を有効成分として含有するプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤であって、該抽出物が該抽出物に含まれる固形分の重量を基準としてフロロタンニンを15重量%以上の割合で含有する、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤。
【請求項6】
フロロタンニンを有効成分として含有する、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤。
【請求項7】
前記フロロタンニンが海藻由来である、請求項6に記載のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤。
【請求項8】
プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤の製造方法であって、
褐藻類こんぶ目こんぶ科のマコンブ(Laminaria japonica)、褐藻類こんぶ目ちがいそ科のアラメ(Eisenia bicyclis)、サガラメ(Eisenia arborea)、ツルアラメ(Ecklonia stlonifera)、クロメ(Ecklonia kurome)、カジメ(Ecklonia cava)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、アオワカメ(Undaria peterseniana)、ヒロメ(Undaria undarioides)、アイヌワカメ((Alaria praelomga)、およびチガイソ(Alaria crassifolia);褐藻類ひばまた目ほんだわら科のホンダワラ(Sargassum fuluvellum)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、およびアカモク(Sargassum horneri);褐藻類まがまつも目もずく科のモズク(Nemacystus decipieus)およびオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus);および、紅藻類スギノリ目すぎのり科に属する海藻;からなる群より選択される少なくとも1種の海藻を、60℃から100℃の水中で抽出して粗抽出物を得る工程;
該粗抽出物に、C1〜C3アルコールまたはC1〜C3アルコール水溶液と合わせて、50(v/v)%以上の該アルコールを含有するアルコール液を得る工程;ならびに
該アルコール液の上清を分取する工程;
を包含する、方法。
【請求項9】
さらに、前記上清を濃縮して、該上清の濃縮物を得る工程;および該上清の濃縮物を、40(v/v)%から90(v/v)%のC1〜C3アルコール水溶液を用いるカラムに通す工程;を包含する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記カラムがスチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤を含有する、請求項9に記載の方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−96709(P2006−96709A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285628(P2004−285628)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】