説明

プローブカード用セラミック配線基板およびこれを用いたプローブカード

【課題】 配線抵抗が低く、熱負荷試験時において、プローブカード用セラミック配線基板に設けられたプローブピンとSiウエハの表面に形成された測定パッドとの位置ずれが小さく、電気特性の検査に好適に使用できるプローブカード用セラミック配線基板とこれを用いたプローブカードを提供する。
【解決手段】 プローブカード用セラミック配線基板1がムライトを主結晶相とするセラミック焼結体からなる絶縁基体11と、該絶縁基体11内に設けられた銅が40〜60体積%、タングステンが40〜60体積%である組成を有する銅とタングステンとの複合導体とを具備することにより、熱負荷試験時において、プローブカード用セラミック配線基板1に設けられた測定端子とSiウエハの表面に形成された測定パッドとの位置ずれが小さく、電気特性の検査に好適に使用できるプローブカード2を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの電気特性を測定するための微細な配線を備えたプローブカード用セラミック配線基板およびこれを用いたプローブカードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
Siウェハ等の半導体ウェハに多数個同時に形成される大規模集積回路を有する半導体素子には、異物の付着などに起因する電気不良等によって、ほぼ一定の割合で電気的接続および電気特性の不良品が含まれている。
【0003】
上記半導体素子の不良品を検出するものとして、半導体ウエハの状態のまま同時に多数の半導体素子の電気特性を一括して検査することができるプローブカードが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
このプローブカードは、アルミナ質焼結体からなる絶縁基体の主面および内部に微細な配線が形成されている配線基板と、この配線基板の表面に精度よく配置された複数のプローブピンと呼ばれる測定端子とを含んでおり、このプローブピンを多数の半導体素子の端子にあてて、電圧をかけたときの出力を測定して期待値と比較することで、多数の半導体素子の良否を一括して判定するものである。
【0005】
近年、半導体素子に形成された集積回路の配線微細化に伴って、プローブカードの単位面積当たりのプローブピン数を多くすることが求められ、またプローブカード用セラミック配線基板に形成される配線もより微細化することが求められている。
【0006】
ところが、配線の微細化、すなわち線幅を狭くすることにより、配線抵抗が増大して電気信号の遅延が生じ、集積回路の動作状態について正しく判断できず、検査ミスにつながるという問題があった。
【0007】
そこで、配線としてCu、Ag、Auなどの低抵抗金属を用いることが考えられるが、これらの低抵抗金属は融点が低いため、低抵抗金属のみではアルミナ質焼結体との同時焼成ができない。
【0008】
これに対し、本出願人は、アルミナ質焼結体からなる絶縁基体の内部にCu、Ag、Auなどの低抵抗金属とMo、Wなどの高融点金属との複合金属を主成分とする配線を形成したプローブカード用セラミック配線基板を提案した(例えば、特許文献2を参照)。
【0009】
このプローブカード用セラミック配線基板は、具体的には、MnおよびSiを焼結助剤として含有させることにより、従来のアルミナ質焼結体からなる絶縁基体を有する配線基板よりも200℃以上低い1500℃以下の温度で焼成できるようにしたことから、上記低抵抗金属および高融点金属の複合金属を主成分として含む配線を同時焼成により形成することを可能にしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−160356号
【特許文献2】特開2009−180518号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、絶縁基体を特許文献2に記載のアルミナ質焼結体で形成したプローブカード用セラミック配線基板は、絶縁基体の熱膨張係数が、やはりアルミナ質焼結体の熱膨張係数(6〜7×10−6/℃)に近いことから、検査対象であるSiウエハの熱膨張係数(3〜4×10−6/℃)との差が大きく、そのため、半導体素子の電気特性の測定前に行う熱負荷試験(バーンイン試験)時において、プローブカード用セラミック配線基板に設けられた測定端子(プローブピン)がSiウエハの表面に形成された測定パッドの位置からずれて電気特性の検査を行えないという問題がった。
【0012】
従って、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、配線抵抗が低く、熱負荷試験時において、プローブカード用セラミック配線基板に設けられた測定端子とSiウエハの表面に形成された測定パッドとの位置ずれが小さく、電気特性の検査時に、好適に使用できるプローブカード用セラミック配線基板とこれを用いたプローブカードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のプローブカード用セラミック配線基板は、ムライトを主結晶相とするセラミック焼結体からなる絶縁基体と、該絶縁基体内に設けられた銅が40〜60体積%、タングステンが40〜60体積%である組成を有する銅とタングステンとの複合導体とを具備することを特徴とする。
【0014】
上記プローブカード用セラミック配線基板では、前記絶縁基体が、MnおよびTiを含有するとともに、前記ムライトの(210)面のX線回折強度を100%としたときに、Alの(104)面のX線回折強度が78〜120%、MnAl(SiOの(420)面のX線回折強度が0.13〜0.70%であり、MnAlおよびMnTiOを含有していないセラミック焼結体からなることが望ましい。
【0015】
また、上記プローブカード用セラミック配線基板では、前記セラミック焼結体が、前記ムライト100質量%に対して、前記TiをTiO換算で1〜5質量%含有することが望ましい。
【0016】
本発明のプローブカードは、上記のプローブカード用セラミック配線基板の表面に表面配線層が設けられており、該表面配線層に半導体素子の電気特性を測定するための測定端子が接続されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、配線抵抗が低く、熱負荷試験時において、プローブカード用セラミック配線基板に設けられた測定端子とSiウエハの表面に形成された測定パッドとの位置ずれが小さく、電気特性の検査に好適に使用できるプローブカード用セラミック配線基板とこれを用いたプローブカードを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のプローブカード用セラミック配線基板の一実施形態の概略断面図である。
【図2】本発明のプローブカードの一実施形態を用いた半導体素子の評価装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明のプローブカード用セラミック配線基板の一実施形態の概略断面図である。図1に示すプローブカード用セラミック配線基板1は、セラミック焼結体からなる絶縁基体11と、絶縁基体11の内部に形成された低抵抗金属および高融点金属を主成分として含む複合導体からなる内部配線層12と、絶縁基体11の表面に形成された表面配線層13とを備えており、その絶縁基体11の内部における内部配線層12同士または内部配線層12と表面配線層13とを電気的に接続するビアホール導体14とを有している。
【0021】
絶縁基体11は複数のセラミック絶縁層11a、11b、11c、11dからなるもので、それぞれのセラミック絶縁層11a、11b、11c、11dはムライトを主成分とするセラミック焼結体により形成されている。以下、ムライトを主成分とするセラミック焼結体のことをムライト質焼結体と記す。
【0022】
セラミック絶縁層11a、11b、11c、11dであるセラミック焼結体がムライト質焼結体であると、セラミック絶縁層11a、11b、11c、11dの熱膨張係数(室温〜300℃)を3.5〜4.5×10−6/℃の範囲にできる。これにより、本実施形態のプローブカード用セラミック配線基板1は、熱負荷試験時において、プローブカード用セラミック配線基板1に設けられた測定端子とSiウエハの表面に形成された測定パッドとの位置ずれが無く、電気特性の検査に好適に使用できるものとなる。
【0023】
セラミック絶縁層11a、11b、11c、11dを構成するセラミック焼結体の主成分であるムライトは粒子状または柱状の結晶として存在している。本発明においてムライトの平均粒径は特に限定されるものではないが、結晶粒径が大きくなるに従い熱伝導性が向上し、結晶粒径が小さくなるに従い強度が向上することから、高熱伝導性および高強度の両立という点から、好適なムライトの平均粒径の範囲が選ばれる。この場合、ムライトの平均粒径は1.0〜5.0μm、特に1.7〜2.5μmであることが望ましい。
【0024】
なお、ムライトの平均粒径は配線基板から切り出したセラミック焼結体の部分を研磨し、研磨した試料について走査型電子顕微鏡を用いて内部組織の写真を撮り、その写真上に約50個入る円を描き、円内および円周にかかった結晶粒子を選択し、次いで、各結晶粒子の輪郭を画像処理して、各結晶粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求める。
【0025】
また、本実施形態のプローブカード用セラミック配線基板1において、セラミック絶縁層11a、11b、11c、11dであるセラミック焼結体がムライトを主結晶相とし、MnおよびTiを含有し、前記ムライトの(210)面のX線回折強度を100%としたときに、Alの(104)面のX線回折強度が78〜120%であり、MnAl(SiOの(420)面のX線回折強度が0.13〜0.70%であるとともに、MnAlおよびMnTiOを有しないものであることが望ましい。これにより耐薬品性試験での重量変化率を小さくすることができ、また、耐薬品性試験の繰返し試験においても重量減少変化率の小さいセラミック焼結体を得ることができる。ここで、セラミック焼結体がMnAlおよびMnTiOを含有していないというのは、X線回折を行ったときに、X線回折図上において、MnAlおよびMnTiOのそれぞれのメインピークの回折強度がX線回折パターンのノイズレベル以下のものをいう。
【0026】
一方、ムライト質焼結体が焼結助剤としてSiを主成分とするガラスを用いて形成され、そのセラミック焼結体の粒界にSiを主成分とするガラス(非晶質部)が多く存在するような場合には耐薬品性が大きく低下することになる。このため本発明ではムライト質焼結体の耐薬品性を高めるために、粒界に耐薬品性に優れた結晶相を多く析出させている。
【0027】
例えば、粒界にSiを主成分とするガラスが存在するようなムライト質焼結体を40質量%水酸化カリウム水溶液に5時間浸漬したときには、ガラス成分の溶出が起こるのに対して、粒界にMnAl(SiOが析出したムライト質焼結体では、水酸化カリウム水溶液に対して全く溶出しない。
【0028】
そこで、ムライトの粒子間の粒界にMnAl(SiOを有することが耐薬品性の向上のために重要となり、X線回折によるムライトの(210)面の回折強度を100%としたとき、MnAl(SiOの(420)面の回折強度が0.13〜0.70%となることで、プローブカード用配線基板1として十分な耐薬品性を得ることができるのである。
【0029】
ここで、X線回折によるムライトの(210)面の回折強度を100%としたとき、MnAl(SiOの(420)面の回折強度を0.13%以上とするためには、ムライトおよび焼結助剤成分(Mn、Ti)の比率を調整して、ムライトを除く5〜10質量%の残部にMnとTiとをそれぞれMn換算およびTiO換算にて80:20〜40:60の質量比で含ませて、後述する所定の焼成条件下で焼成することが必要となる。
【0030】
また、本実施形態のプローブカード用セラミック配線基板1では、絶縁基体11を構成しているムライト質焼結体であるセラミック焼結体が、ムライト100質量%に対して、TiをTiO換算で1〜5質量%含有することが望ましい。ムライト質焼結体において、ムライト100質量%に対して、TiをTiO換算で1〜5質量%含有するものにすると、耐薬品性試験の繰返しによる重量減少変化率を12%以下にすることができる。これはTi成分によってムライト質焼結体中の結晶相間を強固にできるためである。また、ムライト質焼結体にTi成分を含有させると、ムライト質焼結体の色彩を緑色系にできる。ムライト質焼結体の色彩が緑色系であると、後述する薄膜法により絶縁基体11の表面に形成される表面配線層の色とのコントラストが高まるため、測定端子となるSi製のプローブピンを形成する際の位置決めが容易にできるようになり、プローブカードの製造工程の効率を高めることができる利点がある。ここで、ムライト100質量%に対する、Tiの含有量は以下のようにして求める。絶縁基体11を溶解させて、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析により絶縁基体中に含まれるアルミニウム(Al)、珪素(Si)およびチタン(Ti)の含有量を求め、アルミニウム(Al)および珪素(Si)からムライト(3Al・2SiO)とTiOに換算して求める。
【0031】
さらに、本実施形態における絶縁基体11が、上述のように、ムライトを主結晶相とし、MnおよびTiを含有し、ムライトの(210)面のX線回折強度を100%としたときに、Alの(104)面のX線回折強度が78〜120%であり、MnAl(SiOの(420)面のX線回折強度が0.13〜0.70%であるとともに、MnAlおよびMnTiOを含有していないといった特定の結晶相を有するムライト質焼結体により形成した場合には、ムライト質焼結体のヤング率を178〜223GPaにでき、大型のプローブカード用セラミック配線基板1として変形量の小さい基板を得ることができる。
【0032】
なお、本実施形態におけるムライト質焼結体では、MnおよびTiOの他に、焼結性を高める助剤成分として、MgO、CaO、SrO、BおよびCrなどから選ばれる少なくとも1種が、耐薬品性、ヤング率、密度および色彩等の特性を損なわない程度含有されていても良い。
【0033】
本実施形態のプローブカード用セラミック配線基板1を構成する内部配線層12はCuが40〜60体積%、Wが40〜60体積%となる組成を有するCuおよびWの複合導体で構成されていることが重要である。
【0034】
ムライト質焼結体と同時焼成可能な内部配線層12の形成材料として、高融点金属であるタングステン(W)が挙げられるが、タングステン(W)からなる内部配線層12は電気抵抗値が高い。一方、銅(Cu)などの低抵抗金属はムライトを主成分とするセラミック焼結体の焼成温度よりもかなり融点が低いため、低抵抗金属である銅のみをムライトを主成分とするセラミック焼結体と同時焼成することはできない。そこで、内部配線層12を銅およびタングステンの複合導体とすることで、銅単体に比べると電気抵抗値は多少あがってしまうものの、後述する1380℃〜1420℃の焼成温度でムライトを主成分とするセラミック焼結体との同時焼成が可能となる。
【0035】
ただし、同時焼成可能といえども、銅の融点を超える温度での焼成となるため、銅の溶融を抑制して内部配線層12の形状を保つことが必要となる。そこで、内部配線層12の低抵抗化と保形性をともに達成するうえで、銅が40〜60体積%、タングステンが40〜60体積%の割合にするのである。
【0036】
ここで、内部配線層12の銅およびタングステンの組成は、プローブカード用配線基板1から内部配線層12が形成された部位を切り出し、これを酸に溶解させた溶液をICP(Inductively Coupled Plasma)分析を用いて導体材料である銅およびタングステンの含有量を質量で求める。次に、質量として求めた銅およびタングステンの量をそれぞれの密度で除して各々の体積を求め、次いで、銅およびタングステンの合計の体積を100%としたときの銅およびタングステンの割合を求める。
【0037】
なお、表面配線層13は、内部配線層13と同様の組成であっても異なっても良く、高融点金属であるタングステンのみで形成されていても良い。
【0038】
また、ビアホール導体14は、表面配線層13と同様の組成からなることが焼成時にビアホール導体14からの導体成分の脱落を防止する上で望ましい。
【0039】
上述した本実施形態のプローブカード用セラミック配線基板1は、熱負荷試験時において、プローブカード用セラミック配線基板1に設けられた測定端子(プローブピン)とSiウエハの表面に形成された測定パッドとの位置ずれを抑制でき、電気特性の検査に好適に使用できる。また、ムライト質焼結体を特定の組成としたときには、耐薬品性の優れたものになる。
【0040】
また、図1に示す絶縁基体11の主面には、焼成直後においては、元々、表面配線層13の代わりにビアホール導体14に接続されたランドパターン(図示せず)が形成されている。このランドパターンは焼成後にこのプローブカード用セラミック配線基板1の内部配線層12およびビアホール導体14の電気的接続のショートまたはオープンの検査を行うために設けられたものである。そして、プローブカード用セラミック配線基板1の内部配線層12およびビアホール導体14の電気的接続のショートまたはオープンの検査を行った後、ランドパターンは研磨により取り除かれ、ビアホール導体14を露出させたうえで、スパッタ法または蒸着法などの薄膜法により表面配線層13が形成され、さらに、この表面配線層13の表面上に測定端子(プローブピン)が形成され、図2に示すプローブカード2が作製される。
【0041】
図2は、本発明のプローブカードの一実施形態を用いた半導体素子の評価装置の説明図である。上記したプローブカード用セラミック配線基板1は、例えば、図2に示すようなプローブカード2として用いることができる。
【0042】
図2に示すプローブカード2は、プローブカード用セラミック配線基板1の一方の主面に、内部配線層12と接続される表面配線層(図示せず)が形成され、この表面配線層に半導体素子の電気特性を測定するための探針(測定端子21)が接続されたものである。
【0043】
また、プローブカード用セラミック配線基板1の他方の主面に接続端子(図示せず)が形成され、この接続端子が半田3を介して外部回路基板4に接合され、さらに、外部回路基板4は、テスタ5に接続されている。そして、ステージ6の上に載置された半導体ウェハ7の上面にプローブカード2の測定端子21を接触させて半導体素子の電気特性を測定することができる。
【0044】
なお、プローブカード2および外部回路基板4は、昇降装置8によって上下に駆動させることができ、プローブカード2の測定端子21を半導体ウェハ7の上面に接触させたり離したりするようになっている。
【0045】
このプローブカード2の配線基板として、本実施形態のプローブカード用セラミック配線基板1を適用すると、まず、熱負荷試験時において、プローブカード用セラミック配線基板1に設けられた測定端子21とSiウエハ7の表面に形成された測定パッドとの位置ずれが無く、電気特性の検査に好適に使用できるものとなる。
【0046】
また、プローブカード用セラミック配線基板1を構成する絶縁基体11を、ムライトを主結晶相とし、MnおよびTiを含有し、ムライトの(210)面のX線回折強度を100%としたときに、Alの(104)面のX線回折強度が78〜120%であり、MnAl(SiOの(420)面のX線回折強度が0.13〜0.70%であるとともに、MnAlおよびMnTiOを含有していないといった特定の結晶相を有するムライト質焼結体により形成した場合には、優れた耐薬品性を持つプローブカード2を得ることができる。
【0047】
次に、上記のプローブカード用セラミック配線基板1の製造方法について説明する。
【0048】
まず、絶縁基体11を形成するために、ムライト(3Al・2SiO)粉末として、純度が99%以上、平均粒径が0.5〜2.5μmのものを用いる。ムライト粉末の平均粒径を0.5μm以上とすることでシート成形性を良好なものとし、2.5μm以下とすることで1420℃以下の温度での焼成によっても緻密化を促進させることが可能となる。
【0049】
次に、ムライト粉末100質量%に対して、Al粉末を0〜50質量%、Mn粉末を1〜10質量%、TiO粉末を1〜10質量%添加して混合粉末を調製する。この場合、添加剤として用いるAl粉末は平均粒径が0.5〜1.5μm、Mn粉末は平均粒径が0.7〜1.7μmおよびTiO粉末は平均粒径が1〜3μmであるものを用いるがよい。なお、Al粉末、Mn粉末およびTiO粉末の純度はともに99質量%以上であるものがよい。これにより、シート成形性を良好なものとし、MnおよびTiの拡散を向上させ、1380℃〜1420℃の温度での焼結性を高めることができるとともに、ムライトから遊離してくるAlおよびSiOと、添加剤であるMnとから形成されるMnAl(SiOの結晶化を高めることができる。ここで、ムライト粉末100質量%に対して、TiOを1〜10質量%添加するのは、ムライト質焼結体を緑色化するためである。また、MnおよびTiは、上記の酸化物粉末以外に焼成によって酸化物を形成しうる炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩等として添加しても良い。この場合においても、ムライト粉末100質量%に対して、MnがMn換算で1〜10質量%、TiがTiO換算で1〜10質量%となるように混合するのがよい。
【0050】
さらに、ムライト質焼結体の緻密化と内部配線層12を形成する複合金属との同時焼結性を高めるという理由から、ムライト粉末100質量%に対して、Mg、Ca、Sr、BおよびCrの群から選ばれる1種以上の酸化物粉末(MgO粉末、CaO粉末、SrO粉末、B粉末、Cr粉末)または焼成によって酸化物を形成しうる炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩からなる粉末を、本実施形態のプローブカード用セラミック配線基板1の熱膨張係数を変化させず、また耐薬品性を劣化させない程度の割合で添加してもよい。
【0051】
次に、この混合粉末に対して有機バインダ、溶媒を添加してスラリーを調整した後、これをプレス法、ドクターブレード法、圧延法、射出法などの成形方法によってグリーンシートを作製する。あるいは、混合粉末に有機バインダを添加し、プレス成形、圧延成形等の方法により所定の厚みのグリーンシートを作製する。なお、グリーンシートの厚みはたとえば50〜300μmとすることができるが、特に限定されない。
【0052】
そして、適宜、このグリーンシートに対して、マイクロドリル、レーザー等により直径50〜250μmの貫通孔を形成する。
【0053】
このようにして作製されたグリーンシートに対して、銅(Cu)粉末とタングステン(W)粉末とを前述した比率(Cuが40〜60体積%、Wが40〜60体積%)となるように混合して導体ペーストを調製し、この導体ペーストを各グリーンシートの貫通孔内に充填し、またスクリーン印刷、グラビア印刷などの方法により印刷塗布して配線パターンを形成する。
【0054】
なお、この導体ペースト中には、絶縁基体11との密着性を高めるために、上記の金属粉末以外にアルミナ粉末あるいは絶縁基体11と同一組成物の混合粉末を添加してもよく、さらにはNi等の活性金属あるいはそれらの酸化物を導体ペースト全体に対して0.05〜2体積%の割合で添加してもよい。
【0055】
その後、導体ペーストを印刷塗布したグリーンシートを位置合わせして積層圧着した後、この積層体を非酸化性雰囲気(窒素雰囲気あるいは窒素と水素との混合雰囲気)中で焼成する。
【0056】
ここで、この焼成中の最高温度を1380℃〜1420℃とするのが重要である。最高温度が1380℃より低い場合には、後述のように最高温度での保持時間を長くしたり昇温速度を遅くしたりしてかける熱量を多くしても、粒界部において、MnAl(SiO結晶の核生成が進まない状態で緻密化が終了してしまう傾向があり、最高温度が1420℃を超える場合には、内部配線層12の変形や細りが生じてしまう傾向がある。
【0057】
そして、粒界部において、MnAl(SiO結晶を多く析出させるためには、焼成中の最高温度(1380℃〜1420℃)で1時間以上保持することが重要であり、このように最高温度での保持時間を長くすることで、MnAl(SiO結晶の核生成を促すことができ、析出する結晶の量を増大させることができる。
【0058】
また、本実施形態のプローブカード用セラミック配線基板1を構成する絶縁基体11であるムライト質焼結体では、粒界相を結晶化させるため、ムライトの結晶粒子のネック成長が抑えられるためムライトの異常粒成長を抑制でき、ヤング率の高いムライト質焼結体を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態のプローブカード用セラミック配線基板1を作製する場合、1000℃から焼成最高温度までの昇温速度は50℃/hr〜150℃/hr、特に、75℃/hr〜100℃/hrにすることが望ましい。昇温速度が50℃/hrよりも遅い場合には、焼成時間が長く生産性の低下につながり、昇温速度が150℃/hrよりも速い場合には、焼成中の熱膨張により発生する応力により、基板にクラックが発生する原因になりやすい。
【0060】
さらに、焼成最高温度から1000℃までの降温速度は、50℃/hr〜300℃/hr、特に、50℃/hr〜100℃/hrにすることが望ましい。降温速度が300℃/hrよりも速い場合には、MnAl(SiO結晶が十分な量だけ析出できず、MnAlおよびMnTiO結晶が析出しやすくなる。また降温速度が50℃/hrよりも遅い場合には、焼成時間が長く生産性が低下してしまう。
【0061】
またさらに、焼成時の雰囲気は、内部配線層12中のCuの拡散を抑制するという理由から、水素および窒素を含み、その露点が+30℃以下、特に+25℃以下の非酸化性雰囲気であることが望ましい。焼成時の露点が+30℃より高いと、焼成中に酸化物セラミックスと雰囲気中の水分とが反応し酸化膜を形成し、この酸化膜と銅とが反応してしまい、導体の低抵抗化の妨げとなるのみでなく、Cuの拡散を助長してしまうためである。なお、この雰囲気には所望によりアルゴンガス等の不活性ガスを混入してもよい。
【0062】
以上述べた方法により作製されたプローブカード用セラミック配線基板1は、CuおよびWを主成分として含む内部配線層12を有し、熱膨張係数が検査対象であるSiウエハの熱膨張係数に近く、かつ耐薬品性に優れたものとなる。
【実施例】
【0063】
純度が99質量%で平均粒子径が1.8μmのムライト粉末100質量%に対して、純度が99%以上で平均粒径が1μmのAl粉末、純度が99%で平均粒径が1.5μmのMn粉末および純度が99%で平均粒径が1.0μmのTiO粉末を表1に示すような割合で混合し、これに成形用の有機樹脂(有機バインダ)としてアクリル系バインダと、有機溶媒としてトルエンを混合してスラリーを調製した後、ドクターブレード法を用いて厚み200μmのグリーンシートを作製した。
【0064】
次に、得られたグリーンシートを15層積層し、室温から600℃の温度において、露点を+25℃とした窒素水素混合雰囲気にて脱脂を行なった後、引き続き焼成を行った。焼成は、1000℃から最高温度までを表1に示す昇温速度で昇温し、最高温度にて露点を+25℃とした窒素水素混合雰囲気に、1時間保持した後、最高温度から1000℃までを表1に示す降温速度で冷却して、ムライト質焼結体を得た。
【0065】
また、ムライト質焼結体に存在する結晶は、ムライト質焼結体を粉砕し、X線回折により得られるメインピーク位置をJCPDSに照らして同定した。また、同定された結晶相あるAl、MnAl、MnTiOおよびMnAl(SiOについて、それぞれのメインピークの回折強度をムライトのメインピークの回折強度に対する比として求めた。その結果を表2に示す。なお、表2には求めた比を100倍した値(%表示)を示した。ここで、Alのメインピークは(104)面、MnAlのメインピークは(311)面、MnTiOのメインピークは(104)面およびMnAl(SiOのメインピークは(420)面とした。
【0066】
また、耐薬品性の指標として、ムライト質焼結体の初期の質量及び100℃の水酸化カリウム40質量%水溶液に5時間浸漬させた後のムライト質焼結体の質量を測定し、重量減少率(「ムライト質焼結体の初期質量」−「100℃の水酸化カリウム40質量%水溶液に5時間浸漬させた後のムライト質焼結体の質量」)/「ムライト質焼結体の初期質量」×100[%]を算出した。また、繰返しによる耐薬品性の劣化を求める指標として、100℃の水酸化カリウム40質量%水溶液に5時間浸漬させる試験を3回行い、各回の重量減少率を測定し、同様に算出した後、(「3回目の重量減少率」−「1回目の重量減少率」)/「1回目の重量減少率」×100[%]により重量減少率の変化率を算出した。
【0067】
また、得られたグリーンシートを30層積層して作製した成形体を、上記と同様の脱脂および焼成の条件にて作製したムライト質焼結体を、平面研磨機を用いて、幅3mm、厚み2mm、長さ1mmの形状のサンプルに加工して、TMA分析(熱機械分析)用の試料を作製し、熱膨張係数を測定した。
【0068】
さらに、熱膨張係数を測定したムライト質焼結体の試料を用いて、超音波パルス法による弾性率測定を行いヤング率を求めた。
【0069】
また、作製されたグリーンシートに対して、Cu粉末とW粉末とをCuが45体積%、Wが55体積%となるように調製した導体ペーストを各グリーンシートの表面に印刷するとともに貫通孔内に充填して導体ペーストを印刷塗布したグリーンシートを作製した。
【0070】
次に、この導体ペーストを印刷塗布したグリーンシートを30層位置合わせして積層圧着した後、この積層体を上記と同様の脱脂および焼成の条件にて焼成してプローブカード用セラミック配線基板を作製した。基板サイズは340mm×340mm、厚みが6mmであった。
【0071】
次に、作製したプローブカード用セラミック配線基板の表面を研磨し、ランドパターンを取り除いた後、スパッタ法を用いて、プローブカード用セラミック配線基板の表面の全面に厚みが約2μmのチタンおよび銅の導電性薄膜を順に形成した。
【0072】
次に、フォトリソグラフィーによりチタンおよび銅の導電性薄膜をパターン加工して、この銅の表面にニッケルおよび金の電解めっき膜を順に形成して、プローブカード用セラミック配線基板の表面のビアホール導体上に表面配線層を形成した。
【0073】
次に、このプローブカード用セラミック配線基板の表面に形成した表面配線層の表面にSi製の測定端子(プローブピン)を接合してプローブカードを作製した。
【0074】
次に、ステージ上に載置したSiウェハの上面にプローブカードの測定端子であるプローブピンを接触させて90℃の温度に加熱した状態に保持し、プローブカードの側面から実体顕微鏡を用いて、プローブピンとSiウエハの表面に形成された測定パッドとの位置ずれを観察した。この場合、プローブカードおよびSiウエハの最外周に形成した測定端子(プローブピン)と測定パッドを観察したときに、測定端子(プローブピン)の先端が測定パッド上から横に位置ずれしている状態を位置ずれ有りとした。また、絶縁基体11中に含まれるチタンの含有量は、プローブカード用配線基板から切り出した絶縁基体を一旦、酸に溶解させて、まず、原子吸光分析により誘電体磁器に含まれる元素の定性分析を行い、次いで、特定した各元素について標準液を希釈したものを標準試料として、ICP発光分光分析にかけて定量化した。この場合、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析により絶縁基体中に含まれるアルミニウム(Al)、珪素(Si)およびチタン(Ti)の含有量を求め、アルミニウム(Al)および珪素(Si)からムライト(3Al・2SiO)とTiOに換算して求めた。
【0075】
また、内部配線層の銅およびタングステンの組成は、まず、プローブカード用配線基板から内部配線層が形成された部位を切り出し、これを酸に溶解させた溶液をICP(Inductively Coupled Plasma)分析を用いて導体材料である銅およびタングステンの含有量を質量で求めた。次に、質量として求めた銅およびタングステンの量をそれぞれの密度で除して各々の体積を求め、次いで、銅およびタングステンの合計の体積を100%としたときの銅およびタングステンの割合を求めた。なお、作製したプローブカード用配線基板に形成された内部配線層は銅が45体積%、タングステンが55体積%であることを確認した。これらの結果を表1〜3に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
表1〜3の結果から明らかなように、プローブカード用セラミック配線基板を構成する絶縁基体をムライト質焼結体で形成した試料(試料No.1〜22)は、セラミック絶縁層の熱膨張係数(室温〜300℃)が3.5〜4.5×10−6/℃であり、熱負荷試験時において、プローブカード用セラミック配線基板に設けられた測定端子とSiウエハの表面に形成された測定パッドとの位置ずれが無く、電気特性の検査に好適に使用できるものであった。
【0080】
また、プローブカード用セラミック配線基板を構成する絶縁基体を、ムライトを主結晶相とし、MnおよびTiを含有し、前記ムライトの(210)面のX線回折強度を100%としたときに、Alの(104)面のX線回折強度が78〜120%であり、MnAl(SiOの(420)面のX線回折強度が0.13〜0.7%であるとともに、MnAlおよびMnTiOを含有していないムライト質焼結体で形成した試料(試料No.3,4,8,10〜13,16および18〜20)では、耐薬品性試験での重量変化率を0.12質量%以下にすることができ、また、耐薬品性試験の繰返し試験においても重量減少変化率も37%以下と小さかった。
【0081】
さらに、プローブカード用セラミック配線基板を構成する絶縁基体を、ムライト100質量%に対して、TiをTiO換算で1〜5質量%含有するムライト質焼結体で形成した試料(試料No.3,4,8,11〜13,16および18〜20)では、耐薬品性試験の繰返し試験において重量減少変化率が27%以下とさらに低い値であった。
【0082】
これに対して、プローブカード用セラミック配線基板1を構成する絶縁基体11をアルミナを主成分とするセラミック焼結体により形成した試料(試料No.23)は、熱膨張係数が6.5×10−6/℃とSiウエハに比べて大きいために、熱負荷試験時において、プローブカードおよびSiウエハの最外周に形成した測定端子(プローブピン)と測定パッドを観察したときに、プローブピンの先端が測定パッド上に触れていない状態となり、プローブカード用セラミック配線基板に設けられた測定端子とSiウエハの表面に形成された測定パッドとの位置ずれが生じていた。
【符号の説明】
【0083】
1:プローブカード用セラミック配線基板
11:絶縁基体
12:内部配線層
13:表面配線層
14:ビアホール導体
2:プローブカード
21:測定端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムライトを主結晶相とするセラミック焼結体からなる絶縁基体と、該絶縁基体内に設けられた銅が40〜60体積%、タングステンが40〜60体積%である組成を有する銅とタングステンとの複合導体とを具備することを特徴とするプローブカード用セラミック配線基板。
【請求項2】
前記絶縁基体が、MnおよびTiを含有するとともに、前記ムライトの(210)面のX線回折強度を100%としたときに、Alの(104)面のX線回折強度が78〜120%、MnAl(SiOの(420)面のX線回折強度が0.13〜0.70%であり、MnAlおよびMnTiOを含有していないセラミック焼結体からなることを特徴とする請求項1に記載のプローブカード用セラミック配線基板。
【請求項3】
前記セラミック焼結体が、前記ムライト100質量%に対して、前記TiをTiO換算で1〜5質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のプローブカード用セラミック配線基板。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれかに記載のプローブカード用セラミック配線基板の表面に表面配線層が設けられており、該表面配線層に半導体素子の電気特性を測定するための測定端子が接続されてなることを特徴とするプローブカード。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−134753(P2011−134753A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290368(P2009−290368)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】