説明

プーリ装置

【課題】プーリ装置の排水機能および雨水や異物の浸入抑制を可能としつつ、左右両側で共用化できるようにすることにある。
【解決手段】プーリ装置25は径方向分割形のプーリケース35と、この内部に収容されケーブル22bが掛け渡されるプーリ本体36とを有している。プーリ軸40を支持する一対の支持孔が形成された第1のケース半体37には係止部45が設けられ、第2のケース半体38には係止部45に係合する係止爪50が設けられている。第1のケース半体37には、一対の支持孔に近接させて一対の排水孔46a,46bが形成され、下側の排水孔46aからプーリケース35の内部に浸入した雨水等が排水される。また、係止爪50には各排水孔46a,46bに隙間Dを介して重なる一対の突出部50bが設けられ、上側の排水孔46bは突出部50bが庇となって雨水や異物等の直接の浸入が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられるスライドドアに接続され駆動源により駆動されるケーブルの移動方向を変換するプーリ装置に関し、特に、プーリ支持ケースの内部に浸入した雨水等を排水するための排水孔を有するプーリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に設けられるスライドドアを自動的に開閉するスライドドア開閉装置としては、スライドドアに接続されるケーブルを駆動してスライドドアを自動開閉させるようにしたケーブル式のものが知られている。このケーブル式のスライドドア開閉装置は、車両のアウターパネルの内側に設けられケーブルを牽引する駆動源と、スライドドアを開閉自在に案内するガイドレールと、ガイドレールの両端側にそれぞれ設けられたプーリ装置とを備えており、駆動源から延出するケーブルは、これらプーリ装置によりその移動方向が変換されて、それぞれ開方向および閉方向からスライドドアに接続されている。
【0003】
プーリ装置は、ケーブルが掛け渡されるプーリ本体が内部に収容されるプーリケースを有しており、プーリケースに支持されたプーリ軸により、プーリ本体は回転自在となっている。プーリケースには駆動源側およびスライドドア側の一対のケーブル出入り孔が形成されており、ケーブルは駆動源により牽引されてこれらケーブル出入り孔からプーリケースの内外に移動するようになっている。
【0004】
このようなプーリ装置においては、プーリ軸の軸方向に分割された2つのケース体によりプーリケースを形成するようにした軸方向分割形と、プーリ軸の径方向に分割された2つのケース体によりプーリケースを形成するようにした径方向分割形とがあり、プーリ本体やプーリ軸を組み付けた後にこれら2つのケース体を互いに係合するようになっている。
【0005】
一方、スライドドアに接続されるケーブルは、その一部が車両外部に臨む状態にあるため、ケーブルに雨水や異物等が付着することがあり、ケーブルに付着した雨水等がプーリケースの組み付け部やケーブル自体を伝ってプーリケースの内部に浸入するおそれがある。したがって、一般的に、スライドドア開閉装置のプーリケースのケーブル出入り孔には雨水等の浸入を防止するためのシール構造が設けられている。
【0006】
しかしながら、大量の降雨時や高圧洗車時に、雨水等がシール構造を通過してプーリケースの内部に浸入することがある。そのため、プーリケース内に溜まった雨水等をプーリケース外部に排出するための排出孔を形成したものがあり、例えば、軸方向分割形のプーリケースの下側のケース体に排水孔を形成したプーリ装置が特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2003−328639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車等の車両に設けられるスライドドアは、一般に、車両の進行方向の左右両側に設けられるようになっており、これら左右両側のスライドドアに設けられる開閉装置は、コストや組立作業の効率等の観点から共用化することが望ましい。しかしながら、特許文献1に示されるプーリ装置は、軸方向分割形のプーリケースの下側のケース体のみに排水孔を形成したものであり、これを左右両側の開閉装置に共用化しようとすると、例えば、左側のスライドドアに取り付ける際には下側に位置する排水孔が、右側のスライドドアに取り付ける際には上側に位置することとなり、プーリケースの内部に浸入した雨水等の排水が不可能であるとともに、この排水孔が雨水や異物等の直接の浸入路となる可能性がある。
【0008】
また、左右両側の開閉装置のいずれに取り付けた場合においても、プーリケースの内部に浸入した雨水等の排水を可能とするために、プーリケースの上下両側に排水孔を形成するようにしたタイプも考えられるが、このタイプにおいても、上側となる排水孔が雨水や異物等の直接の浸入路となる可能性がある。
【0009】
このように、プーリケースの内部に雨水等が浸入し、プーリケースの内部が雨水等で満たされて内部の水圧が高まると、ケーブル出入り孔やケース体の合わせ面等から雨水が車室内側に漏れ出すことも考えられる。
【0010】
本発明の目的は、プーリ装置の排水機能および雨水や異物の浸入抑制を可能としつつ、左右両側で共用化できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のプーリ装置は、車両に設けられるスライドドアに接続され駆動源により駆動されるケーブルの移動方向を変換するプーリ装置であって、プーリ軸により回転自在に支持され、前記ケーブルが掛け渡されるプーリ本体と、前記プーリ軸の両端を支持する一対の支持孔を備え、前記プーリ本体の径方向一方側を覆うプーリ支持ケースと、前記プーリ本体の径方向から前記プーリ支持ケースに装着され、前記プーリ本体の径方向他方側を覆うプーリカバーと、前記プーリ支持ケースの前記一対の支持孔にそれぞれ近接して設けられ、前記プーリ支持ケースの内部に浸入した雨水等を排水するための一対の排水孔と、前記プーリカバーに設けられ、前記プーリ支持ケースに前記プーリカバーを装着した状態のもとで、前記プーリ軸の軸方向から前記一対の排水孔に対して所定間隔を介して重なる一対の突出部とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明のプーリ装置は、前記プーリ支持ケースに設けられ、前記一対の排水孔にそれぞれ近接する一対の係止部と、前記プーリカバーに設けられ、前記一対の係止部に係合する一対の係止爪とを有し、前記一対の係止爪に前記一対の突出部を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プーリ支持ケースに一対の排水孔を設け、プーリ支持ケースに装着されるプーリカバーに各排水孔に対して所定間隔を介して重なる一対の突出部を設けるようにしたので、プーリ装置を車両の左右両側に設けられるスライドドア開閉装置のいずれに設ける場合でも、下側となる一方の排水孔によりプーリ支持ケースの内部に浸入した雨水等を排水可能であるとともに、上側となる他方の排水孔は突出部が庇となって雨水や異物等の直接の浸入が抑制される。したがって、プーリ装置を車両の左右両側の開閉装置において共用化した場合でも、プーリケースの内部に雨水等が満たされることがないので、プーリケースの内部の水圧が高まってケーブル出入り孔やケース半体の合わせ面等から雨水が車室内側に漏れ出すということが防止できるため、プーリ装置を車両の左右両側で共用化してコスト削減や組立の作業効率の向上を図ることができる。
【0014】
本発明によれば、プーリ支持ケースに一対の係止部を設け、各係止部に係合する一対の係止爪をプーリカバーに設け、各係止爪に一対の排水孔と重なる一対の突出部を設けたので、プーリカバーに係止爪とは別個の突出部を形成する必要がなくプーリ装置を小型化できる。また、プーリ装置のメンテナンス作業などにおいてプーリ支持ケースとプーリカバーとを取り外す際に、突出部に指をかけて係止爪と係止部との係合を容易に外すことができるので、係止爪にドライバー等の工具を引っ掛けてこれらの係合を外す必要がなく、プーリ装置のメンテナンス作業性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1はスライドドア開閉装置を備えた車両の左側部を示す概略説明図である。この車両11の進行方向の左右両側つまり車体12の両側部には、乗員等の乗降や荷物の積み下ろし等を行うために、スライドドア13が設けられている。このスライドドア13および後述するスライドドア開閉装置21はそれぞれ左右両側で同様の構造となっており、図1は車体12の左側部に設けられるスライドドア13およびスライドドア開閉装置21を示している。
【0017】
スライドドア13にはローラアッシー14が設けられ、一方、車体12のアウターパネル15には車両前後方向に延びるガイドレール16が固定されており、ローラアッシー14がガイドレール16に案内されることにより、スライドドア13は図中二点鎖線で示す全閉位置と図中実線で示す全開位置との間で車両前後方向にスライド式に開閉するようになっている。ガイドレール16の車両前方側には車室内側に向けて曲がる曲部16aが設けられており、ローラアッシー14が曲部16aに案内されることにより、スライドドア13は車体12の側面と同一面に収まるように車体12の内側に引き込まれて閉じられる。
【0018】
なお、図示はしないが、ローラアッシー14は図示する部位(スライドドア13の後端部における車両上下方向のセンター部位)以外に、スライドドア13の前端部における上下部位(アッパー部、ロアー部)にも設けられ、これらに対応して、車体12の上下部位にはそれぞれ図示しないガイドレールが設けられ、これら合計3カ所においてスライドドア13は車体12に支持されている。
【0019】
スライドドア13を自動的に開閉するために、この車両11にはスライドドア開閉装置21が搭載されている。
【0020】
図2は図1に示すスライドドア開閉装置の詳細を示す斜視図であり、このスライドドア開閉装置21(以下、開閉装置21とする)は、スライドドア13(ローラアッシー14)に接続される一対のケーブル22a,22bと駆動源としての駆動ユニット23とを有するケーブル式となっており、この駆動ユニット23によりケーブル22a,22bを駆動してスライドドア13を開閉する構造となっている。
【0021】
駆動ユニット23はガイドレール16の長手方向の略中間部に位置してアウターパネル15の内側において車体12に固定されている。車両後方側からスライドドア13に接続されるリア側のケーブル22aは、ガイドレール16の後端部に位置して車体12(アウターパネル15)に固定されるリア側のプーリ装置24によりその移動方向が変換され、車両後方側から駆動ユニット23に導かれている。一方、車両前方側からスライドドア13に接続されるフロント側のケーブル22bは、ガイドレール16の前端部に位置して車体12(アウターパネル15)に固定されるフロント側のプーリ装置25によりその移動方向が変換され、車両前方側から駆動ユニット23に導かれている。なお、ケーブル22a、22bとしては耐久性の向上やイオンの発生防止のために外面が樹脂によりコーティングされたものが用いられる。
【0022】
図3は図2に示す駆動ユニットの詳細を示す一部切り欠き断面図であり、この駆動ユニット23は電動モータ26を備え、この電動モータ26の出力は図示しない減速機構を介して出力軸27に伝達される。出力軸27には円筒形状に形成されたドラム28が固定され、駆動ユニット23に導かれた各ケーブル22a,22bはそれぞれドラム28の外周に互いに逆向きに複数回巻き付けられるとともに、その端部においてドラム28に固定されている。これにより、電動モータ26が作動すると、その動力が減速機構を介して出力軸27に伝達され、ドラム28が回転する。
【0023】
ドラム28が図3中時計回りに回転すると、リア側のケーブル22aがドラム28に巻き取られるとともにフロント側のケーブル22bがドラム28から巻き戻され、スライドドア13はケーブル22aに引かれて自動開動作する。反対に、ドラム28が図3中反時計回りに回転すると、フロント側のケーブル22bがドラム28に巻き取られるとともにリア側のケーブル22aがドラム28から巻き戻され、スライドドア13はケーブル22bに引かれて自動閉動作する。このように、この開閉装置21は、電動モータ26の作動を制御することで、当該電動モータ26によりケーブル22a,22bを駆動して、スライドドア13を自動的に開閉することができるようになっている。
【0024】
なお、電動モータ26としては、例えばブラシ付きの直流モータなどの正逆回転可能なものが用いられ、また、電動モータ26の作動制御は、CPUやメモリ等を備えた制御ユニット29により行われる。
【0025】
図2に示すように、駆動ユニット23と各プーリ装置24,25の間にはアウターチューブ31a,31bが設けられ、駆動ユニット23と各プーリ装置24,25の間においては、各ケーブル22a,22bはそれぞれアウターチューブ31a,31bに軸方向に移動自在に収容されている。これらのアウターチューブ31a,31bは可撓性を有する樹脂材料により湾曲自在に形成され、その一端は対応するプーリ装置24,25に固定されている。また、図3に示すように、各アウターチューブ31a,31bの他端には樹脂製のスライドキャップ32a,32bが固定され、これらスライドキャップ32a,32bは駆動ユニット23のユニットケース23aに進退移動自在に支持されるとともに、ユニットケース23aの内部に設けられたスプリング33によりユニットケース23aから押し出される方向に付勢されている。これにより、アウターチューブ31a,31bはユニットケース23aから押し出されて駆動ユニット23とプーリ装置24,25の間で湾曲し、駆動ユニット23とプーリ装置24,25の間におけるケーブル22a,22bの移動経路が伸ばされて、ケーブル22a,22bに所定の張力が付与される。なお、アウターチューブ31a,31bの内部にはグリースが充填されており、ケーブル22a,22bの移動が円滑に行われるようになっている。
【0026】
図4は本発明の一実施の形態であるフロント側のプーリ装置の詳細を示す斜視図であり、図5は図4に示すフロント側のプーリ装置の分解斜視図であり、図6は図4におけるA−A線に沿う断面図である。
【0027】
ガイドレール16の前端部側に配置されるフロント側のプーリ装置25は、図4に示すように、プーリケース35と、その内部に回転自在に収容されるプーリ本体36(図中破線)とを有している。
【0028】
プーリケース35は、樹脂材料により所定形状に形成された第1のケース半体37と第2のケース半体38およびゴム製のカバー部材39とから形成されている。ここで、第1のケース半体37は本発明におけるプーリ支持ケースを、第2のケース半体38およびカバー部材39は本発明におけるプーリカバーをそれぞれ構成している。
【0029】
プーリ本体36は、樹脂材料により円板状に形成され、その外周部にはプーリケース35内に引き込まれたケーブル22bが掛け渡されるようにU字状の溝が形成されている。プーリ本体36の軸心には貫通孔36a(図5参照)が設けられており、この貫通孔36aに挿通される金属製のプーリ軸40により、プーリ本体36は回転自在に支持されている。
【0030】
図5に示すように、プーリ本体36を収容するプーリケース35は、プーリ本体36の径方向つまり車両左右方向に分割された径方向分割形となっており、第1のケース半体37に、第2のケース半体38およびカバー部材39をプーリ本体36の径方向から互いに係合することで形成されるようになっている。
【0031】
第1のケース半体37は、車室外方側(アウターパネル15側)および車両後方側(駆動ユニット23側)に開口する半円形のケース41を有している。このケース41は、プーリ本体36の径方向一方側つまり車室内方側を覆う形状となっており、プーリ本体36を軸方向両側つまり車両上下方向両側から覆う一対の覆壁部41aを備えている。ケース41のアウターパネル15側には、各覆壁部41aを貫通する一対の支持孔42が形成されており、各支持孔42は、プーリ軸40の両端を支持するようになっている。
【0032】
ケース41の駆動ユニット23側の開口部には、駆動ユニット23側のケーブル出入り孔43が形成されており、このケーブル出入り孔43にアウターチューブ31bの一端部が接続された連結具44が取り付けられる。駆動ユニット23から延出されたケーブル22bは、この連結具44を介してケーブル出入り孔43から第1のケース半体37つまりプーリケース35の内部に引き込まれる。
【0033】
ケース41の車両前後方向両端には合計3箇所の取付部41bが形成されており、第1のケース半体37は、各取付部41bによって、図示しないボルトによりアウターパネル15の車室内方側に固定される。また、各覆壁部41aのアウターパネル15側には、一対の支持孔42に対応して、各支持孔42の車両前後側にそれぞれ一対の楔形状の係止部45がそれぞれ車両上下方向に突出して設けられている。
【0034】
ケース41の各覆壁部41aには、図5および図6に示すように、車両後方側の係止部45の車室内方側に、各支持孔42に近接させて、一対の排水孔46a,46bが設けられている。各排水孔46a,46bは、各覆壁部41aを車両上下方向に同軸的に貫通しており、これらのうち車両下方側となる一方の排水孔(図6中排水孔46b)から、第1のケース半体37つまりプーリケース35の内部に浸入した雨水等が排水される。なお、各排水孔46a,46bの周辺部は、車両上下方向に所定量突出されており、ケース41の外面に付着した雨水等が排水孔46a,46bからプーリケース35の内部に浸入しにくくなっている。各排水孔46a,46bとしては、図示する円形状に限定されないことはもちろんである。また、プーリケース35の内部に浸入した雨水等を排水しやすくするために、各排水孔46a,46bの断面積の大きさを、ケース41の外面側から内面側に向けて徐々に大きくなるよう設定した形状としても良い。
【0035】
第2のケース半体38は、車室内方側に開口する直方体形状のケース48を有しており、このケース48は、プーリ本体36の径方向他方側つまり車室外方側を覆う形状となっている。ケース48の車室内方側の端部には、第1のケース半体37に形成された各支持孔42を車両上下方向両側から覆う一対の支持壁部48aが設けられている。ケース48は、プーリケース35がアウターパネル15に固定された状態のもとで、アウターパネル15に形成された開口部15aから車室外方側に突出するように配置され、プーリ装置25はアウターパネル15を跨ぐように車体12に固定される。
【0036】
ケース48の車室外方側の端面には、スライドドア13側のケーブル出入り孔49が形成されており、スライドドア13から延出されたケーブ22bは、ケーブル出入り孔49から第2のケース半体38つまりプーリケース35の内部に引き込まれる。
【0037】
ケース48の車室内方側の端部には、第1のケース半体37に設けられた4つの係止部45に対応させて、4つの係止爪50が第1のケース半体37に向けて突出して設けられている。各係止爪50には、各係止部45が係合する係止孔50aがそれぞれ形成されており、図4に示すように、各係止爪50の係止孔50aに係止部45を係合させることで、第1のケース半体37と第2のケース半体38とが固定される。
【0038】
各係止爪50には、第1のケース半体37に向けて車室内方側に突出する突出部50bがそれぞれ一体に設けられている。各突出部50bのうち車両後方側の一対の突出部50bは、第1のケース半体37に設けられた一対の排水孔46a,46bに所定間隔(図6中隙間D参照)を介してプーリ軸40方向に重なるようになっている。なお、各突出部50bは、車両上下方向両側から各排水孔46a,46bに重なる形状であれば何れの形状でも良く、図示するように、矩形状に限定されないのはもちろんである。また、各排水孔46a,46bを、車両前方側の各係止部45の車室内方側に、各支持孔42に近接させて設けるようにしても良く、その場合には、車両前方側の各突出部50bが各排水孔46a,46bに車両上下方向両側から重なるようになる。
【0039】
カバー部材39は、ケース48の車室外方側を覆うように、プーリ本体36の径方向から第2のケース半体38に組み付けられるようになっており、ケーブル22bに付着した雨水等がプーリケース35内部へ浸入するのを抑制するために、ケーブル22bの外周面に弾性的に接触するカラー部39aを有している。ケーブル22bは、このカラー部39aおよびケーブル出入り孔49を介して、スライドドア13からプーリケース35内部に引き込まれる。
【0040】
次に、プーリケース35の組み付け状態について説明する。第1のケース半体37と第2のケース半体38とは、第1のケース半体37の車室外方側の端部と第2のケース半体38の車室内方側の端部とが突き当てられた状態のもとで、第2のケース半体38に設けられた係止爪50の係止孔50aに、第1のケース半体37に設けられた係止部45が係合されて固定される。図6に示すように、第1のケース半体37と第2のケース半体38とが互いに組み付けられると、車両後方側の各係止爪50に設けられたそれぞれの突出部50bが、各排水孔46a,46bに対して隙間Dを介して車両上下方向両側からプーリ軸40方向に重なるようになっている。
【0041】
プーリケース35の組み付け部、つまり第1のケース半体37と第2のケース半体38との合わせ面や、カラー部39aにより掻き落とすことができずケーブル22bを伝ってプーリケース35内部に浸入した雨水等は、図中矢印で示すように、各排水孔46a,46bのうち車両下方側となる排水孔46bから排水される。このとき、各突出部50bを各排水孔46a,46bに対して隙間Dを介してプーリ軸40方向に重なるようにしたので、突出部50bにより排水孔46bが閉塞されることはなく、排水孔46bの水抜き性が確保されている。また、車両上方側に開口した排水孔46aには、突出部50bが重なるように庇となって設けられているため、排水孔46aからのプーリケース35の内部への雨水等の直接の浸入を抑制できるようになっている。
【0042】
このように、第1のケース半体37のケース41に各排水孔46a,46bを設けるとともに、第1のケース半体37に装着される第2のケース半体38に各排水孔46a,46bに対して隙間Dを介して車両上下方向両側から重なる各突出部50bを設けるようにしたので、プーリ装置25を車両の左右両側に設けられる開閉装置21のいずれに設ける場合でも、車両下方側となる一方の排水孔により、プーリケース35の組み付け部やケーブル22bを伝ってプーリケース35内部に浸入した雨水等を排水可能であるとともに、車両上方側となる他方の排水孔は突出部50bが庇となって直接の浸入が抑制される。
【0043】
つまり、図6に示すように、車体12の左側部の開閉装置21にプーリ装置25を設ける場合には、車両下方側となる排水孔46bから排水可能であるとともに、車両上方側となる排水孔46aの車両上方側には突出部50bがプーリ軸40方向に重なるように設けられているので雨水等の浸入が抑制される。同様に、車体12の右側部の開閉装置21にプーリ装置25を設ける場合には、車両下方側となる排水孔46aから排水可能であるとともに、車両上方側となる排水孔46bの車両上方側には突出部50bがプーリ軸40方向に重なるように設けられているので雨水等の浸入が抑制される。したがって、プーリ装置25を車両の左右両側の開閉装置21において共用化した場合でも、プーリケース35の内部に雨水等が満たされることがないので、プーリケース35の内部の水圧が高まってケーブル出入り孔43,49やケース半体37,38の合わせ面等から雨水が車室内側に漏れ出すということが防止できるため、プーリ装置25を車両の左右両側で共用化してコスト削減や組立の作業効率の向上を図ることができる。
【0044】
また、車両の左右両側の開閉装置21で共用化可能としたプーリ装置25としては、軸方向分割形のプーリケースの車両上方側と車両下方側のケースのそれぞれに排水孔およびこれに重なる突出部を一体に設けるタイプも考えられるが、このタイプにおいては、形状が複雑となるためケースを成形する際の型抜きなどの作業が困難である。それに対し、本発明のように径方向分割形のプーリケース35の第1のケース半体37に各排水孔46a,46bを設け、第2のケース半体38に各排水孔46a,46bに重なる各突出部50bを設けるようにしたので、第1のケース半体37および第2のケース半体37の形状が簡易なものとなり、これらの成形作業が容易となる。
【0045】
さらに、第1のケース半体37と第2のケース半体38とを固定するための各係止爪50にそれぞれ突出部50bを一体に設けたので、第2のケース半体38に係止爪50とは別個の突出部を形成する必要がなくプーリケース35の形状を簡素化することができる。また、プーリ装置25のメンテナンス作業などにおいて第1のケース半体37と第2のケース半体38とを取り外す際に、突出部50bに指をかけて係止爪50と係止部45との係合を容易に外すことができるので、係止爪50にドライバー等の工具を引っ掛けてこれらの係合を外す必要がなく、プーリ装置25のメンテナンス作業性が向上する。
【0046】
図7は本発明の他の実施形態であるリア側のプーリ装置の詳細を示す斜視図であり、この図において、上述したフロント側のプーリ装置25と共通する部材には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。図7に示すように、リア側のプーリ装置24は、フロント側のプーリ装置25と同様に、プーリ本体36を内部に収容する径方向分割形のプーリケース35を有している。
【0047】
カバー部材39の車室内方側の端部には、第1のケース半体37に向けて4つのリップ部55が突出して設けられている。また、第2のケース半体38のフランジ部38aには、第1のケース半体37に設けられた4つの係止部45に対応させて、カバー部材39の各リップ部55に対応した位置に4つの係止爪50が第1のケース半体37に向けて突出して設けられ、各係止爪50には各係止部45が係合する係止孔50aがそれぞれ形成されるとともに、各係止爪50の基端部にはプーリ本体36の径方向に貫通する4つの引っ掛け孔(図示せず)が形成されている。
【0048】
各リップ部55は、引っ掛け孔の幅方向寸法(車両前後方向寸法)よりも大きな幅方向寸法の引っ掛け部55aを有しており、図7に示すように、リップ部55を引っ掛け孔の第2のケース半体38側から挿入するとともに、第1のケース半体37側から引っ張って、引っ掛け部55aを引っ掛け孔に引っ掛けることで、カバー部材39と第2のケース半体38とが一体的に係合する。このリップ部55により、カバー部材39と第2のケース半体38とを仮固定することができ、プーリ装置24の組立体を搬送時にカバー部材39が第2のケース半体38から容易に分離することがない。
【0049】
各リップ部55には、引っ掛け部55aの車室内方側の端部に、第1のケース半体37に向けて突出する把持用の先細りの略三角形状の突出部55bがそれぞれ一体に設けられており、第1のケース半体37と第2のケース半体38およびカバー部材39とが組み付けられた状態のもとで、各リップ部55のうち車両前方側の一対のリップ部55に設けられた各突出部55bが、各排水孔46a,46bに対して所定間隔を介して車両上下方向両側からプーリ軸40方向に重なるようになっている。
【0050】
このように、第1のケース半体37のケース41に各排水孔46a,46bを設けるとともに、第1のケース半体37に第2のケース半体38を介して装着されるカバー部材39に、各排水孔46a,46bに対して所定間隔を介して車両上下方向両側からプーリ軸40方向に重なる各突出部55bを設けるようにしたので、上述した実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0051】
また、第2のケース半体38とカバー部材39とを係合するための各リップ部55にそれぞれ突出部55bを一体に設けたので、プーリ装置24の組立作業などにおいて第2のケース半体38とカバー部材39とを取り付ける際に、突出部55bを引っ張ることでリップ部55を引っ掛け孔に係合しやすくなり、プーリケース35の組立作業性が向上する。
【0052】
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、フロント側のプーリ装置25において、図7に示すようなカバー部材39に突出部55bを設けるタイプを適用するようにしても良いし、リア側のプーリ装置24において、図4に示すような第2のケース半体38に突出部50bを設けるタイプを適用するようにしても良い。
【0053】
また、上記第1実施の形態において、第2のケース半体38の係止爪50に各排水孔46a,46bと重なる一対の突出部50bを一体に設けたものを示したが、本発明はこれに限らず、係止爪50とは別個に、第1のケース半体37に向けて車室内方側に突出するよう一対の突出部を設け、第1のケース半体37の各排水孔46a,46bに対して所定間隔を介して重なるように設けるようにしても良い。その場合には、各排水孔46a,46bは、例えば、支持孔42の車室内方側に設けることもできる。同様に、上記第2実施の形態において、カバー部材39にリップ部55とは別個に、一対の突出部を設けるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】スライドドア開閉装置を備えた車両の左側部を示す概略説明図である。
【図2】図1に示すスライドドア開閉装置の詳細を示す斜視図である。
【図3】図2に示す駆動ユニットの詳細を示す一部切り欠き断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態であるフロント側のプーリ装置の詳細を示す斜視図である。
【図5】図4に示すフロント側のプーリ装置の分解斜視図である。
【図6】図4におけるA−A線に沿う断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態であるリア側のプーリ装置の詳細を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
11 車両
12 車体
13 スライドドア
14 ローラアッシー
15 アウターパネル
16 ガイドレール
16a 曲部
21 スライドドア開閉装置
22a,22b ケーブル
23 駆動ユニット(駆動源)
24,25 プーリ装置
26 電動モータ
27 出力軸
28 ドラム
29 制御ユニット
31a,31b アウターチューブ
32a,32b スライドキャップ
33 スプリング
35 プーリケース
36 プーリ本体
36a 貫通孔
37 第1のケース半体
38 第2のケース半体(プーリカバー)
38a フランジ部
39 カバー部材(プーリカバー)
39a カラー部
40 プーリ軸
41 ケース
41a 覆壁部
41b 取付部
42 支持孔
43 ケーブル出入り孔
44 連結具
45 係止部
46a,46b 排水孔
48 ケース
48a 支持壁部
49 ケーブル出入り孔
50 係止爪
50a 係止孔
50b 突出部
55 リップ部
55a 引っ掛け部
55b 突出部
D 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられるスライドドアに接続され駆動源により駆動されるケーブルの移動方向を変換するプーリ装置であって、
プーリ軸により回転自在に支持され、前記ケーブルが掛け渡されるプーリ本体と、
前記プーリ軸の両端を支持する一対の支持孔を備え、前記プーリ本体の径方向一方側を覆うプーリ支持ケースと、
前記プーリ本体の径方向から前記プーリ支持ケースに装着され、前記プーリ本体の径方向他方側を覆うプーリカバーと、
前記プーリ支持ケースの前記一対の支持孔にそれぞれ近接して設けられ、前記プーリ支持ケースの内部に浸入した雨水等を排水するための一対の排水孔と、
前記プーリカバーに設けられ、前記プーリ支持ケースに前記プーリカバーを装着した状態のもとで、前記プーリ軸の軸方向から前記一対の排水孔に対して所定間隔を介して重なる一対の突出部とを有することを特徴とするプーリ装置。
【請求項2】
請求項1記載のプーリ装置において、前記プーリ支持ケースに設けられ、前記一対の排水孔にそれぞれ近接する一対の係止部と、前記プーリカバーに設けられ、前記一対の係止部に係合する一対の係止爪とを有し、前記一対の係止爪に前記一対の突出部を設けることを特徴とするプーリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−262704(P2009−262704A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113055(P2008−113055)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】