説明

ヘッドカバーのシール構造

【課題】 ヘッドカバーにオイルシール(シール部材)を溶着等により固着すると、オイルシール単品での交換ができなくなり、留め金やブラケットを用いて固定すると、部品点数が増加して重量やコストが増加する。
【解決手段】 合成樹脂製のヘッドカバー1の取付孔3Aの孔周壁部3とこれに嵌合する取付部材との間に環状のオイルシール10を介装する。このオイルシール10が孔周壁部3へ差し込むことによって強固に組み付けられるように、孔周壁部3の内周とこれに密接するオイルシール10の外周に、互いに嵌合する凹凸として、孔周壁部3側に筒部6とフランジ部7を、オイルシール10側に大径部18,小径部19及び突部20を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の合成樹脂製のヘッドカバーの取付孔と燃料噴射弁や点火プラグ等の取付部材との間にシール部材を介装したヘッドカバーのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3に記載されているように、エンジンのヘッドカバー(ロッカカバーとも呼ばれる)には、ディーゼルエンジンにおける燃料噴射弁やガソリンエンジンにおける点火プラグのような筒状の取付部材が組み付けられる複数の取付孔が貫通形成されており、この取付孔の孔周壁部と取付部材との隙間をオイルシールのようなシール部材で液密にシールするようになっている。
【特許文献1】実開平4−117293号公報
【特許文献2】実開平6−34153号公報
【特許文献3】特開2004−052705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ヘッドカバーを合成樹脂製とした場合、アルミ合金等の金属製のヘッドカバーに比して、軽量化や低コスト化を図れる一方、シール部材の組付精度や組付剛性の確保が困難であり、エンジンからの振動等によってシール部材の位置ずれや脱落を招くおそれがある。その対策として、振動溶着等によりシール部材をヘッドカバーへ確実に固着すると、一度固着した後にシール部材をヘッドカバーから取り外すことができず、例えば組付時にシール部材が傷ついたような場合にも、シール部材単品での交換ができなくなるといった不具合がある。また、適宜な留め金やブラケットを用いてシール部材をヘッドカバーに強固に固定することも考えられるが、この場合、部品点数が増加するとともに重量増加や大型化を招き、また、組付作業が繁雑となるという不具合がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、合成樹脂製のヘッドカバーの取付孔の孔周壁部とこれに嵌合する取付部材との間に環状のシール部材を介装したヘッドカバーのシール構造において、上記シール部材を孔周壁部へ差し込むことによって、上記シール部材が孔周壁部へ強固に組み付けられるように、上記孔周壁部の内周とこれに密接するシール部材の外周に、互いに嵌合する凹凸が形成されている。
【発明の効果】
【0005】
このような本発明によれば、シール部材を孔周壁部に差し込むことによって、凹凸が形成された孔周壁部の内周とシール部材の外周とが密接して、シール部材を孔周壁部へ軸方向や径方向にぐらつくことなく強固に組み付けることができる。このため、エンジンからの振動等による不用意な脱落や位置ずれを生じることがない。また、上記従来例のようにシール部材を溶着等によりヘッドカバー側へ固着していないので、組付後にシール部材をヘッドカバーから取り外すことが可能で、つまりシール部材単品での交換が可能である。更に、シール部材を孔周壁部へ取り付けるための留め金やブラケット等の部品を必要としないので、部品点数が少なく、軽量・小型化が図れるとともに、組立作業も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。図3及び図4は、本発明の一実施例に係るシール構造が適用される直列4気筒エンジンのヘッドカバー1を単体で示している。このヘッドカバー1は、軽量かつ安価な合成樹脂材料により一体的に型成形されるもので、その周縁部に形成される複数のボルトボス部2に挿通・嵌合する複数の固定ボルト(図示省略)によって、シリンダヘッド(図示省略)の上部にヘッドガスケット(図示省略)を挟んで共締め固定される。このヘッドカバー1には、気筒列方向に沿って複数の取付孔3Aが開口形成されており、この取付孔3Aの孔周壁部3に、筒状の取付部材4が取り付けられる。この取付部材4は、例えばディーゼルエンジンにあっては高圧コモンレール式の燃料噴射弁であり、ガソリンエンジンにあっては点火プラグである。そして、この孔周壁部3と取付部材4との隙間を埋めてこの部分をシールするように、両者3,4間にシール部材としてのオイルシール10(図1,図2参照)が介装され、このオイルシール10によって、エンジンオイルが飛散するオイル雰囲気下にあるヘッドカバー1の内部が液密に隔成すなわちシールされる。
【0007】
図1及び図2はオイルシール10及びヘッドカバー1の取付孔3Aの近傍の断面図である。本実施例では、オイルシール10を挿入方向Fに沿って孔周壁部3へ差し込むことによって、このオイルシール10が強固に孔周壁部3へ組み付けられるように、互いに密接する孔周壁部3の内周(面)とオイルシール10の外周(面)とに、互いに嵌合する凹凸が形成されている。
【0008】
なお、挿入方向Fは取付部材4,孔周壁部3及びオイルシール10の軸方向に沿うものであり、本明細書での「上下」は、基本的に、図1で下向きの挿入方向Fを「下」方向とし、この挿入方向Fに沿う方向を「上下」方向として用いている。
【0009】
ヘッドカバー1は、その大部分が所定厚さの一般壁部5により形成されている。このヘッドカバー1の各孔周壁部3は、一般壁部5より下方へ延びる略筒状の筒部6と、この筒部6の下端より径方向内方へ張り出したフランジ部7と、により構成されている。
【0010】
オイルシール10は、その内部に金属製の芯材11とスプリング12とを内包した状態で、ゴム等の弾性材料により一体的に型成形される。このオイルシール10は、挿入方向(軸方向)Fに沿う略筒状をなす中央脚部13と、孔周壁部3に密接する外側脚部14と、取付部材4の外周に密接する内側脚部15と、を有し、これら脚部13〜15が断面略S字状に接続した形状を呈している。外側脚部14は、中央脚部13の径方向外側つまり外周側に所定の間隙16を介して配置され、上側で中央脚部13と接続し、その内部に補強用の芯材11が軸方向Fのほぼ全長にわたって埋設されている。内側脚部15は、中央脚部13の径方向内側つまり内周側に所定の間隙17を介して配置され、中央脚部13と下側で接続しており、その上端部が内部に埋設されるスプリング12によって取付部材4の外周に強く密接される。
【0011】
そして、外側脚部14には、筒状の小径部19と、この小径部19の上端より径方向外方へ張り出し、つまり小径部19よりも径方向寸法が大きく設定された大径部18と、小径部19の下端より径方向外方へ突出する突部20と、が形成されている。換言すると、大径部18と突部20との間に、フランジ部7が嵌合する溝形状の小径部19が形成されている。
【0012】
オイルシール10の組付時には、オイルシール10を挿入方向Fに沿って孔周壁部3へ強く挿入・差し込んでいくと、突部20がフランジ部7を乗り越えて、図2に示すような組付状態となり、筒部6が大径部18へ強く密着・嵌合するとともに、フランジ部7が小径部19と強く密着・嵌合し、かつ、このフランジ部7の下端外周側のコーナー部が突部20と強く密着する。つまり、大径部18と小径部19との段差面等を含めて、凹凸が形成された外側脚部14の外周と孔周壁部3の内周とが実質的に隙間無く強く密接し、オイルシール10が挿入方向Fや径方向にぐらつくことなく強固に孔周壁部3へ組み付けられ、エンジンからの振動等により脱落したり位置ずれを招くことはない。
【0013】
上記の挿入・差込時に突部20がこれより小径であるフランジ部7を良好に乗り越えることができるように、互いに突き当てられる突部20の外周下面側コーナー部と、フランジ部7の内周上面側コーナー部と、には、それぞれ傾斜(又は湾曲)するテーパ面20B,8が形成されている。
【0014】
また、このようにオイルシール10がヘッドカバー1に嵌合して組み付けられることから、組付後に交換等の理由によりヘッドカバー1から取り外すことが可能であり、この取り外し時の作業性を考慮して、つまりオイルシール10を孔周壁部3から引き抜く際の荷重を軽減するように、突部20の上面も傾斜(又は湾曲)するテーパ面20Aに形成されている。つまり、突部20は上記2つのテーパ面20A,20Bにより径方向へ略V字状に張り出した形状をなしている。
【0015】
更に、所期の密着力つまり組付剛性を確保するために大径部18は筒部6よりも径方向寸法が十分に大きく設定されている。このため、オイルシール10の組付時に大径部18が大きく弾性変形することとなり、この弾性変形による挿入力の過度な増加やいびつな変形態様となることを抑制・防止するために、大径部18の上面には、大径部18の弾性変形を許容・吸収するための凹溝23が凹設されている。また、挿入作業性を考慮して、筒部6の内周上面側コーナー部と大径部18の外周下面側コーナー部には、それぞれ傾斜又は湾曲するテーパ面が21,22が形成されている。
【0016】
なお、上述したテーパ面は、一般的な面取り部のような単にコーナー部分を僅かに丸めたものとは異なり、組付・取り外し時に必要な荷重等を考慮して所定の傾斜角度や曲率に設定されるものである。例えば突部20の下側のテーパ面20Bは軸方向Fに対して約30度の緩く長い傾斜角度に設定されている。
【0017】
また、孔周壁部3の内周に密接する外側脚部14の外周には、主としてオイルシール10の組付・取り外し時の荷重軽減のために、大径部18,小径部19及び突部20を含むその全面にわたって、ドライワックス等の適宜な表面処理剤がコーティングされている。
【0018】
更に、外側脚部14には芯材11が軸方向Fについて孔周壁部3との密接部分のほぼ全長にわたって延在しているために、十分に高い圧接力、ひいては組付剛性を確保することができる。しかも、小径部19や突部20が存在する外側脚部14の下部と中央脚部13との間には間隙16が確保されているため、上記圧接力の影響が内側脚部15のシール部分に悪影響を与えることが低減・回避されており、かつ、組付・取り外し時には突部20が内側へ適宜に撓むことが可能である。
【0019】
次に、このオイルシール10に組み付けられるダストカバー30について説明する。このダストカバー30は、オイルシール10の内側脚部15の内周と取付部材4の外周とのシール部分に埃等が浸入することを防止するもので、このシール部分の上方を覆うように配設される。そして本実施例では、ダストカバー30を挿入方向Fに沿ってオイルシール10へ挿入・差し込むことによって、このダストカバー30がオイルシール10に強固に組み付けられるように構成されている。詳しくは、ダストカバー30は、取付部材4の外周に当接する環状のシール部31と、オイルシール10の中央脚部13の上部内周に嵌合して組み付けられる金属部32と、により構成されている。この金属部32は、金属材料により屈曲形成されており、シール部31の外周が接続される環状の環状部33と、最外周側に配置された筒状をなす筒状部34と、を有している。中央脚部13の上部内周側には、上記の筒状部34が嵌合する嵌合溝部35が凹設されるとともに、この嵌合溝部35の上方に、径方向内方へ略V字状(断面三角形状)に張り出した突起部36が形成されている。
【0020】
上記の構成により、ダストカバー30の組付時にはこのダストカバー30をオイルシール10へ挿入方向Fに差し込んでいくと、ダストカバー30の最外周の筒状部34が突起部36を乗り越えて嵌合溝部35に密着状態で嵌合し、このダストカバー30が強固にオイルシール10へ組み付けられ、エンジンからの振動等により脱落したり位置ずれを生じることはない。また、このような組付構造によって、振動溶着等による固着とは異なり、組付後にオイルシール10からダストカバー30を取り外すことが可能であり、ダストカバー30のみの交換が可能で、コスト的に有利である。
【0021】
特に本実施例では、ダストカバー30の外周側の筒状部34が嵌合する中央脚部13の上部が、芯材11が埋設された外側脚部14との間に間隙(16)のない厚肉・中実形状となっており、上記の芯材11が軸方向Fについて筒状部34の全長にわたって延在するように設定されているために、十分な圧縮圧力、ひいては組付剛性を確保することができる。また、突起部36の内周面が上記の突部20と同様に径方向へ略V字状に張り出した一対の傾斜面により構成されているために、ダストカバー30の組付・取り外し時に、突起部36を筒状部34がスムーズに乗り越えさせることができ、その作業性が向上する。
【0022】
以上のように本発明を具体的な実施例に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変形・変更を含むものである。例えば、上記実施例ではオイルシール10の突部20が全周にわたって設けられているが、適正な脱落防止力と組付・取り外し時に必要な荷重とのバランスを考慮して、突部を周方向に間欠的に形成して、その接触面積を調整するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例に係るシール構造を適用したオイルシールとヘッドカバーの取付孔の近傍を示す組付状態での断面図。
【図2】図1のオイルシールとヘッドカバーの取付孔の近傍を示す組付前の状態での断面図。
【図3】本実施例が適用されるヘッドカバーを単体で示す平面図。
【図4】図3のA−A線に沿う断面図。
【符号の説明】
【0024】
1…ヘッドカバー
3A…取付孔
3…孔周壁部
4…取付部材
6…筒部
7…フランジ部
10…オイルシール(シール部材)
11…芯材
18…大径部
19…小径部
20…突部
30…ダストカバー
34…筒状部
35…嵌合溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製のヘッドカバーの取付孔の孔周壁部とこれに嵌合する取付部材との間に環状のシール部材を介装したヘッドカバーのシール構造において、
上記シール部材を孔周壁部へ差し込むことによって、上記シール部材が孔周壁部へ強固に組み付けられるように、上記孔周壁部の内周とこれに密接するシール部材の外周に、互いに嵌合する凹凸が形成されていることを特徴とするヘッドカバーのシール構造。
【請求項2】
上記シール部材の内部には補強用の芯材が埋設され、この芯材が、軸方向についてシール部材と孔周壁部との密接部分の全長にわたって延在していることを特徴する請求項1に記載のヘッドカバーのシール構造。
【請求項3】
上記孔周壁部は、筒部と、この筒部の下端より径方向内方へ張り出したフランジ部と、を有し、
上記シール部材は、上記フランジ部に密接する小径部と、この小径部の上端より径方向外方へ張り出し、上記筒部に密接する大径部と、上記小径部の下端より径方向外方へ突出する突部と、を有し、
かつ、上記突部の外周下面側コーナー部と、上記フランジ部の内周上面側コーナー部と、の少なくとも一方に、傾斜又は湾曲するテーパ面が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッドカバーのシール構造。
【請求項4】
上記シール部材と取付部材とのシール部分の上方を覆うダストカバーをシール部材へ差し込むことによって、上記ダストカバーがシール部材へ強固に組み付けられるように、上記ダストカバーの外周に金属製の筒状部が設けられるとともに、上記シール部材の内周に、上記筒状部が嵌合する嵌合溝部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のヘッドカバーのシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−321605(P2007−321605A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150806(P2006−150806)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000151209)株式会社マーレ フィルターシステムズ (159)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】