説明

ベルト冷却装置および画像形成装置

【課題】転写定着一体方式の画像形成装置に用いられ、転写定着時に加熱された無端ベルトを、省スペースかつオゾンレスで十分に冷却して、従来よりも効果的に熱による画像記録部の劣化を防止し、かつ転写ベルトの劣化も防止できる冷却装置を提供する。
【解決手段】ベルト冷却装置である電子放出装置31は、電子放出素子30と、電子放出素子30の電子加速層303にて電子を加速させ、薄膜電極302から電子が放出するように、電極基板301と薄膜電極302との間に電圧を印加する第1電源1Vと、薄膜電極302と中間転写ベルト21との間に電圧を印加する第2電源V2と、を備えている。薄膜電極302は、中間転写ベルト21と対向して配置され、電子加速層303は、抗酸化力が高い金属微粒子と、金属微粒子の大きさより大きい絶縁体の微粒子とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端ベルト上に中間転写されたトナー像を記録媒体に転写すると同時に定着する、転写定着一体方式を用いた画像形成装置に設置されるベルト冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成プロセスを利用する画像形成装置では、一般的に、潜像担持体である感光体表面の感光層を均一に帯電させる帯電工程、帯電された感光体表面に原稿像の信号光を投射して静電潜像を形成する露光工程、感光体表面の静電潜像に電子写真用トナーを供給して顕像化する現像工程、感光体表面のトナー像を中間転写媒体を介して紙あるいはOHPシートなどの記録媒体に転写する転写工程、トナー像を加熱や加圧などにより記録媒体上に定着させる定着工程、およびトナー像転写後の感光体表面に残留するトナーなどをクリーニングブレードにより除去して清浄化するクリーニング工程、を実行して記録媒体上に所望の画像を形成する。
【0003】
ここで、感光体表面のトナー像を中間転写媒体を介して紙あるいはOHPシートなどの記録媒体に転写する方式では、中間転写媒体上のトナー像を完全に記録媒体に転写させることは困難であり、トナーが一部中間転写媒体上に残留するのが現状である。このトナーの残留量は中間転写媒体上に形成されたトナー像の層厚によって異なるため、カラー画像を形成する際に、記録媒体上に形成されるカラー画像の色バランスがずれ、所望のカラー画像が得られない場合がある。また、記録媒体である紙の表面凹凸のため、紙と中間転写媒体とが完全に密着せず、不均一なギャップが生じ、画像の品質が劣化する。
【0004】
このような問題に対して、中間転写媒体上にトナー画像を溶融した後、記録媒体にその溶融したトナー像を転写するとともに定着する転写定着一体方式がある。しかしながら、この転写定着一体方式は、中間転写媒体である中間転写ベルトが加熱加圧され、転写定着部を通過した中間転写ベルトの熱が潜像担持体である感光体およびトナーを供給する現像槽等の画像記録部に伝わり、感光体の劣化、トナーの凝集等といった問題が生じる。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1では、中間転写ベルトに設置する転写定着部の位置を画像記録部から遠ざけたり、水冷方式の冷却装置を設置したりする画像形成装置が開示されている。また、特許文献2では、転写定着部の下流のベルトの内面に、ペルチェ素子や冷却フィンを押し付けて設置することによって、省スペースで冷却する電子写真装置が開示されている。さらに、転写定着一体方式ではないが、一般的な画像形成装置において、特許文献3では、定着部を覆うカバーに放電装置を設置することによってイオン風を発生させ、定着部から放出される熱気や水蒸気を効率的に機外に排出する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−350357号公報(平成13年12月21日公開)
【特許文献2】特開平5−27603号公報(平成5年2月5日公開)
【特許文献3】特開2007−86123号公報(平成19年4月5日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の画像形成装置では、冷却が不十分であり、十分に冷却するにはスペースが多く必要であるという課題を有している。また、特許文献2に開示の電子写真装置では、循環移動する転写ベルトに冷却装置が接触するため、転写ベルトの摩擦係数を減少させる表面処理を行う必要があり、冷却効率が低くなる。また、長期間の使用または高速回転に耐え得ることができない可能性も考えられる。また、これらの冷却装置は転写ベルトに接しなければ、冷却効率はさらに低くなる。さらに、特許文献3に開示の技術では、放電に伴ってオゾンが発生する。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、転写定着一体方式の画像形成装置に用いられ、転写定着時に加熱された無端ベルトを、省スペースでオゾンレスで十分に冷却して、従来よりも効果的に熱による画像記録部の劣化を防止し、かつ転写ベルトの劣化も防止できるベルト冷却装置、およびこの冷却装置を備えた画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るベルト冷却装置は、上記課題を解決するために、像担持体に形成されたトナー像を無端ベルトに中間転写する中間転写手段と、無端ベルト上に中間転写されたトナー像を少なくとも加熱して記録媒体へ転写定着する転写定着手段と、を備えた画像形成装置の、上記無端ベルトを冷却するため、上記転写定着手段の下流かつ上記中間転写手段の上流に配置される、ベルト冷却装置であって、電極基板、薄膜電極、および該電極基板と該薄膜電極とに挟まれた電子加速層、を有する電子放出素子と、上記電子加速層にて電子を加速させ、上記薄膜電極から当該電子が放出するよう、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する第1電圧印加手段と、上記薄膜電極と上記無端ベルトとの間に電圧を印加する第2電圧印加手段と、を備え、上記薄膜電極は、上記無端ベルトと対向して配置され、上記電子加速層は、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質とを含んでいることを特徴としている。
【0009】
上記構成によると、電子放出素子が薄膜電極から電子を放出すると、その電子が電子放出素子と無端ベルトとの間に介する空気に衝突し、空気分子がイオン化される。このイオン化された空気分子が電界に沿って移動することによりイオン風が発生し、そのイオンが無端ベルトに到達することにより、無端ベルト表面の加熱された空気分子が撹拌され、熱交換が起こる。その結果、中間転写ベルト21が冷却される。そのため、無端ベルトにベルト冷却装置を接触させることなく、省スペースで、熱変換を行い、転写定着時に加熱された無端ベルトを効果的に冷却できる。このような電子放出素子を転写定着時に加熱された無端ベルトを冷却する手段として用いることにより、従来の冷却ファンと比べて、冷却効果を数倍に高められる。また、水冷を使った場合と比べて、省スペースで効果的に冷却できる。また、ペルチェ素子やヒートシンクのような接触型冷却手段よりも空間熱変換に優れ、電力効率がよい。さらに、無端ベルトに接触しないため循環する無端ベルトを磨耗することがなく、表面処理を施す必要もない。
【0010】
また、上記構成によると、電子加速層には、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質と、が含まれている。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。本発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電微粒子として該当する。また、該当する導電微粒子の周囲に、その導電微粒子の大きさよりも小さい絶縁体物質を付着、または被覆することで、酸化物の生成反応をより起こし難くした状態の導電微粒子も、抗酸化力が高い導電微粒子に含まれる。
【0011】
この電子加速層は、絶縁体物質と抗酸化力が高い導電微粒子とが緻密に集合した薄膜の層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。
【0012】
また、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難いため、大気圧中でも安定して動作させることができる。また、絶縁体物質および導電微粒子は、電子加速層における抵抗値および弾道電子の生成量を調整することができるため、電子加速層を流れる電流値と電子放出量の制御を可能とする。さらに、絶縁体物質は、電子加速層を流れる電流により生じるジュール熱を効率良く逃がす役割を受け持つことができるため、電子放出素子が熱で破壊されるのを防ぐことができる。
【0013】
この電子放出素子は、上記構成を有するため、真空中だけでなく大気圧中で動作させても放電を伴わず、オゾンやNOx等の有害物質をほぼ生成せず、電子放出素子が酸化劣化しない。そのため、この電子放出素子を用いた本発明に係るベルト冷却装置は、従来の放電によるイオン発生装置とは異なり、オゾンを発生させることなく安定してイオン風を発生させることができる。
【0014】
以上のように、本発明に係るベルト冷却装置は、転写定着時に加熱された無端ベルトを、省スペースかつオゾンレスで十分に冷却して、従来よりも効果的に熱による画像記録部の劣化を防止し、かつ転写ベルトの劣化も防止することができる。
【0015】
本発明に係るベルト冷却装置は、上記構成に加え、上記転写定着手段の下流かつ上記中間転写手段の上流に、上記無端ベルトの移動方向と逆方向に送風する送風装置を備えていてもよい。
【0016】
電子放出素子により発生したイオン風が無端ベルトに到達することにより、無端ベルト表面の空気分子が撹拌される。その際、送風装置を設置することによって、熱交換後の空気分子を排除し、常に電子放出素子から発生したイオン風を無端ベルトに到達させることができ、効果的に冷却することができる。ここで、電子放出素子と無端ベルトとは近距離であるため、電子放出素子から発生したイオン風は送風装置を用いることなく無端ベルトに到達することができる。ここで、送風装置を用いることで、熱交換された無端ベルト上の熱い空気分子を排除し、常に新しいイオン風を無端ベルトに接触させることができる。また、送風が無端ベルトの移動方向と逆方向であるため、現像部の上流部を最も効果的に冷却することができる。つまり、熱交換された熱い空気分子が現像部へ進入することを防ぐと同時に、現像部直前の無端ベルト上に最も効率的に新しいイオン風を接触させることができる。
【0017】
本発明に係るベルト冷却装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子を成す導電体は、貴金属であってもよい。このように、上記導電微粒子を成す導電体が、貴金属であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、ベルト冷却装置の長寿命化を図ることができる。
【0018】
本発明に係るベルト冷却装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子を成す導電体は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0019】
導電微粒子の酸化膜が厚くなるとトンネル効果の妨げになるため、導電微粒子を成す導電体は、酸化しにくい金属である必要がある。従って、導電微粒子を成す導電体として、金、銀、白金、ニッケル、およびパラジウムの少なくとも1つを用いることによって、大気中の酸素による酸化をより効果的に防ぐことができる。よって、ベルト冷却装置の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0020】
本発明に係るベルト冷却装置は、上記構成に加え、上記絶縁体物質は、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいる、または有機ポリマーを含んでいてもよい。
【0021】
上記構成により、絶縁体物質が、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いため、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。抵抗値が高くなるに伴い、電子放出素子内の電流が流れにくくなり、電子放出量が少なくなる。逆に抵抗が低くなるに伴い、電子が加速することなく導通し、電子放出量が少なくなる。したがって、抵抗値を調整することによって、電子放出素子内の電流と電子加速とを制御し、電子放出量を制御することができる。また、絶縁体物質として酸化物(SiO、Al、及びTiOの)を用いる場合には、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難くする効果も得ることができるため、本発明のベルト冷却装置の大気圧中での安定動作を、より効果的に行わせることができる。
【0022】
ここで、上記絶縁体物質は微粒子であってもよい。上記絶縁体物質を微粒子とすることにより、上記絶縁体物質の大きさよりも小さい上記導電微粒子の内部から外部へと効率よく熱伝導させて、素子内を電流が流れる際に発生するジュール熱を効率よく逃がすことができ、電子放出素子が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、上記電子加速層における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
【0023】
本発明に係るベルト冷却装置では、上記構成に加え、上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記薄膜電極に、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質は仕事関数が低いため、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
【0024】
本発明に係るベルト冷却装置は、上記構成に加え、上記導電微粒子の周囲に、当該導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質が存在してもよい。このように、上記電微粒子の周囲に、当該導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質が存在することは、電子放出素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献する他、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする電子放出素子の劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、ベルト冷却装置の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0025】
本発明に係るベルト冷却装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子の周囲に存在する絶縁体物質は、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記導電微粒子の周囲に存在する絶縁体物質が、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいると、電子放出素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体物質の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、ベルト冷却装置の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0026】
ここで、本発明に係るベルト冷却装置では、上記導電微粒子の周囲に存在する上記導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質は、上記導電微粒子表面に付着して付着物質として存在するものであり、当該付着物質は、上記導電微粒子の平均径より小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していてもよい。このように、上記導電微粒子の周囲に存在する上記導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質が、上記導電微粒子表面に付着あるいは、上記導電微粒子の平均径より小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していることで、電子放出素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体物質の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。その結果、ベルト冷却装置の長寿命化をさらに効果的に図ることができる。
【0027】
本発明に係る画像処理装置は、上記課題を解決するために、像担持体からトナー像を無端ベルト上へ中間転写する中間転写手段と、上記無端ベルト上に中間転写されたトナー像を少なくとも加熱して記録媒体へ転写定着する転写定着手段と、上記転写定着手段の下流かつ上記中間転写手段の上流に配置される、上記いずれか1つのベルト冷却装置と、を備えたことを特徴としている。
【0028】
上記構成によると、本発明に係るベルト冷却装置を、転写定着時に加熱された無端ベルトを冷却する手段として用いるため、無端ベルトを、省スペースかつオゾンレスで十分に冷却して、従来よりも効果的に熱による画像記録部の劣化を防止し、かつ転写ベルトの劣化も防止できる転写定着一体方式の画像形成装を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るベルト冷却装置は、以上のように、電極基板、薄膜電極、および該電極基板と該薄膜電極とに挟まれた電子加速層、を有する電子放出素子と、上記電子加速層にて電子を加速させ、上記薄膜電極から当該電子が放出するよう、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する第1電圧印加手段と、上記薄膜電極と上記無端ベルトとの間に電圧を印加する第2電圧印加手段と、を備え、上記薄膜電極は、上記無端ベルトと対向して配置され、上記電子加速層は、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質とを含んでいる。
【0030】
上記構成によると、電子放出素子が薄膜電極から電子を放出すると、その電子が電子放出素子と無端ベルトとの間に介する空気に衝突し、空気分子がイオン化される。このイオン化された空気分子が電界に沿って移動することによりイオン風が発生し、そのイオンが無端ベルトに到達することにより、無端ベルト表面の加熱された空気分子が撹拌され、熱交換が起こる。その結果、中間転写ベルト21が冷却される。そのため、無端ベルトにベルト冷却装置を接触させることなく、省スペースで、熱変換を行い、転写定着時に加熱された無端ベルトを効果的に冷却できる。このような電子放出素子を転写定着時に加熱された無端ベルトを冷却する手段として用いることにより、従来の冷却ファンと比べて、冷却効果を数倍に高められる。また、水冷を使った場合と比べて、省スペースで効果的に冷却できる。また、ペルチェ素子やヒートシンクのような接触型冷却手段よりも空間熱変換に優れ、電力効率がよい。さらに、無端ベルトに接触しないため循環する無端ベルトを磨耗することがなく、表面処理を施す必要もない。
【0031】
また、上記構成によると、電子放出素子の電子加速層には、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質と、が含まれている。この電子加速層は、絶縁体物質と抗酸化力が高い導電微粒子とが緻密に集合した薄膜の層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。また、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難いため、大気圧中でも安定して動作させることができる。絶縁体物質および導電微粒子は、電子加速層における抵抗値および弾道電子の生成量を調整することができるため、電子加速層を流れる電流値と電子放出量の制御を可能とする。さらに、絶縁体物質は、電子加速層を流れる電流により生じるジュール熱を効率良く逃がす役割を受け持つことができるため、電子放出素子が熱で破壊されるのを防ぐことができる。この電子放出素子は、上記構成を有するため、真空中だけでなく大気圧中で動作させても放電を伴わず、オゾンやNOx等の有害物質をほぼ生成せず、電子放出素子が酸化劣化しない。そのため、この電子放出素子を用いた本発明に係るベルト冷却装置は、従来の放電によるイオン発生装置とは異なり、オゾンを発生させることなく安定してイオン風を発生させることができる。
【0032】
以上のように、本発明に係るベルト冷却装置は、転写定着時に加熱された無端ベルトを、省スペースかつオゾンレスで十分に冷却して、従来よりも効果的に熱による画像記録部の劣化を防止し、かつ転写ベルトの劣化も防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に本発明の実施の形態について図1〜5に基づいて説明する。なお、以下に記述する実施の形態および実施例は本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって限定されるものではない。
【0034】
図1は、本発明の実施の一形態である画像形成装置10の中間転写ベルト21付近の構成を模式的に示す断面図である。画像形成装置10は、複写機能、プリンタ機能およびファクシミリ機能を併せ持つ複合機であり、伝達される画像情報に応じて、記録媒体上にフルカラーまたはモノクロの画像を形成する。すなわち、画像形成装置10は、コピアモード(複写モード)、プリンタモードおよびFAXモードの3種の印刷モードを有しており、図示しない操作部からの操作入力、パーソナルコンピュータ、携帯端末装置、情報記録記憶媒体、メモリ装置を用いた外部機器からの印刷ジョブの受信などに応じて、図示しない制御部により、上記いずれかの印刷モードが選択される。
【0035】
画像形成装置10は、トナー像形成部1と、転写定着部2と、冷却部(ベルト冷却装置)3とを含む。なお、画像形成装置は、他に、光学系ユニット、給紙部等を備え、さらにこれらの部材を収容する筐体を備えているが、説明は割愛する。
【0036】
トナー像形成部1は、カラー画像情報に含まれるブラック(b)、シアン(c)、マゼンタ(m)およびイエロー(y)の各色の画像情報にそれぞれ対応するために、4つ設けられる。4つのトナー像形成部1は、それぞれ、感光体11と、帯電手段12と、現像手段13と、クリーニングユニット14とを含む。それぞれの現像手段13には、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各色トナーが収容される。ここで、後述のように、中間転写ベルト20は、冷却部3のある冷却領域からのトナー像形成部1のある転写領域に至る間に、ベルト表面に残留する電子をリークさせるために導電性を有するベルトを用いて形成されており、トナーの極性は限定されない。
【0037】
転写定着部2は、感光体11の上方に配置され、中間転写ベルト21と、転写定着ローラ(転写定着手段)22と、駆動ローラ23と、中間転写ローラ(中間転写手段)24と、転写ベルトクリーニングユニット25と、加圧ローラ26とを含む。中間転写ベルト21は、転写定着ローラ22と、駆動ローラ23とによって張架されてループ状の移動経路を形成する無端ベルト状部材である。中間転写ベルト21は図2において矢符Aの方向に回転駆動される。
【0038】
ここで、転写定着ローラ22は、内部に発熱体を有しており、中間転写ローラ22上にトナー像を溶融した後、記録媒体にその溶融したトナー像を転写定着させる。
【0039】
画像形成装置10による画像形成の工程は次のようになる。まず、感光体11表面を帯電手段12が一様に帯電した後、帯電した感光体11の表面を図示しない光学系ユニットが画像情報に応じてレーザー露光して静電潜像を形成する。続いて、現像手段13が感光体11上の静電潜像をトナーによって現像し、顕像化により得られたトナー像を、トナーとは逆極性のバイアス電圧が印加された中間転写ローラ24が中間転写ベルト21上に転写する。これにより、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、それぞれのトナー像が、それぞれ中間転写ベルト21上に転写される。
【0040】
中間転写ベルト21上のトナー像は、転写定着ローラ22まで搬送され、別途、図示しない給紙部から給紙された記録媒体に対して、転写定着される。このとき、中間転写ベルト21上のトナー像は、転写定着ローラ22により十分に加熱されて溶融され、この溶融したトナー像が記録媒体上に転写され、転写定着ローラ22と加圧ローラ26とで挟まれて搬送されることで、定着される。その後、トナー像が転写定着された記録媒体は、外部へ排出される。以上により、画像形成工程が終了する。
【0041】
冷却部(ベルト冷却装置)3は、電子放出装置(ベルト冷却装置)31と送風装置32とを有し、転写定着ローラ22により熱せられた中間転写ベルト21を冷却する。図2に示すように電子放出装置31は中間転写ベルト21の鉛直方向上部に設けられ、中間転写ベルト21の表面に向かってイオン風を発生させる装置である。電子放出装置31の電子放出素子30から電子が放出され、放出された電子は、中間転写ベルト21と電子放出素子30との離間部に存在する空気分子に衝突する。この衝突により、空気分子が、イオン化される。そして、イオン化された空気分子が、中間転写ベルト21と電子放出素子30との間の電界(図2の下向きの矢印の方向)に沿って移動することにより、イオン風が発生する。このイオン化された空気分子が中間転写ベルト21に到達し、中間転写ベルト21表面の加熱された空気分子が撹拌され、熱交換が起き、その結果、中間転写ベルト21が冷却される。
【0042】
図1では、電子放出素子30を4つ、また、図2では、電子放出素子30をベルト幅と同じ幅のものを3つ設けているが、大きさおよび個数は限定されない。なお、小型の電子放出素子の方が、素子作製が容易で、コストが安いというメリットがある。ただし、電子放出素子30の設置数または面積を増やすとより効果的に冷却することができる。電子放出装置31および電子放出素子30の詳細は後述する。
【0043】
送風装置32は、イオン風により熱交換が行われ熱せられた空気を外部に排気させる装置である。中間転写ベルト31の鉛直方向上部の両端に設けられ、中間転写ベルト21の移動方向と逆方向(図2の矢符Bの方向)に送風が起こるように設置される。送風装置32は、必ずしも設置する必要はないが、電子放出装置31と併用することによって、より効果的に中間転写ベルト21を冷却することができる。
【0044】
なお、送風装置32の風量は、イオン化された空気分子の熱交換に必要な量が中間転写ベルト21に到達しつつ、効果的に熱交換後の空気を排気することができる量である必要がある。一例として、後述するように、電子放出素子30を中間転写ベルト21の鉛直方向5mm上に備え、電子放出電流量を1μA・cm−2とし、電子放出素子30の薄膜電極302と中間転写ベルト21との間の電圧を300Vとした場合、送風装置32からの風量は、0.9〜2.0L・min−1・cm−2の範囲で効果を確認できた。
【0045】
中間転写ベルト21は、半導電性のものを用いる。中間転写ベルト21の電子放出素子30との対向する冷却領域では、電子放出装置31から発生するイオンが接触することになる。しかし、中間転写ベルト21上にイオンが残存した状態で転写領域に移動すると、転写性能が低下する。そのため、中間転写ベルト21が冷却領域から転写領域に到達する前に電荷をリークする程度の導電性が必要になる。
【0046】
中間転写ベルト21は、その他は特に制限はなく、一般的な画像形成装置に用いられている半導電性の中間転写ベルトを用いることができる。また、効果的に冷却および加熱するには、ベルトの熱容量が低いものが好ましい。耐久性を保持できる程度の膜厚があれば、薄いものほど熱交換が容易である。このような中間転写ベルト21として、例えば、導電剤としてカーボンブラックを含有させたポリイミド製フィルム、ポリカーボネート製フィルム等を用いることができる。
【0047】
次に、電子放出装置31について説明する。図3は、電子放出装置31の構成を模式的に示す断面図である。電子放出装置31は、電極基板301、薄膜電極302、および電子加速層303からなる電子放出素子30と、第1電源(第一の電圧印加手段)V1と、第2電源(第二の電圧印加手段)V2と、を備えている。電子加速層303は、電極基板301と薄膜電極302とにより挟まれて存在している。第1電源V1は、電極基板301と薄膜電極302との間に電圧を印加するものであり、電源10は、電子放出素子30における電子加速層303内で電子を加速させ、薄膜電極302から電子を放出させるのに用いられる。第2電源V2は、薄膜電極302と中間転写ベルト21との間に電圧を印加するものであり、薄膜電極302から放出された電子を中間転写ベルト21へ付与するのに用いられる。
【0048】
ここで、図3に示すように、本実施形態では、薄膜電極302の電子放出面は、中間転写ベルト21のトナー像転写面と対向して配置されるが、薄膜電極302の電子放出面が、中間転写ベルト21の内側の面(トナー像転写面の反対面)と対向して配置されてもよい。
【0049】
図4は、電子放出装置31が備える電子放出素子30の斜視断面図である。また、図5は、電子放出素子30の電子加速層303の詳細な断面図である。電子加速層303は、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子307、及び当該導電微粒子307の大きさより大きい絶縁体物質306を含む。
【0050】
図3に示すように、電子放出素子30は、第1電源V1により、電極基板301と薄膜電極302との間、つまり、電子加速層303に電流を流し、その一部を印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、薄膜電極302を透過あるいは薄膜電極302の隙間から放出させる。そして、第2電源V2から印加された電圧により形成された電極基板301と薄膜電極302との間の電界により、放出された電子が中間転写ベルト21側に引き寄せられる。
【0051】
第1電源V1からの印加電圧は、電子放出素子30から安定して電子が放出され、冷却効果を有する程度であればよく、例えば、電子放出電流量が1〜2μA・cm−2になるような電圧(例えば、15〜20V)であればよい。
【0052】
また、第2電源V2からの印加電圧は、マイナスの電荷を持ったイオンを中間転写ベルト21に到達させる電圧であればよく、例えば、300〜400Vが好ましい。ここで、電子放出装置31を配置するに当たって、中間転写ベルト21と薄膜電極302との距離は、薄膜電極302から放出された電子を中間転写ベルト21へ付与することができる距離であれば、特に制限されない。しかし、中間転写ベルト21と薄膜電極302との間の電界強度を高くするための、上記距離は小さい方が好ましい。例えば、その距離は、5〜10mmが好ましい。よって、電子放出素子30の薄膜電極302との間の電界強度は、30000〜80000V/mとなる。このような数値になっていると、オゾンや窒素酸化物に代表される有害物質が発生しない。
【0053】
電極基板301は、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板、ガラス基板のような絶縁体基板、プラスティック基板等が挙げられる。例えばガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、その電子加速層303との界面に金属などの導電性物質を電極として付着さることによって、電極基板として用いることができる。上記導電性物質としては、導電性に優れた貴金属系材料を、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、その構成材料は特に問わない。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよいが、これら材料および数値に限定されることはない。
【0054】
薄膜電極302は、電子加速層303内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層303内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。
【0055】
また、薄膜電極302の膜厚は、電子放出素子30から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜55nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極302を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子30から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は55nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の透過が起こらず、薄膜電極302で弾道電子の吸収あるいは、薄膜電極302で弾道電子が反射されて電子加速層303へ再捕獲される現象が生じてしまう。
【0056】
電子加速層303は、図5に示すように、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、当該導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質とを含んでいればよい。本実施形態では、上記導電微粒子は、金属微粒子307として説明する。また、本実施形態では、上記絶縁体物質は、金属微粒子307の平均径より大きい平均径の微粒子である、絶縁体の微粒子306として説明する。しかしながら、電子加速層303の構成は、上記したものに限定されず、例えば、上記絶縁体物質が、電極基板301に層形成されており、かつ、層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有しており、そして、この開口部には、導電微粒子307が収容されていている、というような形態であってもよい。
【0057】
ここで、金属微粒子307の金属種としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような金属種でも用いることができる。ただし、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、抗酸化力が高い金属である必要があり、その中でも貴金属が好ましく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。このような金属微粒子は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。弾道電子の生成の原理については後段で記載するが、その原理に従って考えると、金属微粒子307の直径は3〜10nmであることが重要である。
【0058】
なお、金属微粒子307の周囲には、金属微粒子307の大きさより小さい絶縁体物質が存在していてもよく、金属微粒子307の大きさより小さい絶縁体物質は、金属微粒子307の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、金属微粒子6の平均径より小さい形状の集合体として、金属微粒子307の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。なお、図5の金属微粒子307は、絶縁体物質を表面に付着させたものである。金属微粒子307の大きさより小さい絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、金属微粒子307の大きさより小さい絶縁体物質が金属微粒子307を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を金属微粒子307の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
【0059】
絶縁体の微粒子306の材料は、絶縁性を有する材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層303を構成する微粒子全体(絶縁被膜された金属微粒子307+絶縁体の微粒子306)に対する絶縁体の微粒子306の重量割合は80〜95%であることが望ましい。
【0060】
また、絶縁体の微粒子306の直径は10〜1000nmであることが好ましく、12〜110nmであることがより好ましい。この場合、絶縁体の微粒子306の粒子径分布は平均粒径に対してブロードであってもよく、例えば平均粒径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。絶縁体の微粒子306の平均径を好ましくは10〜1000nm、より好ましくは12〜110nmとすることにより、絶縁体の微粒子306の大きさよりも小さい金属微粒子307の内部から外部へと効率よく熱伝導させて、電子放出素子30内を電流が流れる際に発生するジュール熱を効率よく逃がすことができ、電子放出素子30が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、電子加速層303における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
【0061】
従って、絶縁体の微粒子306の材料はSiO、Al、TiOといったものが実用的となる。あるいは有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよく、例えば、JSR株式会社の製造販売するスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)、または日本ペイント株式会社の製造販売するスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズが利用可能である。ここで、絶縁体の微粒子306は、2種類以上の異なる粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、あるいは、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。
【0062】
また絶縁体の成す役割は微粒子形状に拘る必要は無く、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質として、有機ポリマーから成るシート基板を用いてもよい。但しこのシート状基板には厚さ方向を貫通する複数の微細孔を有する必要がある。このような用件を満たす材料として、例えば、ワットマンジャパン株式会社の製造販売するメンブレンフィルターニュークリポア(ポリカーボネート製)が有用である。
【0063】
電子加速層303は薄いほど強電界がかかるため低電圧印加で電子を加速させることができるが、電子加速層303の層厚を均一化する必要性、そして層厚方向における電子加速層303の抵抗調整を可能にする必要性等から、電子加速層303の層厚は、12〜6000nm、より好ましくは300〜6000nmであるとよい。
【0064】
以下に本発明に係る実施例および比較例を示す。
【0065】
(実施例1)
実施例1では、冷却装置である電子放出装置31の電子放出素子30は次のように形成した。電極基板301としてSUS、薄膜電極302として金、絶縁体物質を表面に付着させた導電微粒子307として、アルコラートを表面に付着させた銀ナノ粒子(平均径10nm、うちアルコラート1nm厚)、絶縁体の微粒子306として平均粒子径110nmの疎水性シリカを用いた。
【0066】
銀ナノ粒子と疎水性シリカとを、配合比2:8、固形分20wt%でトルエン中に分散させ、SUS基板上にスピンコートし電子加速層303を形成した。ここで、SUS基板は25mm×50mm角で厚さ1mmのものを用いた。また、電子加速層303は層厚が780nmとなるように形成した。
【0067】
このようにSUS基板上に電子加速層303を形成後、電子加速層303上に膜厚が15nmになるように金をスパッタして薄膜電極302を形成し、電子放出素子30を作製した。
【0068】
得られた電子放出素子30を図2に示すように中間転写ベルト21の鉛直方向5mm上部に配置させ、第1電源V1により15Vの電圧を電圧印加し、定電流駆動によって常に電子放出電流量が1μA・cm−2になるように設定した。なお、配置した電子放出素子30全てが、それぞれ電子放出電流量が1μA・cm−2になるように設定した。また、第2電源V2により薄膜電極と中間転写ベルトとの間に300Vの電圧を印加した。
【0069】
上記のように作製した電子放出素子30を、中間転写ベルト21の移動方向に6個、それぞれ50mmの間隔をあけて設置した。また、中間転写ベルト21には、厚さ150μmのカーボンブラックを含有させたポリイミド製フィルムを用い、ベルト幅は34cmとした。
【0070】
そして、100℃に熱せられた中間転写ベルト21の温度を20℃低下させることに必要な時間を測定したところ、9secであった。ここでは、中間転写ベルト21の温度は、赤外線を検出する非接触方式の放射温度計を用いて、現像部上流の中間転写ベルト21上の温度測定を行った。
【0071】
このように、中間転写ベルト21の冷却装置として電子放出装置31を用いることで、省スペースで中間転写ベルト21に冷却装置が接触することなく効果的に冷却できることが確認できた。
【0072】
(実施例2)
実施例2では、図2に示すように、送風装置32を設置し、中間転写ベルト21の移動方向と逆方向への風量が0.9L・min−1・cm−2となるよう設定したこと以外は、実施例1と同様の物質、装置、条件とした。
【0073】
100℃に熱せられた中間転写ベルト21の温度を20℃低下させることに必要な時間を測定したところ、5secであった。このように、送風装置32を加えることによって、更に効果的に冷却できることが確認できた。
【0074】
(実施例3)
薄膜電極302と中間転写ベルト21との間に400Vの電圧を印加したこと以外は、実施例2と同様の物質、装置、条件とした。
【0075】
100℃に熱せられた中間転写ベルト21の温度を20℃低下させるのに必要な時間を測定したところ、2secであった。このように、薄膜電極と中間転写ベルト21との間の電界を大きくすることによって、更に効果的に冷却できることが確認できた。
【0076】
なお、上記の時間は電子放出電流量を任意で1μA・cm−2に設定したときの数値である。ここで、電子放出電流量と冷却効率は比例するため、電子放出電流量を高く設定するに伴って、冷却効率をさらに向上させることができる。従って、画像形成装置10のプロセス速度に合わせて、所望の温度および時間で冷却することができる。
【0077】
(比較例1)
比較例1として、電子放出装置31を設置することなく、実施例2と同様の送風装置32のみを中間転写ベルト21上方に設置した。100℃に熱せられた中間転写ベルト21の温度を20℃低下させるのに必要な時間を測定した。その結果、40secであった。
【0078】
なお、図6に実施例1から3および比較例1の単位面積あたりの冷却経時間変化を示す。
【0079】
以上のように、電子放出装置31を設置することによって、効果的に中間転写ベルト21を冷却することができる。
【0080】
なお、本発明は上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る冷却装置は、転写定着時に加熱された無端ベルトを、省スペースでオゾンレスで十分に冷却して、従来よりも効果的に熱による画像記録部の劣化を防止し、かつ転写ベルトの劣化も防止できるため、転写定着一体方式の、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態の画像形成装置の部分的構成を示す模式図である。
【図2】上記画像形成装置の冷却部の構成を示す模式図である。
【図3】上記冷却部の電子放出装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】上記電子放出装置が備える電子放出素子の斜視断面図である。
【図5】上記電子放出素子の電子加速層の詳細な断面図である。
【図6】実施例1から3および比較例1の単位面積あたりの冷却経時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
1 トナー像形成部
2 転写定着部
3 冷却部(ベルト冷却装置)
10 画像形成装置
11 感光体
12 帯電手段
13 現像手段
21 中間転写ベルト(無端ベルト)
22 転写定着ローラ(転写定着手段)
24 中間転写ローラ(中間転写手段)
26 加圧ローラ
30 電子放出素子
31 電子放出装置(ベルト冷却装置)
32 送風装置
301 電極基板
302 薄膜電極
303 電子加速層
306 絶縁体の微粒子(絶縁体物質)
307 金属微粒子(導電微粒子)
V1 第1電源(第1電圧印加手段)
V2 第2電源(第2電圧印加手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体に形成されたトナー像を無端ベルトに中間転写する中間転写手段と、無端ベルト上に中間転写されたトナー像を少なくとも加熱して記録媒体へ転写定着する転写定着手段と、を備えた画像形成装置の、上記無端ベルトを冷却するため、上記転写定着手段の下流かつ上記中間転写手段の上流に配置される、ベルト冷却装置であって、
電極基板、薄膜電極、および該電極基板と該薄膜電極とに挟まれた電子加速層、を有する電子放出素子と、
上記電子加速層にて電子を加速させ、上記薄膜電極から当該電子が放出するよう、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する第1電圧印加手段と、
上記薄膜電極と上記無端ベルトとの間に電圧を印加する第2電圧印加手段と、
を備え、
上記薄膜電極は、上記無端ベルトと対向して配置され、
上記電子加速層は、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質とを含んでいることを特徴とするベルト冷却装置。
【請求項2】
上記転写定着手段の下流かつ上記中間転写手段の上流に、上記無端ベルトの移動方向と逆方向に送風する送風装置を備えていることを特徴とする請求項1に記載のベルト冷却装置。
【請求項3】
上記導電微粒子は、貴金属であることを特徴とする、請求項1または2に記載のベルト冷却装置。
【請求項4】
上記導電微粒子を成す導電体は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のベルト冷却装置。
【請求項5】
上記絶縁体物質は、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいる、または有機ポリマーを含んでいることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のベルト冷却装置。
【請求項6】
上記絶縁体物質は微粒子であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のベルト冷却装置。
【請求項7】
上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のベルト冷却装置。
【請求項8】
上記導電微粒子の周囲に、当該導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質が存在することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のベルト冷却装置。
【請求項9】
上記導電微粒子の周囲に存在する上記導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質は、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいること特徴とする請求項8に記載のベルト冷却装置。
【請求項10】
像担持体からトナー像を無端ベルト上へ中間転写する中間転写手段と、
上記無端ベルト上に中間転写されたトナー像を少なくとも加熱して記録媒体へ転写定着する転写定着手段と、
上記転写定着手段の下流かつ上記中間転写手段の上流に配置される、請求項1から9のいずれか1項に記載のベルト冷却装置と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−128463(P2010−128463A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306431(P2008−306431)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】