説明

ベルト式無段変速機

【課題】セカンダリプーリ軸系を小型化し、クラッチをコンパクトに配置できるベルト式無段変速機を提供する。
【解決手段】セカンダリプーリ5の固定シーブ52の背面にスリーブ部56を突設し、スリーブ部の中に伝動軸6の一端部を挿入し、両者の間に第1ベアリング57を配置することで、スリーブ部に対して伝動軸6を回転自在に支持する。スリーブ部56の外周にクラッチハブ71を一体に形成し、伝動軸6にクラッチドラム72を固定し、クラッチドラム72内にピストン73を配置する。クラッチドラムとクラッチハブとの間に湿式クラッチ板74,75を交互に配置する。前後進切替装置8を構成する前進用ギヤ81、ハブ83、後進用ギヤ82が、クラッチドラム72より背面側の伝動軸6上に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベルト式無段変速機、特にセカンダリプーリより下流側に設けられるクラッチ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ベルト式無段変速機を搭載した車両が知られている。ベルト式無段変速機は、プライマリプーリとセカンダリプーリとを備え、それらプーリの間にベルトを巻きかけると共に、両プーリの溝幅を逆方向に変更することにより無段階で変速するものである。
【0003】
ベルト式無段変速機において、その前後進切替を行う装置として、遊星ギヤユニットと複数の摩擦係合要素(クラッチとブレーキ)とを組み合わせたものや、ドッグクラッチ式切替ユニットとクラッチとを組み合わせたものなどがある。前者の場合には、軸数を減らすことができるので、省スペース化が図れる利点はあるが、少なくとも2つの摩擦係合要素を必要とするため、構成が複雑になると共に伝達効率が低下する欠点がある。これに対し、後者の場合には、1つのクラッチで前後進切替ができるので、構造が簡素であり伝達効率が向上する利点がある。
【0004】
特許文献1には、セカンダリプーリより下流側(駆動輪側)にクラッチを介してドッグクラッチ式の前後進切替装置を設けたものが開示されている。この場合には、セカンダリプーリの固定シーブと一体のセカンダリ軸をエンジン方向に延長し、そのセカンダリ軸の軸端部にクラッチを設け、クラッチと固定シーブとの中間のセカンダリ軸上に前後進切替装置を設けている。
【0005】
図4は特許文献1に記載されたクラッチ及び前後進切替装置を示し、100はセカンダリプーリの固定シーブと一体形成されたセカンダリ軸、110は前後進切替装置、120は湿式多板クラッチである。前後進切替装置110は、前進用ギヤ111、後進用ギヤ112、切替ハブ113、切替スリーブ114等を備えている。クラッチ120のクラッチハブ121は円筒状に形成されており、セカンダリ軸100上に回転自在に挿通されている。クラッチドラム122はセカンダリ軸100にスプライン嵌合しており、クラッチドラム122内にピストン123が配置されている。クラッチハブ121上には前進用ギヤ111と後進用ギヤ112とが回転自在に支持され、両ギヤ111、112の中間位置に切替ハブ113がスプライン嵌合されている。そのため、クラッチハブ121と切替ハブ113とが一体回転可能に連結されている。
【0006】
前後進切替時には、クラッチ120を解放して動力伝達を遮断した状態で、切替ハブ113にスプライン嵌合しているスリーブ114を軸方向にシフトすることにより、切替ハブ113と前進用ギヤ111又は後進用ギヤ112のいずれかとを連結する。その際、スリーブ114には殆どイナーシャがかからないので、円滑な前後進切替が可能である。
【0007】
前記構成の前後進切替装置の場合、セカンダリプーリの固定シーブと一体のセカンダリ軸100を、前後進切替装置110やクラッチ120を支持する軸として兼用しているが、固定シーブを含むセカンダリ軸100が大型部品となり、取扱いが難しくなると共に、1本のセカンダリ軸100に多数の油路や溝を形成する必要があるため、加工工数が多く、コスト上昇を招く。さらに、セカンダリ軸100上に複雑な形状のクラッチドラム122やクラッチハブ121を設ける必要があるため、部品コストも上昇する。
【0008】
特許文献2には、セカンダリプーリの固定シーブの背部に湿式多板クラッチを設けたベルト式無段変速機が開示されている。この場合には、セカンダリプーリを従動軸が回転自在に貫通しており、固定シーブの背部にはスリーブ部が突設され、このスリーブ部に出力クラッチのクラッチドラムが固定され、従動軸にクラッチハブが固定されている。セカンダリプーリのスリーブ部を回転自在に支持する軸受と、従動軸の軸端を回転自在に支持する軸受とが個別に設けられている。
【0009】
しかしながら、この構造では、セカンダリプーリを貫通する長い従動軸が必要であり、部品が大型化すると共に、セカンダリプーリ全体を中空形状に加工する必要があるため、コスト高になるという欠点がある。また、セカンダリプーリの荷重を支える軸受は固定シーブの背面側を支えているに過ぎないので、セカンダリプーリと従動軸との間で相対回転が発生した場合に、両者の間で発熱や摩耗が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−23984号公報
【特許文献2】特開2005−249069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、セカンダリプーリ軸系の部品を小型化し、クラッチをコンパクトに配置できるベルト式無段変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明は、駆動力が入力されるプライマリプーリと、駆動輪に連結されるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻きかけられたベルトと、前記セカンダリプーリと駆動輪との間に設けられたクラッチと、を備えたベルト式無段変速機において、前記セカンダリプーリの固定シーブの背面にスリーブ部が突設され、前記固定シーブと同軸上に、一端部が前記スリーブ部の中に挿入された伝動軸が配置され、前記スリーブ部の内周と前記伝動軸の一端部外周との間に、前記スリーブ部に対して前記伝動軸を回転自在に支持する第1軸受が配置され、前記スリーブ部の外周に前記クラッチのクラッチハブが形成され、前記固定シーブとクラッチハブとの中間のスリーブ部の外周に、当該スリーブ部をケース等の静止部材に対して回転自在に支持する第2軸受が配置され、前記伝動軸に前記クラッチのクラッチドラムが固設され、前記クラッチドラム内にピストンが配置され、前記クラッチドラムとクラッチハブとの間に前記ピストンによって締結される湿式クラッチ板が交互に配置されていることを特徴とする、ベルト式無段変速機を提供する。
【0013】
本発明では、セカンダリプーリの固定シーブと伝動軸とが分割され、固定シーブと伝動軸との間にクラッチが構成されている。クラッチは、固定シーブの背面側に突設されたスリーブ部の外周に形成されたクラッチハブと、伝動軸に固設されたクラッチドラムと、クラッチハブとクラッチドラムとの間に交互に配置された湿式クラッチ板とを備える。この構造では、セカンダリプーリに隣接してクラッチが構成されるので、セカンダリプーリの伝達トルクをクラッチハブへ直に伝達でき、損失が少ない。しかも、固定シーブのスリーブ部がクラッチハブを兼ねるので、構造がシンプルになり、部品数が少なく、かつ軸方向寸法を短縮できる。
【0014】
伝動軸の一端部はスリーブ部の中に挿入され、スリーブ部の内周部と伝動軸の外周部との間に設けられた第1軸受を介して、伝動軸は固定シーブによって回転自在に支持されている。そのため、両者の半径方向のガタが解消され、摩耗を防止できる。スリーブ部と伝動軸の一端部とがオーバーラップし、そのオーバーラップ部に第1軸受が配置されているので、軸方向寸法を短縮できる。伝動軸はセカンダリプーリを貫通する必要がなく、伝動軸を短縮できると共に、セカンダリプーリ全体を中空形状に加工する必要がないので、加工が容易になり、コストを低減できる。さらに、スリーブ部をケース等の静止部材に対して回転自在に支持する第2軸受をスリーブ部の外周に配置してあるので、第2軸受が固定シーブを支持するだけでなく、スリーブ部を介して伝動軸を支持することができる。そのため、スリーブ部と伝動軸との支持剛性を高め、安定して回転させることができる。
【0015】
クラッチドラムより背面側の伝動軸上に、前後進切替装置を構成する前進用ギヤ、ハブ、後進用ギヤを配置してもよい。この場合には、伝動軸上に前後進切替装置を配置できるので、本発明のクラッチを前後進切替時の動力断続クラッチとして使用できる。前後進切替装置を複雑なスリーブ構造の上に構成する必要がないので、部品を簡素化できる。
【0016】
第1軸受と第2軸受とが軸方向に離れていてもよいが、第1軸受と第2軸受とを軸方向にオーバーラップさせた場合、つまり第1軸受の半径方向外側に第2軸受を配置した場合、軸方向寸法をさらに短縮できると共に、固定シーブ及び伝動軸の支持剛性をさらに高めることができる。
【0017】
クラッチのピストンを伝動軸上に設け、伝動軸にクラッチ圧の供給油路を設け、この油路を介してピストンに油圧を作用させてもよい。この場合には、クラッチ構造がシンプルになり、ピストンへの供給油路も簡素化される。クラッチの構成部品数が少なくなり、クラッチの軸方向寸法を短縮できる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、セカンダリプーリの固定シーブの背面にスリーブ部が形成され、このスリーブ部がクラッチのクラッチハブを兼ねるので、セカンダリプーリの伝達トルクをクラッチハブへ直に伝達でき、損失が少なくなると共に、クラッチ構造がシンプルになり、部品数が少なくて済む。また、伝動軸の軸端はスリーブ部の中に挿入され、スリーブ部の内周部と伝動軸の外周部との間に設けられた第1軸受によって、伝動軸を固定シーブによって回転自在に支持しているので、伝動軸を短くできると共に、セカンダリプーリを中空構造にする必要がなく、加工コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るベルト式無段変速機の概略構造を示すスケルトン図である。
【図2】図1におけるクラッチ及び前後進切替装置の拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施例の要部スケルトン図である。
【図4】特許文献1に示された前後進切替装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施例〕
図1は本発明にかかるベルト式無段変速機の一例の骨格図である。この実施例はFR(フロントエンジン・リヤドライブ)式の無段変速機であり、大略、エンジン1のクランク軸10によりトルクコンバータ2を介して駆動される入力軸3、無段変速機構CVT、伝動軸6、クラッチ7、前後進切替装置8、出力軸9などで構成されている。無段変速機構CVTは、プライマリプーリ4とセカンダリプーリ5と両プーリ4、5間に巻き掛けられた無端VベルトVBとで構成されている。入力軸3と出力軸9は同軸上に配設され、車体前後方向に延びている。この実施例で用いられるVベルトVBは、一対の無端状張力帯と、これら張力帯に支持された多数のブロックとで構成された公知の金属ベルトである。
【0021】
トルクコンバータ2は、公知のように、クランク軸10と連結されたポンプインペラ21と、入力軸3と連結されたタービンランナ22と、ステータ23とを備えている。トルクコンバータ2内部にはクランク軸10と入力軸3とを直結するロックアップクラッチ24が設けられている。トルクコンバータ2から突出した入力軸3の後端部には駆動ギヤ31が固定され、この駆動ギヤ31は、プライマリプーリ4のプライマリ軸41の前端部に固定された従動ギヤ32と噛み合っている。駆動ギヤ31と従動ギヤ32との減速比を適切に設定することで、ベルト駆動に適した減速比でプライマリプーリ4を回転させることができる。
【0022】
プライマリプーリ4は、プライマリ軸41上に固定された固定シーブ42と、プライマリ軸41上に軸方向移動自在に支持された可動シーブ43と、可動シーブ43の背後のセカンダリ軸41に固定されたシリンダ44とを備えている。可動シーブ43とシリンダ44との間に油室45が形成されている。固定シーブ42はVベルトVBよりエンジン側(車体前方側)に配置されている。
【0023】
セカンダリプーリ5は、セカンダリ軸51に一体に形成された固定シーブ52と、セカンダリ軸51上に軸方向移動自在に支持された可動シーブ53と、可動シーブ53の背後のセカンダリ軸51に固定されたシリンダ54とを備えている。可動シーブ53とシリンダ54との間に油室55が形成されている。セカンダリプーリ5の固定シーブ52と可動シーブ53の配置は、プライマリプーリ4の固定シーブ42と可動シーブ43の配置とVベルトVBを間にして逆向きとされている。つまり、固定シーブ52はVベルトVBより反エンジン側(車体後方側)に配置されている。セカンダリ軸51の前端はベアリング50によって支持され、後端は後述する第2ベアリング58によって支持されている。
【0024】
前記構成からなる無段変速機構CVTによる変速制御及びベルト挟圧制御は、各プーリ4,5の油室45,55に供給される油圧を制御することにより実行される。一般的には、プライマリプーリ4の油室45の作動油を流量制御することにより変速比を制御すると共に、セカンダリプーリ5の油室55の作動油を油圧制御することにより、ベルト滑りが発生しない所望のベルト挟圧力に制御することができる。具体的な制御方法は公知のため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0025】
固定シーブ52の背面側、つまり車体後方側には、クラッチ7とドッグクラッチ式の前後進切替装置8とが設けられている。図2に示すように、クラッチ7は湿式多板クラッチであり、前後進切替時に固定シーブ52と伝動軸6との動力伝達を断つ機能のほか、例えば逆トルク時にVベルトを保護する機能、急減速時に駆動輪とセカンダリプーリ5との動力伝達を断つことでLow戻りを容易にする機能などを有する。クラッチ7は、クラッチハブ71と、クラッチドラム72と、クラッチドラム72内に配置されたピストン73と、クラッチハブ71とクラッチドラム72との間に交互に配置された複数のインナクラッチ板74及び複数のアウタクラッチ板75とを備えている。
【0026】
セカンダリプーリ5の固定シーブ52の背面側には円筒状のスリーブ部56が一体に突設されており、このスリーブ部56の先端部外周に前記クラッチ7のクラッチハブ71が形成されている。なお、スリーブ部56を固定シーブ52と別体に形成し、両者をスプライン嵌合してもよい。スリーブ部56の内部には伝動軸6の一端部61が挿入され、伝動軸6の一端部61の外周と、スリーブ部56の内周との間に第1ベアリング57が嵌着されている。そのため、伝動軸6の一端部61は固定シーブ52によって相対回転自在に支持されている。ここでは、第1ベアリング57がボールベアリングである例を示したが、所定のラジアル荷重を受ける軸受であれば、ローラベアリング、ニードルベアリングなどの他のころがり軸受でもよいし、すべり軸受でもよい。
【0027】
固定シーブ52のスリーブ部56の外周と、静止部材であるインナケース11の内周との間に第2ベアリング58が嵌着され、固定シーブ52はインナケース11によって回転自在にかつ安定に支持されている。特に、第2ベアリング58の内輪58aを、スリーブ部56の外周に螺合したナット59で締結することで、第2ベアリング58は固定シーブ52と一体に固定されている(図2参照)。なお、第2ベアリング58の外輪58bは、インナケース11の凹部11aに嵌合された後、インナケース11の側面にボルト17により固定された支持板18によって、軸方向に抜け止めされている。この実施例の第1ベアリング57及び第2ベアリング58は共にボールベアリングであり、第2ベアリング58は、固定シーブ52に加わる大きなラジアル方向及びスラスト方向の荷重を支えるため、第1ベアリング57より大型のボールベアリングが用いられている。この実施例では、第1ベアリング57と第2ベアリング58とを軸方向にオーバーラップするように配置したが、第1ベアリング57と第2ベアリング58とが軸方向にずれた位置に設けられていてもよい。オーバーラップさせた場合には、軸方向寸法を短縮できると共に、スリーブ部56の肉厚を大きくしなくても固定シーブ52及び伝動軸6の支持剛性を高めることができる。さらに、オーバーラップさせた場合、第2ベアリング58とセカンダリ軸51の前側を支持するベアリング50間に余計なモーメント荷重が発生せず、2つのベアリングへの入力荷重を小さくできる。
【0028】
クラッチドラム72は伝動軸6に固定されている。この実施例では、伝動軸6の外周にフランジ部62が形成され、このフランジ部62にクラッチドラム72の内周部背面を当接させた状態で溶接等により固定してある。クラッチドラム72の内部には、第1ピストン73の他に、遠心油圧キャンセル用の第2ピストン76が配置されている。第1ピストン73と第2ピストン76との間にはリターンスプリング77が配置されている。第2ピストン76の背面は伝動軸6に装着されたスナップリング76aによって係止されている。クラッチドラム72内に第1ピストン73、リターンスプリング77、第2ピストン76を挿入した後、クラッチ板74、75を交互に組み付け、最後にスナップリング75aをクラッチドラム72に嵌着することにより、クラッチ7は伝動軸6に一体にサブアッセンブリされる。
【0029】
クラッチドラム72と第1ピストン73との間に形成された作動油室78は、伝動軸6の内部に軸方向に形成された第1油路63と接続されており、この作動油室78に油圧を供給することにより、第1ピストン73が作動され、クラッチ板74、75を締結することができる。第1ピストン73と第2ピストン76との間に形成されたキャンセル油室79には、伝動軸6の内部に軸方向に形成された第2油路64を介して潤滑圧が供給され、作動油室78に発生する遠心油圧をキャンセルできるようになっている。
【0030】
この実施例では、第1ピストン73及び第2ピストン76が共に伝動軸6上に摺動自在に支持されているので、クラッチドラム72の構造を小型でかつシンプルにすることができると共に、伝動軸6に形成された油路63,64から作動油室78,79へ直接作動油を供給できるので、油路を短縮でき、かつ油漏れが少ない。但し、クラッチドラム72の内径部に円筒状のボス部を形成し、このボス部の内周を伝動軸6にスプライン嵌合してもよく、その場合には、ボス部の外周に第1ピストン73及び第2ピストン76を摺動自在に支持してもよい。
【0031】
前後進切替装置8は、前進用ギヤ81、後進用ギヤ82、両ギヤの中間位置に配置されたハブ83、両ギヤ81,82の一方をハブ83と選択的に連結する切替スリーブ84などを備えている。前進用ギヤ81と後進用ギヤ82は伝動軸6上にそれぞれニードルベアリング81a,82aを介して回転自在に支持され、ハブ83は伝動軸6にスプライン嵌合されている。スリーブ84を図2の左側へシフトすると、前進用ギヤ81とハブ83とが連結されて前進(D)位置になり、右側へシフトすると、後進用ギヤ82ハブ83とが連結されて後進(R)位置となる。なお、スリーブ84のシフト操作は図示しないアクチュエータにより行うことができる。
【0032】
伝動軸6の後端部は、第3ベアリング13を介してアウタケース12によって回転自在に支持されている。第3ベアリング13もボールベアリングである。第3ベアリング13の内輪13aはナット65によって軸方向に締結されている。そのため、前進用ギヤ25の外側面は伝動軸6のフランジ部62によって軸方向に位置決めされ、後進用ギヤ26の外側面は、第3ベアリング13の内輪13aによってスペーサ66を介して軸方向に位置決めされる。つまり、前後進切替装置8の構成部品である前進用ギヤ81、後進用ギヤ82、ハブ83(スリーブ84を含む)、スペーサ66及び第3ベアリング13が、伝動軸6に一体にサブアッセンブリされる。なお、上述のように伝動軸6上にはクラッチ7が予めサブアッセンブリされている。このようにクラッチ7と前後進切替装置8とがサブアッセンブリされた伝動軸6の一端部61の先端に、第1ベアリング57の内輪を嵌着した状態で、その一端部61を固定シーブ52のスリーブ部56の中に挿着することにより、固定シーブ52とクラッチ7及び前後進切替装置8とを組み付けることができる。なお、ベアリング57の外輪をスリーブ部56に圧入することも可能である。伝動軸6を固定シーブ52に挿入する際、クラッチ7のインナクラッチ板74の内スプラインを、固定シーブ52のスリーブ部56の外周に形成されたクラッチハブ71にスプライン嵌合させる必要があることは勿論である。
【0033】
伝動軸6の後端部を支持するアウタケース12には、伝動軸6の第1油路63及び第2油路64にそれぞれ作動油を供給する供給油路14、15が形成されている。これら供給油路14、15は図示しない油圧制御装置と接続されている。
【0034】
伝動軸6と平行に、リバースアイドラ軸85が回転自在に配設されており、このアイドラ軸85には、後進用ギヤ82と常時噛み合う第1リバースアイドラギヤ86と、前進用ギヤ81と軸方向同一位置にありかつ前進用ギヤ81と噛み合わない第2リバースアイドラギヤ87とが固定又は一体形成されている。リバースアイドラ軸85の両端部は、インナケース11及びアウタケース12によってベアリング88,89を介して回転自在に支持されている。
【0035】
出力軸9の前端部には出力ギヤ91が固定されており、この出力ギヤ91は、前進用ギヤ81及び第2リバースアイドラギヤ87と常時噛み合っている。出力軸9の後端部はプロペラシャフトを介して後輪(駆動輪)に接続されている。
【0036】
前記構成の無段変速機において、運転者がシフトレバーを例えばD→R又はR→Dへ操作すると、最初にクラッチ7が解放され、続いてアクチュエータにより前後進切替装置8の切替スリーブ84がシフト作動される。このとき、クラッチ7が既に解放されているため、スリーブ84に加わるイナーシャは小さく、円滑にシフトすることができる。
【0037】
本発明では、1個のクラッチ7を解放するだけで前後進切替が可能になるので、クラッチの個数が少なくて済み、構造を簡素化できる。また、前進時及び後進時において、クラッチ7は締結状態にあるので、トルクロスが少なく、その分だけ高効率となる。プーリ4,5より下流側にクラッチ7があるので、車輪からの過大な逆トルクが作用した場合にクラッチ7を滑らせることにより、VベルトVBにかかる負荷を軽減でき、VベルトVBを保護できる。さらに、走行中に急ブレーキ等により車輪が停止した場合に、クラッチ7を解放することにより、プーリ4,5はトルクコンバータ2を介してエンジンにより連続的に回転し続けるので、プーリ比をLowへ容易に戻すことができる。
【0038】
〔第2実施例〕
図3は本発明にかかる前後進切替装置の第2実施例を示す。第1実施例では、伝動軸6と平行にリバースアイドラ軸85を配置し、このリバースアイドラ軸85に2つのリバースアイドラギヤ86,87を固定した例を示したが、これに代えて、図3に示すような構成とすることもできる。すなわち、出力軸9に2つの出力ギヤ91、92を固定し、第1出力ギヤ92を第1実施例と同様に前進ギヤ81と噛み合わせると共に、第2出力ギヤ92を後進用ギヤ82とリバースアイドラギヤ93を介して噛み合わせることもできる。この場合には、リバースアイドラ軸85を省略できる。
【0039】
前記実施例では、アウタケース12、16(図2参照)の中にインナケース11を固定し、このインナケース11で、固定シーブ52のスリーブ部56を第2ベアリング58を介して支持すると共に、リバースアイドラ軸85の一端部をベアリング88を介して支持したが、この構造に限るものではない。例えば、インナケース11とアウタケース16とを一体構造とし、アウタケース16にベアリング58、88を装着してもよい。その他、スリーブ部56を第2ベアリング58を介して支持する部材は、静止部材であれば任意である。
【0040】
前記実施例では、FR式の無段変速機について説明したが、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)式の無段変速機にも同様に適用できることは言うまでもない。さらに、前記実施例では伝動軸上に前後進切替装置が設けられた例を示したが、伝動軸に前後進切替装置が設けられていなくてもよい。例えば特許文献2のように、プライマリプーリより上流側に前後進切替装置を設けてもよく、伝動軸には出力ギヤが設けられた構成としてもよい。その場合、クラッチは、発進クラッチやハイクラッチとして使用することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
CVT 無段変速機構
1 エンジン
2 トルクコンバータ
3 入力軸
4 プライマリプーリ
5 セカンダリプーリ
52 固定シーブ
56 スリーブ部
57 第1ベアリング(第1軸受)
58 第2ベアリング(第2軸受)
6 伝動軸
7 クラッチ
71 クラッチハブ
72 クラッチドラム
73 ピストン
74,75 クラッチ板
8 前後進切替装置
81 前進用ギヤ
82 後進用ギヤ
83 ハブ
84 切替スリーブ
85 リバースアイドラ軸
86,87 リバースアイドラギヤ
9 出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力が入力されるプライマリプーリと、駆動輪に連結されるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻きかけられたベルトと、前記セカンダリプーリと駆動輪との間に設けられたクラッチと、を備えたベルト式無段変速機において、
前記セカンダリプーリの固定シーブの背面にスリーブ部が突設され、
前記固定シーブと同軸上に、一端部が前記スリーブ部の中に挿入された伝動軸が配置され、
前記スリーブ部の内周と前記伝動軸の一端部外周との間に、前記スリーブ部に対して前記伝動軸を回転自在に支持する第1軸受が配置され、
前記スリーブ部の外周に前記クラッチのクラッチハブが形成され、
前記固定シーブとクラッチハブとの中間のスリーブ部の外周に、当該スリーブ部をケース等の静止部材に対して回転自在に支持する第2軸受が配置され、
前記伝動軸に前記クラッチのクラッチドラムが固設され、
前記クラッチドラム内にピストンが配置され、
前記クラッチドラムとクラッチハブとの間に前記ピストンによって締結される湿式クラッチ板が交互に配置されていることを特徴とする、ベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記クラッチドラムより背面側の前記伝動軸上に、前後進切替装置を構成する前進用ギヤ、ハブ、後進用ギヤが配置されている、請求項1に記載のベルト式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−7400(P2013−7400A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138666(P2011−138666)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】