説明

ベンゾオキサジン化合物および熱活性化触媒としての環状構造を有するスルホン酸エステルを含有する硬化性組成物

本発明は、少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物、および環状構造を有する少なくとも1種のスルホン酸エステルを含有する硬化性組成物に関する。特に、本発明は、少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物を含有する硬化性組成物用の熱活性化触媒としての、環状構造を有する少なくとも1種のスルホン酸の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物、および環状構造を有する少なくとも1種のスルホン酸エステルを含有する硬化性組成物に関する。特に、本発明は、少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物を含有する硬化性組成物のための熱活性化触媒としての、環状構造を有する少なくとも1種のスルホン酸の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジンの重合および硬化反応のための種々の触媒が報告されている。例としては、フェノール(特開2000-178332号)、アミン(特開2000-86863号)、イミダゾール(特開2000-178332号)、ホスフィン(特開2003−82099号)およびより高級のスルホン酸エステル(JP2007-367271)が挙げられる。米国特許第6,225,440号明細書には、ベンゾオキサジン系製剤のための高活性触媒として、ルイス酸、例えばPCl、TiCl、AlClが開示されている。
【0003】
適当な外部刺激により重合および硬化反応を開始する潜在性/活性化触媒または開始剤を用いる重合および硬化反応は、特に開始段階を制御するための、制御重合方法を提供しうる。潜在性/活性化触媒の一例は、特定温度(T)以下では活性を示さず、特定温度(T)で顕著な活性を示す、熱潜在性触媒または熱活性化触媒である。適当な温度TおよびTは、製剤の用途によるが、一般的には、理想的な熱潜在性触媒または熱活性化触媒は、TおよびTの間で活性における著しい差異を示す。
【0004】
特定の用途、例えば最新の複合部品成形加工法では、Tがより高いと前記製剤の加工粘性が減少し、一方、Tが低いと前記製剤を硬化するのに必要なエネルギーが減少するため、TおよびT間の温度範囲が狭いベンゾオキサジン系製剤のような硬化性製剤が求められる。
【0005】
ベンゾオキサジン系組成物の硬化反応用の熱潜在性触媒または熱活性化触媒としてのスルホン酸およびアミンの組合せは、Journal of Applied Plymer Science 2008年、107、第710〜718頁から既知である。しかしながら、これらの組合せは、TおよびT間の狭い温度範囲を示さない。
【0006】
日本特許出願第2008-56795号明細書には、複合材料用のプリプレグが教示され、それは、ベンゾオキサジン樹脂および酸触媒の組合せを含有する熱硬化性樹脂を含む。前記の酸触媒を、p-トルエンスルホン酸非環式エステルから選択することができる。好ましいエステルとしては、p-トルエンスルホン酸メチルエステル(TsOMe)およびp−トルエンスルホン酸エチルエステル(TsOEt)が挙げられる。本発明の発明者により得られた試験結果によれば、前記エステルのT〜Tの温度範囲は、最新の複合部品成形加工法、例えば樹脂トランスファー成形(RTM)の方法に適さない。
【0007】
例えば、TsOMeは、ベンゾオキサジン系製剤の硬化反応を、150℃より高い温度で効果的に触媒する。しかしながら、それは、120℃より下でも硬化反応を触媒するため、ベンゾオキサジン系製剤の加工性が悪くなる。TsOEtは、ベンゾオキサジン系製剤の硬化反応を120℃より下で触媒しないが、その触媒活性は、ベンゾオキサジン系製剤の硬化反応を150℃より高温で効果的に触媒するのに不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-178332号公報
【特許文献2】特開2000-86863号公報
【特許文献3】特開2003−82099号公報
【特許文献4】JP2007-367271
【特許文献5】米国特許第6,225,440号明細書
【特許文献5】日本特許出願第2008-56795号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Applied Plymer Science 2008年、107、第710〜718頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
技術水準にもかかわらず、125℃以下の温度で長いポットライフ、長いオープンタイムおよび低い加工粘度を示し、比較的低温で、好ましくは約130℃〜約160℃の範囲の温度で短時間に硬化し得る、最新の複合部品成形加工法のための新規なベンゾオキサジン系製剤を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物および環状構造を有する少なくとも1種のスルホン酸エステルを含有する硬化性組成物が、例えば樹脂トランスファー成形法(RTM)、真空補助樹脂トランスファー成形法(VARTM)、および樹脂インフュージョン法などの最新の複合部品成形加工法におけるマトリックス樹脂として有利に使用できることを見出した。
【0012】
したがって、本発明は、
a)少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物、および
b)式(I):
【化1】

[式中、Rは、それぞれ独立して、C〜C40アルキル基、C〜C40シクロアルキル基、C3-40アルケニル基、C3-40アルキニル基、C〜C40アラルキル基、またはC〜C40アリール基から選択され、Rは、単環式アルキル基、二環式アルキル基、または三環式アルキル基から選択される]
で示される少なくとも1種のスルホン酸エステル
を含有する硬化性組成物を提供する。
【0013】
本発明の硬化性組成物は、125℃以下の温度で長いポットライフ、長いオープンタイムおよび低い加工粘度を示し、比較的低温で、好ましくは約130℃〜約160℃の範囲の温度で、短時間に、好ましくは約5分〜5時間の時間で、硬化させることができる。
【0014】
硬化性組成物は、強化材料、例えばプリプレグおよびトウプレグの製造のためのマトリックスとして特に適当であり、および/または、射出成形または押し出し成形方法において使用することができる。
【0015】
したがって、本発明の硬化性組成物の硬化反応生成物、特に複数の繊維プライまたは一方向プライを含む硬化反応生成物を提供することが、本発明の別の態様である。それは、このような材料の製造方法をさらに備える。
【0016】
本発明のさらなる態様において、本発明の少なくとも1種のスルホン酸エステルを、ベンゾオキサジン化合物の硬化反応のための熱活性化触媒として使用する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、熱機械分析による120℃での時間−モジュラスの関係を示す。
【図2】図2は、熱機械分析による150℃での時間−モジュラスの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の硬化性組成物は、少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物を含む。
【0019】
ベンゾオキサジン化合物は、少なくとも1種のベンゾオキサジン部分を含むいずれの硬化性モノマー、オリゴマーまたはポリマーであってよい。好ましくは4個以下のベンゾオキサジン部分を含有するモノマーを、単一化合物の形態で、または2以上の異なるベンゾオキサジンの混合物で、ベンゾオキサジン化合物として使用する。
【0020】
以下において、1〜4個のベンゾオキサジン部分を含有する、異なる適当なベンゾオキサジン化合物の幅広い範囲を示す。
【0021】
1つの可能なベンゾオキサジン化合物は、次の構造(B-I):
【化2】

[式中、oは1〜4であり、Xは直接結合(oが2の場合)、アルキル(oが1の場合)、アルキレン(oが2〜4の場合)、カルボニル(oが2の場合)、酸素(oが2の場合)、チオール(oが1の場合)、硫黄(oが2の場合)、スルホキシド(oが2の場合)、およびスルホン(oが2の場合)から選択され、Rは水素、アルキル、アルケニルおよびアリールから選択され、Rは水素、ハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素またはヨウ素、アルキルおよびアルケニルから選択されるか、または、Rはベンゾオキサジン構造からナフトオキサジン残基を作る2価の残基である]
に含まれる。
【0022】
より具体的には、構造(B-I)のうち、ベンゾオキサジン化合物は、次の構造(B-II):
【化3】

[式中、Xは直接結合、CH、C(CH)、C=O、O、S、S=OおよびO=S=Oから選択され、RおよびRは、同一または異なり、水素、アルキル、例えばメチル、エチル、プロピルおよびブチル、アルケニル、例えばアリル、およびアリールから選択され、Rは、同一または異なり、上記で定義したものである]
に含まれていてよい。
【0023】
構造(B-II)で示されるベンゾオキサジン化合物の例としては、以下が挙げられる:
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

[式中、R、RおよびRは、上記で定義したものである]。
【0024】
あるいは、ベンゾオキサジン化合物は、次の構造(B-VII):
【化8】

[式中、pは2であり、Yはビフェニル、ジフェニルメタン、ジフェニルイソプロパン、ジフェニルスルフィド、ジフェニルスルホキシド、ジフェニルスルホン、およびジフェニルケトンから選択され、Rは水素、ハロゲン、アルキルおよびアルケニルから選択される]
に含まれてよい。
【0025】
構造(B-I)または(B-VII)に含まれないが、さらなるベンゾオキサジン化合物は次の構造に含まれる:
【化9】

【化10】


[式中、R、RおよびRは上記で定義したものであり、Rは、R、RまたはRについて定義したものである]。
【0026】
上記に一般的に記載したベンゾオキサジン化合物の具体例としては、以下が挙げられる。
【化11】

【化12】

【化13】

【0027】
本発明を実施するために異なるベンゾオキサジン化合物を使用してよく、例えば多官能性ベンゾオキサジンおよび単官能性ベンゾオキサジンを組み合わせて、または1以上の多官能性ベンゾオキサジンを組み合わせてまたは1以上の単官能性ベンゾオキサジンを組合せて使用してよい。
【0028】
単官能性ベンゾオキサジン化合物の例は、次の構造(B-XIX):
【化14】

[式中、Rは、1つの、いくつかのまたは全ての置換可能な位置において置換されているまたは置換されていない、アルキル、例えばメチル、エチル、プロピルおよびブチル、アルケニルまたはアリールであり、Rは水素、ハロゲン、アルキルおよびアルケニルから選択されるか、または、Rはベンゾオキサジン構造からナフトオキサジン残基を作る2価の残基である]
に含まれうる。
【0029】
例えば、単官能性ベンゾオキサジン化合物は一般構造(B-XX):
【化15】

[式中、この場合、Rは、それぞれが任意に置換されたまたは1以上のO、N、S、C=O、COO、およびNHC=Oで遮られたアルキル、アルケニル、およびアリールから選択され、mは0〜4であり、RII、RIII、RIV、RおよびRVIは、独立して、水素、アルキル、アルケニル(それぞれ任意に置換されたまたは1以上のO、N、S、C=O、COOH、およびNHC=Oで遮られている)、およびアリールから選択される]
に含まれうる。
【0030】
このような単官能性ベンゾオキサジン化合物の具体例は、
【化16】

[式中、Rは上記で定義したものである]
、または
【化17】

である。
【0031】
ベンゾオキサジン化合物は、現在、Huntsman Advanced Materials、Georgia-Pacific Resins, Inc.およびShikoku Chemicals Corporation(千葉、日本)を含む、複数の販売元から市販されており、これらのうち、Shikoku Chemicals Corporationより、ビスフェノールA-アニリン、ビスフェノールA-メチルアミン、ビスフェノールF-アニリンベンゾオキサジン樹脂が販売されている。
【0032】
本発明の特に好ましい態様において、ベンゾオキサジン化合物は、「脂肪族ベンゾオキサジン」、すなわちベンゾオキサジン残基の窒素原子に結合した脂肪族残基を有するベンゾオキサジン、例えば上記の式(B-XI)で示される化合物である。しかしながら、他の好ましい態様において、「芳香族ベンゾオキサジン」、すなわちベンゾオキサジン残基の窒素原子に結合した芳香族残基を有するベンゾオキサジン、例えば式(B-XV)または(B-XX)で示される化合物を使用することが望ましくあり得る。いくつかの他の好ましい態様において、上記に述べたベンゾオキサジンの混合物を有利に用いる。
【0033】
しかしながら、所望であれば、市販されているものの代わりに、ベンゾオキサジン化合物を、通常、好ましくはモノフェノールおよび/またはジフェノールから選択されるフェノール性化合物、例えばビフェニル-4,4'-ジオール(「4,4'-ビフェノール」としても知られる)、ビスフェノールA、ビスフェノールP、ビスフェノールM、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAP、ビスフェノールE、4,4'-オキシジフェノール、4,4'-チオジフェノール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタノン、ビフェニル-2,2'-ジオール、4,4'-(シクロヘキサン-1,1-ジイル)ジフェノールまたは4,4'-(3,3,5-トリメチルシクロヘキサン-1,1-ジイル)ジフェノール(ビスフェノールTMC)と、アルデヒドおよびアルキルまたはアリールアミンとを反応させることにより調製してよい。米国特許第5,543,516号(ここに参照することにより組み込む)には、ベンゾオキサジンの調製方法が記載されており、ここで、反応時間は、反応物濃度、反応性および温度に応じて、数分〜数時間まで変化させてよい。通常、米国特許第4,607,091号(Schreiber)、第5,021,484号(Schreiber)、第5,200,452号(Schreiber)および第5,443,911(Schreiber)号を参照。
【0034】
前述したベンゾオキサジン化合物は、いずれも、部分的に開環したベンゾオキサジン構造を含有してよい。
【0035】
しかしながら、本発明の目的においては、これらの構造もベンゾオキサジン部分、特に開環したベンゾオキサジン部分であると考える。
【0036】
ベンゾオキサジン化合物が、本発明の硬化性組成物中の唯一の硬化性成分であることが好ましい。しかしながら、所望であれば、他の硬化性成分または樹脂を含有することができる。
【0037】
少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物または異なるベンゾオキサジン化合物の混合物は、本発明の硬化性組成物の全量に基づいて20〜99.9重量%、例えば40〜98重量%の範囲の量、望ましくは50〜95重量%の量、より望ましくは60〜90重量%の量で含まれうる。
【0038】
上記に述べたように、本発明の硬化性組成物は、少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物の硬化反応のための熱潜在性触媒または熱活性化触媒として、少なくとも1種のスルホン酸エステルをさらに含む。スルホン酸エステルは、特定の温度(T)より下ではほとんど活性を示さず、特定の温度(T)で顕著な活性を示す。さらに、本発明のスルホン酸エステルは、TおよびT間での活性が著しく対照的であるという特徴を有する。本発明のスルホン酸エステルは、式(I):
【化18】

[式中、Rは、それぞれ独立して、C〜C40アルキル基、C〜C40シクロアルキル基、C3〜40アルケニル基、C3〜40アルキニル基、C〜C40アラルキル基、またはC〜C40アリール基から選択され、Rは、単環式アルキル基、二環式アルキル基、または三環式アルキル基から選択される]
で示される化合物である。
【0039】
本発明において使用する「C1〜40アルキル」という用語は、1〜40個の炭素原子を有する分枝状および非分枝状アルキル基を意味する。1〜4個の炭素原子を有するアルキル基が好ましい。例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルまたはヘキシルが挙げられる。プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルの定義には、当該基の考えられる全ての異性体が含まれる。したがって、例えば、プロピルにはn-プロピルおよびイソプロピルが含まれ、ブチルにはイソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチルが含まれる等である。特記しない限り、アルキル基は、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択される1以上の基で置換されてよい。
【0040】
本発明において使用する「C3〜40シクロアルキル」という用語は、3〜40個の炭素原子を有する環状アルキル基を意味する。例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルが挙げられる。特記しない限り、環状アルキル基は、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素の中から選択される1以上の基で置換されてよい。
【0041】
本発明において使用する「C3〜40アルケニル」という用語は、3〜40個の炭素原子を有する分枝状および非分枝状アルケニル基を意味する。3〜5個の炭素原子を有するアルケニル基が好ましい。例としては、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、またはヘキセニルが挙げられる。特記しない限り、プロペニル、ブテニル、ペンテニルおよびヘキセニルの定義には、当該基の考えられる全ての異性体が含まれる。したがって、例えば、プロペニルには1-プロペニルおよび2-プロペニルが含まれ、ブテニルには1-、2-および3-ブテニル、1-メチル-1-プロペニル、1-メチル-2-プロペニルが含まれる等である。
【0042】
本発明において使用する「C3〜40アルキニル」という用語は、3〜40個の炭素原子を有する分枝状および非分枝状アルキニル基を意味する。3〜5個の炭素原子を有するアルキニル基が好ましい。例としては、プロピニル、ブチニル、ペンチニルまたはヘキシニルが挙げられる。特記しない限り、プロピニル、ブチニル、ペンチニルおよびヘキシニルの定義には、当該基の考えられる全ての異性体が含まれる。したがって、例えば、プロピニルには1-プロピニルおよび2-プロピニルが含まれ、ブチニルには1-、2-および3-ブチニル、1-メチル-1-プロピニル、1-メチル-2-プロピニルが含まれる等である。
【0043】
本発明において使用する「C〜C40アリール」という用語は、6〜40個の炭素原子を有する芳香族環系を意味する。例としては、フェニル、ナフチルおよびアントラセニルが挙げられ、好ましいアリール基はフェニルおよびナフチルである。特記しない限り、芳香族基は、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、ヒドロキシ、アルコキシ、例えばメトキシまたはエトキシ、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素および窒素の中から選択される1以上の基で置換されてよい。
【0044】
本発明において使用する「C7〜40アラルキル」という用語は、6または10個の炭素原子を有する芳香族環系で置換された、1〜30個の炭素原子を有する分枝状および非分枝状アルキル基を意味する。例としては、ベンジル、1-フェニルエチルまたは2-フェニルエチルが挙げられる。特記しない限り、芳香族基は、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素の中から選択される、1以上の基で置換されてよい。
【0045】
本発明のスルホン酸エステルの触媒活性および活性化温度を、残基Rの立体的かさ高さおよび電子的性質を変えることにより、簡単に制御することができる。残基Rを、独立して、メチル、エチル、トリフルオロメチル、フェニル、オルト-ニトロフェニル、メタ-ニトロフェニル、パラ-ニトロフェニル、オルト-トリル、メタ-トリル、パラ-トリル、2,4,6-トリメチルフェニル、オルト-トリフルオロメチルフェニル、メタ-トリフルオロメチルフェニル、パラ-トリフルオロメチルフェニル、オルト-メトキシフェニル、メタ-メトキシフェニル、またはパラ-メトキシフェニルから選択することが好ましい。
【0046】
本発明において使用する「単環式アルキル基」という用語は、1つの環系を含有する飽和または部分的に不飽和の(1または2個の二重結合を含有する)環状炭化水素基を意味する。単環式アルキル基は、3〜20個の炭素環原子、より好ましくは5〜8個の炭素環原子、例えば5、6、7または8個の炭素環原子を含むことが好ましく、ここで、6個の炭素環原子が好ましい。
【0047】
本発明において使用する「炭素環原子」という用語は、環系を形成する炭素原子の総数を表す。
【0048】
特記しない限り、単環式アルキル基は、例えばテトラリニルなど任意にベンゾ縮合されていてよく、および/または、好ましくはオキソ、ヒドロキシル、アミン、シアニド、ハロゲン、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40アルキル、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40ハロアルキル、C〜C40アラルキル、またはC〜C40アリールから選択される、1以上の基で置換されていてよい。
【0049】
本発明の一態様において、単環式アルキル基Rは、式(RSO-)[式中、Rは上記で定義したものである]で示される1以上のさらなるスルホネートエステル基で置換されている。
【0050】
本発明の別の態様において、単環式アルキル基Rは、式(RSO-)[式中、Rは上記で定義したものである]で示される1以上のさらなるスルホネートエステル基で置換されていない。
【0051】
好ましい態様において、式(I)で示されるRは、3〜20個の炭素環原子を含む単環式アルキル基であり、この単環式アルキル基は、オキソ、ヒドロキシル、アミン、シアニド、ハロゲン、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40アルキル、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40ハロアルキル、C〜C40アラルキル、またはC〜C40アリールから選択される少なくとも1種の置換基で任意に置換されている。
【0052】
好ましい単環式アルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロデシルおよびシクロドデシルが挙げられる。
【0053】
本発明の特に好ましい態様において、単環式アルキル基Rは、シクロヘキシル基である。
【0054】
残基Rとしてシクロヘキシル基を有する本発明のスルホン酸エステルは、125℃以下の温度で非常に安定であり、130℃より高い(または130℃に等しい)温度で、その触媒活性型に効率的に移行するため好ましい。
【0055】
本発明において使用する「二環式アルキル基」という用語は、2個の環系を含有する飽和または部分的に不飽和の(1または3個の二重結合を含有する)環状炭化水素基を意味する。二環式アルキル基は、8〜40個の炭素環原子、より好ましくは10〜30個の炭素環原子を含むことが好ましい。特記しない限り、二環式アルキル基は、好ましくはオキソ、ヒドロキシル、アミン、シアニド、ハロゲン、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40アルキル、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40ハロアルキル、C〜C40アラルキル、またはC〜C40アリールから選択される、1以上の基で置換されてよい。好ましい二環式アルキル基は、シス-またはトランス-デカヒドロナフタレニルを含む。
【0056】
本発明の一態様において、二環式アルキル基Rは、式(RSO-)[式中、Rは上記で定義したものである]で示される、1以上のさらなるスルホネートエステル基で置換されている。
【0057】
本発明の別の態様において、二環式アルキル基Rは、式(RSO-)[式中、Rは上記で定義したものである]で示される、1以上のさらなるスルホネートエステル基で置換されていない。
【0058】
本発明において使用する「三環式アルキル基」という用語は、3つの環系を含有する飽和または部分的に不飽和の(1または3個の二重結合を含有する)環状炭化水素基を意味する。三環式のアルキル基は、10〜40個の炭素環原子、より好ましくは14〜30個の炭素環原子を含むことが好ましい。
【0059】
特記しない限り、三環式アルキル基は、好ましくはオキソ、ヒドロキシル、アミン、シアニド、ハロゲン、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40アルキル、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40ハロアルキル、C〜C40アラルキル、またはC〜C40アリールから選択される1以上の置換基で置換されてよい。
【0060】
好ましい三環式アルキル基は、テトラデカヒドロアントラセニルを含む。
【0061】
本発明の一態様において、三環式アルキル基Rは、式(RSO-)[式中、Rは上記で定義したものである]で示される1以上のさらなるスルホネートエステル基で置換されている。
【0062】
本発明の別の態様において、三環式アルキル基Rは、式(RSO-)[式中、Rは上記で定義したものである]で示される1以上のさらなるスルホネートエステル基で置換されていない。
【0063】
本発明のさらなる態様において、式(I)で示されるスルホン酸エステルはモノスルホン酸エステルであり、これは、式(I)で示されるスルホン酸エステルが式(RSO-)で示されるスルホネートエステル基を1つだけ含み、式(RSO-)で示されるスルホネートエステル基[式中、Rは上記で定義したものである]でさらに置換されていないことを意味する。
【0064】
本発明の少なくとも1種のスルホン酸エステルは、式(Ia):
【化19】

[式中、Rは上記で定義したものであり、nは0〜3から選択される整数であり、iは0〜3の整数であり、Rは、存在する場合、それぞれ独立して、ヒドロキシル;アミン;シアニド;ハロゲン;直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40アルキル;直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40ハロアルキル;C〜C40アラルキル;またはC〜C40アリールから選択される]
で示される化合物から選択されうる。
【0065】
本発明の好ましい態様において、nは1であり、かつ、iは0、1または2である。Rを直鎖状C〜Cアルキル基から選択することが好ましい。
【0066】
本発明の少なくとも1種のスルホン酸エステルを、式(Ib):
【化20】

[式中、nは0〜3から選択される整数であり、iは0〜3の整数であり、kは0〜3から選択される整数であり、Rは、存在する場合、それぞれ独立して、ヒドロキシル;アミン;シアニド;ハロゲン;直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40アルキル;直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40ハロアルキル;C〜C40アラルキル;またはC〜C40アリールから選択され、Rは、存在する場合、それぞれ直鎖状C〜Cアルキルまたは直鎖状C〜Cハロアルキルから選択される]
で示される化合物から選択することもできる。
【0067】
本発明の好ましい態様において、nは1であり、iは0または1であり、kは0または1であり、RおよびRは、存在するならば、独立して、直鎖状C〜Cアルキルまたは直鎖状C〜Cハロアルキルから選択される。
【0068】
本発明の少なくとも1種のスルホン酸エステルは、さらに、式(II)〜(VI):
【化21】

[式中、uは1〜18、好ましくは1〜6の整数である。特に好ましい態様において、uは1である。]
で示される化合物から選択されうる。
【0069】
本発明のスルホン酸エステルは、いずれの方法(例えばEndoらにより、Journal of Polymer Science、Part A、Polymer Chemistry、第37巻、293〜301(1999)に記載された方法)で調製してもよい。この出版物は、異なる式(I)で示されるスルホン酸エステルの合成およびそれらのイソブチルビニルエーテルのカチオン重合における熱潜在性開始剤としての使用を教示する。
【0070】
式(I)で示される少なくとも1種のスルホン酸エステルまたは異なる式(I)で示されるスルホン酸エステルの混合物を、本発明の硬化性組成物の全量に基づいて、0.1〜20重量%、例えば0.2〜5重量%の量の範囲で、望ましくは0.3〜3重量%の量、より望ましくは0.5〜1.5重量%の量で含むことができる。
【0071】
本発明の硬化性組成物は、ベンゾオキサジン化合物および一般式(I)で示されるスルホン酸エステルを、ベンゾオキサジン部分:スルホネートエステル基(RSO-)のモル比が、90:10〜99.9:0.1の範囲、好ましくは95:5〜99.5:0.5の範囲となる量で含んでよい。本発明のスルホン酸エステル成分の量がより高いと、得られる硬化反応生成物に力学的特性および熱的特性の悪化をもたらすが、本発明のスルホン酸エステルの量がより少なければ、不十分な硬化反応がもたらされ得る。
【0072】
本発明の硬化性組成物は、ベンゾオキサジン化合物以外の他の樹脂、例えばエポキシ樹脂をさらに含んでよい。
【0073】
本発明において使用する「エポキシ樹脂」という用語は、開環することにより重合することができるオキシラン型の少なくとも2個の官能基を有するいずれの有機化合物をも意味する。用語「エポキシ樹脂」は、好ましくは、室温(23℃)またはより高温で液体である従来のエポキシ樹脂のいずれもを意味する。これらエポキシ樹脂は、一方で単量体または重合体であってよく、他方で、脂肪族、脂環式、複素環または芳香族であってよい。
【0074】
本発明において使用するエポキシ樹脂は、多官能性エポキシ含有化合物、例えばC〜C28アルキル-、ポリ-フェノールグリシジルエーテル;ピロカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルメタン(またはビスフェノールF、例えばNippon Kayaku(日本)から市販されているRE-303-SまたはRE-404-S)、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルメタン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン(またはビスフェノールA)、4,4'-ジヒドロキシジフェニルメチルメタン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルプロパン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、およびトリス(4-ヒドロキシフェニル)メタンのポリグリシジルエーテル;遷移金属錯体のポリグリシジルエーテル;上記のジフェノールの塩素化生成物および臭素化生成物;ノボラックのポリグリシジルエーテル;芳香族のヒドロカルボン酸と、ジハロアルカンまたはジハロゲンジアルキルエーテルとの塩をエステル化することにより得られるジフェノールのエーテルをエステル化することにより得られるジフェノールのポリグリシジルエーテル;フェノールおよび少なくとも2個のハロゲン原子を含有する長鎖ハロゲンパラフィンの縮合により得られるポリフェノールのポリグリシジルエーテル;フェノールノボラックエポキシ;クレゾールノボラックエポキシ;およびそれらの組合せを含んでよい。
【0075】
市販されているエポキシ樹脂の中で、本発明において使用するのに適しているものは、フェノール性化合物のポリグリシジル誘導体、例えばEPON 825、EPON 826、EPON 828、EPON 1001、EPON 1007およびEPON 1009の商品名で入手できるもの、脂環式のエポキシ含有化合物、例えばHuntsman製のAraldite CY179またはHexion製の商品名EPI-REZ 3510、EPI-REZ 3515、EPI-REZ 3520、EPI-REZ 3522、EPI-REZ 3540またはEPI-REZ 3546の水性散体、Dow Chemical Co.製のDER 331、DER 332、DER 383、DER 354、およびDER 542、Huntsman,Inc.製の、GY285、および日本化薬(日本)製のBREN-Sである。他の適当なエポキシ樹脂は、ポリオールなどから、および、フェノール-ホルムアルデヒドノボラックのポリグリシジル誘導体から調製したポリエポキシドなどを含み、フェノール-ホルムアルデヒドノボラックのポリグリシジル誘導体から調製したポリエポキシドは、Dow Chemical Company社よりDEN 431、DEN 438、およびDEN 439の商品名で市販され、Huntsman社から水性分散体ARALDITE PZ 323の商品名で市販されている。
【0076】
クレゾール類似物質、例えば、Huntsman, Inc.よりECN 1273、ECN 1280、ECN 1285、およびECN 1299または水性分散体ARALDITE ECN 1400も市販されており、例えば、SU-8、およびEPI-REZ 5003は、Hexion社より入手できるビスフェノールA型エポキシノボラックである。
【0077】
ここで、異なるエポキシ樹脂を組み合わせて用いることも、もちろん望ましい。
【0078】
存在する場合、エポキシ樹脂は、本発明の硬化性組成物中において、硬化性組成物の全量に基づいて0.1〜60重量%、より好ましくは5〜50重量%、最も好ましくは10〜30重量%の範囲の量で、使用することができる。
【0079】
本発明における使用に適当な添加剤は、反応性希釈剤、例えばスチレンオキシド(スチレンのエポキシド)、ブチルグリシジルエーテル、2,2,4-トリメチルペンチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテルまたは合成、高分枝状、主に第3級、脂肪族モノカルボン酸のグリシジルエステル、およびオキサゾリン基含有化合物;強化剤;可塑剤;増量剤;マイクロスフェア;フィラー、例えばシリカナノ粒子および補強剤、例えばコールタール、ビチューメン、織物繊維、ガラス繊維、アスベスト繊維、ホウ素繊維、炭素繊維、鉱物ケイ酸塩、マイカ、粉末石英、水和アルミニウム酸化物、ベントナイト、珪灰石、カオリン、シリカ、エアロゲルまたは金属粉末、例えばアルミニウム粉末または鉄粉、ならびに顔料および染料、例えば、カーボンブラック、酸化物顔料および二酸化チタン、難燃剤、チキソトロピー剤、流れ制御剤、例えば、シリコーン、ワックスおよびステアレート(それらは一部、離型剤としても用いることができる);接着促進剤;酸化防止剤および光安定剤が挙げられ、それらの多くの粒径と分布は、本発明の重合性組成物の物理的性質と性能を変化させるために制御されうる。
【0080】
存在する場合、少なくとも1種の添加剤または異なる添加剤の混合物を、硬化性組成物の全量に基づいて、0.1〜30重量%の範囲の量、より好ましくは2〜20重量%の量、最も好ましくは5〜15重量%の量で、本発明の硬化性組成物において使用することができる。
【0081】
本発明の1つの態様において、硬化性組成物の粘性を下げるために溶媒を使用することができる。好ましい溶媒は、エーテル、例えばジエチルエーテルおよびテトラヒドロフラン、ケトン、例えばアセトンおよびエチルメチルケトン、エステル、例えば酢酸エチルおよび酢酸ブチル、塩素化炭化水素、例えばクロロホルムおよびジクロロメタン、芳香族、例えばベンゼンおよびクロロベンゼン、アミド、例えばジメチルホルムアミドおよびメチルピロリドン、アルコール、例えばメタノールおよびイソプロパノールである。エステル型溶媒およびケトン型溶媒を使用することがより好ましい。
【0082】
本発明の通常の態様において、硬化性組成物は、組成物の全量に基づいて:
a)20〜99.9重量%、より一般には40〜98重量%、好適には50〜95重量%、例えば60〜90重量%の少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物;
b)0.1〜20重量%、より一般には0.2〜5重量%、好適には0.3〜3重量%、例えば0.5〜1.5重量%の本発明の少なくとも1種のスルホン酸エステル;
c)0〜60重量%、より一般には5〜50重量%、好適には10〜30重量%、例えば15〜25重量%の少なくとも1種のエポキシ樹脂;および
d)0〜30重量%、より一般には2〜20重量%、好適には5〜15重量%、例えば6〜12重量%の1種以上の添加剤
を含む。
【0083】
上記の本発明のスルホン酸エステルを用いることにより、長いポットライフおよび長いオープンタイムを示すベンゾオキサジン系硬化性組成物を得ることができる。
【0084】
本発明において使用する「ポットライフ」という用語は、硬化性組成物が、加工に適した十分に低い粘性を維持している時間の長さを表す。
【0085】
本発明において使用する「オープンタイム」という用語は、硬化性組成物の混合と硬化までの間の経過時間を表す。
【0086】
例えば、式(II)〜(VI)で示される少なくとも1種のスルホン酸エステルを含有する本発明の硬化性組成物を、125℃以下の温度で1時間以上の間、上記の組成物の粘性が著しく増加することなく加工することができる。
【0087】
理論にとらわられるものではないが、130℃より高い(または等しい)温度では、本発明のスルホン酸エステルの炭素-酸素結合の熱開裂が生じるため、前記のスルホン酸エステル触媒の活性型が放出されると考えられる。この活性型は、硬化性組成物の硬化反応を触媒することができる。
【0088】
本発明の1つの態様において、硬化性組成物を、少なくとも130℃の温度で、好ましくは約130℃〜約160℃の範囲の温度で、および/または、1〜100atm、好ましくは1〜5atm、より好ましくは大気圧より下の圧力で硬化させる。
【0089】
述べたように、本発明の硬化性組成物は、例えばプリプレグおよびトウプレグなどの強化材料の製造用マトリックスとして特に適当であり、および/または、射出成形または押し出し成形に用いることができる。
【0090】
これに関し、本発明は、硬化性組成物の硬化反応生成物、特に硬化前に本発明の硬化性組成物で浸した複数の繊維プライまたは一方向プライを含む硬化反応生成物も提供する。
【0091】
複数の繊維層または一方向層を含む上記の硬化反応生成物は、いずれの方法によっても製造することができる。
【0092】
上記の硬化反応物を製造するための1つの好ましい方法は、以下の工程を含む:
(a)本発明の硬化性組成物を、複数の繊維プライまたは一方向プライを含む予備成形品を含有する密閉した型中に供給する工程、
(b)硬化性組成物が予備成形品を湿らせるのに十分な時間の間、型の内部を30℃〜125℃の第1温度にさらす工程、
(c)硬化性組成物を浸透させた予備成形品を、型の中で、130℃以上の(または130℃に等しい)第2温度で硬化させて、硬化反応生成物を形成させる工程。
【0093】
前記方法は樹脂トランスファー成形法(RTM)、真空補助樹脂トランスファー成形法(VaRTM)または樹脂フィルムインフュージョン法(RFI)であることが好ましい。
【0094】
真空補助樹脂トランスファー成形法(VaRTM)に関して、本発明は以下の工程を含む方法を提供する:
(a)フィルム状の本発明の硬化性組成物を、複数の繊維プライまたは一方向プライを含む予備成形品を含有する密閉した型中に供給する工程、
(b)硬化性組成物が予備成形品を湿らせるのに十分な時間、型の内部を、真空下で30℃〜125℃の第1温度にさらす工程、
(c)硬化性組成物を浸透させた予備成形品を、型の中で、真空下で130℃より高い(または130℃に等しい)第2温度で硬化させて、硬化反応生成物を形成させる工程。
【0095】
樹脂フィルムインフュージョン法(RFI)に関して、本発明は以下の工程を含む方法を提供する:
(a)フィルム状の本発明の硬化性組成物を含有する密閉した型中に予備成形品を供給する工程、ここで、上記の予備成形品は複数の繊維プライまたは一方向プライを含む;
(b)硬化性組成物が予備成形品を湿らせるのに十分な時間、任意に真空下で、型の内部を30℃〜125℃の第1温度にさらす工程;
(c)硬化性組成物を浸透させた予備成形品を、型の中で、真空下で130℃より高い(または130℃に等しい)第2温度で硬化させて、硬化反応生成物を形成させる工程。
【0096】
上記の方法において用いる第2温度は、130℃〜160℃の範囲であることが好ましい。
【0097】
繊維プライまたは一方向プライは、炭素、ガラス、アラミド、ホウ素、ポリアルキレン、石英、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリp−フェニレンベンゾビスオアキサゾール、炭化ケイ素、フェノールホルムアルデヒド、フタレートおよびナフテノエートからできていることが好ましい。
【0098】
炭素は、ポリアクリロニトリル、ピッチおよびアクリルから選択され、ガラスは、Sガラス、S2ガラス、Eガラス、Rガラス、Aガラス、ARガラス、Cガラス、Dガラス、ECRガラス、ガラス繊維、ステープルガラス、Tガラスおよび酸化ジルコニウムガラスから選択することができる。
【0099】
述べたように、本発明の別の態様は、本発明の少なくとも1種のスルホン酸エステルのベンゾオキサジン化合物の硬化反応のための熱活性化触媒としての使用であり、ここで、上記のベンゾオキサジン化合物を式(B-I)〜(B-XXII)で示されるベンゾオキサジンから選択することが好ましい。
【0100】
本発明を、以下の実施例によりさらに説明する。
【実施例】
【0101】
実施例において、次の物質を使用した。
【化22】

【化23】

【0102】
〔実施例1-1〕
Box#1(2.92g、13.0mmol)およびp-トルエンスルホン酸シクロヘキシルエステル(TsOcyc-Hex)(33.6mg、0.132mmol)を60℃で混合し、均一な製剤を得た。この製剤をいくつかの部分に分割し、それぞれの部分を試験管に入れた。得られた試験管に、アルゴン導入口を取り付け、油浴中で所定の時間の間、それぞれの試験管を個々に加熱した。得られたサンプルを重水素化クロロホルムに溶解させて、H-NMRで解析し、Box#1が転換されたことを確認した。その結果を表1に示す。
【0103】
〔比較例1-2〕
Box#1(2.92g、13.0mmol)およびp-トルエンスルホン酸メチルエステル(TsOMe)(24.6mg、0.132mmol)を60℃で混合し、均一な製剤を得た。この製剤をいくつかの部分に分割し、それぞれの部分を試験管に入れた。得られた試験管に、アルゴン導入口を取り付け、油浴中で所定の時間の間、それぞれの試験管を個々に加熱した。得られたサンプルを重水素化クロロホルムに溶解させて、H-NMRで解析し、Box#1が転換されたことを確認した。その結果を表1に示す。
【0104】
〔比較例1-3〕
Box#1(2.92g、13.0mmol)およびp-トルエンスルホン酸エチルエステル(TsOEt)(26.4mg、0.132mmol)を60℃で混合し、均一な製剤を得た。この製剤をいくつかの部分に分割し、それぞれの部分を試験管に入れた。得られた試験管に、アルゴン導入口を取り付け、油浴中で所定の時間の間、それぞれの試験管を個々に加熱した。得られたサンプルを重水素化クロロホルムに溶解させて、H-NMRで解析し、Box#1が転換されたことを確認した。その結果を表1に示す。
【0105】
〔比較例1-4〕
Box#1(2.92g、13.0mmol)およびp-トルエンスルホン酸n-ヘキシルエステル(TsOn-Hex)(33.6mg、0.132mmol)を60℃で混合し、均一な製剤を得た。この製剤をいくつかの部分に分割し、それぞれの部分を試験管に入れた。得られた試験管に、アルゴン導入口を取り付け、油浴中で所定の時間の間、それぞれの試験管を個々に加熱した。得られたサンプルを重水素化クロロホルムに溶解させて、H-NMRで解析し、Box#1が転換されたことを確認した。
【0106】
【表1】

【0107】
表1は、触媒としてTsOcyc−Hexを含む実施例1-1のベンゾオキサジン含有製剤の硬化反応が、120℃以下の温度で顕著に遅く、一方、上記の製剤は、約150℃の温度で十分に硬化することを、明らかに示している。
【0108】
比較例1-2〜1-4は、TsOMeが、実験例1-2のベンゾオキサジン系製剤の硬化反応を、150℃より上で、効率的に触媒することを示す。しかしながら、それは、120℃以下でも硬化反応を触媒し、乏しい加工性を示す不安定な製剤をもたらす。TsOEtは、ベンゾオキサジン系製剤の硬化反応を120℃以下で触媒しないが、、その触媒活性は、150℃より上でベンゾオキサジン系製剤の効率的な硬化を与えるには不十分である。
【0109】
比較例1-4は、TsOn−Hexを触媒として用いることによりきわめて非効率的な硬化反応が生じるため、この製剤が最新の複合部品成形加工法には不適であることを示している。
【0110】
つまり、実施例1-1のベンゾオキサジン系製剤は、約120℃の温度での長いポットライフ、長いオープンタイムおよび低い加工粘度を示す唯一の製剤であり、それは、約150℃で、短時間の間に硬化させることができる。
【0111】
〔実施例-2〕:
全ての実験例において、Seiko Instruments製のEXSTAR6000 TMA/SSを用いて熱機械分析を行った。硬化性製剤をアルミニウムキャップ中に注ぎ、プローブピンを差し込んだ。硬化反応の間、0.01(s−1)のフリークエンシーおよび50μmの振幅でプローブピンを上下に動かすことにより、サンプルに正弦波応力を適用した。
【0112】
Box#2(0.203g、0.439mmol)およびp-トルエンスルホン酸シクロヘキシルエステル(TsOcyc-Hex)(11.1mg、43.6μmol)を110℃で混合し、均一な製剤を得た。均一製剤の少量の一部を、熱機械分析(TMA)で、120℃で分析した。得られた時間−モジュラスの関係を図1に示す。
【0113】
均一製剤の別の少量の一部を、熱機械分析(TMA)で、150℃で分析した。得られた時間−モジュラスの関係を図2に示す。
【0114】
〔比較例2-1〕
Box#2(0.203g、0.439mmol)およびp-トルエンスルホン酸シクロヘキシルエステル(TsOMe)(8.2mg、44mmol)を110℃で混合し、均一な製剤を得た。
【0115】
均一製剤の少量の一部を、熱機械分析(TMA)で、120℃で分析した。得られた時間−モジュラスの関係を図1に示す。
【0116】
均一製剤の別の少量の一部を、熱機械分析(TMA)で、150℃で分析した。得られた時間−モジュラスの関係を図2に示す。
【0117】
〔比較例2-2〕
Box#2(0.203g、0.439mmol)およびp-トルエンスルホン酸シクロヘキシルエステル(TsOEt)(8.8mg、44mmol)を110℃で混合し、均一な製剤を得た。
【0118】
均一製剤の少量の一部を、熱機械分析(TMA)で、120℃で分析した。得られた時間−モジュラスの関係を図1に示す。
【0119】
均一製剤の別の少量の一部を、熱機械分析(TMA)で、150℃で分析した。得られた時間−モジュラスの関係を図2に示す。
【0120】
図1は、TsOcyc-Hexを触媒として使用することにより、TsOMeを触媒として含む比較用製剤よりもずっと長いオープンタイムを示すベンゾオキサジン系製剤が得られることを表す。
【0121】
図2は、TsOcyc-Hexを触媒として含むベンゾオキサジン系製剤が、TsOMeまたはTsOEtを触媒として含む比較用製剤よりも、より効率的に、よりすばやく硬化できることを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物、および
b)式(I):
【化1】

[式中、Rは、それぞれ独立して、C〜C40アルキル基、C〜C40シクロアルキル基、C3〜40アルケニル基、C3〜40アルキニル基、C〜C40アラルキル基、またはC〜C40アリール基から選択され、
は、単環式アルキル基、二環式アルキル基、または三環式アルキル基から選択される]
で示される少なくとも1種のスルホン酸エステル
を含有する硬化性組成物。
【請求項2】
式(I)におけるRは、それぞれ独立して、メチル、エチル、トリフルオロメチル、フェニル、オルト-ニトロフェニル、メタ-ニトロフェニル、パラ-ニトロフェニル、オルト-トリル、メタ-トリル、パラ-トリル、2,4,6-トリメチルフェニル、オルト-トリフルオロメチルフェニル、メタ-トリフルオロメチルフェニル、パラ-トリフルオロメチルフェニル、オルト-メトキシフェニル、メタ-メトキシフェニル、またはパラ-メトキシフェニルから選択される、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
式(I)におけるRは、3〜20個の炭素環原子を含有する単環式アルキル基であり、該単環式アルキル基は、オキソ、ヒドロキシル、アミン、シアニド、ハロゲン、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40アルキル、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40ハロアルキル、C〜C40アラルキル、またはC〜C40アリールから選択される少なくとも1種の置換基で任意に置換されている、請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
はシクロヘキシル基である、請求項3に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
式(I)中のRは10〜30個の炭素環原子を含む二環式アルキル基であり、該二環式アルキル基は、オキソ、ヒドロキシル、アミン、シアニド、ハロゲン、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40アルキル、直鎖状、分枝状、飽和または不飽和C〜C40ハロアルキル、C〜C40アラルキル、またはC〜C40アリールから選択される少なくとも1種の置換基で任意に置換されている、請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
式(I)で示されるスルホン酸エステルはモノスルホン酸エステルである、請求項1〜5のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項7】
少なくとも1種のスルホン酸エステルは、式(II)〜(V):
【化2】

[式中、uは1〜18から選択される整数である]
で示される化合物から選択される、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
ベンゾオキサジン部分:スルホネートエステル基(RSO-)のモル比が90:10〜99.9:0.1の範囲である、請求項1〜7のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項9】
a)少なくとも1種のベンゾオキサジン化合物20〜99.9重量%、
b)請求項1〜6のいずれかに記載の少なくとも1種のスルホン酸エステル0.1〜20重量%、
c)少なくとも1種のエポキシ樹脂0〜60重量%、および
d)少なくとも1種の添加剤0〜30%
を含有する、請求項1〜8のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の硬化性組成物の硬化反応生成物。
【請求項11】
硬化前に請求項1〜9のいずれかに記載の硬化性組成物で浸した複数の繊維プライまたは一方向プライを含有する、請求項10に記載の硬化反応生成物。
【請求項12】
(a)複数の繊維プライまたは一方向プライを含む予備成形品を含有する密閉した型中に、請求項1〜9のいずれかに記載の硬化性組成物を供給する工程、
(b)型の内部を、30℃〜125℃の第1温度に、硬化性組成物が予備成形品を湿らせるのに十分な時間、さらす工程、
(c)硬化性組成物を浸透させた予備成形品を、型の中で、少なくとも130℃の第2温度で硬化させて、硬化反応性生物を形成させる工程
を含む、請求項11に記載の硬化反応生成物の製造方法。
【請求項13】
方法は、樹脂トランスファー成形法(RTM)、真空補助樹脂トランスファー成形法(VaRTM)または樹脂フィルムインフュージョン法(RFI)である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれかに記載の少なくとも1種のスルホン酸エステルの、ベンゾオキサジン化合物の硬化反応のための熱活性化触媒としての使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−508486(P2013−508486A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534608(P2012−534608)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064541
【国際公開番号】WO2011/047939
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(391008825)ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン (309)
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D−40589 Duesseldorf,Germany
【Fターム(参考)】