説明

ベータキチンナノファイバーとその製造方法、ベータキチンナノファイバー分散液、ナノフィブリル構造体、及びキチン複合体

【課題】1本1本が分離され、かつ十分な長さを有するシングルファイバーであり、かつ化学変性していないキチンナノファイバーを提供する。
【解決手段】ベータキチンナノファイバーの製造方法は、結晶化度が90%以下の精製ベータキチンをpH5以下の酸性液体に浸漬する工程によりキチンナノフィブリルの表面に分布すると考えられるグルコサミンにプラス荷電を付与し、低エネルギーの解繊処理することによる幅5〜50ナノメートル、長さが500ナノメートル以上のベータキチンナノファイバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベータキチンナノファイバーとその製造方法、ナノファイバー分散液、ナノフィブリル構造体、及びナノファイバー複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
幅が数ナノメートル〜数十ナノメートルのナノファイバーは、その膨大な表面積と他の材料との相互作用、複合化などにより、新しい機能材料として注目されている。ナノファイバーの製造方法は、分子状に溶解した状態から、電界紡糸、ナノ溶融紡糸などの方法によって製造されているが、コストがかかり、また結晶化度が低く、幅も50ナノメートル以上で通常100ナノメートルほどと太い。また、合成高分子を素材とした場合には、安全性に課題がある。カーボンナノチューブも注目されている素材であるが、安全性の確認やコストに大きな障害がある。一方、生物は生合成過程で高結晶性のナノファイバーを生産している。セルロースとキチンがそれであり、地球上で最も多量に生物生産されているナノファイバーである。これらのナノファイバーは、生体の維持に不可欠な構造多糖であり、高強度を発現する。
【0003】
しかし、これらセルロース、キチンから完全に1本1本のナノファイバーを調製するのは、強い(多量の)水素結合で互いに密に結合しているため容易ではない。例えば、セルロースの高圧ホモジナイザー処理では、10回ほどの繰り返し処理で約200kwh/kgのエネルギーをかけても完全にはナノファイバー化することはできない。
【0004】
さらにキチンについては、現在のところ、ファイバーとはいえないほど長さの短いもの(キチンナノウィスカー)に関する報告がほとんどである。
これまで報告されたキチンナノウィスカーは、天然キチンを強酸で加水分解し、その後機械的な解繊処理によって得られていた。例えば、非特許文献1では、エビのアルファキチンを3Mの塩酸中で90℃で90分加熱処理し、洗浄して酸を除去後、水分散液を高圧ホモジナイザーに10〜15回もかけて(キチン/水分散液を狭い隙間から高圧で押し出す機械的処理の繰り返し)解繊する。得られたキチンナノウィスカーは、10〜15ナノメートルの幅で、長さは200〜500ナノメートルである。上記の文献以外に、強酸処理によるキチンナノウィスカー調製方法は、以下の非特許文献2〜6に記載されている。なお、いずれの文献にも収率は記載されていないが、強力な酸処理を行うことから、60%以下であることが推定される。
また、非特許文献7〜12では、上記と同様の方法で得られたキチンナノウィスカーをナノ複合体に変換し、強化材やバイオ分野での支持体などの応用を提案している。
【0005】
一方、最近になって、天然キチンを超音波処理のみでナノファイバー化する論文が発表された(非特許文献13)。この論文では、クモの糸、カイコの生糸等に対して、超音波ホモジナイザー装置を用い、水中で30〜45分の長時間処理を施してナノファイバーが得られる。同様に、魚のコラーゲン、エビやカニのキチン、綿、竹、木材、麻のセルロースからもナノファイバーが得られるとされている。同論文にはキチンナノファイバーとされる走査電子顕微鏡写真が掲載されているが、幅が30〜300ナノメートル程度もあり、不均一なものである。
以上に説明したように、キチンのシングルファイバー(集まった束を含んでいないもの)で長さが500ナノメートル以上のものは得られていない。
【非特許文献1】Goodrich, J. D.; Winter, W. T.; Biomacromolecules, 2007, 8, 252
【非特許文献2】Revol, J.-F.; Marchessault, R. H. Int. Biol. Macromol. 1993, 15, 329.
【非特許文献3】Li, J.; Revol, J.-F.; Marchessault, R. H. J. Appl. Polym. Sci. 1997, 65, 373.
【非特許文献4】Paillet, M.; Dufresne, A. Macromolecules, 2001, 34, 6527.
【非特許文献5】Aoi, K.; Takasu, A.; Okada, M.; Imae, T. Macromol. Chem. Phys. 2002, 203, 2650.
【非特許文献6】Nair, G. K.; Dufresne, A. Biomacromolecules, 2003, 4, 657.
【非特許文献7】Nair, G. K.; Dufresne, A. Biomacromolecules, 2003, 4, 657.
【非特許文献8】Morin, A.; Dufresne, A. Macromolecules 2002, 35, 2190.
【非特許文献9】Nair, G. K.; Dufresne, A. Biomacromolecules 2003, 4, 666.
【非特許文献10】Nair, G. K.; Dufresne, A. Biomacromolecules 2003, 4, 1835.
【非特許文献11】Junkasem, J.; Rujiravanit, R.; Supaphol, P. Nanotechnol. 2006, 17, 4519.
【非特許文献12】Phongying, S.; Aiba S.-I.; Chirachanchai, S. Polymer 2007, 48, 393.
【非特許文献13】H.-P. Zhao, X.-Q. Feng and H. Gao, Ultrasonic technique for extracting nanofibers from nature materials, Applied Physics Letters, 90, 073112 (2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、セルロースを完全にナノファイバー化する方法としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)触媒酸化法が知られている。TEMPO触媒酸化法では、セルロース結晶表面にマイナス荷電を有するカルボキシル基を多数導入し、ナノファイバー間の荷電反発の力によって幅数ナノメートルのセルロースシングルファイバーの水分散液が得られる。また、同様の手法をアルファキチンに適用することで、長さは短いがキチンナノファイバーを作製することはできる。
【0007】
しかしながら、TEMPO触媒酸化法で得られるキチンナノファイバーは新規物質であり、体内に取り込む用途に使用する場合には、その効果以上に安全性を確認しなければならない。また、反応に用いたTEMPOを完全に除去しようとすれば、洗浄−精製に多大なコストがかかる。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、十分な長さを有するシングルファイバーであり、かつ化学変性していないキチンナノファイバーを製造する方法、及びこれにより得られるキチンナノファイバーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のベータキチンナノファイバーの製造方法は、上記課題を解決するために、結晶化度が90%以下の精製ベータキチンをpH5以下の酸性液体に浸漬する工程と、浸漬された前記ベータキチンを解繊処理する工程を有することを特徴とするベータキチンナノファイバーの製造方法である。
かかる製造方法では、pH制御された液体に浸漬することで、キチンナノフィブリルの表面に分布すると考えられるグルコサミンにプラス荷電を付与する。これにより、キチンミクロフィブリル間に荷電反発を生じさせる。そして、これに解繊処理を施すことで、低エネルギーの解繊処理により容易にキチンナノファイバーを得られるようにしている。
また実験的に、上述した荷電反発を利用したキチンナノフィブリルの分離を行うには、原料となる精製ベータキチンの結晶化度と、精製ベータキチンを浸漬する酸性液体のpHが重要であることをつきとめ、実験結果とそれに基づき推定される結晶化度の範囲を規定するとともに、酸性液体のpHの範囲を規定したものである。
そして、本発明によれば、酸性液体中で解繊処理を行うという極めて簡便な処理で、1本1本が分離された幅5〜50ナノメートル、長さが500ナノメートル以上のベータキチンナノファイバーを製造することができる。また、本発明により得られるベータキチンナノファイバーは、元々キチン中に存在しているグルコサミンユニット部分に荷電を付与しているだけであるため化学変性しておらず、安全性の確認が不要であることから、実用化へのプロセスを著しく短縮しうるものである。
【0010】
前記精製ベータキチンが、イカの腱を精製して得られるベータキチンであることが好ましい。本発明に係る製造方法において、原料となる精製ベータキチンの結晶化度が重要であり、天然のベータキチンのうちでも、その低結晶性から、イカ由来の精製ベータキチンを用いることが好ましい。
【0011】
前記酸性液体として酸性水溶液を用いることが好ましい。このように水を溶媒に用いることで、得られたベータキチンナノファイバーの洗浄処理を不要あるいは極めて簡素なものとすることができ、製造コストの低減、製造プロセスの簡素化を図ることができる。また安全性も高められるため生体に用いる素材の製造方法として好適である。
【0012】
また前記酸性液体として食用に供される酸の水溶液を用いることが好ましい。このような製造方法とすれば、得られたベータキチンナノファイバーにほとんど処理を加えることなく生体用途に好適に用いることができる。
【0013】
また本発明の製造方法は、前記解繊処理後の液体に含まれるベータキチンナノファイバーの平均長さが500ナノメートル以上であることを特徴としている。本発明では、低エネルギーの解繊処理により容易にキチンナノフィブリルの分離が可能であるため、キチンナノフィブリルの損傷を回避できる点にも大きな利点を有している。すなわち、得られるベータキチンナノファイバーの長さが、従来のキチンナノウィスカーに比して著しく大きいのである。そして、このようなキチンナノファイバーは現在知られておらず、本発明に係る製造方法を用いて得られるベータキチンナノファイバーの特徴である。
【0014】
次に、本発明のベータキチンナノファイバー分散液の製造方法は、結晶化度が90%以下の精製ベータキチンをpH5以下の酸性液体に浸漬する工程と、浸漬された前記ベータキチンを解繊処理する工程を有することを特徴とする。本発明では、上記の解繊処理によってベータキチンナノファイバー分散液が得られる。この分散液は、透明な高粘度の液状体であり、そのままで種々の用途に用いることができるほか、応用製品の素材として用いることができる。
【0015】
また分散液の製造方法においても、先に記載の発明と同様に、前記精製ベータキチンが、イカの腱を精製して得られるベータキチンであることが好ましい。また、前記酸性液体として酸水溶液を用いることが好ましい。
【0016】
次に、本発明に係るベータキチンナノファイバーは、結晶化度が90%以下の精製ベータキチンを原料としてなり、幅が5ナノメートル以上50ナノメートル以下であることを特徴とする。
あるいは、N−アセチル化度が60%以上98%以下のベータキチンからなり、幅が5ナノメートル以上50ナノメートル以下であることを特徴とする。
また本発明のベータキチンナノファイバーは、長さが500ナノメートル以上、好ましくは700ナノメートル以上であることを特徴とする。
先に記載の本発明に係る製造方法により得られるベータキチンナノファイバーは、1本1本が分離された幅の細いナノファイバーであり、このようなベータキチンナノファイバーは従来知られていない新規なナノファイバーである。そして、このように細く長いベータキチンナノファイバーによれば、従来のキチンナノウィスカーでは得られない格別大きな強度が得られ、かつ、従来の太いナノファイバーでは得られない格別大きな表面積により優れた機能性を奏する。
【0017】
次に、ベータキチンナノファイバー分散液は、結晶化度が90%以下の精製ベータキチンを原料としてなり、幅が5ナノメートル以上50ナノメートル以下であるベータキチンナノファイバーを液体に分散させていることを特徴とする。
また、N−アセチル化度が60%以上98%以下のベータキチンからなり、幅が5ナノメートル以上50ナノメートル以下であるベータキチンナノファイバーを液体に分散させていることを特徴とする。
また本発明に係るベータキチンナノファイバー分散液は、液体中に分散された前記ベータキチンナノファイバーの平均長さが500ナノメートル以上であることを特徴とする。
かかる分散液についても、先に記載の本発明の製造方法により得られる新規なキチンナノファイバー分散液である。また、先に記載の発明と同様に、前記液体が水又は酸性水溶液であることが好ましい。
【0018】
また本発明のナノフィブリル構造体は、本発明のベータキチンナノファイバーを含むことを特徴とする。
また、本発明のベータキチンナノファイバー分散液から、乾燥処理により前記液体を除去して得られることを特徴とする構成であってもよい。これにより、フィルム、シート、容器等の高強度のナノフィブリル構造体を提供することができる。
さらに、本発明のベータキチンナノファイバー分散液から、凍結乾燥処理により前記液体を除去して得られることを特徴とする構成であってもよい。
【0019】
また本発明のキチン複合体は、本発明のベータキチンナノファイバーに有機物(例えば水溶性高分子など)を混合あるいは結合させたことを特徴とする。さらに、本発明のベータキチンナノファイバーに無機物(例えばヒドロキシアパタイトなど)を混合あるいは結合させたことを特徴とするキチン複合体も含まれる。すなわち本発明によれば、これまでになく細く長いベータキチンナノファイバーの機能性を利用したキチン複合体が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、極めて簡便な方法を用いて、十分な長さを有し、しかも化学変性していないキチンナノファイバーを製造することができる。そして、本発明の製造方法により得られるキチンナノファイバーは、十分な長さを有していることから材料としての強度に優れ、また化学変性していないことから、食品や医療分野などの体内に取り込む用途においても安全に使用でき、種々の分野に応用できる極めて有用な素材である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、キチン中のN−アセチルグルコサミン及びグルコサミン成分の化学構造を示す図である。図2は、アルファキチン及びベータキチンのX線回折パターンを示すグラフである。図3は、キチンミクロフィブリルの構造モデルを示す説明図である。図4及び図5は、本発明の作用説明図である。
【0022】
キチンは、カニエビなどの甲殻類や昆虫、クモなど、節足動物やイカの腱のように動物の体を支え、守るための直鎖状の構造多糖であり、結晶性があり(分子が規則的に並んでいる部分がある)、一部はタンパク質と結合している。キチンは、図1左側に示すN−アセチルグルコサミンを主な構成糖とした多糖であるが、単離−精製したキチンで、100%がN−アセチルグルコサミンからなる精製キチンはほとんどなく、一部は図1右側に示すようなグルコサミンを構成成分として含んでいる。
【0023】
キチン中のグルコサミン成分は、そのC2位のアミノ基(−NH)部分とタンパク質が元々結合していて生物体内に存在し、精製の過程(特に1MのNaOH処理)でキチン/タンパク質の結合が切断され、グルコサミン成分が出現したと考えられる。したがって、多くの精製したキチンは、図1の左右の成分がさまざまな比率で混ざった構造を有している。
【0024】
キチンの化学構造を示す指標として、あるいはキチン中の図1の左右の成分の含有比を示す指標として、N−アセチル化度を用いる。すなわち、全てが図1左側に示す構造であれば、N−アセチル化度100%(あるいは1)と表示する。キチンの成分のうち、図1右側に示すユニットが100個中に10個存在すれば、N−アセチル化度は90%(あるいは0.9)と表示する。
【0025】
通常、精製したキチンはN−アセチル化度が70〜95%である。N−アセチル化度は精製キチンの窒素含有量、赤外吸収スペクトル(FT−IRスペクトル)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)などから計算できる。逆に、構成糖の75%以上が図1右側に示すグルコサミンを成分とする多糖(すなわち、N−アセチル化度が25%以下)であれば、その多糖はキトサンと称される。キトサンは、キチンを強アルカリで処理して、N−アセチル基を脱離させて調製する。キトサンは弱酸に溶解するが、キチンは弱酸には溶解しない。キトサンは健康食品など、生理活性作用が報告されている。
【0026】
天然キチンの精製物には、図2に示すように、X線回折パターンの差異で確認できる結晶形の差異を有するα型とβ型とが知られている。天然キチンはほとんど全てがα型キチン(アルファキチン)であり、キチンの鎖状分子が逆向きに交互に並んでいると考えられている。一方、β型キチン(ベータキチン)は天然に少なく、イカの腱、ハオリムシなどに限られている。ベータキチンでは、キチンの鎖状分子が平行に同じ向きに並んでいると考えられている。
【0027】
精製したアルファキチン試料では、N−アセチル化度が70〜95%であるにもかかわらず(すなわち、構成成分が図1の左右の構造で混ざっているにもかかわらず)、その結晶化度は70%以上と高い。これは、図3に示すように、キチンの結晶性の分子の束(フィブリル)の内部はほぼ100%のN−アセチル化度を有するキチン分子が規則的に並んでおり、そのフィブリルの表面に(元々タンパク質と結合していた)グルコサミン成分(図1右)が高密度で存在しているためであると考えられる。
アルファキチンにも、カニの殻のように固いものと、カニの芯、エビ、昆虫の幼虫のように柔らかいものがある。ベータキチンについては、柔らかいイカの腱は、結晶中に水分子を含んでおり、結晶化度が低い。しかし、ハオリムシのベータキチンは高結晶性である。
【0028】
精製したキチンは、結晶性のキチンミクロフィブリル間に強固な水素結合を形成しており、容易には1本1本のナノファイバーレベルにバラバラにはできないと考えられていた。既に非特許文献1〜13を参照して説明したように、キチンナノウィスカーを調製するためには、キチンの強酸処理とそれに続く強解繊処理が必要であった。
【0029】
しかし、図3に示したキチンミクロフィブリルの構造モデルから、グルコサミン成分はキチンミクロフィブリルの表面に高密度で存在している可能性が高い。そこで本発明者らは、図4及び図5に示すように、グルコサミン成分にプラスの荷電を付与させれば、キチンミクロフィブリル間にプラスどうしの荷電反発が生成し、水中で機械的な処理することにより、低解繊エネルギーでキチンナノファイバーが得られる可能性があると着想した。
【0030】
本発明のベータキチンナノファイバー及びその分散液の製造方法は、上記着想に基づき成されたものであり、結晶化度が90%以下の精製ベータキチンを用い、この精製ベータキチンをpH5以下の酸性液体に浸漬する処理と、浸漬後の精製ベータキチンを解繊する処理を行うことを特徴とするものである。すなわち、酸性液体に浸漬することで、図4に示すように、アミノ基をカチオン化し、キチンミクロフィブリル同士に荷電反発を生じさせる。そして、この状態で解繊処理を行うことで、荷電反発を利用して効率よくキチンミクロフィブリルを分離するものである。
【0031】
以下、図面を参照しつつ本発明によるベータキチンナノファイバーの具体的製造手順について説明する。
【0032】
(1)精製ベータキチンの調製
本発明に係るベータキチンナノファイバー及びその分散液の製造方法では、結晶化度が90%以下の精製ベータキチンを原料に用いる。このような精製ベータキチンは、イカの腱からタンパク質を除去し、これを脱色し、さらにカルシウムなどの不純物を除去することで得られる。得られた精製ベータキチンは、乾燥させることなく保存しておくことが好ましい。
【0033】
イカの腱由来の精製ベータキチンは結晶化度が85%程度と低く、本発明に係る製造方法に用いる精製ベータキチンとして好適である。一方、ベータキチンとしては、ハオリムシ由来のものも知られているが、ハオリムシ由来の精製ベータキチンは結晶化度が99%程度あり、本発明の製造方法には不適である。
なお、詳細は後述しているが、ハオリムシ由来の精製ベータキチンに対して結晶化度が多少低い(90%以下)ものであれば、本発明に係る製造方法によりナノファイバー化できると推定されるため、イカの腱以外の原料から得られるベータキチンであっても構わない。
【0034】
精製ベータキチンを調製するにあたり、タンパク質の除去工程では、例えば、アルカリ水溶液に乾燥したイカの腱を浸漬する処理を実施する。脱色工程では、例えば、亜塩素酸ナトリウムなどの漂白剤の薬液に浸漬する処理を実施する。不純物除去工程では、例えば、酸性水溶液に浸漬する処理によりカルシウムを除去する。
なお、酸性水溶液による不純物除去工程は、主にカルシウムの除去を目的とするが、イカ由来のベータキチンには元々カルシウムが少ないため、カルシウムの残留量が許容できる用途であれば、上記の不純物除去工程は行わなくてもよい。
【0035】
(2)浸漬処理
原料となる精製ベータキチンを用意したならば、次に、pHを5以下に調整した酸性液体を用意し、これに精製ベータキチンを浸漬する。
【0036】
酸性液体としては、所望の範囲のpHが得られる限度で任意の酸を用いることができる。すなわち、酸は、有機酸であってもよく、無機酸であってもよく、特に制限されない。また、酸性液体の溶媒にも特に限定はなく、水以外のものを用いてもよい。
【0037】
有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、サリチル酸、アスコルビン酸、酒石酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、コハク酸ナトリウム、フィチン酸、アジピン酸、プロピオン酸、グリオキシル酸、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、グリコール酸、グリセリン酸、アクリル酸、安息香酸、パラニトロ安息香酸、パラトルエンスルホン酸、ピクリン酸、マレイン酸、などが挙げられる。無機酸としては、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、ピロリン酸二水素二ナトリウムなどが挙げられる。
【0038】
ただし、得られたキチンナノファイバーを医療、食品、薬剤などの生体に取り込む用途に用いる場合には、酢酸やクエン酸、リンゴ酸などの食用に供される酸を用い、溶媒に水を用いることが好ましい。ナノファイバーの作製に用いた酸や溶媒の除去が不要又は極めて容易になり、安全性の面でも有効だからである。
【0039】
本発明において、酸性液体のpH調整は極めて重要である。詳細は後段の実施例に記載しているが、酸性液体のpHが5を超えている場合には、解繊処理を行ってもキチンナノフィブリルを1本1本に分離することができない。これは、ベータキチンを構成するグルコサミンへの荷電付与が不十分になり、キチンナノフィブリル間の荷電反発が不足するためであると考えられる。
また、精製ベータキチンを浸漬した酸性液体における固形分濃度は5%以下とすることが好ましい。グルコサミンへの荷電付与が不十分になるのを回避するためである。
【0040】
(3)解繊処理
次に、精製ベータキチンが浸漬された酸性液体を解繊処理に供する。この解繊処理により、1本1本に分離されたキチンナノファイバーの分散液が得られる。かかる分散液に含まれるキチンナノファイバーは、化学変性していないベータキチンからなり、幅が5ナノメートルから50ナノメートルであり、かつこれまでにない500ナノメートル以上の長さを有する新規なキチンナノファイバーである。
【0041】
解繊処理は、家庭用ミキサー(プロペラミキサー、カッターミキサー)、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練機などの解繊、粉砕装置を用いて行うことができる。本発明では、キチンナノフィブリル間の荷電反発を利用してナノファイバー化を行うので、解繊処理で精製ベータキチンに付与するエネルギーを低く抑えることができる。そのため、家庭用ミキサーのような簡便な装置であっても十分に適用できるのである。また、解繊処理の時間も数分間でよいため、極めて優れた効率でナノファイバーを製造することができる。
【0042】
なお、解繊処理に際して、精製ベータキチンを浸漬した酸性液体を希釈してもよい。解繊処理により精製ベータキチンがナノファイバー化されると高粘度の分散液となるので、希釈することであらかじめ固形分濃度を低下させておくことが好ましい。これにより解繊処理における攪拌を円滑に行えるようになる。希釈後の固形分濃度としては、1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下で、さらに好ましくは0.2%以下である。
希釈に際しては、水や酸水溶液を酸性液体に加える。水を加えると酸性液体のpHが上昇するが、浸漬処理においてベータキチンのグルコサミン成分に十分に荷電が付与されていれば、解繊処理の歩留まりにはほとんど影響しない。
また、必要に応じて、解繊処理で分散せず残ってしまった精製ベータキチンを、濾過、遠心分離などにより除去することが好ましい。
【0043】
以上詳細に説明したように、本発明に係るベータキチンナノファイバーの製造方法によれば、所定範囲の結晶化度を有する精製ベータキチンを原料に用い、これをpH調整された酸性液体に浸漬した後、解繊処理するという極めて簡便な工程で、1本1本に分離されたキチンナノファイバーを含む分散液を得ることができる。
得られるキチンナノファイバーは、化学変性していないベータキチンからなるものであり、安全性確認が不要であることから、特に、食品、医療、薬剤、ヘルスケア分野など、体内に取り込んで使用される用途における応用展開が格段に容易になる。また上記工程で得られるキチンナノファイバー分散液についても、透明な高粘度の液体であり、添加する酸の種類によっては、そのままの状態で食品や医療材料に用いることができるものである。
【0044】
さらに、キチンナノファイバー分散液から種々の手法により液体成分を除去することで、キチンナノファイバーにより構成されるナノフィブリル構造体を得ることができる。例えば、キチンナノファイバー分散液を薄く延ばした状態で乾燥処理すれば、高強度の不織布やフィルムを作製することができる。本発明により製造されるキチンナノファイバーは、幅が細くしかも十分な長さを有するものであるから、大きな表面積により高い機能性を発現し、かつ優れた強度を備えたナノフィブリル構造体を実現できる。
また、キチンナノファイバー分散液を凍結乾燥処理すれば、エアロゲルのような多孔質体を容易に作製することができる。
【0045】
さらに、本発明に係る製造方法により得られるキチンナノファイバーは、他の材料と混合あるいは結合させて複合材料(コンポジット)を形成する用途にも好適である。例えば、水溶性高分子などの有機物を混合させたキチン複合体や、ヒドロキシアパタイトなどの無機物と混合(一部結合)させたキチン複合体を作製することができる。本発明に係るキチンナノファイバーは、1本1本に分離されて幅が細く、大きな表面積を有し、さらに荷電を有することから、他の材料との優れた複合化、イオン結合、あるいは共有結合を形成できるものである。また、長さが大きいことから高強度のキチン複合体が得られる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
[ベータキチンナノファイバーの作製]
本例では、以下に示す(1)精製ベータキチンの調製、(2)浸漬処理、(3)解繊処理、の工程によりベータキチンナノファイバー分散液を作製した。
【0048】
(1)精製ベータキチンの調製
まず、乾燥したイカの腱を用意し、1Mの水酸化ナトリウム水溶液に室温で一晩浸漬し、タンパク質を除去した。その後、濾過−水洗浄によって、ろ液が中性になるまで十分洗浄した。
次に。得られた試料を0.3%亜塩素酸ナトリウム(NaClO)に浸漬した。処理条件は70℃で2時間の浸漬であり、これにより試料の着色成分が分解される。その後、濾過−水洗浄によって十分洗浄する。以上の処理を2回繰り返して、脱色された試料を得た。この亜塩素酸ナトリウム処理は、試料が明瞭に白くなるまで繰り返すことが好ましい。
次に、試料を1Mの塩酸に浸漬し、室温で6時間処理した。この塩酸処理によりカルシウムなどが除去される。その後、濾過−水洗浄により中性になるまで十分洗浄した。
以上の工程により、イカの腱から精製ベータキチン試料を得た。得られた試料は未乾燥状態で冷蔵保存した。
【0049】
(2)浸漬処理
次に、上記で得られた精製ベータキチン試料に水を加えて固形分濃度1%以下の精製ベータキチン水分散液を調製した。次に、上記の水分散液に酢酸又は水酸化ナトリウムを添加することでpHを3〜8の間で調整した複数の試料を作製した。これらの水分散液試料を、試料1(pH 3)、試料2(pH 4)、試料3(pH 5)、試料4(pH 6)、試料5(pH 7)、及び試料6(pH 8)とする。
試料1〜3がpHを5以下とする本発明に係る製造方法を用いて作製した試料であり、試料4〜6が比較のためにpHを5を超える範囲として作製した試料である。
【0050】
(3)解繊処理
次に、得られた試料1〜6の精製ベータキチン水分散液に、水を加えて固形分濃度が0.2%となるように希釈した。その後、超音波ホモジナイザーで6分間の解繊処理を行った。
以上の(1)〜(3)の工程により、試料1〜6についてベータキチンナノファイバー水分散液を得た。
【0051】
[分散性評価]
図6は、上記で作製した試料1〜6のベータキチンナノファイバー水分散液を透明なガラス瓶(試料瓶)に入れた状態で撮影したものである。図6に示すように、pHが3〜5の試料1〜3では、透明で高粘度の水分散液が得られたのに対して、pHが6以上の試料4〜6では、透明分散液が得られず、ゲル状のベータキチンが残存していた。なお、試料1〜3では6分間の超音波ホモジナイザー処理により透明な水分散液が得られたのに対して、試料4〜6では、追加の解繊処理を行っても透明な水分散液は得られなかった。
このように、本発明に係る製造方法では、精製ベータキチンを浸漬する酸性液体のpHが重要であり、1本1本にまで分離されたベータキチンナノファイバーを得るには、酸性液体のpHを5以下とすることが必要である。
【0052】
なお、透明な水分散液については、キチンが光の波長よりも狭い幅にまでナノファイバー化されて分散しているために透明になっている場合と、キチン分子が溶解して透明になっている場合とが想定される。そこで、透明な水分散液(試料1〜3)について、溶液NMR(核磁気共鳴;Nuclear Magnetic Resonance)で測定したところ、何らキチン分子に由来するシグナルは認められなかった。したがって、透明な水分散液はキチン分子が溶解したものではない。
【0053】
そこで、透明な水分散液について、透過型電子顕微鏡観察を行った。図7は、その観察写真であり、繊維状に写っている部分がキチンナノファイバーである。図7に示すように、水分散液に含まれるキチンナノファイバーは、10ナノメートル程度の均一な幅を有する1本1本が分離されたものであり、その長さも500ナノメートル以上のものがほとんどである。これにより、本発明によれば、従来得られていなかった、1本1本が分離され、かつ500ナノメートル以上の長さを有するキチンナノファイバーが得られることが確認された。すなわち本発明に係る新規なベータキチンナノファイバーは、幅が10ナノメートル程度であり、500ナノメートル以上の長さを有するベータキチンナノファイバーとして特定できるものである。
【0054】
なお、図7に示す写真では、キチンミクロフィブリルが1本1本にまで完全に分離されているため、幅が5〜10ナノメートル程度の均一なナノファイバーとなっているが、製造条件によっては数本のキチンミクロフィブリルが束になったものが得られる。このような数本が束になったキチンナノファイバーは、幅が10〜50ナノメートル程度であり、長さは上記と同様の500ナノメートル以上となる。従来このような幅のキチンナノファイバーは得られておらず、本発明によって得られる新規なキチンナノファイバーである。
【0055】
また以上の評価から、本発明により得られるキチンナノファイバーは、水に不溶であり、また化学変性していないことから、そのN−アセチル度は60%以上98%以下である。よって、本発明に係るキチンナノファイバーは、N−アセチル化度が60%以上98%以下であり、幅が10ナノメートル程度(5〜50ナノメートル)のベータキチンナノファイバーとして特定することができるものである。
【0056】
(実施例2)
次に、実施例2として、イカの腱由来の精製ベータキチンと、それ以外の精製キチン(アルファキチン及びベータキチン)との比較を行った。
【0057】
[キチンナノファイバーの作製]
本実施例では、(A)イカの腱由来の精製ベータキチン、(B)ハオリムシ由来の高結晶性ベータキチンの精製物、(C)カニ芯部分の柔軟な筋に由来するアルファキチンの精製物、(D)カニ甲羅由来の精製アルファキチン試料(和光純薬製)について、実施例1と同様の浸漬処理及び解繊処理を実施することで、キチンナノファイバーの作製を試みた。
【0058】
(1)浸漬処理
上記の4種類の精製キチン試料に、水を加えて固形分濃度0.1%の精製キチン水分散液を調製した。次に、上記の水分散液に酢酸を添加することでpH4に調整した複数の試料を作製した。
これらの水分散液試料を、試料a(原料A:イカの腱由来のベータキチン)、試料b(原料B:ハオリムシ由来の精製ベータキチン)、試料c(原料C:カニ芯由来の精製アルファキチン)、試料d(原料D:カニ甲羅由来の精製アルファキチン)とする。
【0059】
(2)解繊処理
次に、得られた試料a〜dの精製アルファ及びベータキチン水分散液を家庭用ミキサーで4分間解繊処理し、異なる種類の精製キチンを原料とする水分散液試料a〜dを得た。
【0060】
[分散性評価]
図8は、解繊処理後の水分散液試料a〜dを透明なガラス瓶に入れた状態で撮影したものである。図8に示すように、イカの腱由来の精製ベータキチンを原料とした試料aでは、透明で高粘度の水分散液が得られたのに対して、ハオリムシ由来の精製ベータキチンやアルファキチンを原料とした試料b〜dでは、ベータキチンやアルファキチンが残存していた。
なお、ベータキチンやアルファキチンが残存した試料b〜dについて、追加の解繊処理を行ったが、透明な水分散液は得られなかった。
【0061】
試料aと同様にベータキチンを原料としている試料bのハオリムシ由来のベータキチンにおいて、試料aと同様の結果が得られなかったのは、原料に用いたベータキチンの結晶化度の差異によるものと考えられる。
ここで、図9は、イカの腱由来の精製ベータキチンと、ハオリムシ由来の精製ベータキチンのX線回折パターンを示すグラフである。図9に示すように、イカの腱由来の精製ベータキチンは、ベータキチンに対応する回折角における回折強度が、ハオリムシ由来の精製ベータキチンに比して低くなっている。具体的には、ハオリムシ由来のβキチンの結晶化度が99%程度であるのに対して、イカの腱由来のベータキチンの結晶化度は85%程度である。すなわち、イカの腱由来の精製ベータキチンは、他のベータキチンと比較してもキチンの結晶内あるいはキチンミクロフィブリル間の水素結合が弱いかあるいは少ないルーズな構造であり、そのために弱酸によるカチオン化で生じる荷電反発により容易にキチンミクロフィブリル同士を分離できたものと考えられる。
したがって、本発明に係る製造方法によりキチンナノファイバーを得るには、原料となる精製ベータキチンに結晶化度が90%以下のものを用いることが必要である。
【0062】
ところで、結晶化度が90%程度のイカの腱由来の精製ベータキチンを用いた場合、数分の解繊処理で透明な水分散液が得られており、キチンのナノファイバー化は極めて容易であると考えられる。その一方で、結晶化度が99%程度もあるハオリムシ由来の精製ベータキチンを用いた場合であっても、図8の試料bで示されているように、透明な分散液は得られないもののキチンは膨潤している。この試料bの状態は、原料にアルファキチンを用いた試料c、dとは明らかに異なっており、図6に示した試料4〜6(pH6〜8)の水分散液に近い。
【0063】
このことから、原料にベータキチンを用いることは必須であり、その結晶化度は90%以下であることが好ましい。そして、ハオリムシ由来の精製ベータキチンを原料とした試料bの状態と、図6に示した試料4〜6の状態との比較から、ハオリムシ由来の精製ベータキチンの結晶化度(99%)に対して、5%程度結晶化度が低ければ、十分にナノファイバー化が可能であると推定される。したがって、本発明に係る製造方法では、結晶化度が少なくとも90%以下の精製ベータキチンを原料とすることで、所望のベータキチンナノファイバーを得られるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】キチン中のN−アセチルグルコサミン及びグルコサミン成分の化学構造を示す図。
【図2】アルファキチン及びベータキチンのX線回折パターンを示すグラフ。
【図3】キチンミクロフィブリルの構造モデルを示す説明図。
【図4】グルコサミンへの荷電付与を模式的に示す作用説明図。
【図5】荷電付与したキチンミクロフィブリルの構造モデルを示す作用説明図。
【図6】実施例1に係る水分散液試料を示す写真。
【図7】実施例1に係るベータキチンナノファイバーの電子顕微鏡写真。
【図8】実施例2に係る水分散液試料を示す写真。
【図9】イカの腱とハオリムシ由来の精製ベータキチンのX線回折パターンを示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化度が90%以下の精製ベータキチンをpH5以下の酸性液体に浸漬する工程と、浸漬された前記ベータキチンを解繊処理する工程を有することを特徴とするベータキチンナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記精製ベータキチンが、イカの腱を精製して得られるベータキチンであることを特徴とする請求項1に記載のベータキチンナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記酸性液体として酸性水溶液を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のベータキチンナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
前記酸性液体として、食用に供される酸の水溶液を用いることを特徴とする請求項3に記載のベータキチンナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
前記解繊処理後の液体に含まれるベータキチンナノファイバーの平均長さが500ナノメートル以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のベータキチンナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
結晶化度が90%以下の精製ベータキチンを原料としてなり、幅が5ナノメートル以上50ナノメートル以下であることを特徴とするベータキチンナノファイバー。
【請求項7】
N−アセチル化度が60%以上98%以下のベータキチンからなり、幅が5ナノメートル以上50ナノメートル以下であることを特徴とするベータキチンナノファイバー。
【請求項8】
長さが500ナノメートル以上であることを特徴とする請求項6又は7に記載のベータキチンナノファイバー。
【請求項9】
長さが700ナノメートル以上であることを特徴とする請求項6又は7に記載のベータキチンナノファイバー。
【請求項10】
結晶化度が90%以下の精製ベータキチンを原料としてなり、幅が5ナノメートル以上50ナノメートル以下であるベータキチンナノファイバーを液体に分散させていることを特徴とするベータキチンナノファイバー分散液。
【請求項11】
N−アセチル化度が60%以上98%以下のベータキチンからなり、幅が5ナノメートル以上50ナノメートル以下であるベータキチンナノファイバーを液体に分散させていることを特徴とするベータキチンナノファイバー分散液。
【請求項12】
液体中に分散された前記ベータキチンナノファイバーの平均長さが500ナノメートル以上であることを特徴とする請求項10又は11に記載のベータキチンナノファイバー分散液。
【請求項13】
前記液体が水又は酸性水溶液であることを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載のベータキチンナノファイバー分散液。
【請求項14】
請求項6から9のいずれか1項に記載のベータキチンナノファイバーを含むことを特徴とするナノフィブリル構造体。
【請求項15】
請求項10から13のいずれか1項に記載のベータキチンナノファイバー分散液から、乾燥処理により前記液体を除去して得られることを特徴とするナノフィブリル構造体。
【請求項16】
請求項10から13のいずれか1項に記載のベータキチンナノファイバー分散液から、凍結乾燥処理により前記液体を除去して得られることを特徴とするナノフィブリル構造体。
【請求項17】
請求項6から9のいずれか1項に記載のベータキチンナノファイバーに有機物を混合あるいは結合させたことを特徴とするキチン複合体。
【請求項18】
請求項6から9のいずれか1項に記載のベータキチンナノファイバーに無機物を混合あるいは結合させたことを特徴とするキチン複合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−102782(P2009−102782A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277923(P2007−277923)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】