説明

ベーンポンプ

【課題】ロータを高速回転させたときでも吐出流量を十分に確保することができるベーンポンプを提供する。
【解決手段】ベーンポンプ10のポンプハウジングに、流体吐出路22から吐出した作動流体の一部を流体吸入路20に戻すリターン流路24を流体吸入路20に直線状に連通して形成し、リターン流路24に、流体吸入路20に向かって流路径が細くなるように絞り部25を形成し、絞り部25の下流側の孔径を流体吸入路20の上流側の孔径よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、駆動軸と一体になって回転するロータに、その径方向に進退可能なベーンが放射状に配置され、このベーン間の容積が回転中に増減することで、作動流体を貯留する貯留タンクからポンプハウジングの吸入路に作動流体を吸い込んで吐出路から吐出するようにしたベーンポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなベーンポンプでは、ロータの回転数を上げると、それに比例して吐出量が増加するようになっている。
【特許文献1】特開平7−91379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のベーンポンプでは、ロータが所定の回転数以上(例えば、3500rpm以上)で回転すると、作動流体の吸入動作が追いつかなくなり、回転数に比例して吐出流量が増加しないおそれがある。この場合には、作動流体の吸入不足によるキャビテーションが発生して、壊食、騒音、振動等の様々な問題が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロータを高速回転させたときでも吐出流量を十分に確保することができるベーンポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するため、本発明は、流体吐出路から吐出した作動流体の一部を流体吸入路に戻し且つ絞り部を有するリターン流路を設けるようにした。
【0007】
具体的に、本発明は、流体吸入路及び流体吐出路を有するポンプハウジングと、前記ポンプハウジング内に設けられ、内周面にカム面を有するカムリングと、前記カムリング内に設けられ、回転駆動されるロータと、前記ロータの外周部にその径方向に進退可能に設けられ、径方向の外側端部が前記カムリングの内周面に摺接しながらロータとともに回転する複数のベーンとを備えたベーンポンプを対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0008】
すなわち、請求項1の発明は、前記ポンプハウジングは、前記流体吸入路に連通して外部から該流体吸入路に作動流体を供給する流体供給路と、前記流体吐出路から吐出した作動流体の一部を該流体吸入路に戻すリターン流路とを有し、
前記リターン流路は、前記流体吸入路に直線状に連通され、該流体吸入路に向かって流路径が細くなるように形成された絞り部を有し、
前記絞り部の下流側の孔径は、前記流体吸入路の上流側の孔径よりも小さく形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1において、
前記流体供給路は、前記流体吸入路の流路方向と直交して連通されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項3の発明は、請求項2において、
前記リターン流路の絞り部は、前記流体供給路と前記流体吸入路との合流位置の近傍に形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項4の発明は、請求項1乃至3のうち何れか1項において、
前記絞り部は、上流側の孔径をD1[mm]、下流側の孔径をD2[mm]としたときに、0.5≦D2/D1≦0.8を満たすように形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、ポンプハウジングの流体吸入路にリターン流路を直線状に連通し、このリターン流路に流体吸入路に向かって流路径が細くなるように絞り部を形成したから、リターン流路の絞り部を作動流体が通過する際に、作動流体の流速が増加して流体吸入路内の圧力が下がる。このため、外部のタンク等から流体供給路を介して供給される作動流体が流体吸入路内に吸い込まれやすくなって吸い込み効率が高まり、ポンプハウジングのポンプ室内に作動流体を十分に供給でき、ロータを高速回転させたときでもポンプの吐出流量を十分に確保することができる。これにより、作動流体の吸入不足によるキャビテーションの発生を抑え、壊食、騒音、振動等の様々な問題を解消することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、流体吸入路の流路方向と直交して流体供給路を連通したから、リターン流路から流体吸入路に流入する作動流体の流れを妨げることなく、流体吸入路内の作動流体の流速を効率的に増加することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、流体供給路と流体吸入路との合流位置の近傍にリターン流路の絞り部を形成したから、リターン流路の絞り部で作動流体の流速が増加して流体吸入路内の圧力が下げられ、その圧力低下に起因して流体供給路から流体吸入路に吸入される作動流体の流量が増加する。これにより、より効率的に作動流体の吸入を行うことができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、リターン流路の絞り部を、上流側の孔径をD1[mm]、下流側の孔径をD2[mm]としたときに、0.5≦D2/D1≦0.8を満たすように形成したから、リターン流路から流体吸入路に流入する際の作動流体の流速をより効率的に増加できる絞り率に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0017】
<ベーンポンプの構成>
図1は本発明の実施形態に係るベーンポンプの構成を示す正面図、図2は図1のII−II線断面図、図3は図1のIII−III線断面図である。
【0018】
図1〜図3に示すように、このベーンポンプ10は、流体吸入路20及び流体吐出路22を有するポンプハウジング11と、該ポンプハウジング11内に設けられ内周面にカム面を有するカムリング26と、該カムリング26内に設けられ回転駆動されるロータ34とを備えている。
【0019】
前記ポンプハウジング11には、外部から供給される作動流体をカムリング26内まで流通する流体吸入路20と、カムリング26内から送り出された作動流体を外部に吐出する流体吐出路22と、流体吸入路20の流路方向と直交して流体吸入路20に連通し外部から流体吸入路20に作動流体を供給する流体供給路23と、流体吐出路22から吐出した作動流体の一部を流体吸入路20に戻すリターン流路24とが形成されている。
【0020】
前記リターン流路24は、流体吸入路20に直線状に連通され、流体吸入路20に向かって流路径が細くなるように形成された絞り部25を有している。そして、絞り部25の下流側の孔径は、流体吸入路20の上流側の孔径よりも小さく形成されている。また、絞り部25は、流体供給路23と流体吸入路20との合流位置の近傍に形成されているから、リターン流路24の絞り部25を作動流体が通過する際に、作動流体の流速が増加して流体吸入路20内の圧力が下がり、その圧力低下に起因して流体供給路23から流体吸入路20に吸入される作動流体の流量が増加する。これにより、より効率的に作動流体の吸入を行うことができる。
【0021】
なお、前記絞り部25は、上流側の孔径をD1[mm]、下流側の孔径D2[mm]としたときに、0.5≦D2/D1≦0.8を満たすように形成すれば、リターン流路24から流体吸入路20に流通する際の作動流体の流速をより効率的に増加できる絞り率に設定することができる。
【0022】
また、前記絞り部25は、リターン流路24の流路方向の一部領域又は全領域にわたって形成されているものとする。また、流体吸入路20においてリターン流路24と連通して直線状に延びる区間は、流体吸入路20の上流側の孔径、すなわち、絞り部25の下流側の孔径よりも大きな孔径で形成されているものとする。
【0023】
前記ロータ34は、カムリング26の内部に設けられており、ポンプハウジング11に回動可能に軸支され図示しない駆動源に連結されたポンプシャフト16と一体に回転するように連結されている。そして、ロータ34の外周部には、径方向に進退可能に設けられ、径方向の外側端部がカムリング26の内周面のカム面に摺接しながらロータ34とともに回転する複数のベーン40が等間隔で配置されている。各ベーン40は径方向に個別に進退可能となっており、図示しない付勢手段により径方向外側に突き出され、その外側端面がカムリング26の内周面のカム面に摺接するようになっている。
【0024】
前記ロータ34,ベーン40,カムリング26等は、ポンプハウジング11に設けられたポンプ室53に収容されている。このポンプ室53の上部には流体吸入路20の下流端が連通されて作動流体が供給され、ポンプ室53の下部には流体吐出路22の上流端が連通されて作動流体が外部に吐出されるようになっている。
【0025】
<ベーンポンプの運転動作>
次に、ベーンポンプ10の運転動作について説明する。図4は作動流体の流通経路を示す配管系統図である。
【0026】
まず、カムリング26内でポンプシャフト16と一体にロータ34が回転駆動されると、このカムリング26内に流体供給路23及び流体吸入路20を通じて作動流体が吸入され、この作動流体は加圧された後に流体吐出路22を通じてポンプハウジング11外に吐出される。
【0027】
そして、吐出された作動流体は、流体吐出路22に接続された吐出側配管41を流通して、作動流体を供給すべきトランスミッションユニット等の供給対象ユニット50に供給された後、吸入側配管42を流通して再びベーンポンプ10の流体吸入路20に流入する。
【0028】
このような運転時において、例えば、ベーンポンプ10からの吐出流量が所定量以上となった場合には、吐出側配管41の管路途中に一端が接続されたリターン配管43に設けられた流量制御弁45を開き、吐出側配管41を流通する作動流体の一部をリターン配管43側に流通させる。すなわち、吐出流量Q[L]、供給対象ユニット50に供給される吐出流量Qu[L]とすると、リターン配管43側に流通する作動流体のリターン流量ΔQ[L]は、ΔQ=Q−Quとなる。
【0029】
前記リターン配管43の他端は、ポンプハウジング11のリターン流路24に接続されており、リターン流路24を流通する作動流体は絞り部25を通過する際にその流速が増加して流体吸入路20に流入する。
【0030】
このとき、リターン流路24から流体吸入路20に流入した作動流体は、流速が増大しているため、流体吸入路20内の圧力が下がることとなる。そのため、流体供給路23から流体吸入路20に供給される作動流体は、流体吸入路20内に吸い込まれやすくなって吸い込み効率が高まる。
【0031】
図5は、本発明のベーンポンプと、リターン流路に絞り部を設けていない従来のベーンポンプとにおけるロータの回転数と吐出流量との関係を示すグラフ図である。図5において実線51は本発明のベーンポンプ、一点鎖線52は従来のベーンポンプを示している。
【0032】
図5に示すように、従来のベーンポンプを示す一点鎖線52では、ロータ34の低回転領域においては回転数に比例して吐出流量が大きくなっているが、所定の回転数以上となった高回転領域においては吐出流量がそれ以上増大せず、所定の流量に収束していることが分かる
一方、本発明のベーンポンプ10を示す実線51では、ロータ34が所定の回転数以上となった高回転領域においても、回転数に比例して吐出流量が増大していることが分かる。
【0033】
以上のように、本発明の実施形態に係るベーンポンプ10によれば、ポンプハウジング11の流体吸入路20にリターン流路24を直線状に連通し、このリターン流路24に流体吸入路20に向かって流路径が細くなるように絞り部25を形成したから、リターン流路24の絞り部25を作動流体が流通する際に、作動流体の流速が増加して流体吸入路20内の圧力が下がる。このため、外部のタンク等から流体供給路23を介して供給される作動流体が流体吸入路20内に吸い込まれやすくなって吸い込み効率が高まり、ポンプハウジング11のポンプ室53内に作動流体を十分に供給でき、ロータ34を高速回転させたときでもベーンポンプ10の吐出流量を十分に確保することができる。これにより、作動流体の吸入不足によるキャビテーションの発生を抑え、壊食、騒音、振動等の様々な問題を解消することができる。
【0034】
また、流体吸入路20の流路方向と直交して流体供給路23を連通したから、リターン流路24から流体吸入路20に流入する作動流体の流れを妨げることなく、流体吸入路20内の作動流体の流速を効率的に増加することができる。
【0035】
また、流体供給路23と流体吸入路20との合流位置の近傍にリターン流路24の絞り部25を形成したから、リターン流路24の絞り部25で作動流体の流速が増加して流体吸入路20内の圧力が下げられ、その圧力低下に起因して流体供給路23から流体吸入路20に吸入される作動流体の流量が増加する。これにより、より効率的に作動流体の吸入を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように、本発明は、ロータを高速回転させたときでも吐出流量を十分に確保することができるベーンポンプを提供することができるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係るベーンポンプの構成を示す正面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】作動流体の流通経路を示す配管系統図である。
【図5】本発明のベーンポンプと従来のベーンポンプとにおけるロータの回転数と吐出流量との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0038】
10 ベーンポンプ
11 ポンプハウジング
16 ポンプシャフト
20 流体吸入路
22 流体吐出路
23 流体供給路
24 リターン流路
25 絞り部
26 カムリング
34 ロータ
40 ベーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体吸入路及び流体吐出路を有するポンプハウジングと、
前記ポンプハウジング内に設けられ、内周面にカム面を有するカムリングと、
前記カムリング内に設けられ、回転駆動されるロータと、
前記ロータの外周部にその径方向に進退可能に設けられ、径方向の外側端部が前記カムリングの内周面に摺接しながらロータとともに回転する複数のベーンとを備えたベーンポンプであって、
前記ポンプハウジングは、前記流体吸入路に連通して外部から該流体吸入路に作動流体を供給する流体供給路と、前記流体吐出路から吐出した作動流体の一部を該流体吸入路に戻すリターン流路とを有し、
前記リターン流路は、前記流体吸入路に直線状に連通され、該流体吸入路に向かって流路径が細くなるように形成された絞り部を有し、
前記絞り部の下流側の孔径は、前記流体吸入路の上流側の孔径よりも小さく形成されていることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
請求項1において、
前記流体供給路は、前記流体吸入路の流路方向と直交して連通されていることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項3】
請求項2において、
前記リターン流路の絞り部は、前記流体供給路と前記流体吸入路との合流位置の近傍に形成されていることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項4】
請求項1乃至3のうち何れか1項において、
前記絞り部は、上流側の孔径をD1[mm]、下流側の孔径をD2[mm]としたときに、0.5≦D2/D1≦0.8を満たすように形成されていることを特徴とするベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−248833(P2008−248833A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92733(P2007−92733)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】