説明

ペリクル収納容器

【課題】 輸送中の発塵が極めて少なく、収納したペリクルが清浄に保たれる大型のペリクルを収納するペリクル収納容器を提供する。
【解決手段】 少なくともひとつの辺長が1000mmを超えるペリクルを収納する大型のペリクル収納容器であって、ペリクル収納容器本体は金属製であるとともに、周縁で載置・固定する蓋体が接触する該ペリクル収納容器の表面に、保護部材が設けられ、ペリクル収納容器本体と蓋体とは該保護部材を介して載置・固定することを特徴とする。前記保護部材は、少なくとも2層からなっており、その蓋体と接する層(上層)は樹脂であり、ペリクル収納容器本体と接する層(下層)はシリコーン粘着剤であることが好ましく、中間層として弾性体層を有することがさらに好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板あるいは液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミよけとして使用される、リソグラフィー用ペリクルに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIなどの半導体デバイス或いは液晶ディスプレイなどの製造においては、半導体ウエハー或いは液晶用ガラス原板に光を照射してパターンを作製するが、この時に用いるフォトマスクあるいはレチクル(以下、単にフォトマスクと記述する)にゴミが付着していると、このゴミが光を遮ったり、曲げたりしてしまうために、転写したパターンが損なわれるという問題があった。
【0003】
このため、これらの作業は、通常、クリーンルーム内で行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つ事が難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミよけとして、ペリクルを貼付する方法が取られている。
この場合、異物はフォトマスクの表面上には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
このペリクルは、通常、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロースあるいはフッ素系樹脂などからなる透明なペリクル膜をアルミニウム、ステンレス、ポリエチレンなどからなるペリクルフレームの上端面にペリクル膜の良溶媒を塗布し、風乾して接着するか、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等の接着剤で接着し、更に、ペリクルフレームの下端には、フォトマスクに装着するためのポリブデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂等からなる粘着層、及び粘着層の保護を目的とした離型層(セパレータ)が設けられる。
【0005】
また、ペリクルをフォトマスクに貼り付けた状態において、ペリクル内部に囲まれた空間と外部との気圧差をなくすことを目的として、ペリクルフレームの一部に気圧調整用の小孔を開け、小孔を通じて移動する空気からの異物侵入を防ぐためのフィルターが設置されることもある。
【0006】
近年、液晶ディスプレイの大型化に伴うフォトマスクの大型化により、ペリクルも著しく大型化してきており、当然、それに伴いペリクルの収納容器も大型になる。
従来、ペリクル収納容器は、コストが低いこと、軽量であること、一体成形が可能なこと、形状の自由度が高いこと、などの理由から、真空成形あるいは接着接合による樹脂製のものが用いられてきた。
しかしながら、大型化した場合、収納物の重量が増大することに加え、外力に対する変形量が大きくなるため、収納容器内での収納物あるいは収納容器自体に移動や擦れが生じる。
【0007】
そのため、容器内での発塵を防ぐためには、収納容器の剛性を高くする必要がある。剛性を高める方法としては、従来の樹脂製のペリクル収納容器の外側に補強体を取り付ける方法などが知られている(特許文献1参照)。
しかし、この方法は補強体の組み付けに多くの工数が必要となるため、この他に、アルミニウム合金、マグネシウム合金、あるいは鉄鋼などをプレス成型あるいは鋳造した金属製のペリクル収納容器ないし補強体も提案されてきている。
【0008】
これらの金属製のペリクル収納容器は、重量が重くなるという問題はあるものの、必要な剛性が確保でき、補強体を取り付ける工数まで考慮すると樹脂製と同等のコストとなるため、特にペリクルの辺長が1000mmを超えるような、特に大型の品種については、採用される例が出てきている。
しかしながら、ペリクル収納容器本体に金属製のものを採用した場合にも、樹脂製の場合と同様、輸送中の発塵が問題となっている。発塵原因を調査したところ、発塵は主としてペリクル収納容器本体と蓋体の接触部で生じていることがわかった。
【0009】
金属製のペリクル収納容器本体は、洗浄性向上のための表面の平滑化、腐食防止、異物視認性向上のための黒色化といった理由から、酸化皮膜、めっき、塗装などの表面処理を施して使用される。
一方、ペリクル収納容器本体と組み合わされる蓋体は、アルミニウム合金あるいはマグネシウム合金などの薄板をプレス成型した金属製か、あるいは、PC、PMMA、ABSなどの樹脂を真空成型したものが用いられる。樹脂製のものは表面が平滑なためそのまま用いられるが、金属製のものについては、これら蓋体もペリクル収納容器本体と同様の表面処理を施して用いられる。
【0010】
輸送中の発塵は、蓋体が樹脂製であっても、金属製であっても、同様に見られる。ペリクル収納容器の撓み、変形による擦れを防止するために剛性を高めているにもかかわらず、ペリクル収納容器本体と蓋体の間ではいくらかの擦れが生じているということであり、また、相互の表面を平滑に処理しているにもかかわらず、発塵を完全には防止できていないということである。
【0011】
これは、ペリクル収納容器の剛性をさらに高めれば解決できる可能性がある。しかしながら、剛性向上のためにさらに重量が増加する可能性があり、取り扱い可能な重量を考慮すると、際限なく剛性を高めるわけにはいかないため、完全に撓み、変形を防止することは不可能である。
以上のことから、金属製のペリクル収納容器本体を用いたペリクル収納容器において、発塵の少ないペリクル収納容器は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−037269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたもので、少なくともひとつの辺長が1000mmを超えるような大型のペリクルを収納するペリクル収納容器において、輸送中の発塵が極めて少なく、収納したペリクルが清浄に保たれるペリクル収納容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のペリクル収納容器は、少なくともひとつの辺長が1000mmを超えるペリクルを収納する大型のペリクル収納容器であって、ペリクル収納容器本体は金属製であるとともに、周縁で載置・固定する蓋体が接触する該ペリクル収納容器の表面に、保護部材が設けられ、ペリクル収納容器本体と蓋体とは該保護部材を介して載置・固定することを特徴とする。前記保護部材は、少なくとも2層からなっており、その蓋体と接する層は樹脂であり、ペリクル収納容器本体と接する層はシリコーン粘着剤であることが好ましく、また、前記保護部材は、少なくとも3層からなっており、その蓋体と接する層は樹脂、ペリクル収納容器本体と接する層はシリコーン粘着剤であるとともに、その中間層は弾性体であることが好ましい。そして、前記保護部材中の弾性体は、シリコーン樹脂であることが好ましい。
さらに、前記保護部材の蓋体と接する層は、PETであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、辺長が1000mmを超えるような大型のペリクルを収納するペリクル収納容器においても、収納容器本体と蓋体との直接接触を回避することができ、輸送中の発塵が極めて少なく、収納したペリクルが清浄に保たれるペリクル収納容器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態を示す平面図である。
【図2】本発明の実施の形態を示す正面図である。
【図3】本発明の実施の形態を示す右側面図である。
【図4】本発明の実施の形態を示す図1中のAA線断面図である。
【図5】本発明で用いる保護部材の一実施の形態を示す断面概略図である。
【図6】本発明で用いる保護部材の他の実施の形態を示す断面概略図である。
【図7】本発明で用いる保護部材の更に他の実施の形態を示す断面概略図である。
【図8】本発明の保護部材の配置の一実施の形態である全体に配置した例を示す概略図である。
【図9】本発明の保護部材の配置の他の実施の形態である角の接続部に間隙を設けた例を示す概略図である。
【図10】本発明の保護部材の配置の更に他の実施の形態である間欠配置とした例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
請求項1に規定する本発明は、少なくともひとつの辺長が1000mmを超えるペリクルを収納する大型のペリクル収納容器であって、ペリクル収納容器本体は金属製であるとともに、該ペリクル収納容器と周縁で載置・固定する蓋体が接触する表面に、保護部材が設けられ、ペリクル収納容器本体と蓋体は保護部材を介して載置・固定することを特徴とするペリクル収納容器である。金属製のペリクル収納容器本体と蓋体の直接接触がなくなり、発塵量を大きく低減することができる。
【0018】
ここで、上記保護部材は少なくとも2層からなっており、その蓋体と接する層は樹脂であり、ペリクル収納容器本体と接する層、すなわちペリクル収納容器に取り付けられる層はシリコーン粘着剤であることが好ましい。蓋体と接する層を樹脂とすることで、蓋体との擦れによる発塵量を低減することができる。
また、ペリクル収納容器本体と接する層にシリコーン粘着剤を用いると、接着強度が高いうえに、経時変化や温度等の環境変化による接着力の劣化がきわめて少なく安定しており、接着強度に対する信頼性が高く好適である。また、化学的に分解して内部のペリクルを汚染する恐れが小さいという利点もある。さらに、この保護部材を交換する際には、残渣が残ることなく剥離することができ、洗浄、再取付けが容易となる。
【0019】
また、さらに好ましくは、上記保護部材は少なくとも3層からなっており、その蓋体と接する層は樹脂、ペリクル収納容器本体と接する層はシリコーン粘着剤であるとともに、その中間層は弾性体であることが好ましい。弾性体の緩衝効果により、さらに発塵防止を図ることができる。
この弾性体としては、特にシリコーン樹脂を用いることが良い。ここで言うシリコーン樹脂とは、シリコーンゴムあるいはシリコーンゲル等の弾性体を指す。薄い場合でも緩衝性能が高く、特に効果が高い。
また、蓋体と接する樹脂は、PETであることが好ましい。表面硬度が高く発塵しにくいうえ、様々な材質に対して摩擦係数が低く化学的にも安定しており、特に好適である。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1、図2、図3に本発明の実施の形態であるペリクル収納容器10の外観を示す。図1は平面図、図2は正面図、図3は右側面図である。
10で、ペリクル収納容器の全体を表すこととし、ペリクル収納容器本体11は、アルミニウム合金、マグネシウム合金などの軽合金を鋳造するか、あるいは、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ステンレス鋼あるいは炭素鋼などの薄板をプレス成型して製作される。このとき、この材質は必ずしも単一の材質だけで形成されていなくても良く、補強などの目的から、2種類以上の金属・合金を組み合わせて使用しても良い。
【0021】
このペリクル収納容器本体11と載置・固定して用いられる蓋体12は、金属の薄板をプレス成型したものか、樹脂板を真空成型あるいは圧空成型して用いる。好ましくは、内部の視認性を確保するために、透明あるいは半透明のPMMA、PC、ABSなどの樹脂板を真空成型して用いることが良く、特に好ましくは、帯電防止性能を有することが良い。
ペリクル収納容器本体11と蓋体12の間には、平板状の保護部材17が設けられる。なお、13は脚部、16はペリクル収納容器本体と蓋体とを締結するバックルである。
【0022】
図4に、図1のA−A線での断面概略図を示す。
保護部材17は、ペリクル収納容器本体11の外周部で、蓋体12が載置・固定し、接触する面に取り付けられる。また、18は内部に収納されたペリクルである。
図5〜7に、本発明の保護部材17の断面構造の例を示す。
図5に示す一実施の形態の保護部材17は2層構造になっており、上層21(保護層)、すなわち蓋体と接触する層は、樹脂で構成されることが好ましい。
上層21で使用される樹脂としては、例えば、PE、PET、PVC、PTFEなどのフィルム状に形成可能な樹脂を挙げることができるが、なかでも、PETが特に好ましい。表面硬度があり、摩擦係数が小さいため発塵しにくく、化学的にも安定しているという利点がある。また、安価であること、接着剤層22に使用可能な様々な接着剤、粘着剤に対して接着性が良いことも好ましい点である。
【0023】
下層(接着層)22、すなわちペリクル収納容器本体への接着剤層は、アクリル粘着剤、シリコーン粘着剤などの粘着剤、あるいはホットメルト接着剤、エポキシ接着剤、ゴム系接着剤などの接着剤で構成されることが好ましい。なかでも、特に好ましくは、シリコーン粘着剤である。
シリコーン粘着剤の場合には、接着力が強いだけでなく、経時変化や温度、湿度などの環境変化による粘着力の変化が少ないため、接着力に対する信頼性が高いという利点がある。
【0024】
また、化学的に安定で、分解などにより化学物質をペリクル収納容器内部に放出する恐れが少ない。さらには、保護部材17は、表面の汚れ、損傷が生じた場合には交換する必要があるが、その取り外しの際には、粘着剤が引きちぎれにくいため、ペリクル収納容器本体11上に残渣が残りにくく、洗浄が極めて容易であるという利点がある。その結果、保護部材17を容易に交換することができる。
【0025】
図6には、保護部材17の別の実施形態で、3層構造とした例を示す。この場合、上層(保護層)21は、上記2層構造の場合と同じく、樹脂、特にはPETなどで構成されることが好ましい。そして、下層(接着層)22も、同様にして、アクリル粘着剤、シリコーン粘着剤などの粘着剤、あるいはホットメルト接着剤、エポキシ接着剤、ゴム系接着剤などの接着剤で構成されることが好ましく、特には、シリコーン粘着剤を用いることが好ましい。そして、中間層(緩衝層)23は、樹脂発泡体、ゴムなどの弾性体を用いることが好ましい。
【0026】
図6に示す中間層23は、前述した2層構造のものよりもさらに緩衝性を向上させ、より発塵を低減する効果を得るためのものである。
発泡体としては、アクリル系、ウレタン系など様々なものを用いることができるが、このとき、独立気泡の発泡体となっていることが、洗浄時の洗浄水浸潤を防止することができ、好ましい。
また、ゴム系材料としては、ニトリルゴム、EPゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを利用することができるが、特には、シリコーンゴム、シリコーンゲルなどのシリコーン樹脂が好適である。発泡体でないため表面の清浄性に優れるほか、薄くても緩衝性能が高いこと、復元力が高くヘタリにくいこと、化学的に安定していること、という利点がある。
【0027】
中間層23(緩衝層)は、上層(保護層)21上にキャスティングするなどして直接形成できる場合はそれで良いが、材質によっては、別々に形成した上層(緩衝層)21と中間層(緩衝層)23を接合し、さらにそこに下層(接着層)を形成することもある。そのような場合は、上層21あるいは中間層23に接着剤または粘着剤を薄く塗布して接合することが必要となる。
【0028】
この接合後の断面は図7に示すようになり、上層21と中間層23の間に中間接着層24が挟まる構造となる。このとき、下層22は、少なくとも30μm、好ましくは50μm以上の厚みがあった方がペリクル収納容器本体との接着性向上の観点から良いが、中間接着層24は横方向に荷重が掛かった際の上層21の横ズレ防止の観点から、接着力を維持した上でできるだけ薄く、好ましくは30μm以下とするのが良い。
【0029】
また、別の方法としては、両面テープ状のものをラミネートして貼り合せることも可能である(図示しない)。その場合、全体の層数は5層あるいは6層以上にもなるが、両面テープ部分の材料厚さを出来るだけ薄くなるように考慮すれば、横荷重時の横ズレ等を防止することができ、実用に供することができる。
【0030】
図8、9および10は、ペリクル収納容器本体11上の保護部材17の配置形態を示した平面図で、図8は全周に配置した実施の形態、図9は全周で連続させず角部に間隙を作った実施の形態、図10は全周に間欠配置としたものである。
図1に示すように、蓋体12は、周縁部全体でペリクル収納容器本体11に載置・固定するようになっているため、ほぼ全域に保護部材が介在することで、何れの実施の形態の場合にも、発塵防止という所望の効果が得られる。間隙を設ける場合には、蓋体を開ける際にペリクル収納容器内へ外気が流入しやすくなるため、ペリクル収納容器内が負圧になって異物が巻き込まれる程度を緩和する効果が期待できる。
【0031】
保護部材17の接着力の安定性ならびに製作時の作業性等も考慮する必要があるため、ペリクル収納容器の大きさ、作業に掛かる工数を勘案して適宜配置を選択することが好ましい。間隙を設ける場合には、少なくともペリクル収納容器本体11に蓋体12を固定するバックル16で締結する部分には保護部材が設けられるよう配慮すべきである。
【実施例1】
【0032】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
図1、図2、図3に示すようなペリクル収納容器10を製作した。このペリクル収納容器の大きさは、外寸1950×1750×高さ190mm(脚部13を含まず)、重量はおよそ80kgである。
ペリクル収納容器本体11は、アルミニウム合金AC4Cを砂型鋳造した後、表面を研磨布で仕上げ、外周部ならびにペリクルが搭載される面についてフライス盤による切削加工を行った。機械加工が終了した後、表面の巣などの鋳造欠陥をパテで仕上げ、パテを自然乾燥して硬化し、導電性塗料を塗布し、オーブンで焼き付け乾燥を施した。
脚部13は、SUS304冷間圧延板を曲げ加工して製作したもので、ペリクル収納容器本体11の底面にボルト(図示しない)により取り付けられている。さらに、外面には取り扱いのためにアルミニウム合金製のハンドル14および蓋体12を固定するためのバックル16がボルト(図示しない)にて取り付けられている。
【0033】
このように完成したペリクル収納容器本体11の外縁部に保護部材17を取り付けた。保護部材17の製作工程は次の通りである。
幅500mm、厚さ180μmのPET製フィルム(商品名;ルミラー、東レ(株)製)に乾燥後の厚さが50μmとなるようにシリコーン粘着剤(商品名;KR3700、信越化学工業(株)製)をバーコーターにて塗布し、加熱してキュアさせた。
【0034】
このPETフィルムを離型紙と合わせながら直径75mmのPE製巻き芯に巻き取った後、幅20mmのテープ状になるよう裁断した。完成した保護部材17の断面構造は図5に示すとおりで、上層21はPET、下層22はシリコーン粘着剤である。
そして、ペリクル収納容器本体11の外周部をクリーニングし、気泡、異物が入らぬよう配慮しながらこの保護部材17をゴムローラーで圧着し、図9に示すような配置で貼り付けた。なお、角部における各保護部材間の継ぎ目は約20mmの間隙になるようにした。
【0035】
次に、厚さ3mmのPMMA板にエポキシ系の帯電防止塗装を施した後、真空成型し、蓋体12を製作した。その外周は、ペリクル収納容器本体の外周と同寸になるよう、NCルーターにて切削加工した。そして、外面に取り扱いのためにナイロン製のハンドル15をボルト(図示しない)にて取り付けた。
こうして完成したペリクル収納容器本体11と蓋体12をクラス10のクリーンルーム内に搬入し、界面活性剤と純水で良く洗浄した後、完全に乾燥させた。
この完成したペリクル収納容器10について、クリーンルーム内の照明を消灯し、集光ランプ(光量40万ルクス)を照射しながらペリクル収納容器本体および蓋体の内面側の異物検査を行い、付着異物がないことを確認した。
【0036】
次に、蓋体12を静かにペリクル収納容器本体11に嵌め合わせて被覆し、周縁部を粘着テープでシールするとともに、各辺に配置されたバックル16にて蓋体12とペリクル収納容器本体11を固定した。さらに、帯電防止PE製シート(図示しない)で全体を包装し、開口部はヒートシールにて密封した。その後、再びクリーンルームから搬出し、底部にクッション材を配置した梱包箱(図示しない)に収納した。そして、この梱包箱をトラック便で発送し、約1000kmの距離を走行させた。
【0037】
輸送が終了したペリクル収納容器10について、再び上記クリーンルーム内に搬入し、外面を純水にて拭き洗浄したのち、蓋体を開け、内部の発塵状況を確認した。クリーンルームの照明を消灯した状態で、蓋体とペリクル収納容器本体のそれぞれの内側面を集光ランプ(光量40万ルクス)にて照射しながら異物の付着状況を観察した。
【0038】
その結果、ペリクル収納容器本体11では、保護部材17の表面およびそのごく近傍に大きさ10〜50μm程度の異物4個の付着が見られた。一方、蓋体12では保護部材との接触部に大きさ10〜50μm程度の異物3個が発見された。これらの付着場所は保護部材17の周辺に限られており、ペリクルが搭載される内側の方には全く発見されなかった。また、保護部材の表面ならびに粘着層に損傷は全く見られなかった。
【0039】
[実施例2]
上記実施例1と全く同様にしてペリクル収納容器を製作した。ただし、ここで用いた保護部材の構造は図7に示すとおりで、上層21はPET(商品名:ルミラー 東レ(株)製)、中間接着層24はシリコーン粘着剤(厚さ20μm、商品名KR−3700、信越化学工業(株)製)、中間層23はシリコーンゴム(硬さデュロメータA31、商品名:KE−931−U 信越化学工業(株)製)、下層22はシリコーン粘着剤(厚さ50μm、商品名KR−3700、信越化学工業(株)製)である。
【0040】
このペリクル収納容器について、実施例1と同様にして輸送試験を行い、内部の発塵状況を確認した。その結果、ペリクル収納容器本体11については、50μm程度の異物3個の付着が見られた。また、蓋体については、10μm程度の異物1個の付着が見られた。実施例1と同様に、これらの付着場所は保護部材17の周辺に限られており、ペリクルが搭載される内側の方には全く発見されず、保護部材17にも特に損傷は見られなかった。
【0041】
[比較例]
上記実施例1、2と同様にしてペリクル収納容器本体11ならびに蓋体12を製作した。ただし、このペリクル収納容器本体11上には、保護部材17を取り付けていない。この保護部材17のないペリクル収納容器について、上記実施例と全く同様にして輸送試験を行い、内部の発塵状況を確認した。
すると、ペリクル収納容器本体上で大きさ10〜100μmの異物が数百個、蓋体上でも数十個の異物が見られた。これらの付着場所は、外周部だけでなく、内面全体に広がっていた。また、ペリクル収納容器本体11上には、蓋体12との接触により擦れた跡が所々に見られた。
【符号の説明】
【0042】
10 ペリクル収納容器(全体)
11 ペリクル収納容器本体
12 蓋体
13 脚部
14 ハンドル
15 ハンドル
16 バックル
17 保護部材
18 ペリクル
21 上層(保護層)
22 下層(接着層)
23 中間層(緩衝層)
24 中間接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともひとつの辺長が1000mmを超えるペリクルを収納する大型のペリクル収納容器であって、ペリクル収納容器本体は金属製であるとともに、載置・固定する蓋体が接触する該ペリクル収納容器の周縁部表面に、保護部材が設けられ、ペリクル収納容器本体と蓋体とは該保護部材を介して載置・固定することを特徴とするペリクル収納容器。
【請求項2】
前記保護部材は、少なくとも2層からなっており、その蓋体と接する層は樹脂であり、ペリクル収納容器本体と接する層はシリコーン粘着剤である請求項1に記載のペリクル収納容器。
【請求項3】
前記保護部材は、少なくとも3層からなっており、その蓋体と接する層は樹脂、ペリクル収納容器本体と接する層はシリコーン粘着剤であるとともに、その中間層は弾性体である請求項1に記載のペリクル収納容器。
【請求項4】
前記保護部材中の弾性体は、シリコーン樹脂である請求項3に記載のペリクル収納容器。
【請求項5】
前記保護部材の蓋体と接する層は、PETである請求項2ないし4の何れかに記載のペリクル収納容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−232388(P2011−232388A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99895(P2010−99895)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】