説明

ペロブスカイト型酸化物単結晶及びその製造方法、複合圧電材料、圧電振動子、超音波探触子、並びに、超音波診断装置

【課題】ペロブスカイト型酸化物の前駆体と種子単結晶との複合体を熱処理により前駆体に固相エピタキシーを生じさせて単結晶化することにより、所望の組成のペロブスカイト型酸化物単結晶を製造する方法を提供する。
【解決手段】種子単結晶基板上に、少なくとも一部がアモルファス状態であるペロブスカイト型酸化物の前駆体を堆積させて種子単結晶と前駆体の複合体を形成する工程S2と、複合体を熱処理することにより前駆体に固相エピタキシーを生じさせて酸化物単結晶とする工程S3とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型酸化物単結晶及びその製造方法に関し、さらに、製造されたペロブスカイト型酸化物単結晶を用いて構成される複合圧電材料、圧電振動子、超音波探触子、及び、超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム(BaTiO3)やジルコンチタン酸鉛(PZT:PbZrXTi1−X3)を始めとしたペロブスカイト型酸化物は、超音波探触子の圧電振動子に広く用いられている。特に、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN:PbMg1/3 Nb2/33)やニッケルニオブ酸鉛(PNN:PbNi1/3Nb2/33)などのリラクサと総称される複合ペロブスカイト化合物を固溶させた3成分系の圧電セラミックス材料は、その高い圧電定数から圧電振動子材料として広く用いられている。
【0003】
これらのリラクサ材料とチタン酸鉛からなるペロブスカイト型酸化物単結晶は、単結晶であるため1軸分極するので、圧電定数と電気機械結合係数が高く圧電振動子材料として注目されている。これらのペロブスカイト型酸化物単結晶を医療用や非破壊検査用の超音波圧電振動子材料として用いると、解像度や感度の著しい向上が可能である。
【0004】
前述のようなペロブスカイト型酸化物からなる単結晶を用いると、従来のリラクサ系圧電セラミックスと同等以上の比誘電率を有していることから、送受信回路とのマッチングが良好となる。更に、これらの単結晶は、音響インピーダンスがセラミックス材料に比較して小さくより人体に近いために、音響的なインピーダンスマッチングも容易である。
【0005】
超音波探触子としては、短冊状振動子を複数個配列したアレイ型が多用されている。各素子に印加する電圧パルスのタイミング制御により、超音波ビームの集束、走査等が行われる。医療用や非破壊検査用の超音波探触子においては、高解像度化の為に動作周波数がMHz領域であり、1つの短冊状振動子のサイズは、幅が100μm〜200μm程度で、高さは数100μm程度となる。
【0006】
このような短冊状振動子においては、縦方向振動の電気機械結合係数が、棒状圧電体の電気機械結合係数:k33に比較して1割程度低下する。これは、前者が横方向の膨張及び収縮の拘束を受ける為である。短冊状振動子としたときの電気機械結合係数の低下を抑制するため、1つの振動子を棒状の圧電体と樹脂で複合化した構造、即ち、1−3コンポジットが提案されている。1−3コンポジットにおいては、前述の様に電気機械結合係数が大きいだけでなく、複合化される樹脂の音響インピーダンスが小さい為に振動子としての音響インピーダンスが更に低下し、音響的なインピーダンスマッチングも更に容易となる。
【0007】
酸化物単結晶は、溶融法により製造できる。しかし、溶融法には、酸化物は一般的に融点が高いので白金等の貴金属坩堝を使用するため製造コストが高く、単結晶育成時に不純物混入が避けられないという問題がある。また複合酸化物においては、一致溶融する組成は少なく、一致溶融する組成が使用できない場合には、融液から直接的に単結晶化して製品を得ることができない。そこで、フラックス法や、組成の異なる融液を利用したトップシードソルーショングロース法によって単結晶を育成しているのが現状である。しかしながら、このようにして作製した単結晶は大きな結晶にならないこと、単結晶の育成に時間がかかること、原料のロスが大きいことなどの問題も含んでいる。
【0008】
また、固相状態のまま酸化物単結晶を得る方法も知られている。これは、単結晶の前駆体として多結晶酸化物を用い、この多結晶酸化物を高温に保持したときに生じる異常粒成長を利用したものである。異常粒子のみを多結晶体中で成長させ続けると、溶融せずに単結晶を得ることができる。しかしながら、異常粒成長は全ての酸化物で生じるわけではなく、結晶構造に由来する金属元素の比率どおりの組成では全体が均一な粒成長を生じて異常粒成長が生じにくい為、単結晶を得ることが出来ない。これを回避するものとして、多結晶体と種子単結晶との界面で異常粒成長を誘導させる技術がある。例えば、非特許文献1には、チタン酸バリウムにおいて、BaTiO3のBa:Ti=1:1組成に対してTiを過剰とする組成とすることで多結晶体と種子単結晶との界面に異常粒成長を誘導させる技術が開示されている。
【0009】
また、種子単結晶と多結晶酸化物を接合しこれを高温に保持すると、種子単結晶上で多結晶酸化物の粒成長がエピタキシャル状に生じ単結晶化する。しかしながら、エピタキシャル成長は多結晶酸化物の粒成長との競争であり、多結晶部分の粒成長の進行に伴いエピタキシャル成長は停止する。これを回避するものとして、特許文献1は、単結晶と多結晶の接合界面に特定成分を介在させることにより異常粒成長を抑えて多結晶フェライトを単結晶化する方法を教示している。また、特許文献2は、多結晶体に構成成分を過剰に加えたり異常粒成長を促進する添加物を加えたりして、単結晶と多結晶の接合部では異常粒成長を促進し多結晶体内部では抑制する技術を開示している。
しかし、これらの方法では得られる単結晶組成も前駆体の組成を反映して一部の金属が過剰に存在する為、目的の組成と異なることになる。
【0010】
また、得られたペロブスカイト型酸化物単結晶を使って、圧電振動子の微細アレイや、更には個々の振動子について1−3コンポジット構造のような圧電酸化物構造体を、機械加工で作製するのは困難である。圧電酸化物は非常に脆く、機械加工時に小さなクラックが発生すると直ちに破壊してしまう。仮に加工ができたとしても、加工表面には加工時の応力を受けた加工変質層やマイクロクラック等が発生しており、圧電体本来の特性が引き出せない。
【特許文献1】特開平2−199094号公報
【特許文献2】特表2003−523919号公報
【非特許文献1】山本剛久(Takahisa Yamamoto)、外1名,"固相粒成長によるチタン酸バリウム単結晶の製造(Fabrication of Barium Titanate Single Crystals by Solid-State Grain Growth)",米国セラミックス学会誌("Journal of the American Ceramic Society"),1994年,第77巻,第4号,p.1107−1109
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ペロブスカイト型酸化物の前駆体と種子単結晶との複合体を、熱処理により前駆体に固相エピタキシーを生じさせて単結晶化することにより、所望の組成のペロブスカイト型酸化物単結晶を製造する方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、そのようなペロブスカイト型酸化物単結晶を用いる複合圧電材料、圧電振動子、超音波探触子、及び、超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係るペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法は、種子単結晶基板上に、少なくとも一部がアモルファス状態であるペロブスカイト型酸化物の前駆体を堆積させて種子単結晶と前駆体の複合体を形成する工程(a)と、該複合体を熱処理することにより前駆体に固相エピタキシーを生じさせて酸化物単結晶とする工程(b)とを具備する。なお、アモルファスとは、結晶状態でなく不定形の酸化物を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の1つの観点に係るペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法によれば、目的とする酸化物単結晶の組成の前駆体を用い、種子単結晶との界面に特定成分を介在させることなく、所望の組成を持った1mm程度の厚さの単結晶厚膜を得ることができる。機械加工等により前駆体を微細構造化した後に固相エピタキシーを生じさせるようにすれば、圧電単結晶を用いたアレイ型振動子や1−3コンポジットを経済的かつ容易に得ることができる。また、こうして形成された微細酸化物単結晶構造体は、樹脂と複合することにより高性能の複合圧電材料とすることができ、そのような複合圧電材料を用いて圧電振動子や超音波探触子を構成することができ、さらに、そのような超音波探触子を用いて超音波診断装置を構成することができる。
なお、ジルコニウム(Zr)を含む圧電酸化物は、溶融の際にジルコニウムが酸化ジルコニウムとして相分離するため溶融法では単結晶ができないことが知られているが、本発明のペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法は、Zrを含む圧電酸化物の単結晶化プロセスに適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は、本発明の1実施形態に係る、酸化物単結晶およびそれを使用する製品の製造方法を説明する流れ図である。
図1に示すステップS1において、アモルファス成分を含むペロブスカイト型酸化物の前駆体を生成する。酸化物前駆体としては、少なくとも一部がアモルファス状態であるものであって、たとえばアモルファスと微結晶の混合物などが好ましい。なお、結晶の粒子径が大きすぎると単結晶化が進まない。酸化物前駆体の単結晶化が円滑に進行するようにするためには、微結晶は、粒子径が5μm以下、特に2μm以下であることが好ましい。
【0015】
つぎに、種子単結晶基板に酸化物前駆体を結合して中間複合体とする(ステップS2)。アモルファスと微結晶の混合体において、アモルファスが微結晶酸化物の金属成分を含む化学液相溶液から生成したものであることが好ましい。化学液相の熱分解物であるアモルファスは微結晶と強固に密着している為に、単結晶化がより容易に生じるからである。
【0016】
種子単結晶基板は、目的とする酸化物単結晶と格子定数がほぼ等しいペロブスカイト型単結晶で形成された基板である。室温における格子定数の差が、酸化物結晶と種子単結晶の間で5%以下であることが好ましい。種子単結晶基板上に酸化物前駆体の単相微結晶粒子を所定の形状に堆積させて成形体を形成し、この成形体をゴム製の袋に密閉し冷間静水圧法(CIP)を用いて種子単結晶上に微結晶粒子を圧接して圧粉成形体とする。
【0017】
金属組成比率がペロブスカイト単相粉末と同じものになるように配合した化学液相溶液を、圧粉成形体に含浸させて溶剤成分を蒸発させ、さらに加熱して有機酸塩成分を熱分解することによりアモルファス酸化物とし、微結晶の周りにアモルファスが堆積した酸化物前駆体が種子単結晶基板上に接合した中間複合体が形成される。なお、前駆体と種子単結晶との中間複合体は、少なくとも一部がアモルファス状態であるペロブスカイト型酸化物の前駆体を種子単結晶基板上に接合することにより形成することもできる。
図2は、中間複合体の概念図である。種子単結晶基板1の上に、ペロブスカイト型酸化物の微結晶2が堆積しており、微結晶2の隙間をアモルファス酸化物3が埋めている。
【0018】
化学液相溶液には、各種金属元素の無機酸塩や有機酸塩、アルコキシド及びそれらの混合物を使用することができる。溶媒には、各種塩類に対して溶解度を有する適切な溶媒を用いることができる。化学液相溶液の金属組成は、酸化物の組成のとおりであっても良く、また、その後の焼結や単結晶化を助長する成分を含んでいても良い。なお、市販の有機酸塩溶液(例えば(株)高純度化学研究所のMOD材料)を用いることができる。
【0019】
化学液相溶液は、圧粉成形体を溶液中に浸漬したり、溶液を滴下したりする方法で含浸することができる。含浸を効果的に行う為には、真空を併用することが好ましい。含浸後溶液を気散させ、塩又はアルコキシドを熱分解する。乾燥温度と熱分解温度は、化学液相溶液の溶媒と塩にもよるが、それぞれ、50〜150℃と150〜500℃が好ましい。化学液相溶液の真空含浸・熱分解は、圧粉成形体部分にアモルファス酸化物が充填して飽和し、圧粉成形体に溶液が含浸しなくなるまで繰り返す。
【0020】
種子単結晶基板上に酸化物前駆体が接合した中間複合体を高温に保持することで、前駆体に固相エピタキシーを生じさせ、単結晶化する(ステップS3)。なお、酸化物前駆体の部分を機械加工によりあらかじめ微細構造化してから単結晶化してもよい。化学液相の熱分解物であるアモルファスは微結晶と強固に密着している為、化学液相由来のアモルファスを用いる前駆体は強度が高く加工性が良好となり、ダイシング等の機械加工で十分微細構造化できる。
【0021】
図3は、ダイシング等の機械加工で微細構造体を形成した後に単結晶化する工程を説明する工程図である。図3(a)に示すような、種子単結晶基板1の上にペロブスカイト型酸化物微結晶2とアモルファス酸化物3でできた前駆体が堆積して形成された中間複合体の前駆体部分2,3に、図3(b)に示すような、種子単結晶基板1の表面に達する程の細い溝4を刻むことにより、前駆体の微細構造体を形成する。これを熱処理して固相エピタキシーを生じさせ単結晶化することにより、図3(c)に示すような、単結晶5の構造体が形成される。たとえば、直交する方向にダイシングを使用すると、単結晶となって残る部分は、直立した断面が直角四辺形の柱が配列された微細列柱構造体になる。
【0022】
ステップS3で形成された、アスペクト比の大きな微細な柱が配列された微細列柱構造を有する単結晶構造体は、これら列柱間にエポキシ樹脂,ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸して硬化させ、複合圧電材料とすることができる(ステップS4)。ステップS4で得られた複合圧電材料は、研削して所定の厚さとし、両面に電極を形成して分極処理することにより振動子とする。
【0023】
図4は本実施形態に係る圧電振動子の例を示す斜視図である。複合圧電材料6の1面に共通電極7が形成され、他の面に短冊状の個別電極8が形成されている。個別電極8ごとに1個の独立した圧電振動子を形成する。電極は、金(Au)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)等の金属を、無電解メッキや真空蒸着やスパッタ等、一般的な金属コーティング法により表面に堆積して形成することができる。また電極の密着性を確保する為、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、チタン(Ti)等を中間層に用いても良い。分極処理は、絶縁油中で所定の電界を印加することにより行う。本手法で作製した微細列柱構造の複合体振動子は、1−3コンポジットと呼ばれる圧電振動子となる。複合圧電材料と電極を交互に積層することにより積層型振動子とすることもできる。
【0024】
図5は、本実施形態に係る複合圧電材料を用いた積層型圧電振動子の構造例を示す図である。図5に示すように、積層型圧電振動子は、複合圧電材料層41と、下部電極層42と、複数の複合圧電材料層41の間に交互に挿入された内部電極層43,44と、上部電極層45と、絶縁膜46と、側面電極47,48とを含んでおり、積層構造を有している。ここで、複数の複合圧電材料層41と複数の電極(少なくとも内部電極層43,44を含む)とによって、本発明の一実施形態に係る積層型圧電振動子が構成される。
【0025】
下部電極層42は、側面電極47に接続されていると共に、側面電極48から絶縁されている。上部電極層45は、側面電極48に接続されていると共に、側面電極47から絶縁されている。また、内部電極層43は、側面電極48に接続されていると共に、絶縁膜46によって側面電極47から絶縁されている。一方、内部電極層44は、側面電極47に接続されていると共に、絶縁膜46によって側面電極48から絶縁されている。超音波トランスデューサの複数の電極をこのように形成することにより、3層の複合圧電材料層41に電界を印加するための3組の電極が並列に接続される。なお、複合圧電材料層の層数は、3層に限らず、2層又は4層以上としても良い。
【0026】
このような積層型圧電振動子においては、対向する電極の面積が単相の素子よりも増加するので、電気的インピーダンスが低下する。従って、同じサイズの単相型圧電振動子と比較して、印加される電圧に対して効率良く動作する。具体的には、圧電体層をN層とすると、圧電体層の数は単層型圧電振動子のN倍となり、各圧電体層の厚さは単層の圧電振動子の1/N倍となるので、圧電振動子の電気インピーダンスは1/N倍となる。従って、圧電体層の積層数を増減させることにより、圧電振動子の電気的インピーダンスを調整できるので、駆動回路又は信号ケーブルとの電気的インピーダンスマッチングを図り易くなり、感度を向上させることができる。
【0027】
図6は超音波探触子の模式的な斜視図である。電極を分極処理して作製した1−3コンポジット9は、バッキング材10、音響整合層11、音響レンズ12と組み合わせて公知の方法を用いて配線することにより、超音波探触子とすることができる(ステップS5)。なお、超音波探触子には、複合圧電材料と電極を積層して構成した積層型圧電振動子を利用することもできる。
【0028】
さらに、作製した超音波探触子を組み込んだ超音波診断装置を製造することができる(ステップS10)。
図7は、本実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は、本実施形態に係る超音波探触子50と、超音波診断装置本体とによって構成される。超音波診断装置本体は、走査制御部51と、送信遅延パターン記憶部52と、送信制御部53と、駆動信号発生部54と、受信信号処理部61と、受信遅延パターン記憶部62と、受信制御部63と、Bモード画像生成部64と、D/A変換器65と、表示部66と、制御部67と、操作部68と、格納部69とを有している。
【0029】
超音波探触子50は、1次元又は2次元のトランスデューサアレイを構成する複数の超音波トランスデューサ50aを備えている。それらの超音波トランスデューサ50aは、印加される駆動信号に基づいて超音波を送信すると共に、伝搬する超音波エコーを受信して受信信号を出力する。
【0030】
走査制御部51は、超音波ビームの送信方向及び超音波エコーの受信方向を順次設定する。送信遅延パターン記憶部52は、超音波ビームを形成する際に用いられる複数の送信遅延パターンを記憶している。送信制御部53は、走査制御部51において設定された送信方向に応じて、送信遅延パターン記憶部52に記憶されている複数の遅延パターンの中から所定のパターンを選択し、そのパターンに基づいて、複数の超音波トランスデューサ50aの駆動信号にそれぞれ与えられる遅延時間を設定する。あるいは、送信制御部53は、複数の超音波トランスデューサ50aから一度に送信される超音波が被検体の撮像領域全体に届くように遅延時間を設定しても良い。
【0031】
駆動信号発生部54は、例えば、複数の超音波トランスデューサ50aに対応する複数のパルサによって構成されている。駆動信号発生部54は、送信制御部53によって設定された遅延時間に従って、複数の超音波トランスデューサ50aから送信される超音波が超音波ビームを形成するように複数の駆動信号を超音波探触子50に供給し、又は、複数の超音波トランスデューサ50aから一度に送信される超音波が被検体の撮像領域全体に届くように複数の駆動信号を超音波探触子50に供給する。
【0032】
受信信号処理部61は、複数の超音波トランスデューサ50aに対応して、複数の増幅器(プリアンプ)61aと、複数のA/D変換器61bとを含んでいる。超音波トランスデューサ50aから出力される受信信号は、増幅器61aにおいて増幅され、増幅器61aから出力されるアナログの受信信号は、A/D変換器61bによってディジタルの受信信号に変換される。A/D変換器61bは、ディジタルの受信信号を、受信制御部63に出力する。
【0033】
受信遅延パターン記憶部62は、複数の超音波トランスデューサ50aから出力される複数の受信信号に対して受信フォーカス処理を行う際に用いられる複数の受信遅延パターンを記憶している。受信制御部63は、走査制御部51において設定された受信方向に基づいて、受信遅延パターン記憶部62に記憶されている複数の受信遅延パターンの中から所定のパターンを選択し、そのパターンに基づいて複数の受信信号に遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が形成される。
【0034】
Bモード画像生成部64は、受信制御部63によって形成された音線信号に基づいて、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。Bモード画像生成部64は、STC(sensitivity time control)部64aと、包括線検波部64bと、DSC(digital scan converter:ディジタル・スキャン・コンバータ)64cとを含んでいる。
【0035】
STC部64aは、受信制御部63によって形成された音線信号に対して、超音波の反射位置の深度に応じて、距離による減衰の補正を施す。包絡線検波部64bは、STC部64aにおいて補正が施された音線信号に対して包絡線検波処理を施すことにより、包絡線信号を生成する。DSC64cは、包絡線検波部64bによって生成された包絡線信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)し、階調処理等の必要な画像処理を施すことにより、Bモード画像信号を生成する。
【0036】
D/A変換器65は、Bモード画像生成部64から出力されるディジタルの画像信号を、アナログの画像信号に変換する。表示部66は、例えば、CRTやLCD等のディスプレイ装置を含んでおり、アナログの画像信号に基づいて診断画像を表示する。
【0037】
制御部67は、操作部68を用いたオペレータの操作に従って、走査制御部51、Bモード画像生成部64等を制御する。本実施形態においては、走査制御部51、送信制御部53、受信制御部63、Bモード画像生成部64、及び、制御部67が、CPUとソフトウェア(プログラム)によって構成されるが、これらをディジタル回路やアナログ回路で構成しても良い。ソフトウェア(プログラム)は、格納部69に格納される。格納部69における記録媒体としては、内蔵のハードディスクの他に、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、又は、DVD−ROM等を用いることができる。
【実施例1】
【0038】
本実施例は、本発明に係るペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法の1実施例である。本実施例では、種子単結晶体として市販のPMN−PT単結晶(0.7PMN−0.3PT組成(100)面)、単結晶体にする酸化物原料として0.7PMN−0.3PT組成のペロブスカイト単相粉末(平均粒径1μm)、及び有機酸塩溶液を使用した。有機酸塩溶液は、金属組成比率がペロブスカイト単相粉末と同じものになるように配合した。
【0039】
図8は、本実施例における加工手順を説明する概念的な流れ図である。はじめに、PMN−PT単結晶とペロブスカイト単相粉末をゴム製の袋に密閉し、200MPaの冷間静水圧(CIP)により、単結晶上にペロブスカイト単相粉末を圧着して、圧粉成形体とした(ステップS11)。さらに、袋から引き出した圧粉成形体のペロブスカイト単相粉末の部分に有機酸塩溶液を真空中で滴下し、溶液を真空含浸した(ステップS12)。
【0040】
溶液を含浸した圧粉成形体を120℃で乾燥することにより溶剤成分を蒸発させ、更に300℃で5分間の熱分解を行い、有機酸塩をアモルファス酸化物とした(ステップS13)。ステップS12とステップS13の処理を、有機酸塩溶液が含浸しなくなるまで繰り返して(ステップS14)、ペロブスカイト型酸化物の前駆体と種子単結晶との複合体を形成した。形成された酸化物前駆体と種子単結晶との複合体について、1250℃で5時間の熱処理を行ったところ(ステップS15)、0.7PMN−0.3PT組成の圧粉成形体部分は、種子単結晶界面部分から約2mmの厚さで単結晶化していた。
【実施例2】
【0041】
本実施例では、圧粉成形体の厚さを0.5mmとする他はステップS14まで実施例1と同じ処理を行って酸化物前駆体と種子単結晶との複合体を形成した。その後、複合体上の圧粉成形体の表面に、25μm厚さのブレードを用いてダイシング加工を行い、1辺が30μmで高さが200μmの四角柱をピッチ60μm(四角柱の間隔が30μm)で形成した。さらに、1300℃で5時間の熱処理を行ったところ、四角柱は表面部分まで単結晶化していた。
【実施例3】
【0042】
本実施例では、0.7PMN−0.3PT組成のペロブスカイト単相粉末の平均粒径が5μmであること以外は、実施例1と同じ処理を行ったところ、単結晶界面部分から約1mmの厚さで単結晶化していた。固相エピタキシャルの条件をより長時間若しくはより高温に変更すると、単結晶部分の厚さは変化せず、単結晶化していない部分の結晶粒子径の増大が認められた。
【0043】
(比較例1)
実施例1におけるステップS11で得られた圧粉成形体に対して、ステップS12、ステップS13、ステップS14の有機酸塩含浸処理を行わずに、直ちにステップS15と同じ熱処理を行ったところ、圧粉成形体部分の単結晶化は認められなかった。固相エピタキシャルの条件を1300℃に変更したところ、界面において部分的に単結晶化したものの、その厚さは最大で50μmであった。また、ステップS5の熱処理の前に実施例2と同様の機械加工を試みたが、加工中に微細柱構造は全て破壊した。
【0044】
(比較例2)
実施例1において使用した0.7PMN−0.3PT組成のペロブスカイト単相粉末のみを、CIP成型して1200℃で3時間の焼結を行った。得られた焼結体の結晶粒径は平均で3μmであった。焼結体の1面を鏡面研磨し、種子単結晶と重ね、密着性を維持する為に重りで100kPaの面圧を付加した状態で、1300℃で5時間の熱処理を行った。比較例1と同様、界面において部分的に単結晶化しているものの、単結晶の厚さは最大で50μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により、所望の組成を持ったペロブスカイト型酸化物単結晶や複合圧電材料を供給することができ、これらを用いて高性能の超音波探触子や超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の1実施形態に係る酸化物単結晶およびそれを使用する製品の製造方法を説明する流れ図である。
【図2】本実施形態に係る複合中間体の構成を説明する概念図である。
【図3】本実施形態において機械加工で微細構造体を形成してから単結晶化するまでの過程における形態を説明する工程図である。
【図4】本実施形態に係る圧電振動子の例を示す斜視図である。
【図5】本実施形態に係る積層型圧電振動子の構造例を示す図である。
【図6】本実施形態に係る超音波探触子の模式的な斜視図である。
【図7】本実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本実施形態の1実施例に係る加工手順を説明する流れ図である。
【符号の説明】
【0047】
1 種子単結晶基板
2 ペロブスカイト型酸化物の微結晶
3 アモルファス酸化物
4 溝
5 単結晶
6 複合圧電材料
7 共通電極
8 個別電極
9 複合材料
10 バッキング材
11 音響整合層
12 音響レンズ
41 複合圧電材料層
42 下部電極層
43,44 内部電極層
45 上部電極層
46 絶縁膜
47,48 側面電極
50 超音波探触子
51 走査制御部
52 送信遅延パターン記憶部
53 送信制御部
54 駆動信号発生部
61 受信信号処理部
62 受信遅延パターン記憶部
63 受信制御部
64 Bモード画像生成部
65 D/A変換器
66 表示部
67 制御部
68 操作部
69 格納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子単結晶基板上に、少なくとも一部がアモルファス状態であるペロブスカイト型酸化物の前駆体を堆積させて種子単結晶と前駆体の複合体を形成する工程(a)と、
該複合体を熱処理することにより前記前駆体に固相エピタキシーを生じさせて酸化物単結晶とする工程(b)と、
を具備するペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体が、アモルファス状態の部分に加えて前記ペロブスカイト型酸化物の微結晶を含む、請求項1記載のペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記微結晶の粒子径が5μm以下である、請求項2記載のペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体が、化学液相を微結晶粒子の成形体に含浸させて分解することにより製造されたアモルファスと微結晶との複合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載のペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法。
【請求項5】
工程(a)と工程(b)との間に、加工により前記前駆体を微細構造化する工程をさらに具備する、請求項1から4のいずれか一項に記載のペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記種子単結晶が、室温における格子定数が前記前駆体酸化物の結晶と5%以下の差であるペロブスカイト型結晶構造を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のペロブスカイト型酸化物単結晶の製造方法により製造されたペロブスカイト型酸化物単結晶。
【請求項8】
前記ペロブスカイト型酸化物単結晶が鉛(Pb)を含む、請求項7記載のペロブスカイト型酸化物単結晶。
【請求項9】
請求項7または8記載のペロブスカイト型酸化物単結晶と樹脂とを複合化して製造された複合圧電材料。
【請求項10】
請求項9記載の複合圧電材料の両端に電極が設けられた圧電振動子。
【請求項11】
複数の請求項9記載の複合圧電材料と電極とが交互に積層された圧電振動子。
【請求項12】
請求項10または11記載の圧電振動子を用いた超音波探触子。
【請求項13】
請求項12記載の超音波探触子を用いた超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−13325(P2010−13325A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175744(P2008−175744)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】