説明

ホウ素含有純チタン材および同純チタン材の製造方法

【課題】インゴットをβ相領域での鍛造や分塊圧延をすることなく、α相領域での熱間圧延で板材とすることができるホウ素含有純チタン材の製造方法、及びこの製造法で製造した、固体高分子型燃料電池または色素増感型太陽電池用のホウ素含有純チタン材を提供する。
【解決手段】スポンジチタンまたは純チタンスクラップにホウ素源を添加してチタン原料とし、チタン原料を真空アーク溶解炉または電子ビーム溶解炉にてインゴットとして溶製し、インゴットを熱間鍛造することなく、α相領域で直接熱間圧延するホウ素含有純チタン材の製造方法。また、化学成分が、ホウ素0.01wt%〜0.3wt%、酸素0.25wt%以下、窒素0.02wt%以下、不可避的不純物および残部がチタンであり、チタンのα相基質中にTiB相が分散しているホウ素含有純チタン材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有純チタン材およびその製法に係るもので、特に、溶製されたインゴットを熱間鍛造することなく直接圧延が可能なチタン材および固体高分子型燃料電池用セパレータおよび色素増感型太陽電池の導電層に適用可能なチタン材に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用純チタンインゴットは、β相領域で鋳塊に変形を与え(β−Upset)、次にβ相単相域で熱間鍛造処理を施す(β−Working)、という作業によって鋳造凝固組織の破壊がされている。β−Upsetとβ−Workingを併せて分塊作業(ingot breakdown)と呼んでいる。場合によっては、分塊作業は、分塊圧延と呼ばれる圧延機での加工、鍛造処理のようなプレスによる処理の場合もある。この処理によって、インゴット鋳造組織が破壊されるとともに、所定の角材または丸棒に形状を整えることが出来る。
【0003】
β相領域での分塊作業は、材料の表面酸化を引き起こし、α相領域での加工の前に、表面酸化膜を取り除く操作が必要となり、板材の製造コストアップの要因である。β相領域での分塊作業をすることなく、α相領域での加工(圧延、鍛造、押出等)をすると、インゴットは割れてしまうことが多い。これは、温度の低いα相領域では材料の変形抵抗が大きく、粗大なインゴット鋳造組織では変形応力に耐えられるだけの強さがないためである。
【0004】
β相領域で分塊作業をすると、次いでのα相領域での加工が可能となり、α相領域での加工を繰り返すことによって、α相の等軸化やα相の微細化が達成され、引っ張り強さと伸びのバランスがとれた機械的特性を示すようになる。
【0005】
特許文献1では、ホウ素(B)を0.01〜18.4wt%含有するTi−6Al−4V等のチタン合金を単一の熱加工処理によりきめ細かい微細構造が達成されると報告している。特許文献1では、単一の熱加工処理として具体的にはβ相領域での押出加工、β相領域での押出チャンバー内での圧縮加工の例が示されている。また、特許文献1には、CP−Tiも含まれるとしている。
【0006】
特許文献1で得られる効果は、超塑性加工が可能になることであり、CP−Tiについても、温度850℃、歪速度1.7×10−4(1/S)の条件で115%の超塑性伸びが報告されている。
【0007】
非特許文献1では、米国空軍研究所の活動として、加工性の改善と特性改善のためにチタン合金にBを添加、インゴットの鋳造組織が微細化されるために、β相領域での分塊作業なしで、α+β二相領域での加工熱処理が可能になることを紹介している。
【0008】
特許文献2では、燃料電池用セパレータは、燃料ガスまたは酸化性ガスを流通させるための流路を加工成形するために、圧下率0.3%〜5%未満の圧延加工を施すとしている。
【0009】
特許文献1で紹介されている方法は超塑性加工を可能とする微細組織を得ることが目的であり、インゴットそのものを直接α相領域で熱間加工する方法は開示されていない。
【0010】
非特許文献1で紹介されている方法は基本的にチタン合金への適用を念頭に置いており、純チタンへの適用は検討されていない。つまり、公知文献では、純チタンのインゴットそのものを直接α相領域で熱間加工する方法は、開示されていない。
【0011】
一方、特許文献2では、貴金属メッキされたTi基合金の燃料電池用セパレータが記載されている。燃料電池用セパレータでは、燃料ガスまたは酸化性ガスを流通させるための流路を加工成形する必要がある。しかし、チタン基合金の加工性が悪いことから、圧延の圧下率は0.3%以上、5%未満とされている。この加工性の悪さが、セパレータ用チタン基合金の製造を困難にしている。
【0012】
また、燃料電池用セパレータは、貴金属メッキが施されている。これはチタンの導電性が悪く、接触抵抗の大きいことを補うための処理であり、貴金属メッキ処理は、該セパレータの製造コストを押し上げる要因となっている。
【0013】
このようにチタン合金で構成された固体高分子型燃料電池用セパレータは、加工性が悪く、ガスや燃料の流路を形成させるために、例えば特許文献3に開示されているように、セパレータに加工の際に条件を詳細に特定する必要があり必ずしも汎用性のある技術までには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2007−519822号公報
【特許文献2】特開2003−234109号
【特許文献3】特開2004−058437号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】2006年度物質材料研究アウトルック(萩原益夫著、2006年発行、第365頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記したようにVAR炉(真空アーク溶解炉)やEB炉(電子ビーム溶解炉)で溶製されたインゴットを熱間鍛造することなく、直接圧延することができるようなチタン材の提供を目的とするものである。また、固体高分子型燃料電池セパレータや色素増感型太陽電池の半導体膜の製作時の加工条件を緩和することができるチタン材の提供も目的とするものである。更には、純チタン材に比べて、更に加工性の優れたチタン材の製法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる実情に鑑み前記課題について鋭意検討を進めてきたところ、純チタンにホウ素(B)を微量添加することにより、インゴットの結晶粒径が微細化し、β相領域での分塊作業や鍛造作業無しで、鋳造されたインゴットのままでα相領域での熱間加工が可能となることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明に係るホウ素含有純チタン材は、化学成分が、ホウ素0.01wt%〜0.3wt%、酸素0.25wt%以下、窒素0.02wt%以下、不可避的不純物および残部がチタンであり、チタンのα相基質中にTiB相が分散していることを特徴とするものである。
【0019】
本発明においては、TiB相からなる結晶の長さ1μm〜50μmの範囲、アスペクト比が3〜50であることを好ましい態様としている。
【0020】
本発明においては、ホウ素含有純チタン材が、純チタン材にホウ素源を添加してなるチタン原料を溶製してインゴットとした後、次いで、これを熱間鍛造することなく、これをα相領域で直接、熱間圧延されたものであることを好ましい態様とするものである。さらには、熱間圧延された後に、さらに、冷間圧延、焼鈍の工程を経たものであることを好ましい態様とするものである。
【0021】
本発明においては、ホウ素含有純チタン材を変態点以上に加熱してβ相を生成させた後、次いで、室温まで冷却中に、500℃以下まで冷却することにより、チタン中に固溶したTiB成分を、β結晶相をα結晶相に相転移させることで形成されたα相基質中にTiB相を分散析出させたものとすることにより製造されたことを好ましい態様としている。
【0022】
本発明においては、純チタン材が、スポンジチタンまたは純チタンスクラップであり、ホウ素源が、TiBまたは単体ホウ素であることを好ましい態様としている。
【0023】
本発明においては、インゴットが、純チタン材にホウ素源を添加してなるチタン原料を真空アーク溶解炉または電子ビーム溶解炉で溶製されたものであることを好ましい態様としている。
【0024】
本発明においては、ホウ素含有純チタン材が、燃料電池セパレータ用または色素増感型太陽電池用導電膜用であることを好ましい態様としている。
【0025】
また、本発明は、上記いずれかに記載のホウ素含有純チタン材の製造方法であって、スポンジチタンまたは純チタンスクラップにホウ素源を添加してチタン原料とし、チタン原料を真空アーク溶解炉または電子ビーム溶解炉にてインゴットとして溶製し、インゴットを熱間鍛造することなく、α相領域で直接熱間圧延することを特徴とするものである。
【0026】
本発明においては、ホウ素含有純チタン材中のホウ素の含有量を0.01wt%〜0.3wt%とすることを好ましい態様としている。
【発明の効果】
【0027】
以上述べた本発明に係る方法で製造されたホウ素含有純チタン材は、インゴットを分塊圧延や鍛造処理することなく、α相領域で熱間圧延加工できること、冷間での強加工が可能なこと、固体高分子型燃料電池用セパレータとしての流路加工が容易に出来ること、固体高分子型燃料電池用セパレータまたは色素増感型太陽電池用導電膜として高い導電性を有するという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】B添加量を0%、0.06%、0.14%と変えたホウ素含有純チタン材を600℃で47%圧延加工した後の材料側面の外観を示す写真である。
【図2】図1の材料の金属組織を示す顕微鏡写真である。
【図3】0%B、0.14%B添加材インゴットの圧縮試験片の外観を示す写真である。
【図4】0%B、0.14%B添加材インゴットの圧縮試験における応力―歪曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の最良の実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。
本発明は、出発原料を溶製して工業用チタン合金インゴットとし、このインゴットをα相領域で熱間圧延することを特徴とするものである。
【0030】
本発明に係るホウ素含有純チタン材は、ホウ素0.01wt%〜0.3wt%、酸素0.25wt%以下および、窒素0.02wt%以下、およびその他の不可避的不純物を含むα相を有し、前記α相の内部に、分散したTiB相を有していることを特徴とするものでる。
【0031】
本発明に係るホウ素含有純チタン材に含まれるホウ素はTi中のホウ素の固溶限が極めて小さいことから、TiBの析出相として存在する。TiB相は少量でも該純チタン材の特性に及ぼす影響が大きい。すなわち、ホウ素が、0.01wt%以上、0.3wt%以下である場合には、母相に含まれるTiB相がインゴット凝固組織の微細化に有効に作用し、そのためにβ相領域での分塊圧延や熱間鍛造をすることなく、α相領域での熱間圧延を可能にする。
【0032】
また、熱間圧延後の板材の主として旧β粒に沿って存在することで、結晶粒を微細化する。そのために、加工性が改善され、また、延性の劣化なく引張り強さの改善が可能となる。
【0033】
一方、ホウ素含有量が0.3wt%を超える場合には、組織の微細化効果、引張り強さ改善はみられるものの、延性が低下し、また、本発明に係るホウ素含有純チタン材の疲労破壊に至る応力が低下する傾向を示す。疲労強度が低下することは強度を要求されるチタン材にとっては致命的であり、よって、ホウ素含有量が0.3wt%を超えるのは好ましくない。ホウ素含有量が0.01%未満の場合は、TiBが効果的に析出することなく、よって、加工性の改善効果も発揮されない。よって本願発明においては、ホウ素含有量は、0.01〜0.3wt%の範囲が好ましいとされる。
【0034】
また、本発明に係るホウ素含有純チタン材は、酸素0.25wt%以下および、窒素0.02wt%以下であることが好ましい。このような範囲とすることで、ホウ素含有純チタン材の加工性を良好に維持することができるという効果を奏するものである。
【0035】
本発明に係るホウ素含有純チタン材は、母相を構成するα相結晶粒内及びα相の粒界にTiB相を有していることを好ましい態様とするものである。TiB相は、本願発明に係るホウ素含有純チタン材の溶湯が凝固される際に析出されるものであり、その形状は、針状あるいは棒状を呈する場合が多い。
【0036】
そのような場合、本発明においては、TiB相は長さが1μm〜50μm、アスペクト比3〜50の範囲が好ましいとされる。さらに好ましくは、長さが5μm〜30μm、アスペクト比5〜20とされる。前記のような大きさのTiB相をα相内に分散析出させておくことにより、以降の工程において、加工性を高めることができるという効果を奏するものである。
【0037】
このようなチタン材は、溶解原料と溶解手法を適切に選択することで製造することができる。
【0038】
また、本発明に係るホウ素含有純チタン材は、純チタン材にホウ素源を添加したチタン原料を溶製してインゴットとした後、これを熱間鍛造することなく、α相領域で直接、熱間圧延されたものであることを好ましい態様とするものである。
【0039】
即ち、本発明においては、ホウ素含有純チタン材は、溶製された段階で既に結晶粒が、微細化されているため、熱間鍛造工程を経なくとも、α相領域で直接、熱間圧延することができるという効果を奏するものである。
【0040】
また、従来技術のインゴットのように熱間鍛造工程を経ていないために、鍛造工程の過程で大気中の酸素や窒素が鍛造中の材料を汚染される危険性から回避され、結果として表面切削量や酸洗で溶解されるロス分を効果的に抑制することができるという効果を奏するものである。
【0041】
よって、上記の特徴を有するホウ素含有純チタン材は、高度な加工性が求められる固体高分子型燃料電池セパレータや色素増感型太陽電池に電極あるいは導電膜として好適に用いることができるという効果を奏するものである。
【0042】
前記した特徴を有するホウ素含有純チタン材は、スポンジチタンまたは純チタンスクラップにホウ素を添加したチタン原料を電子ビーム溶解炉(EB)または真空アーク溶解炉(VAR)にて溶製されたインゴットを、熱間鍛造することなく、直接圧延して製造されることを特徴とするものである。
【0043】
前記のような工程で製造された熱間圧延チタン材は、大気中における鍛造工程がないため、表面の酸化物層や窒化物層が少なく、よって、酸洗表面切削等によるロスを効果的に抑制することができるという効果を奏するものである。
【0044】
本発明に用いるチタン原料としては、スポンジチタンや純チタンスクラップを好適に使用することができる。また、ホウ素源としては、TiB粉もしくは単体ホウ素の粉末を混合添加使用することができ、前記チタン源に所定量のTiB粉を配合して混合することが好ましい。
【0045】
前記のようにしてホウ素が混合されたチタン源は、EBやVAR炉で効率よく溶解することができる。
【0046】
本発明におけるホウ素含有純チタン材は、ホウ素の含有量を0.01〜0.3%の範囲に規定することが好ましい。
【0047】
前記の原料を用いて溶解されたインゴットは、次いで、β変態点を越えない温度域である500℃〜800℃の温度範囲に加熱することが好ましい。
【0048】
圧延加工は1パスあたり20%程度の加工率で行うことが望ましい。1パスあたり20%程度の加工を繰り返し行うことによって、割れることなく、微細な結晶粒をもつ板材を得ることができるという効果を奏するものである。
【0049】
更に、前記インゴットの全加工率は50%程度にすることが好ましく、熱間圧延加工後に更に焼鈍をして、その後の加工に供することが好ましい。
【0050】
前記のような形で成形されたホウ素含有純チタン材は、更に圧延することにより、固体高分子型燃料電池用セパレータ材や色素増感型太陽電池の導電膜として好適に利用することができるという効果を奏するものである。なお、セパレータ材や導電膜への加工が必要な場合の張り出し加工等の加工度は、10%程度の強加工とすることが好ましい。前記のような加工度とすることにより、セパレータや導電膜の加工コストを低減することが可能となる。
【0051】
なお、TiB相は、純チタンよりも導電性が高く固体高分子型燃料電池用セパレータ材や色素増感型太陽電池の導電膜として効果的に使用することができるという効果を奏するものである。
【0052】
次に、本発明に係る具体的な試験例を交えて本発明の好ましい態様について以下に述べる。図1は、圧延材の側面外観を、図2は、圧延材の金属組織を示している。
【0053】
図1に示すように、純チタンにBを添加することによって得られたホウ素含有純チタン材は、α相領域での熱間圧延加工を受けても、側面が平滑なままであり、側面からの割れがない。この材料の金属組織を調査してみると図2に示すように、ホウ素添加により組織が微細化している。図2のホウ素の0.14%添加材を高倍率で観察すると、幅1〜3μm、長さ10〜50μmの黒い相が確認できる。これはTiB相であり、材料内に均一に分布している。
【0054】
このような、ホウ素添加による熱間加工に対する割れ難さは、インゴットから切り出した試験片での圧縮試験で確認された。図3は500℃、650℃での圧縮試験片であるが、B無添加の試験片はいずれの温度でも大きな割れを発生している。一方Bを0.14%含有した試験片は、いずれの温度でも割れなく変形しており、熱間加工での割れ難さを示している。図4より、この時の変形抵抗はB添加材の方がいずれの温度でも小さいことがわかり、加工しやすいと結論付けられる。
【0055】
本発明に係るホウ素含有純チタン材は、出発原料である純チタンにTiB粉を溶解することを好ましい態様とするものである。TiB粉の代わりに金属ホウ素を溶解原料とすることもできる。
【0056】
ここで、ホウ素含有純チタン材は、真空アーク溶解炉、プラズマアーク溶解炉、電子ビーム溶解炉あるいは、浮遊溶解炉を適宜用いて製造することができる。真空アーク溶解炉、浮遊溶解炉では基本的に丸型のインゴットができるが、インゴットを圧延ロールにかませるために、端部を鍛造で楔形に加工することが肝要である。
【0057】
電子ビーム溶解炉、プラズマアーク溶解炉では、角型鋳型に鋳造しインゴットを得ることができる。角型インゴットの厚みを熱間圧延ロールの最大ロール間隔以下と調整することによって、インゴットを何の前処理もすることなく、熱間圧延加工に供することができる。
【0058】
本実施態様では、ホウ素含有純チタン材の角型インゴットを電子ビーム炉を用いて製造する場合を例にとり、以下に好ましい態様につき説明する。
【0059】
溶解原料は、純チタン材とTiB粉で構成することが好ましい。TiB粉の代わりに金属ホウ素を別個に準備して溶解原料に用いてもよい。本願発明においては、前記純チタン材は、スポンジチタンや純チタンスクラップを好適に使用することができる。
【0060】
前記溶解原料を電子ビーム溶解炉により溶解する場合には、純チタンとTiB粉または金属ホウ素で構成された顆粒状またはブロック状の溶解原料をそのままフィーダーにより電子ビーム溶解炉を構成するハースに供給することができる。前記した溶解炉を用いることで、溶解原料からホウ素含有純チタン材を製造することができる。
【0061】
ハースに供給されたチタン溶湯は、角型鋳型に鋳造される。このとき、インゴットの厚さが、熱間圧延の最大ロール間隔以下になるように調整された鋳型を用いることが好ましい。なお、本願発明においては、前記溶解の場合、雰囲気は高真空下で行なうことが好ましい。
【0062】
電子ビーム溶解炉で製造された角型インゴットは、500〜800℃に加熱され、そのまま熱間圧延される。熱間圧延では、1パスあたり20%程度の圧延を繰り返し、トータルでの加工率を最初のインゴット厚みに対して50%程度とする。
【0063】
本発明のホウ素含有純チタン材は、前記熱間圧延加工後に500〜650℃で熱処理され、その後、加工と焼鈍を繰返し行うことで薄板まで加工することが可能である。通常の工業用純チタンは、焼鈍間の冷間加工の最大加工率は70%程度であるが、本発明では、最大90%程度の加工率の冷間加工をすることができる。
【0064】
固体高分子型燃料電池用セパレータとするために、冷間圧延で1〜3mmの板材とした後に、流路加工を行う。流路加工のための張出し加工、プレス加工も最大で10%程度とることが可能である。
【0065】
以上のように、本発明に係るホウ素含有純チタン材は、純チタン材に比べて、加工性が良好であるため、高い加工度が要求される固体高分子型燃料電池用セパレータや色素増感型太陽電池導電膜として好適に利用することができる。
【実施例】
【0066】
[実施例および比較例のインゴットの作製]
純チタンスポンジにTiB粉を混合して、真空アーク溶解により下記表1に示す組成の直径50mmの3本のインゴットを溶製した。
【0067】
【表1】

【0068】
[熱間圧延]
ホウ素含有純チタン材である実施例1および2、ホウ素無添加材である比較例1の各インゴットの一方の端部を、900℃の温度でプレス鍛造機にて、先端部の厚さが30mmとなるように楔型につぶした。この材料を600℃に加熱し、1パスが20%以下になるように熱間圧延加工し、最終的に19mmの厚みの板材とした。トータルの加工率は47%であった。比較例1のB無添加材は側面の荒れが激しく、一部側面割れが生じた。実施例1および2のホウ素含有純チタン材は側面が平滑で、側面からの割れは全く発生しなかった。
【0069】
[冷間圧延]
上記で作製したホウ素含有純チタン材およびホウ素無添加材である19mmの厚みの各板材を550℃で2時間焼鈍し、冷間圧延を実施した。比較例1は厚み6mmまでは圧延できたが、6mmを超えた段階で側面から割れがはいったので、6mmの時点で焼鈍した。その後圧延と焼鈍を繰返し最終的に1mm厚みまで圧延した。実施例1および2は2mmまで冷間圧延可能であった。2mmの厚みで焼鈍し、その後最終的に1mm厚みまで圧延した。
【0070】
[張り出し成形加工]
上記で作製したホウ素含有純チタン材およびホウ素無添加材である1mm厚みの板材に流路をつけるために、張出し成形加工を実施した。張出し成形の加工率を10%としたが、比較例1では割れが生じた。実施例1および2では割れを生じることなく、流路を取り付けることができた。
【0071】
[実施例3]
表1の実施例2と同じ組成になるように、純チタンスポンジとTiB粉を配合し、電子ビーム溶解炉で溶製、角型鋳型に鋳造し、1000mm×80mmの角型インゴットを得た(実施例3)。このインゴットを600℃に加熱し、そのまま熱間圧延を行った。ロール間隔を75mm、60mm、51mm、45mm、40mmとし、最終的に40mmの厚みの板材を得た。この工程で加工された板材は割れることなく目論見通りに圧延することができた。
【0072】
上記で製造された実施例3の40mm厚みの板材を更に、1mmの板材まで圧延した後、プレス成形により、1波長が2mm、高さが2mmの波板を成形した。成形後の波板には、シワや割れの発生は、確認されなかった。
【0073】
上記で製造された実施例3の40mm厚みの板材を更に、1mmの板材まで圧延した後、500℃まで加熱した後、圧延機にかけて、厚さ100μmのチタン箔を得た。同チタン箔の表面を更に陽極酸化して、20μmの酸化皮膜を形成した。同チタン箔は、色素増感型太陽電池の半導体膜付電極として好適であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、工業用純チタンインゴットから低コストで板材を得る方法、固体高分子型燃料電池用セパレータまたは色素増感型太陽電池用導電膜として適する工業用純チタンとその製造方法を提供するものである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分が、ホウ素0.01wt%〜0.3wt%、酸素0.25wt%以下、窒素0.02wt%以下、不可避的不純物および残部がチタンであり、チタンのα相基質中にTiB相が分散していることを特徴とするホウ素含有純チタン材。
【請求項2】
前記TiB相からなる結晶の長さ1μm〜50μmの範囲、アスペクト比が3〜50であることを特徴とする請求項1に記載のホウ素含有純チタン材。
【請求項3】
前記ホウ素含有純チタン材が、純チタン材にホウ素源を添加してなるチタン原料を溶製してインゴットとした後、次いで、これを熱間鍛造することなく、これをα相領域で直接、熱間圧延されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のホウ素含有純チタン材。
【請求項4】
前記ホウ素含有純チタン材を変態点以上に加熱してβ相を生成させた後、次いで、室温まで冷却中に、500℃以下まで冷却することにより、チタン中に固溶したTiB成分を、β結晶相をα結晶相に相転移させることで形成されたα相基質中にTiB相を分散析出させたものとすることにより製造されたことを特徴とする請求項3に記載のホウ素含有純チタン材。
【請求項5】
前記純チタン材が、スポンジチタンまたは純チタンスクラップであり、前記ホウ素源が、TiBまたは単体ホウ素であることを特徴とする請求項3または4に記載のホウ素含有純チタン材。
【請求項6】
前記インゴットが、純チタン材にホウ素源を添加してなるチタン原料を真空アーク溶解炉または電子ビーム溶解炉で溶製されたものであることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のホウ素含有純チタン材。
【請求項7】
前記ホウ素含有純チタン材が、燃料電池セパレータ用または色素増感型太陽電池用導電膜用であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のホウ素含有純チタン材。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のホウ素含有純チタン材の製造方法であって、
スポンジチタンまたは純チタンスクラップにホウ素源を添加してチタン原料とし、
前記チタン原料を真空アーク溶解炉または電子ビーム溶解炉にてインゴットとして溶製し、
前記インゴットを熱間鍛造することなく、α相領域で直接熱間圧延することを特徴とするホウ素含有純チタン材の製造方法。
【請求項9】
前記ホウ素含有純チタン材中のホウ素の含有量を0.01wt%〜0.3wt%とすることを特徴とする請求項8に記載のホウ素含有純チタン材の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−77346(P2012−77346A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222893(P2010−222893)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】