説明

ホウ素錯体を含有する有機半導体

【課題】従来のn型有機半導体材料は合成に高度な技術や費用が必要であり、合成が容易で高性能な半導体材料の開発が解決すべき課題としてあった。
【解決手段】本発明では、電子親和性のホウ素錯体を有機パイ電子系に導入してn型有機半導体材料を製造する方法を開発した。この手法はn型有機半導体の開発において容易に多様な半導体材料を開発する方法として有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機半導体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明はn型半導体材料の開発に有効である。
【0003】
従来、n型有機半導体の製造方法が開示されている。これらは、電子吸引基や電子親和性の高い複素環を有機パイ電子骨格に組み込んだものである。
【0004】
これらの材料を用いることによってn型有機電界効果トランジスタが作製されている。
【0005】
n型有機半導体材料としてパーフルオロペンタセンが特許文献1で開示されている。これは、電子吸引性のフルオロ基をペンタセンに導入した例である。また、特許文献2は電子親和性の高い複素環を基本骨格に利用した例である。
【特許文献1】WO2005/078816
【特許文献2】公開2004−323434
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来のn型有機半導体材料は合成に高度な技術や費用が必要であり、合成が容易で高性能な半導体材料の開発が解決すべき課題としてある。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ホウ素錯体を電子受容部位に利用してn型半導体の開発を行うものである。請求項1記載の化合物は、1,3-ジケトンおよびそのエノール体(およびその類縁体)をホウ素試薬と反応させて合成する。このため、本発明は簡便に多様な有機半導体を製造できるという特徴を有する。1,3-ジケトンホウ素錯体(およびその類似錯体)を導入して有機半導体材料を製造する物質開発例はこれまでになく、有機半導体の製造法として未開拓な分野であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ホウ素錯体を有機パイ電子系に組み込んだ有機半導体。
【0009】
であり、ホウ素錯体を有機パイ電子系に置換あるいは縮環して組み込んだことを特徴とし、 前記ホウ素錯体を一つあるいは複数個含有する有機化合物であることを特徴とする。また、 前記の有機パイ電子系は、不飽和炭化水素、単環式炭化水素、縮合多環式炭化水素、あるいは複素環から構成されることを特徴とし、
前記ホウ素錯体のホウ素原子上には、飽和炭化水素、不飽和炭化水素、ハロゲン、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、カルボン酸エステル、硫黄原子団、セレン原子団、テルル原子団、窒素原子団からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の置換基を有することを特徴とする。さらに、 前記ホウ素錯体は、1,3-ジケトンエノール体とホウ素原子のキレートであり、硫黄、セレン、テルル、窒素、又はハロゲン等の原子団で置換された類似のキレート様式を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明は1,3-ジケトンおよびそのエノール体をホウ素試薬と反応させて合成した有機半導体である。この合成は、1,3-ジケトンに準じる配位子にも適用可能である。
【0011】
したがって、有機半導体を容易に合成することが可能となり、原料の1,3-ジケトンやそのエノール体の構造を変えることによって、多様な半導体材料の開発が可能となる。
【0012】
このため、使用可能な有機パイ電子系は、不飽和炭化水素、単環式炭化水素、縮合多環式炭化水素、あるいは複素環を使用することが可能となる。
【0013】
また、ホウ素錯体を一つあるいは複数個含有することにより、有機パイ電子系の電子親和性を制御可能という特徴を有する。
【0014】
この形態は置換形式および縮環形式どちらも可能である。
さらに、ホウ素錯体のホウ素原子上も、官能基(飽和炭化水素、不飽和炭化水素、ハロゲン、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、カルボン酸エステル、硫黄原子団、セレン原子団、テルル原子団、窒素原子団)を導入することが可能であるため、電子親和性に加えて分子配列の調節も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施例1乃至4について、図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0016】
1,3-ジケトンホウ素錯体(I)を次のように合成する。
【0017】
【化1】



【0018】
窒素雰囲気下、ナトリウムメトキシド(Na: 0.3 g, 13 matom)の無水メタノール溶液(10 mL)を調整し、無水エーテル(20 mL)を加えた。これに室温でトリフルオロ酢酸エチル(4 mL, 34 mmol)を加え、さらに4,4’-ジアセチルビフェニル(II)(0.31 g, 1.3 mmol)を加えた。この反応混合物を20時間かき混ぜた後、酢酸エチル(20 mL)を加えた。これを希塩酸(2 M, 2 × 10 mL)で処理し、水(10 mL)で洗浄した。この溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後に濃縮した。得られた固体をヘキサンで洗浄し、ジケトンエノール体(III)(0.47 g, 85%)を淡黄色固体として得た。
【0019】
ジケトンエノール体(III)(0.30 g, 0.70 mmol)と三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体(BF3・OEt2)(4 mL, 32 mmol)の混合物を窒素雰囲気下で2時間還流した。過剰の三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体を減圧下で留去した後、得られた固体をヘキサンで洗浄した。これを昇華精製(240 °C, 10−3Torr)すると1,3-ジケトンホウ素錯体(I)(0.32 g, 86%)を蛍光性の黄色結晶として得た。
【実施例2】
【0020】
1,3-ジケトンホウ素錯体(IV)を化合物(I)と同様に次のように合成する。
【0021】
【化2】

【0022】
4,4’-ジアセチルビフェニル(II)の代わりに5,5’-ジアセチル-2,2’-ビチエニル(V)を使用して、ジケトン(VI)をオレンジ色固体として得た。これを用いて1,3-ジケトンホウ素錯体(IV)を赤色結晶として合成した。
【実施例3】
【0023】
1,3-ジケトンホウ素錯体(VII)を化合物(I)と同様に次のように合成する。
【0024】
【化3】

【0025】
4,4’-ジアセチルビフェニル(II)の代わりに5,5’-ジアセチル-2,2’-ビフリル(VIII)を使用して、ジケトン(IX)を黄色固体として得た。これを用いて1,3-ジケトンホウ素錯体(VII)をオレンジ色結晶として合成した。
【実施例4】
【0026】
化合物(I)のn型半導体移動度の測定には、これを有機半導体層に用いたボトムコンタクト型電界効果トランジスタを作製した(図1)。
【0027】
高ドープしたSi基板(ゲート電極)上にSiO2の絶縁体層(300 nm)を作製し、ソース電極とドレイン電極を金で作製した。この間隔(L)と幅(W)はそれぞれ、5 μmと38 mmであった。この上に半導体活性層として化合物(I)を50 nmの膜厚で真空蒸着法を用いて作製した。この蒸着速度は0.2 A s−1で行い、基板温度は室温で真空度は10−6乃至10−7 Paであった。
【0028】
電界効果トランジスタ応答を図2に示した。ゲート電極に正電荷を印加すると、ドレイン電流が増加することからn型半導体特性が観測された。
移動度は7.0 × 10−5 cm V−1 s−1でon/off比は500であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明では、従来に無かったn型半導体材料として、ホウ素錯体を電子受容性ユニットに用いる材料開発を行った。この製造方法は簡易であり、多様な有機パイ電子系に提供できるため、高性能な半導体材料の開発に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例4のボトムコンタクト素子の図である。
【図2】実施例4の電界効果トランジスタ特性である。
【符号の説明】
【0031】
1…有機半導体層
2…絶縁体層
3…基板
4…ソース電極
5…ドレイン電極
6…ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素錯体を有機パイ電子系に組み込んだ有機半導体。
【請求項2】
ホウ素錯体を有機パイ電子系に置換あるいは縮環して組み込んだことを特徴とする請求項1記載の有機半導体。
【請求項3】
前記ホウ素錯体を一つあるいは複数個含有する有機化合物であることを特徴とする請求項1または2記載の有機半導体。
【請求項4】
前記の有機パイ電子系は、不飽和炭化水素、単環式炭化水素、縮合多環式炭化水素、あるいは複素環から構成されることを特徴とする請求項1、2又は3のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項5】
前記ホウ素錯体のホウ素原子上には、飽和炭化水素、不飽和炭化水素、ハロゲン、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、カルボン酸エステル、硫黄原子団、セレン原子団、テルル原子団、窒素原子団からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の置換基を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項6】
前記ホウ素錯体は、1,3-ジケトンエノール体とホウ素原子のキレートであり、硫黄、セレン、テルル、窒素、又はハロゲン等の原子団で置換された類似のキレート様式を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の有機半導体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−200097(P2009−200097A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37311(P2008−37311)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】