説明

ボルト締め構造及び建設機械

【課題】ボルトの頭部とワッシャとの金属同士の広い接触面積を確保することができるボルト締め構造を提供する。
【解決手段】複数枚の板23,21,26を重ね合わせて、それらの板に形成された透孔23a,21a,26aにボルト28を通す。そのボルト28をナット27に螺入させることにより、各板23,21,26同士を固定する。ボルト28の頭部28aとその頭部28a側の板26との間には、ワッシャ29とカラー30とを介在させる。カラー30と板26との間及びカラー30とボルト28の外周との間には、シールリング31,32を介在させる。これらのシールリング31,32により、ボルト28の外周面と透孔23a,21a,26aの内周面との間をシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数枚の板を重ね合わせた状態で、ボルトにより締め付け固定するようにしたボルト締め構造及びそのボルト締め構造を採用した建設機械に関するものである。特に、この発明は前記複数の各板に形成されたボルトを通すための透孔の内周面と、ボルトの外周面との間をシールするようにした構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のボルト締め構造が空気調和ユニット(以下、単に空調ユニットとする)を建設機械のキャブに固定するための構造として採用されている。この場合、このボルト締め構造は、空調ユニットの重量や、車両走行中の振動に耐え得るように、高い強度が要求される。しかも、このボルト締め構造のボルトが挿通される孔を介して雨水等がキャブ内に侵入しないように、防水機能が要求される。
【0003】
一方、従来の種のボルト締め構造としては、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されるような構造が提案されている。この従来構造においては、図7に示すように、複数枚の板41,42が重ね合わせて配置され、それらの板41,42には透孔41a,42aが形成されている。両板41,42の透孔41a,42aにはワッシャ43を介してボルト44が挿通され、そのボルト44の先端には雌ねじとしてのナット45が螺合されている。ワッシャ43の両側面には環状溝43a,43bが形成され、それらの環状溝43a,43b内にはシールリング46,47が配置されている。
【0004】
そして、ボルト44とナット45とが螺合されることにより、両板41,42がボルト44の頭部側のワッシャ43とナット45との間において重合状態で締め付け固定される。この場合、一方のシールリング46によりボルト44の頭部44aとワッシャ43との間がシールされるとともに、他方のシールリング47によりワッシャ43とそれに対応する板41との間がシールされる。その結果、水がボルト44の外周面と透孔41a,42aの内周面との間の隙間に入り込んだとしても、前記シールリング46,47によってブロックされる。このため、水がボルト頭部44aとワッシャ43等との間を通って図7の下側に流れ落ちることが防止される。
【特許文献1】実開昭56−117113号公報
【特許文献2】実開平5−3625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前述のように、この従来のボルト締め構造においては、ワッシャ43の両側面の環状溝43a,43b内にシールリング46,47が配置され、従ってワッシャ43の両側面には、シールリング46,47用の環状溝43a,43bが形成されている。このため、シールリング46,47を配置しないボルト締め構造に比較して、ボルト44の頭部44aとワッシャ43との間の金属同士の接触面積が減少する。このため、ボルト44とナット45との間に強い締め付け軸力を確保できず、両板41,42に対する締め付け強度の面で不安が残るという問題があった。すなわち、この従来のボルト締め構造において、締め付け強度を確保するために、強い締め付けトルクをボルト44とナット45との間に与えた場合には、圧力が高騰してボルト44の頭部44aやワッシャ43が破損するおそれがあった。これを防ぐために、ボルトとして大きな頭部を有するものを用いるとともに、それ対応してワッシャとして大径のものを用いることも考えられるが、このためには、汎用ではないISO(国際標準規格)外の特別なボルト及びワッシャを用いる必要があって、市場での汎用性を失うとともに、コスト高を避けることができない。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、ボルトの頭部とワッシャとの金属接触面積を広く確保することができて、ボルトとナットとの間の板を強く締め付けることができるとともに、ボルト締め付け部から水が侵入することを抑制することができ、しかも汎用のボルトとワッシャを用いることができるボルト締め構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、複数枚の板を重ね合わせて、それらの板に形成された透孔にボルトを通し、そのボルトを雌ねじに螺入させることにより、前記各板同士を固定するとともに、前記ボルトの外周面と透孔の内周面との間をシールするようにしたボルト締め構造において、前記ボルトの頭部とその頭部側の板との間に、ワッシャとカラーとを介在させ、前記カラーと板との間及びカラーとボルトの外周との間にシールリングを介在させたことを特徴としている。
【0008】
前記の構成において、ワッシャをボルトの頭部側に、カラーを前記板側に配置し、前記シールリングを、前記カラーの外周縁と板との間に介在される第1シールリングと、前記カラーの内周縁とボルトの非ねじ部の外周面との間に介在される第2シールリングとにより構成するとよい。
【0009】
さらに、前記の構成において、建設機械のキャブの側壁に、その側壁の内外を貫通する空気調和ユニットを設け、請求項1または2に記載のボルト締め構造を前記空気調和ユニットのキャブ室内側における下部の部分の固定構造に採用することが好ましい。
【0010】
この発明のボルト締め構造においては、ボルトの頭部とワッシャとの間にシールリングが存在しないため、それらの間に金属同士の広い接触面積を確保することができる。よって、ボルトを強い締め付け力で締め付けた場合でも、ボルトの頭部やワッシャ等が損傷したりするおそれはなく、複数枚の板をボルト及びナットにより強い締め付け力で締め付け固定することができる。従って、ボルトの頭部やワッシャを大径にする必要はない。また、一対のシールリングにより、カラーと板との間及びカラーとボルトの外周との間がシールされるため、透孔の内周面とボルトの外周面との間に水が入り込んでも、その水がボルトの頭部側に出てくることはない。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、この発明によれば、板を強い締め付け力で締め付け固定することができるとともに、ボルト締め付け部から水が侵入することを抑制することができ、しかも汎用部品を用いることができて、コスト低下が可能になるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、この発明の一実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
図1に示すように、この実施形態の建設機械としてのブルドーザにおいては、キャブ11が車体フレーム12上に複数のダンパ13を介して支持されている。
【0013】
図1〜図3に示すように、空調ユニット14のユニットフレーム15は、前記キャブ11の後壁部の上端に装着され、その後壁部の内外を貫通している。その結果、空調ユニット14のキャブ11外への張り出し量が抑えられている。空気吹き出し口16及び空気取り込み口17は、キャブ11内に開口するように、ユニットフレーム15の前面における上部及び下部にそれぞれ形成されている。そして、空調ユニット14の運転に伴い、キャブ11内の空気が、空気取り込み口17から空調ユニット14に取り込まれて温度及び湿度が調節された後、空気吹き出し口16からキャブ11内に吹き出される。なお、前記キャブ11の外側面とユニットフレーム15との間において、前記空気吹き出し口16及び空気取り込み口17との間にはシール24が設けられている。
【0014】
次に、前記キャブ11に対する空調ユニット14のユニットフレーム15のキャブ室内側における下部の部分の固定構造について詳細に説明する。
図3及び図4に示すように、取付板26は前記キャブ11の図示しないキャブフレームに固定されている。カバー板21が前記取付板26上に積層されるとともに、補強板23がカバー板21上に積層され、それらの板26,21,23がボルト28及びナット27により固定されている。なお、前記カバー板21は、図1に示すユニットカバー18の下部を構成している。前記補強板23は、ユニットフレーム15のカバー板21の前部上面に溶接固定され、ユニットフレーム15を補強している。
【0015】
透孔23a,21a,26aは、前記キャブ11の内部の複数箇所(図面においては1箇所のみ図示)に位置するように、各補強板23、カバー板21及び取付板26に形成されている。雌ねじとしての複数の前記ナット27は、前記各透孔23a等に対応して各補強板23上に溶接固定されている。複数の前記ボルト28は、頭部28a,ねじを有しない非ねじ部としての首部28b及びねじ部28cを有している。そして、ボルト28はキャブ11の内部側から透孔26a,21a,23a内を上方に通り、ねじ部28cがナット27に螺入されている。そして、このようにボルト28をナット27に螺入することにより、補強板23及びカバー板21が前記取付板26上に重合状態で締め付け固定されている。
【0016】
図3及び図4に示すように、金属製のワッシャ29及びカラー30は、前記ボルト28の頭部28aとその頭部28aに隣接する取付板26との間に介在されている。段差状凹部30aは、カラー30の上部外周縁に形成されている。テーパ状凹部30bは、カラー30の下部内周縁に形成されている。ゴム等の弾性材料よりなる第1シールリング31は、カラー30と取付板26との間に介在されるように、カラー30の段差状凹部30a内に配置されている。ゴム等の弾性材料よりなる第2シールリング32は、カラー30とボルト28の非ねじ部としての首部28bの外周との間に介在されるように、カラー30の下部の内周縁のテーパ状凹部30b内に配置されている。
【0017】
そして、図5に示すように、カラー30の各凹部30a,30bにシールリング31,32を配置した状態で、ワッシャ29、カラー30及び各透孔26a,21a,23aを通して、ボルト28がナット27に螺入されたとき、図4に示すように、各シールリング31,32が弾性変形される。この弾性変形により、第1シールリング31がカラー30の上面と取付板26の下面とに圧接されて、それらの間がシールされる。それとともに、第2シールリング32がカラー30の内周面とボルト28の首部28bの外周面とに圧接されて、それらの間がシールされる。
【0018】
その結果、ボルト28の外周面と透孔23a,21a,26aの内周面との間がシールされる。よって、キャブ11の後方に突出して配置された空調ユニット14のユニットフレーム15内に雨水等の水が流入して、その水がボルト28の外周面と透孔23a,21a,26aの内周面との間の隙間に入り込んだとしても、その隙間から、キャブ11内に侵入することを防止できる。ちなみに、空調ユニット14がキャブ11の内外を貫通していると、空調ユニット14外周部に雨水や車両を洗浄した水が侵入した場合、その雨水等がキャブ11内に落下しやすいが、この実施形態においては、このようなおそれはない。
【0019】
従って、このボルト締め構造においては、前述のように、取付板26とカラー30との間及びカラー30とボルト28の外周面との間がシールリング30.31によりシールされるため、雨水等がボルト28の外周面と透孔26a等の内周面との間を通ってキャブ11内に落下することが防止される。このため、このボルト締め構造は実施形態のようなキャブ11の側壁を貫通する空調ユニットが設けられた構成に採用した場合に有用である。そして、この実施形態においては、図7に示す従来例とは異なり、シールリングがワッシャの狭い両側面の溝に嵌合されるものではない。従って、シールリングとして大径(断面径)のものを使用でき、充分なシール効果を得ることができる。
【0020】
また、シールリング31,31がカラー30の上下に配置されていて、ボルト28の頭部28aとワッシャ29との間にはシールリングが存在しない。このため、ボルト28の頭部28aとワッシャ29との間に金属同士の広い接触面積を確保することができる。従って、ボルト28を強い締め付け力で締め付けた場合でも、ボルト28の頭部28aやワッシャ29に損傷が生じるおそれはなく、補強板23、カバー板21及び及び取付板26を強い締め付け力で締め付け固定することができる。このため、頭部28aが大径のボルト28や、大径のワッシャ29を使用する必要がなく、汎用のものを使用できて、コストダウンに有効である。
【0021】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 図6に示すように、カラー30の取付板26側にリング状の溝30cを設けて、その溝30cにシールリング31を嵌合してもよい。
【0022】
・ 前記実施形態においては、雌ねじとしてのナット27が補強板23に溶接固定されているが、このナット27は必ずしも固定する必要はない。
・ 前記実施形態においては、建設機械のキャブ11に空調ユニット14のユニットフレーム15を装着固定する場合のボルト締め構造にこの発明を具体化しているが、建設機械の他の部分における板状部材のボルト締め構造、あるいは他の機械における板状部材のボルト締め構造に具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一実施形態のボルト締め構造を備えた建設機械を示す側面図。
【図2】図1の建設機械においてキャブに対する空調ユニットの装着構成を拡大して示す要部斜視図。
【図3】同じく空調ユニットの装着構成を示す要部断面図。
【図4】同空調ユニットの装着構成におけるボルト締め構造を拡大して示す部分断面図。
【図5】同じくボルト締め構造の締め付け前の状態を示す部分断面図。
【図6】変更例を示す部分断面図。
【図7】従来のボルト締め付け構造を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0024】
11…キャブ、14…空調ユニット、15…ユニットフレーム、21…カバー板、21a…透孔、23…補強板、23a…透孔、24…シール、26…取付板、26a…透孔、27…雌ねじとしてのナット、28…ボルト、28a…頭部、28b…非ねじ部としての首部、29…ワッシャ、30…カラー、31…第1シールリング、32…第2シールリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の板を重ね合わせて、それらの板に形成された透孔にボルトを通し、そのボルトを雌ねじに螺入させることにより、前記各板同士を固定するとともに、前記ボルトの外周面と透孔の内周面との間をシールするようにしたボルト締め構造において、
前記ボルトの頭部とその頭部側の板との間に、ワッシャとカラーとを介在させ、前記カラーと板との間及びカラーとボルトの外周との間にシールリングを介在させたことを特徴とするボルト締め構造。
【請求項2】
前記ワッシャを前記ボルトの頭部側に、カラーを前記板側に配置し、前記シールリングを、前記カラーの外周縁と板との間に介在される第1シールリングと、前記カラーの内周縁とボルトの非ねじ部の外周面との間に介在される第2シールリングとにより構成したことを特徴とする請求項1に記載のボルト締め構造。
【請求項3】
建設機械のキャブの側壁に、その側壁の内外を貫通する空気調和ユニットを設け、請求項1または2に記載のボルト締め構造を前記空気調和ユニットのキャブ室内側における下部の部分の固定構造に採用したことを特徴とする建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−97526(P2009−97526A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266692(P2007−266692)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】