説明

ボールねじおよびこれを備えた電動リニアアクチュエータ

【課題】耐熱性と耐グリース性を有し、低コストで耐久性の向上を図ったボールねじおよびこれを備えた電動リニアアクチュエータを提供する。
【解決手段】電動モータ2と、モータ軸3の一端部に同軸状に配設されたボールねじ4と、ハウジング5に対してモータ軸3を回転自在に支承する転がり軸受6、7と、ハウジング5とボールねじ4のナット8間に嵌合された転がり軸受9と、ハウジング5とねじ軸10との間に装着されたシール11とを備えた電動リニアアクチュエータ1において、ナット8が、モータ軸3の端部に圧入固定され、ハウジング5に対して転がり軸受9を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承され、ねじ軸10が、軸方向移動自在に、かつ回転不可に支承されると共に、シール11がEPDMからなるブーツで構成され、ボールねじ4が、ポリグリコール系の基油からなるグリースによって潤滑されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のアクチュエータ等に使用されるボールねじおよびこれを備えた電動リニアアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各種駆動部に使用される電動リニアアクチュエータにおいて、電動モータの回転運動を軸方向の直線運動に変換する機構として、台形ねじあるいはラックアンドピニオン等の歯車機構が一般的に使用されている。これらの変換機構は、滑り接触部を伴うため動力損失が大きく、電動モータの大型化や消費電力の増大を余儀なくされている。そのため、より効率的なアクチュエータとしてボールねじが採用されるようになってきた。
【0003】
ボールねじは、外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、対向する両ねじ溝により形成された転動路に収容された多数のボールと、転動路を周回経路とする循環機構とを備え、例えば、ナットを回転運動させることでねじ軸を直線運動させる。
【0004】
この一例として、図3に示すようなボールねじが知られている。このボールねじ50は、一方の移動部材であり、かつその案内面となる内周面に螺旋状のボール溝51aが形成された案内軸(ねじ軸)51と、他方の移動部材であり、かつその案内面となる内周面にねじ溝51aに対向する螺旋状のねじ溝52aが形成された可動体(ナット)52と、対向するねじ溝間に転動自在に介装された転動体である多数のボール53と、これらのボール53を循環させるチューブ式循環路54を備えている。
【0005】
このチューブ式循環路54は、外形が略コの字状のチューブからなり、その両端部54aをそれぞれ可動体52を両ねじ溝51a、52aの接線方向に貫通するチューブ取付孔55から可動体52内のボール転動空間56に差し込み、止め金57で可動体52の外周に固定されている。螺旋状のボール転動空間56を転動するボール53は、ねじ溝51a、52aを複数回回って移動してから、チューブ式循環路54の一方の端部54aで掬い上げられてチューブ式循環路54の中を通り、他方の端部(図示せず)から可動体52内のボール転動空間56に戻る循環を繰り返すように構成されている。
【0006】
また、ボールねじ50の潤滑にはグリースが使用され、このグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等の異物が内部に侵入するのを防止するため、可動体52と案内軸51間に形成される環状空間の開口部にはシール58が装着されている。
【0007】
特に電動射出成形機や電動プレス機等の高荷重が加わるボールねじ50では、ボール53同士が衝突してその表面にボール傷が付き、ガタツキが生じたり、ボール傷から剥離が発生したりする等の問題があることから、グリースは、特定の芳香族チオエーテル油を含む基油を含有させたものが使用されている。これにより、ボール53の損傷が抑えられ、潤滑寿命が延長される(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−324797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、このボールねじ50のシール58をはじめ、自動車のアクチュエータ等のゴム製品に、エチレンとプロピレンの共重合体に少量の第3成分を添加した三元共重合体からなるエチレンプロピレンゴム、所謂EPDMや、ポリプロピレン等の汎用樹脂にこのEPDMが添加されたものが使用されるようになってきた。然しながら、このEPDMは、耐熱性、耐オゾン性、耐候性、耐薬品性等に優れている特徴を有している一方、耐グリース性が劣るため、グリースと直接接するボールねじ50のシール58として使用された場合、膨潤(体積膨張)してシール58が劣化する恐れがある。これにより、グリースが漏洩してボールねじ50の耐久性が低下すると共に、ボールねじ50の周辺汚染が懸念される。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐熱性と耐グリース性を有し、低コストで耐久性の向上を図ったボールねじおよびこれを備えた電動リニアアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、対向する前記両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、これらのボールを無限循環させる循環用部材とを備え、所定のグリースにより潤滑されるボールねじにおいて、前記ボールねじに隣接するシールがEPDMで成形されると共に、前記グリースがポリグリコール系の基油からなる構成を採用した。
【0011】
このように、グリース潤滑されるボールねじにおいて、ボールねじに隣接するシールがEPDMで成形されると共に、グリースがポリグリコール系の基油からなるので、シールが膨潤して劣化するのを防止すると共に、低コストで耐熱性に優れ、耐久性の向上を図ったボールねじを提供することができる。
【0012】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記グリースに有機金属系極圧剤または固体潤滑剤またはこれらが併用して添加されていれば、潤滑補助機能を発揮することができ、グリースの潤滑性能が向上し、一層ボールねじの耐久性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、電動モータと、中空状のモータ軸の一端部に同軸状に配設された前記請求項1または2に記載のボールねじと、ハウジングに対して前記モータ軸を回転自在に支承する一対の転がり軸受と、前記ハウジングとボールねじのナットとの間に嵌合された転がり軸受と、前記ハウジングとボールねじのねじ軸との間に装着されたシールとを備えた電動リニアアクチュエータにおいて、前記ナットが、前記モータ軸の端部に圧入固定され、前記ハウジングに対して前記転がり軸受を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承されると共に、前記ねじ軸が前記モータ軸に進退自在に配され、軸方向移動自在に、かつ回転不可に支承され、前記シールがEPDMからなるブーツで構成されている。
【0014】
このように、電動リニアアクチュエータにおいて、ナットが、モータ軸の端部に圧入固定され、ハウジングに対して転がり軸受を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承されると共に、ねじ軸がモータ軸に進退自在に配され、軸方向移動自在に、かつ回転不可に支承され、シールが、EPDMからなるブーツで構成されているので、ブーツが膨潤して劣化するのを防止し、良好な密封性が確保できると共に、低コストで耐熱性に優れ、耐久性の向上を図った電動リニアアクチュエータを提供することができる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明のように、前記循環用部材が、前記ナットの胴部に穿設された駒窓に嵌合され、前記転動路を周回経路とし、前記ナットの隣接するねじ溝間を接続する連結溝が形成された駒部材で構成されていれば、ナットを回転自在に支承する転がり軸受をナットの外周に嵌合することができ、スペースを有効に活用して装置のコンパクト化を図ることができる。
【0016】
また、請求項5に記載の発明のように、前記駒窓が断面円形に形成され、この駒窓に対応して前記駒部材が断面円形に形成されると共に、前記駒窓がボーリング加工によって所定の寸法に形成された仕上げ面で構成されていれば、ねじ溝における駒窓の縁部にバリが発生するのを防止することができるので、バリ除去加工が不要となり、ねじ溝の研削加工を廃止することができ、低コスト化を図ることができる。
【0017】
また、請求項6に記載の発明のように、前記ナットを支承する転がり軸受が両端部にシールが装着された密封タイプの深溝玉軸受からなり、前記シールがEPDMで形成されると共に、当該転がり軸受が、ポリグリコール系の基油からなるグリースで潤滑されていれば、内部に封入されたグリースやボールねじ4から流出したグリースによってシールが膨潤して劣化するのを防止すると共に、転がり軸受が、低コストで耐熱性に優れ、長寿命化できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るボールねじは、外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、対向する前記両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、これらのボールを無限循環させる循環用部材とを備え、所定のグリースにより潤滑されるボールねじにおいて、前記ボールねじに隣接するシールがEPDMで成形されると共に、前記グリースがポリグリコール系の基油からなるので、シールが膨潤して劣化するのを防止すると共に、低コストで耐熱性に優れ、耐久性の向上を図ったボールねじを提供することができる。
【0019】
また、本発明に係る電動リニアアクチュエータは、電動モータと、中空状のモータ軸の一端部に同軸状に配設された前記請求項1または2に記載のボールねじと、ハウジングに対して前記モータ軸を回転自在に支承する一対の転がり軸受と、前記ハウジングとボールねじのナットとの間に嵌合された転がり軸受と、前記ハウジングとボールねじのねじ軸との間に装着されたシールとを備えた電動リニアアクチュエータにおいて、前記ナットが、前記モータ軸の端部に圧入固定され、前記ハウジングに対して前記転がり軸受を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承されると共に、前記ねじ軸が前記モータ軸に進退自在に配され、軸方向移動自在に、かつ回転不可に支承され、前記シールがEPDMからなるブーツで構成されているので、ブーツが膨潤して劣化するのを防止し、良好な密封性が確保できると共に、低コストで耐熱性に優れ、耐久性の向上を図った電動リニアアクチュエータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
電動モータと、中空状のモータ軸の一端部に同軸状に配設されたボールねじと、ハウジングに対して前記モータ軸を回転自在に支承する一対の転がり軸受と、前記ハウジングとボールねじのナットとの間に嵌合された転がり軸受と、前記ハウジングとボールねじのねじ軸との間に装着されたシールとを備えた電動リニアアクチュエータにおいて、前記ボールねじが、前記モータ軸の端部に圧入固定され、前記ハウジングに対して前記転がり軸受を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、前記モータ軸に進退自在に配され、軸方向移動自在に、かつ回転不可に支承され、外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸に外嵌され、ナットと、対向する前記両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、前記ナットの胴部に穿設された駒窓に嵌合され、前記転動路を周回経路とし、前記ナットの隣接するねじ溝間を接続する連結溝が形成された駒部材とを備え、前記シールがEPDMからなるブーツで構成されると共に、前記ボールねじが、ポリグリコール系の基油からなり、有機金属系極圧剤または固体潤滑剤またはこれらが併用して添加されたグリースによって潤滑されている。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るボールねじが適用された電動リニアアクチュエータを示す縦断面図、図2(a)は、図1のボールねじを示す平面図、(b)は、(a)の縦断面図である。
【0022】
図1に示す電動リニアアクチュエータ1は、電動モータ2と、この電動モータ2のモータ軸3の一端部に同軸状に配設されたボールねじ4と、ハウジング5a、5bに対してモータ軸3を回転自在に支承する一対の転がり軸受6、7と、ハウジング5cに対してボールねじ4のナット8を支承する転がり軸受9と、ハウジング5cとボールねじ4のねじ軸10との間に装着されたブーツ(シール)11とを備えている。
【0023】
電動モータ2は、ハウジング5bに固着された永久磁石からなるステータ2aと、モータ軸3の外周に固着され、ステータ2aに所定の径方向すきま(エアギャップ)を介して対峙された複数のコイルからなるロータ2bと、ハウジング5aに装着されたブラシ2cと、このブラシ2cに係合する整流子2dとを備え、DCモータを構成している。
【0024】
ボールねじ4は、モータ軸3の一端部に圧入固定された円筒状のナット8と、このナット8に多数のボール12を介して内挿され、中空状のモータ軸3に進退自在に配されたねじ軸10とを備えている。ナット8の一端部外周にはフランジ8bと、他端部外周に環状溝8cが形成され、この環状溝8cに装着された止め輪13とフランジ8bによって転がり軸受9が位置決め固定されている。そして、ナット8は、ハウジング5cに対してこの転がり軸受9を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承されている。一方、ハウジング5cとねじ軸10との間には後述するブーツ11が装着され、ねじ軸10は軸方向移動自在に、かつ回転不可に支承されている。
【0025】
ボールねじ4は、図2に示すように、内周面に螺旋状のねじ溝8aが形成されたナット8と、外周面にねじ溝8aに対応する螺旋状のねじ溝10aが形成されたねじ軸10と、ナット8およびねじ軸10のねじ溝8a、10aにより形成された転動路に転動自在に収容された多数のボール12と、これらボール12の循環用部材となる駒部材14とを備え、駒式のボールねじ4を構成している。このように、駒式のボールねじ4を採用することにより、ナット8を回転自在に支承する転がり軸受9をナット8の外周に嵌合することができ、スペースを有効に活用して装置のコンパクト化を図ることができる。
【0026】
円筒状のナット8の胴部には、内外の周面に貫通してねじ溝8aの一部を切欠く断面円形の駒窓15が穿設され、この駒窓15に対応して断面略円形の駒部材14が嵌合されている。駒部材14の内方には、ねじ溝8aの隣合う1周分同士を連結する連結溝14aが形成され、この連結溝14aとねじ溝8aの略1周の部分とでボール12の転動路を構成している。転動路内のねじ溝8a、10a間に介在された多数のボール12は、ねじ溝8a、10aに沿って転動し、そして、駒部材14の連結溝14aに案内され、ねじ軸10のねじ山を乗り越えて隣接するねじ溝8aに戻り、再びねじ溝8a、10aに沿って転動する。
【0027】
駒部材14の連結溝14aは、ナット8の隣接するねじ溝8a、8a間を滑らかに接続するように略S字状に湾曲して形成されている。連結溝14aの深さは、ボール12が連結溝14a内でねじ軸10におけるねじ溝10aのねじ山を越えることができる深さとされている。
【0028】
このボールねじ4の各ねじ溝8a、10aの断面形状は、サーキュラアーク形状であってもゴシックアーク形状であっても良いが、ここではボール12との接触角が大きくとれ、かつアキシアルすきまを小さく設定できるゴシックアーク形状に形成されている。これにより、軸方向荷重に対する剛性が高くなり、かつ振動の発生を抑制することができる。
【0029】
駒部材14は、金属粉末を可塑状に調整し、射出成形機で成形される焼結合金からなる。この射出成形に際しては、まず、金属粉と、プラスチックおよびワックスからなるバインダとを混練機で混練し、その混練物をペレット状に造粒される。そして、造粒されたペレットが射出成形機のホッパに供給され、金型内に加熱溶融状態で押し込まれて成形される、所謂MIM(Metal Injection Molding)により成形されている。こうしたMIMによって成形される焼結合金であれば、加工度が高く複雑な形状であっても容易に、かつ精度良く所望の形状・寸法に成形することができる。
【0030】
金属粉としては、後に浸炭焼入が可能な材質、例えば、C(炭素)が0.13wt%、Ni(ニッケル)が0.21wt%、Cr(クロム)が1.1wt%、Cu(銅)が0.04wt%、Mn(マンガン)が0.76wt%、Mo(モリブデン)が0.19wt%、Si(シリコン)が0.20wt%、残りがFe(鉄)等からなるSCM415を例示することができる。駒部材14は浸炭焼入れによって表面硬さが30〜40HRCの範囲になるように硬化処理され、耐摩耗性が付与されている。
【0031】
駒窓15はナット8の両端部に一個ずつ設けられているが、本実施形態では、ねじ溝8aが切削加工により仕上げられた後に、これらの駒窓15がドリル加工によって下穴が粗加工され、駒窓15がボーリング加工によって仕上げられている。これにより、ねじ溝8aにおける駒窓15の縁部にバリが発生するのを防止することができので、バリ除去加工が不要となり、ねじ溝8aの研削加工を廃止することができる。一方、ねじ軸10のねじ溝10aは、転造加工によって形成されている。これにより、ボールねじ4の加工工数を低減させると共に、素材の歩留まりを向上させて低コスト化を図ることができる。
【0032】
図1において、電動モータ2に通電すると、モータ軸3の回転に伴ってナット8が回転し、このナット8の回転によりねじ軸10が軸方向(図中左右方向)に移動される。すなわち、このボールねじ4によりモータ軸3の回転運動がボールねじ4を介してねじ軸10の軸方向運動に変換される。
【0033】
ここで、本実施形態では、ナット8を支承する転がり軸受9が両端部にシール9aが装着された密封タイプの深溝玉軸受からなると共に、ブーツ11および転がり軸受9のシール9aがEPDM(エチレンプロピレンゴム)で成形されている。このEPDMは、エチレンとプロピレンおよび架橋用のジエンモノマーとの三元共重合体で、非共役ジエンモノマーである第3成分を共重合することで硫黄架橋(加硫)が可能となり、従来のクロロプレンゴムよりも優れた耐熱性を有すると共に、低コストでポリアクリルゴム相当の耐オゾン性、耐候性、耐薬品性を有している。具体的には、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエンゴム共重合体(主成分EPDM)100重合部と、硫黄0.1〜10重合部と、カーボンブラック25〜100重合部とを用い加硫してブーツ11およびシール9aが形成されている。
【0034】
一方、ボールねじ4のナット8内にグリースが保持され、このグリースによってボールねじ4が潤滑補助されている。そして、ボールねじ4に隣接するゴム部品、ここでは、EPDMからなるブーツ11および転がり軸受9のシール9aの耐グリース性を良好にするため、ポリグリコール系の基油からなるグリースが使用されている。また、転がり軸受9は、ボールねじ4と同様、ポリグリコール系の基油からなるグリースで潤滑されている。これにより、ボールねじ4から流出したグリースによってブーツ11および転がり軸受9のシール9aが膨潤して劣化するのを防止し、低コストで耐久性の向上を図ったボールねじ4を提供することができると共に、ボールねじ4に隣接する転がり軸受9の耐久性の向上を図ることができる。
【0035】
グリースには、例えば、高温用として酸化防止剤が、錆防止には防錆剤等の各種添加剤が添加されるが、極圧添加剤として、ジチオリン酸モリブデン等の有機モリブデン化合物やジチオカルバミン酸亜鉛等の有機亜鉛化合物からなる有機金属系極圧剤が添加されている。こうした潤滑補助機能を発揮する極圧添加剤を含有させることにより、グリースの潤滑性能が向上し、一層ボールねじ4の耐久性を向上させることができる。なお、極圧添加剤としては、これ以外にも、硫黄−リン系化合物やPTFE等の固体潤滑剤、あるいは、これらを併用したものを例示することができる。なお、グリースの増ちょう剤は、ポリウレア等の非石鹸系のウレア化合物からなる。これによりグリースの耐熱性が向上するが、これ以外にも、リチウムコンプレックス等の石鹸系であっても良い。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るボールねじは、自動車の電動アクチュエータ等に使用されるボールねじとして適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るボールねじが適用された電動リニアアクチュエータを示す縦断面図である。
【図2】(a)は、図1のボールねじを示す平面図である。 (b)は、(a)の縦断面図である。
【図3】従来のボールねじを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1・・・・・・・・・・・・・・電動リニアアクチュエータ
2・・・・・・・・・・・・・・電動モータ
2a・・・・・・・・・・・・・ステータ
2b・・・・・・・・・・・・・ロータ
2c・・・・・・・・・・・・・ブラシ
2d・・・・・・・・・・・・・整流子
3・・・・・・・・・・・・・・モータ軸
4・・・・・・・・・・・・・・ボールねじ
5、5a、5b、5c、5d・・ハウジング
6、7、9・・・・・・・・・・転がり軸受
8・・・・・・・・・・・・・・ナット
8a、10a・・・・・・・・・ねじ溝
8b・・・・・・・・・・・・・フランジ
8c・・・・・・・・・・・・・環状溝
9a・・・・・・・・・・・・・シール
10・・・・・・・・・・・・・ねじ軸
11・・・・・・・・・・・・・ブーツ
12・・・・・・・・・・・・・ボール
13・・・・・・・・・・・・・止め輪
14・・・・・・・・・・・・・駒部材
14a・・・・・・・・・・・・連結溝
15・・・・・・・・・・・・・駒窓
50・・・・・・・・・・・・・ボールねじ
51・・・・・・・・・・・・・案内軸
51a。52a・・・・・・・・ねじ溝
52・・・・・・・・・・・・・可動体
53・・・・・・・・・・・・・ボール
54・・・・・・・・・・・・・チューブ式循環路
54a・・・・・・・・・・・・チューブ式循環路の端部
55・・・・・・・・・・・・・チューブ取付孔
56・・・・・・・・・・・・・ボール転動空間
57・・・・・・・・・・・・・止め金
58・・・・・・・・・・・・・シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
このねじ軸に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記両ねじ溝により形成される転動路に収容された複数のボールと、
これらのボールを無限循環させる循環用部材とを備え、所定のグリースにより潤滑されるボールねじにおいて、
前記ボールねじに隣接するシールがEPDMで成形されると共に、前記グリースがポリグリコール系の基油からなることを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記グリースに有機金属系極圧剤または固体潤滑剤またはこれらが併用して添加されている請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
電動モータと、
中空状のモータ軸の一端部に同軸状に配設された前記請求項1または2に記載のボールねじと、
ハウジングに対して前記モータ軸を回転自在に支承する一対の転がり軸受と、
前記ハウジングとボールねじのナットとの間に嵌合された転がり軸受と、
前記ハウジングとボールねじのねじ軸との間に装着されたシールとを備えた電動リニアアクチュエータにおいて、
前記ナットが、前記モータ軸の端部に圧入固定され、前記ハウジングに対して前記転がり軸受を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承されると共に、
前記ねじ軸が前記モータ軸に進退自在に配され、軸方向移動自在に、かつ回転不可に支承され、前記シールがEPDMからなるブーツで構成されていることを特徴とする電動リニアアクチュエータ。
【請求項4】
前記循環用部材が、前記ナットの胴部に穿設された駒窓に嵌合され、前記転動路を周回経路とし、前記ナットの隣接するねじ溝間を接続する連結溝が形成された駒部材で構成されている請求項3に記載の電動リニアアクチュエータ。
【請求項5】
前記駒窓が断面円形に形成され、この駒窓に対応して前記駒部材が断面円形に形成されると共に、前記駒窓がボーリング加工によって所定の寸法に形成された仕上げ面で構成されている請求項3または4に記載の電動リニアアクチュエータ。
【請求項6】
前記ナットを支承する転がり軸受が両端部にシールが装着された密封タイプの深溝玉軸受からなり、前記シールがEPDMで形成されると共に、当該転がり軸受が、ポリグリコール系の基油からなるグリースで潤滑されている請求項3乃至5いずれかに記載の電動リニアアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−298107(P2008−298107A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141996(P2007−141996)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】