説明

ボールねじアクチュエータ

【課題】ナットの外周に電動モータの回転子が嵌合されているにもかかわらずナットの真円度が高く、且つ少ない工程数で製造可能であり、十分な強度を有するナットを備えるボールねじアクチュエータを提供する。
【解決手段】ボールねじアクチュエータは、電動モータとボールねじとを備える。ボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、ボールをボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路とを備え、ナットが電動モータにより回転駆動されるようになっている。そして、ボール循環路はナットと一体に形成され、ナットの外周には、電動モータの回転子が圧入嵌合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品、位置決め装置・機械に用いられる、ボールねじを備えるアクチュエータであり、特にブレーキ装置に好適に使用できるアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボールねじを用いたアクチュエータとして、回転軸を介してナットを回転駆動する構成が知られている(例えば特許文献1を参照)。これに対し、コンパクト化の観点から、ボールねじのボールの循環を内部循環方式(コマ式)で行うことが好ましいとされ、また、電動モータの回転子をナットの外周に直接取り付けることが好ましいとされてきた。
このナットへの回転子の取付については、圧入や、ロックナットによる固定(例えば特許文献2を参照)、スプライン嵌合(例えば特許文献3を参照)等により、回転子をコマ式のボールねじナットに直接取り付けることが行われてきた。
【0003】
しかしながら、圧入やロックナットによる固定では、回転子をナットに固定すると、ナットに圧縮荷重が負荷される。コマ式ボールねじの場合、ナットの内周と外周を貫通するコマ孔が設けられているため、前記荷重による変形はナットの周方向及び軸方向に一様ではない。この周方向における変形の不均一のため、ナットの真円度が変化して、ボールねじの耐久性や音響性が損なわれる危険性があった。また、これを避けるために工数が必要となり、コマの外周に回転子を設けないようにする等の設計上の不自由が生じる場合があった。これに対し、スプライン嵌合の場合には上記の懸念は少ないが、加工工程が増加するという問題があった。
【0004】
また、特許文献4のように、循環溝一体のナットを焼結により形成すれば、コマ孔による圧縮荷重の不均一は生じない。しかしながら、焼結体は通常のボールねじ用鋼材に比べて変形しやすく、圧入嵌合には適さないという問題があった。また、材料欠陥や不純物が多いため転動面がフレーキングし易く、長寿命且つ高信頼性を要求されるブレーキ用途には不適当であるという問題があった。
さらに特許文献4の製造方法では、型抜きでナットを製造するため、ナットの内周面全周に渡り雌ねじ溝が形成されている。即ち、ボールが転走しない雌ねじ溝が存在する。そのため、その雌ねじ溝が存在しない場合と比べて、ナットの強度が低くなるという問題があった。なお、上記と同様のことが、軸受をナットに嵌合する場合にも言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4182726号公報
【特許文献2】特開平11−270641号公報
【特許文献3】特開2007−132493号公報
【特許文献4】特開2000−297854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に鑑み、本発明は、ナットの外周に電動モータの回転子が嵌合されているにもかかわらずナットの真円度が高く、且つ少ない工程数で製造可能であり、十分な強度を有するナットを備えるボールねじアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
すなわち、本発明の一態様に係るボールねじアクチュエータは、電動モータとボールねじとを備えるボールねじアクチュエータにおいて、前記ボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路とを備え、前記ナットが前記電動モータにより回転駆動されるようになっており、前記ボール循環路は前記ナットと一体に形成され、前記ナットの外周には、前記電動モータの回転子が圧入嵌合されていることを特徴とする。なお、「ボール循環路はナットと一体に形成されている」とは、「ボール循環路が、ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている」ことを意味する。
【0008】
また、このボールねじアクチュエータは、前記ねじ軸の軸方向運動によりブレーキ装置の摩擦パッドを移動させることが好ましい。
さらに、このボールねじアクチュエータは、前記ボール循環路を塑性加工により形成したものであることが好ましい。
この塑性加工は、円筒状のナット素材に内挿され、その軸方向に沿って移動するカムドライバと、前記ナット素材と前記カムドライバとの間に配置され、前記ボール循環路に対応する凸部が形成され、前記カムドライバの移動により前記凸部が前記ナットの径方向に移動するカムスライダと、を有するカム機構の金型を用いたプレス法を用いて行うことができる。
【0009】
また、前記ナットがクロム鋼、クロムモリブデン鋼、又は炭素の含有量が0.4質量%以上0.6質量%以下の炭素鋼のいずれかで形成されることが好ましい。
また、前記ボール循環路の一端から他端までを連結する部分にのみ前記ナットのねじ溝が形成されていることが好ましい。
さらに、前記ナットの外周面のうち、前記ナットの内周面に形成されている前記ねじ溝および前記ボール循環路に対向する部分を全て覆うように、前記電動モータの回転子が前記ナットの外周に圧入嵌合されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のボールねじアクチュエータは、コマ式ナットのようにナットの内外周面を貫通するコマ孔がないため、ナットの外周に電動モータの回転子が圧入嵌合されているにもかかわらずナットの真円度が高く、且つ少ない工程数で製造可能であり、十分な強度を有するナットを備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るボールねじアクチュエータ及びブレーキ装置の軸方向断面図である。
【図2】ボール循環路の形成方法を説明する図である。
【図3】ボール循環路の形成に用いる金型を説明する図である。
【図4】ボール循環路の形成に用いる金型を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本実施形態に係るボールねじアクチュエータを用いたブレーキ装置の構成を示す断面図である。図中、符号1は、車両の非回転部分に設けられる取付部材としてのキャリアである。該キャリア1は、例えば車両の非回転部分(図示せず)にボルト等を介して固着され、ディスク2の軸方向(インナ側からアウタ側)に向けて延びる一対の腕部(図示せず)を有している。
【0013】
キャリア1の各腕部は、車両の車輪(図示せず)と一体に回転するディスク2の外周側を跨ぎ、該ディスク2の軸方向両側で後述の各摩擦パッド24を摺動可能に支持する構成となっている。また、キャリア1には、ディスク2のアウタ側で各腕部間を一体に連結するアーチ状の補強部1Bが設けられ、該補強部1Bはキャリア1全体の剛性を高めるものである。
【0014】
キャリパ6は、キャリア1に対してディスク2の軸方向に変位可能に取付られ、ディスク2の一側(インナ側)に位置したインナ脚部7と、ディスク2の他側(アウタ側)に位置するアウタ脚部としての爪部8と、ディスク2の外周側を跨いでインナ脚部7をアウタ側の爪部8に一体に連結したブリッジ部9とから大略構成され、インナ脚部7の一端側には蓋体10が設けられている。
【0015】
本実施形態に係るボールねじアクチュエータ11はキャリパ6のインナ脚部7内に設けられ、該ボールねじアクチュエータ11は電動モータ12と後述のボールねじ機構17等とから構成されている。そして、電動モータ12は例えば直動型のモータ(DDモータ(ダイレクトドライブモータ))からなり、インナ脚部7の内壁側に固定された巻線等からなる固定子13と、該固定子13の径方向内側に設けられた回転子14とによって構成されている。
また、電動モータ12の回転子14は、後述のナット筒19の外周側に設けられたマグネット15等から構成されている。そして、電動モータ12は、外部配線16を介して固定子13側に通電を行うことにより、回転子14をインナ脚部7内で正方向,逆方向に回転駆動するものである。
【0016】
即ち、車両の運転者がブレーキペダル(図示せず)を踏込み操作すると、このときの操作量に対応した信号がブレーキ制御用のコントローラ(図示せず)に出力される。このコントローラは、前記操作量に対応した回転角または回転トルクをもって電動モータ12を回転させるように制御信号を出力し、固定子13の巻線には外部配線16を通じて給電が行われる。そして、電動モータ12の固定子13は、コントローラからの給電により回転子14を回転駆動し、ピストン21をディスク2の軸方向に変位させるものである。
【0017】
ボールねじ機構17は、電動モータ12と共に押圧力発生手段としてインナ脚部7内に設けられている。該ボールねじ機構17は、インナ脚部7内に軸受18を介して回転可能に設けられ、螺旋状をなすねじ溝19Dが内周側に形成された段付筒状のナット筒19と、循環可能な複数のボール(図示せず)を介してナット筒19のねじ溝19Dに螺合された筒状のねじ軸からなるピストン21とによって構成されている。
【0018】
回転子14を外周面に圧入嵌合させたナット筒19は、その一端側は蓋体10に近接する位置までインナ脚部7内を軸方向に延びている。また、ナット筒19の他端側には、径方向外向きに突出し、固定子13の内径寸法にほぼ対応する外径を有した環状の鍔部19Bが設けられている。そして、該鍔部19Bの外周側には軸受18が配されており、この軸受18は鍔部19Bとインナ脚部7との間に圧入固定されている。
【0019】
一方、ピストン21の外周面には、ねじ溝19Dに対応する一定のリード角度をもった螺旋状溝21Aが形成され、該螺旋状溝21Aとナット筒19のねじ溝19Dとの間には、各ボールが転動可能に収容されている。そして、ボールねじ機構17は、電動モータ12によりナット筒19が回転されるときに、該ナット筒19の回転をピストン21の軸方向変位に変換し、ナット筒19の回転に対してピストン21に大きな軸方向駆動力を発生させるものである。
【0020】
なお、ピストン21の軸方向駆動力をより大きくする場合には、螺旋状溝21A等のリード角度を小さくすればよく、これによって電動モータ12の回転負荷(トルク)をより小さくすることが可能となる。このピストン21がインナ側の摩擦パッド24に背面側から当接し、ピストン21の軸方向変位に従ってインナ側の摩擦パッド24をディスク2の一側面に押圧する構成となっている。
【0021】
摩擦パッド24,24はディスク2の両面側に配設され、ブレーキ操作を行ったときには、各摩擦パッド24のうちインナ側の摩擦パッド24が、ピストン21によりディスク2の一側面に向けて押圧される。また、アウタ側の摩擦パッド24は、このときの押圧反力でキャリパ6全体がキャリア1に対して図1中の矢示A方向に摺動変位することにより、キャリパ6の爪部8と共にディスク2の他側面に向けて押圧される。そして、各摩擦パッド24はディスク2を両面側から強く挟持することにより、回転しているディスク2に対して制動力を与えるものである。
【0022】
次に、上述の構成のブレーキ装置のボールねじアクチュエータ11における特徴部分を説明する。
ボールねじアクチュエータ11のナット筒19は、前述のように、ピストン21の外周に形成された螺旋状溝21Aに対向する螺旋状のねじ溝19Dを、ねじ穴19Aの内周面に有する。また、螺旋状溝21Aとねじ溝19Dとの間に転動自在に装填された複数のボール(図示せず)を、ボール転動領域の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路19Cを備える。
【0023】
ボール循環路19Cは、ナット筒19の内側から見た場合はS字状の凹溝であり、ナット筒19と一体に形成されている。なお、「ボール循環路19Cがナット筒19と一体に形成されている」とは、「ボール循環路19Cが、ナット筒19の内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている」ことを意味する。
ボールは、ボール転動領域を移動しつつピストン21の回りを回ってボール転動領域の終点に至り、そこでボール循環路19Cの一方の端部から掬い上げられてボール循環路19C内を通り、ボール循環路19Cの他方の端部からボール転動領域の始点に戻されるようになっている。
【0024】
ボール循環路19Cをナット筒19と一体とすることにより、コマ式ナットのようなナット筒19の内外周面を貫通するコマ孔がない。そのため、回転子14をナット筒19に圧入しても、ナット筒19の真円度が損なわれ難いため、真円度の変化に対し特別注意を要さない構成が可能となる。また、ナット筒19の真円度が高いため、ナット筒19や回転子14の回転による振れ回りが抑制され、ナット筒19の耐久性・音響性が損なわれにくい。
さらに、ボール循環路19Cがナット筒19と一体に形成されているので、ナット筒19は薄肉である場合でも剛性が高い。そのため、従来のナットと比較すると、コンパクト化や軽量化が可能であるため、コンパクトなボールねじアクチュエータを簡単に得ることができる。
【0025】
さらに、ナット筒19にはコマ孔(貫通孔)が形成されていないため、後述する熱処理による変形が生じにくい。
ここで、前述のナット筒19に形成されたねじ溝19Dは、ボール転動領域以外には設けられていない。すなわち、必要な部分にのみねじ溝19Dが形成されており、全周にねじ溝19Dを形成した場合のように不要な部分(ボールが転走しない部分)にはねじ溝19Dは形成されていないので、ナットは十分な強度を有している。
【0026】
図1のような、キャリパ6にボールねじを内蔵するタイプのブレーキ装置では、小さなスペースに収納可能なボールねじアクチュエータが求められているが、上記のような構成のナット筒19を備えるボールねじアクチュエータを用いることにより、省スペース化を実現できる。
なお、ボールねじアクチュエータ11においては、ナット筒19の外周面のうち、ナット筒19の内周面に形成されているねじ溝19Dおよびボール循環路19Cに対向する部分を全て覆うように、電動モータ12の回転子14がナット筒19の外周に圧入嵌合されている構成としてもよい。
【0027】
回転子14の圧入により、ねじ溝19Dおよびボール循環路19Cに寸法変化(変形)が生じるおそれがあるが、上記のような構成とすれば、全てのねじ溝19Dおよびボール循環路19Cの寸法変化をほぼ同一とできる。そのため、ねじ溝19Dとボールとの接触状態を全てのねじ溝19Dにおいてほぼ同一とすることができるとともに、ボール循環路19Cとボールとの接触状態を全てのボール循環路19Cにおいてほぼ同一とすることができる。その結果、ボールねじアクチュエータ11の作動性の悪化、寿命の低下、音響性・振動の悪化が抑制される。
【0028】
(製造方法)
次に、上述のナット筒19を形成する方法を説明する。
まず、円筒素材に塑性加工、除去加工等を施すことにより、外周形状を成形したナット素材を形成し、その後、図2、3、4に示す方法で冷間鍛造によりナット素材にボール循環路19Cを形成する。以下、この鍛造方法を説明する。
【0029】
この方法で使用する金型は、図2に示すように、ナット素材101を保持する凹部121を有する素材ホルダ102と、ナット素材101の内部に挿入する筒状部材(後述のカムスライダの保持部材)105と、筒状部材105の中心穴151に挿入するカムドライバ106と、筒状部材105の貫通穴152,153に配置されるカムスライダ107,108とを有する。
【0030】
カムドライバ106は、図3に示すように、長尺な板状に形成された本体部161と円柱状の先端部162とからなる。本体部161の一側面は、先端部162側から、軸方向と平行な第一の平行面161a、軸方向に対して傾斜している斜面161b、第二の平行面161cとなっている。本体部161の他側面は、先端部162側から、軸方向に対して傾斜している斜面161d、軸方向と平行な平行面161eとなっている。他側面の斜面161dと平行面161eとの境界は、一側面の平行面161aと斜面161bとの境界より少し先端部162側にある。先端部162をなす円柱の直径は、本体部161の下端(先端部62側)の幅と同じである。
【0031】
筒状部材105は、ナット素材101の内周面よりも直径が僅かに小さい外周面を有する。図4(a),(b)に示すように、筒状部材105の中心穴151は、軸方向で形状が変化する矩形の断面形状を有する。この中心穴151を形成する面として、軸方向と平行な平行面151a〜151eが形成されている。
平行面151a〜151cは、カムドライバ106の一側面が配置される面であり、平行面151aと平行面151bとの間に、段部151fが形成されている。貫通穴152は、この段部151fを下端として筒状部材105の径方向に貫通している。平行面151d,151eは、カムドライバ106の他側面が配置される面であり、平行面151dの平行面151cと対向する位置に、筒状部材105の径方向に貫通する貫通穴153が形成されている。平行面151dと平行面151eとの境界をなす段部151gが、貫通穴153の下端となっている。
【0032】
カムスライダ107,108は略台形柱状の部材であって、カムドライバ106の斜面161b,161dに平行な斜面171,181を有し、斜面171,181の反対側が、図4(c)に示すように、ナット素材101の内周面111をなす円111aに対応する円周面172,182となっている。この円周面172,182に、ボール循環路19Cに対応するS字状凸部173,183が形成されている。
【0033】
カムドライバ106の本体部161の軸方向寸法は、筒状部材105の軸方向寸法より長い。カムスライダ107の斜面171とカムドライバ106の斜面161b、およびカムスライダ108の斜面181とカムドライバ106の斜面161dが、金型のカム機構を構成する。
カムドライバ106の平行面161cと筒状部材105の平行面151a、カムドライバ106の平行面161aと筒状部材105の平行面151c、カムドライバ106の平行面161eと筒状部材105の平行面151dが、それぞれ互いに接触する荷重受け面となっている。
【0034】
素材ホルダ102の底板部の中心に、カムドライバ106の先端部162が入る円穴122bと、カムドライバ106の本体部161の先端部162側が入る矩形穴122cが、連続する貫通穴として形成されている。
この金型を用い、以下の方法で、ナット素材101の内面にボール循環路19Cを形成する。
【0035】
先ず、素材ホルダ102の凹部121にナット素材101を配置した後、ナット素材101の内部に、カムスライダ107,108が凸部173,183を外側に向けて貫通穴152,153に保持された筒状部材105を挿入する。次に、筒状部材105の中心穴151に先端部162側からカムドライバ106を挿入し、カムドライバ106の先端部162を、素材ホルダ102の貫通穴122b,122cに入れる。図2(a)はこの状態を示す。
【0036】
次に、プレス圧を掛けてカムドライバ106を上から押すと、カムドライバ106の斜面161bからカムスライダ107の斜面171に、カムドライバ106の斜面161dからカムスライダ108の斜面181に、それぞれ力が伝達される。これに伴い、カムドライバ106の下向きの力がカムスライダ107,108をそれぞれ径方向外側へ動かす力に変換されて、カムスライダ107,108に形成されたS字状凸部173,183が、ナット素材101の内周面111を押して塑性変形させる。図2(b)は、この状態を示す。
【0037】
これにより、ナット素材101の内周面111に、S字状凸部173,183の形状に対応するS字状の凹溝が形成されて、二つのボール循環路19C、19Cが形成される。その際に、カムドライバ106の先端部162は素材ホルダ102の底部材122の貫通穴122bに案内される。また、カムスライダ107に伝達された径方向の力の反力を、筒状部材105の平行面151dとカムドライバ106の平行面161eが接触することで受ける(反力の延長線上の、反力に垂直な面で受ける)。また、カムスライダ108に伝達された径方向の力の反力を、筒状部材105の平行面151cとカムドライバ106の平行面161aとの接触、および筒状部材105の平行面151aとカムドライバ106の平行面161cとの接触で受ける(反力の延長線上の、反力に垂直な面で受ける)。そのため、カムドライバ106が受ける曲げモーメントを小さくすることができる。
【0038】
この方法によれば、軸方向寸法が長く内径が小さいナットを製造する場合でも、カムドライバ106に破損を生じさせずに、二つのボール循環路19C,19Cを同時に形成することができる。なお、簡単のために、ボール循環路を二つ形成する場合を例にとり説明したが、カムスライダを三つ以上にして、三つ以上のボール循環路を形成することもできる。また、カムスライダを一つのみ用い、上述のような金型を用いて複数のボール循環路を一つずつ形成しても良い。
【0039】
また、ナット素材101の内径が同じであれば円筒部材105とカムドライバ106は共通部品として使用でき、S字状凸部173,183の形状等が異なるカムスライダ107,108を用意することで、形状が異なる多種のボール循環路を形成できるため、少量多品種を生産する方法としても好適である。また、摩耗、変形が最も生じ易いS字状凸部の交換をカムスライダ107,108のみの交換で行えるため、メンテナンスの面での利点も有する。
さらに、上述のような方法に限らず、冷間鍛造でボール循環路を形成することによる加工硬化により、ボール循環路周辺の強度を向上することができる。また、金型の表面の粗さを小さくすることで、内面の粗さの小さいボール循環路を形成することができる。そのため、仕上げ加工を要することなく、ボールの循環性を向上できる。
【0040】
上記のような方法で、冷間鍛造によりボール転走領域にのみボール循環路を形成した後、切削加工によりナット筒19の内周面にねじ溝19Dを形成する。その後、ナット筒19に熱処理を施す。この熱処理が浸炭処理又は浸炭窒化処理である場合は、ナット筒19の材質は、炭素の含有量が0.10質量%以上0.25質量%以下のクロム鋼又はクロムモリブデン鋼(例えばSCM420、SCM415)であることが好ましい。また、熱処理が高周波焼入れである場合は、炭素の含有量が0.4質量%以上0.6質量%以下の炭素鋼(例えばS53C,SAE4150)であることが好ましい。このような材料を用いることにより、十分な強度のナットを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明では、コマ孔のような貫通孔がなく、ナット筒の外周は均一な円筒形状であるため、ナット筒に磁性材を使用しても、磁束の乱れを小さくすることができる。また、必要に応じて着磁、脱磁することもできる。
本発明に係るボールねじアクチュエータは、上述のブレーキ装置以外にも好適に用いることができる。また、当業者が容易に想到できる範囲内で、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 キャリア
1B 補強部
2 ディスク
24 摩擦パッド
6 キャリパ
7 インナ脚部
8 爪部
9 ブリッジ部
10 蓋体
11 電動アクチュエータ
12 電動モータ
13 固定子
14 回転子
15 マグネット
16 外部配線
17 ボールねじ機構
18 軸受
19 ナット筒
19A ねじ穴
19B 鍔部
19C ボール循環路
19D ねじ溝
21 ピストン
21A 螺旋状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータとボールねじとを備えるボールねじアクチュエータにおいて、
前記ボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路とを備え、前記ナットが前記電動モータにより回転駆動されるようになっており、
前記ボール循環路は前記ナットと一体に形成され、前記ナットの外周には、前記電動モータの回転子が圧入嵌合されていることを特徴とするボールねじアクチュエータ。
【請求項2】
前記ねじ軸の軸方向運動によりブレーキ装置の摩擦パッドを移動させることを特徴とする請求項1に記載のボールねじアクチュエータ。
【請求項3】
前記ボール循環路を塑性加工により形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のボールねじアクチュエータ。
【請求項4】
円筒状のナット素材に内挿され、その軸方向に沿って移動するカムドライバと、
前記ナット素材と前記カムドライバとの間に配置され、前記ボール循環路に対応する凸部が形成され、前記カムドライバの移動により前記凸部が前記ナットの径方向に移動するカムスライダと、
を有するカム機構の金型を用いたプレス法により、前記ボール循環路を形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のボールねじアクチュエータ。
【請求項5】
前記ナットがクロム鋼、クロムモリブデン鋼、または炭素の含有量が0.4質量%以上0.6質量%以下の炭素鋼のいずれかで形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のボールねじアクチュエータ。
【請求項6】
前記ボール循環路の一端から他端までを連結する部分にのみ前記ナットのねじ溝が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のボールねじアクチュエータ。
【請求項7】
前記ナットの外周面のうち、前記ナットの内周面に形成されている前記ねじ溝および前記ボール循環路に対向する部分を全て覆うように、前記電動モータの回転子が前記ナットの外周に圧入嵌合されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のボールねじアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−76462(P2013−76462A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162868(P2012−162868)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】