ボールねじ装置の中間サポート
【課題】 支持軸受との間の距離(支持スパン)を短縮できるのは勿論のこと、簡単な構造で位置ずれやねじ軸に過大な負荷を与えることがないボールねじ装置の中間サポートを提供する。
【解決手段】 ボール溝2を有するねじ軸1と、ボール溝2にボールを介して螺合されるボールねじナットと、該ボールねじナットとねじ軸1との間でボールを循環させる循環機構とを備えたボールねじ装置のねじ軸1に取り付けられる中間サポートであって、ねじ軸1のボール溝2にボール21を介して螺合され、該ねじ軸1の回転によって軸方向に移動可能とされたサポート用ナット20aとこのナット20aを案内する案内機構を構成する部材との間にクラッチ機構30を設け、このクラッチ機構30を締結状態とすることにより、サポート用ナット20aと案内機構とが一体化するが、非締結状態とすることによりサポート用ナット20aが空転状態となる。
【解決手段】 ボール溝2を有するねじ軸1と、ボール溝2にボールを介して螺合されるボールねじナットと、該ボールねじナットとねじ軸1との間でボールを循環させる循環機構とを備えたボールねじ装置のねじ軸1に取り付けられる中間サポートであって、ねじ軸1のボール溝2にボール21を介して螺合され、該ねじ軸1の回転によって軸方向に移動可能とされたサポート用ナット20aとこのナット20aを案内する案内機構を構成する部材との間にクラッチ機構30を設け、このクラッチ機構30を締結状態とすることにより、サポート用ナット20aと案内機構とが一体化するが、非締結状態とすることによりサポート用ナット20aが空転状態となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置の中間サポートの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置を構成するねじ軸の回転数が該ねじ軸の固有振動数に近くなると、共振を起こして激しく振動し、振幅が増大するようになって危険である。このときの回転速度を危険速度といい、この危険速度はねじ軸の支持スパンの2乗に反比例するため、該支持スパンは短いほど好ましい。
【0003】
ところで、NC制御の平面研削盤などのようにテーブルストロークが長い場合には、テーブルを送るねじ軸が長くなって該ねじ軸の支持スパンが長くなるので、危険速度が低い回転域となる。一方、送り速度の高速化に伴いねじ軸が高回転で使用されるが、この場合、危険速度が低い回転域だと上述した共振を避けることができない。また、ねじ軸の回転時に、ねじ軸の自重たわみ等によってボールねじナットやねじ軸の端部にラジアル荷重が作用し、ねじ軸に過大な繰り返し荷重(回転曲げ応力)が加わってボールねじの寿命に悪い影響を及ぼす。
【0004】
そこで、従来においては、ねじ軸の中間部を支持する中間サポートを設けて支持スパンを短くし、これにより、ねじ軸を多点で支持して危険速度を安全側の高い回転域にすると共に、ねじ軸の自重たわみ等を減少させるようにしている。従来のこの種の中間サポートとしては、例えば、実開平2−4736号公報に示すように、ねじ軸の両端部を支持する支持軸受間に中間サポートを構成する二個のすべり軸受を互いに連結した状態でねじ軸の軸方向に移動自在に取り付けて、各すべり軸受の間にねじ軸の回転によって移動するボールねじナットを位置せしめ、そして、各すべり軸受の内の一方のすべり軸受にねじ軸の回転によって移動するボールねじナットが当接した場合には該一方のすべり軸受がボールねじナットに押されて該ボールねじナットと共に移動するようにしたものが知られている。
【0005】
しかしながら、かかる中間サポートにおいては、構造は比較的簡単であるが、ボールねじナットがいずれかのすべり軸受に当接してから移動するようになっているので、ボールねじナットが各すべり軸受の中間位置にある間は、該ボールねじナットがすべり軸受に当接するまで該すべり軸受と支持軸受との間の距離(支持スパン)を短縮することができず、危険速度をあまり高くすることができないという問題がある。
【0006】
そこで、かかる問題を解消すべく、特開平6−129510号公報に示すように、ねじ軸に螺合された中間サポートナットと、ねじ軸と平行に設けられた補助ねじ軸と、該補助ねじ軸に螺合されて補助ねじ軸の回転によって軸方向に移動する補助ナットと、軸方向に移動自在に設けられて、中間サポートナットを回転自在に支持するとともに、補助ナットを回転不能に支持する中間サポートフレームとを備え、補助ねじ軸及びねじ軸のねじピッチを同一にして補助ねじ軸の回転数をねじ軸の回転数より少なくすることにより、中間サポートナットがねじ軸の回転に影響されずに補助ねじ軸の回転のみによってねじ軸に螺合されたボールねじナットと独立して移動できるようにし、これにより、中間サポートナットと支持軸受との間の距離(支持スパン)の短縮を可能にしたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平2−4736号公報
【特許文献2】特開平6−129510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、かかる従来技術においては、中間サポートナットの他に、補助ねじ軸、補助ナット、中間サポートフレーム及び補助ねじ軸を回転駆動する駆動装置等が必要になるため、構造が複雑になるとともに、コスト高になるという不都合がある。
【0009】
本発明はかかる不都合を解消するためになされたものであり、ボールねじナットと独立して移動できるようにして支持軸受との間の距離(支持スパン)を短縮できるのは勿論のこと、簡単な構造で且つ低コストで製作することができるとともに、中間サポートの移動が規制された場合にボールねじに伝達される負荷を低減させることが可能であるとともに、中間サポートの位置ずれの補正が容易であり、さらにねじ溝の磨耗を軽減して寿命を長期化させることが可能なボールねじ装置の中間サポートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、請求項1に係るボールねじ装置の中間サポートは、外周面に螺旋状のボール溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に遊嵌される内周面に前記ねじ軸のボール溝に対応するボール溝を有するボールねじナットと、前記両ボール溝間に転動可能に嵌合された多数のボールとを備え、該ボールが前記ボールねじナットに嵌合されたボール循環部品に案内されて循環するボールねじ装置の前記ねじ軸に取り付けられるとともに、前記ボールねじナットの移動速度より遅い速度で移動する中間サポートであって、
前記ねじ軸のボール溝にボールを介して螺合され且つリード角が0°又はその近傍の値に設定されたボール溝を有するサポート用ナットと、該サポート用ナットを前記ねじ軸と平行に案内する案内機構と、該案内機構及び前記サポート用ナット間に介挿されたクラッチ機構とを備え、前記案内機構は、前記サポート用ナットを回動可能に配設した円筒状のナットハウジングと、該ナットハウジングの両端に夫々固定された位置規制板とを少なくとも有して構成され、前記クラッチ機構は、前記サポート用ナットの前記位置規制板との対向面に軸芯を中心とする同一円上に所定間隔を保って形成された係合凹部と、該係合凹部に対向して前記位置規制板側に形成された貫通孔内に配設された弾性体によって当該係合凹部側に付勢されたボールと、前記貫通孔の前記サポート用ナットとは反対側の端面に螺合された押ねじとで構成されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係るボールねじ装置の中間サポートは、外周面に螺旋状のボール溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に遊嵌される内周面に前記ねじ軸のボール溝に対応するボール溝を有するボールねじナットと、前記両ボール溝間に転動可能に嵌合された多数のボールとを備え、該ボールが前記ボールねじナットに嵌合されたボール循環部品に案内されて循環するボールねじ装置の前記ねじ軸に取り付けられるとともに、前記ボールねじナットの移動速度より遅い速度で移動する中間サポートであって、前記ねじ軸のボール溝にボールを介して螺合され且つリード角が0°又はその近傍の値に設定されたボール溝を有するサポート用ナットと、該サポート用ナットを前記ねじ軸と平行に案内する案内機構と、該案内機構及び前記サポート用ナット間に介挿されたクラッチ機構とを備え、前記サポート用ナットのボールは、前記ねじ軸に形成された前記ボールねじナットが螺合するボールねじ溝とは異なるボールねじ溝に螺合され、前記案内機構は、前記サポート用ナットを回動可能に配設した円筒状のナットハウジングと、該ナットハウジングの両端に夫々固定された位置規制板とを少なくとも有して構成され、前記クラッチ機構は、前記サポート用ナットの前記位置規制板との対向面に軸芯を中心とする同一円上に所定間隔を保って形成された係合凹部と、該係合凹部に対向して前記位置規制板側に形成された貫通孔内に配設された弾性体によって当該係合凹部側に付勢されたボールと、前記貫通孔の前記サポート用ナットとは反対側の端面に螺合された押ねじとで構成されていることを特徴とする。
【0012】
ここで、ねじ軸のボールねじ溝は、多条ねじ溝に形成し、このうちの少なくとも1条のねじ溝にサポート用ナットのボールを螺合させ、残りのねじ溝にボールねじナットのボールを螺合させることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、ねじのボール溝にボールを介して螺合されたサポート用ナットと、該サポート用ナットをねじ軸と平行に案内する案内機構との間にクラッチ機構を介挿したので、クラッチ機構を締結状態とすることにより、サポート用ナットと案内機構とを一体化させてねじ軸の回転に伴ってサポート用ナットを移動させ、非締結状態とすることにより、サポート用ナットを空転させて、サポート用ナットの移動を停止させることができ、サポート用ナットの位置調整を自在に行うことができるとともに、サポート用ナットの移動が規制されたときに、係合凹部とこれに係合する弾性体で押圧されているボールとの係合状態を離脱して、ねじ軸に過大な負荷を与えることを確実に防止することができるという効果が得られる。
また、請求項2に係る発明によれば、請求項1に係る発明の効果に加え、サポート用ナットのボールは、前記ねじ軸に形成された前記ボールねじナットが螺合するボールねじ溝とは異なるボールねじ溝に螺合されているので、サポート用ナットのボールによるボールねじナットのねじ溝の磨耗を確実に防止することができ、ねじ軸の寿命を長期化させることができる共に、サポート用ナットに最適なねじ溝設計を行うことができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態であるボールねじ装置の中間サポートを直動案内装置に使用した例を示す概略図である。
【図2】中間サポートのクラッチ機構を拡大して示す断面図である。
【図3】サポート用ボールねじナットの側面図である。
【図4】図2の左側面図である。
【図5】サポート用ボールねじナットの軸方向の移動速度を求める式の説明に用いる説明図である。
【図6】中間サポートの動作を説明するための説明図である。
【図7】第1の実施形態の動作の説明に供する図1と同様の概略図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるボールねじ装置の中間サポートを直動案内装置に使用した例を示す概略構成図である。
【図9】第2の実施形態における中間サポートの断面図である。
【図10】図9の左側面図である。
【図11】第2の実施形態における動作の説明に供する図8と同様の概略構成図である。
【図12】第2の実施形態における制御装置の一例を示すブロック図である。
【図13】本発明の第3の実施形態を示す中間サポートの断面図である。
【図14】第3の実施形態に適用し得るサポート用ボールねじナットのボール溝とねじ軸のボール溝との間に介在されるボールがサポート用ボールねじナットのボール溝側で1点、ねじ軸のボール溝側で2点で接触している状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態の一例を図を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態の一例であるボールねじ装置の中間サポートを直動案内装置に使用した例を示す概略図、図2は中間サポートのクラッチ機構を拡大して示す断面図、図3はサポート用ボールねじナットの側面図、図4は図2の左側面図、図5はサポート用ボールねじナットの軸方向の移動速度を求める式の説明に用いる説明図、図6は中間サポートの動作を説明するための説明図である。
【0016】
まず、説明の便宜上、直動案内装置から先に説明すると、図1において符号1はボールねじ装置の比較的長尺なねじ軸であり、このねじ軸1は外周面に螺旋状のボール溝(2条ねじ)2を有している。ねじ軸1には、内周面にねじ軸1のボール溝2に対応するボール溝(図示せず。)を有するボールねじナット3が遊嵌されている。ねじ軸1のボール溝2とボールねじナット3のボール溝との間には多数のボール(図示せず。)が転動可能に嵌合されており、該ボールはボールねじナット3に嵌合されたボール循環部品(図示せず。)に案内されて循環するようになっている。
【0017】
ねじ軸1の両端部はベッド4に取り付けられた二個の軸受ハウジング5a,5b内の支持軸受(図示せず。)によって回転自在に支持されるとともに、一方(左方)の軸端はカップリング6を介してステップモータ等で構成される回転駆動装置7に連結されている。また、ボールねじナット3は、ナットハウジング8内に嵌合され、このナットハウジング8の下部が例えばリニアガイドで構成される送り案内9によってねじ軸1の円周方向の回転が規制された状態で左右方向に案内され、また、ナットハウジング8の上部にテーブル10が取り付けられている。
【0018】
次に、本発明の実施の形態の一例である中間サポートについて説明する。この中間サポートは、ボールねじナット3の軸方向の両側位置でねじ軸1のボール溝2にボール21(図2参照)を介して螺合された一対のサポート用ボールねじナット20a,20bを備える。サポート用ボールねじナット20a,20bは共に構成が同一であるので、図2〜図4を参照して、サポート用ボールねじナット20aについて説明する。
【0019】
サポート用ボールねじナット20aのボール溝22は、全周溝、即ち、リード角が“0°”とされて軸方向に複数箇所(ここでは4か所)設けられており、ねじピッチはボール21が多く入るように適当な最小ピッチ(この実施の形態では、ねじ軸1のボール溝2のねじピッチの1/2)とされている。また、サポート用ボールねじナット20aの内径面とねじ軸1の外径面との間には、樹脂や真鍮等からなる円筒状のリテーナ23が介設されている。
【0020】
リテーナ23には、ねじ軸1のボール溝2が2条ねじで、且つ、サポート用ボールねじナット20aのボール溝22のねじピッチがねじ軸1のボール溝2のねじピッチの1/2の場合において、周方向に互いに180°離間配置された二個の穴24が形成されており、該二個の穴24は軸方向に交互に位相を90°をずらしながらボール溝22のねじピッチに対応して4か所配置されている。穴24はボール溝22とボール溝2との間に挟まれたボール21を転動可能に保持するためのものであり、公知の無循環ボールねじ装置に用いられるものと同様のものである。
【0021】
かかる構成のサポート用ボールねじナット20aは円筒状のナットハウジング25の内周面に回動可能に配設されており、このナットハウジング25の両端に夫々ボルト締めされた位置規制板26及び27によって軸方向の移動が規制されている。また、ナットハウジング25が前述した送り案内9によって案内される移動体28の中心部に遊嵌され、位置規制板26が移動体28にボルト締めされている。
【0022】
ここで、この実施の形態では、送り案内9、ナットハウジング25、位置規制板26,27及び移動体28で案内機構が構成されている。そして、位置規制板26とこれに対向するサポート用ボールねじナット20aとの間にクラッチ機構30が配設されている。このクラッチ機構30は、図3に示すように、サポート用ボールねじナット20aの位置規制板26との対向面に軸芯を中心とする同一円上に所定間隔を保って形成された多数の円錐状の係合凹部31と、図2及び図4に示すように、各係合凹部31に対向する位置規制板26側に形成された貫通孔32内に配設されたコイルスプリング33によって係合凹部31側に付勢されたボール34と、貫通孔32のサポート用ボールねじナット20aとは反対側の端面に螺合されたスプリング33の弾性力を調整する押ねじ35とで構成されている。
【0023】
次に、ねじ軸1の回転速度とサポート用ボールねじナット20a,20bの軸方向の移動速度との関係について図5及び図6を伴って説明する。ここで、Ni:ねじ軸の回転速度(rpm)、Nc:ボールの公転(ねじ軸周り)速度(rpm)、Nr:ボールの自転速度(rpm)、l :ねじ軸のリード(mm)、α1 :ねじ軸側のボール溝軌道面でのボールの接触角(°)、α2 :サポート用ボールねじナット側のボール溝軌道面でのボールの接触角(°)、dm:B.C.D(鋼球の中心円径)(mm)、Da:ボール径(mm)とすると、ねじ軸が回転速度Niで回転した場合に、ねじ軸側ボール溝軌道面上A点(図5参照)の単位時間当たりの軸方向の移動距離LiS は、
LiS =[{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・Ni …(1)
ねじ軸側ボール溝軌道面上A点でのボールの自転によるボールの単位時間当たりの軸方向の移動距離LrS は、
LrS =πDa cosα1Nr …(2)
ねじ軸側ボール溝軌道面上A点でのボールの公転によるボールの単位時間当たりの軸方向の移動距離LcS は、
LcS =[{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・Nc …(3)
サポート用ボールねじナット側ボール溝軌道面上B点でのボールの自転によるボールの単位時間当たりの軸方向の移動距離Lrn は、
Lrn =πDa cosα2Nr …(4)
サポート用ボールねじナット側ボール溝軌道面上B点でのボールの公転によるボールの単位時間当たりの軸方向の移動距離Lcn は、
Lcn =[{π(dm+Da cosα2 )}2 +l2]1/2 ・ Nc …(5)
となる。
【0024】
ここで、サポート用ボールねじナットが固定で、ねじ軸が回転してボールが転がり運動する場合、ボールとねじ軸が転がり運動するため、接触点Aでのボールとねじ軸の軸方向の移動速度は同じであり、ボールとねじ軸は軸方向に同じ距離だけ進むことになる。従って、ねじ軸側ボール溝軌道面上A点の軸方向の移動距離LiS は、ボールの自転による移動距離LrS とボールの公転による移動距離LcSとの和(LiS =LrS +LcS )になり、次式で表される。
[{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・ Ni
=πDa cosα1Nr +[{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・Nc…(6)
【0025】
一方、サポート用ボールねじナットは固定されているので、サポート用ボールねじナット側ボール溝軌道面上B点の軸方向の移動距離は0となり、また、ボールの接触点Bは、ねじ軸側の接触点Aと同様に考えられるがボールの自転と公転の方向が逆なので0=−Lrn +Lcn となり、次式のように表される。
0=−πDa cosα2Nr +[{π(dm+Da cosα2 )}2 +l2]1/2 ・Nc…(7)
(6)式、(7)式より、ボールの公転速度Nc及び自転速度Nrはそれぞれ次式で表される。
Nc= cosα2 [{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・Ni/〔 cosα1 [{π(dm+Da cosα2 )}2 +l2]1/2 + cosα2 [{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 〕 …(8)
Nr=〔[{π(dm+Da cosα2 )}2 +l2]1/2 ・Nc〕・Ni/πDa cosα2 …(9)
サポート用ボールねじナットが固定で、ねじ軸が回転してサポート用ボールねじナット側のボール溝のリード角が“0°”の場合、サポート用ボールねじナットの軸方向の移動距離はボールの軸方向の移動距離と同じであるから、サポート用ボールねじナットの軸方向の移動速度vは、次式のように表される。
v= cosα2 [{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・Ni・l /〔 cosα1 [{π(dm+Da cosα2 )}2 +l2]1/2 + cosα2 [{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 〕 …(10)
【0026】
ここで、図1に示すように、直動案内装置にサポート用ボールねじナット20a,20bを用いて、dm:26mm、l :50mm、Da:3.9688mmとすると共に、ねじ軸1側のボール溝2及びサポート用ボールねじナット20a,20b側のボール溝22を共にゴシックアーチ形状としてボール21がボール溝2側で2点、ボール溝22側で2点(合計4点)で接触するようにし、α1 :45°、α2 :45°とした場合に、ボールねじナット3の軸方向の移動速度はNi・l になるのに対して、サポート用ボールねじナット20a,20bの軸方向の移動速度vは(10)式より0.46Ni・l となる。つまり、ねじ軸1が一回転した場合に、ボールねじナット3は軸方向に1リード分だけ進むのに対し、サポート用ボールねじナット20a,20bはボールねじナット3の移動距離の略1/2だけ軸方向に進むことになる。
【0027】
次に、図6を参照して、中間サポートの動作について説明する。まず、組立時において、ねじ軸1のボール溝2に螺合される一対のサポート用ボールねじナット20a,20bの内の一方のすべりねじナット20aをボールねじナット3と軸受ハウジング5aとの間の略中央に位置させると共に、他方のサポート用ボールねじナット20bをボールねじナット3と軸受ハウジング5bとの間の略中央に位置させる。
【0028】
この場合のサポート用ボールねじナット20a及び20bの位置調整は、ねじ軸1を回転停止させた状態で、位置規制板26の押しねじ35を緩めてボール34の係合凹部31への押圧力を小さくしておき、この状態で、移動体28を軸方向に移動させることにより、サポート用ボールねじナット20a及び20bをねじ軸1の周囲で空転させて、所定位置に位置調整し、その後、ボール34を係合凹部31に係合させた状態で、押しねじ35を締めつけてスプリング33の弾性力を調整することにより、移動体28の移動が規制されたときにサポート用ボールねじナット20a又は20bが空転を開始する回転トルクを調整する。
【0029】
そして、この状態で回転駆動装置7でねじ軸1を回転させると、ボールねじナット3がリニアガイド装置10に案内されつつねじ軸1に沿って移動するとともに、サポート用ボールねじナット20a,20bが送り案内9に案内されつつねじ軸1に沿ってボールねじナット3と同一方向に移動する。この時、サポート用ボールねじナット20a,20bの移動速度v は上述したようにボールねじナット3の略1/2となるため、ボールねじナット3の軸方向の位置にかかわらず、サポート用ボールねじナット20aは常にボールねじナット3と軸受ハウジング5aとの間の略中央に位置すると共に、サポート用ボールねじナット20bが常にボールねじナット3と軸受ハウジング5bとの間の略中央に位置することになる(図6において、L1 :L2 ≒1:1、L3 :L4 ≒1:1)。
【0030】
これにより、図6に示すように、ボールねじナット3が軸受ハウジング5a側に移動するにつれてサポート用ボールねじナット20aと軸受ハウジング5aとの間の距離(支持スパン)が短縮されるとともに、サポート用ボールねじナット20bと軸受ハウジング5aとの間の距離(支持スパン)が短縮され、この結果、危険速度を安全側の高い回転域にすることができると共に、ねじ軸1が多点で支持されることによってねじ軸1の自重たわみを減少させることができる。
【0031】
また、サポート用ボールねじナット20aを常にボールねじナット3と軸受ハウジング5aとの間の略中央に位置させると共に、サポート用ボールねじナット20bを常にボールねじナット3と軸受ハウジング5bとの間の略中央に位置させることができることから、サポート用ボールねじナット20a,20bがボールねじナット3や軸受ハウジング5a,5bに干渉するまでのボールねじナット3の軸方向の移動量を大きくとることができ、この結果、テーブルストロークが長いNC制御の平面研削盤などに好適なものとすることができる。
【0032】
更に、ねじ軸1のボール溝2にサポート用ボールねじナット20a,20bを螺合するだけでよいため、簡単な構造で且つ低コストで効果的な制振を行うことができる中間サポートシステムを提供することができる。このように、ねじ軸1の回転に伴ってボールねじナット3の移動速度の半分の速度でサポート用ボールねじナット20a及び20bが移動することになるが、この移動は転動体、ねじ軸及びナット間の摩擦により行われているので、移動時には必ず滑りが発生する。
この滑りは、溝形状、移動速度、移動加速度、固定しているテーブルの摩擦抵抗等の影響を受ける。このため、長時間ボールねじナット3を移動していると、サポート用ボールねじナットの位置にずれを生じる。このため、サポート用ボールねじナット20aが例えばボールねじナット3と軸受ハウジング5aとの間の中央より左側に位置ずれを生じている場合には、ボールねじナット3が左端側に移動したときに、その移動許容範囲内であっても、図7に示すように、サポート用ボールねじナット20aの軸方向位置規制を行っている位置規制板26を固定しているボルト頭部が軸受ハウジング5aに当接する場合が発生する。
この状態となると、サポート用ボールねじナット20aの左方への移動が軸受ハウジング5aによって阻止されるので、ねじ軸1の回転が継続されると、サポート用ボールねじナット20aに回転トルクが伝達されることになり、この回転トルクがクラッチ機構30のスプリング33の弾性力で設定された許容回転トルク以上となると、ボール34が係合凹部31から左方に押し出され、サポート用ボールねじナット20aがナットハウジング25に対して空転状態となり、ねじ軸1に過大な負荷が掛かることを防止することができる。
【0033】
同様に、サポート用ボールネジナット20bがボールねじナット3と軸受ハウジング5bとの中間より右側に位置ずれを生じて、サポート用ボールねじナット20bが軸受ハウジング5bに当接して場合にも、サポート用ボールねじナット20bが空転して、ネジ軸1に過大な負荷が掛かることを防止することができる。
【0034】
さらに、サポート用ボールねじナット20a又は20bがボールねじナット3側に位置ずれを生じて、ボールねじナット3と干渉する場合にも、サポート用ボールねじナット20a又は20bが空転してねじ軸1に過大な負荷が掛かることを防止することができる。
このように、サポート用ボールねじナット20a及び/又は20bに位置ずれを生じた場合には、前述したと同様に押しねじ35を緩めてスプリング33の弾性力を低下させることにより、サポート用ボールねじナット20a及び/又は20bを容易に空転させて、位置ずれを補正することができ、押しねじ35を緩めなくてもスプリング33の弾性力で設定される回転トルク以上の回転トルクを発生するように移動体28を移動させることにより、位置ずれを補正することができる。
【0035】
なお、上記第1の実施形態においては、ボール34をコイルスプリング33で押圧する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、板バネ等の他のスプリングを適用することができる他、ゴム等の他の弾性体を適用するようにしてもよい。また、上記第1の実施形態においては、係合凹部31とボール34とを係合させる場合について説明したが、これに限らず、係合凹部31及びボール34を省略してこれらに代えて摩擦板をスプリングでサポート用ボールねじナット20a及び20bの端面に接触させるようにしてもよい。
【0036】
さらに、第1の実施形態においては、スプリング33の弾性力を押しねじ35の締め付け位置によって調整する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、押しねじ35とスプリング33との間にスプリングシートを設け、このスプリングシートの厚みを変更することにより、スプリング33の弾性力を調整するようにしてもよい。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態を図8〜図11を伴って説明する。この第2の実施形態は、クラッチ機構の断続を任意に制御するようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、中間サポートのクラッチ機構30を第1の実施形態における係合凹部31、スプリング33、ボール34及び押しねじ35で構成する場合に代えて、図9及び図10に示すように、位置規制板26のサポート用ボールねじナット20aとは反対側における中心を通る線上に一対のエアシリンダ40,41を点対称に配設し、これらエアシリンダ40,41のスプリング(図示せず)によって伸長側に付勢されたピストンロッド42の先端に形成した摩擦板43を位置規制板26に形成した貫通孔44を通じてサポート用ボールねじナット20aの端面に対向させるように構成されている。
ここで、エアシリンダ40,41にフレキシブル配管45を通じて加圧空気を供給することにより、ピストンロッド42を収縮させて摩擦板43をサポート用ボールねじナット20aの端面から離間させて非締結状態となって、サポート用ボールねじナット20aの自由な空転を許容し、この状態からエアシリンダ40,41への加圧空気の供給を遮断して排気状態とすることにより、スプリングによってピストンロッド42が伸長して摩擦板43がサポート用ボールねじナット20aの端面に圧接する締結状態となって、サポート用ボールねじナット20aをナットハウジング25に対して一体に固定する。
【0038】
また、軸受ハウジング5aには、図8に示すように、超音波又はレーザ光を照射した時点から反射波又は反射光を受信又は受光した時点までの時間を測定することにより距離を計測する超音波測距装置又はレーザ測距装置で構成される2つの距離センサ50,51が配設され、距離センサ50でボールねじナット3に取り付けたテーブル10の左端までの距離を測定し、距離センサ51でサポート用ボールねじナット20aに取り付けたテーブル29の左端までの距離を測定する。
【0039】
さらに、軸受ハウジング5bに距離センサ50,51と同様の距離センサ53が配設され、この距離センサ53で、サポート用ボールねじナット20bに取り付けたテーブル29の右端までの距離を測定する。
そして、各距離センサ50〜51の距離検出値が図12に示すように、制御装置55に入力され、この制御装置55で、距離センサ50で検出したボールねじナット3の距離検出値に基づいてサポート用ボールねじナット20a及び20bの目標距離La* 及びLb* を算出し、算出した目標距離La* 及びLb* と距離センサ51及び52で検出した距離検出値La及びLbとが不一致であるとき即ちサポート用ボールねじナット20a及び20bに位置ずれが発生した場合に、ねじ軸1の回転方向を加味して、目標距離La* 及びLb* と検出距離La及びLbが一致するようにサポート用ボールねじナット20a及び20bに対するエアシリンダ40,41への加圧空気の給排を行うアクチュエータ53及び54を制御するとともに、距離検出値La及びLbが予め設定した最小設定距離Lmin以下となったときに接近異常と判断してアクチュエータ53,54を加圧空気供給状態に制御してエアシリンダ40,41に対して加圧空気を供給する。
【0040】
この第2の実施形態によると、常時ボールねじナット3の位置を距離センサ50で検出するとともに、サポート用ボールねじナット20a及び20bの位置を常時距離センサ51及び52で検出しており、サポート用ボールねじナット20a及び20bが位置ずれを生じることなく正規の位置にある状態では、アクチュエータ43,54が排気状態に制御されてエアシリンダ40,41から加圧空気が排気された状態に維持されるため、ピストンロッド42がスプリングの弾性力によって伸長して摩擦板43がサポート用ボールねじナット20a及び20bに圧接してクラッチ機構30が締結状態となり、サポート用ボールねじナット20a及び20bがナットハウジング25に一体に固定され、ねじ軸1の回転に応じてボールねじナット3の移動速度の半分の速度で移動する。
【0041】
この正常状態から例えばサポート用ボールねじナット20aが軸受ハウジング5a寄りとなる位置ずれが生じた場合には、ボールねじナット3が軸受ハウジング5a側に移動するようにねじ軸1が回転駆動された時に、アクチュエータ53を供給状態に制御し、エアシリンダ40に対して加圧空気を供給して、ピストンロッド42をスプリングに抗して収縮させることにより、摩擦板43とサポート用ボールねじナット20aとを離間させてクラッチ機構30を非締結状態とし、これによってサポート用ボールねじナット20aをナットハウジング25に対して空転可能とすることにより、サポート用ボールねじナット20aの移動距離を低下させ、距離センサ51で検出される距離検出値Laがボールねじナット3の距離検出値Lに基づいて算出される目標距離La* と一致した時点でアクチュエータ53を排気状態に制御してエアシリンダ40から加圧空気を排気することにより、クラッチ機構30を締結状態に復帰させ、サポート用ボールねじナット20aをボールねじナット3の移動速度の半分の移動速度で移動する正規の移動状態に復帰させる。
【0042】
逆に、サポート用ボールねじナット20aがボールねじナット3寄りに位置ずれを生じたときには、ボールねじナット3が軸受ハウジング5b側に移動するようにねじ軸1が回転駆動された時に、前記と同様にアクチュエータ53を加圧供給状態に制御し、エアシリンダ40に加圧空気を供給してクラッチ機構30を非締結状態として、サポート用ボールねじナット20aをナットハウジング25に対して空転状態として、サポート用ボールねじナット20aの右方への移動速度を低下させて位置調整を行い、正規の位置に達した時点でアクチュエータ53を排気状態に制御し、エアシリンダ40から加圧空気を排気することにより、クラッチ機構30を締結状態に制御して、サポート用ボールねじナット20aを正規の移動速度に復帰させる。
【0043】
同様に、サポート用ボールねじナット20bについても位置ずれが発生した場合には、ねじ軸1が位置ずれを補正可能な回転方向となったときにクラッチ機構30を非締結状態として位置ずれを補正し、位置ずれが解消した時点でクラッチ機構30を締結状態に復帰させて、サポート用ボールねじナット20bを正規の移動速度に復帰させる。
【0044】
さらに、サポート用ボールねじナット20a又は20bの距離検出値La又はLbが最小設定距離Lmin以下となった時にも、クラッチ機構30を非締結状態として、サポート用ボールねじナット20a又は20bをナットハウジング25に対して空転状態として、サポート用ボールねじナット20a又は20bが軸受ハウジング5a又は5bに衝接することを未然に防止することができ、ねじ軸1に過大な負荷が掛かることを防止することができる。
【0045】
なお、上記第2の実施形態においては、クラッチ機構30として、バネ付エアシリンダを適用した場合について説明したが、複動エアシリンダを適用してピストンロッドの伸縮をともに異なる端部に加圧空気を供給することにより行うようにしてもよい。
また、上記第2の実施形態においては、クラッチ機構30をエアシリンダで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、油圧シリンダ等の他の流体シリンダで構成するようにしてもよく、さらには、電磁ソレノイド等の電気的アクチュエータを適用するようにしてもよく、なおさらに、電磁クラッチや電磁粉クラッチ等を適用するようにしてもよい。
【0046】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、サポート用ボールねじナット20a及び20bのリード角を“0°”とした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、厳密にリード角を“0°”にする必要はなく、“0°近傍の値に設定することができ、特に第2の実施形態においては、サポート用ボールねじナット20a及び20bの位置をクラッチ機構30を使用して制御することができるので、リード角を“0°”より大きな角に設定して、サポート用ボールねじナット20a及び20bの移動速度を速め、クラッチ機構30によって目標距離に位置制御するようにしてもよい。
【0047】
次に、本発明の第3の実施形態を図13について説明する。この第3の実施形態は、上記第1及び第2の実施形態では、ボールねじナット3のボールとサポート用ボールねじナット20a及び20bのボールとでねじ軸1のボール溝2を共有する場合について説明したが、これに代えて、両者を異なるボール溝に転動させるようにしたものである。
【0048】
すなわち、第3の実施形態では、図13に示すように、前述した第1の実施形態において、ねじ軸1に2条のねじ溝2a及び2bを形成し、一方のねじ溝2aにボールねじナット3のボールを転動させ、他方のねじ溝2bにサポート用ボールねじナット20a及び20bのボール21を転動させるように構成されている。
【0049】
この第3の実施形態によると、ボールねじナット3のボールとサポート用ボールねじナット20a及び20bのボール21とがねじ軸1の異なるねじ溝2a,2bを転動することになるため、サポート用ボールねじナット20a及び20bのボール21がねじ溝2aを磨耗させることを確実に回避することができ、ねじ溝2aの寿命を長期化することができると共に、サポート用ボールねじナット20a及び20bのねじ溝2bをサポート用ボールねじナット20a及び20bに最適な溝形状,粗さ等に設計することができ、溝設計の自由度を向上させることができる。
【0050】
すなわち、上記第1及び第2の実施の形態では、ねじ軸1側のボール溝2及びサポート用ボールねじナット20a,20b側のボール溝22の形状を共にゴシックアーチ形状として、ボール21がボール溝2側で2点、ボール溝22側で2点(合計4点)で接触するようにした場合を例に採ったが、これに代えて図14に示すように、ねじ軸1側のボール溝2の形状をゴシックアーチ形状としてボール21をボール溝2側でP1 ,P2 の2点で接触させるとともに、サポート用ボールねじナット20a,20b側のボール溝22の形状を単一R形状としてボール21をボール溝22側でP3 の1点(合計3点)で接触させて軽い予圧をかけ、これにより、ボール21ひいてはサポート用ボールねじナット20a,20bの安定した動きを得ることができる。
【0051】
詳述すると、ねじ軸1のボール溝2とサポート用ボールねじナット20a,20bのボール溝22とのリード角が互いに異なる場合、ボール21とそれぞれのボール溝2,22との間で転がり運動に加えて、すべり運動が大きくなる。従来の無循環ボールねじ装置の場合、ねじ軸側のボール溝とナット側のボール溝の形状が共にゴシックアーチ形状で同じであったため、ボールがねじ軸側のボール溝で2点、ナット側のボール溝で2点、合計4点で接触することになり、すべり摩擦が大きかった。
【0052】
これは、図14を参照して、ねじ軸1のボール溝2のP1 ,P2 の2点でボール21が転がり運動する場合、サポート用ボールねじナット20a(20b)側ではベクトルaの方向にボール21が進めば転がりとなるが、実際には、ナット側のボール溝のリード角が0°なのでボール21はベクトルbの方向に進む。つまり、ベクトルaとベクトルbとの差(ベクトルc)がボール21のすべりとなり、ボール21をボール溝22で2点で接触させるようにした場合はこのすべりを良好に吸収することができず、すべり摩擦が大きくなってしまう。
【0053】
これに対し、図14に示すように、ねじ軸1側のボール溝2の形状をゴシックアーチ形状としてボール21をボール溝2側でP1 ,P2 の2点で接触させるとともに、サポート用ボールねじナット20a,20b側のボール溝22の形状を単一R形状としてボール21をボール溝22側でP3 の1点(合計3点)で接触させて軽い予圧をかけるようにすると、ボール21は点P1 ,P2 ,P3 で接触し、このうちのねじ軸1のボール溝2側のP1 ,P2 点では転がり運動となり、ボール溝22側のP3 点では接触点周りの回転すべりを伴う転がり運動となって、該回転すべりによってベクトルaとベクトルbの差分(ベクトルc)が吸収され、これにより、すべり摩擦が小さくなってボール21ひいてはサポート用ボールねじナット20a,20bの安定した動きを得ることができる。
【0054】
また、図1及び図8の直動案内装置に用いられるサポート用ボールねじナット20a,20bのボール21を3点接触にした場合は、dm:26mm、l :50mm、Da:3.9688mm、α1 :45°、α2 :0°とすると、ボールねじナット3の軸方向の移動速度がNi・l になるのに対して、サポート用ボールねじナット20a,20bの軸方向の移動速度vは(10)式より0.54Ni・l となり、この場合も上記実施の形態と同様に、ねじ軸1が一回転した際に、ボールねじナット3が軸方向に1リード分だけ進むのに対し、サポート用ボールねじナット20a,20bはボールねじナット3の移動距離の略1/2だけ軸方向に進むことになり、上記実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0055】
なお、上記第3の実施形態においては、第1の実施形態に2条ねじを適用した場合について説明したが、これに限らず、第2の実施形態に2条ねじを適用するようにしてもよいことは言うまでもない。また、上記第3の実施形態においては、ねじ軸1に2条ねじ溝を形成した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ねじ軸1に3条ねじ溝を形成し、このうちの2つをボールねじナット用として、残りの1つをサポート用ボールねじナット用としたり、3条のねじ溝を夫々ボールねじナット用、サポート用ボールねじナット20a用及びサポート用ボールねじナット20b用とすることもでき、さらには、ねじ軸1に4条ねじ溝を形成し、このうちの2つのねじ溝をボールねじナット3用、残りの2つをサポート用ボールねじナット20a,20b用としたり、3つのねじ溝をボールねじナット3用とし、残りの1つのねじ溝をサポート用ボールねじナット20a,20b用とし、1つのねじ溝をボールねじナット3用とし、残りの3つのねじ溝をサポート用ボールねじナット20a,20b用とすることもでき、要はねじ軸1に多条ねじ溝を形成し、ボールねじナット3用とサポート用ボールねじナット20a,20b用とで異なるねじ溝を使用するようにすればよい。
【0056】
さらに、上記各実施の形態では、ねじ軸1のボール溝2に二個のサポート用ボールねじナット20a,20bを螺合した場合を例に採ったが、これに限定されず、例えば、ねじ軸1の支持端側(右端側)のみにサポート用ボールねじナット20aを螺合するようにしても大きな制振効果を得ることができる。さらに、上記各実施の形態では、ねじ軸1は左端側が支持端となっているが、これが固定端や自由端であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…ねじ軸
2…ねじ軸のボール溝
3…ボールねじナット
20a,20b…サポート用ボールねじナット
21…サポート用ボールねじナット側のボール
22…サポート用ボールねじナット側のボール溝
25…ナットハウジング
26,27…位置規制板
30…クラッチ機構
31…係合凹部
33…スプリング
34…ボール
35…押しねじ
40,41…エアシリンダ
42…ピストンロッド
43…摩擦板
50〜52…距離センサ
53,54…アクチュエータ
55…制御装置
2a,2b…ねじ溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置の中間サポートの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置を構成するねじ軸の回転数が該ねじ軸の固有振動数に近くなると、共振を起こして激しく振動し、振幅が増大するようになって危険である。このときの回転速度を危険速度といい、この危険速度はねじ軸の支持スパンの2乗に反比例するため、該支持スパンは短いほど好ましい。
【0003】
ところで、NC制御の平面研削盤などのようにテーブルストロークが長い場合には、テーブルを送るねじ軸が長くなって該ねじ軸の支持スパンが長くなるので、危険速度が低い回転域となる。一方、送り速度の高速化に伴いねじ軸が高回転で使用されるが、この場合、危険速度が低い回転域だと上述した共振を避けることができない。また、ねじ軸の回転時に、ねじ軸の自重たわみ等によってボールねじナットやねじ軸の端部にラジアル荷重が作用し、ねじ軸に過大な繰り返し荷重(回転曲げ応力)が加わってボールねじの寿命に悪い影響を及ぼす。
【0004】
そこで、従来においては、ねじ軸の中間部を支持する中間サポートを設けて支持スパンを短くし、これにより、ねじ軸を多点で支持して危険速度を安全側の高い回転域にすると共に、ねじ軸の自重たわみ等を減少させるようにしている。従来のこの種の中間サポートとしては、例えば、実開平2−4736号公報に示すように、ねじ軸の両端部を支持する支持軸受間に中間サポートを構成する二個のすべり軸受を互いに連結した状態でねじ軸の軸方向に移動自在に取り付けて、各すべり軸受の間にねじ軸の回転によって移動するボールねじナットを位置せしめ、そして、各すべり軸受の内の一方のすべり軸受にねじ軸の回転によって移動するボールねじナットが当接した場合には該一方のすべり軸受がボールねじナットに押されて該ボールねじナットと共に移動するようにしたものが知られている。
【0005】
しかしながら、かかる中間サポートにおいては、構造は比較的簡単であるが、ボールねじナットがいずれかのすべり軸受に当接してから移動するようになっているので、ボールねじナットが各すべり軸受の中間位置にある間は、該ボールねじナットがすべり軸受に当接するまで該すべり軸受と支持軸受との間の距離(支持スパン)を短縮することができず、危険速度をあまり高くすることができないという問題がある。
【0006】
そこで、かかる問題を解消すべく、特開平6−129510号公報に示すように、ねじ軸に螺合された中間サポートナットと、ねじ軸と平行に設けられた補助ねじ軸と、該補助ねじ軸に螺合されて補助ねじ軸の回転によって軸方向に移動する補助ナットと、軸方向に移動自在に設けられて、中間サポートナットを回転自在に支持するとともに、補助ナットを回転不能に支持する中間サポートフレームとを備え、補助ねじ軸及びねじ軸のねじピッチを同一にして補助ねじ軸の回転数をねじ軸の回転数より少なくすることにより、中間サポートナットがねじ軸の回転に影響されずに補助ねじ軸の回転のみによってねじ軸に螺合されたボールねじナットと独立して移動できるようにし、これにより、中間サポートナットと支持軸受との間の距離(支持スパン)の短縮を可能にしたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平2−4736号公報
【特許文献2】特開平6−129510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、かかる従来技術においては、中間サポートナットの他に、補助ねじ軸、補助ナット、中間サポートフレーム及び補助ねじ軸を回転駆動する駆動装置等が必要になるため、構造が複雑になるとともに、コスト高になるという不都合がある。
【0009】
本発明はかかる不都合を解消するためになされたものであり、ボールねじナットと独立して移動できるようにして支持軸受との間の距離(支持スパン)を短縮できるのは勿論のこと、簡単な構造で且つ低コストで製作することができるとともに、中間サポートの移動が規制された場合にボールねじに伝達される負荷を低減させることが可能であるとともに、中間サポートの位置ずれの補正が容易であり、さらにねじ溝の磨耗を軽減して寿命を長期化させることが可能なボールねじ装置の中間サポートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、請求項1に係るボールねじ装置の中間サポートは、外周面に螺旋状のボール溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に遊嵌される内周面に前記ねじ軸のボール溝に対応するボール溝を有するボールねじナットと、前記両ボール溝間に転動可能に嵌合された多数のボールとを備え、該ボールが前記ボールねじナットに嵌合されたボール循環部品に案内されて循環するボールねじ装置の前記ねじ軸に取り付けられるとともに、前記ボールねじナットの移動速度より遅い速度で移動する中間サポートであって、
前記ねじ軸のボール溝にボールを介して螺合され且つリード角が0°又はその近傍の値に設定されたボール溝を有するサポート用ナットと、該サポート用ナットを前記ねじ軸と平行に案内する案内機構と、該案内機構及び前記サポート用ナット間に介挿されたクラッチ機構とを備え、前記案内機構は、前記サポート用ナットを回動可能に配設した円筒状のナットハウジングと、該ナットハウジングの両端に夫々固定された位置規制板とを少なくとも有して構成され、前記クラッチ機構は、前記サポート用ナットの前記位置規制板との対向面に軸芯を中心とする同一円上に所定間隔を保って形成された係合凹部と、該係合凹部に対向して前記位置規制板側に形成された貫通孔内に配設された弾性体によって当該係合凹部側に付勢されたボールと、前記貫通孔の前記サポート用ナットとは反対側の端面に螺合された押ねじとで構成されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係るボールねじ装置の中間サポートは、外周面に螺旋状のボール溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に遊嵌される内周面に前記ねじ軸のボール溝に対応するボール溝を有するボールねじナットと、前記両ボール溝間に転動可能に嵌合された多数のボールとを備え、該ボールが前記ボールねじナットに嵌合されたボール循環部品に案内されて循環するボールねじ装置の前記ねじ軸に取り付けられるとともに、前記ボールねじナットの移動速度より遅い速度で移動する中間サポートであって、前記ねじ軸のボール溝にボールを介して螺合され且つリード角が0°又はその近傍の値に設定されたボール溝を有するサポート用ナットと、該サポート用ナットを前記ねじ軸と平行に案内する案内機構と、該案内機構及び前記サポート用ナット間に介挿されたクラッチ機構とを備え、前記サポート用ナットのボールは、前記ねじ軸に形成された前記ボールねじナットが螺合するボールねじ溝とは異なるボールねじ溝に螺合され、前記案内機構は、前記サポート用ナットを回動可能に配設した円筒状のナットハウジングと、該ナットハウジングの両端に夫々固定された位置規制板とを少なくとも有して構成され、前記クラッチ機構は、前記サポート用ナットの前記位置規制板との対向面に軸芯を中心とする同一円上に所定間隔を保って形成された係合凹部と、該係合凹部に対向して前記位置規制板側に形成された貫通孔内に配設された弾性体によって当該係合凹部側に付勢されたボールと、前記貫通孔の前記サポート用ナットとは反対側の端面に螺合された押ねじとで構成されていることを特徴とする。
【0012】
ここで、ねじ軸のボールねじ溝は、多条ねじ溝に形成し、このうちの少なくとも1条のねじ溝にサポート用ナットのボールを螺合させ、残りのねじ溝にボールねじナットのボールを螺合させることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、ねじのボール溝にボールを介して螺合されたサポート用ナットと、該サポート用ナットをねじ軸と平行に案内する案内機構との間にクラッチ機構を介挿したので、クラッチ機構を締結状態とすることにより、サポート用ナットと案内機構とを一体化させてねじ軸の回転に伴ってサポート用ナットを移動させ、非締結状態とすることにより、サポート用ナットを空転させて、サポート用ナットの移動を停止させることができ、サポート用ナットの位置調整を自在に行うことができるとともに、サポート用ナットの移動が規制されたときに、係合凹部とこれに係合する弾性体で押圧されているボールとの係合状態を離脱して、ねじ軸に過大な負荷を与えることを確実に防止することができるという効果が得られる。
また、請求項2に係る発明によれば、請求項1に係る発明の効果に加え、サポート用ナットのボールは、前記ねじ軸に形成された前記ボールねじナットが螺合するボールねじ溝とは異なるボールねじ溝に螺合されているので、サポート用ナットのボールによるボールねじナットのねじ溝の磨耗を確実に防止することができ、ねじ軸の寿命を長期化させることができる共に、サポート用ナットに最適なねじ溝設計を行うことができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態であるボールねじ装置の中間サポートを直動案内装置に使用した例を示す概略図である。
【図2】中間サポートのクラッチ機構を拡大して示す断面図である。
【図3】サポート用ボールねじナットの側面図である。
【図4】図2の左側面図である。
【図5】サポート用ボールねじナットの軸方向の移動速度を求める式の説明に用いる説明図である。
【図6】中間サポートの動作を説明するための説明図である。
【図7】第1の実施形態の動作の説明に供する図1と同様の概略図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるボールねじ装置の中間サポートを直動案内装置に使用した例を示す概略構成図である。
【図9】第2の実施形態における中間サポートの断面図である。
【図10】図9の左側面図である。
【図11】第2の実施形態における動作の説明に供する図8と同様の概略構成図である。
【図12】第2の実施形態における制御装置の一例を示すブロック図である。
【図13】本発明の第3の実施形態を示す中間サポートの断面図である。
【図14】第3の実施形態に適用し得るサポート用ボールねじナットのボール溝とねじ軸のボール溝との間に介在されるボールがサポート用ボールねじナットのボール溝側で1点、ねじ軸のボール溝側で2点で接触している状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態の一例を図を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態の一例であるボールねじ装置の中間サポートを直動案内装置に使用した例を示す概略図、図2は中間サポートのクラッチ機構を拡大して示す断面図、図3はサポート用ボールねじナットの側面図、図4は図2の左側面図、図5はサポート用ボールねじナットの軸方向の移動速度を求める式の説明に用いる説明図、図6は中間サポートの動作を説明するための説明図である。
【0016】
まず、説明の便宜上、直動案内装置から先に説明すると、図1において符号1はボールねじ装置の比較的長尺なねじ軸であり、このねじ軸1は外周面に螺旋状のボール溝(2条ねじ)2を有している。ねじ軸1には、内周面にねじ軸1のボール溝2に対応するボール溝(図示せず。)を有するボールねじナット3が遊嵌されている。ねじ軸1のボール溝2とボールねじナット3のボール溝との間には多数のボール(図示せず。)が転動可能に嵌合されており、該ボールはボールねじナット3に嵌合されたボール循環部品(図示せず。)に案内されて循環するようになっている。
【0017】
ねじ軸1の両端部はベッド4に取り付けられた二個の軸受ハウジング5a,5b内の支持軸受(図示せず。)によって回転自在に支持されるとともに、一方(左方)の軸端はカップリング6を介してステップモータ等で構成される回転駆動装置7に連結されている。また、ボールねじナット3は、ナットハウジング8内に嵌合され、このナットハウジング8の下部が例えばリニアガイドで構成される送り案内9によってねじ軸1の円周方向の回転が規制された状態で左右方向に案内され、また、ナットハウジング8の上部にテーブル10が取り付けられている。
【0018】
次に、本発明の実施の形態の一例である中間サポートについて説明する。この中間サポートは、ボールねじナット3の軸方向の両側位置でねじ軸1のボール溝2にボール21(図2参照)を介して螺合された一対のサポート用ボールねじナット20a,20bを備える。サポート用ボールねじナット20a,20bは共に構成が同一であるので、図2〜図4を参照して、サポート用ボールねじナット20aについて説明する。
【0019】
サポート用ボールねじナット20aのボール溝22は、全周溝、即ち、リード角が“0°”とされて軸方向に複数箇所(ここでは4か所)設けられており、ねじピッチはボール21が多く入るように適当な最小ピッチ(この実施の形態では、ねじ軸1のボール溝2のねじピッチの1/2)とされている。また、サポート用ボールねじナット20aの内径面とねじ軸1の外径面との間には、樹脂や真鍮等からなる円筒状のリテーナ23が介設されている。
【0020】
リテーナ23には、ねじ軸1のボール溝2が2条ねじで、且つ、サポート用ボールねじナット20aのボール溝22のねじピッチがねじ軸1のボール溝2のねじピッチの1/2の場合において、周方向に互いに180°離間配置された二個の穴24が形成されており、該二個の穴24は軸方向に交互に位相を90°をずらしながらボール溝22のねじピッチに対応して4か所配置されている。穴24はボール溝22とボール溝2との間に挟まれたボール21を転動可能に保持するためのものであり、公知の無循環ボールねじ装置に用いられるものと同様のものである。
【0021】
かかる構成のサポート用ボールねじナット20aは円筒状のナットハウジング25の内周面に回動可能に配設されており、このナットハウジング25の両端に夫々ボルト締めされた位置規制板26及び27によって軸方向の移動が規制されている。また、ナットハウジング25が前述した送り案内9によって案内される移動体28の中心部に遊嵌され、位置規制板26が移動体28にボルト締めされている。
【0022】
ここで、この実施の形態では、送り案内9、ナットハウジング25、位置規制板26,27及び移動体28で案内機構が構成されている。そして、位置規制板26とこれに対向するサポート用ボールねじナット20aとの間にクラッチ機構30が配設されている。このクラッチ機構30は、図3に示すように、サポート用ボールねじナット20aの位置規制板26との対向面に軸芯を中心とする同一円上に所定間隔を保って形成された多数の円錐状の係合凹部31と、図2及び図4に示すように、各係合凹部31に対向する位置規制板26側に形成された貫通孔32内に配設されたコイルスプリング33によって係合凹部31側に付勢されたボール34と、貫通孔32のサポート用ボールねじナット20aとは反対側の端面に螺合されたスプリング33の弾性力を調整する押ねじ35とで構成されている。
【0023】
次に、ねじ軸1の回転速度とサポート用ボールねじナット20a,20bの軸方向の移動速度との関係について図5及び図6を伴って説明する。ここで、Ni:ねじ軸の回転速度(rpm)、Nc:ボールの公転(ねじ軸周り)速度(rpm)、Nr:ボールの自転速度(rpm)、l :ねじ軸のリード(mm)、α1 :ねじ軸側のボール溝軌道面でのボールの接触角(°)、α2 :サポート用ボールねじナット側のボール溝軌道面でのボールの接触角(°)、dm:B.C.D(鋼球の中心円径)(mm)、Da:ボール径(mm)とすると、ねじ軸が回転速度Niで回転した場合に、ねじ軸側ボール溝軌道面上A点(図5参照)の単位時間当たりの軸方向の移動距離LiS は、
LiS =[{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・Ni …(1)
ねじ軸側ボール溝軌道面上A点でのボールの自転によるボールの単位時間当たりの軸方向の移動距離LrS は、
LrS =πDa cosα1Nr …(2)
ねじ軸側ボール溝軌道面上A点でのボールの公転によるボールの単位時間当たりの軸方向の移動距離LcS は、
LcS =[{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・Nc …(3)
サポート用ボールねじナット側ボール溝軌道面上B点でのボールの自転によるボールの単位時間当たりの軸方向の移動距離Lrn は、
Lrn =πDa cosα2Nr …(4)
サポート用ボールねじナット側ボール溝軌道面上B点でのボールの公転によるボールの単位時間当たりの軸方向の移動距離Lcn は、
Lcn =[{π(dm+Da cosα2 )}2 +l2]1/2 ・ Nc …(5)
となる。
【0024】
ここで、サポート用ボールねじナットが固定で、ねじ軸が回転してボールが転がり運動する場合、ボールとねじ軸が転がり運動するため、接触点Aでのボールとねじ軸の軸方向の移動速度は同じであり、ボールとねじ軸は軸方向に同じ距離だけ進むことになる。従って、ねじ軸側ボール溝軌道面上A点の軸方向の移動距離LiS は、ボールの自転による移動距離LrS とボールの公転による移動距離LcSとの和(LiS =LrS +LcS )になり、次式で表される。
[{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・ Ni
=πDa cosα1Nr +[{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・Nc…(6)
【0025】
一方、サポート用ボールねじナットは固定されているので、サポート用ボールねじナット側ボール溝軌道面上B点の軸方向の移動距離は0となり、また、ボールの接触点Bは、ねじ軸側の接触点Aと同様に考えられるがボールの自転と公転の方向が逆なので0=−Lrn +Lcn となり、次式のように表される。
0=−πDa cosα2Nr +[{π(dm+Da cosα2 )}2 +l2]1/2 ・Nc…(7)
(6)式、(7)式より、ボールの公転速度Nc及び自転速度Nrはそれぞれ次式で表される。
Nc= cosα2 [{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・Ni/〔 cosα1 [{π(dm+Da cosα2 )}2 +l2]1/2 + cosα2 [{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 〕 …(8)
Nr=〔[{π(dm+Da cosα2 )}2 +l2]1/2 ・Nc〕・Ni/πDa cosα2 …(9)
サポート用ボールねじナットが固定で、ねじ軸が回転してサポート用ボールねじナット側のボール溝のリード角が“0°”の場合、サポート用ボールねじナットの軸方向の移動距離はボールの軸方向の移動距離と同じであるから、サポート用ボールねじナットの軸方向の移動速度vは、次式のように表される。
v= cosα2 [{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 ・Ni・l /〔 cosα1 [{π(dm+Da cosα2 )}2 +l2]1/2 + cosα2 [{π(dm−Da cosα1 )}2 +l2]1/2 〕 …(10)
【0026】
ここで、図1に示すように、直動案内装置にサポート用ボールねじナット20a,20bを用いて、dm:26mm、l :50mm、Da:3.9688mmとすると共に、ねじ軸1側のボール溝2及びサポート用ボールねじナット20a,20b側のボール溝22を共にゴシックアーチ形状としてボール21がボール溝2側で2点、ボール溝22側で2点(合計4点)で接触するようにし、α1 :45°、α2 :45°とした場合に、ボールねじナット3の軸方向の移動速度はNi・l になるのに対して、サポート用ボールねじナット20a,20bの軸方向の移動速度vは(10)式より0.46Ni・l となる。つまり、ねじ軸1が一回転した場合に、ボールねじナット3は軸方向に1リード分だけ進むのに対し、サポート用ボールねじナット20a,20bはボールねじナット3の移動距離の略1/2だけ軸方向に進むことになる。
【0027】
次に、図6を参照して、中間サポートの動作について説明する。まず、組立時において、ねじ軸1のボール溝2に螺合される一対のサポート用ボールねじナット20a,20bの内の一方のすべりねじナット20aをボールねじナット3と軸受ハウジング5aとの間の略中央に位置させると共に、他方のサポート用ボールねじナット20bをボールねじナット3と軸受ハウジング5bとの間の略中央に位置させる。
【0028】
この場合のサポート用ボールねじナット20a及び20bの位置調整は、ねじ軸1を回転停止させた状態で、位置規制板26の押しねじ35を緩めてボール34の係合凹部31への押圧力を小さくしておき、この状態で、移動体28を軸方向に移動させることにより、サポート用ボールねじナット20a及び20bをねじ軸1の周囲で空転させて、所定位置に位置調整し、その後、ボール34を係合凹部31に係合させた状態で、押しねじ35を締めつけてスプリング33の弾性力を調整することにより、移動体28の移動が規制されたときにサポート用ボールねじナット20a又は20bが空転を開始する回転トルクを調整する。
【0029】
そして、この状態で回転駆動装置7でねじ軸1を回転させると、ボールねじナット3がリニアガイド装置10に案内されつつねじ軸1に沿って移動するとともに、サポート用ボールねじナット20a,20bが送り案内9に案内されつつねじ軸1に沿ってボールねじナット3と同一方向に移動する。この時、サポート用ボールねじナット20a,20bの移動速度v は上述したようにボールねじナット3の略1/2となるため、ボールねじナット3の軸方向の位置にかかわらず、サポート用ボールねじナット20aは常にボールねじナット3と軸受ハウジング5aとの間の略中央に位置すると共に、サポート用ボールねじナット20bが常にボールねじナット3と軸受ハウジング5bとの間の略中央に位置することになる(図6において、L1 :L2 ≒1:1、L3 :L4 ≒1:1)。
【0030】
これにより、図6に示すように、ボールねじナット3が軸受ハウジング5a側に移動するにつれてサポート用ボールねじナット20aと軸受ハウジング5aとの間の距離(支持スパン)が短縮されるとともに、サポート用ボールねじナット20bと軸受ハウジング5aとの間の距離(支持スパン)が短縮され、この結果、危険速度を安全側の高い回転域にすることができると共に、ねじ軸1が多点で支持されることによってねじ軸1の自重たわみを減少させることができる。
【0031】
また、サポート用ボールねじナット20aを常にボールねじナット3と軸受ハウジング5aとの間の略中央に位置させると共に、サポート用ボールねじナット20bを常にボールねじナット3と軸受ハウジング5bとの間の略中央に位置させることができることから、サポート用ボールねじナット20a,20bがボールねじナット3や軸受ハウジング5a,5bに干渉するまでのボールねじナット3の軸方向の移動量を大きくとることができ、この結果、テーブルストロークが長いNC制御の平面研削盤などに好適なものとすることができる。
【0032】
更に、ねじ軸1のボール溝2にサポート用ボールねじナット20a,20bを螺合するだけでよいため、簡単な構造で且つ低コストで効果的な制振を行うことができる中間サポートシステムを提供することができる。このように、ねじ軸1の回転に伴ってボールねじナット3の移動速度の半分の速度でサポート用ボールねじナット20a及び20bが移動することになるが、この移動は転動体、ねじ軸及びナット間の摩擦により行われているので、移動時には必ず滑りが発生する。
この滑りは、溝形状、移動速度、移動加速度、固定しているテーブルの摩擦抵抗等の影響を受ける。このため、長時間ボールねじナット3を移動していると、サポート用ボールねじナットの位置にずれを生じる。このため、サポート用ボールねじナット20aが例えばボールねじナット3と軸受ハウジング5aとの間の中央より左側に位置ずれを生じている場合には、ボールねじナット3が左端側に移動したときに、その移動許容範囲内であっても、図7に示すように、サポート用ボールねじナット20aの軸方向位置規制を行っている位置規制板26を固定しているボルト頭部が軸受ハウジング5aに当接する場合が発生する。
この状態となると、サポート用ボールねじナット20aの左方への移動が軸受ハウジング5aによって阻止されるので、ねじ軸1の回転が継続されると、サポート用ボールねじナット20aに回転トルクが伝達されることになり、この回転トルクがクラッチ機構30のスプリング33の弾性力で設定された許容回転トルク以上となると、ボール34が係合凹部31から左方に押し出され、サポート用ボールねじナット20aがナットハウジング25に対して空転状態となり、ねじ軸1に過大な負荷が掛かることを防止することができる。
【0033】
同様に、サポート用ボールネジナット20bがボールねじナット3と軸受ハウジング5bとの中間より右側に位置ずれを生じて、サポート用ボールねじナット20bが軸受ハウジング5bに当接して場合にも、サポート用ボールねじナット20bが空転して、ネジ軸1に過大な負荷が掛かることを防止することができる。
【0034】
さらに、サポート用ボールねじナット20a又は20bがボールねじナット3側に位置ずれを生じて、ボールねじナット3と干渉する場合にも、サポート用ボールねじナット20a又は20bが空転してねじ軸1に過大な負荷が掛かることを防止することができる。
このように、サポート用ボールねじナット20a及び/又は20bに位置ずれを生じた場合には、前述したと同様に押しねじ35を緩めてスプリング33の弾性力を低下させることにより、サポート用ボールねじナット20a及び/又は20bを容易に空転させて、位置ずれを補正することができ、押しねじ35を緩めなくてもスプリング33の弾性力で設定される回転トルク以上の回転トルクを発生するように移動体28を移動させることにより、位置ずれを補正することができる。
【0035】
なお、上記第1の実施形態においては、ボール34をコイルスプリング33で押圧する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、板バネ等の他のスプリングを適用することができる他、ゴム等の他の弾性体を適用するようにしてもよい。また、上記第1の実施形態においては、係合凹部31とボール34とを係合させる場合について説明したが、これに限らず、係合凹部31及びボール34を省略してこれらに代えて摩擦板をスプリングでサポート用ボールねじナット20a及び20bの端面に接触させるようにしてもよい。
【0036】
さらに、第1の実施形態においては、スプリング33の弾性力を押しねじ35の締め付け位置によって調整する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、押しねじ35とスプリング33との間にスプリングシートを設け、このスプリングシートの厚みを変更することにより、スプリング33の弾性力を調整するようにしてもよい。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態を図8〜図11を伴って説明する。この第2の実施形態は、クラッチ機構の断続を任意に制御するようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、中間サポートのクラッチ機構30を第1の実施形態における係合凹部31、スプリング33、ボール34及び押しねじ35で構成する場合に代えて、図9及び図10に示すように、位置規制板26のサポート用ボールねじナット20aとは反対側における中心を通る線上に一対のエアシリンダ40,41を点対称に配設し、これらエアシリンダ40,41のスプリング(図示せず)によって伸長側に付勢されたピストンロッド42の先端に形成した摩擦板43を位置規制板26に形成した貫通孔44を通じてサポート用ボールねじナット20aの端面に対向させるように構成されている。
ここで、エアシリンダ40,41にフレキシブル配管45を通じて加圧空気を供給することにより、ピストンロッド42を収縮させて摩擦板43をサポート用ボールねじナット20aの端面から離間させて非締結状態となって、サポート用ボールねじナット20aの自由な空転を許容し、この状態からエアシリンダ40,41への加圧空気の供給を遮断して排気状態とすることにより、スプリングによってピストンロッド42が伸長して摩擦板43がサポート用ボールねじナット20aの端面に圧接する締結状態となって、サポート用ボールねじナット20aをナットハウジング25に対して一体に固定する。
【0038】
また、軸受ハウジング5aには、図8に示すように、超音波又はレーザ光を照射した時点から反射波又は反射光を受信又は受光した時点までの時間を測定することにより距離を計測する超音波測距装置又はレーザ測距装置で構成される2つの距離センサ50,51が配設され、距離センサ50でボールねじナット3に取り付けたテーブル10の左端までの距離を測定し、距離センサ51でサポート用ボールねじナット20aに取り付けたテーブル29の左端までの距離を測定する。
【0039】
さらに、軸受ハウジング5bに距離センサ50,51と同様の距離センサ53が配設され、この距離センサ53で、サポート用ボールねじナット20bに取り付けたテーブル29の右端までの距離を測定する。
そして、各距離センサ50〜51の距離検出値が図12に示すように、制御装置55に入力され、この制御装置55で、距離センサ50で検出したボールねじナット3の距離検出値に基づいてサポート用ボールねじナット20a及び20bの目標距離La* 及びLb* を算出し、算出した目標距離La* 及びLb* と距離センサ51及び52で検出した距離検出値La及びLbとが不一致であるとき即ちサポート用ボールねじナット20a及び20bに位置ずれが発生した場合に、ねじ軸1の回転方向を加味して、目標距離La* 及びLb* と検出距離La及びLbが一致するようにサポート用ボールねじナット20a及び20bに対するエアシリンダ40,41への加圧空気の給排を行うアクチュエータ53及び54を制御するとともに、距離検出値La及びLbが予め設定した最小設定距離Lmin以下となったときに接近異常と判断してアクチュエータ53,54を加圧空気供給状態に制御してエアシリンダ40,41に対して加圧空気を供給する。
【0040】
この第2の実施形態によると、常時ボールねじナット3の位置を距離センサ50で検出するとともに、サポート用ボールねじナット20a及び20bの位置を常時距離センサ51及び52で検出しており、サポート用ボールねじナット20a及び20bが位置ずれを生じることなく正規の位置にある状態では、アクチュエータ43,54が排気状態に制御されてエアシリンダ40,41から加圧空気が排気された状態に維持されるため、ピストンロッド42がスプリングの弾性力によって伸長して摩擦板43がサポート用ボールねじナット20a及び20bに圧接してクラッチ機構30が締結状態となり、サポート用ボールねじナット20a及び20bがナットハウジング25に一体に固定され、ねじ軸1の回転に応じてボールねじナット3の移動速度の半分の速度で移動する。
【0041】
この正常状態から例えばサポート用ボールねじナット20aが軸受ハウジング5a寄りとなる位置ずれが生じた場合には、ボールねじナット3が軸受ハウジング5a側に移動するようにねじ軸1が回転駆動された時に、アクチュエータ53を供給状態に制御し、エアシリンダ40に対して加圧空気を供給して、ピストンロッド42をスプリングに抗して収縮させることにより、摩擦板43とサポート用ボールねじナット20aとを離間させてクラッチ機構30を非締結状態とし、これによってサポート用ボールねじナット20aをナットハウジング25に対して空転可能とすることにより、サポート用ボールねじナット20aの移動距離を低下させ、距離センサ51で検出される距離検出値Laがボールねじナット3の距離検出値Lに基づいて算出される目標距離La* と一致した時点でアクチュエータ53を排気状態に制御してエアシリンダ40から加圧空気を排気することにより、クラッチ機構30を締結状態に復帰させ、サポート用ボールねじナット20aをボールねじナット3の移動速度の半分の移動速度で移動する正規の移動状態に復帰させる。
【0042】
逆に、サポート用ボールねじナット20aがボールねじナット3寄りに位置ずれを生じたときには、ボールねじナット3が軸受ハウジング5b側に移動するようにねじ軸1が回転駆動された時に、前記と同様にアクチュエータ53を加圧供給状態に制御し、エアシリンダ40に加圧空気を供給してクラッチ機構30を非締結状態として、サポート用ボールねじナット20aをナットハウジング25に対して空転状態として、サポート用ボールねじナット20aの右方への移動速度を低下させて位置調整を行い、正規の位置に達した時点でアクチュエータ53を排気状態に制御し、エアシリンダ40から加圧空気を排気することにより、クラッチ機構30を締結状態に制御して、サポート用ボールねじナット20aを正規の移動速度に復帰させる。
【0043】
同様に、サポート用ボールねじナット20bについても位置ずれが発生した場合には、ねじ軸1が位置ずれを補正可能な回転方向となったときにクラッチ機構30を非締結状態として位置ずれを補正し、位置ずれが解消した時点でクラッチ機構30を締結状態に復帰させて、サポート用ボールねじナット20bを正規の移動速度に復帰させる。
【0044】
さらに、サポート用ボールねじナット20a又は20bの距離検出値La又はLbが最小設定距離Lmin以下となった時にも、クラッチ機構30を非締結状態として、サポート用ボールねじナット20a又は20bをナットハウジング25に対して空転状態として、サポート用ボールねじナット20a又は20bが軸受ハウジング5a又は5bに衝接することを未然に防止することができ、ねじ軸1に過大な負荷が掛かることを防止することができる。
【0045】
なお、上記第2の実施形態においては、クラッチ機構30として、バネ付エアシリンダを適用した場合について説明したが、複動エアシリンダを適用してピストンロッドの伸縮をともに異なる端部に加圧空気を供給することにより行うようにしてもよい。
また、上記第2の実施形態においては、クラッチ機構30をエアシリンダで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、油圧シリンダ等の他の流体シリンダで構成するようにしてもよく、さらには、電磁ソレノイド等の電気的アクチュエータを適用するようにしてもよく、なおさらに、電磁クラッチや電磁粉クラッチ等を適用するようにしてもよい。
【0046】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、サポート用ボールねじナット20a及び20bのリード角を“0°”とした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、厳密にリード角を“0°”にする必要はなく、“0°近傍の値に設定することができ、特に第2の実施形態においては、サポート用ボールねじナット20a及び20bの位置をクラッチ機構30を使用して制御することができるので、リード角を“0°”より大きな角に設定して、サポート用ボールねじナット20a及び20bの移動速度を速め、クラッチ機構30によって目標距離に位置制御するようにしてもよい。
【0047】
次に、本発明の第3の実施形態を図13について説明する。この第3の実施形態は、上記第1及び第2の実施形態では、ボールねじナット3のボールとサポート用ボールねじナット20a及び20bのボールとでねじ軸1のボール溝2を共有する場合について説明したが、これに代えて、両者を異なるボール溝に転動させるようにしたものである。
【0048】
すなわち、第3の実施形態では、図13に示すように、前述した第1の実施形態において、ねじ軸1に2条のねじ溝2a及び2bを形成し、一方のねじ溝2aにボールねじナット3のボールを転動させ、他方のねじ溝2bにサポート用ボールねじナット20a及び20bのボール21を転動させるように構成されている。
【0049】
この第3の実施形態によると、ボールねじナット3のボールとサポート用ボールねじナット20a及び20bのボール21とがねじ軸1の異なるねじ溝2a,2bを転動することになるため、サポート用ボールねじナット20a及び20bのボール21がねじ溝2aを磨耗させることを確実に回避することができ、ねじ溝2aの寿命を長期化することができると共に、サポート用ボールねじナット20a及び20bのねじ溝2bをサポート用ボールねじナット20a及び20bに最適な溝形状,粗さ等に設計することができ、溝設計の自由度を向上させることができる。
【0050】
すなわち、上記第1及び第2の実施の形態では、ねじ軸1側のボール溝2及びサポート用ボールねじナット20a,20b側のボール溝22の形状を共にゴシックアーチ形状として、ボール21がボール溝2側で2点、ボール溝22側で2点(合計4点)で接触するようにした場合を例に採ったが、これに代えて図14に示すように、ねじ軸1側のボール溝2の形状をゴシックアーチ形状としてボール21をボール溝2側でP1 ,P2 の2点で接触させるとともに、サポート用ボールねじナット20a,20b側のボール溝22の形状を単一R形状としてボール21をボール溝22側でP3 の1点(合計3点)で接触させて軽い予圧をかけ、これにより、ボール21ひいてはサポート用ボールねじナット20a,20bの安定した動きを得ることができる。
【0051】
詳述すると、ねじ軸1のボール溝2とサポート用ボールねじナット20a,20bのボール溝22とのリード角が互いに異なる場合、ボール21とそれぞれのボール溝2,22との間で転がり運動に加えて、すべり運動が大きくなる。従来の無循環ボールねじ装置の場合、ねじ軸側のボール溝とナット側のボール溝の形状が共にゴシックアーチ形状で同じであったため、ボールがねじ軸側のボール溝で2点、ナット側のボール溝で2点、合計4点で接触することになり、すべり摩擦が大きかった。
【0052】
これは、図14を参照して、ねじ軸1のボール溝2のP1 ,P2 の2点でボール21が転がり運動する場合、サポート用ボールねじナット20a(20b)側ではベクトルaの方向にボール21が進めば転がりとなるが、実際には、ナット側のボール溝のリード角が0°なのでボール21はベクトルbの方向に進む。つまり、ベクトルaとベクトルbとの差(ベクトルc)がボール21のすべりとなり、ボール21をボール溝22で2点で接触させるようにした場合はこのすべりを良好に吸収することができず、すべり摩擦が大きくなってしまう。
【0053】
これに対し、図14に示すように、ねじ軸1側のボール溝2の形状をゴシックアーチ形状としてボール21をボール溝2側でP1 ,P2 の2点で接触させるとともに、サポート用ボールねじナット20a,20b側のボール溝22の形状を単一R形状としてボール21をボール溝22側でP3 の1点(合計3点)で接触させて軽い予圧をかけるようにすると、ボール21は点P1 ,P2 ,P3 で接触し、このうちのねじ軸1のボール溝2側のP1 ,P2 点では転がり運動となり、ボール溝22側のP3 点では接触点周りの回転すべりを伴う転がり運動となって、該回転すべりによってベクトルaとベクトルbの差分(ベクトルc)が吸収され、これにより、すべり摩擦が小さくなってボール21ひいてはサポート用ボールねじナット20a,20bの安定した動きを得ることができる。
【0054】
また、図1及び図8の直動案内装置に用いられるサポート用ボールねじナット20a,20bのボール21を3点接触にした場合は、dm:26mm、l :50mm、Da:3.9688mm、α1 :45°、α2 :0°とすると、ボールねじナット3の軸方向の移動速度がNi・l になるのに対して、サポート用ボールねじナット20a,20bの軸方向の移動速度vは(10)式より0.54Ni・l となり、この場合も上記実施の形態と同様に、ねじ軸1が一回転した際に、ボールねじナット3が軸方向に1リード分だけ進むのに対し、サポート用ボールねじナット20a,20bはボールねじナット3の移動距離の略1/2だけ軸方向に進むことになり、上記実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0055】
なお、上記第3の実施形態においては、第1の実施形態に2条ねじを適用した場合について説明したが、これに限らず、第2の実施形態に2条ねじを適用するようにしてもよいことは言うまでもない。また、上記第3の実施形態においては、ねじ軸1に2条ねじ溝を形成した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ねじ軸1に3条ねじ溝を形成し、このうちの2つをボールねじナット用として、残りの1つをサポート用ボールねじナット用としたり、3条のねじ溝を夫々ボールねじナット用、サポート用ボールねじナット20a用及びサポート用ボールねじナット20b用とすることもでき、さらには、ねじ軸1に4条ねじ溝を形成し、このうちの2つのねじ溝をボールねじナット3用、残りの2つをサポート用ボールねじナット20a,20b用としたり、3つのねじ溝をボールねじナット3用とし、残りの1つのねじ溝をサポート用ボールねじナット20a,20b用とし、1つのねじ溝をボールねじナット3用とし、残りの3つのねじ溝をサポート用ボールねじナット20a,20b用とすることもでき、要はねじ軸1に多条ねじ溝を形成し、ボールねじナット3用とサポート用ボールねじナット20a,20b用とで異なるねじ溝を使用するようにすればよい。
【0056】
さらに、上記各実施の形態では、ねじ軸1のボール溝2に二個のサポート用ボールねじナット20a,20bを螺合した場合を例に採ったが、これに限定されず、例えば、ねじ軸1の支持端側(右端側)のみにサポート用ボールねじナット20aを螺合するようにしても大きな制振効果を得ることができる。さらに、上記各実施の形態では、ねじ軸1は左端側が支持端となっているが、これが固定端や自由端であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…ねじ軸
2…ねじ軸のボール溝
3…ボールねじナット
20a,20b…サポート用ボールねじナット
21…サポート用ボールねじナット側のボール
22…サポート用ボールねじナット側のボール溝
25…ナットハウジング
26,27…位置規制板
30…クラッチ機構
31…係合凹部
33…スプリング
34…ボール
35…押しねじ
40,41…エアシリンダ
42…ピストンロッド
43…摩擦板
50〜52…距離センサ
53,54…アクチュエータ
55…制御装置
2a,2b…ねじ溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のボール溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に遊嵌される内周面に前記ねじ軸のボール溝に対応するボール溝を有するボールねじナットと、前記両ボール溝間に転動可能に嵌合された多数のボールとを備え、該ボールが前記ボールねじナットに嵌合されたボール循環部品に案内されて循環するボールねじ装置の前記ねじ軸に取り付けられるとともに、前記ボールねじナットの移動速度より遅い速度で移動する中間サポートであって、
前記ねじ軸のボール溝にボールを介して螺合され且つリード角が0°又はその近傍の値に設定されたボール溝を有するサポート用ナットと、該サポート用ナットを前記ねじ軸と平行に案内する案内機構と、該案内機構及び前記サポート用ナット間に介挿されたクラッチ機構とを備え、
前記案内機構は、前記サポート用ナットを回動可能に配設した円筒状のナットハウジングと、該ナットハウジングの両端に夫々固定された位置規制板とを少なくとも有して構成され、
前記クラッチ機構は、前記サポート用ナットの前記位置規制板との対向面に軸芯を中心とする同一円上に所定間隔を保って形成された係合凹部と、該係合凹部に対向して前記位置規制板側に形成された貫通孔内に配設された弾性体によって当該係合凹部側に付勢されたボールと、前記貫通孔の前記サポート用ナットとは反対側の端面に螺合された押ねじとで構成されていることを特徴とするボールねじ装置の中間サポート。
【請求項2】
外周面に螺旋状のボール溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に遊嵌される内周面に前記ねじ軸のボール溝に対応するボール溝を有するボールねじナットと、前記両ボール溝間に転動可能に嵌合された多数のボールとを備え、該ボールが前記ボールねじナットに嵌合されたボール循環部品に案内されて循環するボールねじ装置の前記ねじ軸に取り付けられるとともに、前記ボールねじナットの移動速度より遅い速度で移動する中間サポートであって、
前記ねじ軸のボール溝にボールを介して螺合され且つリード角が0°又はその近傍の値に設定されたボール溝を有するサポート用ナットと、該サポート用ナットを前記ねじ軸と平行に案内する案内機構と、該案内機構及び前記サポート用ナット間に介挿されたクラッチ機構とを備え、
前記サポート用ナットのボールは、前記ねじ軸に形成された前記ボールねじナットが螺合するボールねじ溝とは異なるボールねじ溝に螺合され、
前記案内機構は、前記サポート用ナットを回動可能に配設した円筒状のナットハウジングと、該ナットハウジングの両端に夫々固定された位置規制板とを少なくとも有して構成され、
前記クラッチ機構は、前記サポート用ナットの前記位置規制板との対向面に軸芯を中心とする同一円上に所定間隔を保って形成された係合凹部と、該係合凹部に対向して前記位置規制板側に形成された貫通孔内に配設された弾性体によって当該係合凹部側に付勢されたボールと、前記貫通孔の前記サポート用ナットとは反対側の端面に螺合された押ねじとで構成されていることを特徴とするボールねじ装置の中間サポート。
【請求項1】
外周面に螺旋状のボール溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に遊嵌される内周面に前記ねじ軸のボール溝に対応するボール溝を有するボールねじナットと、前記両ボール溝間に転動可能に嵌合された多数のボールとを備え、該ボールが前記ボールねじナットに嵌合されたボール循環部品に案内されて循環するボールねじ装置の前記ねじ軸に取り付けられるとともに、前記ボールねじナットの移動速度より遅い速度で移動する中間サポートであって、
前記ねじ軸のボール溝にボールを介して螺合され且つリード角が0°又はその近傍の値に設定されたボール溝を有するサポート用ナットと、該サポート用ナットを前記ねじ軸と平行に案内する案内機構と、該案内機構及び前記サポート用ナット間に介挿されたクラッチ機構とを備え、
前記案内機構は、前記サポート用ナットを回動可能に配設した円筒状のナットハウジングと、該ナットハウジングの両端に夫々固定された位置規制板とを少なくとも有して構成され、
前記クラッチ機構は、前記サポート用ナットの前記位置規制板との対向面に軸芯を中心とする同一円上に所定間隔を保って形成された係合凹部と、該係合凹部に対向して前記位置規制板側に形成された貫通孔内に配設された弾性体によって当該係合凹部側に付勢されたボールと、前記貫通孔の前記サポート用ナットとは反対側の端面に螺合された押ねじとで構成されていることを特徴とするボールねじ装置の中間サポート。
【請求項2】
外周面に螺旋状のボール溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に遊嵌される内周面に前記ねじ軸のボール溝に対応するボール溝を有するボールねじナットと、前記両ボール溝間に転動可能に嵌合された多数のボールとを備え、該ボールが前記ボールねじナットに嵌合されたボール循環部品に案内されて循環するボールねじ装置の前記ねじ軸に取り付けられるとともに、前記ボールねじナットの移動速度より遅い速度で移動する中間サポートであって、
前記ねじ軸のボール溝にボールを介して螺合され且つリード角が0°又はその近傍の値に設定されたボール溝を有するサポート用ナットと、該サポート用ナットを前記ねじ軸と平行に案内する案内機構と、該案内機構及び前記サポート用ナット間に介挿されたクラッチ機構とを備え、
前記サポート用ナットのボールは、前記ねじ軸に形成された前記ボールねじナットが螺合するボールねじ溝とは異なるボールねじ溝に螺合され、
前記案内機構は、前記サポート用ナットを回動可能に配設した円筒状のナットハウジングと、該ナットハウジングの両端に夫々固定された位置規制板とを少なくとも有して構成され、
前記クラッチ機構は、前記サポート用ナットの前記位置規制板との対向面に軸芯を中心とする同一円上に所定間隔を保って形成された係合凹部と、該係合凹部に対向して前記位置規制板側に形成された貫通孔内に配設された弾性体によって当該係合凹部側に付勢されたボールと、前記貫通孔の前記サポート用ナットとは反対側の端面に螺合された押ねじとで構成されていることを特徴とするボールねじ装置の中間サポート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−196901(P2010−196901A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127302(P2010−127302)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願平11−276641の分割
【原出願日】平成11年9月29日(1999.9.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願平11−276641の分割
【原出願日】平成11年9月29日(1999.9.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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