説明

ボールねじ装置

【課題】 ねじ軸にスプライン軌道を設けることなく、ねじ軸の直線移動の案内を可能とするとともに、ボールねじ装置の軸方向長さの低減を可能としたボールねじ装置を提供する。
【解決手段】 ねじ軸2の直線移動を案内する案内手段8は、ホルダー6の外周に固定された内筒13と、内筒13の外周に回転不可能にかつ直線移動可能に嵌め合わされた外筒14と、ねじ軸2と外筒14とを両者が一体で直線移動可能なように連結する連結筒16とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールねじ装置に関し、特に、ねじ軸が直線移動する形態で使用されるボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、アクチュエータや電磁緩衝器などで使用される場合に、ボールねじナットが回転して、ねじ軸が直線移動する形態で使用されることがある。この場合、ねじ軸の直線移動を案内するための案内手段として、ねじ軸に設けられたスプライン軌道と、スプライン軌道にボールを介して嵌め合わされかつホルダーに固定されたスプライン外筒とからなるもの(ボールスプライン機構)が使用されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−143436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のボールねじ装置では、ねじ軸に設けられたスプライン軌道は、ボールねじ軌道と交差することから、スプライン用ボールの移動がボールねじ溝に阻害される可能性があり、また、ボールねじナットとスプライン外筒とが、ねじ軸に直列に配置されたものとなるため、軸方向長さが長くなり、設置長さが限定されている箇所への設置が困難という問題があった。
【0005】
この発明の目的は、ねじ軸にスプライン軌道を設けることなく、ねじ軸の直線移動の案内を可能とするとともに、ボールねじ装置の軸方向長さの低減を可能としたボールねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるボールねじ装置は、ボールねじ軌道が設けられたねじ軸と、ねじ軸のボールねじ軌道にボールを介してねじ合わされたボールねじナットと、ボールねじナットを回転可能に支持するホルダーと、ねじ軸の直線移動を案内する案内手段とを備えているボールねじ装置において、案内手段は、ホルダーの外周に固定された内筒と、内筒の外周に回転不可能にかつ直線移動可能に嵌め合わされた外筒と、ねじ軸と外筒とを両者が一体で直線移動可能なように連結する連結筒とを有していることを特徴とするものである。
【0007】
内筒および外筒は、例えば、ボールスプラインを構成するものとされ、内筒の外周にスプライン軌道が設けられるとともに、外筒の内周にスプライン軌道が設けられて、両者がボールを介して嵌め合わされる。
【0008】
従来の案内手段で使用されているボールスプラインは、ねじ軸の外周にスプライン軌道が設けられているが、本発明のボールねじ装置のねじ軸には、ボールねじ軌道が設けられるだけで、スプライン軌道は設けられない。したがって、従来では、スプライン軌道とボールねじ軌道との交差部におけるスプライン用ボールの落ち込みによってスプライン用ボールのスムーズな移動が阻害される可能性を考慮する必要があったのに対し、このような考慮をしなくても、スプライン用ボールのスムーズな移動を容易に確保することができる。
【0009】
案内手段によると、内筒がホルダーに固定、外筒が内筒に対して回転不可能で直線移動可能であり、ねじ軸と外筒とが連結筒によって結合されているので、連結筒および外筒がねじ軸と一体で直線移動し、外筒が内筒に沿って回転することなく直線移動することで、ねじ軸は、回り止めされた状態で直線移動するように案内される。
【0010】
案内手段とボールねじナットの位置関係は、ホルダーの内側にボールねじナットが、ホルダーの外側に案内手段の外筒が配置されることから、ねじ軸の軸方向に対して、同心状に案内手段が配置される。従来のボールスプラインでは、ボールスプライン外筒をボールねじナットに対して直列に配置する必要があり、ボールねじ装置の全長がその分長くなるのに対し、このような案内手段の配置により、ボールスプライン外筒の長さに相当する分だけボールねじ装置の全長の短縮が可能となる。案内手段の外径は、従来のものに比べて大きくなるが、この種のボールねじ装置の用途では、径方向には余裕があって、その全長の短縮が求められており、この発明によるボールねじ装置は、このような用途での使用に適したものとなる。
【0011】
連結筒は、有底円筒状をなし、例えば、その底壁とねじ軸の端部とが結合され、その周壁の頂部と外筒とが結合されることで、ねじ軸、外筒および連結筒が一体化される。ここでの一体化は、ねじ軸、外筒および連結筒の3つの部材が軸方向いずれの方向にも一体で直線移動可能という意味であり、部材同士は、分離可能であってもよい。
【0012】
ボールねじ装置に作用する横力(曲げモーメント)に対しては、内筒と外筒とがボールを介して力を及ぼし合うことで支持され、これにより、ねじ軸に作用する横力が軽減され、ボールねじ装置の信頼性が確保される。外筒の長さは、従来のボールスプライン外筒の長さよりも大きくすることもでき、外径が大きい分と合わせて、より大きな横力を支持することが可能となる。
【0013】
案内手段は、ねじ軸の回り止め機能が必要であり、トルクに対しては高い剛性が必要である。一方、半径方向については、ねじ軸に大きな横力が作用することを回避するために、半径方向の剛性を低くして、案内手段によって横力を吸収して、横力がねじ軸に伝わらないようにすることが好ましい。
【0014】
そこで、有底円筒状の連結筒において、ねじ軸の端部が連結筒の底壁に設けられた係合孔に嵌め入れられており、連結筒の底壁に、複数の切欠きが設けられていることがある。
【0015】
このようにすると、ねじ軸の端部が連結筒の底壁に設けられた係合孔に嵌め入れられていることで、ねじ軸と連結筒とは、トルクおよび軸方向に対しては高い剛性を有し、通常、同心で一体となって直線移動する。そして、連結筒の底壁に係合孔を囲む複数の切欠きが設けられていることで、連結筒がねじ軸に対して軸方向と直交する方向に変形(移動)しやすくなっており、連結筒に軸方向と直交する方向に大きな力が作用した場合におけるねじ軸と連結筒との心ずれが許容され、これにより、ねじ軸自体に掛かる横力が軽減される。
【0016】
内筒は、ホルダーとは別部材とされて、ホルダーに固定されるようになされてももちろんよいが、ホルダーと内筒とが一体品とされているようにしてもよい。一体品の場合、ボールねじナットを軸受を介して回転可能に支持しているホルダーの外周面にスプライン軌道が形成され、ホルダー外周にボールを介して外筒が嵌められる。このようにすると、部品数が低減されるとともに、軸受と外筒との心ずれも小さくすることができる。
【0017】
連結筒の底壁が内筒に近づく方向にねじ軸が移動する場合、連結筒の底壁は、内筒に当接することになり、連結筒の底壁と内筒との距離がストロークの最大値となる。したがって、ねじ軸のストローク量に応じて、ボールねじ装置の全長が決定される。
【0018】
ボールねじ装置の全長をさらに短縮する構成として、内筒の連結筒の底壁に対向する端面に、周方向に所定間隔で凹部および凸部が形成されており、連結筒の底壁に、ねじ軸の直線移動時に内筒の凸部が嵌め入れられる貫通孔が形成されているようにすることもできる。
【0019】
このようにすると、内筒の連結筒の底壁に対向する端面と連結筒の底壁とが面一になった状態で、内筒の凸部は、底壁の貫通孔に臨まされているので、連結筒がさらに移動したとしても、両者が干渉することはない。したがって、連結筒の底壁とホルダーとの距離をストロークの最大値としなくてもよいことになり、その分、ボールねじ装置の全長を短縮することができる。
【0020】
ボールねじ装置には、ねじ軸の所定量以上の移動を防止するストッパ(衝突時の衝撃を吸収する弾性変形可能な緩衝ゴム)が設けられることが好ましい。
【0021】
この発明によるボールねじ装置は、アクチュエータ(モータによってボールねじナットが回転させられ、これにより、ねじ軸が直線移動する形態)として使用されることがあり、緩衝器(ねじ軸が外部からの力によって直線移動させられ、これにより、ボールねじナットが回転し、モータが発生する電磁力が減衰力となる形態)として使用されることがある。
【0022】
ねじ軸、ボールねじナット、案内手段の外筒および案内手段の内筒は、例えば、S45C,S55Cなどの炭素鋼製あるいはSAE4150鋼製とされ、また、ボールは、例えば、軸受鋼(SUJ2)製とされる。ボールねじナットは、軸受鋼(SUJ2)製としてもよい。
【発明の効果】
【0023】
この発明のボールねじ装置によると、ねじ軸の直線移動を案内する案内手段は、ホルダーの外周に固定された内筒と、内筒の外周に回転不可能にかつ直線移動可能に嵌め合わされた外筒と、ねじ軸と外筒とを両者が一体で直線移動可能なように連結する連結筒とを有しているので、ねじ軸にスプライン軌道を設けることなく、ねじ軸の直線移動の案内が可能となり、また、内筒および外筒は、ボールねじナットと直列配置とせずに、ボールねじナットの外周に配置することが可能となることで、ボールねじ装置の軸方向長さを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、この発明によるボールねじ装置の第1実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図2は、この発明によるボールねじ装置における連結筒の好適な構成の一例を示す斜視図である。
【図3】図3は、この発明によるボールねじ装置の第2実施形態を示す縦断面図である。
【図4】図4は、この発明によるボールねじ装置の第3実施形態を示す縦断面図である。
【図5】図5は、この発明によるボールねじ装置の第3実施形態の要部の斜視図である。
【図6】図6は、同分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、各図の上下をいうものとする。
【0026】
図1は、この発明によるボールねじ装置(1)が適用された一例としての車両用サスペンション装置の第1実施形態を示しており、車両用サスペンション装置は、アクチュエータ部の構成要素であるボールねじ装置(1)と、ボールねじ装置(1)に連結された直列ダンパ(10)とを備えており、ボールねじ装置(1)の上端部が車体側に取り付けられ、直列ダンパ(10)の下端部がタイヤ側に取り付けられるようになされている。
【0027】
ボールねじ装置(1)は、ボールねじ軌道(2a)が設けられた上下にのびる鋼製ねじ軸(2)と、ねじ軸(2)のボールねじ軌道(2a)にボール(9)を介してねじ合わされた回転自在の鋼製ボールねじナット(3)と、ボールねじナット(3)に一体化されて上方にのびる円筒状のモータロータ(4)と、モータロータ(4)の上端部を囲むように配置されたモータステータ(5)と、ボールねじナット(3)を回転可能に支持するホルダー(6)と、ホルダー(6)とボールねじナット(3)との間に介在された軸受(7)と、ねじ軸(2)の上下方向(軸方向)直線運動を案内する案内手段(8)とを備えている。
【0028】
この車両用サスペンション装置は、タイヤから伝わる外力によってねじ軸(2)が軸方向に直線移動し、これに伴って、ボールねじナット(3)およびモータロータ(4)が回転し、この回転運動をモータに取り込んで、モータで発生する電磁力を減衰力として利用するようになっている。
【0029】
ホルダー(6)は、円筒状でその上端部にフランジ部(6a)が設けられている。ホルダー(6)のフランジ部(6a)の外周縁部には、ホルダー(6)の外周との間に案内手段配置スペースが確保されるように、円筒状カバー(11)が固定されている。モータステータ(5)は、ホルダー(6)の内周に固定されたモータハウジング(12)に固定されている。
【0030】
軸受(7)の外輪(7a)は、ホルダー(6)に固定されており、軸受(7)の内輪(7b)は、ボールねじナット(3)の外周に内輪軌道溝が形成されることでボールねじナット(3)に一体に設けられている。
【0031】
案内手段(8)は、ホルダー(6)の外周に固定された内筒(13)と、複数のボール(15)を介して内筒(13)の外周に回転不可能にかつ上下移動可能に嵌め合わされた外筒(14)と、ねじ軸(2)と外筒(14)とを両者が一体で上下移動可能なように連結する連結筒(16)とからなる。
【0032】
内筒(13)および外筒(14)は、いずれも円筒状で、外筒(14)の下端部には、フランジ部(14a)が設けられている。内筒(13)の上端は、ホルダー(6)のフランジ部(6a)に当接しており、内筒(13)の下端は、ホルダー(6)の下端よりも下方に突出させられている。外筒(14)は、内筒(13)の長さの略1/3の長さとされて、内筒(13)との間に若干の間隙をおいて配置されている。内筒(13)の外周および外筒(14)の内周には、スプライン軌道が設けられており、複数のボール(15)は、これらのスプライン軌道間に配設されている。
【0033】
連結筒(16)は、周壁(21)および底壁(22)からなる有底円筒状とされている。
【0034】
連結筒(16)の周壁(21)は、外筒(14)の内径に等しい内径を有しており、ホルダー(6)の外周に沿って上下移動可能とされている。周壁(21)の上端部には、フランジ部(21a)が設けられており、外筒(14)下端のフランジ部(14a)に下方から突き合わされている。突き合わせ面においては、周壁(21)のフランジ部(21a)に設けられた環状凸部と外筒(14)のフランジ部(14a)に設けられた環状凹部とが嵌まり合っており、これにより、外筒(14)と連結筒(16)とは、一体で上下移動する。
【0035】
連結筒(16)の底壁(22)の中央部には、ねじ軸(2)の下端部が嵌め入れられて固定される係合孔(23)が設けられている。ねじ軸(2)の下端部は、下端面側が小径の段付き状とされており、係合孔(23)もこれに対応して段付き状とされている。これにより、ねじ軸(2)と連結筒(14)とは、一体で上下移動することになり、したがって、ねじ軸(2)の上下直線移動に伴って、連結筒(16)および外筒(14)が一体で上下直線移動する。
【0036】
直列ダンパ(10)は、作動液を収容する円筒状のダンパハウジング(31)と、ダンパハウジング(31)内に摺動可能に配置されたピストン(32)と、ピストン(32)が上端部に固定されて下端部がダンパハウジング(31)の下端開口から下方に突出してブッシュ(35)を介してタイヤ側(ロアアーム)に取り付けられるピストンロッド(33)と、ピストンロッド(33)に固定されてダンパハウジング(31)を覆うカバー(34)とを有している。
【0037】
連結筒(16)の底壁(22)の下面には、直列ダンパ(10)との結合用の凹部(24)が形成されており、ダンパハウジング(31)の上端部がこの凹部(24)内に嵌め入れられて固定されている。
【0038】
連結筒(16)の周壁(21)のフランジ部(21a)と直列ダンパ(10)のカバー(34)との間に、上部圧縮コイルばね(36)が設けられており、カバー(34)の上端には、上部圧縮コイルばね(36)の下端を受ける外向きフランジ部(34a)が設けられている。また、ダンパハウジング(31)の下端部と直列ダンパ(10)のカバー(34)との間に、下部圧縮コイルばね(37)が設けられており、カバー(34)の中程には、下部圧縮コイルばね(37)の上端を受ける内向きフランジ部(34b)が設けられている。
【0039】
ホルダー(6)上端のフランジ部(6a)には、案内手段(8)の外筒(14)の上方移動時に、外筒(14)のフランジ部(14a)を受ける上部ストッパ(38)が設けられている。また、ボールねじ装置(1)のカバー(11)の下端部には、案内手段(8)の外筒(14)の下方移動に伴って下方に移動させられる直列ダンパ(10)のカバー(34)のフランジ部(34a)を受ける下部ストッパ(39)が設けられている。これらのストッパ(38)(39)は、例えば弾性変形可能なゴム製弾性体とされて、ピストンロッド(33)が大きく上下移動して衝突する際の衝撃を吸収するようになっている。
【0040】
第1実施形態の発明のボールねじ装置(1)によると、ねじ軸(2)が直線移動すると、これに伴って、ボールねじナット(3)が回転する。ねじ軸(2)は、ボールねじナット(3)と一体で回転するモータロータ(4)の内周に沿って自身は回転せずに直線移動し、このねじ軸(2)の直線移動の案内は、案内手段(8)によって行われる。この案内手段(8)によると、内筒(13)がホルダー(6)に固定、外筒(14)が内筒(13)に対して回転不可能でかつ直線移動可能であり、ねじ軸(2)と外筒(14)とが連結筒(16)によって結合されているので、連結筒(16)および外筒(14)がねじ軸(2)と一体で直線移動し、外筒(14)が内筒(13)に沿って回転することなく直線移動することで、ねじ軸(2)は、回り止めされた状態で直線移動するように案内される。ピストンロッド(33)に作用する上向きの力は、上部圧縮コイルばね(36)によって緩和されて連結筒(16)およびねじ軸(2)に伝達され、また、ねじ軸(2)が大きく移動させられた場合には、その移動が上下ストッパ(38)(39)で停止させられ、これにより、ねじ軸(2)が保護される。
【0041】
ねじ軸(2)の下端部は、連結筒(16)の底壁(22)に設けられた係合孔(23)に嵌め入れられているので、直列ダンパ(10)からの力を受けて連結筒(16)に横力が作用した場合、この横力がねじ軸(2)の下端部に作用して、ねじ軸(2)の上下直線移動を阻害する可能性がある。そこで、図2に示すように、連結筒(16)の底壁(22)に、複数の切欠き(25)が設けられているようにしてもよい。このようにすると、連結筒(16)に横力が作用した場合、連結筒(16)の底壁(22)が半径方向に変形することでこの横力を吸収することができ、ねじ軸(2)の下端部に作用する横力が緩和され、ねじ軸(2)の上下直線移動が阻害されることはない。
【0042】
なお、図示省略するが、ホルダー(6)と内筒(13)とは、一体品とされているようにしてもよい。すなわち、ボールねじナット(3)を保持するホルダー(6)の外周にスプライン軌道を形成し、スプライン軌道が形成された外筒(14)をボール(15)を介してホルダー(6)に嵌め合わすようにしてもよい。このようにすると、部品数が低減されるとともに、軸受(7)と外筒(14)との心ずれを小さくすることができる。
【0043】
なお、図2に示した連結筒(16)の底壁(22)に切欠き(25)を設けた構成およびホルダー(6)と内筒(13)とを一体品とする構成は、後述する第2および第3実施形態のものにも適用することができる。
【0044】
図3は、この発明によるボールねじ装置(1)が適用された一例としての車両用サスペンション装置の第2実施形態を示しており、車両用サスペンション装置は、アクチュエータ部の構成要素であるボールねじ装置(1)と、ボールねじ装置(1)に連結された直列ダンパ(40)とを備えており、ボールねじ装置(1)の上端部が車体側に取り付けられ、直列ダンパ(40)の下端部がタイヤ側に取り付けられるようになされている。
【0045】
図3の上半部の構成は、第1実施形態の図1の上半部の構成と同じであり、以下では、第1実施形態と同じ構成には同じ符号を付してその説明を省略し、相違点についてのみ説明を行う。
【0046】
第2実施形態の車両用サスペンション装置における直列ダンパ(40)は、作動液を収容する円筒状のダンパハウジング(41)と、ダンパハウジング(41)内に摺動可能に配置されたピストン(42)と、ピストン(42)が下端部に固定されて上端部がダンパハウジング(41)の上端から上方に突出してねじ軸(2)の下端部に嵌め入れられているピストンロッド(43)と、ダンパハウジング(41)を覆う上下カバー(44)(45)と、ダンパハウジング(41)下端に固定されてタイヤ側(ロアアーム)に取り付けられるブッシュ(46)とを有している。
【0047】
連結筒(16)の底壁(22)には、ねじ軸(2)の下端部が嵌め入れられて固定されるストレート状の係合孔(26)が設けられている。また、ねじ軸(2)の下端部には、ピストンロッド(43)の上端部が挿入される凹部(2b)が形成されている。
【0048】
上部カバー(44)は、上端が連結筒(16)の底壁(22)に当接し、下端は、ダンパハウジング(41)の中程に位置させられている。下部カバー(45)は、上部カバー(44)の下部を囲むように配置されており、ダンパハウジング(41)の底壁(41a)と面一の底壁(45a)を有し、その上端は、上部カバー(44)の中程に位置させられている。
【0049】
上部圧縮コイルばね(47)および下部圧縮コイルばね(48)が、上下カバー(44)(45)に設けられている。下部カバー(45)の上端には、上部圧縮コイルばね(47)の上端を受ける外向きフランジ部(45b)が設けられ、上部カバー(44)の下端には、上部圧縮コイルばね(47)の下端および下部圧縮コイルばね(48)の上端を受ける内向きフランジ部(44a)が設けられている。下部圧縮コイルばね(48)の下端は、下部カバー(45)の底壁(45a)で受けられている。
【0050】
ダンパハウジング(41)およびねじ軸(2)の所定量以上の移動を防止するためのストッパとしては、第1実施形態と同じ上部ストッパ(38)と、連結筒(16)が下方に移動した際に周壁(21)のフランジ部(21a)を受ける下部ストッパ(49)とが設けられている。
【0051】
第2実施形態の発明のボールねじ装置(1)によると、ねじ軸(2)が直線移動すると、これに伴って、ボールねじナット(3)が回転する。ねじ軸(2)は、ボールねじナット(3)と一体で回転するモータロータ(4)の内周に沿って自身は回転せずに直線移動し、このねじ軸(2)の直線移動の案内は、案内手段(8)によって行われる。この案内手段(8)によると、内筒(13)がホルダー(6)に固定、外筒(14)が内筒(13)に対して回転不可能でかつ直線移動可能であり、ねじ軸(2)と外筒(14)とが連結筒(16)によって結合されているので、連結筒(16)および外筒(14)がねじ軸(2)と一体で直線移動し、外筒(14)が内筒(13)に沿って回転することなく直線移動することで、ねじ軸(2)は、回り止めされた状態で直線移動するように案内される。ダンパハウジング(41)に作用する上向きの力は、下部圧縮コイルばね(48)によって緩和されて連結筒(16)およびねじ軸(2)に伝達され、また、ねじ軸(2)が大きく移動させられた場合には、その移動が上下ストッパ(38)(49)で停止させられ、これにより、ねじ軸(2)が保護される。
【0052】
図4から図6までは、この発明によるボールねじ装置(1)が適用された一例としての車両用サスペンション装置の第3実施形態を示しており、車両用サスペンション装置は、アクチュエータ部の構成要素であるボールねじ装置(1)と、ボールねじ装置(1)に連結された直列ダンパ(40)とを備えており、ボールねじ装置(1)の上端部が車体側に取り付けられ、直列ダンパ(40)の下端部がタイヤ側に取り付けられるようになされている。
【0053】
この実施形態のボールねじ装置(1)は、第2実施形態のものに比べて、案内手段(8)(50)の構成が相違しており、以下では、第2実施形態と同じ構成には同じ符号を付してその説明を省略し、案内手段(50)についてのみ説明を行う。
【0054】
この実施形態のボールねじ装置(1)の案内手段(50)は、第1および第2実施形態と同様に、ホルダー(6)の外周に固定された内筒(51)と、複数のボール(15)を介して内筒(51)の外周に回転不可能にかつ上下移動可能に嵌め合わされた外筒(52)と、ねじ軸(2)と外筒(52)とを両者が一体で上下移動可能なように連結する連結筒(53)とからなり、また、連結筒(53)は、フランジ部(54a)付きの周壁(54)および係合孔(56)付きの底壁(55)からなる有底円筒状とされている。
【0055】
この実施形態の案内手段(50)において、ボール(15)および外筒(52)は、第2実施形態のボール(15)および外筒(14)と同じ形状とされ、連結筒(53)の周壁(54)のフランジ部(54a)は、第2実施形態の連結筒(16)の周壁(21)のフランジ部(21a)と同じ形状とされ、連結筒(53)の底壁(55)の係合孔(56)は、第2実施形態の連結筒(16)の底壁(22)の係合孔(26)と同じ形状とされている。
【0056】
この案内手段(50)は、第2実施形態と相違する構成として、内筒(51)の下端面(連結筒(53)の底壁(55)に対向する端面)に、周方向に所定間隔で凹部(57)および凸部(58)が形成されており、連結筒(53)の底壁(55)に、ねじ軸(2)の直線移動時に内筒(51)の凸部(58)が嵌め入れられる貫通孔(59)が各凸部(58)にそれぞれ対応して形成されている。そして、連結筒(53)の周壁(54)の上下方向の長さは、第2実施形態の連結筒(16)の周壁(21)の上下方向長さよりも小さくなされており、ねじ軸(2)が同じ位置にある場合で比較して、図4にGで示す内筒(51)の下端面と連結筒(53)の底壁(55)との間の隙間が、図3に示されている内筒(13)の下端面と連結筒(16)の底壁(22)との間の隙間に比べて大幅に小さくなっている。
【0057】
この案内手段(50)によると、図4の隙間Gがゼロとなって、内筒(51)の下端と連結筒(53)の底壁(55)とが面一になった状態で、内筒(51)の下端の凸部(58)は、底壁(55)の貫通孔(59)に臨まされているので、連結筒(53)がこの状態からさらに上方に移動した場合には、図5に示すように、内筒(51)の各凸部(58)が底壁(55)の各貫通孔(59)に挿通され、内筒(51)と連結筒(53)とが干渉することなく、連結筒(53)の上方への移動が許容される。したがって、連結筒(53)の底壁(55)と内筒(51)との距離をストロークの最大値としなくてもよいことになり、その分、連結筒(53)の周壁(54)の上下方向長さを短くして、ボールねじ装置(1)の全長を短縮することができる。
【0058】
この第3実施形態の発明のボールねじ装置(1)によると、上記以外は第2実施形態と同じであるので、ねじ軸(2)が直線移動すると、これに伴って、ボールねじナット(3)が回転し、ねじ軸(2)は、ボールねじナット(3)と一体で回転するモータロータ(4)の内周に沿って自身は回転せずに直線移動し、このねじ軸(2)の直線移動の案内が、案内手段(50)によって行われる。この案内手段(50)によると、内筒(51)がホルダー(6)に固定、外筒(52)が内筒(51)に対して回転不可能でかつ直線移動可能であり、ねじ軸(2)と外筒(52)とが連結筒(53)によって結合されているので、連結筒(53)および外筒(52)がねじ軸(2)と一体で直線移動し、外筒(52)が内筒(51)に沿って回転することなく直線移動することで、ねじ軸(2)は、回り止めされた状態で直線移動するように案内される。ダンパハウジング(41)に作用する上向きの力は、下部圧縮コイルばね(48)によって緩和されて連結筒(53)およびねじ軸(2)に伝達され、また、ねじ軸(2)が大きく移動させられた場合には、その移動が上下ストッパ(38)(49)で停止させられ、これにより、ねじ軸(2)が保護される。また、連結筒(53)は、貫通孔(59)が設けられていることで、捩り剛性が低下しているので、ねじ軸(2)が急加速するような衝撃荷重が作用した場合、ねじ軸(2)を回転させようとする力を連結筒(53)の捩れで吸収することができ、この点でも、ねじ軸(2)が保護される。
【0059】
なお、上記において、ボールねじ装置(1)は、自動車の電磁緩衝器用(車両用サスペンション装置)として使用されているが、このボールねじ装置(1)は、電磁緩衝器用に限られるものではなく、電動アクチュエータとして使用することもできる。この場合、モータの回転駆動力をボールねじナット(3)を介してねじ軸(2)の軸方向推力に変換し、推力の軸方向反力を軸受(7)で支持してねじ軸(2)を直線運動させ、ねじ軸(2)に作用する軸方向荷重をボールねじナット(3)で負荷するとともに、トルクをボールスプライン外筒(14)(52)で支持した形態での使用となる。
【符号の説明】
【0060】
(1) ボールねじ装置
(2) ねじ軸
(2a) ボールねじ軌道
(3) ボールねじナット
(6) ホルダー
(8)(50) 案内手段
(9) ボール
(13)(51) 内筒
(14)(52) 外筒
(16)(53) 連結筒
(22)(55) 底壁
(23)(26)(56) 係合孔
(25) 切欠き
(57) 凹部
(58) 凸部
(59) 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじ軌道が設けられたねじ軸と、ねじ軸のボールねじ軌道にボールを介してねじ合わされたボールねじナットと、ボールねじナットを回転可能に支持するホルダーと、ねじ軸の直線移動を案内する案内手段とを備えているボールねじ装置において、
案内手段は、ホルダーの外周に固定された内筒と、内筒の外周に回転不可能にかつ直線移動可能に嵌め合わされた外筒と、ねじ軸と外筒とを両者が一体で直線移動可能なように連結する連結筒とを有していることを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
連結筒は、有底円筒状であり、ねじ軸の端部が連結筒の底壁に設けられた係合孔に嵌め入れられており、連結筒の底壁に、複数の切欠きが設けられている請求項1のボールねじ装置。
【請求項3】
ホルダーと内筒とが一体品とされている請求項1のボールねじ装置。
【請求項4】
内筒の連結筒の底壁に対向する端面に、周方向に所定間隔で凹部および凸部が形成されており、連結筒の底壁に、ねじ軸の直線移動時に内筒の凸部が嵌め入れられる貫通孔が形成されている請求項1のボールねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−169436(P2011−169436A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35515(P2010−35515)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】