説明

ポリアミドイミドおよびその製造方法、ポリアミドイミド系絶縁塗料、ならびに絶縁電線

【課題】絶縁皮膜の絶縁性を低下させずに、塗料における樹脂固形分量を高めることができるポリアミドイミドおよびその製造方法、該ポリアミドイミドを含有するポリアミドイミド系絶縁塗料、および該ポリアミドイミド系絶縁塗料が塗布された絶縁電線を提供すること。
【解決手段】トリメリット酸を含有する酸成分と芳香族ジイソシアネートを含有するイソシアネート成分とを反応させるポリアミドイミドの製造方法であって、前記酸成分と前記イソシアネート成分とをカプロラクタム化合物の存在下で反応させることを特徴とするポリアミドイミドの製造方法、前記製造方法によって得られ、重量平均分子量800〜20000を有するポリアミドイミド、前記ポリアミドイミドを40質量%以上含有するポリアミドイミド系絶縁塗料、前記ポリアミドイミド系絶縁塗料を導体に塗布し、焼付けてなる絶縁電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミドおよびその製造方法、ポリアミドイミド系絶縁塗料、ならびに絶縁電線に関する。さらに詳しくは、ポリアミドイミドおよびその製造方法、該ポリアミドイミドを高濃度で含有するポリアミドイミド系絶縁塗料、ならびに該ポリアミドイミド系絶縁塗料が塗布された絶縁電線に関する。本発明の絶縁電線は、例えば、モータのコアなどに好適に使用しうるものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線は、導体と導体を被覆する絶縁皮膜とからなり、この絶縁皮膜には、レアー不良やアース不良などが発生しないようにするために、機械的強度に優れていることが要求されている。
【0003】
そこで、機械的強度に優れた絶縁皮膜を形成する塗料として、ジイソシアネート化合物などのイソシアネート成分とトリメリット酸などの酸成分とを反応させることによって得られるポリアミドイミドを含有するポリアミドイミド系塗料が提案されている(例えば、特許文献1などを参照)。通常、このポリアミドイミド系塗料にみられるように、その樹脂(ポリアミドイミド)固形分量は、25質量%程度である。
【0004】
【特許文献1】特開平7−21849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ポリアミドイミド系塗料に含まれている有機溶媒は、塗料を導体に塗布し、焼付ける際に揮散し、大気中に放出されるため、環境保護の観点および低価格化の観点から、ポリアミドイミド系塗料における溶媒の含有量を低減させ、樹脂固形分量を増加させることが望まれている。
【0006】
そこで、ポリアミドイミド系塗料に含まれている樹脂固形分量を増加させるためには、初期反応時におけるポリアミドイミドの原料モノマーの濃度を高く設定する必要がある。しかし、その濃度を高くした場合、イソシアネート成分の反応性を制御することが困難となるため、ワニスを製造することが困難となる。また、イソシアネート成分の反応性を制御するために、ブロック剤としてアルコールを添加することも考えられるが、その場合でも、イソシアネート成分の反応性を制御するためには、ポリアミドイミド系塗料における樹脂固形分量をせいぜい35質量%程度にまでしか高めることができない。
【0007】
また、ポリアミドイミド系塗料に含まれている樹脂固形分量を増加させた場合、その粘度が必然的に高くなるため、塗工性の観点から、高粘度化を回避するために、ポリアミドイミドを低分子量化させざるを得ないが、ポリアミドイミドを低分子量化させると、形成される絶縁皮膜が脆くなり、絶縁性が低下することになる。
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、塗料に使用して形成される絶縁皮膜の絶縁性を低下させずに、塗料中に高濃度で含有させることができるポリアミドイミドおよびその製造方法を提供することを課題とする。本発明は、また前記ポリアミドイミドを高濃度で含有し、良好な絶縁性を有する絶縁皮膜を形成するポリアミドイミド系絶縁塗料を提供することを課題とする。本発明は、さらに前記ポリアミドイミド系絶縁塗料が用いられ、良好な絶縁性を有する絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トリメリット酸を含有する酸成分と芳香族ジイソシアネートを含有するイソシアネート成分とを反応させるポリアミドイミドの製造方法に関するものであり、前記酸成分と前記イソシアネート成分とをカプロラクタム化合物の存在下で反応させることを特徴とする。本発明のポリアミドイミドの製造方法によって得られたポリアミドイミドは、塗料に使用して形成される絶縁皮膜の絶縁性を低下させずに、塗料中に高濃度で含有させることができる。
【0010】
本発明のポリアミドイミドの製造方法において、カプロラクタム化合物がε−カプロラクタムである場合には、イソシアネート成分の反応性が制御され、得られるポリアミドイミドのゲル化を防止することができる。
【0011】
本発明のポリアミドイミドの製造方法は、芳香族ジイソシアネートがジフェニルメタンジイソシアネートである場合、ジフェニルメタンジイソシアネートは汎用性を有するとともに低価格であることから、工業的生産性および経済性の面で有利となる。
【0012】
本発明のポリアミドイミドの製造方法は、酸成分がさらに無水トリメリット酸を含有する場合には、無水トリメリット酸は汎用性を有するとともに低価格であることから、工業的生産性および経済性の面で有利となる。
【0013】
本発明のポリアミドイミドの製造方法において、前記酸成分と前記イソシアネート成分とをカプロラクタム化合物の存在下で反応させた後、得られた反応溶液とブロックイソシアネートとを混合した場合には、形成される絶縁皮膜の絶縁性を高めることができる。
【0014】
本発明のポリアミドイミドは、前記製造方法によって得られるものであり、8000〜20000の重量平均分子量を有するので、ポリアミドイミド系絶縁塗料の粘度を高めずに、その絶縁塗料に高濃度で含有させることができる。
【0015】
本発明のポリアミドイミド系絶縁塗料は、ポリアミドイミドを40質量%以上含有するので、該塗料に含まれる有機溶媒量を相対的に低減させることができることから、大気中に放出される有機溶媒量を低減させることができるとともに、経済性にも優れている。
【0016】
本発明のポリアミドイミド系絶縁塗料は、有機溶媒として、N−メチル−2−ピロリドンおよびN,N−ジメチルホルムアミドを含有する場合には、その低粘度化が図られるので、塗工性を改善することができるという利点がある。特に、N−メチル−2−ピロリドンとN,N−ジメチルホルムアミドとの容量比(N−メチル−2−ピロリドン/N,N−ジメチルホルムアミド)が50/50〜70/30である場合には、ポリアミドイミド系絶縁塗料を低粘度化させ、塗工性をより改善させることができる。
【0017】
本発明の絶縁電線は、前記ポリアミドイミド系絶縁塗料を直接または他の絶縁層を介して導体に塗布し、焼付けることによって得られるものであり、その塗料における有機溶媒量が少ないので経済性に優れるとともに、良好な絶縁性を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリアミドイミドの製造方法によれば、塗料に使用して形成される絶縁皮膜の絶縁性を低下させずに、塗料中に高濃度で含有させることができるポリアミドイミドが得られる。本発明のポリアミドイミドは、ポリアミドイミド系絶縁塗料の粘度を高めずに、その絶縁塗料に高濃度で含有させることができる。本発明のポリアミドイミド系絶縁塗料は、有機溶媒量を低減させることができることから、大気中に放出される有機溶媒量を低減させることができるとともに、経済性にも優れている。本発明の絶縁電線は、前記ポリアミドイミド系絶縁塗料が用いられており、その塗料における有機溶媒量が少ないので経済性に優れるとともに、良好な絶縁性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のポリアミドイミドの製造方法は、トリメリット酸を含有する酸成分と芳香族ジイソシアネートを含有するイソシアネート成分とをカプロラクタム化合物の存在下で反応させる点に、1つの大きな特徴を有する。本発明によれば、このように酸成分とイソシアネート成分とをカプロラクタム化合物の存在下で反応させるため、イソシアネート成分の反応性が制御されるので、両者の反応によって得られるポリアミドイミドを塗料中に高濃度で含有させることができる。
【0020】
カプロラクタム化合物としては、例えば、ε−カプロラクタム、3−アミノカプロラクタム、6−ヘキサンラクタムなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでは、イソシアネート成分の反応性を制御し、得られるポリアミドイミドがゲル化することを抑制する性質に優れていることから、ε−カプロラクタムが好ましい。
【0021】
カプロラクタム化合物の量は、イソシアネート成分1当量あたり、イソシアネート成分の反応性を制御し、得られるポリアミドイミドがゲル化することを抑制する観点から、好ましくは0.1当量以上、より好ましくは0.2当量以上であり、ポリアミドイミドの耐熱性を高める観点から、好ましくは1.0当量以下、より好ましくは0.5当量以下である。
【0022】
酸成分は、トリメリット酸のみで構成されていてもよく、本発明の目的が阻害されない範囲内で他の有機酸を含有していてもよい。
【0023】
他の有機酸としては、例えば、トリメリット酸無水物、トリメリット酸クロライドなどのトリメリット酸誘導体;ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、テレフタル酸、イソフタル酸、スルホテレフタル酸、ジクエン酸、2,5−チオフェンジカルボン酸、4,5−フェナントレンジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸、フタルジイミドジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、アジピン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他の有機酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。前記他の有機酸のなかでは、トリメリット酸無水物は、汎用性を有するので、工業的生産性を高める観点から好ましい。
【0024】
本発明においては、ポリアミドイミドの耐熱性を高める観点から、トリメリット酸とトリメリット酸無水物とを併用することがより好ましい。トリメリット酸とトリメリット酸無水物とを併用する場合、トリメリット酸とトリメリット酸無水物との当量比(トリメリット酸/トリメリット酸無水物)は、ポリアミドイミドの耐熱性を高める観点および酸成分とイソシアネート成分との反応の制御を容易にする観点から、好ましくは0.005/0.995〜0.05/0.95、より好ましくは0.01/0.99〜0.03/0.97である。
【0025】
イソシアネート成分は、芳香族ジイソシアネートを含有する。イソシアネート成分は、芳香族ジイソシアネートのみで構成されていてもよく、本発明の目的が阻害されない範囲内で他のイソシアネートを含有していてもよい。
【0026】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIという)、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ベンゾフェノンジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、ジクロロビフェニルジイソシアネート、ジブロモビフェニルジイソシアネート、ジメチルビフェニルジイソシアネート、ジメチルビフェニルジイソシアネート、ジエチルビフェニルジイソシアネート、ジメトキシビフェニルジイソシアネート、ジエトキシビフェニルジイソシアネートなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。前記芳香族ジイソシアネートのなかでは、汎用性および経済性の観点から、MDIが好ましい。
【0027】
酸成分とイソシアネート成分とは、化学量論量で反応する。通常、酸成分1当量あたりのイソシアネート成分の量は、好ましくは0.9〜1.1当量、より好ましくは0.95〜1.05当量である。
【0028】
ポリアミドイミドは、酸成分とイソシアネート成分とをカプロラクタム化合物の存在下で反応させる際には、有機溶媒を用いることが好ましい。
【0029】
有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロへキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素化合物;ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素化合物;クレゾール、クロロフェノールなどのフェノール類;ピリジンなどの第三級アミン類などが挙げられ、これらの有機溶媒は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
なお、有機溶媒のなかでは、本発明のポリアミドイミドを含有するポリアミドイミド系塗料を低粘度化させる観点から、N−メチル−2−ピロリドンおよびN,N−ジメチルホルムアミドの少なくとも1種が好ましい。N−メチル−2−ピロリドンとN,N−ジメチルホルムアミドとは、ポリアミドイミドを調製する際に併用されていなくても、得られるポリアミドイミド系塗料中に併用されていればよい。
【0031】
有機溶媒の量は、酸成分、イソシアネート成分およびカプロラクタム化合物を均一に分散させることができる量であればよく、特に限定されないが、通常、これらの成分の合計量100質量部あたり、これらの成分を均一に分散させる観点から、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上であり、ポリアミドイミド系絶縁塗料における樹脂固形分量を高める観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。
【0032】
酸成分とイソシアネート成分との反応温度は、通常、0〜180℃程度であり、反応時間は、反応温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、1〜24時間である。また、反応の際の雰囲気は、特に限定されず、通常、大気であってもよく、あるいは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよいが、不活性ガスであることが好ましい。
【0033】
このようにして酸成分とイソシアネート成分とをカプロラクタム化合物の存在下で反応させることにより、酸成分とイソシアネート成分との重合反応が進行し、ポリアミドイミドが生成する。生成したポリアミドイミドの重量平均分子量は、酸成分およびイソシアネート成分の仕込み量などを調整することによって制御することができる。ポリアミドイミドの重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーによって測定することができる。ポリアミドイミドの重量平均分子量は、その絶縁性および機械的強度を高める観点から、8000〜20000である。
【0034】
以上のようにして得られるポリアミドイミドは、従来よりも高濃度で絶縁塗料に含有させることができる。
【0035】
本発明のポリアミドイミド系絶縁塗料は、前記ポリアミドイミドを含有する反応溶液に有機溶媒を添加し、ポリアミドイミドを40質量%以上含有するように調整することによって得られる。
【0036】
本発明のポリアミドイミド系塗料における樹脂(ポリアミドイミド)の濃度は、ポリアミドイミド系塗料における有機溶媒の含有量を低減させる観点から、40質量%以上であり、塗工性を向上させる観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0037】
有機溶媒としては、酸成分とイソシアネート成分とを反応させる際に用いられる有機溶媒と同様であることが好ましい。
【0038】
本発明のポリアミドイミド系塗料に含有される有機溶媒は、ポリアミドイミド系塗料を低粘度化させる観点から、N−メチル−2−ピロリドンおよびN,N−ジメチルホルムアミドの少なくとも1種が好ましく、N−メチル−2−ピロリドンとN,N−ジメチルホルムアミドとの併用がより好ましい。このようにN−メチル−2−ピロリドンとN,N−ジメチルホルムアミドとを併用した場合には、ポリアミドイミド系塗料の低粘度化が図られるので、塗工性を改善することができるという利点がある。N−メチル−2−ピロリドンとN,N−ジメチルホルムアミドとを併用する場合、N−メチル−2−ピロリドンとN,N−ジメチルホルムアミドとの容量比(N−メチル−2−ピロリドン/N,N−ジメチルホルムアミド)は、ポリアミドイミド系塗料を低粘度化させ、、塗工性を改善する観点から、好ましくは50/50〜70/30、より好ましくは55/45〜65/35である。
【0039】
なお、前記ポリアミドイミドを含有する反応溶液とブロックイソシアネートとを混合することが、絶縁性に優れた絶縁被膜を形成する観点から好ましい。
【0040】
ブロックイソシアネートは、イソシアネートがブロック剤で保護されたものである。
ブロックイソシアネートに用いられるイソシアネートの例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、MDI、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンなどの炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
ブロック剤は、イソシアネート基に付加し、常温で安定であるが、その解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生しうるものであることが好ましい。ブロックイソシアネートの解離温度は、好ましくは80〜160℃、より好ましくは90〜130℃である。
【0042】
ブロックイソシアネートの量は、酸成分1当量あたり、形成される絶縁被膜の絶縁性を向上させる観点から、好ましくは0.1当量以上、より好ましくは0.3当量以上であり、経済性の観点から、好ましくは10当量以下、より好ましくは5当量以下である。
【0043】
前記反応溶液とブロックイソシアネートとを混合する際には、あらかじめブロックイソシアネートを有機溶媒に溶解させておくことが好ましい。有機溶媒としては、例えば、酸成分とイソシアネート成分とを反応させる際に用いられる有機溶媒などが挙げられる。有機溶媒の量は、特に限定されないが、通常、ブロックイソシアネートの濃度が30〜50w/v%となるように調整することが好ましい。
【0044】
前記反応溶液とブロックイソシアネートとを混合する際の温度は、通常、ブロックイソシアネートの分解温度〜180℃である。混合時間は、前記反応溶液とブロックイソシアネートとが均一に分散される時間が選ばれ、特に限定されないが、通常、1〜24時間程度である。また、前記反応溶液とブロックイソシアネートとを混合する際の雰囲気は、特に限定されず、大気であってもよく、あるいは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよいが、不活性ガスであることが好ましい。
【0045】
このようにポリアミドイミドを含有する反応溶液とブロックイソシアネートとを混合した場合には、ポリアミドイミドの形成される絶縁被膜の絶縁性がより向上する。このブロックイソシアネートを混合した反応溶液は、そのままの状態でまたは有機溶媒で所望の濃度となるように希釈することにより、ポリアミドイミド系絶縁塗料として用いることができる。
【0046】
なお、本発明のポリアミドイミド系絶縁塗料には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、必要に応じて、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ホウ素、タングステンカーバイド、窒化ホウ素、窒化ケイ素などのフィラー;絶縁塗料の硬化性や流動性を改善するために、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネートなどチタン系化合物、ナフテン酸亜鉛、オクテン酸亜鉛などの亜鉛系化合物;顔料;染料;潤滑剤;酸化防止剤;硬化性改善剤;レベリング剤;接着助剤などの添加剤を含有させることができる。
【0047】
本発明の絶縁電線は、前記ポリアミドイミド系絶縁塗料を直接または他の絶縁層を介して導体に塗布し、焼付けて絶縁皮膜を形成させることによって製造することができる。導体の種類には特に限定がなく、例えば、銅線などが挙げられる。また、導体の直径についても特に限定がないが、通常、導体の直径は、0.5〜5mm程度であればよい。
【0048】
本発明のポリアミドイミド系塗料によって形成された絶縁皮膜の膜厚は、絶縁電線の直径などによって異なるので、一概には決定することができない。その一例として、直径が1mmの絶縁電線の場合、絶縁皮膜の膜厚は、30〜40μm程度である。
【0049】
本発明のポリアミドイミド系塗料によって形成された絶縁皮膜には、下地層として他の絶縁層が形成されていてもよい。この場合、導体上に他の絶縁材料からなる絶縁層を形成した後、その上に本発明のポリアミドイミド系絶縁塗料を塗布し、焼付けを行なうことにより、本発明のポリアミドイミド系塗料からなる絶縁皮膜を形成することができる。
【0050】
他の絶縁層としては、導体および絶縁皮膜との密着性が良好な材料を選択することが好ましい。導体および絶縁皮膜との密着性が良好な材料としては、例えば、ポリアミドイミド系、ポリエステルイミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエステルアミドイミド系、ポリイミド系などの絶縁塗料が挙げられる。これらのなかでは、ポリアミドイミド系絶縁塗料、ポリエステルイミド系絶縁塗料およびポリエステル系絶縁塗料が好ましい。
【0051】
他の絶縁層の膜厚は、特に限定されないが、皮膜の機械的強度を高める観点から、絶縁皮膜と他の絶縁層との膜厚の比(絶縁皮膜/他の絶縁層)が1/10〜10/1の範囲内にあることが好ましい。
【0052】
導体上に、本発明のポリアミドイミド系絶縁塗料を直接塗布し、焼付けを行なうことによって絶縁皮膜を形成する場合、その表面上に上塗層が設けられていてもよい。上塗層は、例えば、本発明のポリアミドイミド系塗料から形成された絶縁皮膜上に、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエステルイミド系、ポリエステルアミドイミド系、ポリアミドイミド系、ポリイミド系などの絶縁塗料の塗布し、焼付けを行なうことによって形成することができる。
【0053】
また、絶縁皮膜の上には、絶縁皮膜の表面に潤滑性を付与する観点から、表面潤滑層を設けてもよい。表面潤滑層としては、例えば、流動パラフィン、固形パラフィンなどのパラフィン類、ワックス、ポリエチレン、フッ素樹脂、シリコーンなどの潤滑剤を樹脂バインダーで結着した表面潤滑層などが挙げられる。
【0054】
以上のようにして得られる本発明の絶縁電線は、前記ポリアミドイミド系絶縁塗料が用いられており、その塗料における有機溶媒量が低減されているので、コストの低減が図られ、しかも良好な絶縁性を有するという利点を有する。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
実施例1
温度計、冷却管、塩化カルシウム充填管、攪拌器および窒素吹き込み管を取り付けたフラスコ内に窒素吹き込み管から毎分150mLの窒素ガスを流しながら、酸成分としてトリメリット酸無水物1022.0gおよびトリメリット酸11.3gと、イソシアネート成分としてジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート1354.1gと、カプロラクタム化合物としてε−カプロラクタム366.6gとを仕込んだ。
【0057】
次に、このフラスコ内に、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン1383.3gを入れ、攪拌器で攪拌しながら常温から80℃に昇温して各成分を溶解させ、さらに4時間かけて130℃まで昇温した後、130℃で2時間加熱することにより、酸成分とイソシアネート成分とを反応させ、ポリアミドイミドを含有する反応溶液を得た。
【0058】
得られたポリアミドイミドの重量平均分子量をゲルパーミエイションクロマトグラフィーによって測定したところ、ポリスチレン換算で9700であり、ガラス転移点は310℃であった。
【0059】
次に、このフラスコ内に同温度でN,N−ジメチルホルムアミド922.2gを添加し、70℃まで冷却することにより、ポリアミドイミド系絶縁塗料を得た。得られたポリアミドイミド系絶縁塗料におけるポリアミドイミドの濃度は45.2質量%、該絶縁塗料の30℃における粘度(B型粘度計、ロータNo.3で測定)は4Pa・sであり、30℃における還元粘度は0.15dL/gであった。
【0060】
実施例2
実施例1と同様にしてポリアミドイミド系絶縁塗料を調製した後、この絶縁塗料に、ブロックイソシアネート(バイエル社製、商品名:デスモジュールCTステーブル)をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた濃度が40w/v%であるN−メチル−2−ピロリドン溶液25.78gを添加し、70℃に昇温し、同温度で2時間攪拌することにより、ブロックイソシアネートが添加されたポリアミドイミド系絶縁塗料を得た。得られたポリアミドイミド系絶縁塗料に含まれているポリアミドイミドのガラス転移点は312℃であった。該絶縁塗料におけるポリアミドイミドの濃度は45質量%、該絶縁塗料の30℃における粘度(B型粘度計、ロータNo.3で測定)は3.40Pa・sであり、30℃における還元粘度は0.12dL/gであった。
【0061】
実施例3
実施例2において、ブロックイソシアネート(バイエル社製、商品名:デスモジュールCTステーブル)の質量を4倍に増量したこと以外は、実施例2と同様にして、ポリアミドイミド系絶縁塗料を得た。得られた絶縁塗料におけるポリアミドイミドの濃度は45質量%、該絶縁塗料の30℃における粘度(B型粘度計、ロータNo.3で測定)は3.4Pa・sであり、30℃における還元粘度は0.12dL/gであった。
【0062】
比較例1
実施例1において、ε−カプロラクタムを使用せず、その代わりにクレゾール110.3gを用い、N−メチル−2−ピロリドンの量を1383.3gから3114gに変更し、N,N−ジメチルホルムアミド922.2gの代わりにキシレン778.1gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミド系塗料を得た。得られた絶縁塗料におけるポリアミドイミドの濃度は35質量%、該絶縁塗料の30℃における粘度(B型粘度計、ロータNo.3で測定)は2Pa・sであり、30℃における還元粘度は0.3dL/gであった。
【0063】
実験例
次に、表1に示す線速にて、各実施例または比較例1で得られたポリアミドイミド系塗料を直径1.0mmの銅線表面に常法によって塗布し、280℃で焼付けを行ない、表1に示す皮膜の厚さの絶縁皮膜を有する絶縁電線を作製した。
【0064】
得られた絶縁電線の物性を以下の方法に基づいて測定した。その結果を表1に示す。
〔可撓性〕
長さが50cmの絶縁電線を30%伸張させた後、直径1mm(表1中の1d)または2mm(表1中の2d)の丸棒に20ターンで巻きつけた後、導体に達する亀裂の数をカウントすることにより、可撓性を評価した。
【0065】
〔耐熱衝撃性〕
前記可撓性を調べた後の絶縁電線を240℃の温度に1時間加熱した後、導体に達する亀裂の数をカウントすることにより、耐熱衝撃性を評価した。
【0066】
〔密着性〕
導体露出、皮膜浮きおよび亀裂について、JIS C3003「8.1.a)」に準じてそれぞれ2回ずつ測定し、その平均値を求めた。
【0067】
〔絶縁破壊電圧〕
JIS C3003「10.2b 2個より法」に準じて測定した。より具体的には、同一巻枠から長さが約50cmの絶縁電線5本を採り、その各々を2つに折り合わせ、0.0294Nの張力を加えながら、約12cmの長さの部分を50回撚り合わせた後、張力を取り去り、折り目部分を取り除いて2個よりの絶縁電線を作製した。この2個よりの絶縁電線の2本の導体間に50Hzまたは60Hzの交流電圧を500V/sで昇圧させながら印加し、絶縁皮膜が破壊されて短絡が生じたときの電圧(kV)を5本の絶縁電線について測定し、この5本の電線の短絡が生じたときの電圧の平均値を求めた。
【0068】
〔耐劣化性BDV〕
同一巻枠から長さが約50cmの絶縁電線5本を採り、その各々を2つに折り合わせ、0.0294Nの張力を加えながら、約12cmの長さの部分を50回撚り合わせた後、張力を取り去り、折り目部分を取り除いて2個よりの絶縁電線を作製した。この2個よりの絶縁電線5本を270℃で168時間加熱した後、前記「絶縁破壊電圧」と同様にして絶縁破壊電圧(BDV)を測定し、この5本の電線の短絡が生じたときの電圧の平均値を求めた。
【0069】
〔耐湿熱性〕
同一巻枠から長さが約50cmの絶縁電線5本を採り、その各々を2つに折り合わせ、0.0294Nの張力を加えながら、約12cmの長さの部分を50回撚り合わせた後、張力を取り去り、折り目部分を取り除いて2個よりの絶縁電線を作製した。この2個よりの絶縁電線5本を水が注入されたステンレス鋼製の容器内に浸漬し、140℃で72時間加熱した後、前記「絶縁破壊電圧」と同様にして絶縁破壊電圧を測定し、この5本の電線の短絡が生じたときの電圧の平均値を求めた。
【0070】
〔一方向式摩耗〕
同一巻枠から長さが約50cmの絶縁電線5本を採り、JIS C3003「9」に準じて一方向式摩耗を測定し、5本の絶縁電線の一方向式摩耗の平均値を求めた。
【0071】
〔耐軟化性〕
絶縁皮膜の軟化点(℃)を、JIS C3003
「エナメル銅線及びエナメルアルミニウム線試験方法」に記載の方法に準じた方法で軟化点を測定した。2本の電線について軟化点を測定し、その平均値を耐軟化性の指標とした。
【0072】
〔皮膜伸び〕
絶縁電線の絶縁皮膜を導体から筒状に剥離し、その筒状の絶縁皮膜の破断時の伸びを引張り試験機で測定した。この絶縁皮膜の破断時の伸びを2本の電線について測定し、その平均値を皮膜伸びの指標とした。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示された結果から、各実施例で得られた絶縁電線は、ポリアミドイミドの濃度が高いが、比較例1で得られた絶縁電線と対比して、焼付けの中心線速(22m/min)において、その物性に遜色がないことがわかる。
【0075】
また、実施例1と実施例2〜3との対比より、ブロックイソシアネートを混合した場合には(実施例2〜3)、絶縁破壊電圧において、線速による焼付依存性が小さくなることがわかる。
【0076】
以上説明したように、本発明のポリアミドイミドの製造方法によって得られポリアミドイミドは、塗料に使用して形成される絶縁皮膜の絶縁性を低下させずに、塗料中に高濃度で含有させることができることがわかる。また、本発明のポリアミドイミド系絶縁塗料は、ポリアミドイミドを40質量%以上含有するので、該塗料に含まれる有機溶媒量を相対的に低減させることができることから、大気中に放出される有機溶媒量を低減させることができるとともに、コストの低減が図られることがわかる。また、本発明の絶縁電線は、前記ポリアミドイミド系絶縁塗料を導体に塗布し、焼付けることによって得られるものであり、その塗料における有機溶媒量が低減されているので、コストの低減が図られるとともに、良好な絶縁性を有することがわかる。
【0077】
以上開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメリット酸を含有する酸成分と芳香族ジイソシアネートを含有するイソシアネート成分とを反応させるポリアミドイミドの製造方法であって、前記酸成分と前記イソシアネート成分とをカプロラクタム化合物の存在下で反応させることを特徴とするポリアミドイミドの製造方法。
【請求項2】
カプロラクタム化合物が、ε−カプロラクタムである請求項1に記載のポリアミドイミドの製造方法。
【請求項3】
芳香族ジイソシアネートが、ジフェニルメタンジイソシアネートである請求項1または2に記載のポリアミドイミドの製造方法。
【請求項4】
酸成分が、さらに無水トリメリット酸を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミドイミドの製造方法。
【請求項5】
酸成分とイソシアネート成分とをカプロラクタム化合物の存在下で反応させた後、得られた反応溶液とブロックイソシアネートとを混合する請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミドイミドの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって得られ、重量平均分子量8000〜20000を有するポリアミドイミド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリアミドイミドを40質量%以上含有してなるポリアミドイミド系絶縁塗料。
【請求項8】
有機溶媒として、N−メチル−2−ピロリドンおよびN,N−ジメチルホルムアミドを含有してなる請求項7に記載のポリアミドイミド系絶縁塗料。
【請求項9】
N−メチル−2−ピロリドンとN,N−ジメチルホルムアミドとの容量比(N−メチル−2−ピロリドン/N,N−ジメチルホルムアミド)が50/50〜70/30である請求項8に記載のポリアミドイミド系絶縁塗料。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載のポリアミドイミド系絶縁塗料を直接または他の絶縁層を介して導体に塗布し、焼付けてなる絶縁電線。

【公開番号】特開2009−149757(P2009−149757A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328484(P2007−328484)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(302068597)住友電工ウインテック株式会社 (22)
【Fターム(参考)】