説明

ポリイミド前駆体組成物及びポリイミド成形物並びにポリイミド管状物

【課題】単層の中間転写ベルトにおいて、ベルトの表面抵抗率と体積抵抗率とをそれぞれ別々に制御し、転写効率が高く、かつ、製造コストの低い中間転写ベルトや転写搬送ベルト及びこれらのベルトの原料であるポリイミド前駆体組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも1種の芳香族テトラカルボン酸二無水物と、少なくとも1種の芳香族ジアミンと、導電性物質と、ポリアマイドと、極性溶媒とを含有するポリイミド前駆体組成物を用い、表面抵抗率が9LOGΩ/□以上14LOGΩ/□以下および体積抵抗率が7LOGΩ・cm以上12LOGΩ・cm以下であり、ポリイミド管状物の外表面と内表面のLOG表面抵抗率の差が1.0以下であり、LOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差が2.4以上であるポリイミド管状物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体組成物及びそれを成形してイミド転化してなるポリイミド成形物並びにポリイミド管状物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、機械的特性、耐熱性及び化学的特性に優れ幅広い産業分野で使用されている。なかでもポリイミド前駆体組成物をシームレスの円筒形状に成形してなるポリイミド管状物は、電子写真複写機やレーザービームプリンター等においてトナー像の中間転写ベルトや熱定着ベルトの用途に好適に用いられている。
【0003】
このような電子写真画像形成装置において、とりわけカラー画像形成は従来の転写ドラム方式から中間転写ベルト方式に技術が移行してきている。電子写真技術を利用したカラーレーザープリンターなどの画像形成装置では、図1に示すように感光ドラム23の表面に基本色(イエロー、マゼンダ、シアン、ブラック)のトナーを用い画像を形成させ、感光ドラム23上のトナー像を一度中間転写ベルト21上に転写させその後、複写紙25に再転写して定着装置26で熱定着し、カラー画像を得る方式が中間転写ベルト方式と呼ばれ主流になってきている。
【0004】
これらの中間転写ベルトは、その外表面を静電的に帯電させ、感光ドラム上のトナー像を静電吸着により中間転写させる特性と、その後ベルト表面を除電しトナー像を複写紙上に再転写するための、帯電と除電の相反する特性が繰り返しておこなわれるために中間転写ベルトでは半導体的な特性を有することが必須であり、カーボンブラック等の導電性物質を含有し所望の電気抵抗特性が付与されている。
【0005】
本出願人は特許文献1において、カーボンブラックを分散させたポリイミド前駆体組成物及びポリイミド管状物をすでに提案している。すなわち、抵抗率のばらつきが小さく、しかも印加電圧に対して抵抗率の変化が少なく、高品位な転写画像を得るためのポリイミド樹脂製中間転写ベルトに関するものである。
【0006】
また特許文献2において、表面抵抗値が異なる表面層と裏面層との二層からなる熱硬化性ポリイミド系樹脂層からなる無端ベルトが提案されている。
【0007】
さらに、特許文献3において、電気抵抗特性および比重の異なる二種類の粉末をポリイミド前駆体溶液に添加し、遠心成形方法によって外表面部分に比重の大きい粉末を非外表面部分に比重の小さい粉末を分散させることにより、表面の電気抵抗特性とベルト全体の電気抵抗特性を別々に制御する円筒状ポリイミドフィルムが提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のポリイミド管状物を中間転写ベルトに用いた場合は、カーボンブラック等の導電性物質が中間転写ベルトを構成するポリイミドフィルム中に均一に分散されているため、ポリイミドフィルム中で一様な電気抵抗特性を有している。すなわち、ベルト表面における電気抵抗特性もベルト全体の電気抵抗特性も実質的に同一であるため、近年の複写機やプリンターに要求される画像の鮮明さ、複写速度などの特性に十分に応えることはできなかった。
【0009】
また、特許文献2においては表面層と裏面層に用いる材料の表面抵抗値を任意に調整することにより、表面の電気抵抗特性とベルト全体の電気抵抗特性はある程度自由に制御することは可能であるが、電気抵抗特性の異なる材料が必要であるとともに、さらに表面層と裏面層の2度の成形工程が必要であり製造工程が煩雑で、製造コストも高くなるという問題がある。
【0010】
さらに特許文献3においては導電性物質の選定や組み合わせなどにおいて中間転写ベルトの設計の自由度が小さいことや遠心成形方法のみでしかこのような分散状態を達成することができない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3495317号公報
【特許文献2】特開2004−29769号公報
【特許文献3】特開平8−176319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、単層の中間転写ベルトにおいて、ベルトの表面抵抗率と体積抵抗率とをそれぞれ別々に制御し、転写効率が高く、かつ、製造コストの低い中間転写ベルトや転写搬送ベルト及びこれらのベルトの原料であるポリイミド前駆体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意検討の結果、ポリイミド前駆体溶液に導電性物質とポリアマイドを混合させることによって単層のポリイミド管状物の表面抵抗率と体積抵抗率とをそれぞれ個別に制御できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、請求項1に記載の発明に係るポリイミド前駆体組成物は、少なくとも1種の芳香族テトラカルボン酸二無水物と、少なくとも1種の芳香族ジアミンと、導電性物質と、ポリアマイドと、極性溶媒とを含有することを特徴とする。
【0015】
本発明に用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリット酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニル(2,2−イソプロピリデン)テトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルメタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニル(2,2−イソプロピリデン)テトラカルボン酸二無水物、4,4'‐(ヘキサフルオロイソプロピル)フタル酸二無水物、ビスフェノール酸二無水物などが挙げられ、これらは単独であるいは混合して用いることができる。
【0016】
また、本発明に用いる芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,4−ジアミノトルエン、3,4’
−ビフェニルジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’ −ビフェニルジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ビフェニルジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、3,3’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、3,3’−ヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ジアミノベンゾアニリド、メチレンジアニリンなどが挙げられ、これらは単独であるいは混合して用いることができる。
【0017】
本発明のポリイミド前駆体組成物に用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物としてはビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、芳香族ジアミンとしてパラフェニレンジアミン(PPD)が好ましい。これらのポリイミド前駆体から得られるポリイミドは剛直で寸法安定性に優れているからである。
【0018】
本発明において有用な極性溶媒は、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、γ−ブチロラクトン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。好ましい溶媒はN−メチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルアセトアミドである。これらの溶媒を単独で又は混合物として、あるいはトルエン、キシレン、すなわち芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、すなわちアルコールなどの他の溶媒と混合して用いることができる。
【0019】
本発明の導電性物質としては、特に限定はされないが、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノファイバー、アルミニウムやニッケル等の金属、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン等の酸化金属化合物、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム等の酸化物誘電体等が挙げられる。そしてこれらを単独あるいは混合して使用してもよい。
【0020】
上記の導電性物質のうち、導電性付与効果や分散性などの観点から、カーボンブラックが好ましい。中でも表面を酸化処理した酸性カーボンブラックは、極性有機溶媒とのなじみも良く好適に用いられる。酸性カーボンブラックの特性としては、DBP吸収量が40cm以上90cm以下、比表面積100m/g当りの揮発分が2.5重量%以上、一次粒子の平均粒径が1μm以下であることが、分散性をより高める点で好ましい。前記一次粒子の平均粒子径は100nm以下であることがさらには好ましい。
【0021】
また、請求項2の発明に係るポリイミド前駆体組成物は、請求項1において前記ポリアマイドが脂肪酸ポリアマイドであることを特徴とする。
【0022】
本発明に用いるポリアマイドとしては、脂肪酸ポリアマイド、ウレア変性ポリアマイド、ウレタンウレア等が挙げられる。ポリアマイドを添加する効果としては、ポリイミド前駆体組成物にチキソトロピー性を付与する効果があり、ポリイミド前駆体組成物の塗膜を乾燥及びイミド転化する際の導電性物質の分散状態を制御することができる。ポリイミド前駆体組成物は、図2に示すような塗膜の状態から、乾燥及びイミド転化する際に大半の極性溶媒の蒸発によって、図3に示すような体積減少を起こす。この際、ポリイミド前駆体組成物中の導電性物質の粒子間の距離が縮まる。このとき、図4および図5に示すようにポリアマイドが添加されている場合は、厚み方向の導電性物質間の距離Bは強制的に縮まってしまうが、面内方向の導電性物質間の距離Aは、ポリイミド前駆体組成物にチキソトロピー性が付与されていることにより、流動性が小さくなり縮まりにくくなる。すなわち、図3で示す導電性物質間の距離Aと距離Bの差に比べ、ポリアマイドを添加している図5で示す導電性物質間の距離Aと距離Bの差の方が大きくなる。したがって、ポリアマイドが添加されている場合は、添加されていない場合と比べ、導電性物質の粒子間距離が、膜の厚み方向の距離に対して、面内方向の距離が比較的大きくなり、これにより表面抵抗率に対して比較的低い体積抵抗率になると考えられる。
【0023】
ポリアマイドの中でも脂肪酸ポリアマイドは少量の添加量でも効果を発現する点で好ましい。添加量は、電気抵抗特性の効果を十分発現させるために、添加前のポリイミド前駆体組成物の重量に対して0.25重量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは0.5重量%以上である。
【0024】
またポリアマイドを添加し、ポリイミド前駆体組成物にチキソトロピー性を付与する効果としては、ポリイミド前駆体組成物を用いて溶液状でポリイミド管状物を成形する工程において、液ダレや偏肉を防止することができる点で有効である。
【0025】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸とを極性溶媒中にて反応させ、その途中またはその後に導電性物質およびポリアマイドを添加することにより作製することができる。
【0026】
前記ポリイミド前駆体の分子量は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合割合を変えることによって、所望の分子量のポリイミド前駆体を得ることができる。本発明において好ましい分子量を得るための混合割合は80:100〜99:100である。前記混合割合はテトラカルボン酸二無水物、あるいは芳香族ジアミンのいずれが多くても、あるいは少なくてもよい。
【0027】
なお、前記ポリイミド前駆体組成物中に、必要に応じて、易滑剤、レベリング剤、消泡剤、イミド化剤などの添加剤を添加することもできる。
【0028】
本発明のポリイミド前駆体組成物の粘度は、B型粘度計での回転速度0.3rpmにおける47度Cの粘度が1000ポイズ以上であることが好ましい。さらには1200ポイズ以上であることが好ましい。1000ポイズ以上であれば、乾燥及びイミド転化時の塗膜の流動性が小さいため、塗膜面内方向の導電性物質の粒子間距離の縮みを小さくすることができる。また、1000ポイズ以上であれば、垂れの問題が生じにくいため好ましい。
【0029】
本発明の目的である塗膜面内方向の導電性物質の粒子間距離の縮みを小さくする、すなわち塗膜の流動性を低くするためには、ポリイミド前駆体組成物の粘度が高いことが好ましいが、気泡の発生や取り扱い性の観点からは高すぎると問題となる。ポリイミド前駆体組成物の23度Cにおける粘度は、1000ポイズ以上3000ポイズ以下であることが好ましい。さらには1000ポイズ以上2000ポイズ以下であることが好ましい。1000ポイズ以上あれば塗膜の垂れが生じにくく、3000ポイズ以下であれば気泡の発生や取り扱い性も問題となりにくい。
【0030】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、チキソトロピー性を有することが好ましい。ポリイミド前駆体組成物を塗膜として形成する際には流動性を持ち、形成後には流動性が無い状態であることが成形性の面から好ましい。チキソトロピー性を表す指標として、チキソトロピックインデックス値(TI値)が用いられる。
【0031】
前記チキソトロピー性を付与するためのチキソトロピー性付与剤としては、例えば、微粉シリカ、粉砕シリカ、有機ベンナイト、タルク、スメクタイト、クレー、ポリアマイド、アクリル、ウレタンなどが挙げられる。
【0032】
また、請求項3に係るポリイミド成形物は、請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体組成物をイミド転化してなるポリイミド成形物である。
【0033】
また、請求項4に係るポリイミド管状物は、請求項3においてポリイミド成形物の形状がシームレス円筒形状であることを特徴とする。
【0034】
本発明に係るポリイミド管状物の製造方法としては、特に限定されないが、次のような方法が挙げられる。表面に離型処理を施した円筒状金型の表面に本発明のポリイミド前駆体組成物を所定の厚みで塗布し、イミド転化させる方法を採用することができる。所定の厚みでポリイミド前駆体溶液を金型の外面に塗布する方法は特開平6−23770号及び特開2004−291367号などの方法を用いることができる、また、ディスペンサーによる塗布方法あるいは遠心成形方法などで塗布することもできる。
【0035】
この方法の具体例に付いて、以下に詳細に説明する。先ず、シリコーンオイルなどの離型剤を焼き付け表面処理した円筒状金型の表面に本発明のポリイミド前駆体組成物を所定の厚みで塗布した後、これを100〜150度Cの加熱オーブンに入れ10〜60分間加熱乾燥処理する。この加熱乾燥処理によってポリイミド前駆体組成物の溶媒が蒸発するとともに、ポリイミド前駆体の分子内縮合反応によりイミド転化反応が起こる。この加熱乾燥処理条件は、ポリイミド前駆体組成物の溶媒の種類、塗膜の厚みなどによって異なるが、処理温度と時間を調整し段階的にイミド転化する方法が好ましい。次いで、第2段階の加熱処理として、200度C前後から400度C前後まで数時間かけて段階的に昇温し、イミド転化反応を完結させる。次いで第2段階の加熱処理の後、金型を加熱処理炉から取り出し冷却後、金型から脱型しポリイミド管状物を得ることができる。
【0036】
本発明のポリイミド管状物は、画像形成装置の用途では、中間転写ベルト又は搬送転写ベルトとして使用することができる。このような用途では厚みが10μm〜500μmの範囲で、直径が10mm〜500mmの範囲のシームレス形状のポリイミド管状物が好ましく使用される。
【0037】
また、請求項5に係るポリイミド管状物は、表面抵抗率が9LOGΩ/□以上14LOGΩ/□以下及び体積抵抗率が7LOGΩ・cm以上12LOGΩ・cm以下であり、外面と内面のLOG表面抵抗率の差が1.0以内であり、LOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差が2.4以上であることを特徴とする。
【0038】
本発明のポリイミド管状物は、転写ベルトとしての特性を満たすために電気的に中抵抗(半導電性)を有しており、表面抵抗率が9LOGΩ/□以上14LOGΩ/□以下であり、体積抵抗率が7LOGΩ・cm以上12LOGΩ・cm以下であり、ベルトの外表面と内表面のLOG表面抵抗率の差が1.0以内であり、LOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差が2.4以上であることが好ましい。さらには2.5以上であることが好ましい。LOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差が2.4以上であると、中間転写ベルトとして用いた場合に、感光体から中間転写ベルトへのトナーの転写効率が良く、また、転写時のトナー飛散が起きにくくなることにより、鮮明な画像が形成できる。また、ポリイミド管状物の外面と内面のLOG表面抵抗率の差が1.0以内であれば、中間転写ベルトへの帯電及び除電の効率が高く好ましい。
【0039】
前記ポリイミド管状物のような電気抵抗特性、すなわち表面抵抗率が9LOGΩ/□以上14LOGΩ/□以下であり、体積抵抗率が7LOGΩ・cm以上12LOGΩ・cm以下であり、外表面と内表面のLOG表面抵抗率の差が1.0以内であり、LOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差が2.4以上である単層のポリイミド管状物を得るためには、ポリイミド前駆体組成物の塗膜を乾燥及びイミド転化する際に、前記ポリイミド前駆体組成物中に含まれる導電性物質の粒子間距離が、前記塗膜の厚み方向の距離に対して、面内方向の距離を大きくすれば良く、それを制御するための方法は特に限定されない。具体的な方法の一例としては、ポリイミド前駆体組成物を乾燥及びイミド転化する際に、塗膜の面内方向に導電性物質が移動するのを阻害するような添加剤を加える方法が挙げられる。前記添加剤の一例としては、チキソトロピー性付与剤が挙げられる。前記チキソトロピー性付与剤の一例としては、ポリアマイドが挙げられる。前記ポリアマイドの中でも脂肪酸ポリアマイドが少量の添加で効果を発現する点で好適に用いられる。
【発明の効果】
【0040】
本発明のポリイミド管状物は、電子写真画像形成装置の転写ベルトとして用いた場合、転写効率が高くトナー飛散や再転写後の残留トナーの発生もなく、帯電・除電の繰り返し特性に優れている。また、単層のベルト構造で表面抵抗率と体積抵抗率とをそれぞれ別々に高精度で制御できかつ製造コストの低い転写ベルトを提供できる。さらに本発明のポリイミド前駆体組成物は転写ベルト、熱定着ベルトあるいはポリイミド除電フィルムなどの製造原料として広範囲な用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】タンデム型カラーレーザービームプリンターの模式的概略図である。
【図2】ポリイミド前駆体組成物塗膜(添加なし)の断面イメージ図である。
【図3】乾燥及びイミド転化後のポリイミド膜(添加なし)の断面イメージ図である。
【図4】ポリイミド前駆体組成物塗膜(ポリアマイド添加あり)の断面イメージ図である。
【図5】乾燥及びイミド転化後のポリイミド膜(ポリアマイド添加あり)の断面イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。各実施例及び比較例で作製したポリイミド前駆体組成物及びポリイミド管状物の諸物性は、下記の測定方法で測定した。
(1)粘度
ブルックフィールド社製の粘度計MODEL LVTを用いて、スピンドルNo.4を使用し、所定の回転数(0.3rpm、3.0rpm)、所定の温度(23±0.2度C、47±0.2度C)の時のポリイミド前駆体組成物の粘度を測定した。
(2)チキソトロピックインデックス値(TI値)
前記粘度測定において、回転数0.3rpmの時の粘度をV0.3ポイズ、回転数3.0rpmの時の粘度をV3.0ポイズとしたとき、V0.3/V3.0をTI値とした。
(3)粒度分布
堀場製作所(株)製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて測定を行った。
(4)表面抵抗率
三菱化学(株)製の抵抗計ハイレスタUPを用いて、URプローブを使用し、印加電圧100V、印加時間10secにて表面抵抗値を測定し、その後LOG表面抵抗率に換算した。
(5)体積抵抗率
三菱化学(株)製の抵抗計ハイレスタUPを用いて、URプローブを使用し、印加電圧100V、印加時間10secにて体積抵抗値を測定し、その後LOG体積抵抗率に換算した。
【実施例1】
【0043】
(1)ポリイミド前駆体組成物の作製
N−メチル−2−ピロリドンに酸性カーボンブラックを9.5重量%混合し、ビーズミルを用いて前記酸性カーボンブラックの最大粒子径が1μm以下になるように粉砕し、カーボンブラック分散液を得た。次にN−メチル−2−ピロリドン中で3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物とp−フェニレンジアミンを反応させたポリイミド前駆体溶液に、前記カーボンブラック分散液を混合し、ポリイミド前駆体含有率が15.5重量%、カーボンブラック含有率(ポリイミド前駆体重量とカーボンブラック重量の合計に対するカーボンブラック重量の比率)が17重量%のスラリー溶液500gを作製した。次に前記スラリー溶液に、脂肪酸ポリアマイド(楠本化成(株)製、ディスパロンPFA−231)をスラリー溶液全重量の0.25重量%になるように添加し、攪拌して、ポリイミド前駆体組成物を得た。このときのカーボンブラックの粒度分布はメジアン径100nmであった。また、前記ポリイミド前駆体組成物の粘度(23度C、0.3rpm)は2000ポイズ、TI値は1.11であった。
(2)ポリイミド管状物の作製
外表面に離型性処理を施した外径140mm、長さ300mmの円筒状金型に、前記ポリイミド前駆体組成物を塗布した後、内径141.5mmのリング状ダイスを前記金型に外挿して金型の表面に平均厚みが0.75mmのポリイミド前駆体組成物を塗布した。次いで、この金型を熱風オーブンの中に入れ、60度Cで30分間、次に120度Cで30分間、次に120度Cから200度Cまで昇温させたのち200度Cで30分間、次に200度Cから300度Cまで昇温させたのち300度Cで30分間保持した。その後、熱風オーブンから金型を取り出し、冷却した。室温まで冷却した後、金型から分離し、内径140mm、長さ250mmのポリイミド管状物を得た。このポリイミド管状物の膜厚精度は75±5μmと非常に安定しており、外観上の不具合も全く見られなかった。また、このポリイミド管状物の外面側から測定したときの印加電圧100VにおけるLOG表面抵抗率は12.30であり、印加電圧100VにおけるLOG体積抵抗率は9.85であった。したがってLOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差は2.45であった。また、ポリイミド管状物の内面側から測定したときの印加電圧100VにおけるLOG表面抵抗率は12.15であった。したがって外面と内面のLOG表面抵抗率の差は0.15であった。さらに、このポリイミド管状物を実際にカラーレーザープリンターに組み込み中間転写ベルトとして使用した結果、従来の転写ベルトより、転写効率や画質が向上していた。
【実施例2】
【0044】
(1)ポリイミド前駆体組成物の作製
脂肪酸ポリアマイド(楠本化成(株)製、ディスパロンPFA−231)のスラリー溶液全重量への添加量を0.25重量%から0.50重量%に変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド前駆体組成物を作製した。このときのカーボンブラックの粒度分布はメジアン径100nmであった。また、前記ポリイミド前駆体組成物の粘度(23度C、0.3rpm)は2000ポイズ、TI値は1.25であった。
(2)ポリイミド管状物の作製
実施例1と同様の方法でポリイミド管状物を作製した。このポリイミド管状物の外面側から測定したときの印加電圧100VにおけるLOG表面抵抗率は10.64であり、印加電圧100VにおけるLOG体積抵抗率は8.08であった。したがってLOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差は2.56であった。また、ポリイミド管状物の内面側から測定したときの印加電圧100VにおけるLOG表面抵抗率は10.81であった。したがって外面と内面のLOG表面抵抗率の差は0.17であった。さらに、このポリイミド管状物を実際にカラーレーザープリンターに組み込み中間転写ベルトとして使用した結果、従来の転写ベルトより、転写効率や画質が向上していた。
【実施例3】
【0045】
(1)ポリイミド前駆体組成物の作製
脂肪酸ポリアマイド(楠本化成(株)製、ディスパロンPFA−231)のスラリー溶液全重量への添加量を0.25重量%から1.00重量%に変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド前駆体組成物を作製した。このときのカーボンブラックの粒度分布はメジアン径100nmであった。また、前記ポリイミド前駆体組成物の粘度(23度C、0.3rpm)は2000ポイズ、TI値は1.43であった。
(2)ポリイミド管状物の作製
実施例1と同様の方法でポリイミド管状物を作製した。このポリイミド管状物の外面側から測定したときの印加電圧100VにおけるLOG表面抵抗率は11.58であり、印加電圧100VにおけるLOG体積抵抗率は9.00であった。したがってLOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差は2.58であった。また、ポリイミド管状物の内面側から測定したときの印加電圧100VにおけるLOG表面抵抗率は11.42であった。したがって外面と内面のLOG表面抵抗率の差は0.16であった。さらに、このポリイミド管状物を実際にカラーレーザープリンターに組み込み中間転写ベルトとして使用した結果、従来の転写ベルトより、転写効率や画質が向上していた。
【実施例4】
【0046】
(1)ポリイミド前駆体組成物の作製
脂肪酸ポリアマイド(楠本化成(株)製、ディスパロンPFA−231)のスラリー溶液全重量への添加量を0.25重量%から1.50重量%に変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド前駆体組成物を作製した。このときのカーボンブラックの粒度分布はメジアン径100nmであった。また、前記ポリイミド前駆体組成物の粘度(23度C、0.3rpm)は2000ポイズ、TI値は1.67であった。
(2)ポリイミド管状物の作製
実施例1と同様の方法でポリイミド管状物を作製した。このポリイミド管状物の外面側から測定したときの印加電圧100VにおけるLOG表面抵抗率は11.43であり、印加電圧100VにおけるLOG体積抵抗率は8.89であった。したがってLOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差は2.54であった。また、ポリイミド管状物の内面側から測定したときの印加電圧100VにおけるLOG表面抵抗率は11.55であった。したがって外面と内面のLOG表面抵抗率の差は0.12であった。さらに、このポリイミド管状物を実際にカラーレーザープリンターに組み込み中間転写ベルトとして使用した結果、従来の転写ベルトより、転写効率や画質が向上していた。
【0047】
(比較例1)
(1)ポリイミド前駆体組成物の作製
脂肪酸ポリアマイドを添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド前駆体組成物を作製した。このときのカーボンブラックの粒度分布はメジアン径100nmであった。また、前記ポリイミド前駆体組成物の粘度(23度C、0.3rpm)は2000ポイズであった。
(2)ポリイミド管状物の作製
実施例1と同様の方法でポリイミド管状物を作製した。このポリイミド管状物の外面側から測定したときの印加電圧100VにおけるLOG表面抵抗率は11.90であり、印加電圧100VにおけるLOG体積抵抗率は10.00であった。したがってLOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差は1.90であった。また、ポリイミド管状物の内面側から測定したときの印加電圧100VにおけるLOG表面抵抗率は11.82であった。したがって外面と内面のLOG表面抵抗率の差は0.08であった。さらに、このポリイミド管状物をカラーレーザープリンターに装着し中間転写ベルトとして使用した結果、従来の転写ベルトと同等の転写効率や画質であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のポリイミド前駆体組成物及びポリイミド管状物は、電子写真複写機やレーザービームプリンター等の中間転写ベルトや転写搬送ベルトとして利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
21 中間転写ベルト
22 ベルトプーリー
23 感光ドラム
24 露光走査装置
25 複写紙
26 熱定着装置
31 ポリイミド前駆体組成物塗膜
32 導電性物質
33 ポリイミド膜
34 ポリアマイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の芳香族テトラカルボン酸二無水物と、少なくとも1種の芳香族ジアミンと、導電性物質と、ポリアマイドと、極性溶媒とを含有するポリイミド前駆体組成物。
【請求項2】
前記ポリアマイドが、脂肪酸ポリアマイドである請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体組成物をイミド転化してなるポリイミド成形物。
【請求項4】
請求項3に記載のポリイミド成形物の形状がシームレス円筒形状であるポリイミド管状物。
【請求項5】
前記ポリイミド管状物の表面抵抗率が9LOGΩ/□以上14LOGΩ/□以下および体積抵抗率が7LOGΩ・cm以上12LOGΩ・cm以下であり、ポリイミド管状物の外表面と内表面のLOG表面抵抗率の差が1.0以下であり、LOG表面抵抗率とLOG体積抵抗率の差が2.4以上である請求項4に記載のポリイミド管状物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−7065(P2010−7065A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129038(P2009−129038)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】