説明

ポリイミド微粒子分散液、ポリイミド微粒子及びそれらの製造方法

【課題】ポリイミド微粒子分散液、ポリイミド微粒子及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミドの前駆体ポリマーであるポリアミド酸を、ポリイミドを溶解させずポリアミド酸を溶解させる溶媒に溶解させ、前記溶液と脱水環化試薬を所定の温度に加熱した耐圧容器に入れ、更に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんし、ポリアミド酸をポリイミドへ転化させた後に、二酸化炭素を排出することにより、10nmから300nmのサイズのポリイミド微粒子が高濃度で分散した分散液を製造する、ポリイミド微粒子分散液の製造方法、及びそのポリイミド微粒子分散液並びにポリイミド微粒子。
【効果】有機溶媒を大量に使用しない、環境に対して低負荷な製造法でポリイミド微粒子を製造し、その製品を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルサイズのポリイミド微粒子を含むポリイミド微粒子分散液並びにポリイミド微粒子、及びそれらの製造方法に関するものであり、更に詳しくは、ナノメートルサイズのポリイミド微粒子が高濃度で分散したポリイミド微粒子分散液、粒子径がナノメートルオーダーのポリイミド微粒子、及びそれらの製造方法に関するものである。本発明は、10nmから300nmサイズのポリイミド微粒子が0.1wt%から5wt%の高濃度で分散したポリイミド微粒子分散液、粒子径が10nmから40nmのポリイミド微粒子、及び、従来法のように、有機溶媒を大量に使用することなく、環境に対して低負荷な製造法により、製造することを可能とする、これらのポリイミド微粒子の合成等に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミドは、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性、電気絶縁性等が優れていて、しかも、化学的及び機械的に安定な材料であることから、多くの技術分野で利用されている。これらの各種特性を有するポリイミドは、例えば、金属、セラミックス代替材料としても利用される他、特に、過酷な条件下で用いられる電気、電子産業分野、航空宇宙産業分野等において、例えば、フイルム、ワニス、接着剤、バルク状成型材料等として利用されている。
【0003】
また、ポリイミドを微粒子化した材料は、前記ポリイミドの特性と、その形状及び構造とを組み合わせることにより、更に新しい利用の形態が広がる傾向となっている。すなわち、従来、例えば、微粒子化したポリイミドは、画像形成用の粉末トナーの添加剤として利用されている(特許文献1)。また、微粒子化したポリイミドは、ワニスに添加して、スクリーン印刷性を向上させる添加剤として利用されている(特許文献2)。更に、ポリイミドに機能性の基を導入すること及びその微粒子化を組み合わせることにより、新しいポリイミドの用途が拡大している(特許文献3)。
【0004】
先行技術としては、例えば、安定性に優れ、高重合度のポリイミドに変換しうるポリイミド前駆体よりなるポリイミド前駆体粉体、及びこのポリイミド前駆体粉体を多量の溶媒を用いることなく、安価に、しかも容易に得ることができる製造方法を提供するものとして、生成するポリイミド前駆体の貧溶媒中で、芳香族ジアミンと3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を混合して、ポリイミド前駆体粒子が分散している懸濁液を得て、ポリイミド前駆体粒子を単離して、全芳香族ポリイミド前駆体粉体を得る方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、他の先行技術としては、簡易な工程でポリイミド粉体を製造することができ、しかも粒径の制御が容易に行えるポリイミド粉体の製造方法、及び当該製造方法により得られるポリイミド粉体を提供するものとして、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で加熱重合させて、ポリイミドの溶液を得た後、その溶液の温度を降温することにより、ポリイミド粒子を析出させる工程を含むポリイミド粉体の製造方法が提案されている(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、上述の二つの先行技術文献に記載されているポリイミド粒子及びその製造方法は、いずれもマイクロメートルオーダーのポリイミド粒子の製造に関するものであり、得られるポリイミド粒子は、本発明で得られるナノメートルオーダーのものと比較して、かなり大きいものである。
【0007】
また、他の先行技術としては、無水テトラカルボン酸とジアミン化合物からポリイミドを合成する方法により、単分散性がより高いポリイミド微粒子を工業的規模で生産できる方法を提供するものとして、溶媒の溶解度を超える量の無水テトラカルボン酸を含む第一溶液と、溶媒の溶解度を超える量のジアミン化合物を含む第二溶液とを、それぞれ調製する第一工程と、撹拌下において、第一溶液と第二溶液とを混合し、混合溶液からポリアミド酸微粒子を析出させる第二工程と、ポリアミド酸微粒子をイミド化することによってポリイミド微粒子を得る第三工程とを含むことからなるポリイミド微粒子の製造方法が提案されている(特許文献5)。
【0008】
この方法では、本発明と同程度のナノメートルオーダーのナノ粒子が15wt%の高濃度で得られているが、出発物質が、ポリイミドの前駆体ポリマーであるポリアミック酸の前駆体であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンであり、前者は、空気中の水分により加水分解を受け、開環してしまい、また、後者は、空気中の酸素により酸化され、アミノ基がニトロ基へと変化してしまい、保存が難しいという問題がある。
【0009】
また、他の先行技術としては、粒子サイズ及び粒度分布を制御してナノサイズのポリイミド微粒子を製造する方法として、ポリアミド酸を極性アミド系溶媒から選択される良溶媒に0.1重量%〜2重量%の濃度で溶解させたポリマー溶液を、パラフィン系溶剤、芳香族系溶剤、CS2から選択され、温度を5℃より高温〜50℃に制御し、激しい撹拌条件で撹拌された貧溶媒に注入して、前記貧溶媒の温度を制御して、平均粒径が44nm〜400nmであり、平均粒径が44nmの場合粒子の約80%が±10nmの範囲に入り、また、平均粒径が400nm場合、粒子の約80%が±100nmの範囲に入る範囲の粒径分散性のポリアミド酸微粒子を形成し、該ポリアミド酸粒子を化学イミド化して、前記粒径分散性を保持したポリイミド微粒子を製造する方法が提案されている(特許文献6)。
【0010】
この方法では、本発明と同様に、ポリアミック酸を出発物質としており、更に、得られている粒子サイズも、ナノメートルオーダーであるが、出発物質として使用しているポリアミック酸溶液は、0.1重量%〜2重量%であり、前記溶液と貧溶媒との混合比が、0.1mL:10mLで、最終的に得られるナノ粒子分散液中のナノ粒子の量は、多くても0.02重量%程度の低濃度のものであり、非常に希薄な分散液である。
【0011】
更に、他の先行技術としては、ポリイミド微粒子分散液から微粒子を分離・回収が容易なポリイミド微粒子凝集体の製造する技術として、ポリアミド酸から再沈法によりポリアミド酸微粒子分散液を作製し、熱又は化学イミド化した後、有機溶媒と貧溶媒を相分離させ、液−液界面にポリイミド微粒子を凝集、生成させること、また、前記方法により生成させたポリイミド微粒子凝集体を簡便な分離操作により、高い時間効率で分離・回収して、乾燥することにより、ポリイミド微粒子凝集体を大量に高効率で製造する方法が提案されている(特許文献7)。しかし、この方法では、ポリイミド微粒子は、凝集状態でしか得られず、微粒子分散液として得る場合は、濾過、乾燥、及び再分散の多段階の過程が必要である。
【0012】
このように、従来技術として、ポリイミド前駆体並びにポリイミド微粒子、及びそれらの製造技術について、種々の提案がなされているが、従来法では、有機溶媒を大量に使用する必要があり、環境に対する負荷が大きく、また、上述のように、ポリイミドのサイズがマイクロメートルオーダーであったり、出発物質として、保存が難しいポリアミック酸前駆体であったり、ナノ粒子分散液が得られたとしても、最終的に得られるナノ粒子分散液中のナノ粒子の量が0.02重量%程度の非常に希薄な分散液である、等の問題があり、当技術分野においては、有機溶媒の使用量の低減を図ると共に、ナノサイズで、しかも高濃度のナノ粒子を含む高濃度のポリイミド微粒子分散液並びにポリイミド微粒子を製造することを可能とする新しいポリイミド微粒子分散液とその大量生産技術を開発することが強く要請されているのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−140185号公報
【特許文献2】特開2000−178506号公報
【特許文献3】特開2000−248063号公報
【特許文献4】特開2002−293947号公報
【特許文献5】特開2006−182845号公報
【特許文献6】特開2003−252990号公報
【特許文献7】特開2008−159769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上述の従来法の問題点を確実に解消することが可能で、しかもナノメートルサイズのポリイミド微粒子が高濃度に分散したポリイミド微粒子分散液並びにポリイミド微粒子、及びそれらの製造技術を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、出発物質として、保存が可能なポリイミド前駆体ポリマーであるポリアミド酸を使用し、ポリイミドを溶解させずにポリアミド酸を溶解させる溶媒に溶解させ、当該溶液と脱水環化試薬を耐圧容器に入れ、更に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんし、ポリアミド酸をポリイミドへ転化させた後に、二酸化炭素を排出することにより、所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、10nmから300nmのサイズのポリイミド微粒子が0.1wt%から5wt%の高濃度で分散したポリイミド分解液を提供することを目的とするものである。また、本発明は、粒子径が、10nmから40nmのサイズのポリイミド微粒子を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、これらのポリイミド微粒子が高濃度に分散したポリイミド微粒子分散液並びに該ポリイミド微粒子を二酸化炭素を利用して環境に対して低負荷で製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下のような技術的手段から構成される。
(1)ポリイミドの前駆体ポリマーであるポリアミド酸を、ポリイミドを溶解させずポリアミド酸を溶解させる溶媒に溶解させ、前記溶液と脱水環化試薬を所定の温度に加熱した耐圧容器に入れ、更に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんし、ポリアミド酸をポリイミドへ転化させた後に、二酸化炭素を排出することにより、10nmから300nmのサイズのポリイミド微粒子が高濃度で分散した分散液を製造することを特徴とするポリイミド微粒子分散液の製造方法。
(2)前記二酸化炭素の充てん圧力が、5MPaから30MPaである、前記(1)に記載のポリイミド微粒子分散液の製造方法。
(3)前記耐圧容器の加熱温度が、0℃から100℃である、前記(1)又は(2)に記載のポリイミド微粒子分散液の製造方法。
(4)前記ポリイミド微粒子分散液の濃度が、0.1wt%から5wt%である、前記(1)から(3)のいずれかに記載のポリイミド微粒子分散液の製造方法。
(5)50mL容量の耐圧容器に対して、0.5mLから5mLの比率の前記ポリアミド酸溶液を該耐圧容器に入れる、前記(1)に記載のポリイミド微粒子分散液の製造方法。
(6)ポリイミド微粒子分散液であって、10nmから40nmのサイズのポリイミド微粒子が、0.1wt%から5wt%の高濃度で分散した分散液であることを特徴とするポリイミド微粒子分散液。
(7)ポリイミド微粒子であって、10nmから40nmのサイズのポリイミド微粒子であり、単分散の形態で分散媒に再分散可能であることを特徴とするポリイミド微粒子。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、ポリイミド微粒子が高濃度に分散したポリイミド微粒子分散液を製造する方法であって、ポリイミドの前駆体ポリマーであるポリアミド酸を、ポリイミドを溶解させずポリアミド酸を溶解させる溶媒に溶解させ、前記溶液と脱水環化試薬を所定の温度に加熱した耐圧容器に入れ、更に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんし、ポリアミド酸をポリイミドへ転化させた後に、二酸化炭素を排出することにより、10nmから300nmのサイズのポリイミド微粒子が高濃度で分散した分散液を製造することを特徴とするものである。
【0018】
本発明では、出発物質として、ポリイミドの前駆体ポリマーであるポリアミド酸(ポリイミック酸)が用いられる。出発物質のポリアミド酸は、冷蔵保存ができるので、例えば、空気中の水分により加水分解を受け開環してしまうテトラカルボン酸二無水物や、空気中の酸素により酸化され、アミノ基がニトロ基へと変化してしまい、保存が難しいジアミン等と比べると有利である。このポリアミド酸を、ポリイミドを溶解させず該ポリアミド酸を溶解させる溶媒に溶解させる。
【0019】
本発明では、溶媒として、ポリイミドを溶解させず、ポリアミド酸を溶解させる溶媒が使用されるが、ポリアミド酸、すなわち、ポリアミック酸の溶媒としては、有機極性溶媒が使用される。該有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、アルコール系(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)、等が例示され、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0020】
前記有機溶媒としては、これらのうち、少なくとも50%のアミド系溶媒を含む溶媒であることが好ましく、例えば、極性のアミド系溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドを含む溶媒が好ましい。ポリアミド酸溶液の濃度は、生成する粒子サイズに影響する重要なファクターであり、特に、ポリアミド酸の分子量が大きいほど、溶液の濃度の影響が大きい。ポリアミド酸溶液の濃度は、例えば、分子量が大きい場合には、2重量%前後ないし0.5重量%前後が好ましい。
【0021】
次に、本発明では、ポリアミド酸を前記溶媒に溶解させた溶液と脱水還化試薬とを、所定の温度に加熱した高圧反応容器としての適宜の耐圧性容器に入れ、更に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんし、ポリアミド酸をポリイミドへ転化させる。この場合、二酸化炭素の充てん圧力は、5Mpaから30MPaであり、好ましくは、5〜10MPa、あるいは5〜20MPaの範囲である。
【0022】
また、前記耐圧容器の加熱温度は、0℃から100℃であり、約20〜60℃の範囲であることが好適であるが、加熱温度は、0℃から100℃の範囲で適宜調整することが可能である。前記加熱の温度は、所望の平均粒径のポリアミド酸微粒子を製造するために重要な条件であり、とりわけ、20〜60℃の温度が、目的とするポリアミド酸微粒子を形成させるために好ましく、単分散性を向上させるには、これらの温度範囲の±10℃が好ましい。
【0023】
溶液の撹拌条件及び二酸化炭素注入条件も、ポリアミド酸微粒子の形成に重要な条件であり、具体的には、例えば、高圧反応容器に、ポリアミド酸溶液、脱水環化試薬、及び撹拌子を入れて密閉し、例えば、500±200rpmないし1500±500rpm程度で激しく撹拌しながら二酸化炭素を1〜5mL/分ないし5〜20mL/分で充てんし、撹拌下に約1時間ないし数時間保持した後、常圧に戻し、二酸化炭素を排出させ、白濁した黄色のポリイミド微粒子分散液を得る。
【0024】
本発明において、高圧反応容器としての耐圧性容器の大きさ及び種類等については、高圧反応を行うことができるものであれば特に制限されるものではなく、反応液の容量等に応じて、適宜の容量で、適宜の形状及び構造を有する高圧反応容器を使用することができる。反応溶液と高圧反応容器の容量の関係については、例えば、約50mL容量の耐圧容器に対して、0.5mLから5mLの比率のポリアミド酸溶液を用いることが好ましい。
【0025】
また、高圧反応容器に二酸化炭素を常圧以上まで充てんする方法及び装置については、特に制限されるものではなく、耐圧容器に対して、二酸化炭素の充てん圧力を5MPaから30MPaに調整することができる手段であれば、適宜の方法及び装置を用いることができる。本発明では、高圧反応容器に、二酸化炭素を常圧以上で5MPaから30MPaの圧力で充てんすることが重要である。
【0026】
本発明では、出発物質のポリイミドの前駆体ポリマーであるポリアミド酸としては、例えば、ピロメリット酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの重合、3,3’、4−4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミンとの重合等により合成されたポリアミド酸を使用することができる。本発明で使用されるポリイミドの分子量は、基本的には、ポリイミド微粒子の用途との関連で適宜選択されるが、所望の粒径の微粒子を安定的に製造するためには、平均分子量(重量)が10000〜48000ないし48000〜123000の範囲にあることが好ましい。
【0027】
本発明では、脱水環化試薬として、例えば、ピリジン、無水酢酸、あるいはこれらの混合溶液を使用し、撹拌下、化学イミド化してポリイミド微粒子分散液を作製する。このイミド化工程は、熱イミド化を行うことも可能であり、化学イミド化を施した後、熱イミド化を行うことも可能である。この場合、好適には、例えば、ピリジン/無水酢酸のモル比が約1/1の混合溶液約0.1ml程度を、撹拌下に加えて、数時間保持して化学イミド化を行い、また、約250℃程で数時間保持して熱イミド化を行うことができる。
【0028】
次に、本発明では、ポリイミド微粒子を形成するために用いるテトラカルボン酸又はその二無水物として、例えば、3,3’−4−4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)、3,3’−4−4’−テトラカルボキシビフェニル、2,2−(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、及びこれらの二無水物が例示される。
【0029】
また、前記テトラカルボン酸又はその二無水物と反応してポリイミド前駆体のポリアミド酸を形成し、その後のイミド化等でポリイミドを形成するために、ジアミンとして、例えば、4,4’−ジアミンジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ジアミンベンゼン、4,4’−メチレンビス(メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(エチルシクロヘキシルアミン)等が用いられる。
【0030】
本発明により、上述の反応方法により、ポリイミド微粒子分散液の濃度が、0.1wt%から5wt%の高濃度であり、10nmから300nmのサイズのポリイミド微粒子が高濃度に分散した分散液を製造することができる。そして、より好適には、例えば、上記分散液より、10nmから40nmのサイズのポリイミド微粒子が0.1wt%から5wt%の高濃度で分散したポリイミド微粒子分散液並びに粒子径が10nmから40nmのサイズのポリイミド微粒子を調製し、提供することができ、しかもこれらのポリイミド微粒子は、適宜の分散媒に単分散の形態で再分散可能であるという格別の特徴を有するものである。
【0031】
従来、ポリアミド酸を出発物質として用いた粒子製造法において、ナノメートルサイズの粒子を製造するためには、一般的に、希薄な濃度下で行う必要があり、そのため、有機溶媒を大量に使用する必要があり、環境に大きな負荷をかけることになることが不可避であった。これに対して、本発明は、従来、大量に使用していた溶媒を、空気中より回収した二酸化炭素で代替しており、該二酸化炭素は、容易に回収、再利用が可能であり、本発明は、環境に対して低負荷な製造法である点で、高い技術的意義を有するものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)ナノメートルサイズのポリイミド微粒子が0.1wt%から5wt%の高濃度で分散したポリイミド微粒子分散液を提供することができる。
(2)10nmから300nmのサイズのポリイミド微粒子を提供することができる。
(3)ポリイミド微粒子分散液から、単分散の形態で分散媒に再分散可能なポリイミド微粒子を製造することができる。
(4)前記方法で作製した、単分散の形態で分散媒に再分散可能なポリイミド微粒子を提供することができる。
(5)本発明により、各種の分散媒に再分散可能なポリイミド微粒子を大量供給することが可能となる。
(6)本発明のポリイミド微粒子は、多様な種類の分散媒に単分散の形態で再分散可能であり、使用目的に応じたポリイミド微粒子製品を提供することができる。
(7)本発明により、例えば、粒径10〜300nmのサイズのポリイミド微粒子を大量供給することを可能とするポリイミド微粒子分散液並びにポリイミド微粒子の量産技術を確立することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で得られたポリイミド微粒子の電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【図2】実施例1で得られたポリイミド微粒子の動的光散乱(DLS)測定による粒径分布を示す。
【図3】実施例2で得られたポリイミド微粒子の電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【図4】実施例3で得られたポリイミド微粒子の電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【図5】実施例4で得られたポリイミド微粒子の電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
ピロメリット酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの重合により得られたポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミドに1.0質量%の濃度で溶解させた溶液を調製した。40℃に設定したオーブン中で十分に加熱された高圧反応容器(容量50mL)に、前記溶液1mL、無水酢酸250μL、及びピリジン50μLを入れ、更に、撹拌子を入れて密閉した。
【0036】
これらを、マグネティックスターラーで撹拌しながら、前記高圧反応容器内に、更に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんするために、二酸化炭素を2.5mL/分の流量で、それぞれ10MPa(a)、15MPa(b)、20MPa(c)まで充てんした。これを、撹拌下で2時間保持した後、常圧に戻し、二酸化炭素を排出させ、白濁した黄色のポリイミド微粒子分散液を得た。
【0037】
得られたポリイミド微粒子の平均粒子サイズは、それぞれ194nm、172nm、163nmであり、標準偏差は、それぞれ46nm、24nm、70nmであり、変動係数(CV)は、それぞれ24%、14%、43%であった。得られた粒子の電子顕微鏡(SEM)写真を図1に示す。また、動的光散乱(DLS)測定による粒径分布の結果を図2に示す。
【実施例2】
【0038】
ピロメリット酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの重合により得られたポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミドに1.0質量%の濃度で溶解させた溶液を調製した。60℃に設定したオーブン中で十分に加熱された高圧反応容器(容量50mL)に、前記溶液1mL、無水酢酸250μL、及びピリジン50μLを入れ、更に、撹拌子を入れて密閉した。
【0039】
これらを、マグネティックスターラーで撹拌しながら、前記高圧反応容器内に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんするために、二酸化炭素を2.5mL/分の流量で、10MPaまで充てんした。これを、撹拌下で2時間保持した後、常圧に戻し、二酸化炭素を排出させ、やや白濁した黄色のポリイミド微粒子分散液を得た。得られた粒子の電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示す。粒子サイズは、10nmであった。
【実施例3】
【0040】
ピロメリット酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの重合により得られたポリアミド酸を、N−メチル−2−ピロリドン、又はジメチルスルホキシドに1.0質量%の濃度で溶解させた溶液を調製した。40℃に設定したオーブン中で十分に加熱された高圧反応容器(容量50mL)に、前記溶液1mL、無水酢酸250μL、及びピリジン50μLを入れ、更に、撹拌子を入れて密閉した。
【0041】
これらを、マグネティックスターラーで撹拌しながら、前記高圧反応容器内に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんするために、二酸化炭素を2.5mL/分の流量で、10MPaまで充てんした。これを、撹拌下で2時間保持した後、常圧に戻し、二酸化炭素を排出させ、やや白濁した黄色のポリイミド微粒子分散液を得た。N−メチル−2−ピロリドンを使用して得られた微粒子の電子顕微鏡(SEM)写真を図4に示す。粒子サイズは、10nmであった。
【実施例4】
【0042】
ピロメリット酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの重合により得られたポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミドに1.0質量%の濃度で溶解させた溶液を調製した。40℃に設定したオーブン中で十分に加熱された高圧反応容器(容量50mL)に、前記溶液2.5mL又は5mL、無水酢酸250μL、及びピリジン50μLを入れ、更に、撹拌子を入れて密閉した。
【0043】
これらを、マグネティックスターラーで撹拌しながら、前記高圧反応容器内に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんするために、二酸化炭素を2.5mL/分の流量で、10MPaまで充てんした。これを、撹拌下で2時間保持した後、常圧に戻し、二酸化炭素を排出させ、やや白濁した黄色のポリイミド微粒子分散液を得た。ポリアミド酸溶液を5mL入れて得られた微粒子の電子顕微鏡(SEM)写真を図5に示す。粒子サイズは、30nmであった。
【実施例5】
【0044】
ピロメリット酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの重合により得られたポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミドに1.0質量%の濃度で溶解させた溶液を調製した。20℃で水冷している高圧反応容器(容量50mL)に、前記溶液1mL、無水酢酸250μL、及びピリジン50μLを入れ、更に、撹拌子を入れて密閉した。
【0045】
これらを、マグネティックスターラーで撹拌しながら、前記高圧反応容器内に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんするために、二酸化炭素を2.5mL/分の流量で、10MPaまで充てんした。撹拌下で2時間保持した後、常圧に戻し、二酸化炭素を排出させ、やや白濁した黄色のポリイミド微粒子分散液を得た。
【実施例6】
【0046】
ピロメリット酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの重合により得られたポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミドに1.0質量%の濃度で溶解させた溶液を調製した。40℃に設定したオーブン中で十分に加熱された高圧反応容器(容量50mL)に、前記溶液1mL、及び無水酢酸250μLを入れ、更に、撹拌子を入れて密閉した。
【0047】
これらを、マグネティックスターラーで撹拌しながら、前記高圧反応容器内に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんするために、二酸化炭素を2.5mL/分の流量で、10MPaまで充てんした。これを、撹拌下で5時間保持した後、常圧に戻し、二酸化炭素を排出させ、白濁した黄色のポリイミド微粒子分散液を得た。
【実施例7】
【0048】
ピロメリット酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの重合により得られたポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミドに1.0質量%の濃度で溶解させた溶液を調製した。40℃に設定したオーブン中で十分に加熱された高圧反応容器(容量50mL)に、前記溶液1mL、無水酢酸150μL又は500μL、及びピリジン50μLを入れ、更に、撹拌子を入れて密閉した。
【0049】
これらを、マグネティックスターラーで撹拌しながら、前記高圧反応容器内に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんするために、二酸化炭素を2.5mL/分の流量で、15MPaまで充てんした。これを、撹拌下で2時間保持した後、常圧に戻し、二酸化炭素を排出させ、白濁した黄色のポリイミド微粒子分散液を得た。
【実施例8】
【0050】
3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミンとの重合により得られたポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミドに1.0質量%の濃度で溶解させた溶液を調製した。40℃に設定したオーブン中で十分に加熱された高圧反応容器(容量50mL)に、前記溶液1mL、無水酢酸150μL、及びピリジン50μLを入れ、更に、撹拌子を入れて密閉した。
【0051】
これらを、マグネティックスターラーで撹拌しながら、前記高圧反応容器内に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんするために、二酸化炭素を2.5mL/分の流量で、15MPaまで充てんした。これを、撹拌下で2時間保持した後、常圧に戻し、二酸化炭素を排出させ、白濁した黄色のポリイミド微粒子分散液を得た。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上詳述したように、本発明は、ポリイミド微粒子分散体並びにポリイミド微粒子、及びそれらの製造方法に係るものであり、本発明により、ポリイミド微粒子分散液から、分散媒に再分散可能なポリイミド微粒子を製造する方法を提供することができる。また、本発明により、前記方法で作製した、分散媒に再分散可能なポリイミド微粒子を提供することができる。本発明のポリイミド微粒子は、分散媒に単分散の形態で再分散可能であり、本発明は、ポリイミド微粒子を大量供給することが可能である。本発明のポリイミド微粒子は、多様な種類の分散媒に単分散の形態で再分散可能であり、本発明により、使用目的に応じた製品を容易に構成することができる。本発明は、環境に対して低負荷な製法でポリイミド微粒子を大量生産することを可能とすると共に、それにより、粒径10〜300nmのナノサイズのポリイミド微粒子を大量供給することを可能とするものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドの前駆体ポリマーであるポリアミド酸を、ポリイミドを溶解させずポリアミド酸を溶解させる溶媒に溶解させ、前記溶液と脱水環化試薬を所定の温度に加熱した耐圧容器に入れ、更に、二酸化炭素を常圧以上まで充てんし、ポリアミド酸をポリイミドへ転化させた後に、二酸化炭素を排出することにより、10nmから300nmのサイズのポリイミド微粒子が高濃度で分散した分散液を製造することを特徴とするポリイミド微粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記二酸化炭素の充てん圧力が、5MPaから30MPaである、請求項1に記載のポリイミド微粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記耐圧容器の加熱温度が、0℃から100℃である、請求項1又は2に記載のポリイミド微粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記ポリイミド微粒子分散液の濃度が、0.1wt%から5wt%である、請求項1から3のいずれかに記載のポリイミド微粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
50mL容量の耐圧容器に対して、0.5mLから5mLの比率の前記ポリアミド酸溶液を該耐圧容器に入れる、請求項1に記載のポリイミド微粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
ポリイミド微粒子分散液であって、10nmから40nmのサイズのポリイミド微粒子が、0.1wt%から5wt%の高濃度で分散した分散液であることを特徴とするポリイミド微粒子分散液。
【請求項7】
ポリイミド微粒子であって、10nmから40nmのサイズのポリイミド微粒子であり、単分散の形態で分散媒に再分散可能であることを特徴とするポリイミド微粒子。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−189524(P2010−189524A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34636(P2009−34636)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】