説明

ポリイミド配線板の製造方法

【課題】析出した金属薄膜とポリイミドとの密着性が良好であり、しかも当該密着性の経時安定性、配線板の絶縁信頼性および生産性に優れたポリイミド配線板の製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリイミド基板をアルカリ溶液で処理する改質工程;ポリイミド基板を貴金属イオン含有溶液で処理する貴金属イオン吸着工程;吸着した貴金属イオンを、電磁波、または次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボランおよびギ酸からなる群から選択される還元剤によって還元させる貴金属イオン還元工程;ポリイミド基板を卑金属イオン含有溶液で処理する卑金属イオン吸着工程;および吸着した卑金属イオンを還元させる卑金属イオン還元工程;を含んでなり、貴金属イオン還元工程よりも後に、卑金属イオン還元工程を実施することを特徴とするポリイミド配線板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材としてポリイミドを用いた配線板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの携帯型電子機器に対して、高機能化とともに小型化が要求されてきており、電子部品を搭載して回路形成を行う基板として、フレキシブル配線基板(FPC、Flexible Printed Circuit)の使用頻度が高まっている。FPCは可撓性を有するため、自在に折り曲げることで小型化が進む筐体内部に収納することができ、そのことで高密度実装が可能となるためである。
【0003】
FPCは、以前から液晶パネルの周辺部品を搭載するために使われており、特に近年の大型化した液晶パネルの需要の高まりにより、市場からより多くの数量のFPCが要求されてきている。この際には、言うまでもなく、信頼性が高く、できるだけ低コストのFPC材料が求められている。FPCの基材としては、耐熱性、電気絶縁性、機械的強度に優れるポリイミド樹脂が広く用いられている。
【0004】
ポリイミド樹脂を用いたFPCに配線を形成して配線板とする工程は、ポリイミド基板の全面にCu箔を貼り付けたCCL(Copper Clad Laminate)から開始される。その貼り付け方法によりCCLは、いわゆる3層CCL、2層CCLという2つの分類に分かれる。3層CCLは、ポリイミドとCu箔とが接着剤を介して密着しているのに対して、2層CCLは、両者が接着剤を介さずに直接的に密着した構造を有する。いくらポリイミド基材が耐熱性や電気特性に優れているとはいえ、3層CCLの場合には、基板としての性能が接着剤の物性に大きく依存してしまうため、電気的信頼性や、耐繰り返し曲げ性のような機械的信頼性等、性能上は2層CCLの方が優れる。しかしながら、2層CCLの場合には、接着剤を用いることなくポリイミドとCu箔とを高い信頼性で密着させておくことが困難であるため、様々の技術開発が推進されてきている。2層CCLの製造手法として、スパッタ法、ラミネート法、キャスティング法などが知られているが、直接めっき法による方法を以下に説明する。
【0005】
直接めっき法は、KOHやNaOHなどのアルカリ性液体を、ポリイミド基板表面に塗布して、ポリイミド分子中のイミド環を開環してカルボキシル基を形成させる改質工程と、そのポリイミド基板を金属イオン含有水溶液で処理して、カルボキシル基に金属イオンを配位させて金属塩を形成する金属イオン吸着工程と、この金属塩を還元する還元工程とを含み、そうして得られる金属薄膜をめっき給電膜として電解めっき、もしくは無電解めっきを行って、所望の厚さの金属薄膜を得る方法である。(特許文献1および特許文献2)。金属薄膜の種類としては、Cu、Ni、Co、Agなどが挙げられる。この方法で得られた金属薄膜は、その一部がポリイミド基材表面とナノレベルでの微細なアンカー構造を有するため、高い密着性が得られるとされている。
【0006】
上記直接めっき法において、還元工程の方法としては、還元剤を含む水溶液でポリイミド基材の表面を処理する方法や、還元ガス雰囲気下で加熱処理する手法が行われている。前者は、例えば、水素化ホウ素ナトリウム等の水溶液に、ポリイミド基板を浸漬して実施される。また、後者は、水素ガス気流中にポリイミド基板を加熱しながら放置して実施される。
【0007】
また、改質工程の後に実施する金属イオン吸着工程で、特定の貴金属イオンを吸着させた後、還元して貴金属薄膜を得るという手法も行われている(非特許文献1)。その還元工程では、還元剤を含む水溶液や、還元ガス雰囲気などの還元性材料を一切用いることなく、単に紫外線を照射するだけというものである。この、特定の貴金属イオンとしては、Agイオンを用いることが知られている。
【特許文献1】特開2005−45236号公報
【特許文献2】特開2006−104504号公報
【非特許文献1】K.Akamatsu et. al.;Langmuir 19(2003)10366−10371
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上に示した従来技術には、以下の課題がある。
上記直接めっき法での還元工程において、還元剤を含む液体にポリイミド基板を浸漬する手法を採った場合、還元剤と金属イオンとの接触はポリイミド基板表面でしか起こらない。吸着工程までの工程により、ポリイミド基板の表面付近には吸着した金属イオンが数μmオーダーの深さまで存在しているが、還元剤から分解放出される電子等の反応種の供給がポリイミドの最表面でしか行われないため、フィルム最表面でしか金属イオンからの金属核析出が起こらない。このため、ポリイミドとの密着性が悪い金属薄膜が形成されてしまう。とりわけ、還元剤水溶液として水素化ホウ素ナトリウムを用いた場合、金属薄膜を容易に析出させることはできるが、かなり密着性の悪い膜となってしまうことが発明者らの検討によって明らかになった。これは、この水溶液に含まれる還元剤である、水素化ホウ素イオンの標準電極電位が小さく、還元力に非常に優れることに起因していると考えられる。例えば、非アルカリ性水溶液中での水素化ホウ素イオンの酸化反応は、次のようなものであることが知られており、この標準電極電位は、−1.73Vである。
BH + 4OH = BO + 2HO + 2H + 4e
【0009】
この式に示されるような還元剤からの電子の放出が、ポリイミド基板表面と水溶液との界面において自発的に激しくおこり、ここで発生した電子と金属イオンとの結合が次々と行われるため、金属イオンの還元反応、それによる金属粒子の核生成、核成長がほとんどポリイミド基板表面でしか起こらない。
【0010】
水溶液中に含まれている還元種は、水溶液中へのポリイミド基板の浸漬により、ポリイミド改質層内部へ移動した後に、還元種の酸化反応(上記の電子放出の反応)が起これば、ポリイミド改質層内部でも金属粒子の核生成、核成長が期待できる。しかし、水素化ホウ素イオンの場合には、還元種がポリイミド改質層内部へ移動するより前に、ポリイミド表面で次々と金属薄膜の析出が行われてしまう。この結果、金属薄膜/ポリイミド間での微細なアンカー構造は実現できないという課題がある。さらには、水素化ホウ素ナトリウム水溶液を用いた場合には、室温で常に水素ガスが発生して還元剤としての能力が劣化していくため、この還元工程用の副資材として用いるには工程管理が難しいという課題もある。
【0011】
上記の課題は、水素化ホウ素ナトリウムのような強い還元力を有する還元剤を使用したから起こった課題である。しかしながら、それとは別の還元剤で、かつ還元力が弱いものを用いた場合には、そもそも金属粒子の析出が起こらないという課題を有する。例えば、還元剤としてジメチルアミンボランを用いた場合、ポリイミド改質層に吸着させたCuイオンは還元できて析出させることができたが、Niイオンは還元析出ができなかった。ここで、一般にCuは、ポリイミドとの反応性が高いため、両者の接触部での経時安定性に劣るという課題がある。そのため、一般にCuとポリイミドとの直接の接触は避ける必要があり、配線密着性の長期信頼性を確保するという観点ではCuの使用は望ましいとは言えない。
【0012】
Cu以外の金属、例えばNiを吸着させて還元析出させることを考えた場合、公知の無電解めっき技術によると、還元剤として次亜リン酸ナトリウムが知られている。これは、それほど還元力は強くない。例えば、非アルカリ性水溶液中での反応は次式の通りであり、このときの次亜リン酸の標準電極電位は、−0.50Vである。
PO + HO = HPO + 2H + 2e
【0013】
しかしながら、直接めっき法に基づいてNiを吸着させたポリイミド基板を次亜リン酸ナトリウム水溶液に浸漬させた場合、Niイオンの還元析出が起こらないことが明らかとなった。
【0014】
以上のことから、ジメチルアミンボラン、次亜リン酸ナトリウムとも、直接めっき法をそのまま用いただけではNiを析出させることができない。
よって、直接めっき法を用いて、ポリイミドとの反応性が激しくない金属、例えばNiをイオン吸着し、還元析出しようとした場合に、ポリイミド表面でだけでなく、ポリイミド改質層内部からも金属粒子の核生成、核成長をさせられる還元剤水溶液が存在しないという課題がある。
【0015】
一方、光還元手法を用いてAg薄膜を析出させることを考える。その場合には、表面を改質したポリイミド基板にAgイオンを吸着し、紫外線を照射することで、光エネルギーによってAgイオンを還元し、Ag微粒子として析出させる。光エネルギーはポリイミド改質層内部にも到達して還元するため、金属粒子の核生成、核成長はポリイミド表面でだけでなく、ポリイミド改質層内部でも起こるため、ポリイミド/金属界面でのナノレベルのアンカー構造ができる。よって、金属薄膜とポリイミドとの高い密着力が期待できる。
【0016】
しかしながら、光による還元反応は反応速度が遅いため、生産性に劣るという課題がある。数分から数十分程度の時間では、数百Å程度の薄い金属薄膜しか得られないため、そのままでは、次工程で実施する電解めっきのシード層として使用可能な金属薄膜にはならない。
【0017】
また、Ag微粒子は電界中で容易に移動して絶縁不良を発生させやすいという課題がある。このポリイミド基板を基材とする配線基板においても、非配線箇所に残るAgイオン、Ag微粒子は、配線板として使用の際の電界によって、容易に移動して樹状結晶が成長し、絶縁不良を引き起こす恐れがある。非配線箇所に残るAgイオン、Ag微粒子を皆無にするとともに、配線箇所に存在するAg微粒子も移動しにくい形にする必要がある。
【0018】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、析出した金属薄膜とポリイミドとの密着性が良好であり、しかも当該密着性の経時安定性、配線板の絶縁信頼性および生産性に優れたポリイミド配線板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、
ポリイミド基板をアルカリ溶液で処理する改質工程;
ポリイミド基板を貴金属イオン含有溶液で処理する貴金属イオン吸着工程;
吸着した貴金属イオンを、電磁波、または次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボランおよびギ酸からなる群から選択される還元剤によって還元させる貴金属イオン還元工程;
ポリイミド基板を卑金属イオン含有溶液で処理する卑金属イオン吸着工程;および
吸着した卑金属イオンを還元させる卑金属イオン還元工程;
を含んでなり、
貴金属イオン還元工程よりも後に、卑金属イオン還元工程を実施することを特徴とするポリイミド配線板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリイミド配線板の製造方法によれば貴金属卑金属混合薄膜(本明細書中、単に混合薄膜ということがある)が形成され、混合薄膜とポリイミド基材との密着性が優れた配線板を、高い生産性で得ることができる。詳しくは、直接めっき法で得られた貴金属微粒子層を、直接めっき法により析出させる卑金属微粒子により増膜することで、そのままで電解めっき可能なくらい低抵抗でポリイミドとの密着性に優れた混合薄膜を得ることができる。その混合薄膜は、例えばCu薄膜のようなポリイミド界面との密着性に関する経時安定性の懸念がなく、また例えばAg薄膜のようなマイグレーションによる絶縁抵抗信頼性の懸念がなく、しかも混合薄膜とポリイミドとがナノレベルのアンカー構造を有するような両者の密着性に優れた混合薄膜である。
【0021】
さらには、ポリイミド改質層内部からも還元析出可能な手法で予め貴金属イオンを還元析出させ、それを触媒核として卑金属イオンを析出させるため、卑金属イオンの還元剤として経時安定性に優れ、低コストな材料を用いることができる。
本発明は、そのようなポリイミド上の混合薄膜を利用するポリイミドFPCの製造方法も提供するため、その低コスト化や高信頼性に大いに貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係るポリイミド配線板の製造方法は、
ポリイミド基板をアルカリ溶液で処理する改質工程;
ポリイミド基板を貴金属イオン含有溶液で処理する貴金属イオン吸着工程;
吸着した貴金属イオンを穏やかに還元させる貴金属イオン還元工程;
ポリイミド基板を卑金属イオン含有溶液で処理する卑金属イオン吸着工程;および
吸着した卑金属イオンを還元させる卑金属イオン還元工程;
を含んでなり、
貴金属イオン還元工程よりも後に、卑金属イオン還元工程を実施することを特徴とするものである。
【0023】
本明細書中、貴金属とは、卑金属に比較して標準電極電位が大きく、比較的容易に還元される金属である。貴金属の具体例としては、例えば、Cu、Ag、Pd、Pt、Au等が挙げられ、単独でまたは2種類以上組み合わせて使用されてよい。
卑金属とは、貴金属に比較して標準電極電位が小さく、比較的還元され難い金属である。卑金属の具体例としては、例えば、Cr、Fe、Co、Ni等が挙げられ、単独でまたは2種類以上組み合わせて使用されてよい。
【0024】
本発明で使用される貴金属イオンと卑金属イオンとの組み合わせは、混合薄膜とポリイミドとの密着性に関する経時安定性、および配線板の絶縁信頼性の観点から、Agイオン−Niイオン、Agイオン−Feイオン、Agイオン−Coイオン、Agイオン−Crイオン、Pdイオン−Niイオン、Pdイオン−Feイオン、Auイオン−Niイオン、Ptイオン−Niイオン、Cuイオン−Niイオン、Cuイオン−Feイオン、Cuイオン−Coイオン、Cuイオン−Crイオンが好ましい。
【0025】
本発明においては、貴金属イオン還元工程よりも後に、卑金属イオン還元工程を実施する限り、各工程の実施順序は特に制限されない。直接めっき法を実施する観点から、通常は、上記工程のうち、改質工程がまず実施され、貴金属イオン吸着工程よりも後に貴金属イオン還元工程が実施され、卑金属イオン吸着工程よりも後に卑金属イオン還元工程が実施される。
【0026】
そのような工程順序の具体例として、例えば、以下に示す順序が挙げられる。生産の安定性、および、製品の信頼性の観点から、好ましくは以下の(A)および(B)の順序を採用する。
(A)改質工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、卑金属イオン吸着工程、および卑金属イオン還元工程;
(B)改質工程、卑金属イオン吸着工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、および卑金属イオン還元工程;
(C)改質工程、貴金属イオン吸着工程、卑金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、および卑金属イオン還元工程。
【0027】
本発明では貴金属イオン還元工程において穏やかな還元処理を行うので、ポリイミド改質層表面だけでなく、内部からも貴金属微粒子の析出が起こる。その結果、ナノレベルのアンカー構造が生成されて、ポリイミドとの密着性に優れた貴金属微粒子層を生成できる。そのため、その後の卑金属イオンの還元によって、ポリイミドとの密着性に優れた貴金属卑金属混合薄膜が形成される。
【0028】
貴金属イオン還元工程におけるそのような穏やかな還元は、貴金属微粒子の析出が改質層内部から起こるように達成されればよく、例えば、電磁波、または次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボランおよびギ酸からなる群から選択される還元剤によって達成される。具体的には、例えば、上記(A)の実施順序を採用するときは電磁波、または次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボランおよびギ酸からなる群から選択される還元剤によって還元処理を行う。また例えば、上記(B)または(C)の実施順序を採用するときは電磁波によって還元処理を行う。水素化ホウ素ナトリウムのような激しい還元作用を発揮する還元剤を用いると、改質層表面で貴金属微粒子の核生成および核成長が過剰に速やかに進み、改質層内部からの貴金属微粒子の析出が達成できないため、混合薄膜とポリイミドとの密着性が低下する。また上記(B)または(C)の実施順序を採用するとき、貴金属イオン吸着工程および卑金属イオン吸着工程よりも後に貴金属イオン還元工程を実施するので、当該貴金属イオン還元工程を実施されるポリイミド基板の改質層には貴金属イオンおよび卑金属イオンが同時に存在する。そのため、還元剤によって還元処理すると、当該還元剤がたとえ穏やかな還元作用を有するものであっても、貴金属イオンだけでなく卑金属イオンの還元も起こる。その結果、還元種が改質層内部へ有効に移動できないため、貴金属微粒子を改質層内部から析出させることができず、混合薄膜とポリイミドとの密着性が低下するものと考えられる。
【0029】
また本発明においては直接めっき法により予め貴金属微粒子層を形成し(貴金属イオン還元工程)、当該微粒子を触媒核にして、同じく直接めっき法による卑金属イオンの還元・析出を実施する(卑金属イオン還元工程)。その結果、貴金属微粒子を取り囲んだ形で卑金属微粒子が析出し、貴金属卑金属混合薄膜が形成される。卑金属イオンよりも標準電極電位が大きい貴金属イオンは、ポリイミドに吸着させてからの還元析出が比較的容易な材料であるが、それ単独では、ポリイミドとの反応性が高いことによる経時安定性の低下(特に、Cu)、容易に移動することによる絶縁信頼性の低下(特に、Ag)などの問題を引き起こす。しかしながら、貴金属卑金属混合薄膜において貴金属微粒子を取り囲んだ形で卑金属微粒子が析出するので、そのような問題を解消できる。一方、卑金属イオンは、それ単独では、ポリイミドに吸着させてからの還元析出が困難であるが、既に還元析出させている貴金属微粒子を利用し、それを触媒核にして卑金属微粒子を析出させるので、反応が穏やかで低コストな還元剤を用いて容易に析出させることができる。
【0030】
直接めっき法を用いて貴金属微粒子層を生成させた後、それを触媒核として用いて無電解めっきを実施すると、改質層の剥離が起こる。
直接めっき法による貴金属微粒子層は、通常、ポリイミド改質層の上もしくは内部を含んで形成される。ポリイミド改質層はポリイミド分子の一部を切断した構造を有するため、機械的強度に劣るとともに、耐薬品性にも劣る。一方、無電解メッキ液、例えば、無電解Cuめっき液として工業的に広く利用されている硫酸銅めっき浴は、硫酸銅のほかにホルムアルデヒド、エチレンジアミン四酢酸ナトリウムとを含んだ水溶液であり、pHが12〜13を示す、強アルカリ性の液体である。このような水溶液へ、直接めっき法により貴金属微粒子を析出させた後のポリイミド基板を浸漬すると、ポリイミド改質層は、さらに加水分解が進展し、未改質のポリイミド部分から改質層だけが剥離するような問題が発生する。また、このような強アルカリめっき浴以外にも、例えば、pHが4〜6のような強酸領域の水溶液を用いる無電解ニッケルめっき浴についても、通常は50〜70℃程度まで温度上昇させためっき液へ浸漬するので、ポリイミド改質層は同様の問題を発生する。この問題を回避するために、貴金属微粒子層を生成した後に、ポリイミド改質層を再度ポリイミド化して耐薬品性を向上させ、その後に無電解めっきを行うことが考えられる。しかし、この場合には貴金属微粒子層の酸化の問題や剥離の問題が起こる。貴金属微粒子層は、厚み数十〜数千Åと非常に薄い上にナノレベル径の微粒子の集合体であるために反応性が高いものである。再度のポリイミド化には、例えば250℃程度以上の高温にさらす処理が必要であるから、その処理によって、貴金属微粒子の酸化反応が容易に起こる。表面が酸化した貴金属微粒子層は無電解めっきの触媒核としては不適切である。表面酸化膜を除去しようとエッチング処理を行うと、容易にすべての微粒子層が剥がれてしまうという問題が生じる。
【0031】
また本発明において特に上記(A)の工程順序を採用する場合、貴金属イオン吸着工程および貴金属イオン還元工程を実施した後で、卑金属イオン吸着工程および卑金属イオン還元工程を実施するため、貴金属イオンを供給する浴槽と、卑金属イオンを供給する浴槽との間で、異種の金属イオンが混じりあう恐れがない。そのため、量産時に浴の管理が容易であるという利点を有する。
【0032】
また本発明において特に上記(B)または(C)の工程順序を採用する場合、貴金属イオン還元工程で貴金属微粒子が析出する前に、卑金属イオン吸着工程を行うので、卑金属(イオン)は微量ではあるが貴金属微粒子に含有される。そのため、貴金属微粒子を取り囲んだ形で析出する卑金属微粒子が、配線板の製造過程で、酸性の水溶液等によって侵されて溶失したとしても、本発明の効果を得ることができる。
【0033】
本発明においては、上記工程が記載の順序で実施される限り、他の工程が上記工程間で実施されてよい。例えば、本発明においてパターニングされた混合薄膜を形成する場合、以下に示す好ましい実施形態が挙げられる。
【0034】
例えば、(A)改質工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、卑金属イオン吸着工程、および卑金属イオン還元工程を記載の順序で実施するに際して、
貴金属イオン還元工程において電磁波によって配線領域を選択的に還元処理し、
貴金属イオン還元工程後、卑金属イオン吸着工程前に、
酸性溶液で処理することにより、貴金属イオン還元工程で残留した貴金属イオンを水素イオンに置換する貴金属イオン洗浄工程;
を実施する(第1実施形態)。
【0035】
また例えば、(A)改質工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、卑金属イオン吸着工程、および卑金属イオン還元工程を記載の順序で実施するに際して、
改質工程後、貴金属イオン吸着工程前に、
マスクパターンを形成し、配線領域を選択的に露出させるマスクパターン形成工程;
を実施し、
卑金属イオン還元工程後に、
マスクパターンを除去するマスクパターン除去工程;
を実施する(第2実施形態)。
【0036】
また例えば、(B)改質工程、卑金属イオン吸着工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、および卑金属イオン還元工程を記載の順序で実施するに際して、
卑金属イオン吸着工程後、貴金属イオン吸着工程前に、
マスクパターンを形成し、配線領域を選択的に露出させるマスクパターン形成工程;
を実施し、
卑金属イオン還元工程後に、
マスクパターンを除去するマスクパターン除去工程;
を実施する(第3実施形態)。
【0037】
また例えば、(C)改質工程、貴金属イオン吸着工程、卑金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、および卑金属イオン還元工程を記載の順序で実施するに際して、まず、
マスクパターンを形成し、配線領域を選択的に露出させるマスクパターン形成工程;
を実施した後に、
貴金属イオン吸着工程、卑金属イオン吸着工程を順次実施し、
卑金属イオン還元工程後に、
マスクパターンを除去するマスクパターン除去工程;
を実施する(第4実施形態)。
【0038】
以下、本発明を、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態および第4実施形態を例に挙げて詳しく説明する。
【0039】
(第1の実施形態)
図1から図12を参照して、本発明の第1の実施形態のポリイミド配線板の製造方法を説明する。図1は、本発明の第1の実施形態のポリイミド配線板の製造方法の製造フロー図である。図2から図12は、本発明の第1の実施形態のポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【0040】
・改質工程
ポリイミド基板1をアルカリ溶液で処理してイミド環が開環されたポリイミド改質層を形成する(図1の工程(1))。詳しくは図2に示すようなポリイミド基板1をアルカリ溶液に浸漬することで、図3に示すように両面に改質層104を形成されたポリイミド基板を得、その後、水洗する。アルカリ溶液としてはKOHやNaOHなどの水溶液が挙げられる。この工程により、化学式(1)で示されるポリイミド基板1の表面は、加水分解されてイミド環が開き、アルカリ溶液中のアルカリ金属イオンと結合し、図3に示したように、ポリイミド基板1の両面に、改質層104が形成される。この改質層104は、例えば、KOHを用いて加水分解を行った場合、化学式(2)で示される構造である。
【0041】
【化1】

【0042】
改質処理条件は、例えば、アルカリ溶液濃度が1〜5mol/l、溶液温度が30〜60℃の場合、浸漬時間3〜30分間である。
【0043】
ポリイミド基板としては、特に制限されず、可撓性を有するフィルム状のものから剛性を有するボード状のものまで、いかなるポリイミドも使用可能であるが、フレキシブル配線板を製造する観点からは、厚み10〜200μmの可撓性を有するフィルム状のものが好ましく使用される。
【0044】
ポリイミド基板は市販のものを使用することができ、例えば、アピカル(R)(カネカ製)、カプトン(R)(東レデュポン製)、ユーピレックス(R)(宇部興産製)等として入手可能である。
【0045】
配線板の両面を電気的に接続するビアが必要な場合には、改質工程の実施前に予めポリイミド基板1にドリル加工などの穴あけ加工により貫通ビアを形成していてもよい。その場合には、貫通ビアが後の工程でマスクされない限り、改質工程およびその後の工程の実施により、貫通ビアの内壁にも混合薄膜が形成され、効率が良い。
【0046】
次の工程に進む際にはポリイミド基板の乾燥を防ぐことが望ましい。乾燥を実施した場合にはポリイミド基板表面に亀裂が生じることがある。このことから、ポリイミド基板の湿潤を保った状態で次工程に進む。
【0047】
・貴金属イオン吸着工程
ポリイミド基板を貴金属イオン含有溶液で処理して、該溶液に含有される貴金属イオンを改質層に吸着させる(図1の工程(2))。詳しくは、ポリイミド基板を、貴金属イオン含有溶液に浸漬することによって、改質層に配位していたアルカリ金属イオンを貴金属イオン含有溶液中の貴金属イオンと置換させ、水洗する。その状態を図4に示す。図4において、105が貴金属イオンが吸着した改質層である。
【0048】
貴金属イオンは前記貴金属のイオンであり、本実施形態においては、改質層内部における析出をより有効に達成することや、材料の入手コストの観点より、Agイオン、もしくはCuイオンが好ましい。特に、貴金属イオンとしてAgイオンを用いることで、貴金属イオン還元工程において還元析出反応を、電磁波、特に紫外線を用いてより有効に行うことができ、改質層内部からAg微粒子を容易に還元析出させ得る。従来において、次工程で行うような電磁波、特に紫外線の照射単独ではAgイオンの還元は効率が悪いため、電磁波照射のみによる還元を実施して電解めっきなどを実施しようとすると、十分に低抵抗のAg微粒子層を得るために時間がかかりすぎ、量産性に劣るという課題があった。しかし、本発明においてAg微粒子は触媒核として使用され、その析出は少量でよいので、本工程においてAgイオンは有用である。
【0049】
貴金属イオン含有溶液は、前記した貴金属を含有する金属塩の水溶液である。具体例として、例えば、CuSO水溶液、AgNO水溶液、PdSO水溶液、(NHPtCl水溶液、KAu(CN)水溶液等が挙げられる。
【0050】
貴金属イオン吸着処理条件は特に制限されず、通常は、例えば溶液濃度は0.005〜5M、溶液温度は5〜40℃、浸漬時間は1〜10分間である。
【0051】
本工程の前に、ポリイミド基板をイソプロピルアルコールなどの有機溶剤を用いて洗浄を行ってもよい。その場合には、ポリイミド基板の表面に付着している難水溶性のアミンなどが除去できるため、本工程でポリイミド基板を浸漬する貴金属イオン含有溶液のpHを変化させないという利点がある。
【0052】
・貴金属イオン還元工程
吸着した貴金属イオンを、選択的に、かつ穏やかに還元させる(図1の工程(3))。本実施形態では、詳しくは、ポリイミド基板を、図5に示すように、ガラスマスク91を用いて、電磁波によって配線領域を選択的に還元処理する。電磁波エネルギーはポリイミド改質層内部にも届き、改質層内部から貴金属微粒子の析出が起こるため、改質層内部においてナノレベルでの貴金属微粒子層とポリイミド改質層とのアンカー構造を有効に実現できる。また電磁波を用いた還元反応を利用すると、ガラスマスク等のフォトマスク材料などを用いて容易に選択的に配線領域に照射できる。そのため、ポリイミド基板上へのフォトレジスト材料の塗布等によるマスクパターン形成工程やマスクパターンを除去するマスクパターン除去工程などを排することができるので、生産性に優れ、生産コストを低減できる。さらに、マスクパターン形成工程やマスクパターン除去工程では、レジスト樹脂の現像や、マスクパターンの剥離のためにアルカリ性水溶液を用いて、ポリイミド改質層が損傷を受けることがあるが、本実施形態においてそのような工程は要しないので、低コストで高信頼性の製造方法を提供できる。
【0053】
具体的には、ガラスマスク91は、電磁波を透過させる透過部92と、それを遮断する遮光部93とで構成されている。透過部92は、後に配線パターンを設ける領域を含んで設けられ、配線パターンと同一形状でも、やや大きめで、複数の配線パターンを結合した形状のものでも構わない。ガラスマスクとポリイミド基板との間隙に水を滴下した状態で照射を行うと、貴金属微粒子の形成が促進され望ましい。
【0054】
図6に示すようにガラスマスク91上方から電磁波61の照射を行って、貴金属微粒子層41を形成する。例えば、貴金属イオンとしてAgイオンを用いた際は、電磁波、特に紫外線領域の電磁波を照射することでAg微粒子が析出される。この場合、Agの還元析出に関わる反応式は、下記のとおりである。
COOAg → COO + Ag (3)
COO + HO → COOH + OH (4)
【0055】
まず式(3)に示すように、電磁波のエネルギーを受けたカルボキシルイオンからAgイオンへの電子の供給が起き、Ag微粒子の核生成と、カルボキシルラジカルが生成する。その後、生成したAg核を中心にAg微粒子の凝集が起こる。一方、水の存在下においては式(4)に示すような反応も進展し、カルボン酸基の生成が進んでいく。このような反応により、貴金属微粒子層の生成が進んでいくが、電磁波エネルギーは、ポリイミド改質層内部にも届き、改質層内部でも式(3)および式(4)の反応により貴金属微粒子の生成が進んでいく。ポリイミド改質層内部から表面に至る領域まで一体化して貴金属微粒子が形成され、ポリイミド改質層内部において、ナノレベルでの貴金属微粒子層とポリイミド改質層とのアンカー構造が実現するため、貴金属微粒子層は密着性に優れた膜となる。
【0056】
さらにポリイミド基板両面にパターンを形成する場合には、他面についても同様の工程を実施して、図7に示すように、ポリイミド基板の両面に貴金属微粒子層41を形成する。
【0057】
本工程で形成される貴金属微粒子は後の卑金属イオン還元工程で触媒核として作用するので、貴金属微粒子層単独で十分に低抵抗となるほど厚い層は必ずしも要しない。後の卑金属イオン還元工程で初めて十分に低抵抗となる程度に厚い層を形成できれば良いので、貴金属イオン還元工程は比較的短時間で終えても良い。一般に電磁波を用いた還元反応、は反応時間が長いが、本発明では数分程度の反応時間をとればよい。よって、生産のTAT(ターン・アラウンド・タイム)を短くすることができ、生産性の向上を図ることができる。
【0058】
電磁波照射手段としては、紫外線を有効に照射できる水銀ランプ、汎用の紫外線光照射装置等が使用可能である。
照射条件は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常は、水銀ランプを使用した場合で、強度2〜50W、照射時間3〜20分間である。
【0059】
・貴金属イオン洗浄工程
ポリイミド基板を酸性溶液で処理して、貴金属イオン還元工程で残留した貴金属イオンを水素イオンに置換する(図1の工程(4))。貴金属イオン還元工程後において、ポリイミド基板上で貴金属微粒子層41が形成されていない領域では、貴金属イオンが吸着した改質層105が存在している。このため、貴金属イオン洗浄工程を実施する。この際、イオン交換反応を利用して洗浄するため、カルボキシル基に付着した貴金属イオンを大量のHイオンで交換するようにする。具体的には希硫酸、希塩酸などの酸性溶液で浸漬を行った後、水洗する。その結果、図8に示すように、貴金属イオン吸着改質層は、ポリアミック酸層106に変化する。ポリアミック酸とは、前記化学式(2)で示す分子構造においてKがHに置き換わった分子式を持つ化合物である。本工程を実施しないと、改質層に吸着した貴金属イオンが後の卑金属イオン還元工程で還元析出するので、所望のパターンを形成できない。
【0060】
貴金属イオン洗浄処理条件は改質層からの貴金属イオンの除去を達成できる限り特に制限されず、通常は、例えば溶液温度は5〜40℃、浸漬時間は30秒間〜10分間である。
【0061】
・卑金属イオン吸着工程
ポリイミド基板を卑金属イオン含有溶液で処理して、該溶液に含有される卑金属イオンを改質層に吸着させる(図1の工程(5))。詳しくは、ポリイミド基板を、卑金属イオン含有溶液に浸漬することによって、卑金属イオンを吸着させ、水洗する。その状態を図9に示す。図9において、107が卑金属イオンが吸着した改質層であり、貴金属微粒子を含むポリアミック酸層(貴金属微粒子層41)にも卑金属イオンが吸着される。
【0062】
卑金属イオンは前記卑金属のイオンであり、本実施形態においては、卑金属イオンの析出容易性、材料の入手容易性等の観点より、Niイオンが好ましい。
【0063】
卑金属イオン含有溶液は、前記した卑金属を含有する金属塩の水溶液である。具体例として、例えば、NiSO水溶液、Cr(SO水溶液、CrO水溶液、FeSO水溶液、CoSO水溶液等が挙げられる。
【0064】
卑金属イオン吸着処理条件は特に制限されず、通常は、例えば溶液濃度は0.005〜5M、溶液温度は5〜40℃、浸漬時間は1〜10分間である。
【0065】
・卑金属イオン還元工程
吸着した卑金属イオンを穏やかに還元させる(図1の工程(6))。詳しくは、ポリイミド基板を、穏やかな還元作用を有する還元剤溶液に浸漬して還元処理を行い、貴金属微粒子層に選択的に卑金属微粒子を析出させ、図10に示すように、貴金属卑金属混合薄膜42を得る。卑金属イオンの還元は貴金属微粒子を触媒核として起こり、貴金属微粒子の周辺で卑金属微粒子が析出するため、卑金属微粒子は貴金属微粒子層に選択的に析出する。また穏やかな還元作用を有する還元剤溶液を用いるので、卑金属イオンの還元は、ポリイミド表面だけでなく、改質層内部からも起こり、混合薄膜42の密着性がより有効に向上する。
【0066】
水素化ホウ素ナトリウムのような激しい還元作用を有する還元剤を用いると、貴金属微粒子が形成されていない卑金属イオン吸着改質層107中の卑金属イオンも還元されるため、所望のパターンを形成できない。
【0067】
卑金属イオン還元工程において穏やかに還元させる、とは、貴金属微粒子を触媒核として当該微粒子の周辺でのみ卑金属微粒子の析出が起こる程度に穏やかな条件で還元を行う、という意味である。
【0068】
本工程におけるそのような穏やかな還元は、次亜リン酸ナトリウム水溶液、ジメチルアミンボラン水溶液、ギ酸水溶液などの穏やかな還元作用を有する還元剤溶液を用いることによって達成される。
【0069】
本実施形態における卑金属イオンと本工程の還元剤溶液との好ましい組み合わせを以下に示す。
例えば、卑金属イオンとしてNiイオンを用いた場合、還元剤溶液として次亜リン酸ナトリウム水溶液を用いることが望ましい。次亜リン酸ナトリウムはNiの無電解めっき技術において、めっき液中にNiイオンとともに含まれている還元剤であり、既に広く工業的に使われているために低コストで入手することができる。さらに次亜リン酸ナトリウムは触媒がない状態ではポリイミド改質層中に存在するNiイオンを還元させるほどの十分な還元能力を持たないが、何らかの外因によって一旦析出し始めると、それを触媒核にして円滑に析出し続ける特性を有することが、本発明において適している。
【0070】
また例えば、卑金属イオンとしてCrイオンを用いる場合、還元剤溶液として次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジンなどの水溶液を用いることが望ましい。
また例えば、卑金属イオンとしてFeイオンを用いる場合、還元剤溶液として次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジンなどの水溶液を用いることが望ましい。
また例えば、卑金属イオンとしてCoイオンを用いる場合、還元剤溶液として次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジンなどの水溶液を用いることが望ましい。
【0071】
本工程において還元剤溶液による処理条件は特に制限されず、通常は、次亜リン酸ナトリウム水溶液の場合、還元剤溶液の濃度は0.01〜0.5M、温度は30〜60℃、浸漬時間は5〜40分である。
【0072】
以上の卑金属イオン吸着工程および卑金属イオン還元工程を1回ずつ行うだけで、通常は100〜500nm程度の厚みの混合薄膜が形成可能である。卑金属イオン吸着工程および卑金属イオン還元工程を複数回、繰り返すことによって、混合薄膜42を厚くできる。
【0073】
第1実施形態において卑金属イオン還元工程を実施した後は通常、卑金属イオン洗浄工程および再イミド化工程を実施する。
【0074】
・卑金属イオン洗浄工程
ポリイミド基板を洗浄して、ポリイミド基板に残る卑金属イオン吸着改質層107を、ポリアミック酸層106に戻す(図1の工程(7))。この工程は、最終的にポリイミド改質層を再びポリイミドに戻す後述の再イミド化工程の際に、再イミド化が確実に進むように行うものである。この際、イオン交換反応を利用して洗浄するため、カルボキシル基に付着した卑金属イオンを大量のHイオンで交換するようにする。具体的には希硫酸、希塩酸などの酸性溶液で浸漬を行った後、水洗する。その結果、図11に示すように、卑金属イオン吸着改質層は、ポリアミック酸層106に変化する。
【0075】
卑金属イオン洗浄処理条件は改質層からの卑金属イオンの除去を達成できる限り特に制限されず、通常は、例えば溶液温度は5〜40℃、浸漬時間は30秒間〜10分間である。
【0076】
卑金属イオン洗浄工程前には予め水洗を行っておくことが、洗浄液の劣化防止の観点から好ましい。
【0077】
・再イミド化工程
最終的に再イミド化工程(図1の工程(8))を実施して、ポリアミック酸層のイミド化を行う。具体的には、加熱処理を行うことでポリアミック酸層106を再びイミド化し、図12に示すように、ポリイミド表面付近に混合薄膜42が単独で形成されているようにする。再イミド化を行うと、耐薬品性、機械的強度ともに問題なく、その後での無電解めっきまたは電解めっきのどちらの工程への適合性にも優れた混合薄膜を得ることができる。
【0078】
加熱条件は、改質層の再イミド化を達成できる限り特に制限されず、通常は、例えば温度は120℃〜400℃、処理時間は30分〜3時間である。再イミド化が穏やかに進むように、多段階で加熱を行い、段階的に加熱温度を上げることが好ましい。加熱は、混合薄膜42の表面酸化を抑制するために、窒素導入によって酸素濃度を下げたオーブンを用いることが好ましい。
【0079】
第1実施形態においてガラスマスクを用いないこと、または用いたとしても全面を透過部とすることによって、ポリイミド基板の全面に混合薄膜を形成できる。このとき、貴金属イオン洗浄工程を省略できる。ポリイミド基板の全面に混合薄膜を形成する場合は、卑金属イオン還元工程において必ずしも穏やかな還元を行う必要はなく、水素化ホウ素ナトリウム等の激しい還元作用を有する還元剤を用いて還元を行ってもよい。そのような激しい還元を行っても、混合薄膜とポリイミドとの密着性は十分に確保できる。
【0080】
(第2の実施形態)
図13から図19を参照して、本発明の第2の実施形態のポリイミド配線板の製造方法を説明する。第1実施形態と重複する説明は省略する。図13は、本発明の第2の実施形態のポリイミド配線板の製造方法の製造フロー図である。図14から図19は、本発明の第2の実施形態のポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【0081】
・改質工程
第1実施形態における改質工程と同様の方法により、ポリイミド基板をアルカリ溶液で処理してイミド環が開環されたポリイミド改質層を形成する(図13の工程(1))。
【0082】
・マスクパターン形成工程
マスクパターンを形成し、配線領域の改質層を選択的に露出させる(図13の工程(2))。例えば、いわゆるフォトリソグラフィ法、印刷法等によりマスクパターンを形成する。予めパターニングされた熱可塑性の樹脂フィルムを、改質層の表面に熱圧着してマスクパターンを形成しても良い。その結果、図14に示すように、配線パターン領域を含む領域に開口を設けたマスクパターン5が形成される。
【0083】
フォトリソグラフィ法とは、感光性のフォトレジストに露光・現像を行って所定のマスクパターン(レジストパターン)を形成する方法である。例えば、特定波長の光に対して架橋反応(硬化)を起こす感光性樹脂からなるフォトレジストにおけるマスク被覆領域、すなわちマスクパターンを形成すべき領域を露光し、フォトレジストの非露光部分をエッチングによって除去することによって現像を行い、マスクパターンを形成することができる。
【0084】
フォトレジスト材料としては特に限定されることなく、市販されている様々な材料を用いることができる。例えば、ノボラック樹脂を主成分とし、感光剤、乳酸エチル、酢酸ノルマルブチルなどの溶剤を含有する液状レジスト、フィルム状レジスト等を使用することができる。
【0085】
液状レジストは例えば、市販のOFPR(東京応化製)として入手可能である。
液状ポジレジストを用いる場合、まず、ポリイミド基板をスピンコータに載置し、液状ポジレジストを滴下または塗布して、回転させた後、ホットプレートで加熱(プリベーク工程)し、3〜4μm厚程度のレジスト膜を得る。次に、露光を行った後、約3%のTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)に1分間浸漬して現像を行い水洗する。その後、ホットプレートで再度、加熱(ポストベーク工程)し、レジストパターン部の樹脂硬化を行う。この結果、1μm幅のレジストパターンを形成できるので、高精細の配線パターンを形成できる。
【0086】
フィルム状レジストは例えば、旭化成製SUNFORT(R) ASG−253として入手可能である。
フィルム状レジストとして旭化成製SUNFORT(R) ASG−253を用いる場合には、市販のフィルムラミネータを用いて、110℃で加熱しながら、0.4MPa程度の圧力でポリイミド基板上に貼り付けを行う。現像に際しては、炭酸ナトリウム水溶液を用いて、非露光部分の除去を行うことができる。
【0087】
本工程を貴金属イオン吸着工程の前に実施することで配線不要領域への貴金属イオンおよび卑金属イオンの吸着が起こらないため、絶縁信頼性により一層優れた配線板を得ることができる。また、配線不要領域における貴金属イオンの洗浄工程を省くことができる。
【0088】
マスクパターン形成工程はポリイミド基板片面の改質層に対して実施してもよいし、両面の改質層に対して実施してもよい。
【0089】
・貴金属イオン吸着工程
第1実施形態における貴金属イオン吸着工程と同様の方法により、ポリイミド基板を貴金属イオン含有溶液で処理して、該溶液に含有される貴金属イオンを、改質層の露出領域(マスクパターンの開口領域)に吸着させる(図13の工程(3))。その結果、図15に示すように、マスクパターン5の開口部から露出している改質層に貴金属イオン吸着改質層105を設ける。本実施形態において貴金属イオンとしては、改質層内部における析出をより有効に達成することや、材料の入手コストの観点より、Agイオン、もしくはCuイオンが好ましい。
【0090】
・貴金属イオン還元工程
吸着した貴金属イオンを穏やかに還元させる(図13の工程(4))。詳しくは、第1実施形態における貴金属イオン還元工程と同様の方法によりポリイミド基板を電磁波によって還元処理してもよいし、または穏やかな還元作用を有する還元剤溶液によって還元処理してもよい。その結果、図16に示すように、改質層内部から、貴金属イオンを還元でき、貴金属微粒子の析出が起こるため、ナノレベルでの基板とのアンカー構造を実現する貴金属微粒子層41が形成される。貴金属微粒子の改質層内部からの析出をより有効に行う観点からは、電磁波、特に紫外線の照射によって還元を行うことが好ましく、そのような還元は貴金属イオンとして特にAgイオンを使用した場合において特に好ましい。
【0091】
例えば、還元処理方法として電磁波を用いる場合、本工程においてポリイミド基板は既にマスクパターン5によりパターニングされているため、第1実施形態における貴金属イオン還元工程と異なる点は、ガラスマスクが不要になることである。直接、電磁波を照射すると、図16に示すように、マスクパターンの開口領域が選択的に還元され、貴金属微粒子層41が形成される。この際、ポリイミド基板と光源との間に電磁波、特に紫外線を透過する材料、例えば石英ガラス(図示せず)を設置し、かつポリイミド基板と石英ガラスとの間隙に水を滴下した状態で照射を行うと、貴金属微粒子の形成が促進され望ましい。
【0092】
また例えば、還元処理方法として穏やかな還元作用を有する還元剤溶液を用いる場合、ポリイミド基板を当該還元剤溶液に浸漬して還元処理を行い、改質層の内部から、貴金属微粒子を析出させ、図16に示すように、マスクパターンの開口領域に選択的に貴金属微粒子層41が形成される。
【0093】
本工程においてそのような穏やかな還元作用を有する還元剤溶液は、改質層内部からの貴金属微粒子の析出を達成できる限り特に制限されず、例えば、次亜リン酸ナトリウム水溶液、ジメチルアミンボラン水溶液、ギ酸水溶液などが使用される。貴金属イオンは標準電極電位が比較的大きく、しかも本工程で形成される貴金属微粒子は後の卑金属イオン還元工程で触媒核として作用するので、そのような穏やかな還元剤を用いた場合においても、容易かつ十分に還元析出させることができる。還元剤水溶液に図15に示したポリイミド基板を浸漬した場合、還元種の分解による電子の放出とともに、貴金属イオン吸着改質層105表面から内部への還元種の移動が起こる。穏やかな還元作用を有する還元剤を用いた場合には、改質層105内部への還元種の移動が進みながら電子を放出して、貴金属イオンを還元し、貴金属を析出していくため、改質層105表面だけでなく、内部からも貴金属微粒子の析出が起こる。還元剤の還元作用が激しすぎると、還元種の改質層105内部への移動の前に、電子が過剰に放出されて貴金属イオンが還元されるため、内部では貴金属微粒子の析出は起こらない。
【0094】
本実施形態における貴金属イオンと本工程の還元剤溶液との好ましい組み合わせを以下に示す。
例えば、貴金属イオンとしてCuイオンを用いる場合、還元剤溶液として次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ギ酸などの水溶液を用いることが望ましい。
また例えば、貴金属イオンとしてAgイオンを用いる場合、還元剤溶液として次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ギ酸などの水溶液を用いることが望ましい。
また例えば、貴金属イオンとしてPdイオンを用いる場合、還元剤溶液として次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボランなどの水溶液を用いることが望ましい。
また例えば、貴金属イオンとしてPtイオンを用いる場合、還元剤溶液としてジメチルアミンボラン、ヒドラジンなどの水溶液を用いることが望ましい。
また例えば、貴金属イオンとしてAuイオンを用いる場合、還元剤溶液として次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ホルムアルデヒドなどの水溶液を用いることが望ましい。
【0095】
本工程において還元剤溶液による処理条件は通常は、次亜リン酸ナトリウム水溶液の場合、還元剤溶液の濃度は0.01〜0.5M、温度は30〜60℃、浸漬時間は5〜40分である。
【0096】
・卑金属イオン吸着工程
第1実施形態における卑金属イオン吸着工程と同様の方法により、ポリイミド基板を卑金属イオン含有溶液で処理して、該溶液に含有される卑金属イオンを、改質層の露出領域(マスクパターンの開口領域)に吸着させる(図13の工程(5))。その結果、図17に示すように、マスクパターン5の開口部から露出している領域の改質層に卑金属イオン吸着改質層107を設ける。図17において、卑金属イオンは貴金属微粒子を含むポリアミック酸層(貴金属微粒子層41)にも吸着される。好ましい卑金属イオンは、第1実施形態においてと同様である。
【0097】
本工程を実施されるポリイミド基板におけるマスクパターン開口領域は、還元析出し損ねた貴金属イオン、ポリアミック酸などが混在した状態であるが、大量の卑金属イオンを含有した水溶液に浸漬することにより、卑金属イオン吸着改質層107を得る。
【0098】
・卑金属イオン還元工程
吸着した卑金属イオンを還元させる(図13の工程(6))。詳しくは、第1実施形態における卑金属イオン還元工程と同様の方法により穏やかな還元作用を有する還元剤溶液を用いて穏やかな還元を行ってもよいし、または水素化ホウ素ナトリウムのような激しい還元作用を有する還元剤を用いて還元を行ってもよい。その結果、図18に示すように、マスクパターンの開口領域に貴金属卑金属混合薄膜42を得る。卑金属イオンの還元を改質層内部から起こさせ、混合薄膜42の密着性をより一層有効に向上させる観点からは、穏やかな還元作用を有する還元剤溶液を用いて穏やかな還元を行うことが好ましい。
【0099】
本実施形態における卑金属イオンと本工程の還元剤溶液との好ましい組み合わせは、第1実施形態における卑金属イオン還元工程の説明で記載した卑金属イオンと還元剤溶液との好ましい組み合わせと同様である。
【0100】
本実施形態では貴金属イオン洗浄工程を実施しなくて良いため、マスクパターン開口領域には貴金属イオン還元工程で還元し切れなかった貴金属イオンが存在している可能性がある。そのような貴金属イオンも本工程により同時に還元析出するために、本実施形態はより厚い混合薄膜42を得るという観点から望ましい。
【0101】
以上の卑金属イオン吸着工程および卑金属イオン還元工程を1回ずつ行うだけで、通常は第1実施形態で形成される混合薄膜の厚みより大きな厚み、例えば、150〜750nm程度の厚みの混合薄膜が形成可能である。卑金属イオン吸着工程および卑金属イオン還元工程を複数回、繰り返すことによって、混合薄膜42を厚くできる。
【0102】
・マスクパターン除去工程
ポリイミド基板から、マスクパターン5を除去して、図19に示すように改質層104を露出させる(図13の工程(7))。具体的には、例えば、剥離液に浸漬し、マスクパターンを剥離または溶解すればよい。例えば、マスクパターンとして上記の旭化成製フィルムレジストを用いた場合には、2〜3%程度の水酸化ナトリウムか水酸化カリウムの水溶液、もしくは、有機アミン系の剥離液を用いてマスクパターンを除去できる。また例えば、いわゆるノボラック系樹脂を主成分とする液状レジストの場合には、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートやアルキルベンゼンスルホン酸などの有機溶剤を含む剥離液を用いることができる。
【0103】
第2実施形態においてマスクパターン除去工程を実施した後は通常、イオン洗浄工程および再イミド化工程を実施する。
【0104】
・イオン洗浄工程
第1実施形態における貴金属イオン洗浄工程と同様の方法により、ポリイミド基板を洗浄して、ポリイミド基板に残る卑金属イオンや貴金属イオンが吸着した改質層を、ポリアミック酸層に戻す(図13の工程(8))。
【0105】
・再イミド化工程
最終的に再イミド化工程(図13の工程(9))を実施して、ポリアミック酸層のイミド化を行う。その結果、図12に示すような状態にする。その方法は、第1実施形態における再イミド化工程と同様である。
【0106】
第2実施形態においてマスクパターン形成工程を実施しないことによって、ポリイミド基板の全面に混合薄膜を形成できる。このとき、マスクパターン除去工程を省略できる。
【0107】
(第3の実施形態)
図20から図26を参照して、本発明の第3の実施形態のポリイミド配線板の製造方法を説明する。第1実施形態または第2実施形態と重複する説明は省略する。図20は、本発明の第3の実施形態のポリイミド配線板の製造方法の製造フロー図である。図21から図26は、本発明の第3の実施形態のポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【0108】
・改質工程
第1実施形態における改質工程と同様の方法により、ポリイミド基板をアルカリ溶液で処理してイミド環が開環されたポリイミド改質層を形成する(図20の工程(1))。その結果、図21に示すようにポリイミド基板両面に改質層104が形成される。
【0109】
・卑金属イオン吸着工程
第1実施形態における卑金属イオン吸着工程と同様の方法により、ポリイミド基板を卑金属イオン含有溶液で処理して、該溶液に含有される卑金属イオンを、改質層に吸着させる(図20の工程(2))。その結果、図22に示すように、ポリイミド基板両面全面に卑金属イオン吸着改質層107が形成される。好ましい卑金属イオンは、第1実施形態においてと同様である。
【0110】
・マスクパターン形成工程
第2実施形態におけるマスクパターン形成工程と同様の方法により、マスクパターンを形成し、配線領域の卑金属イオン吸着改質層を選択的に露出させる(図20の工程(3))。その結果、図23に示すように、配線パターン領域を含む領域に開口を設けたマスクパターン5が形成される。
【0111】
本工程を貴金属イオン吸着工程の前に実施することで配線不要領域への貴金属イオンの吸着が起こらないため、絶縁信頼性に優れた配線板を得ることができる。また、配線不要領域における貴金属イオンの洗浄工程を省くことができる。
【0112】
・貴金属イオン吸着工程
第1実施形態における貴金属イオン吸着工程と同様の方法により、ポリイミド基板を貴金属イオン含有溶液で処理して、該溶液に含有される貴金属イオンを、改質層の露出領域(マスクパターンの開口領域)に吸着させる(図20の工程(4))。このとき、改質層には予め卑金属イオンが吸着しているので、本工程の操作により、卑金属イオンの一部が貴金属イオンと入れ替わり、図24に示すように、貴金属イオンと卑金属イオンとが混合して吸着した改質層108が得られる。本実施形態において貴金属イオンとしては、改質層内部における析出をより有効に達成することや、材料の入手コストの観点より、Agイオン、もしくはCuイオンが好ましい。貴金属イオンの選択的還元の観点からは、Agイオンがより好ましい。
【0113】
・貴金属イオン還元工程
吸着した貴金属イオンを穏やかに還元させる(図20の工程(5))。詳しくは、第1実施形態における貴金属イオン還元工程と同様の方法によりポリイミド基板を電磁波によって還元処理する。このとき、同時に改質層に存在している卑金属イオンは還元のためのエネルギーが足りないため依然としてイオンとして存在している。その結果、図25に示すように、改質層内部から、貴金属イオンを還元でき、貴金属微粒子の析出が起こるため、ナノレベルでの基板とのアンカー構造を実現する貴金属微粒子層41が形成される。本工程においてポリイミド基板は既にマスクパターン5によりパターニングされているため、第1実施形態における貴金属イオン還元工程と異なる点は、ガラスマスクが不要になることである。直接、電磁波を照射するだけで、図25に示すように、マスクパターンの開口領域が選択的に還元され、貴金属微粒子層41が形成される。
【0114】
本工程で使用されるポリイミド基板のように改質層に貴金属イオンおよび卑金属イオンが存在する場合は、電磁波、特に紫外線によって貴金属イオンを穏やかに還元させる。還元剤によって還元処理すると、当該還元剤がたとえ穏やかな還元作用を有するものであっても、卑金属イオンの還元も起こり、改質層内部へ還元種が有効に移動できないため、貴金属微粒子を改質層内部から析出させることができない。
【0115】
・卑金属イオン還元工程
第2実施形態における卑金属イオン還元工程と同様の方法により、吸着卑金属イオンを還元させる(図20の工程(6))。その結果、図26に示すように、マスクパターンの開口領域に貴金属卑金属混合薄膜42を得る。卑金属イオンの還元を改質層内部から起こさせ、混合薄膜42の密着性をより一層有効に向上させる観点からは、第2実施形態における卑金属イオン還元工程と同様の方法により穏やかな還元作用を有する還元剤溶液を用いて穏やかな還元を行うことが好ましい。
【0116】
本実施形態における卑金属イオンと本工程の還元剤溶液との好ましい組み合わせは、第2実施形態における卑金属イオン還元工程の説明で記載した卑金属イオンと還元剤溶液との好ましい組み合わせと同様である。
【0117】
本実施形態では貴金属イオン洗浄工程を実施しなくて良いため、マスクパターン開口領域には貴金属イオン還元工程で還元し切れなかった貴金属イオンが残留している可能性がある。本工程では、そのような貴金属イオンも卑金属イオンとともに還元させることができる。しかも本実施形態においてマスクパターン形成工程は卑金属イオン吸着工程後に実施するので、マスクパターン直下の領域(マスクパターン形成領域)にも卑金属イオンが吸着されている。そのため、本工程において卑金属イオンの還元を行うと、マスクパターン直下領域の卑金属イオンが開口領域に順次移動し、還元され、金属化する。よって、より一層厚い混合薄膜が得られるという利点を有する。
【0118】
以上の工程を1回ずつ行うだけで、通常は第2実施形態で形成される混合薄膜の厚みよりさらに大きな厚み、例えば、160〜800nm程度の厚みの混合薄膜が形成可能である。さらにここで再び、卑金属イオン吸着工程と、卑金属イオン還元工程とを繰り返し、これを複数回繰り返すことによって、混合薄膜42を厚くできる。
【0119】
・マスクパターン除去工程
第2実施形態におけるマスクパターン除去工程と同様の方法により、ポリイミド基板から、マスクパターン5を除去して、改質層107を露出させる(図20の工程(7))。
【0120】
第3実施形態においてマスクパターン除去工程を実施した後は通常、イオン洗浄工程および再イミド化工程を実施する。
【0121】
・イオン洗浄工程
第1実施形態における貴金属イオン洗浄工程と同様の方法により、ポリイミド基板を洗浄して、ポリイミド基板に残る卑金属イオンや貴金属イオンが吸着した改質層を、ポリアミック酸層に戻す(図20の工程(8))。
【0122】
・再イミド化工程
最終的に再イミド化工程(図20の工程(9))を実施して、ポリアミック酸層のイミド化を行う。その結果、図12に示すような状態にする。その方法は、第1実施形態における再イミド化工程と同様である。
【0123】
第3実施形態においてマスクパターン形成工程を実施しないことによって、ポリイミド基板の全面に混合薄膜を形成できる。このとき、マスクパターン除去工程を省略できる。
【0124】
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、卑金属イオン吸着工程、マスクパターン形成工程および貴金属イオン吸着工程を、マスクパターン形成工程、貴金属イオン吸着工程および卑金属イオン吸着工程の順序で実施すること以外、第3の実施形態と同様の方法により、実施すればよい。本実施形態におけるマスクパターン形成工程、貴金属イオン吸着工程および卑金属イオン吸着工程について以下、簡単に説明するが、他の工程は第3実施形態においてと同様であるため説明を省略する。
【0125】
・マスクパターン形成工程
第3実施形態におけるマスクパターン形成工程と同様の方法により、マスクパターンを形成し、配線領域の貴金属イオン吸着改質層を選択的に露出させる。その結果、配線パターン領域を含む領域に開口を設けたマスクパターンが形成される。
【0126】
・貴金属イオン吸着工程
第3実施形態における貴金属イオン吸着工程と同様の方法により、ポリイミド基板を貴金属イオン含有溶液で処理して、該溶液に含有される貴金属イオンを、改質層に吸着させる。その結果、ポリイミド基板のマスクパターン開口領域に貴金属イオン吸着改質層が形成される。好ましい貴金属イオンは、第3実施形態においてと同様である。
【0127】
・卑金属イオン吸着工程
第3実施形態における卑金属イオン吸着工程と同様の方法により、ポリイミド基板を卑金属イオン含有溶液で処理して、該溶液に含有される卑金属イオンを、改質層の露出領域(マスクパターンの開口領域)に吸着させる。このとき、改質層には予め貴金属イオンが吸着しているので、本工程の操作により、貴金属イオンの一部が卑金属イオンと入れ替わり、貴金属イオンと卑金属イオンとが混合して吸着した改質層が得られる。好ましい卑金属イオンは、第3実施形態においてと同様である。
【0128】
(第1実施形態〜第4実施形態共通)
以上の各実施形態で形成され得る貴金属卑金属混合薄膜42は厚さが数千〜数万Å程度のものなので、通常は、当該混合薄膜を給電層にした公知の電解めっき法、もしくは、それを触媒核にした公知の無電解めっき法を実施することで混合薄膜上にめっき層を形成して、十分な厚みの配線パターンを形成する。
【0129】
例えば、混合薄膜42の形状が配線パターンと同形状の場合には、それを触媒核にした無電解めっきを実施することが簡便であるので望ましい。この場合には、各々分離した混合薄膜42の各所に電源を接続した上で、電解めっきを施しても良い。
【0130】
また例えば、貴金属イオン還元の際、選択的還元を行わず、その結果、ポリイミド基板の全面を混合薄膜42が覆っている場合には、電解めっき用の電極は基板上の最低1箇所で構わないため、めっき浴の管理が比較的容易な電解めっきを行うことが望ましい。この場合の配線パターン形成の具体的な方法は公知の配線パターンの製造方法を採用できる。
【0131】
配線パターンの製造方法の一例として、例えば、以下の工程を含む方法が挙げられる;
前記ポリイミド基板の混合薄膜上にめっき用レジストを形成し、前記混合薄膜の配線パターン領域を選択的に露出させるめっき用レジスト形成工程;
前記混合薄膜を給電層として用いて電解めっきを行い、前記混合薄膜の露出部に導体層(めっき層)を析出させる電解めっき工程;
前記めっき用レジストを除去して混合薄膜を露出させるめっき用レジスト除去工程;および
前記導体層をマスクとして用い、前記めっき用レジスト除去工程で露出した混合薄膜をエッチング除去するエッチング工程。
【0132】
また例えば、混合薄膜42の形状が配線パターンよりも大きく、全ての配線パターン部を含む形状であるが、ポリイミド全面には至っていない場合は、どちらでも構わないが、電解めっきを用いる手法の方がめっき浴の管理が比較的容易なため、望ましい。この場合の配線パターン形成の具体的な方法としては上記した配線パターンの製造方法を採用できる。
【0133】
この結果、金属配線とポリイミド基板との密着性に優れ、各種の信頼性にも優れたフレキシブル配線板を、低コストで得ることができる。
【0134】
混合薄膜上にめっき層を形成して配線パターンを形成した後は、通常、配線パターンが形成されたポリイミド基板に対して、公知の方法に基づいて、カバーレイを形成するカバーレイ形成工程、配線パターンの端子部分にAuめっきなどの表面処理を行う端子部表面処理工程、および得られた大面積のシート状基板を所定寸法に分割する基板分割工程などを所望により実施して、ポリイミド配線板を完成させる。
【実施例】
【0135】
本発明によるポリイミド配線板の製造方法について、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0136】
<実施例1>
上記第1の実施形態に対応する実施例として、以下に説明する工程により、ポリイミド配線板を形成した。
被めっき物として、100μm厚のポリイミド基板1を用いた。ポリイミド基板としては、カネカ製のアピカルNPIを使用した(図2)。
【0137】
(改質工程)
まず、ポリイミド基板1を50℃のKOH水溶液に5分間浸漬し、2分間の水洗を行った。この際、KOH水溶液は、5M(5mol/l)の濃度に設定した。この工程により、ポリイミド基板1の両面についてポリイミド分子中のイミド環の加水分解が行われ、ポリイミド表面の改質層104には、カルボキシル基にカリウムイオンが配位したカルボン酸カリウム塩が形成された(図3)。
【0138】
(貴金属イオン吸着工程)
次に30℃のAgNO3水溶液にポリイミド基板を5分間浸漬し、5分間の水洗を行った。この際、AgNO3水溶液は0.05Mの濃度に設定した。この工程により、改質層104のカルボン酸カリウム塩のKイオンをAgイオンに置換する反応が進行し、カルボン酸銀塩が形成された(図4)。
以上の工程により、ポリイミド基板の両面に表面から5μm程度の深さまで、カルボン酸銀塩形態を有する改質層構造が実現した。
【0139】
(貴金属イオン還元工程)
次に、図5に示すように、ポリイミド基板を紫外線露光装置に設置した。ガラスマスクは、配線パターンと同形状の透過部が設けられているものを使用した。詳しくは、図5のポリイミド基板とガラスマスク91との間隙に水を滴下し、水が充満(図示せず)している状態で、6.4Wの水銀ランプで5分間の照射により、僅かにAg微粒子層41が析出した状態が得られた(図6)。この状態で、ポリイミド基板の断面観察試料を作製し、TEM観察を行った結果、Ag微粒子層は、0.05μm厚程度であった。
この後、ポリイミド基板の裏面にも露光を実施して、図7に示すように、ポリイミド基板の両面に貴金属微粒子層41を形成した。
【0140】
(貴金属イオン洗浄工程)
次に、室温での1vol%硫酸水溶液にポリイミド基板を1分間浸漬した。その結果、図8に示すように、ポリアミック酸層106が形成された。
【0141】
(卑金属イオン吸着工程)
次に、30℃のNiSO水溶液にポリイミド基板を5分間浸漬し、5分間の水洗を行った。この際、NiSO水溶液は0.1Mの濃度に設定した。この工程により、ポリアミック酸層106では、図9に示すように、カルボン酸ニッケル塩が形成され、これを107として示している。
この段階において、ポリイミド基板の両面に表面から5μm程度の深さまで、カルボン酸ニッケル塩形態を有する改質層構造が実現した。
【0142】
(卑金属イオン還元工程)
次に、次亜リン酸ナトリウム水溶液を0.1Mの濃度で調製し、50℃に設定した。20分の浸漬処理により、図10に示すように、Ag微粒子層が形成できている領域に対してNiの析出が見られた。
卑金属イオン吸着工程および卑金属イオン還元工程をさらに1回づつ繰り返して実施し、厚み0.2〜1μm程度のAgとNiとの混合薄膜層42を得た。
【0143】
(卑金属イオン洗浄工程)
次に、室温での1vol%硫酸水溶液に1分間の浸漬を行い、水洗した。この結果、図11に示すように、ポリイミド改質層は、再びポリアミック酸層106となった。
(再イミド化工程)
次に、窒素雰囲気の対流式オーブンの中にポリイミド基板を置き、加熱処理を行った。この際、穏やかに再イミド化が進むよう、140℃(30分)、200℃(30分)、350℃(60分)の各ステップを経て加熱処理を行い、図12に示すように、ポリアミック酸をイミド化した。
ここまでの工程により、ポリイミド基板上に貴金属であるAgと卑金属であるNiとが混在した混合薄膜層42を得ることができた。
【0144】
(無電解めっき工程)
引き続き、無電解Cuめっきを実施することで、混合薄膜層42の上に厚さ5μm程度のCu膜を形成して配線パターン(配線部)とした。無電解Cuめっき液は、硫酸銅、ホルムアルデヒド、エチレンジアミン四酢酸ナトリウムとpH調整剤を含み、液温70℃で2時間のめっきを行った。このめっき浴は強アルカリ性であるが、ポリイミド基板には既に改質層がなくなっているため、問題は生じなかった。
【0145】
<実施例2>
上記第2の実施形態に対応する実施例として、以下に説明する工程により、ポリイミド配線板を形成した。
被めっき物として、100μm厚のポリイミド基板1を用いた。ポリイミド基板としては、カネカ製のアピカルNPIを使用した(図2)。
【0146】
(改質工程)
まず、ポリイミド基板1を50℃のKOH水溶液に5分間浸漬し、2分間の水洗を行った。この際、KOH水溶液は、5M(5mol/l)の濃度に設定した。この工程により、ポリイミド基板の両面についてポリイミド分子中のイミド環の加水分解が行われ、ポリイミド表面の改質層104には、カルボキシル基にカリウムイオンが配位したカルボン酸カリウム塩が形成された(図3)。
【0147】
(マスクパターン形成工程)
次に、レジストフィルムの貼付けを行い、フォトリソグラフィにより開口部を設ける工程を実施した(図14)。この材料としては旭化成製SUNFORT(R) ASG−253を用いた。詳しくは、市販のフィルムラミネータを用いて、110℃で加熱しながら、0.4MPa程度の圧力でポリイミド基板上に貼り付けを行った。露光工程においては、4.5kW水銀ショートアークランプHMW−801(オーク製作所製)を用いて、80mJ/cmの露光を実施した。現像工程においては、1%のNaCO水溶液を用い、28℃にて30秒程度のスプレー照射を実施した後、水洗を行った。
【0148】
(貴金属イオン吸着工程)
引き続き、30℃のAgNO3水溶液にポリイミド基板を5分間浸漬し、5分間の水洗を行った。この際、AgNO3水溶液は0.05Mの濃度に設定した。この工程により、改質層104のマスクパターン開口部に対応する領域のカルボン酸カリウム塩のKイオンをAgイオンに置換する反応が進行し、その領域だけ選択的にカルボン酸銀塩105が形成された(図15)。
【0149】
(貴金属イオン還元工程)
次に、Ag微粒子層41を析出させるため、ポリイミド基板を紫外線露光装置に設置し、露光した。詳しくは、ポリイミド基板と光源との間に石英ガラス(図示せず)を設置し、かつ石英ガラスとポリイミド基板との間隙に水を滴下した状態で露光を行った。この際、6.4Wの水銀ランプで5分間の照射を両面に順次行って、僅かにAg微粒子層が析出した状態が得られた(図16)。この状態で、ポリイミド基板の断面観察試料を作製し、TEM観察を行った結果、Ag微粒子層は0.05μm厚程度であった。
【0150】
(卑金属イオン吸着工程)
次に、30℃のNiSO水溶液にポリイミド基板を5分間浸漬し、5分間の水洗を行った。この際、NiSO水溶液は0.1Mの濃度に設定した。貴金属イオンの還元が終わった段階で、改質層のマスクパターン開口部には、還元しそこなったAgイオン、及びポリアミック酸が存在している。この卑金属イオン吸着工程を行うことで、イオン交換反応が起き、図17に示すように、この部分にはカルボン酸ニッケル塩107も形成された。
【0151】
(卑金属イオン還元工程)
次に、次亜リン酸ナトリウム水溶液を0.1Mの濃度で調製し、50℃に設定した。20分の浸漬処理により、マスクパターン開口部のAg微粒子層形成領域に対してNiの析出が見られた。卑金属イオン吸着工程および卑金属イオン還元工程をさらに1回繰り返して、図18に示すように、厚み0.2〜1μm程度のAgとNiの混合薄膜層42を得た。
【0152】
(マスクパターン除去工程)
次に、ポリイミド基板を、3%程度の水酸化ナトリウムに浸漬し、図19に示すようにマスクパターン5を剥離・溶解した。
【0153】
(イオン洗浄工程)
次に、実施例1の卑金属イオン洗浄工程と同様の方法により、ポリイミド基板に残る卑金属イオンや貴金属イオンが吸着した改質層を、ポリアミック酸層に戻した。
(再イミド化工程)
次に、実施例1の再イミド化工程と同様の方法により、ポリアミック酸をイミド化した。
【0154】
(無電解めっき工程)
次に、実施例1の無電解めっき工程と同様の方法により、混合薄膜層42の上に厚さ5μm程度のCu膜を形成して配線パターン(配線部)を得た。
【0155】
実施例2では、実施例1に比較してポリイミド基板の改質層の上へのマスクパターン形成工程が追加されている。この結果、配線パターンがない領域への金属イオンの吸着を皆無にできるため、絶縁信頼性の確保に対して効果が高い。
さらに実施例2では、貴金属イオン還元工程後に残留した貴金属イオンの洗浄工程を排除できる。後に行う卑金属イオン還元工程の際には、卑金属イオンとともに、それらの残留貴金属イオンも還元析出されるので、より厚い混合薄膜が得られるという利点がある。
【0156】
<実施例3>
上記第3の実施形態に対応する実施例として、以下に説明する工程により、ポリイミド配線板を形成した。
被めっき物として、100μm厚のポリイミド基板1を用いた。ポリイミド基板としては、カネカ製のアピカルNPIを使用した(図2)。
【0157】
(改質工程)
まず、ポリイミド基板1を50℃のKOH水溶液に5分間浸漬し、2分間の水洗を行った。この際、KOH水溶液は、5M(5mol/l)の濃度に設定した。この工程により、ポリイミド基板の両面についてポリイミド分子中のイミド環の加水分解が行われ、ポリイミド表面の改質層104には、カルボキシル基にカリウムイオンが配位したカルボン酸カリウム塩が形成された(図21)。
【0158】
(卑金属イオン吸着工程)
次に、30℃のNiSO水溶液にポリイミド基板を5分間浸漬し、5分間の水洗を行った。この際、NiSO水溶液は0.1Mの濃度に設定した。この段階において、図22に示すように、ポリイミド基板の両面に表面から5μm程度の深さまで、カルボン酸ニッケル塩形態を有する改質層107構造が実現した。
【0159】
(マスクパターン形成工程)
次に、レジストフィルムの貼付けを行い、フォトリソグラフィにより開口部を設ける工程を実施した(図23)。この材料としては旭化成製SUNFORT(R) ASG−253を用いた。詳しくは、市販のフィルムラミネータを用いて、110℃で加熱しながら、0.4MPa程度の圧力でポリイミド基板上に貼り付けを行った。露光工程においては、4.5kW水銀ショートアークランプHMW−801(オーク製作所製)を用いて、80mJ/cmの露光を実施した。現像工程においては、1%のNaCO水溶液を用い、28℃にて30秒程度のスプレー照射を実施した後、水洗を行った。
【0160】
(貴金属イオン吸着工程)
引き続き、30℃のAgNO3水溶液にポリイミド基板を5分間浸漬し、5分間の水洗を行った。この際、AgNO3水溶液は0.05Mの濃度に設定した。この工程により、卑金属イオン吸着改質層107のマスクパターン開口部に対応する領域のカルボン酸ニッケル塩の一部のNiイオンをAgイオンに置換する反応が進行し、その領域だけ選択的にカルボン酸銀塩も形成された。その結果、カルボン酸ニッケル塩とカルボン酸銀塩が混在した層108が形成された(図24)。
【0161】
(貴金属イオン還元工程)
次に、Ag微粒子層41を析出させるため、ポリイミド基板を紫外線露光装置に設置し、露光した。詳しくは、ポリイミド基板と光源との間に石英ガラス(図示せず)を設置し、かつ石英ガラスとポリイミド基板との間隙に水を滴下した状態で露光を行った。この際、6.4Wの水銀ランプで5分間の照射を両面に順次行って、僅かにAg微粒子層が析出した状態が得られた(図25)。この状態で、ポリイミド基板の断面観察試料を作製し、TEM観察を行った結果、Ag微粒子層は、0.05μm厚程度であった。
貴金属イオンの還元工程が終わった段階で、改質層のマスクパターン開口部には、還元しそこなったAgイオン、及びポリアミック酸、Niイオンが存在している。
【0162】
(卑金属イオン還元工程)
次に、次亜リン酸ナトリウム水溶液を0.1Mの濃度で調製し、50℃に設定した。20分の浸漬処理により、マスクパターン開口部のAg微粒子層形成領域に対してNiの析出が見られた。
ここまでの工程で、図26に示すように、厚み0.1〜1μm程度のAgとNiの混合薄膜層42を得た。
【0163】
(マスクパターン除去工程)
次に、実施例2のマスクパターン除去工程と同様の方法により、ポリイミド基板からマスクパターン5を剥離・溶解した。
【0164】
(イオン洗浄工程)
次に、実施例1の卑金属イオン洗浄工程と同様の方法により、ポリイミド基板に残る卑金属イオンや貴金属イオンが吸着した改質層を、ポリアミック酸層に戻した。
(再イミド化工程)
次に、実施例1の再イミド化工程と同様の方法により、ポリアミック酸をイミド化した。
【0165】
(無電解めっき工程)
次に、実施例1の無電解めっき工程と同様の方法により、混合薄膜層42の上に厚さ5μm程度のCu膜を形成して配線パターン(配線部)を得た。
【0166】
実施例3では、実施例2と同様にマスクパターン形成工程が追加されているため、工程が長くなることは不利である。しかし、配線パターンがない領域への貴金属イオンの吸着を皆無にできるため、絶縁信頼性および密着性の確保に対して効果がより一層高い。
さらに実施例3では、貴金属イオン還元工程後に残留した貴金属イオンの洗浄工程を排除できる。後に行う卑金属イオン還元工程の際には、卑金属イオンとともに、それらの残留貴金属イオンも還元析出されるので、より厚い混合薄膜が得られるという利点がある。しかも、実施例3では、ポリイミド基板全面に卑金属イオンが存在し、これらの多くがマスクパターン開口部の混合薄膜の析出に寄与できるので、混合薄膜の厚膜化により一層有利である。
【0167】
<実施例4>
本実施例は上記第4の実施形態に対応する実施例である。
マスクパターン形成工程、貴金属イオン吸着工程および卑金属イオン吸着工程を記載の順序で実施したこと以外、実施例3と同様の方法により、ポリイミド配線板を形成した。本実施例におけるマスクパターン形成工程、貴金属イオン吸着工程および卑金属イオン吸着工程は以下の通りであり、他の工程は実施例3においてと同様であった。
【0168】
(マスクパターン形成工程)
実施例3のマスクパターン形成工程と同様の方法により、マスクパターン形成工程を実施した。
【0169】
(貴金属イオン吸着工程)
30℃のAgNO3水溶液にポリイミド基板を5分間浸漬し、5分間の水洗を行った。この際、AgNO3水溶液は0.05Mの濃度に設定した。この段階において、ポリイミド基板の両面のマスクパターン開口領域に表面から5μm程度の深さまで、カルボン酸銀塩形態を有する改質層構造が実現した。
【0170】
(卑金属イオン吸着工程)
30℃のNiSO水溶液にポリイミド基板を5分間浸漬し、5分間の水洗を行った。この際、NiSO水溶液は0.1Mの濃度に設定した。この工程により、貴金属イオン吸着改質層のマスクパターン開口部に対応する領域のカルボン酸銀塩の一部のAgイオンをNiイオンに置換する反応が進行し、その領域だけ選択的にカルボン酸ニッケル塩も形成された。その結果、カルボン酸ニッケル塩とカルボン酸銀塩が混在した層が形成された。
【0171】
<比較例1>
貴金属イオン吸着工程後に得られたポリイミド基板に対して、貴金属イオン還元工程を実施することなく、卑金属イオン吸着工程以降の工程を順次、実施したこと以外、実施例2と同様の方法により、ポリイミド配線板を得た。
【0172】
<比較例2>
貴金属イオン吸着工程後に得られたポリイミド基板に対して、貴金属イオン還元工程を実施することなく、卑金属イオン還元工程以降の工程を順次、実施したこと以外、実施例3と同様の方法により、ポリイミド配線板を得た。
【0173】
(評価)
実施例/比較例で作製したポリイミド配線板の密着性、経時密着安定性、および配線板の絶縁信頼性について評価した。
【0174】
・密着性
ポリイミド配線板について、JIS C 6471の方法に則り、Cu箔の90°方向引き剥がし試験を実施した。
実施例1〜4で得られたいずれの配線板についても、25℃において1.0kN/m以上、240℃において0.7kN/m以上の数値を示し、良好な結果を得た。
比較例1〜2で得られたいずれの配線板についても、25℃において、0.4kN/m以下、240℃において0.1kN/m以下の数値しか得られなかった。
【0175】
・経時密着安定性
ポリイミド配線板を60℃、95%の高温高湿環境下に1000時間放置し、上記密着性と同様の評価方法により密着性を評価した。
実施例1〜4で得られたいずれの配線板についても、25℃において1.0kN/m以上、240℃において0.7kN/m以上の数値を示し、良好な結果を得た。
比較例1〜2で得られたいずれの配線板についても、25℃において、0.1kN/m以下、240℃において0.01kN/m以下の数値しか得られなかった。
【0176】
・絶縁信頼性
各々独立して形成した配線パターン間にDC25Vの負荷をかけ、60℃、95%の環境に500時間放置した。
実施例1〜4で得られたいずれの配線板についても、100MΩ以上の絶縁抵抗値を示し、良好な結果を得た。
比較例1〜2で得られたいずれの配線板についても、1kΩ以下の絶縁抵抗値しか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明はポリイミド配線板、特にフレキシブル配線板の製造に利用可能であり、上記で述べた両面フレキシブル配線板を複数枚積層した多層フレキシブル配線板や、ガラスエポキシ基板などの硬質基板とも合わせて積層したリジッド−フレキシブル配線板の製造などにも広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程の一部を示すフロー図である。
【図2】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図9】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図10】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図11】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図12】本発明の第1実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態によるポリイミド配線板の製造工程の一部を示すフロー図である。
【図14】本発明の第2実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図15】本発明の第2実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図16】本発明の第2実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図17】本発明の第2実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図18】本発明の第2実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図19】本発明の第2実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図20】本発明の第3実施形態によるポリイミド配線板の製造工程の一部を示すフロー図である。
【図21】本発明の第3実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図22】本発明の第3実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図23】本発明の第3実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図24】本発明の第3実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図25】本発明の第3実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【図26】本発明の第3実施形態によるポリイミド配線板の製造工程を説明するためのポリイミド基板の概略断面図である。
【符号の説明】
【0179】
1:ポリイミド基板、5:マスクパターン、41;貴金属微粒子層、42:貴金属卑金属混合薄膜、61:電磁波、91:ガラスマスク、92:透過部、93:遮光部、104:改質層(アルカリ金属イオンが吸着されている)、105:貴金属イオンが吸着した改質層、106:ポリアミック酸層、107:卑金属イオンが吸着した改質層、108:貴金属イオンと卑金属イオンが吸着した改質層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド基板をアルカリ溶液で処理する改質工程;
ポリイミド基板を貴金属イオン含有溶液で処理する貴金属イオン吸着工程;
吸着した貴金属イオンを、電磁波、または次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボランおよびギ酸からなる群から選択される還元剤によって還元させる貴金属イオン還元工程;
ポリイミド基板を卑金属イオン含有溶液で処理する卑金属イオン吸着工程;および
吸着した卑金属イオンを還元させる卑金属イオン還元工程;
を含んでなり、
貴金属イオン還元工程よりも後に、卑金属イオン還元工程を実施することを特徴とするポリイミド配線板の製造方法。
【請求項2】
改質工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、卑金属イオン吸着工程、および卑金属イオン還元工程を以下に示す(A)〜(C);
(A)改質工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、卑金属イオン吸着工程、および卑金属イオン還元工程;
(B)改質工程、卑金属イオン吸着工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、および卑金属イオン還元工程;
(C)改質工程、貴金属イオン吸着工程、卑金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、および卑金属イオン還元工程;
のいずれかの記載順序で実施し、
貴金属イオン還元工程において、(A)の実施順序を採用するときは電磁波、または次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボランおよびギ酸からなる群から選択される還元剤によって還元処理を行い、(B)または(C)の実施順序を採用するときは電磁波によって還元処理を行うことを特徴とする請求項1に記載のポリイミド配線板の製造方法。
【請求項3】
(A)改質工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、卑金属イオン吸着工程、および卑金属イオン還元工程を記載の順序で実施する請求項2に記載のポリイミド配線板の製造方法であって、
貴金属イオン還元工程において電磁波によって配線領域を選択的に還元処理し、
貴金属イオン還元工程後、卑金属イオン吸着工程前に、
酸性溶液で処理することにより、貴金属イオン還元工程で残留した貴金属イオンを水素イオンに置換する貴金属イオン洗浄工程;
を実施することを特徴とするポリイミド配線板の製造方法。
【請求項4】
(A)改質工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、卑金属イオン吸着工程、および卑金属イオン還元工程を記載の順序で実施する請求項2に記載のポリイミド配線板の製造方法であって、
改質工程後、貴金属イオン吸着工程前に、
マスクパターンを形成し、配線領域を選択的に露出させるマスクパターン形成工程;
を実施し、
卑金属イオン還元工程後に、
マスクパターンを除去するマスクパターン除去工程;
を実施することを特徴とするポリイミド配線板の製造方法。
【請求項5】
(B)改質工程、卑金属イオン吸着工程、貴金属イオン吸着工程、貴金属イオン還元工程、および卑金属イオン還元工程を記載の順序で実施する請求項2に記載のポリイミド配線板の製造方法であって、
卑金属イオン吸着工程後、貴金属イオン吸着工程前に、
マスクパターンを形成し、配線領域を選択的に露出させるマスクパターン形成工程;
を実施し、
卑金属イオン還元工程後に、
マスクパターンを除去するマスクパターン除去工程;
を実施することを特徴とするポリイミド配線板の製造方法。
【請求項6】
貴金属イオンがAgイオンであり、貴金属イオン還元工程において紫外線照射によって還元処理を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド配線板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2008−91375(P2008−91375A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267172(P2006−267172)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】