説明

ポリウレタン・ゴム複合体、該ポリウレタン・ゴム複合体の製造方法、及び該ポリウレタン・ゴム複合体を使用した非空気圧タイヤ

【課題】接着剤を介することなく優れた接着強度を示すポリウレタン・ゴム複合体、該ポリウレタン・ゴム複合体の製造方法、及び該ポリウレタン・ゴム複合体を使用した非空気圧タイヤを提供すること。
【解決手段】主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーと、有機スルフィドと、ジメチルチオトルエンジアミンとを含有するポリウレタン組成物を硬化してなるポリウレタン領域と、二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなるゴム領域とを加硫接着することにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン領域とゴム領域とを加硫接着することにより形成されたポリウレタン・ゴム複合体、該ポリウレタン・ゴム複合体の製造方法、及び該ポリウレタン・ゴム複合体を使用した非空気圧タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリウレタンが機械的強度、耐摩耗性及び成型容易性等に優れること、さらに、かかる特性を備えたポリウレタンと、一般的な弾性材料であるゴムとを一体的に接合することで、新たな特性が発現することは良く知られている。このようなポリウレタンと、ゴムとを一体的に接合したポリウレタン・ゴム複合体は、各種の分野において広く使用されており、例えば、コンベアベルト、ウレタンホースとゴムとのジョイント部分等の工業部品、自動車部品等に使用されている。
【0003】
ポリウレタン・ゴム複合体を製造する方法として、従来から以下の方法が用いられている。
1)先ず所望の形状を有するポリウレタンを形成し、次いで、該ポリウレタンの表面に適当な接着剤を塗布した後、かかる塗布面に所望の形状を有する未加硫のゴム組成物を成形し、これらを加硫と同時に接着する方法、あるいは
2)先ず所望の形状を有する未加硫ゴム組成物を加硫し、次いで、ゴムの表面に適当な接着剤を塗布した後、かかる塗布面に所望の形状を有するポリウレタンを接着する方法。
【0004】
しかし、上記のように接着剤を介してポリウレタンとゴムとを接着する方法では、接着剤の塗布工程において均一に塗布するために、接着剤の調整管理に細心の注意を払う必要があり、また有機溶剤タイプの接着剤を使用する場合は、作業環境上の問題もある。このため、接着剤を使用することなく、ポリウレタン・ゴム複合体を製造する方法が広く求められている。
【0005】
ここで、下記特許文献1には、樹脂とゴムとの複合体として、無水マレイン酸変性ゴムを含有するポリアミド組成物からなるポリアミド層上に、ゴム層を直接、加硫接着することにより形成されたポリアミド・ゴム複合体が記載されている。しかし、下記特許文献1に記載の方法により、かかるポリアミド・ゴム複合体を製造するためには、160℃程度の高温にて加硫接着する必要があり、ポリアミドに比べて耐熱性に劣るポリウレタン・ゴム複合体には応用できない。
【特許文献1】特開2001−162722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、接着剤を介することなく優れた接着強度を示すポリウレタン・ゴム複合体、該ポリウレタン・ゴム複合体の製造方法、及び該ポリウレタン・ゴム複合体を使用した非空気圧タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示すポリウレタン・ゴム複合体により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明に係るポリウレタン・ゴム複合体は、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーと、有機スルフィドと、ジメチルチオトルエンジアミンとを含有するポリウレタン組成物を硬化してなるポリウレタン領域と、二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなるゴム領域とを加硫接着することにより形成されたものであることを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、加硫促進効果と、熱解離によって活性硫黄を放出することにより、加硫剤として作用する効果とを併せ持つ有機スルフィドが、ジメチルチオトルエンジアミンと共存することによってポリウレタン組成物中にて良好に分散する。このため、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーとジメチルチオトルエンジアミンとが反応することにより硬化してなるポリウレタン領域中においても、有機スルフィドが極めて良好に分散する。これにより、かかるポリウレタン領域と、二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなるゴム領域とを加硫接着する際に、有機スルフィドが加硫剤及び加硫促進剤として効果的に作用する。その結果、本発明に係るポリウレタン・ゴム複合体は、ポリウレタン領域とゴム領域との界面において優れた接着強度を示す。
【0010】
別の本発明に係るポリウレタン・ゴム複合体の製造方法は、有機スルフィドとジメチルチオトルエンジアミンとを混合した第1成分と、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーを含む第2成分とを混合したポリウレタン組成物を硬化してポリウレタン領域を形成する第1工程と、前記ポリウレタン領域と二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなるゴム領域とを加硫接着する第2工程を含むことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、有機スルフィドと、ジメチルチオトルエンジアミンとを予め混合することにより、ジメチルチオトルエンジアミン中に有機スルフィドが均一に分散する。このため、有機スルフィドがジメチルチオトルエンジアミン中で均一に分散した第1成分と、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーを含む第2成分とを混合したポリウレタン組成物を硬化してなるポリウレタン領域中においても、有機スルフィドが極めて良好に分散する。これにより、かかるポリウレタン領域と、二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなるゴム領域とを加硫接着する際に、有機スルフィドが加硫剤及び加硫促進剤として効果的に作用する。その結果、本発明に係るポリウレタン・ゴム複合体の製造方法によれば、ポリウレタン領域とゴム領域との界面において優れた接着強度を示すポリウレタン・ゴム複合体を製造することができる。
【0012】
上記の製造方法においては、第2工程において、150℃以下の加硫温度にて加硫接着することが好ましく、140℃以下の加硫温度にて加硫接着することがより好ましい。加硫温度をかかる範囲内とすることにより、ポリウレタン・ゴム複合体の接着強度を高めつつ、ポリウレタンの熱劣化を好適に抑制することができる。
【0013】
また、別の本発明に係る非空気圧タイヤは、上記記載のポリウレタン・ゴム複合体を使用したものであることを特徴とする。上述したとおり、本発明に係るポリウレタン・ゴム複合体は、接着剤を介することなく、ポリウレタン領域とゴム領域との界面において優れた接着強度を示すため、例えばポリウレタン領域からなる支持構造体と、ゴム領域からなるトレッドゴムとを加硫接着することにより、支持構造体とトレッドゴムとが強固に接着した非空気圧タイヤを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係るポリウレタン・ゴム複合体は、ポリウレタン領域とゴム領域とが加硫接着することにより形成されたものであることを特徴とする。かかるポリウレタン領域は、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーと、有機スルフィドと、ジメチルチオトルエンジアミンとを含有するポリウレタン組成物を硬化してなる。
【0015】
主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーは、主鎖に少なくとも1つの二重結合を有し、かつ分子末端にイソシアネート基と反応し得る活性水素基を分子内に2つ以上有するポリオールと、イソシアネート基を分子内に2つ以上有するイソシアネート化合物とを反応させることにより合成することができる。
【0016】
主鎖に二重結合を有し、かつ分子末端にイソシアネート基と反応し得る活性水素基を有するポリオールとしては、例えば分子末端に2つ以上の水酸基を有する液状ポリブタジエンや液状ポリイソプレンが挙げられる。かかる液状ポリブタジエンや液状ポリイソプレンとしては、所望の分子量等となるように当業者に公知の方法により合成してもよく、あるいは市販品を使用してもよい。分子末端に水酸基を有する液状ポリブタジエンの市販品としては、例えば、「R−45HT」(出光石油化学社製)が挙げられ、液状ポリイソプレンの市販品としては、例えば、「Poly ip」(出光石油化学社製)が挙げられる。
【0017】
イソシアネート基を分子内に2つ以上有するイソシアネート化合物としては、特にイソシアネート基を分子内に2つ有するジイソシアネートが好ましい。かかるジイソシアネートとしては、ポリウレタンの分野において公知の化合物を特に限定なく使用できる。例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート等が挙げられる。
【0018】
イソシアネート末端プレポリマーの原料としては、上述したポリオールと、イソシアネート化合物とに加えて、本発明の効果を損なわない範囲で低分子量ポリオール、低分子量ポリアミン、あるいは低分子量アルコールアミン等を含有してもよい。
【0019】
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、及びトリエタノールアミン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
低分子量ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、及びジエチレントリアミン等が挙げられる。また、低分子量アルコールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、及びモノプロパノールアミン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
上記のポリオールと、イソシアネート化合物とを、あるいは必要に応じて、低分子量ポリオール、低分子量ポリアミン、あるいは低分子量アルコールアミン等を加えて反応させることにより、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーを合成することができる。このようなイソシアネート末端プレポリマーとして市販品も好適に使用可能であり、例えば、液状ポリブタジエン系ポリオールとトルエンジイソシアネートとを反応させることにより合成された「Poly bd HTP−9」(出光石油化学社製)、液状ポリブタジエン系ポリオールとジフェニルメタンジイソシアネートとを反応させることにより合成された「Poly bd MC−50」(出光石油化学社製)が挙げられる。
【0022】
有機スルフィドとしては、例えば、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、及び下記式、
(C−CHN−(C=S)−S−S−(CH−S−S−(C=S)−N(CH−C
によって表される加硫剤(「Vulcren KA9188」(ランクセス社製))が挙げられる。これらの中でも、ポリウレタン組成物中、及びポリウレタン領域中での分散性と、加硫効果及び加硫促進効果とを考慮した場合、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、及び「Vulcren KA9188」が好ましい。さらに、ポリウレタン組成物中、及びポリウレタン領域中での分散性を考慮した場合、「Vulcren KA9188」が特に好ましい。
【0023】
本発明において、ジメチルチオトルエンジアミンは、イソシアネート末端プレポリマーに対して硬化剤として作用する。かかるジメチルチオトルエンジアミンとしては、市販品を好適に使用することができ、例えば、「ETHACURE 300」(アルベマール・コーポレーション社製)が挙げられる。
【0024】
上述したイソシアネート末端プレポリマーと、有機スルフィドと、ジメチルチオトルエンジアミンとを含有するポリウレタン組成物を硬化する際の(イソシアネート基)/(活性水素基)当量比は、0.95〜1.15であることが好ましい。また、硬化する際の硬化温度は、70℃〜100℃であることが好ましい。
【0025】
一方、ゴム領域は、二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなる。ゴム領域は、所望の形状に成形した未加硫ゴム組成物からなるものであってもよく、あるいはゴム組成物を所望の形状に成形して加硫した加硫ゴム組成物であってもよい。
【0026】
二重結合を有するゴム成分としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン・α−オレフィン・ジエン共重合体ゴム(以下、「EPDMゴム」という)等が挙げられる。
【0027】
なお、ゴム組成物中には、上記ゴム成分以外に、硫黄、カーボンブラック、加硫促進剤、老化防止剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックスやオイル等の軟化剤、加工助剤等の通常ゴム工業で使用される配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合し用いることができる。
【0028】
硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0029】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPF等が用いられる。カーボンブラックは、加硫後のゴムの硬度、補強性、低発熱性等のゴム特性を調整し得る範囲で使用することができる。
【0030】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤等の加硫促進剤を単独、又は適宜混合して使用しても良い。
【0031】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤等の老化防止剤を単独、又は適宜混合して使用しても良い。
【0032】
上記ゴム組成物は、ゴム成分、硫黄、カーボンブラック、加硫促進剤、老化防止剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックスやオイル等の軟化剤、加工助剤等を、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等の通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0033】
また、上記ゴム組成物における各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄及び加硫促進剤等の加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法等のいずれでもよい。
【0034】
以下において、ポリウレタン・ゴム複合体の製造方法について説明する。かかる製造方法は、ポリウレタン領域を形成する第1工程と、ポリウレタン領域とゴム領域とを加硫接着する第2工程を含む。
【0035】
先ず、第1工程において、有機スルフィドと、ジメチルチオトルエンジアミンとを予め混合した第1成分と、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーを含む第2成分とを混合したポリウレタン組成物を硬化してポリウレタン領域を形成する。ここで、有機スルフィドと、ジメチルチオトルエンジアミンとを予め混合した第1成分とすることにより、ジメチルチオトルエンジアミン中に有機スルフィドが均一に分散する。これにより、第1成分と、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーを含む第2成分とを混合したポリウレタン組成物を硬化してなるポリウレタン領域中においても、有機スルフィドが均一に分散する。
【0036】
次に、第2工程において、上記のとおり形成したポリウレタン領域と二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなるゴム領域とを加硫接着する。ここで、かかる加硫接着時に、ポリウレタン領域中に均一に分散した有機スルフィドが、加硫剤及び加硫促進剤として効果的に作用する。これにより、本発明に係るポリウレタン・ゴム複合体の製造方法によれば、ポリウレタンとゴムとの界面において優れた接着強度を示すポリウレタン・ゴム複合体を製造することができる。ポリウレタン領域とゴム領域との加硫接着方法は特に限定されるものではないが、例えばプレス等により、ポリウレタン領域とゴム領域とを圧接すると同時に加熱して加硫する方法が挙げられる。かかる加硫接着工程では、ポリウレタン領域中で分散した有機スルフィドが加硫剤及び加硫促進剤として作用することにより、ポリウレタン領域とゴム領域とが接着されるが、ゴム領域が未加硫ゴム組成物からなる場合は、ゴム組成物自体も加硫される。
【0037】
以下において、本発明に係るポリウレタン・ゴム複合体の応用例として、ポリウレタン・ゴム複合体を使用した非空気圧タイヤについて説明する。しかし、本発明に係るポリウレタン・ゴム複合体の用途は、特に非空気圧タイヤに限定されるものではない。
【0038】
本発明に係るポリウレタン・ゴム複合体を使用した非空気圧タイヤを図1に示す。本実施形態に係る非空気圧タイヤ1は、車両からの荷重を支持する環状の支持構造体2と、支持構造体2の外側に配設され、同心円状に形成されたトレッドゴム3とを備える。支持構造体2は、内側環状部2aと、その外側に同心円状に設けられた中間環状部2bと、その外側に同心円状に設けられた外側環状部2cと、内側環状部2aと中間環状部2bとを連結する複数の内側連結部2dと、外側環状部2cと中間環状部2bとを連結する複数の外側連結部2eとを備えている。
【0039】
本実施形態に係る非空気圧タイヤ1において、支持構造体2は、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーと、有機スルフィドと、ジメチルチオトルエンジアミンとを含有するポリウレタン組成物を硬化してなるポリウレタン領域で構成され、トレッドゴム3は、二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなるゴム領域で構成されている。支持構造体2は、例えばモールド成形、射出成形等により製造することができ、トレッドゴム3は、従来の空気入りタイヤにおいて使用されるトレッドゴムと同様の方法により製造することができる。トレッドゴム3のトレッド面には、従来の空気入りタイヤと同様のトレッドパターンを形成してもよい。なお、ポリウレタン領域及びゴム領域を構成する材料、並びにポリウレタン領域とゴム領域との加硫接着方法等は、上記と同様の材料及び方法等を使用することができる。
【0040】
上記の構成によれば、前述したポリウレタン・ゴム複合体と同様、ポリウレタン領域で構成された支持構造体2と、ゴム領域で構成されたトレッドゴム3とが、接着剤を介することなく強固に接着する。その結果、支持構造体2とトレッドゴム3との界面剥離(セパレーション)等の故障を防止することができる。
【0041】
なお、別の実施形態として、図2に示すように、非空気圧タイヤ1は、車両からの荷重を支持する環状の支持構造体2と、支持構造体2の外側に配設され、同心円状に形成された補強層4と、補強層4の外側に配設され、同心円状に形成されたトレッドゴム3とを備えるものであってもよい。補強層4は、単数又は複数の層から構成され、例えば、タイヤ周方向に対して約20°の傾斜角度で平行配列したスチールコード、アラミドコード、レーヨンコード等をゴム引きした層を、スチールコード等が逆方向に交差するように積層して、形成することができる。また、両層の上層に、タイヤ周方向に平行配列した各種コードをゴム引きした層を設けてもよい。かかる実施形態に係る非空気圧タイヤ1において、支持構造体2は、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーと、有機スルフィドと、ジメチルチオトルエンジアミンとを含有するポリウレタン組成物を硬化してなるポリウレタン領域で構成され、補強層4にて使用される(各種コードをゴム引きするための)ゴム、及びトレッドゴム3は、二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなるゴム領域で構成されている。
【0042】
上記の構成によれば、前述したポリウレタン・ゴム複合体と同様、ポリウレタン領域で構成された支持構造体2と、部分的にゴム領域で構成された補強層4及びゴム領域で構成されたトレッドゴム3とが、接着剤を介することなく強固に接着する。その結果、支持構造体2の耐曲げ変形性を補強層4にて補強できるとともに、支持構造体2と、トレッドゴム3との界面剥離(セパレーション)等の故障を防止することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
[評価方法]
(接着強度の評価)
幅25mmに切り出したサンプルを、万能試験機インストロン4301(インストロンジャパン社製)を使用し、180度剥離試験を行って剥離強度の測定を行った。試験機のクロスヘッド速度は200mm/min,試験温度は23℃であった。剥離強度が高いほど、複合体の接着強度が高いことを示す。なお、剥離試験は、ポリウレタン領域が材料破壊する、あるいはポリウレタン領域とゴム領域とが界面剥離するまで行った。
【0045】
[各種材料]
ポリウレタン組成物及びゴム組成物を構成する材料として使用したものを以下に示す。
【0046】
a)イソシアネート末端プレポリマー
(A)主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマー;「Poly bd HTP−9(NCO%=9%)」(出光石油化学社製)
(B)主鎖に二重結合を有しないイソシアネート末端プレポリマー;「ソフランネートUTM−80(NCO%=2.9%)」(東洋ゴム工業社製)
b)硬化剤
(A)ジメチルチオトルエンジアミン;「ETHACURE 300」(アルベマール・コーポレーション社製)
(B)4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)(MOCA);「キュアミンMT」(イハラケミカル社製)
(C)1,4−ブタンジオール(1,4−BG);(ナカライテスク社製)
【0047】
c)有機スルフィド
(A)「Vulcren KA9188」(ランクセス社製)
(B)2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール;「ノクセラーMDB」(大内新興化学工業社製)
(C)テトラメチルチウラムジスルフィド;「ノクセラーTT」(大内新興化学工業社製)
(D)テトラエチルチウラムジスルフィド;「ノクセラーTET」(大内新興化学工業社製)
(E)テトラブチルチウラムジスルフィド;「ノクセラーTBT」(大内新興化学工業社製)
d)ゴム成分
(A)天然ゴム(NR);RSS#3
(B)スチレン−ブタジエンゴム(SBR);「JSR1500」(JSR社製)
(C)EPDMゴム(EPDM);「JSR EP33」(JSR社製)
【0048】
e)硫黄
5%オイル処理硫黄
f)加硫促進剤
N−シクロヘキシルー2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド;「ノクセラーCZ−G(CZ)」、大内新興化学工業社製)
g)酸化亜鉛
3号亜鉛華
h)ステアリン酸
工業用ステアリン酸
【0049】
i)ワックス
ミクロクリスタリンワックス
j)老化防止剤
(A)N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン「ノクラック6C」(大内新興化学工業社製)
(B)2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体「ノンフレックスRD」(精工化学社製)
【0050】
(ゴム領域の形成例)
モールドを使用して、表1に示す配合例に示すゴム組成物を所望の形状(シート状)に成形し、160℃にて20分間加熱、加硫することにより、天然ゴム系(NR系)ゴム領域、スチレン−ブタジエンゴム系(SBR系)ゴム領域、EPDM系ゴム領域を形成した。
【0051】
【表1】

【0052】
(実施例1)
主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマー100重量部を予め減圧脱泡し、液温を80℃に調整した(第2成分)。ジメチルチオトルエンジアミン20.5重量部と有機スルフィド(「Vulcren KA9188」)1重量部とを予めハイブリッドミキサーで混合した第1成分(液温40℃)と第2成分とを、100℃に調整した所定形状のモールドに注入し、100℃に設定したオーブン内にて1時間キュアを行うことにより、所望の形状(シート状)を有するポリウレタン領域を形成した(第1工程)。かかるポリウレタン領域をモールドより脱型し、さらに70℃のオーブン内で16時間ポストキュアを行った。このようにして形成されたシート状ポリウレタン領域と、シート状NR系ゴム領域とを、140℃にて20分間、加熱プレス(プレス圧力2MPa)にて圧接することにより、ポリウレタン領域とゴム領域とを加硫接着し、ポリウレタン・複合体を形成した(第2工程)。かかるポリウレタン・ゴム複合体におけるポリウレタン組成物の構成材料、加硫接着条件、剥離強度の評価結果を表2に示す。
【0053】
(実施例2−6、比較例1−8)
実施例1で使用したポリウレタン組成物の構成材料とゴム領域の構成材料とを、表2に記載のポリウレタン組成物の構成材料とゴム領域の構成材料とに変更した以外は、実施例1と同様の条件にてポリウレタン・複合体を形成した。これらポリウレタン・ゴム複合体におけるポリウレタン組成物の構成材料、加硫接着条件、剥離強度の評価結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2の結果から、実施例1−6に係るポリウレタン・ゴム複合体は、いずれも高い接着強度を示すことがわかる。なお、剥離試験後の複合体サンプルを目視にて観察したところ、実施例1−6に係るポリウレタン・ゴム複合体は、いずれもポリウレタン領域での材料破壊が発生していた。つまり、ポリウレタン領域とゴム領域との界面剥離は何ら発生しておらず、ポリウレタン領域とゴム領域との界面での接着強度が高いことがわかる。一方、比較例1−8に係るポリウレタン・ゴム複合体は、いずれも接着強度が低いか(比較例1−4及び7−8)、あるいは全く接着しなかった(比較例5−6)。また、剥離試験後の複合体サンプルを目視にて観察したところ、比較例1−4及び7−8に係るポリウレタン・ゴム複合体は、いずれもポリウレタン領域とゴム領域との界面剥離が発生していた。
【0056】
(比較例9−19)
実施例1で使用したポリウレタン組成物の構成材料を、表3に記載のポリウレタン組成物の構成材料に変更した以外は、実施例1と同様の条件にてポリウレタン領域の形成を試みたところ、いずれのポリウレタン組成物においても有機スルフィド又は硫黄が分散せず、組成物中で沈殿したため、ゴム領域と加硫接着し得るポリウレタン領域を形成できなかった。
【0057】
【表3】

【0058】
(比較例20−23)
実施例1で使用したポリウレタン組成物の構成材料とゴム領域の構成材料とを、表3に記載のポリウレタン組成物の構成材料とゴム領域の構成材料とに変更し、形成されたシート状ポリウレタン領域と、シート状ゴム領域とを、160℃にて20分間、加熱プレス(プレス圧力2MPa)にて押圧することにより、ポリウレタン領域とゴム領域とを加硫接着した以外は、実施例1と同様の条件にてポリウレタン・ゴム複合体の形成を試みた。しかしながら、加硫接着時にポリウレタン領域が一部溶融し、所望の形状を有するポリウレタン・ゴム複合体を形成することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る非空気圧タイヤの一例を示す正面図
【図2】本発明に係る非空気圧タイヤの他の例を示す正面図
【符号の説明】
【0060】
1:非空気圧タイヤ
2:支持構造体
3:トレッドゴム
4:補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーと、有機スルフィドと、ジメチルチオトルエンジアミンとを含有するポリウレタン組成物を硬化してなるポリウレタン領域と、二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなるゴム領域とを加硫接着することにより形成されたものであることを特徴とするポリウレタン・ゴム複合体。
【請求項2】
有機スルフィドとジメチルチオトルエンジアミンとを混合した第1成分と、主鎖に二重結合を有するイソシアネート末端プレポリマーを含む第2成分とを混合したポリウレタン組成物を硬化してポリウレタン領域を形成する第1工程と、前記ポリウレタン領域と二重結合を有するゴム成分を含有するゴム組成物からなるゴム領域とを加硫接着する第2工程を含むことを特徴とするポリウレタン・ゴム複合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のポリウレタン・ゴム複合体を使用した非空気圧タイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−227846(P2009−227846A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75843(P2008−75843)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】