説明

ポリエステル樹脂

【課題】安価で優れた機械特性を有するポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、耐加水分解性を向上し、かつフィルムを生産性良く製膜することが出来るポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、およびリン化合物を含有し、285℃での体積固有抵抗値ρVがρV≦20×107Ω・cm、固有粘度IVがIV>0.7dl/g、末端カルボキシル基量AVがAV≦20当量/樹脂トンであり、前記周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物および前記リン化合物の含有量が、金属原子またはリン原子として式1を満足することを特徴とするポリエステル樹脂。
0.2≦P/M≦0.6 (式1)
P:ポリエステル樹脂中のリン原子の濃度(モル/樹脂トン)
M:ポリエステル樹脂中の周期表第2族から選ばれる金属原子の濃度(モル/
樹脂トン)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル樹脂、特に耐加水分解性に優れた太陽電池裏面封止フィルムに適したポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の構成部品のひとつである太陽電池裏面封止フィルムの原料として、ポリエチレンテレフタレート樹脂が用いられる。太陽電池は屋外で使用されるため、太陽電池裏面封止フィルムにおいては自然環境に対する耐久性(耐加水分解性)が強く要求される。
一方で、近年の高速製膜化の要求に伴い、より製膜速度を向上できるように、体積固有抵抗値の低いポリエチレンテレフタレート樹脂が要求されている。
【0003】
太陽電池裏面封止フィルムとしては、例えば、特許文献1等に記載の通りPVF(Polyvinyl Fluoride)フィルムを用いることが知られている。しかしながらフッ素系のフィルムは、耐加水分解性や耐候性に優れるが、ガスバリア性(特に水蒸気のバリア性)に乏しく、フィルムの腰が弱いという欠点があった。そのため、かかるフィルムは、バリア性の改良と裏面封止フィルム層の強度を持たすために、アルミニウム等の金属箔等を積層して使用されていた。しかし、このことは軽量化が要求されているこの分野の目的に反するし、コスト的にも不利である。
【0004】
特許文献2には、積層された太陽電池裏面封止用フィルムの一層に、フィルム製膜時にポリエチレンテレフタレート樹脂にポリアリレートを添加して、耐加水分解性を向上したフィルムを用いることが記載されている。しかしながら製造時にポリアリレートを添加することはフィルム製造コスト的に不利であるため必ずしも満足できるものではない。
【0005】
特許文献3には、2種のポリエチレンテレフタレート樹脂を混合使用してフィルム中の末端カルボキシル基量を低減し、耐加水分解性を向上したフィルムが記載されている。しかしながら、開示された技術により製造されたポリエチレンテレフタレート樹脂は体積固有抵抗値が高く、フィルム生産性が著しく悪化する。
【0006】
特許文献4には、末端カルボキシル基量を低減化させたポリエステル樹脂を得る製造方法が記載されている。しかしながら、開示された技術により製造されたポリエチレンテレフタレート樹脂は体積固有抵抗値が高く、フィルム生産性が著しく悪化する。
特許文献5、6にポリエステルフィルムの生産性の改良を目的として特定量のリン化合物、2価の金属化合物、周期表第4A族のチタン族元素から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を含有するポリエステル樹脂が記載されているが、文献5に記載の技術で製造された樹脂は末端カルボキシル基量が多く、耐加水分解性の点で改良の余地がある。
文献6に記載の技術で製造された樹脂は、太陽電池裏面封止用途には固有粘度が低く、改良の余地がある。
【0007】
特許文献7に末端カルボキシル基が低減されているとともに高い固有粘度、低環状3量体含有量のポリエステル樹脂が記載されているが、開示された技術により製造されたポリエチレンテレフタレート樹脂は体積固有抵抗値が高く、フィルム生産性が著しく悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−186575号公報
【特許文献2】特開2007−150084号公報
【特許文献3】特開2007−204538号公報
【特許文献4】特開2002−47340号公報
【特許文献5】特開2005−89516号公報
【特許文献6】特開2007−70462号公報
【特許文献7】特開2005−89741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前述の従来技術に鑑みてなされたもので、安価で優れた機械特性を有するポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、耐加水分解性を向上し、かつフィルムを生産性良く製膜することが出来るポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、およびリン化合物を特定の比率で含有し、ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基量および溶融粘度を特定の範囲内に選択することで得られるポリエチレンテレフタレート樹脂の耐加水分解性を向上し、かつ体積固有抵抗値を改善出来ることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、およびリン化合物を含有し、285℃での体積固有抵抗値ρVがρV≦20×107Ω・cm、固有粘度IVがIV>0.7dl/g、末端カルボキシル基量AVがAV≦20当量/樹脂トンであり、前記周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物および前記リン化合物の含有量が、金属原子またはリン原子として式1を満足することを特徴とするポリエステル樹脂
0.2≦P/M≦0.6 (式1)
P:ポリエステル樹脂中のリン原子の濃度(モル/樹脂トン)
M:ポリエステル樹脂中の周期表第2族から選ばれる金属原子の濃度(モル/
樹脂トン)
を要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル樹脂は、太陽電池裏面封止フィルム用途に適した耐加水分解性を有すると同時に、体積固有抵抗値が低く良好なフィルム生産性を達成可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に限定はされるものではない。
本発明のポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分またはジカルボン酸のエステル誘導体と、ジオール成分とをエステル化又はエステル交換および重縮合することにより製造される。
【0014】
原料として使用されるジカルボン酸成分の主成分である芳香族ジカルボン酸としては具体的にはテレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフ
タル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。ここで「原料として使用されるジカルボン酸の主成分」であるとは、原料として使用されるジカルボン酸成分に対して90モル%以上、好ましくは95モル%以上であることをいう。この範囲を外れると出来上がったポリエステル樹脂から得られる成形後のフィルムの耐熱性が劣ったり、強度が十分に得られない。
【0015】
また、本発明のポリエステル樹脂は、共重合成分として、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸を含有してもよい。
これらのジカルボン酸は通常、遊離酸の形態で用いられるが、これらの各アルキル基の炭素数1〜4程度のアルキルエステル、及びハロゲン化物、アルカリ金属塩等の誘導体としても用いることができる。
【0016】
もう一方の原料として使用されるジオール成分中の主成分である脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオールが挙げられる。ここで「主成分」であるとは、原料として使用されるジオール成分に対して90モル%以上、好ましくは95モル%以上であることをいう。この範囲を外れると出来上がったポリエステル樹脂から得られる成形後のフィルムの耐熱性が劣ったり、強度が十分に得られない。
【0017】
脂肪族ジオールと共に用いられる他のジオールとしては、例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル) スルホン酸等の芳香族ジオールが挙げられる。このうち、芳香族ジオール成分は、更にアルキレンオキシドを付加させて使用することもできる。例えば、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加させた、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキシド付加物又はプロピレンオキシド付加物、等が挙げられる。
【0018】
更に、前記ジオール成分及びジカルボン酸成分以外の共重合成分として、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−βヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能成分、等の一種又は二種以上を少量用いることができる。
【0019】
本発明は、テレフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分から製造されるポリエステル樹脂に好ましく適用され、さらに好ましくはテレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分から製造するポリエステル樹脂において、本発明の効果は好適に発揮される。テレフタル酸がジカルボン酸成分の90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98.5モル%以上である。又、エチレングリコールが、ジオール成分の90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは97モル%以上、更に好ましくは98モル%以上である。テレフタル酸及びエチレングリコールの占める割合が前記範囲未満では、ポリエステル樹脂をフィルムなどに成形した場合その機械的強度が劣る傾向となる。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂を製造する時の、エステル化又はエステル交換反応に供するジカルボン酸に対するジオールの割合(モル比)は、通常1.02〜2.0、好ましくは1.03〜1.7の範囲である。
本発明のポリエステル樹脂は、触媒として、周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、及び周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、およびリン化合物を使用して得られたものである。
【0021】
ここで、周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素、即ち、チタン、ジルコニウム、ハフニウムの化合物としては、これら元素の酸化物、水酸化物、アルコキシド、酢酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。これら元素の化合物の中で、チタン化合物が好ましく、そのチタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシド若しくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタンと珪素若しくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナート等が挙げられ、中でも、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のチタンアルコキシド、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムが好ましく、テトラ−n−ブチルチタネートが特に好ましい。
【0022】
周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物としてはマグネシウムおよびカルシウム化合物が好ましく、これらの金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、酢酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等、具体的には、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。中でも、マグネシウム化合物、が好ましい。又、マグネシウム化合物の中でも、酢酸マグネシウムが好ましい。
【0023】
リン化合物としては、具体的には、例えば、正リン酸、ポリリン酸、及び、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等のリン酸エステル等の5価のリン化合物、並びに、亜リン酸、次亜リン酸、及び、トリメチルホスファイト、ジエチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、エチルジエチルホスホノアセテート、トリフェニルホスファイト等の亜リン酸エステル、リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属塩等の3価のリン化合物等が挙げられ、中でも5価のリン化合物のリン酸エステルが好ましく、エチルアシッドホスフェートが特に好ましい。
【0024】
本発明においては、前記周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を、それらの金属原子として3重量ppm以上10重量ppm以下添加することが好ましく、前記範囲の下限としては4重量ppmがより好ましく、前記範囲の上限としては好ましくは9重量ppm、特に好ましくは8重量ppmである。この量が前記の範囲未満では重合性が著しく悪化し、生産性良く目的のポリエステル樹脂を生産することが出来ず、また前記の範囲を超過するとポリエステルの色調が極端に悪化しフィルム用途に適さないものとなる。
【0025】
また、前記の周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物が、それらの金属原子換算で10重量ppm以上35重量ppm以下添加することが好ましく、前記範囲の下限としては11重量ppmがより好ましく、前記範囲の上限としては好ましくは30重量ppm、特に好ましくは20重量ppmである。この量が前記範囲未満では体積固有抵抗値が高くなり、結果的にフィルムの生産性を悪化させる。一方で前記範囲を超過すると重縮合活性が低下し、所定の固有粘度に到達しない。また得られるポリエステル樹脂の熱安定性は悪化し、末端カルボキシル基量が増加する。
【0026】
また、前記の周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物と前記のリン化合物が、それぞれそれらの金属原子またはリン原子として以下の式1を満たす量含有することを必須とする。
0.2≦P/M≦0.6 (式1)
P:ポリエステル樹脂中のリン原子の濃度(モル/樹脂トン)
M:ポリエステル樹脂中の周期表第2族から選ばれる金属原子の濃度(モル/樹脂トン)
前記範囲未満では、重縮合活性が低下し、所定の固有粘度に到達しない。また、得られたポリエステル樹脂の熱安定性が悪くなり、末端カルボキシル基量が増加する。
【0027】
一方、前記範囲を超過すると得られたポリエステル樹脂の体積固有抵抗値が高くなりフィルムの生産に適さないものとなる。好ましい範囲としては0.25≦P/M≦0.55であり、0.29≦P/M≦0.52がさらに好ましい。
本発明のポリエステル樹脂は、上記化合物以外の成分を含みうるが、樹脂の末端カルボキシル基量AVをAV≦20当量/樹脂トンとするには周期表第4族の元素の化合物を用いることが好適である。従って公知のアンチモン化合物やゲルマニウム化合物を含有する必要性はない。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂は、前記テレフタル酸またはそのエステル誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、前記の、周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、及び少なくとも1種の周期表第2族の元素の化合物、リン化合物を添加して重縮合させるものであるが、基本的にはポリエステル樹脂の慣用の製造方法による。即ち、前記テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、スラリー調製槽に投入して攪拌下に混合して原料スラリーとする原料混合工程、エステル化反応槽で常圧から加圧下、加熱下で、エステル化反応させ、或いは、エステル交換触媒の存在下にエステル交換反応させた後、得られたエステル化反応生成物或いはエステル交換反応生成物を得るエステル化工程としてのポリエステル低分子量体を重縮合槽に移送し、常圧から漸次減圧としての減圧下、加熱下で、溶融重縮合させポリエステル樹脂を得る重縮合工程からなる。そして必要に応じ重縮合工程で得られたポリエステル樹脂をプレポリマーとして固相重縮合する工程にて処理され、ポリエステル樹脂とすることが出来る。
【0029】
この際、前記の各化合物を、原料混合工程、または、エステル化工程から溶融重縮合工
程までに添加するには次の様に行なうのが好ましい。
まず、リン化合物は、重縮合工程の終了までに添加すればよいが、エステル化工程の終了までに添加するのが好ましく、スラリー調製槽に添加するのがより好ましい。これはリン化合物と周期表第2族の元素の化合物との反応により、得られるポリエステル樹脂の体積固有抵抗値が制御されるが、その値を好ましい範囲とするためである。
また、周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物は、エステル化反応槽、またはエステル化反応槽から溶融重縮合工程への移送段階の配管などに添加するが、周期表第2族の元素よりも先に添加すると周期表第4族の元素の後から添加された周期表第2族の元素との相互作用により周期表第4族の元素の重縮合活性が阻害されることがあるので、周期表第2族の元素の化合物を添加してリン化合物と反応させた後に周期表第4族の元素の化合物を添加することが好ましい。
そして、周期表第2族の元素の化合物は、エステル化反応工程から重縮合反応工程の終了までに添加すればよいが、エステル化反応終了後、重縮合反応終了までに添加するのが好ましく、エステル化反応終了後、重縮合反応工程の開始前に添加するのが更に好ましい。これはエステル化反応の終了までに添加すると、周期表第2族の元素とリン化合物との反応が未反応のジカルボン酸由来の酸性分などに阻害されるなどの要因で目的とする体積固有抵抗値ρVが得られない可能性があること、あるいは出来上がったポリエステル樹脂の末端カルボキシル基量AVが増大する可能性があるためである。したがって、目的とするポリエステル樹脂を得るためには、各化合物の添加順序としては、周期表第2族の元素の化合物、次いで、周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物の順が好ましい。
【0030】
周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物の好ましい添加時期は、エステル化反応の後半、特にエステル化率60%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは95%以上の段階ないし重縮合反応器での添加である。エステル化率がこれ以下の範囲では触媒が失活傾向を示すため好ましくない。
第2族の元素の化合物の好ましい添加時期は、エステル化反応の後半、特にエステル化率60%以上、好ましくは80%以上の段階ないし重縮合反応器での添加である。
【0031】
尚、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸のエステル形成性誘導体を用いてエステル交換反応を行う場合は、通常、チタン化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物等のエステル交換触媒を用いる必要があり、そのエステル交換触媒を比較的多量に用いる必要があり、これら触媒がポリエステル樹脂物性を低下させることがあるので、本発明においては、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を用いてエステル化反応を経て製造する方法が好ましい。
【0032】
エステル化反応における反応条件としては、例えば、テレフタル酸とエチレングリコールを原料とする場合には単一のエステル化反応槽の場合、通常240〜280℃程度の温度、大気圧に対する相対圧力を、通常0〜400kPa程度とし、攪拌下に1〜10時間程度の反応時間とする。又、複数のエステル化反応槽の場合は、第1段目のエステル化反応槽における反応温度を、通常240〜270℃ 、好ましくは250〜267℃、大気圧に対する相対圧力を、通常5〜300kPa、好ましくは10〜200kPaとし、最終段における反応温度を、通常250〜280℃、好ましくは255〜275℃、大気圧に対する相対圧力を、通常0〜150kPa、好ましくは0〜130kPaとする。
【0033】
尚、エステル化反応において、例えば、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の第三級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性化合物等を少量添加しておくことにより、エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生を抑制することができる。
【0034】
上記で得られたエステル化反応生成物は、次に溶融重縮合工程に移行する。溶融重縮合は、単一の溶融重縮合槽、又は、複数の溶融重縮合槽を直列に接続した、例えば、第1段目が攪拌翼を備えた完全混合型の反応器、第2段及び第3段目が攪拌翼を備えた横型プラグフロー型の反応器からなる多段反応装置を用いて、減圧下に、生成するエチレングリコールを系外に留出させながら行われる。
【0035】
溶融重縮合における反応条件としては、単一の重縮合槽の場合、通常250〜290℃程度の温度、常圧から漸次減圧として、最終的に、絶対圧力を、通常1.3〜0.013kPa程度とし、攪拌下に1〜20時間程度の反応時間とする。又、複数の重縮合槽の場合は、第1段目の重縮合槽における反応温度を、通常250〜290℃、好ましくは260〜280℃、絶対圧力を、通常65〜1.3kPa 、好ましくは26〜2kPaとし
、最終段における反応温度を、通常265〜300℃、好ましくは270〜295℃、絶
対圧力を、通常1.3〜0.013kPa、好ましくは0.65〜0.065kPaとする。中間段における反応条件としては、それらの中間の条件が選択され、例えば、3段反応装置においては、第2段における反応温度を、通常265〜295℃、好ましくは270〜285℃、絶対圧力を通常6.5〜0.13kPa、好ましくは4〜0.26kPaとする。このようにしてポリエステル樹脂を製造することができる。このポリエステル樹脂は、溶融状態でダイからストランド状に押出し、冷却固化させたのちカッターで切断して粒状体(チップ)とされる。
【0036】
このようにして得られたポリエステル樹脂をプレポリマーとして固相重縮合することが出来る。固相重縮合は連続式又は回分式で実施することができるが、操作性の面から連続法が好ましく用いられる。この際、プレポリマーは、固相重縮合に供する前に、固相重縮合を行う温度よりも低い温度で予備結晶化を行ってもよい。例えば、粒状体を乾燥状態で120〜200℃、好ましくは130〜190℃で1分間〜4時間程度加熱するか、あるいは粒状体を、水蒸気を含む雰囲気中で120〜200℃に1分間以上加熱してから、固相重縮合に供するようにしてもよい。
【0037】
連続式の固相重縮合法として窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、大気圧に対する相対圧力として、通常100kPa以下、好ましくは20kPa以下の加圧下もしくは常圧下で、通常5〜30時間程度、温度の下限は通常190℃、好ましくは195℃、上限は230℃、好ましくは220℃で加熱することにより固相重縮合させる方法がある。重縮合温度は、末端カルボキシル基量及び次に述べる固有粘度を勘案しながら上述の範囲内で調節される。
【0038】
固相重縮合の反応時間は反応温度にも依るが、ポリエステル樹脂の固有粘度が0.70dl/gを超過するように、一般的に1〜50時間の範囲から選択される。
また、別の方法として回分式の固相重縮合法も用いられる。絶対圧力として、下限が通常0.013kPa、好ましくは0.065kPa、上限が通常は6.5kPaとなる減圧下で通常1〜25時間程度、好ましくは1〜20時間程度、温度の下限は通常190℃、好ましくは195℃、上限は230℃、好ましくは225℃で加熱することにより、目的のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0039】
また、目的とするポリエステル樹脂を得るために、溶融重縮合工程で得られるプレポリマーとしてのポリエステル樹脂の固有粘度の下限は0.40dl/g、好ましくは0.45dl/g、さらに好ましくは0.48dl/g、上限は0.75dl/gであることが好ましい。固有粘度が0.40dl/g未満、および0.75dl/g超では溶融重縮合後に粒状化するチップ化工程が非常に不安定となり、チップ化できない可能性がある。
溶融重縮合工程で得られたプレポリマーを引き続き固相重縮合することで、固有粘度を所定の範囲にコントロールし、かつ末端カルボキシル基を低減することが出来る。固相重縮合後に所定の範囲に末端カルボキシル基をコントロールするにはプレポリマーの末端カルボキシル基量を30当量/樹脂トン以下、好ましくは25当量/樹脂トン以下とすることが好ましいが、この範囲内とするための方法として、エステル化工程の後段でエチレングリコールなどの脂肪族ジオール成分を添加する方法、溶融重縮合温度を制御する方法などがあげられる。
【0040】
このうち、脂肪族ジオール成分を添加する方法は簡便に末端カルボキシル基量を制御でき、かつ重縮合反応に対する影響も少ないので好ましい。エステル化工程で添加される脂肪族ジオールの量は生成するプレポリマーに対して50〜1200モル/トンが好ましい。この上限を超えて多量の脂肪族ジオールを添加すると重縮合反応の留出系への負荷が高くなるので好ましくない。脂肪族ジオールの添加量はより好ましくは100〜1000モル/トンである。この追加添加する脂肪族ジオールとしては、エチレングリコールが最も好ましい。
【0041】
脂肪族ジオールを添加する時期は、エステル化工程の後段であって、エステル化率(オリゴマー反応率)が50%、好ましくは60%、更に好ましくは80%、特に好ましくは90%を超えた時点以降で添加することが好ましい。これは、エステル化率が50%未満のオリゴマーに添加しても末端カルボキシル基量を制御する効果が低くなるからである。
一方、溶融重縮合温度を制御する方法では、重縮合温度を上げると末端カルボキシル基量は増加し、逆に重縮合温度を下げると末端カルボキシル基量は減少する効果を利用して制御する。しかし温度を下げると重縮合反応速度も低下するのでこれらのバランスが重要である。上記のような制御法によって、プレポリマー中の末端カルボキシル基量は、30当量/樹脂トン以下、好ましくは25当量/樹脂トン以下の範囲に調整する。末端カルボキシル基量がこの範囲より多い場合は、引き続く固相重縮合で目標の固有粘度に調節しようとした場合に末端カルボキシル基量が充分に低下できないため、得られたポリエステル樹脂の耐加水分解性能が劣ることになる。
本発明で得られるポリエステル樹脂の固有粘度IVは0.70dl/gより高くなければならないが好ましくは0.75dl/g以上である。これはこの樹脂を用いて得られる成形後のフィルムの強度が落ちるためである。また、得られるポリエステル樹脂の末端カルボキシル基量AVは20当量/樹脂トン以下であり、好ましくは18当量/トン以下であり、さらに好ましくは15当量/樹脂トン以下、特に好ましくは12当量/樹脂トン以下である。これはこの範囲を超えるとこの樹脂を成形して得られるフィルムの耐加水分解性が低下するためである。
【0042】
本発明のポリエステル樹脂の体積固有抵抗値ρVは20×107Ω・cm以下である。20×107Ω・cm超過の場合は、フィルム成形の際に押出機のダイから押し出されるシートの冷却用ドラムへの静電密着性が劣るため生産性が著しく悪くなる。より生産性を上げるためには体積固有抵抗値ρVが17×107Ω・cm以下であることが好ましく、15×107Ω・cm以下であることがより好ましい。また、体積固有抵抗値ρVをコントロールするには少なくとも1種の周期表第2族の元素の化合物を使用して製造されることが好ましい。
【0043】
また、本発明のポリエステル樹脂においては、フィルム用途として好適なポリエステル樹脂を得るために、任意の時期に平均粒子径0.05〜5.0μmの不活性粒子を滑剤として添加することができる。不活性粒子としては無機質又は有機質粒子が用いられる。例えば、無機質粒子としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、シリカ、タルク、チタニア、カオリン、マイカ、ゼオライト等、及びそれらのシランカップリング剤、又はチタネートカップリング剤等による表面処理物が、又、有機質粒子としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、架橋樹脂等が、それぞれ挙げられる。又、これら滑剤の粒子径は、平均粒子径が0.05〜5.0μmの範囲にあるのが好ましい。又、それら滑剤の添加量は、ポリエステル樹脂に対して下限は通常0.001重量%、好ましくは0.05重量%、上限は通常2.0重量%、好ましくは1.0重量%、更に好ましくは0.4重量%である。
【0044】
本発明のポリエステル樹脂を用いたフィルム、特に二軸延伸フィルムの成形法としては、ポリエステル樹脂をフィルム若しくはシート状に溶融押出しし、冷却ドラムにより急冷して未延伸フィルム若しくはシートとなし、次いで、該未延伸フィルム若しくはシートを予熱後、縦方向に延伸し、引き続いて横方向に延伸する逐次二軸延伸法、或いは、縦横方向に同時に二軸延伸する同時二軸延伸法等、従来公知の方法が用いられる。その際の延伸倍率は、縦方向及び横方向共、通常2〜6倍の範囲とされ、又、必要に応じて、二軸延伸後、熱固定及び/又は熱弛緩される。尚、二軸延伸フィルムとしての厚みは、通常1〜300μm程度とされる。
【0045】
また、成形に際しては、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、核剤、可塑剤、着色剤等の、ポリエステル樹脂に通常用いられる添加剤が使用できる。
また、成形に際しては、上述のような無機質又は有機質粒子からなる滑剤を含有する粒子マスターバッチを添加しても良い。
こうして得られたポリエステルフィルムは、耐加水分解性に優れた、太陽電池裏面封止フ
ィルム又はその構成成分として好ましく使用できる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。試料(エステル化反応生成物、プレポリマー又はポリエステル樹脂)は、以下の測定方法によって測定、評価を行った。
<エステル化率>
粉砕した試料0.5gをビーカーに精秤しベンジルアルコール40mlを加えて撹拌しながら、200℃に加熱して完全に溶解させた。室温まで放冷した後、自動滴定装置(平沼産業 COM−1600)を用いて、0.1Nのメタノール性水酸化カリウム溶液で滴定を行った。その結果をもとに、以下の式(1)に従ってカルボキシル末端量を求めた。更に、得られたカルボキシル末端量を用いて、以下の式(2)に従ってエステル化率を計算した。
【0047】
カルボキシル末端量(当量/樹脂グラム)=0.1×A×f×1000/W
・・・(1)
A:中和に要した0.1Nのメタノール性水酸化カリウム溶液量(ml)
f:0.1Nメタノール性水酸化カリウム溶液の力価
W:試料の重量(g)
エステル化率(%)=(1000−カルボキシル末端量)/100
・・・(2)
【0048】
<固有粘度>
粉砕した試料0.25gを、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒に、濃度(c)を1.0g/dlとして120℃で30分間で溶解させた後、ウベローデ型毛細粘度管を用いて、30℃ で、原液との相対粘度(ηrel)を測定し、この相対粘度(ηrel)−1から求めた比粘度(ηsp)と濃度(c)との比(ηsp/c)を求め、同じく濃度(c)を0.5g/dl、0.2g/dl、0.1g/dlとしたときについてもそれぞれの比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度〔η〕(dl/g)として求めた。
【0049】
<末端カルボキシル基>
試料を粉砕した後、熱風乾燥機にて140℃で15分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mlを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mlを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1〜2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込ながら攪拌下に、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。又、ブランクとして試料を使用せずに同様の操作を実施し、以下の式(3)によって末端カルボキシル基量を算出した。
【0050】
末端カルボキシル基量(当量/樹脂トン) = (A−B)×0.1×f/W
・・・・(3)
A:滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)
B:ブランクでの滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)
W:試料の量(g)
f:0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価
【0051】
尚、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価(f)は、乾燥窒素ガスを吹き込みながら、試験管にメタノール5mlを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液を指示薬として1〜2滴加え、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液0.4mlで変色点まで滴定し、次いで、力価既知の0.1Nの塩酸水溶液を標準液として0.2ml採取して加え、再度、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定し、以下の式(4)によって力価(f)を算出した。
【0052】
力価(f)=0.1Nの塩酸水溶液の力価×0.1Nの塩酸水溶液の採取量(μl)/0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の滴定量(μl)
・・・(4)
【0053】
<体積固有抵抗値>
試料23gを、内径20mm、長さ180mmの枝付き試験管に入れ、管内を十分に窒素置換した後、250℃のオイルバス中に浸漬し、管内を真空ポンプで0.13kPa以下として20分間真空乾燥し、次いで、オイルバス温度を285℃に昇温して試料を溶融させた後、窒素復圧と減圧を繰り返して混在する気泡を取り除いた。この溶融体の中に、面積1cm2のステンレス製電極2枚を5mmの間隔で並行に(相対しない裏面を絶縁体で被覆)挿入し、温度が安定した後に、抵抗計(ヒューレット・パッカード社製「MODEL HP4339B」)で直流電圧100Vを印加し、そのときの抵抗値を計算して体積固有抵抗値(Ω・cm)とした。
【0054】
<金属元素含有量>
試料2.5gを、硫酸存在下に過酸化水素で加熱し灰化、完全分解後、蒸留水にて50mlに定容したものについて、プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製ICP−AES「JY46P型」)を用いて定量し、ポリエステル樹脂中の重量ppmに換算した。
【0055】
<耐加水分解性>
120℃−100%飽和水蒸気の雰囲気にてポリエステル樹脂を24時間処理し、処理後の固有粘度保持率(%)を下記の式にて算出し、下記の基準で判定した。
【0056】
固有粘度保持率(%)=(処理後の固有粘度/処理前の固有粘度)×100
判定基準
○:固有粘度保持率が80%以上
×:保持率が80%未満
【0057】
(実施例1)
1個のスラリー調製槽、及びそれに直列に接続された2段のエステル化反応槽、及び2段目のエステル化反応槽に直列に接続された3段の溶融重縮合槽からなる連続式重合装置を用い、スラリー調製槽に、テレフタル酸とエチレングリコールを重量比で100:45の割合で連続的に供給すると共に、エチルアシッドホスフェートのエチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してリン原子としての含有量が4重量ppmとなる量で連続的に添加して、攪拌、混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを、窒素雰囲気下で267℃、相対圧力100kPa、平均滞留時間4時間に設定され、反応生成物が存在する第1段目のエステル化反応槽に連続的に流量120kg/hrで供給し、次いで、第1段目のエステル化反応生成物を、窒素雰囲気下で265℃、相対圧力5kPa、平均滞留時間2時間に設定された第2段目のエステル化反応槽に連続的に移送して、更にエステル化反応させた。その際、第2段エステル化反応槽に設けた上部配管を通じて、エチレングリコールを生成するポリエステル樹脂に対して322モル/トンになる量を連続的に供給した。この場合、第2段エステル化反応槽におけるエステル化率は97%であった。
【0058】
上述のエステル化反応生成物を、移送配管を経由して第1段重縮合反応槽に連続的に供給した。このとき移送配管に設けた移送ポンプの吐出圧は500kPaであった。移送配管中のエステル化反応生成物に、酢酸マグネシウム4水和物のエチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してマグネシウム原子としての含有量が11重量ppmとなる量だけ添加配管を経由して連続的に添加した。さらに、別個の添加配管を使用して、テトラブチルチタネートのエチレングリコール溶液を生成ポリエステル樹脂に対してチタン原子としての含有量が4重量ppmとなる量だけ連続的に添加した。
【0059】
溶融重縮合の反応条件は、第1段重縮合反応槽が269℃、絶対圧力4kPa、平均滞留時間1時間であり、第2段重縮合反応槽は274℃、絶対圧力0.4kPa、平均滞留時間0.9時間、第3段重縮合反応槽は277℃、絶対圧力0.2kPa、平均滞留時間1時間であった。
第3段重縮合反応槽から取り出した溶融重縮合反応生成物は、ダイからストランド状に押出して冷却固化し、カッターで切断して1個の重さが平均粒重24mgのポリエステル樹脂チップとした。このチップの固有粘度IVは0.62dl/g、末端カルボキシル基量AVは15当量/樹脂トンであった。
【0060】
得られたポリエステル樹脂をプレポリマーとして固相重縮合する目的で、チップ5gをアルミ箔製トレイ(底部20cm×10cm、深さ:5.0cm)にチップ同士が重ならないように並べ、内温40℃に設定されたイナートオーブンの中央部に設置した。50l/minの窒素流通下で、60℃から160℃まで30分で昇温させ、160℃で2時間乾燥、結晶化を行った。その後、30分かけて220℃まで昇温し、220℃で20時間固相重縮合を行った。
【0061】
得られたポリエステル樹脂を評価したところ、固有粘度IVは0.78dl/g、末端カルボキシル基量AVは12当量/樹脂トン、体積固有抵抗値ρVは17×107Ω・cm、耐加水分解性判定は〇であった。
【0062】
(実施例2)
エチルアシッドホスフェート、酢酸マグネシウム4水和物およびテトラブチルチタネートの添加量、及び第2段エステル化反応槽に添加するエチレングリコールの量を表1に示すように変えた他は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂チップを製造し、同様に評価し、結果を表1に示した。
【0063】
(比較例1)
エチルアシッドホスフェート、酢酸マグネシウム4水和物およびテトラブチルチタネートの添加量を表1に示すように変えた他は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂チップを製造し、同様に評価し、結果を表1に示した。この例で得られたポリエステル樹脂は体積固有抵抗値ρVが非常に高く、フィルム製膜には適さないものであった。
【0064】
(比較例2)
エチルアシッドホスフェート、酢酸マグネシウム4水和物およびテトラブチルチタネートの添加量、および第2段エステル化反応槽に添加するエチレングリコールの量を表1に示すように変えた他は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂チップを製造し、同様に評価し、結果を表1に示した。この場合、第2段エステル化反応槽におけるエステル化率は94%であった。この例で得られたポリエステル樹脂は末端カルボキシル基量AVが高く、耐加水分解性に劣り、太陽電池裏面封止用途フィルムには適さないものであった。
【0065】
(比較例3)
リン化合物を添加せず、酢酸マグネシウム4水和物およびテトラブチルチタネートの添加量、および第2段エステル化反応槽に添加するエチレングリコールの量を表1に示すように変えた他は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂チップを製造し、同様に評価し、結果を表1に示した。この場合、第2段エステル化反応槽におけるエステル化率は95%であった。この例では重縮合活性が低く得られたポリエステル樹脂の固有粘度IVが上昇せず、フィルム用途には適さないものであった。マグネシウム化合物がチタン化合物の重縮合活性を阻害したためと考えられる。
【0066】
【表1】

【0067】
上記結果から、本発明の要件を満たすポリエステル樹脂は優れた耐加水分解性を有し、また良好なフィルム生産性を有することから太陽電池裏面封止フィルム用途としての適性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のフィルムは、太陽電池の裏面封止用フィルムとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物、およびリン化合物を含有し、285℃での体積固有抵抗値ρVがρV≦20×107Ω・cm、固有粘度IVがIV>0.7dl/g、末端カルボキシル基量AVがAV≦20当量/樹脂トンであり、前記周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物および前記リン化合物の含有量が、金属原子またはリン原子として式1を満足することを特徴とするポリエステル樹脂。
0.2≦P/M≦0.6 (式1)
P:ポリエステル樹脂中のリン原子の濃度(モル/樹脂トン)
M:ポリエステル樹脂中の周期表第2族から選ばれる金属原子の濃度(モル/
樹脂トン)
【請求項2】
周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物の含有量が金属原子換算で3重量ppm以上10重量ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物の含有量が金属原子換算で10重量ppm以上35重量ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
周期表第4族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物がチタン化合物であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物がマグネシウム化合物であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とのエステル化及び重縮合反応により得られることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を成形してなることを特徴とするフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載のフィルムを構成成分として含むことを特徴とする太陽電池裏面封止用フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の太陽電池裏面封止用フィルムにより裏面封止されていることを特徴とする太陽電池。

【公開番号】特開2010−163613(P2010−163613A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286785(P2009−286785)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】