説明

ポリエステル系難燃繊維壁紙

【課題】建築基準法第2条第9号と第68条の2第1項に準拠する燃焼試験法による「不燃材料」および「準不燃材料」に適合した難燃繊維壁紙を得る。
【解決手段】経糸と緯糸の総繊度が280dtex未満であり、経糸と緯糸の何れか一方の糸条によるカバーファクターが1200以上であり、且つ、経糸と緯糸の双方の糸条による各カバーファクターが2500以下であり、経糸によるカバーファクターと緯糸による合計カバーファクターが2000〜4000であり、目付け(質量)が220g/m2 以下であり、布帛が単繊維繊度3dtex未満のポリエステル系繊維に成る織物に、ハロゲン系難燃剤を10g/m2 以下付与し、リン系難燃剤を10g/m2 以下含有する目付け100g/m2 以下の難燃パルプ抄造裏打紙を、エチレン酢酸ビニル樹脂系接着剤によって貼り合わされて繊維壁紙を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維布帛を裏打紙に貼り合わせて成る繊維壁紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルプを主材とし、三酸化アンチモン、含燐窒素化合物、グアニジン化合物、テトラブロムビスフェノールA、ブロモフェノール誘導体、リグニン誘導体、臭化アンモン、ジシアンジアシド、水酸化アルミニウム等を添加した難燃紙は、壁紙の裏打紙として公知である(例えば、特許文献1、2参照)。裏打紙用難燃紙としては、セルロース繊維5〜30重量部、無機質繊維1〜10重量部、水酸化アルミニウム50〜95重量部、有機結合剤2〜10重量部を必須成分とする抄造紙も公知である(例えば、特許文献3参照)。壁紙および裏打紙用難燃紙は、建設省告示第1372号と第1828号に準拠してJIS−A−1321に規定される難燃性能試験における判定基準に従って難燃性能が評価され、その難燃性能に応じて不燃材料、準不燃材料、難燃紙と表示される(例えば、特許文献2、3、4、5、6、7参照)。
【特許文献1】特開昭60−239598号公報(特公平04−50438)
【特許文献2】特開平02−243337号公報(特公平06−00394)
【特許文献3】特開平02−061200号公報(特許第2754386号)
【特許文献4】特開昭63−233826号公報(特公平05−02500)
【特許文献5】特開平05−200948号公報(特許第2586368号、段落0024)
【特許文献6】特開平09−031860号公報(段落0028)
【特許文献7】特開平11−001900号公報(段落0018)
【0003】
布帛製品の難燃性能の評価は、その用途に応じた種々の試験法によってなされ、例えば、自動車内装布帛については米国連邦自動車安全規格MVSS−302によって(例えば、特許文献8、9、10参照)、建築工事用メッシュシートについてはJIS−L−1091によって(例えば、特許文献11参照)、鉄道車輛座席シート用布帛については運輸省鉄道車輛用材料燃焼試験A−4基準アルコール火炎法によって(例えば、特許文献12参照)、航空機シート用布帛については連邦航空局基準FAAケロシンバーナテストFAR25853Cによって行われている(例えば、特許文献13、14参照)。このように布帛の仕様が同じであっても、布帛製品の難燃性能が用途に応じて規定される種々の試験法によって評価されるのは、その用途における布帛の使用の仕方、火災発生初期の着火・発煙の仕方、燃焼の仕方が異なるためである。このことは、布帛製品がある試験法において難燃性能を有する(合格)と評価されても、その同じ布帛製品が他の試験法において合格と評価されるとは限らない、と言うことを意味する。
【特許文献8】特開平07−003658号公報(特許第3251388号、段落0013)
【特許文献9】実公平03−14347号公報
【特許文献10】特公平05−29705号公報
【特許文献11】特開平11−172806号公報(特許第3249940号、段落0043)
【特許文献12】特開平09−250052号公報(特許第3089418号、段落0042)
【特許文献13】特開昭62−090349号公報(特公平03−45130)
【特許文献14】特開昭62−090350号公報(特公平03−45131)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維壁紙の難燃性能については、前記の通り、従来、JIS−A−1321に準拠していたが、2000年(平成12年)6月1日(制定日)以降は、建築基準法第2条第9号と第68条の2第1項に準拠する試験法(以下、建築基準法燃焼試験法と言う。)において測定される総発熱量と亀裂等の変形有無と最高発熱速度とマウス行動停止時間(ガス有害性試験)によって評価されることになった。
即ち、建築基準法燃焼試験法においては、試験結果が、
(1) 加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2 以下であり、
(2) 加熱開始後20分間に貫通亀裂・穴等の変形が試験体になく、
(3) 加熱開始後20分間の200kw/m2 を超える最高発熱速度が10秒以上継続せず、
(4) 加熱開始後、マウスが行動を停止するまでの平均行動停止時間が6.8分以上の場合には、試験体である繊維壁紙は、「不燃材料」と評価される。
その試験結果が、
(1) 加熱開始後10分間の総発熱量が8MJ/m2 以下であり、
(2) 加熱開始後10分間に貫通亀裂・穴等の変形が試験体になく、
(3) 加熱開始後10分間の200kw/m2 を超える最高発熱速度が10秒以上継続せず、
(4) 加熱開始後、マウスが行動を停止するまでの平均行動停止時間が6.8分以上の場合には、試験体である繊維壁紙は、「準不燃材料」と評価される。
その試験結果が、
(1) 加熱開始後5分間の総発熱量が8MJ/m2 以下であり、
(2) 加熱開始後5分間に貫通亀裂・穴等の変形が試験体になく、
(3) 加熱開始後5分間の200kw/m2 を超える最高発熱速度が10秒以上継続しない場合には、試験体である繊維壁紙は、「難燃材料」と評価される。
【0005】
このように、建築基準法燃焼試験法においては、従来の試験法であるJIS−A−1321では評価の要件とされていなかった総発熱量と最高発熱速度継続時間と燃焼ガス有害性が評価の要件とされる。
このため、石油製品であり可燃性物質であるポリエステル繊維やポリプロピレン繊維によって表面が構成される合成繊維壁紙にとって、建築基準法燃焼試験法は、極めて厳しい試験となる。
特に、評価の要件として燃焼ガス有害性が規定されているので、単に難燃剤を付与して合成繊維を難燃化しただけでは「不燃材料」或いは「準不燃材料」と評価されることはなく、合成繊維の難燃化のために難燃剤の使用量を増やすときは、往々にして有害ガスの発生量も増えるので、合成繊維壁紙の難燃化は、極めて難しくなる。
加えて、建築基準法燃焼試験法に要する試験装置も極めて高価であり、又、燃焼ガスの有害性試験ではマウスを取扱う専門知識が必要となるので、その試験は、その試験装置を有する公的試験機関に頼らざるを得ず、その試験費用が高価な点でも、合成繊維壁紙の難燃化は、極めて難しい状況下におかれている。
【0006】
本発明は、かかる状況下において鋭意研究し、燃焼試験時の総発熱量を抑えるために、火源となる布帛の目付け(質量)を可能な限り少なくし、その少ない目付けをもって裏打紙を被覆するために必要な布帛の隠蔽性を確保するために、布帛の経緯何れか一方の織密度を緻密にすると共に、その経緯糸条の総繊度(太さ)と経緯糸条を構成する繊維の繊度を細かくし、恰も薄いフイルムを成すかの如く布帛を構成し、そうすることによって布帛を裏打紙に限りなく密着させて燃焼試験時の最高発熱速度を抑え、布帛の難燃化のための難燃剤の使用量が少なくて済むようにし、以って、建築基準法燃焼試験法による「不燃材料」および「準不燃材料」に適合した難燃繊維壁紙(以下、単に難燃繊維壁紙と言う。)を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る繊維壁紙は、(a) 裏打紙に布帛を貼り合わせて成る繊維壁紙において、(b) 布帛が単繊維繊度3dtex未満のポリエステル系繊維に成る織物であり、(c) その経糸と緯糸の総繊度が280dtex未満であり、(d) 経糸と緯糸の何れか一方の糸条によるカバーファクターが1300以上であり、且つ、(e) 経糸と緯糸の双方の糸条による各カバーファクターが2500以下であり、(f) 経糸によるカバーファクターと緯糸による合計カバーファクターが2000〜4000であり、(g)
布帛の目付け(質量)が220g/m2 以下であり、(h) 布帛が含有量10g/m2 以下となるハロゲン系難燃剤を含有し、(i) 裏打紙がリン系難燃剤を10g/m2 以下含有する目付け100g/m2 以下の難燃パルプ抄造紙であり、(j) 布帛と裏打紙がエチレン酢酸ビニル樹脂系接着剤によって貼り合わされており、(k) 建築基準法に規定される燃焼試験において、不燃材料または準不燃材料として評価される難燃性能を有することを第1の特徴とする。
【0008】
本発明に係る繊維壁紙の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、経糸密度と緯糸密度が27本/cm以上であり、且つ、経糸密度と緯糸密度の何れか一方の密度が55本/cm以上である点にある。
【0009】
本発明に係る繊維壁紙の第3の特徴は、上記第1、第2の何れかの特徴に加えて、ハロゲン系難燃剤がヘキサブロモシクロドデカンとトリアルキルフェニルホスフェードを主成分とするものであり、リン系難燃剤が含リン含窒素化合物を主成分とするものである点にある。
【0010】
本発明に係る繊維壁紙の第4の特徴は、上記第1、第2、第3の何れかの特徴に加えて、エチレン酢酸ビニル樹脂系接着剤の固形分塗着量が25g/m2 以下である点にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、建築基準法に規定される燃焼試験において不燃材料または準不燃材料として評価される難燃性能を有するポリエステル繊維壁紙が得られる。その理由については、次のように考えられる。
即ち、燃焼試験において火源となる布帛の目付けが220g/m2 以下であるため、総発熱量を低く抑えることが出来、又、その難燃化に要する難燃剤の使用量が少なくて済み、その難燃剤に起因する有害燃焼ガスの発生量を低減することが出来る。
その布帛を構成する繊維の単繊維繊度を3dtex未満と極細にするときは、カバーファクターが同じであっても糸条が嵩高に脹らむので、目付けが220g/m2 以下となる低目付の布帛でも裏打紙に対する高い隠蔽性が確保される。
そして、経糸や緯糸の総繊度を280dtex以下とし、布帛の経糸と緯糸による合計カバーファクターが2000〜4000になるように経糸密度と緯糸密度の何れか一方を緻密にするときは、厚さ100〜300μm程度のプラスフイルムに相当する薄い皮膜状に布帛を構成することが出来、プラスフイルムをラミネートしたかの如く布帛が裏打紙に密着し、裏打紙の含有するリン系難燃剤の難燃機能と布帛の含有するハロゲン系難燃剤の難燃機能が相互に補完し易くなり、又、燃焼試験時に炭化した裏打紙によって最高発熱速度が抑えられる。
そして、布帛と裏打紙の間に介在するエチレン酢酸ビニル樹脂系接着剤は、一種のポリオレフィン樹脂であって格別有害な燃焼ガスを発生することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
上記の通り、布帛の目付けと難燃剤の含有量を可能な限り少なくし、布帛を構成する繊維の繊度と糸条の総繊度を細かくすることによって、本発明の目的を、達成することが出来る。従って、布帛の目付けは200g/m2 以下、好ましくは80〜170g/m2 とし、布帛の含有するハロゲン系難燃剤の含有量を5g/m2 以下に、概して布帛の目付けの1〜3質量%にするとよい。
布帛をプラスフイルムのように薄い皮膜状に構成するためには、経糸と緯糸を構成する繊維の単繊維繊度を2dtex以下とし、経糸と緯糸の総繊度をそれぞれ200dtex以下とすると共に、経糸密度と緯糸密度の何れか高密度となる一方の糸条の総繊度を100dtex以下とし、その高密度となる一方の糸条によるカバーファクターが1200以上になるように、その一方の糸条の織密度(経糸密度と緯糸密度)を設定する。
経糸密度と緯糸密度は、概して27本/cm以上とし、その経糸密度と緯糸密度の何れか一方の密度が55本/cm以上とするとよい。
燃焼試験時に総発熱量を低く抑えるためには、裏打紙の目付けも80g/m2 以下にすることが好ましい。
【0013】
糸条(経糸と緯糸)によるカバーファクター(KO )は、織物の単位寸法(2.54cm=1吋)当りの糸条の本数(NO ;経糸密度と緯糸密度(本/cm)×2.54)と、その糸条の総繊度(DO ×0.9)の平方根との積(KO =2.54×NO ×(DO ×0.9)1/2)として算出される。従って、経糸と緯糸による織物の合計カバーファクター(K)は、経糸によるカバーファクター(Kw )と緯糸によるカバーファクター(Kf )との和(K=Kw +Kf =2.54×Nw ×(Dw ×0.9)1/2 +2.54×Nf ×(Df ×0.9)1/2)となる。
ここに、Nw は経糸密度(本/cm)、Dw は経糸の総繊度(dtex)、Nは緯糸密度(本/cm)、Df は緯糸の総繊度(dtex)を意味する。
【0014】
ポリエステル系繊維には、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレトタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維の何れをも使用することが出来る。
【実施例】
【0015】
〔表1〕に示す仕様の3種類のポリエステル系繊維織物(実施例1,2,3)と3種類のポリエステル系繊維織物(比較例1,2,3)を織成し、それぞれヘキサブロモシクロドデカン45質量%とトリアルキルフェニルホスフェート8.7質量%を含む水溶液として調製されたハロゲン系難燃剤を布帛目付けの2.5質量%付与し、含リン含窒素化合物26〜28質量%と含窒素化合物3〜5質量%を含む水溶液(大日本インキ化学工業株式会社製難燃剤:フレームガードFG−30)を8g/m2 含有する目付80g/m2 の難燃裏打紙(有限会社五箇製紙所製:KU原紙)に、樹脂分54〜58質量%含有のエチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョン組成物(株式会社トウペ製品:XB−3011)を固形分塗布量20g/m2 に設定して塗布し貼り合わせて得られたポリエステル繊維壁紙の難燃性能を建築基準法燃焼試験法に従って評価した。
〔表1〕は、その評価結果を、経糸と緯糸の仕様と織物の仕様に対応させて示すものである。
尚、比較例1,2,3のポリエステル繊維壁紙については、建築基準法燃焼試験法において不燃材料として不合格と評価される結果になったので、そのガス有害性試験(マウス平均行動停止時間)と準不燃材料燃焼試験を行っていない。
〔表1〕において、●印は、本発明または建築基準法燃焼試験法において規定外となる数値を示し、☆印は、判断が保留される数値を示す。
【0016】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 裏打紙に布帛を貼り合わせて成る繊維壁紙において、
(b) 布帛が単繊維繊度3dtex未満のポリエステル系繊維に成る織物であり、
(c) その経糸と緯糸の総繊度が280dtex未満であり、
(d) 経糸と緯糸の何れか一方の糸条によるカバーファクターが1200以上であり、且つ、
(e) 経糸と緯糸の双方の糸条による各カバーファクターが2500以下であり、
(f) 経糸によるカバーファクターと緯糸による合計カバーファクターが2000〜4000であり、
(g) 布帛の目付け(質量)が220g/m2 以下であり、
(h) 布帛が含有量10g/m2 以下となるハロゲン系難燃剤を含有し、
(i) 裏打紙がリン系難燃剤を10g/m2 以下含有する目付け100g/m2 以下の難燃パルプ抄造紙であり、
(j) 布帛と裏打紙がエチレン酢酸ビニル樹脂系接着剤によって貼り合わされており、
(k) 建築基準法に規定される燃焼試験において、不燃材料または準不燃材料として評価される難燃性能を有するポリエステル系難燃繊維壁紙。
【請求項2】
経糸密度と緯糸密度が27本/cm以上であり、且つ、経糸密度と緯糸密度の何れか一方の密度が55本/cm以上である前掲請求項1に記載のポリエステル系難燃繊維壁紙。
【請求項3】
ハロゲン系難燃剤がヘキサブロモシクロドデカンとトリアルキルフェニルホスフェードを主成分とするものであり、リン系難燃剤が含リン含窒素化合物を主成分とするものである前掲請求項1と請求項2の何れかに記載のポリエステル系難燃繊維壁紙。
【請求項4】
エチレン酢酸ビニル樹脂系接着剤の固形分塗着量が25g/m2 以下である前掲請求項1と請求項2と請求項3の何れかに記載のポリエステル系難燃繊維壁紙。

【公開番号】特開2006−144173(P2006−144173A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336714(P2004−336714)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】