説明

ポリオレフィン樹脂の造粒システム及びそれを用いた造粒方法

【課題】別途メルトフローレート(MFR)分析機器を設置せずに、造粒機内のポリオレフィン樹脂のMFRをほぼ正確に瞬時に推測でき、推測されたMFRを用いて安定的に所望の運転状態を実現・維持できるポリオレフィン樹脂の造粒システム及びそれを用いた造粒方法の提供。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂原料を造粒機に供給して造粒するシステムであって、前記造粒機の運転データのうち、少なくとも1項目の所定の運転データを用いて、造粒機内のポリオレフィン樹脂の推測MFRを得るソフトセンサーを有することを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システム及びこれを用いた造粒方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂の造粒システム及びそれを用いた造粒方法に関し、さらに詳しくは、別途メルトフローレート(以下、「MFR」ともいう。)分析機器を設置せずに、造粒機内のポリオレフィン樹脂のMFRをオンライン分析値として精度良く瞬時に推測でき、推測されたMFRを用いて安定的に所望の運転状態を実現・維持できるポリオレフィン樹脂の造粒システム及びそれを用いた造粒方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂は、重合工程によりパウダー状または溶融状態の樹脂が得られた後、造粒工程を経て樹脂ペレットとされるのが一般的である。
従来より、ポリオレフィン樹脂原料を造粒機に供給して造粒するシステムにおいて、造粒後のポリオレフィンを抜き取り検査することにより、造粒後のポリオレフィンのMFRを得て、ポリオレフィン樹脂原料の重合工程や造粒機の運転条件にフィードバックすることや製品管理等が行われている。
【0003】
さらには、従来のシステムにおいては、製品である造粒後のポリオレフィンの抜き取り検査に加え、造粒機内後部のポリオレフィンを、造粒機内後部に設置された、PCR(Process Control Rheometer)等のオンライン溶融流動性分析装置を用いて、自動的に抜き取り検査している。これにより、MFRの連続監視が可能となり、迅速な運転条件へのフィードバックを行うことができる。しかし、オンライン溶融流動性分析装置は、造粒機とは別に設置する必要があり、分析機器の保守点検が頻繁に必要であり、分析結果を得るまでに長時間を必要とし、かつ分析ノイズが存在するため、安定的に所望の運転状態を実現・維持する点において不満足であるという問題があった。
【0004】
そこで、上記オンライン溶融流動性分析装置の改良が試みられており、一例として、押出機のダイ部分に設置されたセンサーによる各種データと樹脂特性値を用いてオンラインMFR分析を行うMFRの測定方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)
この方法では、別体のメルトインデクサを用いることがないという利点を有しているが、この方法も含めて従来のものは、いずれも造粒機より取り出したポリオレフィン(溶融樹脂)や樹脂特性値から分析する方法であり、分析するためのセンサー等の分析機器を別途設置しなければならないことには変わりがなく、上記問題を根本的に解決するものとは言えなかった。
したがって、分析装置によらずにMFRを測定する簡易な方法が望まれていた。
【0005】
分析装置によらずに製品の品質に関する状態量を測定する方法としては、従来より、石油系炭化水素の分解システム等において、ソフトセンサーと呼ばれる方法が提案されている。一般的に、製品を製造する場合には、製品の品質を抜き取り検査で分析することが多いが、抜き取り検査は、分析時間が長く、分析結果に基づくフィードバック制御が困難である。製品品質を推定する方法の一つであるソフトセンサーによれば、比較的容易にオンライン測定される変数の測定値から、目的とする製品品質等の状態量を数学的に算出して推定することができる。
しかし、分野や目的とする製品品質の状態量を問わずにソフトセンサーが適用できるとは限らず、変数の選択決定や目的とする製品品質を実用可能な程度に推定できるモデルの構築等の導入コストが必要であり、また、安定した系のみでの適用に限られること、精度の問題、そのモデルが継続使用可能か否かといった保守の問題、維持コストの問題等があり、従来の抜き取り検査と比較して、優先して広く使用されているとは言えなかった。ポリオレフィン樹脂の製造分野においても、従来、ソフトセンサーが用いられることはなかった。
こうした状況下に、別途MFR分析機器を設置せずに、且つ樹脂特性値を用いずに、造粒機内のポリオレフィン樹脂のMFRをオンライン分析値として非安定時においても精度良く瞬時に推測でき、推測されたMFRを用いて安定的に所望の運転状態を実現・維持できるポリオレフィン樹脂の造粒システムの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−192989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点に鑑み、別途MFR分析機器を設置せずに、造粒機内のポリオレフィン樹脂のMFRをオンライン分析値として精度良く瞬時に推測でき、推測されたMFRを用いて安定的に所望の運転状態を実現・維持できるポリオレフィン樹脂の造粒システム及びそれを用いた造粒方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、造粒機内のポリオレフィン樹脂の推測MFRをオンライン分析値として算出できるソフトセンサーを具備し、該ソフトセンサーには、造粒機の運転データの中から選ばれる少なくとも1つの所定の運転データが用いられるポリオレフィン樹脂の造粒システムを構築したところ、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリオレフィン樹脂原料を造粒機に供給して造粒するシステムであって、
造粒機内のポリオレフィン樹脂の推測MFRをオンライン分析値として算出できるソフトセンサーを具備し、
その際、該ソフトセンサーには、造粒機の運転データの中から選ばれる少なくとも1つの所定の運転データが用いられることを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システムが提供される。
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記推測MFRは、JIS−K−7210に準拠して測定したMFRの推測値であることを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システムが提供される。
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または2の発明において、前記所定の運転データは、造粒機の各運転データと、造粒機内のポリオレフィン樹脂を分析して得られた実測MFR(JIS−K−7210に準拠して測定)との相関係数を用いて選択決定されることを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システムが提供される。
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記ソフトセンサーは、前記所定の運転データを用いた回帰分析により、前記推測MFRを算出することを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システムが提供される。
【0013】
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、前記推測MFRは、以下の式により算出されることを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システムが提供される。
【0014】
【数1】

ただし、上記式中、yは推測MFR、aは所定の係数、xは所定の運転データの数値、bは所定の定数、mは1以上の自然数、Mは所定の運転データの項目数、Zは補正係数である。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記所定の運転データの項目数は、2または3であることを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システムが提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、前記推測MFRを用いて、前記ポリオレフィン樹脂原料の重合工程の重合条件及び/又は前記造粒機の運転条件を調整する手段を有することを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システムが提供される。
【0017】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、前記ポリオレフィンは、ポリプロピレンまたはポリエチレンであることを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システムが提供される。
【0018】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、前記ポリオレフィン樹脂原料は、無機系添加剤を前記ポリオレフィン樹脂原料全体を基準として5重量%未満含有することを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システムが提供される。
【0019】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明において、前記ポリオレフィン樹脂原料は、タルクが無添加であることを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システムが提供される。
【0020】
また、本発明の第11の発明によれば、第1〜10のいずれかの発明のシステムを用い、ポリオレフィン樹脂原料を造粒することを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリオレフィン樹脂の造粒システム及びそれを用いた造粒方法によれば、第1の発明においては、造粒機内のポリオレフィン樹脂の推測MFRをオンライン分析値として算出できるソフトセンサーを具備するポリオレフィン樹脂の造粒システムにより、別途MFRの分析機器を設置する必要がなく、したがって、MFRの分析機器の保守点検も必要ない上に、造粒されたポリオレフィン樹脂のMFRをほぼ正確に精度良く瞬時に推測できるという効果がある。また、既存のシステムに適用する場合でも、別途機器を設置する必要がないため、導入コストを抑えられるという効果がある。
【0022】
また、第2の発明においては、前記推測MFRは、JIS−K−7210に準拠して測定したMFRの推測値であるポリオレフィン樹脂の造粒システムにより、従来の分析装置により得られるMFRと同様のものが得られるため、従来の分析装置が不要となる上に、容易に導入できるという効果がある。
【0023】
また、第3の発明においては、前記所定の運転データは、造粒機の各運転データと、造粒後のポリオレフィン樹脂を分析して得られた実測MFRとの相関係数を用いて選択決定されることにより、ポリオレフィン樹脂の造粒分野において、ソフトセンサーを適用することが可能となり、造粒機内のポリオレフィン樹脂のMFRをほぼ正確に推測できるという効果がある。
【0024】
また、第4の発明においては、前記所定の運転データを用いた回帰分析により、前記推測MFRを算出することにより、造粒機内のポリオレフィン樹脂のMFRをほぼ正確に推測できるという効果がある。
【0025】
また、第5の発明においては、前記推測MFRは、前記の式により算出されることにより、造粒機内のポリオレフィン樹脂のMFRをほぼ正確に推測できるという効果がある。
【0026】
また、第6の発明においては、前記所定の運転データの項目数は、2または3であることにより、重回帰分析により、造粒機内のポリオレフィン樹脂のMFRをほぼ正確に推測できるという効果がある。
【0027】
また、第7の発明においては、前記推測MFRを用いて、前記ポリオレフィン樹脂原料の重合工程の重合条件及び/又は前記造粒機の運転条件を調整する手段を有することにより、推測されたMFRを用いて安定的に所望の運転状態を実現・維持できるという効果がある。
【0028】
また、第8の発明においては、前記ポリオレフィンは、ポリプロピレンまたはポリエチレンであることにより、より正確な推測MFRを得ることができるという効果がある。
【0029】
また、第9の発明においては、前記ポリオレフィン樹脂原料は、無機系添加剤を特定量含むことにより、より正確な推測MFRを得ることができるという効果がある。
【0030】
また、第10の発明においては、前記ポリオレフィン樹脂原料は、タルクが無添加であることにより、より正確な推測MFRを得ることができるという効果がある。
【0031】
また、第11の発明においては、上記第1〜10の発明のシステムを用いることにより、別途MFR分析機器を設置せずに、造粒機内のポリオレフィン樹脂のMFRをほぼ正確に瞬時に推測でき、推測されたMFRを用いて安定的に所望の運転状態を実現・維持できる造粒方法であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の造粒フローの一例を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の造粒システムの一例を示す概略図である。
【図3】図3は、本発明における造粒機の運転データ項目の相関係数(標準偏回帰係数)の一例を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明において、推測MFRとPCR指示値を比較した例を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明において、実測MFR、推測MFR及びオンラインMFR分析装置(PCR)によるMFRを比較した例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 ホッパー
2 混練押出機
3 ダイプレート
3a 冷却室
4 カッター
5 ペレット冷却水ポンプ
6 冷却水タンク
7 ペレット乾燥機
8 振動ふるい器
9 ペレット搬送用ブロワー
10 製品サイロ
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明のポリオレフィン樹脂の造粒システム及びそれを用いた造粒方法について、各項目ごとに詳細に説明する。
本発明のポリオレフィン樹脂の造粒システムは、ポリオレフィン樹脂原料を造粒機に供給して造粒するシステムであって、造粒機内のポリオレフィン樹脂の推測MFRをオンライン分析値として算出できるソフトセンサーを具備し、その際、該ソフトセンサーには、造粒機の運転データの中から選ばれる少なくとも1つの所定の運転データが用いられることを特徴とする。また、本発明のポリオレフィン樹脂の造粒方法は、前記のシステムを用いることを特徴とする。
【0035】
1.造粒システム
(1)造粒機
本発明のシステムは、ポリオレフィン樹脂原料を造粒機に供給して造粒するシステムであって、特定のソフトセンサーを具備することを特徴とする。
造粒機とは、粉体や粉体を溶かした溶融物等を原料として、使用目的に適合した均一な大きさの粒状物(ペレット)を製造するための装置である。本発明では、押出混練機とペレット化を行うペレタイザが連続して行われる連続混練造粒機が、推測MFRを精度良く得られる傾向があることから、好ましい。
【0036】
本発明の造粒機及びこれを用いた造粒フローの一例を図1に示す。
図1において、ポリオレフィン樹脂原料は、ホッパー1から混練押出機2に供給される。この際、必要な他の樹脂や添加剤が共に供給される場合がある。これらの原料は押出混練機2にて、強い剪断力が加えられて、通常溶融する。このとき、添加剤等の混合・分散も同時に行われる。溶融した樹脂は、ギヤポンプで昇圧され、スクリーンチェンジャに送られて不純物が除去される。次に、溶融ポリオレフィンは、ダイプレート3側から押し出される。
混練押出機2の先端には多数のノズルが穿設されたダイプレート3が装着されており、このノズルは、冷却水タンク6から冷却水ポンプ5によって供給される冷却水が循環する冷却室3aに連通されている。ノズルから押出された溶融ポリオレフィンは、冷却水によって冷却され固化しながらカッター4によって裁断される。カッター4には回転刃が装着されており、カッター4の回転数によって切断時間の間隔を任意に制御することができるように構成されている。固化し、切断された樹脂ペレットは、ペレット乾燥機7で冷却水と分離され、振動ふるい器8で規格外の形状の粒子が除去されたのち、ペレット搬送用ブロワー9によって製品サイロ10に搬送されて貯留される。
樹脂ペレットは、通常、碁石を小さくした形でφ3〜4mm×2〜3mm(長さ)程度の大きさとなって水室内に放出され、先述した方法で輸送並びに冷却され、最終的に脱水、乾燥されて製品となる。
【0037】
(2)ソフトセンサー
(i)所定の運転データ
本発明においては、ポリオレフィンの造粒において、造粒機の運転データを用いて造粒機内のポリオレフィンのMFR等の推測溶融流動性をオンライン分析値として算出できるソフトセンサーを使用することが必要である。
なお、熱可塑性材料の溶融流動性の尺度としては、「メルトフローレート(MFR)」、「メルトボリュームレート(MVR)」等が挙げられる。
【0038】
ソフトセンサーとは、前述したように、比較的容易にオンライン測定される変数の測定値から、目的とする状態量を数学的に算出するものである。
なお、本発明において、「実測MFR」とは、造粒機内のポリオレフィン樹脂を実際に分析して得られるMFRをいい、「推測MFR」とは、ソフトセンサーにより算出されたMFRをいうものとする。
【0039】
また、前記推測MFRは、目的とする測定条件に応じた値を算出することができる。すなわち、ポリオレフィン樹脂原料において、樹脂毎またはグレード毎に実測MFRの測定条件が異なる場合であっても、推測MFRは、該測定条件に対応した値を算出することができる。
本発明においては、ポリオレフィン樹脂原料を用いるため、推測MFRは、JIS−K−7210に準拠して測定したMFRの推測値とすることができる。例えば、JIS−K−7210付属書Aに規定されている試験条件である、条件M(230℃、荷重21.18N(2.16kg))、条件E(190℃、荷重3.18N(0.325kg))、条件D(190℃、荷重21.18N(2.16kg))、条件T(190℃、荷重49.03N(5.00kg))または条件G(190℃、荷重211.83N(21.60kg))のいずれかに準拠して測定したMFRの推測値とすることができる。
【0040】
本発明における、造粒機の運転データとは、造粒機を運転する際の各種設定であり、例えば、各部分の温度、圧力、モーターへの電力、電圧、カッター回転数等である。造粒機にもよるが、これらの運転データは、多くは調整により変更することができ、また、オンラインで、多くはリアルタイムに、データを取得することができる。
【0041】
本発明の造粒システムにおける、造粒機の運転データの一例を図2に示す。
図2において、TIは温度指示計、PIは圧力指示計、AIは電流指示計である。図2に示す造粒機において、樹脂温度、樹脂圧力、造粒機動力等の、数十項目の運転データをリアルタイムに得ることができる。これらのデータは、例えば、造粒機に付属している分散制御システム(DCS、Distributed Control System)によって、取得、制御することができる。
これらの運転データのうち、所定の運転データとして、少なくとも1項目の運転データを選択決定し、この所定の運転データを用いて、造粒機内のポリオレフィン樹脂の推測MFRを得る。
【0042】
本発明において、所定の運転データの選択決定は、以下のようにして行う。
つまり、過去の各運転データと、造粒機内のポリオレフィンを抜き取り検査して得たMFRとの相関係数を算出する。MFRの測定条件は特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂原料の場合、JIS−K−7210に準拠し、測定する。
相関係数の算出方法は、統計手法によって算出した標準偏回帰係数により行う。そして、MFRとの相関が高い運転データの項目を1または複数選択する。
図3は、各運転データ項目の相関係数(標準偏回帰係数)の一例を示したグラフである。例えば、この場合、四角で囲まれた、「造粒機温度5」、「造粒機圧力1」及び「造粒機混練動力1」の3項目の運転データを、「所定の運転データ」としている。
【0043】
(ii)MFR推算式
次に、選択された運転データを用いて、統計モデルを選択・使用し、MFR推算式を作成する。
上記統計モデルは、特に限定されず、線形モデル、非線形モデル、ニューラルネットワークモデル等、通常のソフトセンサー構築に利用される統計モデルが利用できるが、モデル構築の簡易さから、線形モデルが好ましい。
線形モデルを利用する場合、運転データの項目が1の場合は、単回帰分析により、MFR推算式を作成し、運転データの項目が2の場合は、重回帰分析モデルを利用することができる。
本発明の推測MFRを得るソフトセンサーの場合、精度良く推測できることから、運転データの項目数は、2または3であることが好ましい。なお、重回帰分析モデルは、各入力変数が無相関であることを前提としているため、運転データの項目数が複数である場合は、それぞれの運転データの相関は低いことが好ましい。
上記のように、利用する統計モデルを選択し、運転データから推測MFRを計算する式を作成する。MFR推算式は、前述のような試運転を行い、MFR推算式により算出された推測MFR値と、実測MFR値とを用いて、MFR推算式の各種係数等を決定する調整を行い、最終的にMFR推算式を決定する。
【0044】
本発明の推測MFRを得るソフトセンサーの場合、運転データの項目数は2または3であることが好ましく、重回帰分析モデルを利用することが好ましいことから、MFR推算の一般式としては、以下の式が好ましい。
【0045】
【数2】

ただし、上記式中、yは推測MFR、aは所定の係数、xは所定の運転データの数値、bは所定の定数、mは1以上の自然数、Mは所定の運転データの項目数、Zは補正係数である。
【0046】
上記各種係数は、以下のようにして決定することができる。
及びbは、選択決定した運転データと実測MFRから統計手法である重回帰分析を行い、決定する。Zは、実測MFRと推算MFRの絶対値の乖離を解消する為の補正係数であり、都度各グレードの実測MFRから算出し、決定する。
【0047】
このようにして得られたMFR推算式による推測MFRは、実測MFRと、経時的な挙動及び絶対値が実測MFRとほぼ同じとなることが好ましい。推測MFRと実測MFRとの値が一致しない場合や、挙動が異なる場合は、モデルの変更、MFR推算式の変更及び補正係数Zの再算出を行う。MFR推算式を変更する場合、運転データの項目を変更する、運転データの項目数を増やす、係数を変更する等を行う調整をし、最終的に、実測MFRと、経時的な挙動及び絶対値が実測MFRとほぼ同じとなるMFR推算式を決定する。
また、造粒機の運転条件を大きく変えた場合には、推測MFRと実測MFRとの値が一致しなくなったり、挙動が一致しなくなったりする場合がある。この場合にも、補正係数Zの再算出やMFR推算式を作成しなおすことが好ましい。上記運転条件としては、押出混練機の回転数等が挙げられる。
【0048】
(iii)DCS
本発明において、上記推測MFRは、例えば、図2に示したように、造粒機に付属している分散制御システム(DCS、Distributed Control System)において、上記MFR推算式を導入して、リアルタイムに算出させることができる。
【0049】
(3)フィードバック
本発明においては、推測MFRを、従来のオンラインMFR測定装置を用いて得られていたオンライン分析値と同様の、オンライン分析値として用いることができる。したがって、従来、オンライン分析値を用いて行っていたこと、つまり、重合工程の重合条件や造粒機の運転条件の調整等を、推測MFRを用いて、同様に行うことができる。例えば、造粒機の運転条件は、前述した造粒機の運転データのうち、任意に設定できる項目を変更することにより調整される。
そして、本発明のシステムにおいては、ポリオレフィン樹脂原料の重合工程の重合条件や造粒機の運転条件を調整する手段を有することが好ましい。調整手段は、上述したDCS等の、通常用いられる方法を使用することができる。これにより、リアルタイムに精度良くポリオレフィン樹脂原料の重合工程の重合条件や造粒機の運転条件を調整することができるため、安定的に所望の運転状態を実現・維持でき、エネルギーやコストの節約、品質の高い製品をより多く製造できるなど、産業上有用である。
【0050】
2.ポリオレフィン樹脂原料
本発明のシステムに用いられるポリオレフィン樹脂原料としては、ポリオレフィン樹脂であれば限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン−1、もしくはこれらの混合物等が挙げられる。これらのうち、好ましくはポリエチレン、またはポリプロピレン、もしくはこれらの混合物である。
【0051】
ポリエチレンとしては、エチレン単独重合体、またはエチレンと他の重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。
エチレンと共重合する他の重合性モノマーとしては、炭素数3〜8のα−オレフィンが挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチルペンテン−1、4−メチルヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等が挙げられる。エチレンとα−オレフィンとの共重合体におけるエチレン含量は、好ましくは70〜99重量%である。
さらに、他の重合性モノマーとしては、酢酸ビニル、ビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等も挙げられる。
【0052】
このようなポリエチレンの具体例としては、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレンービニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレンーアクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体等が挙げられる。
【0053】
上記ポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体、またはプロピレンとエチレンもしくは炭素数4〜8のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。該共重合体としては、ランダム共重合体またはブロック共重合体のいずれでもよい。α−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチルペンテン−1、4−メチルヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等が挙げられる。プロピレンとα−オレフィンとの共重合体におけるプロピレン含量は、好ましくは94〜99.5重量%である。
【0054】
このようなポリプロピレンの具体例としては、ホモポリプロピレン、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0055】
また、本発明におけるポリオレフィン樹脂として、上述したポリエチレンとポリプロピレンとの混合物、例えば前記低密度ポリエチレンとプロピレン・エチレンランダム共重合体との混合物などを挙げることもできる。その場合、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の混合比率は、ポリエチレン系樹脂:ポリプロピレン系樹脂=2〜25:98〜75(重量比)程度が好ましい。
【0056】
本発明において、ポリオレフィン樹脂のMFRは、特に限定されないが、好ましくは、MFRはJIS−K−7210に準拠して測定したときの値が、ポリエチレンについては0.1〜100g/10分(190℃、荷重21.18N)、ポリプロピレンについては1.5〜80g/10分(230℃、荷重21.18N)である。ポリオレフィン樹脂のMFRがこの範囲内であればMFRが精度良く推定できる傾向があるという利点がある。
【0057】
本発明においてポリオレフィン樹脂は、タルク、酸化珪素等の無機添加剤を、1種または2種以上添加したものであってもよいが、添加量は、ポリオレフィン樹脂全体に対して、無機添加剤全体として5重量%未満であることが好ましい。より好ましくは、1重量%未満である。さらには、無機系添加剤であるタルクは無添加であることが、より好ましい。
無機添加剤を5重量%未満含むものや、タルクが無添加のポリオレフィン樹脂の造粒に本発明を用いると、推測MFRの変動、推測MFRと実測MFRとの乖離が無い傾向があり、好ましい。
また、本発明においては、上述したように、造粒機の押出混練機において、必要な他の樹脂や添加剤が共に供給される場合がある。添加剤としては、通常ポリオレフィン樹脂に使用されるものを用いることができる。
【0058】
3.ポリオレフィン樹脂の造粒方法
本発明のポリオレフィン樹脂の造粒方法は、上述したポリオレフィンの造粒システムを用いることを特徴とする。
【0059】
以上の通り、本発明の最大の特徴は、ポリオレフィン樹脂の造粒工程において、ソフトセンサーを用いることにより造粒機内のポリオレフィン樹脂のMFRを得る点にある。このことにより、前記の本発明が解決しようとする課題が解決できる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、これによって限定されるものではない。
なお、実施例に於ける各種物性の測定は、下記要領に従った。
【0061】
[測定方法]
(1)実測MFR
実測MFRは、JIS−K−7210(230℃、21.18N荷重)に準拠して測定した。
【0062】
[ポリオレフィン原料]
表1に示すとおり、プロピレンの単独重合体により得られたポリプロピレンパウダーと各種添加剤とを用いた原料、エチレンの単独重合体により得られたポリエチレンパウダーと各種添加剤とを用いた原料、及び、プロピレンとエチレンやブテンとの共重合体により得られたポリプロピレンパウダーと各種添加剤とを用いた原料を、グレード名を付して区別し、造粒の際のポリオレフィン原料とした。
【0063】
[実施例及び比較例]
表1に示す各種グレードにつき、2軸混練機及び押出機を用いて造粒を行った。
この際、ソフトセンサーによる推測MFRの算出を行った(実施例1)。同時に、オンラインMFR分析装置であるPCR(Process Control Rheometer)により、造粒機内のポリマーのMFRを測定し、「PCR指示値」とした(比較例1)。
【0064】
ソフトセンサーによる推測MFRの算出は、以下のように行った。
過去の造粒機周辺運転データと実測MFRから、統計手法によって標準偏回帰係数(他の変数との影響度の優劣を比較できる係数)を算出し、実測MFRと相関(標準偏回帰係数)の大きい運転データを抽出し、「所定の運転データ」を決定した。
詳細には、図3に示すとおり、過去の造粒機周辺運転データとして、25項目の造粒機周辺運転データを取りあげ、これらの運転データと実測MFRとの相関を算出した。これらのうち、図3において四角で囲まれた、「造粒機温度5」、「造粒機圧力1」及び「造粒機混練動力1」の3項目の運転データを、「所定の運転データ」とした。
【0065】
上記にて選択決定した所定の運転データと、実測MFRとから、重回帰分析(最小2乗法)し、推算式及び各係数(a、b、c及びd)を決定した。補正係数Z(実測MFR(絶対値)との乖離解消の為の数値)は、都度各グレード生産時に微妙に変化する事から、最低限測定を行う実測MFRとその時の推測MFRとの差から算出、決定した。
算出式は以下のものを用いた。
MFR=exp(a×「造粒機温度5」+b×「造粒機圧力1」+c×「造粒機混練動力1」+d)+Z
補正係数Zは、表1に示すように、各グレード別にそれぞれ決定されたものを使用した。
【0066】
図4は、数種のグレードにおいて、上記算出式によりリアルタイムで算出された推測MFRと、PCR指示値とを比較したグラフの一例である。図4から明らかなように、推測MFRは、それぞれ、実測MFRと、どの時点においてもほぼ一致した。なお、図4において、実測MFRと推測MFRが乖離する箇所は、推測MFR算出式において、補正係数Z適用前の算出式を用いた箇所である。
また、具体的には、推測MFRの算出は、造粒機に付属するDCSにより行った。そして、この全期間において、推測MFRはリアルタイムに問題なく得ることができた。
【0067】
【表1】

【0068】
3ヶ月の期間にわたり、各グレードについて実測MFR、ソフトセンサーによる推測MFR(実施例1)及びオンラインMFR分析装置によるMFRである「PCR指示値」(比較例1)を比較した例を、図5に示した。
図5からも明確なように、比較例1においては、PCRの不具合が発生した期間が生じ、この間は、実測MFR測定頻度を増加して生産を継続する必要があった。
したがって、PCRのみを用いた比較例1においては、ソフトセンサーを用いた実施例1と比較して、PCR自体の定期メンテナンス及びPCR運転ソフト等の不具合によるメンテナンスが別途必要であり、PCRのメンテナンス時は、造粒機内の製品の実測MFR測定頻度を増加して生産を継続したため、メンテナンス費用等が発生した。
【0069】
[評価]
以上から明らかなように、本発明の造粒システムの特定事項である「造粒機内のポリオレフィン樹脂の推測MFRをオンライン分析値として算出できるソフトセンサーを具備する」との要件を満たさない方法による比較例1によるものは、通常の運転において、オンラインMFR測定器の不具合により測定ができなくなる事や定期メンテナンスにより、メンテナンス費用やその他の費用が発生したのに対し、本発明による実施例1では、実測MFRと推測MFRが、それぞれ、どの時点においてもほぼ一致し、推測MFRを従来のオンライン分析値と同様に使用できた。しかも、推測MFRは従来のオンライン分析値よりも短期間で得られる上に、グレードを変化させた運転や、非定常時の運転においても、全期間において、実測MFRとほぼ一致する推測MFRが得られ、また、運転全期間において、ソフトセンサーに関する不具合は全くなく、メンテナンス費用が削減できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したとおり、本発明は、造粒機内のMFRを得るための手段としてオンライン溶融流動性分析機器を用いた従来の技術と異なり、分析機器の保守点検が不要であり、分析結果をリアルタイムで得ることができ、かつ分析ノイズがないという特徴を有し、安定的に所望の運転状態を実現・維持することが可能であるポリオレフィン樹脂の造粒システム及び造粒方法であるため、大きな技術的意義を持つことが明らかである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂原料を造粒機に供給して造粒するシステムであって、
造粒機内のポリオレフィン樹脂の推測メルトフローレート(MFR)をオンライン分析値として算出できるソフトセンサーを具備し、
その際、該ソフトセンサーには、造粒機の運転データの中から選ばれる少なくとも1つの所定の運転データが用いられることを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒システム。
【請求項2】
前記推測MFRは、JIS−K−7210に準拠して測定したMFRの推測値であることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン樹脂の造粒システム。
【請求項3】
前記所定の運転データは、造粒機の各運転データと、造粒機内のポリオレフィン樹脂を分析して得られた実測MFR(JIS−K−7210に準拠して測定)との相関係数を用いて選択決定されることを特徴とする請求項1または2に記載のポリオレフィン樹脂の造粒システム。
【請求項4】
前記ソフトセンサーは、前記所定の運転データを用いた回帰分析により、前記推測MFRを算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリオレフィン樹脂の造粒システム。
【請求項5】
前記推測MFRは、以下の式により算出されることを特徴とする請求項4に記載のポリオレフィン樹脂の造粒システム。

(式中、yは推測MFR、aは所定の係数、xは所定の運転データの数値、bは所定の定数、mは1以上の自然数、Mは所定の運転データの項目数、Zは補正係数である。)
【請求項6】
前記所定の運転データの項目数は、2または3であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン樹脂の造粒システム。
【請求項7】
前記推測MFRを用いて、前記ポリオレフィン樹脂原料の重合工程の重合条件及び/又は前記造粒機の運転条件を調整する手段を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリオレフィン樹脂の造粒システム。
【請求項8】
前記ポリオレフィンは、ポリプロピレンまたはポリエチレンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリオレフィン樹脂の造粒システム。
【請求項9】
前記ポリオレフィン樹脂原料は、無機系添加剤を前記ポリオレフィン樹脂原料全体を基準として5重量%未満含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリオレフィン樹脂の造粒システム。
【請求項10】
前記ポリオレフィン樹脂原料は、タルクが無添加であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリオレフィン樹脂の造粒システム。
【請求項11】
請求項1〜10記載のシステムを用い、ポリオレフィン樹脂原料を造粒することを特徴とするポリオレフィン樹脂の造粒方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−245742(P2011−245742A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121212(P2010−121212)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】