説明

ポリグリコールで修飾されたキトサンオリゴ糖脂肪酸グラフト体、その調製方法およびその使用

式(I)の構造単位および式(II)の構造単位を有するポリグリコールで修飾されたキトサンオリゴ糖脂肪酸グラフト体、ならびにその調製方法が提供され、ここで、該キトサンオリゴ糖の分子量は、200,000未満であり、脱アセチル化度は70%〜100%であり、キトサンオリゴ糖鎖上の遊離アミノの一部は脂肪酸またはポリグリコールで置換され、nはポリグリコールの重合度であり、Rは11〜21個の炭素原子を有するアルキルであり、脂肪酸のグラフト化率は1%〜50%であり、かつポリグリコールのグラフト化率は0.05%〜50%である。さらに、担体としてポリグリコールで修飾されたキトサンオリゴ糖脂肪酸グラフト体を含む医薬組成物、および医薬組成物の製造におけるポリグリコールで修飾されたキトサンオリゴ糖脂肪酸グラフト体の使用が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾された脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖、該PEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の合成方法、それからなる医薬製剤、および医薬組成物の調製におけるPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物自体のin vivoでの生物学的輸送能力に拘束されて、薬物は、その物理化学的特性に応じて、体循環を介して病巣組織、病巣細胞、およびその細胞内オルガネラ中のその標的に輸送されて、その有効性を発揮するはずである。しかし、現存薬物の生物薬剤学的および薬物動力学的特徴により、明らかに、それらの薬物は、病理組織および健常組織に対する特異性に欠けている。満足な治療効果を達成するには、より多くの薬物投与量が要求され、そのような投与量は、薬物毒性/副作用の発生をもたらし、それによって該薬物の臨床的応用を制限する。
【0003】
標的療法は、上記の諸問題を解決するのに最も有効な手段の1つである。薬物の分子標的は、病巣組織の細胞中に主として集中され、酵素が50%を占め、受容体が35%を占め、イオンチャネルが15%を占める。薬物の治療効果は、分子標的に対する占拠効果を介して主として提供される。例えば、細胞障害性抗癌薬の分子標的の大部分は、腫瘍細胞の核中に主として存在するDNA(マイトマイシンC,ドキソルビシン、カンプトテシンなど)、または細胞質中に存在する微小管タンパク質(パクリタキセル、ビンブラスチンなど)である。遺伝子治療薬の分子標的は、また、核中のプラスミドDNAおよび細胞質中のsiRNAのように、標的細胞の細胞質または核中に存在する。抗ウイルス薬の分子標的は、また、標的細胞の核または細胞質中に存在する。適切な担体技術を介して薬物を病理学的組織(器官)および細胞に直接的に標的化することは、低有効性および毒性/副作用の問題を解決する重要な手段の1つである。最近、国内および国外で、抗腫瘍薬を組織(器官)および細胞に標的化することに関するいくつかの進歩が、担体技術によってなされてきたが、治療効果の飛躍的進歩は得られていない。問題の本質は、抗癌薬のための分子標的の大部分が細胞内部に存在することである。したがって、腫瘍細胞内の分子標的箇所(細胞内オルガネラ)に標的化する薬物担体の材料に関する研究および開発は、癌化学療法のボトルネックを打破するための鍵である。
【0004】
標的担体の設計は、薬物の分子標的に対する細胞内オルガネラへの標的化効果を達成するために、病巣器官への担体の標的化効果、およびそれに基づいた病巣器官全域での病巣細胞の標的化効果に主として関連付けられる。薬物の組織または器官への初期の標的化では、小さい粒子サイズの微粒子を使用して、肝臓などの器官に受動的に導き、腫瘍組織への集中は、高められた浸透性および保持効果を介して達成される。最近、腫瘍細胞表面の特定の受容体(葉酸受容体など)の過剰発現特性に基づいて、リガンドで修飾された担体材料が、癌標的療法に首尾よく適用されて、腫瘍細胞への標的化を達成し、抗癌薬の細胞内集中を向上させ、かつ抗癌薬自体の有効性を増強している。
【0005】
最近、ポリマーミセルが、薬剤学および生物医学の分野で広範な注目を引いている。ポリマーミセルは、両親媒性ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーから水性媒体中で自己集合により形成され、コア−シェル構造を有する。ポリマーミセルでは、疎水性部分および親水性部分が、それぞれ、ミセルのコアおよびシェルを形成する。疎水性のコアは、貧水溶性薬物として役立つことができる。外側の親水性膜は、水性環境中でミセルの安定性を維持し、かつ物理および化学的特性を修飾してミセルの活性な標的化効果などの特定の目的を達成できる。
【0006】
ポリマーミセルは、薬物送達系として多くの利点を有する。それは、溶解度、pH値、ゼータ電位などの材料特性を調節することによって、in vivoでの薬物放出を制御することができる。ミセルの粒子サイズはかなり小さいので、それは、血液脳関門および細網内皮系を通って浸透できるだけでなく、胃腸粘膜などでの吸収を促進することができ、その結果、サイズの大きな粒子が通過できない場所に到達し、それによって、受動的標的化の目的を達成する。ポリマーミセル骨格の保護および遮蔽効果は、薬物が分解されることをある程度まで防止し、薬物の安定性を維持し、かつ薬物の毒性を低減することができる。リポソームに比較して、ポリマーミセルの薬物装填量は、相対的により多い。ポリマー材料の多様性は、ポリマーを担体として使用し、それによって各種の応用分野の要求を満たす多様な医薬製剤の製造に好都合である。
【0007】
薬物担体の親水性PEG化は、担体上への血漿タンパク質の吸着および薬物担体のマクロファージによる貧食作用の双方を低下させ、それによって、循環系中での担体の半減期を延長させることができると報告されている。この基本原理により、ポリマーミセルの親水性シェルのPEG化は、ポリマーミセルの血漿タンパク質のオプソニン化を低減し、それによって、マクロファージによるポリマーミセルの取込みを低減し、かつ血漿からのポリマーミセルの排除を遅らせることができる。腫瘍組織中でのポリマーミセルの受動的標的化は、高められた浸透性および保持効果を介してさらに改善できる。一方、他の器官および組織への活性な標的化は、リガンド−または抗体−修飾によって実行できる。
【0008】
本発明において、本発明者らの以前の研究を基礎にして、急速な細胞内取込みおよびオルガネラへの標的化効果を示す脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを採用して、PEGでの表面修飾を実施し、細網内皮系の識別を回避できる、長期循環性の脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を合成した。このような脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、抗癌薬、遺伝子治療薬、抗ウイルス薬等々の調製および応用に適用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
in vivoでの標的化、および薬学的に活性な成分の吸収を向上させるために、本発明は、ポリマーミセルを形成することによって薬学的に活性な成分のin vivoでの放出を制御し、薬物の能動的および受動的標的化を達成し、薬物が分解されるのをある程度まで防止し、薬物の安定性を維持し、かつ薬物の毒性/副作用を低減することができる、PEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を提供する。PEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、抗癌薬、遺伝子治療薬、薬物などの各種薬物の調製で薬物担体として応用できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、次式(I)で表される構造単位および次式(II)で表される構造単位を含むことができ、ここで、キトサンオリゴ糖鎖の遊離アミノ基の一部は、12〜22個の炭素原子を有する脂肪酸または1,000〜10,000の分子量を有するPEGで置換されている。式中、nはPEGの重合度を表し、Rは、11〜21個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖において、脂肪酸のグラフト化率は1%〜50%、PEGのグラフト化率は0.05%〜50%である、
脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、キトサンオリゴ糖鎖中の遊離アミノ基の一部が脂肪酸で置換されているオリゴマーを指す。脂肪酸は、12〜22個の炭素原子を有する飽和または不飽和の脂肪酸でよい。他方で、脂肪酸は、また、12〜22個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の脂肪酸でよい。加えて、脂肪酸は、好ましくは、12〜20個の炭素原子、12〜18個の炭素原子、14〜22個の炭素原子、16〜22個の炭素原子、14〜20個の炭素原子、または16〜18個の炭素原子を有する。好ましくは、脂肪酸は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ドコサン酸、またはそれらの任意の混合物から選択できる。
【0013】
本発明中で使用されるキトサンオリゴ糖は、N−アセチルグルコサミンまたはグルコサミンが、β−1,4−グリコシド連結を介して連結されたキトサンを分解することによって得ることができる。例えば、キトサンオリゴ糖は、200,000未満の分子量、および70%〜100%の脱アセチル化度を有するものでよい。好ましくは、キトサンオリゴ糖の脱アセチル化度は、80%〜100%でよく、中でも90%〜100%が好ましく、および、70%〜80%、または70%〜90%でもよい。
【0014】
本発明中で使用されるキトサンオリゴ糖は、好ましくは、100,000未満、より好ましくは50,000未満、最も好ましくは5,000未満の分子量を有する。他方で、本発明中で使用されるキトサンオリゴ糖は、好ましくは、500を超える、より好ましくは1,000を超える、最も好ましくは2,000を超える分子量を有する。例えば、キトサンオリゴ糖の分子量は、500〜100,000、500〜50,000、500〜5,000、1,000〜100,000、2,000〜100,000、1,000〜50,000、または2,000〜5,000でよい。
【0015】
本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖において、脂肪酸のグラフト化率は、1%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらにより好ましくは15%以上、最も好ましくは20%以上である。他方で、脂肪酸のグラフト化率は、50%以下、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下,さらにより好ましくは35%以下、最も好ましくは30%以下である。例えば、脂肪酸のグラフト化率は、1%〜50%、5%〜50%、10%〜50%、15%〜50%、20%〜50%、1%〜45%、1%〜40%、1%〜35%、1%〜30%、5%〜45%、10%〜40%、15%〜35%、または20%〜30%でよい。
【0016】
本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖において、PEGのグラフト化率は0.05%以上、好ましくは0.1%以上、より好ましくは1.0%以上、さらにより好ましくは5.0%以上、最も好ましくは10.0%以上である。他方で、PEGのグラフト化率は、50%以下、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下、さらにより好ましくは35%以下、最も好ましくは30%以下である。例えば、PEGのグラフト化率は、0.05%〜50%、0.5%〜50%、1.0%〜50%、5.0%〜50%、10.0%〜50%、0.1%〜45%、0.1%〜40%、0.1%〜35%、0.1%〜30%、0.5%〜45%、1.0%〜40%、5.0%〜35%、または10.0%〜30%でよい。
【0017】
本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖において、PEGの分子量は、1,000以上、好ましくは1,500以上、より好ましくは2,000以上、さらにより好ましくは2,500以上、最も好ましくは3,000以上である。他方で、PEGの分子量は、10,000以下、好ましくは9,500以下、より好ましくは9,000以下、さらにより好ましくは8,000以下、最も好ましくは7,000以下である。例えば、PEGの分子量は、1,000〜10,000、1,500〜10,000、2,000〜10,000、2,500〜10,000、3,000〜10,000、1,000〜9,500、1,000〜9,000、1,000〜8,000、1,000〜7,000、1,500〜9,500、2,000〜9,000、2,500〜8,000、または3.000〜7,000でよい。
【0018】
本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖をPEGで修飾することによって調製できる。典型的な調製方法は、次のステップを含むことができる:
(a)キトサンを酵素の存在下で分解して、200,000未満の分子量を有するキトサンオリゴ糖を得るステップ;
(b)該キトサンオリゴ糖を、架橋用カップリング剤の存在下で12〜22個の炭素原子を有する脂肪酸とカップリングさせて、脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得るステップ;
(c)PEGの分子量が1,000〜10,000である末端置換PEGを、脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖とカップリングさせて、PEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得るステップ。
【0019】
上記ステップ(a)において、キトサンの分解は、当技術分野で周知の方法で実施することができる。例えば、分解中に使用される酵素はセルラーゼでよい。さらに、酵素のキトサンに対する質量比率は、0.05〜5.0:100でよい。分解は、50〜65℃の温度および4.0〜6.0のpH値で実施できる。分解完了後、分離または精製は、当技術分野で周知の方法で実施することができる。例えば、限外濾過膜を使用して限外濾過を行うことができ、得られる濾液を凍結乾燥して、200,000未満の分子量を有するキトサンオリゴ糖を得る。
【0020】
上記ステップ(b)において、キトサンと脂肪酸とのカップリングは、当技術分野で周知の方法で実施することできる。例えば、該ステップで使用される架橋用カップリング剤は、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBTと略記)、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリス(ジメチルアミノ)−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOPと略記)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCCと略記)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCと略記)などの当技術分野で周知のもののいずれかでよい。加えて、キトサン、脂肪酸、および架橋用カップリング剤のモル比は、1:1〜50:1〜50でよい。キトサンと脂肪酸とのカップリングは、4〜90℃の温度で実施することができる。カップリングの完了後、分離または精製を、当技術分野で周知の方法で実施することができる。例えば、カップリング反応溶液を、透析で精製し、次いで凍結乾燥して、疎水性の修飾されたキトサンオリゴ糖、すなわち脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得る。
【0021】
上記ステップ(c)において、末端置換PEGは、末端アルデヒド化基−PEG、末端カルボキシル化PEG、末端スクシンイミド化PEG、末端無水マレイン酸化PEGなどの、上記ステップ(b)で得られる脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖と適切な反応を介してカップリングすることのできる任意の末端活性化PEGでよい。ステップ(c)において、末端置換PEGの上記ステップ(b)で得られる脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比は、1:20〜80:1でよい。一態様において、このような比率は、好ましくは1:20〜1:1、より好ましくは1:5〜5:1、さらにより好ましくは1:5〜10:1、さらにより好ましくは1:5〜20:1、最も好ましくは1:5〜50:1でよい。他方で、該比率は、好ましくは50:1〜80:1、より好ましくは20:1〜80:1、さらにより好ましくは10:1〜80:1、さらにより好ましくは10:1〜80:1、最も好ましくは5:1〜80:1でよい。より好ましくは、該比率は、1:1〜50:1,5:1〜20:1、または10:1〜20:1でよい。例えば、ステップ(C)において、末端置換PEGのキトサンオリゴ糖脂肪酸グラフト体に対するモル比は、1:20、1:10、1:5、1:1、5:1、10:1、20:1、50:1、80:1、または任意のその他の適切な比率でよい。
【0022】
ステップ(c)において、カップリングは、PEGの末端活性基と脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖のアミノ基との間のSchiff反応により実施することができる。例えば、末端アルデヒド化PEGの場合、カップリングは、PEGの末端アルデヒド基とアミノ基との間のSchiff反応により実施することができる。当技術分野で周知のように、上述のSchiff反応中に、反応物と水との混合物を、超音波にかけて溶解を促進することができ、室温で撹拌することもできる。反応の完結後、当技術分野で周知の方法で分離または精製を実施することができる。例えば、カップリング反応溶液を、透析で精製し、次いで凍結乾燥して、PEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得ることができる。
【0023】
加えて、カップリングは、PEGの末端活性基と脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖のアミノ基との間の縮合反応により実施することができる。例えば、末端スクシンイミド化PEGまたは末端無水マレイン酸化PEGの場合、カップリングは、PEGの末端スクシンイミドまたは無水マレイン酸基とアミノ基との間の縮合反応により実施することができる。末端アルデヒド化PEGの場合、反応は、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBTと略記)、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリス(ジメチルアミノ)−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOPと略記)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCCと略記)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCと略記)などの適切な縮合剤の存在下で実施することができる。縮合反応の完結後、当技術分野で周知の方法で分離または精製を実施することができる。例えば、カップリング反応溶液を、透析で精製し、次いで凍結乾燥してPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得ることができる。
【0024】
本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、水性媒体中で自己集合によりミセルを形成する能力を有する。例えば、1.0mg/mLの濃度の本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、水中または1〜12のpH値を有する緩衝液中でミセルを形成することができる。粒子サイズアナライザーで測定すると、前記ミセルの粒子直径は、20〜500nmの範囲である。表面電位アナライザーで測定すると、前記ミセルの表面電位は、10〜50mVの範囲である。ピレン蛍光法で測定すると、本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖のPBS中での臨界ミセル濃度(CMC)は、5〜300μg/mLの範囲である。
【0025】
本発明は、また、担体として前述のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を含む医薬組成物を提供する。該医薬組成物は、適切な薬学的に活性な成分および本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を含むことができる。
【0026】
本発明の医薬組成物において、薬学的に活性な成分は、マイトマイシンC、ドキソルビシン、パクリタキセル、ヒドロキシカンプトテシン(HCPT)などの抗腫瘍薬でよい。本発明の抗腫瘍性医薬組成物は、腫瘍細胞の薬物耐性を逆転させることができる。
【0027】
本発明の医薬組成物において、薬学的に活性な成分は、プラスミドDNA、siRNAなどの遺伝子治療薬でよい。
【0028】
本発明の医薬組成物において、薬学的に活性な成分は、抗ウイルス薬でよい。抗ウイルス薬の典型例が、アデホビル、アシクロビル、アデホビルジピボキシル、エンテカビル、ガンシクロビルなどの抗B型肝炎ウイルス薬である。
【0029】
また、本発明の医薬組成物において、薬学的に活性な成分は、上記の薬物以外の薬物、例えば、カルシトニン、インターフェロン、インスリンなどのポリペプチドまたはタンパク質;ヘパリン、ヒアルロン酸などの多糖薬物であってもよい。
【0030】
加えて、本発明は、また、前記医薬組成物の調製におけるPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルのマクロファージRAW264.7中への取込みを量的に示す図である。(◇):比較例1のステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル;(△):実施例2のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル;(×):実施例3のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル;(□):実施例1のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル。
【図2】PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの肝癌細胞HepG2中への取込みを量的に示す図である。(◇):比較例1のステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル;(△):実施例2のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル;(×):実施例3のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル;(□):実施例1のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル。
【図3】PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの不死化正常肝細胞BRL−3A中への取込みを量的に示す図である。(◇):比較例1のステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル;(△):実施例2のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル;(×):実施例3のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル;(□):実施例1のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル。
【図4A】PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を担体として含む本発明の医薬組成物のHBsAg、HBeAgおよびHBV−DNAの発現に対する抑制効果(HepG2.2.15細胞との同時インキュベーション後)を示す図である。
【図4B】対照としての薬物溶液のHBsAg、HBeAgおよびHBV−DNAの発現に対する抑制効果(HepG2.2.15細胞との同時インキュベーション後)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
(1)PEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の調製
(比較例1〜3)ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の調製
キトサン(6g、平均分子量:450,000Da)を、塩酸水溶液(200mL、1.25(v/v))中に添加し、撹拌しながら55〜60℃で溶解した。得られた溶液のpH値を希アンモニアまたは希塩酸を用い5.0に調整した。セルラーゼを、セルロース:キトサン=0.5:100(w/w)の比率で添加した。8時間反応した後、反応生成物を4000rpmで10分間遠心した。続いて、上清液を、0.45μmの微多孔フィルター膜で前処理し、限外濾過膜を使用して分子量の相違に基づいて分画した。限外濾過液を凍結乾燥して特定の分子量を有するキトサンオリゴ糖を得た。ゲル浸透クロマトグラフィーで測定すると、キトサンオリゴ糖の平均分子量は18,600Daであった。
【0033】
上で得られたキトサンオリゴ糖を、秤量し(5.0g)、蒸留水(40mL)中に添加し、撹拌しながら溶解した。次いで、カルボジイミド(1.0g)を添加し、撹拌しながら溶解した。比較例1〜3では、ステアリン酸(それぞれ、0.78g、1.5g、および2.4g)をメタノール溶液(10mL)に添加した。超音波で溶解した後、得られた溶液を上記のキトサンオリゴ糖溶液に添加した。温度60℃、400rpmで磁気撹拌しながら、反応を、24時間を超えて実施した。続いて最終反応混合物を、透析袋に入れ、2回蒸留水で24時間透析して、反応副生物を除去した。透析液を凍結乾燥して、疎水性の修飾されたキトサンオリゴ糖、すなわち、ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得た。
【0034】
当技術分野で周知のゲル浸透クロマトグラフィーで測定すると、比較例1〜3のステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の平均分子量は、それぞれ20,000、21,000および33,000Daであった。
(比較例4)ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の調製
上記比較例1で説明したのと同様の方法で、18,600Daの平均分子量を有するキトサンを調製した。上で得られたキトサンオリゴ糖を、秤量(5.0g)し、蒸留水(40mL)に添加し、撹拌しながら溶解した。次いで、カルボジイミド(1.0g)を添加し、撹拌しながら溶解した。ラウリン酸(0.5g)をメタノール溶液(10mL)に添加した。超音波で溶解した後、得られた溶液を上記のキトサンオリゴ糖溶液に添加した。温度60℃、400rpmで磁気撹拌しながら、反応を、24時間を超えて実施した。続いて、最終反応混合物を、透析袋に入れ、2回蒸留水で24時間透析して、反応副生物を除去した。透析液を凍結乾燥して、疎水性の修飾キトサンオリゴ糖、すなわち、ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得た。
【0035】
当技術分野で周知のゲル浸透クロマトグラフィーで測定すると、比較例4のラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の平均分子量は、20,000Daであった。
(比較例5)ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の調製
上記比較例1で説明したのと同様の方法で、18,600Daの平均分子量を有するキトサンを調製した。上で得られたキトサンオリゴ糖を、秤量(5.0g)し、蒸留水(40mL)に添加し、撹拌しながら溶解した。次いで、カルボジイミド(1.0g)を添加し、撹拌しながら溶解した。ドコサン酸(1.0g)をメタノール溶液(10mL)に添加した。超音波で溶解した後、得られた溶液を上記のキトサンオリゴ糖溶液に添加した。温度60℃、400rpmで磁気撹拌しながら、反応を、24時間を超えて実施した。続いて、最終反応混合物を、透析袋に入れ、2回蒸留水で24時間透析して、反応副生物を除去した。透析液を凍結乾燥して、疎水性の修飾されたキトサンオリゴ糖、すなわち、ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得た。
【0036】
当技術分野で周知のゲル浸透クロマトグラフィーで測定すると、比較例5のドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の平均分子量は、20,500Daであった。
(比較例6)オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の調製
上記比較例1で説明したのと同様の方法で、18,600Daの平均分子量を有するキトサンを調製した。上で得られたキトサンオリゴ糖を、秤量(5.0g)し、蒸留水(40mL)に添加し、撹拌しながら溶解した。次いで、カルボジイミド(1.0g)を添加し、撹拌しながら溶解した。オレイン酸(0.8g)をメタノール溶液(10mL)に添加した。超音波で溶解した後、得られた溶液を上記のキトサンオリゴ糖溶液に添加した。400rpmで磁気撹拌しながら60℃の温度で、反応を、24時間を超えて実施した。続いて、最終反応混合物を、透析袋に入れ、2回蒸留水で24時間透析して、反応副生物を除去した。透析液を凍結乾燥して、疎水性の修飾されたキトサンオリゴ糖、すなわち、オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得た。
【0037】
当技術分野で周知のゲル浸透イオンクロマトグラフィーで測定すると、比較例6のオレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の平均分子量は、20,000Daであった。
(実施例1)
20,000Daの分子量を有するステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(200mg)、および2,000Daの分子量を有する末端アルデヒド化PEG(2.68mg)を秤量し(末端アルデヒド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比は1:5であった)、脱イオン水(50mL)に溶解した。得られた溶液を、超音波プローブで20回(400w、間隔3秒間で各回2秒間作動させる)処理し、室温で一夜磁気撹拌(400rpm)した。続いて、反応混合物を、透析袋(カットオフ分子量:7,000Da、Spectrum Laboratories、Laguna Hills、カリフォルニア州)に入れ、48時間透析して、未反応の末端アルデヒド化PEGを除去した。次いで、透析液を凍結乾燥して、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を固体粉末として得た。
(実施例2)
PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を、末端アルデヒド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比が1:1であること以外は、上記実施例1に記載したと同様の方法で調製した。
(実施例3)
PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を、末端アルデヒド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比が5:1であること以外は、上記実施例1に記載したと同様の方法で調製した。
(実施例4)
PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を、末端アルデヒド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比が1:10であること以外は、上記実施例1に記載したと同様の方法で調製した。
(実施例5)
PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を、末端アルデヒド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比が1:20であること以外は、上記実施例1に記載したと同様の方法で調製した。
(実施例6)
PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を、末端アルデヒド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比が80:1であること以外は、上記実施例1に記載したと同様の方法で調製した。
(実施例7)
21,000Daの分子量を有するステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(200mg)、および2,000Daの分子量を有する末端アルデヒド化PEG(380mg)を秤量し(末端アルデヒド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比は20:1であった)、脱イオン水(50mL)に溶解した。得られた溶液を、超音波プローブで20回(400w、間隔3秒間で各回2秒間作動させる)処理し、室温で一夜磁気撹拌(400rpm)した。続いて、反応混合物を、透析袋(カットオフ分子量:7,000Da、Spectrum Laboratories、Laguna Hills、カリフォルニア州)に入れ、48時間透析して、未反応の末端アルデヒド化PEGを除去した。次いで、透析液を凍結乾燥して、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を固体粉末として得た。
(実施例8)
33,000Daの分子量を有するステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(200mg)、および2,000Daの分子量を有する末端アルデヒド化PEG(363mg)を秤量し(末端アルデヒド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比は30:1であった)、脱イオン水(50mL)に溶解した。得られた溶液を、超音波プローブで20回(400w、間隔3秒間で各回2秒間作動させる)処理し、室温で一夜磁気撹拌(400rpm)した。続いて、反応混合物を、透析袋(カットオフ分子量:7,000Da、Spectrum Laboratories、Laguna Hills、カリフォルニア州)に入れ、48時間透析して、未反応の末端アルデヒド化PEGを除去した。次いで、透析液を凍結乾燥して、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を固体粉末として得た。
(実施例9)
PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を、末端アルデヒド化PEGが1,000Daの分子量を有し、末端アルデヒド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比が20:1であることを除けば、上記実施例1に記載したと同様の方法で調製した。
(実施例10)
PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を、末端アルデヒド化PEGが10,000Daの分子量を有し、末端アルデヒド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比が2:1であることを除けば、上記実施例1に記載したと同様の方法で調製した。
(実施例11)
20,000Daの分子量を有するステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(100mg)、2,000Daの分子量を有する末端カルボキシル化PEG(100mg)、およびカルボジイミド(100mg)を秤量し(末端カルボキシル化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比は10:1であった)、脱イオン水(50mL)に溶解した。得られた溶液を、超音波プローブで20回(400w、間隔3秒間で各回2秒間作動させる)処理し、60℃の温度で48時間磁気撹拌(400rpm)した。続いて、反応混合物を、透析袋(カットオフ分子量:7,000Da、Spectrum Laboratories、Laguna Hills、カリフォルニア州)に入れ、48時間透析して、未反応の末端カルボキシル化PEGを除去した。次いで、透析液を凍結乾燥して、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を固体粉末として得た。
(実施例12)
20,000Daの分子量を有するステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(100mg)、および2,000Daの分子量を有する末端スクシンイミド化PEG(100mg)を秤量し(末端スクシンイミド化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比は10:1であった)、脱イオン水(50mL)に溶解した。得られた溶液を、超音波プローブで20回(400w、間隔3秒間で各回2秒間作動させる)処理し、室温で48時間磁気撹拌(400rpm)した。続いて、反応混合物を、透析袋(カットオフ分子量:7,000Da、Spectrum Laboratories、Laguna Hills、カリフォルニア州)に入れ、48時間透析して、未反応の末端スクシンイミド化PEGを除去した。次いで、透析液を凍結乾燥して、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を固体粉末として得た。
(実施例13)
20,000Daの分子量を有するステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(100mg)、および2,000Daの分子量を有する末端無水マレイン酸化PEG(100mg)を秤量し(末端無水マレイン酸化PEGのステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比は10:1であった)、脱イオン水(50mL)に溶解した。得られた溶液を、超音波プローブで20回(400w、間隔3秒間で各回2秒間作動させる)処理し、室温で48時間磁気撹拌(400rpm)した。続いて、反応混合物を、透析袋(カットオフ分子量:7,000Da、Spectrum Laboratories、Laguna Hills、カリフォルニア州)に入れ、48時間透析して、未反応の末端無水マレイン酸化PEGを除去した。次いで、透析液を凍結乾燥して、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を固体粉末として得た。
(実施例14)
比較例4で得られた20,000Daの分子量を有するラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(200mg)、および2,000Daの分子量を有する末端アルデヒド化PEG(200mg)を秤量し(末端アルデヒド化PEGのラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比は10:1であった)、脱イオン水(50mL)に溶解した。得られた溶液を、超音波プローブで20回(400w、間隔3秒間で各回2秒間作動させる)処理し、室温で一夜磁気撹拌(400rpm)した。続いて、反応混合物を、透析袋(カットオフ分子量:7,000Da、Spectrum Laboratories、Laguna Hills、カリフォルニア州)に入れ、48時間透析して、未反応の末端アルデヒド化PEGを除去した。次いで、透析液を凍結乾燥して、PEG化ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を固体粉末として得た。
(実施例15)
比較例5で得られた20,500Daの分子量を有するドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(200mg)、および2,000Daの分子量を有する末端アルデヒド化PEG(194mg)を秤量し(末端アルデヒド化PEGのドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比は10:1であった)、脱イオン水(50mL)に溶解した。得られた溶液を、超音波プローブで20回(400w、間隔3秒間で各回2秒間作動させる)処理し、室温で一夜磁気撹拌(400rpm)した。続いて、反応混合物を、透析袋(カットオフ分子量:7,000Da、Spectrum Laboratories、Laguna Hills、カリフォルニア州)に入れ、48時間透析して、未反応の末端アルデヒド化PEGを除去した。次いで、透析液を凍結乾燥して、PEG化ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を固体粉末として得た。
(実施例16)
比較例6で得られた20,000Daの分子量を有するオレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(200mg)、および2,000Daの分子量を有する末端アルデヒド化PEG(200mg)を秤量し(末端アルデヒド化PEGのオレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比は10:1であった)、脱イオン水(50mL)に溶解した。得られた溶液を、超音波プローブで20回(400w、間隔3秒間で各回2秒間作動させる)処理し、室温で一夜磁気撹拌(400rpm)した。続いて、反応混合物を、透析袋(カットオフ分子量:7,000Da、Spectrum Laboratories、Laguna Hills、カリフォルニア州)に入れ、48時間透析して、未反応の末端アルデヒド化PEGを除去した。次いで、透析液を凍結乾燥して、PEG化オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を固体粉末として得た。
(2)PEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の特性
前記比較例1〜6で得られた脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖(10mg)および前記実施例1〜16で得られたPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖(10mg)を、それぞれ秤量し、水浴中で超音波を用い、適切な量の2回蒸留水中に10分間分散させた。次いで、容積を100mLに調整し、対応するミセル溶液を得た。Zetasizer 3000HSアナライザーを使用して、溶液中のミセルの平均粒子直径(D)および表面電位(Zeta)を測定した。未修飾のまたはPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖のPBS中での臨界ミセル濃度(CMC)を、当技術分野で周知のピレン蛍光法でそれぞれ測定した。PEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖中のPEGおよび脂肪酸のグラフト化率を、当技術分野で周知のトリニトロベンゼン−スルホン酸(TNBS)法で測定し、次いでアミノ基の置換度を得ることができる。実施例1〜16および比較例1〜6の上記特性を、表1に示した。
【0038】
【表1】

【0039】
本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、水性媒体中で自己集合によってミセルを形成する特性を有することがわかる。さらに、本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、一般的な界面活性剤のそれに比べて有意により低いCMCを有する。本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖から形成されるミセルは、薬物送達システムとして多くの利点を有する。それは、PEGおよび脂肪酸のグラフト化率、溶解度、pH値、ゼータ電位などの材料特性を調節することによって、薬学的に活性な成分のin vivoでの放出を制御することができる。ミセルの粒子サイズはかなり小さいので、それは、血液脳関門および細網内皮系を通って浸透できるだけでなく、胃腸粘膜などでの吸収を促進することができ、その結果、大きな粒子が通過できない場所に到達し、それによって、受動的標的化の目的を達成する。ポリマーミセル骨格の保護および遮蔽効果は、薬物が分解されることをある程度まで防止し、薬物の安定性を維持し、かつ薬物の毒性を低減できる。リポソームに比較して、ポリマーミセルの薬物装填量は、相対的により多い。PEGで修飾されたキトサンオリゴ糖脂肪酸グラフト体の構造の多様性は、ポリマーを担体として使用し、それによって各種の応用分野の要求を満たす多様な医薬製剤の製造に好都合である。したがって、本発明のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、多くの医薬組成物の調製において担体として応用することができる。
(3)種々の細胞系におけるPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の取込み
10mgの比較例1のステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖および実施例1〜3のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を、それぞれ秤量し、2mLの脱イオン水に溶解し、超音波プローブで20回(400w、刺激時間2秒、中断時間3秒)処理し、次いで、2.0mg/mLのイソシアン酸フルオレセイン(FITC)を含む200μLのエタノール溶液を添加した後、暗所での磁気撹拌(400rpm)の条件下で24時間連続的に反応した。続いて、最終反応混合物を、透析袋(7,000Daのカットオフ分子量、Spectrum Laboratories、Laguna Hills、カリフォルニア州)中で脱イオン水を用い24時間透析して、未反応のFITCを除去した。透析液を凍結乾燥した後、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のフルオレセインで標識された生成物を得た。
【0040】
RAW264.7細胞(マクロファージ)、HepG2細胞(肝癌細胞)およびBRL−3A細胞(不死化正常肝細胞)を、10%ウシ胎児血清で補足されたDMEM中で(RAW264.7およびHepG2)、および10%新生ウシ血清で補足された1640培地中で(BRL−3A)、37℃の5%COインキュベーター中で、対数増殖期まで連続的に培養した。次いで、トリプシン消化の後、細胞を、培地で希釈し、24ウェル培養プレート(Nalge Nune Interational、Naperville、イリノイ州、米国)にウェル当たり1×10個の接種密度で接種し、インキュベーター中で24時間培養した。次いで、FITCで標識されたPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液を、ミセルの添加濃度を100μg/mLに調節してインキュベーション用培地に添加した。細胞を、それぞれ1.5、3、6、12および24時間培養した後、それらを、PBSで洗浄し、トリプシンで消化した。細胞消化溶液を、採取し、超音波プローブで20回(400w、刺激時間2秒、中断時間3秒)処理して、細胞溶解液を得た。蛍光分光光度計を使用して、細胞溶解液の蛍光強度を測定し、次いでPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の細胞中への取込み率を計算し、タンパク質で補正した。ミセルの細胞中への取込み率を、次式:
(%)=F/F×100%
により計算した。ここで、Pは、t時間中でのミセルの細胞中への取込み率を指し、FおよびFは、それぞれ時刻tおよび時刻0の時点での蛍光吸光度(タンパク質で補正された)を表す。
【0041】
比較例1のステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖、および実施例1〜3のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のRAW264.7細胞、HepG2細胞、およびBRL−3A細胞による取込み結果を図1〜3に示した。加えて、上記ミセルのRAW264.7細胞、HepG2細胞およびBRL−3A細胞中への24時間以内での取込み結果を、表2に列挙した。
【0042】
【表2】

【0043】
上記の結果から、未修飾のステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(比較例1)のミセルと比較して、マクロファージRAW264.7細胞中への同一時間内でのPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(実施例1〜3)の取込み量が、有意に低下したと結論付けることができた。また、PEG修飾比率(PEGのグラフト化率)の増大に伴って、マクロファージ中へのミセルの取込み量は徐々に減少した。
【0044】
加えて、腫瘍細胞HepG2および正常細胞BRL−3A中への同一時間内でのPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(実施例1〜3)の取込み量は、未修飾のステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(比較例1)のミセルと比較して、有意な差異はなかった。
【0045】
したがって、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、担体が血中マクロファージによって貧食される可能性を著しく低減し、そのため、生物体中での担体材料の循環時間および標的組織中への担体材料の分布を増大させることができると期待することができる。同時に、PEG化は、腫瘍細胞中への担体材料の取込みに影響を及ぼさない。したがって、該担体材料を使用することによって、薬物の腫瘍細胞中への標的化送達を増大させることができる。
(4)抗癌薬組成物におけるPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖ミセルの応用
(4.1)PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の応用
(a)マイトマイシンC製剤
10mgの比較例1のステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖、および実施例1〜3のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を、それぞれ秤量し、1.5mLのPBSに溶解した。1mg/mLのマイトマイシンC/PBS溶液0.5mLを添加した後、溶液を超音波プローブで20回(400w、刺激時間2秒、中断時間3秒)処理して、マイトマイシンCを装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液を得た。その材料濃度は5mg/mLであり、薬物封入効率は30%であった。
【0046】
モデルとして肝癌細胞HepG2を使用して、マイトマイシンCを装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの抗癌有効性を、薬物送達システムを細胞と同時インキュベートした後の50%抑制濃度(IC50)によって評価した。細胞生存率をMTTアッセイで測定した。接着細胞を24ウェルプレート中で24時間前培養した後、種々の濃度のマイトマイシンC溶液(溶媒はPBS)およびマイトマイシンCを装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルをそれぞれ添加し、対照ウェルは、各群の3つの繰返しで用意した。48時間インキュベートした後、各ウェルに60μLのMTTを添加し、続いて4時間インキュベートした。その後、上清液を廃棄し、細胞をPBS溶液で2回洗浄した後、各ウェルに400μLのDMSOを添加して反応を終結させた。培養プレートを水平に10分間振動させた後、ELSAメーターで波長570nmでの吸光度を測定し、細胞生存率を次式により計算した:
細胞生存率(%)=A570(検体)/A570(対照)×100%。
ここで、A570(検体)は、遊離薬物または薬物装填ミセルを添加した細胞の吸光度、A570(対照)は、対照細胞の吸光度である。
【0047】
加えて、同一方法を使用して、対照例として使用されたマイトマイシンC溶液のIC50値を測定した。
上記試験の結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
上記の結果から、マイトマイシンC溶液(対照例)と比較して、マイトマイシンCを装填した本発明のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(実施例1〜3)のミセルの薬物有効性は、約14倍高められた。また、マイトマイシンCを装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(実施形態1〜3)の薬物有効性は、マイトマイシンCを装填したステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(比較例1)のミセルのそれに一致した。したがって、PEG化は、薬物装填型ミセルの抗腫瘍活性に影響を及ぼさない。
(b)アドリアマイシン製剤
実施例7で調製した50mgのPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(PEGの分子量は2,000Da;キトサンオリゴ糖の分子量は18,600Da;PEGのグラフト化率は8.1%;ステアリン酸のグラフト化率は8%であった)を秤量し、50mLのビーカーに入れ、次いで、40mLの蒸留水(pH5.7)を添加し、超音波プローブで20回(500w、刺激時間2秒、中断時間3秒)処理した。続いて、溶液をメスフラスコに移し、蒸留水で全容積を50mLとし、1mg/mLのミセル溶液を得た。20mLのPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液を取り、1mg/mLのアドリアマイシンを含む2mLのジメチルスルホキシド溶液を添加した。室温で3時間撹拌した後、溶液を、分子量が3,500の透析袋中で蒸留水を用いて24時間透析した。次いで、透析濃縮溶液を、5000rpmで5分間遠心して、透析された疎水性抗癌薬を除去した。上清液を、0.22μmの微多孔膜を用いて濾過した後、アドリアマイシンを装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを得た。
【0050】
測定すると、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの粒子直径は、55.8nm、表面電位は31.7mV、薬物封入効率は97.2%であった。
【0051】
続いて、抗腫瘍有効性の評価を実施した。具体的には、モデルとして使用される子宮頸癌細胞Helaを、96ウェル培養プレート中で培養した。5×10個のHela細胞を含む100μLの細胞培養液を、各ウェルに添加し、5%COインキュベーター中、37℃で24時間培養した。細胞がプレートに完全に接着した後、種々の濃度のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖、薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液、および塩酸ドキソルビシン溶液を、それぞれウェルに添加し、未処理のブランク細胞を対照として使用した。上記各群の繰返しウェルを準備した。細胞を、通常のDMEM培地中で48時間培養した。20μLの5mg/mLメチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)溶液を各ウェルに添加した後、細胞を、5%COインキュベーター中、37℃で4時間再培養し、次いで上清液を廃棄した。150μLのジメチルスルホキシドを各ウェルに添加し、多機能マイクロプレートリーダーを使用して吸光度を測定し、次いで次式により細胞抑制率を計算した:
細胞抑制率(%)=(対照群の吸光度−実験群の吸光度)/対照群の吸光度×100%。
【0052】
計算すると、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のIC50値は563.5μg/mL;アドリアマイシン溶液のIC50値は1.7μg/mL;薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液のIC50値は0.2μg/mLであった。結果は、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖が低毒性材料であり、かつアドリアマイシンをPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖で封入した後に、子宮頸癌細胞Helaに対するその抗腫瘍有効性を8.5倍増大させることができることを示唆した。
(c)パクリタキセル製剤
実施例8で調製した50mgのPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(PEGの分子量は2,000Da;キトサンオリゴ糖の分子量は18,600Da;PEGのグラフト化率は8.1%;ステアリン酸のグラフト化率は48.3%であった)を秤量し、50mLのビーカーに入れ、次いで、40mLの蒸留水(pH5.7)を添加し、超音波プローブで20回(500w、刺激時間2秒、中断時間3秒)処理した。続いて、溶液をメスフラスコに移し、蒸留水で全容積を50mLとし、1mg/mLのミセル溶液を得た。20mLのPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液を取り、1mg/mLのパクリタキセルを含む2mLのジメチルスルホキシドを添加した。室温で3時間撹拌した後、溶液を、分子量が3,500の透析袋中で蒸留水を用いて24時間透析した。次いで、透析濃縮溶液を、5000rpmで5分間遠心して、透析された疎水性抗癌薬を除去した。上清液を、0.22μmの微多孔膜を用いて濾過した後、パクリタキセルを装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを得た。
【0053】
測定すると、薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの粒子直径は、89.1nm、表面電位は28.7mV、薬物封入効率は99.6%であった。
【0054】
続いて、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の抗腫瘍有効性を、腫瘍細胞の抑制率によって評価した。具体的には、モデルとして使用されるヒト肺癌細胞A549を、96ウェル培養プレート中で培養した。5×10個のA549細胞を含む100μLの細胞培養液を各ウェルに添加し、5%COインキュベーター中、37℃で24時間培養した。細胞がプレートに完全に接着した後、種々の濃度のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖、薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液、およびタキソール溶液を、それぞれウェルに添加し、未処理のブランク細胞を対照として使用した。上記各群の繰返しウェルを準備した。細胞を、通常のDMEM培地中で48時間培養した。20μLの5mg/mLメチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)溶液を各ウェルに添加した後、細胞を、5%COインキュベーター中、37℃で4時間再培養し、次いで上清液を廃棄した。150μLのジメチルスルホキシドを各ウェルに添加し、多機能マイクロプレートリーダーを使用して吸光度を測定し、次いで次式により細胞抑制率を計算した:
細胞抑制率(%)=(対照群の吸光度−実験群の吸光度)/対照群の吸光度×100%。
【0055】
計算すると、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のIC50値は489.6μg/mL;タキソール溶液のIC50値は3.2μg/mL;薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液のIC50値は0.1μg/mLであった。結果は、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖が低毒性材料であり、かつパクリタキセルをPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖で封入した後に、ヒト肺癌細胞A549に対するその抗腫瘍有効性を32倍増大させることができることを示唆した。
(d)ヒドロキシカンプトテシン製剤
実施例7で調製した50mgのPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(PEGの分子量は2,000Da;キトサンオリゴ糖の分子量は18,600Da;PEGのグラフト化率は8.1%;ステアリン酸のグラフト化率は8%であった)を秤量し、50mLのビーカーに入れ、次いで、40mLの蒸留水(pH5.7)を添加し、超音波プローブで20回(500w、刺激時間2秒、中断時間3秒)処理した。続いて、溶液をメスフラスコに移し、蒸留水で全容積を50mLとし、1mg/mLのミセル溶液を得た。20mLのPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液を取り、1mg/mLのヒドロキシカンプトテシンを含む2mLのエタノールを添加した。室温で3時間撹拌した後、溶液を、分子量が3,500Daの透析袋中で蒸留水を用い24時間透析した。透析濃縮溶液を、5000rpmで5分間遠心して、透析された疎水性抗癌薬を除去した。上清液を、0.22μmの微多孔膜を用いて濾過した後、ヒドロキシカンプトテシンを装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを得た。
【0056】
測定すると、薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの粒子直径は、72.9nm、表面電位は36.2mV、薬物封入効率は89.4%であった。
【0057】
続いて、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の抗腫瘍有効性を、腫瘍細胞の抑制率によって評価した。具体的には、モデルとして使用されるヒト肺癌細胞A549を、96ウェル培養プレート中で培養した。5×10個のA549細胞を含む100μLの細胞培養液を各ウェルに添加し、5%COインキュベーター中、37℃で24時間培養した。細胞がプレートに完全に接着した後、種々の濃度のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖、薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液、およびヒドロキシカンプトテシン注射液を、それぞれウェルに添加し、未処理のブランク細胞を対照として使用した。上記各群の繰返しウェルを準備した。細胞を、通常のDMEM培地中で48時間培養した。20μLの5mg/mLメチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)溶液を各ウェルに添加した後、細胞を、5%COインキュベーター中、37℃で4時間再培養し、次いで上清液を廃棄した。150μLのジメチルスルホキシドを各ウェルに添加し、多機能マイクロプレートリーダーを使用して吸光度を測定し、次いで次式により細胞抑制率を計算した:
細胞抑制率(%)=(対照群の吸光度−実験群の吸光度)/対照群の吸光度×100%。
【0058】
計算すると、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のIC50値は496.3μg/mL;ヒドロキシカンプトテシン注射液のIC50値は8.6μg/mL;薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液のIC50値は0.4μg/mLであった。結果は、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖が低毒性材料であり、かつヒドロキシカンプトテシンをPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖で封入した後に、ヒト肺癌細胞A549に対するその抗腫瘍有効性を21.5倍増大させることができることを示唆した。
(4.2)PEG化ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の応用
実施例14で調製した50mgのPEG化ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を取り、上記(4.1)(c)と同様の方法を使用して、薬物を装填したPEG化ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを調製した。
【0059】
測定すると、PEG化ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの粒子直径は、123.7nm、表面電位は31.4mV、薬物封入効率は99.3%であった。
【0060】
続いて、PEG化ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の抗腫瘍有効性を、上記(4.1)(c)と同様の方法を使用して評価した。評価結果は、PEG化ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のIC50値が456.1μg/mL;タキソール溶液のIC50値が3.2μg/mL;薬物を装填したPEG化ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液のIC50値が0.1μg/mLであったことを示す。結果は、PEG化ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖が低毒性材料であり、かつパクリタキセルをPEG化ラウリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖で封入した後に、ヒト肺癌細胞A549に対するその抗腫瘍有効性を32倍増大させることができることを示唆した。
(4.3)PEG化ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の応用
実施例15で調製した50mgのPEG化ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を取り、前記(4.1)(c)と同様の方法を使用して、薬物を装填したPEG化ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを調製した。
【0061】
測定すると、PEG化ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの粒子直径は、86.4nm、表面電位は33.1mV、薬物封入効率は99.8%であった。
【0062】
続いて、薬物を装填したPEG化ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の抗腫瘍有効性を、前記(4.1)(c)と同様の方法を使用して評価した。評価結果は、PEG化ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のIC50値が438.8μg/mL;タキソール溶液のIC50値が3.2μg/mL;薬物を装填したPEG化ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液のIC50値が0.2μg/mLであったことを示す。結果は、PEG化ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖が低毒性材料であり、かつパクリタキセルをPEG化ドコサン酸グラフト化キトサンオリゴ糖で封入した後に、ヒト肺癌細胞A549に対するその抗腫瘍有効性を16倍増大させることができることを示唆した。
(4.4)PEG化オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の応用
実施例16で調製した50mgのPEG化オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を取り、前記(4.1)(c)と同様の方法を使用して、薬物を装填したPEG化オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを調製した。
【0063】
測定すると、薬物を装填したPEG化オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの粒子直径は、109.2nm、表面電位は35.2mV、薬物封入効率は99.4%であった。
【0064】
続いて、薬物を装填したPEG化オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の抗腫瘍有効性を、前記(4.1)(c)と同様の方法を使用して評価した。評価結果は、PEG化オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のIC50値が413.7μg/mL;タキソール溶液のIC50値が3.2μg/mL;薬物を装填したPEG化オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液のIC50値が0.1μg/mLであったことを示す。結果は、PEG化オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖が低毒性材料であり、かつパクリタキセルをPEG化オレイン酸グラフト化キトサンオリゴ糖で封入した後に、ヒト肺癌細胞A549に対するその抗腫瘍有効性を32倍増大させることができることを示唆した。
(5)腫瘍の薬物耐性を逆転させるためのPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の応用
(a)アドリアマイシン製剤
前記(4.1)(b)と同様の方法を使用して、アドリアマイシンを装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを調製した。
【0065】
測定すると、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの粒子直径は、67.2nm、表面電位は38.3mV、薬物封入効率は96.4%であった。
【0066】
続いて、腫瘍細胞の抑制率を使用して、薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の抗腫瘍有効性、および薬物耐性腫瘍細胞の薬物耐性の逆転効率を評価した。
【0067】
具体的には、モデル細胞として使用される乳癌細胞(MCF−7)およびその薬物耐性細胞(MCF−7−adr)を、96ウェル培養プレート中で培養した。5×10個のMCF−7またはMCF−7−adr細胞を含む100μLの培養液を、各ウェルに添加し、5%COインキュベーター中、37℃で24時間培養した。細胞がプレートに完全に接着した後、種々の濃度のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖、薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液、およびドキソルビシンを、それぞれウェルに添加し、未処理のブランク細胞を対照として使用した。上記各群の繰返しウェルを準備した。細胞を、通常のDMEM培地中で48時間培養した。20μLの5mg/mLメチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)溶液を各ウェルに添加した後、細胞を、5%COインキュベーター中、37℃で4時間再培養し、次いで上清液を廃棄した。150μLのジメチルスルホキシドを各ウェルに添加し、多機能マイクロプレートリーダーを使用して吸光度を測定し、次いで次式により細胞抑制率を計算した:
細胞抑制率(%)=(対照群の吸光度−実験群の吸光度)/対照群の吸光度×100%。
【0068】
計算すると、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖、ドキソルビシン溶液、および薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液の、MCF−7およびその薬物耐性細胞MCF−7−adrに対するIC50値を表4に要約した。
【0069】
【表4】

【0070】
上記の結果は、本発明のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖が低毒性材料であり、かつアドリアマイシンをPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルで封入した後に、感受性MCF−7細胞に対する抗腫瘍有効性が、1倍増加することがあり、かつその薬物耐性細胞の薬物耐性を、完全に逆転させることができることを示唆した。
(b)パクリタキセル製剤
前記(4.1)(c)と同様の方法を使用して、パクリタキセルを装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを調製した。
【0071】
測定すると、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの粒子直径は、85.6nm、表面電位は32.5mV、薬物封入効率は98.5%であった。
【0072】
続いて、腫瘍細胞の抑制率を使用して、薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の抗腫瘍有効性、および薬物耐性腫瘍細胞の薬物耐性の逆転効率を評価した。
【0073】
具体的には、モデル細胞として使用される卵巣癌細胞SKOV−3およびその薬物耐性細胞SKOV−3/ST30を、96ウェル培養プレート中で培養した。5×10個のSKOV−3またはSKOV−3/ST30細胞を含む100μLの培養液を、各ウェルに添加し、5%COインキュベーター中、37℃で24時間培養した。細胞がプレートに完全に接着した後、種々の濃度の薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液、およびタキソール溶液を、それぞれウェルに添加し、未処理のブランク細胞を対照として使用した。上記各群の繰返しウェルを準備した。細胞を、通常のDMEM培地中で48時間培養した。20μLの5mg/mLメチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)溶液を各ウェルに添加した後、細胞を、5%COインキュベーター中、37℃で4時間再培養し、次いで上清液を廃棄した。150μLのジメチルスルホキシドを各ウェルに添加し、多機能マイクロプレートリーダーを使用して吸光度を測定し、次いで次式により細胞抑制率を計算した:
細胞抑制率(%)=(対照群の吸光度−実験群の吸光度)/対照群の吸光度×100%。
【0074】
計算すると、タキソール溶液、および薬を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液のSKOV−3およびその薬物耐性細胞に対するIC50値を表5に要約した。
【0075】
【表5】

【0076】
これらの結果は、パクリタキセルを、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルで封入した後に、卵巣癌細胞の感受性細胞SKOV−3に対する抗腫瘍有効性を3.5倍高めることができ、かつ卵巣癌の薬物耐性細胞の薬物耐性を完全に逆転させることができることを示唆した。
(6)遺伝子治療用医薬組成物におけるPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の応用
(a)プラスミドDNA製剤
プラスミドDNAを装填したPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの調製
実施例8で調製した10mgのPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖(PEGの分子量は2,000Da;キトサンオリゴ糖の分子量は18,600Da;PEGのグラフト化率は8.1%;ステアリン酸のグラフト化率は48.3%であった)を正確に秤量し、10mLの水に溶解して、ミセル溶液を調製した。超音波水浴で15分間処理した後、溶液を、滅菌のため0.22μmの微多孔膜で濾過した。pEGFP(緑色蛍光タンパク質プラスミドDNA)溶液(500μg/mL)を25mM NaSO溶液で調製した。ミセル溶液と緑色蛍光タンパク質プラスミドDNA溶液とを3のN/P比率(キトサンオリゴ糖のアミノ基のDNAのリン酸基に対するモル比)で混合し、続いて室温で25分間静置して、ミセル/プラスミドDNAの複合ナノ粒子の形成をさらに促進した。
【0077】
適切な量の混合懸濁液を、脱イオン水で適切に希釈し、次いで粒子サイズおよび表面電位を粒子サイズ表面電位アナライザーで測定した。プラスミドDNAを装填したPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の物理的および化学的特性を表6に示した。
【0078】
【表6】

【0079】
これらの結果は、グラフト体のミセルとpEGFP DNAとの複合ミセルが形成されると、粒子サイズが増加し、pEGFPプラスミドDNAの、複数のグラフト体のミセルとの封入および接着を介して、複合ミセルの形成が達成されることを示した。
pEGFP遺伝子を装填したグラフト体のミセルの細胞中でのトランスフェクション
A549細胞の培養
ヒトII型肺上皮細胞A549を、10%ウシ胎児血清で補足された培地中で連続的に培養した(5%CO、37℃のインキュベーター)。続いて、対数増殖期中の細胞を、トリプシン処理し、DMEMで希釈した。希釈された細胞を、24ウェル培養プレートに、ウェル当たり2×10個の接種密度で接種し、インキュベーター中で24時間前培養した。
グラフト体−pEGFPミセルのin vitroトランスフェクション
A549細胞を、トランスフェクションの24時間前に、24ウェル細胞培養プレートにウェル当たり2×10個の接種密度で接種し、次いで細胞の80〜90%が融合されるまで5%COインキュベーター中、37℃で再培養した。トランスフェクションの前に、プレート中の古い培地を除去した。細胞をPBSで2回洗浄した後、リポソームリポフェクタミンTM2000,グラフト体−pEGFPの複合ナノ粒子懸濁液、および適切な血清不含DMEM培地(そのpHは、7.4に調製)を細胞に添加して、最終容積を0.5mlとし、6時間培養した後、培地を、完全培地で置き換え、続いて72時間再培養した。
【0080】
トランスフェクション効率の測定:培地を除去した後、細胞をPBSで2回洗浄し、消化し、一定量のPBSで懸濁させた。トランスフェクション効率は、フローサイトメトリーで測定した。結果は、グラフト体(N/P58)で媒介された細胞トランスフェクション効率は14.2%、リポソームリポフェクタミンTM2000で媒介されたトランスフェクション効率は25.1%であることを示した。
pEDF遺伝子を装填したグラフト体のミセルを使用するin vivoでの遺伝子治療
理論的遺伝子としてPEDFを取り、薬物を装填したグラフト体のミセルを調製した。動物モデルとしてのQGY腫瘍を有するヌードマウスに、2.5mg/kgのプラスミドDNA(担体容積7.5mg/kg)を2回(それぞれ第1日目および5日目に)、21日後に1回投与し、QGY腫瘍を有する動物モデルの腫瘍抑制率は49.04%達することがあった(陽性対照として、2mg/kgのアドリアマイシン1回での連続7日間の投与の治療を実施し、78.85%の腫瘍抑制率が最終的に得られた)。
(b)siRNA製剤
siRNAを装填したPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの調製
10mgのPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖(PEGの分子量は2,000Da;キトサンオリゴ糖の分子量は18,600Da;PEGのグラフト化率は8.1%;ステアリン酸のグラフト化率は48.3%であった)を、10mLの水に溶解し、ミセル溶液を調製した。超音波水浴で15分間処理した後、溶液を、滅菌のため0.22μmの微多孔膜で濾過した。siRNA溶液(500μg/mL)を25mM NaSO溶液で調製した。ミセル溶液とsiRNA溶液とを、3のN/P比率で混合し、続いて室温で25分間静置して、ミセル/siRNAの複合ナノ粒子の形成をさらに促進した。
【0081】
適切な量の混合懸濁液を、脱イオン水で適切に希釈し、次いで粒子サイズおよび表面電位を粒子サイズおよび表面電位アナライザーで測定した。siRNAを装填したPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の物理的および化学的特性を表7に示した。
【0082】
【表7】

【0083】
(7)抗ウイルス薬組成物におけるPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の応用
抗ウイルス薬を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル調製
実施例8で調製した100mgのPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖(PEGの分子量は2,000Da;キトサンオリゴ糖の分子量は18,600Da;PEGのグラフト化率は8.1%;ステアリン酸のグラフト化率は48.3%であった)を、50mLのビーカーに入れ、次いで90mLの蒸留水(pH5.7)を添加し、超音波プローブで20回(500w、刺激時間2秒、中断時間3秒)処理した。続いて、溶液をメスフラスコに移し、蒸留水で全容積を100mLとし、1mg/mLのミセル溶液を得た。20mLのPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセル溶液を取り、それぞれ、1mg/mLのアデホビル、アシクロビル、アデホビルジピボキシル、エンテカビル、およびガンシクロビル溶液を1mL添加した。室温で3時間撹拌した後、それらを超音波プローブで20回(500w、刺激時間2秒、中断時間3秒)で処理し、0.22μmの微多孔膜を用いて濾過して、抗ウイルス薬を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを得た。
【0084】
薬物を装填したミセルの粒子サイズおよび表面電位を、粒子サイズおよび表面電位アナライザーで測定し、薬物封入効率をHPLCで測定した。抗ウイルス薬を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖の物理的および化学的特性を表8に示した。
【0085】
【表8】

【0086】
PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルの抗ウイルス活性
HepG2.2.15細胞を、約10%のウシ血清で補足されたRPMI 1640培地中で培養した(5%CO、37℃のインキュベーター中で)。細胞を、それらが対数増殖期に入るようにインキュベートした。具体的には、対数増殖期の細胞を、PBSで洗浄し、トリプシン処理し、培地で希釈した。次いで、希釈した細胞を、24ウェル培養プレートにウェル当たり1×10個の接種密度で接種し、続いて細胞がプレートに接着するまでインキュベーター中で24時間培養した。古い培地を除去した後、細胞を、pH7.4の緩衝液(PBS)で2回洗浄し、種々の濃度のアデホビル溶液、およびアデホビルを装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルを添加した。細胞を2、4、6、8および10日間再培養した。最後に、培地を集め、それを使用して、酵素免疫アッセイキットで表面抗原(HBsAg)およびe抗原(HBeAg)レベルを検出し、リアルタイム定量PCR法でB型肝炎ウイルスのDNA(HBV DNA)を測定し、MTTアッセイで細胞生存率を測定した。
【0087】
アデホビルジピボキシルおよび薬物を装填したPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖のミセルをHepG2.2.15細胞と共にインキュベートした後、HBsAg、HBeAgおよびHBV−DNAの発現抑制率に対するそれらの効果を図4Aおよび4Bに示した。
【0088】
結果は、アデホビルジピボキシルを装填したグラフト体のミセルが、薬物の抗ウイルス効果を有意に高めることができ;特に、B型肝炎ウイルスのDNAの発現に対する抑制効果は、B型肝炎ウイルスのDNAの発現をそのより低い投与量で完全抑制できるほど意味のあるものであることを明らかにした。
【0089】
治療指数(TI)は、抗ウイルス薬の臨床的応用の見込みを評価するための指標の1つである。TI>2は、有効かつ低毒性であることを意味し、1<TI<2は、低効率かつ有毒性であることを表し、TI<1は毒性効果を意味する。TI=TC50/IC50であり、ここで、TC50は、ウイルス感染細胞を薬物で処理して10日目後に50%の細胞死をもたらす薬物濃度を指し、当技術分野で周知の方法で測定することができ;IC50は、ウイルス感染細胞を薬物で処理して10日目後にHBsAgおよびHbeAgに対して50%の抑制率に達する薬物濃度を指す。アデホビルジピボキシルを装填したグラフト化ミセル送達システムのHBsAgおよびHBeAgに対する治療指数を表9に示した。
【0090】
【表9】

【0091】
結果は、アデホビルジピボキシルを装填したグラフト体のミセル送達システムのHBsAgおよびHBeAgに対する治療指数は、すべて2を超え、担体として本発明のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖を使用する抗ウイルス薬組成物は、効率が高く、かつ毒性が低い抗ウイルス製剤であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のPEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖は、各種医薬組成物において薬物担体として広範に使用することができ、in vivoでの薬物活性成分の標的化吸収を改善するだけではなく、薬物が分解するのをある程度まで予防し、それによって薬物の安定性を維持し、薬物の副作用を低減することができる。したがって、PEG化ステアリン酸グラフト化キトサンオリゴ糖および本発明のグラフト体を含む医薬組成物は、産業において広範に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I)で表される構造単位および次式(II)で表される構造単位
【化1】

を含むPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖であって、
キトサンオリゴ糖鎖の遊離アミノ基の一部は、12〜22個の炭素原子を有する脂肪酸、または1,000〜10,000Daの分子量を有するPEGで置換され、nはPEGの重合度を指し、Rは11〜21個の炭素原子を有するアルキル基であり、脂肪酸のグラフト化率は1%〜50%であり、かつPEGのグラフト化率は0.05%〜50%であるPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖。
【請求項2】
PEGのグラフト化率が0.5%〜50%である、請求項1に記載のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖。
【請求項3】
脂肪酸のグラフト化率が5%〜50%である、請求項1または2に記載のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖。
【請求項4】
PEGが2,000〜10,000Daの分子量を有する、請求項1から3までのいずれか一項に記載のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖。
【請求項5】
脂肪酸が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、およびドコサン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1から4までのいずれか一項に記載のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖。
【請求項6】
次のステップ:
(a)キトサンを酵素の存在下で分解して、200,000Da未満の分子量を有するキトサンオリゴ糖を得るステップ;
(b)キトサンオリゴ糖を12〜22個の炭素原子を有する脂肪酸と、架橋用カップリング剤の存在下でカップリングして、脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得るステップ;および
(c)末端で置換された、分子量が1,000〜10,000DaであるPEGを、脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖とカップリングして、PEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を得るステップ;
を含む、請求項1に記載のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の調製方法。
【請求項7】
ステップ(c)において、末端で置換されたPEGの、脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖に対するモル比が1:20〜80:1である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
末端で置換されたPEGが、末端でアルデヒド化されたPEG、末端でカルボキシル化されたPEG、末端でスクシンイミド化されたPEG、および末端で無水マレイン酸化されたPEGからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
薬学的に活性な成分、および請求項1に記載のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖を含む医薬組成物。
【請求項10】
薬学的に活性な成分が抗腫瘍薬であり、好ましくは該抗腫瘍薬が、マイトマイシンC、ドキソルビシン、パクリタキセル、およびヒドロキシカンプトテシンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
腫瘍細胞の薬物耐性を逆転させる能力のある、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
薬学的に活性な成分が遺伝子治療薬であり、好ましくは該遺伝子治療薬が、プラスミドDNAまたはsiRNAである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
薬学的に活性な成分が抗ウイルス薬であり、好ましくは該抗ウイルス薬が、抗B型肝炎ウイルス薬である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項14】
抗B型肝炎ウイルス薬が、アデホビル、アシクロビル、アデホビルジピボキシル、エンテカビル、およびガンシクロビルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
医薬組成物の調製における請求項1に記載のPEG化脂肪酸グラフト化キトサンオリゴ糖の使用。
【請求項16】
医薬組成物が抗腫瘍薬、遺伝子治療薬、または抗ウイルス薬を含む、請求項15に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2011−524446(P2011−524446A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513848(P2011−513848)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【国際出願番号】PCT/CN2009/000656
【国際公開番号】WO2009/152691
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(505072650)浙江大学 (10)
【Fターム(参考)】