説明

ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂、該樹脂の製造方法及び樹脂組成物

【課題】従来技術の問題点が解消され、滑性、耐摩耗性、耐薬品性、非粘着性、帯電防止性、耐熱性などに優れ、温暖化ガス削減の観点から環境対応の新規なポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表せる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されてなるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂、該樹脂の製造方法、及び該樹脂を混合してなる樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、滑性、耐摩耗性、耐薬品性、非粘着性、帯電防止性、耐熱性などの特性に優れ、しかも、製造原料に二酸化炭素を利用できることから、地球規模で問題となっている二酸化炭素削減効果にも優れ、フィルム・成型材料、各種コーティング材、各種バインダーなどの原料として有用な新規なポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1、2に見られるように、二酸化炭素を原料とするポリヒドロキシポリウレタン樹脂については以前から知られているが、その応用展開は進んでいないのが実情である。それは、従来から知られている上記の樹脂は、その特性面で、従来の石化系の高分子化合物(石化プラスチック)であるポリウレタン系樹脂に比べて特性面で明らかに劣るからである(特許文献1、2参照)。
一方、増加の一途をたどる二酸化炭素の排出に起因すると考えられる地球の温暖化現象が、近年、世界的な問題となっており、二酸化炭素の排出量低減は、全世界的に重要な課題となっており、二酸化炭素を製造原料とできる技術は待望されている。さらに、枯渇性石化資源(石油)問題の観点からも、バイオマス、メタンなどの再生可能資源への転換が世界的潮流となっている。
【0003】
上記のような背景下、再び、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が見直されている。すなわち、この樹脂の原料である二酸化炭素は、容易に入手可能かつ持続可能な炭素資源であり、さらに、石油資源に代替した二酸化炭素を原料とするプラスチックは、上記した温暖化、資源枯渇などの問題を解決する有効な手段であると言えるためである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
【非特許文献2】N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polmer Chem.,1993,31(11),2765
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,072,613号明細書
【特許文献2】特開2000−319504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記二酸化炭素を原料とするポリヒドロキシポリウレタン樹脂を、従来の石化プラスチックと同様に産業用として利用するには、性能の向上とともに新たな付加価値を付ける必要性がある。つまり、地球環境の観点からも、一層の耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性などといった産業用として不可欠な性能を向上させる樹脂の開発が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は以下の本発明によって達成される。
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表せる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されてなることを特徴とするポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を提供する。

式中のR1は炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、またはNの各元素による連結及び/又は−(C24O)b−による連結を有していてもよい)を表す。式中のR2は、ないか、または、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基または芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]
【0008】
本発明は、別の実施形態として、上記一般式(1)で表せる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物との反応から誘導することを特徴とするポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法、さらに、該樹脂を含有してなる樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により提供されるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、滑性、耐摩耗性、耐薬品性、非粘着性、帯電防止性、耐熱性などに優れ、従来の石化プラスチックに代替し得る。また、本発明で提供する樹脂は二酸化炭素を製造原料に利用できるため、本発明は、温暖化ガスである二酸化炭素削減に寄与し得る地球環境対応製品の提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】エポキシ変性ポリシロキサンの赤外吸収スペクトル。
【図2】5員環環状カーボネートポリシロキサンの赤外吸収スペクトル。
【図3】5員環環状カーボネートポリシロキサンのGPC溶出曲線(移動相:THF、カラム:TSK−Gel GMHXL+G2000HXL+G3000HXL、検出器:IR)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂(以下、単に「本発明の樹脂」と呼ぶ場合もある)は、上記一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されたことを特徴とする。また、この5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物は、例えば、下記[式−A]で示されるように、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と、二酸化炭素とを反応させて製造できる。更に詳しくは、エポキシ変性ポリシロキサン化合物を、有機溶媒の存在下又は不存在下、及び触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で常圧又は僅かに高められた圧力下、10〜20時間二酸化炭素と反応させることによって得ることができる。
【0012】

【0013】
本発明に使用できるエポキシ変性ポリシロキサン化合物としては、例えば、次のような化合物が挙げられる。
【0014】

【0015】
ここで列記したエポキシ変性ポリシロキサン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0016】
本発明に用いる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物は、上記のようなエポキシ変性ポリシロキサン化合物と、二酸化炭素との反応によって得ることができる。この反応に使用できる触媒として、塩基触媒及びルイス酸触媒が挙げられる。上記塩基触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第三級アミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタン、ピリジンなどの環状アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、などの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0017】
また、ルイス酸触媒としては、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0018】
これらの触媒の使用量は、エポキシ変性ポリシロキサン化合物50質量部当たり、0.1〜100質量部、好ましくは0.3〜20質量部とすればよい。上記の使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、多過ぎると最終樹脂の諸性能を低下させるおそれがあるので好ましくない。従って、残留触媒が重大な性能低下を引き起こすような場合は、純水で洗浄して残留触媒を除去してもよい。
【0019】
エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素との反応において使用できる有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤と他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノンなどの混合系で使用してもよい。
【0020】
本発明の樹脂は、下記[式−B]で示されるように、例えば、上記反応で得た5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物とを、有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で反応させることで得られる。
【0021】

【0022】
上記反応に使用するアミン化合物としては、例えば、ジアミンが好ましく、従来ポリウレタン樹脂の製造に使用されているものがいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン、1,4’−ジアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン;モノエタノールジアミン、エチルアミノエタノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアルカノールジアミンが挙げられる。更に、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0023】
上記のようにして得られた本発明のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、樹脂中におけるポリシロキサンセグメントの占める割合が、樹脂分子に対する該セグメントの含有量で、1〜75質量%となるものであることが好ましい。すなわち、1質量%未満ではポリシロキサンセグメントに基づく表面エネルギーに伴う機能の発現が不十分となるので好ましくない。また、75質量%を超えると、ポリヒドロキシウレタン樹脂の機械強度、耐摩耗性などの性能が不十分となるので好ましくない。より好ましくは、2〜60質量%であり、さらには5〜30質量%であることがより好ましい。
【0024】
本発明の樹脂は、その数平均分子量(GPCで測定した、標準ポリスチレン換算値)が、2,000〜100,000程度であることが好ましい。さらには、5,000〜70,000程度のものであることがより好ましい。
【0025】
本発明の樹脂は、前記した一般式(1)で表わされる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物との反応から誘導されてなる。このため、該樹脂の構造中の、5員環環状カーボネート基がアミン化合物と反応することで生成する水酸基が、該樹脂に更なる性能の向上をもたらすことになる。すなわち、水酸基は親水性を有するため、該樹脂の基材に対しての接着性を格段に向上させるとともに、更には、従来品では達成できなかった帯電防止効果を得ることができる。また、樹脂の構造中の水酸基と、該樹脂に添加した架橋剤などとの反応を利用すれば、更なる、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性等の向上を図ることが可能になり、例えば、表面処理層等を形成した場合に有用である。
【0026】
本発明の樹脂の水酸基価は、20〜300mgKOH/gであることが好ましい。水酸基含有量が上記範囲未満であると、二酸化炭素削減効果が十分に得られるとは言い難く、一方、上記範囲を超えると、高分子化合物としての機械物性などの諸物性不足となる。
【0027】
本発明によって提供されるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、そのままで使用することができるが、架橋剤を用いて架橋樹脂として使用することもできる。この際に使用可能な架橋剤としては、樹脂構造中の水酸基と反応するような架橋剤はすべて使用できる。例えば、アルキルチタネート化合物やポリイソシアネート化合物が挙げられる。従来、ポリウレタン樹脂の架橋に使用されている公知のポリイソシアネート化合物であれば特に限定されない。例えば、下記のような構造式のポリイソシアネートと他の化合物との付加体などが挙げられる。
【0028】

【0029】
また、本発明の樹脂を各種用途や皮膜の形成に用いる場合には、基材に対するコーティング適性や、成膜性の向上、或いは、ポリシロキサンセグメントの含有量の調整などのために、従来公知の各種バインダー樹脂を混合して使用することができる。この際に用いるバインダー樹脂には、上記のポリイソシアネート付加物などの架橋剤と化学的に反応し得るものが好ましいが、反応性を有していないものでも使用することができる。
【0030】
この際に用いる樹脂としては、従来からバインダーとして用いられている各種の樹脂が使用でき、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、変性セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などを使用することができる。また、これらの樹脂をシリコーンやフッ素で変性した樹脂なども使用可能である。バインター樹脂を併用する場合、その使用量は、本発明のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、5〜90質量部、より好ましくは、10〜60質量部程度を添加するとよい。
【0031】
本発明の樹脂は、例えば、皮膜を形成した場合、樹脂の構造中のポリシロキサンセグメントが皮膜表面に配向することから、該皮膜に、ポリシロキサンセグメントの特徴である耐熱性、滑り性、非粘着性が付与される。これと共に、該樹脂の構造中にある水酸基が、皮膜を形成した基材と界面で強く相互作用することにより、基材に対する優れた接着性や可とう性、及び帯電防止効果が付与される。このため、本発明の樹脂を用いることで優れた性能の製品を得ることができる。また、本発明の樹脂を構成する5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物は、二酸化炭素を製造原料とすることで、樹脂中に二酸化炭素を取り入れることができる。このため、本発明によって、地球温暖化の原因とされている二酸化炭素の削減の観点からも有用な、従来品では到達できなかった環境対応材料が提供される。
【0032】
以上の如く本発明のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、各種成型材料、合成皮革や人工皮革材料、繊維コーティング材、表面処理材、感熱記録材料、剥離性材料、塗料、印刷インキのバインダーなどとして、非常に有用であり、その活用が期待される。
【実施例】
【0033】
次に、具体的な製造例及び実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0034】
<製造例1>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ変性ポリシロキサン100部、N−メチルピロリドン100部、ヨウ化ナトリウム1.2部を加え均一に溶解させた。その後、これに、炭酸ガスを、0.5リッター/分の速度でバブリングしながら、80℃で30時間加熱攪拌した。上記で使用した2価エポキシ変性ポリシロキサンは、信越化学工業(株)製のX−22−163(エポキシ当量198g/mol)であり、図1にその赤外吸収スペクトルを示した。
【0035】

【0036】
反応終了後、得られた溶液に100部のn−ヘキサンを加えて希釈した後、分液ロートにて80部の純水で3回洗浄し、N−メチルピロリドン及びヨウ化ナトリウムを除去した。その後、n−ヘキサン液を硫酸マグネシウムで脱水後、濃縮し、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−A)92部(収率89.7%)を得た。
【0037】
得られた生成物(1−A)の赤外吸収スペクトル(堀場製作所 FT−720)では、図2に示したように、1,800cm-1付近に原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された。また、生成物の数平均分子量は、図3に示したように、2,450(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった。得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−A)中には、18.1%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0038】
<製造例2>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
本製造例では、先の製造例1で用いた2価エポキシ変性ポリシロキサンAの代わりに、下記式Bで示される2価エポキシ変性ポリシロキサンB(信越化学工業(株)製、KF−105;エポキシ当量485g/mol)を用いた。そして、これ以外は、製造例1と同様に反応させて、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−B)99部(収率91%)を得た。得られた生成物(1−B)を、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。また、得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−B)中には、8.3%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0039】

【0040】
<製造例3>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
本製造例では、先の製造例1で用いた2価エポキシ変性ポリシロキサンAの代わりに、下記式Cで示される2価エポキシ変性ポリシロキサンC(信越化学工業(株)製、X−22−169AS;エポキシ当量533g/mol)を用いた。そして、これ以外は、製造例1と同様に反応させて、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−C)71部(収率68%)を得た。得られた生成物は、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。また、得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−C)中には、7.6%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0041】

【0042】
<比較製造例1>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
本比較製造例では、先の製造例1で用いた2価エポキシ変性ポリシロキサンAの代わりに、下記式Dで表される2価エポキシ化合物D(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート828;エポキシ当量187g/mol)を用いた。そして、これ以外は、製造例1と同様に反応させて、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−D)118部(収率95%)を得た。
生成物は赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−D)中には、19%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0043】

【0044】
<実施例1〜3>(ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに、先の製造例1〜3で得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物を加え、更に固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え均一に溶解した。次に、表1に記載のアミン化合物を所定当量加え、90℃の温度で10時間攪拌し、アミン化合物が確認できなくなるまで反応させた。
上記で得られた実施例1〜3の3種類のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の性状は、表1に記載の通りである。
【0045】
<比較例1>(ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに、先の比較製造例1で得られた5員環環状カーボネート化合物を加え、更に固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え均一に溶解した。次に、ヘキサメチレンジアミンを所定当量加え、90℃の温度で10時間攪拌し、アミン化合物が確認できなくなるまで反応させた。得られたポリシロキサンセグメントを有さないポリヒドロキシポリウレタン樹脂の性状は、表1に記載の通りである。
【0046】

【0047】
<比較例2>(ポリウレタン樹脂の製造)
下記のようにして、ポリエステルとジオールとジアミンとから従来の比較例2のポリウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内に、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、200部のメチルエチルケトンと、50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶剤中に溶解した。その後、60℃でよく攪拌しながら、62部の水添加MDIを、171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後、80℃で6時間反応させた。
この溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られたフィルムは、破断強度45MPaで、破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0048】
<比較例3>(ポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂の製造)
下記のようにして、ジオールとジアミンとから従来の比較例3のポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂を合成した。具体的には、下記式(E)で表され、且つ平均分子量が約3,200であるポリジメチルシロキサンジオール150部及び1,4−ブタンジオール10部を、200部のメチルエチルケトンと、50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶媒を加え、又、40部の水添加MDIを、120部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後、80℃で6時間反応させた。この溶液は、固形分35%で1.6MPa・s(25℃)の粘度を有し、この溶液から得られたフィルムは破断強度21MPaで破断伸度250%を有し、熱軟化温度は135℃であった。
【0049】

【0050】
<実施例4〜9及び比較例4〜9>
先に調製した実施例1〜3及び比較例1〜3の各ポリウレタン樹脂溶液(固形分35%)をそれぞれ用い、表2に示したように必要に応じて架橋剤を添加して実施例4〜9及び比較例4〜9の塗料組成物(樹脂組成物)を得た。これらを用い、下記のようにして感熱記録材料を作製し、評価した。具体的には、各樹脂組成物を用い、基材シート表面に耐熱保護層をそれぞれ形成した。
すなわち、乾燥後の厚みが0.2μmになるように上記樹脂溶液を溶剤で希釈して、塗料組成物(樹脂組成物)を得、該組成物を厚み3.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製)の表面に、グラビア印刷により塗布し、乾燥機中で乾燥して基材シート表面に耐熱保護層を形成した。さらに、形成した耐熱保護層の反対側の基材フィルム(シート)面に、感熱記録層(転写インキ層)を形成して実施例4〜9及び比較例4〜9の各感熱記録材料を作製した。転写インキ層の形成については後述する。
【0051】

【0052】
<比較例10>
シリコーン樹脂(KS−841、信越化学工業(株)製)100部と、触媒(PL−7、信越化学工業(株)製)1部とをトルエン1,000部に溶解して、シリコーン樹脂の本比較例の塗料組成物を作製した。そして、上記と同様に基材シート上に塗布し耐熱保護層を形成した。
【0053】
<実施例4A〜9A、比較例4A〜10A>
次に、以上で得た、実施例4〜9及び比較例4〜10の各塗料組成物によって形成された耐熱保護層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム面の反対側の面に、転写インキ層を形成し、各感熱記録材料を得た。具体的には、耐熱保護層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム面の反対側の面に、下記組成のインキ組成物を100℃に加熱して、ホットメルトによるロールコート法にて塗布厚みが5μmになるように塗布して、転写インキ層を形成した。このようにして実施例及び比較例の各塗料を利用して得た実施品の感熱記録材料を、それぞれ実施例4A〜9A及び比較例4A〜10Aとした。
【0054】
(インキ組成物)
・パラフィンワックス 10部
・カルナバワックス 10部
・ポリブテン(日本石油製) 1部
・カーボンブラック 2部
【0055】
[評価]
以上ようにして得られたフィルム状の各感熱記録材料を用いて、下記の印字条件で印字を行い、感熱記録の実装試験をした。そして、スティッキング性、サーマルヘッド汚染性、基材への接着性、静止摩擦係数、帯電性、環境対応度などを以下の方法でそれぞれ評価し、感熱記録材料の背面に形成した「耐熱保護層」を評価した。表3に、評価結果をまとめて示した。
【0056】
(感熱記録材料の実装試験の印字条件)
プリンター:Zebra社100XiIIIPlus
サーマルヘッド:京セラ製 KPA−106−12TA(フラット)
印字エネルギー:25mJ/mm2
印字スピード:100mm/sec
プラテン押圧:350gf/cm
受容紙:キャストコート紙(リンテック社製)
印字パターン:コード巾30mm長さ約40mmの印字条件において、CODE39タテバーコード
【0057】
(スティッキング性)
スティッキング性は、上記実装試験に感熱記録材料を供した場合の、サーマルヘッドとの間の押圧操作時における「耐熱保護層」のサーマルヘッドからの離脱性を目視で観察し、評価した。評価基準は、最も離脱性の良いものを5とし、最も離脱性の悪いものを1とし、相対的に5段階評価した。
【0058】
(サーマルヘッド汚染性、接着性、静止摩擦係数)
サーマルヘッドの汚れは、感熱記録の実装試験に供した後のサーマルヘッドの汚れの状態を目視で観察して評価した。評価基準は、最も汚れの少ないものを5とし、最も汚れのひどいものを1とし、相対的に5段階評価した。接着性試験は、感熱記録材料の背面に形成されている「耐熱保護層」に対して、10×10個の碁盤目セロハンテープ剥離試験を行って、剥離後の残った個数で評価した。また、静止摩擦係数は、「耐熱保護層」について表面性試験機(新東科学製)を用いて測定し、評価した。
【0059】
(帯電性、環境対応度)
更に、帯電性は、フィルム状の感熱記録材料を、巻物の状態から急激に剥離した時に発生する静電気によるフィルム同士のブロッキング性を目視で観測し、ブロッキングが発生した場合を×、発生しない場合を○として評価した。環境対応度は、「耐熱保護層」の形成材料中における二酸化炭素の固定化の有無で、○×判断した。
【0060】

【0061】
<実施例10〜15、比較例11〜16>
先に得た各樹脂をそれぞれ使用し、表4、5に記載した配合の擬革用塗料をそれぞれ作製し、人工皮革及び合成皮革を得た。そして、得られた人工皮革及び合成皮革について評価した。
【0062】
(人工皮革)
まず、先に得た実施例1〜3、比較例1〜3の各樹脂の溶液を、厚さ1mmとなるように、ポリスチレン−ポリエステル繊維からなる不織布上に塗布した。これを、25℃のDMF10%の水溶液中に浸漬し、凝固させた。洗浄後、加熱乾燥し、多孔層シートを有する人工皮革を得た。
【0063】
(合成皮革)
織布上に接着剤層としてポリウレタン系樹脂溶液(商品名:レザミンUD−602S、大日精化工業(株)製)を、乾燥時の厚さが10μmとなるように塗布及び乾燥して、擬革用基布シートを作成した。一方、実施例1〜3及び比較例1〜3で得た樹脂溶液を用い、これを含む擬革用塗料をそれぞれ調製し、各塗料を離型紙上に塗布及び乾燥させ、約15μmの厚さのフィルムを形成し、これを上記で得た基布シートに貼り合せて各合成皮革を得た。
【0064】
[評価]
上記で得た各人工皮革及び合成皮革の各擬革について、下記の方法及び基準で評価した。人工皮革については表4に、合成皮革については表5に、それぞれ評価結果をまとめて示した。
【0065】
(風合い)
各擬革に触って、その手の感触により、下記の基準で評価した。
○:軟らかい
△:やや硬い
×:硬い
【0066】
(摩擦係数)
各擬革表面の摩擦係数を表面性試験機(新東科学製)を用いて測定し、評価した。
【0067】
(耐薬品性)
各合成皮革表面にトルエンをそれぞれ滴下し、常に濡れている状態を保つため溶剤を追加滴下し、1時間後に拭き取って、滴下部分を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:塗布面に滴下痕が全く見られない
△:僅かに滴下痕が認められるが目立たない
×:滴下痕が明らかに認められる
【0068】
(耐表面摩耗性)
各合成皮革に対して、平面摩耗試験機を用い、6号帆布を荷重1kgfで擦り傷が発生するまでの回数を測定し、下記の基準で評価した。
○:5,000回以上
△:2,000回以上〜5,000回未満
×:2,000回未満
【0069】
(環境対応性)
各擬革について、作製に使用した樹脂中における二酸化炭素の固定化の有無によって、○×判断した。
【0070】

【0071】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、滑性、耐摩耗性、耐薬品性、非粘着性、帯電防止性、耐熱性などに優れ、従来の石化プラスチックに代替し得る、フィルム・成型材料、各種コーティング材、各種バインダーなどとして有用な新規なポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が提供される。本発明で提供する樹脂は二酸化炭素を製造原料に利用できるため、本発明は、温暖化ガスである二酸化炭素削減に寄与し得る地球環境対応製品の提供が可能になるため、この点からも、その広範な利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表せる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物とアミン化合物との反応から誘導されてなることを特徴とするポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂。

式中のR1は炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、またはNの各元素による連結及び/又は−(C24O)b−による連結を有していてもよい)を表す。式中のR2は、ないか、または、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基または芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]
【請求項2】
前記5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物が、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素とを反応させて得られたものである請求項1に記載のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂。
【請求項3】
原料由来の二酸化炭素を1〜25質量%含有してなる請求項2に記載のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂。
【請求項4】
樹脂の分子中に占めるポリシロキサンセグメントの含有量が、1〜75質量%である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂。
【請求項5】
下記一般式(1)で表せる5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物との反応から誘導することを特徴とするポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法。

式中のR1は炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、またはNの各元素による連結及び/又は−(C24O)b−による連結を有していてもよい)を表す。式中のR2は、ないか、または、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基または芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]
【請求項6】
前記5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物として、下記一般式(2)で表されるエポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素とを反応させて得た5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物を用いる請求項5に記載のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法。

式中のR1は炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、またはNの各元素による連結及び/又は−(C24O)b−による連結を有していてもよい)を表す。式中のR2は、ないか、または、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基または芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、他の樹脂を混合してなることを特徴とするポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、該ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に存在する水酸基と反応し得る架橋剤を含むことを特徴とするポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132508(P2011−132508A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262357(P2010−262357)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】