説明

ポリジエンの製造のためのバルク重合法

【課題】ポリジエンを調製する方法を提供する。
【解決手段】該方法が、(a)ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物、(b)アルキル化剤、及び(c)塩素含有化合物の組合せ又は反応生成物を含むランタニド系の触媒系を有する共役ジエン単量体を重合する工程を含み、前記重合する工程を、重合混合物の全重量に対して20重量%未満の溶媒を含む重合体混合物内で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年12月31日に出願された、米国仮出願第61/017855号についての利益を主張するものであり、該仮出願を参照することにより本願に援用する。
【背景技術】
【0002】
本発明の一以上の実施態様は、高シス−1,4−結合含量と狭い分子量分布とを併せ持つポリジエンの製造のためのバルク重合法を対象とするものである。他の実施態様は、これらのプロセスに使用される触媒組成物を対象とするものである。
【0003】
ポリジエンは、共役ジエン単量体が不活性溶媒又は希釈剤中で重合する溶液重合によって製造することができる。該溶媒は、反応物と生成物を可溶性にする働きを有し、反応物と生成物のキャリヤとして作用し、重合熱の移動を助け、また、重合率を緩和する手助けとして役立つ。また、該溶媒は重合混合物(セメントともいう)の撹拌や移動も容易にする。なぜなら、セメントの粘性が溶媒の存在によって低下するためである。それにも関わらず、溶媒の存在によって多くの困難がもたらされる。溶媒は重合体から分離し、次いで再利用のためにリサイクルするか、さもなければ廃棄物として処分しなければならない。溶媒の回収及びリサイクルのコストは、製造する重合体のコストを大いに増大させ、また、精製後のリサイクルされた溶媒は依然として重合触媒を被毒する不純物を多少保持している可能性があるという危険が常に存在する。そのうえ、芳香族炭化水素類等のある溶媒は、環境問題を引き起こし得る。さらに、溶媒を除去することが難しい場合、重合体生成物の純度が影響を受ける可能性がある。
【0004】
また、ポリジエンはバルク重合(塊状重合ともいう)によっても製造でき、この場合に共役ジエン単量体は、いかなる溶媒も存在しない或いは実質的に如何なる溶媒も存在しない状態で重合し、そして実質的に単量体自体が希釈剤として作用する。バルク重合は基本的に無溶媒であるので、汚染の危険性がより低く、生成物の分離が容易である。バルク重合は、新規プラント設備能力のための資本コストがより安価であること、操業するためのエネルギーコストがより低廉であること、及び操業するための人員がより少ないことなど、多くの経済的利点をもたらす。また、無溶媒であるという特徴は、排気及び排水による汚染の低減と共に環境上の利点ももたらす。
【0005】
ランタニド化合物、アルキル化剤とハロゲン源を含むランタニド系の触媒系は、高シス−1,4−結合含量を有する共役ジエン重合体を生産するのに有用であることが知られている。それにも関わらず、共役ジエンのバルク重合に適用されるとき、ランタニド系の触媒系は一般に、2.5以上の分子量分布を有するシス−1,4−ポリジエンを提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
より狭い分子量分布を有するシス−1,4−ポリジエンがより低いヒステリシスを与えることは公知である。より高いシス−1,4−結合含量を有するシス−1,4−ポリジエンが伸長結晶化を受ける能力の向上を示し、より高い引張強度とより高い耐摩耗性等の優れた物理的特性をももたらすことが知られている。したがって、より高いシス−1,4−結合含量とより狭い分子量分布を有するシス−1,4−ポリジエンを製造する方法を開発することが望ましい。
【0007】
予備調製されたランタニド系触媒について記載する。これらの触媒を(a)共役ジエン単量体、(b)希土類元素の有機リン酸性塩、(c)トリアルキルアルミニウム化合物又はジアルキルアルミニウム水素化物、及び(d)ハロゲン化アルキルアルミニウムを混合することによって調製し、次いで予備調製された触媒と重合させる共役ジエン単量体とを接触させる前に該混合物を一定期間熟成させる。しかし、調整、熟成と予備調製された触媒の保存には重合容器に加えて別の反応容器を必要とするため、予備調製された触媒は商業生産工程において採用するにはさほど便利ではない。そのうえ、予備調製された触媒の活性、選択性及び他の性能特性は、熟成と保管の間に変化を受ける可能性があり、これは重合法を制御する上で、また望ましい重合体特性を得る上で困難を伴う。これらの理由から、現場で調製された触媒を使用することは、しばしば有利である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一以上の実施態様は、ポリジエンの調製方法を提供するものであり、該方法は以下のランタニド系の触媒系を用いて、共役ジエン単量体を重合する工程を含み、ここでランタニド系の触媒系は、(a)ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物、(b)アルキル化剤、及び(c)塩素含有化合物の組合せ又は反応生成物であり、該重合工程を、重合混合物の全重量に対して20重量%未満の溶媒の重合混合物内で行う。
【0009】
他の実施態様は、ポリジエンの調製方法を提供するものであり、該方法は、(a)共役ジエン単量体、(b)ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物、(c)アルキル化剤、及び(d)塩素含有化合物を導入する工程を含み、該導入工程は、重合混合物の全重量に対して20重量%未満の溶媒を含む重合混合物を形成する。
【0010】
他の実施態様は、(i)ルイス酸及び溶媒或いは単量体とともに、ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物を導入してランタニド化合物を含む溶液を形成する工程、及び(ii)アルキル化剤を有するランタニド化合物と塩素含有化合物とを導入する工程を含む方法により形成される触媒系を提供するものである。
【0011】
また、他の実施態様は、(a)共役ジエン単量体、(b)ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物、(c)アルキル化剤、及び(d)塩素含有化合物を導入する工程を含む方法により調製されるシス−1,4−ポリジエンを提供するものであり、該導入工程は、重合混合物の全重量に対して20重量%未満の溶媒を含む重合混合物を形成する。
【0012】
さらに、他の実施態様は、ポリジエンの調製方法を提供するものであり、該方法は(i)重合させるための単量体を供給する工程、(ii)ランタニド化合物を単量体に導入して重合させ、ここでランタニド化合物はランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれ、前記ランタニド化合物の導入工程は、任意にアルキル化剤、ルイス酸、重合させる添加単量体、或いは2以上のアルキル化剤、ルイス酸、及び添加単量体の組合せを含んでもよく、ここでランタニド化合物の量は重合させる単量体全量100グラムに対して10mmol未満であり、仮に導入する際にはルイス酸のランタニド化合物に対するモル比は0.25:1未満であり、(iii)前記工程(ii)と独立して、塩素含有化合物及び任意にアルキル化剤を単量体に導入して重合させ、ここで工程(iii)における該塩素含有化合物のランタニド化合物に対するモル比は少なくとも0.5:1であり、(iv)前記工程(ii)及び(iii)から独立して、前記工程(ii)、(iii)及び(iv)の少なくとも一つの工程において任意にアルキル化剤を単量体に導入して重合させ、これにより、前記工程(i)、(ii)、(iii)及び(iv)は、重合混合物の全重量に対して20重量%未満の溶媒を含む重合混合物を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一以上の実施態様によれば、ポリジエンは、(a)ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物、(b)アルキル化剤、及び(c)塩素含有化合物の組合せ又は反応生成物を含むランタニド系の触媒系を用いるバルク重合方法において共役ジエン単量体を重合することにより製造される。一以上の実施態様において、ランタニド系の触媒系は、単量体、有機溶媒、及び重合体生成物の全重量に対して20%未満の有機溶媒を含む重合混合物内で形成される。本発明の一以上の実施態様により製造されるポリジエンは高シス−1,4−結合含量と狭い分子量分布により有利に特徴づけられる。
【0014】
一以上の実施態様において、ランタニド化合物及び/又はアルキル化剤は一以上の不安定な塩素原子を含み、かかる触媒系は分離した塩素含有化合物を含む必要はなく、例えば、該触媒は単純に塩素化ランタニド有機リン酸塩化合物とアルキル化剤とを含めばよい。ある実施態様においては、アルキル化剤がアルミノキサンと少なくとも一つの他の有機アルミニウム化合物との双方を含んでもよい。一実施態様において、アルキル化剤が有機アルミニウムヒドリド化合物を含む場合、参照することにより本願に援用される米国特許第7,008,899号に開示されているように、塩素含有化合物は塩化スズであってもよい。これら若しくは他の実施態様では、他の有機金属化合物、ルイス酸、及び/又は触媒調整剤を、上述する成分又は要素に加えて用いてもよい。例えば、一実施態様において、参照することにより本願に援用される米国特許第6,699,813号に開示されているように、ニッケル含有化合物を分子量調整剤として用いてもよい。
【0015】
一以上の実施態様において、本発明により、ポリジエンは、(a)共役ジエン単量体、(b)ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物、(c)アルキル化剤、及び(d)塩素含有化合物を導入して、単量体、有機溶媒及び重合体生成物の全重量に対して20重量%未満の有機溶媒を含む重合混合物を形成することにより製造される。
【0016】
一以上の実施態様において、本発明に従って重合可能な共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン及び2,4−ヘキサジエンが挙げられる。また、二種以上の共役ジエン単量体の混合物を、共重合において用いることができる。
【0017】
ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれる各種ランタニド化合物又はそれらの混合物を用いることができる。
【0018】
ランタニド有機リン酸塩は、有機リン酸のランタニド金属塩である。一以上の実施態様において、ランタニド有機リン酸塩は次式によって定義することができる:
【化1】

式中、Lnはランタニド原子であり、xはランタニド原子の酸化状態であり、R1及びR2は各々独立して一価の有機基である。ある実施態様において、R1及びR2は互いに結合して二価の有機基を形成してもよい。
【0019】
一以上の実施態様において、一価の有機基としては、特に制限されるものではないが、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アリール基、アリル基、アラルキル基、アルカリル基、又はアルキニル基等のヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基が挙げられる。置換されたヒドロカルビル基としては、一以上の水素原子がアルキル基等の置換基によって置換されているヒドロカルビル基が挙げられる。一以上の実施態様においては、これらの基は、かかる基を形成するための1つ若しくは適当な最小限の炭素原子数から20炭素原子数を含んでいてもよい。これらの基は、特に制限されるものではないが、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、スズ原子、及びリン原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0020】
一以上の実施態様において、二価の有機基としては、特に制限されるものではないが、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、シクロアルケニレン基、アルキニレン基、シクロアルキニレン基、又はアリーレン基等のヒドロカルビレン基又は置換されたヒドロカルビレン基が挙げられる。置換されたヒドロカルビレン基としては、一以上の水素原子がアルキル基等の置換基によって置換されているヒドロカルビレン基が挙げられる。一以上の実施態様において、これらの基は、かかる基を形成するための2つ若しくは適当な最小限の炭素原子数から20炭素原子数を含んでいてもよい。これらの基は、特に制限されるものではないが、窒素原子、酸素原子、ホウ素原子、ケイ素原子、硫黄原子、スズ原子、及びリン原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0021】
ランタニド有機ホスホン酸塩は、有機ホスホン酸のランタニド金属塩である。一以上の実施態様において、ランタニド有機ホスホン酸塩は次式によって定義することができる:
【化2】

式中、Lnはランタニド原子であり、xはランタニド原子の酸化状態であり、R3は一価の有機基であり、R4は水素原子又は一価の有機基である。ある実施態様において、R3及びR4は互いに結合して二価の有機基を形成してもよい。一価の有機基及び二価の有機基の例示は上述のとおりである。
【0022】
ランタニド有機ホスフィン酸塩は、有機ホスフィン酸のランタニド金属塩である。一以上の実施態様において、ランタニド有機ホスフィン酸塩は次式によって定義することができる:
【化3】

式中、Lnはランタニド原子であり、xはランタニド原子の酸化状態であり、R5は一価の有機基であり、R6は水素原子又は一価の有機基である。ある実施態様において、R5及びR6は互いに結合して二価の有機基を形成してもよい。一価の有機基及び二価の有機基の例示は上述のとおりである。
【0023】
一以上の実施態様において、ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素等の炭化水素溶媒に可溶であってもよい。他の実施態様では、これらの化合物が重合媒質中で懸濁して、触媒活性種を形成することができる。
【0024】
ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩は、ランタン、ネオジム、セリウム、プラセオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム及びジジムの内の少なくとも一つの原子を含む場合がある。ジジムは、モズナ砂から得られる希土類元素の商業用混合物を含んでもよい。ランタニド化合物中のランタニド原子は、制限されないが、+2、+3、及び+4の酸化状態を含む様々な酸化状態で存在することができる。
【0025】
本発明の実行を制限するのを望むことなく、さらなる考察はネオジム化合物に焦点を合わせるが、当業者は他のランタニド金属に基づく類似の化合物を選択することができるであろう。
【0026】
ネオジム有機リン酸塩としては、ネオジムジブチルリン酸塩、ネオジムジペンチルリン酸塩、ネオジムジヘキシルリン酸塩、ネオジムジヘプチルリン酸塩、ネオジムジオクチルリン酸塩、ネオジムビス(1−メチルヘプチル)リン酸塩、ネオジムビス(2−エチルヘキシル)リン酸塩、ネオジムジデシルリン酸塩、ネオジムジドデシルリン酸塩、ネオジムジオクタデシルリン酸塩、ネオジムジオレイルリン酸塩、ネオジムジフェニルリン酸塩、ネオジムビス(p−ノニルフェニル)リン酸塩、ネオジムブチル(2−エチルヘキシル)リン酸塩、ネオジム(1−メチルヘプチル)(2−エチルヘキシル)リン酸塩、及びネオジム(2−エチルヘキシル)(p−ノニルフェニル)リン酸塩が挙げられる。
【0027】
ネオジム有機ホスホン酸塩としては、ネオジムブチルホスホン酸塩、ネオジムペンチルホスホン酸塩、ネオジムヘキシルホスホン酸塩、ネオジムヘプチルホスホン酸塩、ネオジムオクチルホスホン酸塩、ネオジム(1−メチルヘプチル)ホスホン酸塩、ネオジム(2−エチルヘキシル)ホスホン酸塩、ネオジムデシルホスホン酸塩、ネオジムドデシルホスホン酸塩、ネオジムオクタデシルホスホン酸塩、ネオジムオレイルホスホン酸塩、ネオジムフェニルホスホン酸塩、ネオジム(p−ノニルフェニル)ホスホン酸塩、ネオジムブチルブチルホスホン酸塩、ネオジムペンチルペンチルホスホン酸塩、ネオジムヘキシルヘキシルホスホン酸塩、ネオジムヘプチルヘプチルホスホン酸塩、ネオジムオクチルオクチルホスホン酸塩、ネオジム(1−メチルヘプチル)(1−メチルヘプチル)ホスホン酸塩、ネオジム(2−エチルヘキシル)(2−エチルヘキシル)ホスホン酸塩、ネオジムデシルデシルホスホン酸塩、ネオジムドデシルドデシルホスホン酸塩、ネオジムオクタデシルオクタデシルホスホン酸塩、ネオジムオレイルオレイルホスホン酸塩、ネオジムフェニルフェニルホスホン酸塩、ネオジム(p−ノニルフェニル)(p−ノニルフェニル)ホスホン酸塩、ネオジムブチル(2−エチルヘキシル)ホスホン酸塩、ネオジム(2−エチルヘキシル)ブチルホスホン酸塩、ネオジム(1−メチルヘプチル)(2−エチルヘキシル)ホスホン酸塩、ネオジム(2−エチルヘキシル)(1−メチルヘプチル)ホスホン酸塩、ネオジム(2−エチルヘキシル)(p−ノニルフェニル)ホスホン酸塩、及びネオジム(p−ノニルフェニル)(2−エチルヘキシル)ホスホン酸塩が挙げられる。
【0028】
ネオジムホスフィン酸塩としては、ネオジムブチルホスフィン酸塩、ネオジムペンチルホスフィン酸塩、ネオジムヘキシルホスフィン酸塩、ネオジムヘプチルホスフィン酸塩、ネオジムオクチルホスフィン酸塩、ネオジム(1−メチルヘプチル)ホスフィン酸塩、ネオジム(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸塩、ネオジムデシルホスフィン酸塩、ネオジムドデシルホスフィン酸塩、ネオジムオクタデシルホスフィン酸塩、ネオジムオレイルホスフィン酸塩、ネオジムフェニルホスフィン酸塩、ネオジム(p−ノニルフェニル)ホスフィン酸塩、ネオジムジブチルホスフィン酸塩、ネオジムジペンチルホスフィン酸塩、ネオジムジヘキシルホスフィン酸塩、ネオジムジヘプチルホスフィン酸塩、ネオジムジオクチルホスフィン酸塩、ネオジムビス(1−メチルヘプチル)ホスフィン酸塩、ネオジムビス(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸塩、ネオジムジデシルホスフィン酸塩、ネオジムジドデシルホスフィン酸塩、ネオジムジオクタデシルホスフィン酸塩、ネオジムジオレイルホスフィン酸塩、ネオジムジフェニルホスフィン酸塩、ネオジムビス(p−ノニルフェニル)ホスフィン酸塩、ネオジムブチル(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸塩、ネオジム(1−メチルヘプチル)(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸塩、ネオジム(2−エチルヘキシル)(p−ノニルフェニル)ホスフィン酸塩、及びネオジム(2−エチルヘキシル)(p−ノニルフェニル)ホスフィン酸塩が挙げられる。
【0029】
ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩は、特定の溶媒への追加又は溶媒の調製で、高粘性溶液を形成することができる。これらの溶液は、移動しにくく、また他の触媒成分又は重合させる単量体と混合しづらい可能性がある。仮に、かかる粘調な溶液が他の触媒成分或いは単量体と混合するのに不充分な時間であると、反応器内で不溶性ゲル化重合体の好ましくない凝縮による反応器付着物とともに、芳しくない矛盾した結果が得られる可能性がある。すなわち、一以上の実施態様において、ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及び/又はランタニド有機ホスフィン酸塩は、アルカリ化剤及び/又は塩素含有化合物の添加の前に、単量体に添加して重合させる。次いで、充分な混合時間を与えて、重合させる単量体に入れたランタニド化合物のゲル或いは粘調な溶液を分散させる。混合の時間及び/又は温度は数多くのパラメーターに基づき変動し得るが、当業者はゲル又は粘調な溶液の充分な分散に達する時点を直ちに認識することができる。
【0030】
他の実施態様では、ルイス酸をランタニド化合物の溶液に添加し、重合において用いる前にこれらの溶液の粘性を減じるのが有利であることが分かった。これらランタニド化合物の変性溶液は、長い混合時間を要することなく、移動するのが容易であり、また他の触媒成分又は単量体と混合するのが容易である。さらに、ランタニド化合物の変性溶液の使用は、矛盾のない結果と減じられた反応器付着物をもたらす。
【0031】
好適なルイス酸としては、遷移金属ハロゲン化物、IUPAC周期表の2、12、13、14及び15族の元素のハロゲン化物、及び金属原子がIUPAC周期表の2、12、13、又は14族である有機金属ハロゲン化物が挙げられる。好適なルイス酸の具体例としては、メチルアルミニウムジクロリド、メチルアルミニウムジブロミド、エチルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミド、ブチルアルミニウムジクロリド、ジメチルアルミニウムブロミド、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムブロミド、ジブチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムセスキブロミド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジブチルスズジクロリド、アルミニウムトリクロリド、アルミニウムトリブロミド、アンチモントリクロリド、アンチモンペンタクロリド、ホスホロストリクロリド、ホスホロスペンタクロリド、ボロントリフロリド、ボロントリクロリド、ボロントリブロミド、ガリウムトリクロリド、インジウムトリクロリド、ジンクジクロリド、マグネシウムジクロリド、マグネシウムジブロミド、チタニウムテトラクロリド、及びスズテトラクロリドが挙げられる。
【0032】
ランタニド化合物の低粘性溶液を調製するに際し、各種技術又は添加剤類を用いることによって、ランタニド化合物、溶媒、及び/又は単量体のほかルイス酸を導入することができる。一以上の実施態様において、ランタニド化合物を、溶媒或いはゲルや粘調な溶液を形成する単量体中で膨張或いは溶解させ、次いで純粋な状態または溶液中のルイス酸をランタニド化合物を含むゲル又は粘調な溶液に添加する。付加的溶媒をかかる溶液に任意に添加してもよい。ランタニド化合物、ルイス酸、及び溶媒又は単量体を含む生成混合物を攪拌して低減された粘性を有する溶液を形成する。
【0033】
一以上の実施態様において、ルイス酸で変性されたランタニド化合物の低粘性溶液の濃度は、ランタニド金属を基準にして、約0.1〜約1.0M(モル/リットル)の範囲内であり、他の実施態様では約0.02〜約0.4M、また他の実施態様では約0.03〜約0.1Mである。
【0034】
一以上の実施態様において、ルイス酸を充分な量で添加して、50,000センチポイズ(cps)未満、他の実施態様では10,000cps未満、他の実施態様では1,000cps未満、他の実施態様では500cps未満、及びさらに他の実施態様では100cps未満のブルックフィールド粘度を有する溶液を形成する。
【0035】
一以上の実施態様において、ルイス酸のランタニド化合物に対するモル比は、約0.001:1〜約5:1、他の実施態様では約0.003:1〜約0.5:1、他の実施態様では約0.005:1〜約0.25:1、及び他の実施態様では約0.007:1〜約0.1:1である。
【0036】
各種アルキル化剤又はその混合物を用いることができる。一以上の実施態様において、ヒドロカルビレート剤ともいうアルキル化剤には、ヒドロカルビル基を他の金属に転移できる有機金属化合物が含まれる。典型的に、これら試薬には、1族、2族、及び3族(IA族、IIA族、及びIIIA族)の金属等の陽性金属の有機金属化合物が含まれる。一以上の実施態様において、アルキル化剤には、有機アルミニウム化合物及び有機マグネシウム化合物が含まれる。かかるアルキル化剤が不安定な塩素原子を含む場合、該アルキル化剤は、塩素含有化合物としても機能することができる。
【0037】
「有機アルミニウム化合物」の用語は、少なくとも一つのアルミニウム−炭素結合を含有する化合物を意味する。一以上の実施態様においては、有機アルミニウム化合物を炭化水素溶媒中に溶解させてもよい。
【0038】
一以上の実施態様において、有機アルミニウム化合物としては一般式AlRn3-nで表されるものが挙げられ、ここで各Rは、同一でも異なってもよく、炭素原子を介してアルミニウム原子に結合する一価の有機基であり、各Xは、同一でも異なってもよく、水素原子、塩素原子、カルボキシレート基、アルコキシド基、又はアリールオキシド基であり、nは1〜3の整数である。一以上の実施態様において、各Rは、制限されないが、アルキル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、置換シクロアルケニル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、アルカリール基、アリル基、アルキニル基等のヒドロカルビル基である。これらヒドロカルビル基は、制限されないが、窒素原子、酸素原子、ホウ素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子等のヘテロ原子を含んでもよい。
【0039】
有機アルミニウム化合物の例としては、制限されないが、トリヒドロカルビルアルミニウム、ジヒドロカルビルアルミニウムヒドリド、ヒドロカルビルアルミニウムジヒドリド、ジヒドロカルビルアルミニウムカルボキシレート、ヒドロカルビルアルミニウムビス(カルボキシレート)、ジヒドロカルビルアルミニウムアルコキシド、ヒドロカルビルアルミニウムジアルコキシド、ジヒドロカルビルアルミニウムクロリド、ヒドロカルビルアルミニウムジクロリド、ジヒドロカルビルアルミニウムアリールオキシド、及びヒドロカルビルアルミニウムジアリールオキシド化合物が挙げられる。
【0040】
トリヒドロカルビルアルミニウム化合物の例としては、制限されないが、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリ−t−ブチルアルミニウム、トリ−n−ペンチルアルミニウム、トリネオペンチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウム、トリス(2−エチルヘキシル)アルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、トリス(1−メチルシクロペンチル)アルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリ−p−トリルアルミニウム、トリス(2,6−ジメチルフェニル)アルミニウム、トリベンジルアルミニウム、ジエチルフェニルアルミニウム、ジエチル−p−トリルアルミニウム、ジエチルベンジルアルミニウム、エチルジフェニルアルミニウム、エチルジ−p−トリルアルミニウム、及びエチルジベンジルアルミニウムが挙げられる。
【0041】
ジヒドロカルビルアルミニウムヒドリド化合物の例としては、制限されないが、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジ−n−プロピルアルミニウムヒドリド、ジイソプロピルアルミニウムヒドリド、ジ−n−ブチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジ−n−オクチルアルミニウムヒドリド、ジフェニルアルミニウムヒドリド、ジ−p−トリルアルミニウムヒドリド、ジベンジルアルミニウムヒドリド、フェニルエチルアルミニウムヒドリド、フェニル−n−プロピルアルミニウムヒドリド、フェニルイソプロピルアルミニウムヒドリド、フェニル−n−ブチルアルミニウムヒドリド、フェニルイソブチルアルミニウムヒドリド、フェニル−n−オクチルアルミニウムヒドリド、p−トリルエチルアルミニウムヒドリド、p−トリル−n−プロピルアルミニウムヒドリド、p−トリルイソプロピルアルミニウムヒドリド、p−トリル−n−ブチルアルミニウムヒドリド、p−トリルイソブチルアルミニウムヒドリド、p−トリル−n−オクチルアルミニウムヒドリド、ベンジルエチルアルミニウムヒドリド、ベンジル−n−プロピルアルミニウムヒドリド、ベンジルイソプロピルアルミニウムヒドリド、ベンジル−n−ブチルアルミニウムヒドリド、ベンジルイソブチルアルミニウムヒドリド、及びベンジル−n−オクチルアルミニウムヒドリドが挙げられる。
【0042】
ヒドロカルビルアルミニウムジヒドリドの例としては、エチルアルミニウムジヒドリド、n−プロピルアルミニウムジヒドリド、イソプロピルアルミニウムジヒドリド、n−ブチルアルミニウムジヒドリド、イソブチルアルミニウムジヒドリド、及びn−オクチルアルミニウムジヒドリドが挙げられる。
【0043】
ジヒドロカルビルアルミニウムクロリド化合物の例としては、ジエチルアルミニウムクロリド、ジ−n−プロピルアルミニウムクロリド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジ−n−ブチルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、ジ−n−オクチルアルミニウムクロリド、ジフェニルアルミニウムクロリド、ジ−p−トリルアルミニウムクロリド、ジベンジルアルミニウムクロリド、フェニルエチルアルミニウムクロリド、フェニル−n−プロピルアルミニウムクロリド、フェニルイソプロピルアルミニウムクロリド、フェニル−n-ブチルアルミニウムクロリド、フェニルイソブチルアルミニウムクロリド、フェニル−n−オクチルアルミニウムクロリド、p−トリルエチルアルミニウムクロリド、p−トリル−n−プロピルアルミニウムクロリド、p−トリルイソプロピルアルミニウムクロリド、p−トリル−n−ブチルアルミニウムクロリド、p−トリルイソブチルアルミニウムクロリド、p−トリル−n−オクチルアルミニウムクロリド、ベンジルエチルアルミニウムクロリド、ベンジル−n−プロピルアルミニウムクロリド、ベンジルイソプロピルアルミニウムクロリド、ベンジル−n−ブチルアルミニウムクロリド、ベンジルイソブチルアルミニウムクロリド、及びベンジル−n−オクチルアルミニウムクロリドが挙げられる。
【0044】
ヒドロカルビルアルミニウムジクロリドの例としては、エチルアルミニウムジクロリド、n−プロピルアルミニウムジクロリド、イソプロピルアルミニウムジクロリド、n−ブチルアルミニウムジクロリド、イソブチルアルミニウムジクロリド、及びn−オクチルアルミニウムジクロリドが挙げられる。
【0045】
他の有機アルミニウム化合物の例としては、ジメチルアルミニウムヘキサノアート、ジエチルアルミニウムオクトアート、ジイソブチルアルミニウム2−エチルヘキサノアート、ジメチルアルミニウムネオデカノアート、ジエチルアルミニウムステアラート、ジイソブチルアルミニウムオレアート、メチルアルミニウムビス(ヘキサノアート)、エチルアルミニウムビス(オクトアート)、イソブチルアルミニウムビス(2−エチルヘキサノアート)、メチルアルミニウムビス(ネオデカノアート)、エチルアルミニウムビス(ステアラート)、イソブチルアルミニウムビス(オレアート)、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムメトキシド、ジイソブチルアルミニウムメトキシド、ジメチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムエトキシド、ジメチルアルミニウムフェノキシド、ジエチルアルミニウムフェノキシド、ジイソブチルアルミニウムフェノキシド、メチルアルミニウムジメトキシド、エチルアルミニウムジメトキシド、イソブチルアルミニウムジメトキシド、メチルアルミニウムジエトキシド、エチルアルミニウムジエトキシド、イソブチルアルミニウムジエトキシド、メチルアルミニウムジフェノキシド、エチルアルミニウムジフェノキシド、イソブチルアルミニウムジフェノキシド等、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0046】
有機アルミニウム化合物の他の分類として、アルミノキサンが挙げられる。アルミノキサンとしては、一般式:
【化4】

で表すことができるオリゴマー状の直鎖状アルミノキサン及び一般式:
【化5】

で表すことができるオリゴマー状の環状アルミノキサンが挙げられ、ここで、yは1〜約100、他の実施態様では約10〜約50の整数であり;zは2〜約100、他の実施態様では約3〜約20の整数であり;各R7は、同一でも異なってもよく、炭素原子を介してアルミニウム原子に結合する一価の有機基である。一以上の実施態様では、各R7は、制限されないが、アルキル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、置換シクロアルケニル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、アルカリール基、アリル基、及びアルキニル基等のヒドロカルビル基である。これらヒドロカルビル基は、制限されないが、窒素原子、酸素原子、ホウ素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子等のヘテロ原子を含んでもよい。本願で使用するアルミノキサンのモル数は、オリゴマー状のアルミノキサン分子のモル数というよりもアルミニウム原子のモル数を指すことに注意すべきである。この慣行は、アルミノキサンを利用する触媒の技術分野において一般に採用されている。
【0047】
アルミノキサンは、トリヒドロカルビルアルミニウム化合物に水を反応させることによって調製することができる。この反応は、(1)トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を有機溶媒に溶解し、その後に水と接触させる方法、(2)トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を、例えば金属塩中に含まれる結晶水、又は無機化合物若しくは有機化合物に吸着した水と反応させる方法、(3)トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を、重合させる単量体又は単量体溶液の存在下で水と反応させる方法等の公知の方法に従い実行することができる。
【0048】
アルミノキサン化合物の例としては、メチルアルミノキサン(MAO)、変性メチルアルミノキサン(MMAO)、エチルアルミノキサン、n−プロピルアルミノキサン、イソプロピルアルミノキサン、n−ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、n−ペンチルアルミノキサン、ネオペンチルアルミノキサン、n−ヘキシルアルミノキサン、n−オクチルアルミノキサン、2−エチルヘキシルアルミノキサン、シクロヘキシルアルミノキサン、1−メチルシクロペンチルアルミノキサン、フェニルアルミノキサン、2,6−ジメチルフェニルアルミノキサン等、及びこれらの混合物が挙げられる。変性メチルアルミノキサンは、メチルアルミノキサンのメチル基の約20〜80%を、当業者に既知の技術を用いてC2〜C12のヒドロカルビル基、好ましくはイソブチル基で置換することによって形成することができる。
【0049】
アルミノキサンは単独で或いは他の有機アルミニウム化合物と組み合わせて用いることができる。一実施態様において、メチルアルミノキサンと、ジイソブチルアルミニウムヒドリド等の少なくとも一つの他の有機アルミニウム化合物(例えば、AlRn3-n)とを組み合わせて用いる。
【0050】
「有機マグネシウム化合物」の用語は、少なくとも一つのマグネシウム−炭素結合を含有する化合物を意味する。有機マグネシウム化合物は炭化水素溶媒中に溶解させてもよい。用いることのできる有機マグネシウム化合物の一の分類は式MgR2によって表すことのでき、ここでRは同一であっても異なっていてもよく、炭素原子を介してマグネシウム原子に結合する基であるという条件を有する一価の有機基である。一以上の実施態様において、各Rはヒドロカルビル基であってもよく、また有機マグネシウム生成物はジヒドロカルビルマグネシウム化合物である。ヒドロカルビル基の例としては、制限されないが、アルキル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、置換シクロアルケニル基、アリール基、アリル基、置換アリール基、アラルキル基、アルカリール基、及びアルキニル基が挙げられる。これらのヒドロカルビル基は、制限されないが、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、及びリン原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0051】
好適なジヒドロカルビルマグネシウム化合物の例としては、ジエチルマグネシウム、ジ−n−プロピルマグネシウム、ジイソプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジフェニルマグネシウム、ジベンジルマグネシウム、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0052】
用いることができる有機マグネシウム化合物の他の分類としては、式RMgXで表されるものが挙げられ、ここでRは炭素原子を介してマグネシウム原子に結合する基であるという条件を有する一価の有機基であり、Xは水素原子、塩素原子、カルボキシレート基、アルコキシド基又はアリールオキシド基である。一以上の実施態様において、Rは、制限されないが、アルキル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、置換シクロアルケニル基、アリール基、アリル基、置換アリール基、アラルキル基、アルカリール基、アルキニル基等のヒドロカルビル基であってもよい。これらのヒドロカルビル基は、制限されないが、窒素原子、酸素原子、ホウ素原子、ケイ素原子、硫黄原子、及びリン原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。一以上の実施態様において、Xはカルボキシレート基、アルコキシド基又はアリールオキシド基である。
【0053】
式RMgXで表される例示的な有機マグネシウム化合物としては、制限されないが、ヒドロカルビルマグネシウムヒドリド、ヒドロカルビルマグネシウムクロリド、ヒドロカルビルマグネシウムカルボキシレート、ヒドロカルビルマグネシウムアルコキシド、ヒドロカルビルマグネシウムアリールオキシド、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0054】
式RMgXで表される有機マグネシウム化合物の具体例としては、メチルマグネシウムヒドリド、エチルマグネシウムヒドリド、ブチルマグネシウムヒドリド、ヘキシルマグネシウムヒドリド、フェニルマグネシウムヒドリド、ベンジルマグネシウムヒドリド、メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリド、ヘキシルマグネシウムクロリド、フェニルマグネシウムクロリド、ベンジルマグネシウムクロリド、メチルマグネシウムヘキサノアート、エチルマグネシウムヘキサノアート、ブチルマグネシウムヘキサノアート、ヘキシルマグネシウムヘキサノアート、フェニルマグネシウムヘキサノアート、ベンジルマグネシウムヘキサノアート、メチルマグネシウムエトキシド、エチルマグネシウムエトキシド、ブチルマグネシウムエトキシド、ヘキシルマグネシウムエトキシド、フェニルマグネシウムエトキシド、ベンジルマグネシウムエトキシド、メチルマグネシウムフェノキシド、エチルマグネシウムフェノキシド、ブチルマグネシウムフェノキシド、ヘキシルマグネシウムフェノキシド、フェニルマグネシウムフェノキシド、ベンジルマグネシウムフェノキシド等、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0055】
一つ以上の不安定な塩素原子を含有する各種塩素含有化合物又はそれらの混合物を用いることができる。また、二種以上の塩素含有化合物の組み合わせを利用することができる。一以上の実施態様において、塩素含有化合物は炭化水素溶媒中に可溶であってもよい。他の実施態様において、重合媒質中に懸濁させて触媒活性種を形成することができる炭化水素に不溶性の塩素含有化合物を用いることができる。
【0056】
好適な塩素含有化合物の例としては、制限されないが、塩素原子、ハロゲン化塩素、有機塩化物、無機塩化物、金属塩化物、有機金属塩化物、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0057】
有機塩化物の例としては、t−ブチルクロリド、アリルクロリド、ベンジルクロリド、ジフェニルクロリド、トリフェニルメチルクロリド、ベンジリデンクロリド、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ベンゾイルクロリド、プロピオニルクロリド、及びメチルクロロホルマートが挙げられる。
【0058】
無機塩化物の例としては、三塩化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、三塩化ホウ素、四塩化ケイ素、三塩化ヒ素、四塩化セレン、及び四塩化テルルが挙げられる。
【0059】
金属塩化物の例としては、四塩化スズ、三塩化アルミニウム、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、三塩化ガリウム、三塩化インジウム、四塩化チタン、及び二塩化亜鉛が挙げられる。
【0060】
有機金属塩化物の例としては、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、およびイソブチルアルミニウムセスキクロリド等の有機アルミニウムクロリド;メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、フェニルマグネシウムクロリド、及びベンジルマグネシウムクロリド等の有機マグネシウムクロリド;トリメチルスズクロリド、トリエチルスズクロリド、ジ−n−ブチルスズジクロリド、ジ−t−ブチルスズジクロリド、及びトリ−n−ブチルスズジクロリド等の有機スズクロリドが挙げられる。
【0061】
一実施態様において、有機クロリドを触媒系の塩素含有化合物として用いる。他の態様では、金属クロリドを触媒系の塩素含有化合物として用いる。さらに他の態様では、有機金属クロリドを触媒系の塩素含有化合物として用いる。以下ここで述べるように、触媒が形成される一以上の実施態様において、触媒系の塩素含有化合物は有機アルミニウムクロリドではない。さらなる一実施態様において、アルキル化剤が有機アルミニウムクロリド化合物である場合には、触媒系の塩素含有化合物は四塩化スズ又は二塩化スズ等の塩化スズであってもよい。
【0062】
本発明の触媒組成物は、前述の触媒成分を化合又は混合することによって形成してもよい。一以上の活性触媒種が触媒成分の組合せから生じると思われているが、各種触媒成分又は要素間の相互作用または反応の程度が、いかに大きな確実性を伴うかは知られていない。ランタニド化合物、アルキル化剤及び塩素含有化合物の組合せ又はそれらの反応生成物は、通常、触媒系又は触媒組成物と称される。触媒組成物又は触媒系なる用語は、成分の単なる混合物、物理的又は化学的な引力により生じる各種成分の複合体、成分の化学反応生成物、又は上述のものの組合せを包含するよう用いられる。
【0063】
有利なことに、本発明の触媒組成物は、広範囲にわたる触媒濃度及び触媒成分比で共役ジエンをポリジエンに重合させるための、技術的に有用な触媒活性を有する。いくつかの要因が、いずれか一つの触媒成分の最適濃度に影響を与える。例えば、触媒成分が相互作用して活性種を形成するため、いずれか一つの触媒成分の最適濃度が他の触媒成分の濃度に依存し得る。
【0064】
一以上の実施態様において、アルキル化剤のランタニド化合物に対するモル比(アルキル化剤/Ln)を約1:1〜約1,000:1、他の実施態様では約2:1〜約500:1、更に他の実施態様では約5:1〜約200:1の範囲で変えることができる。
【0065】
アルミノキサン及び少なくとも一つの他の有機アルミニウム剤の両方をアルキル化剤として用いるこれらの実施態様では、アルミノキサンのランタノイド化合物に対するモル比(アルミノキサン/Ln)を約5:1〜約1,000:1、他の実施態様では約10:1〜約700:1、更に他の実施態様では約20:1〜約500:1の範囲で変えることができ;少なくとも一つの他の有機アルミニウム化合物のランタノイド化合物に対するモル比(Al/Ln)を約1:1〜約200:1、他の実施態様では約2:1〜約150:1、更に他の実施態様では約5:1〜約100:1の範囲で変えることができる。
【0066】
塩素含有化合物のランタノイド化合物に対するモル比(Cl/Ln)は、塩素含有化合物における塩素原子のモルの、ランタニド化合物におけるランタニド原子のモルに対する比として最もよく記載される。一以上の実施態様では、塩素/Lnのモル比を約0.5:1〜約20:1、他の実施態様では約1:1〜約10:1、更に他の実施態様では約2:1〜約6:1の範囲で変えることができる。
【0067】
ランタニド系触媒を各種技術を用いることによって形成することができる。一以上の実施態様において、かかる触媒を重合させる単量体に直接触媒成分を添加することによって形成してもよい。この観点において、触媒成分を段階的に又は同時に添加してもよい。一実施態様では、触媒成分を段階的に添加した場合、最初にランタニド化合物を添加し、続いてアルキル化剤、そして最後に塩素含有化合物を添加できる。他の実施態様において、ルイス酸を直接添加して単量体を重合する。触媒成分の重合させる単量体への直接的な添加は、触媒系のインサイチュー形成と称される。各種触媒成分が直接かつ個別に重合させる単量体に添加される間、ランタニド化合物をそれと同時に、又は上述のようにルイス酸との予備結合溶液として添加してもよい。
【0068】
他の実施態様において、触媒若しくはその一部を予備形成してもよい。つまり、触媒成分のうちの二つ以上を導入し、重合させる単量体の外部で予備混合してもよい。特定の実施態様では、触媒の形成を、あらゆる単量体の不在下で、又は好ましくは少量の少なくとも一種の共役ジエン単量体の存在下で、通常約−20℃〜約80℃の適切な温度にて行ってもよい。共役ジエン単量体の混合物を用いてもよい。触媒を予備形成するために用いる共役ジエン単量体の量は、ランタニド化合物1モル当り約1〜約500モル、他の実施態様では約5〜約250モル、更に他の実施態様では約10〜約100モルの範囲とすることができる。結果として生じる予備形成した触媒組成物を、必要に応じて重合させる単量体を加える前に熟成させることができる。
【0069】
更に他の実施態様においては、上記触媒を二段階の手段により形成してもよい。第一段階は、あらゆる単量体の不在下で、又は好ましくは少量の少なくとも一種の共役ジエン単量体の存在下で、適切な温度(例えば、−20℃〜約80℃)にてランタニド化合物をアルキル化剤及びルイス酸と反応させることを含むことができる。この第一段階混合物の調製において用いる単量体の量は、上述したように、触媒を予備形成するために用いる量と同じであってもよく、ルイス酸のランタニド化合物に対するモル比は上述のように0.25:1以下のレベルで維持してもよい。第二段階では、第一段階で調製された混合物と、塩素含有化合物とを段階的に又は同時に重合させる単量体に添加することができる。他の実施態様では、第一段階で調製された混合物を最初に、続いて塩素含有化合物を添加することができる。
【0070】
一以上の実施態様において、重合系への触媒又は触媒成分の搬送を容易にするために、溶媒を触媒又は触媒成分を溶解又は懸濁するキャリヤーとして用いてもよい。他の実施態様では、共役ジエン単量体を触媒キャリアーとして用いることができる。さらに他の実施態様では、触媒成分を如何なる溶媒も含まない純粋な状態で用いることができる。
【0071】
一以上の実施態様において、好適な溶媒としては、触媒の存在下で単量体が重合する間、成長重合体鎖に重合或いは付加することのない有機化合物が挙げられる。一以上の実施態様において、これらの有機溶媒は触媒に不活性である。一以上の実施態様において、これらの有機溶媒は常温常圧で液体である。例示的な有機溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素等、低沸点又は比較的低沸点の炭化水素が挙げられる。芳香族炭化水素の非限定的な例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン類、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン及びメシチレンが挙げられる。脂肪族炭化水素の非限定的な例としては、n−ペンタン、n−へキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、イソペンタン、イソへキサン類、イソペンタン類、イソオクタン類、2,2−ジメチルブタン、石油エーテル、灯油及び石油スピリットが挙げられる。そして、脂環式炭化水素の非限定的な例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン及びメチルシクロへキサンが挙げられる。また、上記炭化水素の混合物を用いてもよい。当該技術分野で公知のように、環境に関する理由から、脂肪族炭化水素や脂環式炭化水素が非常に好適である。低沸点の炭化水素溶媒は、一般に重合の完了によって重合体から分離される。
【0072】
有機溶媒の他の例としては、パラフィン系オイル、芳香油、又は油展重合体に通常用いられる他の炭化水素油等の高分子量の高沸点炭化水素が挙げられる。これらの炭化水素は非揮発性であるので、それらは一般的に分離を必要とせず、重合体中に組み込まれたままでもよい。
【0073】
本発明によるポリジエンの製造は、前述の触媒組成物の触媒的に効果的な量の存在下、共役ジエン単量体を重合することによって達成される。触媒組成物、共役ジエン単量体、及び任意の溶媒(使用の場合)の導入により、重合混合物が形成され、該重合混合物中で重合生成物が形成される。重合混合物に用いられる全触媒濃度は、成分の純度、重合温度、所望の重合速度及び転化率、所望の分子量、並びに多数のその他の要因等、様々な要因の相互作用に依存し得る。従って、それぞれの触媒成分を触媒的に効果的な量で使用できるという以外、具体的な全触媒濃度を断定的に説明することができない。一以上の実施態様において、使用するランタニド化合物の量を、共役ジエン単量体100g当り約0.001〜約10mmol、他の態様では約0.002〜約1mmol、他の実施態様では約0.005〜約0.5mmol、また他の実施態様では約0.01〜約0.2mmolの範囲で変えることができる。一以上の実施態様において、重合混合物中のランタニド化合物の濃度は、0.01mol/l未満、他の態様では0.008mol/l未満、他の態様では0.005mol/l未満、また他の態様では0.003mol/l未満である。
【0074】
一以上の実施態様において、本発明において使用する重合系として、一般には、実質的に溶媒がない又は最低限の量の溶媒を含むバルク重合系を考慮することができる。当業者は、バルク重合法(即ち、単量体が溶媒として作用する方法)の利益を理解しており、従って、その重合系は、バルク重合を行うことで求められる利益に害を及ぼすことになる量より少ない溶媒を含む。一以上の実施態様では、重合混合物中の溶媒の含有量を、重合混合物の全重量に対して、約20重量%未満、他の実施態様では約10重量%未満、更に他の実施態様では約5重量%未満とすることができる。他の実施態様において、重合混合物は使用する原材料に固有のもの以外の溶媒を含まない。更に他の実施態様において、重合混合物は実質的に溶媒を欠くが、このことは、重合過程に相当の影響を与える量の溶媒が存在しないことを指す。実質的に溶媒を欠いた重合系は、実質的に溶媒がないと称される場合がある。特定の実施態様では、重合混合物は溶媒を欠く。
【0075】
かかるバルク重合を当該技術分野において既知の標準的な重合反応器中で行うことができる。一以上の実施態様において、特に60%未満の単量体転化率の場合に、標準的な攪拌槽型反応器中でバルク重合を行うことができる。また、他の実施態様では、特に、一般に高粘性セメントをもたらす約60%よりも高い単量体転化率の場合は、重合下での粘調なセメントがピストン又は実質的にピストンで動くように送られる長形の反応器中でバルク重合を行ってもよい。例えば、自洗式の一軸スクリュー又は二軸スクリュー攪拌器に沿ってセメントを押し出す押出機がこの目的に適している。有用なバルク重合法の例は、米国特許第7,351,776号に開示されており、その内容を参照することにより本願に援用する。
【0076】
一以上の実施態様において、重合に用いる成分の全部を単一の容器(例えば、標準的な攪拌槽型反応器)内で混ぜ合わせることができ、重合方法の全ての工程をこの容器内で行うことができる。他の実施態様では、二つ以上の成分を一の容器中で予め混ぜ合わせ、次いで単量体の重合(又は少なくともその主要な部分)を行う他の容器に移動してもよい。
【0077】
上記バルク重合を回分法、連続法又は半連続法として行ってもよい。半連続法では、既に重合した単量体と置換するために、必要に応じて単量体を断続的に投入する。重合温度を変えてもよい。しかしながら、高温での1,3−ブタジエン単量体中におけるシス−1,4−ポリブタジエンの有限溶解度によって、重合体の分子量が厳密に制御されて均一の重合体生成物を与える単相均一系では、重合の大部分を維持するために比較的低い重合温度を採用することが好ましい。一以上の実施態様では、重合混合物の温度が、約0℃〜約50℃の範囲を維持するように重合が進行する条件を制御してもよく、他の実施態様では約5℃〜約45℃の範囲であり、また他の実施態様では約10℃〜約40℃の範囲である。一以上の実施態様において、熱的に制御された反応ジャケットを用いる外部冷却、反応器に連結した還流冷却器の使用によって単量体の蒸発又は凝縮による内部冷却、又はこれら二つの方法の組み合わせにより、重合熱を除去してもよい。また、条件を制御して約0.1〜約50気圧の圧力下で重合を行ってもよく、他の態様では約0.5〜約20気圧、また他の態様では約1〜約10気圧である。一以上の実施態様において、単量体の大部分が確実に液相で存在する圧力で重合を行ってもよい。これら或いは他の実施態様において、重合混合物を嫌気状態下に維持してもよい。
【0078】
重合を所望の転化率まで行った後、重合を停止することができる。一以上の実施態様では、しかしながら、高い転化率がもたらす高セメント粘性や、単量体中での、例えばシス−1,4−ポリブタジエンの有限溶解度による高転化率時に単量体からの固相としての重合体の分離を避けることが好ましい。従って、一実施態様では、転化率が約5%〜約60%の範囲内である。他の実施態様では、転化率が約10%〜約40%である。更に他の実施態様では、転化率が約15%〜約30%である。後で、未反応の単量体を重合過程に再利用することができる。
【0079】
本発明の重合方法で製造されるポリジエンは、重合体中のいくつかの重合体鎖が反応性の鎖末端を有するように、擬似リビング特性を有する。所望の単量体の転化率が達成され次第、任意に官能化剤を重合混合物中に導入し、変性重合体を与えるために反応性重合体鎖と反応させてもよい。一以上の実施態様においては、重合混合物を失活剤と接触させる前に官能化剤を導入する。他の実施態様においては、重合体混合物が失活剤で部分的に失活された後に官能化剤を導入してもよい。
【0080】
一以上の実施態様において、官能化剤としては、本発明により製造される反応性重合体と反応し、それにより、官能化剤と反応しなかった成長鎖と異なる、官能基を有する重合体を提供することができる化合物又は試薬が挙げられる。該官能基は、他の重合体鎖(成長及び/又は非成長)又は重合体と混合できる補強性充填剤(例えば、カーボンブラック)等の他の構成成分と反応し、或いは相互作用してもよい。一以上の実施態様において、官能化剤と反応性重合体間での反応は、付加反応又は置換反応によって進行する。
【0081】
有用な官能化剤としては、二つ以上の重合体鎖を合わせて連結することなく重合体鎖の末端に官能基を提供する化合物や、官能性の結合を介して二つ以上の重合体鎖を合わせて結合又は連結し、単一の高分子を形成する化合物を挙げることができる。また、後者のタイプの官能化剤をカップリング剤と称する場合もある。
【0082】
一以上の実施態様において、官能化剤としては、重合体鎖にヘテロ原子を付加し又は与える化合物が挙げられる。特定の実施態様では、官能化剤として、重合体鎖に官能基を与えて変性重合体を形成する化合物が挙げられ、官能化重合体は、該官能化重合体から調製されるカーボンブラックが充填された加硫物の50℃でのヒステリシスロスを、非官能化重合体から調製される同様のカーボンブラックが充填された加硫物と比べて低減する。一以上の実施態様においては、このヒステリシスロスの低減が少なくとも5%であり、他の実施態様では少なくとも10%であり、他の実施態様では少なくとも15%である。
【0083】
一以上の実施態様において、好適な官能化剤としては、擬似リビング重合体(例えば、本発明に従い製造されるもの)と反応し得る基を含む化合物が挙げられる。例示的な官能化剤としては、ケトン類、キノン類、アルデヒド類、アミド類、エステル類、イソシアネート類、イソチオシアネート類、エポキシド類、イミン類、アミノケトン類、アミノチオケトン類及び酸無水物類が挙げられる。これらの化合物の例は、米国特許第4,906,706号、第4,990,573号、第5,064,910号、第5,567,784号、第5,844,050号、第6,838,526号、第6,977,281号、及び第6,992,147号;米国特許公報第2006/0004131A1号、第2006/0025539A1号、第2006/0030677A1号、及び第2004/0147694A1号;日本国特許出願第05−051406A号、第05−059103A号、第10−306113A号、及び第11−035633A号に開示されており、これらの内容を参照することにより本願に援用する。官能化剤の他の例としては、米国出願番号第11/640,711号に開示のアジン化合物、米国出願番号第11/710,713号に開示のヒドロベンズアミド化合物、米国出願番号第11/710,845号に開示のニトロ化合物、及び米国出願番号第60/875,484号に開示の保護されたオキシム化合物が挙げられ、これらの内容を参照することにより本願に援用する。
【0084】
特定の実施態様において、用いる官能化剤は、制限されるものではないが、四塩化スズ等の金属ハロゲン化物、四塩化ケイ素等の半金属ハロゲン化物、ビス(オクチルマレイン酸)ジオクチルスズ等の金属エステル−カルボキシレート複合体、オルトケイ酸テトラエチル等のアルコキシシラン、及びテトラエトキシスズ等のアルコキシスタンナン等のカップリング剤とすることができる。カップリング剤は、単独で又は他の官能化剤と組み合わせて用いることができる。官能化剤の組み合わせは、任意のモル比で用いることができる。
【0085】
重合混合物に導入する官能化剤の量は、重合の開始に用いる触媒の種類及び量、官能化剤の種類、所望の程度の官能性、並びに多数の他の要因等、様々な要因に依存し得る。一以上の実施態様において、官能化剤の量は、ランタニド化合物1モル当り、約1〜約200モルの範囲とすることができ、他の実施態様では約5〜約150モルであり、他の実施態様では約10〜約100モルである。
【0086】
反応性重合体鎖は、高温でゆっくり自己停止する場合があるので、一実施態様においては、重合最高温度が観察された時点で重合混合物に官能化剤を添加してもよい。他の実施態様においては、重合最高温度に達した後、約25〜35分以内に官能化剤を添加してもよい。
【0087】
一以上の実施態様では、所望の単量体の転化率を達成した後であってプロトン水素原子を含有する失活剤を添加する前に、官能化剤を重合体混合物に導入してもよい。一以上の実施態様では、少なくとも5%、他の実施態様では少なくとも10%、他の実施態様では少なくとも20%、他の実施態様では少なくとも50%、他の実施態様では少なくとも80%の単量体転化率の後で、官能化剤を重合体混合物に添加する。これらの実施態様又は他の実施態様では、90%の単量体転化率の前に、他の実施態様では70%の単量体転化率の前に、他の実施態様では50%の単量体転化率の前に、他の実施態様では20%の単量体転化率の前に、他の実施態様では15%の単量体転化率の前に、官能化剤を重合混合物に添加する。一以上の実施態様では、単量体の転化を完了又は実質的に完了した後で官能化剤を添加する。特定の実施態様では、参照することにより本願に援用される2007年8月7日に出願した同時係属中の米国出願第11/890,590号に開示のルイス塩基の導入の直前、同時又はその後に、官能化剤を重合混合物に導入する。
【0088】
一以上の実施態様では、重合(又は少なくとも重合の一部)を行った場所で(例えば、容器内で)官能化剤を重合混合物に導入してもよい。他の実施態様では、重合(又は少なくとも重合の一部)を行ったところと異なる場所で官能化剤を重合混合物に導入してもよい。例えば、下流反応器もしくは下流槽、インライン反応器もしくはインラインミキサー、押出機、又は脱揮発槽等の下流の容器中で、官能化剤を重合混合物に導入してもよい。
【0089】
官能化剤を重合混合物に導入して所望の反応時間を付与した時点で、残留したあらゆる反応性重合体と触媒及び/又は触媒成分とを不活性化するため、失活剤を重合混合物に添加してもよい。一以上の実施態様において、失活剤としては、制限されるものではないが、アルコール、カルボン酸、無機酸又はそれらの混合物等のプロトン性化合物を挙げることができる。特定の実施態様では、失活剤として、参照することにより本願に援用される2007年8月7日に出願された同時係属中の米国出願第11/890,591号に開示のポリヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0090】
失活剤の添加と共に又はその前後で2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等の酸化防止剤を添加してもよい。用いる酸化防止剤の量は、重合体生成物の約0.2重量%〜約1重量%の範囲とすることができる。失活剤及び酸化防止剤を純物質として添加してもよいし、必要に応じて、重合混合物に添加する前に炭化水素溶媒又は共役ジエン単量体に溶解して添加することもできる。
【0091】
重合混合物を失活させたら、重合混合物の各種要素を回収してもよい。一以上の実施態様において、未反応の単量体を重合混合物から回収することができる。例えば、当技術分野において公知の技術を用いることで、重合混合物から留出することができる。一以上の実施態様では、揮発分除去装置を用いて重合混合物から単量体を除去してもよい。重合混合物から単量体を除去した時点で、かかる単量体を精製し、保存し、及び/又は重合過程に再利用してもよい。
【0092】
当技術分野において公知の技術を用いることで、重合混合物から重合体生成物を回収してもよい。一以上の実施態様において、脱溶媒方法及び乾燥方法を用いることができる。例えば、重合体を脱溶媒押出機等の加熱したスクリュー装置に通すことにより、重合体を回収することができ、該装置においては、適切な温度(約100℃〜約170℃)で且つ大気圧又は減圧下での蒸発により、揮発性物質を除去する。この処理は、未反応の単量体と共に低沸点溶媒を除去するために作用する。代わりに、重合体にスチーム脱溶媒を施し、次いで得られる重合体の小片を熱風トンネル中で乾燥させることで、重合体を回収することもできる。また、ドラム乾燥で直接重合混合物を乾燥させることによって重合体を回収することもできる。
【0093】
本発明の一以上の実施態様によってシス−1,4−ポリジエン(例えば、シス−1,4−ポリブタジエン)を製造する場合、シス−1,4−ポリジエンは、有利には約96%超、他の実施態様においては約97%超、他の実施態様においては約98%超、他の実施態様においては約98.5%超、更に他の実施態様においては約99%超のシス−1,4−結合含量を有する。
【0094】
一以上の実施態様において、本発明の方法によって製造されるポリジエンは約2.7未満、他の実施態様では約2.5未満、更に他の実施態様では約2.2未満、また更に他の実施態様では約2.0未満の分子量分布(Mw/Mn)を示す。
【0095】
特定の実施態様では、本発明の方法によって製造されるシス−1,4−ポリジエンは98.5%を超えるシス−1,4−結合含量と、2.0未満の分子量分布を有する。これはより狭い分子量分布を有するシス−1,4−ポリジエンはより低ヒステリシスをもたらすために有利であるのに対し、より高いシス−1,4−結合含量を有するシス−1,4−ポリジエンは伸長結晶化を受ける能力の向上を示し、高引張強度や高耐摩耗性等の優れた物質特性を付与する。
【0096】
本発明の方法によって製造されるポリジエンは優れた粘弾性を示し、制限されないが、特にタイヤトレッド、サイドウォール、サブトレッド、及びビードフィラー等の各種タイヤ部材の製造に有用である。シス−1,4−ポリジエンはタイヤストックのエラストマー成分の全部或いは一部として用いることができる。シス−1,4−ポリジエンを他のゴムとともに用いてタイヤストックのエラストマー成分を形成する場合、これら他のゴムは天然ゴム、合成ゴム、及びこれらの混合物であってもよい。合成ゴムの例としては、ポリイソプレン、ポリ(スチレン−co−ブタジエン)、低シス−1,4−結合含量を有するポリブタジエン、ポリ(スチレン−co−ブタジエン−co−イソプレン)、及びこれらの混合物が挙げられる。かかるシス−1,4−ポリジエンはホース、ベルト、靴底、ウィンドウシール、他のシール、振動減衰ゴム、及び他の工業製品の製造において用いることもできる。
【0097】
本発明の実施を明示するため、下記に示す例を用意して試験した。しかしながら、これらの例を発明の範囲を制限するものとしてみなすべきではない。特許請求の範囲が本発明を定める役割を果たす。
【実施例】
【0098】
下記に示す例では、大型ローターを具え、1分間の熱入れ時間と4分間の実行時間のモンサントムーニー粘度計を用いて、100℃での重合体試料のムーニー粘度(ML1+4)を測定した。ポリスチレン基準と、対象とする重合体のマーク−ホーウインク定数とで較正したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、重合体試料の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)並びに分子量分布(Mw/Mn)を測定した。重合体試料のシス−1,4−結合含量、トランス−1,4−結合含量及び1,2−結合含量を赤外分光法により測定した。
【0099】
[例1]
この例では、ネオジミウムビス(2−エチルヘキシル)ホスフェート(以下、NdPと略す)、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)、及びエチルアルミニウムジクロリド(EADC)を含む触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。商業的に入手可能な0.126MのNdPメチルシクロヘキサン溶液をNd源として用いた。この溶液は高粘性であって移動しにくいことがわかった。
【0100】
重合反応器は、高粘性の重合体セメントを混合することが可能な機械攪拌機(シャフト及びブレード)を具えた1ガロンのステンレス製スチール反応器から構成されていた。反応器の上部には、重合の継続時間中に反応器の内部で発生する1,3−ブタジエンの蒸気を搬送、凝縮、再利用するため、還流冷却器システムを連結した。また、反応器は、冷却水を含む冷却ジャケットを具えていた。重合の熱は、還流冷却器システムの使用による内部冷却で部分的に除去し、そして冷却ジャケットへの伝熱による外部冷却で部分的に除去した。
【0101】
上記反応器を乾燥窒素流で完全にパージし、次に、該反応器に乾燥1,3−ブタジエン単量体100gを投入し、反応器を65℃に加熱し、更に反応器中に液状1,3−ブタジエンが残留しなくなるまで還流冷却器システムの上部から1,3−ブタジエンの蒸気をガス抜きすることによって、乾燥窒素を1,3−ブタジエンの蒸気で置換した。冷却水を還流冷却器と反応器ジャケットに適用し、1,3−ブタジエン単量体1302gを反応器に投入した。該単量体を32℃に温度調整した後、0.68MのTIBAヘキサン溶液29.1mLを反応器に投入し、0.126MのNdPメチルクロロヘキサン溶液1.97mLを添加した。次いで、0.074MのEADCヘキサン溶液5.00mLを投入することによって重合を開始させ、この際、NdPメチルクロロヘキサン混合物の添加から1〜2分以内に開始した。重合開始から8.9分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は155.4gであった。得られた重合体の特性を表1にまとめる。
【0102】
重合混合物を反応器から排出した後、反応器内部の目視の検査により反応器付着物が発生していることが明らかとなった。特に、攪拌機のシャフト及びブレードが不溶性のゲル化した重合体で覆われていた。上述した重合条件下、高粘性NdP溶液が他の触媒成分及び単量体と充分に混合されず、攪拌機で発生した過剰重合のために付着物を引き起こすNdP溶液の一部が攪拌機中に付着したため、反応器付着物が発生した。
【表1】

【0103】
[例2]
この例では、他の触媒成分を添加する前に、最初に高粘性NdP溶液を単量体と予備混合した以外、例1と同一の触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0104】
例1と同一の反応器調製方法を用いた。約651gの1,3−ブタジエン単量体を反応器に投入した。単量体を32℃に加熱した後、0.126MのNdPメチルへキサン溶液0.98mLを反応器に投入した。1.5時間攪拌して粘調な溶液の単量体への完全な溶解を確実にした後、1.0MのTIBAヘキサン溶液7.40mLを反応器に投入した。次いで、0.074MのEADCヘキサン溶液2.90mLを反応器に投入することによって重合を開始させた。重合開始から11.7分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は61.2gであった。得られた重合体の特性を表1にまとめる。
【0105】
重合混合物を反応器から排出した後、反応器内部の目視の検査により反応器付着物のないきれいな反応器であることが明らかとなった。
【0106】
例2で得られた結果と例1で得られた結果との比較は、反応器付着物を回避するためには、他の触媒成分を添加する前に、充分な時間で粘調なNdP溶液を単量体と混合しなければならないことを示している。
【0107】
[例3]
この例では、商業的に入手可能で、高粘性であるNdP溶液を少量のルイス酸で処理することにより、低粘性NdP溶液を調製した。
【0108】
0.1Mのスズテトラクロリド(TTC)ヘキサン溶液約0.18mLを商業的に入手可能な0.126MのNdPメチルシクロヘキサン溶液38.1mLに添加した。混合すると即座にNdP溶液の粘性が著しく減少し、さほど粘性のない溶液が得られた。得られたNdP溶液(以下、TTC変性NdP溶液という)は0.125Mの濃度を有していた。TTC変性NdP溶液は、長時間の混合時間を要することなく移動しやすく、また他の触媒成分や単量体と混合しやすいことがわかった。従って、TTC変性NdP溶液を後の実験において用いた。
【0109】
[例4]
この例では、TTC変性NdP、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)、及びエチルアルミニウムジクロリド(EADC)を含む触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0110】
例1で用いた同様の方法を採用した。単量体を32℃に加熱した後、0.68MのTIBAヘキサン溶液20.0mLを反応器に投入し、0.125MのTTC変性NdPメチルクロロヘキサン溶液2.00mLを添加した。次いで、0.074MのEADCヘキサン溶液5.85mLを反応器に投入することによって重合を開始させ、この際、NdPメチルクロロヘキサン混合物の添加から1〜2分以内に開始した。重合開始から11.5分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は180.0gであった。得られた重合体の特性を表1にまとめる。
【0111】
重合混合物を反応器から排出した後、反応器内部の目視の検査により反応器付着物のないきれいな反応器であることが明らかとなった。
【0112】
例4で得られた結果と例1で得られた結果との比較は、長時間の混合時間を要せずに重合中での反応器付着物をなくす上で、TTC変性NdP溶液の使用が有利であることを示している。
【0113】
[例5(例1、2及び4に対する比較例)]
この例では、ネオジムバーサテート(以下、NdVと略す)、TIBA、及びEADCを含む触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0114】
例1で用いた同様の方法を採用した。単量体を32℃に加熱した後、0.68MのTIBAヘキサン溶液29.1mLを反応器に投入し、0.054MのNdVシクロヘキサン溶液4.6mLを添加した。次いで、0.070MのEADCヘキサン溶液5.30mLを投入することによって重合を開始させた。重合開始から17.1分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は196.5gであった。得られた重合体の特性を表1にまとめる。
【0115】
例5で得られた結果と例1、2、及び4で得られた結果との比較は、1,3−ブタジエンのバルク重合におけるNdVの代わりであるNdPの使用が、より狭い分子量分布を有するシス−1,4−ポリブタジエンをもたらすことを示している。
【0116】
[例6(例4に対する比較例)]
この例では、重合を溶液中で行った以外、例4と同一の触媒系を用いて1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0117】
重合容器は洗浄及び乾燥させた800mLのガラス瓶であった。該瓶は自己密閉式ゴムライナーと穴の開いた金属キャップを具えていた。かかる瓶を乾燥窒素の蒸気で完全にパージした後、該瓶に101gのヘキサンと、21.6重量%の1,3−ブタジエンを含む232gの1,3−ブタジエン/ヘキサン混合物とを投入した。次いで、以下の触媒成分を以下の順序により瓶に投入した:(1)0.125MのTTC変性NdPメチルシクロヘキサン溶液0.68mL、(2)0.68MのTIBA2.37mL、及び(3)0.16MのEADC0.76mLである。瓶は80℃に保持した水浴中に50分間タンブルした。0.30gの2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを含む3mLのイソプロパノールの添加により、重合を失活させた。得られた重合体セメントを2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.5gを含有する3リッターのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は43.3gであった。得られた重合体の特性を表1にまとめる。
【0118】
例6で得られた結果と例4で得られた結果との比較は、1,3−ブタジエンのバルク重合におけるNdPの使用が、同一の触媒系の存在下での1,3−ブタジエンの溶液重合によって重合される重合体と比較して、より高いシス−1,4−結合含量を有するシス−1,4−ポリブタジエンをもたらすことを示している。
【0119】
[例7]
この例では、TTC変性NdP、TIBA、及びSnCl4を含む触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0120】
例1で用いた同様の方法を採用した。単量体を32℃に加熱した後、0.68MのTIBAヘキサン溶液21.8mLを反応器に投入し、0.125MのTTC変性NdPメチルクロロヘキサン溶液2.0mLを添加した。次いで、0.05MのSnCl4ヘキサン溶液4.3mLを反応器に投入することによって重合を開始させた。重合開始から11.0分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は156.7gであった。得られた重合体の特性を表2にまとめる。
【表2】

【0121】
[例8(例7に対する比較例)]
この例では、NdV、TIBA、及びSnCl4を含む触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0122】
例1で用いた同様の方法を採用した。単量体を32℃に加熱した後、0.68MのTIBAヘキサン溶液29.1mLを反応器に投入し、0.054MのNdVの4.6mLを添加した。次いで、0.05MのSnCl4ヘキサン溶液4.3mLを投入することによって重合を開始させた。重合開始から19.0分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は112.5gであった。得られた重合体の特性を表2にまとめる。
【0123】
例8で得られた結果と例7で得られた結果との比較は、1,3−ブタジエンのバルク重合におけるNdVの代わりであるNdPの使用が、より狭い分子量分布を有するシス−1,4−ポリブタジエンをもたらすことを示している。
【0124】
[例9]
この例では、TTC変性NdP、TIBA、及びジメチルアルミニウムクロリド(DEAC)を含む触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0125】
例1で用いた同様の方法を採用した。単量体を32℃に加熱した後、0.68MのTIBAヘキサン溶液20.0mLを反応器に投入し、0.125MのTTC変性NdPメチルシクロヘキサン溶液2.0mLを添加した。次いで、0.1MのDEACヘキサン溶液8.7mLを反応器に投入することによって重合を開始させた。重合開始から8.0分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は167.1gであった。得られた重合体の特性を表3にまとめる。
【表3】

【0126】
[例10(例9に対する比較例)]
この例では、ネオジムTTC変性NdP、TIBA、及びジメチルアルミニウムヨウ化物(DEAI)を含む触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0127】
例1で用いた同様の方法を採用した。単量体を32℃に加熱した後、0.68MのTIBAヘキサン溶液20.0mLを反応器に投入し、0.125MのTTC変性NdPメチルシクロヘキサン溶液2.0mLを添加した。次いで、0.1MのDEAIヘキサン溶液8.7mLを反応器に投入することによって重合を開始させた。重合開始から8.0分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は16.3gであった。得られた重合体の特性を表3にまとめる。
【0128】
例10で得られた結果と例9で得られた結果との比較は、1,3−ブタジエンのバルク重合におけるDEAIの代わりであるDEACの使用が、より狭い分子量分布とともにより高いシス−1,4−結合含量を有するシス−1,4−ポリブタジエンをもたらすことを示している。
【0129】
[例11]
この例では、ネオジムTTC変性NdP、TIBA、及びSnCl4を含む触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0130】
例1で用いた同様の方法を採用した。単量体を32℃に加熱した後、0.68MのTIBAヘキサン溶液29.1mLを反応器に投入し、0.125MのTTC変性NdPメチルシクロヘキサン溶液2.0mLを添加した。次いで、0.05MのSnCl4ヘキサン溶液4.3mLを反応器に投入することによって重合を開始させた。重合開始から8.6分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は182.6gであった。得られた重合体の特性を表3にまとめる。
【0131】
[例12(例11に対する比較例)]
この例では、TTC変性NdP、TIBA、及びスズテトラブロミド(SnBr4)を含む触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0132】
例1で用いた同様の方法を採用した。単量体を32℃に加熱した後、0.68MのTIBAヘキサン溶液29.1mLを反応器に投入し、0.125MのTTC変性NdPメチルシクロヘキサン溶液2.0mLを添加した。次いで、0.025MのSnBr4ヘキサン溶液8.6mLを反応器に投入することによって重合を開始させた。重合開始から9.0分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は78.7gであった。得られた重合体の特性を表3にまとめる。
【0133】
重合体セメントを反応器から排出した後、反応器内部の目視の検査により反応器付着物が重合中に反応器壁とともに不溶性のゲル化した重合体で覆われた攪拌機に発生したことが明らかとなった。
【0134】
例12で得られた結果と例11で得られた結果との比較は、1,3−ブタジエンのバルク重合におけるSnBr4の代わりであるSnCl4の使用が、より狭い分子量分布とともにより高いシス−1,4−結合含量を有するシス−1,4−ポリブタジエンをもたらすことを示している。さらに、SnBr4の使用とは違って、SnCl4の使用は反応器付着物をもたらさない。これはきれいにする必要がある以前に反応器を増大した時間で使用することができるので有利である。
【0135】
[例13(例11に対する比較例)]
この例では、TTC変性NdP、TIBA、及びスズテトラヨウ化物(SnI4)を含む触媒系を用いたバルクで1,3−ブタジエン単量体を重合することによって、シス−1,4−ポリブタジエンを調製した。
【0136】
例1で用いた同様の方法を採用した。単量体を32℃に加熱した後、0.68MのTIBAヘキサン溶液29.1mLを反応器に投入し、0.125MのTTC変性NdPメチルシクロヘキサン溶液2.0mLを添加した。次いで、0.025MのSnI4ヘキサン溶液8.6mLを反応器に投入することによって重合を開始させた。重合開始から9.7分後に、ヘキサン1360gに4.56mLのイソプロパノールを溶解させた溶液を添加して、重合を失活させた。得られた重合体セメントを反応器から除去し、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は114.9gであった。得られた重合体の特性を表3にまとめる。
【0137】
例13で得られた結果と例11で得られた結果との比較は、SnI4の代わりであるSnCl4の使用が、より狭い分子量分布とともにより高いシス−1,4−結合含量を有するシス−1,4−ポリブタジエンをもたらすことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物、(b)アルキル化剤、及び(c)塩素含有化合物の組合せ又は反応生成物を含むランタニド系の触媒系を有する共役ジエン単量体を重合する工程を含み、
該重合工程を、重合混合物の全重量に対して20重量%未満の溶媒を含む重合体混合物内で行うことを特徴とする、ポリジエンの調製方法。
【請求項2】
(a)共役ジエン単量体、(b)ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物、(c)アルキル化剤、及び(d)塩素含有化合物を導入する工程を含み、
該導入工程が、重合混合物の全重量に対して20重量%未満の溶媒を含む重合混合物を形成することを特徴とする、ポリジエンの調製方法。
【請求項3】
(i)ルイス酸及び溶媒或いは単量体とともに、ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物を導入してランタニド化合物を含む溶液を形成する工程、及び
(ii)アルキル化剤を有するランタニド化合物と塩素含有化合物とを導入する工程
を含む方法により形成されることを特徴とする、触媒系。
【請求項4】
(a)共役ジエン単量体、(b)ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれるランタニド化合物、(c)アルキル化剤、及び(d)塩素含有化合物を導入する工程を含み、
該導入工程が、重合混合物の全重量に対して20重量%未満の溶媒を含む重合混合物を形成する方法
により調製されることを特徴とする、シス−1,4−ポリジエン。
【請求項5】
(i)重合させるために単量体を供給する工程、
(ii)ランタニド化合物を単量体に導入して重合する工程であって、前記ランタニド化合物がランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、及びランタニド有機ホスフィン酸塩からなる群より選ばれ、前記ランタニド化合物を導入する工程が、任意にアルキル化剤、ルイス酸、重合させる添加単量体、或いは2以上のアルキル化剤、ルイス酸、及び添加単量体の組合せを含み、前記ランタニド化合物の量が、重合させる単量体全量100グラムに対して10mmol未満であり、仮に導入する際にはルイス酸のランタニド化合物に対するモル比が、0.25:1未満である工程、
(iii)前記工程(ii)と独立して、塩素含有化合物及び任意にアルキル化剤を単量体に導入して重合する工程であって、該工程(iii)における該塩素含有化合物のランタニド化合物に対するモル比が、少なくとも0.5:1である工程、及び
(iv)前記工程(ii)及び(iii)から独立して、前記工程(ii)、(iii)及び(iv)の少なくとも一つの工程において任意にアルキル化剤を単量体に導入して重合する工程であって、これにより、前記工程(i)、(ii)、(iii)及び(iv)が、重合混合物の全重量に対して20重量%未満の溶媒を含む重合混合物を形成する工程
を含むことを特徴とする、ポリジエンの調製方法。

【公開番号】特開2009−161757(P2009−161757A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−334062(P2008−334062)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】