説明

ポリスチレン系樹脂組成物、ポリスチレン系樹脂発泡シート、積層シート、及び、包装用容器

【課題】トリミングロスなどの端材をリサイクル原料として利用しながらもポリスチレン系樹脂発泡シートなどの発泡成形品の形成に適したポリスチレン系樹脂組成物を提供し、ひいては、資源消費の削減に対する要望を満足させうる積層シートと包装用容器とを提供すること。
【解決手段】ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面側にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなるリサイクル原料を含み、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる相溶化剤をさらに含有することを特徴とするポリスチレン系樹脂組成物などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂組成物、ポリスチレン系樹脂発泡シート、積層シート、及び、包装用容器に関し、特には、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含むポリスチレン系樹脂組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系樹脂発泡シートは、トレイ、丼、カップ等の種々の形状に熱成形されて各種の包装用容器に用いられている。
特に、3倍以上の発泡倍率を有するポリスチレン系樹脂発泡シートは、軽量性に優れ、しかも、優れた断熱性能を有することから、熱い食材を収容させる容器に使用したり、収容した食材を電子レンジで加熱するための容器などに使用したりした場合でも容器が熱くなり難くこの種の用途に好適なものである。
しかし、ポリスチレン系樹脂は、汎用の樹脂の中では、耐油性、耐溶剤性が比較的低いことから、このような特性が求められる用途においては、ポリスチレン系樹脂発泡シートの一面側、又は、両面側にポリスチレン系樹脂よりも耐油性や耐溶剤性に優れたポリオレフィン系樹脂フィルムを積層した積層シートの形態で利用されたりしている(下記特許文献1参照)。
【0003】
このような積層シートで包装用容器を製造する場合においては、大面積の積層シートに一度の熱成形によって製品形状を複数個形成させた後に、該積層シートから製品を打ち抜いて取り出すような方法が採用されており、製品を取り出した後の残りの部分がトリミングロスなどと呼ばれる端材となって発生している。
近年の資源消費の削減に対する要望から合成樹脂製品をリサイクルする試みが広くなされており、前記トリミングロスについてもその有効利用が求められている。
【0004】
一般的な合成樹脂のリサイクルにおいては、サーマルリサイクルやケミカルリサイクルなどのリサイクル方法に比べて資源消費の削減に有効となることから合成樹脂を再び樹脂成形品の原料として利用するマテリアルリサイクルと呼ばれる方法が多く採用されている。
このマテリアルリサイクルにおいては、樹脂成形品を製造する過程において生じる端材や使用済みの樹脂成形品等を原料とした再生樹脂をこの樹脂成形品と同じ製品にリサイクルすることが望ましいが、一般には再生樹脂は異物の混入などによってバージン材よりも特性が低いことからマテリアルリサイクルされる場合でも、多くは凝木や植木鉢などの低品位な製品に利用されている。
【0005】
例えば、前記包装用容器の製造に利用される積層シートは、その主たる成分がポリスチレン系樹脂であるが、前記トリミングロスを再びポリスチレン系樹脂発泡シートに使用しようとしても、前記ポリスチレン系樹脂とともに積層シートを構成しているポリオレフィン系樹脂がポリスチレン系樹脂との相溶性が低いために、仮にバージンのポリスチレン系樹脂で希釈して用いても良好な発泡状態にはなり難く、特に、3倍以上にまで発泡させることが極めて難しいことからポリスチレン系樹脂発泡シートなどの発泡成形品に再利用されていない。
【0006】
また、トリミングロスからポリスチレン系樹脂のみを選択的に回収することも考え得るがトリミングロスをポリスチレン系樹脂発泡シートとポリオレフィン系樹脂フィルムとに分離して回収するには多大な手間を要するため、そのような方法を採用することは現実的には困難である。
【0007】
このようなことからトリミングロスなどのリサイクル原料を含有するポリスチレン系樹脂組成物は、ポリスチレン系樹脂発泡シートのような発泡成形品の形成材料とすることが困難であり、積層シートなどに再利用するようなことがなされていない。
したがって、このようなポリスチレン系樹脂発泡シートや積層シートには、上記のようなリサイクル原料が用いられておらず、ポリスチレン系樹脂発泡シート、積層シート、及び、それらの成形品は、資源消費の削減に対する要望を十分満足させるには至っていない。
【0008】
なお、3倍以上の高倍率にまで良好に発泡させ、これを良好に熱成形させることが難しいという問題については、トリミングロスなどの端材をリサイクル原料としてポリスチレン系樹脂発泡シートの形成に使用する場合にのみ生じるものではなく、熱成形に供する前の積層シートや製品となった包装用容器などをリサイクル原料とした場合においても共通するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−46951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記のような問題の解決を図ることを課題としており、ポリスチレン系樹脂発泡シートとポリオレフィン系樹脂フィルムとが積層されてなる積層シートやその成形品、並びに、この成形品を製造する際に生じるトリミングロスなどの端材をリサイクル原料として利用しながらも3倍以上の倍率に高発泡させたポリスチレン系樹脂発泡シートなどの発泡成形品の形成に適したポリスチレン系樹脂組成物を提供し、ひいては、資源消費の削減に対する要望を満足させうるポリスチレン系樹脂発泡シート、積層シート、及び、包装用容器とを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記のような課題を解決すべく、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との相溶化剤に着目して鋭意検討を行い、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有させることで当該ポリスチレン系樹脂組成物を発泡させる際におけるポリオレフィン系樹脂の影響を抑制させ得ることを見出し、特にスチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)がこのような機能を顕著に発揮することを見出して本発明を完成させたものである。
すなわち、前記課題を解決するためのポリスチレン系樹脂組成物に係る本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面側にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなるリサイクル原料を含み、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる相溶化剤をさらに含有していることを特徴としている。
【0012】
また、ポリスチレン系樹脂発泡シートに係る本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなる第一成分と、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる第二成分と、ポリスチレン系樹脂のバージン材からなる第三成分とが含有されており、これらの成分が〔第一成分:第三成分〕=〔1:99〕〜〔50:50〕となり、且つ、〔第一成分:第二成分〕=〔100:3〕〜〔100:30〕となる質量割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物を発泡させてなり、吸水率が10%未満で発泡倍率が3〜15倍であることを特徴としている。
【0013】
さらに、積層シートに係る本発明は、上記のようなポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面側にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなることを特徴としており、包装用容器に係る本発明は、このような積層シートを、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、及び、両面真空成形の内のいずれか1つの成形方法で熱成形してなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、トリミングロスなどを使用して資源消費の削減を図りつつ3倍以上の倍率に高発泡させた発泡シートを成形でき、且つ、得られた発泡シートは良好な二次発泡成形品となるように形成させ得る。
また、本発明においては、積層シートや包装用容器を製造する際にリサイクル原料の利用割合を従来に比べて増大させることができ積層シートや包装用容器を環境に優しいものとすることができる。
さらに、得られた高発泡倍率のポリスチレン系樹脂発泡シートを利用した包装用容器は、電子レンジ等での加熱用途に使用しても容器が熱くなり難く、素手で取り扱うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態に係る積層シートの概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の実施の形態について、リサイクル原料の元になる(バージン材のみで形成された)積層シートについて図を参照しつつ説明する。
図1は、積層シートの一例を示した図であり、積層シートの断面構造を示す図である。
この図1に例示の積層シート1は、ポリスチレン系樹脂発泡シート2(以下、単に「発泡シート」ともいう)の上面側に、ポリオレフィン系樹脂フィルム3を表面層に有するドライラミネートフィルム6が加熱接着されたものであり、前記ドライラミネートフィルム6は、前記発泡シート2との接着面を構成するポリスチレン系樹脂フィルム5が接着剤層4を介して前記ポリオレフィン系樹脂フィルム3に積層一体化されたものである。
そして、前記積層シート1は、前記ポリオレフィン系樹脂フィルム3によってその表面に発泡シート2よりも優れた耐油性、耐溶剤性が付与されている。
【0017】
前記発泡シート2や前記ポリスチレン系樹脂フィルム5を構成するポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン系単量体の単独重合体、複数のスチレン系単量体からなる共重合体、スチレン系単量体とこれに共重合可能なビニル系単量体との共重合体、これらの重合体の変性物、並びに、これらと異種の樹脂との混合物を挙げることができる。
なお、前記発泡シート2や前記ポリスチレン系樹脂フィルム5を構成するポリスチレン系樹脂は、そのスチレン系単量体の含有量が、通常、25質量%以上であり、50質量%以上であることが好ましい。
【0018】
前記ポリスチレン系樹脂としては、具体的には、ポリスチレン樹脂(スチレン単独重合体)、ゴム変性ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−α・メチルスチレン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリスチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体などが挙げられる。
また、例えば、耐熱性ポリスチレン樹脂として用いられているポリスチレン樹脂ベースの混合物も前記ポリスチレン系樹脂として利用可能である。
【0019】
また、前記ポリオレフィン系樹脂フィルム3を構成するポリオレフィン系樹脂としては、耐油性、耐溶剤性、耐熱性などの観点から、ポリプロピレン系樹脂や高密度ポリエチレン樹脂が好ましく、特に、ポリプロピレン系樹脂は、積層シートの表面に優れた光沢をも付与しうる点において好ましい。
該ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。
このようなポリプロピレン系樹脂を採用することで、耐油性や耐溶剤性に優れるとともに優れた光沢を有する積層シートや成形品が得られるばかりでなく、当該積層シートを用いて伸びムラの少ない深絞り加工を行うことができ、熱成形時における有利な効果も期待することができる。
【0020】
なお、積層シートに使用される材料の内、前記ポリスチレン系樹脂と、前記ポリオレフィン系樹脂との質量割合は、通常、75:25〜96:4(ポリスチレン系樹脂:ポリオレフィン系樹脂)であり、本実施形態のポリスチレン系樹脂組成物に含有させるリサイクル原料としては、前記質量割合が85:15〜95:5であることが好ましい。
【0021】
さらに、前記接着剤層4を構成する接着剤としては、例えば、ポリウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリエーテル系接着剤、アクリル系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、水系アクリルウレタン系接着剤等が挙げられる。
【0022】
なお、この積層シート1の各層の構成材料には、従来用いられている添加剤等を適宜含有させることができ、例えば、造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐候剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、無機充填剤などを適宜含有させることができる。
【0023】
この積層シート1は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、両面真空成形、プレス成形といった熱成形を実施して、包装用容器などの成形品に成形加工することができる。
なお、この種の熱成形によって包装用容器を製造する際には、通常、ワンショットで積層シートに複数の製品形状が形成され、その後、この製品形状が設けられた部分の外周をトムソン刃型などで切断して製品を取り除くような工程が実施され、製品が取り除かれた後のトリミングロスを端材として発生させている。
【0024】
本実施形態に係るポリスチレン系樹脂組成物は、このトリミングロスをリサイクル原料とするものである。
なお、このトリミングロスのみならず、例えば、製造時に生じた不良品などの端材、良品として出荷された後に使用済み品として回収された成形品や在庫処分対象となった未使用の成形品、設計変更等によって使用されることがなくなった積層シートなどもリサイクル原料として本実施形態のポリスチレン系樹脂組成物に含有させることができる。
【0025】
本実施形態においては、前記リサイクル原料からなる第一の成分の他に、SEBS(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体)、SEPS(スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体)の内の一方、又は、両方からなる第二成分をポリスチレン系樹脂組成物に含有させることが重要である。
このSEBS、SEPSは、前記第一成分に含有されているポリオレフィン系樹脂がポリスチレン系樹脂から分離することを抑制させる相溶化剤として機能するものであり、前記リサイクル原料100質量部に対して3〜30質量部混合することが重要である。
すなわち、このポリスチレン系樹脂組成物を発泡シートの形成材料として再利用する上で、連続気泡の形成や外観不良の少ない良好なる発泡シートを形成させ得る点において、前記リサイクル原料100質量部に対する前記相溶化剤の割合が3〜30質量部であることが重要であり、このような機能をより確実に発揮させるためには、相溶化剤の割合を10〜20質量部とすることが好ましい。
【0026】
前記SEBSは、通常、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)の主鎖中の二重結合を高度に水素化させて得られるものであり、例えば、株式会社クラレから「セプトン」の商品名で市販されているものが使用でき、「S8104」、「S8006」、「S8004」、「S8007」、「S8076」などのグレード名で市販されているものを使用することができる。
また、前記SEBSとしては、旭化成ケミカルズ株式会社より「タフテック」の商品名で市販されているものが使用でき、「H1221」、「H1052」、「H1062」、「H1053」、「H1041」、「H1051」、「H1043」などのグレード名で市販されているものを使用することができる。
さらには、前記SEBSとしては、クレイトンポリマー社から「Kraton G」の商品名で市販されているものが使用でき、「A1535H」、「A1536H」、「G1641H」、「G1651H」、「G1654H」などのグレード名で市販されているものを使用することができる。
【0027】
また、前記SEPSは、通常、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)の主鎖中の二重結合を高度に水素化させることで得られるものであり、例えば、株式会社クラレから「セプトン」の商品名で市販されているものが使用でき、「S2104」、「S2006」、「S2005」、「S2004」などのグレード名で市販されているものを使用することができる。
【0028】
なお、軽量性や断熱性に優れた3倍以上の発泡倍率を有する発泡シートであっても、連続気泡が多く発泡シート内部の気泡が外部に連通する状態になっていると、発泡シートのクッション性が損なわれるばかりか二次発泡性にも劣ることになり、当該発泡シートを用いて良好な成形品を得ることは困難である。
したがって、単に高発泡倍率の発泡シートを得るためだけではなく、成形性に優れた発泡シートを作製し、軽量で外観美麗な成形品を作製させるために上記のような相溶化剤が重要となる。
この外部と連通状態にある気泡がどの程度存在しているかどうかは、吸水率によって判定が可能であることから、本実施形態においては、発泡シートの発泡倍率が3〜15倍であることに加え、発泡シートの吸水率が10%未満であることを必須要件としている。
【0029】
上記のような要件を満足させるためには、前記相溶化剤の中でも、スチレンコンテントが50質量%以上のものが好ましく、「S8104」(スチレンコンテント60質量%)、「H1043」(スチレンコンテント67質量%)、「S2104」(スチレンコンテント65質量%)などが好ましい。
なお、このような相溶化剤におけるスチレンコンテントの上限は、70質量%程度である。
これらのSEBSやSEPSは、複数混合して相溶化剤とすることもできる。
【0030】
本実施形態に係るポリスチレン系樹脂組成物は、例えば、前記リサイクル原料(端材、成形品、積層シート)を破砕するなどしたチップと前記相溶化剤(SEBS and/or SEPS)とを単に混合したものであっても、これらを一旦、二軸押出機、ニーダー、ロール混練機などの一般的な混練手段によって溶融混合させたものであってもよい。
なお、本実施形態においては、後述するように前記リサイクル原料、及び、前記相溶化剤に、さらにポリスチレン系樹脂のバージン材からなる第三成分を混合して発泡シートを形成させ、該発泡シートにポリオレフィン系樹脂フィルムを積層して元の積層シート(図1)と同様の構成を有する積層シートを作製する。
その際には、リサイクル原料と相溶化剤とを溶融混合した樹脂ペレットを一旦作製した後にバージン材を混合するようにしても良く、このような方法に代えて、例えば、予めバージン材に相溶化剤を混合した後で、これにトリミングロスなどのリサイクル原料を混合してもよく、予めバージン材とリサイクル原料とを混合したものに、後から前記相溶化剤を混合してもよい。
【0031】
上記のように、本実施形態においては、ポリスチレン系樹脂発泡シートを形成させるのに際して、リサイクル原料や相溶化剤とともにバージン材を併用することが必要である。
また、発泡シートは、その吸水率を10%未満とする必要があり、吸水率10%以上では二次発泡性に乏しいものとなってしまう。
【0032】
そのため、ポリスチレン系樹脂発泡シートを作製する際には、用いるポリスチレン系樹脂組成物を下記質量比率となる配合内容とすることが好ましい。
第一成分:第三成分=1:99〜50:50
第一成分:第二成分=100:3〜100:30
(ただし、「第一成分」とは前記の通り「リサイクル原料」を指し、「第二成分」とは、「相溶化剤」を指す。また、「第三成分」とは「バージン材」を指している。)
なお、このバージン材としては、リサイクル原料の出発材料である積層シート1において説明したポリスチレン系樹脂を利用することができる。
なお、このような範囲でリサイクル原料とバージン材との使用量を調整することが好ましいのは、リサイクル原料との合計に占めるバージン材の割合が50%未満では、高発泡且つ低吸水率でありながら外観良好で二次発泡性に優れた発泡シートを得ることが難しく、99%を超えた量とするのでは、得られる発泡シート、および、該発泡シートを用いて得られる積層シート、並びに、該積層シートを用いて得られる成形品が、もはや資源消費の削減に有効な製品とは言い難いものになるためである。
【0033】
また、発泡シートの吸水率には、ポリスチレン系樹脂発泡シートを作製するための樹脂組成物中に占めるポリプロピレン系樹脂の量が大きく影響を与えることから、前記ポリスチレン系樹脂組成物中に占めるポリプロピレン系樹脂の割合が15質量%未満となるように上記バージン材の添加量を調整することが好ましく5質量%未満となるように調整することがより好ましい。
【0034】
この発泡シートを形成させるためのポリスチレン系樹脂組成物には、前記原料(端材、成形品、積層シート)、バージン材、相溶化剤以外に、一般的な発泡シートの製造時において用いられる発泡のための成分を含有させることができる。
例えば、発泡剤として、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン等の脂環族炭化水素、及び、これらの混合物を含有させることができる。
また、分解型発泡剤として、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウムなどを含有させることができる。
さらには、二酸化炭素などの無機ガスを含有させることができる。
この発泡剤としては、ハロゲン化水素を含まず、オゾン層の破壊などといった環境への影響の少ないものを選択することが好ましい。
なお、発泡剤の使用量については、特に限定がされるものではないが、通常、樹脂成分100g当たり0.01モル〜0.1モルとなる範囲の中で使用でき、これにより作製するポリスチレン系樹脂発泡シートの発泡倍率を、例えば、3〜15倍とすることができる。
【0035】
また、積層シートにおいて例示した造核剤などの添加剤も、この発泡シートを形成させるためのポリスチレン系樹脂組成物に0.1〜5質量部の範囲で含有させることが好ましい。
【0036】
前記発泡シートは、このポリスチレン系樹脂組成物を、例えば、サーキュラーダイに接続させた押出機中で溶融混練し、該溶融混練物を前記サーキュラーダイの円環状の開口から発泡状態で押出させて円筒状の発泡体を形成させ、該発泡体を前記サーキュラーダイの前方に設けた前記開口よりも径大な冷却マンドレルの外周面に摺接させて周方向に延伸しつつ冷却したものを押出し方向に沿って連続的に切断して展開するような一般的な製造方法を選択して製造することができる。
【0037】
その際に、前記相溶化剤が樹脂組成物中に特定量含有されることでポリオレフィン系樹脂の存在による外観不良や溶融樹脂の伸びの低下が改善され、発泡シートを、吸水率10%未満とし、高発泡倍率とすることができる。
すなわち、分離したポリオレフィン系樹脂粒子による外観不良、押出し発泡時における気泡膜の伸び不足による吸水率の上昇を相溶化剤によって抑制し、該発泡シートにポリオレフィン系樹脂フィルムを積層した積層シートを、熱成形などにおける二次発泡性に優れたものとすることができ、包装用容器の形成材料として適したものとすることができる。
【0038】
この発泡シートは、図1の積層シートと同様にドライラミネートフィルムをヒートラミネートさせて積層シート化することができる。
例えば、図1の積層シートを前記したように熱成形して包装用容器を製造した後に、そのトリミングロスを利用して、元の積層シートと同じ構成の積層シートを作製し、この積層シートを同じ包装用容器の製造に利用することで、トリミングロスを循環利用させることができ、材料ロスの無い包装用容器の製造ラインを構築させることができる。
【0039】
なお、トリミングロスを元の積層シートとは構成の異なる積層シートの形成材料として使用することも可能であり、本発明はリサイクル原料と相溶化剤とを含んだポリスチレン系樹脂組成物の用途を積層シートに限定するものでもない。
すなわち、上記においては、包装用容器の製造時において発生するトリミングロスをリサイクル原料として含有するポリスチレン系樹脂組成物を積層シートや包装用容器の製造に利用して当該製造時における資源消費の削減を図る場合を示しているが、資源消費の削減を図りつつ発泡状態の良好な発泡成形品が形成可能である点においては、ビーズ発泡などによって立体的な発泡成形品を形成させる場合も同じであり、本発明のポリスチレン系樹脂組成物は、このような用途にも利用可能なものである。
また、そのような場合においても、良好なる発泡性状態で、且つ、良好なる外観を有する成形品をより確実に得るためにバージン材を併用することが好ましい点については同じであり、リサイクル原料とバージン材との質量比率を、1:99〜50:50とすることが好ましい点も上記例示の場合と同じである。
【実施例】
【0040】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(初期積層シートの作製)
(発泡シート)
DIC社製のポリスチレン樹脂(商品名:ディックスチレンXC−515、MFR:1.5g/10min)100質量部に対して、発泡剤(ブタンガス)3.8質量部、気泡調整剤(粉末タルク)1.2質量部を含有する樹脂組成物を押出機で溶融混練し、該溶融混練物を口径110mmのサーキュラーダイ(ダイスリット:0.4mm)から発泡押出しして目付け150g/m2の発泡シートを作製した。
より具体的には、前記押出機としては、50mmφの押出機に60mmφの押出機が接続されたタンデム押出機を用い、該押出機の途中で最高260℃の設定温度で樹脂組成物を溶融混練させた後に、温度を低下させ、最終的に155℃の設定温度で前記サーキュラーダイからの発泡押出しを実施した。
なお、発泡剤のブタンガスは、i−ブタンとn−ブタンとの混合品(混合比率:i−ブタン/n−ブタン=70/30)を用いた。
また、粉末タルクは、東洋インキ社製の粉末タルク含有マスターバッチ(商品名:PEX1470)を用いて上記配合量となるように調整した。
【0042】
(ドライラミネートフィルム)
前記発泡シートとともに積層シートを形成させるためのドライラミネートフィルムには、大阪樹脂化工社製の厚み25μmの無延伸ポリプロピレン樹脂フィルムに接着剤層(東洋モートン社製、ポリウレタン系接着剤、商品名:TM329)を介してDIC社製の厚み20μmのポリスチレン系樹脂フィルム(商品名:XC−535)を積層したものを用いた。
【0043】
(積層シート)
前記ドライラミネートフィルムのポリスチレン系樹脂フィルム側を発泡シートの表面に面接着させた状態で一対の熱ロール(直径:200mm、加熱温度:180℃)の間を4.0m/minの速度で通過させた直後に表面温度が25℃の冷却ロールを通過させてドライラミネートフィルムと発泡シートとがヒートラミネートされた積層シートを作製した。
【0044】
(包装用容器の作製)
この積層シートを、前記ポリプロピレン樹脂フィルムが内側となるように熱成形を実施した。
熱成形においては、前記積層シートをヒーター温度が約250℃に加熱された炉内を通過させ、該積層シートに、長さ230mm×幅190mm×深さ20mmの凹部が形成されたテスト金型を用いて3秒の成形時間で箱型の容器形状を形成させた。
その後、この容器形状の外縁部を切断して積層シートから製品(箱型容器)を取り除き、残ったトリミングロスを回収した。
【0045】
(リサイクル事例1)
元の積層シートにおいては、樹脂材料としてバージンのポリスチレン樹脂(DIC社製、商品名:XC−515、MFR:1.5g/10min)のみを用いて発泡シートを形成させたが、ここでは、これに代えて前記トリミングロスとバージンのポリスチレン樹脂(DIC社製、商品名:XC−515、MFR:1.5g/10min)とを、質量で10:90(トリミングロス:バージン材)の割合で含有する混合物100質量部に対して相溶化剤(旭化成ケミカルズ社製、SEBS、商品名:タフテック「H−1043」)を2質量部(トリミングロス100質量部に対して20質量部)混合した樹脂材料を使用した。
なお、この樹脂材料100質量部に対する発泡剤(ブタン)の使用量(3.8質量部)や気泡調整剤(粉末タルク)の使用量(1.2質量部)も元の積層シートの製造条件と同じにした。
また、ブタンをi−ブタンとn−ブタンとの混合物とし、タルクを東洋インキ社製マスターバッチ「PEX1470」で導入して、押出し条件を元の積層シートの製造条件と同様にして発泡シートを形成させた。
【0046】
(評価)
(外観)
なお、このリサイクル事例1の発泡シートの表面を目視にて観察し、表面に周囲から分離状態にある樹脂の有無を確認した。
結果を、下記表1に示す。
【0047】
(成形性:二次発泡)
上ヒーター250℃、下ヒーター245℃に加熱された真空圧空成形機にリサイクル事例1の発泡シートを導入し、前記ヒーター間で3秒間加熱して二次発泡させた後に3秒間の加熱真空成形を行った。
この熱成形前の発泡シートと、熱成形して得られた箱型の発泡成形品の二次発泡倍率を以下のようにして測定した。
また、発泡シートの吸水率を併せて測定した。
結果を、下記表1に示す。
【0048】
(発泡倍率の測定方法)
JIS K7222に準拠し、発泡シートの質量(m)と体積(V)とを測定して発泡倍率を求めた。

発泡倍率 a(倍)= ρ0/ρa

(ただし、「ρa」は、発泡シートの見掛け上の比重(m/V)であり、「ρ0」は、発泡シートを形成しているポリスチレン系樹脂組成物の真比重である。)
【0049】
(吸水率の測定方法)
発泡シートから、20mm角の切片を20枚採取し、それぞれの初期質量(m)を精秤した。
これを、水を入れたデシケーターに収容し、水中に浸漬させ、デシケーター内をゲージ圧力がマイナス0.085MPaとなる減圧状態にして5分放置し、その後、大気圧に戻して水中から取り出し、表面に付着している水分をふき取って吸水後の質量(M)を精秤した。
これらの吸水前後の質量(m,M)を使って、下記の式によって求められる各試料の吸水率の値を平均して発泡シートの吸水率とした。

吸水率(%)=(M−m)/{m×(a−1)/ρ0}×100

(ただし、「a」は、発泡シートの発泡倍率、「ρ0」は、発泡シートを形成しているポリスチレン系樹脂組成物の真比重である。)
【0050】
(リサイクル事例2〜10)
条件を表1に示すように変更したこと以外は、リサイクル事例1の発泡シートと同様に発泡シートを作製し、リサイクル事例1の発泡シートと同様に評価した。
結果を併せて表1に示す。
【0051】
(リサイクル事例11、12)
ポリフェニレンエーテルを約20質量%含有する耐熱性ポリスチレン樹脂を用いて形成された共栄樹脂株式会社製の発泡シート(商品名「キョーエイマルチFシート」)の表面に前記ドライラミネートフィルムのポリスチレン系樹脂フィルム側を面接着させた状態で一対の熱ロール(直径:250mm、加熱温度:210℃)の間を3.7m/minの速度で通過させた直後に表面温度が25℃の冷却ロールを通過させてドライラミネートフィルムと発泡シートとがヒートラミネートされた積層シートを作製した。
この積層シートを、前記ポリプロピレン樹脂フィルムが内側となるように熱成形を実施した。
熱成形においては、前記積層シートをヒーター温度が約265℃に加熱された炉内を通過させ、該積層シートに、長さ230mm×幅190mm×深さ20mmの凹部が形成されたテスト金型を用いて3秒の成形時間で箱型の容器形状を形成させた。
その後、この容器形状の外縁部を切断して積層シートから製品(箱型容器)を取り除き、残ったトリミングロスを回収した。
これとは別に、サビック社製の商品名「ノリルPKN−4752」(ポリフェニレンエーテル:ポリスチレン樹脂=70:30(質量比))とDIC社製のポリスチレン樹脂(商品名「ディックスチレンXC−515」)とを全体に占めるポリフェニレンエーテル樹脂の割合が20質量%となるように29:71(「PKN−4752」:「XC−515」)の質量割合でブレンドしたバージン材を用意した。
このバージン材と前記トリミングロスと相溶化剤とを表1に示す割合として押出機に供給し、押出機における最高温度を280℃、ダイ温度を165℃に設定し、これまでの事例と同様に発泡シートを作製し、これまでと同様に評価を行った。
なお、「成形性:二次発泡」の評価条件は、上ヒーター265℃、下ヒーター255℃とし、5秒間の加熱時間で二次発泡させた後に3.5秒間の真空成形を行った。
結果を、下記表1に併せて示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上記「事例6」の結果から、相溶化剤を使用しないと、発泡シートの作製時にポリプロピレン樹脂が分離して、独立気泡を多く含んだ二次発泡性に優れた発泡シートを得られ難く、表面外観も良好なものとし難いことがわかる。
また、「事例7」の結果から、相溶化剤の量が少ない場合も、「事例6」の結果と同様の結果となることがわかる。
また、「事例8」の結果から、相溶化剤の種類が、SEBS、SEPS以外の場合は事例6、7ほどではないものの良品を得られ難いことがわかる。
さらに、「事例9」、「事例10」の結果からは、バージン材を50質量%以上の量とすることが、良品を確実に得る上で重要であることがわかる。
また、「事例11」、「事例12」の結果からは、ポリスチレン系樹脂としてスチレン単独重合体のみならずポリフェニレンエーテル樹脂を含有する耐熱性ポリスチレン樹脂が用いられた場合でも同様の効果が得られることがわかる。
【0054】
なお、事例3、8、11、12において作製された容器に対し、以下のような耐熱温度の評価を行ったところ、下記表2に示す結果を得た。
(耐熱温度の評価方法)
タバイエスペック社製ギアオーブン(型名「GPS−112」)の金網(試料棚)の上に厚み5mmの石膏ボードを置き、その上に各事例の容器を空の状態で載せて所定温度で1時間加熱をした。
この加熱温度を5℃刻みで変更して同様の試験を実施し、容器の長さ、又は、幅が2mm以上広がる結果となった温度を耐熱温度とした。
【0055】
【表2】

【0056】
以上のように、耐熱性ポリスチレン樹脂を用いた事例では、発泡倍率や外観等が損なわれないばかりでなく、リサイクル原料を利用しながらも耐熱性に優れた容器が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0057】
1:積層シート、2:ポリスチレン系樹脂発泡シート、3:ポリオレフィン系樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面側にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなるリサイクル原料を含み、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる相溶化剤をさらに含有することを特徴とするポリスチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなる第一成分と、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる第二成分と、ポリスチレン系樹脂のバージン材からなる第三成分とが含有されており、これらの成分が〔第一成分:第三成分〕=〔1:99〕〜〔50:50〕となり、且つ、〔第一成分:第二成分〕=〔100:3〕〜〔100:30〕となる質量割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物を発泡させてなり、吸水率が10%未満で発泡倍率が3〜15倍であることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
請求項2に記載のポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面側にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなることを特徴とする積層シート。
【請求項4】
請求項3に記載の積層シートを、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、及び、両面真空成形の内のいずれか1つの成形方法で熱成形してなることを特徴とする包装用容器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−40868(P2012−40868A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152965(P2011−152965)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000239138)株式会社エフピコ (98)
【Fターム(参考)】