説明

ポリチオフェンに基づく光学用途のための機能層

本発明は、好ましくはポリチオフェンに基づく導電性ポリマーから製造された透明機能層、その製造方法、および光学的構造体におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマーの透明機能層、その製造方法、および光学的構造体におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の光学的性質は、その形状および材料特性によって決定される。光学系に関連する材料特性は、屈折率nおよび吸光係数kである(Born,Max,Principles of Optics.第6版1. Optics-Collected works ISBN0-08-026482-4参照)。光学的性質は、透明な材料で作製され、しかも電磁放射線スペクトルの少なくとも一部でnおよび/またはkが担体と異なる機能層の適用によって、改変され得る。nおよび/またはkにおけるそのような差異に基づいて、放射線の反射が、機能層と担体との間の界面で生じる。これに関連して、フレネルの式(Born,Maxの上掲書38頁以下参照)が、反射された放射線、吸収された放射線、および透過した放射線の分布を記述する。
【0003】
このような光学機能層の例としては、光学素子上の反射防止層、ガラス窓枠上の断熱層、ガラス繊維上のクラッド層、真珠光沢顔料上の干渉層などが挙げられる。
【0004】
これらによって物体全体の光学的性質を比較的容易に変化させることができるので、このような光学機能層の経済的な重要性は高い。
【0005】
考えられる透明光学機能層は、導電性の材料、例えば、インジウム錫オキサイド(ITO)または酸化アンチモン錫(ATO)のようなTCO層(透明導電酸化物)、あるいは薄い金属層または電気的絶縁層(例えば、二酸化チタン、二酸化ケイ素、氷晶石またはフッ化マグネシウム)である。これらの無機層の堆積は、スパッタリング、反応性スパッタリングまたは熱蒸着によって真空下で行われ、従って、複雑であり、かつ高コストである。
【0006】
無機光学機能層は、以下の不利益を有する:
a)真空装置が必要であるので、堆積のための加工費が高いこと、
b)特にITO、ATOおよび金属層のための材料費高いこと、
c)層、特に金属酸化物層の脆さ、
d)層の堆積および/または後状態調整が高温(T>200℃)で行われること、
e)可視スペクトル域内(すなわち、400nm<λ<760nmの波長範囲内)における酸化物層の屈折率が高く(n>1.3)、変更するのは困難を伴うこと。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、無機光学機能層と類似の特性または無機光学機能層よりも良好な特性を有する光学機能層の必要性が引き続き存在している。
【0008】
従って、本発明の目的は、従来の高価な無機光学機能層に取って代わることができるが、上記の不利点を有さない光学的機能層を生成することであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、可視スペクトル域の一部において1.3未満の屈折率(n)を有し、かつ光学機能層の要件を満たす透明層は、チオフェンモノマーおよび酸化剤を含む溶液の適用によって形成できることが見出された。
【0010】
従って本発明は、可視スペクトル域の一部に、特に、少なくとも50nm、好ましくは少なくとも100nmの区間を含む波長範囲に、1.3未満の屈折率(n)を有し、かつ、一般式(I):
【化1】

[式中、
Aは、置換されていてもよいC1〜C5−アルキレン基を表し、
Rは、直鎖状または分岐鎖状の、置換されていてもよいC1〜C18−アルキル基、好ましくは直鎖状または分岐鎖状の、置換されていてもよいC1〜C14−アルキル基、置換されていてもよいC5〜C12−シクロアルキル基、置換されていてもよいC6〜C14−アリール基、置換されていてもよいC7〜C18−アラルキル基、置換されていてもよいC1〜C4−ヒドロキシアルキル基、好ましくは置換されていてもよいC1〜C2−ヒドロキシアルキル基、またはヒドロキシル基を表し、
xは、0〜8の整数、好ましくは0〜6の整数、特に好ましくは0または1を表す。
複数の基RがAに結合される場合、これらは同一であっても異なっていても、またはポリアニリンであってもポリスチレンであってもよい。]
で示される繰り返し単位を有する少なくとも1つのポリチオフェンを含む少なくとも1つの導電性ポリマーを含むことを特徴とする、透明光学機能層を提供する。
【0011】
一般式(I)は、x個の置換基Rがアルキレン基Aに結合され得ることを意味すると理解されるべきである。
【0012】
本発明による代替の態様においても用いられ得るさらなる導電性ポリマーは、置換されていてもよいポリピロールまたは置換されていてもよいポリアニリンである。
【0013】
108Ω・cm以下の比抵抗を有するポリマーが、本発明では導電性ポリマーと理解されるべきである。
【0014】
好ましい態様において、一般式(I)の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、一般式(Ia):
【化2】

[式中、Rおよびxは、上記の意味を有する。]
で示される繰り返し単位を有するポリチオフェンである。
【0015】
さらに好ましい態様において、一般式(I)の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、一般式(Iaa):
【化3】

で示される繰り返し単位を有するポリチオフェンである。
【0016】
本発明において、接頭語ポリ−は、2つ以上の同一かまたは異なる繰り返し単位が、ポリマーまたはポリチオフェンに含まれることを意味すると理解されるべきである。ポリチオフェンは、合計y個の一般式(I)の繰り返し単位を含み、ここで、yは2〜2,000、好ましくは2〜100の整数であり得る。一般式(I)の繰り返し単位は、いずれの場合にもポリチオフェン内で同一であっても異なっていてもよい。一般式(I)の同一の繰り返し単位をいずれの場合にも有するポリチオフェンが好ましい。
【0017】
ポリチオフェンは、好ましくはいずれの場合にも末端基上にHを有する。
【0018】
特に好ましい態様において、一般式(I)の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、すなわち、式(Iaa)の繰り返し単位のホモポリチオフェンである。
【0019】
本発明のさらに好ましい態様において、機能層は、一般式(I)のポリチオフェンに加えて、ポリマーアニオンとしてポリマーカルボン酸またはポリマースルホン酸のアニオンを含む。ポリスチレンスルホン酸のアニオンが特に好ましい。
【0020】
本発明において、C1〜C5−アルキレン基Aは、特に、メチレン、エチレン、n−プロピレン、n−ブチレンまたはn−ペンチレンである。本発明において、C1〜C18−アルキルは、特に、直鎖状または分岐鎖状のC1〜C18−アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−またはiso−プロピル、n−、iso−、sec−またはtert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1−エチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ヘキサデシルまたはn−オクタデシル)を表し、C5〜C12−シクロアルキルは、C5〜C12−シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシル)を表し、C5〜C14−アリールは、C5〜C14−アリール基(例えば、フェニルまたはナフチル)を表し、C7〜C18−アラルキルは、C7〜C18−アラルキル基(例えば、ベンジル、o−、m−、p−トリル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−または3,5−キシリルあるいはメシチル)を表す。上記のリストは、例として本発明を説明する役割を果たし、確定的と見なされるべきではない。
【0021】
C1〜C5−アルキレン基Aの可能なさらなる置換基は、種々の有機基、例えば、アルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホン酸塩、アミノ、アルデヒド、ケト、カルボン酸エステル、カルボン酸、炭酸塩、カルボン酸塩、シアノ、アルキルシランおよびアルコキシシラン基ならびにカルボキサミド基である。
【0022】
本発明による透明光学機能層は、あらゆる所望の透明基材に適用され得る。このような基材は、例えば、ガラス、超薄型ガラス(フレキシブルガラス)またはプラスチックであり得る。
【0023】
特に適切なプラスチックは、以下のものである:ポリカーボネート、ポリエステル、例えばPETおよびPEN(ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−ナフタレンジカルボキシレート)、コポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレンまたは環状ポリオレフィンまたは環状オレフィンコポリマー(COC)、水添スチレンポリマーまたは水添スチレンコポリマー。
【0024】
適切なポリマー基材は、例えばポリエステルフィルムのようなフィルム、Sumitomo製PESフィルムまたはBayer AG製ポリカーボネートフィルム(Makrofol(登録商標))であり得る。
【0025】
接着促進剤層は、基材と機能層との間に配置し得る。適切な接着促進剤は、例えばシランである。例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Silquest(登録商標)A187、OSi specialities)のようなエポキシシランが好ましい。親水性の表面特性を有する他の接着促進剤も用いられ得る。従って、例えばPEDT:PSS(ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸)の薄層は、PEDT(ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン)のための適切な接着促進剤として記載されている(Hohnholzら、Chem. Commun. 2001、2444〜2445)。
【0026】
本発明による高分子光学機能層は、上記の既知の無機光学機能層よりも優れた下記の利点を有する:
それは、
a)溶液から所望の基材に適用することが容易であり、従って高価な真空中での堆積プロセスが排除され、
b)脆さではないので、柔軟な基材にも適しており、
c)可視スペクトル域において低屈折率を有し、屈折率は他の透明ポリマーの添加によって容易に調節され得る。
【0027】
生成は、少なくとも1つの導電性ポリマーを含む層が、1つ以上の酸化剤の存在下で化学的酸化重合によって、または電解重合によって、適切な基材上にインサイチュで直接的に、必要に応じて溶液の形態の、式(I)で示される導電性ポリマーの調製のための前駆体またはアニリンもしくはピロールから生成されるように、好都合に行われる。少なくとも1つのポリマーアニオンおよび一般式(I)の繰り返し単位を有する少なくとも1つのポリチオフェンを含む層は、少なくとも1つのポリマーアニオンおよび一般式(I)の繰り返し単位を有する少なくとも1つのポリチオフェンを含む分散液から、特に必要に応じて乾燥および洗浄の後に、この層に適用される。
【0028】
従って、本発明はまた、少なくとも1つの導電性ポリマーを含む層を、例えば、ピロールまたはアニリン、あるいは特に一般式(II):
【化4】

[式中、A、R、およびxは、上記式(I)に与えられた意味を有する。]
で示されるチオフェンのような、導電性ポリマーの調製のための前駆体を、必要に応じて溶液の形態で、基材に適用し、1つ以上の酸化剤の存在下での化学的酸化重合または電気化学重合を行うことにより導電性ポリマーを生成することによって、形成することを特徴とする、基材上における本発明に従ったポリマー光学機能層の製造方法を提供する。
【0029】
可能な適切な基材は、既に上述した基材である。基材は、少なくとも1つの導電性ポリマーを含む層の適用前に、接着促進剤で処理し得る。このような処理は、例えばスピンコーティング、含浸、注入、滴下、噴射、噴霧、ナイフ塗布、ブラッシングあるいは印刷(例えばインクジェット印刷、スクリーン印刷、密着焼付けまたはタンポン印刷)によって行われ得る。
【0030】
導電性ポリマーの調製のための前駆体(以下、単に「前駆体」という)は、相当するモノマーまたはその誘導体を意味すると理解される。異なる前駆体の混合物も用いることができる。適切なモノマー前駆体は、例えば置換されていてもよいチオフェン、ピロールまたはアニリン、好ましくは一般式(II):
【化5】

[式中、A、Rおよびxは、上記の意味を有する。]
で示される置換されていてもよいチオフェンであり、
特に好ましくは、一般式(IIa):
【化6】

で示される置換されていてもよい3,4−アルキレンジオキシチオフェンを意味する。
【0031】
好ましい態様において、以下の式(IIaa):
【化7】

の3,4−アルキレンジオキシチオフェンは、モノマー前駆体として用いられる。
【0032】
本発明において、これらモノマー前駆体の誘導体は、例えばこれらモノマー前駆体の二量体または三量体を意味すると理解される。また、モノマー前駆体のより高分子量の誘導体(すなわち四量体、五量体など)も誘導体として可能である。誘導体は、同一のモノマー単位および異なるモノマー単位の両方から調製することができ、純粋な形態で、ならびに互いに混合しておよび/またはモノマー前駆体と混合して使用することができる。酸化型または還元型のこれらの前駆体もまた、上記の前駆体の場合のように同じ導電性ポリマーがその重合の間に形成される限り、本発明において用語「前駆体」に包含される。
【0033】
前駆体のための、特にチオフェンのための、好ましくは3,4−アルキレンジオキシチオフェンのための可能な置換基は、一般式(I)のRについて例示された基である。
【0034】
導電性ポリマーの調製のためのモノマー前駆体およびその誘導体の調製方法は、当業者に知られており、例えば、L. Groenendaal,F. Jonas,D. Freitag,H. Pielartzik & J. R. Reynolds,Adv. Mater. 12(2000)481〜494およびそこに引用された文献に記載されている。
【0035】
前駆体は、必要に応じて溶液の形態で用いることができる。中でも、示し得る前駆体に適した溶媒は、反応条件下で不活性な以下の有機溶媒である:メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびブタノールのような脂肪族アルコール;アセトンおよびメチルエチルケトンのような脂肪族ケトン;酢酸エチルおよび酢酸ブチルのような脂肪族カルボン酸エステル;トルエンおよびキシレンのような芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサンのような脂肪族炭化水素;塩化メチレンおよびジクロロエタンのようなクロロ炭化水素;アセトニトリルのような脂肪族ニトリル;ジメチルスルホキシドおよびスルホランのような、脂肪族スルホキシドおよびスルホン;メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミドのような脂肪族カルボン酸アミド;ならびにジエチルエーテルおよびアニソールのような、脂肪族エーテルおよび芳香脂肪族エーテル。さらに、水または上記の有機溶媒と水との混合物も、溶媒として用いることができる。
【0036】
さらなる成分、例えばポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテル、ポリエステル、シリコーンおよびスチレン/アクリル酸エステル、酢酸ビニル/アクリル酸エステル、およびエチレン/酢酸ビニル共重合体のような、有機溶媒に可溶性の1つ以上の有機結合剤、またはポリビニルアルコールのような水溶性結合剤、ポリウレタンまたはポリウレタン分散液のような架橋剤、ポリアクリレート、ポリオレフィン分散液、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシランのようなエポキシシラン、ならびに/あるいは、例えばイミダゾールまたは界面活性物質のような添加物を、さらに溶液に添加することができる。アルコキシシラン水解物(例えば、テトラエトキシシランに基づく)をさらに添加して、コーティングの引っ掻き抵抗性を増加させるか、またはインサイチュ層の屈折率を制御された様式で増加させることができる。
【0037】
前駆体が化学的酸化重合により導電性ポリマーを生じる場合、1つ以上の酸化剤の存在が必要である。
【0038】
用いられ得る酸化剤は、チオフェン、アニリンまたはピロールの酸化重合に適した、当業者に既知のすべての金属塩である。
【0039】
適切な金属塩は、元素周期表の主族金属の金属塩または亜族金属の金属塩(後者は、以下において遷移金属塩とも言う)である。適切な遷移金属塩は、特に、無機または有機酸の塩あるいは遷移金属(例えば、鉄(III)、銅(II)、クロム(VI)、セリウム(IV)、マンガン(IV)、マンガン(VII)およびルテニウム(III))と有機基を含む無機酸である。
【0040】
好ましい遷移金属塩は、鉄(III)の遷移金属塩である。鉄(III)塩、例えば、無機酸の鉄(III)塩(例えば、ハロゲン化鉄(III)(例えば、FeCl3)または他の無機酸の鉄(III)塩(例えば、Fe(ClO43またはFe2(SO43)、ならびに有機基を含む有機酸および無機酸の鉄(III)塩は、多くの場合、安価であり、かつ容易に入手可能であり、かつ容易に取り扱い可能である。
【0041】
有機基を含む無機酸の鉄(III)塩の示し得る例は、C1〜C20−アルカノールの硫酸モノエステルの鉄(III)塩(例えば、ラウリル硫酸の鉄(III)塩)である。
【0042】
特に好ましい遷移金属塩は、有機酸の遷移金属塩、特に有機酸の鉄(III)塩である。
【0043】
示し得る鉄(III)塩の例は、以下である:C1〜C20−アルカンスルホン酸(例えば、メタン−、エタン−、プロパン−もしくはブタンスルホン酸)または高級スルホン酸(例えば、ドデカンスルホン酸)の鉄(III)塩、脂肪族パーフルオロスルホン酸(例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸またはパーフルオロオクタンスルホン酸)の鉄(III)塩、脂肪族C1〜C20−カルボン酸(例えば、2−エチルヘキシルカルボン酸)の鉄(III)塩、脂肪族パーフルオロカルボン酸(例えば、トリフルオロ酢酸またはパーフルオロオクタン酸)の鉄(III)塩、ならびにC1〜C20−アルキル基によって置換されていてもよい芳香族スルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸またはドデシルベンゼンスルホン酸)の鉄(III)塩、ならびにシクロアルカンスルホン酸(例えば、カンファースルホン酸)の鉄(III)塩。
【0044】
これらの上記の有機酸の鉄(III)塩の所望の混合物もまた用いられ得る。
【0045】
有機基を含む有機酸および無機酸の鉄(III)塩の使用は、これらが腐食作用を有さないという大きな利点を有する。
【0046】
p−トルエンスルホン酸鉄(III)、o−トルエンスルホン酸鉄(III)、またはp−トルエンスルホン酸鉄(III)とo−トルエンスルホン酸鉄(III)の混合物は、金属塩としてとりわけ好ましい。
【0047】
好ましい態様において、金属塩は、その使用前にイオン交換体(好ましくは塩基性アニオン交換体)で処理される。適切なイオン交換体の例は、第三級アミンで官能化されたマクロ多孔性スチレンおよびジビニルベンゼンポリマー(例えば、Bayer AG(レバークーゼン)から商品名Lewatit(登録商標)で販売)である。
【0048】
さらに適切な酸化剤は、ペルオキソ化合物、例えばペルオキソ二硫酸塩(過硫酸塩)、特にアンモニウムおよびアルカリ金属のペルオキソ二硫酸塩、例えばペルオキソ二硫酸ナトリウムおよびカリウム、またはアルカリ金属の過ホウ酸塩[必要に応じて触媒量の金属イオン(例えば、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデンまたはバナジウムイオン)の存在下で]ならびに遷移金属酸化物、例えば軟マンガン鉱(マンガン(IV)酸化物)またはセリウム(IV)酸化物である。
【0049】
式(II)のチオフェンの酸化重合には、理論上、チオフェン1モル当たり2.25当量の酸化剤が必要である(例えば、J. Polym. Sc. Part A Polymer Chemistry 第26巻、1287頁(1988)参照)。しかしながら、より低いかまたは高い当量数の酸化剤も用いることができる。本発明において、チオフェン1モル当たり好ましくは1当量以上、特に好ましくは2当量以上の酸化剤が用いられる。
【0050】
用いられる酸化剤のアニオンは、好ましくは対イオンとして役立ち得るので、化学的酸化重合の場合に、さらなる対イオンの添加が必ず必要というわけではない。
【0051】
酸化剤は、必要に応じて溶液の形態で、前駆体と一緒に、あるいはこれとは別々に、基材に適用され得る。前駆体、酸化剤および必要に応じて対イオンが別々に適用される場合、基材は、好ましくは酸化剤および必要に応じて対イオンの溶液でまずコーティングされ、次いで前駆体の溶液でコーティングされる。チオフェン、酸化剤および必要に応じて対イオンの好ましい同時適用の場合には、陽極体の酸化被膜は、単一の溶液(すなわち、チオフェン、酸化剤および必要に応じて対イオンを含む溶液)でコーティングされる。すべての場合において可能な溶媒は、前駆体に適したものとして上に記載したような溶媒である。
【0052】
これらの溶液は、前駆体の溶液について既に上述した成分を、付加的な成分(結合剤、架橋剤など)としてさらに含むことができる。
【0053】
基材に適用される溶液は、好ましくは1〜30wt%の前駆体、好ましくは一般式(II)のチオフェンの前駆体を含み、必要に応じて0〜50wt%の結合剤、架橋剤および/または添加剤を含む(両方のwt%は、溶液の全重量に基づく)。
【0054】
このような溶液は、既知の方法によって、例えばスピンコーティング、含浸、注入、滴下、噴射、噴霧、ナイフ塗布、ブラッシングあるいは印刷(例えばインクジェット印刷、スクリーン印刷またはタンポン印刷)によって適用される。
【0055】
溶液の適用後に存在する溶媒の除去は、室温で単純な蒸発によって行われ得る。しかしながら、より速い処理速度を達成するために、高温で(例えば、20〜300℃、好ましくは40〜250℃の温度で)溶媒を除去することがより有利である。熱による後処理は、溶媒の除去とちょうど同時に行われても、またはコーティングの生成とは別の時間に行われてもよい。溶媒は、重合前に、重合の間にまたは重合後に除去することができる。
【0056】
熱処理の時間は、コーティングに用いられるポリマーの性質に依存して、5秒から数時間であり得る。異なる温度およびドウェル(処理)時間を含む温度プロフィルも、熱処理に採用し得る。
【0057】
熱処理は、例えば、選択された温度で所望のドウェル時間が達成されるような速度で、所望の温度の加熱チャンバー内を、コーティングした基材を移動させることによって、または所望のドウェル時間の間、所望の温度のホットプレートに接触させることによって、行い得る。さらに、熱処理は、例えば、加熱炉中でまたは各々異なる温度のいくつかの加熱炉中で行い得る。
【0058】
溶媒の除去(乾燥)後、および適切な場合は熱による後処理の後、適切な溶媒(好ましくは水またはアルコール)を用いて層から過剰の酸化剤および残留塩を洗浄することは有利であり得る。ここでの残留塩は、酸化剤の還元型の塩、およびその他の塩を意味すると理解されるべきである。
【0059】
電気化学重合は、当業者に既知の方法によって行われ得る。
【0060】
一般式(II)のチオフェンが液体である場合、電解重合は電解重合条件下で不活性である溶媒の存在下または不存在下で行われ得る。一般式(II)の固体チオフェンの電解重合は、電気化学重合条件下で不活性である溶媒の存在下で行われる。ある場合には、溶媒混合物を使用すること、かつ/または溶媒に可溶化剤(界面活性剤)を添加することが有利であり得る。
【0061】
電解重合条件下で不活性な溶媒として示し得る例は、以下である:水;メタノールおよびエタノールのようなアルコール;アセトフェノンのようなケトン;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素および弗化炭化水素のようなハロゲン化炭化水素;酢酸エチルおよび酢酸ブチルのようなエステル;炭酸プロピレンのような炭酸エステル;ベンゼン、トルエンおよびキシレンのような芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサンのような脂肪族炭化水素;アセトニトリルおよびベンゾニトリルのようなニトリル;ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド;ジメチルスルホン、フェニルメチルスルホンおよびスルホランのようなスルホン;メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドンおよびN−メチルカプロラクタムのような液体脂肪族アミド;ジエチルエーテルおよびアニソールのような脂肪族エーテルおよび混合脂肪族−芳香族エーテル;テトラメチル尿素のような液体尿素;またはN,N−ジメチル−イミダゾリジノン。
【0062】
電解重合では、電解質添加物は、一般式(II)のチオフェンまたはその溶液に添加される。用いられる溶媒中である溶解性を有する遊離酸または通常の導電性塩は、電解質添加物として好ましく用いられる。適切であると分かっている電解質添加物は、例えば:p−トルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸のような遊離酸、ならびにアルカンスルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、過塩素酸塩、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセネートおよびヘキサクロロアンチモネートアニオンおよびアルカリ金属、アルカリ土類金属または必要に応じてアルキル化されたアンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオンおよびオキソニウムカチオンを含む塩である。
【0063】
一般式(II)のモノマーチオフェンの濃度は、0.01〜100wt%(液体チオフェンの場合のみ100wt%)の間であり得る;この濃度は、溶液の全重量に基づき、0.1〜20wt%であることが好ましい。
【0064】
電解重合は、不連続的にまたは連続的に行われ得る。
【0065】
電解重合のための電流密度は、広い範囲内で変化し得る。通例、0.0001〜100mA/cm2、好ましくは0.01〜40mA/cm2の電流密度が用いられる。約0.1〜50Vの電圧が、この電流密度で確立される。
【0066】
適切な対イオンは、既に上述した対イオンである。電気化学重合において、これらの対イオンは必要に応じて、電解質添加物または導電性塩として溶液またはチオフェンに添加することができる。
【0067】
一般式(II)のチオフェンの電気化学的酸化重合は、−78℃から必要に応じて使用される溶媒の沸点までの温度で行われ得る。電気化学重合は、好ましくは−78℃〜250℃、特に好ましくは−20℃〜60℃の温度で行われる。
【0068】
反応時間は、使用されるチオフェン、使用される電解質、選択される温度および適用される電流密度に依存して、好ましくは1分〜24時間である。
【0069】
電気化学重合において、一般に導電性でない基材は、Groenendaalら、Adv. Mat. 2003,15,855に記載されるように、まず導電性ポリマーの薄い透明層でコーティングされる。このように導電層でコーティングされた、104Ω/sq以上の表面抵抗を有する基材は、その後の電解重合の間にPt電極の機能を引き継ぐ。電圧を加えると、導電性ポリマーを含む層が上面で成長する。
【0070】
少なくとも1つの導電性ポリマーを含む層の中の導電性ポリマーは前駆体の重合によって基材上にインサイチュで直接生成されるので、この層を、以下で「インサイチュ層」とも呼ぶ。モノマーおよび酸化剤の重合可能な溶液からの導電性ポリマーのインサイチュ堆積の概念は、この技術分野で一般に知られている。
【0071】
高分子光学機能層は、複雑かつ高価なCVD、蒸着またはスパッタリングプロセスを必要とせずに、本発明による方法によって生成することができる。とりわけ、本発明による方法の広い面積での使用も、この手法によって可能になる。さらに、インサイチュ層は低温で、好ましくは室温で適用され得る。従って、本発明による方法はまた、一般に低温プロセスにのみ耐性であって堆積の間の熱CVDの温度または反応性スパッタリングの温度に耐えられない柔軟なポリマー基材への適用にも適している。
【0072】
本発明による光学機能層は、好ましくは25%以上の透過率Yを有する。透過率は、ASTM D1003-00に記載されるような測定法によって決定される。次いで、透過率はASTM E308(ライトタイプC、2×観察)に従って計算される。
【0073】
本発明による高分子層は、光学機能層(例えば、光学素子上およびガラス窓枠上の反射防止層、ガラス窓枠上の断熱層、ガラス繊維上のクラッド層ならびに真珠光沢顔料上の干渉層)として著しく適している。
【0074】
好ましい機能層(ポリジオキシチオフェンを含む)は、その分散の特有のコースおよび吸収曲線によって区別され、従って、光学機能層として特に適している。分散曲線は、屈折率のスペクトル依存性を表し;吸収曲線は、吸光係数のスペクトル依存性を表す。
【0075】
本発明による層に基づく高分子光学機能層は、以下の用途に有利である。
【0076】
1)表面上の反射防止層(Born,Maxの上掲書51頁以下参照)
透明機能層の適用により、反射防止層は、この層を規定された厚さに堆積させることによって形成され得る。この層の光路長が波長の4分の1(すなわち、nL×d=λ/4)に等しい場合、層の上面および下面で反射された2つの部分ビームの相殺的干渉が生じる。反射された部分ビームが同じ強度を有する場合、全体として光が反射されない。反射された部分ビームが同じ強度を有するように、反射防止層の屈折率は、空気および支持体の屈折率の相乗平均に等しくなければならない(すなわち、nL= (nA×nS)1/2(Born,Maxの上掲書64頁以下参照)。ガラスについてnA=1およびnS=1.5であるので、適用される反射防止層の屈折率は、理想的にはnL=1.22である。
【0077】
透明な無機物(例えば、二酸化チタン、二酸化ケイ素、氷晶石またはフッ化マグネシウム)が、反射防止層である薄膜として常法により堆積される。これらの無機物層はすべて、所望の幾何学的屈折率(n=1.22)を有意に超える屈折率を有する。例えば、氷晶石の屈折率(n)は1.35であり、MgF2の屈折率(n)は1.38である。低い屈折率(n<1.3)を有する透明な固体は、これまでは反射防止層として用いられていなかった。
【0078】
屈折率が高すぎるため、反射防止層は、例えば多層系としてガラス上に堆積される。この手順において、例えば米国特許出願第4726654号に記載されるように、異なる屈折率を有する薄い無機物層が、交互に堆積される。
【0079】
上述の無機反射防止層は、熱蒸着、スパッタリング、CVD(化学蒸着法)などのような既知の薄層堆積プロセスによって堆積される。これらのプロセスはすべて真空を必要とし、かつ堆積速度が遅いので、複雑であり、従って高価である。
【0080】
驚くべきことに、PETフィルムまたは石英ガラスへのインサイチュPEDTを含む層の適用によって、可視スペクトル域内の支持体の反射を著しく減少させ得ることが見出されている。PEDTを含む層が、可視スペクトル域において非常に低い屈折率(n=0.8〜1.3)を有すると同時に高い透明度を有するので、この材料の薄層は、反射防止層として用いることができる。薄層の光学定数は、異なる層厚さの2つの層の反射曲線および透過曲線の反復調整による2つの既知の薄層光学の方法によって決定される。第1の方法において、nおよびkは、フレネルの式を用いて繰り返し計算される。第2の方法において、nおよびkの値の決定については、Steag EtaOptik GmbH(ハインスベルク、ドイツ)のETA-RT装置およびそれに組み込まれたソフトウェアが用いられる。両方の方法は同様の結果を生じる。
【0081】
本発明によるインサイチュ層の可視スペクトル域の広い部分における低い屈折率(n<1.3)は、以下の利点を有する:
【0082】
a)本発明による層の屈折率は、(意外にも見出されたように)この屈折率が空気nAおよび基材nSの屈折率の相乗平均に相当するように制御様式で調整され得る。高い反射防止効果は、個々の層を用いてこのように達成され得る。この調整は、インサイチュPEDT溶液に可溶である屈折率nISP<nPを有する一定量のポリマーとインサイチュPEDT溶液とを混合することによって行われる。次いで、層nLの屈折率は、以下から容易に計算することができる:
nL=nISP×ρISP+nP×ρP
式中、nISPおよびnPはそれぞれ、純粋なインサイチュPEDTの屈折率および純粋なポリマー層の屈折率であり、ρISPおよびρPは、対応する体積含有率である。nISP<nPでありかつインサイチュPEDT溶液中において適切な可溶性を有する適切なポリマーは、先により詳細に記載されている。
【0083】
b)インサイチュPEDTを含む層は、先により詳細に記載されているように、安価な堆積プロセスを使用することによって、溶液から所望の支持体へよりいっそう容易に適用され得る。
【0084】
2)エフェクト顔料上のコーティング層
コーティングしたマイカ小板は、ラッカーを着色するための真珠光沢のあるエフェクト顔料として用いられる(Iridin(登録商標)顔料、Merck、ダルムシュタット参照)。真珠光沢効果は、雲母担体上に沈殿する薄層によって生じる。上記の1)に記載のように、ここでも干渉現象が生じる。可視スペクトル域のある領域は、優先的に反射されるかまたは吸収され、その結果、特有の色印象が形成される。
【0085】
これらの顔料は、通例、無機物層(例えば、TiO2またはSiO2)でコーティングされる。屈折率が低くかつそのスペクトルのコースが独特であるので、PEDTの薄層によって新しい改良された特性を有する着色顔料が調製され得る。
【0086】
3)表面上の赤外線反射層
日光が差し込むことのできる窓ガラスの背後の閉じられた部屋が暑くなることは、窓ガラスに赤外線を反射する保護層(IR反射層)を設けることによって抑制できる。この層は同時に可視スペクトル域において透明であるべきであるので、インジウム錫酸化物(ITO)またはアンチモン錫酸化物のような無機物コーティングが、IR反射層として窓ガラスに通常用いられる(Kガラス参照)。
【0087】
驚くべきことに、PETフィルムまたは石英ガラスへのインサイチュPEDTを含む層の適用によって、太陽の熱放射の波長範囲内(すなわち、λ>750nmの範囲内)での担体のIR反射率を著しく増加させ得ることが見出されている。その結果、より少ないIR光しか透過することができず、窓ガラスの後ろの部屋が温まることは抑制できる。
【0088】
4)導波路、ガラスファイバーのクラッディング
ガラスファイバーの傷つきやすい表面を引っ掻きから保護するために、ガラス光ファイバーは、クラッド層でコーティングされる(Bergmann Schaefer、第3巻 Optik、449頁以下、第9版参照)。このため、ガラスファイバーの場合には、ガラスファイバーの外側領域は適切にドーピングされる(すなわち、ファイバーの内部に対してスペクトル遷移領域内の屈折率を低下させるために、制御された様式で不純物が供給され)。信号は、この屈折率勾配および関連する全反射によりファイバー内に閉じ込められ、表面上の乱れ(例えば、引っ掻き傷)は、もはや散乱中心として機能しない。
【0089】
ガラスを外側領域でドーピングする上記のプロセスは、このプロセスがガラスファイバーの生産中でしか実現し得ないという欠点を有する。その結果、全反射の領域は、比較的狭い波長範囲に限定される。
【0090】
インサイチュPEDTの屈折率は低いので、この材料は、この層がなお後にかつ容易にガラスまたはポリマーの光伝導体ファイバーに適用され得、かつ、全反射が可視域およびIR域内の広い領域で維持されるという利点を有し、ガラスファイバーのためのクラッド層としても適している。
【0091】
溶液から適用され得、かつ可視スペクトル域内に1.3未満の屈折率(n)を有するか、または近赤外の波長に対して高い反射特性を有するポリマーは、これまでに知られていなかったので、この見出だされた効果は意外なものである。
【0092】
以下、本発明を、例により図面を参照して説明する。
【実施例】
【0093】
実施例1
石英ガラス上のインサイチュPEDT層:
20部の2−プロパノールで希釈したエポキシシラン(Silquest(登録商標)A187、製造会社OSi specialities)を、スピンコーターを用いて清浄した石英基材上にスピンコートし、次いで、大気中50℃で5分間、乾燥する。層厚さは20nm未満である。3,4−エチレンジオキシチオフェン(Baytron(登録商標)M)、ブタノール中の鉄(III)(トシレート)3の6%濃度溶液(Baytron(登録商標)CB40、製造会社H. C. Starck GmbH)、およびイミダゾールを、1:20:0.5の重量比で含む溶液を調製し、濾過する(Millipore HV、0.45μm)。その後、この溶液をエポキシシランでコーティングした石英基材上にスピンコーターを用いて1,000rpmでスピンコートする。続いてこの層を室温(RT、23℃)で乾燥し、次いで十分に蒸留水で濯いで鉄塩を除去する。層の乾燥後、層厚さは約155nmである。この層は、表面粗さ(Sr)が5nm未満の滑らかな表面を有する。層の導電率は550S/cmである。層の透明度は高い。すなわち、ガラス基材上の200nm厚さの層の透明度Yは、50%よりも大きい。
【0094】
石英上の層の反射スペクトルを、DIN5036に従って分光光度計(ウルブリヒト球を装備した、Perkin-Elmer Lamda 900)で記録する。図1は反射スペクトルを示す。可視スペクトル域の広範囲における反射率は、コーティングされていない石英ガラスの反射率よりも低いことが明瞭に分かる。550nmで、特に視感度曲線の最大値では、石英上の155nm厚さのインサイチュPEDT層の反射率は、コーティングされていない石英では6.8%であるのと比較して、わずか1.4%にすぎない。従って、インサイチュPEDT層は、可視スペクトル域における石英基材の反射防止をもたらす。
【0095】
2,000nmの波長では、石英上のインサイチュPEDT層における反射率は、コーティングされていない石英上における6.1%と比較して、51.5%である。従って、インサイチュPEDT層は、近赤外線領域において石英基材よりもさらによく反射する。
【0096】
実施例2
石英ガラス上のBaytron P(登録商標)AI4071層:
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)およびポリスチレンスルホン酸の混合物(1:2.5重量部)であるBaytron P(登録商標)AI4071を、清浄した石英基材上に1,000rpmでスピンコートする。次いで、この層を200℃で乾燥する。層の乾燥後、層厚さは約180nmである。この層は、表面粗さ(Sr)が5nm未満の滑らかな表面を有する。層の導電率は0.1S/cmである。
【0097】
反射スペクトルを図2に示す。
【0098】
700nmの波長では、石英上のBaytron P(登録商標)AI4071層の反射率は、コーティングされていない石英では6.7%であるのと比較して、4.8%である。従って、Baytron P(登録商標)AI4071層は、可視スペクトル域における石英基材の反射防止をもたらす。
【0099】
2,000nmの波長では、石英上のBaytron P(登録商標)AI4071層の反射率は、コーティングされていない石英では6.1%であるのと比較して、16.2%である。従って、Baytron P(登録商標)AI4071層は、近赤外線領域において石英基材よりもさらによく反射する。
【0100】
実施例3
回転速度が2,000rpmであり、かつ層厚さが95nmであること以外は、実施例1におけるように、インサイチュPEDT層を石英ガラス上に堆積させ、そして反射および透過スペクトルを測定する。
【0101】
実施例4
回転速度が2,000rpmであり、かつ層厚さが100nmであること以外は、実施例2におけるように、Baytron P(登録商標)AI4071層を石英ガラス上に堆積させ、そして反射および透過スペクトルを測定する。
【0102】
実施例5
実施例1および3ならびに実施例2および4に従って製造される層を用いて、石英ガラス上のインサイチュPEDT層の分散および吸収曲線ならびにBaytron P(登録商標)AI4071層の分散および吸収曲線を決定する。一致した結果を生じる2つの異なる方法で決定を行なう。方法1は、フレネルの式に基づくコンピュータプログラムであり、計算されたRおよびTコースが、層厚さの異なる2つの試料について測定されたRおよびTコースに相当するまで、nおよびkを反復して適合させる。方法2は、Steag EtaOptikのETA-RT装置を用い、これによりnおよびkを基材上の薄層のRおよびTスペクトルから決定できる。これらの2つの方法は同様の結果を生じ、これを表1に要約する。
【0103】
表1から判断すると、インサイチュPEDT層は、可視スペクトル域の広範囲において1.3未満の屈折率(n)を有し、一方、Baytron P(登録商標)AI4701層(この層は、PSSとともに、非導電成分を含む)は、より高い屈折率を有する。
【0104】
【表1】

【0105】
実施例6
Baytron(登録商標)M、Baytron(登録商標)CB40およびDMSOを重量比1:20:1.25で含む溶液を調製し、この溶液をPETフィルムにドクターブレードで適用すること以外は、実施例1におけるように、インサイチュPEDT層を堆積させ、そして測定する。用いたドクターブレードは、厚さd=12μmの湿潤層をもたらす。
【0106】
このようにコーティングされたフィルムの反射スペクトルを、コーティングされていないPETフィルムと比較して、添付の図3に示す。
【0107】
反射率は、可視スペクトル域において、コーティングしていないものよりもコーティングしたもので顕著に低い。すなわち、490nmでの反射率(R)は、コーティングしていないものが9.9%であるのに対し、コーティングしたものでは3.62%である。一方、近赤外線においては、反射率はコーティングしたものでより高く、2,400nmでの反射率(R)は、コーティングしていないものが6.5%であるに対し、コーティングしたものでは46.9%である。
【0108】
これは、本発明による層が、可視スペクトル域における反射率の減少および近赤外線における反射率の増加を引き起こすことを示す。
【0109】
実施例7
Baytron(登録商標)M、Baytron(登録商標)CB40、DMSOおよびポリウレタン系架橋剤Desmotherm(登録商標)2170(製造会社Bayer AG)を重量比1:20:1.25:0.5で含む溶液を調製し、この溶液をPETフィルムにドクターブレードで適用すること以外は、実施例1におけるように、インサイチュPEDT層を堆積させ、そして測定する。用いたドクターブレードは、厚さd=12μmの湿潤層をもたらす。
【0110】
このようにコーティングされたフィルムの反射スペクトルを、コーティングされていないPETフィルムと比較して、添付の図4に示す。
【0111】
反射率は、可視スペクトル域において、コーティングしていないものよりもコーティングしたもので顕著に低い。すなわち、650nmでの反射率(R)は、コーティングしていないものが9.5%であるのに対し、コーティングしたものでは2.60%である。一方、近赤外線においては、反射率はコーティングしたものでより高く、2,400nmの波長での反射率(R)は、コーティングしていないものが6.5%であるのに対し、コーティングしたものでは41.5%である。
【0112】
これは、本発明による層が、可視スペクトル域における反射率の減少および近赤外線における反射率の増加を引き起こすことを示す。さらに本実施例は、特に、実施例6と比較して、同じ堆積条件下で架橋剤Desmotherm 2170を添加することによって反射のスペクトルコースを変化させることができることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】石英基材上のインサイチュPEDT層の反射率を、石英のみの層と比較して、波長の関数として示すグラフである。
【図2】ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンおよびポリスルホン酸を含む層を用いた、図1と類似のグラフである。
【図3】インサイチュコーティングされたPETフィルムおよびコーティングされていないPETフィルムの測定についての図1と類似のグラフである。
【図4】図3と類似のさらなるグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視スペクトル域の一部に、特に、少なくとも50nm、好ましくは少なくとも100nmの区間を含む波長範囲に、1.3未満の屈折率(n)を有し、かつ、一般式(I):
【化1】

[式中、
Aは、置換されていてもよいC1〜C5−アルキレン基を表し、
Rは、直鎖状または分岐鎖状の、置換されていてもよいC1〜C18−アルキル基、置換されていてもよいC5〜C12−シクロアルキル基、置換されていてもよいC6〜C14−アリール基、置換されていてもよいC7〜C18−アラルキル基、置換されていてもよいC1〜C4−ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシル基を表し、
xは、0〜8の整数を表す。
複数の基RがAに結合される場合、これらは同一であっても異なっていても、またはポリアニリンであってもポリスチレンであってもよい。]
で示される繰り返し単位を有する少なくとも1つのポリチオフェンを含む少なくとも1つの導電性ポリマーを含むことを特徴とする、透明光学機能層。
【請求項2】
前記導電性ポリマーが、前記一般式(I)の繰り返し単位を有するポリチオフェンであることを特徴とする、請求項1に記載の透明光学機能層。
【請求項3】
Aが置換されていてもよいC2〜C3−アルキレン基を表し、かつ、xが0または1を表すことを特徴とする、請求項1または2に記載の透明光学機能層。
【請求項4】
前記一般式(I)の繰り返し単位を有するポリチオフェンが、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の透明光学機能層。
【請求項5】
ポリマーカルボン酸またはスルホン酸のアニオンであるポリマーアニオンをさらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の透明光学機能層。
【請求項6】
前記ポリマーアニオンが、ポリスチレンスルホン酸のアニオンであることを特徴とする、請求項5に記載の透明光学機能層。
【請求項7】
ASTM E 308と組み合わせたASTM D 1003-00に従って測定される透過率Yが25%以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の透明光学機能層。
【請求項8】
少なくとも1つの導電性ポリマーを含む層を、例えば、ピロールまたはアニリン、あるいは特に一般式(II):
【化2】

[式中、A、R、およびxは、請求項1の式(I)に与えられた意味を有する。]
で示されるチオフェンのような、導電性ポリマーの調製のための前駆体を、必要に応じて溶液の形態で、基材に適用し、1つ以上の酸化剤の存在下での化学的酸化重合または電気化学重合を行うことにより導電性ポリマーを生成することによって、形成することを特徴とする、基材上における請求項1〜7のいずれかに記載の透明光学機能層の製造方法。
【請求項9】
前記基材が、少なくとも1つの導電性ポリマーを含む層の適用前に接着促進剤で処理されることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
光学的構造体における、請求項1〜7のいずれかに記載の透明光学機能層の使用。
【請求項11】
表面上の反射防止層としての、請求項1〜7のいずれかに記載の透明光学機能層の使用。
【請求項12】
エフェクト顔料上のコーティング層としての、請求項1〜7のいずれかに記載の透明光学機能層の使用。
【請求項13】
表面上の赤外線反射層としての、請求項1〜7のいずれかに記載の透明光学機能層の使用。
【請求項14】
光学ガラス繊維上のクラッド層としての、請求項1〜7のいずれかに記載の透明光学機能層の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−529094(P2007−529094A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502227(P2007−502227)
【出願日】平成17年2月26日(2005.2.26)
【国際出願番号】PCT/EP2005/002048
【国際公開番号】WO2005/087836
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(303036245)バイエル・ベタイリグングスフェアヴァルトゥング・ゴスラー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (18)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Beteiligungsverwaltung Goslar GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】