説明

ポリプロピレン系樹脂組成物からなる射出発泡成形体の製造方法

【課題】射出充填性、発泡性に優れ、表面外観の美麗な射出発泡成形体を提供する。
【解決手段】230℃でのメルトフローレートが30g/10分を超えて250g/10分以下、200℃でのメルトテンションが0.3cN以上、かつ、200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが6.0以下である、改質ポリプロピレン系樹脂(A)3〜50重量部、および230℃でのメルトフローレートが10g/10分以上150g/10分以下、メルトテンションが2cN未満である、線状ポリプロピレン系樹脂(B)50〜97重量部を含んでなるポリプロピレン系樹脂組成物と発泡剤を射出成形機に供給し、溶融、混練することで得た溶融混練物を射出開始から射出完了まで85℃以上に保持された金型内に射出することを特徴とする発泡成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物を用いた射出発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は、良好な物性及び成形性を有しており、また、環境にやさしい材料として急速にその使用範囲が拡大している。特に、自動車部品等では、軽量で剛性に優れたポリプロピレン樹脂製品が提供されており、そのような製品の一つに、ポリプロピレン系樹脂の射出発泡成形体がある。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂の射出発泡成形体において、ポリプロピレン系樹脂を高発泡化させる技術としては、型開き可能に保持された金型の空間内に発泡剤を含む樹脂を射出成形した後、金型を開くことにより前記空間を拡大して樹脂を発泡させるいわゆるコアバック法(Moving Cavity法)がある(例えば、特許文献1)。
【0004】
一般に、射出発泡成形に用いるポリプロピレン系樹脂の特性としては、金型内の隅々まで樹脂が充填されるための流動性と、その後発泡するための発泡性が必要とされる。
【0005】
しかしながら、通常使用される線状ポリプロピレン系樹脂は結晶性でメルトテンション(溶融張力)が低いため、気泡が破壊されやすく高発泡化が困難であった。また、射出発泡成形体表面に発泡剤由来ガスによるシルバーストリークと呼ばれる外観不良が発生しやすい傾向があった。
【0006】
ポリプロピレン系樹脂のメルトテンション(溶融張力)を高める方法として、例えば、無架橋のポリプロピレン系樹脂に放射線照射することで長鎖分岐を導入する方法(特許文献2)、ポリプロピレン系樹脂とイソプレン単量体とラジカル重合開始剤とを溶融混練して改質ポリプロピレン系樹脂を製造する方法(特許文献3)などが提案されている。
確かに、この方法により高発泡倍率の射出発泡成形体が得られるものの、樹脂溶融時の粘度が上がりすぎ、射出が困難となる場合があるとともに、発泡性を付与することに起因すると考えられる成形不良であるフローマークが発生し、表面外観が悪くなる場合があった。特に、自動車部品などの大型製品を成形する場合や、軽量化を狙い、樹脂を充填する際の金型キャビティの初期クリアランスを薄く設定する場合に、流動性が不足するとショートショットになり易く、上記問題は顕著であった。
【0007】
一方、射出発泡成形においてシルバーストリークによる外観不良は大きな問題の一つであり、様々な改善方法が提案されている。特許文献4では、溶融状態の樹脂の射出時には金型の表面温度を樹脂の熱変形温度以上に保ち、所定量の樹脂の金型内への充填が完了した後、直ちに金型を冷却して樹脂を冷却固化することで、金型の転写が良好でウエルドマークなどの不良も防止でき、しかも表面において破泡を防いで、表面状態が良好な発泡樹脂成形品を製造する方法が提案されている。
【0008】
さらに特許文献5では、前記発泡性が改善された改質ポリプロピレン系樹脂と線状PPからなる組成物を当該組成物の熱変形温度以上に保持された金型内に射出し充填完了後の所定のタイミングで金型を冷却して樹脂を冷却固化することで、発泡性と外観を両立する成形体が得られることが記載されている。しかしながらこの方法においても、改質ポリプロピレン系樹脂の流動性が低い為に、前記組成物の流動性が不十分で射出充填性に劣る場合があり、また、金型温度を比較的高温に設定しないと光沢が不十分な場合があり、金型温度を高温に設定することで、成形サイクルが長化することが否めなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2005/026255号公報
【特許文献2】特開2001−226510号公報
【特許文献3】特開平9−188774号公報
【特許文献4】特開2005−7589号公報
【特許文献5】特開2010−269530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、射出充填性、発泡性に優れ、さらに光沢に優れた表面外観美麗な射出発泡成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、メルトフローレートの高い特定の改質ポリプロピレン系樹脂を汎用の線状ポリプロピレン系樹脂に添加することからなる樹脂組成物を使用し、金型温度を特定の範囲に制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の構成をなす。
【0013】
(1).ポリプロピレン系樹脂組成物および発泡剤を射出成形機へ供給し溶融混練し、次いで、これら溶融混練物を金型内に射出して発泡成形することを特徴とする発泡成形体の製造方法において、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物が、230℃でのメルトフローレートが30g/10分を超えて250g/10分以下、200℃でのメルトテンションが0.3cN以上、かつ、200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが6.0以下である、改質ポリプロピレン系樹脂(A)3〜50重量部、および230℃でのメルトフローレートが10g/10分以上150g/10分以下、メルトテンションが2cN未満である、線状ポリプロピレン系樹脂(B)50〜97重量部[(A)および(B)の合計量は100重量部である]を含んでなり、
前記溶融混練物を金型内に射出する際の金型温度を少なくとも射出開始から射出完了まで85℃以上に保持することを特徴とする発泡成形体の製造方法。
【0014】
(2). 前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)が、230℃でのメルトフローレートが50g/10分を超えて250g/10分以下であることを特徴とする、(1)記載の発泡成形体の製造方法。
【0015】
(3). 前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)が、線状ポリプロピレン系樹脂ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする、(1)または(2)記載の発泡成形体の製造方法。
【0016】
(4). 前記線状ポリプロピレン系樹脂(B)がシャルピー衝撃強さ(−20℃)が2kJ/m以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の発泡成形体の製造方法。
【0017】
(5).固定型および、任意の位置に前進および後退が可能な可動型から構成される金型を使用し、射出完了後、可動型を後退させて発泡させることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の発泡成形体の製造方法。
【0018】
(6).(1)〜(5)のいずれかの製法により製造された射出発泡成形体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の射出発泡成形体の製法は、流動性、発泡性および転写性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物を使用することから、特に射出発泡成形にて高発泡倍率でかつ外観に優れた発泡成形体が得られ、特に大型金型による薄肉発泡成形が可能となる。さらには、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、メルトフローレートが30g/10分を超える高流動の改質ポリプロピレン系樹脂を使用しており、少しの膨張力でも大きく変形することが可能であることから、従来のメルトフローレートが30g/10分以下の改質ポリプロピレン系樹脂を使用したポリプロピレン系樹脂組成物に比べて、発泡剤を減量しても所望の高発泡倍率の射出発泡成形体を得ることができる。そして本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は前記従来品に比べて、金型転写性が良好で高品質の外観が得られるばかりか、既知の外観改良法である、射出時の金型温度を高温に保持する成形法において当該金型温度を比較的低く設定しても光沢が得られ、サイクル短縮も可能となるものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、メルトフローレートが30g/10分を超えて250g/10分以下、200℃でのメルトテンションが0.3cN以上、かつ、200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが6.0以下である改質ポリプロピレン系樹脂(A)を3〜50重量部、メルトフローレートが10g/10分以上100g/10分以下、メルトテンションが2cN未満である線状ポリプロピレン樹脂(B)50〜97重量部[(A)および(B)の合計量は100重量部である]、を含んでなる。
【0022】
本発明で用いられる改質ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトフローレートは、下限が30g/10分を超え、好ましくは50g/10分を超えるものであり、上限が250g/10分以下、好ましくは200g/10分以下である。改質ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトフローレートが30g/10分以下の場合、流動性が不足して、大型金型での射出発泡成形においてショートショットとなる場合があり、メルトフローレートが250g/10分を超える場合、射出発泡成形での計量工程が不安定になる場合がある。 ここで、メルトフローレート(以降、「MFR」と略す場合がある)とは、ASTM D−1238に準拠し、メルトインデクサーS−01(東洋精機製作所製)を用い、230℃、2.16kg荷重の条件にて、ダイから一定時間に押し出される樹脂量から、10分間に押し出される量に換算した値をいう。なお、前記一定時間とは、メルトフローレートが3.5g/10分以上10g/10分未満の場合は60秒間、10g/10分以上25g/10分未満の場合は30秒間、25g/10分以上50g/10分未満の場合は15秒間、50g/10分以上100g/10分未満の場合は5秒間、100g/10分以上の場合は3秒間である。仮に、ある秒数で測定した際のメルトフローレートが対応する範囲に無かった場合は、そのメルトフローレートに応じた秒数で再度測定するものとする。
【0023】
本発明で用いられる改質ポリプロピレン系樹脂(A)は、200℃でのメルトテンションが0.3cN以上、好ましくは0.5cN以上、さらには1.0cN以上であることが好ましい。メルトフローレートが30g/10分を超えるポリプロピレン系樹脂においてメルトテンションが0.3cN未満の場合、射出発泡成形時の溶融樹脂流動先端部での破泡が抑えられず、シルバーストリークが発生し、射出発泡成形体の表面外観が悪化する場合がある。メルトテンションの上限については所望の発泡倍率と外観が得られれば特に制約は無いが、成形品表面の光沢が悪化する場合があるという理由から20cN以下、好ましくは15cN以下、さらには10cN以下であることが好ましい。
【0024】
ここで、メルトテンション(以降、「MT」と略す場合がある)とは、メルトテンション測定用アタッチメントが装備されており、先端にφ1mm、長さ10mmのオリフィスを装着したφ10mmのシリンダを有するキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用して、200℃、ピストン降下速度10mm/分で降下させた際にダイから吐出されるストランドを350mm下のロードセル付きプーリーに掛けて1m/分の速度で引き取り、安定後に引き取り速度を4分間で200m/分の速度に達する割合で増加させ、ストランドが破断したときのロードセル付きプーリーにかかる荷重をいう。なお、ストランドが破断に至らない場合は、引き取り速度を増加させてもロードセル付きプーリーにかかる荷重が増加しなくなった点の荷重をメルトテンションとする。
【0025】
本発明の(A)改質ポリプロピレン系樹脂は、200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが6.0以下であり、好ましくは5.0以下である。
【0026】
ここで、角振動数1rad/sはいわゆる低剪断領域であり、その領域において損失正接tanδが小さい、すなわち、相対的に貯蔵弾性率が高いことは発泡時の気泡の保持に有利であると考えられる。但し、メルトフローレートが30g/10分以下という分子量の比較的高いポリプロピレン系樹脂では、分子鎖が相互に絡む割合が高く、メルトフローレートが小さくなるほど前記損失正接tanδが小さく測定される傾向にある。しかし、メルトフローレートが低い故に損失正接tanδが低い場合、損失正接tanδは、発泡に適した溶融特性を適正に表わしているといえず、実際に射出発泡成形において必ずしも気泡の保持に充分ではない。すなわち、本発明においては、メルトフローレートが30g/10分を超える高流動のポリプロピレン系樹脂において損失正接tanδが低いことが、射出発泡成形での気泡保持の指標となり、損失正接tanδが6.0を超える場合、破泡しやすく、射出発泡成形体に内部ボイドが発生したり、射出発泡成形体の厚みが薄くなってしまう場合がある。
【0027】
一方、前記損失正接tanδの下限には特に制約は無いが、0.7未満の場合に射出発泡成形体表面にフローマークが目立ち、表面外観が悪くなる場合がある。
【0028】
ここで、損失正接tanδは、25mmφのパラレルプレート型冶具を装着した粘弾性測定装置を用い、測定温度200℃、パラレルプレート間隔1mm、角振動数0.1rad/sから100rad/sまでの範囲で測定を行った際の、角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率および損失弾性率の測定値を用いて、損失弾性率を貯蔵弾性率で除して算出する。なお、前記粘弾性測定には、例えば、TAインスツルメンツ社製粘弾性測定装置、ARESなどが好適に用いられる。
【0029】
本発明における前記物性を有する改質ポリプロピレン系樹脂(A)としては、例えば、線状ポリプロピレン系樹脂に放射線を照射する方法、線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合する方法、などにより得られる、分岐構造あるいは高分子量成分を含有する改質ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。
これらの中では、線状ポリプロピレン樹脂、ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂が、高価な設備を必要とせず、安価に製造できる点から好ましい。
【0030】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられる共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンなどがあげられるが、これらを単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ブタジエン、イソプレンが安価で取り扱いやすく、反応が均一に進みやすい点から、特に好ましい。
【0031】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられる共役ジエン化合物の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上5重量部以下が好ましく、0.05重量部以上2重量部以下がさらに好ましい。共役ジエン化合物の添加量が0.01重量部未満では、損失正接tanδが6.0を超えて、発泡性が不充分となる場合があり、5重量部を超えると、メルトフローレートが30g/10分以下となり、流動性が不充分となる場合がある。
【0032】
なお、本発明においては、前記共役ジエン化合物と共重合可能な単量体(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステルなど)を併用してもよい。
【0033】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられるラジカル重合開始剤としては、一般に過酸化物、アゾ化合物などが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂や前記共役ジエン化合物からの水素引き抜き能を有するものが好ましく、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルなどの有機過酸化物が挙げられる。
【0034】
これらのうち、特に水素引き抜き能が高いものが好ましく、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシンなどのジアルキルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどが挙げられる。これらは、単独で使用してよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられるラジカル重合開始剤の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部以下が好ましく、0.2重量部以上5重量部以下がさらに好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量が0.05重量部未満では、損失正接tanδが6.0を超えて、発泡性が不充分となる場合があり、10重量部を超えると、改質の効果が飽和してしまい、経済的でない場合がある。
【0036】
一般に、損失正接tanδが6.0以下となるように線状ポリプロピレン系樹脂を改質する際、メルトフローレートが30g/10分以下となり易い傾向がある。これに対して、本発明においては、ラジカル開始剤の添加量を、共役ジエン化合物の添加量以上とすることにより、改質ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートが30g/10分を超えて、メルトテンションが0.3cN以上、かつ損失正接tanδが6.0以下となるように、比較的容易に調整することができる。
【0037】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられる線状ポリプロピレン系樹脂とは、線状の分子構造を有しているポリプロピレン系樹脂であり、具体的には、プロピレンの単独重合体、ブロック共重合体およびランダム共重合体であって、結晶性の重合体があげられる。プロピレンの共重合体としては、プロピレンを75重量%以上含有しているものが、ポリプロピレン系樹脂の特徴である結晶性、剛性、耐薬品性などが保持されている点で好ましい。
【0038】
プロピレンと共重合可能なα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2または4〜12のα−オレフィン、シクロペンテン、ノルボルネン、テトラシクロ[6,2,11,8,13,6]−4−ドデセンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのビニル単量体などが挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうち、エチレン、1−ブテンが、耐寒脆性向上、安価等という点で好ましい。
【0039】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために、線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物およびラジカル重合開始剤を反応させるための装置としては、ロール、コニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダー、単軸押出機、2軸押出機などの混練機、2軸表面更新機、2軸多円板装置などの横型撹拌機、ダブルヘリカルリボン撹拌機などの縦型撹拌機、などが挙げられる。これらのうち、混練機を使用することが好ましく、特に押出機が生産性の点から好ましい。
【0040】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(A)を得るために、線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物およびラジカル重合開始剤を混合、混練(撹拌)する順序、方法には、特に制限はない。線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物およびラジカル重合開始剤を混合したのち溶融混練(撹拌)してもよいし、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練(撹拌)した後、共役ジエン化合物あるいはラジカル開始剤を同時にあるいは別々に、一括してあるいは分割して混合してもよい。
【0041】
混練(撹拌)機の温度は130〜300℃であることが、線状ポリプロピレン系樹脂が溶融し、かつ熱分解しないという点で好ましい。また、混練(撹拌)時間は、一般に1〜60分が好ましい。
【0042】
このようにして、本発明の改質ポリプロピレン樹脂(A)を製造することができる。改質ポリプロピレン樹脂(A)の形状、大きさに制限はなく、ペレット状でもよい。
【0043】
本発明における線状ポリプロピレン系樹脂(B)としては、メルトフローレートが好ましくは10g/10分以上150g/10分以下、さらに好ましくは15g/10分以上100g/10分以下であり、メルトテンションが好ましくは2cN未満、さらに好ましくは1cN以下である。線状ポリプロピレン樹脂(B)のメルトフローレートが10g/10分以上150g/10分以下の範囲であると、射出発泡成形体を製造する際に、金型キャビティのクリアランスが1〜2mm程度の薄肉部分を有する成形においても比較的低圧力で溶融樹脂を金型内に充填することが可能であり、連続して安定した射出発泡成形が行える傾向にある。また、メルトテンションが2cN未満であれば、フローマークが発生しない表面外観美麗な射出発泡成形体が得られやすい。
【0044】
線状ポリプロピレン系樹脂(B)としては、前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)の製造に用いられる原料の線状ポリプロピレン系樹脂として取り上げたものと同じものが例示できる。線状プロピレン系樹脂(B)としては、具体的には、プロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレンランダムコポリマー、プロピレン−エチレンブロックコポリマー等が挙げられ耐熱性と耐衝撃性のバランスに優れるという観点から、プロピレン−エチレンブロックコポリマーであることが好ましい。さらに、線状ポリプロピレン系樹脂(B)としては、射出発泡成形体に耐衝撃性を付与しやすいという点から、−20℃でのシャルピー衝撃強さが2kJ/m以上であることが好ましい。
【0045】
本発明においてシャルピー衝撃強さ(−20℃)とは、JIS K 7111(1996)に準拠して、試験温度−20℃で測定したものを言う。
【0046】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を構成する、改質ポリプロピレン系樹脂(A)および線状ポリプロピレン系樹脂(B)の混合比率は、両者の合計を100重量部とした場合、改質ポリプロピレン樹脂(A)は、3重量部以上50重量部以下であり、好ましくは10重量部以上45重量部以下である。線状ポリプロピレン樹脂(B)は、50重量部以上97重量部以下であり、好ましくは55重量部以上90重量部以下である。配合比率が上記範囲内であると、均一微細な気泡を有し、発泡倍率2倍以上であり、フローマークが発生しない表面外観美麗な射出発泡成形体を安価に提供することができる。配合比率が上記の範囲外であると、例えば、改質ポリプロピレン系樹脂(A)が5重量部未満であると、均一微細な気泡を有する発泡成形体が得られない傾向があり、50重量部を超えると、フローマークが多く発生する傾向がある。
【0047】
本発明は、前記特定のポリプロピレン系樹脂組成物を発泡剤とともに射出成形機へ供給し溶融混練し、次いで、これら溶融混練物を金型内に射出するに際し、金型温度を少なくとも射出開始から射出完了まである特定の温度以上に保持し、射出完了した溶融混練物を発泡、冷却した後に取り出す、成形体の製造方法に関するものである。
【0048】
前記保持する金型温度としては、85℃以上であることが好ましく、さらには90℃以上であることが好ましい。前記金型温度がこのような温度範囲にあることで本発明のポリプロピレン系樹脂を使用した場合に、シルバーストリークが解消され易く、表面転写性に優れ光沢の優れた成形体が得られ易い。前期保持する金型温度の上限は特に制限はないが、高価な温調設備を必要としない点や金型の加熱および冷却時間が必要以上に長くならないといった観点から120℃以下であることが好ましく、さらには110℃以下、より好ましくは100℃以下である。なお金型を高温に保持する時間としては、前記溶融混練物が少なくとも金型内に射出開始される時から射出完了するまでの間前記温度に保持されていれば良く、射出開始より早く保持されても、射出完了後しばらくの間高温に保持されても構わないが、所望の金型温度になった後速やかに射出を開始し、射出完了後速やかに冷却を開始することが成形体の表面外観を向上させかつ必要以上に成形サイクルを長くしないという観点から好ましい。このように金型を加熱、冷却する方法としては、加熱媒体として蒸気、油、温水(加圧温水含む)、ヒータ等を使用し、冷却媒体として冷却水を使用し、これらを成形機の射出開始や射出完了などの信号を受信し、その受信タイミングを起点に0から20秒程度の所望の切り替えタイミングを設定可能な回路を有する装置を使用するなど、種々の公知の方法が適用可能である。
【0049】
本発明で用いられる発泡剤は、化学発泡剤、物理発泡剤など射出発泡成形に通常使用できるものであれば、特に制限はない。
【0050】
化学発泡剤は、前記樹脂と予め混合してから押出機や射出成形機に供給され、シリンダ内で分解して炭酸ガス等の気体を発生するものである。化学発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機系化学発泡剤や、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の有機系化学発泡剤があげられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。
【0051】
物理発泡剤は、押出機や射出成形機のシリンダ内の溶融樹脂にガス状または超臨界流体として注入され、分散または溶解されるもので、金型内に射出後、圧力開放されることによって発泡剤として機能するものである。物理発泡剤としては、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類、クロロジフルオロメタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスがあげられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。
【0052】
これらの発泡剤の中では、通常の押出機や射出成形機が安全に使用でき、均一微細な気泡が得られやすいものとして、化学発泡剤としては無機系化学発泡剤、物理発泡剤としては窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスが好ましい。これらの発泡剤には、射出発泡成形体の気泡を安定的に均一微細にするために、必要に応じて、例えば、クエン酸のような有機酸等の発泡助剤やタルク、炭酸リチウムのような無機微粒子等の造核剤を添加してもよい。通常、上記無機系化学発泡剤は、取扱性、貯蔵安定性、ポリプロピレン系樹脂への分散性の点から、10〜50重量%濃度のポリオレフィン系樹脂のマスターバッチとして使用されるのが好ましい。
【0053】
本発明における発泡剤の使用量は、最終製品の発泡倍率と発泡剤の種類や成形時の樹脂温度によって適宜設定すればよい。例えば、通常、無機系化学発泡剤の場合は、本発明のポリプロピレン系樹脂100重量部中、好ましくは0.5重量部以上30重量部以下、さらに好ましくは1重量部以上20重量部以下の範囲で使用される。無機系化学発泡剤をこの範囲で使用することにより、経済的に発泡倍率が2倍以上、かつ、均一微細気泡の射出発泡成形体が得られやすい。なお、物理発泡剤の場合は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部以下、好ましくは0.1重量部以上8重量部以下の範囲で、射出成形機に供給して使用される。
【0054】
本発明における改質ポリプロピレン系樹脂は、特にメルトフローレートが30g/10分を超える高流動性を有し、少しの膨張力でも大きく変形することが可能であることから、線状ポリプロピレン系樹脂と混合して使用する際に、従来のメルトフローレートが30g/10分以下の改質ポリプロピレン系樹脂に比べて、発泡剤を減量しても所望の発泡倍率の成形体が得られやすい。
ただし、メルトフローレートが30g/10分を超える改質ポリプロピレン系樹脂を使用した場合であっても、破泡するとガス抜けにより発泡倍率は低下するため、改質ポリプロピレン系樹脂の損失正接tanδが6.0以下であることも必要な要件となる。
すなわち、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を使用することにより、初めて、発泡剤を減量することが可能となる。なお、発泡剤の減量は、コストダウンのみならず、シルバーストリークの低減等、外観向上に繋がることから、経済性や成形体品質の観点からも好ましい。
【0055】
本発明では、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の範囲でないポリプロピレン系樹脂の他、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン系樹脂、線状低密度ポリエチレン系樹脂、エチレン−α−オレフィン共重合体、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、その他の熱可塑性樹脂を混合しても良い。
【0056】
本発明では、さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、架橋剤、連鎖移動剤、核剤、可塑剤、滑材、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を併用してもよい。
本発明で適用可能な射出発泡成形方法としては、前記した金型温度以外は公知の方法が適用でき、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート、発泡剤の種類、成形機の種類あるいは金型の形状によって、適宜成形条件を調整すればよいが、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の場合、例えば、樹脂温度170〜250℃、射出速度10〜300mm/秒、射出圧10〜200MPa等の条件で行うことが好ましい。なお、射出速度に関しては、射出開始から射出完了までの時間、所謂射出時間が3秒以下、好ましくは2秒以下となるように調整することが好ましい。このような射出時間で成形することで、発泡性および表面光沢に優れた成形体が得られやすい。
【0057】
また、金型内で発泡させる方法としては種々有るが、なかでも固定型と任意の位置に前進および後退が可能な可動型とから構成される金型を使用し、射出完了後、可動型を後退させて発泡させる、いわゆるコアバック法(Moving Cavity法)が、表面に非発泡層が形成され、内部の発泡層が均一微細気泡になりやすく、軽量性および表面外観に優れた射出発泡成形体が得られやすいことから、好ましい。なお、可動型を後退させる方法としては、一段階で行ってもよいし、二段階以上の多段階で行ってもよく、後退させる速度も適宜調整してもよい。
【0058】
本発明の射出発泡成形体の発泡倍率は、好ましくは2倍以上10倍以下、さらに好ましくは2.5倍以上6倍以下である。発泡倍率が2倍未満では、軽量性が得られ難い傾向があり、10倍を超える場合には、剛性の低下が著しくなる傾向がある。さらに、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は流動性に優れていることから、射出充填時の金型のクリアランスが2mm以下という薄い状態でも、優れた充填性が発揮される傾向にあり、成形品の計量化の観点からも、充填時の金型クリアランス、すなわち射出充填完了時の金型クリアランスが薄いことが好ましく、2mm以下、更には1.5mm以下であることが好ましい。さらに本発明のポリプロピレン系樹脂は流動性に優れていることから、比較的大型の金型でその効果を発揮し易く、具体的にはその投影面積が0.1m以上、さらには0.2m以上の大型の成形品を成形する金型を使用することが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例によって本発明をより詳しく説明するが、本発明は、これらによって何ら制限されるものではない。
【0060】
実施例および比較例において、各種の評価方法に用いられた試験法および判定基準は次の通りである。
【0061】
(1) メルトフローレート(MFR)
ASTM D−1238に準拠し、メルトインデクサーS−01(東洋精機製作所製)を用い、指定された温度(ポリプロピレン系樹脂は230℃)、2.16kg荷重下でダイから一定時間に押し出される樹脂量から、10分間に押し出される量に換算した。なお前記一定時間は、メルトフローレートが3.5g/10分以上10g/10分未満の場合は60秒間、10g/10分以上25g/10分未満の場合は30秒間、25g/10分以上50g/10分未満の場合は15秒間、50g/10分以上100g/10分未満の場合は5秒間、100g/10分以上の場合は3秒間とした。
【0062】
(2)メルトテンション(MT)
メルトテンション測定用アタッチメントが装備されており、先端にφ1mm、長さ10mmのオリフィスを装着したφ10mmのシリンダを有するキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用して、200℃、ピストン降下速度10mm/分で降下させた際にダイから吐出されるストランドを350mm下のロードセル付きプーリーに掛けて1m/分の速度で引き取り、安定後に引き取り速度を4分間で200m/分の速度に達する割合で増加させ、ストランドが破断したときのロードセル付きプーリーにかかる荷重をメルトテンションとした。なお、ストランドが破断に至らない場合は、引き取り速度を増加させてもロードセル付きプーリーにかかる荷重が増加しなくなった点の荷重をメルトテンションとした。
【0063】
(3)損失正接tanδ
ポリプロピレン系樹脂を、1.5mm厚のスペーサーを用いて、190℃にて5分間熱プレスして1.5mm厚のプレス板を作製し、ここから25mmφのポンチを用いて打ち抜き、試験片を得た。測定装置としては、TAインスツルメンツ社製粘弾性測定装置ARESを用い、25mmφのパラレルプレート型冶具を装着した。冶具を囲うように恒温槽を設置し、200℃に保温、冶具が予熱された後に、恒温槽を開け、パラレルプレート間に25mmφとした試験片を挿入して恒温槽を閉じ、5分間予熱した後にパラレルプレート間隔を1mmまで圧縮した。圧縮後、再度恒温槽を開き、パラレルプレートからはみ出した樹脂を真鍮のヘラで掻き取り、恒温槽を閉じて再度5分間保温した後に、動的粘弾性測定を開始した。
【0064】
測定は、角振動数0.1rad/sから100rad/sまでの範囲で行い、各角振動数での貯蔵弾性率と損失弾性率および、計算値として損失正接tanδを得た。これらの結果のうち、角周波数1rad/sでの損失正接tanδの値を採用した。なお、歪み量は5%で、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0065】
(4)シャルピー衝撃強さ:JIS K 7111(1996)に準拠して、試験温度−20℃で測定した(試験片サイズ:80×10×4、ノッチタイプ:A、打撃方向:エッジワイズ)。
【0066】
(5)射出充填性
射出充填時の圧力が低いと充填性が良いとの考えから、射出充填時の最大射出圧力を下記基準で評価した。
◎:85MPa以下
○:85MPaを超え110MPa以下
△:110MPaを超え120MPa以下
×:120MPaを超える
【0067】
(6)発泡倍率
箱形状の射出発泡成形体底面の厚みを測定し、当該部位の金型の型締め状態でのキャビティ・クリアランスtで除することにより、算出した。
【0068】
(7)内部ボイド:
箱形状の射出発泡成形体の底面部を、ゲートを含む中心線で切断し、ゲートから30mmの位置から60mmまでの範囲の断面を観察し、発泡層に直径が1.5mm以上のボイド(内部の気泡が連通化するなどして生じる粗大な気泡)の有無を調べた。
○:ボイドが観察されないもの
×:ボイドが有るもの
【0069】
(8)光沢
射出発泡成形体の表面の光沢を目視により観察し、比較例1の品質を基に以下の基準で評価した。
○:比較例1より優れている
△:比較例1と同様
×:比較例1より劣る
【0070】
(9)成形サイクル
1ショットの成形にかかる時間(成形サイクル)を比較例1の実績を基に以下の基準で評価した。
A:成形サイクルが比較例1の95%以下
B:成形サイクルが比較例1と同等
C:成形サイクルが比較例1と105%以上
【0071】
次に、実施例、比較例で使用した樹脂材料、発泡剤を以下に示す。
【0072】
(A)改質ポリプロピレン系樹脂
MP−1:線状ポリプロピレン系樹脂としてメルトフローレート45g/10分のプロピレン単独重合体(プライムポリマー製、J108M)100重量部、および、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート1.0重量部の混合物を、ホッパーから70kg/時で45mmφ二軸押出機(L/D=40)に供給して、シリンダ温度200℃で溶融混練し、途中に設けた圧入部より、共役ジエン化合物としてイソプレンモノマーを、定量ポンプを用いて0.4重量部(0.28kg/時の速度)で供給し、前記ニ軸押出機中で溶融混練し、押し出されたストランドを水冷、細断することにより得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート56g/10分、メルトテンション4.8cN、tanδ2.5)
MP−2:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を0.4重量部、イソプレンの供給量を0.4重量部に変更した以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート43g/10分、メルトテンション1.9cN、tanδ2.5)
MP−3:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を1.4重量部、イソプレンの供給量を0.3重量部に変更した以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート97g/10分、メルトテンション1.9cN、tanδ3.6)
MP−4:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を1.4重量部、イソプレンの供給量を0.25重量部に変更した以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート175g/10分、メルトテンション1.9cN、tanδ4.4)
MP−5:線状ポリプロピレン系樹脂としてメルトフローレート3.8g/10分のプロピレン単独重合体を使用し、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの配合量を0.5重量部、イソプレンの供給量を0.8重量部に変更した以外は、MP−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート0.5g/10分、メルトテンション18cN、tanδ0.9)
【0073】
(B)線状ポリプロピレン系樹脂
PP−1:メルトフローレート(230℃)45g/10分、メルトテンションが1cN未満、シャルピー衝撃強度(−20℃)が2.5kJ/m2のプロピレンブロック共重合体(プライムポリマー製、J708UG)
PP−2:メルトフローレート(230℃)63g/10分、メルトテンションが1cN未満、シャルピー衝撃強度(−20℃)が2.4kJ/m2のプロピレンブロック共重合体(サンアロマー製、PMB60W)
【0074】
(C)発泡剤
BA−1:重曹系化学発泡剤マスターバッチ(永和化成製ポリスレンEE275F、分解ガス量40ml/g)
【0075】
(実施例1〜8)
<ポリプロピレン系樹脂組成物の作製>
表1に示す種類・組成比にて、改質ポリプロピレン系樹脂(A)に、線状ポリプロピレン系樹脂(B)および発泡剤(C)をドライブレンドした。
【0076】
<射出発泡成形体の作製>
型締力850tで、コアバック機能およびシャットオフノズルを有する電動の射出成形機(宇部興産機械(株)製)で、シリンダ温度200℃、背圧15MPaで溶融混練した後、表1に示す金型温度に設定された固定型と前進および後退が可能な可動型とから構成される、縦450mm×横550mm×高さ100mmの箱形状のキャビティ(投影面積:0.2475m、立壁部:傾斜10度、クリアランス2.5mm、底面部:クリアランスt0=1.5mm)を有し、底面部に3点のバルブゲート(ホットランナー)を有する金型中に、表1に示す射出速度で射出充填した。射出充填完了直後に、金型の冷却を開始し温度を下げると同時に、底面部が所望の厚み(発泡倍率)となるように可動型を後退させて、キャビティ内の樹脂を発泡させた。発泡完了し成形体の冷却が完了してから射出発泡成形体を取り出した。得られた射出発泡成形体の物性を、表1に示す。
【0077】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、流動性、発泡性に優れており、射出充填性、転写性に優れており、本発明の製法によれば、高発泡倍率で高光沢の成形体を比較的短い成形サイクルで得ることが可能である。
【0078】
【表1】

【0079】
(比較例1)
改質ポリプロピレンをMP−5に変えた以外は実施例1と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた射出発泡成形体は、射出充填性が悪く、表面光沢に劣るものであった。
【0080】
(比較例2)
改質ポリプロピレンをMP−5に変えた以外は実施例2と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。射出充填性が悪く、ショートショットとなり、また発泡力不足により発泡倍率3倍の成形体を得ることが困難であった。
【0081】
(比較例3)
改質ポリプロピレンをMP−5に変え、金型温度を120℃にした以外は実施例1と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた射出発泡成形体は表面光沢は良好であったが、射出充填性が悪く、成形サイクルも長いものであった。
【0082】
(比較例4)
改質ポリプロピレンをMP−5に変え、線状ポリプロピレンをPP−2に変えた以外は実施例1と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた射出発泡成形体の表面光沢は不十分なものであった。
【0083】
(比較例5)
金型温度を80℃に変えた以外は実施例1と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた射出発泡成形体の表面光沢は不十分なものであった。
【0084】
(比較例6)
改質ポリプロピレンを使用しなかった以外は実施例1と同様にして射出発泡成形体を得た。得られた射出発泡成形体の物性を表1に示す。得られた射出発泡成形体は発泡倍率2倍にてボイドが発生しこれ以上発泡倍率を上げることは困難であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂組成物および発泡剤を射出成形機へ供給し溶融混練し、次いで、これら溶融混練物を金型内に射出して発泡成形することを特徴とする発泡成形体の製造方法において、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物が、230℃でのメルトフローレートが30g/10分を超えて250g/10分以下、200℃でのメルトテンションが0.3cN以上、かつ、200℃での動的粘弾性測定における角振動数1rad/sでの貯蔵弾性率と損失弾性率の比率である損失正接tanδが6.0以下である、改質ポリプロピレン系樹脂(A)3〜50重量部、および230℃でのメルトフローレートが10g/10分以上150g/10分以下、メルトテンションが2cN未満である、線状ポリプロピレン系樹脂(B)50〜97重量部[(A)および(B)の合計量は100重量部である]を含んでなり、
前記溶融混練物を金型内に射出する際の金型温度を少なくとも射出開始から射出完了まで85℃以上に保持することを特徴とする発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)が、230℃でのメルトフローレートが50g/10分を超えて250g/10分以下であることを特徴とする、請求項1記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)が、線状ポリプロピレン系樹脂ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする、請求項1または2記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
前記線状ポリプロピレン系樹脂(B)がシャルピー衝撃強さ(−20℃)が2kJ/m以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
固定型および、任意の位置に前進および後退が可能な可動型から構成される金型を使用し、射出完了後、可動型を後退させて発泡させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの製法により製造された射出発泡成形体。

【公開番号】特開2012−166522(P2012−166522A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31304(P2011−31304)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】