説明

ポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜およびその製造方法ならびにそれを用いた燃料電池

【課題】 高温無加湿条件で運転可能な高分子電解質膜として、優れたプロトン伝導性を示すだけでなく、燃料電池を組み立てる際の加工性に優れるとともに、耐久性においても十分な実用特性を示す新規なプロトン伝導性高分子膜を提供する。
【解決手段】 下記式(1)で示される構造を主成分とするポリベンズイミダゾールからなる高分子膜に酸性分子を含浸させたことを特徴とするポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜、およびその製造方法、ならびに当該膜を用いた燃料電池。


(ただし、Xは−O−、−SO2−、−S−、−CO−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上を示し、Phはオルトフェニレン、メタフェニレン、パラフェニレンから選ばれる1種以上を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリベンズイミダゾール系化合物に酸性化合物を含浸させた高温無加湿用燃料電池膜およびその製造方法、ならびに当該膜を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
新しいエネルギー源として固体高分子型燃料電池膜が注目されている。その中で用いられる高分子膜は、カチオン交換膜として良好なプロトン導電率を示すとともに化学的、熱的、電気化学的および力学的に十分安定なものでなくてはならない。このため、長期にわたり使用できるものとして、主に米デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」を代表例とするパーフルオロカーボンスルホン酸膜が使用されてきた。しかしながら、パーフルオロカーボンスルホン酸膜を用いた場合、100℃を超える条件で運転しようとすると、膜の含水率が急激に落ちるほか、膜の軟化も顕著となり、燃料電池として十分な性能を発揮することはできない。
【0003】
100℃以上の高温領域で燃料電池を運転するには、基本的に耐熱性の高いポリマーによる燃料電池膜が必要となる。ポリベンズイミダゾールは熱安定性の高いポリマーといえるが、リン酸を含浸するとさらに熱安定性が高くなるという報告があり(たとえば非特許文献1を参照。)、ポリベンズイミダゾールにリン酸を含浸させ、イオン伝導機能をリン酸により引き出した高温用の燃料電池用電解質膜が報告されている(たとえば、特許文献1を参照。)。
【0004】
しかし、ポリベンズイミダゾール自体にはイオン伝導特性がないので、含浸するリン酸量が多く必要であるとともに、低分子化合物であるリン酸が徐々に流出してイオン伝導性が時間とともに低下していくという問題があった。さらに、リン酸含浸量が多くなると膜膨潤が大きくなるため、燃料電池を組み立てる際の障害になる問題も生じるものであった。この中では、ピリジン骨格を有するジカルボン酸モノマーを用いたポリベンズイミダゾール構造を使用することも記載されているが、同時に使用するテトラミンモノマーが3,3’−ジアミノベンジジンのみであり、この組み合わせのポリマーについても、上述と同様の欠点を示す傾向があった。
【0005】
一方、ポリベンズイミダゾールなどの芳香族ポリアゾール系のポリマーに酸性基を導入して酸成分流出を抑えることが考えられ、スルホン酸基やホスホン酸基が含有するポリベンズイミダゾール系ポリマーによる高分子電解質膜が合成された(たとえば、特許文献2を参照。)。これらのポリマーは80℃付近でのプロトン伝導性はさほど大きくないが、高温での伝導性発現が期待されるものである。しかし、酸性基としてスルホン酸基を導入した構造のポリマーは有機溶媒への溶解性がよいので加工性に優れるものの、プロトン伝導性があまり高くならない傾向がある。一方、酸性基としてホスホン酸基を導入した構造のポリマーは、酸性基量を増やすことでプロトン伝導性を高くできる傾向がうかがえるが、それでも実用的に十分なプロトン伝導性を示すものとはいえない。また、これらのポリマーがプロトン伝導性を示すには加湿条件とする必要があるので、100℃以上の温度で加湿することなく使用することは不可能といえるものであった。
【0006】
このようにポリマー中にスルホン酸基やホスホン酸基などの酸性基を導入するだけでは100℃以上の高温領域かつ無加湿の条件では実用的なプロトン伝導性を示すことができないことから、無機酸、有機酸を含有させたスルホン酸基含有ポリベンズイミダゾール高分子膜が報告されている(たとえば、特許文献3を参照。)。これらは分子内に酸性基を有しているため、少ないリン酸含浸量でプロトン伝導性が発現すると期待できるものであるが、加工性や燃料電池膜特性が十分といえるものではなかった。また、これらの検討の中ではピリジン骨格を有するポリマー構造について検討されることはなかった。
【特許文献1】特表平11−503262号公報
【特許文献2】国際公開第02/38650号パンフレット
【特許文献3】特開2003−327826号公報
【非特許文献1】E.J.Powersら、High Performance Polymers: Their Origin and Development、Elsevier、 New York(1986)、p.355
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、高温無加湿条件で運転可能な高分子電解質膜として、優れたプロトン伝導性を示すだけでなく、燃料電池を組み立てる際の加工性に優れるとともに、耐久性においても十分な実用特性を示す新規なプロトン伝導性高分子膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ピリジン環を有する特定のポリベンズイミダゾール系化合物に酸性分子を含浸させることにより、上記目的を達成する高分子膜が得られることを見出すに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
本発明のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜は、下記式(1)で示される構造を主成分とするポリベンズイミダゾールからなる高分子膜に酸性分子を含浸させたことを特徴とする。
【0010】
【化1】

【0011】
(ただし、Xは−O−、−SO2−、−S−、−CO−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上を示し、Phはオルトフェニレン、メタフェニレン、パラフェニレンから選ばれる1種以上を示す。)
本発明のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜において、前記ポリベンズイミダゾールは、下記式(2)および/または(3)で示される構造を主成分とすることが、好ましい。
【0012】
【化2】

【0013】
(ただし、Xは−O−、−SO2−、−S−、−CO−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上を示し、Phはオルトフェニレン、メタフェニレン、パラフェニレンから選ばれる1種以上を示す。)
また本発明のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜は、ポリベンズイミダゾールがさらに下記構造で示されるスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有構成要素を含んでいることが好ましい。
【0014】
【化3】

【0015】
(ただし、Xは直接結合、−O−、−SO2−、−S−、−CO−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上を示し、Arは芳香族ユニットから選ばれる1種以上を示し、Phはオルトフェニレン、メタフェニレン、パラフェニレンから選ばれる1種以上を示し、Yはスルホン酸基、ホスホン酸基から選ばれる1種以上であり、全てが酸の形態であっても、一部またはその全てがその誘導体の形態であってもよく、nは1〜4の整数を示すものとする。)
本発明のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜はまた、高分子膜の膜重量に対して、酸性分子が10〜1000重量%の範囲内で含有されていることが好ましい。
【0016】
本発明は、上述した本発明のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を製造する方法であって、上述したいずれかのポリベンズイミダゾールを主成分とする高分子膜を酸性分子液体または酸性分子を含む溶液に浸漬する工程を含むことを特徴とする、ポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜の製造方法を提供する。
【0017】
本発明はまた、酸素極と、燃料極と、前記酸素極および前記燃料極に挟持された、上述したいずれかのポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜である固体高分子電解質膜とを備え、酸化剤流路を形成した酸化剤配流板を酸素極側に設け、燃料流路を形成した燃料配流板を燃料極側に設けたものを単位セルとしたものである燃料電池も提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のピリジン環を有するポリベンズイミダゾールに酸性分子を含浸させた高分子電解質膜によれば、優れたプロトン伝導性を示すだけでなく、燃料電池を組み立てる際の加工性に優れるとともに、耐久性においても十分な実用特性を示すため、特に高温無加湿条件で運転する燃料電池に最適な高分子電解質膜、およびそれを用いた燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜は、下記式(1)で示される構造を主成分とするポリベンズイミダゾールからなる高分子膜に酸性分子を含浸させたことを特徴とする。
【0020】
【化4】

【0021】
ただし、上記式(1)において、Xは−O−、−SO2−、−S−、−CO−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上を示す。またPhはオルトフェニレン、メタフェニレン、パラフェニレンから選ばれる1種以上を示す。
【0022】
本発明において、上記式(1)で示される構造を主成分とするポリベンズイミダゾールは、モノマーとしての反応性の高さ、および得られたポリマーの取り扱い易さから、下記式(2)および/または(3)で示される構造を主成分とすることが好ましい。
【0023】
【化5】

【0024】
(上記式(2)、(3)中、Xは上述と同様である。)
上記構造のポリベンズイミダゾールは、芳香族テトラミンまたはその誘導体とピリジン環を有するジカルボン酸またはその誘導体とを組み合わせたモノマー間の重合反応により合成することができる。上記式(1)(好ましくは式(2)、(3))の構造を与える芳香族テトラミンとしては、具体的には、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルチオエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、1,2−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼンおよびこれらの誘導体が挙げられる。これらの芳香族テトラミン類の誘導体の具体例としては、塩酸、硫酸、リン酸などの酸との塩などを挙げることができる。これらの化合物は、必要に応じて塩化スズ(II)や亜リン酸化合物などの公知の酸化防止剤を含んでいてもよい。また、これらの芳香族テトラミンおよびその誘導体は単一化合物として使用してもよいが、複数の化合物を混合して使用してもよい。
【0025】
上記式(1)(好ましくは式(2)、(3))の構造を与えるジカルボン酸としては、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンカルボン酸、2,3−ピリジンカルボン酸、2,4−ピリジンカルボン酸、3,4−ピリジンカルボン酸、3,5−ピリジンカルボン酸およびそれらの誘導体である。誘導体の具体例としては、酸クロライドや各種低級アルコールとのエステル化合物などを例示することができる。これらのジカルボン酸およびその誘導体は単一化合物として使用してもよいが、複数の化合物を混合して使用してもよい。
【0026】
本発明のポリベンズイミダゾール系高分子膜には、上記式(1)で示される以外のポリベンズイミダゾール構造が含まれていても構わない。その際使用される芳香族テトラミンとしては特に限定されることはないが、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、3,3’−ジアミノベンジジン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)メタンなど、およびこれらの誘導体を挙げることができる。また、他に使用できるジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ターフェニルジカルボン酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのポリエステル原料として報告されている一般的な芳香族ジカルボン酸およびこれらの誘導体を使用することができる。そのほか、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジカルボキシ−1,4−ベンゼンジスルホン酸、4,6−ジカルボキシ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、2,2’−ジスルホ−4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ジスルホ−4,4’−ビフェニルジカルボン酸などのスルホン酸含有ジカルボン酸およびこれらの誘導体、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ビスホスホノテレフタル酸、4,6−ビスホスホノイソフタル酸などのホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸およびこれらの誘導体を使用することができる。
【0027】
また、同一分子内に2個のアミノ基またはその誘導体と1個のカルボキシル基を持つ化合物を混合した重合系においても合成することができる。本発明のポリベンズイミダゾール系高分子膜は上記式(1)(好ましくは、上記式(2)および/または(3))で表される構造を主成分とするものであるので、他の構造成分は全体の50%未満であることが好ましい。
【0028】
本発明におけるピリジン環を有するポリベンズイミダゾール系化合物は、下記式(4)で示されるスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有構成要素をさらに含んでいることも好ましい。
【0029】
【化6】

【0030】
上記式(4)において、Xは直接結合、−O−、−SO2−、−S−、−CO−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上を示し、Arは芳香族ユニットから選ばれる1種以上を示し、Phはオルトフェニレン、メタフェニレン、パラフェニレンから選ばれる1種以上を示し、Yはスルホン酸基、ホスホン酸基から選ばれる1種以上であり、全てが酸の形態であっても、一部またはその全てがその誘導体の形態であってもよい。上記誘導体としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩のほか、各種金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などの塩構造を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0031】
上記式(4)において、nは1〜4の整数を示す。nが0であるユニットは十分なプロトン伝導性を引き出すには特に有用性はなく、nが5以上であるユニットはポリマーの耐水性を低下させてしまうためである。ただし、上記(1)のユニットを含む構造であれば、部分的にnが0や5以上のユニットが共存していても問題はない。
【0032】
上記の式(4)で示す構造を含むポリベンズイミダゾール系化合物を合成する経路は特には限定されないが、通常は化合物中のイミダゾール環を形成し得る芳香族ジカルボン酸およびその誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物との反応により合成することができる。その際、使用するジカルボン酸の中にスルホン酸基やホスホン酸基、またはそれらの誘導体を含有するジカルボン酸を使用することで、得られるポリベンズイミダゾール中にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入することができる。スルホン酸基やホスホン酸基を含むジカルボン酸はそれぞれ一種以上組み合わせて使用することができる。その際、スルホン酸基やホスホン酸基またはそれらの誘導体を含まないジカルボン酸も同時に使用して合成しても構わない。これらの構造を与えるモノマーと、上記式(1)(好ましくは式(2)および/または(3))を与えるモノマーとの重合により、ピリジン環とともに上記式(4)で示される酸性基ユニットをもつポリベンズイミダゾールを合成することができる。
【0033】
上記の式(4)の構造を与えるスルホン酸基含有ジカルボン酸は、芳香族系ジカルボン酸中に1〜4個のスルホン酸基を含有するものを選択することができるが、具体例としては、たとえば、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジカルボキシ−1,4−ベンゼンジスルホン酸、4,6−ジカルボキシ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、2,2’−ジスルホ−4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ジスルホ−4,4’−ビフェニルジカルボン酸などのスルホン酸含有ジカルボン酸およびこれらの誘導体を挙げることができる。誘導体としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。スルホン酸基含有ジカルボン酸の構造は特にこれらに限定されることはない。
【0034】
スルホン酸基を含有するジカルボン酸の純度は特に限定されるものではないが、98%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。スルホン酸基を含有するジカルボン酸を原料として重合されたポリイミダゾールは、スルホン酸基を含有しないジカルボン酸を用いた場合に比べて、重合度が低くなる傾向がみられるため、スルホン酸基を含有するジカルボン酸はできるだけ純度が高いものを用いることが好ましい。
【0035】
上記の式(4)で示されるホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を合成する際に用いるホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸およびその誘導体としては、特に限定されるものではなく、芳香族ジカルボン酸骨格中に1〜4個のホスホン酸基を有する化合物を好適に使用することができる。具体例としては、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ビスホスホノテレフタル酸、4,6−ビスホスホノイソフタル酸などのホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸およびこれらの誘導体を挙げることができる。芳香族ジカルボン酸骨格中に5個以上のホスホン酸基を有すると、ポリマーの耐水性が低下する傾向がでてくるため好ましくない。ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の構造はこれらに限定されることはないが、上述したようにフェニレンホスホン酸基型のホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0036】
これらのホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸のホスホン酸誘導体としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。また、これらの化合物は単独で使用してもよいが、同時に複数使用することもできる。さらに、これらの化合物は、必要に応じて塩化スズ(II)や亜リン酸化合物などの公知の酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0037】
本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の合成に用いる、ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の純度は特に限定されるものではないが、97%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸を原料として重合されたポリベンズイミダゾール系化合物は、スルホン酸基およびホスホン酸基を有さない芳香族ジカルボン酸を原料として用いた場合に比べて、重合度が低くなる傾向がみられるため、ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸はできるだけ純度の高いものを用いることが好ましい。すなわち、芳香族ジカルボン酸の純度が97%未満の場合には、得られるポリベンズイミダゾール系化合物の重合度が低下して固体高分子電解質の材料として適さないものとなる傾向がある。
【0038】
上述の芳香族テトラミン類およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種以上の化合物と、芳香族ジカルボン酸およびその誘導体よりなる群から選ばれる1種以上の化合物とを用いて、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を合成する方法は、特に限定されるものではないが、たとえば、J.F.Wolfe, Encyclopedia of Polymer Science and Enginnering, 2nd Ed.,Vol.11. p.601(1988)に記載されるようなポリリン酸を溶媒とする脱水、環化重合により合成することができる。また、ポリリン酸の代わりにメタンスルホン酸/五酸化リン混合溶媒系を用いた同様の機構による重合を適用することもできる。なお、熱安定性の高いポリベンズイミダゾール系化合物を合成するには、一般によく使用されるポリリン酸を用いた重合が好ましい。
【0039】
さらに、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を得るには、たとえば、適当な有機溶媒中や混合原料モノマー融体の形での反応でポリアミド構造などを有する前駆体ポリマーを合成しておき、その後の適当な熱処理などによる環化反応で目的のポリベンズイミダゾール構造に変換する方法なども使用することができる。
【0040】
また、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を合成する際の反応時間は、個々の原料モノマーの組み合わせにより最適な反応時間があるので一概には規定できないが、従来報告されているような長時間をかけた反応では、スルホン酸基やホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸などの原料モノマーを含む系の場合には、得られるポリベンズイミダゾール系化合物の熱安定性が低下してしまうこともあり、この場合には反応時間を本発明の効果の得られる範囲で短くすることが好ましい。このように反応時間を短くすることにより、スルホン酸基およびホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物も熱安定性の高い状態で得ることができる。
【0041】
また、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の合成後においては、繰り返し単位を構成することになる原料モノマーが複数の種類からなる場合には、該繰り返し単位同士はランダム重合および/または交互的重合により結合していることで、高分子電解質膜の材料として安定した性能を示す特徴をもつ。なお、前記交互的重合とは、同一繰り返し単位が連続して結合していることが本質的にない結合様式であり、ランダム重合および後述するブロック重合とは明確に区別される(たとえば、NMR測定による連鎖分布の評価を用いて確認できる)。ここで、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物をランダム重合および/または交互的重合の重合形式により合成するには、全てのモノマー原料を重合初期から当量性を合わせた配合割合で仕込んでおく方法で作ることが好ましい。
【0042】
なお、ポリベンズイミダゾール系化合物をランダム重合や交互的重合ではなくブロック重合により合成することもできるが、その際には、当量性をずらした配合割合のモノマー原料の仕込み条件で第一成分のオリゴマーを合成し、さらにモノマー原料を追加して第二成分も含めて当量性が合う形に配合割合を調整した上で重合を行うことが好ましい。
【0043】
本発明におけるポリベンズイミダゾール系化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、2,000以上であることが好ましく、4,000以上であればより好ましい。また、この分子量は1,000,000以下であることが好ましく、300,000以下であればより好ましい。この分子量が2,000未満の場合には、粘度の低下によりポリベンズイミダゾール系化合物から良好な性質を備えた成形物を得ることが困難となる。また、この分子量が1,000,000を超えると粘度の上昇によりポリベンズイミダゾール系化合物を成形することが困難となる。
【0044】
なお、本発明におけるポリベンズイミダゾール系化合物の分子量は、実質的にはメタンスルホン酸中で測定した場合の対数粘度で評価することができる。そして、この対数粘度は0.3以上であることが好ましく、特に0.50以上であることがより好ましい。また、この対数粘度は8以下であることが好ましく、特に7以下であればより好ましい。この対数粘度が0.3未満の場合には、粘度の低下によりポリベンズイミダゾール系化合物から良好な性質を備えた成形物を得ることが困難となる。また、この対数粘度が8を超えると、粘度の上昇によりポリベンズイミダゾール系化合物を成形することが困難になる。
【0045】
本発明におけるポリベンズイミダゾール系化合物は、樹脂組成物中に主成分として配合されていても好適に使用することができる。樹脂組成物として上述したポリベンズイミダゾールとともに使用できるポリマーとしては、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂など、特に制限はない。
【0046】
これら樹脂組成物として使用する場合には、ポリベンズイミダゾール系化合物は、樹脂組成物全体の50重量%以上100重量%未満含まれていることが好ましい。より好ましくは60重量%以上100重量%未満、特に好ましくは70重量%以上100重量%未満である。ポリベンズイミダゾール系化合物の含有量が樹脂組成物全体の50重量%未満である場合には、この樹脂組成物を含むイオン伝導膜の酸性分子保有性が低下する傾向となる。なお、本発明におけるポリベンズイミダゾール系化合物およびその樹脂組成物は、必要に応じて、たとえば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0047】
本発明におけるポリベンズイミダゾール系化合物またはその樹脂組成物は、重合溶液、単離したポリマー、および再溶解させたポリマー溶液などからの押出し、圧延、キャストなどの任意の方法で膜形状に成形することができる。本発明におけるポリベンズイミダゾール化合物またはその樹脂組成物を含む膜を成形する好ましい方法としては、溶液からのキャストが挙げられる。溶解する溶媒としては、N、N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミドなどの非プロトン極性溶媒や、ポリリン酸、メタンスルホン酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などの強酸から適切なものを選ぶことができるがこれらに限定されるものではない。これらのうち、特に有機溶媒系から成形することが好ましい。特に本発明のポリベンズイミダゾールが良好に溶解するN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として選定することが好ましい。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。
【0048】
また、溶解性を向上させる手段として、臭化リチウム、塩化リチウム、塩化アルミニウムなどのルイス酸を有機溶媒に添加したものを溶媒としてもよい。溶液中のポリマー濃度は0.1〜50重量%の範囲であることが好ましい。低すぎると成形性が悪化し、高すぎると加工性が悪化する。溶媒の除去は、乾燥することが膜の均一性の観点からは好ましい。また、ポリマーや溶媒の分解や変質をさけるため、減圧下でできるだけ低い温度で乾燥することもできる。キャストする基板には、ガラス板、テフロン(登録商標)板、金属板、ポリマーシートなどを用いることができる。溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。
【0049】
キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、30〜1500μmであることが好ましい。薄すぎると膜としての形態を保てなくなり、厚すぎると不均一な膜ができやすくなる。より好ましくは100〜1000μmである。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。たとえば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みを確保することや、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。たとえば、加熱して溶媒を留去する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどしてポリマーの凝固速度を調整することができる。本発明の膜は目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、イオン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には200μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。また、膜の強度や加工性の面から、膜厚は5μm以上であることが好ましい。
【0050】
本発明のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜は、上述してきた構造を有する高分子膜中に酸性分子が含浸されていることが特徴である。酸性分子として使用できる無機酸としては、リン酸、ポリリン酸、硫酸、硝酸、フッ酸、塩酸、臭化水素酸およびそれらの誘導体が挙げられる。また、有機酸としては、有機スルホン酸、有機ホスホン酸が使用される。有機スルホン酸の具体的な例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクチルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、セチルスルホン酸、スルホコハク酸、スルホグルタル酸、スルホアジピン酸、スルホピメリン酸、スルホスベリン酸、スルホアゼライン酸、スルホセバシン酸を始めとするアルキルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロピルスルホン酸などのパーフルオロアルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、1,3−ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、2−メチル−5−イソプロピルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、トリクロロベンゼンスルホン酸、ニトロトルエンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸などの芳香族スルホン酸、およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されることなく各種構造の有機スルホン酸を使用することができる。有機ホスホン酸の具体的な例としては、フェニルホスホン酸、1,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸などの芳香族系ホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ビニルホスホン酸、などの脂肪族系ホスホン酸、およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されることなく各種構造の有機ホスホン酸を使用することができる。含浸させる酸性化合物は1種だけでなく、2種以上の混合物として含浸させることもできる。
【0051】
酸性分子の含浸量は、本発明における高分子膜の膜重量に対して、10〜1000重量%の範囲であるのが好ましく、50〜800重量%の範囲であるのがより好ましい。酸性分子の含浸量が高分子膜の膜重量に対して10重量%未満であると、高温無加湿下でのプロトン伝導性が低くなる傾向が現れてくる。また酸性分子の含浸量が高分子膜の膜重量に対して1000重量%を超えると、高分子電解質膜から酸性分子が染み出すなどの問題が生じる傾向にある。なお、当該含浸量は、たとえば高分子電解質膜を熱水抽出することで酸性分子を膜から全て抜き出し、抽出前後の膜重量差より、100×(抽出前膜重量−抽出後膜重量)/抽出後膜重量(%)というようにして算出することができる。
【0052】
本発明におけるポリベンズイミダゾールを含む高分子膜に酸性分子を含浸させる方法は、該高分子膜を液状の酸性分子そのものまたは酸性分子を含む溶液に含浸することにより行うことができる。この際、浸漬させる温度条件、浸漬時間を変えることにより、酸性分子含有量をコントロールすることができる。酸性分子含有量は、浸漬温度、浸漬時間の組み合わせで決定されるが、浸漬させる温度としては20〜150℃の範囲とすることが好ましい。前記温度が20℃未満である場合には、含浸速度が遅くなる傾向にあり、また150℃を超える場合には、含浸時に膜の変形が起こり易い傾向にあるためである。また、浸漬時間は10分から20時間の範囲内であることが好ましい。当該時間が10分未満である場合には、酸性分子が十分に均等に含浸されにくい傾向にあり、また20時間を越える場合には、生産性が低下する傾向にあるためである。ビニルホスホン酸を含む溶液を用いて浸漬処理を行う場合は、溶媒としては水、低級アルコールなど、酸性分子と良好に混合する溶媒を用いることができる。溶液濃度は50%以上であることが好ましい。
【0053】
また、上述した本発明のイオン伝導性高分子膜を電極に設置することによって、本発明のイオン伝導性高分子膜と電極との接合体を得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、たとえば、電極表面に接着剤を塗布しイオン伝導膜と電極とを接着する方法またはイオン伝導膜と電極とを加熱加圧する方法などがある。そして、酸素極と、燃料極と、該酸素極および燃料極に挟持された本発明の固体高分子電解質膜を備え、酸化剤流路に形成した酸化剤配流板を酸素極側に設け、燃料流路を形成した燃料配流板を燃料極側に設けたものを単位セルとすることにより、特に100℃以上の高温で運転できるとともに加湿条件を必要としない燃料電池とすることができる。
【0054】
<実施例>
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
【0055】
(1)溶液粘度
ポリベンズイミダゾール系化合物の粉末を0.5g/dlの濃度でメタンスルホン酸に溶解し、30℃の恒温槽中でオストワルド粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度〔In(ta/tb)〕/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、cはポリマー濃度)。
【0056】
(2)イオン伝導性
高分子電解質膜を白金電極(直径:13mm)に挟み、ソーラートロン(Solartron)社製電気化学測定システム12608Wを用いて複素インピーダンス測定を行い、得られた抵抗値からイオン伝導度(単位:S/cm)の温度依存性を求めた。
【0057】
(3)燃料電池特性
高分子電解質膜を、市販の燃料電池用電極(Electrochem社製)で挟持して膜電極接合体とし、150℃、無加湿の条件下、水素/空気で燃料電池特性の測定を行った。
【0058】
<実施例1>
3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン6,000g(2.1557×10-2mole)、2,6−ピリジンジカルボン酸3.6026g(2.1557×10-2mole)、ポリリン酸(五酸化リン含量:75%)36.86g、五酸化リン29.54gを重合容器に量り取る。窒素を流し、オイルバス上ゆっくり攪拌しながら100℃まで昇温する。100℃で1時間保持した後、150℃に昇温して1時間、200℃に昇温して5時間重合した。重合終了後放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いてpH試験紙が中性になるまで水洗を繰り返した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.78を示した。
【0059】
得られたポリマー1gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)10gにオイルバス上で溶解し、ホットプレート上ガラス板にキャストし、フィルム状になるまでNMPを留去した後、水中に一晩以上浸漬した。得られたフィルムは、希硫酸(濃硫酸6ml、水300ml)中に1日以上浸漬した後、純水でさらに数回浸漬洗浄し21μmの厚みの高分子膜1を得た。
【0060】
この高分子膜1をオルトリン酸(純度:85%、東京化成株式会社製)に30℃で3時間浸漬して、オルトリン酸を添加したポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を得た。このときのオルトリン酸含有量は重量変化から計算して、高分子膜1の膜重量あたり230重量%であった。得られたポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜について前述の方法によりイオン伝導度の温度依存性および燃料電池発電特性を測定した。
【0061】
表1には、発電初期および500時間経過後における開回路電圧および電流密度0.3A/cm2における出力電圧を指す。また図1には、イオン伝導度の温度依存性を示し、図2には、発電初期の電流−電圧特性を示す。図3には、開回路電圧および電流密度0.3A/cm2における出力電圧の経時変化を示す。
【0062】
<実施例2>
実施例1で得た高分子膜1をビニルホスホン酸(純度:85%、東京化成株式会社製)に50℃で3時間浸漬してビニルホスホン酸を添加したポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を得た。このときのビニルホスホン酸含有量は、重量変化から計算して、高分子膜1の膜重量に対して280重量%であった。このポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様な方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行った。150℃におけるイオン伝導度の値および燃料電池について発電初期および500時間後の開回路電圧と電流密度が0.3A/cm2における出力電圧を表1に示す。
【0063】
<実施例3>
2,6−ピリジンジカルボン酸の代わりに2,5−ピリジンジカルボン酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして23μmの厚みの高分子膜2を作製した。反応により得られたポリマーの対数粘度は1.39を示した。この高分子膜2に実施例1と同様の方法によりオルトリン酸を添加しポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を得た。このときのオルトリン酸含有量は重量変化から計算して、高分子膜2の膜重量に対して220重量%であった。このポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様の方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行った。150℃におけるイオン伝導度の値および燃料電池について発電初期および500時間後の開回路電圧と電流密度が0.3A/cm2における出力電圧を表1に示す。
【0064】
<実施例4>
実施例3で得た高分子膜2に実施例2と同様の方法によりビニルホスホン酸を添加しポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を得た。このときのビニルホスホン酸含有量は重量変化から計算して、高分子膜2の膜重量に対して300重量%であった。このポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様な方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行った。150℃におけるイオン伝導度の値および燃料電池について発電初期および500時間後の開回路電圧と電流密度が0.3A/cm2における出力電圧を表1に示す。
【0065】
<実施例5>
実施例1において、2,6−ピリジンジカルボン酸の代わりに、2,5−ピリジンジカルボン酸2.5218g(1.5090×10-2mole)と2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム(純度:99%)1.7343g(0.6467×10-2mole)を用いて20μmの厚みの高分子膜3を作製した。反応により得られたポリマーの対数粘度は1.89を示した。この高分子膜3に実施例1と同様の方法によりオルトリン酸を添加しベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を得た。このときのオルトリン酸含有量は重量変化から計算して、高分子膜3の膜重量に対して200重量%であった。このベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様の方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行った。150℃におけるイオン伝導度の値および燃料電池について発電初期および500時間後の開回路電圧と電流密度が0.3A/cm2における出力電圧を表1に示す。
【0066】
<実施例6>
実施例3において、2,5−ピリジンジカルボン酸の代わりに、2,6−ピリジンジカルボン酸2.8821g(1.7246×10-2mole)と3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸(純度:98%)1.0615g(0.4311×10-2mole)を用いて21μmの厚みの高分子膜4を作製した。反応により得られたポリマーの対数粘度は1.66を示した。この高分子膜4に実施例2と同様の方法によりビニルホスホン酸を添加しベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を得た。このときのビニルホスホン酸含有量は重量変化から計算して、高分子膜4の膜重量に対して300重量%であった。このベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様な方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行った。150℃におけるイオン伝導度の値および燃料電池について発電初期および500時間後の開回路電圧と電流密度が0.3A/cm2における出力電圧を表1に示す。
【0067】
<実施例7>
高分子膜1をビニルホスホン酸に30℃で1時間浸漬する以外は実施例2と同様にしてビニルホスホン酸を添加したベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を得た。このときのビニルホスホン酸含有量は重量変化から計算して、高分子膜1の膜重量に対して210重量%であった。このベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様の方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行った。150℃におけるイオン伝導度の値および燃料電池について発電初期および500時間後の開回路電圧と電流密度が0.3A/cm2における出力電圧を表1に示す。
【0068】
<実施例8>
高分子膜1をビニルホスホン酸(純度:85%、東京化成株式会社製)に50℃で10時間浸漬する以外は実施例2と同様にしてビニルホスホン酸を添加したベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を得た。このときのビニルホスホン酸含有量は重量変化から計算して、高分子膜1の膜重量に対して390重量%であった。このベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様の方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行った。
【0069】
<比較例1>
米国特許第3313783号公報、米国特許第3509108号公報、米国特許第3555389号公報などに記載されている製造方法を参考として、ポリ−2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾールを得た。このポリマー1gをジメチルアセトアミド(DMAC)10gにオイルバス上で溶解し、ホットプレート上ガラス板にキャストし、フィルム状になるまでDMACを留去した。さらに120℃で12時間真空乾燥し、DMACを完全に留去した20μmの厚みの高分子膜5を得た。
【0070】
この高分子膜5に室温にてオルトリン酸に3時間浸漬してオルトリン酸を添加したプロトン伝導性高分子膜を得た。このときのオルトリン酸含有量は重量変化から計算して、高分子膜5の膜重量に対して410重量%であった。得られたプロトン伝導性高分子膜について実施例1と同様な方法によりイオン伝導度の温度依存性および燃料電池発電特性を測定した。
【0071】
表2には、発電初期および500時間経過後における開回路電圧および電流密度0.3A/cm2における出力電圧を示す。また図1には、イオン伝導度の温度依存性を示し、図2には、発電初期の電流−電圧特性を示す。図3には、開回路電圧および電流密度0.3A/cm2における出力電圧の経時変化を示す。
【0072】
<比較例2>
比較例1で得た高分子膜5をビニルホスホン酸に120℃で3時間浸漬したこと以外は実施例2と同様な方法によりビニルホスホン酸を添加しプロトン伝導性高分子膜を得た。このときのビニルホスホン酸含有量は重量変化から計算して、高分子膜5の膜重量あたり390重量%であった。このベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様の方法により、イオン伝導度および燃料電池発電特性測定を行った。150℃におけるイオン伝導度の値および燃料電池について発電初期および500時間後の開回路電圧と電流密度が0.3A/cm2における出力電圧を表2に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
表1には、実施例1〜8のベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜について、表2には比較例1、2についての150℃におけるイオン伝導度およびこのベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を用いて製造した燃料電池について、初期の開回路電圧および500時間後の開回路電圧と、電流密度0.3A/cm2における初期の電池電圧および500時間後の電池電圧を示した。また、表1には、初期の電圧を100%としたときの500時間後の低下率(%)を併せて記載した。表1および表2に示した結果より、初期状態では、各実施例および比較例との間で、回路電圧について大きな差は見られないが、電流密度0.3A/cm2の電圧について若干の差が認められる。さらに、500時間経過後では、明らかに比較例の電圧が実施例に対して劣化していることが判る。
【0076】
図1には、実施例1および比較例1について、イオン伝導度の温度依存性を示す。本発明のベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜は、比較例1のプロトン伝導性高分子膜に比較して酸の含有量が少ないにも関わらずイオン伝導性が同等であることが分かる。
【0077】
図2には、実施例1および比較例1について、測定初期での電流密度と電池電圧との関係を示す。本発明のベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜は、比較例1のプロトン伝導性高分子膜に比例して酸の含浸量が少ないにも関わらず燃料電池特性が同等であることが分かる。
【0078】
図3には、実施例1および比較例1について、開回路電圧(OCV)および電流密度0.3A/cm2での発電時の電池電圧と、燃料電池の運転時間との関係を示す。図3に示すように、比較例1については、運転時間が長時間になるにつれて、どちらの電圧も低下していくことが分かる。一方、実施例については電圧の低下が殆どみられない。
【0079】
以上のように、実施例1ないし実施例8のベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜は、比較例1、2のプロトン伝導性高分子膜に対して、電気特性および耐久性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によるベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜により、高温無加湿条件で運転可能な高分子電解質膜として、優れたプロトン伝導性を示すだけでなく、燃料電池を組み立てる際の加工性に優れるとともに、耐久性においても十分な実用特性を示す新規な高分子電解質膜を得ることができる。これらの特性を活かして、本発明のプロトン伝導性高分子膜は、各種電池電解質、センサ、コンデンサ、電解膜など幅広い用途で利用することができ、産業界の発展、成長に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例1および比較例1について、イオン伝導度の温度依存性を示すグラフである。
【図2】実施例1および比較例1について、測定初期の電流密度と電池電圧との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1および比較例1について、開回路電圧および電流密度0.3A/cm2での発電時の電池特性と、燃料電池の運転時間との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される構造を主成分とするポリベンズイミダゾールからなる高分子膜に酸性分子を含浸させたことを特徴とするポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜。
【化1】

(ただし、Xは−O−、−SO2−、−S−、−CO−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上を示し、Phはオルトフェニレン、メタフェニレン、パラフェニレンから選ばれる1種以上を示す。)
【請求項2】
前記ポリベンズイミダゾールは、下記式(2)および/または(3)で示される構造を主成分とすることを特徴とする、請求項1に記載のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜。
【化2】

(ただし、Xは−O−、−SO2−、−S−、−CO−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上を示し、Phはオルトフェニレン、メタフェニレン、パラフェニレンから選ばれる1種以上を示す。)
【請求項3】
ポリベンズイミダゾールがさらに下記構造で示されるスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有構成要素を含んでいることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜。
【化3】

(ただし、Xは直接結合、−O−、−SO2−、−S−、−CO−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上を示し、Arは芳香族ユニットから選ばれる1種以上を示し、Phはオルトフェニレン、メタフェニレン、パラフェニレンから選ばれる1種以上を示し、Yはスルホン酸基、ホスホン酸基から選ばれる1種以上であり、全てが酸の形態であっても、一部またはその全てがその誘導体の形態であってもよく、nは1〜4の整数を示すものとする。)
【請求項4】
高分子膜の膜重量に対して、酸性分子が10〜1000重量%の範囲内で含有されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜を製造する方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のポリベンズイミダゾールを主成分とする高分子膜を酸性分子液体または酸性分子を含む溶液に浸漬する工程を含むことを特徴とする、ポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜の製造方法。
【請求項6】
酸素極と、
燃料極と、
前記酸素極および前記燃料極に挟持された、請求項1〜4のいずれかに記載のポリベンズイミダゾール系プロトン伝導性高分子膜である固体高分子電解質膜とを備え、
酸化剤流路を形成した酸化剤配流板を酸素極側に設け、燃料流路を形成した燃料配流板を燃料極側に設けたものを単位セルとしたものである燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−339064(P2006−339064A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163962(P2005−163962)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】