説明

ポリマーアクチュエータ素子

【課題】大きな変位および発生力を得ることができるポリマーアクチュエータ素子を提供する。
【解決手段】電解液13が含浸された高分子三次元架橋体11を備える。高分子三次元架橋体11は、電気化学的に可逆な酸化還元を生ずる第1部位Aと、使用する電位範囲で電気的に安定で柔軟な第2部位Bとを含む。電極12A,12Bへの電圧に印加により、高分子三次元架橋体11の第1部位Aに酸化還元反応が生じることにより、高分子三次元架橋体11が変形する。第1部位Aと共に電気的に安定で柔軟な第2部位Bを含むことにより、第1部位の自由度が増し、電極12A,12Bから離れた位置の第1部位Aへの電子の移動、すなわち高分子三次元架橋体11の内部領域側への電子輸送が円滑に行われ、第1部位Aを高効率かつ高速に酸化還元し、大きな変位および発生力を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲルあるいはオルガノゲルタイプのポリマーアクチュエータ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、アクチュエータとして実用化されているのは、電磁モータや圧電素子、油圧駆動シリンダなどであるが、大半が電磁モータである。しかし、モータを利用した駆動機構では、伝達機構・減速機構などが必要であることや、主に金属材料から形成されているために重量が重いなどの理由から、それらを用いた製品を小型化することが困難であった。
【0003】
小型で、軽量な高機能ロボットの実現が目指される中、軽量で柔軟性に富んだ高分子材料によって構成されるポリマーアクチュエータに注目が集まっている。例えば、電圧印加により、イオン交換膜中のイオンが移動してイオン交換膜が屈曲するICPF(Ionic Conductive Polymer Film ;イオン導電性高分子膜)アクチュエータ(例えば、非特許文献1)や、イオンをドープ/脱ドープすることによって体積が変化する導電性高分子アクチュエータ(例えば、非特許文献2)、電極間に電圧を印加することによって変形する高分子圧電素子(例えば、非特許文献3)、などが現在検討されている。しかし、ICPFアクチュエータは、屈曲動作に限定されており、発生力が弱いという問題があった。また、圧電素子は駆動するために非常に大きな電圧を加える必要があり、導電性高分子アクチュエータは変位が小さいなどの問題を有していた。
【0004】
また、ドーパントとしてトリフルオロメタンスルホン酸イオンやフッ素原子を複数含む、アニオンを含む電解液を用いて電解重合によって得られたポリピロールは、電解伸縮によって、1酸化還元サイクル当たり最大で22MPaの力を発生することができる(例えば、特許文献1)など、導電性高分子アクチュエータについての研究は現在もなお数多くなされている。しかしながら、連続したπ共役系高分子である導電性高分子は、その剛直さゆえに、応答速度が遅く、変位が小さいという問題がある。また、最も性能の良いポリピロールの製造法が電解重合のみであるなどの問題は解決されていない。
【0005】
近年、化学あるいは電気化学的刺激に反応して、大きな体積変化を伴うハイドロゲルアクチュエータ(例えば、非特許文献4)が、数多く研究されている。上記のハイドロゲルアクチュエータはラジカル重合による化学架橋形成や、熱処理による物理架橋形成など成形が容易である。さらに、水膨張高分子ゲルを用いる高分子ハイドロゲルアクチュエータは、高分子ハイドロゲルが周囲の温度、イオン強度、pHといった環境に応答して体積が変化することを利用するものである。その変位量は30〜50%と大きく、発生力も0.2〜0.4MPaであり、生体骨格筋に匹敵する性能を発揮する。しかしながら、電子機器に応用する場合には、その変位の制御は電気的に行えることが好ましい。特に、温度反応型の材料を小型ロボットなどに用いる場合には、放熱時の精密な動作制御には問題があった。
【0006】
また、特許文献2に報告されているイオン濃度変化応答性のメカノケミカル材料の駆動方法は、一方の電極で銅イオンを酸化還元して、もう一方の電極で銅イオンの関与しない反応を生じさせることによって溶液中の銅イオンの濃度を変化させ、銅イオンによって相互作用するハイドロゲルが膨張収縮する。この方法では、水の電気分解が生じるよりも小さな電位で銅イオンの酸化還元が行えるため、ガスを発生しないで膨張収縮を繰り返し行えるアクチュエータが得られる。しかしながら、いずれのゲルアクチュエータにおいても、変位は大きいが、導電性高分子アクチュエータの発生力には程遠いものであった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−162035号公報
【特許文献2】特開平1−41673号公報
【非特許文献1】K.Asaka,N.Fujiwara,Electrochemica.Acta、48,p.3465(2003)
【非特許文献2】R.H.Baughman,Synth.Met.,78,p.339(1996)
【非特許文献3】R.Pelrine,R.Kornbluh,Q.Pei,Science,287,p.836(2000)
【非特許文献4】T.Tanaka,D.Fillmore,Phys.Rev.Lett.,45,p.1636(1980)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、大きな変位および発生力を得ることのできるポリマーアクチュエータ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリマーアクチュエータ素子は、電気化学的に可逆な酸化還元を生ずる第1部位と使用する電位範囲で電気的に安定な第2部位とを含み、電圧印加による第1部位の酸化還元により変形可能な高分子三次元架橋体と、この高分子三次元架橋体に含浸された電解液と、上記高分子三次元架橋体に対し所定の電圧を印加するための一対の電極とを備えたものである。
【0010】
本発明のポリマーアクチュエータ素子では、電極間に所定の電圧が印加されると、第1部位に酸化還元反応が生じ、これにより高分子三次元架橋体が湾曲あるいは線形に変形する。ここで、高分子三次元架橋体には第1部位と共に電気的に安定な第2部位が含まれていることから、第1部位の自由度が増しており、その結果第1部位があたかもメディエータ(電子移動媒体)のように振る舞い、高分子三次元架橋体の電極から離れた部位(第1部位)への電子移動が可能となり、大きな変位および発生力が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリマーアクチュエータ素子によれば、高分子三次元架橋体が、電気化学的に可逆な酸化還元を生ずる第1部位と共に、電気的に安定な第2部位を含むようにしたので、高分子三次元架橋体の電極から離れた側の領域まで充分に酸化還元され、大きな変位および発生力を得ることができる。
【0012】
本発明のポリマーアクチュエータ素子では、一対の電極を高分子三次元架橋体上にこの高分子三次元架橋体を挟むように分離配置した構成とすることにより、高分子三次元架橋体は、一方の電極側では膨張状態、他方の電極側では収縮状態となり、大きく湾曲変形する湾曲変形素子となる。
【0013】
更に、本発明のポリマーアクチュエータ素子では、高分子三次元架橋体、一対の電極および電解液を容器に収納し、かつ、高分子三次元架橋体に一方の電極を内包あるいは接触させると共に、高分子三次元架橋体の両端部を容器と接触するように配置し、かつ、他方の電極を、その端部の一方が容器から離間すると共に一方の電極とは電解液を介して対向するように分離配置した構成とすることにより、高分子三次元架橋体の体積変化を線形変位として外部に取り出す線方向変形素子となる。
【0014】
また、本発明のポリマーアクチュエータ素子では、電解液にメディエータ(電子移動媒体)を含めることにより、このメディエータの補助によって、高分子三次元架橋体の酸化還元反応を促進することができ、大きな変位および発生力を得ることができると共に応答速度を速めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1(A)は、本発明の第1の実施の形態に係るポリマーアクチュエータ素子1の断面構成を表すものである。このポリマーアクチュエータ素子1は、湾曲変位素子として構成されたものであり、高分子三次元架橋体11、およびこの高分子三次元架橋体11の両側に互いに分離して対向配置された一対の電極12A,12Bおよび電解液13を備えている。電解液13は高分子三次元架橋体11に含浸されている。なお、電極12A,12B間に例えばポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエンコポリマー、ポリスチレン、ポリプロピレンなどからなるセパレータを設けるようにしてもよい。電極12A,12Bにはそれぞれ外部接続端子14A,14Bが接続され、これら外部接続端子14A,14Bを通じて所定の電圧が印加されるようになっている。
【0017】
高分子三次元架橋体11は、三次元に架橋された高分子材料からなり、例えば表裏一対の主面をもつ膜状の形状を有している。なお、その形状は膜状に限定されるものではなく、その他、短冊形状、円盤形状、棒形状(角柱形状,円柱形状,円筒形状)などとしてもよい。
【0018】
高分子材料は、例えば下記化学構造式に示したように、電気化学的に可逆な酸化還元を生ずる第1部位A、すなわち電気的にイオンの価数が可逆的に変化する成分と、使用する電位範囲で電気的に安定であり、柔軟な第2部位B、すなわちイオンの価数が変化しない成分とが例えば、ランダム共重合体、交互共重合体あるいはブロック共重合体のように共重合したものである。
【0019】
【化1】

【0020】
高分子三次元架橋体11の第1部位Aは、例えば、キノン骨格を有する化合物、Os(オスミウム),Ru(ルテニウム),Fe(鉄),Co(コバルト)のいずれかの金属錯体、ジメチルビピリジニウムなどのビピリジニウム化合物、ニコチンアミド構造を有する化合物、リボフラビン構造を有する化合物およびヌクレオチド−リン酸構造を有する化合物からなり、これらの化合物を三次元に架橋したものである。
【0021】
第2部位Bは、例えば、アルキル、エーテル、カルボニル、エステル、アルデヒド、ケトン、アミドおよびアミンのいずれか1種または複数を含むものである。このような第2部位Bはパイ共役系の連続した導電性高分子に比べて柔軟な構造を有している。これにより、本実施の形態では、酸化還元を生ずる第1部位Aの自由度が増しており、その結果第1部位Aがあたかもメディエータのように振る舞い、高分子三次元架橋体の電極から離れた部位(第1部位)への電子移動が可能となり、大変位が得られると共に高速な応答が可能になる。
【0022】
電極12A,12Bは、電気伝導度が高く、柔軟性に富んだ材料によって構成されている。例えば、Au(金),Pt(白金),カーボンブラック,ケッチェンブラック,カーボンナノチューブ,フラーレン,ポリアセチレン,ポリピロール,ポリチオフェン,ポリ−1,6−ヘプタジイン,ポリ−p−フェニレン,ポリフェニレンビニレンなどが挙げられ、これらを含む混合物であってもよい。
【0023】
電極12A,12Bは例えば膜状に形成されており、例えば高分子三次元架橋体11の長手方向の全長にわたって設けられている。なお、電極12A,12Bは高分子三次元架橋体11の長手方向の一部にのみ配置するようにしてもよいが、大きな変位を得るためには全長に設けることが好ましい。電極12の形状は、フィルム(膜)以外にも、例えば、コイル、粒子、フィラーおよび多孔体などの形状とすることができる。
【0024】
電解液13は、高分子材料が膨潤するのに十分な溶媒と支持塩とを含む混合物、もしくは支持塩のみからなるが、これに限定されるものではない。本実施の形態のポリマーアクチュエータ素子1(図1)のような湾曲変位素子の場合には、溶媒の電位窓(有意義な電気化学測定が可能な電位領域)内でレドックス(酸化還元反応)が生じないものを用いることが好ましい。一方、後述するポリマーアクチュエータ素子2(図2)のような線方向変位素子の場合には、溶媒の電位窓内で可逆なレドックス(酸化還元反応)を生じる塩を選択することが好ましい。
【0025】
電解液13としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル(AN)、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステルなどの非プロトン性有機溶媒、または水、イオン液体と、過塩素酸アンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、キノン骨格を有する化合物、Os(オスミウム),Ru(ルテニウム),Fe(鉄),Co(コバルト)のいずれかの金属錯体、ジメチルビピリジニウムなどのビピリジニウム化合物、ニコチンアミド構造を有する化合物、リボフラビン構造を有する化合物およびヌクレオチド−リン酸構造を有する化合物との混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
次に、上記ポリマーアクチュエータ素子1の作用を説明する。
【0027】
図1(B)は、電極12A,12Bに対して電源Eより所定の電圧を印加し、ポリマーアクチュエータ素子1が湾曲変形した状態を表すものである。
【0028】
正(+)電位が印加された電極12A側では、高分子三次元架橋体11の第1部位Aが酸化され、電解液13との親和性が変化する。すなわち、高分子三次元架橋体の第1部位Aと電解液13の親和性が高まり、高分子三次元架橋体11中へ電解液13が含浸されて膨張する。
【0029】
一方、負(−)電位が印加された電極12B側では、電極12A側とは反対の反応を生じる。すなわち、電極12B側の第1部位Aが還元され、電解液13との親和性が悪化し、高分子三次元架橋体11中から電解液13が流出して収縮する。
【0030】
このように、高分子三次元架橋体11では、電極12A側において膨張し、電極12B側において収縮するので、ポリマーアクチュエータ素子1全体が大きく湾曲変形する。なお、その後、電極12A,12B間を短絡放電させると上記膨張・収縮した部分は元の状態に戻ってポリマーアクチュエータ素子1は元の真っ直ぐな状態となる(図1(A))。また、電極12A側が負、電極12B側が正となるような電圧を印加すると、ポリマーアクチュエータ素子1全体は図1(B)の状態とは逆の方向に大きく湾曲変形する。
【0031】
このように本実施の形態のポリマーアクチュエータ素子1では、大きな変位および発生力を得ることができるが、その理由について更に具体的に説明する。すなわち、電圧印加により高分子三次元架橋体11の第1部位Aを酸化還元するためには、電極12A,12Bと高分子三次元架橋体11との間において電子の受け渡しを行う必要があり、また、この酸化還元を高効率かつ高速に行うためには、電極12A,12Bとの電子の受け渡しに加えて、高分子三次元架橋体11の内部領域での電子輸送を円滑に行う必要がある。
【0032】
ここで、高分子三次元架橋体11の第1部位Aは三次元に架橋され、化学構造が固定された状態となっており、円滑な電子輸送が困難である。円滑に電子輸送して酸化還元を行うには、第1部位Aが全て電極と接しているか、電極近傍に形成される電気二重層内に配置されているか、若しくはその第1部位A自身が電子伝導性を有する必要がある。しかし、それではアクチュエータ素子として適切ではない。
【0033】
これに対して、本実施の形態では、高分子三次元架橋体11に使用する電位範囲で電気的に安定な第2部位Bを含むようにしている。この第2部位Bが柔軟な部分を有しているため、酸化還元可能な第1部位Aの自由度が増し、第1部位Aがあたかもメディエータ(電子移動媒体)のように振る舞う。これにより電極12A,12Bから離れた位置の第1部位Aへの電子の移動、すなわち高分子三次元架橋体11の内部領域側への電子輸送が円滑に行われ、第1部位Aを高効率かつ高速に酸化還元し、大きな変位および発生力を得ることができる。また、高分子三次元架橋体はπ共役系の連続した導電性高分子に比べて柔軟な構造を有するために、アクチュエータ素子として大変位が得られ、しかも高速な応答が可能となる。
【0034】
なお、本実施の形態では、電解液13には溶媒の電位窓(有意義な電気化学測定が可能な電位領域)内でレドックス(酸化還元反応)が生じないものを用いることが好ましい。レドックスが生じない電解液を用いることで、電極12A側での酸化/還元反応と、電極12B側での還元/酸化反応とを一対にして行うことができ、本実施の形態のポリマーアクチュエータ素子1を大きく湾曲変形させることができる。
【0035】
以上、本発明の第1の実施の形態について説明したが、以下、他の実施の形態について説明する。
【0036】
[第2の実施の形態]
図2(A)は第2の実施の形態に係るポリマーアクチュエータ素子2の構成を表すものである。このポリマーアクチュエータ素子2は線方向変位素子として構成したものであり、棒状の高分子三次元架橋体21および棒状の電極22A,22Bを容器25に収納させたものである。高分子三次元架橋体21には電解液23が含浸されている。
【0037】
高分子三次元架橋体21は、第1の実施の形態の高分子三次元架橋体11と同様の高分子材料からなり、その形状は長さのある立体形状である。高分子三次元架橋体21の上下の端部はそれぞれ容器25と接しており、この高分子三次元架橋体21の体積変化を変位として容器25およびその外部へ伝えられるようになっている。
【0038】
電極22A,22Bは、第1の実施の形態の電極12A,12Bと同じ材料により構成することができるが、その長手方向が高分子三次元架橋体21の長手方向と同じ方向となるように揃えられており、一方の電極22Aは高分子三次元架橋体21と同じ長さを有している。電極22Aは、高分子三次元架橋体21に内包あるいは接触して配置されている。他方の電極22Bは、高分子三次元架橋体21を挟んで一方の電極22Aと対向すると共に、高分子三次元架橋体21からは電解液23を介して離間して配置されている。電極22A,22Bにはそれぞれ外部接続端子24A,24Bが接続され、これら外部接続端子24A,24Bを通じて所定の電圧が印加されるようになっている。
【0039】
ここで、電極22Aは、高分子三次元架橋体21の膨張収縮ともに伸縮可能な柔軟な導電性材料からなる。一方、電極22Bについては、その両末端が容器25に接続されていない構造の場合、もしくは、電極22Bの末端が容器25に接続されていても、この電極22Bが分割されているなど電極の弾性がポリマーアクチュエータ素子2の駆動を妨げない場合には、電極22Bを構成する導電性材料は柔軟性を有するものに限定されない。
【0040】
電解液23は、少なくともアクチュエータ素子2の最大膨張時に高分子三次元架橋体21中に保持される量が容器25に収納されている。従って、容器25内では、高分子三次元架橋体21および電極22A,22Bが電解液23に浸漬された状態となっている。なお、容器25を柔軟なものとし、高分子三次元架橋体21等を密閉して電解液23を保持することが好ましいが、多孔質体などの電解液23を保持する層を備えるような構成としてもよい。
【0041】
なお、本実施の形態では、第1の実施の形態の湾曲変形素子とは異なり、線方向変位素子であるので、電解液23としては、溶媒の電位窓内で可逆なレドックスを生じる塩を選択することが好ましい。例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル(AN)、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステルなどの非プロトン性有機溶媒、または水、イオン液体と、過塩素酸アンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、キノン骨格を有する化合物、Os(オスミウム),Ru(ルテニウム),Fe(鉄),Co(コバルト)のいずれかの金属錯体、ジメチルビピリジニウムなどのビピリジニウム化合物、ニコチンアミド構造を有する化合物、リボフラビン構造を有する化合物およびヌクレオチド−リン酸構造を有する化合物との混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
次に、図2(B),(C)を参照して、ポリマーアクチュエータ素子2の作用を説明する。
【0043】
図2(B)は、電極22A,22Bに対して電源Eより所定の電圧を印加し、ポリマーアクチュエータ素子2が長手方向に伸びた状態を表すものである。正(+)電位が印加された電極22A側では、高分子三次元架橋体21が電極22Aに接触していることから、高分子三次元架橋体21の第1部位Aが酸化されて高分子三次元架橋体21の大部分若しくは全てが酸化状態となり、長手方向に膨張することとなる。一方、負(−)が印加された電極22B側では、電解液23中に含まれる電解質と、高分子材料における酸化還元体の対イオンとのいずれか、もしくはその両方が還元される反応が起こる。以上の反応により、高分子三次元架橋体21が容器25を長手方向に押し出す方向に膨張することから容器25が長手方向に伸びるように線方向に変位、すなわち、ポリマーアクチュエータ素子2が伸びる。
【0044】
次に、図2(C)に示したように、電極22Aに負(−)の電位、電極22Bに正(+)の電位が印加されると、ポリマーアクチュエータ素子2は収縮する。すなわち、図2(B)の場合と逆に、負電位が印加された電極22A側では、高分子三次元架橋体21が電極22Aに接触していることから、高分子三次元架橋体21の第1部位Aが還元されて高分子三次元架橋体21の大部分若しくは全てが還元状態となり、収縮することとなる。一方、正電位が印加された電極22B側では、電解液23中に含まれる電解質と、高分子材料における酸化還元体の対イオンとのいずれか、もしくはその両方が酸化される反応が起こる。以上の反応により、高分子三次元架橋体21が容器25を引っ張る方向に収縮することから、容器25が縮むように線方向に変位、すなわちポリマーアクチュエータ素子2が収縮する。
【0045】
以上のように、本実施の形態では、電極22A側において高分子材料の第1部位Aを酸化/還元するときに、電極22B側では電解液23中に含まれる電解質と高分子材料における酸化還元体の対イオンとのいずれか、もしくはその両方が還元/酸化されるような駆動方式としたので、高分子三次元架橋体21の大部分若しくは全てが還元/酸化状態となるために、大変位可能な線方向変位素子を得ることができる。
【0046】
[第3の実施の形態]
次に、図3(A)〜(C)を参照して、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は第2実施の形態のポリマーアクチュエータ素子2の応答速度をより速くしたものであり、第2の実施の形態と同一構成部分については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0047】
図3(A)は第3の実施の形態に係るポリマーアクチュエータ素子3の構成を表すものである。このポリマーアクチュエータ素子3は線方向変位素子であり、棒状の高分子三次元架橋体21A,21Bおよび棒状の電極22A,22Bを容器25に収納したものである。本実施の形態では、第2の実施の形態における高分子三次元架橋体21を2分割し、一方の高分子三次元架橋体21Aに電極22A、他方の高分子三次元架橋体21Bに電極22Bをそれぞれ設けたものである。
【0048】
一方の高分子三次元架橋体21Aは発生力や変位を外部に取り出せるよう、その両端部が素子外部と接続されているが、他方の高分子三次元架橋体21Bは少なくとも片方の端部が素子外部と接続されておらず、自由端となっている。電極22A,22Bにはそれぞれ外部接続端子24A,24Bが接続され、これら外部接続端子24A,24Bを通じて所定の電圧が印加されるようになっている。
【0049】
本実施の形態に用いる電解液33は、第2の実施の形態の電解液22と同様に高分子を膨潤するに十分な溶媒や支持塩を含むものであるが、それに加えてメディエータ(電子移動媒体)を含んでいる。ここでのメディエータは、電子を拡散させるものであり、電極22Aまたは電極22Bから高分子三次元架橋体21への電子輸送あるいは高分子三次元架橋体21A,21B内での電子輸送を補助するものである。メディエータとしては、例えば、キノン骨格を有する化合物、Os,Ru,Fe,Coのいずれかの金属錯体、ジメチルビピリジニウムなどのビピリジニウム化合物、ニコチンアミド構造を有する化合物、リボフラビン構造を有する化合物およびヌクレオチド−リン酸構造を有する化合物を含むものである。このメディエータは、第1部位Aを構成する化合物と同様の化合物により構成されているが、三次元架橋しないことで、柔軟な構造を有し、良好な電子移動を可能としている。
【0050】
また、電解液33には、メディエータを酸化還元する酸化体および還元体が含めるようにしてもよい。酸化体および還元体を含むことにより、一方の電極における酸化/還元反応と、他方の電極における還元/酸化反応との異なる逆の反応を、ともにメディエータの補助を受けた状態で生じさせることができる。酸化体としては、二価のビオロゲン、一価のビオロゲン、ベンゾキノンが挙げられ、還元体としては、一価のビオロゲン、0価のビオロゲン(ビピリジル)、ヒドロキノンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
次に、図3(B),(C)を参照して、ポリマーアクチュエータ素子3の作用を説明する。
【0052】
図3(B)は、電極22A,22Bに対して電源Eより所定の電圧を印加し、ポリマーアクチュエータ素子3が長手方向に伸びた状態を表すものである。正(+)の電圧が印加された電極22A側では、メディエータおよび高分子三次元架橋体21Aの一部(電極22A付近)が酸化される。酸化されて酸化体となったメディエータが拡散することから、高分子三次元架橋体21Aの酸化されていない部分(電極22Aから離れた部分)が速やかに酸化され、高分子三次元架橋体21Aが長手方向へ、速やかに膨張する。一方、負(−)電位が印加された電極22B側では、メディエータおよび高分子三次元架橋体21Bの一部(電極22B付近)が還元される。還元されたメディエータが還元体となり拡散することから、高分子三次元架橋体21Bの還元されていない部分(電極22Bから離れた部分)が速やかに還元され、高分子三次元架橋体21Bが長手方向へ速やかに収縮する。以上の反応により、メディエータの補助を受け高分子三次元架橋体21Aが容器25を長手方向に押し出す方向に膨張することから容器25が長手方向に伸びるように線方向に変位、すなわち、ポリマーアクチュエータ素子3が速やかに伸びる。なお、負電位が印加された電極22B側の高分子三次元架橋体21Bは片方の端部が自由端となっていることから、容器25の変位には寄与せず、ポリマーアクチュエータ素子3にも影響しない。
【0053】
次に、図3(C)に示したように、電極22Aに負(−)の電位、電極22Bに正(+)の電位が印加されると、第2の実施の形態のポリマーアクチュエータ素子2と同様に、本実施の形態のポリマーアクチュエータ素子3は収縮するが、その反応速度は高速化する。すなわち、図3(B)の場合と逆に、負電位が印加された電極22A側では、メディエータおよび高分子三次元架橋体21Aの一部(電極22A付近)が還元される。還元されて還元体となったメディエータが拡散することから、高分子三次元架橋体21Aの還元されていない部分(電極22Aから離れた部分)が速やかに還元され、高分子三次元架橋体31Aが速やかに収縮する。一方、正(+)電位が印加された電極22B側では、メディエータおよび高分子三次元架橋体21Bの一部(電極22B付近)が酸化される。酸化されたメディエータが酸化体となり拡散することから、高分子三次元架橋体21Bの酸化されていない部分(電極22Bから離れた部分)が速やかに酸化され、高分子三次元架橋体21Bが長手方向へ速やかに膨張する。以上の反応により、メディエータの補助を受け高分子三次元架橋体21Aが容器25を引っ張る方向に収縮することから、容器25が縮むように線方向に変位、すなわちポリマーアクチュエータ3が速やかに収縮する。なお、図3(B)の場合と同様に、正電位が印加された電極22B側の高分子三次元架橋体21Bは片方の端部が自由端となっていることから、容器25の変位、すなわちポリマーアクチュエータ素子3の変位には影響しない。
【0054】
以上のように、本実施の形態では、電解液33にメディエータを含むようにしたので、電極22A側において高分子三次元架橋体21Aの第1部位Aを酸化/還元するときに、電極22Aとの接触面から酸化/還元すると共に、メディエータを介した電子輸送により電極22Aから離れた部分からも同時に酸化/還元することができるようになるため、大きな変位を得ることができると共に、応答速度を第2の実施の形態よりも高速にすることができる。
【0055】
本実施の形態では、線方向変位素子にメディエータを添加する例について説明したが、第1の実施の形態において説明したポリマーアクチュエータ素子1(湾曲変位素子)にも適用可能である。なお、湾曲変位素子へ応用するときには、電解液中に前述の酸化/還元する酸化体および還元体を含める必要がある。湾曲変位素子では、電極間において酸化反応や還元反応といった異なる逆の反応を同時に生じさせるためである。
【0056】
以下、具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
本実施例は、上記第2の実施の形態に相当するものである。
(1)高分子三次元架橋体の作製
上記構造式(化1)で表される高分子材料の前駆体0.264gと、水1.5mlと、過硫酸アンモニウム9.0mgと、ポリビニルアルコール1.11gとを混同して作製した水溶液を、直径300μmのスペーサと共に二枚のガラス板間に挟んで60℃のオーブン中で12時間加熱し、化学構造として、電気化学的に可逆な酸化還元が可能である第1部位Aと、使用する電位範囲で電気的に安定な第2部位Bとを含む膜状の高分子三次元架橋体を得た。高分子三次元架橋体はこのように簡便なラジカル重合によって成形可能である。
【0058】
(2)電極の作製
直径が0.6μmの金粉末1gと、ポリビニルアルコール0.02gと、水0.2gと、37%ホルムアルデヒド水溶液0.03mlと、5基底の塩酸0.01mlとを混合した溶液を、直径50μmのスペーサと共に二枚のガラス板間に挟んで60℃,120分間加熱して、金粉末を含有する多孔質の電極を得た。
【0059】
(3)素子サンプルの作製
得られた二枚の高分子三次元架橋体と一枚の電極とを、水0.2gと37%ホルムアルデヒド水溶液0.03mlと5基底の塩酸0.01mlとを混合した溶液に浸漬し、その後に二枚の高分子三次元架橋体の間に一枚の電極を挟んだ状態で60℃,120分間加熱することにより、高分子三次元架橋体/電極/高分子三次元架橋体の単層単極素子を作製した。この素子の長さは7.5mmであった。
【0060】
この素子サンプル、白金ワイヤからなる対極と、Ag/AgCl参照極とを0.1M硫酸ナトリウム水溶液に浸漬して別途準備した。次いで、この素子サンプルに7.41MPaの荷重を取り付けて、−1.0V(vs.Ag/AgCl)の電位を300秒間、つぎに+0.8V(vs.Ag/AgCl)の電位を300秒間印加した。−1.0V(vs.Ag/AgCl)の電位を印加した場合、ビピリジニウムが還元されて第1部位Aの極性が減少した。その結果、素子サンプルの高分子三次元架橋体1は、水との親和性がより悪化して収縮した。一方、+0.8V(vs.Ag/AgCl)の電位を印加した場合、ビピリジニウムが酸化されて第1部位Aの極性が上昇した。その結果、素子サンプルの高分子三次元架橋体1は、水との親和性がより良好となり膨張した。このときの素子サンプルの長さを測定したところ、電位印加前の長さ(L1)と電位印加後の長さ(L2)から、{(L1)−(L2)}/(L1)×100で表される素子の変位は4%であった。
【0061】
(実施例2)
本実施例は、上記第3の実施の形態に相当するものである。
【0062】
上記実施例1と同様の高分子三次元架橋体および電極を水0.2g、37%ホルムアルデヒド水溶液0.03mlと5基底の塩酸0.01mlを混合した溶液に浸漬した後に、二枚の三次元架橋体の間に金粉末含有多孔質電極を挟んだ状態で60℃、120分間加熱することにより、高分子三次元架橋体/電極/高分子三次元架橋体の単層単極素子を作製した。この素子の長さは7.5mmであった。
【0063】
単層単極素子と白金ワイヤからなる対極とAg/AgCl参照極を0.1Mジメチルビピリジニウム水溶液に浸漬して準備した。この素子に13.4MPaの荷重を取り付けて、−1.0V(vs.Ag/AgCl)の電位を30秒間、+0.8V(vs.Ag/AgCl)の電位を30秒間印加した。その結果、図4中の破線に示したように、素子は、−1.0V(vs.Ag/AgCl)でビピリジニウムが還元されて極性が減少する。そのために水との親和性がより悪化して収縮した。一方、+0.8V(vs.Ag/AgCl)の電位を印加した場合、ビピリジニウムが酸化されて極性が増大した。そのために水との親和性がより良好となり膨張した。電位印加前の長さ(L1)と電圧印加後の長さ( L2) から、{(L1 )−(L2)}/(L1)×100で表される素子の変位は4.2%であった。
【0064】
(実施例3)
本実施例は上記第2の実施の形態に相当するものである。上記実施例2と同様の単層単極素子と白金ワイヤからなる対極とAg/AgCl参照極を0.1M硫酸ナトリウム水溶液に浸漬して準備した。この素子に13.4MPaの荷重を取り付けて、−1.0V(vs.Ag/AgCl)の電位を300秒間、+0.8V(vs.Ag/AgCl)の電位を300秒間印加した。その結果、図4中実線に示したように、素子は、−1.0V(vs.Ag/AgCl)でビピリジニウムが還元されて極性が減少する。そのために水との親和性がより悪化して収縮した。一方、+0.8V(vs.Ag/AgCl)の電位を印加した場合、ビピリジニウムが酸化されて極性が増大した。そのために水との親和性がより良好となり膨張した。電位印加前の長さ(L1)と電圧印加後の長さ( L2) から、{(L1 )−(L2)}/(L1)×100で表される素子の変位は3.5%であった。
【0065】
(実施例4)
本実施例は上記第3の実施の形態を湾曲素子に適用した例に相当するものである。実施例1と同様の高分子三次元架橋体および電極を水0.2g、37%ホルムアルデヒド水溶液0.03mlと5基底の塩酸0.01mlを混合した溶液に浸漬した後に二枚の金粉末含有多孔質電極の間に三次元架橋体を挟んだ状態で60℃、120分間加熱することにより電極/高分子三次元架橋体/電極の湾曲素子を作製した。この素子の長さは7.5mmであった。
【0066】
上記湾曲素子を0.05Mジメチルビピリジニウムジクロリド+0.05Mジメチルビピリジニウムクロリド水溶液に浸漬した。この素子の二枚の電極にそれぞれ端子を取り付けて、その電極間に電圧を印加した。電圧印加条件は、−2.0V(vs.Ag/AgCl)の電圧を30秒間、2.0V(vs.Ag/AgCl)の電圧を30秒間印加した。その結果、電位印加前の長さ(L1)と電圧印加後の長さ( L2) から、(L2)−(L1)で表される素子の変位は、図5中に実線に示したように、30秒間で約2.5mmであった。
【0067】
(実施例5)
本実施例は上記第1の実施の形態に相当するものである。上記実施例4と同様の湾曲素子を0.1Mジメチルビピリジニウムジクロリド水溶液に浸漬した。この素子の二枚の電極にそれぞれ端子を取り付けて、その電極間に電圧を印加した。電圧印加条件は、−2.0V(vs.Ag/AgCl)の電圧を30秒間、2.0V(vs.Ag/AgCl)の電圧を30秒間印加した。その結果、電位印加前の長さ(L1)と電圧印加後の長さ( L2) から、(L2)−(L1)で表される素子の変位は、図5中に一点鎖線に示したように、30秒間で約0.1mmであった。
【0068】
上記実施例1〜5に示したように、第1〜3の実施の形態のポリマーアクチュエータ素子では、大きな変位および発生力が得られることが分かった。特に、第3の実施の形態では、電解液にメディエータを含むようにしたので、より高速に駆動可能なポリマーアクチュエータ素子が得られることが分かった。また、第3の実施の形態を湾曲素子に適用したポリマーアクチュエータ素子では、電解液に酸化体および還元体を含めるようにしたので大変位かつ高速に湾曲可能であることが分かった。
【0069】
以上、複数の実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、高分子三次元架橋体は、長さを有し、少なくとも一対の電極を対向した状態でその長手方向に設けられる面を有する立体であればよく、また、一対の電極は、それぞれ複数の電極からなる電極対として構成してもよい。図6〜図8はその具体例を表すものである。
【0070】
図6に示したポリマーアクチュエータ素子4は、四角柱形状の高分子三次元架橋体41の長手方向の主面の対向する面それぞれに帯状の電極42A,42Bを設けたものである。このポリマーアクチュエータ素子4では、一次元的のみならず、二次元的な方向制御が可能になる。
【0071】
図7に示したポリマーアクチュエータ素子5は、円柱形状の高分子三次元架橋体51の円周面上に、帯状の電極52A,52Bと、帯状の電極52C,52Dとをそれぞれ電極対として高分子三次元架橋体51を挟んで対向する位置に設けたものである。このポリマーアクチュエータ素子5では、複数軸方向への湾曲変形が可能になる。
【0072】
また、図8に示したポリマーアクチュエータ素子6は、円柱形状の高分子三次元架橋体61の円周面上に、帯状の電極62A,62Bを高分子三次元架橋体61を挟んで対向する位置関係となるように螺旋状に設けたものである。このポリマーアクチュエータ素子6では、素子全体を湾曲変形させることができるが、加えて、長手方向を中心軸としたねじれ変形を賦与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るポリマーアクチュエータ素子の断面図である。
【図2】第2の実施の形態に係るポリマーアクチュエータ素子の断面図である。
【図3】第3の実施の形態に係るポリマーアクチュエータ素子の断面図である。
【図4】実施例2,3での変位量変化を表す図である。
【図5】実施例4,5での変位量変化を表す図である。
【図6】本発明の変形例を説明するための断面図である
【図7】他の変形例を説明するための断面図である
【図8】更に他の変形例を説明するための断面図である
【符号の説明】
【0074】
1,2,3…ポリマーアクチュエータ素子、11,21,21A,21B…高分子三次元架橋体、12A,12B、22A,22B…電極、13,23,33…電解液、14A,14B,24A,24B…外部接続端子、25…容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的に可逆な酸化還元を生ずる第1部位と使用する電位範囲で電気的に安定な第2部位とを含み、電圧印加による前記第1部位の酸化還元により変形可能な高分子三次元架橋体と、
前記高分子三次元架橋体に含浸された電解液と、
前記高分子三次元架橋体に対し所定の電圧を印加するための一対の電極と
を備えたことを特徴とするポリマーアクチュエータ素子。
【請求項2】
前記高分子三次元架橋体は、前記第1部位と第2部位とを共重合してなる、ランダム共重合体、交互共重合体およびブロック共重合体のいずれかにより構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のポリマーアクチュエータ素子。
【請求項3】
前記第1部位は、キノン骨格を有する化合物、オスミウム(Os),ルテニウム(Ru),鉄(Fe),コバルト(Co)のいずれかの金属錯体、ビピリジニウム化合物、ニコチンアミド構造を有する化合物、リボフラビン構造を有する化合物、ヌクレオチド−リン酸構造を有する化合物のいずれかを含む
ことを特徴とする請求項2に記載のポリマーアクチュエータ素子。
【請求項4】
前記第2部位は、アルキル、エーテル、カルボニル、エステル、アルデヒド、ケトン、アミド、アミンのいずれかの成分を含む
ことを特徴とする請求項2に記載のポリマーアクチュエータ素子。
【請求項5】
前記一対の電極は、前記高分子三次元架橋体を挟むようにこの高分子三次元架橋体上に形成されており、
電圧印加により前記高分子三次元架橋体が湾曲変形する
ことを特徴とする請求項1に記載のポリマーアクチュエータ素子。
【請求項6】
前記高分子三次元架橋体、一対の電極および電解液は膨張収縮可能な容器に収納されており、かつ、前記高分子三次元架橋体には一方の電極が内包あるいは接触すると共に、前記高分子三次元架橋体の両端部が前記容器と接触するように配置され、他方の電極は、その端部の一方が前記容器から離間すると共に、前記一方の電極とは前記電解液を介して対向するように分離配置されており、
電圧印加により前記高分子三次元架橋体が線方向に変位する
ことを特徴とする請求項1に記載のポリマーアクチュエータ素子。
【請求項7】
前記電解液は、メディエータを含む
ことを特徴とする請求項1に記載のポリマーアクチュエータ素子。
【請求項8】
前記メディエータは、キノン骨格を有する化合物、Os,Ru,Fe,Coのいずれかの金属錯体、ビピリジニウム化合物、ニコチンアミド構造を有する化合物、リボフラビン構造を有する化合物、ヌクレオチド−リン酸構造を有する化合物のいずれかを含む
ことを特徴とする請求項7に記載のポリマーアクチュエータ素子。
【請求項9】
前記電解液は、前記メディエータを酸化還元する酸化体および還元体を共に含む
ことを特徴とする請求項8に記載のポリマーアクチュエータ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−46649(P2009−46649A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272245(P2007−272245)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】