ポリマーコーティングに含まれる移行性物質の量を減少させる方法
本発明は、表面上に架橋ポリマーコーティングを取得する改良された方法に関する。本発明はまた、その方法により取得可能なコーティングおよびそれで被覆された物品に関する。本発明はまた、コーティングを含む医療器具、特定的には、改良された滑沢コーティングで被覆されたコイルに関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、表面上に架橋ポリマーコーティングを取得する改良された方法に関する。本発明はまた、その方法により取得可能なコーティングおよびそれで被覆された物品に関する。本発明はまた、コーティングを含む医療器具、特定的には、改良された滑沢コーティングで被覆されたコイルに関する。
【0002】
コーティングを適用することにより表面に特定の機能特性を付与しようとする継続的な試みがなされてきた。たとえば、親水性コーティングを適用することにより疎水性表面を親水性にすることが可能である。その最も単純な形態では、親水性コーティングは、所望の親水性を提供する親水性ポリマーのような分子の層よりなる。繰り返し起こる問題は、表面に加えられた機械力または他の研磨力に耐えるのに十分な程度にそのような単一ポリマーコーティングが表面に接着しないことである。コーティングをより良好に表面に接着させる一般的な方法は、表面に共有結合されうる化学反応性基をポリマーに付加することである。しかしながら、ポリマーは、その方法で表面に架橋させた場合、その機能特性を失うことがしばしば見受けられる。また、この方法では、依然として、特定の高負荷用途で十分良好に表面に接着されないコーティングを生じる。
【0003】
より良好な結果は、表面への必要な接着を提供する第2の支持ポリマーの網状構造中に機能性ポリマーを物理的に閉じ込めることにより達成された。その方法では、機能性ポリマーの機能特性は、ほぼ良好に保持される。こうしたコーティングは、多くの場合、相互侵入網状構造またはIPNと呼ばれる。したがって、IPNは、コーティングに所望の特性を提供する第1の機能性ポリマーと、ポリマーの網状構造を形成するために化学的に架橋された支持ポリマーと、よりなる。機能性ポリマーを表面に共有結合させるのではなく網状構造中に物理的に閉じ込めることの固有の欠点は、機能性ポリマーがIPNからコーティングの環境中に移行する可能性があることである。
【0004】
本明細書中で使用される「移行性物質」という用語は、当技術分野で理解されているように、特定の状況下で特定のマトリックスから漏出する分子を意味するものとする。この用語は、当技術分野で同様に頻繁に使用される「被抽出性物質」または「被抽出性成分」と同義である。
【0005】
コーティングが液体に接触する特定の用途では、移行性物質の量を最小限に抑えたいという要望が存在する。たとえば、分離用の膜および食品接触用のフィルムに使用されるコーティングは、最小量の移行性物質を含有するものでなければならない。身体または体液に密に接触する医療器具(たとえば、コンタクトレンズ、ガイドワイヤ、およびカテーテル)をはじめとする医療用途の場合のように影響を受けやすい用途にコーティングが適用される場合、移行性物質の量を最小限に抑えたいという要望は、とくに切実なものとなる。1つ以上の成分がコーティングから失われると、コーティングの組成や機能特性が変化したりすぐ周りのホスト環境が汚染されたりする可能性がある。さらに、移行性成分は、コーティングの環境(たとえば、食品、人体、または体液)中に放出された場合、害を及ぼす可能性がある。
【0006】
IPNコーティングからのポリマーの移行を最小限に抑えるべくいくつかの方法が報告されている。提案された一解決策は、支持ポリマーの架橋密度を増大させることにより、より小さい網目を有する網状構造を形成することである。しかしながら、支持ポリマーの架橋密度を増大させると、脆性コーティングを生じたりかつ/または他の機械的要件が損なわれたりする可能性がある。
【0007】
他の提案された解決策(米国特許第4642267号明細書および米国特許第5700559号明細書)は、ファンデルワールス相互作用、水素結合相互作用、または静電相互作用を介して架橋支持ポリマーと非架橋機能性ポリマーとの分子相互作用を増大させることである。しかしながら、これらの方法では、とくに、反復される機械的摂動、劇的な温度変化、溶媒、電解質、ポリマー−ポリマー相互作用を妨害する溶液、またはIPNの劇的な膨潤を引き起こす状況にコーティングが付される場合、移行性物質の量の十分な減少は得られない(レジェ(Leger)ら著,「高分子(Micromolecules)」,1995年,第28巻,143頁、J.E マーク(J.E Mark)ら著,「高分子科学誌高分子物理編(J.Polym.Sci.Polym.Phys.Ed.)」(1983年),第21巻,1971頁)。
【0008】
機能性ポリマーを網状構造中により良好に閉じ込める他の解決策(米国特許第6224893号明細書)は、機能性ポリマー間に架橋を導入することである。その方法では、互いに化学的に結合されない2つのインターカレート性網状構造(一方は支持ポリマーよりなり、他方は機能性ポリマーよりなる)が形成される。そのような網状構造は、多くの場合、全相互侵入網状構造または全IPNと呼ばれる。そのような全IPNの作製に関係する化学的手順は、多くの場合、複雑で厄介なものであり、機能性ポリマーへの架橋性基の付加を含む。全IPNは、少量の移行性物質を有する優れたコーティングを提供しうるが、成分の重合速度の差異または2つの網状構造間の不適切な適合性により生じる相分離が原因で達成が困難である。これに関連する適合性とは、所望の機能を達成する2つのポリマーの能力を意味する。
【0009】
支持ポリマーと親水性ポリマーとよりなる滑沢コーティングから機能性ポリマーが移行するのを防止するさらに他の解決策は、米国特許第6238799号明細書に提供されている。この点に関して、支持ポリマーの網状構造中に反応導入される反応性基を機能性ポリマーに結合することが提案されている。そのような共有結合固定は、反応性モノマーを用いて重合された機能性ポリマー、たとえば、PVP/RCOOH、PVPアンヒドリドもしくはPVOHアンヒドリド、またはPVPアセトアミドと好適に併用されうると述べられている。その方法では、機能性ポリマーが支持ポリマーに化学的に架橋されて網状構造を形成したコーティングが得られる。しかしながら、この手順では、従来の化学反応を介して反応性基を機能性ポリマーに結合しなければならない。さらに、機能性ポリマーの可動性が制限されることにより、コーティングの機能特性が悪影響を受けると述べられている。
【0010】
さらに他の解決策は、WO99/64086に提案されており、この場合には、ベンゾフェノン(ノリッシュII型光開始剤)を用いて化学的に官能基化された支持ポリマー(ポリジメチルシロキサン)で鋼ステントが被覆される。支持ポリマーを乾燥させた後、次に、水素引抜きを介して機能性ポリマー(PVP)が網状構造にUV架橋される。この方法では、コーティング手順のコストおよび複雑さを増大させる二重コーティング工程が必要とされる。
【0011】
ノリッシュII型水素引抜き反応による光化学的表面改質は、米国特許第5,002,583号明細書で利用された。この方法では、表面上にグラフト化する前に親水性ポリマーおよびバイオポリマーをノリッシュII型発色団(典型的にはジアリールケトン)で修飾する追加の合成工程が必要とされる。
【0012】
依然として、以上で述べた解決策では、人体の場合のように移行性物質が少量であることが望まれる用途でコーティングを使用できるように所望の取扱いの容易さと移行性物質の量の十分な減少とを両立させることができないことが多いという意味で、完全に満足すべき結果は得られない。
【0013】
驚くべきことに、このたび、水素引抜き反応を介して支持ポリマーと機能性ポリマーとのポリマー架橋を引き起こすべくノリッシュI型光開始剤を使用することにより、溶媒中で支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの網状構造への機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーのとくに良好なグラフト化を達成しうることを見いだした。言い換えれば、本発明は、水素引抜き機構を介してポリマー架橋を引き起こすためのノリッシュ1型光開始剤の使用に関する。
【0014】
そのようなことは、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの架橋間の溶媒を蒸発させることにより達成可能である。この方法は、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーへの反応性基の個別の付加もノリッシュII型光開始剤による表面の事前含浸も必要としないという長所を有する。それにもかかわらず、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、支持網状構造に共有結合された状態になる。
【0015】
したがって、本発明は、
・ 支持ポリマー網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーと
・ 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーと
・ ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤と
を含むコーティング組成物が使用される方法に関する。
【0016】
一態様において、本発明は、
− 表面を提供する工程と
− 網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを提供する工程と
− 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーを提供する工程と
− ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤を提供する工程と
− コーティング組成物を得るために、前記少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを、好適な溶媒と共に、前記少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーおよび前記少なくとも1種の光開始剤と、混合する工程と
− 前記コーティング組成物を前記表面に適用する工程と
− 前記少なくとも1種の支持モノマー、支持ポリマー、または支持オリゴマーの架橋を引き起こすのに好適なエネルギー源を前記表面上のコーティング組成物に照射する工程と
− 前記溶媒を蒸発させる工程と
− 前記表面上のコーティング組成物に前記エネルギー源を少なくとももう1回照射する工程と
を含む方法を提供する。
【0017】
他の態様において、本発明は、
− 表面を提供する工程と
− 網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを提供する工程と
− 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーを提供する工程と
− ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤を提供する工程と
− コーティング組成物を得るために、前記少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを、好適な溶媒と共に、前記少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーおよび前記少なくとも1種の光開始剤と、混合する工程と
− 前記コーティング組成物を前記表面に適用する工程と
− 前記少なくとも1種の支持モノマー、支持ポリマー、または支持オリゴマーの架橋を引き起こすのに好適なエネルギー源を前記表面上のコーティング組成物に照射する工程と
を含む方法を提供する。ただし、前記支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの重合を開始して網状構造が形成するために、かつ前記支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーに結合された前記光開始剤を介して水素引抜き反応により前記機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーとの追加の架橋を生成するために、前記光開始剤が使用される。
【0018】
本発明で使用するのに好適な表面は、多孔性、疎水性、親水性、着色性、強度、可撓性、浸透性、伸び、耐摩耗性、および耐引裂性のような所望の特性を提供する表面である。好適な表面の例は、たとえば、金属、プラスチック、およびセラミックスよりなる表面である。本発明で表面として使用するのにとくに適した物品としては、カテーテル、ガイドワイヤ、ステント、金属およびプラスチックのインプラント、コンタクトレンズ、ならびに医療用チューブが挙げられる。
【0019】
本発明で使用するのに好適な支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、架橋反応を起こしうる複数の官能性部分を含み、前記支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、水性媒体のような媒体中に溶解可能またはで乳化可能である。官能性部分で架橋された場合、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、三次元網状構造を形成しうる。支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの官能性部分は、アミノ、アミド、スルフヒドリル(SH)、不飽和エステル、不飽和エーテル、および不飽和アミド、アルキド/乾性樹脂のようなラジカル反応性基よりなる群から選択されうる。好ましい実施形態では、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、ポリエーテル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリエチレンとポリプロピレンとの二官能性コポリマー、ポリビニルクロリド、エポキシド、ポリアミド、ポリエステル(たとえばポリオルトエステル)、およびアルキドコポリマーよりなる群から選択可能である。より特定的には、好適な支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリペプチド、ポリアクリル、またはポリサッカリド(たとえばセルロースおよびデンプン)よりなる群から選択される。特定的には、不飽和エステル、不飽和アミド、または不飽和エーテル、チオール基すなわちメルカプタン基を有する支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、本発明で好適に使用可能である。
【0020】
支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、コーティング組成物の0%超、好ましくは1%超、たとえば2%で使用しなければならない。しかしながら、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、コーティング組成物中に90%まで存在可能であり、より多くの場合、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、50、60、70、または80%まで使用されるであろう。コーティング溶液中の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの含有率の典型的な範囲は、1〜20%である。
【0021】
本明細書中で使用する場合、モノマーという用語は、約1000Da未満の分子量を有する分子を意味し、オリゴマーという用語は、約1000〜約10,000Daの分子量を有する分子に対して使用され、一方、ポリマーという用語は、約10,000Da以上の分子量を有する分子を意味する。
【0022】
本発明の一実施形態では、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、約500〜約100,000の範囲内の分子量を有し、好ましくは、約1,000〜約10,000の範囲内の分子量を有するオリゴマーである。とくに良好な結果は、約2,000〜約6,000の範囲内の支持オリゴマーを用いて得られた。1分子の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーあたりの反応性基の数は、好ましくは約1.2〜約64の範囲内、より好ましくは約1.2〜約16の範囲内、最も好ましくは、約1.2〜約8の範囲内である。
【0023】
機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、たとえば、滑沢性、親水性、疎水性、画像形成性、または薬剤溶出能(ただし、これらに限定されるものではない)のような機能をコーティングに提供することが可能である。機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、合成由来または生体由来でありうる。また、両者のブレンドまたはコポリマーでありうる。合成親水性ポリマーとしては、ポリ(ラクタム)(たとえばPVPまたはPVC)、アクリル酸およびメタクリル酸のホモポリマーおよびコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、無水マレイン酸系コポリマー、ポリエステル、ビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリ(カルボン酸)、ポリアミド、ポリアンヒドリド、およびポリホスファゼンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。生体由来またはバイオインスパイアードの親水性ポリマーとしては、セルロース系物質(メチルカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルカルボキシメチルセルロース、またはヒドロキシプロピルカルボキシメチルセルロース)、ヘパリン、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリペプチド(コラーゲン、フィブリン、エラスチン)、ポリサッカリド(キトサン、ヒアルロン酸、アルギネート、ゼラチン、キチン、ポリエステル(ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン)、コラーゲンのようなポリペプチド、アルブミン、オリゴペプチド、ポリペプチド、短鎖ペプチド、タンパク質、またはオリゴヌクレオチドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の一実施形態では、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、約8,000〜約5,000,000の範囲内の分子量を有し、好ましくは約20,000〜約2,000,000の範囲内、より好ましくは約200,000〜約1,300,000の範囲内の分子量を有するポリマーである。
【0025】
機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、明らかに、コーティング組成物の0%超、好ましくは1%超、たとえば2%で使用しなければならない。しかしながら、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、コーティング組成物中に90%まで存在可能であり、より多くの場合、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、50、60、70、または80%まで使用されるであろう。コーティング溶液中の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーの含有率の典型的な範囲は、1〜20%である。
【0026】
機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーと支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーとの比は、たとえば10:90〜90:10、たとえば25:75〜75:25、またはたとえば60:40〜40:60の範囲内のさまざまな値をとりうる。実施例の節には、前記比が50:50であるときのとくに有利なコーティング組成物の例が示されている。
【0027】
本発明で使用するのに好適な光開始剤は、光化学的ノリッシュI型開裂反応または他の光化学的ホモリティック結合開裂を行いうる化合物である。光開始重合は、2つのタイプの光開始剤により開始可能である。ノリッシュI型光開始剤は、発色団のホモリティック開裂により生じて、重合を開始するラジカルを直接的に発生し、ノリッシュII型光開始剤は、好適な相乗剤(たとえば第三級アミン)からの水素引抜きによりラジカルを間接的に発生する。より詳細には、遊離基光開始剤は、開始ラジカルを形成する過程に基づいて2つのクラスに大別される。式(1):
【化1】
により示されるように、照射時に単分子結合開裂を起こす化合物は、ノリッシュI型光開始剤またはホモリティック光開始剤と称される。
【0028】
官能基の性質および分子中におけるカルボニル基に対するその位置に依存して、フラグメント化は、カルボニル基に隣接する結合で(α開裂)、β位の結合で(β開裂)、またはとくに弱い結合(たとえばC−S結合またはO−O結合)の場合、他の離れた位置で、起こりうる。光開始剤分子中の最も重要なフラグメント化は、アルキルアリールケトン中のカルボニル基とアルキル残基との間の炭素−炭素結合のα開裂であり、これはノリッシュI型反応として知られる。
【0029】
式(2)により示されるように励起状態の光開始剤が第2の分子(共開始剤COI)と相互作用して二分子反応でラジカルを発生する場合、開始系は、II型光開始剤と称される。一般的には、II型光開始剤の2つの主反応経路は、励起開始剤による水素引抜きまたは光誘起電子移動、それに続くフラグメント化である。二分子水素引抜きは、ジアリールケトンの典型的な反応である。光誘起電子移動は、より一般的な過程であり、特定のクラスの化合物に限定されない。
【化2】
【0030】
好適なI型光開始剤または開裂遊離基光開始剤の例は、ベンゾイン誘導体、メチロールベンゾイン誘導体および4−ベンゾイル−1,3−ジオキソラン誘導体、ベンジルケタール、α,α−ジアルコキシアセトフェノン、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、アシルホスフィンスルフィド、ハロゲン化アセトフェノン誘導体などである。好適なI型光開始剤の市販品の例は、イルガキュア2959(Irgacure 2959)(2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン)、イルガキュア651(Irgacure 651)(ベンジルジメチルケタールまたは2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタノン、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、イルガキュア184(Irgacure 184)(活性成分として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、ダロキュア1173(Darocur 1173)(活性成分として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、イルガキュア907(Irgacure 907)(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、イルガキュア369(Irgacure 369)(活性成分として2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、エサキュアKIP 150(Esacure KIP 150)(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}、フラテッリ・ランベルティ(Fratelli Lamberti))、エサキュアKIP 100 F(Esacure KIP 100 F)(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}と2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンとのブレンド、フラテッリ・ランベルティ(Fratelli Lamberti))、エサキュアKTO 46(Esacure KTO 46)(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}と2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−ホスフィンオキシドとメチルベンゾフェノン誘導体とのブレンド、フラテッリ・ランベルティ(Fratelli Lamberti))、アシルホスフィンオキシド、たとえば、ルシリンTPO(Lucirin TPO)(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、バスフ(BASF))、イルガキュア819(Irgacure 819)(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−ホスフィン−オキシド、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、イルガキュア1700(Irgacure 1700)(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンとの25:75%ブレンド、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))などである。また、I型光開始剤の混合物を使用することも可能である。着色(たとえば顔料着色)系では、ホスフィンオキシド型光開始剤およびイルガキュア907(Irgacure 907)が好ましい。
【0031】
光開始剤は、従来の方法で使用可能である。このことは、当業者であれば、所望の効果を得るのに必要とされる光開始剤の量がわかるであろうことを意味する。一般的には0超〜10%、たとえば0,2〜5%の量があれば、ほとんどの目的に十分であろう。
【0032】
溶媒という用語は、本明細書中では、その通常の意味で使用される。原理的には、任意の溶媒を本発明で使用することが可能である。好ましい溶媒としては、1,3−ジオキソランおよび他のエーテル、アセトンおよび他のケトン、ジメチルスルホキシドおよび他のスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよび他のアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよび他のラクタム、エタノールおよび他のアルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル、他のエステル、アミン、複素環式化合物、モルホリンおよび誘導体、アルキル化ウレア誘導体、液体ニトリル、ニトロアルカン、ハロアルカン、ハロアレーン、トリアルキルホスフェート、ジアルキルアルカンホスホネート、および他の一般に知られる有機溶媒が挙げられる。好ましい溶媒を単独でまたは組み合わせて使用することが可能である。現時点で好ましい溶媒は、水、エタノールのようなアルコール、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、1,3−ジオキソラン、およびジメチルホルムアミドから選択される。
【0033】
溶媒は、好ましくは、揮発性溶媒または適度な揮発性の溶媒である。「揮発性溶媒」および「適度な揮発性の溶媒」という用語は、蒸発速度の観点から解釈されるものとする。この目的では、これに関連した特定のガイドラインを提供するために、典型的には、ブチルアセテートを基準にした蒸発速度が使用される(とくに、A.サールナック(A.Saarnak),C.M.ハンセン(C.M.Hansen)著:「溶解パラメーター、色素結合剤およびポリマーのキャラクタリゼーション(Loslighedsparametrar,Karaktarisering avfargbindemedel och polymerer)」,スカンジナビア塗料印刷インク研究所(Scandinavian Paint and Printing Ink Research Institute)刊,デンマーク国ヘルスホルム(Hrsholm,Denmark),1982年5月(スウェーデン語)を参照されたい)。この論文によれば、蒸発速度(ER)は、ブチルアセテートの蒸発速度(ER=1.0)の3.0倍超、すなわち、ER>3.0のとき「急速」、0.8<ER<3.0のとき「中速」、0.1<ER<0.8のとき「緩速」、およびER<0.1のとき「非常に緩速」である。「揮発性」および「適度な揮発性」は、それぞれ、「急速」および「中速」の蒸発速度に対応する。
【0034】
支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、当技術分野で公知の任意の方法により他の成分と共にコーティング組成物中に混合導入して表面に適用することが可能である。任意の湿式コーティング適用方法がこの目的に適合しうる。こうした方法としては、ディップコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、カーテンコーティング、またはトランスファーコーティングとして当技術分野で公知の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。コーティングの厚さは、0cm超〜1cmの範囲内のさまざまな値をとりうるが、好ましくは、コーティング組成物は、0マイクロメートル超〜100マイクロメートルの乾燥コーティングを生じる厚さで適用される。
【0035】
次に、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、好適なエネルギー源を照射することにより架橋される。このエネルギー源は、たとえば、光(たとえば、UV光、可視光、もしくは近IR光)、マイクロ波、電子ビーム、またはプラズマよりなる群から選択可能である。コーティング組成物にエネルギー源を照射する目的は、当然ながら、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの効果的な架橋である。これに関連してどの効果的な手段を用いるかは、ある程度、コーティングの所望の機能により決定される。すべてではないにしてもほとんどの場合、エネルギー源の第1の照射は、ゲル化点を超えて支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの網状構造の形成を引き起こすのに十分なものでなければならない。通常、このことは、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーに結合された官能性部分の転化率が、40%超、たとえば、60%超、70%超、80%超、または90%超であることを意味するが、好ましくは、95%超である。支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーに結合された官能性部分の転化率は、先行技術で利用可能な任意の好適な方法により決定可能であり、好適な一方法は、以下の実施例の節に例示される。
【0036】
適切な時間内で、たとえば、10分間未満で、たとえば、7分間未満、6分間未満、5分間未満、4分間未満、さらには3分間未満で、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの所望の架橋レベルが達成されるような量のエネルギーを供給しうる人工エネルギー源(すなわち、太陽光のような天然源ではないもの)を使用することが好ましい。高スループット用途では、最小限の時間で、たとえ数秒間程度であっても、高照射量を供給しうるエネルギー源を使用することが望まれることもある。10mJ/cm2〜50J/cm2程度、好ましくは2〜10J/cm2程度の全照射量を供給しうるエネルギー源を使用したときに最良の結果が得られることが期待される。
【0037】
エネルギー源を照射した後、次に、コーティングは蒸発工程に付される。たとえば、これは、便宜上、放射線源もしくは伝熱源を用いる単純な熱処理により、空気流により、またはN2、Ar、もしくはCO2のような他の不活性ガスへの暴露により、達成可能である。減圧または真空を加えることより、蒸発工程の速度を促進することが可能である。溶媒を蒸発させる他の方法も同様に実施可能である。
【0038】
本発明の利点を十分に活かすために、エネルギー源をさらにもう一度照射することが必要である。すなわち、2回目の照射の後、すでに、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、より効果的に網状構造にグラフト化された状態になる。実用上の理由で、1回目の照射に使用したのと同一のエネルギー源および/または照射量および/または照射時間を使用することが好ましいが、これは絶対に必要というわけではない。
【0039】
さらにより良好な結果を得るために、再び、手順を反復してもよい。すなわち、エネルギー源の2回目の照射の後、再び、溶媒を蒸発させ、3回、4回、または任意のさらなる回数で、コーティングにエネルギー源を照射する。したがって、本発明はまた、コーティング組成物へのエネルギー源の最後の照射の後で溶媒を蒸発させる前記工程が反復される請求項1に記載の方法に関する。
【0040】
ノリッシュI型光開始剤の二重使用を介して(図1)、1回目に、ノリッシュI型光開始反応で支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの重合を開始して網状構造を形成し、2回目に、重合の開始を介して支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーに結合された発色団を介して水素引抜き反応により機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーとの追加の架橋を生成することにより、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーのグラフト化に関して観測された改良が達成されるものと我々は推定している(理論により拘束されることを望むものではないが)。この水素引抜き反応の結果として、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーと機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーとの両方に新たなラジカルが形成される。これらのラジカルは、直接的または間接的に反応して新たな架橋を形成することが可能である。これについては、図8に模式的に示されている。
【0041】
場合により、適用に便利な任意の方法で、薬剤やペプチドのような生物学的活性化合物をコーティングに添加してもよい。そのような手順は、当技術分野で公知である。コーティングをイメージング用途または抗微生物用途に使用する場合、銀、白金、BaSO4、シリカ、チタニアジルコニア、コアシェルゴム、顔料、または着色剤のような充填剤を添加してもよい。ミセル、リポソーム、ポリメロソーム、デンドリマー、酵母細胞壁などのようなカプセル化剤を用いて分子をカプセル化してコーティング中に分散してもよい。
【0042】
以上に記載した本発明により従来のコーティングを再評価することが可能である。以上の本発明に記載したような逐次的な架橋工程および蒸発工程を適用することにより、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーから形成された支持網状構造に機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーをより良好にグラフト化しうることがいまや明らかになるであろう。このことは、広範な用途にあてはまることが判明した。以下の実施例では、親水性、滑沢性、抗微生物性、抗血栓性、さらにはイメージング機能、抗石灰化剤、殺真菌性、耐摩耗性、および疎水性をはじめとする改良された機能特性を有するコーティングについて説明する。
【0043】
本発明はまた、架橋された機能性コーティングに関する。このコーティングでは、支持網状構造を形成しうる支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーが、ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を介して、少なくとも1つの機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーに共有結合されている。
【0044】
本発明に係るコーティングはまた、その耐摩耗性に関しても優れた性質を有する。先行技術に係る架橋された機能性コーティングは、以下で本明細書に記載される耐摩耗性試験で試験したときに静摩擦対動摩擦比の大きい変動を示されたが、本発明に係るコーティングは、53サイクルの試験時間にわたり本質的に同一の静摩擦対動摩擦比を示された。
【0045】
以下の実施例のいずれにおいても、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーのより良好なグラフト化は、コーティングの機能特性を損なうことなく達成された。さらに、いくつかの場合には、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーがコーティング中により良好にグラフト化されたという事実に加えて、コーティングの機能特性が、従来のコーティングと比較して一層改良された。したがって、本発明は、以上に記載したような方法により取得可能なコーティングに関する。
【0046】
したがって、本発明は、架橋された機能性コーティング、たとえば、親水性コーティングや滑沢コーティングなどを取得する方法に関する。ただし、この方法では、
− 支持網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーと
− 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマー、
− ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤と
を含むポリマー溶液が使用される。
【0047】
例示されるように、これらのコーティングは、医療器具上に適用したときにとくに有利である。したがって、本発明はまた、本発明に係るコーティングを含む医療器具に関する。
【0048】
滑沢コーティングを含むコイルの重要な特性の1つは、可能なかぎり小さい静摩擦力を呈するものでなければならないことである。他の重要なパラメーターは、そのようなコイルがコイルの使用時間にわたり一定した動摩擦力を有するものでなければならないことである。そのようなコイルを用いれば、ユーザー(主に外科医)は、患者の体内でコイルを移動させるのに必要な力の大きさを予測することが可能であり、さもなければ、コイルの使用により患者が重度の傷害を受ける可能性がある。本発明に従って被覆されたコイルを用いて得られるデータは、両方の要件を満たした。すなわち、それらは、時間が経っても一定した動摩擦を有し、一方、それらは、1もしくは1に近い静摩擦対動摩擦比を長時間続性することにより実証されるように実質的にまったく静摩擦を有していない(図5)。
【0049】
実施例16および17に記載されるように、本発明に係るコイルの性能は、使用時間にわたり先行技術のデバイスよりも一定していることが判明した。市販のサンプルを用いて得られた比の大きい変動は、主に、それらの静摩擦の大きいサイクル間変動に起因することが判明し、一方、それらの動摩擦は、サイクル間で比較的「一定」していた。しかしながら、このことは、それらの動摩擦が実験全体を通して依然として約2倍であることを意味する。これとは対照的に、本発明に係るコーティングを用いて得られた静摩擦値および動摩擦値はいずれも、著しく一定していた。これらのデータから明らかなように、本発明に係るコーティングの静摩擦/動摩擦比の変動係数は、9よりもかなり小さく、一方、先行技術のコーティングのこの変動係数は、17よりもかなり大きい。したがって、本発明は、実施例20または以下の特許請求の範囲に記載されるような耐摩耗性試験で試験したときに呈する静摩擦/動摩擦比の変動係数が17未満であるコーティングに関する。
【0050】
実施例21に記載されるような耐摩耗性試験では、本発明に係る滑沢コーティングで被覆されたコイルは、51サイクルにわたり78mN(標準偏差2.1)の平均動摩擦力を呈し、一方、先行技術に係る滑沢コーティングで被覆されたコイルは、94mN(標準偏差47.1)の平均動摩擦力を呈することが判明している。重負荷耐摩耗性試験でもまた、本発明に係るコーティングを有するコイルの動摩擦力は、時間が経っても著しく一定した状態を保持し、一方、先行技術に係るコーティングを有するコイルは、5倍(36mN〜186mN、表8)の変動を示すことが判明した。このことは、2つの異なるコイルを用いて得られた値の変動係数に反映される。すなわち、本発明に係るコーティングを有するコイルは、2,7%の変動係数を有し、一方、先行技術に係るコーティングを有するコイルは、50%の変動係数を有していた(図7、表8)。
【0051】
本発明はまた、以上で本明細書に記載したような方法のいずれかにより取得可能なコーティングに関する。
【0052】
本発明はまた、移行性物質の量が10重量%未満、たとえば、8%未満、7%未満、または6%未満である架橋ポリマーコーティングに関する。
【0053】
本発明はまた、本発明に係るコーティングを含む医療器具に関する。
【0054】
本発明はまた、被覆コイルの静摩擦力を決定する方法に関する。ただし、この方法は、
− 被覆コイルを耐密に収容するのに好適な内径を有するカテーテルチューブを提供する工程と
− カテーテルが40mmの直径を有する半円を形成するように保持デバイス中にカテーテルを配置する工程と
− カテーテルチューブ内に被覆コイルを配置する工程と
− 23℃の水浴中にカテーテルチューブを浸漬する工程と
− カテーテルチューブを水でフラッシングする工程と
− 20Nロードセルに取り付けられたテンシオメーターに被覆コイルを取り付ける工程と
− 毎分約200mmの速度でカテーテル内で被覆コイルをプッシュプルサイクルで移動させる工程と
− サイクルのプル部分の最初の2mmで最大の力として静摩擦を測定する工程と
を含む。
【0055】
本発明はまた、被覆コイルの動摩擦力を決定する方法に関する。ただし、この方法は、
− 被覆コイルを耐密に収容するのに好適な内径を有するカテーテルチューブを提供する工程と
− カテーテルが40mmの直径を有する半円を形成するように保持デバイス中にカテーテルを配置する工程と
− カテーテルチューブ内に被覆コイルを配置する工程と
− 23℃の水浴中にカテーテルチューブを浸漬する工程と
− カテーテルチューブを水でフラッシングする工程と
− 20Nロードセルに取り付けられたテンシオメーターに被覆コイルを取り付ける工程と
− 毎分約200mmの速度でカテーテル内で被覆コイルをプッシュプルサイクルで移動させる工程と
− サイクルのプル部分の2〜5mmの変位にわたる平均力として動摩擦を測定する工程と
を含む。
【0056】
本発明はまた、被覆コイルの静摩擦/動摩擦比を決定する方法に関する。ただし、この方法は、
− 被覆コイルを耐密に収容するのに好適な内径を有するカテーテルチューブを提供する工程と
− カテーテルが40mmの直径を有する半円を形成するように保持デバイス中にカテーテルを配置する工程と
− カテーテルチューブ内に被覆コイルを配置する工程と
− 23℃の水浴中にカテーテルチューブを浸漬する工程と
− カテーテルチューブを水でフラッシングする工程と
− 20Nロードセルに取り付けられたテンシオメーターに被覆コイルを取り付ける工程と
− 毎分約200mmの速度でカテーテル内で被覆コイルをプッシュプルサイクルで移動させる工程と
− サイクルのプル部分の最初の2mmで最大の力として静摩擦を測定する工程と
− サイクルのプル部分の2〜5mmの変位にわたる平均力として動摩擦を測定する工程と
− 静摩擦力を動摩擦力で割り算する工程と
を含む。
【0057】
本発明はまた、架橋ポリマーを含む滑沢コーティングを備えた被覆コイルに関する。ただし、前記コイルは、以上に記載した方法で測定したときに、300未満、好ましくは200未満、たとえば175または150の静摩擦力を有する。
【0058】
本発明はまた、架橋ポリマーを含む滑沢コーティングを備えた被覆コイルに関する、ただし、前記コイルは、以上に記載したような方法で測定したときに、4回の初期サイクルの後で2未満の静摩擦/動摩擦比を有する。
【0059】
本発明はまた、架橋ポリマーを含む滑沢コーティングを備えた被覆コイルに関する。ただし、前記コイルは、2.9未満、好ましくは2.5未満、たとえば、2.2未満、2.0未満、1.8未満、1.7未満、1.6未満、もしくは1.5未満の平均静摩擦/動摩擦比を有し、前記平均比は、以上に記載したような方法で測定される静摩擦/動摩擦比の最初の52回もしくは53回の測定にわたり決定される。
【0060】
本発明はまた、架橋ポリマーを含む滑沢コーティングを備えた被覆コイルに関する。ただし、前記コイルは、以上に記載したような方法で測定したときに、最初の52回もしくは53回のサイクルにわたり測定される静摩擦/動摩擦比間で、15%未満、好ましくは12%未満、たとえば、11%未満、10%未満、もしくは9%未満の変動係数を有する。
【0061】
本発明はまた、架橋ポリマーを含む滑沢コーティングを備えた被覆コイルに関する。ただし、前記コイルは、摩擦力の変動係数が、50%未満、好ましくは45%未満、たとえば、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、8%未満、6%未満、4%未満、さらには3%未満であり、前記変動係数は、以上に記載した方法で測定したときに、最初の51回のサイクルにわたり測定される静摩擦/動摩擦比に関して決定される。
【実施例】
【0062】
実施例1:PEG4000ジアクリレート支持オリゴマーの合成
窒素下、45℃で、150グラムのPEG4000ジオール(フルカ(Fluka)製のバイオヘミカ・ウルトラ(Biochemika Ultra))[95904],OH価:28.02mgKOH/g,499.5meq/kg,)を450mlの無水トルエン中に溶解させた。50℃/70mbarで共沸蒸留することによりPEG/トルエン溶液を脱水した。アクリロイルクロリド(8.15グラム、90mmol)およびトリエチルアミン(9.10グラム、90mmol)を両方とも50ml無水トルエンで希釈して、PEGジオール−トルエン溶液に滴下した。窒素下、45〜50℃で、反応系を少なくとも4時間攪拌した。完全なアクリレートエンドキャッピングを保障するために、追加の10mmolのアクリロイルクロリドおよびトリエチルアミンを反応混合物に添加して1時間反応させた。反応混合物を加温濾過してEt3NHCI塩を除去した。真空下(50℃、20mbar)で約300mlのトルエンを除去した。残りの溶液を加熱滴下漏斗中で45℃に保持し、氷浴中で冷却された1リットルのジエチルエーテルに滴下した。PEGジアクリレートが白色の結晶として沈澱した。エーテル溶液を1時間冷却した後、濾過によりPEGジアクリレート生成物を得た。減圧空気雰囲気下(300mbar、空気流)で生成物を一晩乾燥させた。この手順により129gのアクリル化オリゴマー(非最適化収率82%)を得た。
【0063】
実施例2:PEG2000ジアクリレート支持オリゴマーの合成
実施例1に記載の手順に従って、150グラムのPEG(148mmol OH、OH価:55.26mgKOH/g、985meq/kg、Mn:2030)をアクリロイルクロリド(14.8グラム、163mmol≒ヒドロキシ基に対して1.1eq)およびトリエチルアミン(16.6グラム、164mmol)と反応させた。この手順により128gのアクリル化オリゴマー(非最適化収率83%)を得た。
【0064】
実施例3:抽出試験用のコーティング組成物
【0065】
【表1】
【0066】
材料を混合一体化させてコーティング組成物を得た。
【0067】
実施例4:抽出試験用のコーティングの適用
200μmギャップのドクターブレードを用いて、実施例3のコーティング組成物をエタノール洗浄されたメリネックス(Melinex)PETシート上に適用した。使用前にPETシート(100×150×0.125mm)の重量を0.1mgの確度で決定した。コーティング組成物をPETシート上に適用した直後、コーティング組成物にUV光(2J/cm2のUV照射量を有するフュージョン(Fusion)F600 Dバルブ)を照射した。この処理から得られたコーティングをUVのみで得られたものとして記す。
【0068】
1回目のUV処理の後、溶媒の蒸発に続いてもう一度UV処理を行ったときにより良好なグラフト化が達成されることを示すために、次の一連の実験をデザインした。各UV硬化工程間で溶媒の蒸発を行うことなく、対照実験を行った。
【0069】
IRランプは、5cm間隔かつ被覆サンプルから10cm上に配置された6個の30cm 1000Wフィリップス(Philips)ランプよりなる。加熱を12秒間行った。これらの12秒間で、表面の温度が150℃を超えることはなかった。1回目のUV処理の後でUVおよび蒸発の連続したサイクルに1〜4回付されたコーティングが得られるように、UV照射および蒸発の手順を反復した(表2)。
【0070】
【表2】
【0071】
次に、減圧窒素雰囲気下(200mbar)、105℃で、コーティングを12時間乾燥させた。乾燥後、約40μmの厚さのコーティングが得られた。アクリレートの転化率をATR−FTIRにより測定した。これらの測定から、アクリレートの転化率が一段階のUVのみ(2J/cm2)の硬化コーティングの95%±2をすでに超えていることがわかった。
【0072】
この測定のために、ゴールデン・ゲート(Golden Gate)減衰全反射(ATR)アクセサリーを備えたパーキン・エルマー・スペクトラム・ワン(Perkin Elmer Spectrum One)FTIRスペクトロメーターを使用した。スペクトロメーターは、DTGS検出器よりなり、ゴールデン・ゲート(Golden Gate)アクセサリーは、一回反射ダイヤモンド結晶を利用する。4cm−1のスペクトル分解能で32回のスキャンを平均して4000〜650cm−1の赤外スペクトルを記録した。スペクトラム・フォー・ウィンドウズ(Spectrum for Windows)ソフトウェアのバージョン3.02.01を使用した。未抽出UV硬化コーティングのFT−IRスペクトル中の1410cm−1のアクリレート特異的C−H変角振動バンドを未硬化配合物のスペクトルと比較することにより、アクリレート基の転化率を測定した。
【0073】
実施例5:重量分析による移行性物質の定量
200mlの蒸留水を用いて実施例4の被覆PETシートを37℃で1時間抽出し、次に、減圧窒素雰囲気(200mbar)、105℃で、12時間乾燥させた。抽出の前後でPETシートを秤量した。非被覆PETシートを対照として使用した。対照シートの重量損失は無視しうることが観測により確認された(<0.1%の平均コーティング重量損失)。重量損失を被覆シート中の移行性物質の量に帰属しうることは、図2から明らかである。
【0074】
UV照射に続いて溶媒の蒸発を1回行い(IRにより)かつUV照射を反復するにより移行性物質の量がすでに有意に低減されていることは、図2に示されるデータから明らかである。この処理を反復することにより移行性物質の量がさらに低減されることが判明した。
【0075】
実施例6:移行性成分の分析
実施例5に記載の実験でコーティングのどの成分が実際に移行し除去させたかを調べるために、以下の実験をデザインした。
【0076】
理論上、移行性成分は、PEOまたはPEGDAのみであるとみなすことが可能である(光開始剤の量は、無視可能であり、移行性物質の量に有意に寄与しないとみなしうる)。以下の手順により蒸留水抽出物中に存在するPEGDAの量を測定し、次に、PEOの量を計算する。移行性成分は、主に(約90%超)PEOであり、一方、コーティング組成物は、約10%PEOを含有するにすぎないことが判明した。さらに詳細に述べると、手順は、次のとおりであった。
【0077】
実施例5で得られた蒸留水抽出物を、80℃で溶媒を一晩蒸発させた後でATR−FTIRにより分析した。抽出されたPEOの絶対量を式1に示されように決定した。抽出物中のPEGDAの相対量を規格化FTIRスペクトルの1730cm−1のエステルカルボニル特異的C=O伸縮振動バンドのピーク面積に関連付けた。コーティングおよび乾燥させた抽出物について、1753および1696cm−1でベースライン点を適用してピーク面積を計算した。アクリレートを重合した場合、アクリレートカルボニルバンドは、わずかにシフトする。しかしながら、未反応アクリレートおよび反応アクリレートが組み込まれるように、ベースライン点を選択した。抽出前のコーティングを参照として使用した。抽出前のコーティングのPEGDA画分は、0.9である。
【0078】
抽出されたPEOの絶対量を全コーティングに対するパーセントとして以下のように計算した。
【数1】
式中、
m%=実施例5で決定された重量損失画分(図2)
[PEGDA]coating=コーティング中のPEGDA画分(=0.9)
A1730extract=抽出物のアクリレートカルボニルバンド1730cm−1のピーク面積
A1730coating=コーティングのアクリレートカルボニルバンド1730cm−1のピーク面積
【0079】
したがって、移行性成分は、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーであることが確認された。この場合、PEOである。アクリレートの転化率が1回目のUV照射後の95%をすでに超えていることがすでに確証されているので(上記参照)、期待どおり、支持ポリマーは、そのごくわずかな画分のみがコーティングから移行し除去されるにすぎない。図3は、コーティングの溶媒をUV照射間で蒸発させた場合、抽出物中のPEOの絶対量が有意に減少することを示している。
【0080】
実施例7:ウレタンジアクリレートオリゴマーの合成
0.3g(0.48mmol)のジブチルスズジラウレエート(DBTDL)またはスズIIエチルヘキサノエート(0.5g(1.3mmol)の存在下で、75.48g(0.65mol)のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)を113.20g(0.65mol)の2,4−トルエンジイソシアネート(TDI)に滴下した。イソシアネート基(NCO)の転化率を滴定により監視した。174.95g(0.60mol)のこのHEA−TDI混合物をホドガヤ(Hodogaya)製の301.33グラムのPTGL1000(0.60molのOH)および0.3gのイルガノックス1035(Irganox 1035)に添加して攪拌した。温度を80℃まで徐々に上昇させた。7時間後、NCO価は0.026%であった。一晩で反応混合物を50℃まで冷却させた。さらに16時間後、NCOレベルは0.007%であった。ウレタンジアクリレートオリゴマーの収率は、450g(92%)であった。
【0081】
実施例8:プライマーコーティング用のコーティング配合物(プライマーA)
【0082】
【表3】
【0083】
材料を混合一体化させてコーティング組成物を得た。
【0084】
実施例9:プライマーコーティングのコーティング配合物(プライマーB)
【0085】
【表4】
【0086】
材料を混合一体化させてコーティング組成物を得た。
【0087】
実施例10:親水性トップコートA(PVP 360,000)
【0088】
【表5】
【0089】
材料を混合一体化させてコーティング組成物を得た。
【0090】
実施例11:親水性トップコートB(PVP 1,300000)
【0091】
【表6】
【0092】
材料を混合一体化させてコーティング組成物を得た。
【0093】
実施例12:ガイドワイヤフィラメント上へのPESプライマーの適用
コーティングダイを用いて、165μmの直径を有するステンレス鋼ガイドワイヤフィラメント上にプライマーコーティングを適用した。米国特許第6,086,547号明細書および医用材料研究誌(応用生体材料)(J.Biomed.Mater.Res.(Appl.Biomaterials))第63巻:692−698頁,2002年に記載されるように、プライマー(デュポン(Du Pont)、420−810)(N−メチルピロリドン(NMP)中の25w%のポリエーテルスルホン)を適用し、ステンレス鋼ワイヤ上に3〜5μmのコーティング厚さを得た。高沸点NMP溶媒を除去するために、オーブン温度は300℃であった。
【0094】
実施例13:ガイドワイヤフィラメント上への光硬化性コーティングの適用
光硬化性コーティングを適用できるように、図4に示されるようにコーティングダイとオーブンとの間にUVランプを取り付けて、米国特許第6,086,547号明細書および「医用材料研究誌(応用生体材料)(J.Biomed Mater.Res.(Appl.Biomaterials))」第63巻:692−698頁,2002年に記載のフィラメントコーティングラインを改造することにより、円筒形状の周囲で全照射を行うようにした。R500リフレクターを備えたフュージョン(Fusion)F600ランプ,Dバルブ(最大240W/cm2)を使用した。UVランプと組み合わせて使用した場合、オーブン温度を150℃に設定した。コーティングラインの速度は、70m/minであり、その結果、各UV照射後、0.7W/cm2のUV照射量(UVランプ下を通過するごとに)および10秒間のオーブン内滞留時間を得た。ディフューザーを備えたソラテル(Solatell)TM光度計を用いて、UV照射量を測定した。
【0095】
鋼フィラメント(165μmの直径)上に直接にまたは実施例12に従って被覆されたPESプライマー被覆フィラメント上にUVプライマーコーティングを適用した(コーティングダイを介して)。UVプライマーコーティングの乾燥膜厚さは、1〜3ミクロンであった。
【0096】
UVランプ下(0.7W/cm2/パス)およびオーブン下(150℃)に親水性コーティングを複数回(1〜5回)通したという大きい差異はあるが、プライマーコーティングに関連して記載したのと同じ方法で、親水性トップコートAまたはB(実施例10または11)をプライマー被覆鋼ワイヤフィラメント上に適用した。乾燥滑沢コーティングは、2〜3μmの厚さを有していた。
【0097】
実施例14:被覆ワイヤのコイリング
医用材料研究誌(応用生体材料)(J.Biomed Mater Res(Appl Biomaterials))第63巻:692−698頁,2002年に記載されているように制御可能な速度を有する電気モーターに接続されたスピンドルを用いて、実施例13の多重被覆鋼フィラメントを0,43mmの直径のステンレス鋼コアワイヤ上に80〜85°の典型的な巻き角でコイリングした。
【0098】
ステンレス鋼コアワイヤに沿ってコイリングされた被覆フィラメントはさらに、被覆コイルと記される。これらの被覆コイルは、以下に記載の滑沢性試験で使用される。
【0099】
実施例15:親水性トップコートBとプライマーコーティングBとを含む被覆コイル
実施例13に記載の手順に従って、実施例11に記載した親水性トップコートBをプライマーB(実施例9に記載のもの)で被覆された鋼ワイヤフィラメント上に適用した。親水性トップコートを含む被覆フィラメントをUVとオーブンとで構成された装置に3回通して2.1W/cm2の全UV照射量を受けるようにした。得られたフィラメントを実施例14に記載の手順に従ってコイリングした。
【0100】
実施例16:親水性トップコートAとプライマーコーティングAとを含むガイドワイヤコイル
PESプライマーを実施例12に記載の鋼ワイヤフィラメント上に適用した。実施例13に記載の手順に従って、このプライマーの上に他のプライマーコーティング(プライマーコーティングA、実施例8)および親水性コーティングA(実施例10)を適用した。得られたフィラメントを実施例14に記載の手順に従ってコイリングした。
【0101】
実施例17:親水性トップコートBとプライマーコーティングAとを含むガイドワイヤコイル
PESプライマーを実施例12に記載の鋼ワイヤフィラメント上に適用した。実施例13に記載の手順に従って、このプライマーの上に他のプライマーコーティング(プライマーコーティングA、実施例8)および親水性コーティングB(実施例11)を適用した。得られたフィラメントを実施例14に記載の手順に従ってコイリングした。
【0102】
実施例18:被覆コイルの滑沢特性を測定する試験方法
被覆コイルの滑沢特性および被覆コイルの耐摩耗性を測定する試験方法を開発した。
【0103】
被覆コイルの最大外径よりも約400〜500ミクロン大きい1.27mmの内径を有する密嵌性(メドトロニック(Medtronic))PU−Pro−Flo,6Fピッグテールカテーテルチューブに通して前後(プッシュプル)に移動させることにより、被覆コイルを試験した。40mmの直径を有する半円のポリカーボネート成形型に入れることにより、カテーテルを円弧の形状に徐々に湾曲させた(ねじることなく)。185±1mmのカテーテルチューブを成形型の一方の上端にアライメントし、カテーテルチューブの他端は、より長い距離にわたり被覆コイルを支持するように使用する。カテーテルチューブの端で被覆コイルが摩耗することがないように、注意を払った。したがって、カテーテルチューブの両方の入口を「平滑化」し、鈍端チップを用いて円形にした。
【0104】
成形型およびカテーテルチューブを23℃の水中に浸漬した。実験中にカテーテルチューブ内で気泡が形成されるのを防止するために、成形型が水面よりも少なくとも5cm下にくるように注意を払った。次に、カテーテルチューブ内に空気が閉じ込められることがないように、カテーテルチューブを水でフラッシングした。被覆コイルの屈曲および/または損傷が起こらないように、手作業で被覆コイルをカテーテルチューブに通して案内し、そしてテンシオメーターに取り付けた。被覆コイルワイヤの自由端を水位よりも約60mm上で切断した(装置の概略図に関しては図5を参照されたい)。
【0105】
ツヴィック(Zwick)Z050引張りスピンドル試験機を用いて試験を行った。ツヴィック(Zwick)TestXpert v7.11ソフトウェアを用いて制御および分析を行った。±50mmのクランピング距離を有するクランプにより被覆コイルを20Nロードセルに取り付けた。試験速度は、200mm/minであった。
【0106】
被覆コイルの滑沢特性を調べるために、被覆コイルをカテーテルチューブに通した状態で40mmの変位でプルした。5秒後、被覆コイルをカテーテルチューブに通した状態で40mmの変位でプッシュし再び元に戻した。これにより1回の試験サイクルを構成した。
【0107】
被覆コイルの滑沢特性を2つのパラメーターに関して測定した。すなわち、動摩擦力および静摩擦力(スティクション)である。静摩擦力は、サイクルのプル部分において最初の2mmの変位の範囲内で最大の力として定義される。動摩擦力は、サイクルのプル部分において2〜40mmの試験経路にわたり一定の間隔で測定される力として定義される。静摩擦/動摩擦比は、静摩擦力をプルサイクルにおける2〜5mmの変位での平均摩擦力で割り算することにより決定された。
【0108】
実施例19:市販の滑沢コーティングを有する比較例
実施例15および16に従って作製された被覆コイルを市販品スリップスキン(Slipskin)TMで被覆されたコイルと比較した。これらのコイルは、MCTec(オランダ国フェンローのメディカル・コーティング・テクノロジー(Medical Coating Technology,Venlo,The Netherlands))から入手したものであり、米国特許第6,086,547号明細書に記載されるように作製されたものである。これらのコイルは、これ以降では、市販品CPと記される。
【0109】
次に、サイクルのプル部分において測定された摩擦力を3つのコーティングのそれぞれについてプロットした。図5は、3つのコイルのそれぞれの代表例の比較を示している。市販品CPの静摩擦力は、最大であることが判明した(すなわち約340mN)。本発明に従って作製されたコーティングはいずれも、かなり小さい動摩擦力を有しており、実施例16のコーティングは、約130mNの静摩擦力を有し、一方、実施例15のコーティングの静摩擦力は、かろうじて動摩擦力と区別できる程度であった(すなわち約100mN)。(図5)。
【0110】
実施例20:被覆コイルの耐摩耗性の測定
実施例18に記載される試験サイクルをさまざまな時間間隔で反復することにより、被覆コイルの耐摩耗性を測定した。これは、各サイクル間で5秒間の待ち時間を設けて8回の逐次試験サイクルを行ってからその15分後に再び5秒間の待ち時間を設けて一連の5回の逐次サイクルを行うことにより実施された。次に、一連の5回の逐次サイクルを何回か反復した。ただし、いずれの場合も、一連のサイクル間で15分間の待ち時間を設けた。
【0111】
実施例16および17に従って作製された被覆コイルを市販品CPと比較した。静摩擦/動摩擦比を実施例18に記載されるように各サイクルごとに測定した。図6の各データ点は、本明細書中で以上に説明したような耐摩耗性測定用装置で得られた一サイクルの静摩擦/動摩擦比を表している。図6のX軸は、線形スケールでも連続スケールでもないことに留意されたい。市販品CPの各コイルの耐摩耗性間にかなりの変動がみられることが判明したので、2つの比較例が図6に示されている。すなわち、市販品のうちで平均的性能の試料(四角)および最良性能の試料(菱形)である。それと比較して、本発明に従って被覆されたコイルの2つの代表例の静摩擦/動摩擦比が示されている。
【0112】
実施例16および17に記載されるような本発明に従って被覆されたコイルを用いて得られたデータは、時間が経ってもより一定していることが判明した。市販のサンプルを用いて得られた比の大きい変動は、主に、それらの静摩擦の大きい変動に起因することが判明し、一方、それらの動摩擦は、実験時間にわたり比較的一定していたがほぼ2倍の大きさであった。これとは対照的に、本発明に係るコーティングを用いて得られた静摩擦値および動摩擦値はいずれも、著しく一定していた。これらのデータから明らかなように、本発明に係るコーティングの静摩擦/動摩擦比の変動係数は、9よりもかなり小さく、一方、先行技術のコーティングのこの変動係数は、17よりもかなり大きい。
【0113】
以上で説明した実験装置で得られたデータを表7に示す。
【0114】
【表7】
【0115】
【表8】
【0116】
【表9】
【0117】
【表10】
【0118】
実施例21:さまざまな時間間隔での耐摩耗性
一連のサイクル間でさまざまな待ち時間を設けて耐摩耗性を測定するために、他の一連の実験を行った。実験装置は、ガイドワイヤやカテーテルなどにみられるような被覆コイルが実際に使用される状況を模倣するものと考えられる。これは、各サイクル間で5秒間の待ち時間を設けて3回の逐次試験サイクルを行ってから漸増量の時間が経過した後で再び5秒間の待ち時間を設けて一連の3回の逐次サイクルを行うことにより実施された。一連の3回のサイクル間の待ち時間を、0,5分間から1、2、4、8、15、および30分間まで、さらには60分間まで増大させた。この一連の実験の後、再び0.5分間から60分間まで増大された待ち時間を設けて開始し、全手順をもう1回反復した。実施例16に例示されるような本発明に係る方法を用いて得られたコーティングを用いて得られた結果を市販品と比較して図7に示す。
【0119】
図7からわかるように、市販品の動摩擦は、最初の一連の3回のサイクルの後、すでに増大しており、その後、徐々に増大したが、本発明に従って被覆されたコイルの動摩擦は、全実験時間(すなわち4時間超)にわたり著しく安定した状態を保持した。先行技術に係る市販のコーティングを用いて得られた最小値/最大値は、36/186(平均94)であったが、本発明に係るコーティングを用いて得られた最小値/最大値は、78および88(平均79、表8参照)であった。
【0120】
【表11】
【0121】
【表12】
【0122】
最終的に、市販品の動摩擦は、実験全体を通して5倍超に増大した。したがって、本発明に従って被覆されたコイルは、市販品CPと比較して改良された耐摩耗性を有すると結論付けられる。これは、使用時間にわたり滑沢性が一定しているという点で、本発明に係るコーティングで被覆された医療器具(たとえばガイドワイヤまたはカテーテル)の信頼性に有意に寄与し、一方、先行技術に係るコーティングは、図6および表7に例示されるように先行技術に係るコーティングが各休止時間の後で予測不可能な静摩擦を呈するという欠点に加えて、手順全体を通して増大傾向にある力を必要とする。
【0123】
実施例22:半IPNよりなるコーティングとの比較
本発明に係るコーティングの移行性物質の量と半相互侵入網状構造(IPN)に基づくコーティングの移行性物質の量とを比較した。その目的で、表10に記載のコーティング組成物(親水性トップコートA)よりなる厚さ200μmの層をガラス板上に適用した。本質的には実施例4に記載されるように、組成物にUV光を照射した後で蒸発を行った。UVおよび熱のサイクルを3回行った後、コーティング組成物を暗所に一晩放置してから抽出試験を行った。比較のために、本質的には米国特許第6,238,799号明細書に記載されるように、半相互侵入網状構造よりなるコーティングを作製した。より詳細には、表9に記載のコーティング組成物を調製した。
【0124】
【表13】
【0125】
表9に記載の湿潤厚さ120マイクロメートルのコーティングをガラス板上に適用し、米国特許第6,238,799号明細書に記載されるように165℃(325°F)で15分間硬化させた。
【0126】
各コーティングに由来する移行性物質の量を調べるために、コーティングをガラス板から剥離してセルロース製の抽出シンブル中に秤取した。1mm2のメッシュサイズを有する金属メッシュホルダー中にシンブルを配置した。シンブルとコーティングとを収容した金属ホルダーを、減圧下かつ窒素流動下(100mbar)、105℃で、12時間乾燥させた。次に、マグネティックスターラーによる連続攪拌下、37℃で、金属ホルダーを200mlの脱塩水中に16時間浸漬した。次に、金属メッシュホルダー中の残留コーティングを、減圧下かつ窒素流動下(100mbar)、105℃で、12時間乾燥させた。抽出の前後の金属ホルダーの重量差を測定することにより、コーティングの重量損失を求めた。
【0127】
本発明に係るコーティングは、その重量の1.8%を失い、米国特許第6,238,799号明細書に係る半IPNコーティングは、その重量の7.1%を失うことが判明した。したがって、半相互侵入網状構造よりなるコーティングは、本発明に係るコーティングよりもかなり多くの移行性物質を有すると結論付けられる。
【0128】
実施例22:機能性ポリマーは、ノリッシュI型光開始剤から誘導される網状構造結合発色団を介して支持ポリマーに共有結合された状態になる
光グラフト化機構であることおよび光開始過程で架橋網状構造に結合する発色団に基づくことを実証するために、架橋密度(プロトンNMR T2緩和実験により決定される)の増大と一緒に発色団の吸光度の減衰を監視した。
【0129】
実施例4に記載されるように、24ミクロンドクターブレードを用いて実施例11の親水性コーティング配合物をガラス上に適用した。得られた乾燥膜厚さは、5ミクロンであった。アクリレートの転化率が>96%であることがFT−IR分析から明らかにされた。
【0130】
固体NMR T2緩和実験により、ポリマーの架橋密度を求めた(リトヴィーノフ(Litvinov)およびディアス(Dias)著,高分子(Macromolecules),第34巻,4051−4060頁(2001年)。図8に示される機構を裏付ける新たな追加の架橋の証拠は、ssNMR T2緩和実験を用いて架橋密度を求めることにより、さらには、図9に示されたようにUV分光法を用いてアリールカルボニルの消費を監視することにより、取得可能である。「ゴム状材料の分光学(Spectroscopy of Rubbery Materials)」,V.M.リトヴィーノフ(V.M.Litvinov),P.P.ドゥー(P.P.De)編,RAPRAテクノロジー(RAPRA Technology),ショウバリー(Shawbury),353−400頁(2002年)中のV.M.リトヴィーノフ(V.M.Litvinov)著,「プロトンNMR磁気緩和を用いるゴム状材料中の化学的および物理的な網状構造のキャラクタリゼーション(Characterization of Chemical and Physical Networks in Rubbery Materials Using Proton NMR Magnetization Relaxation)」に記載されるように、NMR緩和実験を行った。NMR実験のために、硬化コーティングをガラス板から剥離してNMR管中に配置した。静止管にサンプルを入れて70℃で測定を行った。20MHzのプロトン共鳴周波数の低磁場NMR分光計を操作して、プロトンNMR T2緩和実験を行った。ハーンエコーパルス系列を用いて、横磁気緩和の減衰(T2緩和減衰)を測定した。(E.ハーン(E.Hahn)著,物理学総説(Physical Review),第80巻,580頁(1950年)。T2値により決定される特性減衰時間は、次式:
A(τ)=A(0)exp[−(τ/T2)
を用いてT2緩和減衰の最小二乗あてはめを行うことにより求めた。式中、A(0)およびA(τ)は、時間ゼロおよびτにおけるシグナル振幅である。
【0131】
NMR T2緩和実験から、PVPおよびPEG4000DAがコーティング中で十分に相分離していることが示される。動的機械的熱分析(DMTA)および原子間力顕微鏡法(AFM)によっても、相分離が確認された。PVP相からのシグナルはPEGと比較してかなり速くゼロ近傍まで減少するので、NMR法により硬化架橋ポリエチレングリコールジアクリレートのT2緩和時間を選択的に測定することが可能である。
【0132】
T2緩和時間が全UV照射量および全IR照射量の増大と共に減少することが実験から示される(図10)。その理由は、T2緩和時間が短くなることが、網状構造鎖の分子質量が小さくなること(すなわち、架橋密度が大きくなること)に対応することにある。図10の結果から示されるように、コーティングが溶媒の蒸発を介在させた複数回の架橋工程に付された場合、PEG4000DA相中の架橋密度が増大する。いずれのコーティングの場合にもPEG4000DAのアクリル鎖末端の二重結合の変換はほぼ完全であるので(96±3%を超える)、追加の架橋は、残留未反応アクリレートの架橋を引き起こす可能性のある機構とは別の機構により引き起こされる。
【0133】
パーキン・エルマー・ラムダ40(Perkin Elmer Lambda 40)を用いてUV分光法により、以上に記載したように適用されたコーティングを分析した。254nmにおけるフェニル基の吸光度と279nmにおけるカルボニルに結合されたフェニル基のUV吸光度との比を求めた。これらの比を以下の表10に示す。
【0134】
【表14】
【0135】
実際のUVスペクトルを図9に示す。
【0136】
表10および図9の結果から示されるように、コーティングが蒸発工程に付され、続いてUV処理に付された場合、UV吸光度比(254nm/279nm)が増大し、この手順が反復された場合、UV吸光度比(254nm/279nm)がさらに増大する。また、カルボニル基と結合したフェニル環の吸収の消失が実験から示される。このことによっても、図8に与えられている提案された機構が裏付けられる。
【0137】
図11に示されるように、UV吸光度比(254nm/279nm)の値は、架橋密度(1/T2)と共に増大する。
【0138】
したがって、IR分光法およびUV分光法、プロトンNMR T2緩和分析、ならびに抽出試験の結果を合わせれば、本発明に係る方法に基づいて、機能性ポリマー(この場合はPVP鎖)はノリッシュI型光開始剤から誘導される網状構造結合発色団を介して実際に支持ポリマー網状構造(この場合はPEG4000DA)に共有結合で架橋されたことが実証される。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】ノリッシュ1型光開始剤の二重使用の概略図。1回目は架橋であり、2回目は非架橋性ポリマーのグラフト化である。
【図2】UVのみで処理された先行技術に係るコーティング(四角)からおよび本発明に係る方法により作製されたコーティング(菱形)から抽出されうる移行性物質の量を表すグラフ。y軸:抽出された重量パーセント単位の移行性物質の量、x軸:J/cm2単位のUV照射量。
【図3】UVのみで処理された先行技術に係るコーティング(四角)からおよび本発明に係る方法により作製されたコーティング(菱形)から抽出されうるPEOの量を表すグラフ。y軸:抽出されたPEOのパーセント、x軸:J/cm2単位のUV照射量。
【図4】実施例18に記載される耐摩耗性試験の概略図。A:テンシオメーターロードセルに対するクランプ、B:40mmの距離、C:カテーテルチューブ(水が充填されている)、D:15mmの距離、E:支持成形型、F:水、G:被覆コイル。
【図5】実施例15(1)および16(3)の被覆コイルと市販品CP(2)との滑沢性の比較。本発明に係る両方のコーティングの静摩擦は、市販のサンプルの静摩擦よりも著しく少なく、一方、動摩擦は、本質的には同一である。y軸=摩擦力(mN)、x軸=変位(mm)。
【図6】実施例16(三角)および17(丸)の被覆コイルと市販品CPの2つの試料(四角または菱形)との耐摩耗性の比較。 y軸=静摩擦/動摩擦、x軸=非線形時間スケール。各データ点は、単一サイクルで2〜5mmの変位にわたり平均された静摩擦/動摩擦比を表している。最初の8サイクルの後、それぞれ5サイクルよりなるシリーズを各シリーズ間で15分間の待ち時間を設けて9回行った。
【図7】使用時間にわたる動摩擦力の変化。このグラフは、グラフに示されるように待ち時間を変化させた後、3サイクルの摩擦測定を行ったときに、動摩擦力が経時によりどのように変化するかを示している。たとえば、1回目の3回のサイクルの後、0,5分間の待ち時間を設けてから2回目の3回のサイクルを行い、次に、1分間の待ち時間を設けてから再び次の3回のサイクルを行った。丸:実施例16のコーティングで被覆されたコイル、三角:市販品CPを用いて得られたデータ。
【図8】提案された光グラフト化反応機構。
【図9】先行技術に係るコーティング(連続線、UV照射のみ)、本発明に係るコーティング(破線、UV/IR/UV/IR)、および本発明に係る他のコーティング(点線、UV/IR/UV/IR/UV/IR)の吸収プロファイルを示す図。このグラフは、溶媒蒸発に続いてUV照射が行われる過程でアリールカルボニル発色団が消費されることを明確に示している。x軸:波長(nm)、y軸:任意の吸光度単位。
【図10】溶媒の蒸発を介在させたUV照射の回数に対して架橋密度(1/T2で表される)を示すグラフ。図は、それぞれの追加のUV照射に伴う架橋密度の増大を明確に示している。y軸:プロトンT2緩和の速度、1/T2(ms−1単位)、x軸:溶媒の蒸発を介在させたUV照射の回数(1回、2回、または3回のUV照射)。四角:窒素雰囲気下で硬化させたPVP/PEGコーティング、丸:空気下で硬化させたPVP/PEGコーティング。コーティングの厚さは、24マイクロメートルであった。緩和速度は、70℃で測定されたものである。ラインは、データの最小二乗あてはめ(Y=a+bX)を示している。ただし、a=0.36±0.05、b=0.14±0.02、相関係数は0.95であり、標準偏差は0.05である。
【図11】プロトンT2緩和実験により示される架橋密度(1/T2で表される)とアリールカルボニル発色団の消費量との関係。 y軸:プロトンT2緩和の速度、1/T2(ms−1単位)、x軸:UV吸光度比254nm/279nm。四角:窒素雰囲気下で硬化させたPVP/PEGコーティング、丸:空気下で硬化させたPVP/PEGコーティング。コーティングの厚さは、24マイクロメートルであった。緩和速度は、70℃で測定されたものである。グラフは、架橋密度(1/T2で表される)がUV吸光度の比(254nm/279nm)の増加に伴って増加することを明確に示している。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、表面上に架橋ポリマーコーティングを取得する改良された方法に関する。本発明はまた、その方法により取得可能なコーティングおよびそれで被覆された物品に関する。本発明はまた、コーティングを含む医療器具、特定的には、改良された滑沢コーティングで被覆されたコイルに関する。
【0002】
コーティングを適用することにより表面に特定の機能特性を付与しようとする継続的な試みがなされてきた。たとえば、親水性コーティングを適用することにより疎水性表面を親水性にすることが可能である。その最も単純な形態では、親水性コーティングは、所望の親水性を提供する親水性ポリマーのような分子の層よりなる。繰り返し起こる問題は、表面に加えられた機械力または他の研磨力に耐えるのに十分な程度にそのような単一ポリマーコーティングが表面に接着しないことである。コーティングをより良好に表面に接着させる一般的な方法は、表面に共有結合されうる化学反応性基をポリマーに付加することである。しかしながら、ポリマーは、その方法で表面に架橋させた場合、その機能特性を失うことがしばしば見受けられる。また、この方法では、依然として、特定の高負荷用途で十分良好に表面に接着されないコーティングを生じる。
【0003】
より良好な結果は、表面への必要な接着を提供する第2の支持ポリマーの網状構造中に機能性ポリマーを物理的に閉じ込めることにより達成された。その方法では、機能性ポリマーの機能特性は、ほぼ良好に保持される。こうしたコーティングは、多くの場合、相互侵入網状構造またはIPNと呼ばれる。したがって、IPNは、コーティングに所望の特性を提供する第1の機能性ポリマーと、ポリマーの網状構造を形成するために化学的に架橋された支持ポリマーと、よりなる。機能性ポリマーを表面に共有結合させるのではなく網状構造中に物理的に閉じ込めることの固有の欠点は、機能性ポリマーがIPNからコーティングの環境中に移行する可能性があることである。
【0004】
本明細書中で使用される「移行性物質」という用語は、当技術分野で理解されているように、特定の状況下で特定のマトリックスから漏出する分子を意味するものとする。この用語は、当技術分野で同様に頻繁に使用される「被抽出性物質」または「被抽出性成分」と同義である。
【0005】
コーティングが液体に接触する特定の用途では、移行性物質の量を最小限に抑えたいという要望が存在する。たとえば、分離用の膜および食品接触用のフィルムに使用されるコーティングは、最小量の移行性物質を含有するものでなければならない。身体または体液に密に接触する医療器具(たとえば、コンタクトレンズ、ガイドワイヤ、およびカテーテル)をはじめとする医療用途の場合のように影響を受けやすい用途にコーティングが適用される場合、移行性物質の量を最小限に抑えたいという要望は、とくに切実なものとなる。1つ以上の成分がコーティングから失われると、コーティングの組成や機能特性が変化したりすぐ周りのホスト環境が汚染されたりする可能性がある。さらに、移行性成分は、コーティングの環境(たとえば、食品、人体、または体液)中に放出された場合、害を及ぼす可能性がある。
【0006】
IPNコーティングからのポリマーの移行を最小限に抑えるべくいくつかの方法が報告されている。提案された一解決策は、支持ポリマーの架橋密度を増大させることにより、より小さい網目を有する網状構造を形成することである。しかしながら、支持ポリマーの架橋密度を増大させると、脆性コーティングを生じたりかつ/または他の機械的要件が損なわれたりする可能性がある。
【0007】
他の提案された解決策(米国特許第4642267号明細書および米国特許第5700559号明細書)は、ファンデルワールス相互作用、水素結合相互作用、または静電相互作用を介して架橋支持ポリマーと非架橋機能性ポリマーとの分子相互作用を増大させることである。しかしながら、これらの方法では、とくに、反復される機械的摂動、劇的な温度変化、溶媒、電解質、ポリマー−ポリマー相互作用を妨害する溶液、またはIPNの劇的な膨潤を引き起こす状況にコーティングが付される場合、移行性物質の量の十分な減少は得られない(レジェ(Leger)ら著,「高分子(Micromolecules)」,1995年,第28巻,143頁、J.E マーク(J.E Mark)ら著,「高分子科学誌高分子物理編(J.Polym.Sci.Polym.Phys.Ed.)」(1983年),第21巻,1971頁)。
【0008】
機能性ポリマーを網状構造中により良好に閉じ込める他の解決策(米国特許第6224893号明細書)は、機能性ポリマー間に架橋を導入することである。その方法では、互いに化学的に結合されない2つのインターカレート性網状構造(一方は支持ポリマーよりなり、他方は機能性ポリマーよりなる)が形成される。そのような網状構造は、多くの場合、全相互侵入網状構造または全IPNと呼ばれる。そのような全IPNの作製に関係する化学的手順は、多くの場合、複雑で厄介なものであり、機能性ポリマーへの架橋性基の付加を含む。全IPNは、少量の移行性物質を有する優れたコーティングを提供しうるが、成分の重合速度の差異または2つの網状構造間の不適切な適合性により生じる相分離が原因で達成が困難である。これに関連する適合性とは、所望の機能を達成する2つのポリマーの能力を意味する。
【0009】
支持ポリマーと親水性ポリマーとよりなる滑沢コーティングから機能性ポリマーが移行するのを防止するさらに他の解決策は、米国特許第6238799号明細書に提供されている。この点に関して、支持ポリマーの網状構造中に反応導入される反応性基を機能性ポリマーに結合することが提案されている。そのような共有結合固定は、反応性モノマーを用いて重合された機能性ポリマー、たとえば、PVP/RCOOH、PVPアンヒドリドもしくはPVOHアンヒドリド、またはPVPアセトアミドと好適に併用されうると述べられている。その方法では、機能性ポリマーが支持ポリマーに化学的に架橋されて網状構造を形成したコーティングが得られる。しかしながら、この手順では、従来の化学反応を介して反応性基を機能性ポリマーに結合しなければならない。さらに、機能性ポリマーの可動性が制限されることにより、コーティングの機能特性が悪影響を受けると述べられている。
【0010】
さらに他の解決策は、WO99/64086に提案されており、この場合には、ベンゾフェノン(ノリッシュII型光開始剤)を用いて化学的に官能基化された支持ポリマー(ポリジメチルシロキサン)で鋼ステントが被覆される。支持ポリマーを乾燥させた後、次に、水素引抜きを介して機能性ポリマー(PVP)が網状構造にUV架橋される。この方法では、コーティング手順のコストおよび複雑さを増大させる二重コーティング工程が必要とされる。
【0011】
ノリッシュII型水素引抜き反応による光化学的表面改質は、米国特許第5,002,583号明細書で利用された。この方法では、表面上にグラフト化する前に親水性ポリマーおよびバイオポリマーをノリッシュII型発色団(典型的にはジアリールケトン)で修飾する追加の合成工程が必要とされる。
【0012】
依然として、以上で述べた解決策では、人体の場合のように移行性物質が少量であることが望まれる用途でコーティングを使用できるように所望の取扱いの容易さと移行性物質の量の十分な減少とを両立させることができないことが多いという意味で、完全に満足すべき結果は得られない。
【0013】
驚くべきことに、このたび、水素引抜き反応を介して支持ポリマーと機能性ポリマーとのポリマー架橋を引き起こすべくノリッシュI型光開始剤を使用することにより、溶媒中で支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの網状構造への機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーのとくに良好なグラフト化を達成しうることを見いだした。言い換えれば、本発明は、水素引抜き機構を介してポリマー架橋を引き起こすためのノリッシュ1型光開始剤の使用に関する。
【0014】
そのようなことは、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの架橋間の溶媒を蒸発させることにより達成可能である。この方法は、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーへの反応性基の個別の付加もノリッシュII型光開始剤による表面の事前含浸も必要としないという長所を有する。それにもかかわらず、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、支持網状構造に共有結合された状態になる。
【0015】
したがって、本発明は、
・ 支持ポリマー網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーと
・ 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーと
・ ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤と
を含むコーティング組成物が使用される方法に関する。
【0016】
一態様において、本発明は、
− 表面を提供する工程と
− 網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを提供する工程と
− 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーを提供する工程と
− ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤を提供する工程と
− コーティング組成物を得るために、前記少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを、好適な溶媒と共に、前記少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーおよび前記少なくとも1種の光開始剤と、混合する工程と
− 前記コーティング組成物を前記表面に適用する工程と
− 前記少なくとも1種の支持モノマー、支持ポリマー、または支持オリゴマーの架橋を引き起こすのに好適なエネルギー源を前記表面上のコーティング組成物に照射する工程と
− 前記溶媒を蒸発させる工程と
− 前記表面上のコーティング組成物に前記エネルギー源を少なくとももう1回照射する工程と
を含む方法を提供する。
【0017】
他の態様において、本発明は、
− 表面を提供する工程と
− 網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを提供する工程と
− 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーを提供する工程と
− ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤を提供する工程と
− コーティング組成物を得るために、前記少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを、好適な溶媒と共に、前記少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーおよび前記少なくとも1種の光開始剤と、混合する工程と
− 前記コーティング組成物を前記表面に適用する工程と
− 前記少なくとも1種の支持モノマー、支持ポリマー、または支持オリゴマーの架橋を引き起こすのに好適なエネルギー源を前記表面上のコーティング組成物に照射する工程と
を含む方法を提供する。ただし、前記支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの重合を開始して網状構造が形成するために、かつ前記支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーに結合された前記光開始剤を介して水素引抜き反応により前記機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーとの追加の架橋を生成するために、前記光開始剤が使用される。
【0018】
本発明で使用するのに好適な表面は、多孔性、疎水性、親水性、着色性、強度、可撓性、浸透性、伸び、耐摩耗性、および耐引裂性のような所望の特性を提供する表面である。好適な表面の例は、たとえば、金属、プラスチック、およびセラミックスよりなる表面である。本発明で表面として使用するのにとくに適した物品としては、カテーテル、ガイドワイヤ、ステント、金属およびプラスチックのインプラント、コンタクトレンズ、ならびに医療用チューブが挙げられる。
【0019】
本発明で使用するのに好適な支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、架橋反応を起こしうる複数の官能性部分を含み、前記支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、水性媒体のような媒体中に溶解可能またはで乳化可能である。官能性部分で架橋された場合、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、三次元網状構造を形成しうる。支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの官能性部分は、アミノ、アミド、スルフヒドリル(SH)、不飽和エステル、不飽和エーテル、および不飽和アミド、アルキド/乾性樹脂のようなラジカル反応性基よりなる群から選択されうる。好ましい実施形態では、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、ポリエーテル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリエチレンとポリプロピレンとの二官能性コポリマー、ポリビニルクロリド、エポキシド、ポリアミド、ポリエステル(たとえばポリオルトエステル)、およびアルキドコポリマーよりなる群から選択可能である。より特定的には、好適な支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリペプチド、ポリアクリル、またはポリサッカリド(たとえばセルロースおよびデンプン)よりなる群から選択される。特定的には、不飽和エステル、不飽和アミド、または不飽和エーテル、チオール基すなわちメルカプタン基を有する支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、本発明で好適に使用可能である。
【0020】
支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、コーティング組成物の0%超、好ましくは1%超、たとえば2%で使用しなければならない。しかしながら、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、コーティング組成物中に90%まで存在可能であり、より多くの場合、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、50、60、70、または80%まで使用されるであろう。コーティング溶液中の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの含有率の典型的な範囲は、1〜20%である。
【0021】
本明細書中で使用する場合、モノマーという用語は、約1000Da未満の分子量を有する分子を意味し、オリゴマーという用語は、約1000〜約10,000Daの分子量を有する分子に対して使用され、一方、ポリマーという用語は、約10,000Da以上の分子量を有する分子を意味する。
【0022】
本発明の一実施形態では、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、約500〜約100,000の範囲内の分子量を有し、好ましくは、約1,000〜約10,000の範囲内の分子量を有するオリゴマーである。とくに良好な結果は、約2,000〜約6,000の範囲内の支持オリゴマーを用いて得られた。1分子の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーあたりの反応性基の数は、好ましくは約1.2〜約64の範囲内、より好ましくは約1.2〜約16の範囲内、最も好ましくは、約1.2〜約8の範囲内である。
【0023】
機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、たとえば、滑沢性、親水性、疎水性、画像形成性、または薬剤溶出能(ただし、これらに限定されるものではない)のような機能をコーティングに提供することが可能である。機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、合成由来または生体由来でありうる。また、両者のブレンドまたはコポリマーでありうる。合成親水性ポリマーとしては、ポリ(ラクタム)(たとえばPVPまたはPVC)、アクリル酸およびメタクリル酸のホモポリマーおよびコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、無水マレイン酸系コポリマー、ポリエステル、ビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリ(カルボン酸)、ポリアミド、ポリアンヒドリド、およびポリホスファゼンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。生体由来またはバイオインスパイアードの親水性ポリマーとしては、セルロース系物質(メチルカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルカルボキシメチルセルロース、またはヒドロキシプロピルカルボキシメチルセルロース)、ヘパリン、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリペプチド(コラーゲン、フィブリン、エラスチン)、ポリサッカリド(キトサン、ヒアルロン酸、アルギネート、ゼラチン、キチン、ポリエステル(ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン)、コラーゲンのようなポリペプチド、アルブミン、オリゴペプチド、ポリペプチド、短鎖ペプチド、タンパク質、またはオリゴヌクレオチドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の一実施形態では、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、約8,000〜約5,000,000の範囲内の分子量を有し、好ましくは約20,000〜約2,000,000の範囲内、より好ましくは約200,000〜約1,300,000の範囲内の分子量を有するポリマーである。
【0025】
機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、明らかに、コーティング組成物の0%超、好ましくは1%超、たとえば2%で使用しなければならない。しかしながら、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、コーティング組成物中に90%まで存在可能であり、より多くの場合、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、50、60、70、または80%まで使用されるであろう。コーティング溶液中の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーの含有率の典型的な範囲は、1〜20%である。
【0026】
機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーと支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーとの比は、たとえば10:90〜90:10、たとえば25:75〜75:25、またはたとえば60:40〜40:60の範囲内のさまざまな値をとりうる。実施例の節には、前記比が50:50であるときのとくに有利なコーティング組成物の例が示されている。
【0027】
本発明で使用するのに好適な光開始剤は、光化学的ノリッシュI型開裂反応または他の光化学的ホモリティック結合開裂を行いうる化合物である。光開始重合は、2つのタイプの光開始剤により開始可能である。ノリッシュI型光開始剤は、発色団のホモリティック開裂により生じて、重合を開始するラジカルを直接的に発生し、ノリッシュII型光開始剤は、好適な相乗剤(たとえば第三級アミン)からの水素引抜きによりラジカルを間接的に発生する。より詳細には、遊離基光開始剤は、開始ラジカルを形成する過程に基づいて2つのクラスに大別される。式(1):
【化1】
により示されるように、照射時に単分子結合開裂を起こす化合物は、ノリッシュI型光開始剤またはホモリティック光開始剤と称される。
【0028】
官能基の性質および分子中におけるカルボニル基に対するその位置に依存して、フラグメント化は、カルボニル基に隣接する結合で(α開裂)、β位の結合で(β開裂)、またはとくに弱い結合(たとえばC−S結合またはO−O結合)の場合、他の離れた位置で、起こりうる。光開始剤分子中の最も重要なフラグメント化は、アルキルアリールケトン中のカルボニル基とアルキル残基との間の炭素−炭素結合のα開裂であり、これはノリッシュI型反応として知られる。
【0029】
式(2)により示されるように励起状態の光開始剤が第2の分子(共開始剤COI)と相互作用して二分子反応でラジカルを発生する場合、開始系は、II型光開始剤と称される。一般的には、II型光開始剤の2つの主反応経路は、励起開始剤による水素引抜きまたは光誘起電子移動、それに続くフラグメント化である。二分子水素引抜きは、ジアリールケトンの典型的な反応である。光誘起電子移動は、より一般的な過程であり、特定のクラスの化合物に限定されない。
【化2】
【0030】
好適なI型光開始剤または開裂遊離基光開始剤の例は、ベンゾイン誘導体、メチロールベンゾイン誘導体および4−ベンゾイル−1,3−ジオキソラン誘導体、ベンジルケタール、α,α−ジアルコキシアセトフェノン、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、アシルホスフィンスルフィド、ハロゲン化アセトフェノン誘導体などである。好適なI型光開始剤の市販品の例は、イルガキュア2959(Irgacure 2959)(2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン)、イルガキュア651(Irgacure 651)(ベンジルジメチルケタールまたは2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタノン、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、イルガキュア184(Irgacure 184)(活性成分として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、ダロキュア1173(Darocur 1173)(活性成分として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、イルガキュア907(Irgacure 907)(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、イルガキュア369(Irgacure 369)(活性成分として2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、エサキュアKIP 150(Esacure KIP 150)(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}、フラテッリ・ランベルティ(Fratelli Lamberti))、エサキュアKIP 100 F(Esacure KIP 100 F)(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}と2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンとのブレンド、フラテッリ・ランベルティ(Fratelli Lamberti))、エサキュアKTO 46(Esacure KTO 46)(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}と2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−ホスフィンオキシドとメチルベンゾフェノン誘導体とのブレンド、フラテッリ・ランベルティ(Fratelli Lamberti))、アシルホスフィンオキシド、たとえば、ルシリンTPO(Lucirin TPO)(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、バスフ(BASF))、イルガキュア819(Irgacure 819)(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−ホスフィン−オキシド、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))、イルガキュア1700(Irgacure 1700)(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンとの25:75%ブレンド、チバ・ガイギー(Ciba−Geigy))などである。また、I型光開始剤の混合物を使用することも可能である。着色(たとえば顔料着色)系では、ホスフィンオキシド型光開始剤およびイルガキュア907(Irgacure 907)が好ましい。
【0031】
光開始剤は、従来の方法で使用可能である。このことは、当業者であれば、所望の効果を得るのに必要とされる光開始剤の量がわかるであろうことを意味する。一般的には0超〜10%、たとえば0,2〜5%の量があれば、ほとんどの目的に十分であろう。
【0032】
溶媒という用語は、本明細書中では、その通常の意味で使用される。原理的には、任意の溶媒を本発明で使用することが可能である。好ましい溶媒としては、1,3−ジオキソランおよび他のエーテル、アセトンおよび他のケトン、ジメチルスルホキシドおよび他のスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよび他のアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよび他のラクタム、エタノールおよび他のアルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル、他のエステル、アミン、複素環式化合物、モルホリンおよび誘導体、アルキル化ウレア誘導体、液体ニトリル、ニトロアルカン、ハロアルカン、ハロアレーン、トリアルキルホスフェート、ジアルキルアルカンホスホネート、および他の一般に知られる有機溶媒が挙げられる。好ましい溶媒を単独でまたは組み合わせて使用することが可能である。現時点で好ましい溶媒は、水、エタノールのようなアルコール、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、1,3−ジオキソラン、およびジメチルホルムアミドから選択される。
【0033】
溶媒は、好ましくは、揮発性溶媒または適度な揮発性の溶媒である。「揮発性溶媒」および「適度な揮発性の溶媒」という用語は、蒸発速度の観点から解釈されるものとする。この目的では、これに関連した特定のガイドラインを提供するために、典型的には、ブチルアセテートを基準にした蒸発速度が使用される(とくに、A.サールナック(A.Saarnak),C.M.ハンセン(C.M.Hansen)著:「溶解パラメーター、色素結合剤およびポリマーのキャラクタリゼーション(Loslighedsparametrar,Karaktarisering avfargbindemedel och polymerer)」,スカンジナビア塗料印刷インク研究所(Scandinavian Paint and Printing Ink Research Institute)刊,デンマーク国ヘルスホルム(Hrsholm,Denmark),1982年5月(スウェーデン語)を参照されたい)。この論文によれば、蒸発速度(ER)は、ブチルアセテートの蒸発速度(ER=1.0)の3.0倍超、すなわち、ER>3.0のとき「急速」、0.8<ER<3.0のとき「中速」、0.1<ER<0.8のとき「緩速」、およびER<0.1のとき「非常に緩速」である。「揮発性」および「適度な揮発性」は、それぞれ、「急速」および「中速」の蒸発速度に対応する。
【0034】
支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、当技術分野で公知の任意の方法により他の成分と共にコーティング組成物中に混合導入して表面に適用することが可能である。任意の湿式コーティング適用方法がこの目的に適合しうる。こうした方法としては、ディップコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、カーテンコーティング、またはトランスファーコーティングとして当技術分野で公知の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。コーティングの厚さは、0cm超〜1cmの範囲内のさまざまな値をとりうるが、好ましくは、コーティング組成物は、0マイクロメートル超〜100マイクロメートルの乾燥コーティングを生じる厚さで適用される。
【0035】
次に、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーは、好適なエネルギー源を照射することにより架橋される。このエネルギー源は、たとえば、光(たとえば、UV光、可視光、もしくは近IR光)、マイクロ波、電子ビーム、またはプラズマよりなる群から選択可能である。コーティング組成物にエネルギー源を照射する目的は、当然ながら、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの効果的な架橋である。これに関連してどの効果的な手段を用いるかは、ある程度、コーティングの所望の機能により決定される。すべてではないにしてもほとんどの場合、エネルギー源の第1の照射は、ゲル化点を超えて支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの網状構造の形成を引き起こすのに十分なものでなければならない。通常、このことは、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーに結合された官能性部分の転化率が、40%超、たとえば、60%超、70%超、80%超、または90%超であることを意味するが、好ましくは、95%超である。支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーに結合された官能性部分の転化率は、先行技術で利用可能な任意の好適な方法により決定可能であり、好適な一方法は、以下の実施例の節に例示される。
【0036】
適切な時間内で、たとえば、10分間未満で、たとえば、7分間未満、6分間未満、5分間未満、4分間未満、さらには3分間未満で、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの所望の架橋レベルが達成されるような量のエネルギーを供給しうる人工エネルギー源(すなわち、太陽光のような天然源ではないもの)を使用することが好ましい。高スループット用途では、最小限の時間で、たとえ数秒間程度であっても、高照射量を供給しうるエネルギー源を使用することが望まれることもある。10mJ/cm2〜50J/cm2程度、好ましくは2〜10J/cm2程度の全照射量を供給しうるエネルギー源を使用したときに最良の結果が得られることが期待される。
【0037】
エネルギー源を照射した後、次に、コーティングは蒸発工程に付される。たとえば、これは、便宜上、放射線源もしくは伝熱源を用いる単純な熱処理により、空気流により、またはN2、Ar、もしくはCO2のような他の不活性ガスへの暴露により、達成可能である。減圧または真空を加えることより、蒸発工程の速度を促進することが可能である。溶媒を蒸発させる他の方法も同様に実施可能である。
【0038】
本発明の利点を十分に活かすために、エネルギー源をさらにもう一度照射することが必要である。すなわち、2回目の照射の後、すでに、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーは、より効果的に網状構造にグラフト化された状態になる。実用上の理由で、1回目の照射に使用したのと同一のエネルギー源および/または照射量および/または照射時間を使用することが好ましいが、これは絶対に必要というわけではない。
【0039】
さらにより良好な結果を得るために、再び、手順を反復してもよい。すなわち、エネルギー源の2回目の照射の後、再び、溶媒を蒸発させ、3回、4回、または任意のさらなる回数で、コーティングにエネルギー源を照射する。したがって、本発明はまた、コーティング組成物へのエネルギー源の最後の照射の後で溶媒を蒸発させる前記工程が反復される請求項1に記載の方法に関する。
【0040】
ノリッシュI型光開始剤の二重使用を介して(図1)、1回目に、ノリッシュI型光開始反応で支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの重合を開始して網状構造を形成し、2回目に、重合の開始を介して支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーに結合された発色団を介して水素引抜き反応により機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーとの追加の架橋を生成することにより、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーのグラフト化に関して観測された改良が達成されるものと我々は推定している(理論により拘束されることを望むものではないが)。この水素引抜き反応の結果として、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーと機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーとの両方に新たなラジカルが形成される。これらのラジカルは、直接的または間接的に反応して新たな架橋を形成することが可能である。これについては、図8に模式的に示されている。
【0041】
場合により、適用に便利な任意の方法で、薬剤やペプチドのような生物学的活性化合物をコーティングに添加してもよい。そのような手順は、当技術分野で公知である。コーティングをイメージング用途または抗微生物用途に使用する場合、銀、白金、BaSO4、シリカ、チタニアジルコニア、コアシェルゴム、顔料、または着色剤のような充填剤を添加してもよい。ミセル、リポソーム、ポリメロソーム、デンドリマー、酵母細胞壁などのようなカプセル化剤を用いて分子をカプセル化してコーティング中に分散してもよい。
【0042】
以上に記載した本発明により従来のコーティングを再評価することが可能である。以上の本発明に記載したような逐次的な架橋工程および蒸発工程を適用することにより、支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーから形成された支持網状構造に機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーをより良好にグラフト化しうることがいまや明らかになるであろう。このことは、広範な用途にあてはまることが判明した。以下の実施例では、親水性、滑沢性、抗微生物性、抗血栓性、さらにはイメージング機能、抗石灰化剤、殺真菌性、耐摩耗性、および疎水性をはじめとする改良された機能特性を有するコーティングについて説明する。
【0043】
本発明はまた、架橋された機能性コーティングに関する。このコーティングでは、支持網状構造を形成しうる支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーが、ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を介して、少なくとも1つの機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーに共有結合されている。
【0044】
本発明に係るコーティングはまた、その耐摩耗性に関しても優れた性質を有する。先行技術に係る架橋された機能性コーティングは、以下で本明細書に記載される耐摩耗性試験で試験したときに静摩擦対動摩擦比の大きい変動を示されたが、本発明に係るコーティングは、53サイクルの試験時間にわたり本質的に同一の静摩擦対動摩擦比を示された。
【0045】
以下の実施例のいずれにおいても、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーのより良好なグラフト化は、コーティングの機能特性を損なうことなく達成された。さらに、いくつかの場合には、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーがコーティング中により良好にグラフト化されたという事実に加えて、コーティングの機能特性が、従来のコーティングと比較して一層改良された。したがって、本発明は、以上に記載したような方法により取得可能なコーティングに関する。
【0046】
したがって、本発明は、架橋された機能性コーティング、たとえば、親水性コーティングや滑沢コーティングなどを取得する方法に関する。ただし、この方法では、
− 支持網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーと
− 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマー、
− ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤と
を含むポリマー溶液が使用される。
【0047】
例示されるように、これらのコーティングは、医療器具上に適用したときにとくに有利である。したがって、本発明はまた、本発明に係るコーティングを含む医療器具に関する。
【0048】
滑沢コーティングを含むコイルの重要な特性の1つは、可能なかぎり小さい静摩擦力を呈するものでなければならないことである。他の重要なパラメーターは、そのようなコイルがコイルの使用時間にわたり一定した動摩擦力を有するものでなければならないことである。そのようなコイルを用いれば、ユーザー(主に外科医)は、患者の体内でコイルを移動させるのに必要な力の大きさを予測することが可能であり、さもなければ、コイルの使用により患者が重度の傷害を受ける可能性がある。本発明に従って被覆されたコイルを用いて得られるデータは、両方の要件を満たした。すなわち、それらは、時間が経っても一定した動摩擦を有し、一方、それらは、1もしくは1に近い静摩擦対動摩擦比を長時間続性することにより実証されるように実質的にまったく静摩擦を有していない(図5)。
【0049】
実施例16および17に記載されるように、本発明に係るコイルの性能は、使用時間にわたり先行技術のデバイスよりも一定していることが判明した。市販のサンプルを用いて得られた比の大きい変動は、主に、それらの静摩擦の大きいサイクル間変動に起因することが判明し、一方、それらの動摩擦は、サイクル間で比較的「一定」していた。しかしながら、このことは、それらの動摩擦が実験全体を通して依然として約2倍であることを意味する。これとは対照的に、本発明に係るコーティングを用いて得られた静摩擦値および動摩擦値はいずれも、著しく一定していた。これらのデータから明らかなように、本発明に係るコーティングの静摩擦/動摩擦比の変動係数は、9よりもかなり小さく、一方、先行技術のコーティングのこの変動係数は、17よりもかなり大きい。したがって、本発明は、実施例20または以下の特許請求の範囲に記載されるような耐摩耗性試験で試験したときに呈する静摩擦/動摩擦比の変動係数が17未満であるコーティングに関する。
【0050】
実施例21に記載されるような耐摩耗性試験では、本発明に係る滑沢コーティングで被覆されたコイルは、51サイクルにわたり78mN(標準偏差2.1)の平均動摩擦力を呈し、一方、先行技術に係る滑沢コーティングで被覆されたコイルは、94mN(標準偏差47.1)の平均動摩擦力を呈することが判明している。重負荷耐摩耗性試験でもまた、本発明に係るコーティングを有するコイルの動摩擦力は、時間が経っても著しく一定した状態を保持し、一方、先行技術に係るコーティングを有するコイルは、5倍(36mN〜186mN、表8)の変動を示すことが判明した。このことは、2つの異なるコイルを用いて得られた値の変動係数に反映される。すなわち、本発明に係るコーティングを有するコイルは、2,7%の変動係数を有し、一方、先行技術に係るコーティングを有するコイルは、50%の変動係数を有していた(図7、表8)。
【0051】
本発明はまた、以上で本明細書に記載したような方法のいずれかにより取得可能なコーティングに関する。
【0052】
本発明はまた、移行性物質の量が10重量%未満、たとえば、8%未満、7%未満、または6%未満である架橋ポリマーコーティングに関する。
【0053】
本発明はまた、本発明に係るコーティングを含む医療器具に関する。
【0054】
本発明はまた、被覆コイルの静摩擦力を決定する方法に関する。ただし、この方法は、
− 被覆コイルを耐密に収容するのに好適な内径を有するカテーテルチューブを提供する工程と
− カテーテルが40mmの直径を有する半円を形成するように保持デバイス中にカテーテルを配置する工程と
− カテーテルチューブ内に被覆コイルを配置する工程と
− 23℃の水浴中にカテーテルチューブを浸漬する工程と
− カテーテルチューブを水でフラッシングする工程と
− 20Nロードセルに取り付けられたテンシオメーターに被覆コイルを取り付ける工程と
− 毎分約200mmの速度でカテーテル内で被覆コイルをプッシュプルサイクルで移動させる工程と
− サイクルのプル部分の最初の2mmで最大の力として静摩擦を測定する工程と
を含む。
【0055】
本発明はまた、被覆コイルの動摩擦力を決定する方法に関する。ただし、この方法は、
− 被覆コイルを耐密に収容するのに好適な内径を有するカテーテルチューブを提供する工程と
− カテーテルが40mmの直径を有する半円を形成するように保持デバイス中にカテーテルを配置する工程と
− カテーテルチューブ内に被覆コイルを配置する工程と
− 23℃の水浴中にカテーテルチューブを浸漬する工程と
− カテーテルチューブを水でフラッシングする工程と
− 20Nロードセルに取り付けられたテンシオメーターに被覆コイルを取り付ける工程と
− 毎分約200mmの速度でカテーテル内で被覆コイルをプッシュプルサイクルで移動させる工程と
− サイクルのプル部分の2〜5mmの変位にわたる平均力として動摩擦を測定する工程と
を含む。
【0056】
本発明はまた、被覆コイルの静摩擦/動摩擦比を決定する方法に関する。ただし、この方法は、
− 被覆コイルを耐密に収容するのに好適な内径を有するカテーテルチューブを提供する工程と
− カテーテルが40mmの直径を有する半円を形成するように保持デバイス中にカテーテルを配置する工程と
− カテーテルチューブ内に被覆コイルを配置する工程と
− 23℃の水浴中にカテーテルチューブを浸漬する工程と
− カテーテルチューブを水でフラッシングする工程と
− 20Nロードセルに取り付けられたテンシオメーターに被覆コイルを取り付ける工程と
− 毎分約200mmの速度でカテーテル内で被覆コイルをプッシュプルサイクルで移動させる工程と
− サイクルのプル部分の最初の2mmで最大の力として静摩擦を測定する工程と
− サイクルのプル部分の2〜5mmの変位にわたる平均力として動摩擦を測定する工程と
− 静摩擦力を動摩擦力で割り算する工程と
を含む。
【0057】
本発明はまた、架橋ポリマーを含む滑沢コーティングを備えた被覆コイルに関する。ただし、前記コイルは、以上に記載した方法で測定したときに、300未満、好ましくは200未満、たとえば175または150の静摩擦力を有する。
【0058】
本発明はまた、架橋ポリマーを含む滑沢コーティングを備えた被覆コイルに関する、ただし、前記コイルは、以上に記載したような方法で測定したときに、4回の初期サイクルの後で2未満の静摩擦/動摩擦比を有する。
【0059】
本発明はまた、架橋ポリマーを含む滑沢コーティングを備えた被覆コイルに関する。ただし、前記コイルは、2.9未満、好ましくは2.5未満、たとえば、2.2未満、2.0未満、1.8未満、1.7未満、1.6未満、もしくは1.5未満の平均静摩擦/動摩擦比を有し、前記平均比は、以上に記載したような方法で測定される静摩擦/動摩擦比の最初の52回もしくは53回の測定にわたり決定される。
【0060】
本発明はまた、架橋ポリマーを含む滑沢コーティングを備えた被覆コイルに関する。ただし、前記コイルは、以上に記載したような方法で測定したときに、最初の52回もしくは53回のサイクルにわたり測定される静摩擦/動摩擦比間で、15%未満、好ましくは12%未満、たとえば、11%未満、10%未満、もしくは9%未満の変動係数を有する。
【0061】
本発明はまた、架橋ポリマーを含む滑沢コーティングを備えた被覆コイルに関する。ただし、前記コイルは、摩擦力の変動係数が、50%未満、好ましくは45%未満、たとえば、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、8%未満、6%未満、4%未満、さらには3%未満であり、前記変動係数は、以上に記載した方法で測定したときに、最初の51回のサイクルにわたり測定される静摩擦/動摩擦比に関して決定される。
【実施例】
【0062】
実施例1:PEG4000ジアクリレート支持オリゴマーの合成
窒素下、45℃で、150グラムのPEG4000ジオール(フルカ(Fluka)製のバイオヘミカ・ウルトラ(Biochemika Ultra))[95904],OH価:28.02mgKOH/g,499.5meq/kg,)を450mlの無水トルエン中に溶解させた。50℃/70mbarで共沸蒸留することによりPEG/トルエン溶液を脱水した。アクリロイルクロリド(8.15グラム、90mmol)およびトリエチルアミン(9.10グラム、90mmol)を両方とも50ml無水トルエンで希釈して、PEGジオール−トルエン溶液に滴下した。窒素下、45〜50℃で、反応系を少なくとも4時間攪拌した。完全なアクリレートエンドキャッピングを保障するために、追加の10mmolのアクリロイルクロリドおよびトリエチルアミンを反応混合物に添加して1時間反応させた。反応混合物を加温濾過してEt3NHCI塩を除去した。真空下(50℃、20mbar)で約300mlのトルエンを除去した。残りの溶液を加熱滴下漏斗中で45℃に保持し、氷浴中で冷却された1リットルのジエチルエーテルに滴下した。PEGジアクリレートが白色の結晶として沈澱した。エーテル溶液を1時間冷却した後、濾過によりPEGジアクリレート生成物を得た。減圧空気雰囲気下(300mbar、空気流)で生成物を一晩乾燥させた。この手順により129gのアクリル化オリゴマー(非最適化収率82%)を得た。
【0063】
実施例2:PEG2000ジアクリレート支持オリゴマーの合成
実施例1に記載の手順に従って、150グラムのPEG(148mmol OH、OH価:55.26mgKOH/g、985meq/kg、Mn:2030)をアクリロイルクロリド(14.8グラム、163mmol≒ヒドロキシ基に対して1.1eq)およびトリエチルアミン(16.6グラム、164mmol)と反応させた。この手順により128gのアクリル化オリゴマー(非最適化収率83%)を得た。
【0064】
実施例3:抽出試験用のコーティング組成物
【0065】
【表1】
【0066】
材料を混合一体化させてコーティング組成物を得た。
【0067】
実施例4:抽出試験用のコーティングの適用
200μmギャップのドクターブレードを用いて、実施例3のコーティング組成物をエタノール洗浄されたメリネックス(Melinex)PETシート上に適用した。使用前にPETシート(100×150×0.125mm)の重量を0.1mgの確度で決定した。コーティング組成物をPETシート上に適用した直後、コーティング組成物にUV光(2J/cm2のUV照射量を有するフュージョン(Fusion)F600 Dバルブ)を照射した。この処理から得られたコーティングをUVのみで得られたものとして記す。
【0068】
1回目のUV処理の後、溶媒の蒸発に続いてもう一度UV処理を行ったときにより良好なグラフト化が達成されることを示すために、次の一連の実験をデザインした。各UV硬化工程間で溶媒の蒸発を行うことなく、対照実験を行った。
【0069】
IRランプは、5cm間隔かつ被覆サンプルから10cm上に配置された6個の30cm 1000Wフィリップス(Philips)ランプよりなる。加熱を12秒間行った。これらの12秒間で、表面の温度が150℃を超えることはなかった。1回目のUV処理の後でUVおよび蒸発の連続したサイクルに1〜4回付されたコーティングが得られるように、UV照射および蒸発の手順を反復した(表2)。
【0070】
【表2】
【0071】
次に、減圧窒素雰囲気下(200mbar)、105℃で、コーティングを12時間乾燥させた。乾燥後、約40μmの厚さのコーティングが得られた。アクリレートの転化率をATR−FTIRにより測定した。これらの測定から、アクリレートの転化率が一段階のUVのみ(2J/cm2)の硬化コーティングの95%±2をすでに超えていることがわかった。
【0072】
この測定のために、ゴールデン・ゲート(Golden Gate)減衰全反射(ATR)アクセサリーを備えたパーキン・エルマー・スペクトラム・ワン(Perkin Elmer Spectrum One)FTIRスペクトロメーターを使用した。スペクトロメーターは、DTGS検出器よりなり、ゴールデン・ゲート(Golden Gate)アクセサリーは、一回反射ダイヤモンド結晶を利用する。4cm−1のスペクトル分解能で32回のスキャンを平均して4000〜650cm−1の赤外スペクトルを記録した。スペクトラム・フォー・ウィンドウズ(Spectrum for Windows)ソフトウェアのバージョン3.02.01を使用した。未抽出UV硬化コーティングのFT−IRスペクトル中の1410cm−1のアクリレート特異的C−H変角振動バンドを未硬化配合物のスペクトルと比較することにより、アクリレート基の転化率を測定した。
【0073】
実施例5:重量分析による移行性物質の定量
200mlの蒸留水を用いて実施例4の被覆PETシートを37℃で1時間抽出し、次に、減圧窒素雰囲気(200mbar)、105℃で、12時間乾燥させた。抽出の前後でPETシートを秤量した。非被覆PETシートを対照として使用した。対照シートの重量損失は無視しうることが観測により確認された(<0.1%の平均コーティング重量損失)。重量損失を被覆シート中の移行性物質の量に帰属しうることは、図2から明らかである。
【0074】
UV照射に続いて溶媒の蒸発を1回行い(IRにより)かつUV照射を反復するにより移行性物質の量がすでに有意に低減されていることは、図2に示されるデータから明らかである。この処理を反復することにより移行性物質の量がさらに低減されることが判明した。
【0075】
実施例6:移行性成分の分析
実施例5に記載の実験でコーティングのどの成分が実際に移行し除去させたかを調べるために、以下の実験をデザインした。
【0076】
理論上、移行性成分は、PEOまたはPEGDAのみであるとみなすことが可能である(光開始剤の量は、無視可能であり、移行性物質の量に有意に寄与しないとみなしうる)。以下の手順により蒸留水抽出物中に存在するPEGDAの量を測定し、次に、PEOの量を計算する。移行性成分は、主に(約90%超)PEOであり、一方、コーティング組成物は、約10%PEOを含有するにすぎないことが判明した。さらに詳細に述べると、手順は、次のとおりであった。
【0077】
実施例5で得られた蒸留水抽出物を、80℃で溶媒を一晩蒸発させた後でATR−FTIRにより分析した。抽出されたPEOの絶対量を式1に示されように決定した。抽出物中のPEGDAの相対量を規格化FTIRスペクトルの1730cm−1のエステルカルボニル特異的C=O伸縮振動バンドのピーク面積に関連付けた。コーティングおよび乾燥させた抽出物について、1753および1696cm−1でベースライン点を適用してピーク面積を計算した。アクリレートを重合した場合、アクリレートカルボニルバンドは、わずかにシフトする。しかしながら、未反応アクリレートおよび反応アクリレートが組み込まれるように、ベースライン点を選択した。抽出前のコーティングを参照として使用した。抽出前のコーティングのPEGDA画分は、0.9である。
【0078】
抽出されたPEOの絶対量を全コーティングに対するパーセントとして以下のように計算した。
【数1】
式中、
m%=実施例5で決定された重量損失画分(図2)
[PEGDA]coating=コーティング中のPEGDA画分(=0.9)
A1730extract=抽出物のアクリレートカルボニルバンド1730cm−1のピーク面積
A1730coating=コーティングのアクリレートカルボニルバンド1730cm−1のピーク面積
【0079】
したがって、移行性成分は、機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーであることが確認された。この場合、PEOである。アクリレートの転化率が1回目のUV照射後の95%をすでに超えていることがすでに確証されているので(上記参照)、期待どおり、支持ポリマーは、そのごくわずかな画分のみがコーティングから移行し除去されるにすぎない。図3は、コーティングの溶媒をUV照射間で蒸発させた場合、抽出物中のPEOの絶対量が有意に減少することを示している。
【0080】
実施例7:ウレタンジアクリレートオリゴマーの合成
0.3g(0.48mmol)のジブチルスズジラウレエート(DBTDL)またはスズIIエチルヘキサノエート(0.5g(1.3mmol)の存在下で、75.48g(0.65mol)のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)を113.20g(0.65mol)の2,4−トルエンジイソシアネート(TDI)に滴下した。イソシアネート基(NCO)の転化率を滴定により監視した。174.95g(0.60mol)のこのHEA−TDI混合物をホドガヤ(Hodogaya)製の301.33グラムのPTGL1000(0.60molのOH)および0.3gのイルガノックス1035(Irganox 1035)に添加して攪拌した。温度を80℃まで徐々に上昇させた。7時間後、NCO価は0.026%であった。一晩で反応混合物を50℃まで冷却させた。さらに16時間後、NCOレベルは0.007%であった。ウレタンジアクリレートオリゴマーの収率は、450g(92%)であった。
【0081】
実施例8:プライマーコーティング用のコーティング配合物(プライマーA)
【0082】
【表3】
【0083】
材料を混合一体化させてコーティング組成物を得た。
【0084】
実施例9:プライマーコーティングのコーティング配合物(プライマーB)
【0085】
【表4】
【0086】
材料を混合一体化させてコーティング組成物を得た。
【0087】
実施例10:親水性トップコートA(PVP 360,000)
【0088】
【表5】
【0089】
材料を混合一体化させてコーティング組成物を得た。
【0090】
実施例11:親水性トップコートB(PVP 1,300000)
【0091】
【表6】
【0092】
材料を混合一体化させてコーティング組成物を得た。
【0093】
実施例12:ガイドワイヤフィラメント上へのPESプライマーの適用
コーティングダイを用いて、165μmの直径を有するステンレス鋼ガイドワイヤフィラメント上にプライマーコーティングを適用した。米国特許第6,086,547号明細書および医用材料研究誌(応用生体材料)(J.Biomed.Mater.Res.(Appl.Biomaterials))第63巻:692−698頁,2002年に記載されるように、プライマー(デュポン(Du Pont)、420−810)(N−メチルピロリドン(NMP)中の25w%のポリエーテルスルホン)を適用し、ステンレス鋼ワイヤ上に3〜5μmのコーティング厚さを得た。高沸点NMP溶媒を除去するために、オーブン温度は300℃であった。
【0094】
実施例13:ガイドワイヤフィラメント上への光硬化性コーティングの適用
光硬化性コーティングを適用できるように、図4に示されるようにコーティングダイとオーブンとの間にUVランプを取り付けて、米国特許第6,086,547号明細書および「医用材料研究誌(応用生体材料)(J.Biomed Mater.Res.(Appl.Biomaterials))」第63巻:692−698頁,2002年に記載のフィラメントコーティングラインを改造することにより、円筒形状の周囲で全照射を行うようにした。R500リフレクターを備えたフュージョン(Fusion)F600ランプ,Dバルブ(最大240W/cm2)を使用した。UVランプと組み合わせて使用した場合、オーブン温度を150℃に設定した。コーティングラインの速度は、70m/minであり、その結果、各UV照射後、0.7W/cm2のUV照射量(UVランプ下を通過するごとに)および10秒間のオーブン内滞留時間を得た。ディフューザーを備えたソラテル(Solatell)TM光度計を用いて、UV照射量を測定した。
【0095】
鋼フィラメント(165μmの直径)上に直接にまたは実施例12に従って被覆されたPESプライマー被覆フィラメント上にUVプライマーコーティングを適用した(コーティングダイを介して)。UVプライマーコーティングの乾燥膜厚さは、1〜3ミクロンであった。
【0096】
UVランプ下(0.7W/cm2/パス)およびオーブン下(150℃)に親水性コーティングを複数回(1〜5回)通したという大きい差異はあるが、プライマーコーティングに関連して記載したのと同じ方法で、親水性トップコートAまたはB(実施例10または11)をプライマー被覆鋼ワイヤフィラメント上に適用した。乾燥滑沢コーティングは、2〜3μmの厚さを有していた。
【0097】
実施例14:被覆ワイヤのコイリング
医用材料研究誌(応用生体材料)(J.Biomed Mater Res(Appl Biomaterials))第63巻:692−698頁,2002年に記載されているように制御可能な速度を有する電気モーターに接続されたスピンドルを用いて、実施例13の多重被覆鋼フィラメントを0,43mmの直径のステンレス鋼コアワイヤ上に80〜85°の典型的な巻き角でコイリングした。
【0098】
ステンレス鋼コアワイヤに沿ってコイリングされた被覆フィラメントはさらに、被覆コイルと記される。これらの被覆コイルは、以下に記載の滑沢性試験で使用される。
【0099】
実施例15:親水性トップコートBとプライマーコーティングBとを含む被覆コイル
実施例13に記載の手順に従って、実施例11に記載した親水性トップコートBをプライマーB(実施例9に記載のもの)で被覆された鋼ワイヤフィラメント上に適用した。親水性トップコートを含む被覆フィラメントをUVとオーブンとで構成された装置に3回通して2.1W/cm2の全UV照射量を受けるようにした。得られたフィラメントを実施例14に記載の手順に従ってコイリングした。
【0100】
実施例16:親水性トップコートAとプライマーコーティングAとを含むガイドワイヤコイル
PESプライマーを実施例12に記載の鋼ワイヤフィラメント上に適用した。実施例13に記載の手順に従って、このプライマーの上に他のプライマーコーティング(プライマーコーティングA、実施例8)および親水性コーティングA(実施例10)を適用した。得られたフィラメントを実施例14に記載の手順に従ってコイリングした。
【0101】
実施例17:親水性トップコートBとプライマーコーティングAとを含むガイドワイヤコイル
PESプライマーを実施例12に記載の鋼ワイヤフィラメント上に適用した。実施例13に記載の手順に従って、このプライマーの上に他のプライマーコーティング(プライマーコーティングA、実施例8)および親水性コーティングB(実施例11)を適用した。得られたフィラメントを実施例14に記載の手順に従ってコイリングした。
【0102】
実施例18:被覆コイルの滑沢特性を測定する試験方法
被覆コイルの滑沢特性および被覆コイルの耐摩耗性を測定する試験方法を開発した。
【0103】
被覆コイルの最大外径よりも約400〜500ミクロン大きい1.27mmの内径を有する密嵌性(メドトロニック(Medtronic))PU−Pro−Flo,6Fピッグテールカテーテルチューブに通して前後(プッシュプル)に移動させることにより、被覆コイルを試験した。40mmの直径を有する半円のポリカーボネート成形型に入れることにより、カテーテルを円弧の形状に徐々に湾曲させた(ねじることなく)。185±1mmのカテーテルチューブを成形型の一方の上端にアライメントし、カテーテルチューブの他端は、より長い距離にわたり被覆コイルを支持するように使用する。カテーテルチューブの端で被覆コイルが摩耗することがないように、注意を払った。したがって、カテーテルチューブの両方の入口を「平滑化」し、鈍端チップを用いて円形にした。
【0104】
成形型およびカテーテルチューブを23℃の水中に浸漬した。実験中にカテーテルチューブ内で気泡が形成されるのを防止するために、成形型が水面よりも少なくとも5cm下にくるように注意を払った。次に、カテーテルチューブ内に空気が閉じ込められることがないように、カテーテルチューブを水でフラッシングした。被覆コイルの屈曲および/または損傷が起こらないように、手作業で被覆コイルをカテーテルチューブに通して案内し、そしてテンシオメーターに取り付けた。被覆コイルワイヤの自由端を水位よりも約60mm上で切断した(装置の概略図に関しては図5を参照されたい)。
【0105】
ツヴィック(Zwick)Z050引張りスピンドル試験機を用いて試験を行った。ツヴィック(Zwick)TestXpert v7.11ソフトウェアを用いて制御および分析を行った。±50mmのクランピング距離を有するクランプにより被覆コイルを20Nロードセルに取り付けた。試験速度は、200mm/minであった。
【0106】
被覆コイルの滑沢特性を調べるために、被覆コイルをカテーテルチューブに通した状態で40mmの変位でプルした。5秒後、被覆コイルをカテーテルチューブに通した状態で40mmの変位でプッシュし再び元に戻した。これにより1回の試験サイクルを構成した。
【0107】
被覆コイルの滑沢特性を2つのパラメーターに関して測定した。すなわち、動摩擦力および静摩擦力(スティクション)である。静摩擦力は、サイクルのプル部分において最初の2mmの変位の範囲内で最大の力として定義される。動摩擦力は、サイクルのプル部分において2〜40mmの試験経路にわたり一定の間隔で測定される力として定義される。静摩擦/動摩擦比は、静摩擦力をプルサイクルにおける2〜5mmの変位での平均摩擦力で割り算することにより決定された。
【0108】
実施例19:市販の滑沢コーティングを有する比較例
実施例15および16に従って作製された被覆コイルを市販品スリップスキン(Slipskin)TMで被覆されたコイルと比較した。これらのコイルは、MCTec(オランダ国フェンローのメディカル・コーティング・テクノロジー(Medical Coating Technology,Venlo,The Netherlands))から入手したものであり、米国特許第6,086,547号明細書に記載されるように作製されたものである。これらのコイルは、これ以降では、市販品CPと記される。
【0109】
次に、サイクルのプル部分において測定された摩擦力を3つのコーティングのそれぞれについてプロットした。図5は、3つのコイルのそれぞれの代表例の比較を示している。市販品CPの静摩擦力は、最大であることが判明した(すなわち約340mN)。本発明に従って作製されたコーティングはいずれも、かなり小さい動摩擦力を有しており、実施例16のコーティングは、約130mNの静摩擦力を有し、一方、実施例15のコーティングの静摩擦力は、かろうじて動摩擦力と区別できる程度であった(すなわち約100mN)。(図5)。
【0110】
実施例20:被覆コイルの耐摩耗性の測定
実施例18に記載される試験サイクルをさまざまな時間間隔で反復することにより、被覆コイルの耐摩耗性を測定した。これは、各サイクル間で5秒間の待ち時間を設けて8回の逐次試験サイクルを行ってからその15分後に再び5秒間の待ち時間を設けて一連の5回の逐次サイクルを行うことにより実施された。次に、一連の5回の逐次サイクルを何回か反復した。ただし、いずれの場合も、一連のサイクル間で15分間の待ち時間を設けた。
【0111】
実施例16および17に従って作製された被覆コイルを市販品CPと比較した。静摩擦/動摩擦比を実施例18に記載されるように各サイクルごとに測定した。図6の各データ点は、本明細書中で以上に説明したような耐摩耗性測定用装置で得られた一サイクルの静摩擦/動摩擦比を表している。図6のX軸は、線形スケールでも連続スケールでもないことに留意されたい。市販品CPの各コイルの耐摩耗性間にかなりの変動がみられることが判明したので、2つの比較例が図6に示されている。すなわち、市販品のうちで平均的性能の試料(四角)および最良性能の試料(菱形)である。それと比較して、本発明に従って被覆されたコイルの2つの代表例の静摩擦/動摩擦比が示されている。
【0112】
実施例16および17に記載されるような本発明に従って被覆されたコイルを用いて得られたデータは、時間が経ってもより一定していることが判明した。市販のサンプルを用いて得られた比の大きい変動は、主に、それらの静摩擦の大きい変動に起因することが判明し、一方、それらの動摩擦は、実験時間にわたり比較的一定していたがほぼ2倍の大きさであった。これとは対照的に、本発明に係るコーティングを用いて得られた静摩擦値および動摩擦値はいずれも、著しく一定していた。これらのデータから明らかなように、本発明に係るコーティングの静摩擦/動摩擦比の変動係数は、9よりもかなり小さく、一方、先行技術のコーティングのこの変動係数は、17よりもかなり大きい。
【0113】
以上で説明した実験装置で得られたデータを表7に示す。
【0114】
【表7】
【0115】
【表8】
【0116】
【表9】
【0117】
【表10】
【0118】
実施例21:さまざまな時間間隔での耐摩耗性
一連のサイクル間でさまざまな待ち時間を設けて耐摩耗性を測定するために、他の一連の実験を行った。実験装置は、ガイドワイヤやカテーテルなどにみられるような被覆コイルが実際に使用される状況を模倣するものと考えられる。これは、各サイクル間で5秒間の待ち時間を設けて3回の逐次試験サイクルを行ってから漸増量の時間が経過した後で再び5秒間の待ち時間を設けて一連の3回の逐次サイクルを行うことにより実施された。一連の3回のサイクル間の待ち時間を、0,5分間から1、2、4、8、15、および30分間まで、さらには60分間まで増大させた。この一連の実験の後、再び0.5分間から60分間まで増大された待ち時間を設けて開始し、全手順をもう1回反復した。実施例16に例示されるような本発明に係る方法を用いて得られたコーティングを用いて得られた結果を市販品と比較して図7に示す。
【0119】
図7からわかるように、市販品の動摩擦は、最初の一連の3回のサイクルの後、すでに増大しており、その後、徐々に増大したが、本発明に従って被覆されたコイルの動摩擦は、全実験時間(すなわち4時間超)にわたり著しく安定した状態を保持した。先行技術に係る市販のコーティングを用いて得られた最小値/最大値は、36/186(平均94)であったが、本発明に係るコーティングを用いて得られた最小値/最大値は、78および88(平均79、表8参照)であった。
【0120】
【表11】
【0121】
【表12】
【0122】
最終的に、市販品の動摩擦は、実験全体を通して5倍超に増大した。したがって、本発明に従って被覆されたコイルは、市販品CPと比較して改良された耐摩耗性を有すると結論付けられる。これは、使用時間にわたり滑沢性が一定しているという点で、本発明に係るコーティングで被覆された医療器具(たとえばガイドワイヤまたはカテーテル)の信頼性に有意に寄与し、一方、先行技術に係るコーティングは、図6および表7に例示されるように先行技術に係るコーティングが各休止時間の後で予測不可能な静摩擦を呈するという欠点に加えて、手順全体を通して増大傾向にある力を必要とする。
【0123】
実施例22:半IPNよりなるコーティングとの比較
本発明に係るコーティングの移行性物質の量と半相互侵入網状構造(IPN)に基づくコーティングの移行性物質の量とを比較した。その目的で、表10に記載のコーティング組成物(親水性トップコートA)よりなる厚さ200μmの層をガラス板上に適用した。本質的には実施例4に記載されるように、組成物にUV光を照射した後で蒸発を行った。UVおよび熱のサイクルを3回行った後、コーティング組成物を暗所に一晩放置してから抽出試験を行った。比較のために、本質的には米国特許第6,238,799号明細書に記載されるように、半相互侵入網状構造よりなるコーティングを作製した。より詳細には、表9に記載のコーティング組成物を調製した。
【0124】
【表13】
【0125】
表9に記載の湿潤厚さ120マイクロメートルのコーティングをガラス板上に適用し、米国特許第6,238,799号明細書に記載されるように165℃(325°F)で15分間硬化させた。
【0126】
各コーティングに由来する移行性物質の量を調べるために、コーティングをガラス板から剥離してセルロース製の抽出シンブル中に秤取した。1mm2のメッシュサイズを有する金属メッシュホルダー中にシンブルを配置した。シンブルとコーティングとを収容した金属ホルダーを、減圧下かつ窒素流動下(100mbar)、105℃で、12時間乾燥させた。次に、マグネティックスターラーによる連続攪拌下、37℃で、金属ホルダーを200mlの脱塩水中に16時間浸漬した。次に、金属メッシュホルダー中の残留コーティングを、減圧下かつ窒素流動下(100mbar)、105℃で、12時間乾燥させた。抽出の前後の金属ホルダーの重量差を測定することにより、コーティングの重量損失を求めた。
【0127】
本発明に係るコーティングは、その重量の1.8%を失い、米国特許第6,238,799号明細書に係る半IPNコーティングは、その重量の7.1%を失うことが判明した。したがって、半相互侵入網状構造よりなるコーティングは、本発明に係るコーティングよりもかなり多くの移行性物質を有すると結論付けられる。
【0128】
実施例22:機能性ポリマーは、ノリッシュI型光開始剤から誘導される網状構造結合発色団を介して支持ポリマーに共有結合された状態になる
光グラフト化機構であることおよび光開始過程で架橋網状構造に結合する発色団に基づくことを実証するために、架橋密度(プロトンNMR T2緩和実験により決定される)の増大と一緒に発色団の吸光度の減衰を監視した。
【0129】
実施例4に記載されるように、24ミクロンドクターブレードを用いて実施例11の親水性コーティング配合物をガラス上に適用した。得られた乾燥膜厚さは、5ミクロンであった。アクリレートの転化率が>96%であることがFT−IR分析から明らかにされた。
【0130】
固体NMR T2緩和実験により、ポリマーの架橋密度を求めた(リトヴィーノフ(Litvinov)およびディアス(Dias)著,高分子(Macromolecules),第34巻,4051−4060頁(2001年)。図8に示される機構を裏付ける新たな追加の架橋の証拠は、ssNMR T2緩和実験を用いて架橋密度を求めることにより、さらには、図9に示されたようにUV分光法を用いてアリールカルボニルの消費を監視することにより、取得可能である。「ゴム状材料の分光学(Spectroscopy of Rubbery Materials)」,V.M.リトヴィーノフ(V.M.Litvinov),P.P.ドゥー(P.P.De)編,RAPRAテクノロジー(RAPRA Technology),ショウバリー(Shawbury),353−400頁(2002年)中のV.M.リトヴィーノフ(V.M.Litvinov)著,「プロトンNMR磁気緩和を用いるゴム状材料中の化学的および物理的な網状構造のキャラクタリゼーション(Characterization of Chemical and Physical Networks in Rubbery Materials Using Proton NMR Magnetization Relaxation)」に記載されるように、NMR緩和実験を行った。NMR実験のために、硬化コーティングをガラス板から剥離してNMR管中に配置した。静止管にサンプルを入れて70℃で測定を行った。20MHzのプロトン共鳴周波数の低磁場NMR分光計を操作して、プロトンNMR T2緩和実験を行った。ハーンエコーパルス系列を用いて、横磁気緩和の減衰(T2緩和減衰)を測定した。(E.ハーン(E.Hahn)著,物理学総説(Physical Review),第80巻,580頁(1950年)。T2値により決定される特性減衰時間は、次式:
A(τ)=A(0)exp[−(τ/T2)
を用いてT2緩和減衰の最小二乗あてはめを行うことにより求めた。式中、A(0)およびA(τ)は、時間ゼロおよびτにおけるシグナル振幅である。
【0131】
NMR T2緩和実験から、PVPおよびPEG4000DAがコーティング中で十分に相分離していることが示される。動的機械的熱分析(DMTA)および原子間力顕微鏡法(AFM)によっても、相分離が確認された。PVP相からのシグナルはPEGと比較してかなり速くゼロ近傍まで減少するので、NMR法により硬化架橋ポリエチレングリコールジアクリレートのT2緩和時間を選択的に測定することが可能である。
【0132】
T2緩和時間が全UV照射量および全IR照射量の増大と共に減少することが実験から示される(図10)。その理由は、T2緩和時間が短くなることが、網状構造鎖の分子質量が小さくなること(すなわち、架橋密度が大きくなること)に対応することにある。図10の結果から示されるように、コーティングが溶媒の蒸発を介在させた複数回の架橋工程に付された場合、PEG4000DA相中の架橋密度が増大する。いずれのコーティングの場合にもPEG4000DAのアクリル鎖末端の二重結合の変換はほぼ完全であるので(96±3%を超える)、追加の架橋は、残留未反応アクリレートの架橋を引き起こす可能性のある機構とは別の機構により引き起こされる。
【0133】
パーキン・エルマー・ラムダ40(Perkin Elmer Lambda 40)を用いてUV分光法により、以上に記載したように適用されたコーティングを分析した。254nmにおけるフェニル基の吸光度と279nmにおけるカルボニルに結合されたフェニル基のUV吸光度との比を求めた。これらの比を以下の表10に示す。
【0134】
【表14】
【0135】
実際のUVスペクトルを図9に示す。
【0136】
表10および図9の結果から示されるように、コーティングが蒸発工程に付され、続いてUV処理に付された場合、UV吸光度比(254nm/279nm)が増大し、この手順が反復された場合、UV吸光度比(254nm/279nm)がさらに増大する。また、カルボニル基と結合したフェニル環の吸収の消失が実験から示される。このことによっても、図8に与えられている提案された機構が裏付けられる。
【0137】
図11に示されるように、UV吸光度比(254nm/279nm)の値は、架橋密度(1/T2)と共に増大する。
【0138】
したがって、IR分光法およびUV分光法、プロトンNMR T2緩和分析、ならびに抽出試験の結果を合わせれば、本発明に係る方法に基づいて、機能性ポリマー(この場合はPVP鎖)はノリッシュI型光開始剤から誘導される網状構造結合発色団を介して実際に支持ポリマー網状構造(この場合はPEG4000DA)に共有結合で架橋されたことが実証される。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】ノリッシュ1型光開始剤の二重使用の概略図。1回目は架橋であり、2回目は非架橋性ポリマーのグラフト化である。
【図2】UVのみで処理された先行技術に係るコーティング(四角)からおよび本発明に係る方法により作製されたコーティング(菱形)から抽出されうる移行性物質の量を表すグラフ。y軸:抽出された重量パーセント単位の移行性物質の量、x軸:J/cm2単位のUV照射量。
【図3】UVのみで処理された先行技術に係るコーティング(四角)からおよび本発明に係る方法により作製されたコーティング(菱形)から抽出されうるPEOの量を表すグラフ。y軸:抽出されたPEOのパーセント、x軸:J/cm2単位のUV照射量。
【図4】実施例18に記載される耐摩耗性試験の概略図。A:テンシオメーターロードセルに対するクランプ、B:40mmの距離、C:カテーテルチューブ(水が充填されている)、D:15mmの距離、E:支持成形型、F:水、G:被覆コイル。
【図5】実施例15(1)および16(3)の被覆コイルと市販品CP(2)との滑沢性の比較。本発明に係る両方のコーティングの静摩擦は、市販のサンプルの静摩擦よりも著しく少なく、一方、動摩擦は、本質的には同一である。y軸=摩擦力(mN)、x軸=変位(mm)。
【図6】実施例16(三角)および17(丸)の被覆コイルと市販品CPの2つの試料(四角または菱形)との耐摩耗性の比較。 y軸=静摩擦/動摩擦、x軸=非線形時間スケール。各データ点は、単一サイクルで2〜5mmの変位にわたり平均された静摩擦/動摩擦比を表している。最初の8サイクルの後、それぞれ5サイクルよりなるシリーズを各シリーズ間で15分間の待ち時間を設けて9回行った。
【図7】使用時間にわたる動摩擦力の変化。このグラフは、グラフに示されるように待ち時間を変化させた後、3サイクルの摩擦測定を行ったときに、動摩擦力が経時によりどのように変化するかを示している。たとえば、1回目の3回のサイクルの後、0,5分間の待ち時間を設けてから2回目の3回のサイクルを行い、次に、1分間の待ち時間を設けてから再び次の3回のサイクルを行った。丸:実施例16のコーティングで被覆されたコイル、三角:市販品CPを用いて得られたデータ。
【図8】提案された光グラフト化反応機構。
【図9】先行技術に係るコーティング(連続線、UV照射のみ)、本発明に係るコーティング(破線、UV/IR/UV/IR)、および本発明に係る他のコーティング(点線、UV/IR/UV/IR/UV/IR)の吸収プロファイルを示す図。このグラフは、溶媒蒸発に続いてUV照射が行われる過程でアリールカルボニル発色団が消費されることを明確に示している。x軸:波長(nm)、y軸:任意の吸光度単位。
【図10】溶媒の蒸発を介在させたUV照射の回数に対して架橋密度(1/T2で表される)を示すグラフ。図は、それぞれの追加のUV照射に伴う架橋密度の増大を明確に示している。y軸:プロトンT2緩和の速度、1/T2(ms−1単位)、x軸:溶媒の蒸発を介在させたUV照射の回数(1回、2回、または3回のUV照射)。四角:窒素雰囲気下で硬化させたPVP/PEGコーティング、丸:空気下で硬化させたPVP/PEGコーティング。コーティングの厚さは、24マイクロメートルであった。緩和速度は、70℃で測定されたものである。ラインは、データの最小二乗あてはめ(Y=a+bX)を示している。ただし、a=0.36±0.05、b=0.14±0.02、相関係数は0.95であり、標準偏差は0.05である。
【図11】プロトンT2緩和実験により示される架橋密度(1/T2で表される)とアリールカルボニル発色団の消費量との関係。 y軸:プロトンT2緩和の速度、1/T2(ms−1単位)、x軸:UV吸光度比254nm/279nm。四角:窒素雰囲気下で硬化させたPVP/PEGコーティング、丸:空気下で硬化させたPVP/PEGコーティング。コーティングの厚さは、24マイクロメートルであった。緩和速度は、70℃で測定されたものである。グラフは、架橋密度(1/T2で表される)がUV吸光度の比(254nm/279nm)の増加に伴って増加することを明確に示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーが支持ポリマーに共有結合され、かつ水素引抜き機構を介して前記支持ポリマーと前記機能性ポリマーとの間のポリマー架橋を引き起こすためにノリッシュ1型光開始剤が使用される、コーティングの取得方法。
【請求項2】
・ 支持ポリマー網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーと
・ 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーと
・ ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤と
を含むコーティング組成物が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
− 表面を提供する工程と
− 網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを提供する工程と
− 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーを提供する工程と
− ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤を提供する工程と
− コーティング組成物を得るために、前記少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを、好適な溶媒と共に、前記少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーおよび前記少なくとも1種の光開始剤と、混合する工程と
− 前記コーティング組成物を前記表面に適用する工程と
− 前記少なくとも1種の支持モノマー、支持ポリマー、または支持オリゴマーの架橋を引き起こすのに好適な任意のエネルギー源を前記表面上のコーティング組成物に照射する工程と
を含み、
前記支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの重合を開始して網状構造を形成するために、かつ前記支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーに結合された前記光開始剤を介して水素引抜き反応により前記機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーとの追加の架橋を生成するために、前記光開始剤が使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
− 表面を提供する工程と
− 網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを提供する工程と
− 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーを提供する工程と
− ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤を提供する工程と
− コーティング組成物を得るために、前記少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを、好適な溶媒と共に、前記少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーおよび前記少なくとも1種の光開始剤と、混合する工程と
− 前記コーティング組成物を前記表面に適用する工程と
− 前記少なくとも1種の支持モノマー、支持ポリマー、または支持オリゴマーの架橋を引き起こすのに好適なエネルギー源を前記表面上のコーティング組成物に照射する工程と
− 前記溶媒を蒸発させる工程と
− 前記表面上のコーティング組成物に前記エネルギー源を少なくとももう1回照射する工程と
を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒を蒸発させる工程が、前記コーティング組成物への前記エネルギー源の最後の照射の後で少なくとも1回反復される、請求項4に記載の方法。
【請求項1】
機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーが支持ポリマーに共有結合され、かつ水素引抜き機構を介して前記支持ポリマーと前記機能性ポリマーとの間のポリマー架橋を引き起こすためにノリッシュ1型光開始剤が使用される、コーティングの取得方法。
【請求項2】
・ 支持ポリマー網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーと
・ 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーと
・ ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤と
を含むコーティング組成物が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
− 表面を提供する工程と
− 網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを提供する工程と
− 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーを提供する工程と
− ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤を提供する工程と
− コーティング組成物を得るために、前記少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを、好適な溶媒と共に、前記少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーおよび前記少なくとも1種の光開始剤と、混合する工程と
− 前記コーティング組成物を前記表面に適用する工程と
− 前記少なくとも1種の支持モノマー、支持ポリマー、または支持オリゴマーの架橋を引き起こすのに好適な任意のエネルギー源を前記表面上のコーティング組成物に照射する工程と
を含み、
前記支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーの重合を開始して網状構造を形成するために、かつ前記支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーに結合された前記光開始剤を介して水素引抜き反応により前記機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーとの追加の架橋を生成するために、前記光開始剤が使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
− 表面を提供する工程と
− 網状構造を形成しうる少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを提供する工程と
− 少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーを提供する工程と
− ノリッシュI型結合開裂光重合反応またはホモリティック結合開裂光重合反応を行いうる少なくとも1種の光開始剤を提供する工程と
− コーティング組成物を得るために、前記少なくとも1種の支持モノマー、支持オリゴマー、または支持ポリマーを、好適な溶媒と共に、前記少なくとも1種の機能性オリゴマーまたは機能性ポリマーおよび前記少なくとも1種の光開始剤と、混合する工程と
− 前記コーティング組成物を前記表面に適用する工程と
− 前記少なくとも1種の支持モノマー、支持ポリマー、または支持オリゴマーの架橋を引き起こすのに好適なエネルギー源を前記表面上のコーティング組成物に照射する工程と
− 前記溶媒を蒸発させる工程と
− 前記表面上のコーティング組成物に前記エネルギー源を少なくとももう1回照射する工程と
を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒を蒸発させる工程が、前記コーティング組成物への前記エネルギー源の最後の照射の後で少なくとも1回反復される、請求項4に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−521588(P2008−521588A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541876(P2007−541876)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012864
【国際公開番号】WO2006/056482
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
2.WINDOWS
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012864
【国際公開番号】WO2006/056482
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
2.WINDOWS
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】
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