説明

ポリマーブレンド−バイオセラミック複合体製の埋込型医用デバイス

ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体製の埋込型医用デバイスに関する方法及びデバイスが開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の背景]
[発明の分野]
本発明は、埋込型医用デバイス及び埋込型医用デバイスの作製方法に関する。
【0002】
[最新技術の説明]
本発明は、体内管腔に埋込するように適合された、半径方向に拡張可能な内部人工器官に関する。「内部人工器官(endoprosthesis)」という用語は、体内に設置される人工デバイスに対応する。「管腔」という用語は、血管等の管状臓器の空洞を意味する。
【0003】
ステントはそのような内部人工器官の一例である。ステントは一般に円筒形のデバイスで、血管又は尿道及び胆管等の他の身体構造上の管腔の部分を開存させ、時には拡張する機能を有する。ステントはしばしば血管のアテローム動脈硬化性狭窄の治療に用いられる。「狭窄」という用語は体内の通路又は開口部の直径の狭小化又は収縮を意味する。そのような治療においては、ステントは、体内の血管を補強し、血管系における血管形成術後の再狭窄を防止する。「再狭窄」という用語は、(バルーン血管形成術、ステント処置、又は弁形成術等によるように)見掛け上成功して治療された後の、血管又は心臓弁における狭窄の再発を意味する。
【0004】
ステントによる病変部又は障害の治療は、ステントの送達及び展開の両者を含む。「送達」という用語は、治療が必要な血管内の障害部等の部位に体腔を通してステントを導入及び輸送することを意味する。「展開」という用語は、治療部位において管腔内でステントを拡張することに対応する。ステントの送達及び展開は、ステントをカテーテルの一端付近に位置決めし、皮膚を通してカテーテルのこの一端を体内管腔に挿入し、カテーテルを管腔内で所望の治療部位まで進め、この治療部位でステントを拡張し、カテーテルを管腔から除去することにより達成される。
【0005】
バルーン拡張可能ステントの場合は、ステントはカテーテル上に配置されたバルーンの周囲に取り付けられる。ステントの取り付けは、通常はステントをバルーン上に圧縮又は圧着することを含む。次にバルーンを膨張させることによりステントを拡張する。次にバルーンを収縮させ、カテーテルを引き抜くことができる。自己拡張性ステントの場合には、ステントは引込み式のシース又はソック等の拘束部材を通してカテーテルに固定される。ステントが体内の所望の部位に位置すれば、シースが引き抜かれ、それによりステントは自己拡張する。
【0006】
ステントはいくつかの機械的要求事項を満たすことができなければならない。第一に、ステントは構造的負荷、即ちステントが血管壁を支える際にステントにかかる半径方向の圧縮力に耐えることが可能でなくてはならない。それゆえ、ステントは適切な半径方向の強度を有さなければならない。ステントが半径方向の圧縮力に耐える能力である半径方向の強度は、ステントの円周方向の強度及び剛性によるものである。したがって、半径方向の強度及び剛性は、輪状又は円周方向の強度及び剛性としても記述できる。
【0007】
一旦拡張すると、ステントは拍動する心臓によって生じる周期的負荷などの、ステントにかかることのある種々の力にもかかわらず、その耐用期間を通してその寸法及び形状を適切に保持しなければならない。たとえば、半径方向の力はステントを内側にリコイルさせる傾向があるかもしれない。一般的には、リコイルを最小にすることが望ましい。さらに、ステントは圧着、拡張、及び周期的負荷を考慮に入れるために充分な可撓性を有さなければならない。ステントが曲がりくねった血管路を通して操作できるために、また直線的でなく、屈曲することを免れない展開部位にステントを適合させることを可能にするために、長手方向の可撓性は重要である。最後に、ステントはいかなる有害な血管反応も引き起こさないよう、生体親和性でなければならない。
【0008】
ステントの構造は通常、パターン又は当技術分野においてしばしばストラット又はバーアームと称される相互連結した構造要素のネットワークを含む足場からなる。足場は、ワイヤ、チューブ、又は円筒形に巻いた材料シートから形成することができる。足場は、ステントが半径方向に圧縮(圧着するため)でき、また半径方向に拡張(展開するため)できるように設計される。従来のステントは、相互に対するパターンの個別構造要素の動きを通して拡張及び収縮できるようになっている。
【0009】
さらに、金属又はポリマー製の足場の表面を活性若しくは生理活性物質又は薬剤を含むポリマー担体で被覆することによって、医薬含有ステントを作製することができる。ポリマー製足場も活性物質又は薬剤の担体として役立つであろう。
【0010】
さらに、ステントは生体分解性であることが望ましい。多くの治療用途において、体内におけるステントの存在は、その意図した機能、たとえば血管開存の維持及び/又は薬剤放出が達成されるまでの制限された期間は、必要であろう。したがって、生体吸収性ポリマーなどの生体分解性、生体吸収性、及び/又は生体被浸食性材料で作られたステントは、その臨床的必要性が終わった後に初めて完全に浸食されるように構成されているべきである。
【0011】
ポリマー製ステントの潜在的問題点として、それらの靱性が不適切なことがあり、ある種の治療に対して望ましい速度よりも分解速度が遅いことがある。
【0012】
[発明の概要]
本発明のある実施形態は、マトリックスポリマーを含む連続相と、該連続相中の不連続相とを含む構造要素を有するステントを含み、該不連続相は不連続相セグメントを有する改質ポリマーを含み、該不連続相セグメントは該マトリックスポリマーと非相溶性であり、該改質ポリマーは該マトリックスポリマーと相溶性のアンカーセグメントをさらに含み、該アンカーセグメントは少なくとも部分的に該不連続相から該連続相に相分離し、ここで複数のバイオセラミック粒子が該連続相及び/又は該不連続相中に分散している。
【0013】
本発明のさらなる実施形態は、埋込型医用デバイスを作製する方法を含み、該埋込型医用デバイスを作製する方法は、流体とマトリックスポリマーとバイオセラミック粒子とを含む懸濁溶液を生成するステップ(ここで該ポリマーは該流体に溶解しており、該バイオセラミック粒子は該溶液に分散している)と、該懸濁溶液と第2の流体との混合に際してマトリックスポリマーの少なくとも一部を沈殿させるステップ(該第2の流体は該マトリックスポリマーの貧溶媒であり、ここで該バイオセラミック粒子の少なくとも一部は該沈殿したポリマーとともに沈殿して複合材料混合物を生成する)と、該複合材料混合物を改質ポリマー及び追加のマトリックスポリマーと混合して第2の複合材料混合物を生成するステップ(該バイオセラミック粒子は該混合によって該第2の複合材料混合物中に分散し、ここで該改質ポリマーは不連続相セグメントを有し、該不連続相セグメントは該マトリックスポリマーと非相溶性であり、該改質ポリマーは該マトリックスポリマーと相溶性のアンカーセグメントをさらに含む)と、該第2の複合材料混合物から医用デバイスを作製するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】ステントの三次元視図である。
【図1B】図1Aのステントの構造要素の断面図である。
【図2】図1Bの断面図の概略拡大図である。
【図3】不連続ポリマー相と連続ポリマー相の界面の概略拡大図である。
【図4】改質ポリマーの合成スキームである。
【図5A】それぞれ拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージである。
【図5B】それぞれ拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージである。
【図5C】それぞれ拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージである。
【図5D】それぞれ拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージである。
【図6A】それぞれ拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージである。
【図6B】それぞれ拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージである。
【図6C】それぞれ拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージである。
【図6D】それぞれ拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の種々の実施形態には、ポリマーブレンド及び該ブレンド中に分散したバイオセラミック粒子を含むポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料から少なくとも部分的に作られた埋込型医用デバイスが含まれる。該ポリマーブレンドは、連続ポリマー相及び該連続ポリマー相中の不連続ポリマー相を有し得る。該バイオセラミック粒子は、該連続相、該不連続ポリマー相、又はその両者の中に分散し得る。
【0016】
本明細書では、「埋込型医用デバイス」は、自己拡張可能ステント、バルーン拡張可能ステント、ステントグラフト、埋込型心臓ペースメーカー及び除細動器、上記機器用の導線及び電極、血管グラフト、グラフト、人工心臓弁、及び脳脊髄液シャントを含むが、これらに限定されない。
【0017】
埋込型医用デバイスは、治療用薬剤の局所送達用に設計することができる。医薬含有埋込型医用デバイスは、該デバイス又は基材を、治療用薬剤を含むコーティング材でコーティングすることによって構成することができる。デバイスの基材も治療用薬剤を含むことができる。
【0018】
図1Aにはステント100の三次元視図が描かれている。いくつかの実施形態においては、ステントはパターン又は相互連結した構造要素105ネットワークを含むことができる。ステント100はチューブ(図示せず)から形成することができる。構造要素110のパターンは種々の形態を取ることができる。該デバイスの構造パターンは実質上どんなデザインでもよい。本明細書で開示された実施形態は図1Aに描かれたステント又はステントパターンに限定されない。該実施形態は容易に他のパターン及び他のデバイスに応用できる。パターン構造の変化は実質上無制限である。ステント100等のステントは、レーザー切削又は化学エッチング等の技術によりパターンを形成することによってチューブから作ることができる。
【0019】
埋込型医用デバイスは生体分解性、生体吸収性、又は生体安定性のポリマーから部分的又は完全に作ることができる。埋込型医用デバイスの作製に用いられるポリマーは、生体安定性、生体吸収性、生体分解性、又は生体被浸食性であり得る。生体安定性とは、生体分解性でないポリマーを意味する。生体分解性、生体吸収性、生体被浸食性という用語は、相互に交換可能に用いられ、血液等の体液に触れた際に完全に分解及び/又は浸食されることができ、生体によって徐々に再吸収、吸収、及び/又は除去されることができるポリマーを意味する。ポリマーの破壊及び吸収の過程は、たとえば、加水分解及び代謝プロセスによって起こり得る。
【0020】
ステント等の埋込型医用デバイスに適したいくつかのポリマーには潜在的な欠点がある。たとえば、いくつかの生体分解性ポリマーの分解速度は、ある種のステント治療に望ましい分解速度より遅い。その結果、そのようなポリマーから作られたステントの分解期間は、所望の分解期間より長いことがある。たとえば、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)から作られたステントの分解期間は約2〜3年であり得る。ある治療の状況においては、1年未満、たとえば4〜8か月の分解期間が望ましいことがある。
【0021】
加水分解により分解するポリマーの分解は、ポリマー中への水の浸透とこれに続くポリマー中の結合の加水分解の順序に従う。したがって、ポリマーの分解はポリマーの水との親和性及びポリマーを通しての水の拡散速度に影響され得る。疎水性ポリマーの水への親和性は低く、その結果、水の浸透性は比較的低い。さらに、ポリマーの結晶領域を通しての水の拡散速度は非晶性領域におけるよりも低い。したがって、ポリマーの水との親和性の低下又は結晶性の増大につれて、ポリマー中の水の浸透性及び含水率は低下する。
【0022】
いくつかのポリマーにおける別の欠点は、それらの靱性が、特にステント用の用途において、所望より低いことである。たとえば、PLLA等のポリマーは生理学的条件又は人体内条件において脆い傾向がある。具体的には、そのようなポリマーのTgは約37℃である人体温より高いことがある。これらのポリマーは、破壊に至るまでに殆ど又は全く塑性変形がない脆性破壊機構を示すことがある。その結果、そのようなポリマーから作られたステントは、ステントとしての用途の範囲内では靱性が不充分なことがある。
【0023】
生理的条件で破壊靱性の低いポリマーの破壊靱性を増大させる1つの方法は、該ポリマーを生理的条件でより高い又は比較的高い破壊靱性を有する別のポリマーとブレンドし、この破壊靱性の高いポリマーがまた非相溶性で、破壊靱性の低いポリマーとは不連続の相を生成するようにすることである。不連続相はデバイスの破壊靱性を増大させるためのブレンドから作られたデバイスに加えられた応力によって起こるエネルギーを吸収することができる。相の界面間の良好なエネルギー移動を確実にするためには、相間に充分な結合又は接着があることが重要である。Y.Wang、他、Journal of Polymer Science Part A:Polymer Chemistry,39,2001,2755〜2766ページを参照。
【0024】
埋込型医用デバイスのある実施形態には、ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料から少なくとも部分的に作られた構造要素が含まれ得る。1つの実施形態においては、該ポリマーブレンドは、マトリックスポリマーと改質ポリマーの混合物を含み、該マトリックスポリマーは該ポリマーブレンドの大部分であってもよい。改質ポリマーは、該改質ポリマーの少なくともいくつかのブロック又はセグメントと非相溶性のマトリックスポリマーとのブロックコポリマーであってもよい。ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料はまた、ポリマーブレンド中に分散した複数のバイオセラミック粒子を含んでもよい。
【0025】
改質ポリマーの少なくともいくつかのブロック又はセグメントはマトリックスポリマーと非相溶性であるので、複合材料は連続ポリマー相及び連続相中の不連続ポリマー相を含み得る。バイオセラミック粒子は連続相、不連続相、又は不連続相及び連続相の両者の中に分散することができる。
【0026】
さらに、連続相はマトリックスポリマーを含んでもよく、不連続相は改質ポリマーの非相溶性ブロックを含んでもよい。1つの実施形態においては、マトリックスポリマーは生理的条件で比較的低い破壊靱性を有し、改質ポリマーは生理的条件でより高い破壊靱性を有する。改質ポリマー又は不連続相はマトリックスポリマーの、したがって複合材料の靱性を増大させる傾向がある。
【0027】
いくつかの実施形態においては、改質ポリマーは不連続相セグメント及びアンカーセグメントを有し得る。不連続相セグメントはマトリックスポリマーと非相溶性であるので、不連続相セグメントは不連続相内に存在する。アンカーセグメントはマトリックスポリマーと相溶性があるので、アンカーセグメントは少なくとも部分的に不連続相から連続相に相分離する。
【0028】
図1Bには図1Aに描かれたステントのストラット105のセグメント110の部分が描かれている。図2には図1Bに描かれたストラットのセグメント110の部分140の微視図が描かれている。部分140は連続相210中の不連続相200を含む。バイオセラミック粒子220は不連続相200及び連続相210中に混合又は分散している。
【0029】
図3には不連続相200及び連続ポリマー相210の間の界面を含む部分250の概略拡大図が描かれている。改質ポリマー300は不連続相セグメント310及びアンカーセグメント320を有することが示されている。線330は不連続相200と連続相210の境界の輪郭を描くことを意味している。アンカーセグメント320は不連続相200から連続相210に相分離していることが示されている。
【0030】
デバイスが応力下に置かれると、破壊が構造要素を介して進行を開始するときに、不連続相がエネルギーを吸収しやすいと考えられる。そのため連続相を介した亀裂伝播は低減又は阻止されるであろう。その結果、マトリックスポリマーと改質ポリマーとのブレンド、したがって構造要素の破壊靱性は増大しやすい。さらに、アンカーセグメントは、不連続相と連続相との接着を増大しやすい。したがって、アンカーセグメントは相の界面間のエネルギー移動を促進する。
【0031】
さらに、複合材料の靱性はブレンド中に分散したバイオセラミック粒子によって増大されやすい。バイオセラミック粒子はポリマーブレンド又は複合材料の靱性及び弾性を増大させ得る。バイオセラミック粒子はより大きな体積にわたるデバイス中での応力と歪みの分散によりブレンドの破壊靱性を増大させると考えられる。応力と歪みは無数の個々の粒子を含む多くの小さな相互作用に分割され得る。たとえば、材料中で亀裂が発生しポリマーブレンド中で移動を開始するとき、亀裂は粒子との相互作用により分散され、又はより細かな亀裂へと分割される。したがって、粒子は、亀裂を生じさせた適用応力によってデバイスに付加されたエネルギーを分散させやすい。例示的実施形態において複合材料ポリマーブレンドは少なくとも0.1wt%、0.1〜1wt%、1〜10wt%、又は10〜20wt%のバイオセラミック粒子を含み得る。
【0032】
一般に、バイオセラミック粒子から生じる靱性の増大は粒子のサイズに正比例する。粒子とマトリックスの所与の重量比においては、粒子サイズが減少すればデバイス全体の単位体積あたりに分散した粒子の数もまた増加する。したがって、デバイスに適用された応力のエネルギーを分散する粒子の数は増加する。したがって、ポリマーの靱性を増加させるためにナノ粒子を使用することが有利である。複合材料中でナノ粒子を不連続相又は強化相として使用することによりポリマー材料の破壊靱性が改善され得ることが示されている。J.of Applied Polymer Science、94(2004)796〜802ページ。
【0033】
一般に、バイオセラミック粒子が生体分解性ポリマーブレンド全体に均一に分散していることが望ましい。粒子の分散がより均一であれば複合材料及び該複合材料から作られたデバイスの性質がより均一になる。たとえば、均一な分散は靱性及び弾性率の均一な増大並びに分解速度の改変をもたらし得る。いくつかの実施形態においては、バイオセラミック粒子は生体分解性ポリマーブレンド中で均一に、又は実質的に均一に分散される。
【0034】
いくつかの実施形態においては、改質ポリマーの不連続相セグメントはPLLA等のマトリックスポリマーよりも大きな破壊靱性を有するポリマーを生成することが知られている単位又は官能基を含むことができる。不連続相セグメントは連続相のマトリックスポリマーよりも可撓性が高く弾性率が低い不連続相を生成することができる。1つの実施形態においては、改質ポリマーの不連続相セグメントはゴム状又はエラストマーポリマーであってよい。「エラストマー」又は「ゴム状」ポリマーは、天然ゴムにおけるように、力により生じた変形に抵抗し、変形から回復することができるポリマーを意味する。1つの実施形態においては、エラストマー又はゴム状ポリマーは、元の長さの少なくとも2倍に繰り返し伸張でき、応力の解除により直ちにほぼ元の長さに力をもって復帰できる。別の実施形態においては、エラストマー又はゴム状ポリマーは、それらのガラス転移温度より高い温度にある、実質的に又は完全に非晶質のポリマーである。1つの実施形態においては、改質ポリマーの不連続相セグメントは体温より低いTgを有する。
【0035】
比較的高い破壊靱性を有する生体分解性ポリマーの例としては、これだけに限らないが、ポリカプロラクトン(PCL)及びポリ(テトラメチルカーボネート)(PTMC)がある。PCL及びPTMCはPLLAと非相溶性である。したがって、改質ポリマーの不連続相セグメントのいくつかの実施形態には、カプロラクトン(CL)及び/又はテトラメチルカーボネート(TMC)モノマーが含まれ得る。CL及び/又はTMCモノマーの割合は、不連続相セグメントがPLLA中で非相溶性になるよう、充分に高くすることができる。
【0036】
さらに、PLLA等のマトリックスポリマーの分解速度は、ある種のステント治療に望ましい分解速度よりも遅いことがあり得る。したがって、追加的な実施形態においては、改質ポリマーは、所望の分解特性をもたらす加水分解性単位又は官能基を含むことができる。ある実施形態においては、改質ポリマーの不連続相セグメントは、不連続相及び連続相への水の浸透性及び含水率を増大させる官能基又はモノマーを含むことができる。特に、不連続相セグメントは、マトリックスポリマーよりも高い親水性を有し、及び/又は加水分解活性が高いモノマーを含むことができる。たとえば、不連続相セグメントはL−ラクチドモノマーよりも速く分解するグリコリド(GA)モノマーを含むことができる。
【0037】
他の実施形態においては、不連続相セグメントは、ポリマーブレンドの破壊靱性を増大させる単位及びポリマーブレンドの分解速度を増大させる単位を含むことができる。1つの実施形態においては、不連続相セグメントは、CL及びGAモノマーの両者を含むことができる。特に、不連続相セグメントは、ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)(P(GA−co−CL))であり得る。P(GA−co−CL)不連続相セグメントは、交互の又はランダムのGA及びCLモノマーを有し得る。より速く分解するGAモノマーは、平衡含水率及び構造要素中への浸透を増大させることにより、ポリマーブレンドの分解速度を増大させ得る。GAセグメントの酸性及び親水性の分解生成物はまた、ポリマーブレンドの分解速度を増大させるように作用する。
【0038】
いくつかの実施形態においては、不連続相セグメントの可撓性及び分解速度は、速く分解し靱性を増大させる単位の割合により調整できる。たとえばP(GA−co−CL)セグメント中のCLの割合が増大すると、ポリマーの可撓性及び靱性が増大する。不連続相セグメントのTgは、成分モノマーの割合を調整することで所望の値に調節できる。たとえば、不連続相のTgは、生理的条件下で不連続相をより可撓性にするために、不連続相のTgを体温より低い温度に設計することができる。さらに、不連続相セグメント、したがってブレンドの分解速度は、不連続相セグメント中のGAの割合を増大することにより増大できる。例示的な実施形態においては、P(GA−co−CL)セグメントは1wt%、5wt%、20wt%、50wt%、70wt%、80wt%、又は90wt%より大きなGAモノマーを有し得る。
【0039】
1つの実施形態においては、改質ポリマーは、P(GA−co−CL)−b−PLLA又はPLLA−b−P(GA−co−CL)を含み得る。それぞれの場合において、不連続相セグメントはP(GA−co−CL)であり、アンカーセグメントはPLLAである。P(GA−co−CL)−b−PLLA及び/又はPLLA−b−P(GA−co−CL)の改質ポリマーとPLLAのマトリックスポリマーとの二元ポリマーブレンドにおいては、改質ポリマーのPLLAアンカーセグメントは連続相のPLLAマトリックス中に相分離し得る。PLLAのアンカーセグメントは不連続相を連続相に結合し、ポリマーブレンドの破壊靱性の増大を促進し得る。
【0040】
例示的な実施形態においては、ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料は、約1〜30wt%又は5〜20wt%の改質ポリマー及び約75〜95wt%のマトリックスポリマーを含み得る。ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料はさらに、少なくとも約0.1wt%、0.1〜1wt%、1〜10%、又は10〜20wt%のバイオセラミック粒子を含み得る。
【0041】
さらなる実施形態においては、マトリックスポリマーはコポリマーであってよい。いくつかの実施形態においては、マトリックスコポリマーは1次官能基及び少なくとも1つの追加の2次官能基からなるものでよい。コポリマーは1次官能基及び少なくとも1つの追加の2次官能基を含むランダムコポリマーでもよい。1つの実施形態においては、少なくとも1つの2次官能基を有するコポリマーは1次官能基からなるホモポリマーより分解速度が大きいことがある。2次官能基は2次官能基よりも親水性が高く、又はより加水分解活性が高いことがある。いくつかの例示的実施形態においては、コポリマー中の2次官能基の重量百分率は少なくとも約1%、5%、10%、15%、30%、40%、又は少なくとも約50%であり得る。
【0042】
1つの例示的実施形態においては、マトリックスコポリマーはポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(LPLG)であり得る。1次官能基はL−ラクチドであり、2次官能基はGAであり得る。コポリマー中のGAの重量百分率は少なくとも約1%、5%、10%、15%、30%、40%、又は少なくとも約50%であり得る。ある種の例示的実施形態においては、GA基の重量百分率はバイオセラミック粒子が分散したステントの分解期間が18か月未満、12か月、8か月、5か月、3か月、又はより狭く3か月未満であり得るように調節できる。
【0043】
また、改質ポリマーのアンカーセグメントはアンカーセグメントがマトリックスコポリマーと相溶性を有するように選択することができる。1つの実施形態においては、アンカーセグメントはマトリックスコポリマーと同じ組成を有してよい。別の実施形態においては、アンカーセグメントはマトリックスコポリマーと異なるが、アンカーセグメントがマトリックスポリマーと相溶するように充分近い組成を有してもよい。別の実施形態においては、アンカーセグメントはマトリックスポリマーと相溶性であるアンカーセグメントを有するマトリックスポリマーと異なる組成を有してもよい。
【0044】
いくつかの実施形態は、PLLAのマトリックスポリマー及び100%のL−ラクチド単位又はL−ラクチドとGA単位の両者を含むアンカーブロックを含み得る。他の実施形態は、LPLGのマトリックスポリマー及び100%のL−ラクチド単位又はL−ラクチドとGA単位の両者を含むアンカーブロックを含み得る。
【0045】
いくつかの実施形態においては、埋込型医用デバイスを作るためのブレンドは、マトリックスポリマーと、不連続相セグメント及びアンカーブロックを有する改質ポリマーと、改質ポリマーの不連続相セグメントからなる不連続相コポリマーとの三元ブレンドであってよい。マトリックスポリマーは連続相を生成することができ、不連続相コポリマーは連続相中に不連続相を生成することができる。改質ポリマーは不連続相と連続相の間の接着を容易にすることにより、マトリックスポリマーと不連続相コポリマーとの相溶化剤として作用する。1つの実施形態においては、不連続相セグメントを有するコポリマーは、不連続相の大部分である。
【0046】
1つの例示的実施形態においては、三元ブレンドはマトリックスポリマーとしてのPLLA、P(GA−co−CL)コポリマー、及び改質ポリマーとしてのP(GA−co−CL)−b−PLLA及び/又はPLLA−b−P(GA−co−CL)を含み得る。そのような実施形態においては、P(GA−co−CL)コポリマーは、改質ポリマーのP(GA−co−CL)セグメントとともに不連続相に含まれる。改質ポリマーのPLLAはPLLA連続相に相分離する。別の例示的実施形態においては、三元ブレンドは、マトリックスポリマーとしてのLGLG、P(GA−co−CL)コポリマー、及び改質ポリマーとしてのP(GA−co−CL)−b−LPLG及び/又はLPLG−b−P(GA−co−CL)を含み得る。そのような実施形態においては、P(GA−co−CL)コポリマーは、改質ポリマーのP(GA−co−CL)セグメントとともに不連続相に含まれる。改質ポリマーのLPLGはLPLG連続相に相分離する。
【0047】
例示的実施形態においては、ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料用の三元ポリマーブレンドは、約5〜25wt%の不連続相コポリマー、約0.5〜2wt%の改質ポリマー、及び約75〜95wt%のマトリックスポリマーを含み得る。マトリックスポリマーはPLLAであり、不連続相コポリマーはP(GA−co−CL)であり、また改質ポリマーはPLLA−b−P(GA−co−CL)及び/又はPLLA−b−P(GA−co−CL)であり得る。ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料は、少なくとも0.1wt%、0.1〜1wt%、1〜10%、又は10〜20wt%のバイオセラミック粒子を含み得る。
【0048】
いくつかの実施形態においては、P(GA−co−CL)−b−PLLA又はP(GA−co−CL)−b−LPLG等の改質ポリマーは、溶液系重合により生成し得る。改質ポリマーを生成するために用いられる他の方法、たとえば限定するものではないが、溶融相重合も可能である。溶液系重合においては、重合反応に関与するすべての反応性成分は溶媒に溶解している。P(GA−co−CL)−b−PLLAコポリマーを調製するには、図4に示すように、溶液重合によりP(GA−co−CL)をまず調製し、次にこれをL−ラクチドモノマーの重合を開始する高分子量開始剤として用いてPLLAセグメントを生成させることができる。具体的には、最初にGAモノマー及びCLモノマーを溶媒と混合して溶液を作ることによってP(GA−co−CL)セグメントを生成する。この溶液の中で、GAモノマーとCLモノマーが反応してP(GA−co−CL)を生成する。次にL−ラクチドモノマーをこの溶液又は生成したP(GA−co−CL)を含む別の溶液に加えることができる。L−ラクチドモノマーはP(GA−co−CL)と反応してP(GA−co−CL)−b−PLLAを生成する。
【0049】
1つの実施形態においては、L−ラクチドモノマーは、P(GA−co−CL)を生成するのに用いた同じ溶液中で反応する。或いは、L−ラクチドモノマーは、P(GA−co−CL)を生成するための溶液とは異なる溶媒を有する溶液中で反応することができる。PLLAアンカーセグメントを生成するための溶媒(1種又は複数)は、P(GA−co−CL)コポリマーがその溶媒(1種又は複数)に溶解し、したがってこのコポリマーがさらにL−ラクチドモノマーと共重合できるように選択することができる。
【0050】
他の実施形態においては、P(GA−co−CL)−b−PLLAは、P(GA−co−CL)コポリマーを溶媒に膨潤させてL−ラクチドモノマーと反応させることによって生成できる。当業者は、P(GA−co−CL)を膨潤させるが溶解しない溶媒を選択することができる。P(GA−co−CL)コポリマーは生成後に溶媒に膨潤し、したがってP(GA−co−CL)コポリマーは添加したL−ラクチドモノマーと反応することができる。
【0051】
別の実施形態においては、PLLA−b−P(GA−co−CL)コポリマーの合成は、最初にPLLAブロックを合成することによって実施できる。L−ラクチドモノマーは、溶媒と混合して溶液を生成することができる。生成したPLLA含有溶液にGAモノマーとCLモノマーを加え、PLLA−b−P(GA−co−CL)コポリマーを生成する。溶液はPLLAを生成するのに用いた同じ溶液でもよく、又は異なった溶媒を含む溶液でもよい。
【0052】
1つの実施形態においては、コポリマーを合成するのに用いる溶媒は、アルコール官能基を含まない。そのようなアルコール基はポリマーの鎖成長の開始剤として作用することがある。コポリマーの合成に用いる溶媒としては、これらに限らないが、クロロホルム、トルエン、キシレン、及びシクロヘキサンがある。コポリマーの合成を促進する開始剤としては、これらに限らないが、ドデカノール、エタノール、エチレングリコール、及びポリエチレングリコールがある。コポリマーの合成を促進するのに用いられる触媒としては、これらに限らないが、オクチル酸スズ及びトリフルオロメタンスルホン酸スズがある。
【0053】
いくつかの実施形態においては、ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料は溶融混合により生成できる。溶融混合においては、バイオセラミック粒子はポリマー溶融物と混合される。粒子は押し出し又はバッチ法によりポリマー溶融物と混合できる。ポリマーブレンドとバイオセラミック粒子の複合材料は押し出してチューブ等のポリマー構造物を形成できる。次にこのチューブからステントが作製できる。
【0054】
1つの実施形態においては、バイオセラミック粒子は、ポリマーの溶融前に粉末又は顆粒形態でポリマーブレンドと混合できる。粒子とポリマーとは容器又はミキサー内で粒子とポリマーとをかきまぜることなどの機械的混合又は攪拌によって混合できる。次にかきまぜた混合物を、押し出し機内で又はバッチプロセスを使用して、ポリマーブレンド中の少なくとも1つのポリマーの溶融温度より高い温度に加熱することができる。
【0055】
さらなる実施形態においては、医用デバイス用のポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料の製造方法には、バイオセラミック粒子の懸濁液とポリマー溶液から複合材料を調製することが含まれ得る。上述の機械的混合又は攪拌手法の潜在的問題点は、ポリマー及び粒子が領域又は層に分離する可能性があることである。これは特にナノ粒子等のより微小な粒子に関して問題である。また、粒子は凝集する、又は塊を形成する可能性があるため、粒子をポリマー溶融物と混合して均一な分散を得ることが難しいことがある。押し出し機内又はバッチプロセスでの機械的混合が塊を破壊するのに不充分で、その結果、バイオセラミック粒子とポリマーブレンドの混合が不均一になることがある。バイオセラミック粒子は、懸濁液から生成した複合材料にはより均一に分散できることがある。
【0056】
埋込型医用デバイスを形成する方法のある種の実施形態には、ポリマー溶液中に懸濁したバイオセラミック粒子を含む懸濁液からポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料を生成することが含まれ得る。「懸濁液」は、流体中に粒子が懸濁又は分散した混合物である。ポリマー溶液は、ポリマーに対して溶媒である流体中に溶解したポリマーを含み得る。粒子は、ポリマーを流体に溶解する前又は後に流体と混合することができる。バイオセラミック粒子を懸濁液に分散させるためには、当業者に知られた種々の機械的混合方法が使用できる。1つの実施形態においては、粒子の分散は超音波ミキサーにより促進できる。
【0057】
さらに、懸濁液をポリマーの貧溶媒である第2の流体と混合することが含まれ得る。少なくとも一部のポリマーは懸濁溶液と第2の流体との混合に際して沈殿し得る。いくつかの実施形態においては、少なくとも一部のバイオセラミック粒子は沈殿したポリマーとともに懸濁液から沈殿して、バイオセラミック粒子とポリマーの複合材料混合物を生成することができる。沈殿した複合材料混合物は、次に濾過して溶媒と分離できる。濾過した複合材料混合物は乾燥して残存溶媒を除くことができる。たとえば、複合材料混合物は真空オーブンで、又は加熱ガスを混合物に吹き付けることにより、乾燥できる。
【0058】
ポリマー溶液はたとえば、溶媒中に溶解した、マトリックスポリマー、改質ポリマー、不連続相セグメントのポリマー、又はこれらの組合せを含み得る。例示的なポリマーとしては、これらに限らないが、PLLA、PDLA、LPLG、P(GA−co−CL)、PGA、PTMC、P(GA−co−CL)−b−PLLA、及びPLLA−b−P(GA−co−CL)があげられる。このようなポリマーに対する代表的な溶媒としては、トルエン及びクロロホルムがある。ポリマーを沈殿させるのに用い得る、これらのポリマーに対する代表的な貧溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及びヘキサン又はヘプタン等の種々のアルカン類があげられる。
【0059】
バイオセラミックナノ粒子を含む懸濁液では、粒子は溶液中でポリマー鎖と強い相互作用を有し、その結果、粒子がポリマー鎖によってカプセル化され、又は取り囲まれることがあると考えられる。したがって、ポリマーが溶液から沈殿する際に、粒子とポリマーとの相互作用が粒子と溶液との相互作用を凌駕し、粒子がポリマーとともに沈殿することがある。
【0060】
さらに、粒子の沈殿の程度及び沈殿したポリマー中での粒子の分散の程度の両者は溶液に溶解したポリマーの量に依存することが観察されてきた。沈殿の程度とは、懸濁液から沈殿した粒子の量を意味する。沈殿したポリマー中での粒子の分散の程度とは、粒子と沈殿したポリマーの混合の程度を意味する。
【0061】
ポリマーの量は懸濁溶液中のポリマーの重量百分率によって定量できる。また、溶液の粘度も、溶液中のポリマーの量に関連している。溶解したポリマーの重量百分率が高いほど、懸濁溶液の粘度が高い。
【0062】
懸濁した粒子の所与の濃度について、溶解したポリマーの重量百分率又は粘度が減少すると、粒子の沈殿の程度が減少する。これはおそらく、粒子とポリマー鎖との相互作用が減少するためであろう。したがって、ポリマーの重量百分率又は粘度が低くなると、沈殿する粒子の量は比較的少なくなるであろう。
【0063】
さらに、懸濁した粒子の所与の濃度について、ポリマーの重量百分率又は溶液の粘度がある観察された範囲を超えて増大すると、沈殿したポリマー中の粒子の分散の程度が減少する傾向がある。ポリマーの重量百分率が高いと、又は粘度が高いと、ポリマー鎖間の相互作用が粒子とポリマー鎖との相互作用を低下させ、粒子を沈殿させると考えられる。たとえば、粒子はポリマー鎖の間を自由に移動することはできないであろう。
【0064】
所与の懸濁液は、粒子の種類、粒子濃度、及び溶媒の特定の組合せを有している。この所与の懸濁液について、ポリマーの重量百分率又は粘度を変化させて所望の粒子の沈殿の程度及び所望の沈殿したポリマー中の粒子の分散の程度を得ることができる。したがって、所望の粒子の沈殿の程度及び沈殿したポリマー中の粒子の分散の程度をもたらすポリマーの重量百分率又は粘度の範囲があり得る。
【0065】
さらに、懸濁液を貧溶媒と混合する方法も沈殿の程度及び分散の程度に影響し得る。たとえば、懸濁液の小滴の微細なミストを貧溶媒中に堆積させることにより、所望の沈殿の程度及び分散の程度がより容易に得られる。したがって、懸濁液を貧溶媒と混合する方法は、所望の沈殿の程度及び分散の程度をもたらすポリマーの重量百分率又は粘度の範囲に影響し得る。
【0066】
本方法のさらなる実施形態には、複合材料混合物を押し出し機に輸送することが含まれる。複合材料混合物は、複合材料混合物中のポリマーの融点より高く、バイオセラミック粒子の融点よりも低い温度で押し出すことができる。いくつかの実施形態においては、乾燥した複合材料混合物は、たとえば刻むこと又は磨砕することにより小片に分割できる。複合材料混合物のより小さな片を押し出すことにより、押し出しプロセス中でのナノ粒子のより均一な分布がもたらされ得る。
【0067】
押し出された複合材料混合物は、次にチューブ又は巻きつけ若しくは接着によりチューブを形成することができるシート等のポリマー構造物に形成することができる。次にこの構造物から医用デバイスを作ることができる。たとえば、チューブにパターンをレーザー加工することにより、チューブからステントを作ることができる。別の実施形態においては、ポリマー構造物は複合材料混合物から射出成形装置を用いて形成できる。
【0068】
所望の量の沈殿した複合材料混合物の調製には大量の溶媒及び沈殿剤を必要とすることがある。したがって、いくつかの実施形態においては、押し出し機又はバッチプロセスで、沈殿した複合材料混合物をある量のポリマーと溶融混合することが有利であることもある。ポリマーは沈殿した複合材料混合物と同じポリマーでも異なるポリマーでもよい。たとえば、比較的少量の、所望よりも多い重量百分率のバイオセラミック粒子を含む沈殿した複合材料混合物を調製し得る。沈殿した複合材料混合物をある量の生体分解性ポリマーと溶融混合して、所望の重量百分率のバイオセラミック粒子を含む複合材料混合物を生成することができる。
【0069】
いくつかの実施形態においては、埋込型デバイスの作製に用いる複合材料は、最初にマトリックスポリマーとバイオセラミック粒子の複合材料混合物を生成することにより生成できる。複合材料混合物は、マトリックスポリマー溶液中のバイオセラミック粒子の懸濁液からマトリックスポリマーを沈殿させることによって生成し得る。次に複合材料混合物は改質ポリマーと、たとえば押し出しにより混合できる。1つの実施形態においては、沈殿したマトリックスポリマー/バイオセラミック複合材料混合物のバッチを、デバイスの目標よりも高い重量百分率のバイオセラミック粒子で生成することができる。次にこのバッチを、マトリックスポリマー及び改質ポリマーと混合して、目標とする重量百分率のバイオセラミック粒子を含むポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料を得ることができる。たとえば、最初にPLLAとバイオセラミック粒子の比が2:1であるPLLA/バイオセラミック複合材料のバッチを作製することによって、PLLAと改質ポリマーを含む100:1の複合材料を調製することができる。次にこの2:1の複合材料をPLLA及び改質ポリマーと混合して、100:1のPLLA−改質ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料が得られる。
【0070】
他の実施形態においては、埋込型デバイスの作製に用いる複合材料は、最初に改質ポリマーとバイオセラミック粒子の複合材料混合物を生成することにより生成できる。複合材料混合物は、改質ポリマー溶液中のバイオセラミック粒子の懸濁液から改質ポリマーを沈殿させることにより生成できる。次に複合材料混合物は、マトリックスポリマーと、たとえば押し出しにより、混合できる。1つの実施形態においては、沈殿した改質ポリマー/バイオセラミック複合材料混合物のバッチを、デバイスの目標よりも高い重量百分率のバイオセラミック粒子で生成することができる。次にこのバッチを、マトリックスポリマー及び改質ポリマーと混合して、目標とする百分率のバイオセラミック粒子を含むポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料を得ることができる。たとえば、最初に改質ポリマーとバイオセラミック粒子の比が2:1である改質ポリマー/バイオセラミック複合材料のバッチを作製することによって、PLLAと改質ポリマーを含む100:1の複合材料を調製することができる。次にこの2:1の複合材料をPLLA及び改質ポリマーと混合して、100:1のPLLA−改質ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料が得られる。
【0071】
いくつかの実施形態においては、ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料は、ポリマーブレンド中に分散した生体吸収性バイオセラミック粒子を含み得る。生体吸収性バイオセラミック粒子は、複合材料の分解速度及びデバイスの分解時間を増大させ得る。1つの実施形態においては、ポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料デバイスの分解時間は所望の時間枠に調整及び/又は調節できる。バイオセラミック粒子がポリマーマトリックス中で浸食されるにつれて、ポリマーブレンドの多孔性は増大する。多孔性が増大すると、ポリマーブレンド中の水分の拡散速度が増大し、したがってポリマーブレンドの平衡水分含率が増大する。その結果、ポリマーブレンドの分解速度が増大する。多孔構造はまた分解生成物のマトリックス外への輸送を増大させ、これはまたポリマーブレンドの分解速度を増大させる。
【0072】
ある実施形態においては、デバイスの分解速度及び分解時間は、バイオセラミック材料の種類並びに粒子のサイズ及び形状などの変数により調整又は制御できる。いくつかの実施形態においては、バイオセラミック材料は、ポリマーブレンドよりも速い分解速度を有するように選択できる。バイオセラミック材料の分解速度が速いと、ポリマーブレンドの多孔性の増大も速く、その結果、ポリマーブレンドの分解速度の増大がより大きくなる。さらに、粒子のサイズは粒子の浸食時間に影響する。粒子が小さければ粒子の単位質量あたりの表面積が大きくなるので、粒子の浸食が速くなる。
【0073】
たとえば、ナノ粒子はマイクロ粒子に比べて比較的速い浸食速度を有し得る。さらに、繊維などの延伸した粒子は、粒子の単位質量あたりの表面積が大きいので、単位質量あたりより速い速度で浸食されやすい。また、短繊維は長繊維より速く浸食されやすい。短繊維は短い長さに切断された長繊維を意味する。いくつかの実施形態においては、短繊維は上述のように繊維を形成してそれらを短い長さに切断することにより作られる。1つの実施形態においては、短繊維の少なくとも一部の長さは、形成されたチューブの直径よりも実質的に短い。たとえば、いくつかの実施形態においては、短繊維の長さは0.05mm未満であり得る。他の実施形態においては、短繊維の長さは0.05〜8mm、又はより狭い範囲では0.1〜0.4mm、又は0.3〜0.4mmであり得る。
【0074】
さらに、バイオセラミック粒子の浸食により生じた細孔のサイズ及び分布はまた、ポリマーブレンドの分解速度及び時間に影響し得る。ナノ粒子等のより小さい粒子は、マイクロ粒子等のより大きい粒子よりも、より大きい体積のポリマーブレンドを体液にさらす多孔性網目を生じる。その結果、ナノ粒子を用いた場合には、マイクロ粒子を用いた場合に比べて、マトリックスの分解速度と時間は増大し得る。
【0075】
粒子に用いる材料の種類並びに粒子のサイズ及び形状を適切に選択することにより、粒子及び複合材料デバイスは、選択した浸食速度と分解時間を有するように設計することができる。たとえば、粒子は、数分、数時間、数日、又は1か月、体液にさらすことによって浸食されてなくなるように設計することができる。
【0076】
上に示したように、多くの生体分解性ポリマーは、加水分解機構により分解する。加水分解反応の速度は、pHの低下とともに増大する傾向がある。ポリラクチド等のポリマーの分解生成物は酸性なので、分解生成物は自己触媒効果を有する。したがって、バイオセラミックの分解生成物のpHはまた、デバイスの分解速度に影響し得る。したがって、酸分解副生物を有するバイオセラミック粒子は、ポリマーブレンドの分解速度をさらに増大させることがある。
【0077】
たとえば、リン酸三カルシウムは、酸性の分解生成物を放出する。したがって、いくつかの実施形態は、体液にさらすことで酸性分解生成物を有するバイオセラミックを含む複合材料を含み得る。酸性分解生成物はポリマーの分解速度を増大させ、これはデバイスの分解時間を短くし得る。
【0078】
他の実施形態においては、複合材料は塩基性分解生成物を有するバイオセラミック粒子を有し得る。たとえば、ヒドロキシアパタイトは塩基性の分解生成物を放出する。バイオセラミック粒子の塩基性分解生成物はポリマー分解による酸性分解生成物を中和することにより、ポリマーブレンドの分解の自己触媒性効果を減少させ得る。いくつかの実施形態においては、バイオセラミック粒子の塩基性分解生成物は、ポリマーブレンドの分解速度を低下させ得る。
【0079】
いくつかの実施形態においては、バイオセラミック粒子は、粒子とポリマーブレンドとの接着を改善するために、接着促進剤を含み得る。1つの実施形態においては、接着促進剤はカップリング剤を含み得る。カップリング剤は、複合材料材料のバイオセラミック粒子とポリマーブレンドの両者と反応することができる化学物質を意味する。カップリング剤は、ポリマーとバイオセラミック粒子の間の界面として作用し、両者の間に化学架橋を生成して接着を強化する。
【0080】
接着促進剤としては、これらに限定されないが、シラン及び非シランカップリング剤を含み得る。たとえば、接着促進剤として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、有機トリアルコキシシラン類、チタン酸塩、ジルコン酸塩、及び有機酸−塩化クロム配位錯体を含み得る。特に、3−アミノプロピルトリメトキシシランは、ポリ(L−ラクチド)とバイオガラスの接着を促進することが示されている。Biomaterials 25(2004)2489〜2500ページ。
【0081】
いくつかの実施形態においては、バイオセラミック粒子の表面を、ポリマーブレンドと混合する前に接着促進剤で処理してもよい。1つの実施形態においては、接着促進剤を含む溶液でバイオセラミック粒子を処理してもよい。処理の例としては、これだけに限定されないが、接着促進剤又は接着促進剤を含む溶液で粒子をコーティング、浸漬、又はスプレー処理する方法があげられる。粒子はまた、接着促進剤を含む気体で処理してもよい。1つの実施形態においては、バイオセラミック粒子の処理には、接着促進剤を蒸留水及びエタノール等の溶媒の溶液と混合し、次いでバイオセラミック粒子を加える処理が含まれる。次いでバイオセラミック粒子をたとえば遠心により溶液から分離し、粒子を乾燥することができる。次いでバイオセラミック粒子はポリマー複合材料を生成するために用いられる。代替の実施形態として、複合材料の生成中に接着促進剤を粒子に加えることもできる。たとえば、押し出しの間に接着促進剤をポリマーブレンド/バイオセラミック混合物に混合することができる。
【0082】
埋込型医用デバイスの作製に使用できるポリマーの代表的な例としては、これらに限定されないが、ポリ(N−アセチルグルコサミン)(キチン)、キトサン、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−co−バレレート)、ポリオルソエステル、ポリ酸無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリ(グリコリド)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリエチレンアミド、ポリエチレンアクリレート、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、コポリ(エーテル−エステル)(たとえばPEO/PLA)、ポリホスファゼン、生体分子(フィブリン、フィブリノーゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン、及びヒアルロン酸等)、ポリウレタン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン−αオレフィンコポリマー、ポリアクリレート以外のアクリル酸ポリマー及びコポリマー、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー(ポリ塩化ビニル等)、ポリビニルエーテル(ポリビニルメチルエーテル等)、ポリハロゲン化ビニリデン(ポリ塩化ビニリデン等)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリビニル芳香族(ポリスチレン等)、ポリビニルエステル(ポリ酢酸ビニル等)、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂、ポリアミド(Nylon66及びポリカプロラクタム等)、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、レーヨン、レーヨントリアセテート、セルロース、セルロースアセテート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、及びカルボキシメチルセルロースがある。
【0083】
本明細書で開示された方法による埋込型医用デバイスの作製用に特によく適しているであろうポリマーの別の代表例としては、エチレンビニルアルコールコポリマー(一般名EVOH又は商品名EVALとして一般に知られている)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(フッ化ビニリデン−co−ヘキサフルオロプロペン)(たとえばSolvay Solexis PVDF、Thorofare、NJから入手可能なSOLEF 21508)、ポリフッ化ビニリデン(他にATOFINA Chemicals、Philadelphia、PAから入手可能なKYNARとして知られている)、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、及びポリエチレングリコールがある。
【0084】
本発明の目的のため、以下の用語及び定義を適用する。
バイオセラミックには人体と親和性のある任意のセラミック材料が含まれ得る。より一般的には、バイオセラミック材料には任意の種類の親和性無機材料又は無機/有機複合材料が含まれ得る。バイオセラミック材料としては、これらに限らないが、アルミナ、ジルコニア、アパタイト、リン酸カルシウム、シリカ系ガラス又はガラスセラミック、及び熱分解炭素がある。バイオセラミック材料は生体吸収性及び/又は活性であり得る。バイオセラミックは、生理的プロセスに能動的に関与するならば活性である。バイオセラミック材料はまた「不活性」でもあり得る。これはその材料が人体の生理的条件下で吸収又は分解されず、生理的プロセスに能動的に関与しないことを意味する。
【0085】
アパタイト及び他のリン酸カルシウムの説明に役立つ例としては、これらに限らないが、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))、フッ化アパタイト(Ca10(PO)、カーボネートアパタイト(Ca10(POCO)、リン酸三カルシウム(Ca(PO)、リン酸八カルシウム(Ca(PO・5HO)、リン酸八カルシウム(Ca(PO・5HO)、ピロリン酸カルシウム(Ca・2HO)、リン酸四カルシウム(Ca)、及びリン酸二カルシウム脱水物(CaHPO・2HO)がある。
【0086】
バイオセラミックという用語は、SiO、NaO、CaO、及びP等の化合物からなる生体活性ガラスセラミックである生体活性ガラスをも含み得る。たとえば、商品として入手可能な生体活性ガラスであるBioglass(登録商標)は、ある組成のSiO−NaO−KO−CaO−MgO−P系から誘導される。いくつかの商品として入手可能な生体活性ガラスとしては、これらに限らないが、
45S5:SiO 46.1モル%、CaO 26.9モル%、NaO 24.4モル%、及びP 2.5モル%
58S:SiO 60モル%、 CaO 36モル%、 及びP 4モル%、並びに
S70C30:SiO 70モル%、 CaO 30モル%
がある。
商品として入手可能な別のガラスセラミックはA/Wである。
【0087】
上に示したように、ステント等の埋込型医用デバイスは、そのデバイス上のコーティングに、又はそのデバイスの基材の内部に、活性薬剤を組み込むことによって医薬を含ませることができる。いくつかの実施形態においては、バイオセラミックから溶出するイオンは、活性薬剤に対して付加的な治療効果及び/又は相乗的な治療効果を有することができる。たとえば、イオンは、抗増殖剤及び/又は抗炎症剤と併せて用いることができる。
【0088】
バイオセラミック粒子は、部分的に又は完全に生体分解性、生体吸収性、又は生体安定性セラミックから作ることができる。生体吸収性バイオセラミックの例としては、種々の種類のバイオガラス材料、リン酸四カルシウム、非晶性リン酸カルシウム、α−リン酸三カルシウム、及びβ−リン酸三カルシウムがある。生体安定性バイオセラミックとしては、アルミナ及びジルコニアがある。
【0089】
複合材料には種々のサイズのバイオセラミック粒子が使用できる。たとえば、バイオセラミック粒子としては、これらに限定されないが、ナノ粒子及び/又はマイクロ粒子がある。ナノ粒子は、約1nmから約1,000nmの範囲の特性長(たとえば直径)を有する粒子を意味する。マイクロ粒子は、1,000nmより大きく、約10μmより小さな範囲に特性長を有する粒子を意味する。さらに、バイオセラミック粒子は、これらに限らないが、球及び繊維等の種々の形態を取り得る。
【0090】
さらに、ポリマーの性質を改変するために粒子サイズ分布が重要なこともある。一般には、サイズ分布が狭いことが好ましい。
【0091】
デバイスの構造要素の複合材料は、複合材料のポリマーマトリックスに比較して重量で0.01%から10%のバイオセラミック粒子、より狭くは重量で0.5%から2%の間のバイオセラミック粒子を有してよい。
【0092】
本発明の目的のため、以下の用語及び定義が適用される。
「ガラス転移温度」、Tgは、大気圧において、ポリマーの非晶質ドメインが脆いガラス状態から固体の可変形性又は延性のある状態に変化する温度である。換言すると、Tgはポリマーの鎖中において分節運動の開始が起こる温度に対応する。非晶質又は半結晶質のポリマーが温度上昇にさらされると、ポリマーの膨張係数及び熱容量の両者は温度上昇とともに増大し、分子運動が増大していることを示す。温度の上昇とともに試料中の実際の分子体積は一定を保ち、したがってより高い膨張係数は、その系に関連する自由体積を増大させ、したがって分子が運動する自由度を増大させる傾向を示す。熱容量の増大は、運動による熱の消散の増大に対応する。所与のポリマーのTgは、加熱速度に依存し、ポリマーの熱履歴に影響され得る。さらに、ポリマーの化学構造は、移動度に影響することにより、ガラス転移に多大の影響を与える。
【0093】
「応力」はある面内の小面積を通して作用する力におけるように、単位面積あたりの力を意味する。応力は、それぞれ法線応力及びせん断応力と呼ばれる、面に対して垂直及び平行の成分に分割できる。真の応力は力と面積が同時に測定される場合の応力を意味する。引っ張り及び圧縮試験に適用される従来の応力は、力を元のゲージ長で割ったものである。
【0094】
「強度」は、材料が破壊される前に耐え得る、軸に沿った最大応力を意味する。極限強度は、試験中に適用された最大負荷を元の断面積で割ったものから計算される。
【0095】
「弾性率」は、材料に適用された応力又は単位面積あたりの力の成分を、適用された力に起因する、適用された力の軸に沿う歪みで割った比として定義されよう。たとえば、材料は引っ張り及び圧縮弾性率の両者を有する。比較的高い弾性率を有する材料は、こわばった又は硬い傾向がある。逆に、比較的低い弾性率を有する材料は、撓みやすい傾向がある。材料の弾性率は、分子の組成及び構造、材料の温度、変形量、及び歪み速度又は変形速度に依存する。たとえば、Tgより低い温度では、ポリマーは高い弾性率を有し、脆い傾向がある。Tgより低い温度からTgより高い温度にポリマーの温度が上昇するとともに、その弾性率は低下する。
【0096】
「歪み」は、所与の応力又は負荷において、材料中に生じる伸び又は圧縮の量を意味する。
【0097】
「伸び」は、応力を加えたときに生じる材料中の長さの増加として定義されよう。これは典型的には元の長さの百分率として表される。
【0098】
「靱性」は、破壊前に吸収されたエネルギー、又はこれと等価に、材料を破壊するために必要な仕事の量である。靱性の1つの測定は、ゼロ歪みから破壊時の歪みまでの応力歪み曲線の下の面積である。したがって、脆い材料は比較的低い靱性を有する傾向がある。
【0099】
「溶媒」は、1種又はそれ以上の他の物質を溶解又は分散させ、又はこれらの物質(1種又はそれ以上)を少なくとも部分的に溶解又は分散させて、選択した温度及び圧力において、分子サイズ又はイオンサイズレベルで均一に分散した溶液を生成する能力を有する物質として定義される。溶媒は、選択した温度及び圧力、たとえば周囲温度及び周囲圧力において、溶媒1mlあたり少なくとも0.1mg、より狭くは1mlあたり0.5mgのポリマーを溶解する能力を有するべきである。
【実施例】
【0100】
以下に説明する実施例及び実験データは説明目的のためのみであり、本発明を何ら限定するものではない。以下の実施例は本発明の理解を助けるために提供されているが、本発明は実施例の特定の材料又は方法に限定されないことを理解すべきである。
【0101】
ステントはポリマーブレンド/バイオセラミック複合材料から作製した。PLLAはマトリックスポリマーであり、P(GA−co−CL)−b−PLLA及び/又はPLLA−b−P(GA−co−CL)は改質ポリマーである。硫酸カルシウムのナノ粒子はバイオセラミックナノ粒子である。硫酸カルシウムのナノ粒子は、PEG−PPG−PEG表面改質剤で前処理した。PEGはポリエチレングリコールを意味し、PPGはポリプロピレングリコールを意味する。マトリックスポリマーと改質ポリマーとバイオセラミック粒子の重量比は、100:10:1であった。
【0102】
複合材料は、本明細書に記載の方法に従って製造した。ステントは複合材料から作製したチューブから作製し、チューブは半径方向に拡張させた。拡張したチューブをレーザーで切断してステントを形成した。
【0103】
ステント試料について圧縮、リコイル、又は拡張テストを実施した。ここでクリンパーNo.1及びクリンパーNo.2と称する自家製の2種の異なったクリンパーを用いた。ステントはゼロ時点、即ち作製後に時間を置くことなく試験した。
【0104】
レーザーで切断した後、それぞれのステント試料をカテーテルバルーンに圧着し、ホイルパウチに包装し、電子線照射により滅菌した。次いで、圧縮、リコイル、及び拡張試験のためにステント試料をパウチから取り出した。
【0105】
圧縮試験に先立ち、パウチから取り出したステントを3.0mmに展開し、カテーテルアセンブリーから取り外した。圧縮試験は、Canton、MAのInstron社から得たInstron試験機により実施した。ステント試料を2枚の平板の間に置いた。平板間の距離が非圧縮状態のステントの直径になるよう、平板を調整した。次いで、非圧縮時の平板間距離の10%、15%、25%、及び50%にステントを圧縮するよう、平板を調整した。抵抗力、即ちN/mmの単位の、ステントをそれぞれの圧縮距離に保つために必要な力の量を測定した。抵抗力は半径方向の強度(Rs)の測定に対応する。弾性率も測定した。
【0106】
表1Aに、クリンパーNo.1試料より得た圧縮試験結果を示す。Rs及び弾性率は50%圧縮に対応する。表1BにクリンパーNo.2試料より得た圧縮試験結果を示す。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
リコイル試験のため、圧着したステント試料をホイルパウチから取り出し、バルーン圧8気圧で展開した。展開したステントの直径を測定した。バルーンを収縮させ、再び直径を測定した。リコイル%を
リコイル%=(拡張直径−収縮直径)/拡張直径×100%
より計算した。
【0110】
拡張直径は、バルーンを収縮させる前の展開したステントの直径であり、収縮直径は、バルーンを収縮させた後のリコイルしたステントの直径である。ステントの展開はまた、ステントの長さの増加をもたらす。長さ変化%は、
長さ変化%=(圧着した長さ−展開した長さ)/圧着した長さ×100%
から計算した。
【0111】
表2AはクリンパーNo.1についてゼロ時点で5個のステント試料について実施したリコイル試験結果を示す。表2BはクリンパーNo.2についてゼロ時点で5個のステント試料について実施したリコイル試験結果を示す。与えられた全リコイル%はステントの長さに沿ったそれぞれの点で計算したリコイルの平均である。
【0112】
【表3】

【0113】
【表4】

【0114】
拡張試験のため、圧着したステント試料をホイルパウチから取り出し、外径をまず3.0mmに、次に3.5mmに、次に4.0mmに展開した。ステント試料中の亀裂の数をそれぞれの展開直径においてカウントした。
【0115】
表3AはクリンパーNo.1について直径3.5mm及び4mmで展開した際のゼロ時点でのステント試料中で観察された亀裂の数を示す。表3BはクリンパーNo.2について直径3.5mm及び4mmで展開した際のゼロ時点でのステント試料中で観察された亀裂の数を示す。欄は亀裂のサイズを示す。「マイクロ」はマイクロサイズの亀裂を示す。「<25%」はストラット幅の25%未満の亀裂を示す。「<50%」はストラット幅の50%未満の亀裂を示す。「>50%」はストラット幅の50%より大きい亀裂を示す。「A」はストラットの「v字型」領域又は屈曲領域を示し、「B」は5個のストラットの交点におけるクモ状の領域を示す。領域は図5A〜Dに見ることができる。3.5mm又は4.0mmの展開直径においては、壊れたストラットは観察されなかった。
【0116】
【表5】

【0117】
【表6】

【0118】
図5A〜Dはそれぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、4.0mmに拡張後のクリンパーNo.1のステント試料の写真イメージを示す。図6A〜Dはそれぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、4.0mmに拡張後のクリンパーNo.1のステント試料の写真イメージを示す。
【0119】
2種のクリンパーに対応した試験結果を表4にまとめる。2種のクリンパーの結果には僅かな差しか見られず、測定した性質は用いたクリンパーに依存しないことが示された。
【0120】
【表7】

【0121】
本発明の特定の実施形態を示し、記載したが、そのより広い態様において本発明から逸脱することなく、変更及び改変ができることは、当業者には明白であろう。したがって、付属の特許請求の範囲は、本発明の真の精神及び範囲内に含まれるすべての変更及び改変を、その範囲内に包含するためのものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造要素を含む埋込型医用デバイスであって、
該構造要素が、
マトリックスポリマーを含む連続相;及び
該連続相中の不連続相であって、該不連続相は不連続相セグメントを有する改質ポリマーを含み、該不連続相セグメントは該マトリックスポリマーと非相溶性であり、該改質ポリマーは該マトリックスポリマーと相溶性のアンカーセグメントをさらに含み、該アンカーセグメントは少なくとも部分的に該不連続相から該連続相に相分離する、不連続相を含み、
複数のバイオセラミック粒子が、該連続相及び/又は該不連続相中に分散している、埋込型医用デバイス。
【請求項2】
前記埋込型医用デバイスがステントである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記マトリックスポリマー及び前記改質ポリマーが生体分解性ポリマーである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記連続相のすべて又は大部分が前記マトリックスポリマーを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記不連続相セグメントが体温より低いTgを有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記不連続相セグメントがエラストマーを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記マトリックスポリマーが、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記不連続相セグメントが、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、及びグリコリドからなる群から選択されるモノマーを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記改質ポリマーが、ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)−b−ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド)−b−ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)−b−ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)−b−ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記バイオセラミック粒子がナノ粒子である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記粒子が前記相の一方又は両方の中に均一に又は実質的に均一に分散している、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記バイオセラミック粒子が生体分解性である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記バイオセラミック粒子の分解生成物が、前記デバイスの使用中に前記マトリックスポリマー及び/又は前記改質ポリマーの分解速度を改変することができる、請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記粒子の分解生成物が塩基性又は酸性である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項15】
前記バイオセラミック粒子がカルシウム及びリン酸塩化合物からなる群から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項16】
前記バイオセラミック粒子の表面が接着促進剤を含み、該接着促進剤が前記マトリックス及び/又は前記改質ポリマーと前記バイオセラミック粒子との結合を強化する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
前記接着促進剤がカップリング剤を含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記接着促進剤が、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン及びアミノプロピルメチルジエトキシシランからなる群から選択される、請求項16に記載のデバイス。
【請求項19】
前記粒子が生理的条件において該デバイスの前記構造要素の靱性を増大させる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項20】
前記粒子が生理的条件において前記デバイスの前記構造要素の弾性率を増大させる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項21】
前記不連続相がアンカーセグメントを有しない不連続相セグメントを有するコポリマーをさらに含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項22】
前記構造要素の1〜40wt%が前記改質ポリマーを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項23】
埋込型医用デバイスを作製する方法であって、
流体と、マトリックスポリマーと、バイオセラミック粒子とを含む懸濁溶液を生成するステップであって、ここで該ポリマーは該流体に溶解しており、該バイオセラミック粒子は該溶液に分散しているステップと、
該懸濁溶液と第2の流体との混合に際してマトリックスポリマーの少なくとも一部を沈殿させるステップであって、該第2の流体は該マトリックスポリマーの貧溶媒であり、ここで該バイオセラミック粒子の少なくとも一部は該沈殿したポリマーとともに沈殿して複合材料混合物を生成するステップと、
該複合材料混合物を改質ポリマー及び追加のマトリックスポリマーと混合して第2の複合材料混合物を生成するステップであって、該バイオセラミック粒子は該混合によって該第2の複合材料混合物中に分散し、ここで該改質ポリマーは不連続相セグメントを有し、該不連続相セグメントは該マトリックスポリマーと非相溶性であり、該改質ポリマーは該マトリックスポリマーと相溶性のアンカーセグメントをさらに含むステップと、
該第2の複合材料混合物から医用デバイスを作製するステップとを含む、埋込型医用デバイスを作製する方法。
【請求項24】
前記医用デバイスがステントである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記マトリックスポリマーが、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記不連続相セグメントが、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、及びグリコリドからなる群から選択されるモノマーを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記アンカーセグメントが、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記改質ポリマーが、ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)−b−ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド)−b−ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)−b−ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)−b−ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記第2の複合材料混合物から前記医用デバイスを作製するステップが、該第2の複合材料混合物からチューブを形成するステップと、該チューブにステントパターンを切削するステップとを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
埋込型医用デバイスを作製する方法であって、
流体と、改質ポリマーと、バイオセラミック粒子とを含む懸濁溶液を生成するステップであって、ここで該ポリマーは該流体に溶解しており、該バイオセラミック粒子は該溶液に分散しているステップと、
該懸濁溶液と第2の流体との混合に際して改質ポリマーの少なくとも一部を沈殿させるステップであって、該第2の流体は該改質ポリマーの貧溶媒であり、ここで該バイオセラミック粒子の少なくとも一部は該沈殿したポリマーとともに沈殿して複合材料混合物を生成するステップと、
該複合材料混合物を該改質ポリマー及びマトリックスポリマーと混合して第2の複合材料混合物を生成するステップであって、該バイオセラミック粒子は該混合によって該第2の複合材料混合物中に分散し、ここで該改質ポリマーは不連続相セグメントを有し、該不連続相セグメントは該マトリックスポリマーと非相溶性であり、該改質ポリマーは該マトリックスポリマーと相溶性のアンカーセグメントをさらに含むステップと、
該第2の複合材料混合物から医用デバイスを作製するステップを含む、埋込型医用デバイスを作製する方法。
【請求項31】
前記医用デバイスがステントである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記マトリックスポリマーが、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記不連続相セグメントが、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、及びグリコリドからなる群から選択されるモノマーを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記アンカーセグメントが、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記改質ポリマーが、ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)−b−ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド)−b−ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)−b−ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)−b−ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記第2の複合材料混合物から前記医用デバイスを作製するステップが、該第2の複合材料混合物からチューブを形成するステップと、該チューブにステントパターンを切削するステップとを含む、請求項30に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【公表番号】特表2010−504817(P2010−504817A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530368(P2009−530368)
【出願日】平成19年9月17日(2007.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/020129
【国際公開番号】WO2008/042108
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(507135788)アボット カーディオヴァスキュラー システムズ インコーポレイテッド (92)
【Fターム(参考)】