説明

ポリマー母材中にカーボンナノチューブを分散させる方法

【課題】ポリマー母材中にカーボンナノチューブを分散させる改良された方法を提供する。
【解決手段】母材中にナノスケールでカーボンナノチューブを分散させる方法において、カーボンナノチューブが触媒担体に用いられた触媒系でモノマーを重合して得られるコーティングポリマーでコーティングされたカーボンナノチューブを調製するステップであって、カーボンナノチューブはその表面にコーティングポリマーを重合するための触媒系を備え、コーティングポリマーは母材と非混和性であるステップと、コーティングされたカーボンナノチューブと非混和性のポリマー母材とを混合し、コーティングポリマーがポリマー母材へのカーボンナノチューブの輸送手段として作用するステップとを含む、ポリマー母材中にカーボンナノチューブを分散させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合材料の分野に関し、より具体的にはナノ複合材料に関する。本発明はポリマー母材中にカーボンナノチューブを分散させる改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーを母材とする複合材は粒子のサイズに応じて、充填物の三次元方向寸法が1マイクロメートル以上の「マイクロ複合材料」と、充填物の三次元方向寸法の少なくとも1つが100nm未満、場合によっては1乃至数十ナノメートル程度の「ナノ複合材料」とに分類される。
【0003】
ナノ複合材料は比較的低い充填率で、即ち、10重量%未満でも顕著な性能を発揮するため、産業分野において特に関心を集めている。具体的には、ナノ複合材料はポリマー母材の機械的または電気的性能を著しく改善する。しかも、繊維による強化とは異なり、あらゆる方向にポリマー母材を強化する。
【0004】
カーボンナノチューブを粒子状充填物とするナノ複合材料について、既に種々の用途が提案されている。
【0005】
しかし、ナノ複合材料を創成するためにポリマー母材への充填物としてカーボンナノチューブを使用すると、幾つかの問題に直面する。即ち、カーボンナノチューブが凝集して、集合体または凝集塊と呼称される極めて安定した「バンドル(束)」を形成する傾向がある。このような凝集塊の存在はこのような凝集塊が存在する複合材料の物理的及び機械的性質に悪影響を及ぼす。
【0006】
この凝集現象を回避し、複合材料を形成するポリマー母材の物理的、機械的及び電気的性能を維持するため、カーボンナノチューブをコーティングする方法が考案された。例えば、文献国際公開第02/16257号パンフレットはポリマーでコーティングされた単層カーボンナノチューブを含む複合材料を開示している。文献国際公開第2005/040265号パンフレットも、ポリマー母材とポリアニリンでコーティングされた0.1乃至10重量%のナノチューブから成る複合材を開示している。
【0007】
しかし、これらの解決策では、ナノスケールで均一に分散させるために凝集塊のサイズを制限できても、凝集塊の形成を防止することはできない。
【0008】
さらにまた、文献国際公開第2005/012170号パンフレットはカーボンナノチューブが分散されるポリマー母材とカーボンナノチューブとの相溶性を高めることができる特殊なコーティング方法を開示している。この方法はポリマー母材中にカーボンナノチューブを均一且つ安定的に分散させることを可能にする。この方法は助触媒/触媒対をカーボンナノチューブの表面に沈着させて触媒系を形成し、カーボンナノチューブを触媒支持体として用いることが特徴である。カーボンナノチューブの周りにコーティングを生成させるため、カーボンナノチューブの表面で重合を起こす前に触媒系を活性化する。
【0009】
しかし、上記方法において使用されるコーティングポリマーは、複合材料のポリマー母材と混和性のものである。本発明では、混和性のポリマーを母材及びコーティングに使用する必要は無く、むしろ逆効果を招く可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は公知技術の欠点を解消するような解決策を提供することを目的とする。
【0011】
具体的には、本発明はカーボンナノチューブをコーティングするためのポリマーと非混和性で相溶性、または非混和性で不相溶性のポリマー母材中にカーボンナノチューブを分散させる改良された方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明はまた、カーボンナノチューブがナノスケールでポリマー母材中に均一に分散しているナノ複合材料を得ることを目的とする、改良された分散方法の使用を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は母材中にナノスケールでカーボンナノチューブを分散させる方法に係り、この分散方法は以下のステップを含むことを特徴とする。
−カーボンナノチューブが触媒担体に用いられた触媒系でモノマーを重合して得られるコーティングポリマーでコーティングされたカーボンナノチューブを調製するステップであって、カーボンナノチューブはその表面にコーティングポリマーを重合するための触媒系を備え、コーティングポリマーは母材と非混和性であるステップ;
−コーティングされたカーボンナノチューブと非混和性のポリマー母材とを混合し、コーティングポリマーがポリマー母材へのカーボンナノチューブの輸送手段として作用するステップ。
【0014】
「ポリマー母材」とは、充填物とも呼ばれる粒子が分散される複合材料の母材を形成するポリマーを意味する。
【0015】
両ポリマーは種々の測定スケールで相分離効果が観察されれば、非混和性であるとされる。この相分離は、混合物を走査型電子顕微鏡で観察することによってμmスケールで観察することができ、主要ポリマー中に少数ポリマーの小塊となって現れることが多い。準分子スケールでは、両ポリマーの非混和性は混合物を構成する両ポリマーを特徴付ける2つのガラス転移温度の存在によって観察することができる。例えば、示差走査熱量計または動的機械分析によって測定することができる。
【0016】
混合物の自由エネルギー(ΔGMIX)がゼロよりも大きいかまたはゼロに等しければ、両ポリマーが非混和性であるとされる。
【0017】
混合物の自由エネルギーがゼロよりも大きいかゼロに等しい場合、各ポリマーの各ガラス転移温度(Tg)に変化が見られない場合、混合物のフローリー−ハギンズ・パラメータχ(キー)がゼロより大きい場合、及び界面張力が高い場合、両ポリマーは非混和性で不相溶性であるとされる。界面張力は、フローリー−ハギンズ・パラメータχ(キー)の自乗に比例し、2mN/mよりも大きければ「高い」とされる。
【0018】
混合物の自由エネルギーがゼロよりも大きいかまたはゼロに等しい場合、各ポリマーのガラス転移温度(Tg)に変化が認められる場合、混合物のフローリー−ハギンズ・パラメータχ(キー)が低いがゼロよりは大きい場合、及び界面張力が比較的低く、0乃至2mN/mである場合、両ポリマーは非混和性で相溶性であるとされる。界面張力は、フローリー−ハギンズ・パラメータχ(キー)の自乗に比例し、0乃至2mN/mの範囲なら「低い」とされる。
【0019】
ポリエチレン/EVA混合物の場合、2mN/m程度なら界面張力は低いと考えられるが、ポリエチレン/リアミドまたはポリエチレン/ポリカーボネートの場合には、2mN/mよりも大きい場合、界面張力は低いと考えられる。
【0020】
個々の実施形態では、本発明は下記特徴の1つまたは2つ以上を有する:
−非混和性で相溶性のポリマー母材が混合の過程においてコーティングポリマーと2つの相を形成し、ゼロよりも大きい混合物自由エネルギー(ΔGMIX)を有するポリマーである。
−非混和性で相溶性のポリマー母材を、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体、α−オレフィン共重合体、及びこれらの混合物から成る群から選択する。
−ポリマー母材が、コーティングポリマーと2つの相を形成し、コーティングポリマーとは異なる化学構造を有する非混和性で不相溶性のポリマーであり、コーティングポリマー及びポリマー母材の混合物がゼロよりも大きいフローリー−ハギンズ・パラメータ
χ(キー)と高い界面張力を有する。
−非混和性で不相溶性のポリマー母材を、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリスチレン、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリアセタール、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリスルフェン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニルスルフィド、ポリフェニルオキシド、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリ-ビニリデンフルオリド、ポリビニルクロリド、ポリエーテルスルフィド、ポリパーフルオロアルドキシエチレン及びこれらの混合物から成る群から選択する。
−コーティングポリマーを、ポリエチレン、ポリプロピレン、α−オレフィンとの共重合体、α−ジオレフィン共役ポリマー、ポリスチレン、ポリシクロアルケン、ポリノルボルネン、ポリノルボルナジエン、ポリシクロペンダジエン及びこれらの混合物から成る群から選択する。
−コーティングポリマーがα−オレフィンポリマーである。
−コーティングポリマーがポリエチレンである。
−カーボンナノチューブをコーティングするコーティングポリマーが、コーティングされたナノチューブの総重量の10乃至90%である。
−カーボンナノチューブの量がポリマー母材の総重量の0.1乃至5%である。
−カーボンナノチューブの量がポリマー母材の総重量の0.1乃至1%である。
−カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブ(MWNTs)である。
【0021】
また、本発明は、カーボンナノチューブをナノスケールでポリマー母材中に均一に分散させることを目的として、ポリマー母材とは非混和性で相溶性または不相溶性のポリマーの、カーボンナノチューブをコーティングするためのポリマーへの使用に係る。
【0022】
カーボンナノチューブの「ナノスケールの」均一分散とは、カーボンナノチューブが数十億分の1メートルのスケールで均一に分散していることを意味する。このスケールでは、カーボンナノチューブは実質的に互いに分離し、殆ど集合体または凝集塊を形成しない。
【0023】
「ナノ複合材料」とは、三次元方向寸法のうちの少なくとも1つが100nm以下の粒子である充填物としてのナノ粒子と、ポリマー母材とから成る複合材料を意味する。粒子の三次元方向寸法の少なくとも1つが10億分の1乃至数百億分の1メートルの場合もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
ポリマー母材中にカーボンナノチューブが分散した状態にするためコーティングを利用することは公知である。
【0025】
本発明の独創性はカーボンナノチューブをコーティングするためにポリマー母材とは非混和性で相溶性または不相溶性のポリマーを使用することにある。予想外の所見として、これによって、前記ポリマー母材中にナノスケールでカーボンナノチューブを均一に分散させることができた。さらに、本発明の方法で分散させたカーボンナノチューブを含むナノ複合材料は電気的特性が優れていると同時に、このようなナノ複合材料を構成するポリマー母材の機械的性能を確保することができる。
【0026】
本発明の分散方法を利用してカーボンナノチューブをコーティング処理する方法は「重合充填技術」または「PFT」(図1)の名称で知られる方法であり、本願明細書に参考として引用する文献である国際公開第2005/012170号パンフレットに詳しく記載されている。
【0027】
本発明において使用されるコーティングは前記文献国際公開第2005/012170号パンフレットの特許請求項1に記載されている。
【0028】
カーボンナノチューブは国際公開第2005/012170号パンフレットの特許請求項2及びパラグラフ97及び98及びパラグラフ116乃至125に記載されているように予備処理することが好ましい。この予備処理は、コーティングに使用されるモノマーの重合に触媒作用することが知られている触媒をカーボンナノチューブの表面に沈着させるという処理であり、次いで、ナノチューブの表面で直接重合を開始させる。
【0029】
触媒及び触媒/助触媒対は国際公開第2005/012170号パンフレットの特許請求項6乃至請求項9に従って、さらにパラグラフ104乃至106に記載の例に従って選択することが好ましい。コーティングポリマーの重合は国際公開第2005/012170号パンフレットのパラグラフ126乃至130に記載されている方法で達成することができる。
【0030】
ナノチューブの表面で重合反応させコーティングポリマーを得ることで、カーボンナノチューブを含有するナノ複合材料の製造工程で従来見られたナノチューブのバンドル、凝集塊または集合体の生成を解消することができる。このコーティングは、カーボンナノチューブを互いに分離させてナノチューブのバンドルを解きほぐす効果がある。
【0031】
一旦コーティングを施せば、たとえ少量のポリマーでも、カーボンナノチューブを商業的に入手可能な母材のポリマー中に、公知の手段(内部混練機、押出機など)で分散させることができる。こうして得られる分散はナノスケールの均一性を有する。
【0032】
図5に示すように、ポリエチレンでコーティングされたカーボンナノチューブを本発明の方法(N9000、図5)で分散させたポリカーボネート母材とのナノ複合材料は相対的に低い電気抵抗を示す。すなわち、コーティングされていないカーボンナノチューブのナノ複合材料(N7000、図5)や、その他のタイプのカーボン充填物の複合材料(Cabot Vulcan,Akzo Ketjen,Hyperion Fibrils)よりも高い導電率を有するという予想外の所見を得た。
【0033】
さらに、本発明の方法で分散させたカーボンナノチューブを含むナノ複合材料は、公知のナノ複合材料の場合に必要とされる量よりも遥かに少ない量のカーボンナノチューブで、公知のナノ複合材料と同程度の導電率が得られる。即ち、従来なら所与の導電率を得るのに1重量%のカーボンナノチューブを必要とした(MWNT N700、図6)のに対して、本発明では、0.25重量%を超えない量で同じレベルの導電率が得られる(図6)。従って、本発明の方法でカーボンナノチューブを分散させたナノ複合材料では、極めて低い比率のカーボンナノチューブでパーコレーション・網目構造が形成される。カーボンナノチューブ含有率が低くて済むということは単にこのようなナノ複合材料の製造コスト節減を可能にするだけでなく、ポリマー母材の機械的性能を維持しながら電気的性能を改善することを可能にする。
【0034】
本発明の方法によってカーボンナノチューブを分散させたナノ複合材料に見られる伝導率のこの顕著な改善は複合材料のポリマー母材と非混和性で相溶または不相溶性のポリマーをコーティングに使用することにある。コーティングポリマーとポリマー母材との間の非混和性または不相溶性によって、コーティングは「カーボンナノチューブの輸送手段」の役割を果たして、均一な分散結果をもたらすことができる。コーティング、より具体的にはナノチューブの表面で重合されたコーティングポリマーによって、個々のカーボンナノチューブは互いに分離した状態に維持される。これらのカーボンナノチューブをポリマー母材に導入する過程において、コーティングはその非混和性(相溶性または不相溶性)故に、またカーボンナノチューブとの共有結合を持たない故に、文字通りカーボンナノチューブの表面から「追い出される」ことになる。従って、図7及び図8、さらには図10及び11に示すように、カーボンナノチューブはコーティングされない状態にあって、しかもポリマー母材中に完全に分散している。一方、コーティングであったポリエチレンは、複数の小滴となっている。図7に示すように、これらのポリエチレンの小滴もコーティングされたカーボンナノチューブを含むが、その割合はナノ複合材料中のカーボンナノチューブ総量に比較すれば微量である。
【0035】
本発明の第1実施例では、多層カーボンナノチューブ(MWNTs)を高密度ポリエチレン(HDPE)でコーティングし(図2B及び2C)、酢酸ビニル含量の高い(28重量%)エチレン酢酸ビニル(EVA)から成るポリマー母材に導入する(図4A及び4B)。
【0036】
室温におけるHDPEとEVAの非混和性と不相溶性は多くの研究において取上げられ、具体的には1999年ニューヨーク、Ed.J.Wiley and Sons社刊 J.Bandrup,E.H.Immergut及びE.A.Grulke著“Polymer Handbook”第4版に記述されている。
【0037】
EVAとHDPEとの間の非混和性の詳細は下記の3つの刊行物にその詳細が記述されている:
−Khonakdar,Wagenknechet,Jafari,Hassler及びEslamiが“Advances in Polymer Technology”,第23巻,第4号,307−315に寄稿した“Dynamic mechanical properties and morphology of polyethylene/ethylene vinyl acetate copolymer blends”;
−Peon,Vega,Del Amo,及びMartinezが“Polymer 44(2003)2911−2918”寄稿した“Phase morphology and melt viscoelastic properties in blends of ethylene/vinyl acetate copolymer and metallocene−catalysed linear polyethylene”;
−Biju,Varughesse,Oommern,Potschke及びThomas“Journal of Applied Polymer Science,Vol.87,2083−2099(2003)”に寄稿した“Dynamic mechanical behaviour of high−density polyethylene/ethylene vinyl acetate copolymer blends:The effect of the blend ratio,reactive compatibilization and dynamic vulcanization”。
【0038】
また、HDPEとEVA(28% VA)を組み合わせて使用することによって、HDPEでコーティングされたナノチューブを種々の温度においてEVA母材中に分散させる試験を実施し、双方のポリマーを溶融状態のままに維持するか、またはHDPEを固体状態に、EVA母材を溶融状態のままに維持することができた。コーティング用HDPEとEVA母材(28% VA)との溶融温度の差は約40℃である。
【0039】
しかし、2つの温度における分散試験の結果は、カーボンナノチューブがナノスケールで分散するという点で同じであった(図4B)。なお、両ポリマーの非混和性に鑑み、HDPEコーティングが溶融後に融合してナノチューブの凝集塊か形成されることが予想されたが、ビニルアセテートが高レベルのEVA母材においてもナノスケールでの分散が起こるという予想に反する結果が得られた。
【0040】
EVA(酢酸ビニル28重量%)をベースとする複合材料の機械的性質を、クレー(Cl 30B)をベースとするナノ複合材料の機械的性質と比較した。表1を参照。なお、クレー(Cl 30B)は、メチル−ビス−2−ヒドロキシエチルアンモニウムタローによって有機変性された剥離タイプのモンモリロナイトである(ナノスケールで均一に分散されたクレーのナノシート)。
【0041】
【表1】

【0042】
これらの結果はHDPEでコーティングされたカーボンナノチューブの性質により、EVA母材が改質されたことを示す。クレーをベースとするナノ複合材料と比較して、コーティングされたカーボンナノチューブを含有するナノ複合材料はヤング率の上昇を示し、このことはカーボンナノチューブの剛性により、EVA母材が有効に改質されたことを立証している。
【0043】
本発明の第2実施例では、多層カーボンナノチューブ(MWNTs)をポリエチレンでコーティングし、ポリカーボネート母材(商品名Iupilon E 2000,三菱樹脂、日本)に導入した。
【0044】
ポリカーボネートと多層カーボンナノチューブとを粉末状態で予め混合するが、混合する前に、ポリカーボネートを少なくとも4時間、120℃で乾燥させた。次に、DACA Micro Compounder(商品名)混練機により、50rpm、15分間、加熱(280℃)の条件下で混練した。280℃でプレスし、厚さ0.35mm、直径65mm超の板状体を得た。
【0045】
予想外の所見として、図6のグラフに示すように、ポリカーボネートを母材とするナノ複合材料の場合、0.25重量%のコーティングされたカーボンナノチューブによりパーコレーション・網目構造が形成された。このコーティングされたカーボンナノチューブは、その総重量の78重量%または65重量%の高密度ポリエチレン(HDPE)コーティングを有するものである。また、HDPEコーティングがコーティングされたナノチューブの総重量の56重量%であるカーボンナノチューブでは、0.375重量%のカーボンナノチューブでパーコレーションが形成された。これらに対し、コーティングされていないナノチューブ(N700、図5)では、0.75重量%以上でないとパーコレーションは形成されない。
【0046】
即ち、ナノチューブをコーティングするためのポリマーの量は母材内のカーボンナノチューブの分散の質に影響を及ぼし、従って、ナノ複合材料の導電性に影響を及ぼす。即ち、ポリエチレンでコーティングされ、本発明の方法で分散された0.25重量%のMWNTsとポリカーボネート母材との複合材料の場合、コーティングされたポリエチレンが総重量の78重量%のカーボンナノチューブを使用することによって、コーティングされたポリエチレンが総重量の56重量%に過ぎない被覆されたカーボンナノチューブよりも導電率の高いナノ複合材料が得られる。
【0047】
電子顕微鏡画像(図7及び8)から明らかなように、ポリカーボネート母材と、ポリエチレンでコーティングされ本発明の方法で分散させたMWNTs 0.25重量%とから成るナノ複合材料では、カーボンナノチューブがポリマー母材中にナノスケールで微細に且つ均一に分散している。
【0048】
本発明の第3実施例では、多層カーボンナノチューブ(MWNTs)を高密度ポリエチレンでコーティングし、本発明の方法でポリアミド母材(Capron 8202)中に分散させる。
【0049】
ポリアミド及び多層カーボンナノチューブを、DACA Micro Compounder(商品名)混練機で15分間、50rpm、加熱(240℃)下で混練した。240℃でプレスして厚さ0.6mm、直径65mm超の板状体を得た。
【0050】
図9に示すように、ポリアミド母材と、ポリエチレンでコーティングされ、本発明の方法によって分散させられるカーボンナノチューブから成る複合材において、コーティング用ポリエチレンがコーティングされたナノチューブ総重量の78重量%である場合、コーティングされていないカーボンナノチューブのナノ複合材料(カーボンを90%含有するMWNTsのN7000、及びカーボンを95%含有するMWNTsのN3150)または単なるカーボンブラック(商品名Printex XE2)よりも優れた導電率を有する。本発明の方法で分散されたカーボンナノチューブを含有するナノ複合材料の場合、2重量%のカーボンナノチューブでパーコレーション網目構造が得られる。
【0051】
図10から明らかなように、ポリアミド母材と、ポリエチレンで本発明の方法で分散させたMWNTs 1重量%とから成るナノ複合材料では、カーボンナノチューブがポリマー母材中にナノスケールで微細に且つ均一に分散している。しかし、図11から明らかなように、ポリエチレンでコーティングされたMWNTs 5重量%を含有するナノ複合材料では、パーコレーション網目構造の形成にとって有害と思われるラメラ構造を形成し始めていることが観察される。
【0052】
本発明の第4実施例では、多層カーボンナノチューブ(MWNTs)を高密度ポリエチレンでコーティングし、本発明の方法によってPEEK母材中に分散させる。
【0053】
表2は本発明の方法で分散させられた、または従来の方法によって分散させられたカーボンナノチューブが、ナノ複合材料の引張弾性率試験及び曲げ弾性率試験での挙動に対する影響を示す。
【0054】
【表2】

【0055】
この表から明らかなように、押出、射出及び成型の各ステップを経て得られるコーティングされた多層カーボンナノチューブを1.5重量%含有するPEEKが母材のナノ複合材料は(表2)、コーティングされていない多層ナノチューブ(表2)を5重量%含有するPEEKが母材のナノ複合材料と同等の引張弾性率を示す。この結果は、曲げ弾性率試験の結果についても同様である。
【0056】
以上に述べた4つの実施例において、カーボンナノチューブのコーティングは国際公開第2005/012170号パンフレットに記載の方法で行なうことができる。
【0057】
本発明の方法でカーボンナノチューブを分散させてポリマー母材へ導入すれば、優れた物性が得られる。図12及び13に示すように、本発明のカーボンナノチューブ分散方法はポリプロピレンまたはポリカーボネートを母材とするナノ複合材料の粘性に好影響を及ぼす。さらに、ポリカーボネートまたはポリアミドを母材とするナノ複合材料では、引張弾性率(図14及び15)、破断特性(図16及び17)、破断抵抗(図18及び19)及び耐衝撃性(図20及び21)など、弾性的性質にも好影響を及ぼす。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】助触媒(MAO)を沈着させ、溶剤(トルエン)を蒸発させるステップ(i)及び(ii)と、CpZrCl触媒(n−ヘプタン)を沈着させるステップ(iii)と、2.7バール、50℃でエチレンを重合して高密度ポリエチレンコーティングを生成させるステップ(v)から成る、コーティングされたカーボンナノチューブの各製造ステップを示す。
【図2A】走査型電子顕微鏡で観察した精製多層カーボンナノチューブ(MWNTs)を示す。
【図2B】は走査型電子顕微鏡で観察した51重量%の高密度ポリエチレンでコーティングされた多層カーボンナノチューブを示す。
【図2C】は走査型電子顕微鏡で観察した83重量%の高密度ポリエチレンでコーティングされた多層カーボンナノチューブを示す。
【図3A】は透過型電子顕微鏡で観察した、酢酸ビニルを28重量%%含むエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA 28)をポリマー母材として分散させた未コーティング多層カーボンナノチューブを示す。カーボンナノチューブの集合体が観察される。
【図3B】原子間力顕微鏡(AFM)で観察した同じサンプルを示す。カーボンナノチューブの集合体が観察される。
【図4A】TEMは、高密度ポリエチレンでコーティングされ、28重量%の酢酸ビニルを含むEVA母材中にナノスケールで均一に分散させられた多層カーボンナノチューブを示す。
【図4B】AFMは、高密度ポリエチレンでコーティングされ、28重量%の酢酸ビニルを含むEVA母材中にナノスケールで均一に分散させられた多層カーボンナノチューブを示す。
【図5】ポリカーボネートを母材とするナノ複合材料における種々の炭素含有レベルに応じた電気抵抗の測定値を示す。
【図6】ポリカーボネートを母材とするナノ複合材料に含まれるカーボンナノチューブのパーセントに応じた電気抵抗の測定値を示す。
【図7】ポリカーボネート母材中にポリエチレンでコーティングされたカーボンナノチューブを0.25重量%含み、コーティングされたカーボンナノチューブの総重量の内コーティングポリマー(ポリエチレン)が78重量%を占めるナノ複合材料の電子顕微鏡画像を示す。
【図8】ポリカーボネート母材中にポリエチレンでコーティングされたカーボンナノチューブを0.25重量%含み、コーティングされたカーボンナノチューブの総重量の内コーティングポリマー(ポリエチレン)が56重量%を占めるナノ複合材料の電子顕微鏡画像を示す。
【図9】種々のナノ複合材料の充填物%に応じた電気抵抗の測定値を示す。
【図10】ポリカーボネート母材中にポリエチレンでコーティングされたカーボンナノチューブを1重量%含み、コーティングされたカーボンナノチューブの総重量の内コーティングポリマー(ポリエチレン)が75重量%を占めるナノ複合材料の電子顕微鏡画像を示す。
【図11】ポリアミド母材中にポリエチレンでコーティングされたカーボンナノチューブを5重量%含み、コーティングされたカーボンナノチューブの総重量の内コーティングポリマー(ポリエチレン)が75重量%を占めるナノ複合材料の電子顕微鏡画像を示す。
【図12】本発明の方法または従来の方法で分散させたカーボンナノチューブの量が、ポリプロピレンまたはポリカーボネート母材の粘度に及ぼす影響を示す。
【図13】本発明の方法または従来の方法で分散させたカーボンナノチューブの量が、ポリプロピレンまたはポリカーボネート母材の粘度に及ぼす影響を示す。
【図14】本発明の方法または従来の方法で分散させたカーボンナノチューブの量が、ポリカーボネートまたはポリアミド母材の引張弾性率に及ぼす影響を示す。
【図15】本発明の方法または従来の方法で分散させたカーボンナノチューブの量が、ポリカーボネートまたはポリアミド母材の引張弾性率に及ぼす影響を示す。
【図16】本発明の方法と従来の方法とで分散させたカーボンナノチューブの量が、ポリカーボネートまたはポリアミド母材の破断点歪及び破断点伸び率に及ぼす影響を示す。
【図17】本発明の方法と従来の方法とで分散させたカーボンナノチューブの量が、ポリカーボネートまたはポリアミド母材の破断点歪及び破断点伸び率に及ぼす影響を示す。
【図18】本発明の方法と従来の方法とで分散させたカーボンナノチューブの量が、ポリカーボネートまたはポリアミド母材の破断抵抗特性に及ぼす影響を示す。
【図19】本発明の方法と従来の方法とで分散させたカーボンナノチューブの量が、ポリカーボネートまたはポリアミド母材の破断抵抗特性に及ぼす影響を示す。
【図20】本発明の方法と従来の方法とで分散させたカーボンナノチューブの量が、ポリカーボネートまたはポリアミド母材の耐衝撃特性に及ぼす影響を示す。
【図21】本発明の方法と従来の方法とで分散させたカーボンナノチューブの量が、ポリカーボネートまたはポリアミド母材の耐衝撃特性に及ぼす影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材中にナノスケールでカーボンナノチューブを分散させる以下のステップを含む方法:
−前記カーボンナノチューブが触媒担体に用いられた触媒系でモノマーを重合して得られるコーティングポリマーでコーティングされたカーボンナノチューブを調製するステップであって、前記カーボンナノチューブはその表面に前記コーティングポリマーを重合するための前記触媒系を備え、前記コーティングポリマーは前記母材と非混和性であるステップ、
−前記コーティングされたカーボンナノチューブと前記非混和性のポリマー母材とを混合し、前記コーティングポリマーが前記ポリマー母材への前記カーボンナノチューブの輸送手段として作用するステップ。
【請求項2】
非混和性で相溶性の前記ポリマー母材が混合の過程において前記コーティングポリマーと2つの相を形成し、ゼロよりも大きい混合物自由エネルギー(ΔGMIX)を有するポリマーである請求項1に記載の分散方法。
【請求項3】
非混和性で相溶性の前記ポリマー母材を、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル(EVA)コポリマー、α-オレフィン共重合体、及びこれらの混合物から成る群から選択する請求項1または請求項2に記載の分散方法。
【請求項4】
ポリマー母材が前記コーティングポリマーと2つの相を形成し、前記コーティングポリマーとは異なる化学構造を有する非混和性で不相溶性のポリマーであり、前記コーティングポリマー及び前記ポリマー母材の混合物がゼロよりも大きいフローリー−ハギンズ・パラメータχ(キー)と高い界面張力を有する請求項1から請求項3までのいずれかに記載の分散方法。
【請求項5】
非混和性で不相溶性の前記ポリマー母材を、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリスチレン、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリアセタール、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリスルフェン、ポリアクリロニトリル、ポリ−フェニルスルフィド、ポリフェニルオキシド、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリ−ビニリデンフルオリド、ポリビニルクロリド、ポリエーテルスルフィド、ポリペルフルオロアルドキシエチレン及びこれらの混合物から成る群から選択する請求項1から請求項4までのいずれかに記載の分散方法。
【請求項6】
前記コーティングポリマーを、ポリエチレン、ポリプロピレン、α−オレフィンとの共重合体、α−ジオレフィン共役ポリマー、ポリスチレン、ポリシクロアルケン、ポリノルボルネン、ポリノルボルナジエン、ポリシクロペンダジエン及びこれらの混合物から成る群から選択する請求項1から請求項5までのいずれかに記載の分散方法。
【請求項7】
前記コーティングポリマーがα−オレフィンポリマーである請求項6に記載の分散方法。
【請求項8】
前記コーティングポリマーがポリエチレンである請求項7に記載の分散方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブをコーティングする前記コーティングポリマーが、コーティングされた前記ナノチューブの総重量の10乃至90%である請求項1から請求項8までのいずれかに記載の分散方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブの量が前記ポリマー母材の総重量の0.1乃至5%である請求項1から請求項9までのいずれかに記載の分散方法。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブの量が前記ポリマー母材の総重量の0.1乃至1%である請求項10に記載の分散方法。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブ(MWNTs)である請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の分散方法。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブをナノスケールで前記ポリマー母材中に均一に分散させることを目的とする、前記ポリマー母材とは非混和性で相溶性または不相溶性のポリマーの、カーボンナノチューブのコーティングへの使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2008−542171(P2008−542171A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513875(P2008−513875)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/BE2006/000061
【国際公開番号】WO2006/128261
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(507393768)
【Fターム(参考)】