説明

ポリマー組成物、このポリマー組成物を含むポリマー膜、その製造方法、およびこの膜を含む燃料電池

本発明は、−(a)(a1)少なくとも1種のビス−(オルト−ジアミノ)芳香族化合物と(a2)それぞれが少なくとも2個の酸基およびカルボン酸基のα−位に少なくとも1個のヒドロキシル基を含有する、少なくとも1種の芳香族カルボン酸またはその誘導体とから誘導されるポリベンゾイミダゾールと;(b)オルトリン酸と;(c)式(I)HO[P(O)(OH)]H(式中、nは2〜20の整数である)のポリリン酸とを含むポリマー組成物であって、式(I)の前記ポリリン酸が、オルトリン酸(b)およびポリリン酸(c)のモルの合計を基準として、2モル%未満の量で存在し、(b)が(a1)と(a2)とから形成されるベンズイミダゾール基の1モル当たり1〜75モルの量で存在する組成物、−このポリマー組成物を含むポリマー膜、−この膜の好ましい製造方法、および−この膜を含む燃料電池に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体ポリマー電解質膜に好適であるポリマー組成物、このポリマー組成物を含むポリマー膜、この膜の好ましい製造方法、およびこの膜を含む燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、他の電源より効率的であり、かつ、環境破壊性が少ないものであり得る、実用的で多目的な電源である。燃料電池の適用可能性は、このように急速に成長しつつある。燃料電池は、化学的形態で貯蔵されているエネルギーを電気へ変換する。蓄電池とは対照的に、それらは外部から供給される燃料を酸化し、再充電される必要がない。
【0003】
燃料電池は、様々な電解質、燃料および運転温度と共に様々なやり方で配置構成することができる。例えば、水素もしくはメタノールなどの燃料は、燃料電池電極に直接供給することができるか、またはメタンもしくはメタノールなどの燃料は、電池そのものの外部で水素に富むガス混合物に変換し(燃料改質)、その後燃料電池に供給することができる。ほとんどの燃料電池における酸素源は空気であり、場合によっては過酸化水素または極低温貯蔵システムである。
【0004】
理論的には、電解質、燃料、酸化剤、温度などの無限数の組み合わせがあるが、実用的なシステムは多くの場合に、燃料源として水素もしくはメタノールを、酸化剤として酸素もしくは空気を使用する固体ポリマー電解質システムを用いる、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)技術をベースとしている。PEMFCは、他のタイプの燃料電池と比べて小型化することができ、こうして移動式電源として、または小容量電源として好適であるという利点を有する。
【0005】
PEMFCでのポリマー電解質膜は、プロトン交換膜として機能する。それは、燃料電池の運転条件下で、優れたイオン伝導度、物理的強度、ガスバリヤー性、化学的安定性、電気化学的安定性および熱安定性をもっていなければならない。PEMFCに一般に使用される膜は、DuPont社製のNAFION(登録商標)樹脂などのパーフルオロ化スルホン酸(PFSA)ポリマーから製造される。これらの膜は、良好な性能、酸化性および還元性環境の両方での長期安定性、ならびに低温(80℃以下)で十分に水和した条件(80〜100%相対湿度(RH))下での顕著なプロトン伝導度を実証してきたが、精緻な水管理を必要とする(システムの複雑性)。さらに、メタノールクロスオーバーが理由で、これらの膜は、DMFC(直接メタノール燃料電池)には不適である。
【0006】
100℃より上の温度での運転のためのプロトン交換膜を開発するために多くの努力が払われてきた。プロトン伝導性の、すなわち、酸ドープしたポリアゾール膜は、100℃より上の運転温度での燃料電池における使用を可能にする。PEM燃料電池における使用のためのこれらの膜は一般に、濃リン酸または硫酸でドープされ、その結果、ポリマー電解質膜燃料電池においてプロトン導体およびセパレーターとして機能する。燃料電池の長期運転中の膜−電極ユニット中に存在する貴金属をベースとする触媒の活性と、かなり高濃度のCO不純物の許容度とが、こうして増大する可能性がある。
【0007】
PEM燃料電池用の膜−電極ユニットを製造するためのポリマー電解質膜(PEM)としての使用に特に好適であるポリアゾールをベースとするプロトン伝導性ポリマー膜は、例えば、(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)および(非特許文献1)に記載されている。
【0008】
最も有望なアプローチは、外部加湿を必要とせず、生成水の影響がほとんどなく(150℃より上の温度で)高いプロトン伝導性を有し、ほぼゼロの電気−浸透水抗力およびNAFION(登録商標)樹脂と比べて1/10より低いメタノール透過性を有する、ポリベンゾイミダゾール(PBI)/HPO酸ドープ膜である。
【0009】
(特許文献5)は、
A)ポリリン酸中で、1種以上の芳香族テトラアミノ化合物を、1カルボン酸モノマー当たり少なくとも2個の酸基を含有する1種以上の芳香族カルボン酸またはそのエステルと混合するかまたは1種以上の芳香族および/またはヘテロ芳香族ジアミノカルボン酸を混合して、溶液および/または分散液を形成する工程と、
B)工程A)からの混合物を使用して層を支持体に塗布する工程と、
C)工程B)に記載されたように得られる平らな構造体/層を不活性ガス下に350℃以下、好ましくは280℃以下の温度に加熱してポリアゾールポリマーを形成する工程と、
D)工程C)で形成された膜を、それが自己支持するまで処理する工程と
を含む方法によって得られるポリアゾールをベースとするプロトン伝導性ポリマー膜を開示している。
【0010】
(特許文献5)は、数種の芳香族テトラアミノ化合物の中でも、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル、2,3,5,6−テトラアミノピリジン、および1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、ならびに、数種の芳香族ジカルボン酸の中でも、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、2−ヒドロキシテレフタル酸、および2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の使用を開示している。
【0011】
しかしながら、公知のPBI/HPOドープ膜は大きな欠点に悩まされている。燃料電池における使用のためには、膜は十分良好な機械的特性を有するべきである。好ましくは、膜は少なくとも自己支持するべきである。これは、ドーパントとして使用される酸、例えばオルトリン酸が可塑剤として機能するので、ドープ膜で特に問題である。十分な導電性を達成するために必要とされる高い酸ドーピングレベルのために、それらの機械的強度は、ドーパントの可塑化効果によって限定される。また、リン酸含有率は時間とともに、それが液体生成水によって洗われるスタートアップおよびシャットダウン中に特に、低下する。燃料電池の膜に対するこれらの相反する要件の結果として、導電性と機械的特性との十分なバランスは今までのところ達成されていない。
【0012】
ペンダントOH−基を有するポリアレーンアゾールから製造される繊維は、(特許文献6)から公知である。例として、モノマー1,2,4,5−テトラアミノベンゼン(DAB)および2,5−ジヒドロキシテレフタル酸(DHTA)モノマーからのポリベンゾイミダゾールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1739115 A1号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/063862 A1号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/055097 A1号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2005/063852 A1号パンフレット
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0096734 A1号明細書
【特許文献6】国際公開第06/105232 A1号パンフレット
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】L.Xia,H.Zhang,E.Scanlon,L.s.Ramanathan,Eui−Won Choe,D.Rogers,T.AppleおよびB.C.Benicewicz、「High−Temperature Polybenzimidazole Fuel Cell Membranes via a Sol−Gel Process」,Chem.Mater.Vol.17(2005),5328−5333ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、燃料電池において有用であり、かつ、機械的特性と導電性特性との改善されたバランスを有するポリマー膜の製造のために使用することができるポリベンゾイミダゾールを含むポリマー組成物を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は従って、
(a)(a1)少なくとも1種のビス−(オルト−ジアミノ)芳香族化合物と
(a2)それぞれが少なくとも2個の酸基およびカルボン酸基のα−位に少なくとも1個のヒドロキシル基を含有する、少なくとも1種の芳香族カルボン酸またはその誘導体とから誘導されるポリベンゾイミダゾールと;
(b)オルトリン酸と;
(c)式(I)
HO[P(O)(OH)]H (I)
(式中、nは2〜20の整数である)
のポリリン酸と
を含むポリマー組成物であって、
式(I)の前記ポリリン酸が、オルトリン酸(b)およびポリリン酸(c)のモルの合計を基準として、2モル%未満の量で存在し、(b)が(a1)と(a2)とから形成されるベンズイミダゾール基の1モル当たり1〜75モルの量で存在する
組成物に関する。
【0017】
本発明のポリマー組成物中のポリベンゾイミダゾールはこのように、(a1)少なくとも1種のビス−(オルト−ジアミノ)芳香族化合物と(a2)それぞれが少なくとも2個の酸基およびカルボン酸基のα−位に少なくとも1個のヒドロキシル基を含有する、少なくとも1種の芳香族カルボン酸またはその誘導体とから誘導される。
【0018】
本発明の目的のためには、用語「ビス−(オルト−ジアミノ)芳香族化合物(a1)」の意味は、ビス−(オルト−ジアミノ)芳香族化合物そのものならびに塩酸、硫酸およびリン酸などの酸とのその塩を含む。
【0019】
本発明に従って使用されてもよいビス−(オルト−ジアミノ)芳香族化合物(化合物(a1))は特に限定されない。しかしながら、ビス−(オルト−ジアミノ)芳香族化合物(化合物(a1))についての好ましい例は、1,1’−ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラアミン(DAB)、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルチオエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ケトン、ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼンならびに塩酸、硫酸およびリン酸などの酸との塩などの、それらの誘導体である。
【0020】
それぞれが少なくとも2個の酸基およびカルボン酸基のα−位に少なくとも1個のヒドロキシル基を含有する、少なくとも1種の芳香族酸またはその誘導体(化合物(a2))は特に限定されない。誘導体は、例えば、その酸の塩、エステル、または酸ハロゲン化物の形態であることができる。
【0021】
化合物(a2)についての好ましい例は、5−ヒドロキシイソフタル酸;4−ヒドロキシイソフタル酸;2−ヒドロキシテレフタル酸;2,5−ジヒドロキシテレフタル酸;2,6−ジヒドロキシテレフタル酸;2,6−ジヒドロキシイソフタル酸;4,6−ジヒドロキシイソフタル酸;2,3−ジヒドロキシフタル酸;2,4−ジヒドロキシフタル酸;3,4−ジヒドロキシフタル酸;および1,8−ジヒドロキシナフタレン−3,6−ジカルボン酸である。
【0022】
化合物(a2)はまたヘテロ芳香族化合物であってもよい。その例は、ピリジン−3−ヒドロキシ−2,5−ジカルボン酸;ピリジン−3−ヒドロキシ−2,5−ジカルボン酸;ピリジン−3,6−ジヒドロキシ−2,5−ジカルボン酸;ピリジン−3−ヒドロキシ−2,4−ジカルボン酸;およびピリジン−3,6−ジヒドロキシ−2,4−ジカルボン酸である。
【0023】
特に好ましい化合物(a1)は3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(DAB)であり、特に好ましい化合物(a2)は2,5−ジヒドロキシテレフタル酸(DHTA)である。本発明の組成物に、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルおよび2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の両方が組み合わせて使用される。
【0024】
化合物(a1)および(a2)に加えて、化合物(a1)と(a2)とから誘導されるポリベンゾイミダゾールはまた、それぞれ、他のモノマー(a11)および(a22)から誘導されてもよい。
【0025】
化合物(a1)に加えてコモノマーとして使用されてもよい化合物(a11)は、少なくとも1種のアゾール形成基を好ましくは含有する。本発明の目的のためには、用語「アゾール形成基」は、別の好適なアゾール形成基と反応してアゾール環、すなわち、イミダゾール、チアゾールまたはオキサゾール環を形成することができる基を意味する。「アゾール形成基」の例には、オルト−ジアミン基(式1)、オルト−アミノヒドロキシ基(式2)、およびオルト−アミノチオール基(式3)が挙げられる。
【化1】

【0026】
他のモノマー(a22)の好適な非限定的な例は、芳香族ジカルボン酸またはOH基なしのその誘導体である。具体的な例は、テレフタル酸、1,3−ベンゼンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)プロパン、ビス(4−カルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ケトン、4,4’−ビス(4−カルボキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(3−カルボキシフェニル)プロパン、ビス(3−カルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−カルボキシフェニル)ケトン、ビス(3−カルボキシフェノキシ)ベンゼン、およびそれらの誘導体、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウムなどのアルカリ金属塩である。
【0027】
化合物(a22)はスルホン基を含んでもよい。少なくとも1個のスルホン酸基を含むジカルボン酸モノマーの具体的な例は、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジカルボキシ−1,4−ベンゼンジスルホン酸、4,6−ジカルボキシ−1,3−ベンゼン−ジスルホン酸、4,4’−ジカルボキシ−3,3’−(ビフェニルスルホン)ジスルホン酸、ならびにそれらの誘導体、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウムなどのアルカリ金属塩である。
【0028】
本発明のポリベンゾイミダゾール(a)はまた、ジアミノ−カルボン酸モノマー(a22)を含んでもよい。用語「ジアミノ−カルボン酸モノマー」は本明細書では、少なくとも1個のカルボン酸基そのものまたはその塩、エステル、もしくは酸ハロゲン化物、ならびに少なくとも1つのオルト−ジアミン基そのものおよび/または塩酸、硫酸およびリン酸などの酸とのその塩を含む芳香族化合物を意味する。
【0029】
化合物(a1)および化合物(a11)、ならびに化合物(a2)および化合物(a22)は、順番にまたは統計的に配列されてもよい。従って、本発明の組成物中のポリベンゾイミダゾール(a)はホモポリマー、または統計もしくはブロックコポリマーであることができる。
【0030】
本発明のポリマー組成物は、(b)オルトリン酸および(c)式(I)
HO[P(O)(OH)]H (I)
(式中、nは2〜20の整数である)
のポリリン酸を含み、
ここで、式(I)のポリリン酸は、オルトリン酸(b)およびポリリン酸(c)のモルの合計を基準として、2モル%未満の量で存在し、かつ、(b)は、(a1)と(a2)とから形成されたベンズイミダゾール基の1モル当たり1〜75モルの量で存在する。
【0031】
オルトリン酸(b)は好ましくは、ベンズイミダゾール基の1モル当たり2〜10モルの量で、より好ましくはベンズイミダゾール基の1モル当たり2〜6モルの量で存在する。
【0032】
本発明のポリマー組成物中のポリベンゾイミダゾール(a)の含有率は大幅に変わることができる。好ましくは、ポリベンゾイミダゾール(a)は、ポリマー組成物の総重量を基準として、1〜75重量%の量で含有される。
【0033】
この関連で、本組成物は、コモノマーとしての化合物(a11)および(a22)の任意の使用ならびに量に依存して、ベンゾチアゾールおよびベンゾオキサゾールをベースとする繰り返し単位を有するポリベンゾイミダゾールを含んでもよいことが指摘されるべきである。従って、用語「ポリベンゾイミダゾール」は本明細書で用いるところでは、ベンズイミダゾールそのものをベースとする少なくとも50モル%の繰り返し単位とベンゾチアゾールおよび/またはベンゾオキサゾールをベースとする50モル%以下の繰り返し単位とを含むポリマーを意味する。
【0034】
この繰り返し単位はスルホン化されていてもよい。一般に、スルホン化された繰り返し単位の量は、繰り返し単位の総モル数を基準として、50モル%未満、好ましくは40モル%未満、より好ましくは30モル%未満、最も好ましくは20モル%未満である。
【0035】
本発明のポリベンゾイミダゾールポリマーは、30℃で97%のHSO中で測定されるときに、少なくとも0.5dl/g、好ましくは少なくとも0.6dl/g、より好ましくは少なくとも0.8dl/gの固有粘度を好ましくは有する。
【0036】
ポリベンゾイミダゾールポリマーは有利にはNMP、DMSO、DMF、DMAのような極性の非プロトン性溶媒に可溶であり、有利には、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、クロロスルホン酸、硫酸、およびポリリン酸(PPA)のような強酸に可溶である。
【0037】
ポリマー組成物はまた水を含んでもよい。好ましくは、ポリマー組成物は、ポリマー組成物の総重量を基準として、40%未満の水をさらに含む。
【0038】
ポリベンゾイミダゾール、水、リン酸、およびポリリン酸に加えて、本発明のポリマー組成物は、意図される用途向けにポリマー組成物の機械的および他の特性を向上させるために例えば他のポリマーおよび低分子量成分のような追加の成分を含んでもよい。
【0039】
本発明のポリマー組成物は有利にはポリマー膜に、特に燃料電池用のポリマー膜に使用することができる。この関連で、本発明のポリマー組成物は、自立のポリマー膜を容易に与えることができる。
【0040】
従って、第2の態様では、本発明は、上に記載されたようなポリマー組成物を含むポリマー膜を指向する。
【0041】
本発明のポリマー膜は、ポリマー膜が、極大が2Θ12°〜21°の範囲の第1WAXD(広角X線回折)ピーク、および極大が2Θ23°〜30°の範囲の第2WAXDピークを示すときに、特に有利であり、顕著に向上した機械的特性を示すことが分かった。
【0042】
この実施形態では、第1WAXDピーク極大は2Θ14°〜18°の範囲に、特に2Θ15°〜17°の範囲にあり、第2WAXDピーク極大は2Θ23°〜28°の範囲に、特に2Θ25°〜27°の範囲にある。
【0043】
最も好ましくは、第1WAXDピーク極大の強度は、第2WAXDピーク極大の強度より大きい。第1WAXDピーク極大の強度と第2WAXDピーク極大の強度の比が1.5より大きいときに特に有利であり、またはそれが2.0より大きい場合にさらにより有利である。
【0044】
本発明のポリマー組成物および本発明のポリマー膜は一般に、場合により追加のモノマー(a11)および(a22)と組み合わせて、化合物(モノマー)(a1)と(a2)との重合によって得られる。重合は、相当するモノマーを直接所望の最終ベンズイミダゾールへ重合させることによって実施することができる。あるいはまた、相当するモノマーは先ずプレポリマーへと反応させられてもよく、プレポリマーが次工程で所望の最終ベンズイミダゾールへ反応させられる。
【0045】
モノマー間の反応は有利には、鉱酸中、好ましくはポリリン酸(PPA)中100〜240℃の温度で実施される。PPAは一般に、溶媒、触媒および脱水剤として機能する。用語PPAは、一般式:
n+23n+1
(式中、nの平均値は水対五酸化リン(P)の比に依存する)
の縮合リン酸オリゴマーの混合物を意味することが意図されている。
【0046】
PPAの組成は、PPAの総重量で割ったPの重量のパーセントとして表される、P重量含有率によって本明細書では以下記載される。PPAの濃度は有利には、80〜86重量%P、好ましくは82〜85重量%Pである。
【0047】
モノマー間の化学反応はそれらの化学的性質に依存するであろう。カルボン酸基は有利には、オルト−ジアミン、オルト−ヒドロキシアミン、およびオルト−アミンチオール基の中から選択される基と反応して、それぞれ、イミダゾール、オキサゾール、またはチアゾール環を生成する。
【0048】
重合プロセスを実施する際に、テトラアミンモノマーまたはジアミノカルボン酸モノマーが塩酸塩として入手可能である場合、実質的に化学量論量の化合物(a1)および(a2)ならびに場合によりさらなるモノマー(a11)および(a22)は好ましくは先ず、脱塩化水素を有利に達成するためにPPA(50〜80重量%P)中40〜80℃で加熱される。この工程は有利には、発生した塩化水素の除去を容易にするために減圧下に実施される。完全な脱塩化水素後に、またはテトラアミンモノマーおよび/またはジアミノカルボン酸モノマーがそのものとして入手可能である場合には、PPA中でモノマーを混合した後に、追加量のPおよび/またはPPAが、撹拌可能な混合物をもたらすために、およびPPAの濃度を80〜86重量%Pの範囲内に高めるために、必要に応じて加えられてもよい。
【0049】
重縮合反応中に、追加量のPが、PPAの濃度を有利には80〜86重量%、好ましくは82〜84重量%Pに維持するために加えられてもよい。
【0050】
重合を段階的に実施することが好ましい、すなわち、段階的な加熱スケジュールが用いられる。反応混合物を比較的高い重合温度にすぐに曝すことは1種以上のモノマーの分解を引き起こす可能性があるので、かかるスケジュールが好ましい。特定の段階的な加熱スケジュールの選択は、当業者には明らかである。最適重合温度は無条件に決められず、なぜならこの最適温度はモノマーの組み合わせに依存するからであるが、温度は、少なくとも重合の一工程では、有利には100℃、好ましくは120℃、より好ましくは140℃を超える。例示的な加熱スケジュールは、例えば、60℃で4時間、100℃で2時間、160℃で24時間、そして190℃で4時間である。
【0051】
等モル量の化合物(a1)および(a2)は一般に、片側がカルボン酸基で、反対側がオルト−ジアミン基で終わる(プレ)ポリマーの製造を可能にする。化学量論量に対してわずかに過剰の化合物(a2)(典型的には10%モル未満、好ましくは5%モル未満)は一般に、カルボン酸基で終わる(プレ)ポリマーの製造を可能にし、わずかに過剰の化合物(a1)(典型的には10%モル未満、好ましくは5%モル未満)は一般に、オルト−ジアミン基で終わる(プレ)ポリマーの製造を可能にする。
【0052】
重合反応が終了すると、一般に反応混合物を冷却した後に、ポリベンゾイミダゾールポリマーを水中沈澱によって回収することができる。しかしながら、好ましい方法は、ポリリン酸(PPA)重合媒質の直接キャスティングである。
【0053】
特にポリマー膜の形態での、本発明のポリマー組成物の特に好ましい製造方法は、
A)(a1)少なくとも1種のビス−(オルト−ジアミノ)芳香族化合物と(a2)それぞれが少なくとも2個のカルボン酸基およびカルボン酸基のα−位に少なくとも1個のヒドロキシル基を含有する、少なくとも1種の芳香族カルボン酸またはその誘導体との混合物をポリリン酸中で重合させて、ポリベンゾイミダゾールの溶液および/または分散液を形成する工程と;
B)工程A)からの前記溶液および/または分散液を、50〜5000μmの厚さの層(b1)として支持体(b2)に塗布する工程と;
C)層(b1)のポリリン酸を水または水を含有する液体もしくはガス雰囲気で加水分解して、低分子量ポリリン酸および/またはオルトリン酸を含有する自立膜(b3)を形成する工程と;
D)膜(b4)を得るために、工程C)で得られた前記膜(b3)に関して、1回または数回の脱水−再水和サイクルを実行し、排出されたリン酸を除去して(b)オルトリン酸および(c)ポリリン酸の量を所望量まで下げる工程と
を含む。
【0054】
本方法は、膜がいったん自立するとその支持体から取り外される膜の「直接キャスティング」と特徴づけられてもよい。
【0055】
工程B)では、工程A)の溶液および/または分散液は、好ましくは140℃より上の、より好ましくは165℃より上の、しかしポリマーの分解温度より下の温度で支持体(b2)上へ塗布される。その場合、層(b1)は工程(C)の間、100℃より下の温度に冷却されることが好ましい。
【0056】
本方法の好ましい実施形態では、工程D)の脱水は、膜(b3)を50〜350℃の温度で0.5〜24時間、好ましくは100〜300℃の温度で0.5〜24時間加熱することによって、または乾燥剤を使用することによって達成される。
【0057】
乾燥剤の使用は特に限定されない。好適な乾燥剤はCaCl、P10、および活性アルミナである。オルトリン酸でのドーピングレベルは、例えば、室温でデシケーター中P上での膜の乾燥および周囲空気での再水和、ならびに排出液体の拭き取りおよび乾燥からなる多重サイクルによって調節することができる。
【0058】
しかしながら、脱水がより高い温度で、すなわち、室温より上で実施される脱水−再水和サイクルを用いることの効果は、同じドーピングレベルで、より良好な機械的特性の膜を生成することが分かった。
【0059】
好ましくは、工程D)の再水和は、膜(b3)を、水を含有する液体またはガス雰囲気と接触させることによって達成される。これは、例えば得られたままのポリマー組成物または膜を温度、圧力および湿気の周囲条件下に放置することによって行うことができる。湿気が高ければ高いほど、再水和は一般により速く進行するであろう。
【0060】
工程D)を含む本発明の実施形態では、膜(b3)は、再水和前に100℃より下の温度に冷却されることが好ましい。
【0061】
工程D)後に、膜(b4)のドーピングレベルは、膜(b3)のドーピングレベルより下である。
【0062】
好ましくは、再水和は、少なくとも10重量%の湿気含有率(RH)のガス雰囲気中で達成される。
【0063】
本発明の方法では、好ましくは、再水和は低温で、脱水は高温で行われる。
【0064】
特に好ましいポリマー膜は、工程D)中に、ポリマー組成物が10〜100%のRHで20〜40℃の範囲の温度と、0〜5%のRHで100〜350℃の範囲の温度と間で循環されるときに得られることが分かった。
【0065】
本発明の別の好ましい実施形態では、本発明の方法は、
E)膜(b5)を得るために、膜(b4)を、150〜350℃の温度で1〜24時間加熱することによって熱処理する工程
をさらに含む。
【0066】
この実施形態では、工程E)は好ましくは、膜(b4)を200〜300℃の温度で1〜15時間加熱することによって達成される。この実施形態は、工程D)が200℃より下の温度で行われたときに、さらにより好ましくはそれが250℃より下の温度で行われたときに特に好ましい。
【0067】
工程E)を含む本発明の実施形態では、膜(b4)は好ましくは、前記工程を適用する前に100℃より下の温度に冷却され、次に前記工程中に200〜300℃、最も好ましくは、230〜270℃の温度に加熱される。
【0068】
工程D)中におよび/または工程E)中に、膜を少なくとも1回、少なくとも200℃、好ましくは少なくとも250℃の温度で少なくとも1時間加熱すると、より良好な機械的特性の膜(b4またはb5)を生成することが分かった。
【0069】
好ましくは、工程D)および/または工程E)は、酸素との相互作用によるいかなる架橋もなしにそれらが構造変化をもたらすように空気下でまたは不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0070】
本発明の方法では、モノマー(a1)および(a2)の使用は特に限定されない。しかしながら、(a1)が3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルであること、および(a2)が2,5−ジヒドロキシテレフタル酸であることが大変好ましい。
【0071】
本明細書で議論されるようなポリマー膜は、上に言及されたモノマーで、膜を少なくとも200℃(好ましくは少なくとも250℃)の温度で加熱する工程(D)またはE))を含む本明細書に記載される方法に従って得られるときに特に、燃料電池におけるポリマー電解質膜として有用であることが分かった。
【0072】
すなわち、かかる膜は所与のドーピングレベル(DL)に対して、本出願で使用される他の膜よりも高い引張強度(TS)を有する。より正確には、TS(MPa単位)とDL(モル/モル単位)との積すなわちTS・DLが、少なくとも100、さらに少なくとも120、さらに少なくとも150の膜を得ることができる。これは特に、4〜14、さらに2〜12(モル/モル)のDLを有する膜での場合である。
【0073】
従って、本発明はまた、燃料電池におけるポリマー電解質膜としての、本明細書に記載されるような(より好ましくは上のセクションに記載されるような)ポリマー膜の使用を、ならびに、この膜を含む燃料電池を指向する。
【0074】
本発明の膜を含む燃料電池は好ましくは、水素またはメタノール燃料電池である。上に記載されたようなポリベンゾイミダゾールポリマーにより、膜の機械的特性を低下させることなくイオン伝導度を最大にすることが可能である。さらに、許容できない程度の膨潤も、水へのまたはメタノールへのさらに完全な溶解も全くない。固体ポリマー電解質膜の耐熱性、それ故に燃料電池の耐熱性は高い。従って、燃料電池は高い運転温度下で運転されてもよい。
【0075】
本発明は実施例によって以下に説明されるが、実施例は例示的であるにすぎず、そして添付の特許請求の範囲で権利請求される本発明を限定することを意図しない。
【実施例】
【0076】
〔実施例:DABおよびDHTAモノマーから製造されるPAドープポリベンゾイミダゾール膜〕
3.479gの2,5−ヒドロキシテレフタル酸(17.6ミリモル)、3.763gの3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(17.6ミリモル)および262.4gの予め脱ガスしたポリリン酸(P含有率83.3重量%)を、250mlの3口丸底フラスコへ不活性雰囲気下に導入した。不活性雰囲気下に維持されるこの混合物を、撹拌下で100℃で1時間、150℃で3.5時間、最後に165℃で18時間逐次的に加熱し、透明な茶色がかった緑色の媒質(ポリマー濃度:2.2重量%)をもたらした。
【0077】
ポリマーフィルムは、熱い重合溶液(T°:165℃)を、ELCOMETER 4344/11被監視アプリケーターおよびELCOMETER 3545調節可能Birdフィルムアプリケーター(250〜1000μm)を使用して、空気中で、ガラス板上へ直接キャストすることによって製造した。ガラス板およびBirdアプリケーターは、使用前に100℃で予熱した。
【0078】
キャスティング後に、ポリベンゾイミダゾールフィルムを室温に冷却し、室温および周囲空気(相対湿度RH:55%)で24時間〜1週間の期間それらの支持体上で加水分解させた。放置時に、水分が周囲雰囲気から吸収され、ポリリン酸(PPA)はオルトリン酸(PA)へ加水分解された。ポリベンゾイミダゾールフィルムからにじみ出たPAおよび水を拭き取った。
【0079】
重合混合物の直接キャスティングは、PPA加水分解プロセスの終了後直ぐに真の膜をもたらし、これらの膜は、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルおよびイソフタル酸モノマーの場合に観察されるものとは対照的に、(もっと希釈した溶液、例えばおよそ1重量%のPBIについてさえ)いかなる損傷もなくピンセットでそれらの基材から持ち上げ、拭き取ることができた。DHTAとDABとから製造された膜は、加水分解プロセスの全体にわたって透明のままであり、キャスティング直後に黄色の蛍光色に、そして加水分解したときに橙色〜橙褐色に見えた。
【0080】
そのように得られた膜のオルトリン酸でのドーピングレベル(DL)を、100℃および/または250℃で空気下の熱脱水処理、引き続いての室温および周囲空気(相対湿度RH:55%、継続期間:1日〜1週)での再水和、並びに生じた排出液体の拭き取りにからなる逐次的サイクルによって調節した。100℃での脱水処理はHERAEUS UT 20 P換気オーブンを使用して行い、一方250℃での脱水処理はTHERMOLYNE 30400マッフル炉を使用して行った。
【0081】
205℃での熱処理もまた、場合によってはTHERMOLYNE 30400マッフル炉を使用して行った。
【0082】
250℃でのこの熱処理を一例では窒素下で行い、その結果を図1および2に示す。膜の機械的特性に関して何の差も本質的に観察されなかった。
【0083】
幾つかの実施例では、PA−ドーピングレベルはまた、室温でデシケーター中P上での膜の乾燥+周囲空気での再水和+排出液体の拭き取りからなる多重サイクルによって調節した。
【0084】
〔比較例:DABおよびIAモノマーから製造されるPAドープポリベンゾイミダゾール膜〕
化合物(a2)としてイソフタル酸を2,6−ジヒドロキシ−テレフタル酸の代わりに使用したことを除いて、実施例を繰り返した。
【0085】
7.572gのイソフタル酸(45.6ミリモル)、9.766gの3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(45.6ミリモル)および628.9gの予め脱ガスしたポリリン酸(P含有率83.3重量%)を、500mlの3口丸底フラスコへ不活性雰囲気下で導入した。不活性雰囲気下に維持されるこの混合物を、撹拌下に100℃で1時間、150℃で1時間、180℃で18時間、最後に200℃で24〜70時間、逐次的に加熱した(ポリマー濃度:2.2重量%)。
【0086】
キャスティング、PPA加水分解工程およびPA−ドーピングレベル調節は、実施例1についてと同じ手順を用いて行った。
【0087】
DHTAおよびDABモノマーから製造された膜とは対照的に、キャスティング、PPA加水分解および液体PA排出段階後に得られたIAとDABとからのポリベンゾイミダゾールフィルムは、工程C後に非常に低い完全性を示し、ピンセットで取り扱うときに壊れた。
【0088】
実施例および比較例の実験条件を本明細書に含まれる表1に詳述する。この表において、「×」は、その工程が全く行われなかったことを意味する。
【0089】
実施例(比較例)で得られた膜の幾つかの特性(ドーピングレベル、引張強度、導電率および広角X線回折)を図1〜4に示す。それらは次の通りに得られた:
【0090】
膜組成(およびドーピングレベルDL)
膜組成の測定は導電率測定結果の理解に不可欠である。従って異なるサンプルについて、HPOおよびポリベンゾイミダゾールの含有率を、それぞれの膜の切取り片を使用して次の方法によって測定した。最初に、含水率を測定するために膜を30分間、135℃で乾燥させた。次に、HPOを還流温度で水によって、次にNaOHの塩基性溶液での処理によって膜から抽出した。最後にポリベンゾイミダゾールポリマーを水でリンスし、その重量が一定になるまで135℃で乾燥させた。これらの2つの簡単な操作によって水およびHPO含有率を評価することができ、一方ポリマー含有率はこれらの結果から推定した。
【0091】
導電率
導電率測定は、4プローブインピーダンス分光法を用いて実施した。2つの白金電極を通して交流を膜にかけ、電圧を2つの他の電極間で測定する。電圧を異なる周波数について測定し、一方インピーダンスは、所与の周波数での電位/電流の比と定義される。インピーダンスが周波数と無関係であるとき、すなわち、膜抵抗が膜と電極との間の界面抵抗から切り離されるとき、膜の抵抗は、ゼロ度に等しい位相角に対するインピーダンスの値である。
【0092】
導電率測定中に膜の環境条件(温度、RH、ガスフロー)を制御するために、Hydrogenicsステーションに接続されたBekktech導電率セルを使用した。膜を、4つの同軸ケーブルによってWayne Kerr 6440B Impedance Analyzerに接続した。抵抗の測定後に、導電率を関係式:
σ(S/cm)=l(cm)/R(Ω)×L(cm)×e(cm)
ここで、
R=測定された抵抗
l=電圧が測定される電極間の距離
L=膜幅
e=膜厚さ
により得る。
【0093】
機械的特性
実施例1および比較例で得られた膜の機械的特性は、引張測定によって試験した。
【0094】
引張測定は、ダンベル状試験片への1mm/分の試験速度で23℃での大気条件下で行った。
【0095】
広角X線回折
広角X線回折分析は、CuKα X線放射線(λ=0.154nm)を用い、Philips回折計(PW1729ゼネレーター、PW2233/20チューブ、PW1050 Bragg−Brentano測角器、グラファイト単色光分光器、PW1711/10キセノン比例検出器、PW1710制御装置)で行った。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルと2,5−ジヒドロキシテレフタル酸とからのポリベンゾイミダゾールを含む本発明による膜、および3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルとイソフタル酸とからのポリベンゾイミダゾールを含む比較例の膜について、引張強度(MPa単位、および23℃で測定される、TS)とドーピングレベル(DL、モル/モル)との関係を示す。
【図2】3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルと2,5−ジヒドロキシテレフタル酸とからのポリベンゾイミダゾールを含む本発明による膜について、異なるドーピングレベルについて引張強度への熱処理温度の影響を示す。
【図3】3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルと2,5−ジヒドロキシテレフタル酸とからのポリベンゾイミダゾールを含む本発明による膜、および3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルとイソフタル酸とからのポリベンゾイミダゾールを含む比較例の膜について、導電率と引張強度との関係を示す。
【図4】異なる膜について、強度(任意単位での、INT)が2Θに対してプロットされているWAXD(広角X線回折)図を示す。これらの図で、曲線1〜6は、表1の試行1〜6に関係せず、その条件がそれらの説明文に詳述される他のものに関係する。これらの試行では、工程Dの継続時間は0.5時間であり、工程Eの継続時間は5時間であった。
【発明を実施するための形態】
【0097】
図1での実施例および比較例の結果の比較は、同じPA−ドーピングレベルで、ポリマー組成物が3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルとイソフタル酸(IA)とからのポリベンゾイミダゾールを含む比較例のポリマー膜と比べて、ポリマー組成物が3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルと2,5−ジヒドロキシテレフタル酸(DHTA)とからのポリベンゾイミダゾールを含む本発明によるポリマー膜について機械的特性がより良好であることを明らかに示す。DHTAでは、積TS・DLは120〜300になるが、IAでは、それは約25〜約80になるにすぎない。
【0098】
イソフタル酸から誘導されるポリベンゾイミダゾールは、リン酸でドープされたプロトン伝導性膜の分野では基準物質である。従って、本発明の膜が導電性と機械的特性との間のより良好な折衷を示すことの観察は、本発明の利点を実証する。この利点は、14以下のドーピングレベルについて、さらに12以下のドーピングレベルについて特に顕著である。
【0099】
図2および図3から明らかであるように、250℃での熱処理は、同じドーピングレベルで、100℃で行われた熱処理と比べて本発明のポリマー膜の機械的特性を大きく向上させる。図3での楕円1は、類似の導電率レベル(それ故に:ドーピングレベル)について、250℃の温度で加熱された膜の機械的特性は、100℃で処理されたにすぎない膜の機械的特性よりも高いことを例示する。
【0100】
図3の実験結果は、本発明のポリマー膜が3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルとイソフタル酸とから誘導されたポリベンゾイミダゾールから製造された膜と比べて機械的特性と導電率特性との改善されたバランスを示すことを明らかにした。楕円2は、類似の導電率レベルについて、PBI DHTAベースの膜の機械的特性がPBI IAベースの膜の機械的特性よりも良好であることを示唆する。
【0101】
非常に低いPBI含有率(約3.0重量%)および高いドーピングレベル(50モル/モル超)で特徴づけられる本発明によるドープPBI膜は、いかなる明確な回折ピークも示さなかった。2Θ≒24.5°を中心とする非常に大きなピークのみを観察することができた。この状況は、好ましくは250℃での少なくとも1回の熱処理を含む膜については異なった。PBI含有率が逐次処理(工程DおよびE)のために増加するので、結晶化度は増加し、回折ピークは2Θ≒26°(d≒0.34nm)および16.5°(d≒0.54nm)にますます明らかに現れた。2Θ≒26°でのピークが最初に現れたが、PBI含有率が12〜15重量%に達したときに、2Θ≒16.5°での第2ピークが現れ始め、それぞれ、25重量%近くおよび6〜8モル/モルのPBI含有率およびドーピングレベルについて最も目立つピークになった。それは、それぞれ、36.4重量%および4.7モル/モルに等しいPBI含有率およびドーピングレベルの実施例では非常に鋭い、非常に強いピークとして実際に現れた(図4)。
【0102】
最良の機械的特性を示す膜は、2Θ≒16.5°で最も強いおよび鋭いピークが観察されるものであった。
【0103】
工程Dの脱水が100℃で行われたにすぎない膜は、同じPBI含有率およびドーピングレベルで、100℃での脱水を伴う数回の脱水−再水和サイクル後に250℃で1回熱処理されたものよりも低い結晶化度を示した。同じドーピングレベルについて、100℃で処理されたにすぎないものはまた、250℃で少なくとも1回処理されたものよりも悪い機械的特性を示した(図2)。
【0104】
多重のP上乾燥−再水和−拭き取りサイクルを受けた膜実施例は、そのかなり高いPBI含有率(18.7重量%)にもかかわらず、より低いPBI含有率(12.6および16.1重量%)を示す250℃で硬化されたものと比べて不十分な結晶化度を示すX線回折パターンをもたらした。この膜はまた不十分な機械的特性を示した(図2)。より高いPBI含有率そのものは従って高い結晶化度および良好な機械的特性を達成するために十分ではなかった。
【0105】
さらに、図4は、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルと2,5−ジヒドロキシテレフタル酸とからのポリベンゾイミダゾールでできたポリマー膜についての機械的特性の向上が2Θ=16.5°でのピークによって証明されるような構造変化に幾らか結び付いていることを示す。これは言い換えれば、サンプル3および5に関する結果を比較することによって、類似のドーピングレベル(DL)を有するが、16.5°でのピークが250℃で加熱工程を受けたサンプル5が、受けなかったサンプル3よりも、より顕著な構造変化を有することを示唆すると理解することができる。
【0106】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(a1)少なくとも1種のビス−(オルト−ジアミノ)芳香族化合物と
(a2)それぞれが少なくとも2個の酸基およびカルボン酸基のα−位に少なくとも1個のヒドロキシル基を有する、少なくとも1種の芳香族カルボン酸またはその誘導体とから誘導されるポリベンゾイミダゾールと;
(b)オルトリン酸と;
(c)式(I)
HO[P(O)(OH)]H (I)
(式中、nは2〜20の整数である)
のポリリン酸と
を含むポリマー組成物であって、
式(I)の前記ポリリン酸が、オルトリン酸(b)およびポリリン酸(c)のモルの合計を基準として、2モル%未満の量しか存在せず、(b)が(a1)と(a2)とから形成されるベンズイミダゾール基の1モル当たり1〜75モルの量で存在する組成物。
【請求項2】
(a1)が3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルであり、(a2)が2,5−ジヒドロキシテレフタル酸である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
(b)がベンズイミダゾール基の1モル当たり2〜10モルの量で存在する、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
(b)がベンズイミダゾール基の1モル当たり2〜6モルの量で存在する、請求項3に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記ポリベンゾイミダゾール(a)が、ポリマー組成物の総重量を基準として、1〜75重量%の量で含有される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
ポリマー組成物の総重量を基準として、40重量%未満の水をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含むポリマー膜。
【請求項8】
請求項2に記載の組成物を含み、TS・DLが少なくとも100に等しくなる引張強度TS(MPa単位)およびドーピングレベルDL(モル/モル単位)を有するポリマー膜。
【請求項9】
4〜14(モル/モル)のDLを有する、請求項8に記載のポリマー膜。
【請求項10】
極大が2Θ12°〜21°の範囲の第1WAXD(広角X線回折)ピークおよび極大が2Θ23°〜30°の範囲の第2WAXDピークを示す、請求項7〜9のいずれか一項に記載のポリマー膜。
【請求項11】
前記第1WAXDピーク極大が2Θ14°〜18°の範囲にあり、前記第2WAXDピーク極大が2Θ23°〜28°の範囲にある、請求項10に記載のポリマー膜。
【請求項12】
前記第1WAXDピーク極大の強度が前記第2WAXDピーク極大の強度より大きい、請求項10または11に記載のポリマー膜。
【請求項13】
前記第1WAXDピーク極大の強度と前記第2WAXDピーク極大の強度との比が1.5より大きい、請求項12に記載のポリマー膜。
【請求項14】
前記第1WAXDピーク極大の強度と前記第2WAXDピーク極大の強度との比が2.0より大きい、請求項13に記載のポリマー膜。
【請求項15】
A)(a1)少なくとも1種のビス−(オルト−ジアミノ)芳香族化合物と(a2)それぞれが少なくとも2個のカルボン酸基およびカルボン酸基のα−位に少なくとも1個のヒドロキシル基を有する、少なくとも1種の芳香族カルボン酸またはその誘導体との混合物をポリリン酸中で重合させて、ポリベンゾイミダゾールの溶液および/または分散液を形成する工程と;
B)工程A)からの前記溶液および/または分散液を、50〜5000μmの厚さの層(b1)として支持体(b2)に塗布する工程と;
C)層(b1)のポリリン酸を水または水を含有する液体もしくはガス雰囲気で加水分解して、低分子量ポリリン酸および/またはオルトリン酸を含有する自立膜(b3)を形成する工程と;
D)膜(b4)を得るために、工程C)で得られた前記膜(b3)に関して1回または数回の脱水−再水和サイクルを実行し、排出されたリン酸を除去して、(b)オルトリン酸および(c)ポリリン酸の量を所望量まで下げる工程と
を含む、請求項7〜13のいずれか一項に記載のポリマー膜の取得方法。
【請求項16】
工程B)において、工程A)の前記溶液および/または分散液が140℃より上、しかし前記ポリマーの分解温度より下の温度で支持体(b2)上へ塗布され、層(b1)が工程C)の間100℃より下の温度に冷却される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
工程D)の前記脱水が膜(b3)を50〜350℃の温度で0.5〜24時間加熱することによって、または乾燥剤を使用することによって達成される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
工程D)の前記再水和が、膜(b3)を、水を含有する液体またはガス雰囲気と接触させることによって達成される、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
再水和が、少なくとも10重量%の湿気含有率のガス雰囲気中で達成される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
工程D)の間、前記ポリマー組成物が10〜100%のRHで20〜40℃の範囲の温度および0〜5%のRHで100〜350℃の範囲の温度の間で循環される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
膜(b5)を得るために、膜(b4)を、150〜350℃の温度で1〜24時間加熱することによって熱処理する工程E)をさらに含む、請求項15〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
膜(b4)が工程E)を適用する前に100℃より下の温度に冷却され、次に前記工程E)の間200〜300℃の温度に加熱される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記膜が工程D)中におよび/または工程E)中に少なくとも200℃の温度で少なくとも1回加熱される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
(a1)が3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルであり、(a2)が2,5−ジヒドロキシテレフタル酸である、請求項15〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項7〜14のいずれか一項に記載のまたは請求項15〜24のいずれか一項に記載の方法によって得られる膜の、燃料電池におけるポリマー電解質膜としての使用。
【請求項26】
請求項7〜14のいずれか一項に記載のまたは請求項15〜24のいずれか一項に記載の方法によって得られる膜を含む燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−516619(P2011−516619A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−548102(P2010−548102)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/052250
【国際公開番号】WO2009/106554
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】