ポリマー部材の製造方法及び製造装置
【課題】 改質材料を含む加圧流体を射出成形機内の溶融樹脂により簡易に安定して導入するポリマー部材の製造方法を提供する。
【解決手段】 表面内部に改質材料を含有するポリマー部材を、金型及び加熱シリンダーを備える射出成形機を用いて製造する方法であって、改質材料、液体二酸化炭素及び改質材料を溶解可能な液体を含む加圧流体をシリンダーにより流量制御して加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入することと、加圧流体が導入された溶融樹脂を金型内に射出してポリマー部材を成形することとを含む製造方法を提供することにより上記課題を解決する。
【解決手段】 表面内部に改質材料を含有するポリマー部材を、金型及び加熱シリンダーを備える射出成形機を用いて製造する方法であって、改質材料、液体二酸化炭素及び改質材料を溶解可能な液体を含む加圧流体をシリンダーにより流量制御して加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入することと、加圧流体が導入された溶融樹脂を金型内に射出してポリマー部材を成形することとを含む製造方法を提供することにより上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー部材の製造方法及び製造装置に関し、より詳細には、表面内部に改質材料が含浸したポリマー部材の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超臨界状態の二酸化炭素等の加圧二酸化炭素を用いたポリマー部材の表面改質方法をメッキ前処理に適用する技術が提案されている。この方法では、改質材料(機能性材料)を加圧二酸化炭素に溶解させ、該改質材料の溶解した加圧二酸化炭素をポリマー部材に接触させることにより、改質材料をポリマー部材の表面内部に浸透させてポリマー部材表面を高機能化(改質)する。例えば、本発明者らは、このような加圧二酸化炭素を用いた表面改質処理を射出成形と同時に行い、ポリマー成形品の表面が高機能化されたポリマー部材(成形品)の製造方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、次のような製造方法を開示している。まず、射出成形機の加熱(可塑化)シリンダー内で樹脂を可塑化計量した後、加熱シリンダー内のスクリューをサックバックさせて後退させる。次いで、スクリューのサックバックにより負圧になった(圧力が低下した)溶融樹脂のスクリュー前方部(フローフロント部)に超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)およびそれに溶解した金属錯体等の改質材料(機能性有機材料)を導入する。この動作によりスクリュー前方部における溶融樹脂に加圧二酸化炭素と改質材料を浸透させる。次いで、溶融樹脂を金型に射出充填する。この際、改質材料が浸透したスクリュー前方部の溶融樹脂がまず金型に射出され、次いで、改質材料がほとんど浸透していない溶融樹脂が射出充填される。改質材料が浸透したスクリュー前方部の溶融樹脂が射出された際には、金型内における流動樹脂のファウンテンフロー現象(噴水効果)により、スクリュー前方部の溶融樹脂は金型表面に引っ張られながら金型に接して表面層(スキン層)を形成する。それゆえ、特許文献1に記載の製造方法では、ポリマー成形品の表面内部に改質材料が含浸した(改質材料により表面改質された)ポリマー成形品が作製される。改質材料として、メッキ触媒となる金属微粒子を含む金属錯体等を用いると、表面にメッキ触媒が含浸したポリマー成形品が得られるので、従来のメッキ前処理方法のようにエッチング液で表面を粗化する必要なく、無電解メッキ可能な射出成形品を得ることができる。
【0004】
また、無電解メッキ法に関しては、従来、超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いて無電解メッキを行う方法が提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献1)。これらの文献では、無電解メッキ液と超臨界二酸化炭素とを、界面活性剤を用いて相溶させ、攪拌によりエマルジョン(乳濁状態)を形成し、該エマルジョン中でメッキ反応を起こす無電解メッキ方法が開示されている。通常、電解メッキや無電解メッキにおいては、メッキ反応中に発生する水素ガスがメッキ対象物の表面に滞留しメッキ膜にピンホールが発生する要因となる。しかしながら、上記文献に開示されている無電解メッキ法のように超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた場合には、超臨界二酸化炭素は水素を溶解するので、上記メッキ反応中に発生する水素が取り除かれ、それによりピンホールが発生しにくく、硬度の高い無電解メッキ膜が得られるとされる。
【0005】
【特許文献1】特許第3696878号公報
【特許文献2】特許第3571627号公報
【非特許文献1】表面技術 Vol.56、No.2、P83(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載の超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素を用いたポリマー部材の製造方法では、溶融樹脂のスクリュー前方部(フローフロント部)に超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素およびそれに溶解した金属錯体等の改質材料を導入するが、その際、改質材料を含む加圧二酸化炭素を安定して一定量だけ導入する必要がある。そこで、本発明の第1の目的は、改質材料を含む加圧二酸化炭素を射出成形機内の溶融樹脂により簡易に安定して導入するポリマー部材の製造方法を提供することである。
【0007】
また、上述した特許文献1に記載のポリマー部材の製造方法では、射出成形機を用いるので、ポリマー部材の連続生産には不向きな方法である。そこで、本発明の第2の目的は、射出成形機を用いて改質材料を表面内部に含有するポリマー部材を生産する方法及び製造装置において、連続生産に最適な製造方法及び製造装置を提供することである。
【0008】
また、特許文献1に記載の超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素を用いたポリマー部材の製造方法を用いてポリマー部材の表面内部にメッキ触媒となる金属微粒子を浸透させた場合には、上述のように、表面および表面内部にメッキ触媒となる金属微粒子が存在するポリマー部材が得られる。しかしながら、このようなポリマー部材に無電解メッキを施した場合、無電解メッキの触媒核として寄与するのはポリマー部材の最表面に存在する金属微粒子のみであり、ポリマー部材の内部(表面内部)に存在する金属微粒子は余剰な触媒核となり不経済である。また、特許文献1に記載の技術を用いて得られたポリマー部材にメッキ膜を形成した場合、ポリマー部材の表面を粗化していないので、メッキ膜の物理的アンカー効果が得にくく、メッキ膜と成形品の強固な密着性を得ることが困難であるという課題があった。本発明の第3の目的は、上記問題を解決することであり、ポリマー部材の表面に、安価で、高密着強度を有する無電解メッキ膜を形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に従えば、表面内部に改質材料を含有するポリマー部材を、金型及び加熱シリンダーを備える射出成形機を用いて製造する方法であって、上記改質材料、液体二酸化炭素及び上記改質材料を溶解可能な液体を含む加圧流体をシリンダーにより流量制御して上記加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入することと、上記加圧流体が導入された上記溶融樹脂を上記金型内に射出して上記ポリマー部材を成形することとを含む製造方法が提供される。
【0010】
本発明のポリマー部材の製造方法では、改質材料、液体二酸化炭素及び改質材料を溶解することが可能な液体を含む加圧流体を射出成形機の加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入する際に、シリンダーにより流量制御して一定量の加圧流体を導入するので、より容易に安定して改質材料を含む加圧流体を溶融樹脂に導入することができる。加圧流体を流量制御する方法としては、流量計を用いて制御する方法が考えられるが、本発明者らの検証によれば、この方法では十分な安定性が得られなかった。なお、改質材料を溶解することが可能な液体が、液体二酸化炭素であっても良い。この場合、加圧流体が改質材料と液体二酸化炭素のみを含み得る。
【0011】
なお、本明細書でいう「加圧流体」とは、加圧された流体のことをいう。ただし、加圧流体の圧力は、改質材料を十分に溶解する圧力であれば良く、ここでいう「加圧流体」には臨界点(超臨界状態)以上に加圧された流体のみならず、臨界点より低圧力で加圧された流体も含まれる。好ましくは5MPa以上に加圧された流体のことをいう。なお、上述のように、加圧流体に臨界点より低圧力で加圧された流体も含む理由は、加圧流体に含まれる改質材料が、超臨界状態の流体に限らず、超臨界状態に至る前の種々の圧力の流体に対しても溶解することが分かっているためである。その一例を図11に示した。図11は金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))の液体二酸化炭素(20℃)に対する溶解度の圧力依存性を示した図である。また、図11には40℃の二酸化炭素(気体状態)に対する溶解度の圧力依存性も示した。二酸化炭素は圧力7.38MPa以上で超臨界状態となるが、図11から明らかなように、金属錯体は臨界点(超臨界状態)以下の低圧液体二酸化炭素に対しても良好な溶解度を示している。
【0012】
本発明のポリマー基材の製造方法では、上記加圧流体が2つのシリンダーにより流量制御され、さらに、上記ポリマー部材を成形している間に、上記液体二酸化炭素及び上記液体をそれぞれ一方及び他方のシリンダー内に吸引することと、一方のシリンダー内の上記液体二酸化炭素及び他方のシリンダー内の上記液体をそれぞれ昇圧することとを含むことが好ましい。
【0013】
加圧流体が浸透した溶融樹脂を上記金型内に射出してポリマー部材を成形している間に、液体二酸化炭素及び液体をそれぞれ別のシリンダー内に吸引して、各シリンダー内の液体二酸化炭素及び液体をそれぞれ所定圧力に昇圧して待機しておくことにより、次回の射出成形時に即座に、改質材料、液体二酸化炭素及び液体を含む加圧流体を生成して溶融樹脂に導入することができるので、ポリマー部材の連続生産が可能になる。
【0014】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記加圧流体を上記加熱シリンダー内の溶融樹脂のフローフロント部に導入することが好ましい。なお、本発明はこれに限定されない。例えば、2つの加熱シリンダーを備えるサンドイッチ成形機を用いてポリマー部材を成形する場合には、最初に射出する加熱シリンダー内の溶融樹脂全体に、改質材料を含む加圧流体を導入しても良い。
【0015】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記改質材料を溶解し且つ昇圧された上記液体と、昇圧された上記液体二酸化炭素とを混合して上記加圧流体を生成することが好ましい。なお、この場合、液体を昇圧する前に改質材料を液体に溶解しても良いし、液体を昇圧した後に改質材料を液体に溶解しても良い。また、本発明のポリマー部材の製造方法では、昇圧された上記液体と、上記改質材料を溶解し且つ昇圧された上記液体二酸化炭素とを混合して上記加圧流体を生成しても良い。
【0016】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記液体がアルコールであることが好ましい。なお、アルコールとしては、改質材料を溶解可能なアルコールであれば任意のものが用い得、例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができる。また、上記液体として液体二酸化炭素を用いても良い。なお、加圧流体に改質材料を溶解可能な液体を含ませることにより、改質材料の加圧流体に対する溶解濃度を向上させ、予め、濃度一定に調整した液体を用いることにより、改質材料を含む加圧流体を溶融樹脂に一層安定供給することができる。
【0017】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記シリンダーがシリンジポンプのシリンダーであることが好ましい。加圧流体をシリンジポンプを用いて流量制御した場合には、例えば、流量計を用いた制御に比べて、より安定した加圧流体の溶融樹脂への導入が可能になり、その装置構成も簡易な構造となる。
【0018】
本発明のポリマー部材の製造方法では、改質材料として、例えば、次のような材料を用い得る。改質材料として、ポリアルキルグリコール等の親水性材料またはシリコーンオイルおよびフッソ系材料等の疎水性材料を用いても良い。例えば、ポリアルキルグリコール、アクリルアミド、εカプロラクタム等の水酸基やアミド基を有するポリマーやモノマーを導入することでポリマー部材表面の濡れ性を改善できる。また、フッ素化合物やシリコーンオイル等を用いることでポリマー部材表面に撥水性を付与することができる。
【0019】
また、改質材料として、無機微粒子を用いても良い。改質材料にSiO2、Al2O3、Cr2O3、TiO2等の無機微粒子を用いた場合には、ポリマー部材の熱膨張係数を抑制することができる。さらに、改質材料にSiO2等の無機微粒子を用いた場合には、ポリマー部材の屈折率を制御することができる。なお、これらの無機物を改質材料として使用する場合、原料の前駆体を用いるか、または、無機物に対して液体二酸化炭素に可溶となる化学もしくは物理修飾を施すことが望ましい。
【0020】
改質材料としては、界面活性剤も用い得、この場合には、ポリマー部材の濡れ性改善や帯電防止の効果が期待される。さらに、改質材料として、例えば、ベンゾフェノンやクマリン等の紫外線安定剤、芳香剤、メタクリル酸メチル等各種ポリマーのモノマーおよび重合開始材料、薬剤等を用いても良い。
【0021】
また、本発明のポリマー部材の製造方法では、上記改質材料が無電解メッキの触媒核となる金属微粒子であっても良い。ただし、金属微粒子を改質材料として使用する場合には、金属微粒子を含む金属錯体および金属酸化物の前駆体等を用いることが望ましい。改質材料として、金属微粒子を含む金属錯体および金属酸化物の前駆体等を用いた場合には、無電解メッキの触媒核となる金属微粒子をポリマー基材表面に浸透させることができる。また、金属微粒子をポリマー基材表面に浸透させることにより、ポリマー部材に導電性や熱伝導性を付与できる。
【0022】
改質材料に無電解メッキの触媒核となる金属微粒子を用いた場合、本発明のポリマー部材の製造方法が、さらに、上記改質材料を含有するポリマー部材に加圧二酸化炭素を接触させてポリマー部材の表面近傍を膨潤させることと、上記ポリマー部材の表面近傍を膨潤させた状態で、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させて、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することとを含むことが好ましい。
【0023】
なお、本明細書でいう「加圧二酸化炭素」とは、加圧された二酸化炭素のことをいう。なお、ここでいう「加圧二酸化炭素」には、超臨界状態の二酸化炭素のみならず、加圧された液状二酸化炭素及び加圧された二酸化炭素ガスも含む意味である。また、加圧二酸化炭素の圧力は、後述するように、加圧二酸化炭素がポリマー部材に十分浸透する圧力であればよく、臨界点(超臨界状態)以上に加圧された二酸化炭素のみならず、臨界点より低圧力で加圧された二酸化炭素も含まれる。好ましくは5MPa以上に加圧された二酸化炭素のことをいう。
【0024】
上記本発明のメッキ膜の形成方法では、まず、表面内部にメッキ触媒核となるPd、Ni、Pt、Cu等の金属微粒子が含浸したポリマー部材に加圧二酸化炭素を接触させる。この際、ポリマー部材が非晶性材料で形成されている場合にはガラス転移温度が低下して表面近傍が軟化して膨潤する。一方、ポリマー部材が結晶性材料で形成されている場合には、軟化しないまでも、表面近傍で分子間距離が拡大して膨潤する。
【0025】
次いで、このような表面状態にあるポリマー部材に、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を接触させる。この際、ポリマー部材の表面近傍が膨潤した状態で無電解メッキ液を接触させるので、無電解メッキ液は加圧二酸化炭素とともにポリマー部材の内部に浸透させることができる。また、この際、超臨界状態等の加圧二酸化炭素を混合した無電解メッキ液は表面張力が低くなるので、ポリマー部材の内部に無電解メッキ液がより浸透し易くなる。この結果、ポリマー部材の内部に存在する金属微粒子まで無電解メッキ液が到達し、ポリマー部材の内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜が成長する。すなわち、上述のメッキ膜の形成方法を含む本発明のポリマー部材の製造方法では、ポリマー部材の表面だけでなく、内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜が成長するので、メッキ膜はポリマー部材の内部に食い込んだ状態(メッキ膜の一部がポリマー部材の内部に浸透した状態)でポリマー部材上に形成される。それゆえ、上述の本発明のメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ法のようにポリマー部材の表面をエッチングで粗化する必要がなく、多様な種類のポリマー部材に対しても容易に密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。また、上述したメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ法のようにポリマー部材の表面を粗化しないので、表面粗度の非常に小さい(ナノオーダー)メッキ膜を形成することができる。
【0026】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記無電解メッキ液が、アルコールを含むことが好ましい。
【0027】
本発明者の検討によると、特許文献2及び非特許文献1等に開示されている超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた無電解メッキ方法では、高圧状態の二酸化炭素と水溶液である無電解メッキ液とは、界面活性剤を用いたとしても、相溶しにくく、攪拌効果を高くする必要のあることが判明した。具体的には、攪拌トルクの高い攪拌子を用いたり、底の浅い高圧容器を用いたりすることが必要であることが分かった。すなわち、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とを均一に混合して安定したエマルジョンを得るためには、高圧容器や攪拌子等の形状や攪拌子の回転数における制限が大きいことが分かった。
【0028】
そこで、本発明者らは、この課題を解決するために検討を重ねた結果、無電解メッキ液は水が主成分であるが、さらに、アルコールを無電解メッキ液に混合させることにより、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とを攪拌しなくても、高圧状態の二酸化炭素とメッキ液とが安定して混ざり易くなることがわかった。これは、アルコールが高圧状態の二酸化炭素と相溶しやすいためであると考えられる。それゆえ、通常、無電解メッキ液を調合する際には、金属イオンや還元剤等の入った原液を、例えばメーカー推奨の成分比に従って、水で薄めてメッキ液を健浴するが、本発明のポリマー部材の製造方法(メッキ膜の形成方法)では、さらにアルコールを任意の割合で水に混合するだけで、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とが均一に相溶した安定した無電解メッキ液を調合することができる。なお、水とアルコールの体積比は、任意であるが、10〜80%の範囲であることが望ましい。アルコールが少ないと、安定な混合液が得られにくくなる。また、アルコール成分が多すぎると、例えばニッケル−リンメッキに用いられる硫酸ニッケルにエタノール等の有機溶媒は不溶であるため、浴が安定しない場合がある。
【0029】
なお、上記無電解メッキ液に含ませ得るアルコールは任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができる。
【0030】
また、上記メッキ膜の形成方法において、無電解メッキ液にアルコールを加えた場合には、アルコールは水よりも表面張力が低いので、アルコールが加えられた無電解メッキ液の表面張力は著しく低下する。そのため、ポリマー部材の自由体積(内部)に、無電解メッキ液が一層浸透し易くなる。
【0031】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記無電解メッキ液が、界面活性剤を含むことが好ましい。これにより、超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素と水溶液である無電解メッキ液との相溶性(親和性)をより向上させ、エマルジョンの形成を助長することができる。また、ポリマー部材に対するメッキ液の親和性も向上させることができる。
【0032】
なお、界面活性剤としては、公知の、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、両性イオン性界面活性剤のうち、少なくも1種類以上を選択して用いることが望ましい。特に、超臨界二酸化炭素と水とのエマルジョンを形成するのに有効であると確認されている各種界面活性剤を用いることが望ましい。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)−ポリプロピレンオキシド(PPO)のブロックコポリマー、アンモニウムカルボキシレートパーフルオロポリエーテル(PFPE)、PEO−ポリブチレンオキシド(PBO)のブロックコポリマー、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル等を用いることができる。
【0033】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記加圧二酸化炭素が、7.38MPa以上20MPa以下の圧力を有する超臨界二酸化炭素であることが好ましい。二酸化炭素の臨界圧力は7.38MPaであるが、それ以上の超臨界状態であると密度が高くなり、メッキ液と相溶しやすくなるので好適である。また、圧力が30MPa以上になると、二酸化炭素の使用量が過剰に多くなったり、高圧容器のシールが困難になる等の不具合が生じるので望ましくない。このような問題を考慮して、実用上、加圧二酸化炭素の圧力は20MPa以下にすることが好ましい。
【0034】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記改質材料が、さらに、無電解メッキ液に溶解する物質を含むことが好ましい。
【0035】
この場合、表面内部にメッキ触媒核となるPd、Ni、Pt、Cu等の金属微粒子、並びに、無電解メッキ液に溶解する物質(以下、溶出物質ともいう)が含浸したポリマー基材が得られる。このようなポリマー基材に加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー基材に接触させると、ポリマー基材内部に含浸している溶出物質が無電解メッキ液に溶出して、溶出物質が占めていた領域に無電解メッキ液が入り込む(溶出物質の含浸領域が無電解メッキ液により置換される)。その結果、無電解メッキ液が入り込んだ領域(溶出物質が占めていた領域)にもメッキ膜が成長する。この方法では、結晶性材料のように内部の自由体積が拡大し難い材料をポリマー基材として用いた場合であっても、容易にポリマー基材内部に無電解メッキ膜が成長する十分な領域(空間)を確保することができる。また、溶出物質が占めている領域の大きさは溶出物質の分子量により制御することができるので、溶出物質が占めていた領域(無電解メッキ液で置換された領域)で成長する微細なメッキ粒子の大きさも溶出物質の分子量により任意に制御することができる。そのため、金属微粒子と一緒に溶出物質をポリマー基材内部に含浸させたポリマー基材上に無電解メッキ膜を形成した場合には、ポリマー基材内部に複雑な形状(毛細血管状、蟻の巣状、網目状等)でメッキ膜を形成することができ、溶出物質を浸透させない場合に比べてより強度な密着性有するメッキ膜を形成することができる。
【0036】
なお、無電解メッキ液に溶解する物質としては、水やアルコールが主成分である無電解メッキ液に溶解する材料であれば、任意であるが、特に、水溶性物質または溶解性低分子物質が好ましい。水溶性物質としては、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等のミネラル成分やポリアルキルグリコール等が用い得る。また、溶解性低分子物質としては、例えば、εカプロラクタム、ポリエチレングリコール等のポリアルキルグリコールなどが用い得る。
【0037】
本発明のポリマー部材の製造方法では、さらに、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成した後、常圧で無電解メッキ及び電解メッキの少なくとも一方を行うことを含むことが好ましい。
【0038】
本発明のポリマー部材の製造方法では、短時間で最小限の薄い金属膜をポリマー部材の表面に形成して金属膜とポリマー部材の密着性を確保することが好ましい。それにより無電解メッキ液が過剰にポリマー部材の内部に浸透することを抑制することができ、無電解メッキ液によるポリマー部材の変形や変質を抑制することができる。また、メッキ膜の膜厚を厚くする必要がある場合には、本発明の上記方法によりポリマー部材上に無電解メッキ膜を形成した後に、常圧で従来のメッキ法(無電解メッキ法及び/又は電解メッキ法)を施すことにより、所望の膜厚を有する金属膜をポリマー部材上に積層することができる。この方法では、金属膜の信頼性(密着性)と、導電性等の物性の確保とを両立したメッキ膜を得ることができる。
【0039】
本発明のポリマー部材の製造方法では、メッキ皮膜となる金属としては、Ni,Co,Pd,Cu,Ag,Au,Pt,Sn等を用いることができ、これらは無電解メッキ液中における硫酸ニッケル、塩化パラジウム、硫酸銅等の金属塩から供給される。また、還元剤としては、ジメチルアミンボラン、次亜燐酸ナトリウム(ホスフィン酸ナトリウム)、ヒドラジン、ホルマリン、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、三塩化チタン等を用いることができる。
【0040】
また、無電解メッキ液には、公知の各種添加剤を添加してもよい。例えば、無電解メッキ液中で金属イオンと安定な可溶性錯体を形成するクエン酸、酢酸、コハク酸、乳酸等の錯化剤を添加してもよい。また、無電解メッキ液の安定剤として、チオ尿素等の硫黄化合物や鉛イオン、光沢剤、湿潤剤(界面活性剤)を添加してもよい。
【0041】
本発明のポリマー部材の製造方法に用い得るポリマー部材の形成材料は任意であり、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂及び紫外線硬化樹脂を用いることができる。特に、熱可塑性樹脂で形成したポリマー部材を用いることが望ましい。熱可塑性樹脂の種類は任意であり、非晶性、結晶性いずれでも適用できる。例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリアミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン樹脂等及びそれら複合材料を用いることできる。また、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン、ミネラル等、各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。
【0042】
本発明の第2の態様に従えば、表面内部に改質材料を含有するポリマー部材の製造装置であって、上記ポリマー部材を成形する射出成形機と、上記改質材料を含む加圧流体を流量制御で上記射出成形機内の溶融樹脂に導入する導入装置と、上記射出成形機及び上記導入装置に連結され、上記加圧流体の流動を制御する制御装置とを備える製造装置が提供される。
【0043】
本発明のポリマー部材の製造装置では、改質材料を含む加圧流体を流量制御で射出成形機に導入する導入装置を備えているので、より安定に且つより容易に、改質材料を含む加圧流体を射出成形機内の溶融樹脂に導入することができる。
【0044】
本発明のポリマー部材の製造装置では、上記導入装置が、シリンジポンプを備えることが好ましい。加圧流体をシリンジポンプを用いて流量制御した場合には、例えば、流量計を用いた制御に比べて、より安定した加圧流体の溶融樹脂への導入が可能になり、その装置構成も簡易な構造となる。また、本発明のポリマー部材の製造装置では、上記導入装置が、さらに、上記改質材料が内部に仕込まれた溶解槽を備え、該溶解槽が上記シリンジポンプと流通していることが好ましい。
【0045】
本発明のポリマー部材の製造装置では、上記加圧流体が、上記改質材料、液体二酸化炭素及び上記改質材料を溶解可能な液体を含み、上記導入装置が、該液体二酸化炭素を昇圧して流出する第1シリンジポンプと、該液体を昇圧して流出する第2シリンジポンプと、第1シリンジポンプから流出された該液体二酸化炭素と第2シリンジポンプから流出された該液体とを混合する混合部とを備えることが好ましい。
【0046】
本発明のポリマー部材の製造装置では、上記導入装置が、さらに、上記改質材料が内部に仕込まれた溶解槽を備え、該溶解槽が第1及び第2シリンジポンプの一方と流通していることが好ましい。
【0047】
本発明のポリマー部材の製造装置では、上記射出成形機内で上記ポリマー部材が成形されている間に、第1及び第2シリンジポンプが、それぞれ上記液体二酸化炭素及び上記液体を吸引して昇圧することが好ましい。第1及び第2シリンジポンプがこのような動作を行うことにより、次回の射出成形時に即座に、改質材料、液体二酸化炭素及び液体を含む加圧流体を生成して溶融樹脂に導入することができるので、ポリマー部材の連続生産が可能になる。
【0048】
本発明のポリマー部材の製造装置では、上記射出成形機が、上記加圧流体を上記溶融樹脂のフローフロント部に導入するための導入部を備えることが好ましい。
【0049】
また、本発明のポリマー部材の製造方法では、さらに、上記射出成形機内に無電解メッキ液を導入するメッキ液導入装置を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0050】
本発明のポリマー部材の製造方法及び製造装置によれば、改質材料を含む加圧流体を射出成形機の加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入する際に、シリンジポンプ等を用いて流量制御して一定量の加圧流体を導入することができるので、より容易に安定して改質材料を含む加圧流体を溶融樹脂に導入することができる。
【0051】
本発明のポリマー部材の製造方法及び製造装置において、ポリマー部材を射出成形している間に、液体二酸化炭素及び改質材料を溶解可能な液体をそれぞれ別のシリンジポンプ等で吸引して、所定圧力に昇圧した場合には、次回の射出成形時に即座に、改質材料を含む加圧流体を生成して溶融樹脂に導入することができるので、ポリマー部材の連続生産が可能になる。
【0052】
また、本発明のポリマー部材の製造方法において、改質材料に無電解メッキの触媒核となる金属微粒子を用い、上述した本発明のメッキ膜の形成方法を用いた場合には、ポリマー部材の表面だけでなくその内部から成長したメッキ膜をポリマー部材上に形成することができるので、より密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。また、上記メッキ膜の形成方法によれば、無電解メッキ液をポリマー部材の内部に浸透させてメッキ反応を起こさせるので、従来のようにポリマー部材の表面を粗化する必要がなくなり、あらゆる種類のポリマー部材に対して密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明のポリマー部材の製造方法及び製造装置の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0054】
実施例1では、ポリマー部材として自動車ヘッドライトのリフレクターを作製した例について説明する。この例では、射出成形機を用いてポリマー基材を射出成形した後に、同じ射出成形機内で無電解メッキ処理を行い、ポリマー基材上にメッキ膜を形成した。
【0055】
[ポリマー部材の製造装置]
本実施例で用いたポリマー部材の製造装置の概略構成を図1に示した。本実施例の製造装置500は、図1に示すように、主に、金型を含む縦型の射出成形装置部503(射出成形機)と、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液の金型への供給及び排出を制御する無電解メッキ装置部501(メッキ液導入装置)と、射出成形装置部503の可塑化シリンダー内の溶融樹脂に金属錯体を浸透させるための表面改質装置部502(導入装置)と、制御装置508とからなる。
【0056】
制御装置508は、図1に示すように、無電解メッキ装置部501、表面改質装置部502及び射出成形装置部503に接続されており、表面改質装置部502と射出成形装置部503との間における金属錯体を含む加圧流体(この例では、後述するように、加圧液体二酸化炭素と加圧された溶媒の混合流体)の流動(導入、停止等のタイミングなど)、及び、無電解メッキ装置部501と射出成形装置部503との間における加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液の流動を制御するための装置である。
【0057】
縦型の射出成形装置部503は、主に、図1に示すように、ポリマー基材の形成樹脂を可塑化溶融する可塑化溶融装置110と、金型を開閉する型締め装置111とからなる。
【0058】
可塑化溶融装置110は、主に、スクリュー51を内蔵した可塑化シリンダー52(加熱シリンダー)と、ホッパー50と、可塑化シリンダー52内の先端部(フローフロント部)付近に設けられた加圧二酸化炭素の導入バルブ65(導入部)とからなる。また、可塑化シリンダー52の導入バルブ65と対向する位置には、樹脂内圧を計測するための圧力センサー40を設けた。なお、ホッパー50内から可塑化シリンダー52内に供給される図示しない樹脂ペレットの材料(ポリマー基材の形成材料)としては、ポニフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業社製FZ−8600 Black)を用いた。
【0059】
また、型締め装置111は、主に、固定金型53と、可動金型54とからなり、可動金型54が可動プラテン56およびそれに連結した図示しない油圧型締め機構の駆動に連動して4本のタイバー55間を開閉する構造になっている。また、可動金型54には、可動金型54及び固定金型53との間に画成されるキャビティ504に、加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液を供給及び排出するためのメッキ液導入路61,62が形成されている。なお、メッキ液導入路61,62は、図1に示すように後述する無電解メッキ装置部501の配管15に接続されており、配管15を介して加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液がキャビティ504に導入される構造になっている。また、キャビティ504のシールは、固定金型53の外径部に設けられたバネ内蔵シール17と可動金型54との勘合により行われる。
【0060】
表面改質装置部502は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ21と、シリンジポンプ20,34と、フィルター57と、背圧弁48と、金属錯体を溶解する液体(以下、溶媒と称す)を内部に含む溶解槽35と、これらの構成要素を繋ぐ配管80とから構成される。また、表面改質装置部502の配管80は、図1に示すように、可塑化シリンダー52の導入バルブ65に接続されており、導入バルブ65付近の配管80には圧力センサー47が設けられている。なお、この例では、溶解槽35に仕込んだ金属微粒子(改質材料)の原料としては、金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナパラジウム(II))を用い、金属錯体の溶媒としてはエタノールを用いた。
【0061】
無電解メッキ装置部501は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ21と、ポンプ19と、バッファータンク36と、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素を混合させる高圧容器10と、循環ポンプ90と、無電解メッキ液を補給するためのメッキタンク11と、シリンジポンプ33と、無電解メッキ液を回収する回収容器63及び回収槽12と、これらの構成要素を繋ぐ配管15とから構成される。また、加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液の流動を制御するための自動バルブ43〜46,38が配管15の所定箇所に設けられている。また、配管15は、図1に示すように、可動金型54のメッキ液導入路61,62と接続されている。
【0062】
本実施例では、無電解メッキ液としてニッケルーリンを用いた。なお、無電解メッキ液としては、ニッケルーホウ素、パラジウム、銅、銀、コバルト等を用いても良い。また、無電解メッキ液としては、中性、弱アルカリ性から酸性の浴でメッキできる液が好適であり、ニッケルーリンの場合はpH(水素イオン指数)の値を4〜6の範囲で用いることができるので望ましい。なお、加圧二酸化炭素を導入する前の無電解メッキ液の条件によっては、加圧二酸化炭素を無電解メッキ液に浸透させる(導入する)ことで、無電解メッキ液のpHが低下し、リン濃度が上昇して、メッキ膜の析出速度が低下する等の弊害が生じる恐れもあるので、予め無電解メッキ液のpHを上昇させておいてもよい。
【0063】
本実施例では、無電解メッキ液の原液として、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤が含まれる奥野製薬社製ニコロンDKを用いた。また、無電解メッキ液にアルコールを混合させた。本実施例で用い得るアルコールの種類は任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができるが、本実施例ではエタノールを用いた。より具体的には、無電解メッキ液1l中の各成分の割合は、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤の含まれる原液(奥野製薬社製ニコロンDK)を150ml、水を350ml、及び、アルコール(エタノール)を500mlとした。すなわち、無電解メッキ液中のアルコールの割合は50%とした。なお、硫酸ニッケルはアルコールに不溶なので、アルコールの添加量が80%を超えると硫酸ニッケルが多く沈殿して適用できないことがわかった。
【0064】
本発明者らの検討によれば、無電解メッキ液は水が主成分であるが、アルコールを混合することで、高圧状態の二酸化炭素と無電解メッキ液が安定に混ざり易くなることが分かった。これは、アルコールと超臨界二酸化炭素とが相溶し易いことによるものと考えられる。それゆえ、本実施例のように無電解メッキ液にアルコールを混合した場合には、無電解メッキ液に界面活性剤を添加したり、無電解メッキ液を攪拌する必要がなくなる。さらに、ポリマー内に加圧二酸化炭素とともにメッキ液を浸透させてポリマー内部でメッキ反応を成長させるためには、メッキ液にアルコールを添加させたほうが、水のみよりも表面張力が低下するため、より好適である。ただし、本発明では、加圧二酸化炭素と無電解メッキ液との相溶性(親和性)をより高めるために、界面活性剤を添加したり、無電解メッキ液を攪拌したりしても良い。本実施例では、界面活性剤としてオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを無電解メッキ液に対し、3wt%添加し、さらに、無電解メッキ液の攪拌も行った。
【0065】
[ポリマー基材の成形方法]
次に、表面内部に金属微粒子を浸透させたポリマー基材の成形方法について説明する。なお、本発明において金属微粒子の樹脂への浸透方法は任意であるが、本実施例では、金属微粒子を含む金属錯体を溶解した加圧エタノールと加圧液体二酸化炭素との混合流体を、可塑化シリンダー52内で可塑化計量した溶融樹脂の先端部(フローフロント部)に導入した。
【0066】
まず、表面改質装置部502の溶解槽35において金属錯体をエタノール(溶媒)に溶解させ、金属錯体が溶解したエタノールをシリンジポンプ34(第2シリンジポンプ)内で15MPaに昇圧した(以下、この昇圧されたエタノールを加圧エタノールという)。一方、液体二酸化炭素を液体二酸化炭素ボンベ21よりフィルター53を介してシリンジポンプ20(第1シリンジポンプ)に供給し、シリンジポンプ20内で液体二酸化炭素を15MPaと昇圧した(以下、この昇圧された液体二酸化炭素を加圧液体二酸化炭素という)。そして、加圧液体二酸化炭素と金属錯体が溶解した加圧エタノールとを可塑化溶融装置110に供給する際には、各シリンジポンプ20,34の制御を圧力制御から流量制御に切り替えて行った。この際、加圧液体二酸化炭素と金属錯体が溶解した加圧エタノールとが配管80(混合部)内で混合されながら送液される(以下、この混合された流体を加圧混合流体という)。なお、この加圧混合流体(加圧流体)を可塑化溶融装置110に供給する際、加圧混合流体の供給圧力は、圧力計49の表示が15MPaになるように、背圧弁48により制御した。さらに、加圧混合流体を可塑化溶融装置110に供給する際には、加圧混合流体を、配管80内で図示しないヒーターにより50℃に温度制御しつつ、可塑化溶融装置110に供給した。
【0067】
ここで、加圧混合流体を可塑化溶融装置110内に導入する工程からポリマー部材の射出成形工程までの一連の手順を図1、2、6及び7を参照しながらより詳細に説明する。図2(a)及び(b)は、可塑化溶融装置110の導入バルブ65付近の拡大断面図である。また、図6は、加圧混合流体を可塑化溶融装置110内に導入する際の射出成形装置部503及び表面改質装置部502の動作のフローチャートを示した。図6中の右側に示されたフローチャートが表面改質装置部502の動作のフローチャートであり、図6中の左側に示されたフローチャートが射出成形装置部503の動作のフローチャートである。
【0068】
まず、ホッパー50から樹脂ペレットを供給しながら、可塑化シリンダー52内のスクリュー51を回転させて、樹脂の可塑化計量を行った(図6中のステップS1B)。可塑化計量完了時における導入バルブ65付近の状態を示したのが図2(a)である。なお、この際、図2(a)に示すように、導入バルブ65の導入ピン651が後退(図2(a)中の左側に移動)することで、溶融樹脂66へ加圧混合流体67が導入されること遮断している。
【0069】
次いで、スクリュー51をサックバック(後退)して(図6中のステップS2B)、溶融樹脂66の内圧力を低下させると同時に、射出成形装置部503から表面改質装置部502に加圧混合流体の導入開始を指示するトリガー信号が入力され(図6中のステップS2B’)、両シリンジポンプ20,34を圧力制御から流量制御に切り替えた(図6中のステップS1A)。そして、金属錯体を溶解した加圧エタノールと加圧液体二酸化炭素の流量の比をそれぞれ1:10(具体的には、流量10ml/min:100ml/min)としながら、加圧混合流体67を導入バルブ65を介して可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に導入して(図2(b)の状態、図6中のステップS2A)、金属錯体を溶解した加圧混合流体67をフローフロント部の溶融樹脂66に浸透させた(図2(b)中の領域68)。この例では、加圧混合流体67を約5秒間(所定時間)供給した。なお、金属錯体を溶解した加圧混合流体67をフローフロント部の溶融樹脂66に浸透させた際、溶融樹脂の熱により、金属錯体のほとんどが熱還元により金属微粒子に変質する。このように、シリンジポンプにより流量制御して一定量の加圧混合流体を導入した場合には、より容易に安定して改質材料を含む加圧混合流体を溶融樹脂に導入することができる。
【0070】
なお、本実施例の可塑化シリンダー52の導入バルブ65では、溶融樹脂66と加圧混合流体67との圧力差が5MPa以上となったときに、加圧混合流体67が可塑化シリンダー52内の溶融樹脂66の導入される構造になっており、導入バルブ65による加圧混合流体67の導入原理は次の通りである。可塑化計量完了後、スクリュー51をサックバックさせると、溶融樹脂66が減圧され密度が低下する。そして、溶融樹脂66と加圧混合流体67との圧力差が5MPa以上となったとき、加圧混合流体67の圧力が導入バルブ65内のバネ652の戻し力(弾性力)に打ち勝ち、導入ピン651が溶融樹脂66側に前進し、加圧混合流体67が溶融樹脂66内部に導入される。なお、加圧混合流体67の導入は、樹脂圧および加圧混合流体67の圧力を、それぞれ圧力センサー40,47で監視しながら行った。
【0071】
次いで、両シリンジポンプ20,34を停止して加圧混合流体67の送液を停止した(図6中のステップS3A)。また、それと同時に、スクリュー51を前進させて、樹脂圧力を再度上昇させ、導入ピン64を後退(図2(b)中の左方向に移動)させた。それにより、加圧混合流体67の導入を停止するとともに、加圧混合流体67と溶融樹脂66とを相溶させた。
【0072】
次に、可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に加圧混合流体67を導入した後、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)により型締めされ、温調回路(不図示)により温度制御された金型内に画成されたキャビティ504に溶融樹脂を射出充填した(図6中のステップS3B)。次いで、成形品の発泡を抑制するために金型に保圧を与えた後、成形品を冷却固化した(図6中のステップS4B)。なお、溶融樹脂を金型内に射出成形する際、最初に射出されるフローフロント部の溶融樹脂68は噴水効果(ファウンテンフロー)により、射出成形品の表皮を形成する。すなわち、この例では、フローフロント部近傍に金属錯体由来の金属微粒子が分散しているので、図3に示すように、ポリマー基材507の表皮505(表面内部)には金属微粒子が含浸したポリマー基材507が得られる。この例では、このようにして、表皮であるスキン層505に金属微粒子が分散し、内皮であるコア層506に、ほとんど金属微粒子が存在しないポリマー基材507を得た(図7中のステップS61)。上記成形プロセスが終了後、成形されたポリマー部材を金型から取り出した(図6中のステップS5B)。次いで、次ショットのための溶融樹脂の可塑化計量が行われる(図6中のステップS1B)。
【0073】
ここで、上記ポリマー基材の成形プロセス中(図6中のステップS3B及びS4B)の表面改質装置部502の動作手順を説明する。両シリンジポンプ20,34を、配管80中の図示しない自動バルブを閉鎖した(図6中のステップS3A)後、可塑化溶融装置110に供給した加圧液体二酸化炭素及び金属錯体が溶解した加圧エタノールの流量分をそれぞれ第1シリンジポンプ20及び第2シリンジポンプ34内に補液した。具体的には、第1シリンジポンプ20で液体二酸化炭素ボンベ21から液体二酸化炭素を吸引し、第2シリンジポンプ34で溶解槽35から金属錯体が溶解したエタノールに吸引した(図6中のステップS4A)。次いで、両シリンジポンプ20,34で所定量の液体を吸引した後、その吸引動作を停止した(図6中のステップS5A)。次いで、両シリンジポンプ20,34を圧力制御に切り替えて(図6中のステップS6A)、吸引した液体をそれぞれ15MPaに昇圧して保持した(図6中のステップS7A)。そして、この状態を維持しながら次ショットの送液まで待機させた(図6中のステップS8A)。上述のように、この例のポリマー部材の製造方法では、ポリマー基材の成形プロセス中に、次ショットに使用する加圧液体二酸化炭素及び金属錯体が溶解した加圧エタノールを用意する。この方法を用いると、次ショットの指令(図6中のトリガー信号)が表面改質装置部502に入力され次第、加圧液体二酸化炭素及び金属錯体が溶解した加圧エタノールからなる加圧混合流体を所定圧力で即座に溶融樹脂に導入することができるので、ポリマー部材の連続生産が可能になる。
【0074】
[メッキ膜の形成方法]
この例では、上述のようにして作製された表面内部に金属微粒子が含浸した(分散した)ポリマー基材507に対して、次のようにして、金型内で無電解メッキ処理を行った。なお、無電解メッキ処理を行っている間、金型内部は80℃に温調した。
【0075】
まず、図4に示すように、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)を後退(図4中の下方向)させることにより、可動プラテン56および可動金型54を後退させ、固定金型53とポリマー基材507との間に隙間604(キャビティ604)を画成した。
【0076】
次いで、無電解メッキ装置部501の二酸化炭素ボンベ21より供給した二酸化炭素をポンプ19で昇圧し、バッファータンク36に貯蔵した。次いで、自動バルブ43を開放して、バッファータンク36に貯蔵されていた加圧二酸化炭素をメッキ液導入路61を介してキャビティ604に導入してポリマー基材507の表面に加圧二酸化炭素を接触させた(図7中のステップS62)。なお、この際、固定金型13の外径部に設けられたバネ内蔵シール17と可動金型54の勘合により、キャビティ604はシールされているので、導入された加圧二酸化炭素が金型外部に漏れ出すことはない。また、この際、キャビティ604における加圧二酸化炭素の圧力は15MPaとした。このように、ポリマー基材507の表面に加圧二酸化炭素を接触させることにより、ポリマー基材507の表面が膨潤するので、次いで導入される加圧二酸化炭素と無電解メッキ液との混合流体のポリマー基材507の内部への浸透がよりスムーズに行われるという効果が得られる。
【0077】
次いで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液8を次のようにしてキャビティ604に導入して、ポリマー基材507に接触させた。まず、予め、無電解メッキ装置部501のメッキタンク11から供給されたアルコールおよび界面活性剤を含む無電解メッキ液と、バッファータンク36から供給された15MPaの加圧二酸化炭素とを、高圧容器10内にて混合させた。また、この際、スタラー16の駆動および、マグネチックスターラー17の高速回転により加圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを高圧容器10内で相溶させた。次いで、自動バルブ43,46を閉鎖し、自動バルブ44,45を開放した。
【0078】
次いで、循環ポンプ90を運転し、高圧容器10、配管15およびキャビティ604からなる循環流路に、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を循環させて、ポリマー基材507の表面に加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を接触させ、メッキ膜(ニッケル−リン膜)を形成した(図7中のステップS63)。この際、ポリマー成形品507の表面は膨潤しているので、ポリマー基材507の表面から無電解メッキ液がポリマー基材507の内部に浸透するとともに、ポリマー基材507内部に分散する金属微粒子を触媒核にして、メッキ膜が成長する。すなわち、ポリマー基材507上に形成されたメッキ膜は、その一部がポリマー基材507の内部に食い込んだ状態(メッキ膜の一部がポリマー基材507の内部に浸透した状態)で成長するので、密着性の優れたメッキ膜が形成される。なお、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が循環している際には、キャビティ604および循環ライン15の圧力は圧力センサー58,59で同圧になっていた。また、無電解メッキ液の補給は、メッキタンク11より供給したメッキ液をシリンジポンプ33で昇圧して、自動バルブ46の開放と同時に送液することで随時行った。
【0079】
次いで、上述のようにしてポリマー基材507上にメッキ膜を形成した後、循環経路から加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器63を介して回収槽12から排気した。具体的には、自動バルブ44,45を閉鎖し、次いで、自動バルブ38を開放することで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器16に排出した。回収容器63では、回収した加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が、遠心分離の原理で水溶液(メッキ液)と高圧ガス(二酸化炭素ガス)に分離される。メッキ液は回収槽12で回収し再利用することができる。ガス化した二酸化炭素は回収容器63の上部から排出され、図示しない排気ダクトに回収される。
【0080】
次いで、自動バルブ43を一定時間開いて、固定金型53とポリマー基材507との間の隙間604(キャビティ604)に加圧二酸化炭素を導入し、キャビティ604に残ったメッキ液の残留物を加圧二酸化炭素とともに金型の外へ排出した。次いで、キャビティ604の内圧が圧力センサー59のモニター値でゼロになったところで、金型を開きポリマー基材507を取り出した。
【0081】
次に、取り出したポリマー基材507に対して、通常の置換型金メッキを施して、ポリマー基材507の表面に金メッキ膜を積層した。この例では、上述のようにして、ポリマー基材上にメッキ膜が形成されたポリマー部材を得た。
【0082】
この例で作製されたポリマー部材の一部の模式断面図を図5に示した。この例で作製されたポリマー部材のスキン層505内部には金属微粒子600(図5中の黒丸印)が分散していることが確認された。また、ポリマー基材507の片側には、金型内で成長させたニッケル−リンの金属膜509が形成されており、ニッケルーリンの金属膜509はポリマー基材507の内部から成長していた(金属膜509の浸透層が形成されていた)。また、ニッケル−リンの金属膜509の上に金の高反射膜510が形成されていた。
【0083】
[メッキ膜の評価]
上述のようにして作製されたポリマー部材に対して、高温多湿試験(条件:温度80℃、湿度90%Rh、放置時間500時間)やヒートサイクル試験(80℃と150℃との温度間を15サイクル)を行った後、ピール試験したところ、膜剥れは発生しなかった。また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験も行った。その結果、金属膜の密着性の低下は認められなかった。さらに、この例で作製されたポリマー部材の表面粗さRaを測定したところ、金型の表面粗さと同等のRa=100nmであった。すなわち、この例のポリマー部材の製造方法によれば、射出成形と同時にメッキ処理を行うことができ、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できることが分かった。
【0084】
また、実施例1では、ポリマー基材の射出成形時に、溶融樹脂のフローフロント部に金属錯体を導入して射出成形し、金属微粒子をポリマー基材の表面内部に浸透させる例を説明したが、本発明はこれに限定されない。サンドイッチ成形法により金属微粒子が表面内部に含浸したポリマー基材を成形しても良い。具体的には、2つの加熱シリンダーを備えるサンドイッチ成形機を用いて、まず、金属錯体が浸透した溶融樹脂を一方の加熱シリンダーから射出し、次いで、金属微粒子を含まない溶融樹脂を他方の加熱シリンダーから射出して成形しても良い。
【実施例2】
【0085】
実施例2では、実施例1と同様の射出成形機を用いてポリマー基材を射出成形した後に、同じ射出成形機内で無電解メッキ処理を行う方法について説明する。本実施例では、実施例1と同様に、ポリマー部材として自動車ヘッドライトのリフレクターを作製し、ポリマー基材の形成材料もポニフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業社製FZ−8600 Black)を用いた。また、金属微粒子の原料としては、金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナパラジウム(II))を用いた。
【0086】
本実施例では、金属微粒子とともに、水溶性物質である平均分子量1000のポリエチレングリコール(無電解メッキ液に溶解する物質:溶出物質)を、可塑化シリンダー(加熱シリンダー)内の可塑化計量された溶融樹脂の先端部(フローフロント部)を導入し、ポリマー基材の表面に含浸させた。具体的には、溶解槽35にて該金属錯体及びポリエチレングリコールをエタノールに溶解させ、金属錯体及びポリエチレングリコールが溶解した加圧エタノールと、加圧二酸化炭素との加圧混合流体を溶融樹脂の先端部(フローフロント部)を導入した。それ以外は、実施例1と同様にして、本実施例のポリマー部材を作製した。
【0087】
本実施例では、金属錯体とポリエチレングリコールを、可塑化シリンダー52内の溶融樹脂のフローフロント部に導入して、ポリマー基材を射出成形したので、ポリマー基材のスキン層(表面内部)に、金属微粒子及びポリエチレングリコールが含浸し、コア層には金属微粒子及びポリエチレングリコールが殆ど浸透していないポリマー基材が得られる。その様子を示したのが図8であり、図8には、この例で成形したポリマー基材の表面近傍(スキン層の一部)の概略断面図である。この例の成形直後のポリマー基材の表面近傍では、図8に示すように、金属微粒子600とポリエチレングリコール601が分散している。なお、この例で成形したポリマー基材の内部に含浸しているポリエチレングリコール601の粒子サイズをEPMA(Electron Probe Micro Analizer)で調べたところ、約50nmであった。
【0088】
次いで、図8に示すようなスキン層に金属微粒子600及びポリエチレングリコール601が含浸しているポリマー基材に、実施例1と同様にして、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を接触させてポリマー基材上にメッキ膜を形成した。
【0089】
加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を、表面が膨潤した状態のポリマー基材表面に接触させると、無電解メッキ液がポリマー基材内に浸透して、ポリエチレングリコール601に到達する。この際、ポリエチレングリコール601は水溶性物質であるので、無電解メッキ液の主成分である水やアルコールにポリエチレングリコール601が溶出し、ポリエチレングリコール601が占めていた(存在していた)領域に無電解メッキ液が入り込む(ポリエチレングリコール601が占めていた領域が無電解メッキ液に置換される)。その結果、ポリエチレングリコール601が占めていた領域(無電解メッキ液で置換された領域)においても無電解メッキ膜が成長する。このように、本実施例では、ポリエチレングリコール601が存在していた領域にメッキ膜を成長することができるので、ポリマー基材の形成材料として、ポリマー内部の自由体積が拡大し難い結晶性材料を用いた場合であっても、ポリマー基材内部に容易に無電解メッキ膜が成長する領域を確保することができる。
【0090】
この例の製造方法でメッキ膜をポリマー基材上に形成した場合のポリマー基材とメッキ膜との界面の様子を示したのが、図9である。この例では、ポリマー基材に含浸した金属微粒子600の周囲だけでなくポリエチレングリコール601が存在していた領域(図9中の破線603で囲まれた領域)にもメッキ膜が成長するので、図9に示すように、ポリマー基材の内部において非常に複雑な形状でメッキ膜602が成長し、ポリマー基材内部から連続したメッキ膜をポリマー基材上に形成することができる。それゆえ、より高密着性を有するメッキ膜が形成される。なお、図9に示すように、無電解メッキ液が到達しなかったポリエチレングリコール601の領域は、ポリエチレングリコール601が溶出せず、そのままの状態でポリマー基材内に残留する。
【0091】
この例で作製されたポリマー部材に対しても、金属膜の密着性評価を、実施例1と同様な高温多湿環境試験にて行った。また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験も行った。その結果、実施例1と同様の結果が得られ、金属膜の密着性の低下は認められなかった。さらに、この例で作製されたポリマー部材の表面粗さRaを測定したところ、金型の表面粗さと同等のRa=100nmであった。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、射出成形と同時にメッキ処理を行うことができ、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できることが分かった。
【0092】
なお、本実施例では、ポリマー基材の内部に十分なメッキ膜の成長領域を形成するために、水溶性物質としてポリエチレングリコールを用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等のミネラル成分、デンプン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、アクリル酸等を用いても良い。また、水溶性物質の代わりに溶解性の低分子材料、例えば、ポリエチレンオキシド、εカプロラクタム、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、エチレングリコール、ポリアクリルアシド、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、アセチルセルロース等を用いても良い。
【実施例3】
【0093】
実施例3では、実施例2と同様に金属微粒子及びポリエチレングリコール(溶出物質)が表面に含浸したポリマー基材を射出成形した後に、同じ射出成形機内で無電解メッキ処理を行う方法について説明する。なお、この例で用いたポリマー部材の製造装置では、表面改質装置部(導入装置)の構造を実施例1とは変えた。それ以外の構造は、実施例1の製造装置と同じ構造とした。
【0094】
この例の表面改質装置部の概略構成を図10に示した。この例の表面改質装置部502’と実施例1の表面改質装置部502との構成上の主な違いは、図1及び10から明らかなように、この例では、液体二酸化炭素を吸引して昇圧する第1シリンジポンプ20と背圧弁48との間に、第2の溶解槽22を設けたことである。
【0095】
実施例2では、金属微粒子及びポリエチレングリコールを1つの溶解槽35内でエタノールに溶解したが、この例では、第1の溶解槽35’でポリエチレングリコールをエタノールに溶解し、金属微粒子を含む金属錯体を第2の溶解槽22に仕込んだ。それゆえ、この例では、射出成形装置部内の溶融樹脂に導入する加圧混合流体は、次のようにして生成される。まず、第1シリンジポンプ20で所定圧力の加圧液体二酸化炭素を生成し、第2シリンジポンプではポリエチレングリコールを溶解したエタノールを所定圧力に昇圧する。そして、加圧混合流体の導入指令(図6中のトリガー信号)により、第1及び第2シリンジポンプを圧力制御から流量制御に切り替え、両シリンジポンプから流出する加圧液体を混合する。この際、加圧液体二酸化炭素は金属錯体が仕込まれた第2の溶解槽22を通過し、金属錯体が加圧液体二酸化炭素に溶解される。そして、配管80ではポリエチレングリコールを溶解した加圧エタノールと、金属錯体が溶解した加圧液体二酸化炭素とが混合され加圧混合流体が生成される。この加圧混合流体の生成方法以外は、実施例2と同様にしてポリマー基材を成形した。また、この例では、実施例2と同様にして、ポリマー基材上に無電解メッキ膜を形成した。
【0096】
この例で作製されたポリマー部材に対しても、金属膜の密着性評価を、実施例1と同様な高温多湿環境試験にて行った。また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験も行った。その結果、実施例1と同様の結果が得られ、金属膜の密着性の低下は認められなかった。さらに、この例で作製されたポリマー部材の表面粗さRaを測定したところ、金型の表面粗さと同等のRa=100nmであった。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、射出成形と同時にメッキ処理を行うことができ、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できることが分かった。
【0097】
上記実施例1〜3では、ポリマー部材(ポリマー成形品)の形成材料として結晶材料を用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、ポリマー部材(ポリマー成形品)の形成材料として非結晶材料を用いた場合でも同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のポリマー部材の製造方法及び製造装置では、改質材料を含む加圧流体を射出成形機内の溶融樹脂により簡易に安定して導入することができ且つ連続生産に最適な製造方法及び製造装置であるので、射出成形機を用いて表面に改質材料が含浸したポリマー部材を製造する方法及び製造装置として好適である。
【0099】
また、本発明のポリマー部材の製造方法及び製造装置において、射出成形機内で無電解メッキ処理を行った場合には、密着性が高く平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できるので、LED等高い耐熱性の要求される自動車用ヘッドライトのリフレクター等の作製方法及び製造装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1は、実施例1で用いた製造装置の概略構成図である。
【図2】図2は、加熱シリンダー内の溶融樹脂に金属錯体を含む加圧混合流体を導入する際の様子を示した図であり、図2(a)は溶融樹脂の可塑化軽量完了時の様子を示した図であり、図2(b)は加圧混合流体導入時の様子を示した図である。
【図3】図3は、実施例1のポリマー成形品の製造方法において、ポリマー成形品の射出成形完了時の様子を示した図である。
【図4】図4は、実施例1のポリマー成形品の製造方法において、ポリマー成形品に対して無電解メッキ処理を施している際の様子を示した図である。
【図5】図5は、実施例1で作製したポリマー成形品の断面構造を模式的に表した図である。
【図6】図6は、実施例1のポリマー部材の製造方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】図7は、実施例1のポリマー部材の製造方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図8】図8は、実施例2で作製したポリマー部材の表面近傍内部の断面構造を模式的に表した図である。
【図9】図9は、実施例2で作製したポリマー部材のポリマー基材とメッキ膜との境界面付近の断面構造を模式的に表した図である。
【図10】図10は、実施例3で用いた表面改質装置部の概略構成図である。
【図11】図11は、金属錯体の二酸化炭素に対する溶解度の圧力依存性を示した図である。
【符号の説明】
【0101】
8 無電解メッキ液
21 液体二酸化炭素ボンベ
20,33,34 シリンジポンプ
22,35,35’ 溶解槽
65 導入バルブ
500 製造装置
501 無電解メッキ装置部
502,502’ 表面改質装置部
503 射出成形装置部
504,604 キャビティ
505 スキン層(表皮)
506 コア層
507 ポリマー成形品
508 制御装置
509 無電解ニッケル−リン膜
510 金メッキ膜
600 金属微粒子
601 水溶性物質
602 無電解メッキ膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー部材の製造方法及び製造装置に関し、より詳細には、表面内部に改質材料が含浸したポリマー部材の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超臨界状態の二酸化炭素等の加圧二酸化炭素を用いたポリマー部材の表面改質方法をメッキ前処理に適用する技術が提案されている。この方法では、改質材料(機能性材料)を加圧二酸化炭素に溶解させ、該改質材料の溶解した加圧二酸化炭素をポリマー部材に接触させることにより、改質材料をポリマー部材の表面内部に浸透させてポリマー部材表面を高機能化(改質)する。例えば、本発明者らは、このような加圧二酸化炭素を用いた表面改質処理を射出成形と同時に行い、ポリマー成形品の表面が高機能化されたポリマー部材(成形品)の製造方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、次のような製造方法を開示している。まず、射出成形機の加熱(可塑化)シリンダー内で樹脂を可塑化計量した後、加熱シリンダー内のスクリューをサックバックさせて後退させる。次いで、スクリューのサックバックにより負圧になった(圧力が低下した)溶融樹脂のスクリュー前方部(フローフロント部)に超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)およびそれに溶解した金属錯体等の改質材料(機能性有機材料)を導入する。この動作によりスクリュー前方部における溶融樹脂に加圧二酸化炭素と改質材料を浸透させる。次いで、溶融樹脂を金型に射出充填する。この際、改質材料が浸透したスクリュー前方部の溶融樹脂がまず金型に射出され、次いで、改質材料がほとんど浸透していない溶融樹脂が射出充填される。改質材料が浸透したスクリュー前方部の溶融樹脂が射出された際には、金型内における流動樹脂のファウンテンフロー現象(噴水効果)により、スクリュー前方部の溶融樹脂は金型表面に引っ張られながら金型に接して表面層(スキン層)を形成する。それゆえ、特許文献1に記載の製造方法では、ポリマー成形品の表面内部に改質材料が含浸した(改質材料により表面改質された)ポリマー成形品が作製される。改質材料として、メッキ触媒となる金属微粒子を含む金属錯体等を用いると、表面にメッキ触媒が含浸したポリマー成形品が得られるので、従来のメッキ前処理方法のようにエッチング液で表面を粗化する必要なく、無電解メッキ可能な射出成形品を得ることができる。
【0004】
また、無電解メッキ法に関しては、従来、超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いて無電解メッキを行う方法が提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献1)。これらの文献では、無電解メッキ液と超臨界二酸化炭素とを、界面活性剤を用いて相溶させ、攪拌によりエマルジョン(乳濁状態)を形成し、該エマルジョン中でメッキ反応を起こす無電解メッキ方法が開示されている。通常、電解メッキや無電解メッキにおいては、メッキ反応中に発生する水素ガスがメッキ対象物の表面に滞留しメッキ膜にピンホールが発生する要因となる。しかしながら、上記文献に開示されている無電解メッキ法のように超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた場合には、超臨界二酸化炭素は水素を溶解するので、上記メッキ反応中に発生する水素が取り除かれ、それによりピンホールが発生しにくく、硬度の高い無電解メッキ膜が得られるとされる。
【0005】
【特許文献1】特許第3696878号公報
【特許文献2】特許第3571627号公報
【非特許文献1】表面技術 Vol.56、No.2、P83(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載の超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素を用いたポリマー部材の製造方法では、溶融樹脂のスクリュー前方部(フローフロント部)に超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素およびそれに溶解した金属錯体等の改質材料を導入するが、その際、改質材料を含む加圧二酸化炭素を安定して一定量だけ導入する必要がある。そこで、本発明の第1の目的は、改質材料を含む加圧二酸化炭素を射出成形機内の溶融樹脂により簡易に安定して導入するポリマー部材の製造方法を提供することである。
【0007】
また、上述した特許文献1に記載のポリマー部材の製造方法では、射出成形機を用いるので、ポリマー部材の連続生産には不向きな方法である。そこで、本発明の第2の目的は、射出成形機を用いて改質材料を表面内部に含有するポリマー部材を生産する方法及び製造装置において、連続生産に最適な製造方法及び製造装置を提供することである。
【0008】
また、特許文献1に記載の超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素を用いたポリマー部材の製造方法を用いてポリマー部材の表面内部にメッキ触媒となる金属微粒子を浸透させた場合には、上述のように、表面および表面内部にメッキ触媒となる金属微粒子が存在するポリマー部材が得られる。しかしながら、このようなポリマー部材に無電解メッキを施した場合、無電解メッキの触媒核として寄与するのはポリマー部材の最表面に存在する金属微粒子のみであり、ポリマー部材の内部(表面内部)に存在する金属微粒子は余剰な触媒核となり不経済である。また、特許文献1に記載の技術を用いて得られたポリマー部材にメッキ膜を形成した場合、ポリマー部材の表面を粗化していないので、メッキ膜の物理的アンカー効果が得にくく、メッキ膜と成形品の強固な密着性を得ることが困難であるという課題があった。本発明の第3の目的は、上記問題を解決することであり、ポリマー部材の表面に、安価で、高密着強度を有する無電解メッキ膜を形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に従えば、表面内部に改質材料を含有するポリマー部材を、金型及び加熱シリンダーを備える射出成形機を用いて製造する方法であって、上記改質材料、液体二酸化炭素及び上記改質材料を溶解可能な液体を含む加圧流体をシリンダーにより流量制御して上記加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入することと、上記加圧流体が導入された上記溶融樹脂を上記金型内に射出して上記ポリマー部材を成形することとを含む製造方法が提供される。
【0010】
本発明のポリマー部材の製造方法では、改質材料、液体二酸化炭素及び改質材料を溶解することが可能な液体を含む加圧流体を射出成形機の加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入する際に、シリンダーにより流量制御して一定量の加圧流体を導入するので、より容易に安定して改質材料を含む加圧流体を溶融樹脂に導入することができる。加圧流体を流量制御する方法としては、流量計を用いて制御する方法が考えられるが、本発明者らの検証によれば、この方法では十分な安定性が得られなかった。なお、改質材料を溶解することが可能な液体が、液体二酸化炭素であっても良い。この場合、加圧流体が改質材料と液体二酸化炭素のみを含み得る。
【0011】
なお、本明細書でいう「加圧流体」とは、加圧された流体のことをいう。ただし、加圧流体の圧力は、改質材料を十分に溶解する圧力であれば良く、ここでいう「加圧流体」には臨界点(超臨界状態)以上に加圧された流体のみならず、臨界点より低圧力で加圧された流体も含まれる。好ましくは5MPa以上に加圧された流体のことをいう。なお、上述のように、加圧流体に臨界点より低圧力で加圧された流体も含む理由は、加圧流体に含まれる改質材料が、超臨界状態の流体に限らず、超臨界状態に至る前の種々の圧力の流体に対しても溶解することが分かっているためである。その一例を図11に示した。図11は金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))の液体二酸化炭素(20℃)に対する溶解度の圧力依存性を示した図である。また、図11には40℃の二酸化炭素(気体状態)に対する溶解度の圧力依存性も示した。二酸化炭素は圧力7.38MPa以上で超臨界状態となるが、図11から明らかなように、金属錯体は臨界点(超臨界状態)以下の低圧液体二酸化炭素に対しても良好な溶解度を示している。
【0012】
本発明のポリマー基材の製造方法では、上記加圧流体が2つのシリンダーにより流量制御され、さらに、上記ポリマー部材を成形している間に、上記液体二酸化炭素及び上記液体をそれぞれ一方及び他方のシリンダー内に吸引することと、一方のシリンダー内の上記液体二酸化炭素及び他方のシリンダー内の上記液体をそれぞれ昇圧することとを含むことが好ましい。
【0013】
加圧流体が浸透した溶融樹脂を上記金型内に射出してポリマー部材を成形している間に、液体二酸化炭素及び液体をそれぞれ別のシリンダー内に吸引して、各シリンダー内の液体二酸化炭素及び液体をそれぞれ所定圧力に昇圧して待機しておくことにより、次回の射出成形時に即座に、改質材料、液体二酸化炭素及び液体を含む加圧流体を生成して溶融樹脂に導入することができるので、ポリマー部材の連続生産が可能になる。
【0014】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記加圧流体を上記加熱シリンダー内の溶融樹脂のフローフロント部に導入することが好ましい。なお、本発明はこれに限定されない。例えば、2つの加熱シリンダーを備えるサンドイッチ成形機を用いてポリマー部材を成形する場合には、最初に射出する加熱シリンダー内の溶融樹脂全体に、改質材料を含む加圧流体を導入しても良い。
【0015】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記改質材料を溶解し且つ昇圧された上記液体と、昇圧された上記液体二酸化炭素とを混合して上記加圧流体を生成することが好ましい。なお、この場合、液体を昇圧する前に改質材料を液体に溶解しても良いし、液体を昇圧した後に改質材料を液体に溶解しても良い。また、本発明のポリマー部材の製造方法では、昇圧された上記液体と、上記改質材料を溶解し且つ昇圧された上記液体二酸化炭素とを混合して上記加圧流体を生成しても良い。
【0016】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記液体がアルコールであることが好ましい。なお、アルコールとしては、改質材料を溶解可能なアルコールであれば任意のものが用い得、例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができる。また、上記液体として液体二酸化炭素を用いても良い。なお、加圧流体に改質材料を溶解可能な液体を含ませることにより、改質材料の加圧流体に対する溶解濃度を向上させ、予め、濃度一定に調整した液体を用いることにより、改質材料を含む加圧流体を溶融樹脂に一層安定供給することができる。
【0017】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記シリンダーがシリンジポンプのシリンダーであることが好ましい。加圧流体をシリンジポンプを用いて流量制御した場合には、例えば、流量計を用いた制御に比べて、より安定した加圧流体の溶融樹脂への導入が可能になり、その装置構成も簡易な構造となる。
【0018】
本発明のポリマー部材の製造方法では、改質材料として、例えば、次のような材料を用い得る。改質材料として、ポリアルキルグリコール等の親水性材料またはシリコーンオイルおよびフッソ系材料等の疎水性材料を用いても良い。例えば、ポリアルキルグリコール、アクリルアミド、εカプロラクタム等の水酸基やアミド基を有するポリマーやモノマーを導入することでポリマー部材表面の濡れ性を改善できる。また、フッ素化合物やシリコーンオイル等を用いることでポリマー部材表面に撥水性を付与することができる。
【0019】
また、改質材料として、無機微粒子を用いても良い。改質材料にSiO2、Al2O3、Cr2O3、TiO2等の無機微粒子を用いた場合には、ポリマー部材の熱膨張係数を抑制することができる。さらに、改質材料にSiO2等の無機微粒子を用いた場合には、ポリマー部材の屈折率を制御することができる。なお、これらの無機物を改質材料として使用する場合、原料の前駆体を用いるか、または、無機物に対して液体二酸化炭素に可溶となる化学もしくは物理修飾を施すことが望ましい。
【0020】
改質材料としては、界面活性剤も用い得、この場合には、ポリマー部材の濡れ性改善や帯電防止の効果が期待される。さらに、改質材料として、例えば、ベンゾフェノンやクマリン等の紫外線安定剤、芳香剤、メタクリル酸メチル等各種ポリマーのモノマーおよび重合開始材料、薬剤等を用いても良い。
【0021】
また、本発明のポリマー部材の製造方法では、上記改質材料が無電解メッキの触媒核となる金属微粒子であっても良い。ただし、金属微粒子を改質材料として使用する場合には、金属微粒子を含む金属錯体および金属酸化物の前駆体等を用いることが望ましい。改質材料として、金属微粒子を含む金属錯体および金属酸化物の前駆体等を用いた場合には、無電解メッキの触媒核となる金属微粒子をポリマー基材表面に浸透させることができる。また、金属微粒子をポリマー基材表面に浸透させることにより、ポリマー部材に導電性や熱伝導性を付与できる。
【0022】
改質材料に無電解メッキの触媒核となる金属微粒子を用いた場合、本発明のポリマー部材の製造方法が、さらに、上記改質材料を含有するポリマー部材に加圧二酸化炭素を接触させてポリマー部材の表面近傍を膨潤させることと、上記ポリマー部材の表面近傍を膨潤させた状態で、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させて、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することとを含むことが好ましい。
【0023】
なお、本明細書でいう「加圧二酸化炭素」とは、加圧された二酸化炭素のことをいう。なお、ここでいう「加圧二酸化炭素」には、超臨界状態の二酸化炭素のみならず、加圧された液状二酸化炭素及び加圧された二酸化炭素ガスも含む意味である。また、加圧二酸化炭素の圧力は、後述するように、加圧二酸化炭素がポリマー部材に十分浸透する圧力であればよく、臨界点(超臨界状態)以上に加圧された二酸化炭素のみならず、臨界点より低圧力で加圧された二酸化炭素も含まれる。好ましくは5MPa以上に加圧された二酸化炭素のことをいう。
【0024】
上記本発明のメッキ膜の形成方法では、まず、表面内部にメッキ触媒核となるPd、Ni、Pt、Cu等の金属微粒子が含浸したポリマー部材に加圧二酸化炭素を接触させる。この際、ポリマー部材が非晶性材料で形成されている場合にはガラス転移温度が低下して表面近傍が軟化して膨潤する。一方、ポリマー部材が結晶性材料で形成されている場合には、軟化しないまでも、表面近傍で分子間距離が拡大して膨潤する。
【0025】
次いで、このような表面状態にあるポリマー部材に、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を接触させる。この際、ポリマー部材の表面近傍が膨潤した状態で無電解メッキ液を接触させるので、無電解メッキ液は加圧二酸化炭素とともにポリマー部材の内部に浸透させることができる。また、この際、超臨界状態等の加圧二酸化炭素を混合した無電解メッキ液は表面張力が低くなるので、ポリマー部材の内部に無電解メッキ液がより浸透し易くなる。この結果、ポリマー部材の内部に存在する金属微粒子まで無電解メッキ液が到達し、ポリマー部材の内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜が成長する。すなわち、上述のメッキ膜の形成方法を含む本発明のポリマー部材の製造方法では、ポリマー部材の表面だけでなく、内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜が成長するので、メッキ膜はポリマー部材の内部に食い込んだ状態(メッキ膜の一部がポリマー部材の内部に浸透した状態)でポリマー部材上に形成される。それゆえ、上述の本発明のメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ法のようにポリマー部材の表面をエッチングで粗化する必要がなく、多様な種類のポリマー部材に対しても容易に密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。また、上述したメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ法のようにポリマー部材の表面を粗化しないので、表面粗度の非常に小さい(ナノオーダー)メッキ膜を形成することができる。
【0026】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記無電解メッキ液が、アルコールを含むことが好ましい。
【0027】
本発明者の検討によると、特許文献2及び非特許文献1等に開示されている超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた無電解メッキ方法では、高圧状態の二酸化炭素と水溶液である無電解メッキ液とは、界面活性剤を用いたとしても、相溶しにくく、攪拌効果を高くする必要のあることが判明した。具体的には、攪拌トルクの高い攪拌子を用いたり、底の浅い高圧容器を用いたりすることが必要であることが分かった。すなわち、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とを均一に混合して安定したエマルジョンを得るためには、高圧容器や攪拌子等の形状や攪拌子の回転数における制限が大きいことが分かった。
【0028】
そこで、本発明者らは、この課題を解決するために検討を重ねた結果、無電解メッキ液は水が主成分であるが、さらに、アルコールを無電解メッキ液に混合させることにより、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とを攪拌しなくても、高圧状態の二酸化炭素とメッキ液とが安定して混ざり易くなることがわかった。これは、アルコールが高圧状態の二酸化炭素と相溶しやすいためであると考えられる。それゆえ、通常、無電解メッキ液を調合する際には、金属イオンや還元剤等の入った原液を、例えばメーカー推奨の成分比に従って、水で薄めてメッキ液を健浴するが、本発明のポリマー部材の製造方法(メッキ膜の形成方法)では、さらにアルコールを任意の割合で水に混合するだけで、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とが均一に相溶した安定した無電解メッキ液を調合することができる。なお、水とアルコールの体積比は、任意であるが、10〜80%の範囲であることが望ましい。アルコールが少ないと、安定な混合液が得られにくくなる。また、アルコール成分が多すぎると、例えばニッケル−リンメッキに用いられる硫酸ニッケルにエタノール等の有機溶媒は不溶であるため、浴が安定しない場合がある。
【0029】
なお、上記無電解メッキ液に含ませ得るアルコールは任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができる。
【0030】
また、上記メッキ膜の形成方法において、無電解メッキ液にアルコールを加えた場合には、アルコールは水よりも表面張力が低いので、アルコールが加えられた無電解メッキ液の表面張力は著しく低下する。そのため、ポリマー部材の自由体積(内部)に、無電解メッキ液が一層浸透し易くなる。
【0031】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記無電解メッキ液が、界面活性剤を含むことが好ましい。これにより、超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素と水溶液である無電解メッキ液との相溶性(親和性)をより向上させ、エマルジョンの形成を助長することができる。また、ポリマー部材に対するメッキ液の親和性も向上させることができる。
【0032】
なお、界面活性剤としては、公知の、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、両性イオン性界面活性剤のうち、少なくも1種類以上を選択して用いることが望ましい。特に、超臨界二酸化炭素と水とのエマルジョンを形成するのに有効であると確認されている各種界面活性剤を用いることが望ましい。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)−ポリプロピレンオキシド(PPO)のブロックコポリマー、アンモニウムカルボキシレートパーフルオロポリエーテル(PFPE)、PEO−ポリブチレンオキシド(PBO)のブロックコポリマー、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル等を用いることができる。
【0033】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記加圧二酸化炭素が、7.38MPa以上20MPa以下の圧力を有する超臨界二酸化炭素であることが好ましい。二酸化炭素の臨界圧力は7.38MPaであるが、それ以上の超臨界状態であると密度が高くなり、メッキ液と相溶しやすくなるので好適である。また、圧力が30MPa以上になると、二酸化炭素の使用量が過剰に多くなったり、高圧容器のシールが困難になる等の不具合が生じるので望ましくない。このような問題を考慮して、実用上、加圧二酸化炭素の圧力は20MPa以下にすることが好ましい。
【0034】
本発明のポリマー部材の製造方法では、上記改質材料が、さらに、無電解メッキ液に溶解する物質を含むことが好ましい。
【0035】
この場合、表面内部にメッキ触媒核となるPd、Ni、Pt、Cu等の金属微粒子、並びに、無電解メッキ液に溶解する物質(以下、溶出物質ともいう)が含浸したポリマー基材が得られる。このようなポリマー基材に加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー基材に接触させると、ポリマー基材内部に含浸している溶出物質が無電解メッキ液に溶出して、溶出物質が占めていた領域に無電解メッキ液が入り込む(溶出物質の含浸領域が無電解メッキ液により置換される)。その結果、無電解メッキ液が入り込んだ領域(溶出物質が占めていた領域)にもメッキ膜が成長する。この方法では、結晶性材料のように内部の自由体積が拡大し難い材料をポリマー基材として用いた場合であっても、容易にポリマー基材内部に無電解メッキ膜が成長する十分な領域(空間)を確保することができる。また、溶出物質が占めている領域の大きさは溶出物質の分子量により制御することができるので、溶出物質が占めていた領域(無電解メッキ液で置換された領域)で成長する微細なメッキ粒子の大きさも溶出物質の分子量により任意に制御することができる。そのため、金属微粒子と一緒に溶出物質をポリマー基材内部に含浸させたポリマー基材上に無電解メッキ膜を形成した場合には、ポリマー基材内部に複雑な形状(毛細血管状、蟻の巣状、網目状等)でメッキ膜を形成することができ、溶出物質を浸透させない場合に比べてより強度な密着性有するメッキ膜を形成することができる。
【0036】
なお、無電解メッキ液に溶解する物質としては、水やアルコールが主成分である無電解メッキ液に溶解する材料であれば、任意であるが、特に、水溶性物質または溶解性低分子物質が好ましい。水溶性物質としては、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等のミネラル成分やポリアルキルグリコール等が用い得る。また、溶解性低分子物質としては、例えば、εカプロラクタム、ポリエチレングリコール等のポリアルキルグリコールなどが用い得る。
【0037】
本発明のポリマー部材の製造方法では、さらに、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成した後、常圧で無電解メッキ及び電解メッキの少なくとも一方を行うことを含むことが好ましい。
【0038】
本発明のポリマー部材の製造方法では、短時間で最小限の薄い金属膜をポリマー部材の表面に形成して金属膜とポリマー部材の密着性を確保することが好ましい。それにより無電解メッキ液が過剰にポリマー部材の内部に浸透することを抑制することができ、無電解メッキ液によるポリマー部材の変形や変質を抑制することができる。また、メッキ膜の膜厚を厚くする必要がある場合には、本発明の上記方法によりポリマー部材上に無電解メッキ膜を形成した後に、常圧で従来のメッキ法(無電解メッキ法及び/又は電解メッキ法)を施すことにより、所望の膜厚を有する金属膜をポリマー部材上に積層することができる。この方法では、金属膜の信頼性(密着性)と、導電性等の物性の確保とを両立したメッキ膜を得ることができる。
【0039】
本発明のポリマー部材の製造方法では、メッキ皮膜となる金属としては、Ni,Co,Pd,Cu,Ag,Au,Pt,Sn等を用いることができ、これらは無電解メッキ液中における硫酸ニッケル、塩化パラジウム、硫酸銅等の金属塩から供給される。また、還元剤としては、ジメチルアミンボラン、次亜燐酸ナトリウム(ホスフィン酸ナトリウム)、ヒドラジン、ホルマリン、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、三塩化チタン等を用いることができる。
【0040】
また、無電解メッキ液には、公知の各種添加剤を添加してもよい。例えば、無電解メッキ液中で金属イオンと安定な可溶性錯体を形成するクエン酸、酢酸、コハク酸、乳酸等の錯化剤を添加してもよい。また、無電解メッキ液の安定剤として、チオ尿素等の硫黄化合物や鉛イオン、光沢剤、湿潤剤(界面活性剤)を添加してもよい。
【0041】
本発明のポリマー部材の製造方法に用い得るポリマー部材の形成材料は任意であり、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂及び紫外線硬化樹脂を用いることができる。特に、熱可塑性樹脂で形成したポリマー部材を用いることが望ましい。熱可塑性樹脂の種類は任意であり、非晶性、結晶性いずれでも適用できる。例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリアミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン樹脂等及びそれら複合材料を用いることできる。また、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン、ミネラル等、各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。
【0042】
本発明の第2の態様に従えば、表面内部に改質材料を含有するポリマー部材の製造装置であって、上記ポリマー部材を成形する射出成形機と、上記改質材料を含む加圧流体を流量制御で上記射出成形機内の溶融樹脂に導入する導入装置と、上記射出成形機及び上記導入装置に連結され、上記加圧流体の流動を制御する制御装置とを備える製造装置が提供される。
【0043】
本発明のポリマー部材の製造装置では、改質材料を含む加圧流体を流量制御で射出成形機に導入する導入装置を備えているので、より安定に且つより容易に、改質材料を含む加圧流体を射出成形機内の溶融樹脂に導入することができる。
【0044】
本発明のポリマー部材の製造装置では、上記導入装置が、シリンジポンプを備えることが好ましい。加圧流体をシリンジポンプを用いて流量制御した場合には、例えば、流量計を用いた制御に比べて、より安定した加圧流体の溶融樹脂への導入が可能になり、その装置構成も簡易な構造となる。また、本発明のポリマー部材の製造装置では、上記導入装置が、さらに、上記改質材料が内部に仕込まれた溶解槽を備え、該溶解槽が上記シリンジポンプと流通していることが好ましい。
【0045】
本発明のポリマー部材の製造装置では、上記加圧流体が、上記改質材料、液体二酸化炭素及び上記改質材料を溶解可能な液体を含み、上記導入装置が、該液体二酸化炭素を昇圧して流出する第1シリンジポンプと、該液体を昇圧して流出する第2シリンジポンプと、第1シリンジポンプから流出された該液体二酸化炭素と第2シリンジポンプから流出された該液体とを混合する混合部とを備えることが好ましい。
【0046】
本発明のポリマー部材の製造装置では、上記導入装置が、さらに、上記改質材料が内部に仕込まれた溶解槽を備え、該溶解槽が第1及び第2シリンジポンプの一方と流通していることが好ましい。
【0047】
本発明のポリマー部材の製造装置では、上記射出成形機内で上記ポリマー部材が成形されている間に、第1及び第2シリンジポンプが、それぞれ上記液体二酸化炭素及び上記液体を吸引して昇圧することが好ましい。第1及び第2シリンジポンプがこのような動作を行うことにより、次回の射出成形時に即座に、改質材料、液体二酸化炭素及び液体を含む加圧流体を生成して溶融樹脂に導入することができるので、ポリマー部材の連続生産が可能になる。
【0048】
本発明のポリマー部材の製造装置では、上記射出成形機が、上記加圧流体を上記溶融樹脂のフローフロント部に導入するための導入部を備えることが好ましい。
【0049】
また、本発明のポリマー部材の製造方法では、さらに、上記射出成形機内に無電解メッキ液を導入するメッキ液導入装置を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0050】
本発明のポリマー部材の製造方法及び製造装置によれば、改質材料を含む加圧流体を射出成形機の加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入する際に、シリンジポンプ等を用いて流量制御して一定量の加圧流体を導入することができるので、より容易に安定して改質材料を含む加圧流体を溶融樹脂に導入することができる。
【0051】
本発明のポリマー部材の製造方法及び製造装置において、ポリマー部材を射出成形している間に、液体二酸化炭素及び改質材料を溶解可能な液体をそれぞれ別のシリンジポンプ等で吸引して、所定圧力に昇圧した場合には、次回の射出成形時に即座に、改質材料を含む加圧流体を生成して溶融樹脂に導入することができるので、ポリマー部材の連続生産が可能になる。
【0052】
また、本発明のポリマー部材の製造方法において、改質材料に無電解メッキの触媒核となる金属微粒子を用い、上述した本発明のメッキ膜の形成方法を用いた場合には、ポリマー部材の表面だけでなくその内部から成長したメッキ膜をポリマー部材上に形成することができるので、より密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。また、上記メッキ膜の形成方法によれば、無電解メッキ液をポリマー部材の内部に浸透させてメッキ反応を起こさせるので、従来のようにポリマー部材の表面を粗化する必要がなくなり、あらゆる種類のポリマー部材に対して密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明のポリマー部材の製造方法及び製造装置の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0054】
実施例1では、ポリマー部材として自動車ヘッドライトのリフレクターを作製した例について説明する。この例では、射出成形機を用いてポリマー基材を射出成形した後に、同じ射出成形機内で無電解メッキ処理を行い、ポリマー基材上にメッキ膜を形成した。
【0055】
[ポリマー部材の製造装置]
本実施例で用いたポリマー部材の製造装置の概略構成を図1に示した。本実施例の製造装置500は、図1に示すように、主に、金型を含む縦型の射出成形装置部503(射出成形機)と、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液の金型への供給及び排出を制御する無電解メッキ装置部501(メッキ液導入装置)と、射出成形装置部503の可塑化シリンダー内の溶融樹脂に金属錯体を浸透させるための表面改質装置部502(導入装置)と、制御装置508とからなる。
【0056】
制御装置508は、図1に示すように、無電解メッキ装置部501、表面改質装置部502及び射出成形装置部503に接続されており、表面改質装置部502と射出成形装置部503との間における金属錯体を含む加圧流体(この例では、後述するように、加圧液体二酸化炭素と加圧された溶媒の混合流体)の流動(導入、停止等のタイミングなど)、及び、無電解メッキ装置部501と射出成形装置部503との間における加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液の流動を制御するための装置である。
【0057】
縦型の射出成形装置部503は、主に、図1に示すように、ポリマー基材の形成樹脂を可塑化溶融する可塑化溶融装置110と、金型を開閉する型締め装置111とからなる。
【0058】
可塑化溶融装置110は、主に、スクリュー51を内蔵した可塑化シリンダー52(加熱シリンダー)と、ホッパー50と、可塑化シリンダー52内の先端部(フローフロント部)付近に設けられた加圧二酸化炭素の導入バルブ65(導入部)とからなる。また、可塑化シリンダー52の導入バルブ65と対向する位置には、樹脂内圧を計測するための圧力センサー40を設けた。なお、ホッパー50内から可塑化シリンダー52内に供給される図示しない樹脂ペレットの材料(ポリマー基材の形成材料)としては、ポニフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業社製FZ−8600 Black)を用いた。
【0059】
また、型締め装置111は、主に、固定金型53と、可動金型54とからなり、可動金型54が可動プラテン56およびそれに連結した図示しない油圧型締め機構の駆動に連動して4本のタイバー55間を開閉する構造になっている。また、可動金型54には、可動金型54及び固定金型53との間に画成されるキャビティ504に、加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液を供給及び排出するためのメッキ液導入路61,62が形成されている。なお、メッキ液導入路61,62は、図1に示すように後述する無電解メッキ装置部501の配管15に接続されており、配管15を介して加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液がキャビティ504に導入される構造になっている。また、キャビティ504のシールは、固定金型53の外径部に設けられたバネ内蔵シール17と可動金型54との勘合により行われる。
【0060】
表面改質装置部502は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ21と、シリンジポンプ20,34と、フィルター57と、背圧弁48と、金属錯体を溶解する液体(以下、溶媒と称す)を内部に含む溶解槽35と、これらの構成要素を繋ぐ配管80とから構成される。また、表面改質装置部502の配管80は、図1に示すように、可塑化シリンダー52の導入バルブ65に接続されており、導入バルブ65付近の配管80には圧力センサー47が設けられている。なお、この例では、溶解槽35に仕込んだ金属微粒子(改質材料)の原料としては、金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナパラジウム(II))を用い、金属錯体の溶媒としてはエタノールを用いた。
【0061】
無電解メッキ装置部501は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ21と、ポンプ19と、バッファータンク36と、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素を混合させる高圧容器10と、循環ポンプ90と、無電解メッキ液を補給するためのメッキタンク11と、シリンジポンプ33と、無電解メッキ液を回収する回収容器63及び回収槽12と、これらの構成要素を繋ぐ配管15とから構成される。また、加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液の流動を制御するための自動バルブ43〜46,38が配管15の所定箇所に設けられている。また、配管15は、図1に示すように、可動金型54のメッキ液導入路61,62と接続されている。
【0062】
本実施例では、無電解メッキ液としてニッケルーリンを用いた。なお、無電解メッキ液としては、ニッケルーホウ素、パラジウム、銅、銀、コバルト等を用いても良い。また、無電解メッキ液としては、中性、弱アルカリ性から酸性の浴でメッキできる液が好適であり、ニッケルーリンの場合はpH(水素イオン指数)の値を4〜6の範囲で用いることができるので望ましい。なお、加圧二酸化炭素を導入する前の無電解メッキ液の条件によっては、加圧二酸化炭素を無電解メッキ液に浸透させる(導入する)ことで、無電解メッキ液のpHが低下し、リン濃度が上昇して、メッキ膜の析出速度が低下する等の弊害が生じる恐れもあるので、予め無電解メッキ液のpHを上昇させておいてもよい。
【0063】
本実施例では、無電解メッキ液の原液として、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤が含まれる奥野製薬社製ニコロンDKを用いた。また、無電解メッキ液にアルコールを混合させた。本実施例で用い得るアルコールの種類は任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができるが、本実施例ではエタノールを用いた。より具体的には、無電解メッキ液1l中の各成分の割合は、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤の含まれる原液(奥野製薬社製ニコロンDK)を150ml、水を350ml、及び、アルコール(エタノール)を500mlとした。すなわち、無電解メッキ液中のアルコールの割合は50%とした。なお、硫酸ニッケルはアルコールに不溶なので、アルコールの添加量が80%を超えると硫酸ニッケルが多く沈殿して適用できないことがわかった。
【0064】
本発明者らの検討によれば、無電解メッキ液は水が主成分であるが、アルコールを混合することで、高圧状態の二酸化炭素と無電解メッキ液が安定に混ざり易くなることが分かった。これは、アルコールと超臨界二酸化炭素とが相溶し易いことによるものと考えられる。それゆえ、本実施例のように無電解メッキ液にアルコールを混合した場合には、無電解メッキ液に界面活性剤を添加したり、無電解メッキ液を攪拌する必要がなくなる。さらに、ポリマー内に加圧二酸化炭素とともにメッキ液を浸透させてポリマー内部でメッキ反応を成長させるためには、メッキ液にアルコールを添加させたほうが、水のみよりも表面張力が低下するため、より好適である。ただし、本発明では、加圧二酸化炭素と無電解メッキ液との相溶性(親和性)をより高めるために、界面活性剤を添加したり、無電解メッキ液を攪拌したりしても良い。本実施例では、界面活性剤としてオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを無電解メッキ液に対し、3wt%添加し、さらに、無電解メッキ液の攪拌も行った。
【0065】
[ポリマー基材の成形方法]
次に、表面内部に金属微粒子を浸透させたポリマー基材の成形方法について説明する。なお、本発明において金属微粒子の樹脂への浸透方法は任意であるが、本実施例では、金属微粒子を含む金属錯体を溶解した加圧エタノールと加圧液体二酸化炭素との混合流体を、可塑化シリンダー52内で可塑化計量した溶融樹脂の先端部(フローフロント部)に導入した。
【0066】
まず、表面改質装置部502の溶解槽35において金属錯体をエタノール(溶媒)に溶解させ、金属錯体が溶解したエタノールをシリンジポンプ34(第2シリンジポンプ)内で15MPaに昇圧した(以下、この昇圧されたエタノールを加圧エタノールという)。一方、液体二酸化炭素を液体二酸化炭素ボンベ21よりフィルター53を介してシリンジポンプ20(第1シリンジポンプ)に供給し、シリンジポンプ20内で液体二酸化炭素を15MPaと昇圧した(以下、この昇圧された液体二酸化炭素を加圧液体二酸化炭素という)。そして、加圧液体二酸化炭素と金属錯体が溶解した加圧エタノールとを可塑化溶融装置110に供給する際には、各シリンジポンプ20,34の制御を圧力制御から流量制御に切り替えて行った。この際、加圧液体二酸化炭素と金属錯体が溶解した加圧エタノールとが配管80(混合部)内で混合されながら送液される(以下、この混合された流体を加圧混合流体という)。なお、この加圧混合流体(加圧流体)を可塑化溶融装置110に供給する際、加圧混合流体の供給圧力は、圧力計49の表示が15MPaになるように、背圧弁48により制御した。さらに、加圧混合流体を可塑化溶融装置110に供給する際には、加圧混合流体を、配管80内で図示しないヒーターにより50℃に温度制御しつつ、可塑化溶融装置110に供給した。
【0067】
ここで、加圧混合流体を可塑化溶融装置110内に導入する工程からポリマー部材の射出成形工程までの一連の手順を図1、2、6及び7を参照しながらより詳細に説明する。図2(a)及び(b)は、可塑化溶融装置110の導入バルブ65付近の拡大断面図である。また、図6は、加圧混合流体を可塑化溶融装置110内に導入する際の射出成形装置部503及び表面改質装置部502の動作のフローチャートを示した。図6中の右側に示されたフローチャートが表面改質装置部502の動作のフローチャートであり、図6中の左側に示されたフローチャートが射出成形装置部503の動作のフローチャートである。
【0068】
まず、ホッパー50から樹脂ペレットを供給しながら、可塑化シリンダー52内のスクリュー51を回転させて、樹脂の可塑化計量を行った(図6中のステップS1B)。可塑化計量完了時における導入バルブ65付近の状態を示したのが図2(a)である。なお、この際、図2(a)に示すように、導入バルブ65の導入ピン651が後退(図2(a)中の左側に移動)することで、溶融樹脂66へ加圧混合流体67が導入されること遮断している。
【0069】
次いで、スクリュー51をサックバック(後退)して(図6中のステップS2B)、溶融樹脂66の内圧力を低下させると同時に、射出成形装置部503から表面改質装置部502に加圧混合流体の導入開始を指示するトリガー信号が入力され(図6中のステップS2B’)、両シリンジポンプ20,34を圧力制御から流量制御に切り替えた(図6中のステップS1A)。そして、金属錯体を溶解した加圧エタノールと加圧液体二酸化炭素の流量の比をそれぞれ1:10(具体的には、流量10ml/min:100ml/min)としながら、加圧混合流体67を導入バルブ65を介して可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に導入して(図2(b)の状態、図6中のステップS2A)、金属錯体を溶解した加圧混合流体67をフローフロント部の溶融樹脂66に浸透させた(図2(b)中の領域68)。この例では、加圧混合流体67を約5秒間(所定時間)供給した。なお、金属錯体を溶解した加圧混合流体67をフローフロント部の溶融樹脂66に浸透させた際、溶融樹脂の熱により、金属錯体のほとんどが熱還元により金属微粒子に変質する。このように、シリンジポンプにより流量制御して一定量の加圧混合流体を導入した場合には、より容易に安定して改質材料を含む加圧混合流体を溶融樹脂に導入することができる。
【0070】
なお、本実施例の可塑化シリンダー52の導入バルブ65では、溶融樹脂66と加圧混合流体67との圧力差が5MPa以上となったときに、加圧混合流体67が可塑化シリンダー52内の溶融樹脂66の導入される構造になっており、導入バルブ65による加圧混合流体67の導入原理は次の通りである。可塑化計量完了後、スクリュー51をサックバックさせると、溶融樹脂66が減圧され密度が低下する。そして、溶融樹脂66と加圧混合流体67との圧力差が5MPa以上となったとき、加圧混合流体67の圧力が導入バルブ65内のバネ652の戻し力(弾性力)に打ち勝ち、導入ピン651が溶融樹脂66側に前進し、加圧混合流体67が溶融樹脂66内部に導入される。なお、加圧混合流体67の導入は、樹脂圧および加圧混合流体67の圧力を、それぞれ圧力センサー40,47で監視しながら行った。
【0071】
次いで、両シリンジポンプ20,34を停止して加圧混合流体67の送液を停止した(図6中のステップS3A)。また、それと同時に、スクリュー51を前進させて、樹脂圧力を再度上昇させ、導入ピン64を後退(図2(b)中の左方向に移動)させた。それにより、加圧混合流体67の導入を停止するとともに、加圧混合流体67と溶融樹脂66とを相溶させた。
【0072】
次に、可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に加圧混合流体67を導入した後、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)により型締めされ、温調回路(不図示)により温度制御された金型内に画成されたキャビティ504に溶融樹脂を射出充填した(図6中のステップS3B)。次いで、成形品の発泡を抑制するために金型に保圧を与えた後、成形品を冷却固化した(図6中のステップS4B)。なお、溶融樹脂を金型内に射出成形する際、最初に射出されるフローフロント部の溶融樹脂68は噴水効果(ファウンテンフロー)により、射出成形品の表皮を形成する。すなわち、この例では、フローフロント部近傍に金属錯体由来の金属微粒子が分散しているので、図3に示すように、ポリマー基材507の表皮505(表面内部)には金属微粒子が含浸したポリマー基材507が得られる。この例では、このようにして、表皮であるスキン層505に金属微粒子が分散し、内皮であるコア層506に、ほとんど金属微粒子が存在しないポリマー基材507を得た(図7中のステップS61)。上記成形プロセスが終了後、成形されたポリマー部材を金型から取り出した(図6中のステップS5B)。次いで、次ショットのための溶融樹脂の可塑化計量が行われる(図6中のステップS1B)。
【0073】
ここで、上記ポリマー基材の成形プロセス中(図6中のステップS3B及びS4B)の表面改質装置部502の動作手順を説明する。両シリンジポンプ20,34を、配管80中の図示しない自動バルブを閉鎖した(図6中のステップS3A)後、可塑化溶融装置110に供給した加圧液体二酸化炭素及び金属錯体が溶解した加圧エタノールの流量分をそれぞれ第1シリンジポンプ20及び第2シリンジポンプ34内に補液した。具体的には、第1シリンジポンプ20で液体二酸化炭素ボンベ21から液体二酸化炭素を吸引し、第2シリンジポンプ34で溶解槽35から金属錯体が溶解したエタノールに吸引した(図6中のステップS4A)。次いで、両シリンジポンプ20,34で所定量の液体を吸引した後、その吸引動作を停止した(図6中のステップS5A)。次いで、両シリンジポンプ20,34を圧力制御に切り替えて(図6中のステップS6A)、吸引した液体をそれぞれ15MPaに昇圧して保持した(図6中のステップS7A)。そして、この状態を維持しながら次ショットの送液まで待機させた(図6中のステップS8A)。上述のように、この例のポリマー部材の製造方法では、ポリマー基材の成形プロセス中に、次ショットに使用する加圧液体二酸化炭素及び金属錯体が溶解した加圧エタノールを用意する。この方法を用いると、次ショットの指令(図6中のトリガー信号)が表面改質装置部502に入力され次第、加圧液体二酸化炭素及び金属錯体が溶解した加圧エタノールからなる加圧混合流体を所定圧力で即座に溶融樹脂に導入することができるので、ポリマー部材の連続生産が可能になる。
【0074】
[メッキ膜の形成方法]
この例では、上述のようにして作製された表面内部に金属微粒子が含浸した(分散した)ポリマー基材507に対して、次のようにして、金型内で無電解メッキ処理を行った。なお、無電解メッキ処理を行っている間、金型内部は80℃に温調した。
【0075】
まず、図4に示すように、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)を後退(図4中の下方向)させることにより、可動プラテン56および可動金型54を後退させ、固定金型53とポリマー基材507との間に隙間604(キャビティ604)を画成した。
【0076】
次いで、無電解メッキ装置部501の二酸化炭素ボンベ21より供給した二酸化炭素をポンプ19で昇圧し、バッファータンク36に貯蔵した。次いで、自動バルブ43を開放して、バッファータンク36に貯蔵されていた加圧二酸化炭素をメッキ液導入路61を介してキャビティ604に導入してポリマー基材507の表面に加圧二酸化炭素を接触させた(図7中のステップS62)。なお、この際、固定金型13の外径部に設けられたバネ内蔵シール17と可動金型54の勘合により、キャビティ604はシールされているので、導入された加圧二酸化炭素が金型外部に漏れ出すことはない。また、この際、キャビティ604における加圧二酸化炭素の圧力は15MPaとした。このように、ポリマー基材507の表面に加圧二酸化炭素を接触させることにより、ポリマー基材507の表面が膨潤するので、次いで導入される加圧二酸化炭素と無電解メッキ液との混合流体のポリマー基材507の内部への浸透がよりスムーズに行われるという効果が得られる。
【0077】
次いで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液8を次のようにしてキャビティ604に導入して、ポリマー基材507に接触させた。まず、予め、無電解メッキ装置部501のメッキタンク11から供給されたアルコールおよび界面活性剤を含む無電解メッキ液と、バッファータンク36から供給された15MPaの加圧二酸化炭素とを、高圧容器10内にて混合させた。また、この際、スタラー16の駆動および、マグネチックスターラー17の高速回転により加圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを高圧容器10内で相溶させた。次いで、自動バルブ43,46を閉鎖し、自動バルブ44,45を開放した。
【0078】
次いで、循環ポンプ90を運転し、高圧容器10、配管15およびキャビティ604からなる循環流路に、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を循環させて、ポリマー基材507の表面に加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を接触させ、メッキ膜(ニッケル−リン膜)を形成した(図7中のステップS63)。この際、ポリマー成形品507の表面は膨潤しているので、ポリマー基材507の表面から無電解メッキ液がポリマー基材507の内部に浸透するとともに、ポリマー基材507内部に分散する金属微粒子を触媒核にして、メッキ膜が成長する。すなわち、ポリマー基材507上に形成されたメッキ膜は、その一部がポリマー基材507の内部に食い込んだ状態(メッキ膜の一部がポリマー基材507の内部に浸透した状態)で成長するので、密着性の優れたメッキ膜が形成される。なお、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が循環している際には、キャビティ604および循環ライン15の圧力は圧力センサー58,59で同圧になっていた。また、無電解メッキ液の補給は、メッキタンク11より供給したメッキ液をシリンジポンプ33で昇圧して、自動バルブ46の開放と同時に送液することで随時行った。
【0079】
次いで、上述のようにしてポリマー基材507上にメッキ膜を形成した後、循環経路から加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器63を介して回収槽12から排気した。具体的には、自動バルブ44,45を閉鎖し、次いで、自動バルブ38を開放することで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器16に排出した。回収容器63では、回収した加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が、遠心分離の原理で水溶液(メッキ液)と高圧ガス(二酸化炭素ガス)に分離される。メッキ液は回収槽12で回収し再利用することができる。ガス化した二酸化炭素は回収容器63の上部から排出され、図示しない排気ダクトに回収される。
【0080】
次いで、自動バルブ43を一定時間開いて、固定金型53とポリマー基材507との間の隙間604(キャビティ604)に加圧二酸化炭素を導入し、キャビティ604に残ったメッキ液の残留物を加圧二酸化炭素とともに金型の外へ排出した。次いで、キャビティ604の内圧が圧力センサー59のモニター値でゼロになったところで、金型を開きポリマー基材507を取り出した。
【0081】
次に、取り出したポリマー基材507に対して、通常の置換型金メッキを施して、ポリマー基材507の表面に金メッキ膜を積層した。この例では、上述のようにして、ポリマー基材上にメッキ膜が形成されたポリマー部材を得た。
【0082】
この例で作製されたポリマー部材の一部の模式断面図を図5に示した。この例で作製されたポリマー部材のスキン層505内部には金属微粒子600(図5中の黒丸印)が分散していることが確認された。また、ポリマー基材507の片側には、金型内で成長させたニッケル−リンの金属膜509が形成されており、ニッケルーリンの金属膜509はポリマー基材507の内部から成長していた(金属膜509の浸透層が形成されていた)。また、ニッケル−リンの金属膜509の上に金の高反射膜510が形成されていた。
【0083】
[メッキ膜の評価]
上述のようにして作製されたポリマー部材に対して、高温多湿試験(条件:温度80℃、湿度90%Rh、放置時間500時間)やヒートサイクル試験(80℃と150℃との温度間を15サイクル)を行った後、ピール試験したところ、膜剥れは発生しなかった。また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験も行った。その結果、金属膜の密着性の低下は認められなかった。さらに、この例で作製されたポリマー部材の表面粗さRaを測定したところ、金型の表面粗さと同等のRa=100nmであった。すなわち、この例のポリマー部材の製造方法によれば、射出成形と同時にメッキ処理を行うことができ、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できることが分かった。
【0084】
また、実施例1では、ポリマー基材の射出成形時に、溶融樹脂のフローフロント部に金属錯体を導入して射出成形し、金属微粒子をポリマー基材の表面内部に浸透させる例を説明したが、本発明はこれに限定されない。サンドイッチ成形法により金属微粒子が表面内部に含浸したポリマー基材を成形しても良い。具体的には、2つの加熱シリンダーを備えるサンドイッチ成形機を用いて、まず、金属錯体が浸透した溶融樹脂を一方の加熱シリンダーから射出し、次いで、金属微粒子を含まない溶融樹脂を他方の加熱シリンダーから射出して成形しても良い。
【実施例2】
【0085】
実施例2では、実施例1と同様の射出成形機を用いてポリマー基材を射出成形した後に、同じ射出成形機内で無電解メッキ処理を行う方法について説明する。本実施例では、実施例1と同様に、ポリマー部材として自動車ヘッドライトのリフレクターを作製し、ポリマー基材の形成材料もポニフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業社製FZ−8600 Black)を用いた。また、金属微粒子の原料としては、金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナパラジウム(II))を用いた。
【0086】
本実施例では、金属微粒子とともに、水溶性物質である平均分子量1000のポリエチレングリコール(無電解メッキ液に溶解する物質:溶出物質)を、可塑化シリンダー(加熱シリンダー)内の可塑化計量された溶融樹脂の先端部(フローフロント部)を導入し、ポリマー基材の表面に含浸させた。具体的には、溶解槽35にて該金属錯体及びポリエチレングリコールをエタノールに溶解させ、金属錯体及びポリエチレングリコールが溶解した加圧エタノールと、加圧二酸化炭素との加圧混合流体を溶融樹脂の先端部(フローフロント部)を導入した。それ以外は、実施例1と同様にして、本実施例のポリマー部材を作製した。
【0087】
本実施例では、金属錯体とポリエチレングリコールを、可塑化シリンダー52内の溶融樹脂のフローフロント部に導入して、ポリマー基材を射出成形したので、ポリマー基材のスキン層(表面内部)に、金属微粒子及びポリエチレングリコールが含浸し、コア層には金属微粒子及びポリエチレングリコールが殆ど浸透していないポリマー基材が得られる。その様子を示したのが図8であり、図8には、この例で成形したポリマー基材の表面近傍(スキン層の一部)の概略断面図である。この例の成形直後のポリマー基材の表面近傍では、図8に示すように、金属微粒子600とポリエチレングリコール601が分散している。なお、この例で成形したポリマー基材の内部に含浸しているポリエチレングリコール601の粒子サイズをEPMA(Electron Probe Micro Analizer)で調べたところ、約50nmであった。
【0088】
次いで、図8に示すようなスキン層に金属微粒子600及びポリエチレングリコール601が含浸しているポリマー基材に、実施例1と同様にして、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を接触させてポリマー基材上にメッキ膜を形成した。
【0089】
加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を、表面が膨潤した状態のポリマー基材表面に接触させると、無電解メッキ液がポリマー基材内に浸透して、ポリエチレングリコール601に到達する。この際、ポリエチレングリコール601は水溶性物質であるので、無電解メッキ液の主成分である水やアルコールにポリエチレングリコール601が溶出し、ポリエチレングリコール601が占めていた(存在していた)領域に無電解メッキ液が入り込む(ポリエチレングリコール601が占めていた領域が無電解メッキ液に置換される)。その結果、ポリエチレングリコール601が占めていた領域(無電解メッキ液で置換された領域)においても無電解メッキ膜が成長する。このように、本実施例では、ポリエチレングリコール601が存在していた領域にメッキ膜を成長することができるので、ポリマー基材の形成材料として、ポリマー内部の自由体積が拡大し難い結晶性材料を用いた場合であっても、ポリマー基材内部に容易に無電解メッキ膜が成長する領域を確保することができる。
【0090】
この例の製造方法でメッキ膜をポリマー基材上に形成した場合のポリマー基材とメッキ膜との界面の様子を示したのが、図9である。この例では、ポリマー基材に含浸した金属微粒子600の周囲だけでなくポリエチレングリコール601が存在していた領域(図9中の破線603で囲まれた領域)にもメッキ膜が成長するので、図9に示すように、ポリマー基材の内部において非常に複雑な形状でメッキ膜602が成長し、ポリマー基材内部から連続したメッキ膜をポリマー基材上に形成することができる。それゆえ、より高密着性を有するメッキ膜が形成される。なお、図9に示すように、無電解メッキ液が到達しなかったポリエチレングリコール601の領域は、ポリエチレングリコール601が溶出せず、そのままの状態でポリマー基材内に残留する。
【0091】
この例で作製されたポリマー部材に対しても、金属膜の密着性評価を、実施例1と同様な高温多湿環境試験にて行った。また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験も行った。その結果、実施例1と同様の結果が得られ、金属膜の密着性の低下は認められなかった。さらに、この例で作製されたポリマー部材の表面粗さRaを測定したところ、金型の表面粗さと同等のRa=100nmであった。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、射出成形と同時にメッキ処理を行うことができ、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できることが分かった。
【0092】
なお、本実施例では、ポリマー基材の内部に十分なメッキ膜の成長領域を形成するために、水溶性物質としてポリエチレングリコールを用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等のミネラル成分、デンプン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、アクリル酸等を用いても良い。また、水溶性物質の代わりに溶解性の低分子材料、例えば、ポリエチレンオキシド、εカプロラクタム、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、エチレングリコール、ポリアクリルアシド、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、アセチルセルロース等を用いても良い。
【実施例3】
【0093】
実施例3では、実施例2と同様に金属微粒子及びポリエチレングリコール(溶出物質)が表面に含浸したポリマー基材を射出成形した後に、同じ射出成形機内で無電解メッキ処理を行う方法について説明する。なお、この例で用いたポリマー部材の製造装置では、表面改質装置部(導入装置)の構造を実施例1とは変えた。それ以外の構造は、実施例1の製造装置と同じ構造とした。
【0094】
この例の表面改質装置部の概略構成を図10に示した。この例の表面改質装置部502’と実施例1の表面改質装置部502との構成上の主な違いは、図1及び10から明らかなように、この例では、液体二酸化炭素を吸引して昇圧する第1シリンジポンプ20と背圧弁48との間に、第2の溶解槽22を設けたことである。
【0095】
実施例2では、金属微粒子及びポリエチレングリコールを1つの溶解槽35内でエタノールに溶解したが、この例では、第1の溶解槽35’でポリエチレングリコールをエタノールに溶解し、金属微粒子を含む金属錯体を第2の溶解槽22に仕込んだ。それゆえ、この例では、射出成形装置部内の溶融樹脂に導入する加圧混合流体は、次のようにして生成される。まず、第1シリンジポンプ20で所定圧力の加圧液体二酸化炭素を生成し、第2シリンジポンプではポリエチレングリコールを溶解したエタノールを所定圧力に昇圧する。そして、加圧混合流体の導入指令(図6中のトリガー信号)により、第1及び第2シリンジポンプを圧力制御から流量制御に切り替え、両シリンジポンプから流出する加圧液体を混合する。この際、加圧液体二酸化炭素は金属錯体が仕込まれた第2の溶解槽22を通過し、金属錯体が加圧液体二酸化炭素に溶解される。そして、配管80ではポリエチレングリコールを溶解した加圧エタノールと、金属錯体が溶解した加圧液体二酸化炭素とが混合され加圧混合流体が生成される。この加圧混合流体の生成方法以外は、実施例2と同様にしてポリマー基材を成形した。また、この例では、実施例2と同様にして、ポリマー基材上に無電解メッキ膜を形成した。
【0096】
この例で作製されたポリマー部材に対しても、金属膜の密着性評価を、実施例1と同様な高温多湿環境試験にて行った。また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験も行った。その結果、実施例1と同様の結果が得られ、金属膜の密着性の低下は認められなかった。さらに、この例で作製されたポリマー部材の表面粗さRaを測定したところ、金型の表面粗さと同等のRa=100nmであった。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、射出成形と同時にメッキ処理を行うことができ、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できることが分かった。
【0097】
上記実施例1〜3では、ポリマー部材(ポリマー成形品)の形成材料として結晶材料を用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、ポリマー部材(ポリマー成形品)の形成材料として非結晶材料を用いた場合でも同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のポリマー部材の製造方法及び製造装置では、改質材料を含む加圧流体を射出成形機内の溶融樹脂により簡易に安定して導入することができ且つ連続生産に最適な製造方法及び製造装置であるので、射出成形機を用いて表面に改質材料が含浸したポリマー部材を製造する方法及び製造装置として好適である。
【0099】
また、本発明のポリマー部材の製造方法及び製造装置において、射出成形機内で無電解メッキ処理を行った場合には、密着性が高く平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できるので、LED等高い耐熱性の要求される自動車用ヘッドライトのリフレクター等の作製方法及び製造装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1は、実施例1で用いた製造装置の概略構成図である。
【図2】図2は、加熱シリンダー内の溶融樹脂に金属錯体を含む加圧混合流体を導入する際の様子を示した図であり、図2(a)は溶融樹脂の可塑化軽量完了時の様子を示した図であり、図2(b)は加圧混合流体導入時の様子を示した図である。
【図3】図3は、実施例1のポリマー成形品の製造方法において、ポリマー成形品の射出成形完了時の様子を示した図である。
【図4】図4は、実施例1のポリマー成形品の製造方法において、ポリマー成形品に対して無電解メッキ処理を施している際の様子を示した図である。
【図5】図5は、実施例1で作製したポリマー成形品の断面構造を模式的に表した図である。
【図6】図6は、実施例1のポリマー部材の製造方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】図7は、実施例1のポリマー部材の製造方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図8】図8は、実施例2で作製したポリマー部材の表面近傍内部の断面構造を模式的に表した図である。
【図9】図9は、実施例2で作製したポリマー部材のポリマー基材とメッキ膜との境界面付近の断面構造を模式的に表した図である。
【図10】図10は、実施例3で用いた表面改質装置部の概略構成図である。
【図11】図11は、金属錯体の二酸化炭素に対する溶解度の圧力依存性を示した図である。
【符号の説明】
【0101】
8 無電解メッキ液
21 液体二酸化炭素ボンベ
20,33,34 シリンジポンプ
22,35,35’ 溶解槽
65 導入バルブ
500 製造装置
501 無電解メッキ装置部
502,502’ 表面改質装置部
503 射出成形装置部
504,604 キャビティ
505 スキン層(表皮)
506 コア層
507 ポリマー成形品
508 制御装置
509 無電解ニッケル−リン膜
510 金メッキ膜
600 金属微粒子
601 水溶性物質
602 無電解メッキ膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面内部に改質材料を含有するポリマー部材を、金型及び加熱シリンダーを備える射出成形機を用いて製造する方法であって、
上記改質材料、液体二酸化炭素及び上記改質材料を溶解可能な液体を含む加圧流体をシリンダーにより流量制御して上記加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入することと、
上記加圧流体が導入された上記溶融樹脂を上記金型内に射出して上記ポリマー部材を成形することとを含む製造方法。
【請求項2】
上記加圧流体が2つのシリンダーにより流量制御され、さらに、上記ポリマー部材を成形している間に、
上記液体二酸化炭素及び上記液体をそれぞれ一方及び他方のシリンダー内に吸引することと、
一方のシリンダー内の上記液体二酸化炭素及び他方のシリンダー内の上記液体をそれぞれ昇圧することとを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記加圧流体を上記加熱シリンダー内の溶融樹脂のフローフロント部に導入することを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記改質材料を溶解し且つ昇圧された上記液体と、昇圧された上記液体二酸化炭素とを混合して上記加圧流体を生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
昇圧された上記液体と、上記改質材料を溶解し且つ昇圧された上記液体二酸化炭素とを混合して上記加圧流体を生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記液体がアルコールであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
上記液体が液体二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
上記シリンダーがシリンジポンプのシリンダーであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
上記改質材料が無電解メッキの触媒核となる金属微粒子であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
さらに、上記改質材料を含有するポリマー部材に加圧二酸化炭素を接触させてポリマー部材の表面近傍を膨潤させることと、
上記ポリマー部材の表面近傍を膨潤させた状態で、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させて、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することとを含む請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
上記無電解メッキ液が、アルコールを含むことを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
上記無電解メッキ液が、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
上記加圧二酸化炭素が、7.38MPa以上20MPa以下の圧力を有する超臨界二酸化炭素であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
上記改質材料が、さらに、無電解メッキ液に溶解する物質を含むことを特徴とする請求項10〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
さらに、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成した後、常圧で無電解メッキ及び電解メッキの少なくとも一方を行うことを含む請求項10〜14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
表面内部に改質材料を含有するポリマー部材の製造装置であって、
上記ポリマー部材を成形する射出成形機と、
上記改質材料を含む加圧流体を流量制御で上記射出成形機内の溶融樹脂に導入する導入装置と、
上記射出成形機及び上記導入装置に連結され、上記加圧流体の流動を制御する制御装置とを備える製造装置。
【請求項17】
上記導入装置が、シリンジポンプを備えることを特徴とする請求項16に記載の製造装置。
【請求項18】
上記導入装置が、さらに、上記改質材料が内部に仕込まれた溶解槽を備え、該溶解槽が上記シリンジポンプと流通していることを特徴とする請求項17に記載の製造装置。
【請求項19】
上記加圧流体が、上記改質材料、液体二酸化炭素及び上記改質材料を溶解可能な液体を含み、上記導入装置が、該液体二酸化炭素を昇圧して流出する第1シリンジポンプと、該液体を昇圧して流出する第2シリンジポンプと、第1シリンジポンプから流出された該液体二酸化炭素と第2シリンジポンプから流出された該液体とを混合する混合部とを備えることを特徴とする請求項16に記載の製造装置。
【請求項20】
上記導入装置が、さらに、上記改質材料が内部に仕込まれた溶解槽を備え、該溶解槽が第1及び第2シリンジポンプの一方と流通していることを特徴とする請求項19に記載の製造装置。
【請求項21】
上記射出成形機内で上記ポリマー部材が成形されている間に、第1及び第2シリンジポンプが、それぞれ上記液体二酸化炭素及び上記液体を吸引して昇圧することを特徴とする請求項19または20に記載の製造装置。
【請求項22】
上記射出成形機が、上記加圧流体を上記溶融樹脂のフローフロント部に導入するための導入部を備えることを特徴とする請求項16〜21のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項23】
さらに、上記射出成形機内に無電解メッキ液を導入するメッキ液導入装置を備える請求項16〜22のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項1】
表面内部に改質材料を含有するポリマー部材を、金型及び加熱シリンダーを備える射出成形機を用いて製造する方法であって、
上記改質材料、液体二酸化炭素及び上記改質材料を溶解可能な液体を含む加圧流体をシリンダーにより流量制御して上記加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入することと、
上記加圧流体が導入された上記溶融樹脂を上記金型内に射出して上記ポリマー部材を成形することとを含む製造方法。
【請求項2】
上記加圧流体が2つのシリンダーにより流量制御され、さらに、上記ポリマー部材を成形している間に、
上記液体二酸化炭素及び上記液体をそれぞれ一方及び他方のシリンダー内に吸引することと、
一方のシリンダー内の上記液体二酸化炭素及び他方のシリンダー内の上記液体をそれぞれ昇圧することとを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記加圧流体を上記加熱シリンダー内の溶融樹脂のフローフロント部に導入することを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記改質材料を溶解し且つ昇圧された上記液体と、昇圧された上記液体二酸化炭素とを混合して上記加圧流体を生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
昇圧された上記液体と、上記改質材料を溶解し且つ昇圧された上記液体二酸化炭素とを混合して上記加圧流体を生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記液体がアルコールであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
上記液体が液体二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
上記シリンダーがシリンジポンプのシリンダーであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
上記改質材料が無電解メッキの触媒核となる金属微粒子であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
さらに、上記改質材料を含有するポリマー部材に加圧二酸化炭素を接触させてポリマー部材の表面近傍を膨潤させることと、
上記ポリマー部材の表面近傍を膨潤させた状態で、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させて、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することとを含む請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
上記無電解メッキ液が、アルコールを含むことを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
上記無電解メッキ液が、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
上記加圧二酸化炭素が、7.38MPa以上20MPa以下の圧力を有する超臨界二酸化炭素であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
上記改質材料が、さらに、無電解メッキ液に溶解する物質を含むことを特徴とする請求項10〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
さらに、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成した後、常圧で無電解メッキ及び電解メッキの少なくとも一方を行うことを含む請求項10〜14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
表面内部に改質材料を含有するポリマー部材の製造装置であって、
上記ポリマー部材を成形する射出成形機と、
上記改質材料を含む加圧流体を流量制御で上記射出成形機内の溶融樹脂に導入する導入装置と、
上記射出成形機及び上記導入装置に連結され、上記加圧流体の流動を制御する制御装置とを備える製造装置。
【請求項17】
上記導入装置が、シリンジポンプを備えることを特徴とする請求項16に記載の製造装置。
【請求項18】
上記導入装置が、さらに、上記改質材料が内部に仕込まれた溶解槽を備え、該溶解槽が上記シリンジポンプと流通していることを特徴とする請求項17に記載の製造装置。
【請求項19】
上記加圧流体が、上記改質材料、液体二酸化炭素及び上記改質材料を溶解可能な液体を含み、上記導入装置が、該液体二酸化炭素を昇圧して流出する第1シリンジポンプと、該液体を昇圧して流出する第2シリンジポンプと、第1シリンジポンプから流出された該液体二酸化炭素と第2シリンジポンプから流出された該液体とを混合する混合部とを備えることを特徴とする請求項16に記載の製造装置。
【請求項20】
上記導入装置が、さらに、上記改質材料が内部に仕込まれた溶解槽を備え、該溶解槽が第1及び第2シリンジポンプの一方と流通していることを特徴とする請求項19に記載の製造装置。
【請求項21】
上記射出成形機内で上記ポリマー部材が成形されている間に、第1及び第2シリンジポンプが、それぞれ上記液体二酸化炭素及び上記液体を吸引して昇圧することを特徴とする請求項19または20に記載の製造装置。
【請求項22】
上記射出成形機が、上記加圧流体を上記溶融樹脂のフローフロント部に導入するための導入部を備えることを特徴とする請求項16〜21のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項23】
さらに、上記射出成形機内に無電解メッキ液を導入するメッキ液導入装置を備える請求項16〜22のいずれか一項に記載の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−188799(P2008−188799A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23021(P2007−23021)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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