説明

ポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法

【課題】ポリ乳酸を、光学特異性を損なわずに分解し、乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸を、乳酸を含む乳酸水溶液中に浸漬し、加熱して反応させることを特徴とするポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2006年現在、日本国内では年間1000万Tを越えるプラスチックが消費されている。これらのプラスチックのほとんどは、石油から製造され、生分解性をもたないため、自然分解しにくくその廃棄物が海、山等での環境汚染を引き起こしている。また、汎用プラスチックの80%が焼却処分されているが、焼却処分により炭酸ガスが発生することが新たに問題になっている。このため、生分解性を有するプラスチックへの代替が進められている。
【0003】
現在、様々な生分解性プラスチックが開発されている。例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート、ポリ−3−ヒドロキシブタン酸(PHB)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)等が知られている。これらの生分解性プラスチックの中では、ポリ乳酸が最も安価で、特に農業用マルチフイルムや弁当箱等の使い捨ての用途における市場の伸びが期待されている。
【0004】
ところで、ポリ乳酸は生分解性プラスチックであるにもかかわらず微生物分解に長時間を要する。ポリ乳酸製のマルチシートは、使用後土に鋤きこめばいいと考えられているが、効率のよい微生物分解をするには土の温度を50〜70℃に保ち、かつ土中の水分率を適度に保つ必要があり容易ではない。
【0005】
また、ポリ乳酸は汎用プラスチックに比べ高価であり、地球環境の面から、できれば再使用することが好ましい。このため、ポリ乳酸を加水分解し、化学的に処理するケミカルリサイクルが検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1にはポリ乳酸製品を水、及び金属化合物触媒の存在下、200〜400℃に加熱し、混合することにより解重合させ、乳酸の二量体であるラクチドとして回収する技術が開示されている。
【0007】
同じく特許文献2には、ポリ乳酸をスズまたはスズ化合物からなる触媒の存在下、ポリ乳酸の溶融温度以上の温度に加熱して反応させるとともにラクチドの蒸気圧以下の圧力に減圧し、生成したラクチドを留去し回収する技術が開示されている。
【0008】
ところで乳酸は光学異性体を有し、生成物がL体であるか、D−体であるかが非常に重要になる。高品質、高結晶性でかつ生分解性を有するポリ乳酸にするためには、原料として光学純度99%以上のL−乳酸が必要とされている。ところが、上記特許文献1または特許文献2の方法では、触媒としてアルカリ金属が存在するため、ラクチド、あるいは乳酸のL−体からD−体へ、あるいはD−体からL−体へのラセミ化反応が起こるという問題であった。
【0009】
特許文献3には、ラセミ化反応を生じにくいポリ乳酸からラクチドを回収する方法として、ポリ乳酸に高沸点アルコールと錫系触媒を加えて、減圧下、又は不活性ガス気流下で加熱してラクチドを回収する方法が開示されている。この方法では、薄膜蒸留装置のような特殊な減圧蒸留装置が必要であり、更に高沸点アルコールからラクチドを分別する工程が必要である。
【0010】
特許文献4には、ポリ乳酸分解活性を有する酵素を接触させてポリ乳酸を分解させて乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法が開示されている。しかしこの方法では、ポリ乳酸の分解に数日から数週間を要するため工業的に採用できる方法ではない。
【0011】
【特許文献1】特開平7−309863
【特許文献2】特開平9−77904
【特許文献3】特開平9−241417
【特許文献4】特開2004−269566
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記公知技術の問題点の解消された、ポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法を提供することを目的としている。本発明は、ポリ乳酸から乳酸のラセミ化反応をほとんど生じることなく、乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法を提供することを目的としている。本発明はまた、特別の装置を用いないでポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法を提供することを目的としている。本発明は更に、ポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを迅速に回収する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明は、(1)ポリ乳酸を、乳酸、もしくは乳酸を10%以上含む乳酸水溶液中に浸漬し、加熱して反応させることを特徴とするポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法である。
【0014】
(2)加熱温度は、120〜135℃であることが好ましい。
【0015】
(3)反応は、加圧下で行うことが好ましい。
【0016】
(4)ポリ乳酸の重量(kg)Aと乳酸の容量(L)Bとの比A/Bは、1/1〜1/100の範囲にあることが好ましい。
【0017】
(5)本発明における乳酸の水溶性オリゴマーは、好ましくは乳酸の2量体、もしくは3量体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法においては、回収される乳酸がラセミ化反応をほとんど生じないため、新たにラセミ化反応工程を設ける必要がなくそのままポリ乳酸の原料として再使用できると考えられる。また、本発明の回収方法では、特別の装置を用いないし、ポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを迅速に回収できるので、工業的に優れた方法であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明について詳しく説明する。本発明で解重合用原料として用いるポリ乳酸とは、乳酸のホモポリマー、または乳酸と他のヒドロキシカルボン酸等とのコポリマーである。ポリ乳酸は、通常、乳酸の環状2量体であるラクチドを開環重合するか、乳酸を直接重合する方法で製造される。
【0020】
ポリ乳酸において、乳酸のコモノマーとして用いられる他のヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等を挙げることができる。
【0021】
ポリ乳酸の分子構造は、好ましくは、L−乳酸またはD−乳酸いずれかの単位85〜100モル%、さらに好ましくは該単位85〜98モル%、及び、それぞれの光学異性体の乳酸単位0〜15モル%、さらに好ましくは、該光学異性体単位2〜15モル%を含むものである。また、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマーは、L−乳酸またはD−乳酸いずれかの単位85〜100モル%、好ましくは該単位85〜98モル%、及び、他のヒドロキシカルボン酸単位0〜15モル%、好ましくは該単位2〜15モル%を含むものである。
【0022】
本発明に係わるポリ乳酸には、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の他の共重合成分、例えば、多価カルボン酸若しくはそのエステル、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類等を共重合させておいてもよい。
【0023】
上記共重合可能な多価カルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、スベリン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、セバシン酸、ジグリコール酸、ケトピメリン酸、マロン酸及びメチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸並びにテレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。
【0024】
共重合可能な多価カルボン酸エステルとしては、例えば、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、ピメリン酸ジメチル、アゼライン酸ジメチル、スベリン酸ジメチル、スベリン酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、デカンジカルボン酸ジメチル、ドデカンジカルボン酸ジメチル、ジグリコール酸ジメチル、ケトピメリン酸ジメチル、マロン酸ジメチル及びメチルマロン酸ジメチル等の脂肪族ジカルボン酸ジエステル並びにテレフタル酸ジメチル及びイソフタル酸ジメチル等の芳香族ジカルボン酸ジエステル等を挙げることができる。
【0025】
共重合可能な多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、へキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール及び分子量1000以下のポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0026】
共重合可能なヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、2−メチル乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシイソカプロン酸及びヒドロキシカプロン酸等を挙げることができる。
【0027】
共重合可能なラクトン類としては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、β又はγ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン等の各種メチル化カプロラクトン;β−メチル−δ−バレロラクトン、エナントラクトン、ラウロラクトン等のヒドロキシカルボン酸の環状1量体エステル;グリコリド、L−ラクチド、D−ラクチド等の上記ヒドロキシカルボン酸の環状2量体エステル等を挙げることができる。
【0028】
これらのポリ乳酸は、乳酸および必要に応じて少量の共重合モノマーを重縮合することにより得ることができる。好ましくは、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド、およびカプロラクトン等から必要とする構造のものを選んで開環重合することにより得ることができる。
【0029】
本発明の方法で原料として用いられるポリ乳酸は、通常、濃度0.5g/dlのクロロホルム溶液(25℃)の固有溶液粘度が0.5〜10、好ましくは2〜7の範囲にある重合体である。
【0030】
本発明の方法で原料として用いられるポリ乳酸は、少量の可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤としては、例えば、ジ−n−オクチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジベンジルフタレート等のフタル酸誘導体、ジイソオクチルフタレート等のイソフタル酸誘導体、ジ−n−ブチルアジペート、ジオクチルアジペート等のアジピン酸誘導体、ジ−n−ブチルマレート等のマレイン酸誘導体、トリ−n−ブチルシトレート等のクエン酸誘導体、モノブチルイタコネート等のイタコン酸誘導体、ブチルオレート等のオレイン酸誘導体、グリセリンモノリシノレート等のリシノール酸誘導体、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート等のリン酸エステル系可塑剤、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等が例示できる。特にクエン酸エステル、グリセリンエステル、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステルおよびトリエチレングリコールエステル等を挙げることができる。これらの可塑剤は、例えば、ポリ乳酸組成物全体の50重量%以下の割合で配合することができる。
【0031】
本発明で解重合用原料として用いられるポリ乳酸には、本発明の目的を損なわない範囲で無機充填剤が配合されていてもよい。このような無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、ヒドロキシアパタイト、シリカ、マイカ、タルク、カオリン、クレー、ガラス粉、アスベスト粉、ゼオライト、珪酸白土、雲母、ガラス繊維等を挙げることができる。
【0032】
本発明のポリ乳酸には、その他に本発明の目的を妨げない範囲で分散剤、顔料、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤等の他の添加剤が添加されていてもよい。
【0033】
本発明の回収方法では、ポリ乳酸は、好ましくは成形体として使用され、廃棄された、あるいは成形体製造時に副生するスクラップ、あるいは不良品等である。このような成形体としては、例えば、食品包装用フイルム、マルチフイルム、レジ袋、食品包装用トレー、弁当箱、化粧品容器、家電品、例えばパソコンの筐体、繊維等を挙げることができる。
【0034】
本発明では、反応溶媒および解重合触媒として、乳酸、または乳酸水溶液を用いる。乳酸は、構造式がC、沸点が122℃の化合物であり、L−体、D−体の2つの光学異性体と、その混合物であるラセミ体が存在する。このうち自然界の細菌が生産・利用できるのは、L−体である。乳酸は一般にトウモロコシやサツマイモ等から得られたデンプンを糖化し、得られた糖を乳酸菌で発酵させることにより製造される。
【0035】
本発明における反応溶媒は、乳酸、もしくは、乳酸を10〜100%、好ましくは、乳酸を20〜95重量%、特に好ましくは、40〜90重量%以上含む乳酸水溶液である。乳酸の濃度が低すぎるとポリ乳酸の解重合反応が進行しにくくなり、一方、乳酸の濃度が高くなると解重合で得られたモノマーが再重合しやすくなる。
【0036】
本発明においては、乳酸水溶液には、乳酸と水以外に他の溶媒を添加することができる。このように乳酸溶媒に配合可能な他の溶媒は、水と乳酸に可溶でかつこれらと反応しないもので、例えばアルコールを挙げることができる。このようなアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、アミルアルコール、n−ヘキシルアルコール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、t−アミルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ペンタエリスリトール等を挙げることができる。
【0037】
本発明の方法においては、反応速度を促進させる等の目的で、他の触媒を併用してもよい。このような触媒としては、金属酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化アンチモン等、有機錫化合物、例えば、ジラウリル酸錫、ジパルミチン酸錫、ジステアリン酸錫、ジブチル錫ジラウレート等、チタン化合物、例えば、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等、アルカリ金属アルコキキシド、例えば、ナトリウムメトシシド、カリウムメトキシド等を挙げることができる。ラセミ化反応を起させないためにはその添加量は少量に留めるべきである。
【0038】
次に本発明の回収方法につき工程を追って説明する。本発明の方法では、まず、反応容器に溶媒である乳酸、または乳酸水溶液を充填する。ついで反応容器中にポリ乳酸を仕込んだ後、反応系を加熱し、反応を開始させる。
【0039】
原料ポリ乳酸が廃棄物である場合、反応表面積を拡大し、反応液との接触面を増大させ反応速度を増加するために、廃棄物は事前に粉砕処理をすることが好ましい。このようなポリ乳酸廃棄物の粉砕処理をする装置としては、例えば、衝撃式粉砕機、ハンマー式粉砕機、せん断式粉砕機等を採用することができる。
【0040】
本発明の回収方法においては、ポリ乳酸の重量(kg)Aと乳酸の容量(L)Bとの比は、A/Bが、1/1〜1/100、好ましくは1/3〜1/20の範囲にあることが望ましい。A/Bがこの範囲以下であると、解重合反応が進みにくく、一方必要以上に大きな反応容器が必要であるため、経済的に不利である。
【0041】
本発明の方法によるポリ乳酸の解重合反応の温度は、通常115〜140℃、好ましくは、125〜130℃の範囲である。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなり工業的に不利である。反応温度が高すぎると、得られる乳酸のラセミ化やピルビン酸等の乳酸以外のモノマーに分解が進んだりするため好ましくない。本発明の回収方法における反応時間は通常30分〜10時間、好ましくは1時間〜5時間、特に好ましくは、2〜4時間の範囲である。反応時間が短過ぎると解重合反応が不充分になり、反応時間が長すぎると、再重合反応が進む恐れがある。
【0042】
乳酸の沸点が122℃である。一方、本発明の回収方法における解重合反応は通常115〜140℃で行われるところから、本発明における反応操作は加圧下で行うことが好ましい。
【0043】
本発明の方法で使用しうる反応装置は特に限定されず、反応槽、加熱装置と好ましくは撹拌装置とを備えた反応装置を用いることができる。撹拌装置としては、通常の撹拌翼を有するモーターで駆動するシャフトを容器中央に供えた装置であってもよい。本発明の方法で用いる反応装置は好ましくは加圧が可能な装置である。
【0044】
本発明の回収方法で得られる乳酸の水溶性オリゴマーとは、乳酸の2量体、3量体、4量体、5量体、6量体、およびこれらの混合物であって、常温で水可溶性のものである。オリゴマーは直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもよい。本発明においては、好ましくは、水溶性オリゴマーは、主に、乳酸の2量体、もしくは3量体の混合物からなっている。本発明の方法で回収されるモノマーおよびオリゴマーの組成とその比率は、例えば、カラムクロマトグラフ法で確認することができる、
【0045】
反応終了後の反応槽の反応液中には最初に仕込んだ乳酸溶媒、水の他にポリ乳酸由来の乳酸、及び/またはオリゴマーと、ポリ乳酸が共重合体、または樹脂、あるいは充填剤等との組成物の場合、乳酸以外の未反応固形分が存在する。このような反応液中に存在する水は、必要に応じて、例えば蒸留等により溜去し、またポリ乳酸に含有されていた他樹脂、充填剤、添加剤等の固形分は濾過により除去することができる。
【0046】
以上の方法で得られた乳酸、および乳酸のオリゴマーは、ラセミ化をほとんど生じていないため、ラセミ化反応工程を追加することなく、そのまま重合体製造用原料として再使用することができる。また、本発明の方法における溶媒としてそのまま使用することができる。
【0047】
上記乳酸あるいは、ラクチド等のオリゴマーは、再使用する場合、精製することが好ましい。精製する方法としては、分別蒸留、溶融晶析、溶液系晶析等の公知の方法を採用することができる。
【実施例】
【0048】
次に実施例を挙げて本発明の方法につき更に詳しく説明するが、本発明がこれらの実施例になんら制約されるものではない。なお、本発明の実施例は、下記の原料、装置、および分析方法で行った。
【0049】
(原料)
ポリ乳酸:LACEATM H−100J(三井化学製)
形状:ペレット(2x2x2mm)
L−乳酸:和光純薬特級(8−15%の水分を含有)
【0050】
(測定/試験装置)
分光光度計:HITACHI U−1800形 レシオビーム分光光度計
オートクレーブ:高圧蒸気滅菌器(平山製作所製/hv−50)
【0051】
試験によるポリ乳酸の乳酸、または水溶性オリゴマーへの分解率は次の方法により測定した。すなわち、原料ポリ乳酸の乾燥重量をW(p)、PTFEメンブレンフイルターの乾燥重量をW(f)、加水分解試験後の反応液をPTFEメンブレンフイルターで減圧濾過し、当該フイルターをデシケータ中で放冷・乾燥させた乾燥重量をW(t)としたとき、乳酸または、水溶性オリゴマーへの分解度([分解率]:重量%)は下記(1)式で求めた。
【0052】
【数1】

【0053】
ポリ乳酸分解試料中のモノマー乳酸の定量は次のようにして行った。ポリ乳酸分解物を含む試料を高速液体カラムクロマトグラフィー法により分画した。カラムとしてはオクタデシルシリカゲル基結合のシリカカラムを、移動相としては、リン酸アンモニウム緩衝液を用いた。乳酸に該当する画分を取り出し、分光光度計で210nmの波長のピーク高さを測定し、予め標準物質より求めた検量線から乳酸の量を換算し、求めた。
【0054】
乳酸のL−体とD-体の比は、ロシェ製の一般食品分析用酵素試薬を用いて測定した。すなわち、L−乳酸に特異的に作用するL−LDH(乳酸脱水素酵素)と、D体に作用するD−LDHを用いて乳酸をピルビン酸に変え、この際発生するNADH量を340nmで測定し、それに相当する変換乳酸量を求めた。また、オリゴマーの分子量は、日本電子株式会社にDART−MSによる測定を依頼することにより行った。
【0055】
(実施例1)
100mLデュラン瓶にポリ乳酸0.5g、および、溶媒として乳酸(純度90%)2.5gを入れ、それをオートクレーブ中に設置し、135℃で3時間加熱処理した。冷却後デュラン瓶から取り出し、ポリ乳酸の乳酸または水溶性オリゴマーへの分解度を測定した。結果を図1に示す。原料ポリ乳酸は、ほぼ100%乳酸、または、水溶性オリゴマーに分解した。
【0056】
(実施例2)
実施例1において、溶媒の量を乳酸2.5gから乳酸2.0gに変える以外は実施例1と同様に行った。結果を図1に示す。
【0057】
(実施例3)
実施例1において、溶媒の量を乳酸2.5gから乳酸1.0gに変える以外は実施例1と同様に行った。結果を図1に示す。分解率は96%であった。
【0058】
(実施例4)
実施例1において、溶媒の量を乳酸2.5gから乳酸0.5gに変える以外は実施例1と同様に行った。結果を図1に示す。分解率は96%であったが、ポリ乳酸の一部が壁面にロウ状になって付着しているのが認められた。
【0059】
(実施例5)
乳酸に超純水を加えて希釈して50%乳酸水溶液を作成した。実施例1において、溶媒を50%乳酸水溶液に変える以外は実施例1と同様に行った。結果を図2に示す。
【0060】
(実施例6)
乳酸に超純水を加えて希釈して20%乳酸水溶液を作製した。実施例1において、溶媒を20%乳酸水溶液に変える以外は実施例1と同様に行った。結果を図2に示す。
【0061】
(実施例7)
乳酸に超純水を加えて希釈して10%乳酸水溶液を作製した。実施例1において、溶媒を10%乳酸水溶液に変える以外は実施例1と同様に行った。結果を図2に示す。
【0062】
(参考例1)
乳酸に超純水を加えて希釈して5%乳酸水溶液を作製した。実施例1において、溶媒を5%乳酸水溶液に変える以外は実施例1と同様に行った。結果を図2に示す。
【0063】
(参考例2)
乳酸に超純水を加えて希釈して2%乳酸水溶液を作製した。実施例1において、溶媒を2%乳酸水溶液に変える以外は実施例1と同様に行った。結果を図2に示す。2%乳酸水溶液中ではポリ乳酸の解重合はほとんど進行しなかった。
【0064】
(参考例3)
乳酸に超純水を加えて希釈して1%乳酸水溶液を作製した。実施例1において、溶媒を1%乳酸水溶液に変える以外は実施例1と同様に行った。結果を図2に示す。1%乳酸水溶液中ではポリ乳酸の解重合はほとんど進行しなかった。
【0065】
(参考例4)
乳酸に超純水を加えて希釈して0.1%乳酸水溶液を作製した。実施例1において、溶媒を0.1%乳酸水溶液に変える以外は実施例1と同様に行った。結果を図2に示す。0.1%乳酸水溶液中ではポリ乳酸の解重合はほとんど進行しなかった。
【0066】
(実施例8〜実施例13)
実施例1において、反応温度を135℃からそれぞれ105℃、110℃、115℃、120℃、125℃、130℃とする以外は実施例1と同様に行った。結果を図3に示す。
【0067】
(実施例14〜実施例19)
実施例5において、反応温度を135℃からそれぞれ105℃、110℃、115℃、120℃、125℃、130℃とする以外は実施例5と同様に行った。結果を図3に示す。
【0068】
(実施例20〜実施例25)
実施例6において、反応温度を135℃からそれぞれ105℃、110℃、115℃、120℃、125℃、130℃とする以外は実施例6と同様に行った。結果を図3に示す。
【0069】
(実施例26〜実施例31)
実施例7において、反応温度を135℃からそれぞれ105℃、110℃、115℃、120℃、125℃、130℃とする以外は実施例7と同様に行った。結果を図3に示す。
【0070】
(比較例1〜比較例6)
実施例8〜13において、溶媒を乳酸100%から純水に変更する以外は実施例8〜13と同様に行った。結果を図3に示す。溶媒として水を用いた場合、ポリ乳酸の解重合反応は全く生じなかった。
【0071】
(実施例32)
実施例1において反応時間を3時間から1時間に変更する以外は実施例1と同様に行った。試料は100%液化していた。
【0072】
(実施例33)
実施例5において反応時間を3時間から1時間に変更する以外は実施例5と同様に行った。試料は100%液化していた。
【0073】
(参考例5)
実施例6において反応時間を3時間から1時間に変更する以外は実施例6と同様に行った。得られた反応液はポリ乳酸が分散して乳濁した状態であった。
【0074】
(参考例6)
実施例7において反応時間を3時間から1時間に変更する以外は実施例7と同様に行った。原料ポリ乳酸は溶解し、原型は崩れていたもののほぼそのまま大きな塊として残っていた。
【0075】
(比較例7)
実施例1において、溶媒を乳酸から酢酸に変更する以外は実施例1と同様に行った。結果を図4に示す。ポリ乳酸の分解率は30%であった。
【0076】
(比較例8〜10)
酢酸に超純水を加えて希釈して50%酢酸水溶液、20%酢酸水溶液、および10%酢酸水溶液を作成した。溶媒としてこれらの酢酸水溶液を用いる以外は比較例7と同様に行った。結果を図4に示す。酢酸を触媒としたポリ乳段分解法では酢酸を取り除く工程が難しい上に乳酸触媒に比べて分解率が低く、本発明の方法に比べて工業的に不利であることは明かである。
【0077】
(実施例34〜37)
実施例1、実施例5、実施例6および実施例7で得られたポリ乳酸分解物から回収された乳酸の光学異性比を調べた。結果を表1に示す。
【0078】
(表1)

【0079】
実施例1、実施例5、実施例6および実施例7の試験において、加熱試験前後の乳酸の量を測定した。結果を図5に示す。加熱試験前より加熱試験後の方が乳酸の量が減少している。このことから、ポリ乳酸の分解物は、乳酸モノマーでなくほとんどがオリゴマー段階に留まっていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の方法は、乳酸の光学特異性を損なわずにかつ迅速にポリ乳酸製品をモノマーまたはオリゴマーに分解できるため、環境保全に役立ち、かつこれから包装用フイルム、マルチフイルム、あるいは食品用容器等に採用が進んでいるポリ乳酸からモノマーを回収し、ポリ乳酸の原料として再使用することができることから工業的に有用な方法であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、乳酸添加量の違いによるポリ乳酸の分解度の違いを示したグラグである。
【図2】図2は、溶媒である乳酸水溶液中の乳酸の濃度によるポリ乳酸の分解度の違いを示したグラフである。
【図3】図3は、溶媒である乳酸水溶液中の乳酸の濃度毎の反応温度によるポリ乳酸の分解度の違いを示したグラフである。
【図4】図4は、反応溶媒として乳酸を用いたケースと、酢酸を用いたケースにおいて、水溶液中の濃度と分解度との関係を示したグラフである。
【図5】図5は、加熱試験前後における乳酸水溶液中の乳酸の濃度を測定した結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を、乳酸、もしくは乳酸を10%以上含む乳酸水溶液中に浸漬し、加熱して反応させることを特徴とするポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法。
【請求項2】
加熱温度が、120〜135℃であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法。
【請求項3】
反応を、加圧下で行うことを特徴とする請求項1〜2に記載のポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法。
【請求項4】
ポリ乳酸の重量(kg)Aと乳酸の容量(L)Bとの比A/Bが、1/1〜1/100の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3に記載のポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法。
【請求項5】
乳酸の水溶性オリゴマーが、乳酸の2量体、もしくは3量体であることを特徴とする請求項1〜4に記載のポリ乳酸から乳酸、および/または水溶性オリゴマーを回収する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−7611(P2008−7611A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178853(P2006−178853)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(801000050)財団法人くまもとテクノ産業財団 (38)
【Fターム(参考)】