説明

ポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法

【課題】 優れた耐熱性や良好な強度を有するポリ乳酸樹脂射出成形体を、効率的に、かつ少ない変形で得ることができる製造方法の提供。
【解決手段】 ポリ乳酸樹脂を、超臨界流体となった不活性物質と接触させながら溶融混練する工程、及びこの工程で得られた溶融物を50〜85℃の金型内に充填し、発泡倍率4倍以下のポリ乳酸樹脂射出成形体を得る工程を有する、ポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法、並びにその製造方法で得られるポリ乳酸樹脂射出成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂射出成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂の中でポリ乳酸樹脂は、トウモロコシ、芋などからとれる糖分から、発酵法によりL−乳酸が大量に作られ安価になってきたこと、原料が自然農作物なので総酸化炭素排出量が極めて少ない、また得られた樹脂の性能として剛性が強く透明性が良いという特徴があるので、現在その利用が期待されている。しかし、ポリ乳酸樹脂は結晶化速度が非常に遅く、延伸などの機械的工程を行わない限り成形後は非晶状態であり、かつポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)は約60℃と低いために耐熱性に劣り、温度が55℃以上となる環境下では使用できない問題があった。
【0003】
ポリ乳酸樹脂の耐熱性を向上させるためには、成形加工時に結晶化させることが重要であり、例えば、射出成形において超臨界流体を用いてポリ乳酸を結晶化させる製造方法が提案されている(例えば特許文献1)。しかし、この方法では、気体の臨界圧力以上の圧力下に冷却して結晶化させる工程を必要とし、工程が複雑となり、成形時間も長くなるという欠点があった。
【0004】
また、特許文献2には、温水耐熱温度が80℃以上で、発泡倍率が4〜50倍の結晶性生分解性ポリエステル系樹脂発泡体が開示されている。しかしこの発泡体は、結晶性が十分ではなく、満足できる耐熱性が得られず、また強度も十分ではない。
【0005】
そこで、結晶性を充分にし、満足できる耐熱性を有する結晶性生分解性ポリエステル系樹脂成形体を得る試みとして、特許文献3には、樹脂100重量部に対して二酸化炭素を0.2重量部以上溶解した溶融樹脂を、あらかじめ溶融樹脂のフローフロントで発泡が起きない圧力以上にガスで加圧状態にしてある金型キャビティに充填し、その後、充填された溶融樹脂を加圧し冷却固化する技術が開示されている。しかし、この技術で得られた成形品は、成形サイクルを短くしようとすると、冷却が不充分なままに金型から成形品を取り出すことになり、得られた成形品の変形が大きくなるという問題があった。
【特許文献1】特開2003−236944号公報
【特許文献2】特開2005−206771号公報
【特許文献3】特開2007−269019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、優れた耐熱性や良好な強度を有するポリ乳酸樹脂射出成形体を、効率的に、かつ少ない変形で得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリ乳酸樹脂を、超臨界流体となった不活性物質と接触させながら溶融混練する工程(以下工程(1)という)、及びこの工程(1)で得られた溶融物を50〜85℃の金型内に充填し、発泡倍率4倍以下のポリ乳酸樹脂射出成形体を得る工程(以下工程(2)という)を有する、ポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法、並びにその製造方法で得られるポリ乳酸樹脂射出成形体を提供する。
【0008】
なお、本明細書で「不活性物質」とは、温度20℃、1023ヘクトパスカルにおいては他の物質と接しても実質的化学変化を起すことが殆ど無い、反応性の低い物質をいう。具体的には例えば、2酸化炭素や窒素分子、水などをさす。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法は、優れた耐熱性や良好な強度を有する発泡倍率4倍以下のポリ乳酸樹脂射出成形体を、短い成形時間で効率的に得ることができ、更に低い金型温度でも優れた成形性を示し、成形品の変形を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の製造方法を実施するには、例えば図1に示すような射出成形装置を用いることができる。この装置における成形機2の概要を以下に説明する。
【0011】
成形機2はその内部にスクリュー24を設けたシリンダー23を備える。シリンダー23には、一端側にペレットだめ21と接続されたペレット供給口22、他端側に金型7に接続されたゲート25が設けられている。更に、超臨界流体装置5に接続された導入口4が、シリンダー23の中部側壁に設けてある。
【0012】
本発明のポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法を、この成形機2を用いて実施した例につき、以下説明する。
【0013】
本発明の工程(1)は、ポリ乳酸樹脂を、超臨界流体となった不活性物質と接触させながら溶融混練する工程である。
【0014】
工程(1)においては、ペレットだめ21より供給されるポリ乳酸樹脂又は結晶核剤等により改質された改質ポリ乳酸樹脂(以下、ポリ乳酸樹脂等と略記する)のペレット1を、射出成形機2のペレット供給口22からシリンダー23に供給する。供給されたペレット1は該シリンダー23においてスクリュー24により押し出しつつ図示しない加熱装置により加熱溶融される。加熱溶融されたペレットは、スクリュー24によりゲート25に向って押し出される。
【0015】
一方、超臨界流体装置5により圧縮され超臨界流体となった不活性物質、例えば二酸化炭素等が、射出成形機のシリンダー23に設けられた導入口4からシリンダー23の内部へ導入される。加熱装置により加熱溶融されたポリ乳酸樹脂等は、このシリンダー23内部へ導入された不活性物質の超臨界流体と接触し、スクリュー24の作用によって混練されつつ移動し、不活性物質を含む流体となってゲート25に到達する。このゲート25に到達した不活性物質を含むポリ乳酸樹脂等は、次の工程(2)に供される。
【0016】
本発明の工程(2)は、工程(1)で得られた溶融物を50〜85℃の金型内に充填し、発泡倍率4倍以下のポリ乳酸樹脂射出成形体を得る工程である。
【0017】
工程(1)でゲート25に到達した不活性物質を含むポリ乳酸樹脂等は、温度50〜85℃の金型7内に射出することにより充填されるが、ゲートより射出される不活性物質を含むポリ乳酸樹脂等は、前記スクリュー24によって射出開始時において、該不活性物質が単体であれば超臨界流体となる値に加圧されている。このとき、金型7内の圧力は、金型を閉じたときのまま、すなわち大気圧となっているが、樹脂同様に予め加圧制御されていても良い。金型7内に射出された不活性物質を含むポリ乳酸樹脂等は、冷却に伴い収縮するが、このとき圧力が下がるので含まれる不活性物質が気化し泡となる。冷却中もゲート25より不活性物質を含むポリ乳酸樹脂等を供給し続け収縮による圧力低下を抑える、言い換えると加圧を続けることで、気泡の発生を抑えることが出来、結果として発泡倍率4倍以下のポリ乳酸樹脂射出成形体8を得ることができる。
金型内で得られたポリ乳酸樹脂射出成形体8は、金型が開かれることで取り出される。
【0018】
本発明で用いられるポリ乳酸樹脂は、ポリ乳酸、又は乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーである。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられ、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。好ましいポリ乳酸の分子構造は、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの単位80〜100モル%とそれぞれの対掌体の乳酸単位0〜20モル%からなるものである。また、乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーは、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの単位85〜100モル%とヒドロキシカルボン酸単位0〜15モル%からなるものである。これらのポリ乳酸樹脂は、L−乳酸、D−乳酸及びヒドロキシカルボン酸の中から必要とする構造のものを選んで原料とし、脱水重縮合することにより得ることができる。好ましくは、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド及びカプロラクトン等から必要とする構造のものを選んで開環重合することにより得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができる。但し、主原料は、D−ラクチド又はL−ラクチドが好ましい。
【0019】
市販されているポリ乳酸樹脂としては、トヨタ自動車(株)製、商品名エコプラスチックU’zS;三井化学(株)製、商品名レイシア(LACEA);カーギル・ダウ・ポリマーズ社製、商品名Nature works等が挙げられる。
【0020】
本発明において、ポリ乳酸樹脂は、結晶核剤を含有していてもよい。結晶核剤としては、有機結晶核剤、無機結晶核剤のいずれも用いることができる。
【0021】
有機結晶核剤としては、脂肪族エステル、脂肪族アミド、脂肪酸金属塩等が挙げられる。
脂肪族エステルとしては、ステアリン酸モノグリセライド、ベヘニン酸モノグリセライド等の脂肪酸エステル、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド等のヒドロキシ脂肪酸エステル;脂肪族アミドとしては12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド等の脂肪族ビスアミド、メチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミドなどが挙げられる。脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸塩、ベヘニン酸塩、12−ヒドロキシステアリン酸塩等が挙げられる。
【0022】
無機結晶核剤としては、タルク、スメクタイト、ベントナイト、ドロマイト、セリサイト、長石粉、カオリン、マイカ、モンモリロナイト等の珪酸塩を含むものが挙げられる。
【0023】
これらの結晶核剤の中では、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を向上させる観点から、有機結晶核剤が好ましく、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド、ベヘニン酸モノグリセライド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド等がより好ましい。
【0024】
結晶核剤として有機結晶核剤を用いる場合、有機結晶核剤の配合量はポリ乳酸樹脂100重量部に対して、結晶核剤としての効果発現の観点から、0.01〜5重量部が好ましく、0.05〜4重量部が更に好ましい。また、無機結晶核剤を用いる場合、無機結晶核剤の配合量はポリ乳酸樹脂100重量部に対して、結晶核剤としての効果発現の観点から、0.1〜150重量部が好ましく、3〜80重量部が更に好ましい。
【0025】
本発明のポリ乳酸樹脂は、可塑剤を含有しなくても良好な成形性を得ることができるが、可塑剤を含有することにより更に良好な結晶化速度を得ることができ、効率的に成形することができる。
【0026】
本発明に用いられる可塑剤としては特に限定されないが、ヒドロキシ安息香酸2−エチルヘキシル等のヒドロキシ安息香酸エステル、グリセリンのエチレンオキサイド付加物の酢酸エステル等の多価アルコールエステル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル等のフタル酸エステル、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル、マレイン酸ジ−n−ブチル等のマレイン酸エステル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル、リン酸トリクレジル等のアルキルリン酸エステル、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、トリメリット酸トリオクチル等のトリカルボン酸エステル、1,3,6−ヘキサトリカルボン酸とブチルジグリコールとのエステル等の多価カルボン酸のアルキルエーテルエステル、アセチル化ポリオキシエチレンヘキシルエーテル等のアセチル化ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数2〜15)エーテル、エチレンオキサイドの付加モル数が3〜20のポリエチレングリコールジアセテート、ポリオキシエチレン1,4−ブタンジオールエーテルジアセテート等が挙げられる。ポリ乳酸樹脂の柔軟性、透明性が向上し、結晶化速度に優れる観点から、グリセリンのエチレンオキサイド付加物の酢酸エステル等の多価アルコールエステル、エチレンオキサイドの付加モル数が3〜10のポリエチレングリコールジアセテート、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、1,3,6−ヘキサトリカルボン酸とブチルジグリコールとのエステル等の多価カルボン酸のアルキルエーテルエステルがより好ましい。
【0027】
本発明に用いるポリ乳酸樹脂中の可塑剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、1〜50重量部が好ましく、5〜20重量部がより好ましい。
【0028】
本発明に用いるポリ乳酸樹脂には、上記成分以外に、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、無機充填剤、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、難燃剤等を、本発明の目的達成を妨げない範囲で配合することができる。
【0029】
本発明においては、上記のようなポリ乳酸樹脂、更に必要によりその他成分を含有するポリ乳酸樹脂を、超臨界流体となった不活性物質と接触させながら溶融混練する工程(1)、工程(1)で得られた溶融物を50〜85℃の金型内に充填し、発泡倍率4倍以下のポリ乳酸樹脂射出成形体を得る工程(2)を有することにより、不活性物質を含むポリ乳酸樹脂を、該不活性物質が単体であれば超臨界流体となる圧力及び温度で金型内に射出し、更に成形品の変形を抑制する金型温度で成形することができる。
【0030】
本明細書において超臨界流体となった不活性物質とは、上記不活性物質を高温下で圧縮したものであり、具体的には超臨界流体となった二酸化炭素、窒素、水等が挙げられる。本発明方法で用いるのは、超臨界流体となった二酸化炭素が好ましい。
【0031】
二酸化炭素の臨界温度は31.2℃であり、これ以上の温度では圧力による相変化を生じない超臨界状態を呈する。超臨界状態の気体を圧縮し密度が液体に近づくと溶解力が高まり、ポリ乳酸樹脂への溶解度が急激に上昇する。実用的には7MPa以上の圧力で圧縮した二酸化炭素がより好ましい。
【0032】
工程(1)において、ポリ乳酸樹脂を超臨界流体となった不活性物質と接触させながら溶融混練する方法としては、例えば、超臨界流体となった不活性物質の導入口を有する押出し機や射出成形機等を用い、二酸化炭素等の超臨界流体となった不活性物質を予め溶融したポリ乳酸樹脂に注入してを混練する方法や、二酸化炭素等の超臨界流体となった不活性物質を圧入しながらポリ乳酸樹脂と混ぜつつ溶融する方法が挙げられる。ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を向上させる観点から、超臨界流体となった不活性物質は、ポリ乳酸樹脂に対し0.1〜10重量%の割合とすることが好ましく、0.5〜8重量%の割合とすることがより好ましい。
【0033】
工程(1)における溶融混練温度は、良好な溶融混練物を得る観点から、好ましくは170〜240℃であり、より好ましくは170〜220℃とする。圧入された二酸化炭素等の超臨界流体となった不活性物質は溶融状態のポリ乳酸樹脂と機械的に混練されることが好ましく、これにより溶融状態のポリ乳酸樹脂に均一に高濃度の超臨界流体となった不活性物質が溶解する。
【0034】
本発明の工程(2)において、工程(1)で得られた溶融物を金型内に充填する際の、若しくは後に冷却する際の金型温度は、ポリ乳酸樹脂の成形速度向上、及び成形品の変形抑制の観点から、50〜85℃が好ましく、60〜85℃が更に好ましい。なお、本発明において金型温度は、金型を冷却する冷却水温度、あるいは、金型のキャビティ近傍の温度を計測して定める。
【0035】
工程(2)において、工程(1)で得られた溶融物を金型内に充填すると、金型内で冷却・収縮による圧力降下が起こり、不活性物質はポリ乳酸樹脂への溶解度が低下して溶解を維持できなくなり、ガス化して発泡し、微細な発泡セルを有する発泡倍率4倍以下のポリ乳酸樹脂射出成形体が得られる。
【0036】
また、工程(2)では、金型内への溶融物の充填時における金型温度は上述のごとく50〜85℃であり、工程(1)、(2)を通じて金型の冷却水の温度を所定の温度とすることで不活性物質を含むポリ乳酸樹脂が固化する。工程(2)における冷却時に金型温度は徐々に低下するようにしてもよい。
【0037】
本発明のポリ乳酸樹脂射出成形体の発泡倍率は、良好な強度を維持しながら軽量化を発現する観点から、4倍以下であり、1〜3倍が好ましく、1〜2倍がより好ましい。
なお、発泡倍率は、実施例に示す式により求めることができる。
【0038】
また、本発明のポリ乳酸樹脂射出成形体中の発泡セル径は、良好な強度を維持する観点から、0.5〜350μmが好ましく、0.5〜100μmがより好ましい。
【0039】
本発明のポリ乳酸樹脂射出成形体の発泡倍率を4倍以下に抑える方法としては、得られる射出成形体の形状を薄肉に設計する方法が挙げられる。
【0040】
本発明の方法により射出成形される射出成形体の形状は特に限定されないが、薄肉の成形体、特に肉厚が1〜3mmの薄肉の成形体が好ましい。
【0041】
本発明の方法により得られるポリ乳酸樹脂射出成形体は、洗剤の計量スプーン等の日用品や、電子・電気部品、自動車部品等に好ましく用いられる。
【実施例】
【0042】
実施例1〜7
下記に示すポリ乳酸樹脂又は改質ポリ乳酸樹脂のペレットを用い、図1に示す装置により、ポリ乳酸樹脂射出成形体を得た。即ち、ペレットだめ21中のポリ乳酸樹脂又は改質ポリ乳酸樹脂のペレット1を、ペレット供給口22から、シリンダー温度を200℃とした射出成形機2((株)日本製鋼所製 Mucell 85トン)のシリンダー23に供給して溶融するとともに、超臨界流体装置5により8MPaの圧力で圧縮された超臨界流体となった不活性物質(超臨界状態の二酸化炭素)を、射出成形機2のシリンダー23に設けられた導入口4から、2重量%の濃度(ポリ乳酸樹脂又は改質ポリ乳酸樹脂に対する濃度)で圧入し、スクリュー24で混練して溶融状態のポリ乳酸樹脂又は改質ポリ乳酸樹脂と接触させた。射出成形機の先端に取り付けられた金型7内の温度を表1に示す温度に保ち、この金型内に、ゲート25から、超臨界状態の二酸化炭素と接触させた溶融ポリ乳酸樹脂又は改質ポリ乳酸樹脂を射出し、結晶化が終了するまで保持して、図2に示すような肉厚1mmの計量スプーン8を得た。この時の成形に必要な射出ピーク圧を表1に示す。得られた計量スプーンの離型に必要な金型保持時間を下記の基準で評価した。また、発泡倍率を下記方法で測定した。更に計量スプーンと同様にして得た図3に示す試験片(180mm×25mm×1mm)の変形具合を下記方法で評価した。これらの結果を表1に示す。
【0043】
<ポリ乳酸樹脂又は改質ポリ乳酸樹脂の種類>
ポリ乳酸樹脂1:エコプラスチックU’zS−12(トヨタ自動車(株)製、光学純度99.6%、重量平均分子量112000、残存モノマー173ppm)
改質ポリ乳酸樹脂2:ユニチカTE−8210(ユニチカ(株)製)
改質ポリ乳酸樹脂3:ユニチカHV−6200(ユニチカ(株)製)
改質ポリ乳酸樹脂4:東レCA15−003(東レ(株)製)
改質ポリ乳酸樹脂5:以下の処方により市販樹脂をブレンドした
トヨタ自動車(株)製 ポリ乳酸樹脂 U'zS-17 100重量部
メチルトリグリコールコハク酸ジエステル 12.5重量部
花王(株)製カオーワックス85P 1重量部
日産化学工業(株)製 エコプロモート 0.5重量部
日本タルク(株)製 ミクロエースP−6 20重量部
ラインケミージャパン(株)製 スタバクゾール1−LF 1重量部
<離型に必要な金型保持時間の評価基準>
表1に示す成形条件において、各計量スプーンの変形がなく、取り出しが容易と判断されるまでに有する時間を、離型に必要な金型保持時間とした。
尚、金型内部及びランナー部分で計量スプーンの溶融結晶化速度が速いほど、離型に必要な金型保持時間は短くなる。
【0044】
<発泡倍率>
発泡倍率は下記式により求めた。
【0045】
【数1】

【0046】
なお、成形体の密度は、JIS K−7112(B法:ピクノメーター法)に基づいて測定した。
【0047】
<変形具合>
図3に示すような試験片10の最長端点(本試験片においては180mm)2点を平らな定番に置き、片側の端点が定番より何mm浮いているかを計測し変形量とした。変形具合の評価の基準は以下の通りである。
◎:変形量0mm
○:変形量0mmを越え1mmまで
△:変形量1mmを越え2mmまで
×:変形量2mmを越える
比較例1〜7
各実施例において、超臨界流体を圧入しないこと以外は同様にして肉厚1mmの計量スプーン8及び試験片10を得た。この時の成形に必要な射出ピーク圧を表1に示す。また各実施例と同様に計量スプーンの離型に必要な金型保持時間、発泡倍率を測定し、変形具合を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例及び比較例の結果から、本発明の製造方法によると、結晶化時間を短縮することができ、成形性が飛躍的に向上することがわかった。また、変形を抑制することができた。また、ポリ乳酸樹脂の溶融混練時に超臨界流体と接触させることによって成形時の射出圧も低減することがわかった。また、発泡により射出成形体を軽量化することもできた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に用いられる射出成形装置の一例を示す略示断面図である。
【図2】実施例で得られた計量スプーンの斜視図である。
【図3】変形具合の評価に用いた試験片を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 ポリ乳酸樹脂のペレット
2 射出成形機
21 ペレットだめ
22 ペレット供給口
23 シリンダー
24 スクリュー
25 ゲート
4 超臨界流体導入口
5 超臨界流体装置
7 金型
8 計量スプーン
10 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂を、超臨界流体となった不活性物質と接触させながら溶融混練する工程、及びこの工程で得られた溶融物を50〜85℃の金型内に充填し、発泡倍率4倍以下のポリ乳酸樹脂射出成形体を得る工程を有する、ポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂が、結晶核剤を含有する請求項1記載のポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法。
【請求項3】
前記不活性物質を、ポリ乳酸樹脂に対し0.1〜10重量%の割合で接触させる請求項1又は2記載のポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の製造方法で得られるポリ乳酸樹脂射出成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−255432(P2009−255432A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108669(P2008−108669)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】