説明

ポリ乳酸系2軸延伸フィルムおよびその製造方法

【課題】 低温防曇性と耐ブロッキング性を併有するポリ乳酸系2軸延伸フィルムおよびその製造方法の提供。
【解決手段】 ポリ乳酸系樹脂からなる層の少なくとも片面に、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種類の非イオン系界面活性剤(A)と、水性アクリル系樹脂(B)とを前記非イオン性界面活性剤(A)と前記水性アクリル系樹脂(B)との質量比(A/B)が70/30〜30/70となるように含有する塗布層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗工液を塗布して形成される被膜を有するポリ乳酸系2軸延伸フィルムおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は前記被膜が防曇層であり、低温防曇性、耐ブロッキング性に優れた食品包装用ポリ乳酸系2軸延伸フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプラスチック容器やプラスチック包装材料等のプラスチック製品は、使い捨てされることが多い。使用済みのプラスチック製品を廃棄する際には、焼却又は埋め立て等の処理が為されるが、環境保護等の観点から、この処理の仕方が大きな問題となっている。包装材料として使用される代表的なプラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられるが、これらのプラスチックは燃焼時の発熱量が多いので、燃焼処理中に燃焼炉を傷める恐れがある。また、現在でも使用量の多いポリ塩化ビニルは、焼却すると有害なガスを発生する。このため、これらのプラスチック製品は埋め立て処理されることが多い。
【0003】
一方、埋め立て処分する場合においても、これらのプラスチック製品は化学的安定性が高いので、自然環境下ではほとんど分解されない。このため、半永久的に土中に残留し、ゴミ処理用地の能力を短期間で飽和させてしまう。また、自然環境中に投棄されると、景観を損ねたり、海洋生物等の生活環境を破壊したりする。
【0004】
そこで、近年、環境保護の観点から、生分解性プラスチックに関する研究、開発が活発に行われている。生分解性プラスチックは、土中や水中で、加水分解や生分解により、徐々に崩壊・分解が進行し、最終的に微生物の作用により無害な分解物となる。生分解性プラスチックとしては、ポリ乳酸系樹脂、脂肪族ポリエステル、変性PVA(ポリビニールアルコール)、セルロースエステル化合物、デンプン変性体、及び、これらのブレンド体等があり、これらは既に実用化され始めている。
【0005】
特に、ポリ乳酸系樹脂は、コストパフォーマンスが高く、出発原料が植物に由来するので石油資源の枯渇から脱却できるといった理由から、大きな注目を集めている。ポリ乳酸系樹脂フィルムは高剛性や透明性を有しており、そのような特性を活かして、ポリスチレン(PS)やポリエチレンテレフタレート(PET)の代替材料として利用されている。例えば、特開平7−207041号公報には、PSやPET等の代替材料として、延伸加工を施して配向させたポリ乳酸系樹脂フィルムが開示されている。
【0006】
このポリ乳酸系2軸延伸フィルムを、水分を多く含む野菜や果物等の食品包装用途に適用する場合には、包装後約1週間程度の長期の低温防曇性が要求される。ポリ乳酸系フィルムは表面が疎水性であるために水分は微小な水滴としてフィルム表面に付着しやすく、食品包装用に使用された場合、付着した微小な水滴によって外部ヘーズが上昇し内容物が見え難いといった不具合を生じる。そのため、フィルムに防曇性を付与することが必要である。
【0007】
一般に、プラスチックフィルムに防曇性を付与する手法としては、押出工程において防曇剤を練り込む方法や、フィルム表面に防曇剤を塗布する方法が行われてきた。ところが、ポリ乳酸系2軸延伸フィルムに従来方法を適用すると、練り込み法では十分な防曇性が得られないばかりでなく、ポリ乳酸系重合体は押出機中における熱安定性が汎用プラスチックに比べて著しく劣り分子量低下を起こしやすいため、フィルム製造時の押出性、製膜性の悪化、フィルム物性の低下を招き、押出工程における防曇剤の練り込みは実質上困難であった。
【0008】
一方、表面に塗布する方法は初期の防曇性は得られるものの、表面のべたつき、べたつきに伴うフィルム同士のブロッキングや取り扱い性の低下、防曇剤の裏面への移行とそれに伴う防曇性低下といった問題点があった。
【0009】
ポリ乳酸系フィルムに防曇性を付与した事例としては、特許文献1に防曇剤と特定量の滑剤を押出工程で添加する例が記載されているが、防曇剤を練り込んで防曇性を付与するためには多量の防曇剤を練り込む必要があり製膜性の低下、フィルム物性低下の恐れがある。特許文献2では特定のショ糖ラウリン酸エステルと水溶性ポリマーを塗布して防曇性を付与する例が記載されているが、フィルムのべとつき、耐ブロッキング性について十分ではなかった。
【0010】
このように、ポリ乳酸系フィルムにおいて、良好な防曇性と耐ブロッキング性を両立することは未だ困難である。
【特許文献1】特開平9−286908号公報
【特許文献2】特開2000−280410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来の上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の課題は低温防曇性と耐ブロッキング性を併有するポリ乳酸系2軸延伸フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、このような現状に鑑み、ポリ乳酸系樹脂に対してフィルムのべとつきがなく、防曇性と耐ブロッキング性が両立でき、かつ良好な成形性を維持し得る手法につき鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の上記課題は、ポリ乳酸系樹脂からなる層の少なくとも片面に、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種類の非イオン系界面活性剤(A)と、水性アクリル系樹脂(B)とからなる塗布層を有するポリ乳酸系2軸延伸フィルムであって、前記非イオン性界面活性剤(A)と前記水性アクリル系樹脂(B)との質量比(A/B)が70/30〜30/70であることを特徴とするポリ乳酸系2軸延伸フィルムにより達成される。
【0013】
上記ポリ乳酸系2軸延伸フィルムは、結晶配向が完了する前のポリ乳酸系フィルムの少なくとも片面に、前記非イオン性界面活性剤(A)と前記水性アクリル系樹脂(B)とからなり、質量比(A/B)が70/30〜30/70である水性塗工液を塗布して塗布層を形成し、次いで延伸、乾燥、熱処理を施して前記ポリ乳酸系フィルムの配向結晶化を完了させるとともに、前記塗布層を熱硬化させることを特徴とする製造方法を用いて得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂からなる層の少なくとも片面に基材との密着性が高い防曇性を有する塗布層を有するため、本発明によれば、長期低温防曇性に優れ、表面のべたつき、該べたつきに伴うフィルム同士のブロッキングや取り扱い性の低下、防曇剤の裏面への移行のない、低温防曇性と耐ブロッキング性とに優れた食品包装用途に好適なポリ乳酸系2軸延伸フィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のポリ乳酸系2軸延伸フィルム(以下「本発明のフィルム」という。)及びその製造方法(以下「本発明の製造方法」という。)についてさらに詳細に説明する。
【0016】
[ポリ乳酸系2軸延伸フィルム]
本発明のフィルムは、ポリ乳酸系樹脂からなる層の少なくとも片面に、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種類の非イオン系界面活性剤(A)と水性アクリル樹脂(B)からなる塗布層を有する。
【0017】
(ポリ乳酸系樹脂)
本発明のフィルムの基材を構成するポリ乳酸系樹脂は、D−乳酸及び/又はL−乳酸を主成分とするモノマーを縮重合してなる単独重合体又は共重合体である。より具体的には、構造単位がd−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、L−乳酸とD−乳酸との共重合体であるポリ(DL−乳酸)、又はこれらの混合物である。
【0018】
得られるフィルムの製膜性と厚み精度を向上させ、かつ延伸後の熱固定処理による配向結晶化を進行させるためには、適度な結晶性を有するポリ乳酸系樹脂を使用することが有効である。具体的な例としては、ポリ乳酸系樹脂を構成するL−乳酸とD−乳酸との割合を93:7〜100:0の範囲とすることができ、95:5〜99.5:0.5の範囲とすることがさらに好ましい。D−乳酸の割合が高いポリ乳酸系樹脂を使用すると結晶性の乏しいものとなり、厚み精度の低下、収縮変形、配向結晶化不足による裂け等の問題が起きる場合がある。
【0019】
上記ポリ乳酸系樹脂は、異なる共重合比を有するD−乳酸とL−乳酸との共重合体どうしを混合して使用することもできる。その場合には、複数の乳酸系共重合体のD−乳酸とL−乳酸との共重合比を平均した値が上記範囲内に入るようにすればよい。使用用途に合わせて、D−乳酸とL−乳酸との共重合体比の異なるポリ乳酸系樹脂を二種以上混合し、結晶性を調整することにより、厚み精度と配向結晶化のバランスをとることができる。
【0020】
上記ポリ乳酸系樹脂は、少量の共重合成分として他のヒドロキシカルボン酸成分を含んでもよく、また少量の鎖延長剤残基を含んでもよい。他のヒドロキシカルボン酸成分としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0021】
また、必要に応じて、上記ポリ乳酸系樹脂は、他の少量の共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族カルボン酸、及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオール残基、乳酸及び/又は乳酸以外のヒドロキシカルボン酸残基を含んでいてもよい。
【0022】
上記ポリ乳酸系樹脂は、縮合重合法、開環重合法などの公知の重合法により作製することができる。例えば、縮合重合法であれば、D−乳酸、L−乳酸、又はこれらの混合物を直接脱水縮合重合して任意の組成を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。また、開環重合法では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤などを用いながら、所定の触媒の存在下で開環重合することにより任意の組成を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。上記ラクチドには、L−乳酸の二量体であるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成、結晶性を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。さらには、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ジエポキシ化合物、酸無水物、酸クロライドなどを使用しても構わない。
【0023】
上記ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、6万〜70万の範囲であることが好ましく、8万〜40万の範囲がより好ましく、10万〜30万の範囲であることがさらに好ましい。重量平均分子量が小さすぎると、機械物性や耐熱性等の実用物性がほとんど発現されない傾向があり、一方、大きすぎると、溶融粘度が高くなりすぎる傾向があり、成形加工性に劣る場合がある。
【0024】
上記ポリ乳酸系樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、成形加工性、2次加工性を向上させる目的で可塑剤、滑剤、無機フィラー、紫外線吸収剤、光安定剤などの添加剤を添加できる。
【0025】
上記ポリ乳酸系樹脂の市販品としては、例えば、「NatureWorks」(NatureWork社製)、「LACEA」(三井化学社製)などが挙げられる。
【0026】
(非イオン系界面活性剤(A))
本発明のフィルムの塗布層で使用される非イオン系界面活性剤(A)は、防曇性能を発揮させるために必要な成分であり、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルから選択される。
【0027】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの脂肪酸は特に限定されないが、ラウリン酸(C12)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、ベヘン酸(C22)等の飽和脂肪酸や、パルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸を用いることができる。中でもラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸が防曇性能の面で好ましい。またエチレンオキサイドの付加モル数は5〜20モルが好ましい。
【0028】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の炭素数がC12〜C18であることが好ましく、中でもラウリン酸、オレイン酸がより好ましい。ポリグリセリンの重合度は4〜10が好ましく、特に重合度10のデカグリセリンが好ましく用いられる。
【0029】
本発明のフィルムは、上記のポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステルとポリグリセリン脂肪族エステルから選ばれる少なくとも1種の非イオン系界面活性剤を用いればよく、これらを単独で使用してもよいし、2種を混合して使用してもよい。
【0030】
(水性アクリル樹脂(B))
本発明のフィルムの塗布層で使用される水性アクリル樹脂(B)は、非イオン系界面活性剤(A)をポリ乳酸系2軸延伸フィルム基材へ強固に密着させ、脱落を防止するバインダーとして機能する成分である。これによりフィルム表面のべたつきを防止し、耐ブロッキング性を向上させることができる。なお、本明細書において「水性」とは、水溶性又は水分散性を有することを意味する。
【0031】
上記水性アクリル樹脂(B)は、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートを主成分とし、これらと共重合可能でかつ官能基を有するビニル単量体成分を1モル%以上50モル%以下、好ましくは20モル%以上40モル%以下含有する樹脂である。水性アクリル樹脂を構成するアルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートのアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。中でもメチル基やエチル基を有するアルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートを主成分とするものを好適に用いることができる。
【0032】
また、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートと共重合可能で官能基を有するビニル単量体成分としては、反応性官能基、自己架橋性官能基、親水性基などの官能基を有する下記の化合物が挙げられる。
【0033】
(1)カルボキシル基を有する化合物
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、これらの金属塩、アンモニウム塩など
【0034】
(2)水酸基を有する化合物
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートのようなα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類
【0035】
(3)エポキシ基を有する化合物
グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテルなど
【0036】
(4)スルホン酸基を有する化合物
ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、これらの金属塩、アンモニウム塩など
【0037】
上記水性アクリル樹脂(B)は、種類の異なるアルキルアクリレート又はアルキルメタクリレート成分と、それに共重合可能で官能基を有するビニル単量体成分とを混合して使用することもできる。水性アクリル樹脂(B)の好適な化合物を例示すれば、メタクリル酸、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられ、中でもアクリル酸が好ましい。
【0038】
上記水性アクリル樹脂(B)は、重量平均分子量(Mw)が1,000以上300,000以下、好ましくは10,000以上200,000以下の範囲であり、かつ、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上90℃以下、好ましくは40℃以上70℃以下のものである。水性アクリル樹脂(B)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、併用する非イオン系界面活性剤(A)と混合した場合の相溶性を良好に保つことができ、水性塗工液の流動性の面からも塗工性が良好である。また、水性アクリル樹脂(B)のTgが上記範囲内であれば、ブロッキングを起こさず、かつフィルムの屈曲追従性が良好であり、白化が起きずフィルムの透明性を保つことができる。
【0039】
上記水性アクリル樹脂(B)の市販品としては、例えば、日本カーバイド社製:商品名ニカゾールRX7022B、日本純薬社製:ジュリマーFC−80などが挙げられる。
【0040】
また、本発明の水性アクリル樹脂(B)として変性アクリル樹脂も使用可能であり、例えばポリエステル、ウレタン等で変性したブロック共重合体、グラフト重合体などが挙げられる。
【0041】
本発明において、非イオン系界面活性剤(A)と水性アクリル系樹脂(B)の質量比(A/B)は70/30〜30/70であることが好ましく、60/40〜40/60であることがさらに好ましい。塗布層における非イオン系界面活性剤(A)の割合が30質量%以上70質量%以下であれば、防曇性を満足することができ、所定の効果が得られる。また水性アクリル系樹脂(B)が30質量%以上70質量%以下であれば、塗布膜の密着性、耐ブロッキング性を満足することができる。
【0042】
(層構成)
本発明のポリ乳酸系樹脂層の厚みは特に制限なく、用途、要求性能、価格等によって適宜設定すればよく、一般的に10μm以上、好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、50μm以下、好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下の厚さを例示できる。塗布層の厚みは0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.03μm以上であり、0.5μm以下、好ましくは0.45μm以下、さらに好ましくは0.40μm以下の範囲であることが好ましい。塗布層は1層以上であればよく、複数回に分けて塗布してもよい。
【0043】
[ポリ乳酸系2軸延伸フィルムの製造方法]
本発明のフィルムは、ポリ乳酸系2軸延伸フィルムの少なくとも片面に、上記の非イオン系界面活性剤(A)と水性アクリル樹脂(B)とを上記の比率で混合した水性塗工液を塗布して塗布層を形成し、次いで延伸、乾燥、熱処理を施すことによって製造できる。
【0044】
この塗液には消泡剤、増粘剤、帯電防止剤、有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等の添加剤を含んでいてもよい。また、この塗液は、取り扱い上及び作業環境上、水溶液や水分散液であることが望ましいが、水を主たる媒体としており本発明の主旨を越えない範囲であれば有機溶剤を含有してもよい。
【0045】
上記塗工液の固形分濃度は30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。固形分濃度が30質量%以下であれば、塗工ムラの発生を抑えることができる。塗工厚みは特に限定されるものではないが、延伸、乾燥後の防曇層の厚みが0.01μm以上0.5μm以下の範囲であることが好ましい。
【0046】
上記塗工液の塗布方法としては、既知の任意の方法を選択できるが、中でもフィルムを製造する工程中で塗液を塗布する方法(インラインコーティング法)が好適に採用される。特に未延伸又は縦方向に延伸したフィルムに塗液を塗布し、その後、テンター内で横方向に延伸し、乾燥する方法が経済的にも有利である。上記塗液を塗布する方法としては、例えば、原崎勇次著、槙書店1979年発行「コーティング方式」に示される塗布技術を用いることができる。具体的にはエアドクターコータ、ブレードコータ、ロッドコータ、ナイフコータ、リバースロールコータ、グラビアロールコータ等の技術が挙げられる。
【0047】
本発明のフィルムを構成するポリ乳酸系基材フィルムの製造方法としては、テンター法による逐次または同時2軸延伸法を採用する。例えば、前述のポリ乳酸系重合体を1軸又は2軸(同方向、異方向)押出機によってTダイ法によって押出成形する。溶融押出された樹脂は、冷却ロール、空気、水等で冷却された後、同時2軸延伸の場合は塗工液を前述の方法によって塗布される。逐次延伸の場合は熱風、温水、赤外線等の適当な方法で再加熱されロール法等により1軸延伸された後、塗工液を前述の方法によって塗布される。その後テンター法により、1軸方向または同時2軸延伸される。
【0048】
延伸温度は、フィルムを構成している樹脂の軟化温度や得られるフィルムに要求される用途によって変える必要があるが、概ね55℃以上90℃以下、好ましくは65℃以上80℃以下の範囲で制御される。縦延伸倍率は1.5倍以上5.0倍以下、好ましくは2.0倍以上4.0倍以下、横延伸倍率は1.5倍以上5.0倍以下、好ましくは2.0倍以上4.0倍以下である。次いでフィルムの熱収縮を抑制するため、フィルムを把持した状態で熱処理を行う。通常テンター法ではクリップでフィルムを把持した状態で延伸されるので直ちに熱処理される。この熱処理を行うことにより、フィルムの2次加工工程において加工中にフィルムが収縮する等の不具合を防止することが出来ると同時に、この熱処理によって塗工液の硬化が進行し、ポリ乳酸基材との密着性が向上し、皮膜強度が上昇することによって塗布膜のべたつきがなくなり耐ブロッキング性が向上する。これら延伸条件の適正範囲は重合体組成や要求される物性によって異なってくるため、フィルムの強度、伸びを考慮しながら適宜決められる。
【0049】
このインラインコーティング法を用いることによってポリ乳酸基材フィルムと塗布層の密着力を高めることができ、耐ブロッキング性も向上する。また経済的にも非常に有用な方法である。
【0050】
また、本発明のフィルムは、他のプラスチックフィルム、例えばポリエチレン、鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の延伸もしくは未延伸のフィルムとの積層フィルム、またはこれらに紙等を積層して各種包装用途に使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお実施例に示す測定値及び評価は次のように行った。
【0052】
[防曇性]
200mlのビーカーに25℃の温水100ml入れ、それに作成したフィルムをかぶせて5℃の冷蔵保管庫に保管して曇りや水滴の発生を観察して次の4段階で評価した。
◎:表面が均一透明で水滴の付着なし
○:表面は透明で水滴の付着はないが不均一でゆがんで見える
△:表面に大き目の水滴が部分的に付着
×:全面に微細水滴が付着し底が見えない。
【0053】
[耐ブロッキング性]
片面に塗布層を有するフィルムをMD10mm、TD100mmの大きさで試験片を切り出し、塗布面と非塗布面とを重ねた状態でプレスした。プレス条件は30℃、60%RH、10分×500kg/cm2とした。その後フィルム同士の密着度合いを目視判定した。
◎:良好。容易に剥離する。
○:普通。密着しない部分が全体の50%以上
△:やや不良。密着した部分が全体の50%以上
×:不良。全面が密着し剥離しない
【0054】
[基材密着性]
被膜にセロテ−プ(登録商標)(ニチバン(株)製エルパックLP−18)を貼り、セロテープ(登録商標)の上から指で5回こすった。その直後、セロテ−プ(登録商標)を一気に剥がし、被膜がどれほど剥離したかを肉眼で観察し、以下の4段階で評価した。
◎:被膜が全く剥離せず、基材側に完全に残ったもの
○:被膜の2/3以上が剥離せず残ったもの
△:被膜の2/3以上が剥離したもの
×:被膜が完全に剥離したもの
【0055】
また、実施例においては下記の樹脂を使用した。
(a)ポリ乳酸系樹脂
商品名:Nature Works4032D 米国カーギル・ダウ社製
(L−乳酸:D−乳酸=98.5:1.5)
商品名:Nature Works4050D 米国カーギル・ダウ社製
(L−乳酸:D−乳酸=94.5:5.5)
商品名:Nature Works4060D 米国カーギル・ダウ社製
(L−乳酸:D−乳酸=88:12)
【0056】
(b)アンチブロッキング剤
商品名:サイリシア100 富士シリシア化学(株)製
【0057】
(c)非イオン系界面活性剤
商品名:ソルボンT−20 東邦化学社製 (A1)
(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、EO20モル付加)
商品名:ポエムJ0021 理研ビタミン社製 (A2)
(デカグリセリンモノラウレート)
【0058】
(d)アニオン系界面活性剤
商品名:ダスパー802 ミヨシ油脂社製 (A3)
(アルキルスルホン酸ナトリウム塩)
【0059】
(e)水性アクリル樹脂
商品名:ジュリマーFC−80 日本純薬社製 (B1)
(ポリアクリル酸アルキルエステル共重合体)
【0060】
(f)水性ウレタン樹脂
商品名:ハイドランAP30F 大日本インキ化学工業社製 (B2)
【0061】
(g)水性エステル樹脂
商品名:ペスレジンA115G 高松油脂社製 (B3)
【0062】
[実施例1]
非イオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(A1)50質量%と、水性アクリル樹脂としてポリアクリル酸アルキルエステル(B1)50質量%を混合し、総固形分濃度が5質量%となるようイオン交換水で希釈し、水性塗工液を得た。
ポリ乳酸系樹脂NW4032Dに乾燥した平均粒子径1.4μmの粒状シリカ(サイリシア100)を0.1重量部混合して、58mmφの同方向二軸押出機にて脱気しながら210℃でTダイ口金より押出した。この押出シートを約35℃のキャスティングロールにて急冷して未延伸シートとし、続いて長手方向に76℃で2.5倍のロール延伸を行った。次いでロールコーターにて上記水性塗工液をウェット塗工量6g/m2となるように塗布し、その後テンターにて幅方向に72℃の温度で3.0倍に延伸した。さらにテンター内で熱処理を行った。処理条件は140℃、横弛緩を2%、10秒とした。吐出量とライン速度を調整し、フィルム厚み25μmの逐次2軸延伸フィルムを得た。フィルムの評価結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2]
非イオン系界面活性剤をデカグリセリンモノラウレート(A2)に変更する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0064】
[実施例3]
ポリ乳酸系樹脂としてNW4032Dを25質量%、NW4050Dを75質量%混合して使用する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0065】
[実施例4]
非イオン系界面活性剤(A1)と水性アクリル樹脂(B1)の質量比を60/40と変更する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0066】
[実施例5]
非イオン系界面活性剤(A1)と水性アクリル樹脂(B1)の質量比を40/60と変更する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0067】
[実施例6]
非イオン系界面活性剤(A1)と水性アクリル樹脂(B1)とからなる水性塗工液の総固形分濃度を2質量%とし、ウェット塗布量を1.5g/m2に変更する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0068】
[実施例7]
非イオン系界面活性剤(A1)と水性アクリル樹脂(B1)とからなる水性塗工液の総固形分濃度を10質量%とし、ウェット塗布量を12g/m2に変更する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0069】
[比較例1]
インラインコーティングを行わない以外は実施例1と同様の手順でポリ乳酸系2軸延伸フィルムを得た。
【0070】
[比較例2]
界面活性剤成分としてアニオン系界面活性剤(A3)を使用する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0071】
[比較例3〜4]
水性樹脂成分として水性ウレタン樹脂(B2)または水性エステル樹脂(B3)を使用する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0072】
[比較例5]
ポリ乳酸系樹脂としてNW4032Dを10質量%、NW4060Dを90質量%混合して使用する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0073】
[比較例6〜9]
非イオン系界面活性剤(A1)と水性アクリル樹脂(B1)の質量比を表1の通りに変更する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0074】
[比較例10]
非イオン系界面活性剤(A1)と水性アクリル樹脂(B1)とからなる水性塗工液の総固形分濃度を1質量%とし、ウェット塗布量を1.5g/m2に変更する以外は実施例1と同様にして逐次2軸延伸フィルムを得た。
【0075】
実施例1〜7、比較例1〜10で得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0076】
【表1】

【0077】
表1より実施例1〜7で得られたフィルムは低温防曇性に優れ、同時にベタツキがなく耐ブロッキング性に優れたフィルムであった。これに対し、比較例1は塗布層がないために防曇性の全くないフィルムであり本用途には使用できない。また比較例2〜4、比較例6〜9は水性塗工液の構成が本発明の範囲外であるため、防曇性が不十分であるかまたは耐ブロッキング性に劣るフィルムとなった。また比較例5はポリ乳酸系樹脂の結晶性が低いため、熱処理工程における配向結晶化が不足し、耐ブロッキング性が不十分であった。また比較例10は塗布膜の厚みが本発明の範囲外であるために防曇性の低いフィルムとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂からなる層の少なくとも片面に、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種類の非イオン系界面活性剤(A)と水性アクリル樹脂(B)からなる塗布層を有するポリ乳酸系2軸延伸フィルムであって、前記非イオン性界面活性剤(A)と前記水性アクリル系樹脂(B)との質量比(A/B)が70/30〜30/70であることを特徴とするポリ乳酸系2軸延伸フィルム。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂がD−乳酸とL−乳酸との共重合体であり、D−乳酸とL−乳酸との共重合比が0.5:99.5〜5:95である請求項1に記載のポリ乳酸系2軸延伸フィルム。
【請求項3】
結晶配向が完了する前のポリ乳酸系フィルムの少なくとも片面に、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種類の非イオン系界面活性剤(A)と水性アクリル樹脂(B)とからなり、質量比(A/B)が70/30〜30/70である水性塗工液を塗布して塗布層を形成し、次いで延伸、乾燥、熱処理を施して前記ポリ乳酸系フィルムの配向結晶化を完了させとともに前記塗布層を熱硬化させることを特徴とするポリ乳酸系2軸延伸フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−331154(P2007−331154A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163454(P2006−163454)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】