説明

ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物およびその製造方法

【課題】
水溶液での不溶解分が極めて少なく、水溶液における粘度が低く、また、経時変化も小さいという特徴を有し、各種顔料等の分散剤、スケール抑制剤、洗浄用ビルダー、増粘剤、バインダー、医薬用の湿布剤やハップ剤の基剤などに有用なポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を提供する。
【解決手段】
(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物を重合させて得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物であって、重量平均分子量が200万〜400万であり、かつ重量平均分子量/数平均分子量で表される分子量分散度が1.0〜1.3であるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物が前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物、その製造方法および該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を含むパップ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、各種顔料等の分散剤、スケール抑制剤、洗浄用ビルダー、増粘剤、バインダーおよび医薬用の湿布剤やハップ剤の基剤などに有用であり、種々の分野で多岐にわたって使用されている。
【0003】
一般的に、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物の水溶液、または(メタ)アクリル酸を含む単量体に水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウムなど酸を中和させる化合物を混合させた混合水溶液をラジカル重合させて製造されている。
例えば、特開2004−10831号公報(特許文献1)において、(メタ)アクリル酸(塩)を主成分とする単量体を水性媒体中で重合して得られた、重量平均分子量が60万以上で且つ分散度が5〜60である(メタ)アクリル酸(塩)が記載されている。
特許文献1によれば、重量平均分子量が60万以上で且つ分散度が5〜60である(メタ)アクリル酸(塩)系重合体が、様々な用途に好適に適用することができるもので、特に凝集剤や調泥剤として用いることが好適であると記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載された分子量分布測定方法は、別途用意した標準サンプルが必要であり、その標準サンプルを用いて作成した検量線を使用するため、得られる情報は標準サンプルに換算した相対分子量のみであり、そのため、分析精度に限界があって、実用的な適用には不都合があった。
また、特開平7−223938号公報(特許文献2)では、得られたポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、通常、乾燥および粉砕により粉末とし、その粉末を水、ないしは水とグリセリンの混合液に溶解または分散させてゲル状としたものが湿布剤やパップ剤等の基剤として用いられると記載されている。
しかし、パップ剤製造会社では、(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末とグリセリンと水を混合、攪拌する工程において、過度に粘度が高まって攪拌器のモーター負荷が大きくなったり、攪拌、混合が不均一になったりして安定した製造が困難となる問題があった。また、攪拌経過時間とともに粘度が変化するため、最終製品であるパップ剤の品質が不安定となる不具合も発生していた。
【特許文献1】特開2004−10831号公報
【特許文献2】特開平7−223938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献等に記載されているような、これまで知られているポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、水溶液における粘度が比較的高く、また、水溶液不溶解分も多いため、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を水溶液の状態で使用するに際し、溶解性や分散性が十分とはいえず、そのため作業性の面で、まだ改良の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者は、かなり大きな重量平均分子量を有し、重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が従来より極めて小さな特定な範囲にあるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物が、前記課題を解決することを見出した。
また、重合体の分子量、分子量分布および分子サイズ(平均RMS半径)の測定にあたり、検量線を作成する必要がなく、標準サンプルが不要な想定方法を見出した。この測定方法は、分析精度が高く、かつ極めて広い実用的な範囲で適用可能である。本発明における重量平均分子量、分散度および平均RMS半径は、この方法で測定した数値に基づいている。
すなわち、この発明の請求項1に記載の発明は、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物を重合させて得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物であって、重量平均分子量が200万〜400万であり、かつ重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が1.0〜1.3であるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物である。
【0006】
また、この発明の請求項2に記載の発明は、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸塩の割合が、モル比で45/55〜55/45である請求項1に記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物である。
【0007】
また、この発明の請求項3に記載の発明は、多角度光散乱検出器および視差屈折検出器により測定した平均RMS半径が220〜260nmである、請求項1または請求項2に記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物である。
【0008】
また、この発明の請求項4に記載の発明は、光重合開始剤の存在下、単量体混合物の水溶液に紫外線を含む光を照射して、単量体混合物を光重合させることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の製造方法である。
【0009】
また、この発明の請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末である。
【0010】
また、この発明の請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末であり、下記の性質を有する粉末である。
(1)該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を15秒攪拌した後の20℃における粘度(A)が200〜800mPa・sの範囲であり、
(2)該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を20分攪拌した後の20℃における粘度(B)が200〜800mPa・sの範囲であり、及び
(3)粘度Aに対する粘度Bの比(B/A)が0.9〜1.1の範囲である。
【0011】
また、この発明の請求項7に記載の発明は、請求項5または請求項6に記載の(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を含むパップ剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、水への溶解性や分散性に優れ、水溶液での取り扱いが容易となり、各種顔料等の分散剤、スケール抑制剤、洗浄用ビルダー、増粘剤、バインダー、医薬用の湿布剤やハップ剤の基剤などに有用なものであり、特に医薬用の湿布剤やハップ剤の基剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。この発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、この発明の要旨を変更しない限りにおいて、適宜変更実施可能なものである。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0014】
本発明において(メタ)アクリル酸塩とは、(メタ)アクリル酸の中和物を意味し、(メタ)アクリル酸をアルカリ金属、アンモニア、有機アミン等で中和してなる中和物であり、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸カルシウム、(メタ)アクリル酸マグネシウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムなどが例示され、これらは単独でも2種以上を併用してもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸ナトリウムが好ましい。本発明において、あらかじめ酸部分を中和した(メタ)アクリル酸塩を原料として使用してもよく、また、(メタ)アクリル酸を重合した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどにより部分的に中和させてもよい。
【0015】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物には、この発明の目的とする効果を阻害しない範囲で、他の単量体を共重合させることも可能である。かかる単量体としては、例えば、α−ヒドロキシアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸およびそれらの塩などが挙げられる。これらは、必要により1種または2種以上を、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩の合計量に対して、50モル%以下の範囲で用いることが可能である。
【0016】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物における、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩の割合は、通常、モルで30/70〜70/30であることが好ましく、さらに好ましくは45/55〜55/45である。(メタ)アクリル酸のモル比が、30%より少ないかあるいは70%を超える場合は、(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末とグリセリンと水を混合液における不溶解分が増加する傾向にある。
また、全単量体を基準とした(メタ)アクリル酸塩の割合は20〜80重量%であることが好ましい。
【0017】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩およびその他の単量体混合物をラジカル重合させることで得られる。なお、(メタ)アクリル酸およびその他の単量体と、酸を中和させる化合物であるアルカリ金属水酸化物、アンモニアなどとの混合物を重合させることも可能である。
重合方法としては、水溶液重合法、スラリー重合法、濁濁重合、乳化重合などの公知の重合法が挙げられるが、溶剤除去、溶剤の安全性、界面活性剤の混入の問題から、水溶液重合法が好ましい。
水溶液重合法は、前記単量体の水溶液を所定の濃度に調整し、反応系内の溶存酸素を十分に不活性ガスで置換した後、ラジカル重合開始剤を添加し、必要により、加熱や紫外線などの光照射することによって重合反応を行う方法である。
本発明においては、低温でも重合反応が可能で、反応進行率も良好であり、低重合物やゲル状物を低減できる、光開始剤の存在下、単量体混合物の水溶液に紫外線を含む光を照射して、単量体混合物を光重合させる方法が好ましい。
以下、光重合の方法について説明する。
【0018】
光重合開始剤としては、特に制限はなく、公知の光重合開始剤を適宜目的に応じて選択して使用する。例えば、2、2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2、2’−アゾビス(N、N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]などのアゾ系光重合開始剤、1−ベンゾイル−1−ヒドロキシシクロヘキサンおよびベンゾフェノン等のケトン、ベンゾインおよびそのアルキルエーテル、ベンジルケタール類、ならびにアントラキノン誘導体等が例示されるが、これらの中でもアゾ系光重合開始剤が好ましい。
【0019】
光重合開始剤の使用量は、全単量体に対して、10〜10000ppmであることが好ましく、より好ましくは10〜5000ppmである。光重合開始剤が10ppm未満の場合は、充分に重合が起こらず、また、10000ppmを超える場合は得られる重合体の重合度が低下する。
【0020】
前記連鎖移動剤は、得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の分子量およびその水溶液粘度の調整のため、また不溶解分の減少のために使用するものである。
連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール類、チオ酢酸などの硫黄含有化合物、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、亜燐酸、亜燐酸ナトリウムなどの亜燐酸系化合物、次亜燐酸ナトリウムなどの次亜燐酸系化合物が挙げられ、これらを単独または2種類以上併用してもよい。これらの連鎖移動剤の中でも、硫黄含有化合物が好ましく、さらに好ましくは、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸およびチオグリコール酸のいずれかである。
【0021】
連鎖移動剤の使用量は、全単量体に対して1〜500ppmであることが好ましく、より好ましくは1〜300ppmである。連鎖移動剤が1ppm未満では充分な効果があげられず、500ppmを超えると重合度が低くなり好ましくない。連鎖移動剤は得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の水溶液不溶解分に影響するので、その使用量は適宜調整することが望ましい。
【0022】
光重合する際に照射する光としては、紫外線および/または可視光線が用いられ、この中でも紫外線が好ましく用いられる。紫外線照度は、単量体の種類、光重合開始剤の種類や濃度、目的とする重合体の粘度、および重合時間を考慮して決定されるが、一般に0.01〜1000mW/cm2であることが好ましく、より好ましくは0.05〜100mW/cm2であり、更に好ましくは0.1〜10mW/cm2である。紫外線照度は、重合中一定であっても、または重合途中で変化させてもよい。光源としては、単量体を光重合させ得る紫外線および/または可視光線を放出し得るものであれば特に限定されず、例えば、発光ダイオード、捕虫器用・光化学用蛍光ランプ、蛍光青色ランプ、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、ブラックライト蛍光ランプ、ブラックライト水銀ランプ、ブラックライト電球形蛍光ランプ等を使用することができ、これらの中でも、発光ダイオードおよびブラックライト蛍光ランプ等を使用することが望ましい。光源は1種であっても、2種以上用いてもよい。
【0023】
なお、光重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物の水溶液に、紫外線を含む光を照射して光重合させる際に、光源と単量体混合物の水溶液の間に、波長330〜370nmの範囲の紫外線の透過率が80%以上の光透過性材料を介在させて光照射することが好ましい。つまり、光源から光が光透過性材料を透過して単量体混合物の水溶液に到達するようにする。これにより、波長330〜370nmの範囲の紫外線を有効に利用して光重合でき、単量体からポリマーへの転化率を大幅に向上させることができる。しかも、光の照度が大きくなるため、重合度にバラツキの少ない分散度の小さな(分子量分布の狭い)ポリマーを製造することができる。そのため、得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、水溶液とした場合に溶解性および分散性に優れ経時的な粘度変化が大幅に少なくなり、不溶解分も大きく減少することになる。
【0024】
また、光重合反応を行う雰囲気は空気中でも、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスでもよいが、通常は、酸素の存在による重合阻害を防止するため窒素、二酸化炭素等の不活性ガス雰囲気下、特に窒素雰囲気が好ましい。光重合反応は、通常、この不活性ガスが充填ないし供給された気密室中で行われる。
上記したように、光透過性材料としてはホウ珪酸ガラス、石英ガラス等が挙げられ、ホウ酸(B23)を5〜20%(特に10%〜16%)、SiO2を65〜90%(特に70〜85%)含有するホウ珪酸ガラスが好ましい。なお、透過率とは、分光放射照度計(例えば、ウシオ電機(株)製USR−40V)を用いて測定した値である。
【0025】
この光透過性材料は、上記の気密室の上面に設けられ、該気密室外部に設置された光源からの光を透過して内部の単量体混合物に照射できるようにしている。光透過性材料の形状は特に限定なく通常平板状であればよく、その厚さも特に限定はないが、光の透過性、強度の点から0.7mmから21mm程度であればよい。
【0026】
重合反応開始時においては、反応液を0〜80℃に保持することが好ましく、より好ましくは0〜30℃であり、更に好ましくは5〜15℃である。温度を保持するために冷却を必要とする場合があり、この冷却方法は特に限定されないが、通常、反応容器の外周を冷媒(例えば、冷水、冷メタノール等)等により冷却する。上記単量体混合物の水溶液の光重合反応は、バッチ式でも連続式でもいずれでもよい。光重合反応をバッチ式で行う場合には、光照射時間(重合時間)は1〜240分であることが好ましく、より好ましくは5〜120分であり、更に好ましくは15〜60分である。
【0027】
本発明の製造方法はバッチ式でも連続式でも行うことができるが、生産性に優れることから、連続重合方法を採用することが好ましい。
連続重合方法の装置の作動は具体的には以下の通りである。可動式ベルトの一方より、単量体混合物の水溶液を目的の深さを維持するように連続的に供給する。この場合、気密室内には、酸素による単量体混合物の重合阻害を防止するため、窒素等の不活性ガスを連続的に供給することが好ましい。当該ベルトは単量体混合物の水溶液と共に連続的に移動し、固定された光源の下に単量体混合物の水溶液が供給される。単量体混合物の水溶液は、当該光源から照射される光により重合する。
【0028】
ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を連続重合方法により製造する装置として、例えば、特開2002−3509号公報の図1に記載の装置が例示される。
【0029】
前記重合方法で得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、常法に従い、切断、粉砕、乾燥され、粉末製品とすることができる。粉砕条件は特に限定されないが、衝撃式あるいは回転式粉砕機を用い、乾燥は70〜140℃の条件にて熱風式乾燥機等で行えばよい。
【0030】
粉末の粉砕は83メッシュパス品とすることが好ましく、83メッシュパスかつ100メッシュオン品が特に好ましい。これらの粉末粒子の場合は、粉末粒子が均一(粒度分布がシャープ)になるため、粉末の水に対する溶解性や分散性が均一となる。
逆に、100メッシュパス品は、いわゆる「ままこ」の発生および水溶液粘度が低下する恐れがある。また、粉流動性が悪くなるため、輸送配管中で閉塞する恐れがある。
【0031】
なお、上記粉末のメッシュは、JIS−Z8801−1「試験用ふるい 金属製網ふるい」の規定に従う。また、メッシュパスとは、当該メッシュ(篩目開き)の篩を通過することを意味し、メッシュオンとは当該メッシュ(篩目開き)の篩を通過しないことを意味する。よって、83メッシュパスとは篩目開き0.180mmの篩を通過すること、100メッシュオンとは篩目開き0.150mmの篩を通過しないことを意味する。
【0032】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の重量平均分子量は200万〜400万であり、好ましくは220〜320万の範囲である。
また、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(Mw/Mn)は、1.0〜1.3であり、1.15〜1.25であることが好ましい。分散度が1.0に近づくと工業的に製造することが極めて困難であり、分散度が1.3を超えると、(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末とグリセリンと水を混合液における不溶解分が増加する傾向にある。
【0033】
また、本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の、多角度光散乱検出器および視差屈折検出器により測定した平均RMS半径が220〜260nmであることが好ましい。
平均RMS半径が220nm未満であると、パップ剤において保型性が悪くなり、パップ剤の不織布への裏抜け、はみ出しの原因となる恐れがあり、260nmを超えると、(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末とグリセリンと水を混合液における不溶解分が増加する恐れがある。
【0034】
また、本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末の20℃における0.2重量%水溶液の粘度は200〜600mPa・s程度であり、300〜550mPa・sであることが好ましい。0.2重量%水溶液の粘度が200mPa・s未満であるか、600mPa・sを超える場合は、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を水溶液で使用する場合の作業性が著しく低下する。
なお、0.2重量%水溶液の粘度は、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を水に十分に溶解して粘度が一定となるように溶解開始から24時間放置した後に、(株)東京計器製のBM型粘度計で、20℃、30rpmの条件で測定した値である。
また、本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物0.2重量%、グリセリン6.7重量%、および水93.1重量%からなる混合液の20℃における粘度が200〜800mPa・sであることが好ましく、さらに好ましくは300〜700mPa・sである。なお、粘度は、前記と同じように(株)東京計器製のBM型粘度計で、20℃、30rpmの条件で測定した値である。
【0035】
さらに、本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末は、従来のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末と異なり、水溶液とした時の粘度の大幅な変動を生じない点に特徴がある。具体的には次のような物性を有している。なお、粘度は上記と同じ条件で測定した値である。
(1)該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を15秒攪拌した後の20℃における粘度(A)が200〜800mPa・s(好ましくは300〜700mPa・s)の範囲であり、
(2)該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を20分攪拌した後の20℃における粘度(B)が200〜800mPa・s(好ましくは300〜700mPa・s)の範囲であり、及び
(3)粘度Aに対する粘度Bの比(B/A)が0.9〜1.1(好ましくは0.92〜1.08)の範囲である。
【0036】
上記のように、本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末は、水溶液とした直後の粘度と一定時間攪拌した後の粘度との差が極めて小さく、工業的な取り扱いが容易となり、作業性が飛躍的に向上する。
【0037】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末と、界面活性剤、グリセリン、水、顔料、充填剤、薬効成分などの各種添加剤とを混合・調製することにより、湿布剤またはハップ剤の基剤を製造することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、単に%および部の記載は、重量%および重量部を意味する。
【0039】
実施例1
(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム=50/50mol%)
反応槽としてポリプロピレン製トレーに、98%アクリル酸138g(1.88モル)、36%アクリル酸ナトリウム水溶液491g(1.88モル)、純水411gを含む単量体混合物の水溶液を入れ、該水溶液の温度を10℃に保持しながら、窒素にて溶存酸素を追い出した。その後、窒素気流下で、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩を0.28g(単量体に対して950ppm)、2−メルカプトエタノール0.0037gを純水で希釈して1%水溶液として投入して単量体混合物の水溶液を調整した。
次に、光透過性材料として厚さ5mmのホウ珪酸ガラス(コーニング社製、商品名パイレックス(登録商標))を介して、ピーク波長352nmである300〜450nmを放射する(株)東芝製ブラックライト蛍光ランプを使用して、ウシオ電機(株)製紫外線照度計UIT−150(UVD−S365)で、紫外線照度0.4mW/cm2となるように設置し、単量体水溶液に露光し、重合を開始した。
露光開始後、重合温度がピーク(60℃程度)となった後、300〜450nmを放射する(株)東芝製ブラックライト水銀ランプに切り替え、紫外線照度が6.0mW/cm2に設定し、30分照射し含水ゲル状物質を得た。該含水ゲル状物質をひき肉機で粉砕した後、乾燥し、衝撃式粉砕機を用いて粉砕して粉体を得た。
ポリアクリル酸部分中和物の分子量・分散度および平均RMS半径の測定結果を表1、ポリアクリル酸部分中和物の粉末の粘度の測定結果を表2、およびパップ剤評価結果を表3に示す。
【0040】
<分子量、平均RMS半径の測定>
下記の条件で、サイズ排除クロマトグラフィーにより試料を分離し、多角度光散乱検出器および示差屈折率検出器を用いて検出、分子量分布および分子サイズ(平均RMS半径)を求めた。
分析条件
検出器 多角度光散乱検出器 Wyatt technology DAWN HELEOS
示差屈折率検出器 Wyatt technology Optilab rEX
カラム Shodex SB−806M HQ
溶離液 Na2HPO4 4.0g/L溶液(pH=10.2NaOH調整)
流速 1.0mL/分
【0041】
<0.2%水溶液粘度の測定>
500mlコニカルビーカーに純水399.2gを入れ、ポリアクリル酸部分中和物0.8gを投入し、マグネチックスターラーで2時間攪拌し、0.2重量%水溶液を調整した。調製液をB型粘度計にて、20℃、30rpmの条件で粘度を測定した。
<0.2%グリセリン水分散液粘度の測定>
500mlビーカーにグリセリン10gを入れ、次にポリアクリル酸部分中和物0.3g投入し、30秒間攪拌した。その後、純水140gを入れ、15秒間攪拌し、ポリアクリル酸部分中和物0.2重量%、グリセリン6.7重量%、純水93.1重量%の分散液を調整した。調製液をB型粘度計にて、20℃、30rpmの条件で粘度を測定した。
その後、ジャーテスターにて150rpmで攪拌を継続し、10分後、20分後にB型粘度計にて、20℃、30rpmの条件で粘度を測定した。
<0.2%グリセリン水分散液粘度の経時変化の算出方法>
経時変化=(20分後の粘度/15秒後の粘度)
【0042】
<パップ剤評価>
以下の割合で配合して、得られた調製液を不織布に展延して、パップ剤を作製した。
パップ剤調整時の粘度上昇および液均一性、パップ剤の不織布への展延性、パップ剤の不織布に対する裏抜け、パップ剤の不織布に対するはみ出しの評価を行った。
ポリアクリル酸部分中和物 6.5部
カルボキシビニルポリマー 1.5部
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0部
ゼラチン 3.0部
グリセリン 20.0部
プロピレングリコール 5.0部
乾燥水酸化アルミニウムゲル 0.08部
ソルビタン脂肪酸エステル 0.3部
ポリオキシエチレン硬化ひまし油 0.5部
軽質流動パラフィン 3.0部
乳酸 1.0部
水 58.12部
【0043】
実施例2
(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム=50/50mol%)
2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩の投入量を0.22gに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリアクリル酸部分中和物の粉体を得た。
ポリアクリル酸部分中和物の分子量・分散度および平均RMS半径の測定結果を表1、ポリアクリル酸部分中和物の粉末の粘度の測定結果を表2、およびパップ剤評価結果を表3に示す。
【0044】
実施例3
(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム=55/45mol%)
98%アクリル酸154g(2.10モル)、36%アクリル酸ナトリウム水溶液448g(1.72モル)、純水438gに変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、ポリアクリル酸部分中和物粉体を得た。
ポリアクリル酸部分中和物の分子量・分散度および平均RMS半径の測定結果を表1、ポリアクリル酸部分中和物の粉末の粘度の測定結果を表2、およびパップ剤評価結果を表3に示す。
【0045】
実施例4
(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム=45/55mol%)
98%アクリル酸138g(1.82モル)、36%アクリル酸ナトリウム水溶液491g(1.88モル)、純水411gに変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、ポリアクリル酸部分中和物の粉体を得た。
ポリアクリル酸部分中和物の分子量・分散度および平均RMS半径の測定結果を表1、ポリアクリル酸部分中和物の粉末の粘度の測定結果を表2、およびパップ剤評価結果を表3に示す。
【0046】
比較例1
反応槽としてステンレス製ジュワー瓶に、98%アクリル酸を203g(2.76
モル)、36%アクリル酸ナトリウムを694g(2.66モル)、純水600gを混
合した後、単量体混合物の水溶液の温度を10℃に保持しながら、窒素にて溶存酸素
を追い出した。その後、窒素気流下で、t−ブチルハイドロパーオキサイドを0.0
135g、蟻酸ナトリウムを0.135g、過硫酸ナトリウムを0.0675g、エ
リソルビン酸ナトリウムを0.027g投入し、12時間放置した。その後、含水ゲ
ル状物質を粉砕した後、乾燥、粉砕して、ポリアクリル酸部分中和物の粉体を得た。
ポリアクリル酸部分中和物の分子量・分散度および平均RMS半径の測定結果を表1、ポリアクリル酸部分中和物の粉末の粘度の測定結果を表2、およびパップ剤評価結果を表3に示す。
【0047】
比較例2
蟻酸ナトリウムを0.0675gに、エリソルビン酸ナトリウムを0.009gに
変更した以外は、比較例1と同様な操作を行い、ポリアクリル酸部分中和物の粉体を
得た。
ポリアクリル酸部分中和物の分子量・分散度および平均RMS半径の測定結果を表1、ポリアクリル酸部分中和物の粉末の粘度の測定結果を表2、およびパップ剤評価結果を表3に示す。

【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
実施例1〜4は硫黄含有有機物を添加することにより、0.2%水溶液粘度の不溶解分が0〜0.2mlで、0.2%グリセリン水分散液粘度の経時変化が0.75以上の良好なポリマーを得た。重量平均分子量(Mw)は236〜292万と高分子量であり、分散度(Mw/Mn)が1.18〜1.21と分子量分布がシャープな重合体が得られた。また、平均RMS半径も大きく、リニアなポリマーで存在していると示唆され、パップ剤性能の低下原因の一つである低分子量が少ないと推定される。
その結果、パップ剤での評価結果は、すべての評価項目が良好な結果を示した。
【0052】
一方、比較例1は光重合でない重合方式により得られたポリアクリル酸ナトリウム部分中和物であり、0.2%水溶液粘度の不溶解分が2mlと多く、0.2%グリセリン水分散液粘度の経時変化が0.64と大きく、0.2%グリセリン水分散液粘度の15秒度の測定値が1300mPa・s以上と高粘度であった。
重量平均分子量(Mw)は143万と実施例1〜4と比較して相対的に低分子量であり、分散度(Mw/Mn)が1.32と分子量分布がブロードな重合体が得られた。
平均RMS半径が小さく、糸まり状のポリマーで存在していることを示唆しており、
パップ剤製造時の架橋反応が不十分となる原因と一つと考えられる。パップ剤の架橋反応が不十分であると裏抜けやはみ出しが発生すると推定される。それを立証するがごとく、パップ剤での評価結果は、すべての評価項目が不良な結果を示した。
また、比較例1と同じ方法で製造した比較例2も、比較例1と同様な傾向を結果が得られた。
【0053】
0.2重量%水溶液粘度が、ほぼ同一な粘度である場合のポリアクリル酸ナトリウム部分中和物の比較において、0.2重量%水溶液の不溶解分が0〜0.2mlであることは、パップ剤製造会社での製造時の安定、品質の安定の向上に寄与する。また、0.2重量%の上記ポリアクリル酸部分中和物、グリセリンを6.7重量%、純水93.1重量%からなる分散液のB型粘度計(20℃、30rpm)で測定した粘度が、15秒間のわずかな攪拌によっても低粘度であることは、工業的に取り扱い容易で、攪拌による経時的な粘度低下の少ないことを意味し、工業的に有利なポリアクリル酸ナトリウム部分中和物が提供できる。
さらに、実施例で得られた、重量平均分子量(Mw)は236〜292万と高分子量でありながら、分散度(Mw/Mn)が1.18〜1.21と分子量分布がシャープな重合体は、パップ剤でのすべての評価項目が良好な結果を示しており、パップ剤製造会社でのパップ剤の製造安定性、および品質安定性の向上が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、水溶液不溶解分が極めて少なく、水溶液における粘度が低く、また、経時変化も小さいため、水溶液の状態で使用するに際し、溶解性や分散性が良く、作業性の面で優れているので、各種顔料等の分散剤、スケール抑制剤、洗浄用ビルダー、増粘剤、バインダー、医薬用の湿布剤やハップ剤の基剤などに有用なものであり、特に医薬用の湿布剤やハップ剤の基剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物を重合させて得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物であって、重量平均分子量が200万〜400万であり、かつ重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が1.0〜1.3であるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸塩の割合が、モル比で45/55〜55/45である請求項1に記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物。
【請求項3】
多角度光散乱検出器および視差屈折検出器により測定した平均RMS半径が220〜260nmである、請求項1または請求項2に記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物。
【請求項4】
光重合開始剤の存在下、単量体混合物の水溶液に紫外線を含む光を照射して、単量体混合物を光重合させることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末。
【請求項6】
請求項5に記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末であり、下記の性質を有する粉末:
(1)該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を15秒攪拌した後の20℃における粘度(A)が200〜800mPa・sの範囲であり、
(2)該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を20分攪拌した後の20℃における粘度(B)が200〜800mPa・sの範囲であり、及び
(3)粘度Aに対する粘度Bの比(B/A)が0.9〜1.1の範囲である。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を含むパップ剤。

【公開番号】特開2008−88290(P2008−88290A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270561(P2006−270561)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】