説明

ポンプ装置

【目的】互いに噛み合う2つの外接ギヤを使ってオイルを吐出するギヤポンプにおいて、回転速度に伴って適正な吐出量を実現できるポンプ装置とすること。
【構成】ドライブギヤユニット2と、ドリブンギヤユニット3とからなるポンプ部Aと、ローラ案内部55と被案内柱56が形成されたベースフランジ5と、可動カム6と、ローラ案内部55に設置されるウェイトローラ7とからなる吐出制御部Bとからなること。ベースフランジ5は、ドリブンギヤユニット3のドリブンシャフト31が貫通すると共に回転自在とし、可動カム6はドリブンシャフト31の先端に固着され、ウェイトローラ7がベースフランジ5の回転と共に遠心力にて外方に移動してなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに噛み合う2つの外接ギヤを使ってオイルを吐出するギヤポンプにおいて、回転速度に伴って適正な吐出量を実現できるポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にギヤポンプは歯形や歯幅等によりその容量が決まり、歯間空間の容量と歯車の回転速度(ポンプ回転数)により吐出流量が決まる。このギヤポンプを例えば車両用エンジン内部にオイルを供給するオイルポンプとして用いる場合、ポンプ容量は駆動源となるエンジンの回転数が低く、ポンプ回転数が低くても潤滑に必要な量のオイルを供給できるように設定される。
【0003】
一方、エンジン回転数が高くなってポンプ回転数も大きくなると、必要となるオイルの量に対して過剰な量のオイルがエンジン内部に供給されてしまう。また必要以上に大きい駆動力がオイルポンプにより消費されてしまうためエンジンの出力損失を招き、効率が低下する恐れがある。
【0004】
上記課題を解決するものとして、ポンプ回転数が大きくなるに従って、駆動ギヤ及び従動ギヤの双方あるいは一方を軸方向に移動させることで軸方向の噛合い幅を小さくしてポンプ容量を小さくするという可変容量型のギヤポンプが知られている。この種のものとして、特許文献1が挙げられる。特許文献1のオイルポンプ1はケーシング3、戻しバネ6、
駆動歯車31、従動歯車61、駆動側支持軸30、伝達軸30c、従動側支持軸60、ギヤホルダ110を主体に構成された外接噛合型ギヤポンプである。
【0005】
特許文献1の図1及び図8に記載されたように、駆動歯車31及び従動歯車61が共に回転した時、吐出ポート5から吐出されたオイルの一部は内部流路133を介して閉塞空間25に供給される。そして閉塞空間25に供給されたオイルの油圧が後底面131bに対して前方に作用し、ギヤホルダ110は戻しバネ6の付勢力に抗する押圧力を前方軸方向に受ける。
【0006】
エンジンがアイドリング時では戻しバネ6の付勢力を上回る油圧による押圧力が発生し
ておらず、押圧力は戻しバネ6の付勢力によって打ち消され、ギヤホルダ110は付勢力によってその後底面132cが底面24にほぼ当接した状態で回転する。
【0007】
ポンプ回転数Nが上昇して第1回転数NAに達すると、吐出ポート5での油圧が高まり、閉塞空間25に供給されるオイルの油圧が高まり、アイドリング時よりも大きな押圧力がギヤホルダ110に作用する。これによりギヤホルダ110に作用する押圧力と付勢力とが軸方向において略釣り合う。
【0008】
さらに、ポンプ回転数Nが上昇して第1回転数NAを超えると、油圧の押圧力が戻しバネ6の付勢力を上回り、ギヤホルダ110は付勢力に抗して前方軸方向に摺動して戻しバネ6を圧縮させるために、駆動歯車31及び従動歯車61の噛み合い幅δは短くなる。
【0009】
この状態において、駆動歯車31と従動歯車61とが噛み合っていない領域が形成されるが、この領域に流入したオイルは吐出ポート5で排出されず、歯と歯との間に留まったままの状態となることにより、アイドリング時と比較してポンプ容量を小さくしているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−286147号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記構成には以下に述べる課題が存在している。戻しバネ6は、その時々の長さの大小によって付勢力が決まっているため、制御としては油圧による押圧力の大小による制御である。油圧が掛かる面積は一定のため、すなわち油圧の大小により制御を行っていることとなる。油圧は回転数によってある程度定まったものであるが、完全に定まるものでは無く、油温等の諸条件の差によって変化するものである。
【0012】
そのため、ある決まった回転数で制御を行いたかったとしても、油圧のバラツキの分だけずれた回転数で制御が行われてしまい、狙った通りの制御が行えず、効率等の向上に改善の余地があった。また上記制御を油圧で行う点は同じであるが、ソレノイドバルブの電気制御により油圧をON,OFFして歯車同士の軸方向の噛み合い幅δを増減させる方法も存在する。
【0013】
ソレノイドバルブの電気制御にて油圧をON,OFFする場合は、制御時に常に電気を流し続ける必要があるため効率はそれほど向上できない。また電気制御では故障の可能性を考慮する必要がある。そこで、本発明の目的(解決しようとする技術的課題)は、目標とした回転数にて適正な吐出量の制御を行うことができ、エネルギー損失が少なく、故障の確率が低いポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、ポンプハウジングと、ドライブギヤユニットと、ドリブンギヤユニットとからなるポンプ部と、ベースプレートに中心側寄りから外方に向かうに従い次第に上昇する傾斜路面を有するローラ案内部と被案内柱が形成されたベースフランジと、カムベース部と該カムベース部の外周付近に形成された複数のスライドガイドとローラ受部とが互い違いに形成された可動カムと、前記ローラ案内部に設置されるウェイトローラとからなる吐出制御部とからなり、前記ベースフランジは、前記ドリブンギヤユニットのドリブンシャフトが貫通すると共に回転自在とし、前記可動カムは前記ドリブンシャフトの先端に固着され、前記ウェイトローラが前記ベースフランジの回転と共に遠心力にて外方に移動してなるポンプ装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0015】
請求項2の発明を、請求項1において、前記ベースフランジの前記傾斜路面は、中心側寄りを緩傾斜面とし、外周側寄りを急傾斜面とし、前記可動カムのローラ受部の傾斜面は単一の傾斜面としてなるポンプ装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0016】
請求項3の発明を、請求項1において、前記可動カムのローラ受部の傾斜面は、中心側寄りを緩傾斜面とし、外周側寄りを急傾斜面とし、前記ベースフランジの前記傾斜路面は単一の傾斜面としてなるポンプ装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項4の発明を、請求項1,2又は3のいずれか1項の記載において、前記ポンプハウジングと、前記ベースフランジとの間には、該ベースフランジを回転自在に接続すると共に、前記ポンプハウジングと密封性を有して接続する固定フランジが装着されてなるポンプ装置としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明では、吐出制御部は、電気的な切り替にて行うものではなく、ドリブンギヤユニットのドリブンシャフトの回転を利用したものである。そのために、電気的な切替えのための電気エネルギーを使用しないものであり、エネルギーの効率を向上させることができる。
【0018】
また、吐出制御部では、ウェイトローラに対してドリブンシャフトによる遠心力をかけるようにするだけであり、電気的な故障の恐れが無いので製品の信頼性が向上する。また、ウェイトローラにかかる遠心力により可動カムを軸方向に移動させることでドリブンギヤを軸方向に移動させるため、制御が油温等の要因により回転数がバラツクことが無く、正確な制御が行える。
【0019】
請求項2の発明では、ベースフランジのローラ案内部が傾斜路面が緩傾斜面と急傾斜面とから構成されており、急傾斜面ではウェイトローラが急傾斜面を移動するときには、より大きい遠心力が必要とするものであるが、そのような遠心力を発生させる回転数に至るまではウェイトローラは移動することがない。
【0020】
そのために、ドリブンシャフトは軸方向正面側に移動せず、ドライブギヤとドリブンギヤとの噛合い範囲も一定期間は不変となり、特定の回転領域で一定の吐出量に維持することができる。急傾斜面を上れるだけの遠心力を発生する回転数に至ることにより、再度ドリブンシャフトは軸方向正面側に移動し始めるので吐出量や油圧の上昇を抑えることができる。請求項3の発明では、可動カムのローラ受部側の傾斜面に緩傾斜面と急傾斜面とを形成したので、請求項2と略同等の効果を奏する。請求項4の発明では、ポンプ部のオイルの密封性をより一層強固なものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(A)は本発明の構成を示す断面側面図、(B)は(A)の(ア)部拡大図である。
【図2】(A)はベースフランジの斜視図、(B)はベースフランジの正面図、(C)は(B)のY2−Y2矢視断面図である。
【図3】(A)は可動カムの斜視図、(B)は可動カムの背面図、(C)は(B)のY3−Y3矢視断面図である。
【図4】(A)はベースフランジと可動カムとが組合わせられた正面図、(B)はベースフランジに配置されたウェイトローラが遠心力によって外周側に移動する状態を示す正面図である。
【図5】(A)は図1(A)のY1−Y1矢視断面図、(B)はドライブギヤユニットとドリブンギヤユニットとがずれたときの図1(A)のY1−Y1矢視断面図である。
【図6】(A)は低回転域のウェイトローラとベースフランジとの動作を示す正面図、(B)は(A)の状態(ウェイトローラ位置)におけるベースフランジと可動カムとウェイトローラの縦断側面図、(C)は(A)の状態(ウェイトローラ位置)におけるドライブギヤユニットとドリブンギヤユニットとの動作を示す縦断側面図。
【図7】(A)は中回転域のウェイトローラとベースフランジとの動作を示す正面図、(B)は(A)の状態(ウェイトローラ位置)におけるベースフランジと可動カムとウェイトローラの縦断側面図、(C)は(A)の状態(ウェイトローラ位置)におけるドライブギヤユニットとドリブンギヤユニットとの動作を示す縦断側面図。
【図8】(A)は高回転域のウェイトローラとベースフランジとの動作を示す正面図、(B)は(A)の状態(ウェイトローラ位置)におけるベースフランジと可動カムとウェイトローラの縦断側面図、(C)は(A)の状態(ウェイトローラ位置)におけるドライブギヤユニットとドリブンギヤユニットとの動作を示す縦断側面図。
【図9】本発明の別の実施形態の要部縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の構成は、図1に示すように、主にポンプ部A,吐出制御部Bとから構成される。ポンプ部Aにおけるポンプハウジング1はポンプボディ11とポンプカバー部13とから構成される。ポンプボディ11及びポンプカバー部13は、アルミ合金製であるが、吐出圧が高圧となる場合には強度向上のために、鉄合金が使用されることもあり、またボディの軽量化を目的とする場合には、樹脂成形品でもかまわない。
【0023】
ポンプボディ11には、ドリブンギヤユニット室12bと、ドライブギヤユニット室12aとからなるポンプ室12が形成されている。前記ドリブンギヤユニット室12bとドライブギヤユニット室12aとは共に円筒形状の空隙として形成され、後述するドライブギヤユニット2とドリブンギヤユニット3が装着される〔図1(A)参照〕。
【0024】
ドライブギヤユニット2のドライブシャフト21は、前記ポンプ室12の背面側の側壁部付近まで軸支されつつ貫通し、ポンプボディ11の背面側における外部に突出する構成である〔図1(A)参照〕。ここで、本発明には、構成する部材において、方向を統一するために正面側と背面側とを設定する。
【0025】
正面側と背面側については、基本的に、ポンプボディ11のポンプ室12の開口側を正面部とし、閉塞されたボディ側壁側を背面側とする。そして、ドライブギヤユニット2,ドリブンギヤユニット3は、ポンプボディ11に装着された状態で、ポンプボディ11の正面側に対応する側をドライブギヤユニット2及びドリブンギヤユニット3の正面側とする。そして、ドライブギヤユニット2及びドリブンギヤユニット3の正面側とは反対側を背面側とする。正面側と背面側については、図面に適宜に記載されている。
【0026】
ドライブギヤユニット2のドライブシャフト21は、ポンプボディ11に対して回転自在であり、軸方向には移動不能(不動)に装着される。したがって、ドライブギヤ22も軸方向には移動不能である。ドライブシャフト21は、ポンプボディ11の背面側からの吐出部分が図示されないエンジン等に接続され、該エンジンよって回転し、前記ドライブシャフト21と共にドライブギヤ22が回転する。
【0027】
また、ドリブンギヤユニット3は、ドリブンシャフト31とドリブンギヤ32とから構成される。前記ドライブギヤ22及び前記ドリブンギヤ32は共に同一の外接歯車である〔図5(A)参照〕。ドリブンシャフト31は、ポンプボディ11の背面側には突出せず、ポンプボディ11の正面側に接続されたポンプカバー部13を貫通して、ポンプカバー部13の正面側から突出する(図1参照)。
【0028】
また、ドリブンシャフト31は、ポンプボディ11に対して、軸方向に移動可能に装着される。ドリブンシャフト31には、ドリブンギヤ32に対して背面側となる位置に隣接してスライドボス33が配置される。該スライドボス33は、ドリブンギヤ32と共に軸方向に移動する。
【0029】
スライドボス33は、円筒形状部の外周側面の一部に凹形円弧面33aとして形成されたものである。前記ポンプ室12のドリブンギヤユニット室12bには、軸方向に沿って凸部12cが形成されている。また、スライドボス33には、前記凸部12cが嵌合する案内溝部33bが軸方向に沿って形成されており、スライドボス33が軸方向に移動するときに軸周方向には不動となるように構成されている。
【0030】
ドリブンシャフト31には、ドリブンギヤ32に対して正面側となる位置に隣接して固定ボス34が配置される。該固定ボス34は中空円柱形状に形成されている。該固定ボス34についても、前記ドリブンギヤ32と共に軸方向に移動するが、軸周方向には不動である。また、固定ボス34は、正面側の軸方向に移動したときには、後述するポンプカバー部13に形成された円筒形状の窪みに挿入される。ドライブギヤユニット室12aとドリブンギヤユニット室12bとはドライブギヤ22とドリブンギヤ32箇所で連通し、ドライブギヤ22とドリブンギヤ32とが噛合うことができるようになっている。
【0031】
ポンプカバー部13は、ポンプボディ11の正面側で、ポンプ室12の開口を覆うように配置され、ポンプボディ11に密着且つ固定させる。ドライブシャフト21は、ポンプカバー部13に形成された軸支孔131に挿入され軸支される。前記軸支孔131は、滑り軸受としての役割を果たす。
【0032】
また、ポンプカバー部13には、摺動孔132が形成されている。該摺動孔132は、ドリブンシャフト31と共に前記固定ボス34及びドリブンギア32が摺動する。そして、ドリブンシャフト31の軸方向端部が摺動孔132から外部に突出する。ドリブンギヤユニット3は、ドリブンシャフト31,ドリブンギヤ32,スライドボス33,固定ボス34が共に軸方向移動を行い、ドライブギヤ22とドリブンギヤ32とが軸方向に相互にずれて、吐出量が変化するものである。
【0033】
また、ポンプカバー部13の摺動孔132には、ドリブンスプリング35が装着され、固定ボス34を背面側に向けて弾性付勢している。ドリブンスプリング35は、コイルバネが使用される。ドリブンスプリング35の背面側は固定ボス34の正面側に当接し、ドリブンスプリング35の正面側は、前記摺動孔132を貫通して、後述する吐出制御部Bの固定フランジ4の背面側に当接する。前記ドリブンスプリング35は、ドリブンギヤユニット3を軸方向背面側に弾性付勢する。
【0034】
前記ポンプカバー部13には、ポンプ室12や吸入口や吐出口に連通する油路に連結して、特に図示しないがスプールバルブが内蔵されることもある。スプールバルブの役目は、吐出圧が所定値を超えたときに、所定圧となるまで低下させるために配置されている。
【0035】
次に、吐出制御部Bについて説明する。該吐出制御部Bは、主に固定フランジ4と、ベースフランジ5と,可動カム6と,ウェイトローラ7とから構成される。固定フランジ4は、円板形状をなしており、該固定フランジ4の背面側が前記ポンプカバー部13の正面側に接合固着される。固定フランジ4の中心箇所には、ドリブンシャフト31が貫通する摺動軸孔41が形成され、該摺動軸孔41の周囲を円周状に包囲する円周突起状の位置決め突起42が背面側に形成されている(図1参照)。
【0036】
該位置決め突起42は、前記ポンプカバー部13の摺動孔132に挿入されるときの位置決めとしての役目をなす〔図1(B)参照〕。さらに、固定フランジ4の位置決め突起42の内方側には、円周状のバネ溝部43が形成されている。該バネ溝部43にドリブンスプリング35の正面側寄りの部分が挿入される。これにより軸方向長さを短くできる。
【0037】
固定フランジ4の位置決め突起42がポンプカバー部13の摺動孔132に挿入されることで、固定フランジ4がポンプカバー部13に対して正確に位置決めされつつ、接続固定される。固定フランジ4の正面側には、軸方向に突出する接合突起44が形成されている。該接合突起44には、凹形状部分にベアリング441が配置されている。固定フランジ4は、ポンプカバー部13に固着されており、軸方向及び周方向において不動である。
【0038】
ベースフランジ5は、ベースプレート51,ローラ案内部55及び被案内柱56等から構成される。ベースプレート51の中心には、挿入孔52が形成され、該挿入孔52には、ドリブンギヤユニット3のドリブンシャフト31が貫通される。ベースプレート51の中心には、正面側に正面円筒部53が形成され、背面側に背面円筒部54がそれぞれ形成されている。正面円筒部53は多角形状に形成されている〔図2(A),(B)参照〕。
【0039】
背面円筒部54は、前記固定フランジ4のベアリング441に圧入される(図1参照)。ベースフランジ5の正面側の外周付近には、複数のローラ案内部55と、複数の被案内柱56が形成されている。具体的には、ローラ案内部55及び被案内柱56はそれぞれ3個形成され、且つ120度の等間隔で、ローラ案内部55と被案内柱56とが互い違いとなる配列となっている〔図2(A),(B)参照〕。
【0040】
ローラ案内部55は、後述するウェイトローラ7のための傾斜路面551を有している(図2参照)。該傾斜路面551は、正面側より見ると直線路面であり、且つベースプレート51の直径中心から放射状となるように形成されている〔図2(B)参照〕。また、傾斜路面551は、緩傾斜面551aと急傾斜面551bの2つの異なる傾斜角度の路面から構成される〔図1(B),図2(C)参照〕。
【0041】
緩傾斜面551aは、ベースプレート51の中心側寄りに位置し、急傾斜面551bは、ベースプレート51の外周側寄りに形成されている。緩傾斜面551aは、ベースプレート51の中心側寄りの端部は、正面円筒部53に対向している〔図2(B)参照〕。そして、該正面円筒部53の対向する面は傾斜路面551の放射方向に対して直交する平坦当面551dとして形成されており、ウェイトローラ7は、運転停止時には平坦当面551dに当接した状態となる。
【0042】
また、前記傾斜路面551の正面側の軸方向端部には垂直面551cが形成されており、後述するウェイトローラ7の遠心力による外周側への移動のストッパとしての役目をなすものである。さらに傾斜路面551の幅方向(軸周方向)の中間箇所にはスリット552が一定幅で形成されている。
【0043】
傾斜路面551の幅方向両側には、案内壁面553,553が後述するウェイトローラ7よりも僅かに大きい間隔で形成されている〔図2(A),(B)参照〕。該案内壁面553,553は、後述するウェイトローラ7が傾斜路面551から脱落することを防止すると共に安定した状態で回転移動できるようにする役目をなす。被案内柱56は、ベースプレート51から垂直状に設けられた板状部材である。被案内柱56は、軸方向に直交する断面形状が細身又は狭幅の台形状に形成されている。
【0044】
可動カム6は、カムベース部61と、スライドガイド62と、ローラ受部63とから構成されている(図3参照)。カムベース部61は円板形状をなし、この中心に取付固定孔61aが形成されている。具体的には、略円板形状のカムベース部61の背面側且つ外周にスライドガイド62及びローラ受部63がそれぞれ3個形成され、且つ120度の等間隔で、スライドガイド62とローラ受部63とが互い違いとなる配列となっている〔図3(B)参照〕。スライドガイド62は、ガイド片621と立上り片622とから構成され、ガイド片621には、抱持部621aが形成されている。該抱持部621aは、外方に開放された略U字形状の空隙部である〔図3(A),(B)参照〕。
【0045】
ガイド片621は、立上り片622を介してカムベース部61に一体形成されたものである。ガイド片621とカムベース部61とは、平行(略平行も含む)である。前記抱持部621aには、合成樹脂,ゴム等の軟質な部材からなるスライド材621sが装着される。ローラ受部63は、カムベース部61の外周から直径方向外方に突出しつつ、背面側に向かって延出するように形成された部位である。
【0046】
ローラ受部63には傾斜面631が形成されており、該傾斜面631は、中心側から外周側に向かってカムベース部61から軸方向に離れるように形成された傾斜である。また、傾斜面631は、カムベース部61の背面側より見ると直線面であり、且つカムベース部61の直径中心から放射状となるように形成されている。該傾斜面631には、緩傾斜面631aと、急傾斜面631bの2面から形成される実施形態も存在する。この実施形態では、ベースフランジ5のローラ案内部55の傾斜路面551は単一の傾斜面である(図9参照)。
【0047】
ウェイトローラ7は、中空円筒形状に形成された部材である。該ウェイトローラ7の軸方向寸法は、前記ベースフランジ5におけるローラ案内部55の傾斜路面551の路幅よりも短く形成されている。ウェイトローラ7は、傾斜路面551上に配置され、その軸方向両端は、両案内壁面553,553によって傾斜路面551から脱落しないように保護される。
【0048】
前記ドリブンギヤユニット3のドリブンシャフト31は、前記ベースフランジ5の挿入孔52に遊挿される。このとき、ベースフランジ5の背面側は、固定フランジ4の正面側に対向するように設置される(図1参照)。ベースフランジ5は、ドリブンシャフト31に対して軸方向に摺動自在である。
【0049】
ベースフランジ5の正面側に、可動カム6の背面側が対向するように配置される(図1参照)。可動カム6は、取付固定孔61aの部位がドリブンシャフト31の正面側の軸方向端部にボルト等の固着具を介して固着される。つまり、ドリブンシャフト31の回転と共に可動カム6が回転する構造となる。
【0050】
このとき、ベースフランジ5のローラ案内部55と、可動カム6のローラ受部63とが対応し、さらに具体的には、ローラ案内部55のスリット552にローラ受部63が遊挿される。同様に被案内柱56とスライドガイド62が対応するように配置され、被案内柱56がスライドガイド62の抱持部621a内に収まるようにする。
【0051】
該抱持部621aにスライド材621sが装着された場合には、被案内柱56はスライド材621sに抱持される。また、それぞれのローラ案内部55とローラ受部63との間には、ウェイトローラ7が挟持されるようにして配置される。ウェイトローラ7は、ベースフランジ5が停止状態では、該ベースフランジ5の中心側寄りに位置している。つまり、ウェイトローラ7は、傾斜路面551の緩傾斜面551a上に位置している(図1、図6等参照)。
【0052】
次に、本発明の動作について説明する。まず、ドライブギヤユニット2のドライブシャフト21がエンジン等の原動機により回転し、ドライブギヤ22が回転する。ドライブギヤ22は、ドリブンギヤユニット3のドリブンギヤ32に回転伝達すると共に、ドリブンギヤ32がドリブンシャフト31に回転を伝達する。ドリブンシャフト31の回転と共に可動カム6が回転する。
【0053】
可動カム6は、スライドガイド62の抱持部621aがベースフランジ5の被案内柱56を抱持しているので、該被案内柱56を介してベースフランジ5を回転させる。ドライブギヤユニット2及びドリブンギヤユニット3の回転数が低いときには、ベースフランジ5のローラ案内部55に配置されたウェイトローラ7は、中心側寄りに位置しており、ドリブンギヤユニット3の回転数の上昇と共にベースフランジ5の回転数が上昇すると、ウェイトローラ7にかかる遠心力が大きくなり、ウェイトローラ7はベースフランジ5の外周側に向かって移動する。
【0054】
そのために、ウェイトローラ7がベースプレート51より軸方向に離れ、可動カム6のローラ受部63を押圧し、可動カム6を軸方向正面側に移動させる。可動カム6の軸方向正面側の移動によりドリブンシャフト31が軸方向正面側に移動し、ドリブンギヤ32が軸方向正面側に移動する。
【0055】
このドリブンギヤ32の軸方向移動により、ドリブンギヤ32とドライブギヤ22との噛合い範囲Lが小さくなるように変化する。また、ドリブンギヤユニット3の回転数が減少すると、ウェイトローラ7にかかる遠心力が小さくなり、ドリブンスプリング35の弾性力によって、ウェイトローラ7がベースフランジ5の中心側に移動し、ドリブンシャフト31が軸方向背面側に移動し、ドリブンギヤ32とドライブギヤ22との噛合い範囲Lが大きくなる。
【0056】
次に、エンジンの回転領域に応じたポンプの動作を説明する。まず、エンジンの低回転領域において、動作は図6に示されている。ベースフランジ5のローラ案内部55に配置されたウェイトローラ7は中心側寄りで、緩傾斜面551a上に位置する〔図6(A),(B)参照〕。ベースフランジ5は、低回転であり、ウェイトローラ7にかかる遠心力は小さい。
【0057】
また、ドリブンスプリング35の弾性力によりベースフランジ5と可動カム6との軸方向の間隔は狭くなっており、ウェイトローラ7は、ベースフランジ5のローラ案内部55の中心側寄りに押し付けられた状態である。これによって、ドライブギヤ22とドリブンギヤ32とは軸方向において噛合い範囲は、最大である。
【0058】
このときの噛合い範囲を基準として、その範囲をLとする。つまり、ドライブギヤ22とドリブンギア32とが軸方向の全体に亘って噛合う状態である。この状態で、ギヤ1回転あたりの吐出量はそれほど減少されること無く吐出される。ここで、エンジンは、低回転なので吐出量の絶対値自体は小さいが、回転数に比例するほど吐出量は小さくはならない。
【0059】
次に、エンジンの中回転領域において、動作は図7に示されている。ベースフランジ5が、中回転となると、ウェイトローラ7にかかる遠心力は大きくなり、ドリブンスプリング35の弾性力を超えて、ウェイトローラ7はローラ案内部55の傾斜路面551を中心側から外周側に向かって移動する。この中回転域におけるウェイトローラ7にかかる遠心力は、緩傾斜面551aのみを移動するものである。つまり、ウェイトローラ7は傾斜路面551の中間位置までしか移動しない〔図7(A)参照〕。
【0060】
そのため、緩傾斜面551aの外周側終端位置でウェイトローラ7は停止し、ウェイトローラ7の移動量だけ、可動カム6がドリブンシャフト31を軸方向正面側に移動させる。このときの可動カム6の軸方向正面側への移動量をd1とすると〔図7(B)参照〕、前記ドライブギヤ22とドリブンギア32との噛合い範囲は(L−d1)となる〔図7(C)参照〕。この状態で、ギヤ1回転あたりの吐出量は減少される。ここで、エンジンは、中回転なので吐出量の絶対値自体は低回転よりは増加するが、回転数に比例するほど増加せず、吐出量は抑制される。
【0061】
次に、エンジンの高回転領域において、動作は図8に示されている。ベースフランジ5が、高回転になると、ウェイトローラ7にかかる遠心力はさらに大きくなり、緩傾斜面551aと急傾斜面551bとの境目にて停止していたウェイトローラ7は、急傾斜面551bを外周側に向かって移動を開始する。ウェイトローラ7は、可動カム6のローラ受部63をさらに軸方向正面側に移動させる。
【0062】
これによって、可動カム6は軸方向正面側に停止時に対して移動量d2だけ移動し、ドリブンシャフト31は、同量だけ移動するので、ドライブギヤ22とドリブンギヤ32との噛合い範囲はL−d2となり、噛合い範囲はさらに小さくなる。ただし、エンジンは高回転なので吐出量の絶対値自体は大きいが、回転数に比例するほど大きくはならない。これによって、エンジンが高回転の場合に、過剰な吐出量となることを防止することができ、効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0063】
A…ポンプ部、1…ポンプハウジング、2…ドライブギヤユニット、
3…ドリブンギヤユニット、31…ドリブンシャフト、B…吐出制御部、
4…固定フランジ、5…ベースフランジ、51…ベースプレート、
55…ローラ案内部、551a…緩傾斜面、551b…急傾斜面、
56…被案内柱、6…可動カム、61…カムベース部、62…スライドガイド、
63…ローラ受部、631a…緩傾斜面、631b…急傾斜面、
7…ウェイトローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプハウジングと、ドライブギヤユニットと、ドリブンギヤユニットとからなるポンプ部と、ベースプレートに中心側寄りから外方に向かうに従い次第に上昇する傾斜路面を有するローラ案内部と被案内柱が形成されたベースフランジと、カムベース部と該カムベース部の外周付近に形成された複数のスライドガイドとローラ受部とが互い違いに形成された可動カムと、前記ローラ案内部に設置されるウェイトローラとからなる吐出制御部とからなり、前記ベースフランジは、前記ドリブンギヤユニットのドリブンシャフトが貫通すると共に回転自在とし、前記可動カムは前記ドリブンシャフトの先端に固着され、前記ウェイトローラが前記ベースフランジの回転と共に遠心力にて外方に移動してなることを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ベースフランジの前記傾斜路面は、中心側寄りを緩傾斜面とし、外周側寄りを急傾斜面とし、前記可動カムのローラ受部の傾斜面は単一の傾斜面としてなることを特徴とするポンプ装置。
【請求項3】
請求項1において、前記可動カムのローラ受部の傾斜面は、中心側寄りを緩傾斜面とし、外周側寄りを急傾斜面とし、前記ベースフランジの前記傾斜路面は単一の傾斜面としてなることを特徴とするポンプ装置。
【請求項4】
請求項1,2又は3のいずれか1項の記載において、前記ポンプハウジングと、前記ベースフランジとの間には、該ベースフランジを回転自在に接続すると共に、前記ポンプハウジングと密封性を有して接続する固定フランジが装着されてなることを特徴とするポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−202346(P2012−202346A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69053(P2011−69053)
【出願日】平成23年3月27日(2011.3.27)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】