説明

マイクロカプセル含有塗料の塗工方法、塗工装置、および該塗工方法により製造された塗工シート

【課題】マイクロカプセルを高濃度で配合した高粘度の塗料であっても、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にムラやスジなどの欠陥が少ない略均一な膜厚を有する塗工膜を形成することができる塗工方法、塗工装置、この塗工方法により製造された塗工シートを提供すること。
【解決手段】塗工方法は、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工する。このとき、塗料の粘度は、ずり速度10s−1のとき200〜2,500mPa・sであり、かつ、マイクロカプセルの粒子径に対するスロットダイのランド空間容積は、吐出幅1mmあたり40〜450mmである。塗工装置は、この塗工方法に用いられるスロットダイを備えている。塗工シートは、基材上にマイクロカプセルと結合剤とを含む塗工膜を有する。この塗工膜は、この塗工方法により形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工する方法、この塗工方法に用いられる塗工装置、ならびに、この塗工方法により製造された塗工シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工することにより、基剤上にマイクロカプセルと結合剤とを含む塗工膜を有する塗工シート(通常「マイクロカプセル含有シート」と呼ばれる。)が製造されている。このようなマイクロカプセル含有シートを製造する際には、従来公知の塗工方法、例えば、エアドクターコーター、ブレードコーター、カーテンコーターなどを用いる塗工方法が採用されてきた。従来の技術水準において要求される塗工膜の性能を達成するには、通常、これらの塗工方法を用いることで充分であった。
【0003】
しかし、その後の技術進歩に伴って、塗工膜の膜厚や表面性状に高い精度が要求されようになったが、上記のような従来公知の塗工方法では、高品質の塗工膜を有するマイクロカプセル含有シートを製造することはできなかった。そこで、新たな塗工方法として、例えば、特許文献1には、これまでマイクロカプセル含有シートの製造に用いられなかったコンマコーターやリップコーターなどを用いて、基材上に所定の物性を有する塗料を塗工する方法が開示されている。
【0004】
この塗工方法は、塗料のマイクロカプセル濃度、固形分濃度および粘度を規定すると共に、所定の塗工コーターを用いることにより、塗工膜の表面が均一であり、塗工膜中のマイクロカプセルが破壊や損傷を受けているものが非常に少なく、極めて緻密な状態で配置され、塗工膜全体にわたって均質な性能を発揮することができるマイクロカプセル含有シートが得られるというものである。
【0005】
また、光拡散シート、反射防止シート、防眩シートなどの機能性シートは、マイクロカプセル含有シートと同様に、塗工膜の膜厚や表面性状に高い精度が要求されるので、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上に粒子と結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工することにより製造されている。スロットダイを備えた塗工装置は、特許文献1に開示された塗工方法に用いられるコンマコーターやリップコーターに比べて、略均一な膜厚を有する塗工膜が得られるという点で優れているからである。例えば、特許文献2には、塗料に粒子やマイクロカプセルを配合することは記載されていないが、塗工膜の膜厚が25μmより薄い場合に、スロットダイのリップ先端と基材との間隔を塗工膜の湿潤膜厚に対して2倍以上にすると共に、スロットダイのポケット内の液圧を大気圧以上にすることにより、塗工膜の表面におけるスジの発生を防止するようにした塗工方法が開示されている。
【0006】
この塗工方法では、塗工膜の表面に発生するスジの原因がビードの耳部からスロットダイのランド内に引き込まれる気泡であることから、スロットダイのリップ先端と基材との間隔を塗工膜の湿潤膜厚に対して2倍以上にして、スロットダイの出口における塗料の液圧を負圧にすると共に、スロットダイのポケット内の液圧を大気圧以上にして、ランド内の塗料の圧損を大きくすることにより、ビードの耳部から気泡がスロットダイのランド内に引き込まれることを防止している。
【0007】
確かに、特許文献2に記載されているように、粘度が0.5〜100mPa・sである低粘度の塗料を塗工する場合には、上記のような塗工方法を採用すれば、塗工膜の表面にスジが発生することを防止することができるかもしれない。
【0008】
ところが、粒子としてマイクロカプセルを高濃度に配合した高粘度の塗料、例えば、ずり速度10s−1のときの粘度が200〜2,500mPa・sである塗料の場合には、特許文献2の教示内容に従って、ランド内における塗料の圧損を大きくすると、塗料がスロットダイから均一に吐出せず、塗工膜の表面にムラやスジなどの欠陥が生じるという問題が発生することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−41831号公報
【特許文献2】特開2003−236451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、マイクロカプセルを高濃度で配合した高粘度の塗料であっても、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にムラやスジなどの欠陥が少ない略均一な膜厚を有する塗工膜を形成することができる塗工方法、塗工装置、および該塗工方法により製造された塗工シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、種々検討の結果、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工するにあたり、スロットダイのランド内における塗料(さらに詳しくは、塗料に配合したマイクロカプセル)の通過性が、マイクロカプセルの粒子径に応じて、スロットダイのランド長およびランドクリアランスに大きく影響されることから、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積(=ランド長×ランドクリアランス×吐出幅)の比率が所定の範囲内にあるスロットダイを採用すれば、ずり速度10s−1のときの粘度が200〜2,500mPa・sである高粘度の塗料であっても、基材上にムラやスジなどの欠陥が少ない略均一な膜厚を有する塗工膜を形成することができることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工する方法であって、該塗料の粘度がずり速度10s−1のとき200〜2,500mPa・sであり、かつ、該マイクロカプセルの粒子径に対する該スロットダイのランド空間容積の比率が吐出幅1mmあたり40〜450mmであることを特徴とする塗工方法を提供する。
【0013】
本発明の塗工方法は、前記塗料の粘度がずり速度10s−1のとき500〜2,200mPa・sであり、かつ、前記マイクロカプセルの粒子径に対する前記スロットダイのランド空間容積の比率が吐出幅1mmあたり50〜300mmであることが好ましく、前記塗料の粘度がずり速度10s−1のとき1,000〜1,750mPa・sであり、かつ、前記マイクロカプセルの粒子径に対する前記スロットダイのランド空間容積の比率が吐出幅1mmあたり80〜210mmであることがより好ましい。
【0014】
本発明の塗工方法において、前記スロットダイのランド長は、好ましくは10〜50mm、より好ましくは15〜45mmである。前記スロットダイのランドクリアランスは、好ましくは、前記マイクロカプセルの粒子径の2.5〜10倍、より好ましくは、前記マイクロカプセルの粒子径の3〜8倍である。塗工膜の湿潤膜厚は、好ましくは、前記マイクロカプセルの粒子径の1.0〜1.8倍、より好ましくは、前記マイクロカプセルの粒子径の1.0〜1.6倍である。前記マイクロカプセルの粒子径は、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜60μmである。ここで、マイクロカプセルの粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、製品名「LA−910」、株式会社堀場製作所製)を用いて測定した体積平均粒子径を意味する。
【0015】
また、本発明は、スロットダイを備えた塗工装置であって、該スロットダイが本発明の塗工方法に用いられるスロットダイであることを特徴とする塗工装置を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、基材上にマイクロカプセルと結合剤とを含む塗工膜を有する塗工シートであって、該塗工膜が本発明の塗工方法により形成されたものであることを特徴とする塗工シートを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗工方法は、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工するにあたり、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積の比率が所定の範囲内にあるスロットダイを採用しているので、マイクロカプセルを高濃度に配合した高粘度の塗料であっても、塗料の吐出が塗工の長手方向および幅方向に略一定となり、塗工欠陥が発生しにくい。それゆえ、基材上にムラやスジなどの欠陥が少ない略均一な膜厚を有する塗工膜を形成することができる。
【0018】
本発明の塗工装置は、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積の比率が所定の範囲内にあるスロットダイを採用すればよいので、スロットダイ以外の部分は従来公知のスロットダイ方式の塗工装置を利用することができる。それゆえ、上記のような高品質の塗工膜を有する塗工シートを簡便に効率よく製造することができる。
【0019】
本発明の塗工シートは、マイクロカプセルを高濃度に配合した高粘度の塗料を塗工しているので、塗工膜中のマイクロカプセルは、略単層で緻密に配列している。それゆえ、得られた塗工シートは、マイクロカプセルの内容物に応じて、様々な機能性シートとして、高い性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の塗工方法に用いられる代表的なスロットダイの構造を概略的に示す分解斜視図である。
【図2】図1に示すスロットダイの断面形状を概略的に示す断面図である。
【図3】塗工時における図2に示すスロットダイの先端部を概略的に示す拡大部分断面図である。
【図4】本発明の塗工方法に用いられる代表的な塗工方式である連続塗工方式における基材とスロットダイとの好適な位置関係を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の塗工方法に用いられる代表的な塗工方式である枚葉塗工方式における基材とスロットダイとの好適な位置関係を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪塗工方法≫
本発明の塗工方法は、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工する方法であって、該塗料の粘度がずり速度10s−1のとき200〜2,500mPa・sであり、かつ、該マイクロカプセルの粒子径に対する該スロットダイのランド空間容積(=ランド長×ランドクリアランス×吐出幅)の比率が吐出幅1mmあたり40〜450mmであることを特徴とする。
【0022】
すなわち、本発明の塗工方法は、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料、特にずり速度10s−1のときの粘度が200〜2,500mPa・sである高粘度の塗料を塗工するにあたり、マイクロカプセルの粒子径に対するスロットダイのランド空間容積の比率を最適化することにより、塗料の吐出が塗工の長手方向および幅方向に略一定になり、塗工欠陥が発生しにくくなることを利用して、基材上にムラやスジなどの欠陥が少ない略均一な膜厚を有する塗工膜を形成しようというものである。
【0023】
<スロットダイ>
本発明の塗工方法には、スロットダイを備えた塗工装置を用いる。ただし、塗料に配合するマイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積の比率が所定の範囲内にあるスロットダイを採用する。具体的には、塗料に配合するマイクロカプセルの粒子径に対するスロットダイのランド空間容積の比率は、吐出幅1mmあたり40〜450mmの範囲内に設定される。このような範囲内の比率を有するスロットダイを採用すれば、ずり速度10s−1のときの粘度が200〜2,500mPa・sである高粘度の塗料であっても、基材上にムラやスジなどの欠陥が少ない略均一な膜厚を有する塗工膜を形成することができる。
【0024】
塗料に配合するマイクロカプセルの粒子径に対するスロットダイのランド空間容積の比率は、通常は、ずり速度10s−1のときの粘度が200〜2,500mPa・sである塗料を用いる場合に、吐出幅1mmあたり40〜450mmの範囲内に設定されるが、好ましくは、ずり速度10s−1のときの粘度が500〜2,200mPa・sである塗料を用いる場合に、吐出幅1mmあたり50〜300mmの範囲内に設定され、より好ましくは、ずり速度10s−1のときの粘度が1,000〜1,750mPa・sである塗料を用いる場合に、吐出幅1mmあたり80〜210mmの範囲内に設定される。
【0025】
本発明の塗工方法に用いる塗工装置には、例えば、図1に示すスロットダイ10が採用される。図1において、スロットダイ10は、一対のブロック11から構成され、その間にシム12が挟持されている。シム12は、一対のブロック11の間に、ランドと呼ばれる空隙を形成する。シム12の厚さを適宜設定することにより、z軸方向におけるランドの間隔(すなわち、下記のランドクリアランスLc)を調整することができる。なお、シム12は、必ずしも一対のブロック11と別の形で用いる必要はなく、例えば、一方または両方のブロック11の互いに対向する面側にシム12と同様の機能を有する段差を設けてもよい。この場合、ブロック11における段差の高さがz軸方向におけるランドの間隔となる。x軸方向におけるランドの幅は、吐出幅Wと呼ばれる。スロットダイ10の吐出幅Wは、基材上に形成する塗工膜が塗工の幅方向に所望の幅を有するように、適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0026】
一対のブロック11の基部には、その互いに対向する面側に、x軸方向に伸びる溝が形成されており、両方の溝からマニホールドが構成される。マニホールドは、スロットダイ10に供給された塗料をx軸方向に拡げて貯留することにより、塗料をランドの幅全体にわたって略均一に供給するように機能する。マニホールドの形状や寸法は、従来公知のスロットダイにおけるマニホールドの形状や寸法と同様に適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0027】
通常、マニホールドに塗料を送り込むために、一方のブロック11の基部には、1個の塗料供給口が設けられているが、一方または両方のブロック11に複数個の塗料供給口を設けてもよい。なお、マニホールドは、必ずしもブロック11に設ける必要はなく、例えば、一方または両方のブロック11に複数個の塗料供給口をx軸方向に直列して設けることにより、塗料をランドの幅全体にわたって略均一に供給するようにしてもよい。
【0028】
一対のブロック11およびシム12の基部には、z軸方向に貫通する複数個の孔が設けられ、例えば、ボルトおよびナットを用いて、シム12を挟持した状態で、一対のブロック11が締結される。なお、一対のブロック11およびシム12を締結するための貫通孔は、必ずしも一対のブロック11およびシム12の基部に設ける必要はなく、一対のブロック11およびシム12において、塗料が接触する部分に干渉することがない任意の位置に設ければよい。そして、スロットダイ10の先端部、すなわち一対のブロック11の先端部には、一対のリップ13が形成されている。リップ13の表面は、xz平面に平行な平面または任意の曲面から構成されている。
【0029】
図1に示すスロットダイ10は、x軸方向の中央部付近をyz平面で切断すると、図2に示すような断面形状を有する。図2において、スロットダイ10は、マニホールド14から一対のリップ13に伸びるランド15を有する。マニホールド14から一対のリップ13までのランド15の長さは、ランド長Lと呼ばれる。ランド長Lは、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積の比率が所定の範囲内になるように、適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは10〜50mm、より好ましくは15〜45mmである。ランド長Lが短すぎると、塗工の幅方向における塗料の吐出量分布が悪くなり、塗工膜の表面にムラが生じることがある。逆に、ランド長Lが長すぎると、ランド15内における塗料の圧損が大きくなり、塗料がランドから吐出しない(すなわち、塗工できない)ことがある。
【0030】
塗工時における図2に示すスロットダイ10の先端部を図3に示す。図3において、塗料20は、ランド15内を移動して、スロットダイ10の先端部から吐出される。このとき、スロットダイ10をz軸の負方向に移動させるか、および/または、基材30をz軸の正方向に移動させることにより、基材30上に塗料20が塗工されて、湿潤膜厚Tの塗工膜40が形成される。なお、図3は、枚葉塗工方式により塗工を行う場合を示しているが、本発明の塗工方法は、枚葉塗工方式に限定されることはなく、例えば、連続塗工方式により塗工を行ってもよい。
【0031】
塗工膜40中のマイクロカプセルは、通常、略単層で緻密に配列していることが好ましいので、塗工膜40の乾燥後の膜厚(すなわち、乾燥膜厚)は、マイクロカプセルの粒子径と同程度になるように設定される。塗工膜40の湿潤膜厚Tは、好ましくは、乾燥膜厚の105%〜180%になるように、塗料20に配合したマイクロカプセルの粒子径に応じて、適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは、マイクロカプセルの粒子径の1.0〜1.8倍、より好ましくは、マイクロカプセルの粒子径の1.0〜1.6倍である。塗工膜40の湿潤膜厚Tは、スロットダイ10の先端部から吐出される塗料20の流量や、スロットダイ10および/または基材30の移動速度(すなわち、塗工速度)により、所望の値に調整することができる。
【0032】
z軸方向におけるリップ13の長さは、リップ長Laと呼ばれる。リップ長Laは、好ましくは0.02〜5mm、より好ましくは0.02〜1mmである。なお、左右のリップ長Laは、同一であっても相異なっていてもよい。リップ長Laが短すぎると、スロットダイ10の先端部を精密に加工することが困難になることがある。逆に、リップ長Laが長すぎると、リップ13が塗工膜40を引きずることにより、塗工膜40の表面にスジ状の欠陥が発生することがある。
【0033】
z軸方向におけるランド15の間隔は、ランドクリアランスLcと呼ばれる。ランドクリアランスLcは、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積の比率が所定の範囲内になるように、塗料20に配合したマイクロカプセルの粒子径に応じて、適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは、マイクロカプセルの粒子径の2.5〜10倍、より好ましくは、マイクロカプセルの粒子径の3〜8倍である。ランドクリアランスLcが小さすぎると、塗料20に配合したマイクロカプセルがランド15内に引っかかって塗料20の吐出が不均一になり、塗工膜40の表面にスジ状の欠陥が発生することがある。逆に、ランドクリアランスLcが大きすぎると、ランド15内における塗料20の流れが不安定になり、塗工膜40の表面にムラが発生することがある。
【0034】
リップ13から基材30までの距離は、ギャップ長Gと呼ばれる。ギャップ長Gは、基材30上に形成する塗工膜40の湿潤膜厚Tに応じて、適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは50〜150μm、より好ましくは80〜120μmである。ギャップ長Gが短すぎると、ギャップ長Gより寸法の大きい異物が未塗工の基材30上に存在する場合、この異物が塗工時にスロットダイ10のリップ13と衝突して、塗工膜40の形成を妨害することがある。逆に、ギャップ長Gが長すぎると、スロットダイ10の先端部から吐出された塗料20の流れが不安定になり、塗工膜の表面にムラが発生することがある。
【0035】
スロットダイ10を構成する材料は、従来公知のスロットダイに用いられる材料であれば、いかなる材料も用いることができ、特に限定されるものではない。
【0036】
スロットダイ10は、従来公知の機械工作により、自ら作製してもよいし、従来公知の塗工装置に具備されたスロットダイを利用してもよい。ただし、いずれの場合も、塗料に配合するマイクロカプセルの粒子径に対するスロットダイのランド空間容積の比率が所定の範囲内にあることが重要である。
【0037】
<塗料>
本発明の塗工方法に用いる塗料は、マイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料であって、ずり速度10s−1のときの粘度が通常は200〜2,500mPa・s、好ましくは500〜2,200mPa・s、より好ましくは1,000〜1、750mPa・sである高粘度の塗料である。ここで、塗料の粘度は、粘度・粘弾性測定装置(例えば、製品名「レオストレスRS6000」、HAAKE社製)および35mmφパラレルプレートを用いて測定した、ずり速度10s−1のときの粘度を意味する。塗料の粘度が低すぎても高すぎても、基材上にムラやスジなどの欠陥が少ない略均一な膜厚を有する塗工膜を形成できないことがある。
【0038】
塗料に配合するマイクロカプセルとしては、塗工シートの用途に応じて、従来公知のマイクロカプセルの中から適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、比較的硬いマイクロカプセル(例えば、メルカプト基を有するアミノ樹脂で構成される内殻とエポキシ樹脂で構成される外殻とを有する殻体に内容物を内包しているマイクロカプセル)から、比較的柔らかいマイクロカプセル(例えば、ゼラチン・アラビアガムの殻体に内容物を内包しているマイクロカプセル)まで、種々様々なマイクロカプセルを用いることができる。マイクロカプセルの具体例としては、例えば、特開2004−41831号公報や特開2008−161859号公報に記載されているマイクロカプセルが挙げられる。
【0039】
マイクロカプセルは、ある程度の柔軟性を有しており、その形状は、外部圧力により変化するので、特に限定されるものではないが、外部圧力がない場合には、マイクロカプセルの強度や、マイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料の塗工性を考慮して、球状などの粒子状であることが好ましい。
【0040】
マイクロカプセルの粒子径は、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜60μmである。ここで、マイクロカプセルの粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、製品名「LA−910」、株式会社堀場製作所製)を用いて測定した体積平均粒子径を意味する。マイクロカプセルの粒子径が小さすぎると、マイクロカプセルの製造や取り扱いが困難になったり、マイクロカプセルが略単層で緻密に配列している塗工膜を有する塗工シートが得られなかったりすることがある。逆に、マイクロカプセルの粒子径が大きすぎると、マイクロカプセルの強度が不充分になり、塗工時にマイクロカプセルの破壊や損傷が多くなることがある。
【0041】
マイクロカプセルの内容物は、目的とする塗工シートの機能に応じて、適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、光拡散剤、光吸収剤、熱線吸収剤、紫外線吸収剤、香料、防虫剤、蓄熱剤、接着剤、粘着剤、磁性体、顔料、染料などが挙げられる。これらの内容物は、必要に応じて、エマルション、分散液または溶液の形態にすることができる。
【0042】
塗料に配合する結合剤は、得られた塗工膜において、マイクロカプセルが全体として面状になるように、略単層で緻密に配置されており、その配置を維持することができるように、マイクロカプセルを固定する役割を果たしている。
【0043】
塗料に配合する結合剤としては、特に限定されるものではなく、従来公知の結合剤(すなわち、バインダー樹脂)を用いることができる。例えば、特開2004−41831号公報に記載されているバインダー樹脂が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
結合剤の形態としては、特に限定されるものではなく、溶剤可溶型、水溶性型、エマルション型、分散型(水や有機溶剤などの任意の分散媒を使用することができる)などが挙げられる。
【0045】
塗料に配合するマイクロカプセルと結合剤との比率は、固形分の質量比で、好ましくは1:0.1〜1:1、より好ましくは1:0.1〜1:0.8である。マイクロカプセルの配合量が多すぎると、得られた塗工膜において、マイクロカプセルを結合剤で固定することができず、結合剤の役割を期待できないことがある。逆に、マイクロカプセルの配合量が少なすぎると、マイクロカプセルが略単層で緻密に配列している塗工膜を有する塗工シートが得られないことがある。
【0046】
塗料に含まれる固形分の濃度は、塗料の粘度が所定の範囲内になるように、適宜調整すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは35〜70質量%、より好ましくは40〜65質量%である。固形分の濃度が低すぎても高すぎても、基材上にムラやスジなどの欠陥が少なく略均一な膜厚を有する塗工膜を形成できないことがある。
【0047】
塗料に配合する溶媒としては、結合剤の種類に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではなく、従来公知の溶媒を用いることができる。例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶媒;酢酸ブチル、酢酸エチル、セロソルブアセテートなどのエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶媒;などの有機溶媒や水などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0048】
塗料には、必要に応じて、他の成分を配合することができる。他の成分としては、例えば、分散剤、粘度調整剤、レベリング剤、保存剤、消泡剤などが挙げられる。他の成分を配合する場合、その含有割合は、マイクロカプセルに由来する所望の機能を発揮する塗工膜が得られる範囲内である限り、特に限定されるものではない。
【0049】
塗料を調製する方法は、従来公知の方法を用いればよく、特に限定されるものではないが、例えば、マイクロカプセル、結合剤、溶媒、および、必要に応じて、他の成分を所定の割合で混合した後、減圧下または遠心力で脱泡・脱気することにより、容易に調製することができる。塗料を脱泡・脱気しておけば、得られた塗工膜において、ピンホールが発生することや、隣接するマイクロカプセルの間に、あるいは、基材とマイクロカプセルとの間に、気泡による隙間が発生することを大きく低減することができる。また、塗料の粘性が若干低下するので、より安定して塗工することができる。その結果、基材上にムラやスジなどの欠陥が少ない略均一な膜厚を有する塗工膜を形成することができる。
【0050】
<基材>
本発明の塗工方法に用いる基材としては、上記のような塗料を塗工した場合に、マイクロカプセルと結合材とを含む塗工膜を形成できる限り、特に限定されるものではないが、例えば、プラスチック製のフィルムやプレート、ガラス基板、金属箔、金属基板などが用いられる。ここで、プラスチック製のフィルムやプレートのうち、フィルムとは、可撓性を有する基材を意味し、プレートとは、可撓性を有しない基材を意味する。なお、フィルムは、シートを含む概念である。プラスチック製のフィルムやプレートを構成する材質としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂のうち、ポリエステル樹脂が好適であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)が特に好適である。
【0051】
基材の厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは20μm〜5mm、より好ましくは50μm〜2mmである。基材の厚さが薄すぎると、プラスチック製のフィルムの場合、シワが発生しやすくなることがある。逆に、基材の厚さが厚すぎると、プラスチック製のフィルムの場合、ロール状に巻回したときなどに巻き径が大きくなって取り扱いが困難になることや、使用後の廃棄物量が増加することがある。また、プラスチック製のプレートやガラス基板の場合、質量が大きくなって取り扱いが困難になることや、使用後の廃棄物量が増加することがある。
【0052】
<塗工>
本発明の塗工方法において、塗工は、例えば、以下のようにして行われる。まず、塗工装置におけるスロットダイの先端部を基材の表面に所定の間隔(すなわち、ギャップ長)をあけて接近させる。次いで、例えば、ポンプなどで圧力をかけることにより、塗料を、1個または複数個の供給口からスロットダイに供給する。スロットダイに供給された塗料は、マニホールドの長手方向に拡がり、その全体を満たした後、ランドを通じて、先端部から吐出される。吐出された塗料は、基材上に移行し、スロットダイおよび/または基材の移動により、塗工膜を形成する。
【0053】
塗工を行う方式としては、例えば、連続塗工方式、枚葉塗工方式などが挙げられる。連続塗工方式とは、例えば、ロール状の基材を引き出し、ロールに沿って走行させながら、基材上に塗料を連続して塗工し、形成された塗工膜を乾燥させた後、得られた塗工シートをロール状に巻回する方式である。枚葉塗工方式とは、例えば、テーブル上に載置された基材に1枚ずつ塗料を塗工し、形成された塗工膜を乾燥させた後、得られた塗工シートを回収する方式である。これらの塗工方式のうち、連続塗工方式は、基材がプラスチック製のフィルムまたは金属箔である場合に適しており、枚葉式塗工方式は、基材がプラスチック製のプレート、ガラス基板または金属基板である場合に適している。
【0054】
本発明の塗工方法において、基材とスロットダイとの位置関係は、特に限定されるものではないが、例えば、図4および図5に示すような位置関係が好適である。具体的には、連続塗工方式では、図4(a)に示すように、スロットダイ10から塗料を水平方向の右向き(または左向き)に吐出させ、1本のロール50に沿って、矢印Dの方向に走行する基材30に塗工するか、あるいは、図4(b)に示すように、スロットダイ10から鉛直方向の上向きに吐出させ、1本のロール50に沿って、矢印Dの方向に走行する基材30に塗工するか、あるいは、図4(c)に示すように、スロットダイ10から塗料を水平方向の右向き(または左向き)に吐出させ、2本のロール50に沿って、矢印Dの方向に走行する基材30に塗工するか、あるいは、図4(d)に示すように、スロットダイ10から塗料を鉛直方向の上向きに吐出させ、2本のロール50に沿って、矢印Dの方向に走行する基材30に塗工することが好ましい。また、枚葉塗工方式では、図5に示すように、スロットダイ10から鉛直方向の下向きに吐出させ、テーブル60上に載置され、矢印Dの方向にテーブル60と共に走行する基材30に塗工することが好ましい。この場合、テーブル60と共に基材30を走行させる代わりに、あるいは、テーブル60と共に基材30を走行させながら、スロットダイ10を矢印Dと逆方向に走行させてもよい。
【0055】
スロットダイ10の先端部から吐出される塗料の流量は、吐出幅や塗工速度および塗工膜の湿潤膜厚Tに応じて、適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、吐出幅1mmあたり、好ましくは0.1〜2.0mm/s、より好ましくは0.1〜1.4mm/sである。塗料の流量が少なすぎても多すぎても、ムラやスジなどの欠陥が少なく略均一な膜厚を有する塗工膜を形成できないことがある。
【0056】
スロットダイ10および/または基材30の移動速度(すなわち、塗工速度)は、量産性や塗工品質に応じて、適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。塗工速度が遅すぎても速すぎても、ムラやスジなどの欠陥が少なく略均一な膜厚を有する塗工膜を形成できないことがある。1枚ごとに塗工操作が必要な枚葉塗工方式であれば、塗工中にギャップ長などの塗工条件を調整する必要があるので、塗工速度を1〜15mm/sの範囲内で設定することが好ましい。また、連続塗工方式であれば、ギャップ長など塗工条件を調整した後、連続して塗工できるので、塗工速度を速くすることができる。この場合は、15〜170mm/sの範囲内で設定することが好ましい。
【0057】
基材上に形成された塗工膜は、必要に応じて、従来公知の乾燥方法を用いて、乾燥させてもよい。乾燥温度や乾燥時間などの乾燥条件は、塗工膜の表面状態などを考慮して、適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0058】
かくして得られた塗工シートは、例えば、連続塗工方式では、ロール状に巻回した状態で、また、枚葉塗工方式では、1枚ずつ積層させた状態で、保存および/または運搬することができる。なお、塗工シートの癒着を防止するために、塗工膜の表面に、剥離シートを貼着しておいてもよい。
【0059】
≪塗工装置≫
本発明の塗工装置は、スロットダイを備えた塗工装置であって、該スロットダイが本発明の塗工方法に用いられるスロットダイであることを特徴とする。本発明の塗工装置は、スロットダイ方式の塗工装置におけるスロットダイが本発明の塗工方法に用いられるスロットダイであること以外は、従来公知のスロットダイ方式の塗工装置と同様である。それゆえ、本発明の塗工方法に用いられるスロットダイ以外の部分、例えば、スロットダイを駆動させる機構やスロットダイに塗料を供給する機構、基材を走行させる機構などは、従来公知のスロットダイ方式の塗工装置と同様に構成すればよい。すなわち、本発明の塗工装置は、従来公知のスロットダイ方式の塗工装置におけるスロットダイを本発明の塗工方法に用いられるスロットダイに置き換えることにより得られる。
【0060】
≪塗工シート≫
本発明の塗工シートは、基材上にマイクロカプセルと結合剤とを含む塗工膜を有する塗工シートであって、該塗工膜が本発明の塗工方法により形成されたものであることを特徴とする。本発明の塗工シートは、基材上の塗工膜が、本発明の塗工方法を用いて、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工することにより形成されたものであること以外は、従来公知の塗工シートと同様である。それゆえ、本発明の塗工方法を用いること以外の部分、例えば、基材の種類や厚さ、マイクロカプセルの種類や配合量、結合剤の種類や配合量、溶媒の種類や配合量などは、従来公知の塗工シートの場合と同様に選択または調整すればよい。すなわち、本発明の塗工シートは、従来公知の塗工シートを製造するにあたり、基材上にマイクロカプセルと結合剤とを含む塗工膜を形成する方法を本発明の塗工方法に置き換えることにより得られる。
【0061】
本発明の塗工シートは、塗料に配合するマイクロカプセルの内容物に応じて、例えば、光拡散シート、反射防止シート、防眩シート、熱線吸収シート、紫外線吸収シート、芳香シート、防虫シート、蓄熱シート、接着シート、粘着シート、磁性シート、カラーシートなどの機能性シートとして有用である。これらの機能性シートのうち、いくつかは従来公知であるが、その機能を発揮する塗工膜を形成する方法を本発明の塗工方法に置き換えることにより、本発明の塗工シートが得られる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
まず、マイクロカプセルの粒子径の測定方法、塗料粘度の測定方法、塗工時の湿潤膜厚の算出方法、平均乾燥膜厚および標準偏差の算出方法、ならびに、塗工シートの評価方法について説明する。
【0064】
<マイクロカプセルの粒子径>
マイクロカプセルの粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(製品名「LA−910」、株式会社堀場製作所製)を用いて、体積平均粒子径を測定した。
【0065】
<塗料粘度>
粘度・粘弾性測定装置(製品名「レオストレスRS6000」、HAAKE社製)および35mmφパラレルプレートを用いて、ずり速度10s−1のときの粘度を測定した。
【0066】
<塗工時の湿潤膜厚>
スロットダイから吐出する塗料の量(mm)を塗工面積(mm)で除して、塗工時の湿潤膜厚(mm)を算出した。
【0067】
<平均乾燥膜厚および標準偏差>
マイクロメーター(製品名「MDC−SB」、株式会社ミツトヨ製)を用いて、塗工膜を充分に乾燥させた後の塗工シートの厚さ(μm)と未塗工の基材の厚さ(μm)とを測定し、乾燥膜厚(μm)を次式により算出した。
乾燥膜厚(μm)=塗工シートの厚さ(μm)−未塗工の基材の厚さ(μm)
測定位置は、塗工膜を長手方向に均等に3分割および幅方向に均等に3分割した合計9分割した箇所とし、これら9箇所における乾燥膜厚の平均値(以下「平均乾燥膜厚」という。)(μm)および標準偏差(μm)を算出した。
【0068】
<塗工シートの評価>
塗工シートを充分に乾燥させた後、塗工膜の表面を目視で、ムラやスジなどの欠陥の有無について観察し、その表面状態を下記の基準で評価した。
◎:ムラやスジなどの欠陥がほとんどなく、表面状態は非常に良好である。
○:ムラやスジなどの欠陥がわずかであり、表面状態は良好である。
△:ムラやスジなどの欠陥が少なく、表面状態は概ね良好である。
×:ムラやスジなど欠陥が多く、表面状態は悪い。
【0069】
次に、結合剤の合成例について説明する。
【0070】
≪合成例1≫
攪拌機、滴下口、温度計、冷却管および窒素ガス導入口を備えた容量500mLの4つ口フラスコに、酢酸エチル100gを入れ、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、フラスコ内温を78℃まで加熱した。次いで、アクリル酸2g、2−ヒドロキシエチルアクリレート17g、メチルメタクリレート17g、n−ブチルアクリレート74g、2−エチルヘキシルアクリレート90g、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)2gを混合した溶液を滴下口より120分間かけて滴下した。滴下後も同温度で30分間攪拌を続けた後、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.2gを30分毎に3回添加し、さらに120分間加熱して共重合を行った。
【0071】
次いで、得られた共重合体の酢酸エチル溶液300gを、n−ヘキサン800gに少しずつ添加して、共重合体を析出させた。析出した共重合体を、攪拌機、温度計、蒸留塔、蒸留塔に接続した冷却管および流出口を備えた容量1Lの4つ口フラスコに取り出し、エタノール300gを添加して共重合体を溶解させた後、33.3kPaの減圧下でフラスコ内温を60℃まで昇温し、わずかに残った酢酸エチルおよびn−ヘキサンと共に、エタノールを不揮発分が約60質量%となるまで留去して、結合剤(R−1)のエタノール溶液を得た。
【0072】
得られた結合剤(R−1)のエタノール溶液の不揮発分は、60.8質量%であった。
【0073】
次に、マイクロカプセルの第1壁層の材料の合成例について説明する。
【0074】
≪合成例2≫
容量100mLの丸底セパラブルフラスコに、メラミン8g、尿素7g、37%ホルムアルデヒド水溶液40g、25%アンモニア水2gを仕込み、攪拌しながら、70℃まで昇温した。同温度で1時間保持した後、30℃まで冷却し、メラミン・尿素・ホルムアルデヒド初期縮合物を含有する固形分52.2%の水溶液(A−1)を得た。
【0075】
次に、メルカプト基を有するアミノ樹脂で構成される第1壁層とエポキシ樹脂で構成される第2壁層とを有する殻体に疎水性の内容物が内包されているマイクロカプセルの製造例について説明する。
【0076】
≪製造例1≫
容量500mLの平底セパラブルフラスコに、アラビアゴム20gを溶解した水溶液120gを仕込み、ディスパー(製品名「ROBOMICS」、特殊機化工業株式会社製)を用いて、350rpmで攪拌しながら、蓄熱剤であるジメチルシリコーンオイル(商品名「KF−96L−2CS」、信越化学工業株式会社製)100gを添加し、その後、攪拌回転数1,600rpmに変更して2分間攪拌した後、攪拌回転数を1,000rpmに変更し、水100gを添加して、懸濁液を得た。
【0077】
この懸濁液を、温度計、冷却管を備えた容量300mLの4つ口セパラブルフラスコに入れ、40℃に保持しながら、パドル翼で攪拌しながら、水溶液(A−1)57gを添加した。15分後に、L−システイン3gを溶解した水溶液100gを滴下ロートで5分間かけて滴下した。40℃を保持したまま、反応を4時間行った後、50℃に昇温して2時間熟成を行って、メルカプト基を有するアミノ樹脂で構成される第1壁層にジメチルシリコーンオイルが内包されたマイクロカプセルの分散液を得た。
【0078】
得られた分散液を25℃まで冷却し、目開き75μmの標準ふるいで粗大カプセルを除去した。次いで、マイクロカプセル分散液を容量2Lのビーカーに入れ、水を添加して、全体量を1,000mLとした。そのまま静置して、マイクロカプセルを沈降させ、上澄み液を廃棄した。この操作を3回繰り返して、マイクロカプセルを洗浄した。
【0079】
次いで、このマイクロカプセルに水を添加して200gの分散液とし、これを容量500mLの平底セパラブルフラスコに移し、攪拌しながら、40℃に加温した。
【0080】
このマイクロカプセル分散液に、エポキシ化合物であるポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名「デナコールEX−521」(質量平均分子量732、水に対する溶解率100%)、ナガセケムテックス株式会社製)10gおよびポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(商品名「デナコールEX−920」(質量平均分子量286、水に対する溶解率100%)、ナガセケムテックス株式会社製)5gを溶解した水溶液100gを添加した。30分後に、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム2gを溶解した水溶液50gを滴下ロートで5分間かけて滴下した。40℃を保持したまま3時間反応を行い、次いで、50℃に昇温して1時間熟成を行って、メルカプト基を有するアミノ樹脂で構成される第1壁層の外表面にエポキシ樹脂で構成される第2壁層が形成された殻体に蓄熱剤であるジメチルシリコーンオイルが内包されたマイクロカプセルの分散液を得た。
【0081】
得られた分散液を25℃まで冷却し、目開き53μmの標準ふるいで粗大カプセルを除去した。次いで、マイクロカプセル分散液を容量2Lのビーカーに入れ、水を添加して、全体量を1,000mLとした。そのまま静置して、マイクロカプセルを沈降させ、上澄み液を廃棄した。この操作を3回繰り返して、マイクロカプセルを洗浄した。
【0082】
得られたマイクロカプセル(MC−1)の粒子径を測定したところ、体積平均粒子径が43.7μmであった。
【0083】
≪製造例2≫
製造例1において、ディスパーによる攪拌回転数1,600rpmを1,400rpmに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、マイクロカプセル(MC−2)を製造した。
【0084】
得られたマイクロカプセル(MC−2)の粒子径を測定したところ、体積平均粒子径が62.4μmであった。
【0085】
≪製造例3≫
製造例1において、ディスパーによる攪拌回転数1,600rpmを1,800rpmに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、マイクロカプセル(MC−3)を製造した。
【0086】
得られたマイクロカプセル(MC−3)の粒子径を測定したところ、体積平均粒子径が21.2μmであった。
【0087】
次に、マイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料の調製例について説明する。
【0088】
≪調製例1≫
マイクロカプセル(MC−1)およびエタノールを質量比1:1.5で混合し、静置した後、デカンテーションでエタノールを充分に除去して、マイクロカプセルの湿態物を得た。この湿態物10質量部に対して、結合剤(R−1)3.6質量部およびエタノール1.0質量部を配合し、自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎(登録商標)AR−310」、株式会社シンキー製)を用いて、公転回転数1,500rpmで3分間分散処理して、塗料(T−1)を調製した。
【0089】
得られた塗料(T−1)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき1,500mPa・sであった。
【0090】
≪調製例2≫
調製例1において、マイクロカプセル(MC−1)をマイクロカプセル(MC−2)に変更したこと以外は、調製例1と同様にして、塗料(T−2)を調製した。
【0091】
得られた塗料(T−2)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき1,350mPa・sであった。
【0092】
≪調製例3≫
調製例1において、マイクロカプセル(MC−1)をマイクロカプセル(MC−3)に変更したこと以外は、調製例1と同様にして、塗料(T−3)を調製した。
【0093】
得られた塗料(T−3)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき1,730mPa・sであった。
【0094】
≪調製例4≫
調製例1において、エタノール1.0質量部をエタノール2.0質量部に変更したこと以外は、調製例1と同様にして、塗料(T−4)を調製した。
【0095】
得られた塗料(T−4)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき275mPa・sであった。
【0096】
≪調製例5≫
調製例1において、エタノール1.0質量部をエタノール1.5質量部に変更したこと以外は、調製例1と同様にして、塗料(T−5)を調製した。
【0097】
得られた塗料(T−5)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき500mPa・sであった。
【0098】
≪調製例6≫
調製例1において、エタノール1.0質量部をエタノール1.2質量部に変更したこと以外は、調製例1と同様にして、塗料(T−6)を調製した。
【0099】
得られた塗料(T−6)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき1,000mPa・sであった。
【0100】
≪調製例7≫
調製例1において、エタノール1.0質量部をエタノール0.8質量部に変更したこと以外は、調製例1と同様にして、塗料(T−7)を調製した。
【0101】
得られた塗料(T−7)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき1,750mPa・sであった。
【0102】
≪調製例8≫
マイクロカプセル(MC−1)およびイオン交換水を質量比1:1.5で混合し、静置した後、デカンテーションで水分を充分に除去して、マイクロカプセルの湿態物を得た。この湿態物10質量部に対して、結合剤(R−1)3.6質量部を配合し、自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎(登録商標)AR−310」、株式会社シンキー製)を用いて、公転回転数1,500rpmで3分間分散処理して、塗料(T−8)を調製した。
【0103】
得られた塗料(T−8)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき2,200mPa・sであった。
【0104】
≪調製例9≫
調製例8において、結合剤(R−1)3.6質量部を結合剤(R−1)2.7質量部に変更したこと以外は、調製例8と同様にして、塗料(T−9)を調製した。
【0105】
得られた塗料(T−9)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき2,450mPa・sであった。
【0106】
≪調製例10≫
マイクロカプセル(MC−1)およびイオン交換水を質量比1:1.5で混合し、静置した後、デカンテーションで水分を充分に除去して、マイクロカプセルの湿態物を得た。この湿態物10質量部に対して、結合剤(R−1)4.4質量部およびイオン交換水1.0質量部を配合し、自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎(登録商標)AR−310」、株式会社シンキー製)を用いて、公転回転数1,500rpmで3分間分散処理して、塗料(T−10)を調製した。
【0107】
得られた塗料(T−10)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき1,620mPa・sであった。
【0108】
≪調製例11≫
調製例1において、エタノール1.0質量部をエタノール5.0質量部に変更したこと以外は、調製例1と同様にして、塗料(T−11)を調製した。
【0109】
得られた塗料(T−11)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき180mPa・sであった。
【0110】
≪調製例12≫
調製例8において、結合剤(R−1)3.6質量部を結合剤(R−1)1.7質量部に変更したこと以外は、調製例8と同様にして、塗料(T−12)を調製した。
【0111】
得られた塗料(T−12)の粘度を測定したところ、ずり速度10s−1のとき2,780mPa・sであった。
【0112】
次に、調製した塗料を用いて塗工した実施例について説明する。
【0113】
≪実施例1≫
スロットダイ方式の塗工装置として、枚葉塗工方式の卓上ダイコーター(製品名「卓ダイ」、伊藤忠産機株式会社製)およびスロットダイ(ランド長30mm、ランドクリアランス0.02mm、吐出幅290mm、リップ長100μm;形状は図1〜3に示すが、寸法は対応していない)を用いた。また、基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「ダイヤホイルO300」、三菱樹脂株式会社製;厚さ100μm)を用いた。
【0114】
この塗工装置を用いて、この基材上に塗料(T−1)を塗工した。なお、塗工速度は5mm/s、ギャップ長は100μm、塗工時の湿潤膜厚は0.06mm、塗工長(すなわち、塗工膜の長手方向の長さ)は300mmに調整した。
【0115】
塗工膜を充分に乾燥させた後、得られた塗工シートの平均乾燥膜厚および標準偏差を算出すると共に、塗工膜の表面を目視で、ムラやスジなどの欠陥の有無について観察し、その表面状態を評価した。結果を表1に示す。
【0116】
≪実施例2〜7≫
実施例1において、ランド長およびランドクリアランスが表1に示す数値となるように作製したスロットダイを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、基材上に塗料を塗工し、塗工膜を充分に乾燥させた後、得られた塗工シートの平均乾燥膜厚および標準偏差を算出すると共に、塗工膜の表面状態を評価した。結果を表1に示す。
【0117】
≪実施例8〜14≫
実施例1において、塗料(T−1)を塗料(T−2)に変更し、ランド長およびランドクリアランスが表1に示す数値となるように作製したスロットダイを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、基材上に塗料を塗工し、塗工膜を充分に乾燥させた後、得られた塗工シートの平均乾燥膜厚および標準偏差を算出すると共に、塗工膜の表面状態を評価した。なお、湿潤膜厚は0.09mmに調整した。結果を表1に示す。
【0118】
≪実施例15〜21≫
実施例1において、塗料(T−1)を塗料(T−3)に変更し、ランド長およびランドクリアランスが表1に示す数値となるように作製したスロットダイを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、基材上に塗料を塗工し、塗工膜を充分に乾燥させた後、得られた塗工シートの平均乾燥膜厚および標準偏差を算出すると共に、塗工膜の表面状態を評価した。なお、湿潤膜厚は0.03mmに調整した。結果を表1に示す。
【0119】
≪実施例22〜28≫
実施例1において、塗料(T−1)を塗料(T−4)〜(T−10)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、基材上に塗料を塗工し、塗工膜を充分に乾燥させた後、得られた塗工シートの平均乾燥膜厚および標準偏差を算出すると共に、塗工膜の表面状態を評価した。結果を表1に示す。
【0120】
≪比較例1〜2≫
実施例1において、ランド長およびランドクリアランスが表1に示す数値となるように作製したスロットダイを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、基材上に塗料を塗工し、塗工膜を充分に乾燥させた後、得られた塗工シートの平均乾燥膜厚および標準偏差を算出すると共に、塗工膜の表面状態を評価した。結果を表1に示す。
【0121】
≪比較例3〜4≫
実施例1において、塗料(T−1)を塗料(T−2)に変更し、ランド長およびランドクリアランスが表1に示す数値となるように作製したスロットダイを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、基材上に塗料を塗工し、塗工膜を充分に乾燥させた後、得られた塗工シートの平均乾燥膜厚および標準偏差を算出すると共に、塗工膜の表面状態を評価した。なお、湿潤膜厚は0.09mmに調整した。結果を表1に示す。
【0122】
≪比較例5〜6≫
実施例1において、塗料(T−1)を塗料(T−3)に変更し、ランド長およびランドクリアランスが表1に示す数値となるように作製したスロットダイを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、基材上に塗料を塗工し、塗工膜を充分に乾燥させた後、得られた塗工シートの平均乾燥膜厚および標準偏差を算出すると共に、塗工膜の表面状態を評価した。なお、湿潤膜厚は0.03mmに調整した。結果を表1に示す。
【0123】
≪比較例7〜8≫
実施例1において、塗料(T−1)を塗料(T−11)〜(T−12)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、基材上に塗料を塗工し、塗工膜を充分に乾燥させた後、得られた塗工シートの平均乾燥膜厚および標準偏差を算出すると共に、塗工膜の表面状態を評価した。結果を表1に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
表1から明らかなように、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積の比率が吐出幅1mmあたり40〜450mmであるスロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上に、ずり速度10s−1のときの粘度が200〜2,500mPa・sである塗料を塗工して得られた実施例1〜28の塗工シートにおける塗工膜は、ムラやスジなどの欠陥が少なく、非常に良好、良好または概ね良好な表面状態を有していた。これらの塗工膜のうち、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積の比率が吐出幅1mmあたり50〜300mmであるスロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上に、ずり速度10s−1のときの粘度が500〜2,200mPa・sである塗料を塗工して得られた実施例1〜4、6、9〜13、16〜20、23〜26および28の塗工シートにおける塗工膜は、非常に良好または良好な表面状態を有していた。特に、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積の比率が吐出幅1mmあたり80〜210mmであるスロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上に、ずり速度10s−1のときの粘度が1,000〜1,750mPa・sである塗料を塗工して得られた実施例1〜3、10〜12、17〜19、24〜25および28の塗工シートにおける塗工膜は、非常に良好な表面状態を有していた。また、実施例1〜28の塗工シートは、スロットダイを備えた塗工装置を用いて塗工したので、塗料の粘度に依存することなく、標準偏差が2μm以下の略均一な膜厚(乾燥膜厚)を有する塗工膜を形成することができた。
【0126】
これに対し、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積の比率が規定範囲外であるスロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上に、粘度がずり速度10s−1のとき200〜2,500mPa・sである塗料を塗工して得られた比較例1〜6の塗工シートにおける塗工膜、ならびに、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積の比率が吐出幅1mmあたり40〜450mmの範囲内であるスロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上に、ずり速度10s−1のときの粘度が規定範囲外である塗料を塗工して得られた比較例7〜8の塗工シートにおける塗工膜は、ムラやスジなどの欠陥が多く、悪い表面状態を有していた。また、比較例1〜8の塗工シートは、スロットダイを備えた塗工装置を用いて塗工したにもかかわらず、標準偏差が2μmを超える不均一な膜厚(乾燥膜厚)を有する塗工膜しか形成できなかった。
【0127】
かくして、スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工するにあたり、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積が吐出幅1mmあたり40〜450mmであるスロットダイを採用すれば、ずり速度10s−1のときの粘度が200〜2,500mPa・sである高粘度の塗料であっても、基材上にムラやスジなどの欠陥が少ない略均一な膜厚を有する塗工膜を形成できることがわかる。また、好ましくは、ずり速度10s−1のときの粘度が500〜2,200mPa・sである塗料を用いる場合、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積が吐出幅1mmあたり50〜300mmであるスロットダイを採用すれば、非常に良好または良好な表面状態を有する塗工膜を形成できることがわかる。より好ましくは、ずり速度10s−1のときの粘度が1,000〜1,750mPa・sである塗料を用いる場合、マイクロカプセルの粒子径に対するランド空間容積が吐出幅1mmあたり80〜210mmであるスロットダイを採用すれば、非常に良好な表面状態を有する塗工膜を形成できることがわかる。さらに、ランド長が10〜50mm、ランドクリアランスがマイクロカプセルの粒子径の2.5〜10倍であるスロットダイを採用すれば、非常に良好、良好または概ね良好な表面状態を有する塗工膜を形成できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の塗工方法は、基材上にムラやスジなどの欠陥が少ない略均一な膜厚を有する塗工膜を形成することができる。本発明の塗工装置は、このような塗工膜を有する塗工シートを簡便に効率よく製造することを可能にする。本発明の塗工シートは、塗工膜の膜厚や表面性状が高い精度を有するので、高品質の機能性シートとして有用である。それゆえ、本発明の塗工方法、塗工装置、および該塗工方法により製造された塗工シートは、高品質の機能性シートに関連する分野で多大の貢献をなすものである。
【符号の説明】
【0129】
10:スロットダイ、11:ブロック、12:シム、13:リップ、14:マニホールド、15:ランド、20:塗料、30:基材、40:塗工膜、50:ロール、60:テーブル、W:吐出幅、L:ランド長、T:湿潤膜厚、La:リップ長、Lc:ランドクリアランス、G:ギャップ長、D:走行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットダイを備えた塗工装置を用いて、基材上にマイクロカプセルと結合剤と溶媒とを含む塗料を塗工する方法であって、該塗料の粘度がずり速度10s−1のとき200〜2,500mPa・sであり、かつ、該マイクロカプセルの粒子径に対する該スロットダイのランド空間容積(=ランド長×ランドクリアランス×吐出幅)の比率が吐出幅1mmあたり40〜450mmであることを特徴とする塗工方法。
【請求項2】
前記塗料の粘度がずり速度10s−1のとき500〜2,200mPa・sであり、かつ、前記マイクロカプセルの粒子径に対する前記スロットダイのランド空間容積の比率が吐出幅1mmあたり50〜300mmである請求項1記載の塗工方法。
【請求項3】
前記塗料の粘度がずり速度10s−1のとき1,000〜1,750mPa・sであり、かつ、前記マイクロカプセルの粒子径に対する前記スロットダイのランド空間容積の比率が吐出幅1mmあたり80〜210mmである請求項2記載の塗工方法。
【請求項4】
前記スロットダイのランド長が10〜50mmである請求項1〜3のいずれか1項記載の塗工方法。
【請求項5】
前記スロットダイのランドクリアランスが前記マイクロカプセルの粒子径の2.5〜10倍である請求項1〜4のいずれか1項記載の塗工方法。
【請求項6】
塗工膜の湿潤膜厚が前記マイクロカプセルの粒子径の1.0〜1.8倍である請求項1〜5のいずれか1項記載の塗工方法。
【請求項7】
前記マイクロカプセルの粒子径が10〜100μmである請求項1〜6のいずれか1項記載の塗工方法。
【請求項8】
スロットダイを備えた塗工装置であって、該スロットダイが請求項1〜7のいずれか1項記載の塗工方法に用いられるスロットダイであることを特徴とする塗工装置。
【請求項9】
基材上にマイクロカプセルと結合剤とを含む塗工膜を有する塗工シートであって、該塗工膜が請求項1〜7のいずれか1項記載の塗工方法により形成されたものであることを特徴とする塗工シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−221202(P2010−221202A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74736(P2009−74736)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】