説明

マイクロ波誘電体磁器組成物の特性制御法とそれによって得られた組成物

【課題】常温において高いQ値を有する誘電体磁器組成物において、共振周波数の温度変化を小さく抑えながら、Qf値の温度変化を制御し、高温におけるQ値を改善し、その低下を制御する手段を提供すること。
【解決手段】マイクロ波誘電体磁器組成物の基本組成中に、基本組成よりも熱膨張率の大きいイオンを、基本組成の結晶中に固溶または結晶粒中に微細分散させることによって高温におけるQ値の低下を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波誘電体、とくに、マイクロ波やミリ波等の高周波領域において使用される種々の共振器材料、フィルター材料、MIC用誘電体基板材料、アンテナ材料、積層チップコンデンサー材料、アイソレータ材料等の携帯電話部品の容量素子等に好適に用いられるマイクロ波誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信技術の進歩により、自動車電話や携帯電話、PHS(簡易型携帯電話)などの移動体通信システムや、GPS(汎地球測位システム)の急速な普及によって、通信機に利用される周波数帯域が拡大し、マイクロ波帯域での利用が盛んになっている。
【0003】
このマイクロ波帯域で使用される回路には、従来から、空洞共振器、アンテナ等の部品が用いられてきた。しかし、これらの部品の大きさは、マイクロ波の波長と同程度の大きさになるため、携帯電話基地局用のフィルター装置、自動車用電話機、携帯電話機および小型GPS装置等に適用できるような部品の小型化は不可能であった。
【0004】
これに対し、近年、マイクロ波フィルターや発信器の周波数安定化回路に誘電体共振器が用いられるようになって回路部品の小型化が一般化しつつある。
【0005】
誘電体材料がマイクロ波帯域において共振を起こす際、誘電損失tanδ(=1/Q)が発生し、この損失の大部分は熱へと変化する。つまり、誘電体材料は共振の際、自己発熱を起こすということであり、それによる温度上昇はQ値の低下をもたらし、共振器が更に発熱を起こすという循環を繰り返すこととなる。この自己発熱を抑えるには、tanδを小さくすること、つまりQ値を大きくし、初期の発熱を抑えることが最も簡単な解決策であり、そのため室温においてより大きなQ値を持つ材料が必要とされていた。
【0006】
このように、マイクロ波帯域で使用される誘電体材料には、その誘電損失を少なくするためにマイクロ波帯域での無負荷品質係数(Q)と共振周波数(f:GHz)との積(Q×f:GHz、以下「Qf」と略称する。)が高いものが要求され、とくに、携帯基地局などに利用される誘電体材料においては、Qf値が30,000以上の材料が要望されることもある。
【0007】
このような高いQf値を有するマイクロ波誘電体磁器組成物とするためには、下記の特許文献に見られるように、La−Al−SrO−TiO系、Ln−Al−CaO−TiO系、Ln−Al−MO−BaO−TiO系、Nd−Al−CaO−TiO系、CaTiO−NdAlO系等の組成物に、添加剤としてMn、V、Mo、W、Cu、Sn、Bi、Geの酸化物、Rbの炭酸塩等を添加することによって、Qf、εr(誘電率)、τf(共振周波数の温度係数)を調整することが多く提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、La−Al−SrO−TiO系のマイクロ波誘電体磁器組成物および誘電体共振器が開示され、助剤としてMnOを添加し、焼結後のセラミックス中のカーボン含有量を0.02重量%以下に制御することにより、120℃におけるQf値が、25℃におけるQf値の75%以上を維持できることが示されている。
【0009】
また、特許文献2および特許文献3にはLn−Al−CaO−TiO系の誘電体磁器組成物および誘電体共振器が開示され、SnO、WO、RbCO、V、CuO、GeO、Sbを仮焼後の粉末に添加し、εrおよびτfを調整することが記載されている。
【0010】
また、特許文献4には、Ln−Al−MO−BaO−TiO系の誘電体磁器組成物および誘電体共振器が開示され、SnO、WO、RbCO、V、CuO、GeO、Sb等の添加物を仮焼後の粉末に添加して、τfを調整することが記載されている。
【0011】
また、特許文献5には、La−Al−SrO−TiO系の誘電体磁器組成物に、V、Mo、W、Cu、Sn、Biの酸化物を添加してτfを調整することが記載されている。
【0012】
また、特許文献6には、Ln−Al−MO−BaO−TiO系の誘電体磁器組成物および誘電体共振器が開示され、SnO、WO、RbCO、V、CuO、GeO、Sbを添加しても良いとの記述がある。しかしながら、これら添加物は仮焼後の粉末に添加し、τfを調整するためのものである。
【0013】
また、特許文献7には、La−Al−SrO−TiO系の誘電体磁器組成物に対し、WO、MoOを仮焼後の粉末に添加し、Q値を向上させることが記載されている。
【0014】
また、特許文献8には、La−Al−SrO−TiO系の誘電体磁器組成物に対し、Ba(Cu1/21/2)Oを仮焼後の粉末に添加することによって、室温におけるQ値を向上させることが記載されている。
【0015】
また、特許文献9には、Ln−Al−MO−TiO系の誘電体磁器組成物に、SnO、WO、RbCO、V、CuO、GeO、Sbを仮焼後の粉末に添加することによって、τfを調整することが開示されている。
【0016】
また、特許文献10には、Ln−Al−MO−TiO系の誘電体組成物に、WO、SnO、WO、RbCO、V、CuO、GeO、Sb等の添加物を仮焼後の粉末に添加し、εrやτfを調整することが記載されている。
【0017】
また、特許文献11には、La−Al−SrO−TiO−SnO系の誘電体磁器組成物に、WOを仮焼後の粉末に添加し、Q値を向上させることが記載されている。
【0018】
また、特許文献12には、Nd−Al−CaO−TiO系の誘電体磁器組成物に、SnO、WO、RbCO、V、CuO、GeO、Sb等の添加物を仮焼後の粉末に添加し、εrやτfを調整することが開示されている。
【0019】
また、特許文献13には、CaTiO−NdAlO系の誘電体磁器組成に対し、NaOを仮焼後の粉末に焼結助剤として添加することが記載されている。
【0020】
また、特許文献14には、(Ca,Sr)TiO−LnAlO系の誘電体磁器組成物に、Sb、WO、SnO等の添加物を仮焼後の粉末に添加し、εrやτfを調整することが記載されている。
【特許文献1】特許第3493316号公報
【特許文献2】特許第3274950号公報
【特許文献3】特開平6−76633号公報
【特許文献4】特許第3559434号公報
【特許文献5】特開平11−130528号公報
【特許文献6】特開平11−278927号公報
【特許文献7】特開2001−72464号公報
【特許文献8】特開2001−181028公報
【特許文献9】特開2001−206765号公報
【特許文献10】特開2002−80277号公報
【特許文献11】特開2002−187771号公報
【特許文献12】特開2002−193661号公報
【特許文献13】特開2002−211976号公報
【特許文献14】特開2001−199763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
このような誘電体材料における共振の際の自己発熱を起こすことによる温度上昇に伴うQ値の低下を防止する手段としては、高温でのQ値低下をなるべく低く抑えることで、温度上昇時の自己発熱を抑えるという手法も有効である。
【0022】
これに対して、上記特許文献1には、上述のとおり、La−Al−SrO−TiO系の材料に助剤としてMnOを添加し、焼結後のセラミックス中のカーボン含有量を0.02重量%以下に制御することにより、120℃におけるQf値が、25℃におけるQf値の75%以上を維持できることが示されているが、これは、高温におけるQ値を低下させる要素を排し、その材料が有している本来のQ値を発揮させているに過ぎず、そのため、その材料が持っているポテンシャル以上のQ値を発揮することはできない。また、他の特許文献には、高温におけるQ値改善について言及したものは皆無であり、またQ値の温度変化の制御手法について言及したものも皆無である。
【0023】
本発明において解決しようとする課題は、係る観点から、常温において高いQ値を有する誘電体磁器組成物において、共振周波数の温度変化を小さく抑えながら、Qf値の温度変化を制御し、高温におけるQ値を改善し、その低下を制御する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するために、本発明は、マイクロ波誘電体磁器組成物の基本組成中に、基本組成よりも熱膨張率の大きいイオンを、基本組成の結晶中に固溶または結晶粒中に微細分散させることによって高温におけるQ値の低下を抑制するものである。
【0025】
以下、本発明の原理について説明する。
【0026】
1個のイオンの持つポテンシャルエネルギーEは、Madelung定数A、定数B、中心からの距離r、1個のイオンの持つ電荷eから、以下のように表わされる。
E=−Ae/r+B/r ・・・(式1)
【0027】
このEはr=aなる極小点を持つが、これは絶対零度におけるイオン半径と定義される。
【0028】
ここで、イオン半径aの同種イオンが絶対零度において隣接している場合、この2イオン間のポテンシャルは1つの極小値を持つ曲線を描くが、このイオン同士の原子間距離を2aよりも大きくした場合、2イオン間には2つの極小値を持つ、いわゆる二重井戸ポテンシャルが形成される。この2つの極小値間に生じるポテンシャルの山はエネルギー障壁と呼ばれ、原子間距離が大きくなればなる程この障壁高さも大きくなる。
【0029】
例えば、ABO型単純ペロブスカイト構造を有する誘電体の場合を想定すると、ペロブスカイト構造の中心イオンBの最近接イオンは必ず酸素イオンOであり、ある1次元の軸で考えた場合、2つの離れた酸素イオン間の中心にイオンBが存在するという位置関係を持つ。従って、中心イオンBは2つの離れた酸素イオンによって形成された二重井戸ポテンシャルのエネルギー障壁を乗り越えながら振動せねばならず、これが誘電体における誘電損失の原因の一つとなっている。
【0030】
すなわち、酸素イオン同士のイオン間距離が大きくなればなるほど、酸素イオン間のエネルギー障壁は高くなり、誘電損失は増大し、Q値は低下する。
【0031】
次に熱がイオン半径に及ぼす影響について考えてみる。温度を絶対零度から上昇させていった場合、熱励起によってイオンは振動を始めるが、(式1)より明らかなとおり、ポテンシャルの非対称性のため、見かけ上のイオン半径は温度上昇に対応して大きくなっていく。これが即ち熱膨張という現象であり、このことからイオン結晶における熱膨張とイオン半径の増大は等価であると考えることができる。
【0032】
これらのことから、温度の上昇に伴うイオン結晶の熱膨張により、ABO型ペロブスカイト構造における各原子間隔が大きくなり、酸素イオンによって形成されるエネルギー障壁が高くなる結果、誘電損失が増大するという理論が導き出される。
【0033】
この理論に基づけば、温度の上昇に伴うイオン結晶の熱膨張を制御することにより、誘電損失の増大を抑制する、つまり、Q値の高温における低下を抑制することができる。
【0034】
すなわち、単一のイオンαからなる結晶について云えば、この結晶組織中に、αイオンと比較して熱膨張率の大きいβイオン1個が固溶したとき、温度の上昇に伴い、βイオンの熱膨張により、このβイオンの周辺で圧縮場が発生する。そして、このβイオンは温度の更なる上昇に伴い、周辺組織に更なる圧縮場を発生させ、βイオン周辺のαイオンは熱膨張を抑制される。その結果、βイオンの周辺では、温度上昇に伴うQ値の低下が抑制されることとなる。
【0035】
本発明は、このことに着目したもので、上述のとおり、マイクロ波誘電体磁器組成物の基本組成中に、基本組成よりも熱膨張率の大きいイオンを、基本組成の結晶中に固溶または結晶粒中に微細分散させることによって高温におけるQ値の低下を抑制するものである。
【0036】
本発明の概念より、本発明に好適に適用できるマイクロ波誘電体磁器組成物の基本組成としては、(1)単成分系であるか、2成分系以上であって各成分が固溶体を形成し、単一相を形成しているもの、(2)特殊な結晶構造がQf値を高くする要因となっていないもの、(3)基本組成を形成している金属元素の酸化物の融点が十分に高いことという(1)から(3)の条件を満たすものが好ましく、かつ十分な効果を発揮させるために、Qf値の高いものが好ましい。
【0037】
このような条件を満たすマイクロ波誘電体磁器組成物の基本組成としては、モル比を制御した少なくともM(MはSrおよび/またはCa)、Ti、AlおよびLn(LnはLa、Pr、Nd、Smのいずれか1種または2種以上)を含有する複合酸化物(xMTiO−yLnAlO)、例えば、xSrTiO−yLaAlO、xCaTiO−y(Nd0.9Sm0.1)AlOのような高いQf値を有する2成分系の固溶体組織を好都合に適用できる。
【0038】
また、基本組成よりも熱膨張率の大きいイオンとしては、酸化物の形で使用することができるが、その熱膨張率については、一部の酸化物のデータしか知られておらず、また結晶構造の違いによっても変化するため、その酸化物の融点によって判断するのが好ましい。すなわち、融点の低い酸化物は、金属イオン−酸素イオン間の反発係数が大きいものとなるため、熱膨張率も大きくなる。このような酸化物として、融点が1300℃から300℃の範囲内であるNa、K、Rb、Cs、V、Mo、Cu、Sn、Ge、Tl、Bi、Sb、Pb、Cd、B、および、Te等の酸化物の中の1種または2種以上を所定量使用できる。これらの酸化物の融点は、x成分およびy成分の基本組成であるSr、Ca、Ti、Al、La、Pr、Nd、Smの酸化物の融点と比べ、1300℃以下と十分に低いため、xおよびy成分の固溶体に固溶あるいは粒内に微細分散させることにより、Qf値の温度変化を制御することができる。
【0039】
すなわち、上記理論を取り入れた本発明のマイクロ波誘電体磁器組成物の特性制御法は、誘電体磁器組成物の基本組成内に、融点が300℃以上1300℃以下の酸化物を固溶あるいは結晶中に微細分散させることにより、共振周波数の温度変化を小さく抑えたまま、Qf値の温度変化の制御を可能としたもので、その結果、高温におけるQ値の低下を抑制できる。
【0040】
固溶あるいは微細分散させる添加酸化物の量は、0.005mol%を超え、7mol%以下の範囲であり、固溶体中に固溶あるいは基本組成の固溶体結晶粒内に粒径50nm以下の状態で微細分散させる。
【0041】
また、この添加酸化物を固溶あるいは粒径50nm以下の状態で分散させることは、以下の効果を有する。すなわち、Qf値の温度変化の制御効果は、添加酸化物成分が固溶している状態で最大となる。さらに添加酸化物成分が凝集などにより析出し、添加酸化物の粒径が大きくなるにつれて効果は低くなり、添加酸化物の粒径が50nmを超えるとQf値の温度変化の制御効果はほとんど得られなくなるため、添加酸化物の粒径を50nm超とすることは好ましくない。
【0042】
また、添加酸化物の量が0.005mol%以下の場合、Qf値の温度変化を制御する効果がほとんど得られない。また7mol%より大きい場合、Qf値が大幅に低下し、室温から高温の範囲におけるQf値がz=0におけるQf値を上回らないため好ましくない。
【発明の効果】
【0043】
本発明のマイクロ波誘電体磁器組成物は、それぞれの組成成分を特定範囲内で制御することによって、高周波領域におけるεr値が35〜45の範囲内において、室温におけるQf値が30,000以上と大きく、τf値をゼロを中心に正負に制御でき、かつQf値の温度変化を制御することを可能にする。
【0044】
また、本発明のマイクロ波誘電体磁器組成物は、Qf値が高いので、マイクロ波領域において使用される共振器材料、フィルター材料、コンデンサー材料、イオン発生源、高周波医療器具用部材、アイソレータ等の部材として利用できる。更には、Qf値の温度変化をも制御できることから、過酷な温度気象条件下の使用状況にあっても、特性の安定した部品を作製することが可能となり、今後の情報通信分野等の産業的分野での利用価値は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明の実施の形態を説明する。
【0046】
xおよびy成分同士が固溶体を形成し、添加酸化物として、zAOγ(Aは酸化物の融点が300℃以上1300℃以下となる金属元素(Na、K、Rb、Cs、V、Mo、Cu、Sn、Ge、Tl、Bi、Sb、Pb、Cd、B、および、Te等)のいずれか1種または2種以上)を、x+y=100mol%(ただし、40≦x≦76、24≦y≦60)とした場合に、zが0.005<z≦7mol%の範囲内にあり、さらにz成分をxおよびy成分の固溶体中に固溶あるいはxおよびy成分の固溶体結晶粒内に粒径50nm以下の状態で微細分散させる。
【0047】
x成分としてM=SrであるSrTiO成分は、誘電率が255と高く、Qfは1400と低く、τfは+1670ときわめて高い。M=CaであるCaTiO成分は、誘電率が170と高く、Qfは3600と低く、τfは+800ときわめて高い。y成分としてLn=La、Pr、Nd、Smのいずれ1種または2種以上であるLnAlO成分は、いずれも誘電率が20〜24と低く、Qfは60000〜72000と高く、τfは−25〜−75と負の値を持つ。このxとyを40≦x≦76、24≦y≦60(x+y=100mol%)の範囲に制御することにより、30000以上の高いQf値を維持しつつ、τfを+30から−30の範囲内で制御することができる。
【0048】
さらに上記誘電体磁器組成物の仮焼粉末100質量部に対し、NaCO、Al、Fe、MnO、Nb、Taを添加することもできる。この場合、各酸化物を合計で5質量部まで添加してもよい。
【0049】
また、MTiOとLnAlOは必ずしも定比化合物である必要はない。その場合、(M+Ln)100at%に対し、(Ti+Al)は95〜105at%の範囲内で配合することができる。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
この実施例1は、xCaTiO−y(Nd0.9Sm0.1)AlOの基本組成に各種添加酸化物(zAOγ)を添加し、z成分A元素の効果を調べたものである。
【0051】
まず、基本成分として99.9%以上の高純度のTiO、CaCO、Al、Nd、Smおよび、添加酸化物として純度99%以上のNaCO、KCO、RbCO、CsCO、CuO、CdO、PbO、B、Tl、Bi、Sb、SnO、GeO、TeO、V、MoOの各種原料を用い、表1の配合比率(x=69mol%、y=31mol%、z=0.08mol%)になるように秤量し、その後、純水あるいはメタノールを用い、300mlのウレタン内張りポットミルおよび高純度で直径5mm〜直径12mmの球状酸化ジルコニウムボールを用いて24時間混合し、その後、120℃で乾燥させた。
【0052】
その後、乾燥粉末をメノウ乳鉢で粉砕し、アルミナ製るつぼを用いて1000℃〜1400℃の範囲で仮焼を行なった。
【0053】
そして、この仮焼物を再度乳鉢で粉砕した後、PVA5%水溶液を4質量部添加し、乳鉢で均一になるよう攪拌し、その後、320メッシュの篩いを用い整粒し、プレス圧98MPaで直径12mm、厚み7mmの円盤状に成型した。
【0054】
その後、大気雰囲気にて上記成型体を焼成温度1600℃、24時間保持で焼成し、マイクロ波誘電体磁器を得た。得られたマイクロ波誘電体磁器の上下面を200メッシュのダイヤモンドホイールを用いて研磨し、直径10mm×厚さ5mmの測定用素子に加工した後、Hakki−Coleman法によりヒューレットパッカード社のネットワークアナライザーを用い測定周波数5〜10GHz、さらに恒温槽を用い25℃および120℃におけるεr値、Qf値を測定し、Qf値の温度保持率、Qf値の温度係数τQfと共振周波数の温度係数τfを調べた。
【0055】
Qf値の温度係数τQfについては、共振周波数の温度係数τfの算出式を参考に、以下の式を用いて算出を行なった。
τQf=1/Qf[25℃]・(Qf[120℃]−Qf[25℃])/ΔT (式2)
【0056】
以上の作業を表1に示す試料について行った。表1には、各試料の組成成分と合わせて特性評価結果を示す。
【表1】

【0057】
表1において、比較用標準試料として作製した、z=0mol%である本発明の範囲外の試料No.1のQf値の温度係数τQfは−2.46×10−3/℃であった。
【0058】
この試料No.1に対し、本発明の範囲内である試料No.2〜No.18は、いずれもQf値の温度係数τQfが試料No.1のそれよりも正側にシフトしており、その結果、試料No.2〜No.18はいずれも120℃において試料No.1のQf値を上回っていることが認められた。
【0059】
添加酸化物が本発明の範囲外である試料No.19は、室温におけるQf値は試料No.1とほぼ同等であったものの、Qf値の高温劣化を制御する効果は認められなかった。
【0060】
また試料No.1からNo.19の試料においてSEMによる内部組織観察を行なったが、結晶粒界および結晶粒内に析出相などの異相は認められず、結晶粒径5〜30μm程度の単一相であることが確認された。
【0061】
(実施例2)
この実施例2は、xSrTiO−yLaAlOの基本組成に添加酸化物(Sb)を添加し、その添加量の影響を調べたものである。
【0062】
まず、基本成分として99.9%以上の高純度のTiO、SrCO、Al、La、添加酸化物として純度99%以上のSbの各種原料を用い、表2の各配合比率になるように秤量し、その後純水を用い、300mlのウレタン内張りポットミルおよび高純度で直径5mm〜直径12mmの球状酸化ジルコニウムボールを用いて24時間混合し、その後、120℃で乾燥させた。
【0063】
その後、乾燥粉末をメノウ乳鉢で粉砕し、アルミナ製るつぼを用いて1000℃〜1400℃の範囲で仮焼を行なった。
【0064】
そして、この仮焼物を再度乳鉢で粉砕した後、PVA5%水溶液を4質量部添加し、乳鉢で均一になるよう攪拌し、その後、320メッシュの篩いを用い整粒し、プレス圧98MPaで直径12mm、厚み7mmの円盤状に成型した。
【0065】
その後、上記成型体を酸素500ml/min気流中、焼成温度1600℃、48時間保持で焼成し、マイクロ波誘電体磁器を得た。得られたマイクロ波誘電体磁器の上下面を200メッシュのダイヤモンドホイールを用いて研磨し、直径10mm×厚さ5mmの測定用素子に加工した後、Hakki−Coleman法によりヒューレットパッカード社のネットワークアナライザーを用い測定周波数5〜10GHz、さらに恒温槽を用い25℃および120℃におけるεr値、Qf値を測定し、Qf値の温度保持率、Qf値の温度係数τQfと共振周波数の温度係数τfを調べた。
【0066】
以上の作業を表2に示す試料について行った。表2には、各試料の組成成分と合わせて特性評価結果を示す。また、表2の試料No.20〜23におけるQf値の温度変化を図1に示す。
【表2】

【0067】
表2において、比較用標準試料として作製した、z=0mol%である本発明の範囲外の試料No.20は、Qf値の温度係数τQfが−2.83×10−3/℃であり、室温(25℃)におけるQf値は80000程度と高いものであったが、高温(120℃)におけるQf値は60000を下回るものであった。
【0068】
この試料No.20に対し、本発明の範囲内である試料No.21およびNo.22は、室温(25℃)におけるQf値は試料No.20には及ばないものの、高温におけるQf値はいずれも60000を超えるものであった。またそのQf値の温度係数τQfは試料No.20と比較していずれも正側にシフトし、特に試料No.22においてはQf値の温度係数τQfが正の値となり、温度上昇に伴いQf値が上昇していく現象が認められた(図1参照)。またSEMによる組織観察を行なったが、No.20〜No.22いずれの試料においても結晶粒界における異相および50nm以上の粒内凝集相は観察されなかった。
【0069】
これに対して、zを本発明の範囲外とした試料No.23は、室温から高温の範囲において、著しいQf値劣化が生じ、Qf値の温度係数τQfも試料No.20と比較して負側へとシフトしていることが測定の結果認められた。またSEMによる組織観察の結果、結晶粒界に平均粒径1μm程度の異相が認められ、また結晶粒内においても平均径100nm程度の凝集相が認められた。
【0070】
また、z成分を0mol%として仮焼を行なった仮焼後粉末に対し、z=0.3mol%となるようにSbを添加した試料No.24は、室温、高温いずれもQf値が試料No.20を下回り、Qf値の温度係数τQfも試料No.20に対して正側へのシフトは認められなかった。この試料No.24のTEM/EDXによる組織観察を行なったところ、結晶粒内にはSb元素は認められず、結晶粒界に平均粒径1〜3μmのSbからなる第2相が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施例2(試料No.20〜23)における誘電体磁器のQf値温度変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波誘電体磁器組成物の基本組成中に、基本組成よりも熱膨張率の大きいイオンを、基本組成の結晶中に固溶または結晶粒中に微細分散させることによって高温におけるQ値の低下を抑制するマイクロ波誘電体磁器組成物の特性制御法。
【請求項2】
マイクロ波誘電体磁器組成物の基本組成が、モル比を制御した少なくともM(MはSrおよび/またはCa)、Ti、AlおよびLn(LnはLa、Pr、Nd、Smのいずれか1種または2種以上)を含有する複合酸化物である請求項1に記載のマイクロ波誘電体磁器組成物の特性制御法。
【請求項3】
基本組成が、xMTiO−yLnAlO(MはSrおよび/またはCa、LnはLa、Pr、Nd、Smのいずれか1種または2種以上)によって表される2成分系の固溶体組織である請求項2に記載のマイクロ波誘電体磁器組成物の特性制御法。
【請求項4】
基本組成よりも熱膨張率の大きいイオンが酸化物の形で使用される請求項1に記載のマイクロ波誘電体磁器組成物の特性制御法。
【請求項5】
酸化物が、融点が1300℃から300℃の範囲内であるNa、K、Rb、Cs、V、Mo、Cu、Sn、Ge、Tl、Bi、Sb、Pb、Cd、B、および、Te等の酸化物の中の1種または2種以上である請求項4に記載のマイクロ波誘電体磁器組成物の特性制御法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のマイクロ波誘電体磁器組成物の特性制御法によって製造されたマイクロ波誘電体磁器組成物であって、
基本組成が2成分系の固溶体組織を有し、この固溶体組織中に固溶または微細分散させた酸化物の量が、0.005mol%を超え、7mol%以下の範囲であり、微細分散させた酸化物の粒径が50nm以下であるマイクロ波誘電体磁器組成物。
【請求項7】
基本組成が、xMTiO−yLnAlO(MはSrおよび/またはCa、LnはLa、Pr、Nd、Smのいずれか1種または2種以上)であり、添加酸化物をzAOγとしたとき、x+y=100mol%(ただし、40≦x≦76、24≦y≦60)に対して、zが0.005<z≦7mol%の範囲内である請求項6に記載のマイクロ波誘電体磁器組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−335599(P2006−335599A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161819(P2005−161819)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】